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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A61B
管理番号 1319214
判定請求番号 判定2016-600013  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 判定 
判定請求日 2016-05-06 
確定日 2016-09-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第4790091号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号及びその説明書に示す製品「エアウォール」は、特許第4790091号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨・手続の経緯
1 本件判定の請求は、平成28年5月6日になされ、その請求の趣旨は、イ号及びにその説明書に示す製品「エアウォール」は、特許第4790091号の請求項1または3に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明1」及び「本件特許発明3」という。また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
請求人は、イ号として製品「エアウォール」の現物のほか、以下を証拠方法として提出している。
・甲第1号証:特許第4790091号の特許公報
・甲第2号証:インターネット<URL:http://www.skinix.jp/file.php?code=11&pag_document=11_document.pdf>からダウンロードしたPDFを印刷した書面
・甲第3号証:株式会社共和ネットショップ、インターネット<URL:http://item.rakuten.co.jp/kyowa-ltd/c/0000000291/>のウェブサイトを印刷した書面
・甲第4号証:株式会社共和ネットショップ、インターネット<URL:http://item.rakuten.co.jp/kyowa-ltd/ma-e5100nt/>のウェブサイトを印刷した書面
・甲第5号証:株式会社共和ホームページ「エアウォール貼り方のコツ」、インターネット<URL:http://www.skinix.jp/howto/index.html>のウェブサイトを印刷した書面
・資料1:請求人が作成した「イ号各部名称について」をタイトルとする書面
・資料2:請求人が作成した「創離開方向について」をタイトルとする書面
・資料3:請求人が作成した「イ号の構成、作用および効果について」をタイトルとする書面
・資料4:請求人が作成した「装着に伴う創離開方向の収縮距離について」をタイトルとする書面

2 これに対し、平成28年5月25日付け(送達日:同年6月1日)で被請求人に判定請求書副本を送達するとともに、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたところ、同年6月30日に被請求人から答弁書が提出された。



第2 本件特許発明
1 設定登録及び訂正に係る経緯
本件特許発明に係る出願(特願2011-83394号)は、平成23年4月5日(国内優先日 平成22年7月29日、平成22年12月9日)の出願であって、平成23年7月29日にその請求項1?3に係る発明について特許権の設定登録がなされ、その後、平成28年3月23日に訂正審判(訂正2016-390045)が請求され、同年5月9日付けで訂正することを認める旨の審決がなされたものである。(以下、訂正後の特許請求の範囲及び本件特許明細書を、単に「特許請求の範囲」及び「本件特許明細書」という。)


2 特許請求の範囲の記載
本件特許発明は、特許請求の範囲の請求項1、3に記載されたとおりのものであって、その構成要件の技術的なまとまりを考慮しつつ、符号(A)?(G)を付して分説すると以下のとおりである。(以下、分説した各構成要件を「構成要件A」などという。)

「【請求項1】
(A)身体の一部がきずつけられて生じた開放性のきずである創に対し、創およびその周辺組織を覆って装着し、創の離開を防止するための創離開防止用補助具であって、
(B1)創およびその周辺組織を覆う創離開防止部と、
(B2)該創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させて保持する機能を有する保持部と、
(B3)前記創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、該創離開防止部の収縮を防止する機能を有する収縮防止部とを備え、
(C)前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記保持部の装着に伴う創離開方向の収縮距離以上となる機能を備え、
(D)前記創離開防止部を創離開方向に引き伸ばし、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、前記創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離以上となる状態で、前記創離開防止部を創およびその周辺組織に密着させ、前記保持部で固定し装着した後に前記収縮防止部を取り外す
(E)ことを特徴とする創離開防止用補助具。」

「【請求項3】
(F)前記創が、未縫合の状態にある
(G)請求項1に記載の創離開防止用補助具。」


3 本件特許発明の課題・効果等
(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明の技術分野、背景技術、解決しようとする課題、効果等に関連して、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を示す。

