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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01T
管理番号 1319817
審判番号 不服2015-6078  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-02 
確定日 2016-09-21 
事件の表示 特願2012-501423「撮像検出器及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月30日国際公開、WO2010/109353、平成24年 9月13日国内公表、特表2012-521554〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)2月18日(優先権主張外国庁受理 2009年3月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月9日付けで拒絶理由が通知され、同年7月22日付けで、意見書及び手続補正書が提出され、同年12月3日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年4月2日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に手続補正がされ、同年12月9日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成28年2月24日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?12に記載された発明は、平成27年4月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。
「感光側及び反対の読み出し側を有する光センサアレイと、
前記光センサアレイの前記感光側に光学的に結合されたシンチレータアレイと、
前記光センサアレイの前記読み出し側に電気的に結合された処理電子機器と、
を有し、
前記光センサアレイ、前記シンチレータアレイ及び前記処理電子機器は、熱結合しており、前記処理電子機器において、前記処理電子機器の熱係数の値は、前記光センサアレイの熱係数と前記シンチレータアレイの熱係数との和の負にほぼ等しい値に設定される撮像検出器。」

3.当審の拒絶理由の概要
当審の拒絶理由の概要は、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-35779号公報(以下、「引用例」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4.引用例
(1)引用例の記載
引用例には、「放射線検出器」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「〔第1の実施例〕図1は、この発明による放射線検出器の第1の実施例1aの構成を示すブロック図である。
【0013】この放射線検出器1aは、図3に示した従来技術による放射線検出器1の構成要素であるNaI(Tl)シンチレータ(以下では単にシンチレータと呼ぶ)11、光電子増倍管12、パルスアンプ回路14及び高電圧発生回路13に加えて、光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路(図1では、直流電流計測回路)15と、不図示の制御回路や低電圧電源回路と、を備えており、これらの構成要素が遮光とシールドとを兼ねた金属製(例えばアルミ製)の筐体内に収納されている。パルスアンプ回路14の出力及び直流成分計測回路15の出力は、環境放射線計測装置の本体部等に備えられている後段のそれぞれの線量変換回路に入力され、線量率または線量に変換される。低線量率側では、パルスアンプ回路14の出力から変換された線量率または線量の値が採用され、高線量率側では、直流成分計測回路15の出力から変換された線量率または線量の値が採用される。両者の切り換えレベルは実測データに基づいて決定される。」
イ 「【0019】〔第2の実施例〕図2は、この発明の第2の実施例1bの構成を示すブロック図である。第2の実施例1bが第1の実施例1aと異なる点は、測温素子16と温度補償回路17とを備えていることである。測温素子16は、光電子増倍管12に隣接して配置され、その周辺の温度を計測する。温度補償回路17は、測温素子16が計測した温度信号にしたがって、光電子増倍管12のバイアス電圧である高電圧発生回路13の発生高電圧の値を制御するための制御信号を高電圧発生回路13に出力する。高電圧発生回路13は、その制御信号に制御されて、光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償するバイアス電圧を発生して光電子増倍管12に供給し、この放射線検出器1aの放射線検出特性(線量率換算)の温度依存性を所定の精度(例えば±5%)内に収めている。
【0020】測温素子16としては、測温抵抗体や、熱電対等が使用される。温度補償回路17としては、温度補償回路17内にROM等の記憶素子を備え、この記憶素子に、周囲温度と、その周囲温度で所定の線量率検出感度を得るための光電子増倍管12のバイアス電圧と、を1対1で対応させて記憶させておき、測温素子16からの温度信号によって、これに対応する光電子増倍管12のバイアス電圧を記憶素子から読み出して、そのバイアス電圧を高電圧発生回路13に発生させるための制御信号を高電圧発生回路13に出力する、という温度補償回路が使用されている。温度補償回路17に要求される機能は、光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償して、放射線検出器の放射線検出特性(線量率換算)の温度依存性を所定の精度(例えば±5%)内に収めることである。」

