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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01B |
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管理番号 | 1319136 |
異議申立番号 | 異議2015-700025 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-09-25 |
確定日 | 2016-01-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5693749号「光透過性導電性フィルム及び光透過性導電性フィルムを含有するタッチパネル」の請求項1?5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5693749号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4?5〕について訂正することを認める。 特許第5693749号の請求項1?3、5に係る特許を維持する。 特許第5693749号の請求項4に係る特許に対する特許異議の申立ては却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5693749号の請求項1?5に係る発明についての出願は、2013年8月5日(優先権主張2012年8月6日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年2月13日に特許の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人馬場智理により特許異議の申立てがなされ、同年11月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月28日に意見書の提出及び訂正請求があったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のア、イのとおりである。 ア 請求項4を削除する。 イ 請求項5に係る「請求項1?4のいずれかに記載の光透過性導電性フィルム」を「請求項1?3のいずれかに記載の光透過性導電性フィルム」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記アの訂正は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、上記イの訂正は、上記アの訂正に伴い、請求項4を引用しないものに訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、これら訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔4?5〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?3、5に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?3、5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「 【請求項1】 (A)ポリエチレンテレフタレート樹脂を含有する光透過性支持層;及び (B)3?10重量%のSnO_(2)を酸化インジウムに添加して得られうる酸化インジウムスズを含有する光透過性導電層 を含有し、 前記光透過性導電層(B)が、前記光透過性支持層(A)の少なくとも一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されている光透過性導電性フィルムであって、 (Ib_(α)-Ib_(α-0.025°))/(Ia_(α)-Ia_(α-0.025°)) で表される関数f(α)の平均値が0.08?5.00である ことを特徴とする、光透過性導電性フィルム (ただし、αは、 α_(min)+n×0.025°(n=1、2、3、・・・) (ただし、α_(min)は、0.100°以上の範囲内において、薄膜法XRD測定において(222)面のピークが確認できる最小の入射角である) で表される変数であり、 次式(I)及び(II)を満たし、 α≦0.600° ・・・・(I) f(α)≧0.7×f(α-0.025°)・・・・(II) Ia_(α)は、入射角αの薄膜法XRD測定におけるポリエチレンテレフタレート由来の2θ=26°付近のピーク強度であり、かつ Ib_(α)は、入射角αの薄膜法XRD測定における酸化インジウム由来の(222)面のピーク強度である。)。 【請求項2】 前記光透過性支持層(A)の厚さが、20?200μmである、請求項1に記載の光透過性導電性フィルム。 【請求項3】 光透明性導電層(B)の厚さが、15?30nmである、請求項1又は2に記載の光透過性導電性フィルム。 【請求項4】(削除) 【請求項5】 請求項1?3のいずれかに記載の光透過性導電性フィルムを含有する、タッチパネル。」 2.