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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1319191
異議申立番号 異議2016-700294  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-11 
確定日 2016-09-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第5802495号発明「ポリカーボネート樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5802495号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第5802495号に係る出願(特願2011-202587号、以下「本願」という。)は、平成23年9月16日に出願人三菱化学株式会社によりなされた特許出願であり、平成26年9月9日に同出願に係る特許を受ける権利について、一部が出願人三菱エンジニアリングプラスチック株式会社に譲渡された後、平成27年9月4日に特許権の設定登録がなされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成28年4月11日付けで特許異議申立人志築正治(以下「申立人」という。)により「特許第5802495号の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の請求項1ないし11には、以下のとおりの記載がある。
「【請求項1】
下記一般式(1)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)及び下記一般式(2)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)を、(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有し、ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上、JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】


(一般式(1)中、R^(1)はメチル基、R^(2)は水素原子を示し、Xはイソプロピリデン基を示す。)
【化2】


(一般式(2)のXはイソプロピリデン基である。)
【請求項2】
厚み2mmの成形品についてJIS K7136に従って測定したヘイズ値が2%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、リン系安定剤及び/またはヒンダードフェノール系安定剤を、前記ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.01?1質量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系またはマロン酸エステル系の紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種の紫外線吸収剤を、前記ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.05?1質量部含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、離型剤として脂肪酸エステルを、前記ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.05?1量部含有することを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
離型剤が、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸ステアレート及びステアリン酸モノグリセリドから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
ポリカーボネート樹脂(A)及びポリカーボネート樹脂(B)の合計100質量%中、10質量%以上がフレーク状の粉末であることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる表示装置用部材または表示装置用カバー。
【請求項9】
請求項1?7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる保護具。
【請求項10】
請求項1?7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる車載用部品。
【請求項11】
請求項1?7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる単層または多層シート。」
(以下、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明11」といい、併せて「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件異議申立書において、下記甲第1号証ないし甲第6号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)ないし(4)が存するとしている。

(1)本件発明1及び2は、いずれも、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(2)本件発明1ないし11は、いずれも、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基づき、甲第4号証及び甲第5号証に記載された事項を参酌して、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2」という。)
(3)本件特許の請求項1ないし11に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるから、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしておらず、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。)
(4)本件特許の請求項1ないし11に関して、同各請求項の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第1号又は同条同項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしておらず、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由4」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開平7-53856号公報
甲第2号証:特開昭62-10160号公報
甲第3号証:特開昭64-62351号公報
甲第4号証:特開2011-105932号公報
甲第5号証:特開2002-308975号公報
甲第6号証:作者不明の「図1」なる「(A)/(B)」と「粘度平均分子量(Mv)」との関係を表すグラフ
(以下、「甲第1号証」ないし「甲第6号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲6」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由1ないし4につきいずれも理由がないから、本件発明1ないし11についての特許はいずれも維持すべきもの、
と判断する。
以下、事案に鑑み、取消理由3、取消理由4、取消理由1及び2の順に詳述する。

I.取消理由3について
取消理由3において、申立人が特に具体的に主張する点は、本件特許異議申立書の記載からみて、『本件特許明細書の発明の詳細な説明に「<その他の添加剤>本実施の形態が適用されるポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、他の種々の添加剤を配合することもできる。添加剤としては、例えば、着色剤、帯電防止剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、ワラストナイト、珪酸カルシウム、硼酸アルミニウムウィスカー等が挙げられる。」と記載されている(【0065】)ところ、当該各添加剤、特に熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを使用した場合に、本件発明の発明特定事項である「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上」であること及び「JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上であること」を達成する具体的手段が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に記載したものではない』というものであると認められる。
そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、実施例及び比較例に係る記載(【0071】?【0095】)からみて、
(a)それぞれ特定の化学構造及び分子量を有するポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)とを20/80?80/20の質量比で使用した場合に、上記衝撃強度及び鉛筆硬度に係る両特性を併せて達成することができ、上記質量比の範囲外となると、いずれかの特性を達成できないこと(「実施例1」ないし「実施例5」及び「比較例1」ないし「比較例6」の各結果参照)、及び
(b)特定の化学構造及び分子量を有するポリカーボネート樹脂(B)に対して熱可塑性樹脂の一種であるものと認められる「メタクリレート樹脂」のみを添加使用した場合(すなわちポリカーボネート樹脂(A)を使用しない場合)に、上記衝撃強度及び鉛筆硬度に係る両特性を併せて達成する場合又はいずれかの特性を達成しない場合が存するものの、いずれの場合であっても透明性が極めて劣る(ヘイズ値が極めて高くなる)ものとなること(「比較例7」ないし「比較例9」の各結果参照)、
という(a)及び(b)のいずれの事項をも看取できるから、当該記載に接した当業者は、上記各添加剤、特に熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを使用する場合に、上記衝撃強度及び鉛筆硬度に係る両特性又は透明性に係る特性につき、いずれも併せて達成するものとすべく、その使用量などについて検討すべきであることを認識することができるものと認められる。
してみると、申立人の上記主張は、当を得ないものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に記載したものではないとまでいうことはできない。
したがって、上記取消理由3は、理由がない。

II.取消理由4について
取消理由4について、申立人が特に主張する点は、本件特許異議申立書の記載からみて、
(a)『本件発明における「ポリカーボネート樹脂(A)」又は「ポリカーボネート樹脂(B)」には、「一般式(1)」又は「一般式(2)」の構造単位を含み、他の構造単位をも含むいわゆる「共重合ポリカーボネート樹脂」をそれぞれ使用する態様を包含することが請求項1ないし11に規定されているところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当該「共重合ポリカーボネート樹脂」につき記載されておらず、当該「共重合ポリカーボネート樹脂」を使用した場合に本件発明の目的を達成できるか明らかでないから、本件請求項1ないし11の記載では、同各項に係る特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、また、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない』というもの、並びに
(b)『本件発明における「ポリカーボネート樹脂(A)」につき、粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500の範囲にある旨規定されているところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記粘度平均分子量の範囲の上限又はその近傍の「ポリカーボネート樹脂(A)」を使用した実施例(及び比較例)のみであり、当該実施例の場合の効果が確認されているだけであって、請求項で規定された上記範囲まで拡張できる科学的根拠がないから、本件請求項1ないし11の記載では、同各項に係る特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない』というもの、
であると認められる。
ここで、前提として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0006】等)に基づき検討すると、本件発明の解決課題は、「高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性全てを併せ有するポリカーボネート樹脂組成物」の提供にあるものと認められる。
そこで、上記(a)の点につき検討すると、申立人が提示した上記甲1ないし3にもそれぞれ開示されるとおり、いわゆる「ビスフェノールA」なる芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性などの物性に優れた成形物を与えることが、本願の出願日前の当業者に少なくとも公知の技術であったものと認められるとともに、申立人が提示した甲4にも開示されるとおり、いわゆる「ビスフェノールC」なる芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される構造単位を有するポリカーボネート樹脂が、表面硬度に優れた成形物を与えることも、本願の出願日前の当業者に少なくとも公知の技術であったものと認められる。
してみると、上記当業者に少なくとも公知の技術からみて、透明性、耐衝撃性などの物性に優れた成形物を与える「ビスフェノールA」なる芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、「ビスフェノールC」なる芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される構造単位を有するポリカーボネート樹脂を混合して組成物を構成する又は「ビスフェノールC」なる芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される構造単位を共重合により導入する等により、「ビスフェノールC」なる芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される構造単位をポリカーボネート樹脂組成物中に導入・含有させた場合、改善の程度はさておき、透明性、耐衝撃性などの物性に加えて表面硬度の点で改善されたポリカーボネート樹脂組成物を提供できる、すなわち、上記本件発明の解決課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるものと認めるのが自然である。
そして、「共重合ポリカーボネート樹脂」を使用した場合、上記本件発明の解決課題を解決できないであろうと当業者が認識するような本願の出願日前の当業者の技術常識が存するものとも認められない。
なお、本件の請求項1ないし11の記載を検討しても、同各項の記載につき、特許を受けようとする発明が明確でないとまでいうことはできない。
したがって、上記(a)の点の主張は、当を得ないものである。
次に、上記(b)の点につき検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「ポリカーボネート樹脂(A)」の粘度平均分子量につき、「ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)は、20,000?35,000である。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られ、20,000を下回ると、耐衝撃性が悪化し、実使用上問題となり、35,000を超えると溶融粘度が増大し、射出成形または押出成形することが困難となる。ポリカーボネート樹脂(A)の好ましい分子量の下限は、22,000、より好ましくは23,000、さらに好ましくは24,000であり、上限は好ましくは33,000、より好ましくは32,500である。」(【0020】)と記載されているから、「ポリカーボネート樹脂(A)」の粘度平均分子量につき、大きければ成形性が悪化し、小さければ成形品の耐衝撃性が悪化するという作用機序が開示されているものといえる。
(なお、この点につき、本願の審査過程における平成27年7月6日付け意見書において追試結果が提示され、本件発明に係る実施例2におけるポリカーボネート樹脂(A)(C-PC-1)を粘度平均分子量18,000のポリカーボネート樹脂(C-PC-4)に代えた場合(追試1)につき、デュポン衝撃強度が6Jと大きく低下することが開示されている。)
そして、本件発明に係る「ポリカーボネート樹脂(A)」の粘度平均分子量の範囲の下限値付近(例えば20,000?24,000)の範囲において、本件発明の解決課題を解決できない(例えばデュポン衝撃強度が10Jを下回る)であろうと当業者が認識するような技術常識又は科学的根拠が存するものとも認められない。
してみると、「ポリカーボネート樹脂(A)」の粘度平均分子量につき、20,000?32,500の範囲とした場合、他の物性に加えて成形物の耐衝撃性の点で改善されたポリカーボネート樹脂組成物を提供できる、すなわち、上記本件発明の解決課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるものと認めるのが自然である。
したがって、上記(b)の点についても、当を得ないものである。
以上のとおりであるから、上記取消理由4についても、理由がない。

