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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1319989
審判番号 無効2014-800096  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-06-10 
確定日 2016-08-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第4550080号発明「半導体装置および液晶モジュール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る手続は以下のとおりである。
平成15年 6月30日 本件特許出願の原出願(特願2003-18
8854号)の出願
平成19年 3月26日 本件特許の出願
平成22年 7月16日 本件特許の設定登録(特許4550080号
)
平成26年 6月10日 無効審判請求
平成26年 8月29日 審判事件答弁書提出
平成26年10月 7日 審理事項通知書発送
平成26年11月20日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成26年11月20日 証拠説明書(1)提出(請求人)
平成26年11月20日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成26年12月 4日 口頭審理
平成26年12月11日 上申書提出(請求人)
平成26年12月19日 上申書提出(被請求人)

なお、本件特許については、平成23年11月21日付けで本件無効審判請求の請求人である住友金属鉱山株式会社より無効審判(無効2011-800241号、以下「第1無効審判」という。)が請求されている。

また、本件特許について、平成24年1月30日に本件無効審判請求の請求人より無効審判の請求(無効2012-800006号、以下「第2無効審判請求」という。)がなされ、同年9月19日付けで「特許第4550080号の請求項1ないし請求項6に係る発明についての特許を無効とする。」との審決がなされたところ、同年10月26日に本件無効審判請求の被請求人であるシャープ株式会社により審決取消訴訟(平成24年(行ケ)第10373号)が提起され、知的財産高等裁判所において前記審決を取り消す旨の判決(平成25年9月30日判決言渡)があり、当該判決は確定したので、特許庁において更に審理され、同年6月26日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、この審決(以下「第2無効審判確定審決」という。)は同年8月4日に確定し登録されている。


第2.本件特許発明
本件特許第4550080号の請求項1ないし請求項6に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?請求項6に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
絶縁性を有するベースフィルム、該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層、および該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層を有する半導体キャリア用フィルムと、前記配線層に接続された突起電極を有する半導体素子とを備える半導体装置であって、
前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり、そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において、配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×10^(5)?2.7×10^(6)V/mであり、
前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有し、
前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより、前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制することを特徴とする半導体装置。」(以下「本件特許発明1」という。)

【請求項2】
前記半導体素子接合用配線の端子間ピッチが100μm以下となる箇所を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。」(以下「本件特許発明2」という。)

【請求項3】
前記バリア層のクロム含有率が15?30重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。」(以下「本件特許発明3」という。)

【請求項4】
前記バリア層の厚みが10?35nmであることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の半導体装置。」(以下「本件特許発明4」という。)

【請求項5】
前記ベースフィルムの厚みが25?50μmであることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の半導体装置。」(以下「本件特許発明5」という。)

【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の半導体装置を備えたことを特徴とする液晶モジュール。」(以下「本件特許発明6」という。)


第3.当事者の主張及び証拠方法
1.請求人
請求人は、「特許第4550080号の特許を無効とする。審判請求費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており、請求人の主張する無効理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
(1)無効理由
A.無効理由1
本件特許発明1ないし6は、特開2002-252257号公報(甲第1号証)に開示された発明(以下「引用発明1」という。)に対して、甲第6号証記載事項及び甲第2号証、甲第18号証又は甲第22号証記載事項を適用することにより出願前に当業者が容易に発明できたものであり、あるいは、引用発明1に対して、甲第2号証ないし甲第22号証及び甲第24号証ないし甲第29号証に示されたような周知技術を適用することによっても出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

B.無効理由2
本件特許発明1ないし6は、特開平6-120630号公報(甲第2号証)に開示された発明(以下「引用発明2」という。)に対して、甲第1号証記載事項及び甲第6号証記載事項を適用することにより出願前に当業者が容易に発明できたものであり、あるいは、引用発明2に対して、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第22号証及び甲第24号証ないし甲第29号証に示されたような周知技術を適用することによっても出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)証拠方法
請求人は、証拠方法として、審判請求書とともに、以下の甲第1号証ないし甲第25号証を、写しを原本として提出した。
また、平成26年11月20日付け口頭審理陳述要領書において甲第23号証の提出を撤回するとともに、前記口頭審理陳述要領書とともに、以下の甲第26号証ないし甲第29号証を、写しを原本として新たに提出した。

甲第1号証 特開2002-252257号公報
甲第2号証 特開平6-120630号公報
甲第3号証 平成15(2003)年5月20日に技術情報協会によ
り頒布されたテキスト「セミナーテキストNO.1」
甲第4号証 2002(平成14)年8月に被請求人により頒布され
た製品カタログ「SHARP液晶用LSI 2002.8」
甲第5号証 2001(平成13)年12月に(株)工業調査会により
発行された雑誌「M&E」2001年12月号第94?
99頁
甲第6号証 2003(平成15)年5月15日に日本材料学会によ
り発行された学会誌「材料」VOL.52 NO.5 MAY 2003の第
529?534頁に掲載された論文「プリント配線板の
耐イオンマイグレーション性に関する研究」
甲第7号証 平成15(2003)年1月20日に(株)技術調査会に
より発行された雑誌「エレクトロニクス実装技術」20
03年2月号Vol.19 No.12 第58?61頁「TAB材料の
現状と今後」
甲第8号証 平成12年2月29日に丸善株式会社により発行された
書籍「腐食・防食ハンドブック」第841?849頁
甲第9号証 平成11年9月30日に丸善株式会社により発行された
書籍「金属の百科事典」第513頁
甲第10号証 2001(平成13)年8月20日に岩波書店により発
行された書籍「岩波 理化学辞典 第5版」第785頁
、992頁
甲第11号証 特開平7-283525号公報
甲第12号証 昭和48年8月30日に日刊工業新聞社により発行され
た書籍「ステンレス鋼便覧」第201?205頁
甲第13号証 昭和41年9月30日に(株)地人書館により発行された
書籍「非鉄材料の選定と加工」第282頁
甲第14号証 1996年12月に回路実装学会((社)プリント回路学
会)により発行された信頼性解析技術委員会絶縁信頼性
評価研究会技術報告「イオンマイグレーションの試験方
法ノウハウ集」第45?63頁
甲第15号証 2000年に発行された溶接学会論文集第18巻第1号
p.146?152の論文
「ウォータドロップ試験における電気化学反応電気量よ
るマイグレーション感受性評価」
甲第16号証 2001年に発行されたエレクトロニクス実装学会誌
Vol.4 No.3(2001)p.237?240の論文
「紙フェノール基材プリント配線板の表面を進展するイ
オンマイグレーション」
甲第17号証 特開平5-144887号公報
甲第18号証 「Adhesiveless Copper on Polyimide Substrate with
Nickel-Chromium Tiecoat」Paper presented at IPC
Printed Circuits Expo 2003, Long Beach, CA, March
23-27, 2003.
甲第19号証 特開昭58-64364号公報
甲第20号証 1989年に産業図書より発行された書籍
「腐食反応とその制御(第3版)」第369?373頁
甲第21号証 1985年に歯科材料・機械学会から発行された学会誌
歯科材料・器械 Vol.4 No.5 p.455?480
「歯科鋳造用Ni-Cr系合金のNi溶出と電気化学的腐食挙
動について」
甲第22号証 特表2000-508265号公報
甲第23号証 特開平11-278941号公報
(審決注:甲第23号証は、請求人提出の平成26年11月20日付け口頭審理陳述要領書にて撤回)
甲第24号証 2002年11月に溶接構造シンポジウムで発行された
講演論文集の論文「プリント配線板の耐イオンマイグレ
ーション性に関する研究」
甲第25号証 1999年7月1日にタバイエスペック株式会社により
発行された技術情報誌「ESPEC技術情報」No.18 p.
1?5
甲第26号証 岩波 理化学辞典 第5版第1171頁
甲第27号証 化学大辞典(東京化学同人) 第1988頁
甲第28号証 化学大辞典(共立出版) 第7巻第802頁
甲第29号証 現代電気化学(培風館 昭和62年9月10日 初版
第15刷発行187頁)

被請求人は、甲第1号証ないし甲第22号証、及び、甲第24号証ないし甲第29号証の成立を認めている

(3)請求人の主張の要点
審判請求書、請求人提出の平成26年11月20日付け口頭審理陳述要領書の内容からして、請求人の主張の要点は以下のとおりである。
A.無効理由1に関して
ア.引用発明1
甲第1号証には、以下の発明(「引用発明1」)が開示されている。
「絶縁性を有するベースフィルムであるポリイミド系フィルム1、
該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが30nm(=0.03μm)のスパッタ層3、および
該スパッタ層の上に形成された銅を含んだ導電物からなると共に表面に無電解スズメッキが施された厚付け銅メッキ層2
を有する半導体キャリア用フィルムと、
前記厚付け銅メッキ層2に接続された突起電極を有する半導体チップとを備える半導体装置であって、
前記スパッタ層3と前記厚付け銅メッキ層2とを配線回路パターンに形成した半導体チップ実装用(櫛形)配線が複数あり、そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体チップ実装用配線の間において、配線間距離及び出力により定まる電界強度が2.4×10^(6)V/mであり、
前記半導体チップ実装用配線(櫛形電極)の配線間距離が25μmとなる箇所を有し、
前記スパッタ層におけるクロム含有率が10重量%を超えた値においても、マイグレーションを抑制する半導体装置。」

イ.本件特許発明1と引用発明1との一致点及び相違点
引用発明1は、本件特許発明1とは、以下の事項について一致するとともに、以下の点で相違する。
(一致点)
「絶縁性を有するベースフィルム(10)、
該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層(2)、および
該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層(3)
を有する半導体キャリア用フィルム(1)と、
前記配線層に接続された突起電極(22)を有する半導体素子(21)とを備える半導体装置(20)であって、
前記バリア層(2)と前記配線層(3)とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり、そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において、配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×10^(5)?2.7×10^(6)V/mであり、
前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有し、
前記バリア層におけるクロム含有率が10重量%を超えた値において、マイグレーションを抑制することを特徴とする半導体装置。」

(相違点1-1)
本件特許発明1では、「マイグレーションを抑制する」効果におけるマイグレーションがバリア層の溶出によるマイグレーションであるとしているのに対して、引用発明1では、マイグレーション抑制効果におけるマイグレーションがスパッタ層の溶出によるマイグレーションであるか否かについて明記していない点。

(相違点1-2)
引用発明1では、クロム含有率が10重量%を超えた値においてもマイグレーションを抑制するがクロム含有率を15?50重量%に設定していないのに対して、本件特許発明1では、バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とするものである点。

ウ.相違点1-1について
引用発明1の効果に対して甲第6号証に記載された「Ni溶出によるマイグレーション」という技術事項を適用することにより、相違点1-1は、当業者に容易に認識することができ容易想到である。
或いは、甲第6号証等の複数の公知文献に示されているように、マイグレーションがバリア層の溶出によるものであることは周知ないしは技術常識である。引用発明1の効果に対してこの周知な技術事項又は技術常識を適用することにより、相違点1-1は、当業者に容易に認識することができ容易想到である。

エ.相違点1-2について
「前記スパッタ層におけるクロム含有率が10重量%を超えた値においても、マイグレーションを抑制する」引用発明1に、「マイグレーション現象が金属の腐食現象の一種であること」、「半導体キャリア用フィルムのニッケル-クロム合金層及び銅層から成る配線回路パターン間におけるマイグレーションは、銅の溶出だけでなく、ニッケルの溶出を伴うもの」であり「ニッケル-クロム合金層の上に銅層が形成されている構造であることからして、先ずニッケルが溶出して、その後銅が溶出していくという一連の腐食現象であること」、「ニッケル-クロム合金層のクロムの含有率を高くすればする程、腐食を防ぐ効果があること」、及び、「引用発明1と同じ微細化配線基板技術において、ニッケル-クロム合金層中のクロム含有率を20重量%前後とする基板が開示されていること」が示された、甲第8号証、甲第6号証、甲第9号証、甲第2号証、甲第18号証、甲第22号証記載の技術事項、ないし、周知技術を組合わせれば(適用すれば)、前記甲第2号証、前記甲第9号証、甲第10号証、甲第12号証、甲第13号証、前記甲第18号証、甲第19号証、甲第20号証、甲第21号証に記載されるように、クロム含有率を15?50重量%の範囲に設定することは容易想到である。