申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として、特開2011-103289号公報(以下、「甲第1号証」という。)、特開2002-371350号公報(以下、「甲第2号証」という。)、特開2006-019239号公報(以下、「甲第3号証」という。)、及び、特開2002-157928号公報(以下、「甲第4号証」という。)を提出し、以下の理由1?4により、請求項1?5に係る特許は取り消すべきものである旨を主張している。 (理由1) 本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第1?4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (理由2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (理由3) 本件特許の請求項1?5に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (理由4) 本件特許の請求項1?5に係る発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3.甲号証の記載 (1)本件特許の優先日前に頒布された甲第1号証には、「透明導電性積層フィルム」の発明に関して、以下の事項が記載されている。 ア 「透明プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも片面に、硬化型樹脂を主たる構成成分とする硬化物層を設け、更にその上に第1の非晶質な透明導電性薄膜層、第2の結晶質な透明導電性薄膜層をこの順で積層した透明導電性積層フィルムであって、 (a)第1の非晶質な透明導電性薄膜層は、酸化インジウムに対して酸化スズ(SnO_(2)/(SnO_(2)+In_(2)O_(3)))が7?20質量%、膜厚が2?20nm、 (b)第2の結晶質な透明導電性薄膜層は、酸化インジウムに対して酸化スズ(SnO_(2)/(SnO_(2)+In_(2)O_(3)))が1?6質量%、膜厚が5?20nm、 (c)第1と第2の透明導電性薄膜層の膜厚の和が15?30nm、 であることを特徴とする透明導電性積層フィルム。」(請求項1) イ 「・・・本発明の目的は、上記の従来の問題点に鑑み、所定の非晶質な透明導電性薄膜層と結晶質な透明導電性薄膜層を積層することによって、パターニング性(エッチング性)、ペン摺動耐久性、環境安定性が良好な透明導電性積層フィルム、透明導電性積層シート及びタッチパネルを提供することにある。」(段落0008) ウ 「・・・本発明で用いる透明プラスチックフィルムからなる基材とは、有機高分子をフィルム状に溶融押出し又は溶液押出しをしてフィルム状に成形し、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、熱固定、熱弛緩処理を施したフィルムである。有機高分子としては、・・・、ポリエチレンテレフタレート、・・・などが挙げられる。」(段落0023) エ 「本発明の透明導電性積層フィルムの製造方法においては、酸素を含む雰囲気下で、80?200℃、0.1?12時間加熱処理を行ってもよい。熱処理の意義は、第2の透明導電性薄膜層における結晶粒の大きさの制御である。加熱温度及び時間を増加させると結晶粒が成長する。80℃より低い温度では結晶粒が成長しないため、ペン摺動耐久性向上には寄与しない。200℃より高い温度では透明プラスチックフィルムの平面性の維持をするのが難しくなる。更に結晶粒が成長し過ぎることにより結晶粒子間に大きな応力が発生するためにペン摺動耐久性が悪化する。」(段落0039) オ 「〔実施例1?11〕 光重合開始剤含有紫外線硬化型アクリル系樹脂(大日精化工業社製、セイカビームEXF-01J)100質量部に、平均粒子径0.5μmのシリカ粒子10質量部、溶剤としてトルエン/MEK(80/20:質量比)の混合溶媒を、固形分濃度が50質量%になるように加え、撹拌して均一に溶解し塗布液を調製した。 両面に易接着層を有する二軸配向透明PETフィルム(東洋紡績社製、A4340、厚み188μm)に、塗膜の厚みが5μmになるように、調製した塗布液を、マイヤーバーを用いて塗布した。80℃で1分間乾燥を行った後、紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、UB042-5AM-W型)を用いて紫外線を照射(光量:300mJ/cm^(2))し、塗膜を硬化させた。 ・・・ 次に、この硬化物層上に第1の透明導電性薄膜層としてインジウム-スズ複合酸化物からなる透明導電性薄膜層を成膜した。ターゲットとして所定の酸化スズを含有した酸化インジウムに用いて、2W/cm^(2)のDC電力を印加した。また、Arガス、O_(2)ガスを流し、0.4Paの雰囲気下でDCマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。また、センターロール温度は0℃として、スパッタリングを行った。 ・・・ さらに、第1の透明導電性薄膜層上に第2の透明導電性薄膜層としてインジウム-スズ複合酸化物からなる透明導電性薄膜層を成膜した。