III.取消理由1及び2について

1.各甲号証の記載事項及び記載された発明
上記取消理由1及び2は、いずれも本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲5に記載された事項の摘示(甲6は、記載不備の主張を行う際の単なる説明図であるものと認められるので、記載事項の摘示は行わない。)及び当該事項に基づく甲1ないし3に係る引用発明の認定を行う。
なお、下線は当審が便宜上付したものである。

(1)甲1の記載事項及び記載された発明

ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a-1)
「【請求項1】 近接したガラス転移温度を有し、屈折率差の絶対値が0.002以内である下記の二成分
(1)、(2)を含有する光学用樹脂組成物。
(1)2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンから誘導される構成単位を有するポリカーボネート樹脂(a)と、(a)と完全相溶性があり、かつ(a)よりも高い屈折率および高いガラス転移温度を有する芳香族ポリカーボネート樹脂(b)からなる組成物、または2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと他のビスフェノール化合物との芳香族ポリカーボネート共重合体(c)。
(2)α,β-不飽和ジカルボン酸無水物或いはその誘導体を共重合成分とするスチレン系樹脂。
【請求項2】 (1)の成分の割合が、樹脂組成物全体の5?95重量部である請求項1記載の光学用樹脂組成物
【請求項3】 芳香族ポリカーボネート樹脂(b)が2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンまたは2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンから誘導される構成単位を有するポリカーボネート樹脂である請求項1記載の光学用樹脂組成物。
【請求項4】 芳香族ポリカーボネート共重合体(c)が2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンまたは2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンとの共重合体である請求項1記載の光学用樹脂組成物。
【請求項5】 2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンから誘導されるを構成単位を有するポリカーボネート樹脂(a)の粘度平均分子量が、10,000?60,000の範囲である請求項1記載の光学用樹脂組成物。
【請求項6】 (a)と(b)との割合が重量比で30/70?60/40または70/30?85/15である請求項1記載の光学用樹脂組成物。
【請求項7】 2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンと2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンまたは2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンを重量比で30/70?60/40または70/30?85/15の割合で共重合させた共重合体(c)である請求項4記載の光学用樹脂組成物。
【請求項8】 α,β-不飽和ジカルボン酸無水物が、無水マレイン酸である請求項1記載の光学用樹脂組成物。
【請求項9】 スチレン系樹脂が無水マレイン酸とスチレン化合物との共重合体であり、該共重合体におけるスチレン化合物の割合が12?16重量%である請求項1記載の光学用樹脂組成物。
・・(後略)」

(a-2)
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】この様に、ポリカーボネートとα,β-不飽和ジカルボン酸無水物或いはその誘導体を共重合成分とするスチレン系樹脂からなる樹脂組成物においては、その樹脂組成物が、2つのガラス転移温度を持つことから成形性に問題があり、そのため両者のガラス転移温度を近づけることが必要となる。尚且つ、両者の屈折率をかなり狭い範囲内で出来るだけ等しくなるように調整しなければ、実質的に光学用成形材料として利用できないという問題点も持ち、これらの問題点を同時に解決することが光学用成形材料として必須となっているが、現在まで見い出されていない。
【0007】本発明の樹脂組成物は、前述の課題を考慮しつつポリカーボネート自体が持つ優れた透明性、耐熱性、耐衝撃性、低吸湿性を犠牲にする事無く、更にスチレン系樹脂を組み合わせていることにより達成される低複屈折性をも維持することができる光学用成形材料の提供を目的とするものである。」

(a-3)
「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、前述の問題点を全て解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂についてガラス転移温度、スチレン径樹脂との相溶性、屈折率等多角的な観点から検討を行ったところ、(a)ビスフェノール構成単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の中で、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールCという)から誘導される構成単位を有するポリカーボネート樹脂が、一般に他のビスフェノールから誘導される構成単位を有するポリカーボネート樹脂に比べて、低いガラス転移温度と低い屈折率を同時に備えており、該ポリカーボネート樹脂と完全相溶性を有する他の芳香族ポリカーボネート樹脂との組成物は、両者の中間の範囲で調整された屈折率とガラス転移温度を有していること及び(b)ビスフェノールCと他のビスフェノールとを共重合して得られる芳香族ポリカーボネート樹脂においても(a)の樹脂組成物と同様の効果が得られることが判り、これに基づいて本発明の樹脂組成物を見出すに至った。
・・(中略)・・
【0010】本発明で用いるビスフェノールCから誘導される構成単位を有するポリカーボネートの製法や、該ポリカーボネート樹脂より高いガラス転移温度及び屈折率を同時に持つ芳香族ポリカーボネート樹脂の製法としては、従来のポリカーボネートの製法と同様の製法で製造される。例えば、芳香族2価フェノール系化合物とホスゲン又は炭酸ジエステルとを反応させてなるものやエステル交換法等で製造されるものである。また、本発明で使われたビスフェノールCから誘導される構成単位を有するポリカーボネートの粘度平均分子量は10,000?80,000の範囲であり、好ましくは粘度平均分子量が12,000?60,000の範囲である。
【0011】本発明において使用されるビスフェノールCから誘導される構成単位を有するポリカーボネート樹脂より高いガラス転移温度及び高い屈折率を同時に持つ芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に使用される2価のフェノール系化合物は、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン〔ビスフェノールEという〕、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノ-ルAという〕、・・(中略)・・等が例示され、適宜単独又は2種類以上の組み合わせで使用されるが、これらの中で特に好ましい2価のフェノール系化合物としては、ビスフェノールA又はビスフェノールEが挙げられる。
【0012】更にこれらの2価フェノール系化合物の1種又は2種以上とビスフェノールCとを共重合させたコポリカーボネートとすることもできる。また、この様にして得られる芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で10,000?80,000で、好ましくは12,000?60,000の範囲が良い。」

(a-4)
「【0020】光学用樹脂組成物として、透明度の維持は必須の条件であるが、その透明度を維持するためには、各組成物の屈折率をほぼ等しくすることが必要である。透明度については、明るさの尺度としての光線透過率と、鮮明さの尺度としての曇価(ヘイズ)とそれぞれ関係が深いものであるが、そのうち曇価に関しては、実質的に光学用材料として使用するには5.0%以下、好ましくは3.0%以下を示す材料が必要である。もし、仮に曇価が大きいと、光学用レンズ等においては散乱透過光の影響により濁りが生じたり、また転写する像がぼやけたりする現象がおこり実質的にレンズとして、使用上好ましくない。本発明では、スチレン系樹脂に対して、ポリカーボネート樹脂の屈折率を絶対値で0.002以内とすることにより、ほとんど等しい屈折率を示すことから、光学的に均一な樹脂組成物となり、ポリカーボネートとスチレン系樹脂が持つ優れた光線透過率を維持しつつ、曇価も小さい樹脂組成物となる。
【0021】本発明により得られる光学用樹脂組成物は、異なる光学異方性を持つ芳香族ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂からなっており、その芳香族ポリカーボネートとスチレン系樹脂の組成比を調整することにより実質的に複屈折が相殺された樹脂組成物が得られる。本発明ではビスフェノールCから誘導される構成単位を有するポリカーボネート樹脂と芳香族ポリカーボネートからなる組成物及びその共重合体の割合が、樹脂組成物全体の5?95重量部の範囲内、好ましくは40?70重量部の範囲内で、実質的に複屈折がポリカーボネートと比べて大きく低減化された低複屈折を持つ樹脂組成物が得られる。」

