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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C07K
管理番号 1319843
審判番号 無効2014-800205  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-12-10 
確定日 2016-09-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第4620804号発明「自己組織化ペプチドおよび高強度ペプチドゲル」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4620804号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成22年2月12日 特許出願
平成22年11月5日 特許権の設定登録
平成26年12月10日 特許無効審判請求
平成27年2月16日 手続補正書
平成27年4月24日 答弁書
平成27年11月27日 口頭審理陳述要領書(請求人及び被請求人)
平成27年12月11日 口頭審理

第2 本件特許発明
本件特許第4620804号の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下、「本件特許発明」という。)。
「RLDLRLALRLDLR(配列番号1)、または、RLDLRLLLRLDLR(配列番号2)のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチド。」

第3 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は、本件特許第4620804号の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明について特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下のように主張する。
(無効理由1)本件特許発明は、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(無効理由2)本件特許発明は、甲第8号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(無効理由3)本件特許発明は、甲第7号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:Zhang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1993,90:3334-3338
甲第2号証:米国特許第5,670,483号明細書
甲第3号証:Zhang et al.,Biopolymers 1994,34:663-672
甲第4号証:米国特許第7,179,784号明細書
甲第5号証:Altman et al.,Protein Science 2000,9:1095-1105
甲第6号証:Caplan et al.,Biomacromolecules 2000,1:627-631
甲第7号証:Yokoi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2005,102:8414-8419
甲第8号証:Kisiday et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2002,99:9996-10001
甲第9号証:Chau et al.,Biomaterials 2008,29:1713-1719
甲第12号証:宣誓書(Shunguang Zhang,Ph.D.)
甲第13号証:宣誓書(Eun Seok Gil)
甲第14号証:Zhang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1997,94:23-28
甲第15号証:Nagai et al.,Biomaterials 2012,33(4):1044-1051
甲第16号証:米国特許第8,299,032号明細書
甲第17号証:米国特許出願公開第2012/0058066号明細書
甲第18号証:Dado et al.,J.Am.Chem.Soc. 1993,115,12609-12610
甲第19号証:Aggeli et al.,Nature 1997,386:259-262
甲第21号証:Zhang,Biotechnology Advances 2002,20:321-339
甲第22号証:米国特許第5,798,243号明細書
甲第23号証:Komatsu et al.,PLoS ONE 2014,9(7):e102778

2.被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては、本件特許発明を無効にすることはできないと主張した。
そして、被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:CORNING社のウェブサイトの印刷物(印刷日:2015年11月16日)ウェブアドレスhttp://catalog2.corning.com/LifeSciences/ja-JP/Shopping/ProductDetails.aspx?categoryname=&productid=354250(Lifesciences)
乙第2号証:上記アドレスのウェブサイトにダウンロード可能な形態でリンクされている技術文献(印刷日:2015年11月13日)ウェブアドレスhttp://csmedia2.corning.com/LifeSciences/media/pdf/an_DL_041_Stem_Cell_Differentiation.pdf
乙第3号証:永井祐介氏による実験成績証明書
乙第4号証:J.Pept.Sci. 2008,l4(2):l52-162

第4 甲号証の記載事項
甲第1?9号証には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は、当審にて付与したものである。)。