ターゲットとして所定の酸化スズを含有した酸化インジウムに用いて、2W/cm^(2)のDC電力を印加した。また、Arガス、O_(2)ガスを流し、0.4Paの雰囲気下でDCマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。また、センターロール温度は0℃として、スパッタリングを行った。 ・・・ 第1の透明導電性薄膜層及び第2の透明導電性薄膜層の成膜条件と評価結果を表1に、透明導電性積層フィルムの評価結果を表2に示した。」(段落0084?0088) カ 「表1 」 (2)本件特許の優先日前に頒布された甲第2号証には、「透明積層体」の発明に関して、以下の事項が記載されている。 ア 「実施例1 透明基体として、幅が300mm、厚さが125μmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)フィルムのロール原反を、スパッタリングターゲットが2つ配置できるロール・トウ・ロール式スパッタリング装置に取り付けた。高屈折率透明薄膜を形成するスパッタリングターゲット材料には、In_(2)O_(3):SnO_(2)=95重量%:5重量%(以下、単にITOと略記する)を用い、銀系透明導電体膜を形成するスパッタリングターゲット材料には、Ag:Au=97重量%:3重量%(以下、単にAgと略記する)を用いた。・・・ 製造する透明積層体の構成は、PETフィルム/ITO薄膜(38nm)/Ag薄膜(9nm)/ITO薄膜(75nm)/Ag薄膜(13nm)/ITO薄膜(75nm)/Ag薄膜(15nm)/ITO薄膜(38nm)である。・・・ 最初に、真空チャンバ内を2×10^(-4)Paまで排気したのち、装置外部に設置してあるタンク内の水(25℃)を通過させたアルゴンガスを20SCCM、水を通過させない通常のアルゴンガスを40SCCM、酸素ガスを1.5SCCM、それぞれ導入し、真空ポンプのバルブを調整することにより、圧力を0.2Paに設定した.このとき、・・・酸素分圧は2.1×10^(-3)Pa、水分圧は1.1×10^(-2)Paであった。・・・ その後、ITOターゲットに対して、ターゲット面積あたり5W/cm^(2)の直流スパッタリング電力を印加して、PETフィルム上に第1層目のITO薄膜(膜厚38nm)を形成した。・・・つぎに、水を通過させたアルゴンガスと酸素ガスを遮断し、60SCCMのアルゴンガスを導入したのち、Agターゲットに対して、ターゲット面積あたり1W/cm^(2)の直流スパッタリング電力を印加して、上記第1層目のITO薄膜上に第2層目のAg薄膜(膜厚9nm)を形成した。・・・ さらにその後、目標とする膜厚を得るため、ロール速度を変化させた以外は、上記と同様にして、ITO薄膜およびAg薄膜を繰り返し積層して形成し、前記構成の透明積層体(ITO薄膜およびAg薄膜の繰り返し単位数n=3)を製造した。・・・ 実施例2 ・・・実施例1と同様の方法により、透明積層体を製造した。・・・ガスを導入したときの真空チャンバ内の酸素分圧は1.9×10^(-3)Pa、水分圧は3.4×10^(-4)Paであった。・・・」(段落0054?0059) (3)本件特許の優先日前に頒布された甲第3号証には、「透明導電性フィルム」の発明に関して、以下の事項が記載されている。 ア 「透明なフィルム基材の一方の面に、厚さが10?100nm、光の屈折率が1.40?1.80、平均表面粗さ〔Ra〕が0.8?3.0nmである透明なSiO_(x)(x=1.0?2.0)薄膜を介して、厚さが20?35nm、SnO_(2)/(In_(2)O_(3)+SnO_(2))重量比が3?15重量%であるインジウム・スズ複合酸化物からなる透明な導電性薄膜を有することを特徴とする透明導電性フィルム。」(請求項1) イ 「<透明導電性フィルムの作製> 厚さが25μmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)フィルムからなる透明なフィルム基材の一方の面に、厚さが30nm、光の屈折率が1.46であるSiO_(x)(x=2.0)薄膜を、真空蒸着法により形成した。このSiO_(x)薄膜の平均表面粗さは、2.0nmであった。 つぎに、このSiOx薄膜上に、アルゴンガス80%と酸素ガス20%とからなる4×10^(-3)Torrの雰囲気中で、酸化インジウム(In_(2)O_(3))95重量%-酸化スズ(SnO_(2))5重量%とからなる焼結体材料を使用して、反応性スパッタリング法により、厚さが25nm、光の屈折率が2.00のインジウム・スズ複合酸化物からなる透明な導電性薄膜(以下、ITO薄膜という)を形成し、透明導電性フィルムを作製した。」(段落0026) (4)本件特許の優先日前に頒布された甲第4号証には、「透明導電性フィルム」の発明に関して、以下の事項が記載されている。 ア 「透明プラスチックフィルム基材上に、硬化型樹脂を主たる構成成分とする硬化物層、及び透明導電性薄膜をこの順に積層する透明導電性フィルムの製造方法であって、透明導電性薄膜を成膜する直前に、透明プラスチックフィルムと硬化型樹脂を主たる構成成分とする硬化物層とからなる積層体を真空中に5分間以上暴露し、かつ透明導電性薄膜を成膜する際に前記積層体の薄膜形成面とは反対面にロールを密着させ、前記ロールの表面温度を-20?70℃とすることを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法。」