オ.平成26年11月20日付け口頭審理陳述要領書における主張
仮に本件特許発明1と引用発明1との相違点を構成と効果とに分割することなく把握したとしても、無効審判請求書(以下、単に「請求書」という。)において述べたように、本件特許発明1は、引用発明1に対して公知技術、周知技術乃至技術常識を適用することにより想到容易である。

カ.平成26年12月11日付け上申書における主張
請求人は、平成26年12月11日付け上申書で、甲第1号証との関係において、以下のように主張している。
a.「口頭審理において、「本件特許発明1が抑制すべきとしているマイグレーションではバリア層の溶出に加え銅層も溶出するのでしょうか?」との請求人の質問に対して」被請求人は『本件との関連性がないので、回答する必要はありません。』と「回答した」が、「請求人の質問事項が本件の争点である「マイグレーションの抑制」の解釈に関連」している。
b.「結語
……本件特許発明1に係る半導体キャリア用フィルムにおいて抑制すべき電極間のマイグレーション現象には銅の溶出が伴うということを捨象し、かつ引用発明1に係る半導体キャリア用フィルムにおいて抑制すべき電極間のマイグレーション現象はバリア層の溶出が先に生じるということを捨象して論じた被請求人の強弁に誤導されることにより、甲第1号証には銅の溶出しか開示されておらず、バリア層の溶出によるマイグレーションが開示されていないと判断することは、誤りである。
……(中略)……
本件特許発明1が抑制すべき「マイグレーション」は、本件特許明細書にも明記されているように、バリア層の溶出だけでなく銅の溶出によって生じる現象である。したがって、本件特許発明1の「マイグレーション」がバリア層の溶出によることを理由として甲第1号証記載のマイグレーションとは異なると判断することは、誤りである。」

キ.本件特許発明2ないし6について
本件特許の請求項2ないし6に係る本件特許発明2?6の各構成要素は、特開2002-252257号公報に開示された引用発明1に一致し、あるいは引用発明1に対して、甲第2号証、甲第18号証又は甲第22号証に記載の技術事項を適用することにより当業者に容易に発明できたものであり、あるいは引用発明1に対して、甲第2乃至25号証に示されたような周知・慣用技術を適用することによっても当業者に容易に発明できたものである。

B.無効理由2に関して
ア.引用発明2
甲第2号証には、以下の発明(「引用発明2」)が開示されている。
「厚さ50μmの絶縁性を有するポリイミドから成る支持基板1;
該支持基板1上に形成されたNi-Cr合金層2からなり、厚さ200ÅのNi-Cr合金層2;
該Ni-Cr合金層2の上に形成された銅層3及び銅層3上に電解メッキ法で形成した銅層4からなる銅層3、4;
を有する素子搭載用プリント配線基板と、
前記銅層4に接続された突起電極を有する素子とを備える半導体装置であって、
前記Ni-Cr合金層2と前記銅層3、4とを所定の配線パターンに形成した素子接合用配線が複数あり、そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記配線の間において、ラインスペース(配線間距離)が20μmであり、
前記素子接合用配線間距離(ラインスペース)が20μmとなる箇所を有し;
前記Ni-Cr合金層2におけるCr含有率を18重量%とし、微細化プリント配線基板の信頼性を高めた半導体装置。」

イ.本件特許発明1と引用発明2との一致点及び相違点
引用発明2は、本件特許発明1とは、以下の事項について一致するとともに、以下の点で相違する。
(一致点)
「絶縁性を有するベースフィルム(10)、
該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層(2)、および
該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなる配線層(3)
を有する半導体キャリア用フィルム(1)と、
前記配線層に接続された突起電極(22)を有する半導体素子(21)とを備える半導体装置(20)であって、
前記バリア層(2)と前記配線層(3)とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり、
前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有し、
前記バリア層におけるクロム含有率を18重量%とし、微細化配線基板の信頼性を高めることを特徴とする半導体装置。」

(相違点2-1)
本件特許発明1では、該バリア層の上に形成された導電物の表面にスズメッキが施されているのに対して、引用発明2ではその点が不明である点。

(相違点2-2)
本件特許発明1では、少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において、配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×10^(5)?2.7×10^(6)V/mであるのに対して、引用発明2ではその点が不明である点。

(相違点2-3)
本件特許発明1における微細化半導体キャリア用フィルム製品の信頼性は、より詳細にはバリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するという効果である。これに対して、引用発明2においては、微細化プリント配線基板製品の信頼性は、支持基板と銅層との密着強度が高く、微細パターンの形成ができることであり、Ni-Cr合金層2(バリア層)の溶出によるマイグレーションを抑制するという効果が明記されていない点。

ウ.相違点2-1について
引用発明2において銅層3、4の表面にスズメッキを施すことは当業者がきわめて容易になし得ることである。

エ.相違点2-2について
本件特許発明1で特定された電界強度の数値範囲は周知又は標準的な範囲であるということができ、相違点2-2は容易想到である。
さらに、本件特許発明1で特定された電界強度の数値範囲は、引用発明2(甲第2号証)を通常の使用環境の下で実施され得る技術事項に過ぎないということができる。

オ.相違点2-3について
甲第6号証に開示されているNiの溶出によるマイグレーション及び甲第1号証に開示されているクロム含有率を増加させることによりマイグレーションを抑制するという技術事項を引用発明2に適用することにより、相違点2-3は、当業者に容易想到である。
或いは、甲第6号証及び甲第1号証等の複数の公知文献に示されているように、マイグレーションがバリア層(=ニッケル-クロム合金層)の溶出によるものであること及びクロム含有率を増加させることによりマイグレーションを抑制するという技術事項は周知であり、これらの周知な技術事項を引用発明2に適用することにより、相違点2-3は、当業者に容易想到である。

カ.本件特許発明2ないし6について
本件特許の請求項2ないし6に係る本件特許発明2?6の各構成要素は、特開平6-120630号公報に開示された引用発明2に一致し、あるいは引用発明2に対して、甲第1号証及び甲第3号乃至25号証に示されたような周知・慣用技術を適用することにより、当業者に容易に発明できたものである。

2.被請求人
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求める。」との審決を求めており、被求人の主張する答弁の理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
(1)答弁の理由の概要
A.無効理由1に対して
本件特許発明1は、甲1発明及び甲各号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1を直接または間接的に引用するものであるから、本件特許発明2ないし6も、甲1発明及び甲各号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

B.無効理由2に対して
以上のとおり、本件特許発明1は、甲2発明及び甲各号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1を直接または間接的に引用するものであるから、本件特許発明2ないし6も、甲2発明及び甲各号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのである。
無効理由2についての請求人の主張は、別件判決の既判力に抵触し、紛争を蒸し返すものに他ならない。

(2)証拠方法
被請求人は、平成26年8月29日付け審判事件答弁書とともに、以下の乙第1号証ないし乙第2号証を、写しを原本として提出した。

乙第1号証 平成25年9月30日判決(平成24年(行ケ)
第10373号)
乙第2号証 無効2012-800006号事件の平成26年6月
26日付審決

請求人は乙第1号証及び乙第2号証の成立を認めている。

(3)被請求人の主張の要点
審判事件答弁書、被請求人提出の平成26年11月20日付け口頭審理陳述要領書の内容からして、被請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
A.無効理由1に関して
ア.一致点及び相違点の認定の誤り
甲第1号証に記載された発明において、パターン形成時の銅の足残りが多くなる問題があると明記されたクロム含有量が10重量%を超える範囲は、配線回路パターンのエッチング性を低下させているので、実質的にはクロム含有量を10重量%を超える範囲とすることは除外されている。したがって、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とは、クロム含有率が10重量%を超えた値においてマイグレーションを抑制するという点において一致しないのであり、請求人の主張する一致点は誤りである。
また、本件特許発明1では、ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることによって、バリア層を形成している成分の水分中への溶出を抑制することができマイグレーションの発生を抑制することができるものであるから、技術的にも一体不可分のものである。よって、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明との相違点は、「前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより、前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制すること」が開示されていない点(以下、この相違点を「相違点A」という。)であり、これを2つに分割した請求人の相違点の認定は誤りである。

イ.相違点の容易想到性について
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明のようなクロム含有率3?10重量%の範囲内の7重量%であっても、マイグレーションの問題がある事を発見し、その作用機序がバリア層にあることを解明してなされたものであり、かかる課題及び作用機序を認識していない甲第1号証に記載された発明には、本件発明1を想到する動機付けは存在しない。
また、甲第1号証に記載された発明において、パターン形成時の銅の足残りが多くなる問題があると明記されたクロム含有量が10重量%を超える範囲は、配線回路パターンのエッチング性を低下させていることから、クロム含有量を10重量%を超える範囲とすることは実質的に除外されており、当業者は、10重量%を超えた値とした場合に耐マイグレーション性の向上効果が増大することが確認されるとは予測しないものである。
したがって、甲第1号証に記載された発明において、相違点Aに係る構成を採用することは阻害要因が存在し、動機付けがなく、また、甲第1号証に記載された発明において相違点Aに係る構成を採用することで予測できない顕著な効果が存在するのであるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に想到できたものではない。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲各号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、本件発明1を直接または間接的に引用するものであるから、本件特許発明2ないし6も、甲第1号証に記載された発明及び甲各号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

B.無効理由2に関して
ア.本件発明1と甲第2号証に記載された発明との間の相違点
別件審決(乙第2号証)に相違点4として記載されているとおり、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とは、本件特許発明1は、バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより、バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するものであるのに対し、甲第2号証に記載された発明は、Ni-Cr合金層2におけるCr含有率は18?94重量%であるが、バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するものであるか否か特定されていない点で相違する(以下「相違点B」という。)。

イ.相違点Bに係る構成の想到困難性
甲第2号証に記載された発明に接した当業者は、原出願日当時の技術水準に基づき、甲第2号証に記載された発明において本件特許発明1に係る構成を採用することにより、バリア層の溶出によるマイグレーションの発生を抑制する効果を奏することは、予測し得なかったというべきであり、本件特許発明1は容易に想到することができないのである。

ウ.一致点及び相違点の認定の誤り
請求人は、「前記バリア層におけるクロム含有率を18重量%とし、微細化配線基板の信頼性を高めること」を、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明との一致点として挙げるが、この点は一致点ではない。
また、甲第2号証には、Ni-Cr合金層2(バリア層)の溶出によるマイグレーションを抑制するという効果が明記されていない点で、本件特許発明1と相違すると主張するが、かかる相違点は自己に都合良く相違点の内容を変更しており、失当である。

エ.相違点2-3の容易性について
甲第1号証、甲第3号証ないし甲第25号証は、いずれもマイグレーションの発生メカニズムが解明できておらず、その解決手段も見出していなかったのであり、ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することにより、バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率を向上させ、また、バリア層の表面電位を標準電位に近くすることによって、マイグレーションの発生を抑制することについて記載も示唆もしていない。
よって、甲2発明に接した当業者は、原出願日当時の技術水準に基づき、甲2発明において本件発明1に係る構成を採用することにより、バリア層の溶出によるマイグレーションの発生を抑制する効果を奏することは、予測し得なかったというべきであるとして、本件発明1は容易に想到することができないのである。