1.甲第1号証
(甲1-1)「安定な巨視的膜を形成するための自己相補的なオリゴペプチドの自発的会合
要旨 16残基のペプチド[(Ala-Glu-Ala-Glu-Ala-Lys-Ala-Lys)_(2)]は、水中で、特徴的なβ-シート円二色性スペクトルを有する。塩の添加により、このペプチドは巨視的膜を形成するように自発的に会合する。膜は、加熱又は酸性若しくはアルカリ性溶液中で溶解せず、グアニジン塩酸、SDS/尿素又は種々のタンパク質分解酵素の添加によっても溶解しない。」(第3334頁、表題及び要旨第1行?第7行)
(甲1-2)「この膜は、1%SDS中、90℃にて4時間以上安定である。これらの観察結果は、β-シートのCDスペクトルが、EAK16溶液を90℃で加熱により、又は様々なpH(1.5、3.0、7.0及び11)により、又は0.1%SDS、7Mグアニジン塩酸若しくは8M尿素により、有意に変化しないことを示す他の研究と一致している。」(第3335頁左欄第1行?第6行)
(甲1-3)「塩の効果 この自発的な会合過程において、塩は重要な役割を果たすように思われる。種々のカチオンが試された。膜形成の誘導における有効性は、Li^(+)>Na^(+)>K^(+)>Cs^(+)の順であろう。Cs^(+)は、構造的な膜というよりも、ほとんど沈殿を生成した。水溶液中において、Li^(+)は、最も大きな水和半径(3.4Å)を有し、一方、Na^(+)(2.76Å)、K^(+)(2.32Å)及びCs^(+)(2.28Å)は、より小さな水和半径を有する(11)。膜の形成は、一価の金属イオンのエンタルピーの順に相関しているようである(11)。」(第3335頁左欄第10行?第19行)

2.甲第2号証
(甲2-1)「発明の概要
EAK16と名付けられた小ペプチド(AEAEAKAKAEAEAKAK配列番号2の310-325)は、ミリモル濃度の塩の存在下で安定な巨視的膜に自己組織化することが思いがけなく発見された。この発明は、ペプチドの安定な巨視的膜への自己組織化に関する。膜を形成するペプチドは、両親媒性、すなわち、疎水性及び親水性のアミノ酸残基を交互に有し;12アミノ酸よりも大きく、そして好ましくは少なくとも16アミノ酸であり;相補的かつ構造的に互換的であるとして特徴付けられている。相補的とは、その親水性側鎖間で形成するイオン化対及び/または水素結合を通して相互作用するペプチドの能力を指し、そして構造的に互換的とは、そのペプチド骨格間の一定の距離を維持する相補的ペプチドの能力を指す。これらの特性を有するペプチドは、二次構造レベルでのβ-シート及び三次構造レベルでの織り合わされた繊維の形成及び安定化をもたらす分子間相互作用に関与する。」(第1欄第29行?第49行)
(甲2-2)「その親水性側鎖間のイオン化対を形成することが可能なペプチドは、本明細書において、相補的であると参照される。相補対相互作用は、親水性側鎖間の水素結合の結果によっても生じ得る。従って、AsnまたはGlnは、膜形成ペプチドにおける荷電残基の代わりの親水性アミノ酸として機能し得る。イオン化対相互作用は水素結合よりも強いので、酸性及び/または塩基性アミノ酸側鎖を有するペプチドは、水素結合性側鎖を有するペプチドよりも安定な膜を形成すると予期されるだろう。」(第5欄第1行?第11行)
(甲2-3)「ペプチドは、完全には相補的または構造的に互換的でないと、核酸のハイブリダイゼーションにおけるミスマッチ塩基対と類似のミスマッチを含有しているとみなすことができる。ミスマッチを含有するペプチドは、ミスマッチ対の破壊力よりもペプチド間相互作用の全体的な安定性の方が支配的な場合は、膜を形成可能である。機能的に、係るペプチドもまた、相補的または構造的に互換的であるとみなすことができる。例えば、ミスマッチアミノ酸対は、両側でいくつかの完全にマッチしたペアに囲まれている場合、寛容であり得る。ミスマッチペプチドは、本明細書記載の方法を用いて、巨視的膜に自己組織化する能力についてテストを受けることができる。」(第6欄第12行?第24行)
(甲2-4)「要約すると、巨視的膜を形成すると予期されるペプチドは、疎水性及び親水性のアミノ酸を交互に有し、12アミノ酸よりも大きく、そして好ましくは少なくとも16アミノ酸長であり、相補的かつ構造的に互換性である。疎水性アミノ酸は、Ala、Val、Ile、Met、Phe、Tyr、Trp、Ser、Thr及びGlyを含む。親水性アミノ酸は、塩基性アミノ酸、例えばLys、Arg、His、Orn;酸性アミノ酸、例えばGlu、Asp;または水素結合を形成するアミノ酸、例えばAsn、Glnであり得る。酸性及び塩基性アミノ酸は、EAK16及びARD16のように、ペプチド上でクラスター化され得る。末端残基のカルボキシル基及びアミノ基は、保護化または非保護化され得る。膜は、自己相補的及び自己互換的なペプチドの均質な混合物中で、または互いに相補的で構造的に互換的なペプチドの不均質な混合物中で形成され得る。上記基準に合致するペプチドは、適切な条件下(下記に記載)で巨視的膜に自己組織化し得る。」(第6欄第25行?第42行)
(甲2-5)「巨視的膜の形成
EAK16の新規な自己組織化は、仔ウシ血清含有組織培養培地(ダルベッコ改変イーグル培地、GibcoBRL、ゲイザースバーグ、メリーランド)中で最初に観察された。膜は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS:150mM NaCl:に10mMリン酸ナトリウム、pH7.4)中でもEAK16から形成し得る。巨視的膜は、水中では形成しないが、リン酸ナトリウムを水-ペプチド水溶液に終濃度約100mg/mlまで添加すると表れる。したがって、塩が、自己組織化プロセスにおいて重要な役割を果たしているようである。」(第6欄第47行?第57行)