ウ 図2「



(2)引用発明の認定
ア 上記(1)イから、放射線検出器1aは、NaI(Tl)シンチレータ(以下、単に「シンチレータ」と呼ぶこともある。)11、光電子増倍管12、パルスアンプ回路14、高電圧発生回路13、光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流電流計測回路15を備えていることがわかる。
イ 上記(1)イ、ウから、放射線検出器1bについて、放射線はNaI(Tl)シンチレータ11に入射して光(光パルス)に変換され、該光(光パルス)は光電子増倍管12によって電流パルスに変換され、該電流パルスは、パルスアンプ回路14によってリニア電圧パルスと、直流電流計測回路15によって定電圧パルスとに変換され、該リニア電圧パルスと該定電圧パルスは、後段の線量変換回路へ伝わることが理解できる。
ウ 上記(1)イから、光電子増倍管12に隣接して配置され、その周辺の温度を計測する測温素子16からの温度信号は、温度補償回路17に入力され、該温度信号にしたがった光電子増倍管12のバイアス電圧である高電圧発生回路13の発生高電圧の値を制御するための制御信号に変換され、該制御信号は高電圧発生回路13に入力され、該高電圧発生回路13は、光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償するバイアス電圧を発生し、該バイアス電圧は光電子増倍管12に供給されることが理解できる。
エ 上記(1)イから、温度補償回路17は、光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償して、放射線検出器の放射線検出特性(線量率換算)の温度依存性を所定の精度(例えば±5%)内に収めることが理解できる。

オ 上記ア?エより、引用例には、
「光電子増倍管12、シンチレータ11、パルスアンプ回路14、高電圧発生回路13及び光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15及び温度補償回路17を有する放射線検出器1bであって、
放射線がシンチレータ11に入射して光(光パルス)に変換され、
該光(光パルス)は光電子増倍管12によって電流パルスに変換され、
該電流パルスは、パルスアンプ回路14によってリニア電圧パルスと、光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流電流計測回路15によって定電圧パルスとに変換され、
該リニア電圧パルスと該定電圧パルスは、後段の線量変換回路へ伝えられ、
温度補償回路17は、光電子増倍管12に隣接して配置され、その周辺の温度を計測する測温素子16からの温度信号が入力され、該温度信号を、該温度信号にしたがった光電子増倍管12のバイアス電圧である高電圧発生回路13の発生高電圧の値を制御するための制御信号に変換し、
該制御信号は、高電圧発生回路13に入力され、該高電圧発生回路13は、光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償するバイアス電圧を発生し、該バイアス電圧は光電子増倍管12に供給されて、
光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償して、放射線検出器の放射線検出特性(線量率換算)の温度依存性を所定の精度(例えば±5%)内に収める放射線検出器1b。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5.対比・判断
(1)対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「光電子増倍管12」及び「シンチレータ11」は、本願発明の「光センサ」及び「シンチレータ」にそれぞれ相当する。
イ 引用発明の「温度補償回路17」、「パルスアンプ回路14」、「高電圧発生回路13」及び「光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15」とからなるものは、本願発明の「処理電子機器」に相当する。
ウ 引用発明の「光電子増倍管12」、「シンチレータ11」、「温度補償回路」、「パルスアンプ回路14」、「高電圧発生回路13」及び「光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15」の全てを同一筐体内に設けることは周知であるから、引用発明の「放射線検出器1b」の「光電子増倍管12」、「シンチレータ11」、「温度補償回路」、「パルスアンプ回路14」、「高電圧発生回路13」及び「光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15」は、全て熱結合しているということができる。
エ 引用発明では、「放射線がシンチレータ11に入射して光(光パルス)に変換され、該光(光パルス)は光電子増倍管12によって電流パルスに変換され」るから、「シンチレータ11」からの「光(光パルス)」は「光電子増倍管12」に入り、「光電子増倍管12」から、「電流パルス」となって出力されるものである。
そうすると、「光電子増倍管12」は、「シンチレータ11」からの「光(光パルス)」を受光する感光側を備えていて、「シンチレータ11」は「光電子増倍管12」に光学的に結合され、「光電子増倍管12」は「電流パルス」を出力する読み出し側を備えているということができる。
したがって、引用発明の「放射線がシンチレータ11に入射して光(光パルス)に変換され、該光(光パルス)は光電子増倍管12によって電流パルスに変換され」る構成における「光電子増倍管12」は、本願発明の「感光側及び反対の読み出し側を有する光センサ」に相当し、該構成における「シンチレータ11」は、本願発明の「前記光センサの前記感光側に光学的に結合されたシンチレータ」に相当する。
オ 引用発明では、「光電子増倍管12」からの「電流パルス」に対して、「該電流パルスは、パルスアンプ回路14によってリニア電圧パルスと、直流電流計測回路15によって定電圧パルスとに変換され」るから、「光電子増倍管12」と「パルスアンプ回路14」と「光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15」とは、電気的に結合しているということができる。
また、「温度補償回路17は、光電子増倍管12に隣接して配置され、その周辺の温度を計測する測温素子16からの温度信号が入力され、該温度信号を、該温度信号にしたがった光電子増倍管12のバイアス電圧である高電圧発生回路13の発生高電圧の値を制御するための制御信号に変換し、
該制御信号は、高電圧発生回路13に入力され、該高電圧発生回路13は、光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償するバイアス電圧を発生し、該バイアス電圧は光電子増倍管12に供給されて」いるから、「光電子増倍管12」と「高電圧発生回路13」と「温度補償回路17」とは、電気的に結合しているということができる。
そうすると、「光電子増倍管12」と「パルスアンプ回路14」と「光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15」は電気的に結合し、「光電子増倍管12」と「温度補償回路17」と「高電圧発生回路13」も、電気的に結合しているということができるから、「温度補償回路17」、「パルスアンプ回路14」、「高電圧発生回路13」及び「光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15」は、「光電子増倍管12」の「電流パルス」を出力する読み出し側に電気的に結合しているということができる。
したがって、引用発明の「該光(光パルス)は光電子増倍管12によって電流パルスに変換され、
該電流パルスは、パルスアンプ回路14によってリニア電圧パルスと、光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流電流計測回路15によって定電圧パルスとに変換され、
該リニア電圧パルスと該定電圧パルスは、後段の線量変換回路へ伝えられ、
温度補償回路17は、光電子増倍管12に隣接して配置され、その周辺の温度を計測する測温素子16からの温度信号が入力され、該温度信号を、該温度信号にしたがった光電子増倍管12のバイアス電圧である高電圧発生回路13の発生高電圧の値を制御するための制御信号に変換し、
該制御信号は、高電圧発生回路13に入力され、該高電圧発生回路13は、光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償するバイアス電圧を発生し、該バイアス電圧は光電子増倍管12に供給され」る構成における「温度補償回路17」、「パルスアンプ回路14」、「高電圧発生回路13」及び「光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15」からなるものは、本願発明の「前記光センサの前記読み出し側に電気的に結合された処理電子機器」に相当する。