(a-5)
「【0023】
【実施例】以下、合成例及び実施例により具体的に説明するが、本発明の内容は、以下の実施例に限定されずに多くの組み合わせが可能である。なお、各物性は下記により測定した。
・・(中略)・・
【0026】粘度平均分子量は、ウベローデ粘度計を用い、塩化メチレン溶媒中20℃の極限粘度[η]を測定し、次式より求めた。〔η〕=1.11×10^(-4)(Mv)^(0.83)
・・(中略)・・
【0028】合成例1
水酸化ナトリウム3.7kgを水42リットルに溶解し、20℃に保ちながら、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン〔ビスフェノールC〕8.2kg、ハイドロサルファイト8gを溶解した。これに、メチレンクロライド28リットルを加えて攪拌しつつ、p-t-ブチルフェノール(以下、「PTBP]と省略する)187gを加え、ついでホスゲン3.6kgを60分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、激しく攪拌して反応液を乳化させ、乳化後、8gのトリエチルアミンを加え、更に約1時間攪拌を続け重合させた。重合液を水相と有機相に分離し、有機相をりん酸で中和した後、洗液のpHが中性となるまで繰り返し、その後イソプロパノールを35リットル加えて、重合物を沈澱させた。沈澱物を濾過し、その後乾燥する事により、粉末状のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、21,000であり、ガラス転移温度116 ℃、屈折率 1.578であった。このポリカーボネートをDMPC-1という。
・・(中略)・・
【0034】実施例1
ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学(株)製ポリカーボネート(商品名「ユーピロンH-4000)、粘度平均分子量16,000、ガラス転移温度140℃、屈折率1.586、以下BPA-1という)と合成例1のビスフェノールC型ポリカーボネートDMPC-1、更にスチレン-無水マレイン酸共重合体(MTC-ARCO社製(商品名「ダイラーク#332」)、ガラス転移温度126℃、屈折率1.582、無水マレイン酸含有量14.3重量%、以下St-Aという)を第1表に示す割合でタンブラーを用いて混合した。
【0035】その混合粉末を、ベント式押し出し機(中谷機械製作所(株)製AS-30)を用いて温度230℃?280℃にて溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットについて示差熱走査熱量計を用いてガラス転移温度を測定した。その結果、この組成物のガラス転移温度のピークが123℃であった。該ペレットを110℃で1時間乾燥後、シリンダー温度240℃?300℃、金型90℃?110℃で射出成形機(山城精機製作所(株)製SA-30)を用いてφ50mm・厚さ3mmの円板に成形し、ヘイズメーター(日本電色製モデル1001DPZ)を用いて、全光線透過率と曇価を測定した。その結果、光線透過率は89.9%で、曇価は0.9%であった。
【0036】この様に、これらの2種類のポリカーボネート樹脂を、重量比でBPA-1:DMPC-1=55:45の割合で混合した樹脂組成物は、ガラス転移温度127℃で屈折率1.582のポリカーボネート樹脂組成物である。これと前述のスチレン系樹脂を溶融混練すると、光学的に均一で、尚かつ熱的性質も均一である光学用樹脂組成物を得ることができる。
【0037】実施例2?5、比較例1?5
実施例2?5及び比較例1?5では、DMPC-1とBPA-1との混合比率を第1表に示す割合で混合し、実施例1と同様の操作を実施した。
・・(中略)・・
【0039】比較例6?7
合成例1で合成されたDMPC-1を用いて種々のスチレン系樹脂と第1表に示す割合で混合を行い、実施例1と同様の操作を行った。この時使用した、St-Bの樹脂はスチレン-無水マレイン酸共重合体(MTC-ARCO社製(商品名「ダイラーク#232」)、ガラス転移温度115℃、屈折率1.587、無水マレイン酸含有量7.4重量%)であり、St-Cの樹脂は、ポリスチレン(モンサント化成(株)製(商品名「HH-102」)、ガラス転移温度97℃、屈折率=1.592)である。
【0040】実施例9
合成例1で合成されたDMPC-1と、BPA-1と分子量の異なるビスフェノールAから誘導される構成単位を有するポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学(株)製ポリカーボネート(商品名「ユーピロンE-2000」)、粘度平均分子量28,000、ガラス転移温度145℃、屈折率1.586、以下BPA-2という)と合成例1のビスフェノールCから誘導される構成単位を有するポリカーボネート樹脂とを第1表に示す割合で混合を行い、実施例1と同様の操作を行った。
・・(中略)・・
【0043】実施例12?13
合成例1で合成されたDMPC-1と、BPA-1を用いて、第1表に示す割合でSt-Aとの比率を替えて混合を行い、実施例1と同様の操作を行った。各試験結果を、第1表に示した。
【0044】実施例14、15
実施例1のDMPC-1とBPA-1の比率はそのままとし、St-Aとの比率を第2表に示す割合で混合し、実施例1と同様に操作した。その結果を第2表に示す。
【0045】
【本発明の効果】以上の如く、本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート自身が持つその優れた透明性を損なうことなく、ポリカーボネート樹脂単独よりも低減化された複屈折性を持つ光学用樹脂組成物である。更に本発明で得られた樹脂組成物は、近接したガラス転移温度から成形サイクルの短縮化を図ることができ、光学用レンズや光ディスク、光カード等の光学用途の成形物の生産性向上させることができる。
【0046】
【表1】


【0047】
【表2】




イ.甲1に記載された発明
上記甲1には、上記(a-1)ないし(a-5)の各記載(特に(a-1)及び(a-3)【0012】参照)からみて、
「下記の二成分(1)、(2)を含有する光学用樹脂組成物。
(1)2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンから誘導される構成単位を有する、粘度平均分子量10,000?60,000のポリカーボネート樹脂(a)と、(a)と完全相溶性があり、かつ(a)よりも高い屈折率および高いガラス転移温度を有する、粘度平均分子量10,000?80,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(b)からなり、(a)と(b)との割合が重量比で30/70?60/40あるいは70/30?85/15である組成物。
(2)α,β-不飽和ジカルボン酸無水物或いはその誘導体を共重合成分とするスチレン系樹脂。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)甲2の記載事項及び記載された発明

ア.甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b-1)
「(1)一般式


〔式中、R^(1)、R^(2)はそれぞれ炭素数1?5のアルキル基あるいはフェニル基を示し、X^(1)、X^(2)はそれぞれ炭素数1?4のアルキル基、炭素数1?4のアルコキシル基あるいはハロゲン原子を示す。〕で表わされる繰返し単位を有する重合体〔A〕1?99重量%および
一般式


〔式中、R^(3)、R^(4)はそれぞれ炭素数1?5のアルキル基あるいはフェニル基を示す。〕
で表わされる繰返し単位を有する重合体〔B〕99?1重量%を配合した組成物からなる光学機器用素材。
・・(中略)・・
(3)重合体〔A〕の粘度が、25℃における濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液の還元粘度〔η_(sp)/c〕として0.3?1.0dl/gである特許請求の範囲第1項記載の光学機器用素材。
(4)重合体〔B〕の粘度が、25℃における濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液の還元粘度〔η_(sp)/c〕として0.3?1.0dl/gである特許請求の範囲第1項記載の光学機器用素材。」(第1頁左下欄?右下欄「2.特許請求の範囲」の欄)

(b-2)
「〔産業上の利用分野〕
本発明は光学機器用素材に関し、特に耐熱性、成形加工性にすぐれ、デジタルオーディオディスクや光メモリ-ディスクなどに適した素材に関する。」(第1頁右下欄第17行?第2頁左上欄第1行)

(b-3)
「そこで本発明者らは耐熱性、機械的強度などポリカーボネート樹脂の有する優れた特性を維持するとともに、特にポリカーボネート樹脂の欠点である流動性、光弾性係数などを改善することによって、光学的性質の向上した素材を開発するために鋭意研究を重ねた。
〔問題点を解決するための手段〕
その結果、特定の繰返し単位を有する二種類のポリカーボネート系の重合体を配合してなる組成物が上記目的を達成しうるものであることを見出し、この知見に基いて本発明を完成するに至った。」(第2頁右上欄第4行?第14行)

(b-4)
「〔発明の効果〕
このようにして得られる本発明の組成物は、従来のポリカーボネート樹脂に比べて光弾性係数が小さく、また成形性が良好であって成形歪が少ないため複屈折が小さく光学的性質の極めてすぐれたものである。しかも、耐熱性、機械的強度にもすぐれたものである。したがって本発明の組成物を各種光学機器の素材として用いれば光学的性質が改良されているためディスクに記録された情報の読取り感度が高く、エラーの発生の少ない光学機器が得られる。また、熱的にも機械的にも良好な素材であるため、これを用いて作られた光学機器は様々な条件下で安定して作動する。
それ故、本発明の素材は、デジタルオーディオディスクや光メモリ-ディスクなどの光学機器用素材として有効に利用することができる。」(第3頁左下欄下から第2行?右下欄第14行)

(b-5)
「〔実施例〕
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
実施例1
1l容のフラスコに、2,2-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン25.6g(0.1モル)を2規定の水酸化ナトリウム水溶液250mlに溶解した溶液と、塩化メチレン250ml、分子量調節剤としてのp-ターシャリ-ブチルフェノール0.2gならびに触媒としてのトリエチルアミン0.5mlを加え、激しく撹拌しながら、ホスゲンを300ml/分の割合で吹き込み、フラスコ内のpHが9になった時点でホスゲンガスの供給を停止した。その後、1時間攪拌しながら反応を行った。反応終了後、反応生成物を塩化メチレン200m1で希釈した後、水、0.01規定の塩酸および水の順序で洗浄し、有機層を分離してメタノール中に投入し、下記の式で示される繰返し単位〔III〕を有するポリカーボネート(重合体〔A〕)を得た。


この重合体〔A〕は塩化メチレンを溶媒とする濃度0.5g/aの溶液25℃における還元粘度〔η_(sp)/c)が0.83dl/gであった。
上記の重合体〔A〕4.75gおよび下記式で示される繰返し単位〔IV〕


を有する市販のポリカーボネート(重合体〔B〕)(上記の条件下で測定した還元粘度0.5dl/g)0.25gを、塩化メチレン200ml中に完全に溶解した後、溶媒の塩化メチレンを減圧下に除去してポリカーボネート組成物を得た。このようにして得られた組成物を270℃において熱プレスすることにより、肉厚9.3mmのシートを得た。
このシートを用い波長633nmにおける光弾性係数を測定した。またこのもののガラス転移温度を測定して耐熱性を評価した。これらの結果を第1表に示す。
・・(中略)・・
実施例3
実施例1において、塩化メチレンに溶解する重合体〔A〕を4.0g、重合体〔B〕を1.0gとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行なった。結果を第1表に示す。
・・(中略)・・
比較例1
実施例1に用いた繰返し単位(IV)を有する市販のポリカーボネート(重合体〔B〕)の各種物性を第1表に示す。