3.甲第3号証
(甲3-1)「イオン性自己相補的なオリゴペプチドにおける異常に安定なβ-シート形成
要旨 16残基の両親媒性オリゴペプチド(EAK16)は、一残基おきにアラニンを、そしてまたグルタミン酸及びリジンを含み(Ac-NH-AEAEAKAKAEAEAKAK-CONH_(2))、異常に安定なβ-シート構造を形成しうる。そのβ-シート構造は、水中の極めて低濃度、かつ高温で安定である。そのβ-シート構造は、0.1%SDS、7M塩酸グアニジン又は8M尿素の存在下でさえ有意な変化を受けない。」(第663頁、表題及び要旨第1行?第7行)
(甲3-2)「ペプチドストック溶液は、水中で約0.57mM(1mg/mL)の濃度で調製された(EAK16の分子量は1760である)。EAK16は、水中で3mM(約5mg/mL)の最大溶解度を有するが、23%アセトニトリルには、6mM(約10mg/mL)まで溶解しうる。」(第664頁左欄下から第6行?右欄第1行)
(甲3-3)「

本研究で用いられた交互の両親媒性ペプチドの構造特性
」(第668頁、表2)

4.甲第4号証
(甲4-1)「もし、荷電した残基が置換された場合、すなわち、正に荷電したリジン残基が正に荷電したアルギニンに置換され、そして負に荷電したグルタミン酸が負に荷電したアスパラギン酸に置換されても、本質的に自己組織化の過程に大きな影響はない。」(第2欄、第40行?第45行)
(甲4-2)「アラニンが、例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン又はチロシンのような、より疎水的な残基に変換されると、分子は自己組織化するためのより大きな傾向を有し、強化された材料強度でペプチドマトリクスを形成する。」(第2欄、第50行?第53行)

5.甲第5号証
(甲5-1)「

」(第1096頁、表1)
(甲5-2)「同様に、ペプチドDAR16-IV、DAR16-IV*及びDAR32-IVはすべてN末端に向けて負に荷電した残基のクラスターを有する。DAR16-IV及びDAR16-IV*の両方はまた、β-シートからα-ヘリックスへ二次構造の変換を起こしうる。」(第1097頁左欄第30行?第33行)
(甲5-3)「DAR16-IVの場合は、pH1?2でらせん状の構造を形成し、pH3で移行して、pH5以上でβ-シートに変化する。EAK12-dは、pH1?3でβ-シートを形成し、pH4で移行して、pH5以上でよりらせん状の構造に変化する。」(第1100頁右欄第5行?第9行)
(甲5-4)「β-シート構築の推定構造
伸長したβ-シート主鎖(β-ストランド)をもつ単量体ペプチドは、本質的に不安定であり、それ故、両方の面で会合体を形成するように安定化されなければならない。自己相補的イオン性ペプチドは、疎水性面及び親水性面を含む。その結果、1つの面は分子間イオン性相互作用により安定化され、一方、他の面は、通常の主鎖の水素結合に加えて、分子間疎水性相互作用により安定化される。交互の親水性残基及び疎水性残基により、分子間に重複を起こし、ネットワーク複合体を生成することを可能にする。」(第1100頁右欄第17行?第27行)