カ 上記ア?オから、本願発明と引用発明とは、
「感光側及び反対の読み出し側を有する光センサと、
前記光センサの前記感光側に光学的に結合されたシンチレータと、
前記光センサの前記読み出し側に電気的に結合された処理電子機器と、
を有し、
前記光センサ、前記シンチレータ及び前記処理電子機器は、熱結合している」点で一致し、次の相違点1、2で相違が認められる。

(相違点1)
「光センサ」及び「シンチレータ」について、本願発明は、「アレイ」であるのに対し、引用発明の「シンチレータ11」及び「光電子増倍管12」は、1つである点。
(相違点2)
「処理電子機器の熱係数の値」について、本願発明は、「光センサアレイの熱係数と前記シンチレータアレイの熱係数との和の負にほぼ等しい値に設定される」のに対し、引用発明では、「温度補償回路」、「パルスアンプ回路14」、「高電圧発生回路13」及び「光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15」からなるものの熱係数の値の設定についての特定はない点。

(2)判断
相違点1、2について検討する。
(相違点1について)
引用発明のような、「放射線検出器1b」を、検出する放射線範囲に応じて、アレイとして用いることは周知であるから、引用発明の「シンチレータ11」及び「光電子増倍管12」をアレイとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(相違点2について)
引用発明では、光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償して、放射線検出器の放射線検出特性(線量率換算)の温度依存性を所定の精度(例えば±5%)内に収める温度補償回路を備えていることから、温度補償回路は、光電子増倍管12の温度係数及びシンチレータ11の温度係数を打ち消すような補償を行っていることは明らかであって、言い換えれば、その温度補償は、「温度補償回路」、「パルスアンプ回路14」、「高電圧発生回路13」及び「光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15」とからなるものの熱係数が、「光電子増倍管12」の熱係数と「シンチレータ11」の熱係数との和の負にほぼ等しい値に設定されるのと同じ温度補償を行っていることは明らかである。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではないか、仮に相違点だとしても、当業者が容易に想到し得たものである。

6.請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は、平成28年2月24日付けの意見書において、次のように主張している(審決注:意見書における「引用例2」は、本審決の「引用例」であるから、意見書に記載された「引用例2」を「引用例」と書き改めた。)。
「引用例には、シンチレータを有する放射線検出器に温度補償回路を設け(図2)、光電子増倍管のゲインの温度変化及びシンチレータの発光特性の温度変化を補償することが記載されています(段落0019、0020)。しかし、引用例には、具体的な温度補償に関する記載はなく、「前記処理電子機器において、前記処理電子機器の熱係数の値は、前記光センサアレイの熱係数と前記シンチレータアレイの熱係数との和の負にほぼ等しい値に設定される」という特徴は記載されていません。
従って、本願発明は、引用例から容易に想到できるものではありません。」