第4.甲第1?22号証及び甲第24?29号証の記載事項
1.甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開2002-252257号公報)には、「半導体キャリア用フィルム及びその製造方法」(発明の名称)に関し、図1?図3とともに以下の事項が記載されている(下線は参考のため当審が付したものである。以下同じ。)。
a.「【請求項1】 ポリイミド系フィルムの表面に、厚さ70?500Åのニッケル-クロム合金のスパッタ層及び銅のメッキ層が設けられ、さらにその上に銅層が設けられていることを特徴とする半導体キャリア用フィルム。」
b.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体キャリア用フィルム及びその製造方法に関し、詳しくはベースフィルムであるポリイミド系フィルムと銅層との間に、一定厚のニッケル-クロム合金のスパッタ層(シード層)を設けることによって、耐マイグレーション性を向上させた半導体キャリア用フィルム及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】LSI等からなる半導体チップ(電子部品)の実装技術には、チップオンフィルム(COF;Chip on Film)等がある。」
c.「【0003】ここに用いられるチップオンフィルム基板は、ベースフィルムであるポリイミド系フィルム上にシード層を形成後、銅メッキして得られる2層基材を用いる。
【0004】従来、銅メッキ法では、成形されたポリイミドフィルム上の密着強化層(シード層)として金属のスパッタ層を形成し、銅メッキ後、電解銅を厚付けメッキして銅を析出させ厚さ8μm程度の銅メッキ層を形成し、2層基材を作成していた。このスパッタ層は、金属としてニッケル単体が使用されており、その厚さは30?70Åであった。
……(中略)……
【0006】しかし、このような回路基板の電気特性を評価すると、短時間で配線回路パターン間に銅のマイグレーションが生じるという問題があった。液晶ドライバー用TCP(テープキャリアパッケージ)では、従来から信頼性確認条件として、85℃、85%RH、DC60V、1000時間の電圧印加試験を行い、マイグレーションに関する材料評価をしているが、上記のようにして得られた回路基板は、この試験に合格するものではなかった。また、スパッタ層の厚さを600Åと厚くしても、得られた回路基板は、上記と同様に銅のマイグレーションが生じた。」
d.「【0007】従って、本発明の目的は、配線回路パターンのエッチング性やメッキ耐性を低下させることなく、耐マイグレーション特性を著しく向上させた半導体キャリア用フィルム及びその製造方法を提供することにある。」
e.「【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の半導体キャリア用フィルム及びその製造方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】本発明の半導体キャリア用フィルムの概略断面図を図1に示す。図1に示されるように、本発明の半導体キャリア用フィルムは、ポリイミド系フィルム1と銅層2の間に、ニッケル-クロム合金のスパッタ層3と銅のスパッタ層4とが設けられている。
【0013】ポリイミド系フィルム1は、ベースフィルムとして用いられるもので、厚さは38?50μmのものが一般的に用いられ、具体的にはKaEN(商品名:東レ・デュポン社製)、ユーピレクス(商品名:宇部興産社製)、アピカル(商品名:カネカ社製)等が用いられる。このポリイミド系フィルムは、表面がプラズマ処理されている。
【0014】ポリイミド系フィルム1の表面に設けられたニッケル-クロム合金のスパッタ層3は、その厚さが70?500Å、好ましくは100?500Å、さらに好ましくは150?400Åである。ニッケル-クロム合金のスパッタ層3の厚さが70Å未満では、耐マイグレーション性が充分でなく、500Åを超えると回路基板に施される無電解スズメッキの異常析出が著しくなる。
【0015】また、ニッケル-クロム合金中のクロム含有量は、3?10重量%であることが望ましい。クロム含有量が3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく、10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなる問題がある。
【0016】ニッケル-クロム合金のスパッタ層3の上に設けられる銅のメッキ層4は、その厚さが0.5?1.5μmであることが好ましい。
【0017】銅層2は厚付け銅メッキ層であり、その厚さは5?15μmであることが好ましい。」
f.「【0023】
【実施例】以下、実施例等に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0024】〔比較例1?4〕厚さ38μmのポリイミド系フィルム(商品名:KaEN、東レ・デュポン社製)の表面をプラズマ処理した後、表面処理面にニッケル単体をスパッタリングにより付着させ、厚さ30Å(比較例1)、70Å(比較例2)、300Å(比較例3)、600Å(比較例4)のニッケルのスパッタ層をそれぞれ形成した。次いで、その上に銅をメッキ法により付着させ、厚さ1μmの銅のメッキ層を形成した。さらに、その上に電解銅厚付けメッキによって、厚さ8μmの厚付け銅メッキ層を形成し、半導体キャリア用フィルム(2層基材)とした。
【0025】これらの半導体キャリア用フィルム(2層基材)を使用し、通常の方法によって、銅メッキ層側にフォトレジストを塗布し乾燥後、露光、現像、エッチング、フォトレジスト剥離の工程により、櫛形電極パターンを形成し、無電解スズメッキを行い回路基板とした。
【0026】エッチングは、2層基材を35mm幅にスリットした長尺テープを使用し、フォトレジスト(商品名:FR-200、シプレー社製)を塗布後、乾燥し、その後、50μmピッチの櫛形電極パターンを形成したガラスフォトマスクで露光し、さらにアルカリ(KOH)で現像した。次に、HClとH_(2)O_(2)を含む塩化第二銅のエッチングラインで、40℃、2kg/cm^(2)のスプレー圧でエッチングし、図2に示されるような50μmピッチの櫛形電極パターンを形成後、0.5μm厚に無電解スズメッキを行った。その後、125℃、1時間のアニール処理を行った。
【0027】図2に示されるように、櫛形電極は、負極5a及び陽極5bの一対で、ポリイミド系フィルム1上に形成される。また、無電解スズメッキは、電解液としてLT-34(商品名、シプレー社製)を用い、70℃、約3分の条件で行った。」
g.「【0028】〔実施例例1?3及び比較例5〕厚さ38μmのポリイミド系フィルム(商品名:KaEN、東レ・デュポン社製)の表面をプラズマ処理した後、表面処理面にニッケル-クロム(5重量%)合金をスパッタリングにより付着させ、厚さ30Å(比較例5)、70Å(実施例1)、150Å(実施例2)、300Å(実施例3)のニッケル-クロム合金のスパッタ層をそれぞれ形成した。次いで、その上に銅をメッキ法により付着させ、厚さ1μmの銅のメッキ層を形成した。さらに、その上に電解銅厚付けメッキによって、厚さ8μmの厚付け銅メッキ層を形成し、半導体キャリア用フィルム(2層基材)とした。
【0029】これらの半導体キャリア用フィルム(2層基材)を使用し、比較例1と同様にして、図2に示されるようなポリイミド系フィルム1の上に、櫛形電極5a、5bを形成した。」
h.「【0030】実施例1?3及び比較例1?5で得られた櫛形電極に、電圧(DC60V)を付加し、恒温恒湿槽(FX412Pタイプ、エタック社製)の中に入れて、85℃、85%RHの条件で、マイグレーション評価を行った。評価は、電圧負荷状態のまま5分毎に絶縁抵抗値を算出してマイグレーション評価とした。結果を表1に示す。また、比較例1において、200時間経過後のマイグレーションの発生状態を示す模式平面図を図3に示す。
……(中略)……
【0032】表1に示されるように、150、300Åのニッケル-クロム合金のスパッタ層を有する実施例2?3は、比較例1?5に比較して、マイグレーション発生の時間が長くなっていることが分かる。また、70Åのニッケル-クロム合金のスパッタ層を有する実施例1は、70Åのニッケルのスパッタ層を有する比較例2に比較して、マイグレーション発生の時間が長い。
【0033】また、図3に示されるように、比較例1では、櫛形電極5a、5b間にマイグレーション6の発生が顕著であった。
【0034】
【発明の効果】本発明の半導体キャリア用フィルムによって、配線回路パターンのエッチング性やメッキ耐性を低下させることなく、耐マイグレーション特性を著しく向上させることができる。また、本発明の製造方法によって、上記半導体キャリア用フィルムが経済性をもって、工業的規模で製造できる。」
i.表1には、
・実施例1?3の「スパッタ層」は、すべて「Ni-Cr(5重量%)」の「組成」を持ついこと、
・「スパッタ層厚み」は、実施例1が「70」Åであること、実施例2が「150」Åであること、実施例3が「300」Åであること、
・「マイグレーション発生時間」は、実施例1が「300」hrであること、実施例2が「800<」hrであること、実施例3が「800<」hrであること、
が記載されている。
j.「ポリイミド系フィルム上に形成された櫛形電極の平面図」(図面の簡単な説明)を図示する図2には、櫛形電極の各電極が互い違いに交差する部分では、電極幅と、隣り合う電極間距離は、略等しいことが図示されている。

2.甲第2号証の記載事項
甲第2号証(特開平6-120630号公報)には、「プリント配線基板用の銅箔」(発明の名称)に関し、図1?図4とともに次の事項が記載されている。
a.「【請求項1】プリント配線基板用の銅箔において,支持基板と銅層との間に中間層としてNiが5at%?80at%のNi-Cr合金層を設けたことを特徴とするプリント配線基板用の銅箔。」
b.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プリント配線基板用の銅箔に関し、更に詳しくは、配線パターンを形成するためのエッチング処理を容易に行うことが出来、支持基板に対して優れた密着性を有するプリント配線基板用の銅箔に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、プリント配線用の銅箔を被覆するための支持基板としては、テープ自動ボンデイング(TAB)用、フレキシブルプリント配線板(FPC)用には、配線パターンと素子をハンダ付けを必要とする場合は耐熱性の要求性からポリイミド、ポリアミド等の耐熱性の高分子フィルムが、またハンダ付けを必要としない場合はポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムが知られており、また、リジット配線用にはアルミナ(Al_(2)O_(3))、ガラスエポキシ等のセラミックが知られている。そしてこれらの支持基板に厚さ12?50μm程度の圧延銅箔或いは電解銅箔を接着剤で貼着してプリント配線基板用の銅箔とし、該銅箔に配線パターンを施していた。」
c.「【0005】また、高分子フィルム、セラミック等の支持基板と、その表面に被覆せる銅層との密着性は、その界面に酸化銅(CuO,Cu_(2)O)等の脆弱層が発生するために非常に弱く、プリント配線基板に要求される銅層との密着強度1000g/cmを維持するために通常、支持基板と銅層との間に中間層としてクロム層を設けていた。」
d.「【0012】しかしながら、クロムは耐食性に優れているから銅層と同じエッチング溶液ではパターンを形成することが出来ず、塩化第2鉄と塩酸との混合液で行うようにしているので、1種類のエッチング溶液で銅箔とクロム層のエッチング処理を連続的に行えず、従って、エッチング処理が2工程となり、しかもクロム層へのエッチング処理は短時間で行わなければならないから、エッチング処理は複雑となるばかりではなく、全体のエッチング処理が長時間となるため、クロム層bへのエッチング処理時に既にエッチングされている銅層c,dの側壁にオーバーエッチングが進行して配線パターンに欠陥部が生じて断線に至るという問題がある。」
e.「【0014】本発明はかかる問題点を解消し、1種類のエッチング溶液で配線パターンを形成することが出来、中間層としてクロム層を介在させた場合と同等の密着強度を有するプリント配線基板用の銅箔を提供することを目的とする。」
f.「【0025】実験例
本実験例では支持基板1上へのNi-Cr合金層2、銅層3、銅層4の形成を次のように行った。
【0026】先ず、厚さ50μmのポリイミドから成る支持基板1をNi-CrカソードとCuカソードを2台有する連続巻取式スパッタ装置を備えた真空成膜室内に載置した後、該真空成膜室内を真空ポンプ等を介して真空度1×10^(-5)Torr以下に設定し、続いて該成膜室内が5×10^(-3)Torrとなるようにアルゴンガスを導入した。次いで、支持基板1にDCマグネトロンスパッタ法で該支持基板1上に厚さ200Åの図2示すようなNiの含有量が異なった種々のNi-Cr合金層2を形成し、続いて該Ni-Cr合金層2上に厚さ2000Åの銅層3を連続形成した後、該支持基板1を真空成膜室内より取り出した。
【0027】尚、支持基板1上に形成するNi-Cr合金層2のNiの含有量調整は、Ni-Cr合金の組成(CrへのNiドープ量)を変化させたターゲットを用いて行い、また、Ni-Cr合金層2上に形成する銅層3は99.99%の無酸素銅をターゲットとした。
【0028】続いて、該支持基板1を20wt%の硫酸銅溶液中に浸漬し、電解メッキ法で銅層3上に厚さ20μmのメッキ銅層4を形成した後、該支持基板1を電解メッキ槽より取り出し、洗浄処理を行って、中間層としてNi含有量の異なるNi-Cr合金層を有する各基板用銅箔を作成した。
【0029】作成された各基板用銅箔の銅層3,4に配線パターンを形成すべく、常法に従い、レジスト材を塗布して露光し、ラインスペース20μmのレジストパターンを形成した後、塩化第2鉄の40g/リットル、温度50℃のエッチング溶液中への浸漬によるエッチング処理、並びに洗浄処理を行って銅層3,4に所定の配線パターンを形成した。
【0030】そして、各基板用銅箔の支持基板1と銅層3,4との密着強度(g/cm)を180°反転剥離法(JPCA-FC01-4.4に準拠)により測定し、その測定結果を図2に示す。
【0031】また、配線パターンが形成された各基板用銅箔の断面形状を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、その模式を図3に示した。尚、図3にはNi-Cr合金層中のNi含有量が0at%、4at%、5at%並びに80at%の場合のみを示した。
【0032】図2から明らかなように、Ni-Cr合金層中のNiが1at%?80at%の範囲で、Niを全く含まないクロム層のみの場合と同等の密着強度が得られることが確認された。また、図3から明らかなように、Ni-Cr合金層中のNiが4at%の場合、Niを全く含まないクロム層の場合は、エッチング処理時に中間層であるクロム層またはNiが4at%のNi-Cr合金層がエッチングされることなくそのまま残渣として残存するが、Niが5at%、80at%のNi-Cr合金層はエッチング時に、その上に形成されている銅層と一緒に除去されて配線パターンが確実に形成出来ることが確認された。
【0033】前記の如く、本発明の中間層としてNiが5at%?80at%のNi-Cr合金層を有する銅箔は、1000g/cmの高い密着強度を有し、かつ1種類のエッチング溶液で配線パターンを確実に形成することが可能となり、プリント配線基板の配線パターン形成の際、工程の簡略化、製品の歩留まりアップ、コストの削減に大きく寄与出来る。」
g.図3には、Ni=0at%(従来の銅箔)、Ni=4at%、Ni=5at%及びNi=80at%の4つの場合について、それぞれエッチング処理後の模式図が示されている。
同図から、Ni=0at%及び4at%の場合、支持基板上のNi-Cr合金が除去しきれず、銅層間に残存していることが、図示されている。
また、Ni=0at%の模式図中に記載された所要の寸法によれば、銅層の配線幅が20μmであること、また、隣り合う銅層の配線間の距離が20μmであることが見て取れる。