6.甲第6号証
(甲6-1)「ファンデアワールス引力に比較して静電反発力の解放により支配されるβ-シートタンパク質の自己会合
三次元マトリクス生体材料へ自己会合し得る一群のペプチドの代表例である、合成オリゴペプチド、n-FKFEFKFEFKFE-c(KFE12)を用いて、我々は、自己会合が、DLVO理論に従って、溶液条件が、電気二重層反発力をフアンデアワールス引力よりも低下させるときに起こることを示す。この理論は、対イオンの臨界凝集濃度が会合を許すために必要であり、この濃度は、対イオンの価数の6乗に反比例することを予測する。我々の実験結果は、KFE12が、低pHにおいて、KCl、K_(2)SO_(4)及びK_(3)Fe(CN)_(6)の3つの異なる塩溶液のそれぞれについて臨界凝集濃度を示し、これらの臨界濃度の相対値はアニオンの価数に予測された依存性に従うことが示す。この理論は、オリゴペプチドが、外因性の塩の非存在下でさえ、電気的に中性の場合に、自己組織化すべきであることをさらに予測する。我々の実験結果は、KFE12がNaOHで中和されたときに、確かにゲルを形成することを示す。したがって、我々は、この種のオリゴペプチドに基づく生体材料の会合をいかにコントロールするかについての基礎的理論的な理解を獲得した。」(第627頁、表題及び要約)
(甲6-2)「KFE12(図1に示される)と称される特定のオリゴペプチドは、ズオチン(Zuotin)タンパク質中にZhangらによって最初に発見された配列の誘導体であって、疎水性側鎖のフェニルアラニンと、荷電した側鎖のリジン及びグルタミン酸を交互に有する。十分な濃度の塩の添加により、弾性ゲルとして挙動する線維状のネットワークが形成される5。我々の目的は、人体の外では可溶性状態(粘性のある溶液を形成)から、人体に注入されるとゲルに転移を起こす材料を製造することである。」(第627頁左欄第11行?第20行)
(甲6-3)「我々は、KFE12は、疎水性効果(水のエントロピーが疎水性側鎖と接触しないときにより大きくなること)により会合するが、この会合は荷電した面からの同種の電荷の反発力によって妨げられるであろうと仮定する。それ故、オリゴペプチドは、同種の電荷の反発力が疎水性効果を上回っているときは会合せずにいるが、静電反発力のエネルギーが疎水性引力のそれより小さくなったとき、自己会合が起こるであろう。」(第628頁左欄第6行?第14行)

7.甲第7号証
(甲7-1)「RADA16-Iの溶液は、ペプチド粉末をミロQ水及びトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解して調製した。20mMトリス塩酸緩衝液中のペプチドの最終濃度は、3mM又は0.5%(5mg/ml)であった。このペプチド溶液を、各測定前に、超音波洗浄機(50T、VWRサイエンティフィック)を用いて最大出力に設定して30分間超音波振盪に付した。」(第8414頁右欄第25行?第31行)
(甲7-2)「

」(第8415頁、図1)
(甲7-3)「

」(第8415頁、図2)
(甲7-4)「足場ヒドロゲルは完全に透明であり、これは、3次元組織細胞培養における正確な画像作成に重要な要件である。」(第8415頁右欄第10行?第13行)
(甲7-5)「AFM画像により、ナノファイバーは、超音波処理前に、数百ナノメートルから数ミクロンの長さの範囲であることが判明した。」(第8416頁左欄第22行?第24行)
(甲7-6)「生物学的材料としてのいくつかのペプチド及びタンパク質のナノファイバー構造は広く研究されてきたが、自己アセンブリ及びリアセンブリのその分子機序は依然として明らかではない。我々はここで、明確に定義されたナノファイバー骨格を形成するイオン性自己相補性ペプチドRADARADARADARADA(RADA16-I)のリアセンブリを報告する。」(第8414頁、要旨第1行?第6行)