(2)請求人の主張に対する合議体の見解
ア まず、「温度補償回路」について検討する。
特開平1-113689号公報には、「放射線検出装置」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。
「対数増巾回路2への入力電流Iと出力電圧Vとの関係は、理論的には、下記となる。
V=k/q Ta loge(I/I_(S)+1)
ここで
k ・・・ボルツマン定数
q ・・・電子の電荷量
Ta・・・温度(絶対温度表示)
Is・・・コレクタ接合逆方向飽和電流」(2頁左下欄1?9行)
「Isが温度Taの3乗に比例して増加することによる出力電圧の非線形的変化を補償した従来の回路例を第4図に示す。増巾器20の出力段にトランジスタ24を介して第2の演算増巾器25を設けた。トランジスタ24はトランジスタ21と同一特性であり、トランジスタ24と21とのエミッタ相互を接続し、トランジスタ24とコレクタには抵抗R_(1)を介して正極バイアス電圧Vsを印加し、このコレクタとベースとの直結をはかった。この回路例によれば、出力電圧V_(01)は、
V_(01)=k/q Ta loge(I/I_(S)+1)
-k/q Ta loge(I_(B)/I_(S)+1) ・・・(2)
となる。ここで、I>>I_(S),I_(B)>>I_(S)とすれば、(2)式は、
V_(01)≒k/q Ta loge(I/I_(B) ) ・・・(3)
となる。(3)式によれば、右辺からIsが消去され、Isの温度変化の影響がなくなる。」(2頁右下欄7行?3頁左上欄5行)

第4図「



ここで、式(2)は、V_(01)=k/q Ta loge(I/I_(S)+1)
+(-k/q Ta loge(I_(B)/I_(S)+1))(以下、「式(A)」という。)と変形でき、回路においては、電圧の正負の違いは、基準電圧をどのように決めたかにすぎないことから、式(A)と式(2)は、等価であることは明らかである。
そうすると、式(A)から、トランジスタ21の熱係数(k/q)を補償するためには、トランジスタ24の熱係数を、トランジスタ21の熱係数の負の値(-k/q)に設定すればよいことがわかる。
すなわち、温度補償回路においては、熱係数を補償するために、補償対象の熱係数に対して、補償対象の熱係数を負の値に設定したものを用いることは、当業者にとって明らかな事項である。

イ してみると、引用例の上記「4.(1)イ」の【0019】の「光電子増倍管12のゲインの温度変化及びシンチレータ11の発光特性の温度変化を補償するバイアス電圧を発生して光電子増倍管12に供給し、この放射線検出器1aの放射線検出特性(線量率換算)の温度依存性を所定の精度(例えば±5%)内に収めている。」という記載は、「光電子増倍管12のゲインの温度変化を補償する」光電子増倍管12のゲインの熱係数の負の値と、「シンチレータ11の発光特性の温度変化を補償する」シンチレータ11の発光特性の熱係数の負の値とを加算して、「放射線検出器1aの放射線検出特性(線量率換算)の温度依存性を所定の精度(例えば±5%)内に収め」たものと理解すべきである。

ウ そして、「光電子増倍管12のゲインの熱係数の負の値」と「シンチレータ11の発光特性の熱係数の負の値」とを加算するか、又は、「光電子増倍管12のゲインの熱係数」と「シンチレータ11の発光特性の熱係数」とを加算し、加算された値の負とするかは、加算回路を含む演算回路の設計にあたって、当業者が適宜決定すべきものであって、設計された回路に格別な相違が生じるものではない。
要するに、演算回路において、「負の和」を演算するか、「和の負」を演算するかは、単なる設計的事項にすぎないことから、上記「5.(2)」の「(相違点2について)」で述べたように、引用発明において、「その温度補償は、『温度補償回路』、『パルスアンプ回路14』、『高電圧発生回路13』及び『光電子増倍管12の出力電流の直流成分を計測する直流成分計測回路15』とからなるものの熱係数が、『光電子増倍管12』の熱係数と『シンチレータ11』の熱係数との和の負にほぼ等しい値に設定されるのと同じ温度補償を行っていることは明らかである」というべきであり、請求人の上記主張は、採用することができない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-22 
結審通知日 2016-04-26 
審決日 2016-05-09 
出願番号 特願2012-501423(P2012-501423)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田邉 英治  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 川端 修
井口 猶二
発明の名称 撮像検出器及び方法  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  

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