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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1319213
異議申立番号 異議2016-700384  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-28 
確定日 2016-09-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第5809781号発明「脱カルボキシル化触媒を含有する二軸延伸ポリエステルフィルム、その製造方法およびその使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5809781号の請求項1ないし4、6ないし9、12ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等
特許第5809781号の請求項1ないし15に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成22年5月17日(パリ条約による優先権主張2009年5月15日、ドイツ)に特許出願され、平成27年9月18日に設定登録され、その後、特許異議申立人東レ株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし15に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明15」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリエステルを主成分とする二軸延伸ポリエステルフィルムであって、銅塩およびハロゲン化物の少なくとも1つを有し、ハロゲン/銅のモル比率は0.5?1.0であり、23℃で50Hzにおける交流絶縁耐圧が100kV/mm以上であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
銅塩が銅(II)の塩である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
銅塩における銅の対イオンが、カルボン酸、アミド又はカルボン酸のアセチル類似体の1価または多価アニオンである請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
ハロゲン化物が、ヨウ化物、塩化物および臭化物から選択される請求項1?3の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
ハロゲン化物が、アルカリ金属ハロゲン化物である請求項1?4の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
ポリエステルフィルムの質量に対するハロゲン化物の含有量が15?600ppmである請求項1?5の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
更に、前記ハロゲン化物の他に、ハロゲン化物とは異なる還元剤を含有する請求項1?6の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
銅(II)に対するハロゲン化物とは異なる還元剤のモル比が0.5?2.5である請求項2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
更に、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸誘導体を含有する請求項1?8の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
更に、以下の式(1)で示される鎖延長剤を1種以上含有する請求項1?9の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【化1】


式中、R^(1)?R^(5)は夫々独立してH又はC1?C12のアルキル基を示し、R^(6)はC1?C12のアルキル基を示し、x及びyは0?100であり、x+yは0より大きく、zは2?100であり、これらの規定は鎖延長剤として使用するポリマーの平均値の規定である。
【請求項11】
ポリエステルフィルム中の鎖延長剤の含有量が0.05重量%以上で2重量%未満である請求項10に記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
a)フラットフィルムダイを介してフィルムの個々の層に対応する溶融体を押出す工程と、b)押出されたシートを引取り、1つ以上の冷却ロールで冷却して固化し、実質的に非晶であるシートを形成する工程と、c)得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸して二軸延伸フィルムを形成する工程と、d)得られた二軸延伸フィルムを熱固定する工程と、e)フィルムを巻取る工程とから成る請求項1?11の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1?11に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成る電気絶縁体。
【請求項14】
請求項1?11に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムと、少なくとも1つの他のフィルムとから成る積層体。
【請求項15】
請求項1?11に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成る太陽電池モジュール。」

第3 特許異議申立の理由の概要
異議申立人は、証拠として甲第1号証(本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された特開平10-204163号公報)、甲第2号証(本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された特開2007-276478号公報)及び甲第3号証(本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された特開2007-48944号公報)を提出し、請求項1ないし4、6ないし9、12ないし15に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである旨主張している。

第4 甲各号証の記載及び甲各号証に記載された発明
1 甲第1号証の記載及び甲第1号証に記載された発明
(1) 甲第1号証の記載
甲第1号証には、「ポリエステル及びその製造法」に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 金属原子A及び金属原子Bを含有するポリエチレンテレフタレート又はこれを主体とするポリエステルであって、下記○(合議体註:以下、○の中に1を記入したものを「○」とする。)の特性を満足することを特徴とするポリエステル。
○ 温度 280℃において5分間溶融した後の環状オリゴマー(エチレンテレフタレートの環状2量体?環状10量体)の含有量をXとし、上記のポリエステルのXをX2、金属原子Aのみを含有する同一のポリエステルのXをX1としたとき、X2/X1<1である。ただし、金属原子Aはアンチモン、チタン、ゲルマニウムの中から選ばれた1種以上の金属原子、金属原子Bはニッケル、銅、ベリリウムから選ばれた1種以上の金属原子である。」