8.甲第8号証
(甲8-1)「

(A)単一のKLD-12自己組織化ペプチドの分子モデル。骨格上の交互の疎水性及び親水性残基はβ-シート形成を促進する。正に荷電したリジン(K)及び負に荷電したアスパラギン酸(D)は、β-シートの下方にあり、疎水性のロイシン(L)は、上方にある。この分子構造は、分子間相互作用を通じて自己組織化を促進する。」(第9997頁、図1及びその説明)
(甲8-2)「ペプチドKLD-12は、AcN-KLDLKLDLKLDL-CNH_(2)という配列を有し(図1A)、ペプチド合成機(アプライドバイオシステムズ、ペプチド合成機431A)を用いて合成し、凍結乾燥により粉体とした。」(第9997頁左欄第11行?第14行)

9.甲第9号証
(甲9-1)「本研究では、我々は、細胞応答リガンドを含むナノファイバー状のヒドロゲルを合成するための新規な自己組織化ペプチド鋳型を考案した。特に、アルギニン-アラニン-アスパラギン酸-アラニン(RADA)の、自己組織化構成要素の中に、マトリクスメタロプロテアーゼ-2(MMP-2)感受性ヘキサペプチドの挿入を調べた。 MMP-2ヘキサペプチド基質の位置と、RADAブロックの長さを変えた、一連のペプチドを、平行合成によって調製した。それらの自己組織化能を、円偏光二色性スペクトル及び動的機械的分析によって比較して特徴づけた。すべての異なる挿入パターンの中で、中央部に位置したMMP-2基質の両端に3つのRADA単位を含む配列は、(RADA)_(4)単独で構築された固有の材料と同等な機械的特性及びナノファイバー形態を有するヒドロゲルマトリクスに自己組織化した。」(第1713頁、要旨第2行?第9行)
(甲9-2)CDスペクトルに示されるように、[3,3]及び[4,4]は、他のPVGLIG含有ペプチドよりも高いβ-シート含量を有する。我々は、秩序ある二次構造の優占度は、水中でのナノファイバー形成と、その後の塩誘導性ゲル化のために必要であると予測する。」(第1715頁右欄下から第9行?第5行)
(甲9-3)「

図1 水中の0.1%ペプチド溶液のCDスペクトル:(a)β-シート構造が大部分を占めるPVGLIG含有ペプチド。」(第1716頁、図1及びその説明)
(甲9-4)「

」(第1716頁、表1)
(甲9-5)「レオロジー的及びCD特性を特徴付け、そして比較することにより、[3,3]ペプチドが至適な自己組織化及び機械的特性を有することが分かった。MMP基質の両端に隣接して、3つの反復RADAを有することで、(RADA)_(3)PVGLIG(RADA)_(3)又は略して[3,3]は、30アミノ酸からなり、おおよそ10nmの長さの伸長したアミド主鎖を有する。巨視的には、目視観測及びDMAの両方により、このペプチドからヒドロゲルの形成を観測した。」(第1716頁右欄第21行?第28行)
(甲9-6)「図3.[3.3]ペプチドについて提唱されたβ-シート集合モデル。RADA集合体の間にPVGLIGのランダムコイル領域(青色バンド)を有するペプチド鎖は、エネルギー的に好都合の相互作用(ピンク矢印)を介して逆平行方向に整列する。4個のβ一鎖を有する単一シートを明示する。」(第1718頁、図3の説明)