3.甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
a.「LCDパネルの高精細化とドライバICパッケージの動向」を示す第2頁(右上の頁数。以下、同じ。)に描かれた「COF」の配線ピッチ(μm)の推移によると、2001年ごろの「ドライバICパッケージ」の「配線ピッチ」は「44μm」である。
b.「LCDドライバ用TCP/COFテープの比較」を示す第3頁の右上には「COF」の構造図が示されている。そこでは、「PI」フィルムの下方にある「IC」の「金バンプ」が、上方の前記「PI」フィルム上の「インナーリード」に接続されることが示されている。
c.「COFテープの種類と仕様例」を示す第6頁の「めっきの種類」の欄には、「大型LCDパネル用」及び「携帯機器用」とも、『無電解Snめっき』と記載されている
d.「COF2層テープの絶縁信頼性試験結果」を示す第21頁には、「評価パターン:櫛形電極、L/S=25/25μm」と、「試験条件:85℃/85%RH、DC55V印加」と記載されている。
d.「基板・パッケージの長期絶縁信頼性における主な劣化要因」を示す第20頁の表には、「環境条件」を「要因」として、「電気化学的腐食反応の促進」及び「イオン(銅)マイグレーション」が生じることが記載されている。

4.甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
a.第8頁の「ノートPC/PCモニタ用TFT液晶ドライバ」の頁には、様々な液晶ドライバの仕様が示されており、「ソースドライバ(ドット反転駆動*1)」の液晶ドライバの「液晶駆動電圧(V)MAX」は12?15Vの範囲にあることが記載されている。
そして、前記液晶ドライバのうち、例えば、出力数が480ピンである型名「LH168V」の液晶ドライバの「液晶駆動電圧(V)MAX」は「13」Vであることが示されている。
b.第11頁の「液晶ドライバパッケージ技術」の頁の右上には、「SOF(System On Film)」の「断面構造」が示されている。そこでは、上方にある「ベアチップ」の「金バンプ」が下方の「フィルム」の「銅配線パターン」に接続されていることが描かれている。
また、同頁の第3行には、「お客様の用途に応じてパッケージタイプをTCP、もしくはSOFよりご選択いただけます。」と記載されている。
さらに、同頁左欄中程の「TCP例」として、「超多ピン・ファインピッチTCP」には、「480出力(パッドピッチ50μm…)」と記載されている。

5.甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
a.第95頁の表2には、2001年及び2002年における「T-COF」の「インナーリードピッチ」は、それぞれ、「40/(30)μm」及び「30/(20)μm」であることが記載されている。

6.甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
a.「近年,モバイルコンピュータや携帯電話に代表される電子機器は小型化・軽量化が急速に進められている.それに伴い,プリント配線板のファインパターン化が推進され,バイアス電圧が低いにも関わらず,高電界強度による絶縁層への負担が増している.このため絶縁信頼性が重要視されている.特に,隣接配線間においてイオン化した金属が絶縁間隙を移行・析出するイオンマイグレーション(Ionic Migration, 以下IMと称する)現象による絶縁劣化は,製品寿命を律速し電子機器の著しい信頼性低下を招いている」(第529頁左欄第2?11行)
b.「吸湿防止のための樹脂塗膜が有効であると考えられる……IM抑制のため樹脂コーティングを施し、狭ピッチでの耐IM性の評価試験を実施し……具体的には、電極間隙が20?50μmの狭ピッチにある櫛形銅電極に樹脂コーティングを施し…(中略)…電機抵抗値測定ならびに試験片表面状態に観察により,狭ピッチにおける電子機器の絶縁信頼性確保に寄与する知見を得ることを本研究目的とする.」(第529頁右欄第18行?第530頁左欄第6行)
c.「 2 イオンマイグレーション現象
IM発生原理の基本は電気化学反応に基づく電極金属のイオン化である.電解質(多くの場合は水)を介した二つの電極間に直流電圧が印可されると陽極から電極の金属イオンが溶出する.溶出した金属イオンは電界の作用により電解質中を陰極に向かって移行するが,その間に酸化・還元反応を繰り返しながら金属の水酸化物あるいは酸化物を経て金属として析出する.銅の電気化学反応は以下のように示される.陽極では,
Cu→Cu^(2+)+2e^(-) (1)
H_(2)O→H^(+)+OH^(-) (2)
といった電気化学反応を示し,溶出したCu^(2+)が陰極へ移動する.陰極では,
……(中略)……
Cu^(2+)+2e^(- )→Cu (7)
により銅が析出する.」(第530頁左欄第7?25行)
d.「3 耐イオンマイグレーション性評価試験方法
3.1 試験片作成
本研究で用いた試験片の形状をFig.1に示す.電極としてはCuを用いた櫛形電極,基板としては耐熱性・耐薬品性・寸法安定性に優れフレキシビリティが高いポリイミド基板を用いている.試験片の作成手順は,以下の通りである.ポリイミドフィルムにFig.1(b)に示すNi-Cr接着層をおよそ7nm程度蒸着した後,銅めっきを施し,ポリイミドと銅箔のテープを作成する.次にフォトリソグラフィによって配線パターンを形成し,エッチング処理により櫛形電極を作成する.櫛形電極の電極幅/電極間隙について,L/S=20/20,30/30,50/50(μm/μm)の3水準を用いた.なお,エッチング後は試験片に洗浄を施して残渣を除去し,デシケータ内において室温・乾燥状態で管理した.したがって,マイグレーションに及ぼす残渣の影響は無いものと考える.」と記載されている。(第530頁左欄第32?47行)
e.「コーティング材の膜厚については…(中略)…L/S=30/30μmにおける膜厚をCCDマイクロスコープにより計測した結果をFig.2に示す.基板からの膜厚は平均で10μm前後であり,銅電極とほぼ同程度の厚さに塗布されていることが確認される.」(第530頁右欄第7?13行)
f.「試験システムの構成は…(中略)…試験片に直流電圧を印可し,その電圧を利用して櫛型電極部の絶縁抵抗値を連続的に測定し,抵抗値の時刻歴変化を調査する.試験後は,IMの状況を詳細に調査するため,試験片の表面観察を行う.」(第531頁左欄第7?13行)
g.「3・3試験条件
Table1は試験条件である.…(中略)…印可電圧について一般的なプリント配線板の信頼性試験では3?5V程度が使用されるが,加速のため20Vとしている.試験片数は櫛形電極のL/Sの各水準(20/20,30/30,50/50μm)について各々3本であり,また,比較のためコーティングを施していない試験片(L/S=20/20μm)も1本準備した.」(第531頁左欄第14?22行)
h.「しかしながら今回の試験では,1000時間後においていずれの試験片においても10^(7)Ωを下回る絶縁抵抗低下は確認できなかった.」(第531頁左欄の下から3行目?末行)
i.第531頁左欄のTable 1. には、“Test condition”として、
「Temperature 85℃
Humidity 85%RH
Voltage 20V」
と記載されている。
j.「いずれの試験片においても10^(7)Ωを下回る絶縁劣化または急激な劣化が確認されなかったが,表面観察によれば全ての試験片で析出物が確認されている.したがって,従来のIM評価法で実施されている絶縁抵抗値の変化のみでIMの初期段階を検出することは適切ではないと考える.」(第531頁右欄第4行?第532頁左欄第2行)
k.「コーティングを施した試験片では,L/S比がより狭ピッチに進むにつれ,針状からデンドライト状へと移行しており,狭ピッチ化に伴うIMの成長促進が確認できる」(第532頁左欄第5行?同頁右欄第2行)
l.「また,IMによる析出物はCuだけでなく,Niも関与している.そこでEPMAによる面分析を行った結果をFig.8に示す.Cu電極とポリイミド基板との密着性向上のためのNi-Cr層からNiが溶出したと考えられる.過去にも,集積回路の気密封止パッケージにおいて,Niのデンドライト状析出物の確認が報告されている.一般にNiは耐MI請求項が良好であるとされているが,本試験結果より狭ピッチにおいてはNi-Cr層等の界面処理についても注意が必要であると考える.」(第533頁左欄第1?9行)
m.「6 結語
……(中略)……
IMを析出物の発生と進展の2つに大別して考えると,従来の耐IM性評価試験方法では,電気抵抗のみの計測により析出物進展後の電極間の短絡を間接的に評価している.しかしながら,IMによって発生する析出物が電極間をブリッジすることにより,初めて絶縁抵抗の低下が検知されるため,析出物の発生から成長における進行過程を把握することが劣化寿命予測において重要である.特に,狭ピッチでの実験結果のように,IMが発生しているにも関わらず絶縁抵抗はそれほどの低下を示さないことから,絶縁抵抗値の変化のみでIMの初期段階を検出することは適切ではないと考える.」(第533頁右欄第15?24行)

7.甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
a.「COF材料の製法にはカプトンやユーピレックスなどの基材にニッケルやクロムを蒸着し(厚さは100Å前後),これをシード層として,その上に銅めっきを行うスパッタ方式…(中略)…がある(図1).」(第58頁右欄第16?20行)
b.「スパッタ材はエッチングだけでは銅の下のニッケルやクロムのシード層を完全に除去できないことがある.特にファインピッチになるとその部分は残りやすく,無電解すずめっき仕上げの場合,この部分からすずの異常析出が起こりやすい(図6).またウィスカの発生もよりおおくなることがわかっている.このシード層の残りはマイグレーション発生の原因にもなり,電機特性上も好ましくない.よってシード層の除去剤などで適切な処理をする必要がある.なお,電解金めっき仕上げの場合もスパッタ材はシード層が溶け出し細線ではパターン剥がれを引き起こすことがあるので注意が必要である.」(第59頁右欄第17行?末行)