(ア)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、創離開(創がさらに開くこと)を防止するための創離開防止用補助具に関する。」(0001段落)

(イ)
「【背景技術】
【0002】
身体の一部がきずつけられてできたきずを創傷と称するが、創傷は、鋭利な刃物等で切って生じた開放性のきずを称する「創(そう)」と、鈍器等で打撲した時のような切り口のない閉鎖的なきずを称する「傷(しょう)」に大別することができる。
従来、開放性のきずである「創(そう)」に対しては、創底が浅い場合は、絆創膏や包帯等で創を閉じて固定する手段で創離開を防止し、創底が深い場合は、縫合糸等による縫合の手段により創を閉じて創離開を防止している。・・・」(0002段落)

(ウ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑み、身体の一部がきずつけられて生じた解放性のきずである創に対し、創の離開を防止する効果が高く、使用・装着が容易な創離開防止用補助具を提供することを課題とする。」(0007段落)

(エ)
「【発明の効果】
【0009】
・・・さらに、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、収縮を防止する機能を有する収縮防止部を備えることで、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態に維持できるため、装着が著しく容易となる。そして、保持部で固定して装着した後に収縮防止部を取り外すことで、創離開防止部を創離開方向に抗する方向に効率よく収縮させ、創離開防止用補助具として機能させることができる。また、創の状態が縫合、未縫合に関わらず、該創離開防止用補助具を効果的に使用することができる。」(0009段落)

(オ)
「【発明を実施するための形態】
・・・
【0015】
・・・本発明は、創離開防止部を創離開方向に引き伸ばし、創離開防止部の装着に伴う創離開方向の収縮距離が、創離開防止部の装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離以上となる状態で、創およびその周辺組織に密着させ、創離開防止部の収縮力により、創離開方向に抗する方向に収縮させて機能させるように、保持部で固定し装着するものである。・・・」(0015段落)


(2)本件特許発明の課題・効果等
上記(ア)?(オ)を総合すると、
本件特許発明は、鋭利な刃物等で切って生じた開放性のきずを称する「創」について、創離開(創がさらに開くこと)を防止するための創離開防止用補助具に関するものであって、創の離開を防止する効果が高く、使用・装着が容易な創離開防止用補助具を提供することを課題とするものと認められる。
そして、本件特許発明は、創離開防止部の収縮力により、創離開方向に抗する方向に収縮させて機能させるように、創離開防止部を保持部で固定し装着する創離開防止用補助具において、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、収縮を防止する機能を有する収縮防止部を備えるることにより、創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態に維持できるため、装着が著しく容易となり、保持部で固定して装着した後に収縮防止部を取り外すことで、創離開防止部を創離開方向に抗する方向に効率よく収縮させることができるとの効果を奏するものと認められる。



第3 イ号
イ号は、被請求人の製品「エアウォール」である(以下、イ号に係る製品「エアウォール」を、「イ号製品」という。)。
なお、請求人は、イ号の現物、及び副本としてイ号と同じ構造であるとする物品を提出している。



第4 当審の判断
1 イ号の構成の特定
請求人は、本件特許発明は「創離開防止用補助具」であるとした上で、イ号は「イ号の説明」に記載するとおりのものであって、イ号は本件特許発明の技術的範囲に属する、すなわち、イ号は「創離開防止用補助具」である、と主張しているのに対し、被請求人は、イ号は「創離開防止用補助具」ではない、と主張しているから、イ号の構成について、両者に争いがある。
そこで、まず、合議体において、イ号の構成について特定することとする。

(1)イ号の現物
請求人から提出された副本は、イ号製品と同等の構成を備えるものであるとし、その副本を観察することにより、以下の事項を確認した。

(1-ア)
幅略100mmのテープ状のものが、剥離紙を内側にしてロール状に巻回された状態で、略直方体のパッケージに収容されていること。

(テープ状のものについて)
(1-イ)
幅略100mmのテープ状のものは、表のフィルム、テープ及び剥離紙の順に積層されたものからなり、さらに、その上面、すなわち、表のフィルムの上面であって、その幅方向略中央に、ピンク色の模様が印刷された帯状の部材を備えていること。

