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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  B32B
審判 全部申し立て 特174条1項  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1319196
異議申立番号 異議2016-700331  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-20 
確定日 2016-09-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第5798921号発明「射出成形用加飾シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5798921号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5798921号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成22年8月19日に国際特許出願され(優先権主張平成21年8月21日、日本国)、平成27年8月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人澤山政子により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年6月14日付けで取消理由を通知し、平成28年8月9日付けで意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?8に係る発明は、以下のとおりである。

【請求項1】
ベースフィルム、加飾層および接着層を含み、ベースフィルムの少なくとも片面に加飾層が積層され、一方の最表面に接着層が積層された射出成形用加飾シートであって、
ベースフィルムが、下記式(1’)で表わされるカーボネート構成単位を15?80モル%、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来するカーボネート構成単位を85?20モル%含有するポリカーボネート樹脂を含む層(A層)並びに
(i)アクリル系樹脂を含む層、若しくは(ii)ポリカーボネート樹脂およびポリエステル系熱可塑性エラストマーからなる樹脂組成物を含む層(B層)を有し、A層の少なくとも一方の面にB層が積層された多層フィルムである、射出成形用加飾シート。
【化1】



【請求項2】
脂肪族ジヒドロキシ化合物が直鎖脂肪族ジオールである請求項1に記載の射出成形用加飾シート。
【請求項3】
脂肪族ジヒドロキシ化合物が脂環式ジオールである請求項1に記載の射出成形用加飾シート。
【請求項4】
他方の最表層にハードコート層が積層されてなる請求項1に記載の射出成形用加飾シート。
【請求項5】
ベースフィルムの全厚みが10μm?600μmの範囲にある請求項1に記載の射出成形用加飾シート。
【請求項6】
ベースフィルムが未延伸フィルムからなる請求項1に記載の射出成形用加飾シート。
【請求項7】
ベースフィルムのヘイズが0?10%である請求項1に記載の射出成形用加飾シート。
【請求項8】
ベースフィルムの全光線透過率が85?100%である請求項1に記載の射出成形用加飾シート。

3.取消理由の概要
当審において、請求項1ないし8に係る特許に対して通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

1)平成27年1月22日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2)本件特許の請求項1?8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3)本件特許の請求項1?8に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。


1.特開2009-102537号公報
2.特開2009-79190号公報
3.国際公開第2004/111106号
4.国際公開第2007/148604号
5.国際公開第2009/104399号
6.本間精一「プラスチックの二次加工技術」株式会社工業調査会、2007年8月15日発行、121?134ページ
7.特開2009-1703号公報
8.特願2010-29433号(特開2011-161871号公報)
9.特願2010-46630号(特開2011-201304号公報)

(優先権主張)
本件は、平成26年2月25日付け拒絶理由で指摘し、特許権者も平成26年4月15日付け意見書で認めるとおり、優先権主張の効果が認められない。
よって、新規性進歩性等の判断基準日は、平成22年8月19日である。

(17条の2)
カーボネート構成単位を「15?80モル%」とする、すなわち「80」を上限値とする補正は、当業者によって、願書に最初に添付した明細書の記載から導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものである。

(29条2項)
請求項1?8に係る発明は、主たる証拠である甲1又は甲7により、容易想到である。

(29条の2)
請求項1?8に係る発明は、主たる証拠である甲8又は甲9と、実質的に同一である。

4.甲各号証の記載
甲1号証には、以下が記載されている。

「【請求項1】
下記式(1)(当審注:本件特許の【化1】に同じ)で表されるカーボネート構成単位を含有するポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、酸化防止剤(B成分)0.001?1重量部を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物を射出成形することにより得られた最大投影面積が500?50,000cm^(2)を有する樹脂成形品。
・・・
【請求項3】
前記樹脂成形品は、シート形状でありその少なくとも1つの表面にハードコート処理がなされたものである請求項1または2記載の樹脂成形品。」

「【0001】
本発明は、特定のポリカーボネート樹脂組成物からなる樹脂成形品に関する。更に詳しくは、特定のポリカーボネート樹脂組成物を成形することにより得られた、耐熱性、熱安定性および機械特性に優れた大型樹脂成形品に関する。」

「【0015】
<A成分について>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、前記式(1)で表されるカーボネート構成単位を含有するポリカーボネート樹脂であり、全カーボネート構成単位中、前記式(1)で表わされる構成単位は60モル%以上が好ましく、・・・。」

「【0129】
有機樹脂系ハードコート剤としては、例えば、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、多官能アクリル樹脂などが挙げられる。」

「【0139】
本発明は、バイオマス資源を原料とし、改良された熱安定性を有するポリカーボネート樹脂組成物からの大型の射出成形品である。・・・。かかる成形品としては、例えば自動車外装部品、自動車内装部品、樹脂窓ガラスなどが例示される。」