第5 当審の判断
1.無効理由1について
(1)甲第5号証に記載された発明
上記記載事項(甲5-1)及び(甲5-4)によると、甲第5号証には、「ADADADADARARARARのアミノ酸配列からなる自己相補的ペプチド」の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件特許発明と甲5発明との対比
本件特許発明のうちの、RLDLRLALRLDLR(配列番号1)のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドに係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)と甲5発明とを対比する。甲5発明の「自己相補的ペプチド」は、本件特許発明1の「自己組織化ペプチド」に相当する。
本件特許発明1の6?8位のLALのアミノ酸配列が、甲5発明の7?9位のADAのアミノ酸配列に対応するように、両アミノ酸配列を対応させて、本件特許発明1のアミノ酸の位置番号に基づいて対比させると、両者は、9及び13位にRを、3位にDを有するアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドである点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)2、4、6、8、10及び12位のアミノ酸が、本件特許発明1はLであるのに対し、甲5発明はAである点。
(相違点2)7位のアミノ酸が、本件特許発明1はAであるのに対し、甲5発明はDである点。
(相違点3)1及び5位のアミノ酸が、本件特許発明1はRであるのに対し、甲5発明はDである点。
(相違点4)11位のアミノ酸が、本件特許発明1はDであるのに対し、甲5発明はRである点。
(相違点5)甲5発明は、さらにN末端に1アミノ酸(A)、C末端に2アミノ酸(AR)を有するのに対し、本件特許発明1は、そのようなアミノ酸を有しない点。

また、本件特許発明のうちの、RLDLRLLLRLDLR(配列番号2)のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチド(以下、「本件特許発明2」という。)についても、7位のアミノ酸がLである点を除き同様の対比ができる。

(3)相違点についての検討
相違点1について検討する。
上記記載事項(甲4-2)から、自己組織化ペプチドにおいて、アラニンをロイシンに置換することの示唆があるといえるから、甲5発明の2、4、6、8、10及び12位のA(アラニン)を、L(ロイシン)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることである。

次に、相違点2について検討する。
上記記載事項(甲9-1)、(甲9-4)及び(甲9-6)から、甲第9号証には、(RADA)_(3)-PVGLIG-(RADA)_(3)の自己組織化ペプチドが記載されているといえる。そして、この自己組織化ペプチドは、親水性のアミノ酸残基(R、D)、疎水性のアミノ酸残基(A)を交互に有するアミノ酸配列が、交互配列ではない非交互配列(PVGLIG)の両端に存在するペプチドである。
一方、甲5発明は、ADADADADARARARARのアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドであり、交互配列のアミノ酸配列のみで構成されるペプチドである。
上記記載事項(甲9-1)、(甲9-4)及び(甲9-6)をみても、甲第9号証の「PVGLIG」という6アミノ酸配列を中央部分に含むアミノ酸配列の記載から、甲5発明の交互配列のアミノ酸配列のみで構成されるペプチドにおいて、中央部ではない7位の親水性のアミノ酸残基であるD(アスパラギン酸)の1アミノ酸残基のみを、疎水性のアミノ酸残基であるA(アラニン)に置換することの動機付けとなるような記載はなく、上記記載事項(甲9-1)、(甲9-4)及び(甲9-6)の他、上記記載事項(甲2-1)?(甲2-5)、(甲4-1)?(甲4-2)、(甲6-1)?(甲6-3)、(甲9-2)、(甲9-3)及び(甲9-5)に基づいても、甲5発明の7位のD(アスパラギン酸)を、A(アラニン)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

次に、相違点3及び相違点4について検討する。
上記記載事項(甲2-4)から、D(アスパラギン酸)もR(アルギニン)も親水性アミノ酸であるから、甲5発明の1及び5位のD(アスパラギン酸)を、R(アルギニン)に置換すること、甲5発明の11位のR(アルギニン)を、D(アスパラギン酸)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることである。

最後に、相違点5について検討する。
上記記載事項(甲9-4)から、非交互配列の両端に結合する交互配列からなる自己組織化ペプチドの長さは、同じであることが望ましいことが理解されたとしても、甲5発明の7位のD(アスパラギン酸)を、A(アラニン)に置換すること、すなわち、非交互配列を設けることは、当業者であっても容易に想到し得ることとはいえないので、交互配列の長さを同じ長さにすることの動機付けは存在しないことになるから、甲5発明のN末端から1アミノ酸(A)を欠失させ、C末端から2アミノ酸(AR)を欠失させることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

また、本件特許発明2も、本件特許発明1の相違点2において検討したように、甲5発明の7位のD(アスパラギン酸)を、L(ロイシン)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(4)本件特許発明の効果について
本件明細書の実施例8の記載及び乙第3号証(実験成績証明書)から、本件特許発明は、中性領域で沈殿することなく安定なゲルを形成し得るという、甲5発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。