(1-ウ)
剥離紙は、幅方向においてまん中と両端の3つに分割されていること。

(1-エ)
テープの剥離紙側の面は、その全面に粘着剤を備えていること。

(1-オ)
剥離紙及び表のフィルムを取り除いた状態のテープは、負荷が加えられると引き伸ばされ、引き伸ばされた状態から負荷が解除されると元の状態に戻ること。また、テープの剥離紙側の面に備えられた粘着剤も、テープと一体に引き伸ばされ、引き伸ばされた状態から負荷が解除されると元の状態に戻ること。

(1-カ)
表のフィルムは、幅方向略中央で左右に分割されていること。

(パッケージについて)
(1-キ)
側面に、「【用途】」として、「●ガーゼ・パッドなどの被覆固定」、「●入浴・シャワー時の防水」、「●ストーマ装具装着部位の防水」、「●褥瘡対策などにおける皮膚の被覆」との記載が印刷されていること。

(1-ク)
側面の「1」?「4」の番号が付された枠内に、貼り方の手順を示すイラストとともに以下の記載がそれぞれ印刷されていること。
「1」「まん中の剥離紙だけをはがします」
「2」「両端を持って貼ります」
「3」「両端の剥離紙をはがし、端まで貼ります」
「4」「表のフィルムを左右にはがし、上からなじませます」


(2)甲第2号証
請求人と被請求人との間でイ号製品に関するものであることについて争いのない甲第2号証には、次の記載がある。

(2-ア)
「未滅菌ロール状フィルムドレッシング
用途:チューブ・ガーゼの固定、入浴時の防水、褥瘡対策などにおける皮膚の被覆など。」(第1ページ左欄中ほど)

(2-イ)
「ムレに、サヨナラ。
水蒸気透過性が従来の約4倍!^(※)汗の蒸発を妨げないのでお肌サラサラ
エアウォールは水蒸気透過性が非常に高く、皮膚に貼っても汗の蒸発を邪魔しないので、長時間貼ってもムレによるかゆみや不快感がほとんどありません。また、皮膚の蒸れによる細菌の増殖や角質のはがれをおさえます。※当社比」(第2ページ下欄左)

(2-ウ)
「つっぱりに、サヨナラ。
従来の約15倍^(※)の伸びやすさで、肌に柔らかくなじんで違和感から解放
エアウォールは独自開発の、業界初極薄7ミクロンのフィルムを使用したテープなので、伸縮性に優れ、皮膚の動きに沿って伸び縮みするため、貼っている時に肌をひっぱらず、皮膚ストレスを低減します。※当社比」(第2ページ下欄中央)

(2-エ)
「はがれに、サヨナラ。
従来の1/4^(※)以下の薄さで、テープのひっかかりやヨレ、浮きによるはがれを軽減
7ミクロンという従来にない薄さで皮膚との段差がほとんどなくなるため、擦れた時にもはがれにくく、衣類に貼り付く不快感なく、長時間使用できます。
また、肌にフィットし、長時間貼ってもテープにシワや隙間が出来ないため、防水機能が落ちません。※当社比」(第2ページ下欄右)


(3)認定事項
技術常識を踏まえると、上記(1-ア)?(1-ク)及び(2-ア)?(2-エ)から、以下の事項が認定できる。

(3-ア)イ号製品は、未滅菌ロール状フィルムドレッシングであって、テープと、粘着剤と、表のフィルムとを備えていること。

(3-イ)粘着剤は、テープを皮膚に密着させて保持する、ないしは、固定し装着するものであること。


(4)イ号の構成
上記(1-ア)?(1-ク)、(2-ア)?(2-エ)及び(3-ア)?(3-イ)を総合すると、イ号は、次の構成を具備するものであり、符号(a)?(e)を付して分説すると、以下のとおりのものと認められる。(以下、分説した各構成を「構成a」などという。)