甲7号証には、以下が記載されている。

「【請求項1】
下記式(1)(当審注:本件特許の【化1】に同じ)で表されるカーボネート構成単位からなり、250℃におけるキャピラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート600sec^(-1)の条件下で0.2×10^(3)?4.0×10^(3)Pa・sの範囲にあるポリカーボネート樹脂(A成分)を、シリンダー温度220?270℃の範囲で押出成形し、得られた押出成形品を熱成形して得られる熱成形品。」

「【0001】
本発明は、特定のポリカーボネート樹脂からなる熱成形品に関する。更に詳しくは、特定のポリカーボネート樹脂を特定の押出成形条件で成形して得られる押出成形品を熱成形することにより得られた、耐熱性、機械特性、耐環境特性に優れた熱成形品に関する。」

「【0079】
上述の如くして得られた本発明のシートを熱成形することによって、多様な形状を賦形することができ、種々の用途に役立てることができる。
上記の如くして得られたシートは、赤外線ヒーター、熱板ヒーターあるいは熱風等によって予熱されたのち、熱成形に供される。」

「【0082】
本発明の熱成形品は、耐熱性、耐加水分解性に優れているため、包装用として有用であり、・・・。しかし、本発明品は包装用のみでなく、電気機器、電子機器、OA機器、電動機械やその他各種機器の構成部品や部品の構成材としても用いられる。また各種テープの基材、或いは製品の基材として用いることができる。
【0083】
さらに本発明の熱成形品には、表面改質を施すことによりさらに他の機能を付与するとこが可能である。ここでいう表面改質とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着等)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキ等)、塗装、コーティング、印刷等の樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常の熱成形品に用いられる方法が適用できる。」

甲8号証には、アクリル系樹脂層と脂肪族ポリカーボネート層とを有し、熱成形用途に使用できる多層体が記載されている(請求項1、段落0048)。

甲9号証には、脂肪族ポリカーボネート樹脂層と芳香族ポリカーボネート樹脂層を積層し、インモールド成形体を得て、自動車内装材などに使用できる積層体が記載されている(請求項1、段落0086)。

5.判断
(1)優先権主張
本件は、取消理由で指摘し、特許権者も平成28年8月9日付け意見書の15ページ(7-1)で認めるとおり、優先権主張の効果が認められない。
よって、新規性進歩性等の判断基準日は、平成22年8月19日である。

(2)第17条の2第3項について
カーボネート構成単位「15?100モル%」を、「15?80モル%」とする補正に関し、「80モル%」であるものは、当初明細書に「実施例7、8」として記載されている。
すなわち、「実施例7、8」における「成形材料A」は、「実施例6(当審注:後に「参考例6」に補正)で得られたポリカーボネート樹脂」であり、式(1’)(当審注:本件特許の【化1】)で表されるカーボネート構成単位が「80モル%」である(表1)。
特許を受けようとする発明は、出願人の自由意思によるものであるところ、当初明細書の「実施例7、8」に記載されている「80モル%」を上限として補正することは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(3)第29条第2項について
ア.請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と甲1、7に記載された発明とを対比すると、当該甲1、7は「成形品」に関するものではあるが、いずれも、「ベースフィルム、加飾層および接着層を含み、ベースフィルムの少なくとも片面に加飾層が積層され、一方の最表面に接着層が積層された射出成形用加飾シート」ではなく、前提が異なる。
また、請求項1に係る発明は、「成形性、耐薬品性、耐変形性、耐歪み性、耐白化性に優れ」る「射出成形用加飾シート」(段落0001)であるが、甲1に記載された発明は「耐熱性、熱安定性および機械特性に優れた大型樹脂成形品」(段落0001)、甲7に記載された発明は「耐熱性、機械特性、耐環境特性に優れた熱成形品」(段落0001)であって、課題、技術思想が異なる。
したがって、「ベースフィルム、加飾層および接着層を含み、ベースフィルムの少なくとも片面に加飾層が積層され、一方の最表面に接着層が積層された射出成形用加飾シート」そのものが周知であったとしても、甲1、7に記載された発明は、請求項1に係る発明と、課題、技術思想が異なり、かかる周知技術を適用する動機もないことから、請求項1に係る発明を、容易に発明をすることができたとすることはできない。

イ.請求項2?8に係る発明について
請求項2?8に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであるから、上記と同様の理由により、請求項2?8に係る発明を、容易に発明をすることができたとすることはできない。

(4)第29条の2について
甲8、9号証には、請求項1に係る発明の「ベースフィルム、加飾層および接着層を含み、ベースフィルムの少なくとも片面に加飾層が積層され、一方の最表面に接着層が積層された射出成形用加飾シート」の点について記載されていない。
よって、請求項1に係る発明は、甲8、9号証に記載された発明と同一ではない。

6.むすび
したがって、上記取消理由によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-02 
出願番号 特願2011-527727(P2011-527727)
審決分類 P 1 651・ 16- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 55- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岸 進  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 井上 茂夫
千葉 成就
登録日 2015-08-28 
登録番号 特許第5798921号(P5798921)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 射出成形用加飾シート  
代理人 白石 泰三  
代理人 大島 正孝  

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