8.甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
a.「6.1.1 電子材料の腐食メカニズム
電子材料の腐食は,水溶液中での腐食と同様に水と酸素の存在下で電気化学的に生じる.」(第841頁右欄第4?6行)
b.「図6.1に電子材料に特徴的な腐食メカニズムを示す.銅,銀などではアノードで溶出した金属イオンがカソードに移行,還元,再析出し,デンドライト成長が起こる。これがメタルマイグレーションで,短絡・絶縁不良を起こす。」(第841頁右欄第16?20行)
c.第842頁の「表6.1 主な電子材料で問題となる腐食損傷」である「損傷」には、「皮膜形成(接触不良)」、「クリープ(接触不良)」、「マイグレーション(短絡,絶縁不良)」及び「環境劣化(機構不良,断線)」があること、前記「環境劣化(機構不良,断線)」により起こる事象に「孔食」があることが記載されている。
d.「6.1.3 電子部品の腐食防止技術
前述したように,電子材料の腐食は水分,塵埃,腐食性ガスが共存する環境下で進行する.したがって雰囲気からの水分や腐食性ガスの除去,および塵芥や水分の電子部品内への浸入を遮断することが有効である.さらに耐食材料を使用することにより腐食損傷を低減することが期待できる.」(第846頁右欄第21?26行)

9.甲第9号証の記載事項
甲第9証には、以下の事項が記載されている。
a.「ニッケル-クロム合金
…(中略)…NiにCrを添加していくと,○1電気抵抗が急増するがその温度変化は小さい,○2耐酸化性・耐食性が向上する,○3純Niに対する熱起電力が急増する,などの変化がおこる.」(第513頁右欄第1?7行、○1?○3は、それぞれ、丸付き数字を示す。以下同じ。)

10.甲第10号証の記載事項
甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
a.「耐食合金……酸化,硫化などのガス反応や,電解液による電気化学的溶解作用などの腐食作用を受けにくい合金の総称.金属材料の耐食性は,材料固有の性質のほかにも雰囲気条件,表面条件,使用条件などに左右されやすい.健全な保護皮膜の形成(→不動態),均一な組織,均一な応力分布,異種材料との電気化学的接触をさけることや湿度の調節などは特に重要な事項である.耐食合金としては,鋼材ではステンレス鋼,銅合金ではCu-Ni系,Cu-Al系,アルミニウム合金では,Al-Mg系,Al-Mn系,Al-Si系など,ニッケル合金ではニクロム,モネルメタルがある.」(第785頁右欄第10?21行)

11.甲第11号証の記載事項
甲第11号証には、以下の事項が記載されている。
a.「【0005】本発明は上記の問題に着目して、電子回路基板上のハンダ表面に、絶縁体で水に難溶な不動態皮膜を形成することにより、マイグレーションの発生を防ぐ」

12.甲第12号証の記載事項
甲第12号証には、以下の事項が記載されている。
a.「3.1.1 環境の酸化性と腐食
環境の酸化性が高くなれば金属の腐食は起こりやすくなることが一般的である.ところが,ある種の金属は酸化性がある程度以上強くなるとかえって腐食が起こらなくなってしまうことがある.このようなときに、その金属は不動態(passivity)になったという.……不動態になりやすい金属としては、Fe,Ni、Cr……などがある。」(第201頁第3?9行)
b.「3.1.2 鉄の不動態の合金成分添加による変化
……Cr %が増すとともに不動態化電位E_(p)は低く……不動態は起こりやすくなっていて,酸化性のさほど強くない環境中でも不動態化することがわかる.……中性からpH=0くらいまでの多くの環境中ではCr 12?14%以上で自己不動態化するようになる.」(第202頁第23?35行)
c.「これに対してNiは不動態化する電位はFeと似たようなものであるが,山の高さはFeの10分の1以下で不動態化しやすい.FeやNiに比べてCrは不動態化電位ははるかに低く,山も低いのであるから弱い酸化力でも容易に不動態化するうえに,不動態になってからの保持電流もFeやNiの数百分の一で,きわめて安定な不動態を生じる。…またCrを18%に増やせばさらにその程度が大きくなる」(第204頁第18?24行)

13.甲第13号証の記載事項
甲第13号証には、以下の事項が記載されている。
a.第282頁の「Ni-Cr合金の比抵抗」と題する図5・17には、「比抵抗(μΩ・cm)」は、Cr7%ではおおよそ60μΩcmであるのに対して、Cr15?55%の範囲では90μΩcm以上であることが図示されている。

14.甲第14号証の記載事項
甲第14号証には、以下の事項が記載されている。
a.「1. 電圧加速
……
ガラスエポキシ樹脂のプリント配線板で、
実使用印可電圧: 5V
試験印加電圧 :20V」(第59頁第4?10行)
b.「2. 温度加速
……
たとえば、銅導体を使用して、
実使用環境温度 : t1=50℃
試験温度 : t2=60℃」(第59頁第17?27行)
c.「3. 湿度加速
……
ガラスエポキシ樹脂のプリント配線板で1)式を適用した場合、
実使用環境温度 : H1=50%
試験湿度 : H2=85%」(第60頁第4?15行)

15.甲第15号証の記載事項
甲第15号証には、以下の事項が記載されている。
a.「エレクトロケミカルマイグレーションは,Fig.1に示すように,電極金属が溶解,イオン化し,陰極へ向かって移動,析出する現象である.……このように,マイグレーションは電極表面における電荷授受による電気化学反応に結果として,電極材料が析出することになる.この電荷授受は与えられた電界内において,電位勾配とそこに流れる電流により求めることができる.」(第146頁右欄下から第5行?第147頁左欄第17行)
b.「陰極エッジ部からマイグレーションが発生(a)・成長(b)し,短絡(c)に至るようになる.」(第148頁左欄下から第14?13行)
c.「このマイグレーション発生時点の評価方法としては、光学的観察の他に絶縁抵抗値、誘電特性などの測定によるものもある。」(146頁右欄第3?5行)

16.甲第16号証の記載事項
甲第16号証には、以下の事項が記載されている。
a.「イオンマイグレーションは,水を介した電気化学反応と考えられ,測定中に結露や水滴の飛散などによりプリント配線板に水滴が付着した場合,イオンマイグレーションは急速に進展する。」(第239頁右欄下から第2行?第240頁左欄第2行)

17.甲第17号証の記載事項
甲第17号証には、以下の事項が記載されている。
a.「【0007】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者等は、導電性、強度、耐熱性、耐マイグレーション性および半田耐熱剥離性に共に優れたフィルムキャリア用銅合金箔を開発すべく研究を行なった結果、
(1)Fe:0.03?0.25重量%、
P:0.010?0.080重量%、
Pb:0.0005?0.010重量%、
を含有し、残りが銅および不可避不純物からなる組成をする銅合金……は80%IACS以上の導電率があり、上記電解純銅箔および圧延純銅箔に比べて、強度、耐熱性、耐マイグレーション性および半田耐熱剥離性に優れているという知見を得たのである。」
b.「【0026】……光学顕微鏡により観察し……腐食およびCuの樹枝状成長が少し生じているものを耐マイグレーション性あり…と区別して評価した。」

18.甲第18号証の記載事項
甲第18号証には、以下の事項が記載されている。
a.“Adhesiveless Copper on Polyimide Substrate with Nickel-Chromium Tiecoat”(title)
b.“In this work,characteristics of copper on polyimide substrates with nickel-chromium tiecoat are investigated.”(第1頁第11?12行、訳:本研究では、ニッケル-クロムタイコートを備えた銅ポリイミド基板の特性を調査する。)
c.“Target materials were copper (99.99+ % Cu) and nickel-chromium (79.9+ % Ni, 20.0+ % Cr).”(第2頁左欄第14?16行、訳:対象である材料は、銅(99.99%Cu)とニッケル-クロム(ニッケル79.9%,クロム20.0%)であった。)
d.“As with monel, NiCr can be etched in a single process using cupric chloride. However, the NiCr is slightly less readily etched as compared to monel. Adjusting and maintaining a slightly higher acid level, about 60g/L HCl, is recommended.”(第5頁右欄第5?9行、訳:モネル(審決注;ニッケルと銅を主体とする耐食性合金)におけると同様に、塩化第2銅水溶液を用いた単一の工程でニッケル-クロム合金もエッチングできる。しかしながら、ニッケル-クロム合金はモネルに比較してわずかにエッチングしにくい。酸性度を調整してわずかに高めた酸性度(約60g/L 塩酸)に維持することが推奨される。)
e.“The NiCr tiecoat acts as a barrier between copper and polyimide and reduces adhesion loss after thermal aging as compared to no tiecoat.”(第5頁右欄第22?24行、訳:ニッケル-クロムタイコートは、銅とポリイミドとの間でバリアとして機能し、タイコート不存在の場合に比較して熱エイジング後の接着性損失を減少させる。)

19.甲第19号証の記載事項
甲第19号証には、以下の事項が記載されている。
a.「本発明は、Ni-Cr合金の製造法、特に耐食性にすぐれたNi-Cr合金の製造法に関する。
Ni-Cr合金、例えばAlloy600(75Ni-15Cr-Fe)、A11oy690(60Ni-30Cr-Fe)等は原子力プラント、あるいは化学プラント等の圧力容器やその付属品の材料として使用される。」(第1頁下右欄第2?7行)
b.「Niは耐食性を向上させるに有効な元素であり、特にCl^(-)を含む高温水におけるSCC性(耐応力腐食割れ性)を改善させる。このためNiは50%以上が必要。一方、80%を越えるとその効果は飽和し、添加できるCr量が制限を受けるもので80%以下とした。
……(中略)……
Crは耐食性向上に必須の元素である。15%未満ではその効果は少ない。一方、35%を越えると熱間加工性が著しく劣化する。」(第2頁下左欄第11?20行)

20.甲第20号証の記載事項
甲第20号証には、以下の事項が記載されている。
a.「ニッケルにクロムを加えると,HNO_(3),H_(2)CrO_(4)などの酸化性環境における耐食性が生じる。H_(2)SO_(4)中でアノード分極した時の不動態化の臨界電流密度から求めたクロムの最少必要量は14wt%である……重要な市販の耐熱合金の一つに,20%Cr-80%Niの組成をつものがある」(第371頁第2?7行)