「(a)チューブ・ガーゼの固定、ガーゼ・パッドなどの被覆固定、入浴・シャワー時の防水、ストーマ装具装着部位の防水、褥瘡対策などにおける皮膚の被覆のための未滅菌ロール状フィルムドレッシングであって、
(b1)皮膚に貼られるテープと、
(b2)該テープを皮膚に密着させて保持する機能を有する粘着剤と、
(b3)該テープに積層された表のフィルムとを備え、
(c)前記テープは負荷が加えられると引き伸ばされ、引き伸ばされた状態から負荷が解除されると元の状態に戻り、前記粘着剤も、前記テープと一体に引き伸ばされ、引き伸ばされた状態から負荷が解除されると元の状態に戻る機能を備え、
(d)まん中の剥離紙だけをはがし、両端を持ってテープを貼り、両端の剥離紙をはがし、端までテープを貼り、前記粘着剤で固定し装着した後に前記表のフィルムを左右にはがす
(e)未滅菌ロール状フィルムドレッシング」


2 対比
(1)本件特許発明1
イ号が本件特許発明1の構成要件を充足するか否かについて、本件特許発明における構成要件と、イ号の構成とを、それぞれ対比・検討する。

(ア)構成要件A、E
本件特許発明の「創離開防止用補助具」は、鋭利な刃物等で切って生じた開放性のきずを称する「創」について、創離開(創がさらに開くこと)を防止するためのものと認められる(上記「第2」「3」「(2)」)。
一方、イ号における「未滅菌ロール状フィルムドレッシング」は、「チューブ・ガーゼの固定、ガーゼ・パッドなどの被覆固定、入浴・シャワー時の防水、ストーマ装具装着部位の防水、褥瘡対策などにおける皮膚の被覆のための」ものである。そして、これらの用途は、いずれも、鋭利な刃物等で切って生じた開放性のきず、ないしは身体の一部がきずつけられて生じた開放性のきずが、さらに開くことを防止することに該当するものではない。
また、甲第2号証の「ムレ」(上記2-イ)、「つっぱり」(上記2-ウ)及び「はがれ」(上記2-エ)を防止する等のイ号の特徴に係る記載をみても、イ号が、創離開を防止するためのものであるということはできない。
よって、イ号における「未滅菌ロール状フィルムドレッシング」は、本件特許発明における「創離開防止用補助具」に該当するものではない。

請求人は、判定請求書において、甲第3号証に「・・・防水性もあり、傷口の保護、褥瘡(床ずれ)などにおける皮膚の保護などにお使いいただけます」と記載されており、甲第5号証に「・・・褥瘡箇所への貼り方の説明と共に写真が掲載されており、褥瘡は、その周辺組織と共にガーゼやパッドなどで覆われ、さらにイ号により被覆固定されている様子が示されている」とし、「・・・褥瘡(床ずれ)は、深さ(深達度)により、I度からIV度に分類されるが、・・・II度からIV度の褥瘡には皮膚欠損創があるため開放性のきずを称する「創(そう)」に分類できる。・・・褥瘡が・・・「創(そう)」の状態でも区別なくイ号は使用できると解する」とした上で、「・・・イ号は、製品パッケージ等への記載の有無に関わらず、開放性褥瘡に対し、開放性褥瘡およびその周辺組織を覆うものを介して装着し、開放性褥瘡がさらに開くこと(離開)を防止し、防水性に特化した創離開防止用補助具の一態様である未滅菌ロール状フィルムドレッシングであると解される」から、イ号における「未滅菌ロール状フィルムドレッシング」に係る構成は、本件特許発明における構成要件Aを充足する旨主張している(判定請求書5?7ページ、19?20ページ)ので、この点について検討する。