(請求項1) イ 「実施例1 ・・・ <硬化物層の形成>両面に易接着層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製、A4340、厚み188μm)の片面に、濃度1重量%の有機ケイ素化合物のブタノール/イソプロパノール混合アルコール系溶液(日本コルコート化学社製:HAS-2)を塗布した後、 100℃で1分間乾燥させた。 <透明導電性薄膜の製膜>・・・また、スパッタリングを行う際にセンターロールの表面温度を10℃になるように設定した。 さらに、硬化物層上にインジウム-スズ複合酸化物からなる透明導電性薄膜を成膜した。このとき、ターゲットにはスズを5重量%含有したインジウムをターゲット(三井金属鉱業(株)製)として用いて、2W/cm^(2)のDC電力を印加した。また、Arガスを130sccm、O_(2)ガスを55sccmの流量で流し、0.4Paの雰囲気下でDCマグネトロンスパッタリング法で成膜した。・・・ 次いで、雰囲気の酸素分圧をスパッタプロセスモニター(伯東(株)製、SPM200)にて常時観測しながら、インジウム-スズ複合酸化物薄膜中の酸化度が一定になるように酸素ガスの流量計およびDC電源にフィートバックした。以上のようにして、厚さ27nmのインジウム-スズ複合酸化物からなる透明導電性薄膜を堆積した。さらに、この後、190℃で1分間のアニール処理を酸素雰囲気化で行なった。」(段落0082?0086) 4.申立理由の検討 (1)理由1の検討 ア.請求項1に係る発明について 請求項1に係る発明と特許異議申立人が提出した甲第1?4号証に記載された発明を対比すると、上記甲第1?4号証のいずれにも、 「(Ib_(α)-Ib_(α-0.025°))/(Ia_(α)-Ia_(α-0.025°)) で表される関数f(α)の平均値が0.08?5.00である (ただし、αは、 α_(min)+n×0.025°(n=1、2、3、・・・) (ただし、α_(min)は、0.100°以上の範囲内において、薄膜法XRD測定において(222)面のピークが確認できる最小の入射角である) で表される変数であり、 次式(I)及び(II)を満たし、 α≦0.600° ・・・・(I) f(α)≧0.7×f(α-0.025°)・・・・(II) Ia_(α)は、入射角αの薄膜法XRD測定におけるポリエチレンテレフタレート由来の2θ=26°付近のピーク強度であり、かつ Ib_(α)は、入射角αの薄膜法XRD測定における酸化インジウム由来の(222)面のピーク強度である。)」ことが記載されていないし、記載されているに等しいともいえない。 したがって、請求項1に係る発明は、上記甲第1?4号証に記載された発明から当業者が容易になし得るものではない。 特許異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている「エッチング性」の解決課題や、上記関数f(α)を達成するための条件である「酸素分圧」、「下地となる層の平均表面粗さ(Ra)」、「水導入の分圧」、「製膜温度」、「光透過性導電層(B)の厚さ」及び「加熱処理」は、甲第1?4号証に記載されており、本件特許の解決課題は周知であり、請求項1に記載された上記関数f(α)を達成するための製造方法及び条件すべてが公知の範囲であるから、これら条件を当業者が適宜選択設計して、本件特許明細書の発明の詳細な説明に実施の形態として記載された製造工程と類似の製造工程をなすことは、当業者が容易に想到できたものであり、本件特許の請求項1に係る発明も当業者が容易に想到できた旨を主張している。 しかしながら、甲第1号証には、その記載事項ア、エ?カに記載されているように、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例と同程度の「酸素分圧」、「水導入の分圧」、「製膜温度」、「光透過性導電層の厚さ」及び「加熱処理」により透明導電性積層フィルムを製造することが記載されているのみである。 同様に、甲第2号証には、その記載事項アに記載されているように、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例と同程度の「酸素分圧」、「水導入の分圧」及び「光透過性導電層の厚さ」により、透明積層体を製造することが記載されているのみであり、甲第3号証には、その記載事項ア及びイに記載されているように、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例と同程度の「下地となる層の平均表面粗さ」及び「光透過性導電層の厚さ」により透明導電性フィルムを製造することが記載されているのみであり、甲第4号証には、その記載事項ア及びイに記載されているように、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例と同程度の「製膜温度」及び「光透過性導電層の厚さ」により、透明導電性フィルムを製造することが記載されているのみである。 