21.甲第21号証の記載事項
甲第21号証には、以下の事項が記載されている。
a.「本研究は,Ni-Cr系合金の耐食性を総合的に検討するためにNi-Cr二元合金を作製し,Cr量と耐食性との関連を明らかにするとともに,このNi-Cr二元合金にMn,Si,CuおよびMoを添加した三元合金を作製し,これらの合金からのNi溶出量および電気化学的腐食挙動の測定を行ない,添加元素と耐食性との関連について明らかにした.」(第456頁右欄第7?13行)
b.「浸漬には,インキュベータ(大洋工業社製M-100^(N))を使用し,浸漬温度を37±1℃に保持して毎分70回振盪を行ない10週間浸漬した.実験期間中浸漬溶液を1週間ごとに交換し,1週間に溶出したNi量を測定し,これを積算して10週間後のNi総溶出量を求めた.
Ni溶出量は,Ni濃度1,000ppmの標準溶液(和光純薬工業社製,Lot ALJ 8927)を希釈しO.1,0.2,0.5および1.Oppmの溶液を作製し,検量線法により算出した.
測定には,原子吸光フレーム分光光度計(島津製作所製AA-630-11)を使用した.」(第457頁右欄第3行?第458頁左欄第4行)
c.「1. Ni溶出試験
1.1 リンゲル液中におけるNi溶出量
Table3.4およびFig.1?11は,Ni-Cr二元合金および三元合金をリンゲル液中に10週間浸漬した場合のNi溶出量を示したものである.
Tableの上段には、1週間のNi溶出量を積算したNi溶出量の平均値を示し,下段には,その標準偏差を表した.
Fig. 12?14には,Ni-Cr二元合金および三元合金を10週間リンゲル液中に浸漬した後のNi総溶出量と合金組成との関係を示した.
1.1.1 Ni-Cr二元合金
Fig.1?3に見られるように,Cr量5.5wt%以下の合金のNi溶出量は,浸漬時間とともに増加し,ほぼ直線的に増加していく傾向を示した.
Cr量10.8?21.0wt%の合金のNi溶出量は,浸漬6週間までは比較的少ないが,6週間から増加する傾向が見られた.
一方,Cr量26.3wt%以上の合金のNi溶出量は,他の合金と比較してきわめて少なかった.
Fig.12に見られるようにCr含有量の違いによる浸漬10週間後のNi総溶出量を比較してみると,Cr量5.5wt%以下の合金のNi総溶出量は,Cr量10.8?21.0%の合金のおよそ10倍の値を示し,Cr量26.3?39.8%の合金のおよそ100倍の値を示した。
このように,Cr含有量の多い合金程Ni溶出量は減少し,Cr量5.5wt%と10.8wt%および21.0%と26.3wt%の合金では,Ni総溶出量に大きな差が認められ,リンゲル液におけるNi-Cr二元合金からのNi溶出傾向は,Cr量.5.5wt%以下,10.8?21.0wt%および26.3?39.8wt%の合金の3つのグループに分類することができた。」(第460頁左欄第3行?第461頁右欄第3行)
d.「1.2 1%乳酸溶液中におけるNi溶出量
リンゲル液中におけるNi溶出試験において,Ni溶出が多く認められたCr量21.0wt%以下の合金およびNi-5%Cr系三元合金において,Ni溶出の減少傾向の認められた合金について,Crの臨界濃度および添加元素の影響をリンゲル液の場合と比較するため,1%乳酸溶液に1週間浸漬した後のNi溶出量を測定した.
1.2.1 Ni-Cr二元合金
Table5およびFig.1にCr量21.0wt%以下のNi-Cr二元合金からのNi溶出量を示した.
Cr量5.5wt%の合金からのNi溶出量は,純Niからの溶出量よりも多く認められた.しかし,Cr量10.8wt% 以上の合金では,Cr量の増加にともないNi溶出量が減少した.リンゲル液に浸漬した場合は,Cr量10.8wt%から21.Owt%の合金の間にほとんど差が認められなかったが,1%乳酸溶液ではこの間に明らかな差が認められ,Cr量10.8wt%,15.7wt%および21.Owt%の合金からのNi溶出量は……Cr量の増加にともなってNi溶出量が減少した.」(第463頁左欄第20行?第463頁右欄第18行)
e.「2. 自然電極電位
2.1 NiCr二元合金
Table6およびFig.17に,Ni-Cr二元合金の37℃リンゲル液中における24時間後の自然電極電位の測定結果を示した.
純Niの自然電極電位は,実験に使用した29種合金中最も卑な値を示し,次いでCr量5.5wt%の合金が卑な電位を示した.
Cr量10.8?39.8wt%の合金の場合は,Cr量5.5wt%の合金の電位よりも貴な側に移行する傾向が見られたが,本実験におけるCr量の範囲ではCr量の違いによる自然電極電位の変化はほとんど認められなかった.」(第464頁右欄第1?11行)
f.「4. 試料表面の観察
Fig.29?32は,Ni溶出試験において,浸漬前と10週間リンゲル液中に浸漬した後のNi-Cr二元およびNi-Cr-M三元合金の試料表面の反射電子像(組成像) を示したものである.
Fig,29 に示したようにCr量5.5wt%の合金では,浸漬10週間後に孔食が認められたが,Cr量21.Owt%および39.8wt%の合金には変化が認められなかった.」(第468頁右欄第15?22行)

22.甲第22号証の記載事項
甲第22号証には、以下の事項が記載されている。
a.「【特許請求の範囲】
1.プラズマ処理された表面を有するポリマーフィルムと、
該プラズマ処理された表面に付着した、ニッケルまたはニッケル合金を含むニッケルタイコート層と、
該ニッケル層に付着した銅シードコート層と、
を含む、無接着剤フレキシブルラミネート。」(第2頁第1?6行)
b.「ニッケルタイコート層は、ニッケルまたはニッケルベース合金により形成される。合金に用いられる金属は、Cu、Cr、Fe、V、Ti、Al、Si、Pd、Ta、W、Zn、In、Sn,Mn,Coおよびこれらの2以上の混合物からなる群より選択される。好適な合金用金属は、Cu、Fe、V、TiおよびCrを含む。ニッケルタイコート層は、約30?約500オングストロームの範囲の厚みを有し、一つの実施の形態においては約50?約300オングストロームの範囲の厚みを有する。」(第9頁第10?17行)
c.「工程(B)において、堆積すべき金属は、NiまたはNiベースの合金である。有用な合金用金属は、Cu、Cr、Fe、V、Ti、Al、Si、Pd、Ta、W、Z、In、Sn、Mn、Co、およびこれらの2つ以上の組み合わせである。好適な合金用金属は、Cu、Fe、CrおよびVを含む。特に有用な市販されているNi合金は、Monel(約67%Ni、30%Cu)、Inconel約(76%Ni,16%Cr、8%Fe)……(約80%Ni,20%Cr)、(約60%Ni、24%Fe、16%Cr)、(約35%Ni、45%Fe、20%Cr)、(約45%Ni、55%Cu)などを含む。」(第13頁第5行?第14頁第3行)
d.「工程(B)および(C)に関連して上記のPVDおよびCVDの両方の蒸着技術はまた、本発明の方法の工程(D)にも適用される。但し、工程(D)において堆積される銅層は、上記のように約70μmまでの厚みを有する。
本発明の方法の工程(D)において生成される銅層が一旦形成されると、回路パターンを形成することによりプリント回路基板が形成され得る。パターンは、銅を選択的に除去してパターンを残すためにレジストとエッチャント浴が用いられるエッチングプロセスにより形成され得る。」(第15頁第15?21行)
e.「本発明のフレキシブルラミネートは、従来の技術に対して多くの利点を有する。これらは、初期の良好な付着、熱または化学物質に曝した後の良好な付着、エッチング可能なタイコート層、良好な寸法安定性、および均一な付着を含む。」(第22頁第3?5行)

23.甲第24号証の記載事項
甲第24号証には、以下の事項が記載されている。
a.「本研究目的は,IM抑制のため樹脂コーティングを施し,狭ピッチでの耐IM性の評価試験を実施し,そのコーティング材の特性評価を行うことにある.」(第1頁第12?13行)
b.「2.イオンマイグレーション現象
IM発生原理の基本は電気化学反応に基づく電極金属のイオン化である.電解質(多くの場合は水)を介した二つの電極間に直流電圧が印可されると陽極から電極の金属イオンが溶出する.溶出した金属イオンは電界の作用により電解質中を陰極に向かって移行するが,その間に酸化・還元反応を繰り返しながら金属の水酸化物あるいは酸化物を経て金属として析出する.」(第1頁第17?21行)
c.「本研究で用いた試験片の形状をFig.1に示す.電極としてはCuを用いた櫛形電極,基板としては耐熱性・耐薬品性・寸法安定性に優れフレキシビリティが高いポリイミド基板を用いている.Ni-Cr層は基盤と電極の密着性向上を目的としている.」(第1頁下から2行?第2頁第1行)
d.「また,IMによる析出物はCuだけではなく,Niも関与している.そこで,EPMAによる面分析を行った結果をFig.6に示す.Cu電極とポリイミド基板との密着性向上のためのNi-Cr層からNiが溶出したと考えられる.過去にも,集積回路の気密封止パッケージにおいて,Niのデンドライト状析出物の確認が報告されている」(第4頁第7?9行)

24.甲第25号証の記載事項
甲第25号証には、以下の事項が記載されている。
a.「水が電気分解する理論電圧以下の1VDC付近でも銅イオンは溶出するが、電圧が高いほど、銅イオン溶出量が増加する。……環境試験中におけるプリント配線板からの金属イオンの溶出は、印加電圧や水の吸着が加速要因であると考える。」(第4頁左欄第13?18行)
b.「IM発生は金属イオンの溶出、拡散と還元過程からなり、印加電圧およびpHなどの影響を受ける。図10に銅イオンマイグレーションの発生メカニズムを示す。
環境試験中の絶縁抵抗変化およびIM発生の関係を図11に示す。絶縁抵抗値の変化は、○1抵抗値の上昇過程(水の吸着と電気分解による金属イオン溶出、図10、反応1と2)、○2抵抗値安定過程(金属イオン溶出と拡散、図10、反応3)、○3抵抗値の低下と短絡(金属イオンの還元、図10、反応4)の3過程からなると考察される。」(第5頁左欄第6行?第5頁右欄第7行)

25.甲第26号証の記載事項
甲第26号証には、以下の事項が記載されている。
a.「腐食……
さまざまな材料,とくに金属材料が使用環境との化学反応によって表面から金属でない状態になって失われていくことをいう.……常温付近では水分を伴う条件下での腐食(湿食)が問題になる.この場合,水中に含まれる酸化剤(水素イオン,溶存酸素)が金属表面で還元され,それと当量だけ金属がイオン化(酸化)して失われる.」(第1171頁の「腐食」)

26.甲第27号証の記載事項
甲第27号証には、以下の事項が記載されている。
a.「腐食(corrosion)金属材料が環境と反応して酸化消耗する(さびる, rusting)現象.」(第1988頁の「腐食」)

27.甲第28号証の記載事項
甲第28号証には、以下の事項が記載されている。
a.「ふしょく 腐食……金属が純科学的反応または電気化学的反応によって変質破壊される現象.」(第802頁の「ふしょく 腐食」)

28.甲第29号証の記載事項
甲第29号証には、以下の事項が記載されている。
a.「金属の腐食(corrosion)とは,金属が周囲の環境によって化学的あるいは電気化学的に侵食されることである。」(第187頁第1?2行)


第5.当審の判断
A.無効理由1について
A1.甲第1号証に記載された発明
ア.第4.1.e.で摘記した、段落【0012】の「本発明の半導体キャリア用フィルムは、ポリイミド系フィルム1と銅層2の間に、ニッケル-クロム合金のスパッタ層3……が設けられている。」、段落【0014】の「ポリイミド系フィルム1の表面に設けられたニッケル-クロム合金のスパッタ層3は、その厚さが70?500Å、好ましくは100?500Å、さらに好ましくは150?400Åである。」、段落【0016】の「ニッケル-クロム合金のスパッタ層3の上に設けられる銅のメッキ層4は、その厚さが0.5?1.5μmであることが好ましい。」及び段落【0017】の「銅層2は厚付け銅メッキ層であり、その厚さは5?15μmであることが好ましい。」という記載、第4.1.f.で摘記した段落【0025】の「これらの半導体キャリア用フィルム(2層基材)を使用し、通常の方法によって、銅メッキ層側にフォトレジストを塗布し乾燥後、露光、現像、エッチング、フォトレジスト剥離の工程により、櫛形電極パターンを形成し、無電解スズメッキを行い回路基板とした。」、及び、第4.1.g.で摘記した段落【0028】の「〔実施例例1?3及び比較例5〕厚さ38μmのポリイミド系フィルム(商品名:KaEN、東レ・デュポン社製)の表面……ニッケル-クロム合金のスパッタ層をそれぞれ形成した。次いで、その上に銅をメッキ法により付着させ、厚さ1μmの銅のメッキ層を形成した。さらに、その上に電解銅厚付けメッキによって、厚さ8μmの厚付け銅メッキ層を形成し、半導体キャリア用フィルム(2層基材)とした」という記載から、甲第1号証には、「ポリイミド系フィルム1」と、「ポリイミド系フィルム1の表面に設けられた」「その厚さが70?500Å」である「ニッケル-クロム合金のスパッタ層3」と、「ニッケル-クロム合金のスパッタ層3の上に設けられる」「銅のメッキ層4」及び「厚付け銅メッキ層」である「銅層2」とからなり、「スパッタ層3」と「銅のメッキ層4」と「銅層2」とを「エッチング」して「櫛形電極パターン」を形成した後に「無電解スズメッキ」を行った「半導体キャリア用フィルム」が記載されている。