イ号は、その用途に「褥瘡対策などにおける皮膚の被覆」を含むものである。ここで、技術常識を参酌すれば、「褥瘡」は、I度からIV度に分類され、II度以上の褥瘡は皮膚欠損を伴うものであるところ、イ号は、II度以上の褥瘡、すなわち、皮膚欠損を伴う褥瘡にも適用し得るものと認められる。
しかしながら、甲第2号証の「従来の約15倍^(※)の伸びやすさで、肌に柔らかくなじんで違和感から解放」及び「エアウォールは独自開発の、業界初極薄7ミクロンのフィルムを使用したテープなので、伸縮性に優れ、皮膚の動きに沿って伸び縮みするため、貼っている時に肌をひっぱらず、皮膚ストレスを低減します。」(上記2-ウ)の記載等によれば、イ号は、従来の約15倍の伸びやすさで、肌に柔らかくなじんで違和感から解放し、皮膚の動きに沿って伸び縮みし、貼っている時に肌をひっぱらず、皮膚ストレスを低減することを特徴とするものであることが理解できる。そうすると、イ号における「未滅菌ロール状フィルムドレッシング」は、創離開方向に抗する方向の収縮力を発揮して創離開を防止するものではなく、むしろ、肌をひっぱらず、皮膚ストレスを低減するよう、皮膚の動きに沿って伸張することを意図したものと認められる。
そして、イ号の構成や上記特徴を勘案すれば、イ号を「褥瘡」に対して適用する目的は、「皮膚の被覆」により患部を保護したり、患部に対する「ガーゼ・パッドなどの被覆固定」をしたり、患部における「入浴・シャワー時の防水」をすること等であると認められる。そして、褥瘡に対する処置にあたり、褥瘡の患部及びその周辺組織に対して皮膚ストレスを低減する必要のあることは、技術常識というべき事項であるから、イ号の「褥瘡」に対する適用は、肌をひっぱらず、皮膚ストレスを低減するよう、皮膚の動きに沿って伸張する様態でなされるものと認められる。そして、そのような様態では、仮に、イ号が適用される「褥瘡」が皮膚欠損を伴うものであったとしても、皮膚欠損の離開方向に抗する方向の収縮力を発揮して皮膚欠損の離開を防止することはできないから、イ号における「未滅菌ロール状フィルムドレッシング」は、「創離開防止用補助具の一態様」であるということはできない。
また、請求人が提出した甲第3号証、甲第5号証をみても、「未滅菌ロール状フィルムドレッシング」が「創離開防止用補助具の一態様」であるということはできない。
したがって、イ号における「未滅菌ロール状フィルムドレッシング」が、「創離開防止用補助具の一態様」であるとする請求人の上記主張は、理由がない。

よって、イ号の構成aは、本件特許発明の構成要件Aを充足しない。
同様の理由により、イ号の構成eは、本件特許発明の構成要件Eを充足しない。

以上のとおり、イ号の構成aは、本件特許発明の構成要件Aを充足しないから、イ号は本件特許発明の技術的範囲に属するとすることはできない。しかしながら、請求人は、判定請求書において、イ号がその他の構成要件についても充足するものであると主張し、これに対し、被請求人から答弁書が提出されているから、イ号における「未滅菌ロール状フィルムドレッシング」が、本件特許発明における「創離開防止用補助具」に該当するか否かはおくとして、構成要件B以降についても進んでみてみることとする。
最初に、構成要件B3について検討する。


(イ)構成要件B3
本件特許発明における「収縮防止部」は、創離開防止部の装着前において、「創離開防止部を創離開方向に適度に引き伸ばした状態を維持し、該創離開防止部の収縮を防止する機能を有する」ものと認められる。
一方、イ号における「表のフィルム」は、「テープ」に積層されているものであるから、まず、イ号の「テープ」について検討する。
甲第2号証の「従来の約15倍^(※)の伸びやすさで、肌に柔らかくなじんで違和感から解放」及び「エアウォールは独自開発の、業界初極薄7ミクロンのフィルムを使用したテープなので、伸縮性に優れ、皮膚の動きに沿って伸び縮みするため、貼っている時に肌をひっぱらず、皮膚ストレスを低減します。」(上記2-ウ)の記載等によれば、イ号における「テープ」は、従来の約15倍の伸びやすさで、肌に柔らかくなじんで違和感から解放し、皮膚の動きに沿って伸び縮みし、貼っている時に肌をひっぱらず、皮膚ストレスを低減することを特徴とするものであることが理解できる。してみると、イ号における「テープ」は、仮に、表のフィルムにより引き伸ばされた状態で、「創」ないしは「その周辺組織」に対して装着され、その後に表のフィルムが取り外されたとしても、創離開を防止するために創離開方向に抗する方向の収縮力を発揮するものではなく、むしろ、肌をひっぱらず、皮膚ストレスを低減するよう、皮膚の動きに沿って伸張することを意図したものと認められる。
そうすると、イ号における「テープ」は、創離開を防止するために創離開方向に抗する方向の収縮力を発揮するものではないから、その装着前において、「適度に引き伸ばした状態」とされるものではない。

次に、イ号における「表のフィルム」の機能について検討する。
技術常識を参酌すると、イ号における「テープ」は、「極薄7ミクロン」(上記2-ウ)ときわめて薄いものであることから、剥離紙及び表のフィルムが取り除かれた状態、すなわち、テープ及び粘着剤のみからなる状態では、平面形状を維持することが困難であることは明らかである。そうすると、イ号における「表のフィルム」は、テープを装着する際、剥離紙をはがした後においても、テープに積層されたままの状態であることで、テープの平面形状を維持する機能を有し、これにより、装着時の取り扱いに不便を生じることを避けていることが理解できる。ここで、テープの平面形状を維持する機能は、「適度に引き伸ばした状態に維持し、」「収縮を防止する機能」ということはできない。
また、イ号における「テープ」は、上記のとおり、その装着前において、「適度に引き伸ばした状態」とされるものではない。そうすると、イ号における「表のフィルム」は、テープを「適度に引き伸ばした状態に維持し」、該テープの「収縮を防止する機能を有する」ものとはいえない。

よって、イ号における「表のフィルム」は、本件特許発明における「収縮防止部」に該当するものではない。

請求人は、判定請求書において、資料3に示す実験によって、「・・・表のフィルムが、全方向(長さ方向、幅方向および斜め方向)への伸縮機能を有する前記ポリウレタンを、開放性褥瘡の創面が生理的張力によって引き伸ばされる方向である全外方向(遠心性)に、引き伸ばした状態を維持し、該ポリウレタンの収縮を防止する機能を有していることは明らかである」とした上で、イ号における「全方向(長さ方向、幅方向および斜め方向)への伸縮機能を有する前記ポリウレタンを、開放性褥瘡の創面が生理的伸張によって引き伸ばされる方向である全外方向(遠心性)に、イ号装着時に「ゼロ感覚フィルムドレッシング エアウォール」、「まるでテープを貼っていないかのような感覚」と表現されるくらい、適度に引き伸ばした状態を維持し、該ポリウレタンの収縮を防止する機能を有する表のフィルム」に係る構成は、本件特許発明における構成要件B3を充足する旨主張している(判定請求書10?11ページ、18ページ、20ページ)ので、この点について検討する。
なお、当審において特定したイ号の構成における「テープ」を、請求人は「ポリウレタン」と称している。

請求人が、資料3において示す実験は、中央の剥離紙を両面テープで木板に貼り付けたイ号製品について、左右の表のフィルムを順次取り除きつつ、剥離紙が積層された状態のテープ(ポリウレタン)の立ち上がりの有無を観察するものである。そして、表のフィルムを取り除いた側に対応する端部のテープ(ポリウレタン)が立ち上がったことにより、表のフィルムが、幅方向及び長さ方向への伸縮機能を有するテープ(ポリウレタン)を引き伸ばした状態に維持し、該テープ(ポリウレタン)の収縮を防止していたことが確認できたとするものである。
しかしながら、技術常識を参酌すれば、表のフィルムを取り除いた後におけるテープ(ポリウレタン)の立ち上がりは、テープ(ポリウレタン)の両面、すなわち、表のフィルムを取り除いてテープ(ポリウレタン)が露出した面と、粘着剤及び剥離紙が積層された面における、温度や湿度等の外部環境に対する反応の違いや、テープ(ポリウレタン)の製造段階での初期形状(いずれかの向きへの湾曲)への戻り等の影響も考慮すべきであって、上記実験の結果のみにより、テープ(ポリウレタン)が引き伸ばされた状態にあったこと、及び表のフィルムがテープ(ポリウレタン)の収縮を防止していたことが明らかであるとすることはできない。
また、仮に、テープ(ポリウレタン)の立ち上がりが、テープ(ポリウレタン)の収縮によるものであったとしても、上記実験の結果からは、その収縮力の程度は不明であり、さらに、甲第2号証の「従来の約15倍^(※)の伸びやすさで、肌に柔らかくなじんで違和感から解放」及び「エアウォールは独自開発の、業界初極薄7ミクロンのフィルムを使用したテープなので、伸縮性に優れ、皮膚の動きに沿って伸び縮みするため、貼っている時に肌をひっぱらず、皮膚ストレスを低減します。」(上記2-ウ)等のイ号の特徴を考慮すれば、その収縮力の程度は、肌をひっぱらない程度にとどまるものと認められるから、創離開を防止するような収縮力を発揮するものということはできない。
そうすると、テープ(ポリウレタン)は、表のフィルムが取り除かれることによって、創離開を防止するような収縮力を発揮するものではないから、「適度に引き伸ばした状態」であったということはできず、また、表のフィルムが、テープ(ポリウレタン)を「適度に引き伸ばした状態を維持し」、テープ(ポリウレタン)の「収縮を防止する機能を有する」ものであるということもできない。
したがって、請求人の上記主張は、理由がない。

よって、イ号の構成b3は、本件特許発明の構成要件B3を充足しない。

次に、構成要件Dについて検討する。


(ウ)構成要件D
イ号における「粘着剤で固定し装着した後」は、本件特許発明における「保持部で固定装着した後」に該当する。また、イ号における「左右にはがす」ことは、本件特許発明における「取り外す」ことに該当する。
しかしながら、イ号は、テープを創離開方向に引き伸ばし、テープの装着に伴う創離開方向の収縮距離が、テープの装着に伴う創離開方向に対する垂直方向の収縮距離以上となる状態で、テープを創およびその周辺組織に密着させるものではない。

よって、イ号の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足しない。



(エ)小括
以上のとおり、イ号は、本件特許発明1の構成要件A、Eを充足するものでなく、また、この点をおくとしても、構成要件B3及びDを充足しない。

よって、イ号は、本件特許発明1の技術的範囲に属しない。


(2)本件特許発明3
上記「(ア)構成要件A、E」?「(ウ)構成要件D」のとおり、イ号は、本件特許発明3の構成要件A、Eを充足するものでなく、また、この点をおくとしても、構成要件B3及びDを充足しない。
また、上記「(ア)構成要件A、E」で示したのと同様の理由により、イ号は、本件特許発明3の構成要件Gを充足しない。

よって、イ号は、本件特許発明3の技術的範囲に属しない。



第5 むすび

以上のとおりであるから、イ号及びにその説明書に示す製品「エアウォール」は、本件特許発明1又は本件特許発明3の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2016-08-25 
出願番号 特願2011-83394(P2011-83394)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A61B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 土田 嘉一
熊倉 強
登録日 2011-07-29 
登録番号 特許第4790091号(P4790091)
発明の名称 創離開防止用補助具  
代理人 風早 信昭  
代理人 浅野 典子  
代理人 嶋崎 英一郎  

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