また、光透過性導電性フィルムの「エッチング性」を改善するとの課題と、「酸素分圧」、「水導入の分圧」、「製膜温度」、「光透過性導電層の厚さ」及び「加熱処理」の各条件との関連性は、いずれの甲号証にも記載されていないため、甲第1?4号証に記載された各条件を組み合わせて、本件特許明細書の発明の詳細な説明に実施の形態として記載された製造工程を導き出すための動機付けは存在しない。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に実施の形態として記載された製造工程と類似の製造工程は、甲第1?4号証に記載された事項から当業者が容易に想到できたものといえない。そして、請求項1に記載された関数f(α)の条件を満たす光透過性導電性フィルムを得ることが当業者にとって容易になし得たものであるといえないから、本件特許の請求項1に係る発明も当業者が容易に想到できたものといえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は妥当なものとはいえない。 以上のとおり、特許異議申立人の主張は妥当なものでなく、本件特許発明1は、甲第1?4号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.請求項2、3及び5に係る発明について 本件特許の請求項2、3及び5に係る発明は、本件特許の請求項1に係る発明を引用したものであるから、上記アの判断と同様の理由により、上記甲第1?4号証に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)理由2の検討 特許異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例には、関数f(α)を満足する水準が記載されているが、「酸素分圧」、「下地となる層の平均表面粗さ(Ra)」、「水導入の分圧」、「製膜温度」、「光透過性導電層(B)の厚さ」及び「加熱処理」の各条件をどの範囲に設定し、どのように組み合わせれば、請求項1に記載された関数f(α)の平均値の範囲を満足させることができるのかについて記載がなく、実施例に記載されていない光透過性導電性フィルムの製造に、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があるため、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張している。 しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に記載された関数f(α)を満足する光透過性導電性フィルムの実施例(段落0084?0122)として、「酸素分圧」、「下地となる層の平均表面粗さ(Ra)」、「水導入の分圧」、「製膜温度」、「光透過性導電層(B)の厚さ」及び「加熱処理」の具体的な条件が記載された製造方法が記載されているから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。 また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「加熱処理を行うことで結晶化の程度を調整することにより関数f(α)の値を調整できる」(段落0026)こと、及び「スパッタリング法により光透過性導電層(B)を形成する場合は、例えば酸素分圧、下地となる層の平均表面粗さ(Ra)、水導入の分圧、成膜温度及び光透過性導電層(B)の厚さのバランスを適宜調整すればよい」(段落0032)ことが記載されているから、実施例に記載された各条件を参考にして、実施例以外の光透過性導電性フィルムを製造することに、当業者の過度な試行錯誤が必要であるともいえない。 よって、特許異議申立人の主張は妥当なものとはいえず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。 (3)理由3の検討 特許異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例には、関数f(α)を満足する水準が記載されているが、「酸素分圧」、「下地となる層の平均表面粗さ(Ra)」、「水導入の分圧」、「製膜温度」、「光透過性導電層(B)の厚さ」及び「加熱処理」の各条件をどの範囲に設定し、どのように組み合わせれば、請求項1に記載された関数f(α)の平均値の範囲を満足させることができるのかについて記載がなく、技術常識に照らしても、請求項1に係る範囲まで、実施例に記載された内容を拡張又は一般化できるとはいえない旨を主張している。 しかしながら、上記(2)で検討したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、特許異議申立人の上記主張も妥当なものとはいえない。 また、特許異議申立人は、エッチング性の課題を解決するためには、PET樹脂基材上に特定の平均表面粗さ(Ra)を有するSiO_(2)層が形成され、その上に光透過性導電層が形成されている層構造であることが必要であるところ、請求項1には、当該課題解決手段が反映されていない旨を主張している。 しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落0032に記載されているように、下地となる層の平均表面粗さ(Ra)が光透過性導電性フィルムの関数f(α)に影響するとしても、下地となる層がSiO_(2)層でないことによって、光透過性導電性フィルムの関数f(α)が影響を受けるとはいえないから、特許異議申立人の上記主張も妥当なものとはいえない。 以上のとおり、特許異議申立人の主張は妥当なものでなく、本件特許の請求項1?3、5に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 (4)理由4の検討 特許異議申立人は、プロダクトバイプロセスクレームについては、出願人(特許権者)が「不可能・非実際的事情」を主張、立証しない限り、原則的に明確性違反となるため、「不可能・非実際的事情」を主張、立証していないプロダクトバイプロセスクレーム含む本件特許の請求項1?5に記載された発明は明確でない旨を主張している。 しかしながら、本件特許の請求項1?3には「光透過性導電性フィルム」の物の発明が記載され、請求項5には「タッチパネル」の物の発明が記載されているところ、請求項1?3及び5は、製造方法による特定がなされていないから、請求項1?3及び5に係る発明は、プロダクトバイプロセスクレームを含んでいない。 よって、特許異議申立人の上記主張は妥当なものとはいえず、本件特許の請求項1?3、5に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。 5.むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3及び5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?3及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 なお、請求項4に係る発明は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)ポリエチレンテレフタレート樹脂を含有する光透過性支持層;及び (B)3?10重量%のSnO_(2)を酸化インジウムに添加して得られうる酸化インジウムスズを含有する光透過性導電層 を含有し、 前記光透過性導電層(B)が、前記光透過性支持層(A)の少なくとも一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されている光透過性導電性フィルムであって、 (Ib_(α)-Ib_(α-0.025°))/(Ia_(α)-Ia_(α-0.025°)) で表される関数f(α)の平均値が0.08?5.00である ことを特徴とする、光透過性導電性フィルム (ただし、αは、 α_(min)+n×0.025°(n=1、2、3、・・・) (ただし、α_(min)は、0.100°以上の範囲内において、薄膜法XRD測定において(222)面のピークが確認できる最小の入射角である) で表される変数であり、 次式(I)及び(II)を満たし、 α≦0.600° ・・・・(I) f(α)≧0.7×f(α-0.025°)・・・・(II) Ia_(α)は、入射角αの薄膜法XRD測定におけるポリエチレンテレフタレート由来の2θ=26°付近のピーク強度であり、かつ Ib_(α)は、入射角αの薄膜法XRD測定における酸化インジウム由来の(222)面のピーク強度である。)。 【請求項2】 前記光透過性支持層(A)の厚さが、20?200μmである、請求項1に記載の光透過性導電性フィルム。 【請求項3】 光透明性導電層(B)の厚さが、15?30nmである、請求項1又は2に記載の光透過性導電性フィルム。 【請求項4】(削除) 【請求項5】 請求項1?3のいずれかに記載の光透過性導電性フィルムを含有する、タッチパネル。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-01-21 |
出願番号 | 特願2013-547039(P2013-547039) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(H01B)
P 1 651・ 536- YAA (H01B) P 1 651・ 537- YAA (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 太田 一平 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
河本 充雄 宮澤 尚之 |
登録日 | 2015-02-13 |
登録番号 | 特許第5693749号(P5693749) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 積水ナノコートテクノロジー株式会社 |
発明の名称 | 光透過性導電性フィルム及び光透過性導電性フィルムを含有するタッチパネル |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |