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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B82B
管理番号 1319159
異議申立番号 異議2015-700190  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-13 
確定日 2016-06-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5721164号発明「ブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5721164号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第5721164号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第5721164号の請求項3に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5721164号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年4月3日付けでその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人田嶋順治により特許異議の申立てがなされ、平成28年1月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年3月22日に意見書の提出及び訂正請求がなされたものである。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求する。(下線は、訂正箇所を示す。)
「基板上に芳香族環含有モノマー由来の構成単位と、エポキシ基を含有し芳香族環を含有しないモノマー由来の構成単位を有する樹脂成分(但し、Poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene)を除く。)を含有する下地剤を塗布し、該下地剤からなる層を形成する工程(1)と、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと、(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーを含む層を前記下地剤からなる層表面に形成した後、前記ブロックコポリマーを含む層を相分離する工程(2)と、
前記ブロックコポリマーを含む層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程(3)と、を有し、
前記樹脂成分全体の構成単位のうち20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であり、
前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及び(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物からなる群から選ばれることを特徴とするブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。」

(2)訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項3を削除することを請求する。

(3)訂正事項3
特許権者は、特許請求の範囲の請求項4を以下の事項により特定されるとおりの請求項4として訂正し、その結果として請求項4を引用する請求項5?8も訂正することを請求する。
「前記樹脂成分が、更に、前記エポキシ基を含有し芳香族環を含有しないモノマー以外の、芳香族環を含有しないその他のモノマー由来の構成単位を含有する請求項1又は2のいずれか一項に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。」

(4)訂正事項4
特許権者は、特許請求の範囲の請求項6を以下の事項により特定されるとおりの請求項6として訂正し、その結果として請求項6を引用する請求項7?8も訂正することを請求する。
「前記樹脂成分が、前記基板とのグラフト重合性基を有する請求項1、2、4、5のいずれか一項に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。」

(5)訂正事項5
特許権者は、特許請求の範囲の請求項8を以下の事項により特定されるとおりの請求項8として訂正することを請求する。
「工程(2’)において、ベーク処理を行わない請求項2、4、5、6、7のいずれか一項に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。」

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1において、「(但し、Poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene)を除く。)」、「前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及び(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物からなる群から選ばれる」の追加は、いずれも、訂正前の請求項1の「樹脂成分」を減縮するものである。
また、訂正事項1において、「又はシロキサン若しくはその誘導体」、「或いは、アルキレンオキシドを構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー」の削除は、いずれも、訂正前の請求項1の「ブロックコポリマー」を減縮するものである。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項
「(但し、Poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene)を除く。)」を追加する訂正は、取消理由通知で引用された「引用文献1に記載された発明」により新規性が否定されるおそれがあるため、該「引用文献1に記載された発明」の発明特定事項である「Poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene)」のみを除く訂正であり、また、「又はシロキサン若しくはその誘導体」、「或いは、アルキレンオキシドを構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー」の削除は、訂正前の請求項1の複数の選択肢のうちの一部を削除するものであるから、これらの訂正は、新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
また、「芳香族環含有モノマー」が「前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及び(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物からなる群から選ばれる」ことは、訂正前の請求項3に記載された事項であって、この訂正は、新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
よって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。

ウ 一群の請求項
請求項2?8は請求項1を引用するものであって、訂正事項1は一群の請求項ごとに請求された訂正である。

エ 特許請求の範囲の拡張・変更
上記「イ」で検討したとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、一群の請求項ごとに請求された訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3?5について
訂正事項3?5は、訂正前の請求項4、6、8が引用していた請求項3の削除に伴い、請求項3を引用しないものとする訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、一群の請求項ごとに請求された訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
したがって、上記訂正請求に係る訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
訂正後の請求項1、2、4?8に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明4」?「本件発明8」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4?8に記載された事項により特定されるとおりのものである。(なお、「本件発明1」、「本件発明4」、「本件発明6」、「本件発明8」は、上記「第2」「1」「(1)」「(3)」、「(4)」、「(5)」参照。)

【請求項2】
「工程(1)の後、前記下地剤からなる層を選択的露光し、現像して、前記基板上に下地剤からなる層のパターンを形成する工程(2’)を有し、
前記下地剤は、感光性重合開始剤を含有する請求項1記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。」

【請求項5】
「前記芳香族環を含有しないその他のモノマーが、N、O、Si、P及びSからなる群から選ばれる少なくとも1原子を含むビニル化合物又は(メタ)アクリル化合物である請求項4に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。」

【請求項7】
「前記グラフト重合性基は、フェノール性水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、アミド基、イソシアネート基、ニトロ基、エポキシ基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基、及びアルコキシシラン基からなる群から選ばれる基である請求項6に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。」

2 取消理由の概要
(訂正前の)請求項1?5に係る特許に対して、平成28年1月18日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。
(1)請求項1?5に係る発明は、引用文献1(甲第1号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)請求項1、3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

3 取消理由(1)について
(1)引用刊行物
取消理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、米国特許出願公開第2009/0179001号明細書(異議申立人田嶋順治が提出した甲第1号証である。以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(日本語訳は、当審が作成した。)


ア 「A topographical pattern is then formed in the block copolymer film. In a film comprising the block copolymer assembly comprising microdomains, those microdomains having a common composition can be selectively removed by a suitable process such as wet or dry etch, development, or solvent solubility, so that one microdomain comprising one kind of block is selectively removed over another microdomain comprising another kind of block. Thus, in an embodiment, a microdomain of the block copolymer film is selectively removed to provide a topographical pattern.」([0057])

(日本語訳)
「立体的パターンが、ブロック共重合体膜に形成される。複数の微小領域を含むブロック共重合組立体を有する膜において、共通の構成を有する微小領域は、ウエット又はドライエッチング、現像、あるいは、溶剤での溶解のような適切な工程により選択的に除去され、これにより、ある1つの種類のブロックからなる1つの微小領域が、他の種類のブロックからなる他の微小領域から選択的に除去される。このように、本実施形態では、ブロック共重合体の1つの微小領域が、立体的パターンを供給するために選択的に除去される。」

イ 「General Synthesis Method for poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene) Polymers

[0075] Epoxydicyclopentadienyl methacrylate (EDCPDMA) (1.78 g, 17.1 mmol, 0.5 eq.), styrene (4.0 g, 17.1 mmol, 0.5 eq.), and 2,2'-azobis(2-methylpropionitrile) (AIBN) (0.224 g, 1.37 mmol, 0.04 eq.) were added to 20 mL tetrahydrofuran in a 100 mL round-bottom flask equipped with a reflux condenser and a nitrogen line. The solution was degassed by 3 pump-backfill cycles using nitrogen. The degassed solution was refluxed overnight (10 to 12 hours) under a nitrogen atmosphere. The polymers were precipitated into 800 mL hexanes, isolated on a glass fritted filter, washed with hexanes and dried overnight in vacuo at 70°C. Yield: 4.74 g (82%).
[0076] Polymers were synthesized according to the general procedure, using the appropriate ratios of monomers and initiator. For high styrene content polymers (>70%), methanol was used in place of hexanes as the non-solvent for precipitations. Molecular weight (Mn) and polydispersity data for the resulting polymers are shown in Table 1, below.


Formulation of poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene)

[0077] Poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene) was dissolved in propylene glycol monomethyl ether acetate (PGMEA) and 7-butyrolactone (GBL) (solvent mixture ratios ranging from 100:0 to 70:30, depending on the polymer) with N-hydroxyphthalimide triflate (10 wt % relative to polymer) as a thermal acid generator at a total solids of 1-2% by weight based on the formulation. Other strong thermal and photoacid generators were also found to be sufficient to catalyze crosslinking, including bis(4-t-butyl phenyl)iodonium triflate, bis(4-t-butyl phenyl)iodonium perfluoro-1-butanesulfonate, bis(4-t-butyl phenyl)iodonium perfluoro-1-octanesulfonate, bis(phenyl)iodonium hexafluoroantimonate, and N-hydroxy-5-norbornene-2,3-dicarboximide perfluoro-1-butanesulfonate.

Preparation of Crosslinked Films of Poly(Epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene)

[0078] Films were prepared by spin casting on silicon wafers at 2,000 to 3,000 rpm as shown in FIG. 2 . Film thickness was controlled by varying the solids content of the casting solution and the spin rate during spin-casting. The films were crosslinked in a two-step cure (130°C. for 60 sec, and 200°C. for 120 sec). Crosslinking was verified by exposing the cured films to puddles of organic solvent such as toluene or PGMEA for 60 to 90 seconds and spin-drying. No film thickness loss or swelling was observed. The roughness of the surfaces was characterized by AFM. Contact angle measurements (degrees) were used as a surrogate method for determining relative surface energies, in which a lower contact angle indicates a higher relative surface energy.
[0079] Orientation of PS-b-PMMA Domains on Neutral Crosslinked Orientation Control Layers
[0080] Solutions of PS-b-PMMA were cast onto the crosslinked neutral orientation control layers from PGMEA and annealed at 200°C. for times varying from 1 minute to 18 hours. Orientation of the PS and PMMA domains was observed by atomic force microscopy.
[0081] Table 2 shows the orientation of PS-b-PMMA block copolymers that form lamellae (La) and cylinders (Cy) on crosslinked orientation control layers of the composition described in Table 1 compositions as a function of annealing time. The composition of the orientation control layer polymer, contact angle (CA, in degrees), and annealing time are given. Perpendicular lamellae or cylinders are formed as indicated by the symbol " "; where fewer than 100% of such features are formed, the amount is indicated as a percentage. The total solids content of the formulation is 1% or 2% by weight, as indicated.



(日本語訳)
「ポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)重合体の一般的な合成方法

[0075] エポキシジシクロペンタジエニル メタクリレート(EDCPDMA)(1.78g、17.1mmol、0.5当量)、スチレン(4.0g、17.1mmol、0.5当量)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)(0.224g、1.37mmol、0.04当量)を、環流凝縮器と窒素配管を備えた100mLの丸底フラスコ内の20mLのテトラヒドロフランに添加した。・・(略)・・
[0076] 重合体は、適切な割合のモノマーと開始剤を使用して、一般的な手順に従って合成された。高スチレン含有ポリマー(>70%)のために、析出物の非溶媒としてヘキサンの代わりに、メタノールが使用された。得られたポリマーの分子量(Mn)と多分散性のデータを下記表1に示す。

表1(略)

[0077] ポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)を、配合物を基準とする全固形物の1-2重量%の熱酸発生剤としてのN-ヒドロキシフタルイミドトリフレート(ポリマーに対して、10wt%)とともに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)と7-ブチロラクトン(GBL)(溶媒の混合比は、ポリマーに応じて100:0?70:30の範囲とした。)に溶解した。・・(略)・・
[0078] 図2に示されるように、膜は、2,000?3,000rpmで、シリコンウエハ上にスピンキャスティングで、準備された。膜厚は、キャスティング溶液の固体含有量とスピンキャスティング中のスピン速度を変えることによって制御した。膜は、2段階の処理(130℃で60秒、200℃で120秒)で架橋された。・・(略)・・
[0079] 中性架橋された配向制御層上のPS-b-PMMAの複数の微小領域の配向
[0080] PS-b-PMMA溶液が、PGMEAから、架橋された中性配向制御層上にキャストされ、1分?18時間の様々な時間200℃でアニールされた。PSの微小領域とPMMAの微小領域の配向が、原子間力顕微鏡で観察された。
[0081] 表2は、表1で示された組成物の架橋された配合制御層上にラメラ(La)とシリンダ(Cy)が形成された、PS-b-PMMAブロック共重合体の配向を、アニーリング時間のと関係として示している。配向制御層の組成、接触角(CA、度)とアニーリング時間が与えられている。垂直ラメラ又はシリンダが、記号” ”で示されるように形成されており、このような形状が100%未満しか形成されていないものは、その量がパーセンテージで示されている。・・(略)・・