(5)まとめ
したがって、本件特許発明は、甲第5号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.無効理由2について
(1)甲第8号証に記載された発明
上記記載事項(甲8-1)及び(甲8-2)によると、甲第8号証には、「KLDLKLDLKLDLのアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチド。」の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件特許発明と甲8発明との対比
本件特許発明1と甲8発明とを対比すると、両者は、2、4、6、8、10及び12位にLを、3及び11位にDを有するアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドである点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)1、5及び9位のアミノ酸が、本件特許発明1はRであるのに対し、甲8発明はKである点。
(相違点2)7位のアミノ酸が、本件特許発明1はAであるのに対し、甲8発明はDである点。
(相違点3)本件特許発明1は、さらにC末端に1アミノ酸(R)を有するのに対し、甲8発明は、そのようなアミノ酸を有しない点。

また、本件特許発明2についても、7位のアミノ酸がLである点を除き同様の対比ができる。

(3)相違点についての検討
相違点1について検討する。
上記記載事項(甲4-1)から、自己組織化ペプチドにおいて、リジンがアルギニンに置換されても本質的に自己組織化に大きな影響はないといえるから、甲8発明の1、5及び9位のK(リジン)を、R(アルギニン)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることである。

次に、相違点2について検討する。
上記記載事項(甲9-1)、(甲9-4)及び(甲9-6)から、甲第9号証には、(RADA)_(3)-PVGLIG-(RADA)_(3)の自己組織化ペプチドが記載されているといえる。そして、この自己組織化ペプチドは、親水性のアミノ酸残基(R、D)、疎水性のアミノ酸残基(A)を交互に有する交互配列が、交互配列ではない非交互配列(PVGLIG)の両端に存在するペプチドである。
一方、甲8発明は、KLDLKLDLKLDLのアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドであり、交互配列のアミノ酸配列のみで構成されるペプチドである。
上記記載事項(甲9-1)、(甲9-4)及び(甲9-6)をみても、甲第9号証の「PVGLIG」という6アミノ酸配列を中央部分に含むアミノ酸配列の記載から、甲8発明の交互配列のアミノ酸配列のみで構成されるペプチドにおいて、中央部ではない7位の親水性のアミノ酸残基であるD(アスパラギン酸)の1アミノ酸残基のみを、疎水性のアミノ酸残基であるA(アラニン)に置換することの動機付けとなるような記載はなく、上記記載事項(甲9-1)、(甲9-4)及び(甲9-6)の他、上記記載事項(甲2-1)?(甲2-5)、(甲4-1)?(甲4-2)、(甲6-1)?(甲6-3)、(甲9-2)、(甲9-3)及び(甲9-5)に基づいても、甲8発明の7位のD(アスパラギン酸)を、A(アラニン)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

最後に、相違点3について検討する。
上記記載事項(甲9-4)から、非交互配列の両端に結合する交互配列からなる自己組織化ペプチドの長さは、同じであることが望ましいことが理解されたとしても、甲8発明の7位のD(アスパラギン酸)を、A(アラニン)に置換すること、すなわち、非交互配列を設けることは、当業者であっても容易に想到し得ることとはいえないので、交互配列の長さを同じ長さにすることの動機付けは存在しないことになるから、甲8発明のC末端から1アミノ酸(R)を付加させることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

また、本件特許発明2も、本件特許発明1の相違点2において検討したように、甲8発明の7位のD(アスパラギン酸)を、L(ロイシン)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(4)本件特許発明の効果について
本件明細書の実施例8の記載及び乙第3号証(実験成績証明書)から、本件特許発明は、中性領域で沈殿することなく安定なゲルを形成し得るという、甲8発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。