イ.第4.1.b.で摘記した段落【0002】に「LSI等からなる半導体チップ(電子部品)の実装技術には、チップオンフィルム(COF;Chip on Film)等がある。」との記載があることから、甲第1号証には、前記アの「半導体キャリア用フィルム」に形成され前記「無電解スズメッキ」が行われた「櫛形電極パターン」の適所に「半導体チップ」が実装されて半導体装置とすることが、実質的に記載されているといえる。

ウ.第4.1.f.で摘記した段落【0026】における「比較例1?4」を説明した「図2に示されるような50μmピッチの櫛形電極パターンを形成後、0.5μm厚に無電解スズメッキを行った。」という記載、第4.1.g.で摘記した段落【0029】における「実施例例1?3及び比較例5」を説明した「比較例1と同様にして、図2に示されるようなポリイミド系フィルム1の上に、櫛形電極5a、5bを形成した。」という記載から、甲第1号証には、「櫛形電極パターン」は「50μmピッチ」であり、その上の「無電解スズメッキ」層は「0.5μm厚」であることが記載されている。

エ.第4.1.e.で摘記した段落【0015】における「ニッケル-クロム合金中のクロム含有量は、3?10重量%であることが望ましい。クロム含有量が3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく、10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなる」という記載から、甲第1号証には、前記「スパッタ層3」の「ニッケル-クロム合金中のクロム含有量」は、「3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく、10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなる」ことから「3?10重量%であることが望ましい」ことが記載されている。

オ.以上のア?エを総合すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されている。
「ポリイミド系フィルム1と、前記ポリイミド系フィルム1の表面に設けられた厚さが70?500Åであるニッケル-クロム合金のスパッタ層3と、前記ニッケル-クロム合金のスパッタ層3の上に設けられる銅のメッキ層4及び厚付け銅メッキ層である銅層2とからなり、前記スパッタ層3、前記銅のメッキ層4及び前記銅層2とをエッチングして櫛形電極パターンを形成した後に無電解スズメッキを行った半導体キャリア用フィルムと、
前記半導体キャリア用フィルムに形成され前記無電解スズメッキが行われた前記櫛形電極パターンの適所に半導体チップが実装された半導体チップと、
を備える半導体装置であって、
前記櫛形電極パターンは50μmピッチであり、その上の無電解スズメッキ層は0.5μm厚であり、
前記スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量は、3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく、10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなることから、3?10重量%であることが望ましいことを特徴とする半導体装置。」

カ.なお、第3.1.(3)A.ア.のとおり、請求人は、甲第1号証に記載された発明の認定において、「スパッタ層」の「クロム含有量」について、「前記スパッタ層におけるクロム含有率が10重量%を超えた値においても、マイグレーションを抑制する」と認定している。
しかしながら、甲第1号証には、「スパッタ層」のニッケル-クロム合金中の「クロム含有量」については、第4.1.e.で摘記した「【0015】また、ニッケル-クロム合金中のクロム含有量は、3?10重量%であることが望ましい。クロム含有量が3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく、10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなる問題がある。」という記載があるだけである。そして、この記載のみからでは、直ちに「スパッタ層におけるクロム含有率が10重量%を超えた値」になることが甲第1号証に記載されているとすることはできない。
したがって、「スパッタ層」の「クロム含有量」については、甲第1号証発明のとおりに認定した。

A2.本件特許発明1についての判断
1.対比
(1)本件特許発明1と甲第1号証発明との対比
本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比する。
ア.甲第1号証発明の「ポリイミド系フィルム1」、「前記ポリイミド系フィルム1の表面に設けられた厚さが70?500Åであるニッケル-クロム合金のスパッタ層3」、「前記ニッケル-クロム合金のスパッタ層3の上」に設けられる「銅のメッキ層4」及び「厚付け銅メッキ層である銅層2」とを併せた層は、それぞれ、本件特許発明1の「絶縁性を有するベースフィルム」、「該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層」、「該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物」に相当する。
甲第1号証発明の「前記スパッタ層3、前記銅のメッキ層4及び前記銅層2とをエッチングして櫛形電極パターン」は、その上に「無電解スズメッキ」が行われていることから、本件特許発明1の「表面にスズメッキ」が施された「半導体キャリア用フィルム」上の「配線層」に相当する。
ここで、甲第1号証発明の「半導体チップ」は、「前記半導体キャリア用フィルムに形成され前記無電解スズメッキが行われた前記櫛形電極パターンの適所」に接続される電極を有することは自明である。そうすると、甲第1号証発明の「前記半導体キャリア用フィルムに形成され前記無電解スズメッキが行われた前記櫛形電極パターンの適所に半導体チップが実装された半導体チップ」と、本件特許発明1の「前記配線層に接続された突起電極を有する半導体素子」とは、「前記配線層に接続」された「電極を有する半導体素子」である点で共通する。

以上から、甲第1号証発明の「ポリイミド系フィルム1と、前記ポリイミド系フィルム1の表面に設けられた厚さが70?500Åであるニッケル-クロム合金のスパッタ層3と、前記ニッケル-クロム合金のスパッタ層3の上に設けられる銅のメッキ層4及び厚付け銅メッキ層である銅層2とからなり、前記スパッタ層3、前記銅のメッキ層4及び前記銅層2とをエッチングして櫛形電極パターンを形成した後に無電解スズメッキを行った半導体キャリア用フィルム」と「前記半導体キャリア用フィルムに形成され前記無電解スズメッキが行われた前記櫛形電極パターンの適所に半導体チップが実装された半導体チップ」とを備える「半導体装置」と、本件特許発明1の「絶縁性を有するベースフィルム、該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層、および該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層を有する半導体キャリア用フィルムと、前記配線層に接続された突起電極を有する半導体素子とを備える半導体装置」とは、「絶縁性を有するベースフィルム、該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層、および該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層を有する半導体キャリア用フィルムと、前記配線層に接続」された「電極を有する半導体素子とを備える半導体装置」である点で共通する。

イ.甲第1号証発明の「前記スパッタ層3、前記銅のメッキ層4及び前記銅層2とをエッチング」して「形成」した「櫛形電極パターン」は、「50μmピッチ」であるから、当然に、「半導体キャリア用フィルム」上に複数存在するものであり、また、相隣り合っているものと認められる。
したがって、甲第1号証発明において「前記スパッタ層3、前記銅のメッキ層4及び前記銅層2とをエッチング」して「形成」した「櫛形電極パターン」が「50μmピッチ」であることと、本件特許発明1において「前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり、そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において、配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×10^(5)?2.7×10^(6)V/m」であることとは、「前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり、そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線」を備える点で共通する。

ウ.甲第1号証発明の「前記前記スパッタ層3と前記銅のメッキ層4と前記銅層2とをエッチングして形成した櫛形電極パターン」の「ピッチは50μm」である。
ここで、第4.1.e.で指摘した図2の図示態様から、「櫛形電極パターン」の「ピッチは50μm」であるということは、前記「櫛形電極パターン」の各電極が相隣り合う部分での電極間距離が25μmであるということである。
さらに、「前記櫛形電極パターン」の上の「無電解スズメッキ層は0.5μm厚であ」るから、「その上」に前記「無電解スズメッキ層」が形成された前記相隣合う「前記櫛形電極パターン」の電極間距離は、25μmを下回ることは明らかである。
したがって、甲第1号証発明の「前記櫛形電極パターンは50μmピッチであり、その上の無電解スズメッキ層は0.5μm厚であ」ることは、本件特許発明1が「前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有し」ていることに相当する。

エ.以上から、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違している。
(一致点)
「絶縁性を有するベースフィルム、該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層、および該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層を有する半導体キャリア用フィルムと、前記配線層に接続された電極を有する半導体素子とを備える半導体装置であって、
前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり、そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線を備え、
前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有することを特徴とする半導体装置。」

(相違点A1)
本件特許発明1の「半導体素子」は前記配線層に接続された「突起電極」を有するのに対して、甲第1号証発明の前記櫛形電極パターンの適所に接続される「半導体チップ」の電極が「突起電極」であるかどうかは不明である点。

(相違点A2)
本件特許発明1は「隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において、配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×10^(5)?2.7×10^(6)V/m」であるが、甲第1号証発明は、この点は不明である点。

(相違点A3)
本件特許発明1においては「前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより、前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」が、甲第1号証発明においては「前記スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量は、3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく、10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなることから、3?10重量%であることが望ましい」点。

(2)一致点と相違点の認定について
ア.なお、請求人は、第3.1.(3)A.イ.で示したとおり、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とは「前記バリア層におけるクロム含有率が10重量%を超えた値において、マイグレーションを抑制する」点で一致すると主張するとともに、本件特許発明1の「前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより、前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」という発明特定事項に係る相違点を、「本件特許発明1では、「マイグレーションを抑制する」効果におけるマイグレーションがバリア層の溶出によるマイグレーションであるとしているのに対して、引用発明1では、マイグレーション抑制効果におけるマイグレーションがスパッタ層の溶出によるマイグレーションであるか否かについて明記していない点。」という「相違点1-1」と、「引用発明1では、クロム含有率が10重量%を超えた値においてもマイグレーションを抑制するがクロム含有率を15?50重量%に設定していないのに対して、本件特許発明1では、バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とするものである点。」という「相違点1-2」という2つに分割している。

イ.しかし、第3.2.(3)A.ア.で示したとおり、被請求人は、「本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とは、クロム含有率が10重量%を超えた値においてマイグレーションを抑制するという点において一致しないのであり、請求人の主張する一致点は誤りである。」と主張するとともに、「本件特許発明1では、ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることによって、バリア層を形成している成分の水分中への溶出を抑制することができマイグレーションの発生を抑制することができるものであるから、技術的にも一体不可分のものである。よって……これを2つに分割した請求人の相違点の認定は誤りである。」と主張している。

ウ.そこで、まず、一致点の認定について検討する。
甲第1号証には、段落【0015】に「また、ニッケル-クロム合金中のクロム含有量は、3?10重量%であることが望ましい。クロム含有量が3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく、10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなる問題がある。」と記載されているだけであり、実際に、「ニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「3重量%未満」ないし「10重量%を超えて」設定したものを製造したことは記載されていない。実際、段落【0028】には、「〔実施例例1?3及び比較例5〕厚さ38μmのポリイミド系フィルム(商品名:KaEN、東レ・デュポン社製)の表面をプラズマ処理した後、表面処理面にニッケル-クロム(5重量%)合金をスパッタリングにより付着させ」と、すべての実施例及びニッケル-クロム合金を用いるすべての比較例におけるニッケル-クロム合金層中のクロム含有量は「5重量%」であることが記載されている。
そして、甲第1号証の記載から、「バリア層におけるクロム含有率が10重量%を超えた値」とすることが、当業者が容易に想起したかどうかは別として、第5.A.A1.カ.で指摘したとおり、当業者に自明である又は記載されているに等しいとは認められない。
したがって、請求人が、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とは「前記バリア層におけるクロム含有率が10重量%を超えた値において、マイグレーションを抑制する」点で一致するとした点は、適当でない。

エ.本件特許明細書の段落【0037】に、「本実施の形態に特徴的な部分は、バリア層2を形成しているニッケル-クロム合金のクロム含有率を従来の7重量%から15?50重量%に増加させたことである。これにより、従来のクロム含有率が7重量%であるバリア層と比較して、バリア層2の表面抵抗率および体積抵抗率を増大させ、半導体キャリア用フィルム1における配線(端子)間のマイグレーションの発生を抑制し、端子間の絶縁劣化を防止している。」と記載されている。
したがって、本件特許発明1の「前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより、前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」との発明特定事項において、「前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とする」ことと、「前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」とは、一体不可分であると認められる。
よって、請求人が、相違点の認定において、本件特許発明1の「前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより、前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」という発明特定事項に係る相違点を2つに分割したことは、適当でない。

オ.したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明との一致点及び相違点は、第5.A.A2.1.(1)エ.で記載したとおりに認定する。

2.相違点A3についての判断
ア.以上のとおり、請求人が主張する一致点及び相違点の認定には誤りがある。
しかし、第3.1.(3)A.オ.で示したとおり、請求人は、「仮に本件特許発明1と引用発明1との相違点を構成と効果とに分割することなく把握したとしても……本件特許発明1は、引用発明1に対して公知技術、周知技術乃至技術常識を適用することにより想到容易である。」とも主張している。
そこで、以下では、前記相違点A1?A3のうち、相違点A3について検討する。