表2(略)」

ウ 「



上記[0057]の記載を参照すると、上記[0075]?[0081]に記載された、ポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)を含む配向制御層の上に形成されたPS-b-PMMAの複数の微小領域であるPSの微小領域とPMMAの微小領域において、どちらか1つの微小領域を選択的に除去して、立体的パターンを形成することが開示されていると認められる。
また、表1から、EDCPDMAとスチレンのモル比が、80:20?20:80であるポリマー(ポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン))を合成することが読み取れる。

すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート(EDCPDMA)、スチレン及び2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)を使用して、一般的な手順に従って、EDCPDMAとスチレンのモル比が、80:20?20:80であるポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)を合成し、
ポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)を、熱酸発生剤としてのN-ヒドロキシフタルイミドトリフレートとともに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)と7-ブチロラクトン(GBL)に溶解し、
この溶液を、2,000?3,000rpmで、シリコンウエハ上にスピンキャスティングし、2段階の処理(130℃で60秒、200℃で120秒)で架橋して、中性架橋された配向制御層を形成し、
PS-b-PMMA溶液を、架橋された中性配向制御層上にキャストし、1分?18時間の様々な時間200℃でアニールして、PSの微小領域とPMMAの微小領域の配向を形成し、
PSの微小領域とPMMAの微小領域において、どちらか1つの微小領域を選択的に除去して、立体的パターンを形成する、立体的パターン形成方法。」

(2)対比・判断
ア 本件発明1と引用発明との対比
(ア)引用発明の「ポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)」、「この溶液」、「配向制御層」、「シリコンウエハ」及び「スピンキャスティング」が、それぞれ、本件発明1の「樹脂成分」、「下地剤」、「下地剤からなる層」、「基板」及び「塗布」に相当する。
また、引用発明の「ポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)」の構成単位である「エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート」、「スチレン」は、それぞれ、本件発明1の「芳香族含有モノマー由来の構成単位」、「エポキシ基を含有し芳香族を含有しないモノマー由来の構成単位」に相当し、引用発明の「スチレン」は、さらに、本件発明1の「ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物」に相当する。

すると、引用発明の
「エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート(EDCPDMA)、スチレン及び2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)を使用して、一般的な手順に従って、EDCPDMAとスチレンのモル比が、80:20?20:80であるポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)を合成し、
ポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)を、熱酸発生剤としてのN-ヒドロキシフタルイミドトリフレートとともに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)と7-ブチロラクトン(GBL)に溶解し、
この溶液を、2,000?3,000rpmで、シリコンウエハ上にスピンキャスティングし、2段階の処理(130℃で60秒、200℃で120秒)で架橋して、中性架橋された配向制御層を形成」することと、本件発明1の
「基板上に芳香族環含有モノマー由来の構成単位と、エポキシ基を含有し芳香族環を含有しないモノマー由来の構成単位を有する樹脂成分(但し、Poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene)を除く。)を含有する下地剤を塗布し、該下地剤からなる層を形成する工程(1)と、」「を有し、」
「前記樹脂成分全体の構成単位のうち20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であり、
前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及び(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物からなる群から選ばれること」は、
「基板上に芳香族環含有モノマー由来の構成単位と、エポキシ基を含有し芳香族環を含有しないモノマー由来の構成単位を有する樹脂成分を含有する下地剤を塗布し、該下地剤からなる層を形成する工程(1)と、」「を有し、」
「前記樹脂成分全体の構成単位のうち20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であり、
前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及び(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物からなる群から選ばれること」で一致する。

(イ)引用発明の「PS-b-PMMA」は、本件発明1の「スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと、(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー」に相当する。
また、引用発明の「PSの微小領域とPMMAの微小領域の配向を形成」することが、本件発明1の「前記ブロックコポリマーを含む層を相分離する」ことに相当することは、当業者には明らかである。
すると、引用発明の「PS-b-PMMA溶液を、架橋された中性配向制御層上にキャストし、1分?18時間の様々な時間200℃でアニールして、PSの微小領域とPMMAの微小領域の配向を形成」することは、本件発明1の「スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと、(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーを含む層を前記下地剤からなる層表面に形成した後、前記ブロックコポリマーを含む層を相分離する工程(2)」に相当する。