(5)まとめ
したがって、本件特許発明は、甲第8号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.無効理由3について
(1)甲第7号証に記載された発明
上記記載事項(甲7-1)及び(甲7-6)によると、甲第7号証には、「RADARADARADARADAのアミノ酸配列からなる自己相補性ペプチド。」の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件特許発明と甲7発明との対比
本件特許発明1と甲7発明とを対比する。甲7発明の「自己相補性ペプチド」は、本件特許発明1の「自己組織化ペプチド」に相当する。
そうすると、両者は、1、5、9及び13位にRを、3及び11位にDを有するアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドである点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)2、4、6、8、10及び12位のアミノ酸が、本件特許発明1はLであるのに対し、甲7発明はAである点。
(相違点2)7位のアミノ酸が、本件特許発明1はAであるのに対し、甲7発明はDである点。
(相違点3)甲7発明は、さらにC末端に3アミノ酸(ADA)を有するのに対し、本件特許発明1は、そのようなアミノ酸を有しない点。

また、本件特許発明2についても、7位のアミノ酸がLである点を除き同様の対比ができる。

(3)相違点についての検討
相違点1について検討する。
上記記載事項(甲4-2)から、自己組織化ペプチドにおいて、アラニンをロイシンに置換することの示唆があるといえるから、甲7発明の2、4、6、8、10及び12位のA(アラニン)を、L(ロイシン)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることである。

次に、相違点2について検討する。
上記記載事項(甲9-1)、(甲9-4)及び(甲9-6)から、甲第9号証には、(RADA)_(3)-PVGLIG-(RADA)_(3)の自己組織化ペプチドが記載されているといえる。そして、この自己組織化ペプチドは、親水性のアミノ酸残基(R、D)、疎水性のアミノ酸残基(A)を交互に有する交互配列が、交互配列ではない非交互配列(PVGLIG)の両端に存在するペプチドである。
一方、甲7発明は、RADARADARADARADAのアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドであり、交互配列のアミノ酸配列のみで構成されるペプチドである。
上記記載事項(甲9-1)、(甲9-4)及び(甲9-6)をみても、甲第9号証の「PVGLIG」という6アミノ酸配列を中央部分に含むアミノ酸配列の記載から、甲7発明の交互配列のアミノ酸配列のみで構成されるペプチドにおいて、中央部ではない7位の親水性のアミノ酸残基であるD(アスパラギン酸)の1アミノ酸残基のみを、疎水性のアミノ酸残基であるA(アラニン)に置換することの動機付けとなるような記載はなく、上記記載事項(甲9-1)、(甲9-4)及び(甲9-6)の他、上記記載事項(甲2-1)?(甲2-5)、(甲4-1)?(甲4-2)、(甲6-1)?(甲6-3)、(甲9-2)、(甲9-3)及び(甲9-5)に基づいても、甲7発明の7位のD(アスパラギン酸)を、A(アラニン)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

最後に、相違点3について検討する。
上記記載事項(甲9-4)から、非交互配列の両端に結合する交互配列からなる自己組織化ペプチドの長さは、同じであることが望ましいことが理解されたとしても、甲7発明の7位のD(アスパラギン酸)を、A(アラニン)に置換すること、すなわち、非交互配列を設けることは、当業者であっても容易に想到し得ることとはいえないので、交互配列の長さを同じ長さにすることの動機付けは存在しないことになるから、甲7発明のC末端から3アミノ酸(ADA)を欠失させることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

また、本件特許発明2も、本件特許発明1の相違点2において検討したように、甲7発明の7位のD(アスパラギン酸)を、L(ロイシン)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(4)本件特許発明の効果について
本件明細書の実施例8の記載及び乙第3号証(実験成績証明書)から、本件特許発明は、中性領域で沈殿することなく安定なゲルを形成し得るという、甲7発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。

(5)まとめ
したがって、本件特許発明は、甲第7号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、請求人の主張するいずれの無効理由にも理由がない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-28 
結審通知日 2016-05-06 
審決日 2016-05-17 
出願番号 特願2010-521242(P2010-521242)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 知美  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 高堀 栄二
山崎 利直
登録日 2010-11-05 
登録番号 特許第4620804号(P4620804)
発明の名称 自己組織化ペプチドおよび高強度ペプチドゲル  
代理人 津国 肇  
代理人 上野山 温子  
代理人 上野山 温子  
代理人 籾井 孝文  
代理人 鈴木 音哉  
代理人 籾井 孝文  
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