」(第3頁右下欄第15行?第5頁末行)

イ.甲2に記載された発明
上記甲2には、上記(b-1)ないし(b-5)の各記載(特に(b-1)の記載参照)からみて、
「(1)一般式


〔式中、R^(1)、R^(2)はそれぞれ炭素数1?5のアルキル基あるいはフェニル基を示し、X^(1)、X^(2)はそれぞれ炭素数1?4のアルキル基、炭素数1?4のアルコキシル基あるいはハロゲン原子を示す。〕で表わされる繰返し単位を有する、粘度が、25℃における濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液の還元粘度〔η_(sp)/c〕として0.3?1.0dl/gである重合体〔A〕1?99重量%および
一般式


〔式中、R^(3)、R^(4)はそれぞれ炭素数1?5のアルキル基あるいはフェニル基を示す。〕
で表わされる繰返し単位を有する、粘度が、25℃における濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液の還元粘度〔η_(sp)/c〕として0.3?1.0dl/gである重合体〔B〕99?1重量%を配合した光学機器用素材としての組成物。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)甲3の記載事項及び記載された発明

ア.甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(c-1)
「2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパンをカーボネート結合して得られる芳香族ポリカーボネート重合体(A)1?99重量%と2,2-ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンをカーボネート結合して得られる芳香族ポリカーボネート重合体(B)99?1重量%から成る相溶性に優れた樹脂組成物。


」(第1頁左下欄?右下欄「2.特許請求の範囲」の欄)

(c-2)
「(産業上の利用分野)
この発明は、分子構造の異なる特定のポリカーボネート重合体を混合してなる相溶性に優れた樹脂組成物に関するものであり、成形材料全般に使用される。」(第1頁右下欄第1行?第5行)

(c-3)
「(従来技術と発明が解決しようとする問題点)
芳香族ポリカーボネート樹脂は、熱的性質・電気的性質・機械的性質特に耐衝撃強度が優れていることが知られているが、分子量が大きくなるにつれて溶融粘度が極めて大きくなり、成形温度・成形圧力等の成形条件を比較的大きくする必要があり、溶融成形加工性が劣るという欠点があるだけでなく、現在一般に広く用いられている芳香族ポリカーボネート樹脂は、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)のポリカーボネート樹脂であるが、このガラス転移温度は概ね粘度平均分子量Mvが16,000以上であれば145℃を下回ることはないものの、粘度平均分子量Mvが大きくなっても150℃を超えることはなく、非晶性樹脂(透明樹脂)の中でガラス転移温度が低いという欠点がある。
・・(中略)・・
また、芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を高めるためにも様々な改良がなされてきた。例えば、ポリエーテルやポリエステルと混合することによりガラス転移温度を高めようとすることが、例えば特開昭52-51445に提案されている。しかしながら、このようにして得られる樹脂組成物は一般に不透明であるため、光学成形品等には不適当である。
一方、この不透明性を改良するため、ポリエーテルやポリエステルと共重合することによりガラス転移温度も高めようとすることが、例えば特開昭62-156126に提案されているが、煩雑な重合を行わなくてはならず、エネルギーコストが高いという欠点がある。
(問題点を解決するための手段)
我々は鋭意努力の結果、煩雑な重合を行わず、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパンをカーボネート結合して得られる芳香族ポリカーボネート重合体と2,2-ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンをカーボネート結合して得られる芳香族ポリカーボネート重合体とを混合することによって相溶する芳香族ポリカーボネート重合体の組み合わせを見出し、溶融成形加工性を向上させ、相溶なるが故に溶融成形性が向上し、成形加工品の不均一性は改良され透明な樹脂組成物が得られることが明らかとなり、本発明に至ったものである。」(第1頁右下欄第6行?第2頁左下欄第2行)

(c-4)
「尚、本発明の芳香族ポリカーボネート重合体の粘度平均分子量は13,000?50,000が好ましい。13,000未満では樹脂組成物が脆くなり、50,000を越えると溶融流動性が悪くなり、成形性が劣る。
・・(中略)・・また、このようにして得られた樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で他の添加剤、染料、顔料、ガラス繊維、カーボンブラック、カーボン繊維、帯電防止剤、耐候安定剤、炭酸カルシウム等の無機物を添加してもよい。」(第2頁左下欄下から第2行?第3頁左上欄第4行)

(c-5)
「(実施例)
実施例1
2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパンからなる芳香族ポリカーボネート(A)200重量部(20重量%)と2,2-ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン800重量部(80重量%)をヘンシェルミキサーでよく混合し、15mmφ押出機(設定温度250℃)に供給し、混練しながら滞留時間2.5分の条件で押出した。得られた芳香族ポリカーボネート重合体樹脂は無色透明で、DSC(ディファレンシャル・スキャニング・カロリメーター)からガラス転移温度はTg=128℃であった。
また、^(13)C-NMR(カーボン13-エヌ・エム・アール)のスペクトルから各々の組成比を求めると、(A):(B)=1:4であった。
測定に使用したDSCはPerkin-Elmer2C型、^(13)C-NMRは日本電子JNM-G×270型を用いた。
実施例2
実施例1で示した(A)、(B)を各々20重量部(20重量%)、80重量部(80重量%)をガラス製コルベンに仕込み、200m1の塩化メチレンを加え室温にて撹はんし、溶解させた後、メタノールに投じて白色粉末を得た。得られた樹脂のガラス転移温度並びに各々の組成比は実施例1と同じであった。この白色粉末をホットプレス急冷法にて50mm×50mm×1mmのシートを成形すると無色透明のシートが得られた。
実施例3
実施例1と同様な方法で(A)500重量部(50重量%)と(B)500重量部(50重量%)の混合物を押出した。得られた芳香族ポリカーボネート重合体樹脂は無色透明で、ガラス転移温度はTg=132℃であった。また、各々の組成比は(A):(B)=1:1であった。
実施例4
実施例2と同様な方法で(A)50重量部(50重量%)と(B)50重量部(50重量%)を塩化メチレンに溶解させ、メタノールに投じて白色粉末を得た。得られた樹脂のガラス転移温度と組成比は実施例3と同じであった。また、プレスシートは無色透明であった。
実施例5
実施例1と同様な方法で(A)800重量部(80重量%)と(B)200重量部(20重量%)の混合物を押出した。得られた芳香族ポリカーボネート重合体樹脂は無色透明で、ガラス転移温度はTg=140℃であった。また、各々の組成比は(A):(B)=4:1であった。
実施例6
実施例2と同様な方法で(A)80重量部(80重量%)と(B)20重量部(20重量%)を塩化メチレンに溶解させ、メタノールに投じて白色粉末を得た。得られた樹脂のガラス転移温度と組成比は実施例5と同じであった。また、プレスシートは無色透明であった。」(第3頁左上欄第8行?右下欄第4行)

(c-6)
「(発明の効果)
実施例1?6で得られた相溶性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて溶融成形して得られる成形品は、ガラス転移温度は1つであり、分子配向の不均一性は見られず、透明であった。従って、透明性の要求されるエンジニアリングプラスチック、建築材料、自動車部品、光学材料、光学式ディスク、電気部品等の成形加工分野に有用である。」(第3頁右下欄末行?第4頁左上欄第8行)

イ.甲3に記載された発明
上記甲3には、上記(c-1)ないし(c-6)の各記載(特に(c-1)及び(c-4)の各記載参照)からみて、
「2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパンをカーボネート結合して得られる粘度平均分子量13,000?50,000の芳香族ポリカーボネート重合体(A)1?99重量%と2,2-ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンをカーボネート結合して得られる粘度平均分子量13,000?50,000の芳香族ポリカーボネート重合体(B)99?1重量%から成る相溶性に優れた樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

(4)甲4に記載された事項
甲4には以下の事項が記載されている。

(d-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に少なくとも下記一般式(1)で表される繰返し単位を有し、且つ、下記(a)?(c)を満たすことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【化1】


(一般式(1)中、R_(1)及びR_(2)は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数20のアルキル基、又は、置換若しくは無置換のアリール基を示し、R_(3)及びR_(4)は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数20のアルキル基、又は、置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は、酸素原子を示す。)
(a)ISO15184による鉛筆硬度が、HB以上である。
(b)ISO1133に準拠し、300℃、1.2kg荷重におけるメルトボリュームフローレイト(MVR)が1cm^(3)/10分?15cm^(3)/10分の範囲である。
(c)ISO1133に準拠し、280℃、21.6kg荷重におけるメルトボリュームフローレイト(MVR(280℃、21.6kg荷重))と、280℃、2.16kg荷重におけるメルトボリュームフローレイト(MVR(280℃、2.16kg荷重))とを用い、下記式より求まるフローレイト比(MVR-R)が、18?45の範囲である。 フローレイト比(MVR-R)=MVR(280℃、21.6kg荷重)/MVR(280℃、2.16kg荷重)
【請求項2】
前記一般式(1)のXの置換若しくは無置換のアルキリデン基が、
【化2】


であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
(R_(5)及びR_(6)は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数20のアルキル基、又は、置換若しくは無置換のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素数4?炭素数20のアルキレン基を示す。)
・・(中略)・・
【請求項5】
前記一般式(1)で表される繰返し単位を50重量%以上含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
前記一般式(1)におけるR_(3)及びR_(4)が水素原子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項7】
ジヒドロキシ化合物とカルボニル化合物との重縮合により得られ、当該ジヒドロキシ化合物が下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【化3】


(一般式(2)中のR_(1)、R_(2)、Xは前記一般式(1)と同義である。)
・・(後略)」

(d-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性、成形性、透明性等に優れ、各種機械部品、光学用ディスク、自動車部品等の用途に広く用いられている。例えば、特許文献1には、2,2-ビス-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン等の芳香環にアルキル置換基を導入した芳香族ビスフェノールとジフェニルカーボネートとを重合して得られた芳香族ポリカーボネート樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭64-069625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ポリカーボネート樹脂は、成形性等は優れるものの、表面硬度が低く、成型品とした際に表面に傷が付きやすいという欠点を有している。例えば、前述した特許文献1の記載された芳香族ポリカーボネート樹脂は、表面硬度が改良されるが、成形性や色調が不十分である。
本発明の目的は、表面硬度が高く、且つ、成形性、色調に優れたポリカーボネート樹脂とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は鋭意検討の結果、例えば、原料として特定のジヒドロキシ化合物を選択し、特定の不純物量を低減し、重縮合条件を適正化すると、得られたポリカーボネート樹脂の成形性、表面硬度あるいは色調が改良されることを見いだし、かかる知見に基づき本発明を完成した。」

(d-3)
「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成型性に優れ、表面硬度が高く、色調に優れたポリカーボネート樹脂が得られる。
また、本発明により得られるポリカーボネート樹脂は、高い難燃性も示す。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、透明で、傷つきにくく、且つ高い難燃性を示す成型品が得られる。」

(d-4)
「【0034】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
本実施の形態において使用する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(2)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。本実施の形態においては、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物は、全芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上使用される。一般式(2)の割合が過度に低い場合には、表面硬度が低くなるため好ましくない。
【0035】
【化7】


【0036】
ここで、一般式(2)におけるR_(1)、R_(2)、Xは、前記一般式(1)と同義である。
【0037】
一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、・・(中略)・・等が挙げられる。
これらの中でも、・・(中略)・・2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンが特に好ましい。一般式(2)で表されるこれらのジヒドロキシ化合物は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。上記一般式(2)において、R_(1)、R_(2)、Xの好ましい構造及びフェニル環上のXに対するR_(1)、R_(2)の好ましい結合位置は、一般式(1)におけると同様である。これらのR_(1)、R_(2)、Xの構造や結合位置は一般式(1)と同じであることが好ましい。」

(d-5)
「【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例で使用したポリカーボネート樹脂の物性は、下記の方法により評価した。
【0068】
(1)粘度平均分子量(Mv)
ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液(濃度(C)0.6g/dl)を調製し、ウベローデ粘度計を用いて、この溶液の温度20℃における比粘度(η_(sp))を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
η_(sp)/C=[η](1+0.28η_(sp))
[η]=1.23×10^(-4)Mv^(0.83)
・・(中略)・・
【0070】
(3)鉛筆硬度
射出成型機(株式会社日本製鋼所製J100SS-2)を用い、バレル温度280℃、金型温度90℃の条件で、厚み3mm、縦100mm、横100mmのプレートを射出成形した。この射出成形プレートについて、ISO15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
・・(中略)・・
【0073】
(6)引張弾性率
ISO527-2/1A/1に準拠して調製したポリカーボネート樹脂の試験片について、23℃、引張速度1mm/分の条件で行った引張試験の結果に基づき、ポリカーボネート樹脂の引張弾性率を測定した(単位:MPa)。
・・(中略)・・
【0078】
(実施例1)
BPC(市販BPC)6,700g及びジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と記す。)5,765gに、炭酸セシウムの水溶液を、BPC1mol当たり1.5μmolとなるように添加して混合物を調製した。次に、この混合物を、内温が80℃以下、内容量40Lであり、撹拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ、還流冷却器を具備した第1反応器に投入した。
【0079】
次に、第1反応器内を10torrにし、続いて、窒素で大気圧とする操作を5回繰り返し、第1反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、熱媒ジャケットに温度230℃の熱媒を通じて第1反応器の内温を徐々に昇温させ、内容物を溶解させた。その後、300rpmで撹拌し、熱媒ジャケット内の温度をコントロールして、第1反応器の内温を220℃に保った。そして、第1反応器の内部で行われるBPCとDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて第1反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100torr)まで減圧した。
【0080】
続いて、第1反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、オリゴマー化反応を行った。オリゴマー化反応終了後、系内を窒素で絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、予め200℃以上に加熱した移送配管を用いて、オリゴマー化反応により得られたオリゴマーを、内温240℃に制御した内容量40Lの撹拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ並びに還流冷却器を具備した第2反応器(内圧:大気圧)に圧送した。
【0081】
次に、第2反応器内に圧送したオリゴマーを38rpmで撹拌し、熱媒ジャケットにて内温を昇温し、第2反応器内を40分かけて絶対圧で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。その後、昇温を継続し、さらに40分かけて、内圧を絶対圧で13.3kPaから399Pa(3Torr)まで減圧し、溜出するフェノールを系外に除去した。さらに昇温、減圧を続け、第2反応器内の絶対圧が70Pa(約0.5torr)に到達後、70Paを保持し、重縮合反応を行った。第2反応器内の最終的な内部温度は285℃であった。
【0082】
本実施の形態では、第2反応器が備えた撹拌機の撹拌動力を、ポリカーボネート樹脂の分子量の指標としている。第2反応器の撹拌機が、予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。次いで、第2反応器内を、窒素により絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、第2反応器の槽底からポリカーボネート樹脂をストランド状で抜き出し、水槽にて冷却しながら、回転式カッターを使用してペレット化した。
【0083】
続いて、ペレット状にカットしたポリカーボネート樹脂に対し、p-トルエンスルホン酸ブチルを15ppm添加し、二軸押出機にて溶融、混錬し、二軸押出機の出口より、溶融状態のポリカーボネート樹脂をストランド状にて押出、水槽にて冷却しながら、回転式カッターにてペレット化した。
【0084】
得られたBPCホモポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)、末端水酸基濃度([OH])、鉛筆硬度、メルトボリュームフローレイト(MVR)、フローレイト比(MVR-R)、引張弾性率、APHAカラーの測定結果を表1に示す。
・・(中略)・・
【0093】
(実施例10)
ジヒドロキシ化合物として、ビスフェノールA(BPA)3350gとBPC3350gを用いた以外は、実施例1と同様な条件でポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の共重合組成は1H-NMR測定によりビスフェノールA(BPA):BPC=50:50(重量比)であり、粘度平均分子量(Mv)、末端水酸基濃度ぱ[OH])、鉛筆硬度、メルトボリュームフローレイト(MVR)、フローレイト比(MVR-R)、引張弾性率、APHAカラーの測定結果を表1に示す。
・・(中略)・・
【0096】
【表1】


【0097】
【表2】


【0098】
表1に示す結果から、本願実施例のようにエステル交換法にて、芳香族ジヒドロキシ化合物として、芳香環にアルキル基が置換されている化合物を用いて重合し、得られるポリカーボネート樹脂のMVR、MVR-Rを制御することにより(実施例1?12)、適度な流動性と溶融張力を有し、且つ高い表面硬度を有するポリカーボネート樹脂を得ることが可能となる。このような物性を有するポリカーボネート樹脂は、接炎時の樹脂のタレ落ちを防止する効果を発現し、結果として樹脂の難燃性が向上する。
また、ジヒドロキシ化合物中に含まれる一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物の量が原料BPCの量に対して5ppm以下であり、且つ、塩化物イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオンの総量が10ppm以下である芳香族ジヒドロキシ化合物を原料とすると(精製BPC使用:実施例4,5及び6)、市販BPCを原料とする場合と比較して、得られたポリカーボネート樹脂の色調が改善される傾向がある。
【0099】
(比較例1,比較例2)
原料にBPC、触媒としてトリエチルアミン、分子量調整剤としてp-tert-ブチルフェノールを用い、常法によりホスゲンを用いて界面重縮合を行い、p-tert-ブチルフェノールの量を調整することにより、分子量の異なる2種類のポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性を表3に示す。
【0100】
(比較例3)
ビスフェノールAを原料として用いて得られたポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ノバレックスM7022IR)について物性測定を行った。結果を表3に示す。
【0101】
(比較例4)
ビスフェノールAを原料として用いて得られたポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ノバレックスM7027BF)について物性測定を行った。結果を表3に示す。
・・(中略)・・
【0108】
【表3】


【0109】
表3に示す結果から、界面法にて得られるポリカーボネート樹脂(比較例1,2)は、鉛筆硬度はH以上であるが、MVRが1cm^(3)/10分未満であり、MVR-Rが18未満であり、難燃性向上の効果が期待できないことが分かる。
ビスフェノールAを原料として用いて得られたポリカーボネート樹脂(比較例3,4)は、鉛筆硬度はHB未満であることが分かる。
特開昭64-069625号公報に記載された方法に従い得られた、ポリカーボネート樹脂(比較例5)は、鉛筆硬度はH以上であるが、MVRが15cm^(3)/10分を超え、MVR-Rが18未満であることが分かる。」

(5)甲5に記載された事項
甲5には、以下の事項が記載されている。

(e-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶融法で得られるポリカーボネートであって、温度250℃、角速度10rad/sの条件で測定した損失角δ及び複素粘性率η* (Pa・s)が、下記関係式(1)を満たすことを特徴とするポリカーボネート。
【数1】
2500≦Tanδ/η^(*-0.87)≦6000 (1)
・・(中略)・・
【請求項3】 粘度平均分子量が12,000?30,000の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか一項に記載のポリカーボネートを含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】 安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤から選ばれた少なくとも1種の添加剤を含むことを特徴とする請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】 安定剤が、ヒンダードフェノール化合物及びリン化合物から選ばれた少なくとも1種の酸化防止剤であることを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】 紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]、[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルから選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】 離型剤が、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステルから選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】 着色剤が、アンスラキノン骨格を有する化合物であることを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】 添加剤を添加した時期が、(1)請求項1ないし3のいずれか一項に記載のポリカーボネートを製造する重合反応の途中、(2)該重合反応終了時又は(3)該重合に使用した触媒を触媒失活剤で失活後、ペレット化する前のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物。」(決定注:いわゆる丸数字は表現できないため括弧数字で表す。)

(e-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は、ポリカーボネートに関し、更に詳しくは、燃焼性及び耐加水分解性に優れたポリカーボネート並びに該ポリカーボネートを含む樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】 ポリカーボネートは、耐熱性、耐衝撃性、透明性等に優れた樹脂として、多くの分野で幅広く用いられている。また、ポリカーボネートは、公知の熱可塑性樹脂の中で、比較的燃焼性に優れているが、分子量が大きくなると、自己消火性でなくなることが当業者に広く知られている。・・(中略)・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】 以上のことから、ポリカーボネート自体が優れた難燃性を有するか、又はより少ない量の添加剤で難燃化できるポリカーボネートが望まれていた。本発明は、このような課題を解決できる、燃焼性に優れ、かつ耐加水分解性に優れたポリカーボネートを提供するものである。」

(e-3)
「【0007】
【発明の実施の形態】 以下、本発明について具体的に説明する。本発明に関わるポリカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とし、溶融法により製造されるものである。
【0008】芳香族ジヒドロキシ化合物: 本発明方法の原料の一つである芳香族ジヒドロキシ化合物は、下記式(1)で示される化合物である。
【0009】
【化1】


【0010】
(式(1)中、Aは、単結合、置換されていてもよい炭素数1?10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、-O-、-S-、-CO-若しくは-SO_(2)-で示される2価の基であり、X及びYは、ハロゲン原子又は炭素数1?6の炭化水素基であり、p及びqは、0又は1の整数である。なお、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。)
【0011】 代表的な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、・・(中略)・・等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」とも言い、「BPA」と略記することもある。)が好ましい。」

(e-4)
「【0028】・・(中略)・・本発明者らの知見によれば、界面法により製造されたポリカーボネートは、難燃剤や他の添加剤を用いて難燃化した場合に、添加量が多量に必要であったり、耐加水分解性や機械的性質や熱的性質の劣化が生じるという問題があった。このような界面法により製造されたポリカーボネートは、δ(Tanδ)の値を、分子量等の指標である複素粘性率(η^(*)(Pa・s))に対する、対数座標にプロットすると、Tanδ/η^(*-0.87)=約8000の直線上にほぼ並ぶことがわかった。(ここで、η^(*) の指数である-0.87は、上記直線の傾きを表し、Tanδ/η^(*-0.87)は、上記直線をη^(*)=1(Pa・s)に外挿したときのTanδの値を表す。すなわち、Tanδ/η^(*-0.87)の値をパラメータに用いることで損失角の分子量(粘度)依存性を排除することが可能となる。)一方、溶融法により製造されたポリカーボネートは一般にこの直線上には乗らず、しかも、Tanδ/η^(*-0.87)<2500の溶融法ポリカーボネートは、難燃性と耐加水分解性に劣ることがわかった。一方、以下に詳述する方法で得られたポリカーボネートは、分子量が大きい範囲でも難燃性と耐加水分解性等が優れており、本発明で規定する2500≦Tanδ/η^(*-0.87)≦6000の範囲であることを見出した。・・(中略)・・なお、本発明においては、ポリカーボネートに各種安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等を添加することもでき、ポリカーボネートの製造途中、又はペレット製造の前にこれらの添加剤を添加する場合もあり、一般にそれらの添加剤を含んだものを「ポリカーボネート」と称する場合があるが、本発明で規定する上記関係式の値は、これらの添加剤を全く含まないポリカーボネートについて求められるものである。また、ポリカーボネートは分子量が低い場合はそれ自体が燃焼性に優れているが、分子量が大きい、特には粘度平均分子量が12,000?30,000の範囲のポリカーボネートの場合に本発明が有効である。」

(e-5)
「【0043】ポリカーボネート樹脂組成物:本発明のポリカーボネートは、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤から選ばれた少なくとも1種の添加剤を配合してポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。そのような添加剤としては、特に制限は無く、通常ポリカーボネートに使用されているものが使用できる。
【0044】安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール化合物、リン化合物、イオウ化合物、エポキシ化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。これらの中で、ヒンダードフェノール化合物及びリン化合物から選ばれた少なくとも1種の酸化防止剤が好ましく用いられる。
・・(中略)・・
【0051】安定剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対して1重量部以下であり、好ましくは0.4重量部以下である。1重量部を超えると耐加水分解性が悪化する等の問題がある。また、安定剤を併用して使用する場合の配合比率は任意に決定することができ、また、いずれを使用するか、又は併用するかは、ポリカーボネートの用途等によって適宜決定される。例えば、リン化合物は、一般にポリカーボネートを成形する際の高温下における滞留安定性、及び成形品の使用時の耐熱安定性に効果が高く、フェノール化合物は、一般に耐熱老化性等のポリカーボネートを成形品とした後の使用時の耐熱安定性に効果が高い。また、リン化合物とフェノール化合物を併用することによって、着色性の改良効果が高まる。
【0052】紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物等の有機紫外線吸収剤が挙げられる。本発明では、これらのうち有機紫外線吸収剤が好ましく、特にベンゾトリアゾール化合物・・(中略)・・から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
・・(中略)・・
【0059】紫外線吸収剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対して5重量部以下であり、好ましくは1重量部以下である。5重量部を超えると射出成形時の金型汚染等の問題がある。該紫外線吸収剤は1種でも使用可能であるが、複数併用して使用することもできる。
【0060】離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、数平均分子量200?15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルから選ばれた少なくとも1種の化合物である。これらの中で、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステルから選ばれた少なくとも1種が好ましく用いられる。
・・(中略)・・
【0063】該離型剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対して5重量部以下であり、好ましくは1重量部以下である。5重量部を超えると耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等の問題がある。該離型剤は1種でも使用可能であるが、複数併用して使用することもできる。」

2.対比・検討

(1)本件発明1について

ア.甲1発明に基づく対比・検討

(ア)対比
本件発明1と上記甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明とは、
「一般式(1)の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)及び一般式(2)の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(B)を含有するポリカーボネート樹脂組成物。」(各一般式は省略)
の点で一致し、下記の4点で相違するものといえる。

相違点1:本件発明1では「粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)」及び「粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)」であるのに対して、甲1発明では「粘度平均分子量10,000?60,000のポリカーボネート樹脂(a)」及び「粘度平均分子量10,000?80,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(b)」である点
相違点2:本件発明1では「(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有」するのに対して、甲1発明では「(a)と(b)との割合が重量比で30/70?60/40あるいは70/30?85/15である」点
相違点3:本件発明1では、「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上、JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上である」であるのに対して、甲1発明では、上記「デュポン衝撃強度」及び「鉛筆硬度」につき特定されていない点
相違点4:本件発明1では、他の樹脂成分の使用につき特定されていないのに対して、甲1発明では、「(2)α,β-不飽和ジカルボン酸無水物或いはその誘導体を共重合成分とするスチレン系樹脂」を必須に含有する点

(イ)各相違点についての検討

(イ-1)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲1発明における「粘度平均分子量10,000?60,000のポリカーボネート樹脂(a)」及び「粘度平均分子量10,000?80,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(b)」なる各範囲は、本件発明1における「粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)」及び「粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)」なる各範囲との間で、「粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)」及び「粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)」の各点で重複するものと認められる。
したがって、相違点1については、実質的な相違点ではないか、又は、少なくとも、当業者が、甲1発明に基づき、容易になし得ることとはいえる。

(イ-2)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、甲1発明における「(a)と(b)との割合が重量比で30/70?60/40あるいは70/30?85/15である」ことと、本件発明1における「(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有」することとの間で、「(A)/(B)の質量比で80/20?70/30あるいは60/40?30/70の割合で含有」する点で、重複するものと認められる。
したがって、上記相違点2についても、実質的な相違点ではないか、又は、少なくとも、当業者が、甲1発明に基づき、容易になし得ることとはいえる。

(イ-3)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、甲1には、甲1発明に係るポリカーボネート樹脂組成物につき、当該組成物からなる成形物が「ポリカーボネート自体が持つ優れた透明性、耐熱性、耐衝撃性、低吸湿性を犠牲にする事」がないことが記載されているものの(摘示(a-2)【0007】参照)、「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上」であること及び「JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上である」ことが同時に達成できることにつき開示されていない。
また、上記甲4にも記載されている(摘示(d-1)ないし(d-5)参照)とおり、いわゆる「ビスフェノールC」なる芳香族ジヒドロキシ化合物に基づく構成単位を有するポリカーボネート樹脂が、表面(鉛筆)硬度HB以上の成形物を与えることは、少なくとも当業者に公知の技術であると認められるが、当該公知技術に基づいて、いわゆる「ビスフェノールA」に基づく構成単位を有するポリカーボネート樹脂(b)といわゆる「ビスフェノールC」に基づく構成単位を有するポリカーボネート樹脂(a)とを併用する甲1発明の樹脂組成物につき、「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上」であること及び「JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上である」ことが同時に達成できることにつき、当業者が予期し得るとまで認めることができない。
してみると、上記相違点3については、甲1発明及び当業者に公知の技術(甲4に記載された知見)に基づいて、当業者が容易に想到し得ることということができない。

(イ-4)相違点4について
上記相違点4につき検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1において、必要に応じて添加使用される「その他の添加剤」として、「熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー」を例示されている(【0065】)ところ、甲1発明の「α,β-不飽和ジカルボン酸無水物或いはその誘導体を共重合成分とするスチレン系樹脂」は、熱可塑性樹脂の一種であることが当業者に自明であるから、本件発明1には、「α,β-不飽和ジカルボン酸無水物或いはその誘導体を共重合成分とするスチレン系樹脂」を熱可塑性樹脂として必要に応じて添加使用してなる態様を包含するものと理解するのが自然である。
したがって、上記相違点4についても、実質的な相違点ではないか、又は、少なくとも、当業者が、甲1発明に基づき、容易になし得ることとはいえる。

(ウ)本件発明の効果について
本件発明の効果につき検討すると、本件発明の所期の効果は、本件特許明細書の記載(【0006】など参照)からみて、「成形物が高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性全てを併せ有するポリカーボネート樹脂組成物」の提供にあるものと認められる。
そこで、本件特許明細書の実施例(比較例)の記載(【0071】?【0095】参照)を更に検討すると、本件発明1に係るポリカーボネート樹脂(A)と(B)との組成比範囲(80/20?20/80)のもの(「実施例1」ないし「実施例5」参照)であれば、「デュポン衝撃強度」が32J以上であること、「鉛筆硬度」がF以上であること及び「ヘイズ」が1%以下であることという高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性をいずれも達成するものと認められるのに対して、当該組成比範囲外のもの(「比較例1」ないし「比較例3」、「比較例5」及び「比較例6」参照)であれば、「デュポン衝撃強度」又は「鉛筆硬度」のいずれかの点で劣り、上記本件発明の所期の効果を達成できないものと認められる。
また、本願の審査過程における平成27年7月6日付け意見書において提示された追試結果につき参酌すると、本件発明に係る実施例2の結果とポリカーボネート樹脂(A)又は(B)の粘度平均分子量に係る範囲外のものを使用した場合(追試1ないし4)の各結果との対比からみて、粘度平均分子量が本件発明で規定されている範囲より低いポリカーボネート樹脂(A)又は(B)を使用した場合(追試1及び2)につき、デュポン衝撃強度が大きく低下するとともに、粘度平均分子量が本件発明で規定されている範囲より高いポリカーボネート樹脂(A)又は(B)を使用した場合(追試3及び4)につき、実質的に成形が困難となるものと認められるから、上記本件発明の所期の効果を達成できないものと認められる。
そして、上記(イ-3)でも説示したとおり、甲1発明において、当業者に公知の技術(甲4に記載された知見)を組み合わせることにより、上記本件発明の所期の効果を達成できると当業者が予期し得るものとも認められない。
してみると、本件発明に係る上記所期の効果は、特定の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂(A)と特定の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂(B)とを、特定の組成比で使用して組成物とすることにより、「成形物が高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性全てを併せ有する」ことという顕著な効果を奏しているものと認められるから、当該効果は、甲1発明の効果又は甲1発明に当業者の公知技術(甲4に記載された知見)を組み合わせた効果から、当業者が予期することができない顕著なものということができる。

(エ)小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明ということはできず、また、甲1発明及び上記当業者に知られた技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。

イ.甲2発明に基づく対比・検討

(ア)対比
本件発明1と上記甲2発明とを対比すると、本件発明1と甲2発明とは、
「一般式(1)の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)及び一般式(2)の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(B)を含有するポリカーボネート樹脂組成物。」(各一般式は省略)
の点で一致し、下記の3点で相違するものといえる。

相違点1’:本件発明1では「粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)」及び「粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)」であるのに対して、甲2発明では「粘度が、25℃における濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液の還元粘度〔η_(sp)/c〕として0.3?1.0dl/gである重合体〔A〕」及び「粘度が、25℃における濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液の還元粘度〔η_(sp)/c〕として0.3?1.0dl/gである重合体〔B〕」である点
相違点2’:本件発明1では「(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有」するのに対して、甲2発明では「重合体〔A〕1?99重量%および」「重合体〔B〕99?1重量%」点
相違点3’:本件発明1では、「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上、JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上である」であるのに対して、甲2発明では、上記「デュポン衝撃強度」及び「鉛筆硬度」につき特定されていない点

(イ)各相違点についての検討

(イ-1)相違点1’について
上記相違点1’につき検討すると、甲2発明における「粘度が、25℃における濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液の還元粘度〔η_(sp)/c〕として0.3?1.0dl/gである重合体〔A〕」及び「粘度が、25℃における濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液の還元粘度〔η_(sp)/c〕として0.3?1.0dl/gである重合体〔B〕」は、申立人が申立書第23頁最下行?第25頁表下第3行で主張する換算のとおりであるとすると、「粘度平均分子量11,800?43,800の重合体〔A〕」及び「粘度平均分子量11,800?43,800の重合体〔B〕」に相当するものと認められるところ、当該各範囲は、本件発明1における「粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)」及び「粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)」なる各範囲との間で、「粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)」及び「粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)」の各点で重複するものと認められる。
したがって、相違点1’については、実質的な相違点ではないか、又は、少なくとも、当業者が、甲2発明に基づき、容易になし得ることとはいえる。

(イ-2)相違点2’について
上記相違点2’につき検討すると、甲2発明における「重合体〔A〕1?99重量%および」「重合体〔B〕99?1重量%」であることと、本件発明1における「(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有」することとの間で、「(A)/(B)の質量比で80/20?70/30あるいは60/40?30/70の割合で含有」する点で、重複するものと認められる。
したがって、上記相違点2’についても、実質的な相違点ではないか、又は、少なくとも、当業者が、甲2発明に基づき、容易になし得ることとはいえる。

(イ-3)相違点3’について
上記相違点3’につき検討すると、甲2には、甲2発明に係るポリカーボネート樹脂組成物につき、当該組成物からなる光学機器用素材により「耐熱性、機械的強度などポリカーボネート樹脂の有する優れた特性を維持するとともに、特にポリカーボネート樹脂の欠点である流動性、光弾性係数などを改善する」ことが記載されているものの(摘示(b-3)参照)、「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上」であること及び「JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上である」ことが同時に達成できることにつき開示されていない。
また、上記甲4にも記載されている(摘示(d-1)ないし(d-5)参照)とおり、いわゆる「ビスフェノールC」なる芳香族ジヒドロキシ化合物に基づく構成単位を有するポリカーボネート樹脂が、表面(鉛筆)硬度HB以上の成形物を与えることは、少なくとも当業者に公知の技術であると認められるが、当該公知技術に基づいて、いわゆる「ビスフェノールA」に基づく構成単位を有する重合体〔B〕といわゆる「ビスフェノールC」に基づく構成単位を有する重合体〔A〕とを併用する甲2発明の樹脂組成物につき、「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上」であること及び「JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上である」ことが同時に達成できることにつき、当業者が予期し得るとまで認めることができない。
してみると、上記相違点3’については、甲2発明及び当業者に公知の技術(甲4に記載された知見)に基づいて、当業者が容易に想到し得ることということができない。

(ウ)本件発明の効果について
本件発明の効果につき検討すると、本件発明の所期の効果は、本件特許明細書の記載(【0006】など参照)からみて、「成形物が高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性全てを併せ有するポリカーボネート樹脂組成物」の提供にあるものと認められる。
そこで、本件特許明細書の実施例(比較例)の記載(【0071】?【0095】参照)を更に検討すると、本件発明1に係るポリカーボネート樹脂(A)と(B)との組成比範囲(80/20?20/80)のもの(「実施例1」ないし「実施例5」参照)であれば、「デュポン衝撃強度」が32J以上であること、「鉛筆硬度」がF以上であること及び「ヘイズ」が1%以下であることという高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性をいずれも達成するものと認められるのに対して、当該組成比範囲外のもの(「比較例1」ないし「比較例3」、「比較例5」及び「比較例6」参照)であれば、「デュポン衝撃強度」又は「鉛筆硬度」のいずれかの点で劣り、上記本件発明の所期の効果を達成できないものと認められる。
また、本願の審査過程における平成27年7月6日付け意見書において提示された追試結果につき参酌すると、本件発明に係る実施例2の結果とポリカーボネート樹脂(A)又は(B)の粘度平均分子量に係る範囲外のものを使用した場合(追試1ないし4)の各結果との対比からみて、粘度平均分子量が本件発明で規定されている範囲より低いポリカーボネート樹脂(A)又は(B)を使用した場合(追試1及び2)につき、デュポン衝撃強度が大きく低下するとともに、粘度平均分子量が本件発明で規定されている範囲より高いポリカーボネート樹脂(A)又は(B)を使用した場合(追試3及び4)につき、実質的に成形が困難となるものと認められるから、上記本件発明の所期の効果を達成できないものと認められる。
そして、上記(イ-3)でも説示したとおり、甲2発明において、当業者に公知の技術(甲4に記載された知見)を組み合わせることにより、上記本件発明の所期の効果を達成できると当業者が予期し得るものとも認められない。
してみると、本件発明に係る上記所期の効果は、特定の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂(A)と特定の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂(B)とを、特定の組成比で使用して組成物とすることにより、「成形物が高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性全てを併せ有する」ことという顕著な効果を奏しているものと認められるから、当該効果は、甲2発明の効果又は甲2発明に当業者の公知技術(甲4に記載された知見)を組み合わせた場合の効果から、当業者が予期することができない顕著なものということができる。