イ 「【0026】金属原子Bとしては、ニッケル、銅、ベリリウムが挙げられる。また、金属原子Bを含む化合物としては、それらの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、カルボン酸塩、炭酸塩、アルキル化物等が挙げられ、具体的には、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、炭酸銅(II)、塩化ベリリウム、酢酸ベリリウム、炭酸ベリリウム等がある。
【0027】この際、金属原子Bを含む化合物の配合量は、ポリエステルの全酸成分に対して1×10^(-7)?1×10^(-2)モルの範囲とするこが必要であり、1×10^(-6)?1×10^(-3)モルの範囲とすることが特に好ましい。この配合量が1×10^(-7)モル未満では再溶融時に環状オリゴマーの再生成を抑制する効果が少なく、1×10^(-2)モルを超えるとポリエステルの粘度低下、着色等の問題がある。」

ウ 「【0032】実施例1
BHET及びその低重合体の存在するエステル化反応容器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)とのモル比1/1.6 のスラリーを連続的に供給し、温度 250℃、圧力50 hPaの条件で反応させ、滞留時間8時間として平均重合度7のエステル化物を連続的に得た。このエステル化物60Kgを重合反応容器に移し、酸成分1モルに対して、1.5 ×10^(-4)モルの三酸化アンチモン及び 3.0×10^(-4)モルのリン酸トリエチルを加えた後、重縮合反応器中を徐々に減圧して、最終的に圧力 0.67hPa、温度 280℃で2時間溶融重縮合を行った。溶融重縮合が完結した時点で、重縮合反応容器から〔η〕0.60のプレポリマーを払い出して、直経3mm、長さ4mmのプレポリマーのチップを得た。次いで、このプレポリマーのチップを回転式固相重合装置に仕込み、1.33 hPaの減圧下、70℃で2時間、予備乾燥した後、 130℃で6時間加熱して結晶化させた。続いて、窒素ガスを流しながら 230℃に昇温し、10時間固相重合を行って〔η〕0.75のポリエステルのチップを得た。このポリエステル中の環状オリゴマー含有量(X1)は、ポリエステル 100重量部に対して0.98重量部であった。次に、上記方法により得られたポリエステルのチップに、酸成分1モルに対して 3.0×10^(-4)モルの酢酸ニッケルを混練した後、シリンダー各部の温度 280℃、滞留(溶融)時間5分に設定したエクストルーダーを用いてポリエステルを溶融押し出しした。この操作によって得られたポリエステル中の環状オリゴマーを定量したところ、環状オリゴマー含有量(X2)は、ポリエステル 100重量部に対して0.69重量部であり、X2/X1の値は0.70であった。」

エ 【0036】【表1】
「実施例3」に「金属原子Bを含む化合物の種類」として、「塩化銅(II)」

(2) 甲第1号証に記載された発明
上記記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
なお、異議申立人は、「実施例3にも記載されているが、塩化銅を使用した場合、ハロゲン/銅のモル比は1.0となる」と主張しているが(特許異議申立書第8頁「(ア)本願請求項1について:」の項)、塩化銅(II)は、CuCl_(2)なのでハロゲン/銅のモル比率は2.0である。

「ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルチップであって、銅塩およびハロゲン化物の少なくとも1つを有し、ハロゲン/銅のモル比率は2.0であるポリエステルチップ。」

2 甲第2号証の記載及び甲第2号証に記載された発明
(1)甲第2号証の記載
甲第2号証には、「積層ポリエステルフィルム及びその製造方法」に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
耐加水分解剤を含有しポリエステルから成るベース層Bと、耐加水分解剤を含有しない少なくとも1つの外層Aとから成る積層ポリエステルフィルムであって、ベース層Bに含有される耐加水分解剤が、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル、エポキシ化脂肪酸グリセリンエステル又はそれらの混合物であることを特徴とする積層ポリエステルフィルム。」

イ 「【0053】
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法を説明する。本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、共押出法により積層シートを形成する工程と、得られた積層シートを二軸延伸して積層フィルムを得る工程と、得られた積層フィルムを熱固定する工程とから成る。すなわち、各層に対応する溶融体をフラットフィルムダイを介して押出す工程と、1つ以上のロール(冷却ロール)を使用して押出された溶融体を引取り、冷却固化して非晶シートを得る工程と、非晶シートを再加熱して二軸延伸し、二軸延伸フィルムを得る工程と、二軸延伸フィルムを熱固定する工程とから成る。」

(2) 甲第2号証に記載された発明
上記記載事項ア及びイから、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2の1発明」という。)が記載されている。

「耐加水分解剤を含有し、耐加水分解剤が、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル、エポキシ化脂肪酸グリセリンエステル又はそれらの混合物である二軸延伸ポリエステルフィルム。」

また、上記記載事項イから、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2の2発明」という。)が記載されている。

「各層に対応する溶融体をフラットフィルムダイを介して押出す工程と、1つ以上のロール(冷却ロール)を使用して押出された溶融体を引取り、冷却固化して非晶シートを得る工程と、非晶シートを再加熱して二軸延伸し、二軸延伸フィルムを得る工程と、二軸延伸フィルムを熱固定する工程とから成る二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。」

3 甲第3号証の記載
甲第3号証には、「太陽電池裏面封止用シート」に関して、次の事項が記載されている(以下、「甲第3号証の記載事項」という。)。

(1) 「【請求項1】
太陽電池モジュールを構成する充填材と貼り合わさる面に易接着コート層を設けた太陽電池裏面封止用シートであって、その易接着コート層が架橋構造を有する事を特徴とする太陽電池裏面封止用シート。」

(2) 「【発明の効果】
【0025】
接触することでショートするといった問題があるアルミ箔に代わり電気絶縁性に優れるポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルムからなる太陽電池裏面封止用シートと充填材であるエチレン-酢酸ビニル共重合体との密着性が低下しない太陽電池裏面封止用シートを提供することが可能になったものである。」

第5 対比
1 本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「ポリエステルチップ」は、本件特許発明1の「ポリエステルフィルム」と、ポリエステル物品の限りで相当する。

以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明とは、

[一致点]
「ポリエステルを主成分とするポリエステル物品であって、銅塩およびハロゲン化物の少なくとも1つを有するポリエステル物品。」
である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点]
相違点1
物品に関して、本件特許発明1では、二軸延伸ポリエステルフィルムであるのに対して、引用発明では、ポリエステルチップである点。

相違点2
ハロゲン/銅のモル比率に関して、本件特許発明1では、0.5?1.0であるのに対して、引用発明では、2.0である点。

相違点3
特性に関して、本件特許発明1では、「23℃で50Hzにおける交流絶縁耐圧が100kV/mm以上である」のに対して、引用発明では、かかる発明特定事項が特定されていない点。

2 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲2の1発明とを対比すると、

[一致点]
「耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸誘導体を含有する二軸延伸ポリエステルフィルム。」
である点で一致し、

上記相違点3の他に、次の点で相違する。

[相違点]
相違点4
本件特許発明9では、ハロゲン/銅のモル比率は0.5?1.0であるのに対して、甲2の1発明では、かかる発明特定事項が特定されていない点。

3 本件特許発明12について
本件特許発明12と甲2の2発明とを対比すると、

[一致点]
「a)フラットフィルムダイを介してフィルムの個々の層に対応する溶融体を押出す工程と、b)押出されたシートを引取り、1つ以上の冷却ロールで冷却して固化し、実質的に非晶であるシートを形成する工程と、c)得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸して二軸延伸フィルムを形成する工程と、d)得られた二軸延伸フィルムを熱固定する工程とから成る二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。」
である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点]
相違点5
本件特許発明12では、「銅塩およびハロゲン化物の少なくとも1つを有し、ハロゲン/銅のモル比率は0.5?1.0」であるのに対して、甲2の2発明では、かかる発明特定事項が特定されていない点。

相違点6
特性に関して、本件特許発明12では、「23℃で50Hzにおける交流絶縁耐圧が100kV/mm以上である」のに対して、甲2の2発明では、かかる発明特定事項が特定されていない点。

相違点7
本件特許発明12では、「e)フィルムを巻取る工程」を含んでいるのに対して、甲2の2発明では、かかる発明特定事項が特定されていない点。

第6 判断
1 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)について
(1) 本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明とは、上記相違点1ないし3で相違するから、本件特許発明1は、引用発明であるとはいえない。
同様に、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし4、6ないし8も引用発明であるとはいえない。

(2) 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲2の1発明とは、上記相違点3及び4で相違するから、本件特許発明9は、甲2の1発明であるとはいえない。

(3) 本件特許発明12について
本件特許発明12と甲2の2発明とは、上記相違点5ないし7で相違するから、本件特許発明12は、甲2の2発明であるとはいえない。

2 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
(1) 本件特許発明1について
ア 相違点2について
(ア)本件特許明細書には、「【背景技術】」として、「ケーブル、モーター絶縁体、太陽電池の裏側積層体用フィルム等の電気分野の用途において、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)のガラス転移温度付近(例えば78℃)に曝されながら、通常、数年の期間における比較的長寿命が要求される。このような条件下では、ポリエステルが加水分解を受けやすいため、これがポリエステルの寿命の臨界値要因となる。・・・末端カルボキシル基濃度(CEG)が低いと、耐加水分解分解性の効果が好ましいことも長い間知られている」(段落【0003】)との記載、「フィルムの製造中に末端カルボキシル基濃度が上昇し、特に、再生品を製造する再押出終了段階(再ペレット化材料)において顕著であり、そしてこれに伴って加水分解の受けやすさが急激に上昇するため、再生品の再使用が制限されたり、再生品の再使用が不可能となる。」(段落【0004】)との記載、「押出機は非常に高い流量で原料を引込むため、高粘度ポリマーは剪断応力による発熱が大きくなり、その結果、押出工程の際に、新たな末端カルボキシル基が形成されて、初期の良好な耐加水分解性が阻害される」(段落【0005】)との記載、「脱カルボキシル化反応を使用することによる末端カルボキシル基数の低減法が知られている・・・が、二軸延伸フィルムの製造および電気絶縁体としての利用については知られていない。」(段落【0009】)との記載があり、これを受けて「本発明の目的は・・・上述の従来技術の欠点が解消されており」(段落【0012】)との記載から、本件特許発明1の課題の一つは、脱カルボキシル化による末端カルボキシル基数の低減であると解するのが相当である。
そして、本件特許明細書の「本発明のフィルムは、脱カルボキシル基化触媒系の一部として、好ましくは10?500ppm,更に好ましくは20?80ppmの銅塩の形状の銅を含有する。」(段落【0032】)との記載及び「フィルム中のハロゲン化物の含有量は、通常15?600ppm,好ましくは30?250ppmである。ある実施態様において、ハロゲン/銅のモル比率は0.5?3.5、好ましくは0.75?3.0、特に好ましくは0.8?1.0である(ハロゲンは対イオンのないI^(-)、Br^(-)またはCl^(-)であり、CuはCu(I)又はCu(II)、好ましくは(II)である)。モル比率が上記範囲より低いと、反応速度が不十分なために脱カルボキシル基化が不完全となる。モル比率が3.5より大きいと、押出工程においてガス発生が起こり、フィルムが顕著に着色する。」(段落【0035】)との記載に照らせば、本件特許発明1は、上記相違点2に係る発明特定事項、すなわちハロゲン/銅のモル比率を0.5?1.0とすることにより、上記課題を解決したものといえる。
この点、甲第1号証には、たまたま実施例3に塩化銅(II)が用いられることが記載されているものの(第3、1、(1)、エ)、上記課題が記載も示唆もされていないから、引用発明においてハロゲン/銅のモル比率を特定して上記課題を解決する動機づけがあるとはいえない。
また、甲第2号証及び甲第3号証にも上記課題が記載も示唆もされていないから、同各号証から、ハロゲン/銅のモル比率を特定して上記課題を解決する動機づけを見いだすことができない。
(イ)さらに、本件特許発明1は、本件特許明細書の【表1】及び【表2】を比較すると、「加水分解速度」が小さくなる(脱カルボキシル化による末端カルボキシル基数の低減)という予想外の格別顕著な効果を奏するものと認められる。
(ウ)そうすると、本件特許発明1は、上記相違点1及び3について検討するまでもなく、引用発明及び甲2の1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たということができないし、引用発明、甲2の1発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たということもできない。

(2) 本件特許発明2ないし4、6ないし9、12ないし15について
同様に、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし4、6ないし9、12ないし15は、引用発明及び甲2の1発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たということができないし、本件特許発明1を引用する本件特許発明13ないし15は、引用発明、甲2の1発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たということもできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-08 
出願番号 特願2010-113361(P2010-113361)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08J)
P 1 652・ 113- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 小柳 健悟
守安 智
登録日 2015-09-18 
登録番号 特許第5809781号(P5809781)
権利者 ササ ポリエステル サナイ エーエス
発明の名称 脱カルボキシル化触媒を含有する二軸延伸ポリエステルフィルム、その製造方法およびその使用  
代理人 岡田 数彦  

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