(ウ)引用発明の「PSの微小領域とPMMAの微小領域において、どちらか1つの微小領域を選択的に除去」することは、本件発明1の「前記ブロックコポリマーを含む層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程(3)」に相当する。

(エ)引用発明の「立体的パターン形成方法」は、本件発明1の「パターン形成方法」に相当する。

イ 一致点
してみると、両者は、
「基板上に芳香族環含有モノマー由来の構成単位と、エポキシ基を含有し芳香族環を含有しないモノマー由来の構成単位を有する樹脂成分を含有する下地剤を塗布し、該下地剤からなる層を形成する工程(1)と、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと、(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーを含む層を前記下地剤からなる層表面に形成した後、前記ブロックコポリマーを含む層を相分離する工程(2)と、
前記ブロックコポリマーを含む層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程(3)と、を有し、
前記樹脂成分全体の構成単位のうち20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であり、
前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及び(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物からなる群から選ばれることを特徴とするブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。」
で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
「樹脂成分」が、本件発明では、「(但し、Poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene)を除く。)」のに対して、引用発明では、「ポリ(エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート-ran-スチレン)」である点。

エ 判断
してみると、本件発明1は、上記相違点において、引用発明であるとはいえない。

(3)結論
以上のとおり、本件発明は引用発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するとはいえない。
したがって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないとはいえないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるとすることはできない。

4 取消理由(2)について
取消理由(2)で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとされた、訂正前の本件の請求項1の「ブロックコポリマー」を「スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと、」「シロキサン若しくはその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー」、「アルキレンオキシドを構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー」とすること、及び、請求項3の「芳香族環含有モノマー」が、「ノボラック樹脂の構成成分となるフェノール類」であることについて、訂正請求により、これらの事項が請求項1から削除され、また、請求項3自体も削除されたので、上記取消理由(2)は解消された。

したがって、本件の請求項1、3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであるとすることはできない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3に対して、特許異議申立人田嶋順治がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に芳香族環含有モノマー由来の構成単位と、エポキシ基を含有し芳香族環を含有しないモノマー由来の構成単位を有する樹脂成分(但し、Poly(epoxydicyclopentadienyl methacrylate-ran-styrene)を除く。)を含有する下地剤を塗布し、該下地剤からなる層を形成する工程(1)と、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと、(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーを含む層を前記下地剤からなる層表面に形成した後、前記ブロックコポリマーを含む層を相分離する工程(2)と、
前記ブロックコポリマーを含む層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去する工程(3)と、を有し、
前記樹脂成分全体の構成単位のうち20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であり、
前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及び(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物からなる群から選ばれることを特徴とするブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。
【請求項2】
工程(1)の後、前記下地剤からなる層を選択的露光し、現像して、前記基板上に下地剤からなる層のパターンを形成する工程(2’)を有し、
前記下地剤は、感光性重合開始剤を含有する請求項1記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記樹脂成分が、更に、前記エポキシ基を含有し芳香族環を含有しないモノマー以外の、芳香族環を含有しないその他のモノマー由来の構成単位を含有する請求項1又は2に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。
【請求項5】
前記芳香族環を含有しないその他のモノマーが、N、O、Si、P及びSからなる群から選ばれる少なくとも1原子を含むビニル化合物又は(メタ)アクリル化合物である請求項4に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。
【請求項6】
前記樹脂成分が、前記基板とのグラフト重合性基を有する請求項1、2、4、5のいずれか一項に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。
【請求項7】
前記グラフト重合性基は、フェノール性水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、アミド基、イソシアネート基、ニトロ基、エポキシ基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基、及びアルコキシシラン基からなる群から選ばれる基である請求項6に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。
【請求項8】
工程(2’)において、ベーク処理を行わない請求項2、4、5、6、7のいずれか一項に記載のブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-05-24 
出願番号 特願2010-205890(P2010-205890)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (B82B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松岡 智也  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 伊藤 昌哉
松川 直樹
登録日 2015-04-03 
登録番号 特許第5721164号(P5721164)
権利者 東京応化工業株式会社 国立研究開発法人理化学研究所
発明の名称 ブロックコポリマーを含む層のパターン形成方法  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 鈴木 三義  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 志賀 正武  

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