(エ)小括
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明ということはできず、また、甲2発明及び上記当業者に知られた技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。

ウ.甲3発明に基づく対比・検討

(ア)対比
本件発明1と上記甲3発明とを対比すると、本件発明1と甲3発明とは、
「一般式(1)の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)及び一般式(2)の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(B)を含有するポリカーボネート樹脂組成物。」(各一般式は省略)
の点で一致し、下記の3点で相違するものといえる。

相違点1’’:本件発明1では「粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)」及び「粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)」であるのに対して、甲3発明では「粘度平均分子量13,000?50,000の芳香族ポリカーボネート重合体(B)」及び「粘度平均分子量13,000?50,000の芳香族ポリカーボネート重合体(A)」である点
相違点2’’:本件発明1では「(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有」するのに対して、甲3発明では「芳香族ポリカーボネート重合体(A)1?99重量%と」「芳香族ポリカーボネート重合体(B)99?1重量%から成る」点
相違点3’’:本件発明1では、「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上、JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上である」であるのに対して、甲3発明では、上記「デュポン衝撃強度」及び「鉛筆硬度」につき特定されていない点

(イ)各相違点についての検討

(イ-1)相違点1’’について
上記相違点1’’につき検討すると、甲3発明における「粘度平均分子量13,000?50,000の芳香族ポリカーボネート重合体(B)」及び「粘度平均分子量13,000?50,000の芳香族ポリカーボネート重合体(A)」は、本件発明1における「粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)」及び「粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)」なる各範囲との間で、「粘度平均分子量(Mv)が20,000?32,500のポリカーボネート樹脂(A)」及び「粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)」の各点で重複するものと認められる。
したがって、相違点1’’については、実質的な相違点ではないか、又は、少なくとも、当業者が、甲3発明に基づき、容易になし得ることとはいえる。

(イ-2)相違点2’’について
上記相違点2’’につき検討すると、甲3発明における「芳香族ポリカーボネート重合体(A)1?99重量%と」「芳香族ポリカーボネート重合体(B)99?1重量%から成る」ことと、本件発明1における「(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有」することとの間で、「(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有」する点で、重複するものと認められる。
したがって、上記相違点2’’についても、実質的な相違点ではないか、又は、少なくとも、当業者が、甲3発明に基づき、容易になし得ることとはいえる。

(イ-3)相違点3’’について
上記相違点3’’につき検討すると、甲3には、従来から「芳香族ポリカーボネート樹脂は、熱的性質・電気的性質・機械的性質特に耐衝撃強度が優れていることが知られて」おり、甲3発明に係るポリカーボネート樹脂組成物につき、「相溶する芳香族ポリカーボネート重合体の組み合わせを見出し、溶融成形加工性を向上させ、相溶なるが故に溶融成形性が向上し、成形加工品の不均一性は改良され透明な樹脂組成物が得られる」ことが記載されているものの(摘示(c-3)参照)、「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上」であること及び「JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上である」ことが同時に達成できることにつき開示されていない。
また、上記甲4にも記載されている(摘示(d-1)ないし(d-5)参照)とおり、いわゆる「ビスフェノールC」なる芳香族ジヒドロキシ化合物に基づく構成単位を有するポリカーボネート樹脂が、表面(鉛筆)硬度HB以上の成形物を与えることは、少なくとも当業者に公知の技術であると認められるが、当該公知技術に基づいて、いわゆる「ビスフェノールA」に基づく構成単位を有する芳香族ポリカーボネート重合体(A)といわゆる「ビスフェノールC」に基づく構成単位を有する芳香族ポリカーボネート重合体(B)とを併用する甲3発明の樹脂組成物につき、「ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上」であること及び「JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上である」ことが同時に達成できることにつき、当業者が予期し得るとまで認めることができない。
してみると、上記相違点3’’については、甲3発明及び当業者に公知の技術(甲4に記載された知見)に基づいて、当業者が容易に想到し得ることということができない。

(ウ)本件発明の効果について
本件発明の効果につき検討すると、本件発明の所期の効果は、本件特許明細書の記載(【0006】など参照)からみて、「成形物が高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性全てを併せ有するポリカーボネート樹脂組成物」の提供にあるものと認められる。
そこで、本件特許明細書の実施例(比較例)の記載(【0071】?【0095】参照)を更に検討すると、本件発明1に係るポリカーボネート樹脂(A)と(B)との組成比範囲(80/20?20/80)のもの(「実施例1」ないし「実施例5」参照)であれば、「デュポン衝撃強度」が32J以上であること、「鉛筆硬度」がF以上であること及び「ヘイズ」が1%以下であることという高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性をいずれも達成するものと認められるのに対して、当該組成比範囲外のもの(「比較例1」ないし「比較例3」、「比較例5」及び「比較例6」参照)であれば、「デュポン衝撃強度」又は「鉛筆硬度」のいずれかの点で劣り、上記本件発明の所期の効果を達成できないものと認められる。
また、本願の審査過程における平成27年7月6日付け意見書において提示された追試結果につき参酌すると、本件発明に係る実施例2の結果とポリカーボネート樹脂(A)又は(B)の粘度平均分子量に係る範囲外のものを使用した場合(追試1ないし4)の各結果との対比からみて、粘度平均分子量が本件発明で規定されている範囲より低いポリカーボネート樹脂(A)又は(B)を使用した場合(追試1及び2)につき、デュポン衝撃強度が大きく低下するとともに、粘度平均分子量が本件発明で規定されている範囲より高いポリカーボネート樹脂(A)又は(B)を使用した場合(追試3及び4)につき、実質的に成形が困難となるものと認められるから、上記本件発明の所期の効果を達成できないものと認められる。
そして、上記(イ-3)でも説示したとおり、甲3発明において、当業者に公知の技術(甲4に記載された知見)を組み合わせることにより、上記本件発明の所期の効果を達成できると当業者が予期し得るものとも認められない。
してみると、本件発明に係る上記所期の効果は、特定の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂(A)と特定の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂(B)とを、特定の組成比で使用して組成物とすることにより、「成形物が高い表面硬度と高い耐衝撃性と高度の透明性全てを併せ有する」ことという顕著な効果を奏しているものと認められるから、当該効果は、甲3発明の効果又は甲3発明に当業者の公知技術(甲4に記載された知見)を組み合わせた場合の効果から、当業者が予期することができない顕著なものということができる。

(エ)小括
したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明ということはできず、また、甲3発明及び上記当業者に知られた技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。

エ.甲5に記載された知見について
なお、甲5に記載されている(摘示(e-1)ないし(e-5)参照)とおり、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(いわゆるビスフェノールA)や2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(いわゆるビスフェノールC)などの芳香族ジヒドロキシ化合物から構成されるポリカーボネート樹脂に対して、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤から選ばれた少なくとも1種の添加剤を1重量%以下の量で配合してポリカーボネート樹脂組成物を構成することは、当業者に少なくとも公知の技術であるものとは認められる。
しかしながら、上記ア.ないしウ.における各検討において、上記甲5に係る公知技術を付加したとしても、上記各検討の結果を左右するものではないことが明らかである。

オ.本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明であるということができず、また、本件発明1は、甲1ないし甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(2)本件発明2ないし11について
本件発明2ないし11につき検討すると、本件発明2ないし11は、いずれも本件発明1を引用するものと認められる。
してみると、上記(1)で説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明であるとはいえないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2についても、同一の理由により、甲1、甲2又は甲3に記載された発明であるとはいえない。
また、上記(1)で説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1ないし甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2ないし11についても、同一の理由により、甲1ないし甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

3.取消理由1及び2に係るまとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、いずれも甲1、甲2又は甲3に記載された発明であるということができず、また、本件発明1ないし11は、甲1ないし甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
よって、本件請求項1ないし11に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立人が主張する取消理由1ないし4はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許は、いずれも取り消すことができない。
また、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許を取り消すべき他の理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-29 
出願番号 特願2011-202587(P2011-202587)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 橋本 栄和
守安 智
登録日 2015-09-04 
登録番号 特許第5802495号(P5802495)
権利者 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 三菱化学株式会社
発明の名称 ポリカーボネート樹脂組成物  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 平川 さやか  
代理人 小野 尚純  
代理人 平川 さやか  
代理人 奥貫 佐知子  

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