イ.甲第1号証には、段落【0007】に「本発明の目的は、配線回路パターンのエッチング性やメッキ耐性を低下させることなく、耐マイグレーション特性を著しく向上させた半導体キャリア用フィルム及びその製造方法を提供することにある。」と記載され、「配線回路パターンのエッチング性やメッキ耐性を低下させることなく、耐マイグレーション特性を著しく向上させ」ることは、解決しようとする課題であることが記載されている。
甲第1号証発明が「前記スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量は、3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく、10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなることから、3?10重量%であることが望ましい」としたのは、前記課題を解決するためである。
ここで、「パターン形成時の銅の足残り」とは、請求人が審判請求書の第51頁第19?21行で指摘したとおり、「配線回路パターンをエッチングにより形成する際に、配線回路パターン以外の場所において金属を完全にはエッチング除去できずに、不要な金属が残ること」をいう。
したがって、「パターン形成時の銅の足残り」が発生すると、配線回路パターン以外の場所に金属が残存することになるから、配線回路のパターン間の絶縁不良等の重大な欠陥が生じるおそれが生じ、前記「配線回路パターンのエッチング性」という点で重大な欠点となると認められる。
そして、甲第1号証には、上記のとおり「10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一」であると記載されているから、甲第1号証に接した当業者が、「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を、敢えて「パターン形成時の銅の足残りが多くなる」というリスクを有する「10重量%」を超えた値に設定することを想起したとは、認められない。
むしろ、甲第1号証において、前記「クロム含有量」を「10重量%」を超えて設定すると、「配線回路パターンのエッチング性やメッキ耐性を低下させること」がないという甲第1号証に記載された課題に反する結果をもたらすから、「クロム含有量」を「10重量%」を超えて設定することには阻害要因があるということができる。

ウ.ただ、甲第1号証には、「耐マイグレーション特性を著しく向上させ」ることも解決しようとする課題であることが記載されている。
そこで、甲第1号証発明において、たとえ「パターン形成時の銅の足残りが多く」なるという問題があっても「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「10重量%」を超えて設定することを当業者に発想させるように、「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「10重量%」を超えて「15?50重量%」にすると「耐マイグレーション性」が「向上」するという事項が、請求人が提出した証拠に記載されているか否かを検討する。

エ.まず、甲第1号証は段落【0015】に「クロム含有量が……10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で、かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなる問題がある。」と記載されており、「クロム含有量」が「10重量%」を超えると「耐マイグレーション性」が「向上」するという記載はない。
甲第2号証を参照すると、第4.2.f.で摘記したように、「Ni-Cr合金層中のNiが1at%?80at%の範囲で、Niを全く含まないクロム層のみの場合と同等の密着強度が得られることが確認された。図3から明らかなように、Ni-Cr合金層中のNiが4at%の場合、Niを全く含まないクロム層の場合は、エッチング処理時に中間層であるクロム層またはNiが4at%のNi-Cr合金層がエッチングされることなくそのまま残渣として残存するが、Niが5at%、80at%のNi-Cr合金層はエッチング時に、その上に形成されている銅層と一緒に除去されて配線パターンが確実に形成出来ることが確認された。」と記載され、Ni-Cr合金層の密着強度とエッチング残渣を考慮して、当該Ni-Cr合金層中のNiを5at%?80at%に設定することが記載されている。しかし、甲第2号証には、クロム含有率とイオンマイグレーションの関係は記載されていないだけでなく、プリント配線基板に生じるイオンマイグレーション現象についての記載が存在せず、イオンマイグレーションに対して何ら考慮していない。
甲第3号証には、液晶モジュールにおけるCOFにおいて、長期絶縁信頼性を劣化させる「要因」として「電気化学的腐食反応の促進」及び「イオン(銅)マイグレーション」があることは記載されているが、その機序や発生抑制方法等に関しては記載も示唆もない。
甲第6号証には、イオンマイグレーションの発生メカニズムについて説明されており、イオンマイグレーション現象による絶縁劣化が電子機器の信頼性低下を招いていることや、狭ピッチ配線ではイオンマイグレーションによる析出物の成長速度が急激に加速されること、イオンマイグレーション抑制手法として吸湿防止のための樹脂コーティングを行うことは記載されているが、Ni-Cr接着層におけるクロム含有率を調整することによってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。
甲第7号証には、銅の下のニッケルやクロムのシード層のエッチング残りはマイグレーション発生の原因になり、電気特性上も好ましくないことは記載されているが、その発生抑制方法等に関しては記載も示唆もない。
甲第8号証には、マイグレーションは電子材料の腐食損傷の1つであること、メタルマイグレーションの発生メカニズムについて記載されている。そして、電子部品の腐食を防止するには、塵芥や水分の電子部品内への浸入を遮断するや耐食材料を使用することが有効であると記載されている。しかし、ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することによってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。
甲第11号証には、不動態皮膜を形成することによりマイグレーションの発生を防ぐことが記載されているだけで、ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することによってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。
甲第12号証には、一般的にCrが腐食性に優れていることや、鉄にCrを添加して不動態化することは記載されているが、半導体キャリア用フィルムにおいて、ニッケル-クロム合金におけるクロム含有率を調整することによってマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。
甲第13号証には、Ni-Cr合金はCrの含有量が15?50%のときに比抵抗が大きいことは記載されているものの、マイグレーションに関する記載はなく、したがって、Ni-Cr合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより、マイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。
甲第14号証には、イオンマイグレーションの試験方法が記載されているだけで、半導体キャリア用フィルムにおけるマイグレーションの発生防止方法に関する記載ないし示唆はない。
甲第15号証には、マイグレーションの発生機序と評価方法について記載されているだけであり、半導体キャリア用フィルムにおけるマイグレーションの発生防止方法に関する記載ないし示唆はない。
甲第16号証には、プリント配線板に水滴が付着した場合にイオンマイグレーションは急激に進展することが記載されているだけである。
甲第17号証には、銅に少なくともFe、P及びPbをそれぞれ所定量含有させた銅合金からなるフィルムキャリア用銅合金箔は耐マイグレーション性に優れているという知見と、その耐マイグレーション性の評価方法について記載されているだけである。
記載されているだけである。
甲第24号証には、イオンマイグレーション現象の発生原理を説明するとともに、ポリイミド基板上にNi-Cr層を介してCu櫛形電極を形成した試験片におけるイオンマイグレーションによる析出物を分析したところ、Cuのほか、Ni-Cr層から溶出したNiのデンドライト状析出物を確認したことが記載されている。しかし、Ni-Cr層におけるCr含有率を調整することによってイオンマイグレーションの発生を抑制することができることについては記載も示唆もない。
甲第25号証には、銅イオンマイグレーションの発生メカニズムが記載されているだけである。
そして、甲第4号証?甲第5号証、甲第9号証?甲第10号証、甲第18号証?甲第20号証、甲第22号証、及び、甲第26号証?甲第29号証には、イオンマイグレーションに関する記載はない。そして、これらの証拠にニッケルクロム合金の耐食性についての記載があるとしても、イオンマイグレーションは金属の腐食の現象の1つであるから、前記耐食性の記載があるからといって、ニッケルクロム合金のマイグレーションについての記載があるとまでは言えない。
以上のとおり、甲第1号証?甲第20号証、甲第22号証、及び、甲第24号証?甲第29号証には、「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「10重量%」を超えて「15?50重量%」にすると「耐マイグレーション性」が「向上」できることも、「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「10重量%」を超えて所定の範囲に設定すると、前記「ニッケル-クロム合金」の成分の溶出による「マイグレーション」を抑制できることも、記載されていない。
よって、甲第1号証?甲第20号証、甲第22号証、及び、甲第24号証?甲第29号証に接した当業者が、たとえ「パターン形成時の銅の足残りが多く」なるという問題があるとしても、甲第1号証発明において、「耐マイグレーション性の向上」のため「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「10重量%」を超えて15?50重量%とすること想起したとは、認められない。

オ.さて、甲第21号証には、歯科用合金であるNi-Cr系合金の耐食性を検討するため、Cr含有量の違いによるNi溶出量および電気化学的腐食挙動の測定を行ったところ、リンゲル液中へのNi溶出量は、Cr含有量の多い合金程Ni溶出量は減少し、Cr量5.5wt%以下の合金のNi総溶出量は、Cr量10.8?21.0%の合金のおよそ10倍の値を示し、Cr量26.3?39.8%の合金のおよそ100倍の値を示したことが記載されている。
また、Ni-Cr二元合金の37℃リンゲル液中における24時間後の自然電極電位の測定によれば、Cr量10.8?39.8wt%の合金の場合は、Cr量5.5wt%の合金の電位よりも貴な側に移行する傾向が見られたが、Cr量の違いによる自然電極電位の変化はほとんど認められなかったことが記載されており、Fig.17には、Cr量が10wt%を超えるとリンゲル液中における自然電極電位の有意な増加は観察されないことが記載されている。
そして、10週間リンゲル液中に浸漬した後のNi-Cr二元合金の試料表面を観察すると、Cr量5.5wt%の合金では浸漬10週間後に孔食が認められたが、Cr量21.Owt%および39.8wt%の合金には変化が認められなかったことが記載されている。

カ.甲第21号証は、歯科用合金であるNi-Cr系合金に関する文献であり、「半導体チップ」を「実装」する「ポリイミド系フィルム1」上の「スパッタ層3」を構成する「ニッケル-クロム合金」に関する発明である甲第1号証発明とは、技術分野を異にする。
また、請求人が提出した証拠には、イオンマイグレーションは電解質を介した2つの電極間に電圧が印加されることで陽極から金属イオンは溶出することを契機として生じる現象であることが記載されている(甲第6号証の第530頁左欄第7?11行、甲第15号証の第146頁右欄下から第5行?第147頁左欄第17行、甲第24号証の第1頁第17?21行、及び、甲第25号証の図10)。また、陽極からの金属イオンが負極方向に移動するには2つの電極間に電圧を印加する必要がある。すなわち、イオンマイグレーションは、2つの電極間に電圧が印加されてはじめて生じる現象であることは、当業者の技術常識である。
これに対して、甲第21号証のNi-Cr系合金は歯科用合金であるから、これを使用する場所は口腔内であり、その使用において当該Ni-Cr系合金に電圧が印加されることは想定されない。実際、甲第21号証には、隣合う歯科用合金間に電圧を印加した状態でのNi溶出量を測定することは、記載されていない。
Ni-Cr系合金のNiがイオン化してリンゲル液に溶出するのは、確かに酸化による電気化学的腐食挙動である。しかし、甲第21号証が問題としている腐食損傷は孔食であり、甲第8号証の表6.1に記載されるとおり、マイグレーションが溶出した金属イオンが析出して絶縁不良を引き起こす腐食損傷であるのとは異なり、金属がイオン化して失われることにより表面が損傷を受けるという事象である。
さらに、甲第21号証において、リンゲル液中へのNi溶出量は、Cr量26.3?39.8%の場合が、記載されたCr量の中では最小である。しかし、甲第21号証には、Cr量が39.8%を超える場合にリンゲル液中へのNi溶出量が具体的にどうなるかは記載されていないが、第4.21.b.で摘記したように「Cr含有量が多い合金程Ni溶出量は減少し」たとのは記載はある。したがって、甲第21号証には、リンゲル液中へのNiの溶出が少なくなるCr含有量の範囲は記載されているものの、これが、リンゲル液中へのNiの溶出を抑制するために最も適しているCr含有量の範囲であるかどうかは不明である。
そして、甲第21号証には、イオン化しやすさを表すリンゲル液中におけるNi-Cr二元合金の自然電極電位は、Cr量が10wt%を超えるとほとんど増加しないことが記載されている。

キ.以上のとおり、甲第21号証は、甲第1号証発明とは技術分野を異にし、Ni-Cr系合金の成分の溶出に着目したとしても、それは、甲第1号証発明とは全く異なる環境・条件下におけるものであり、甲第21号証が着目する前記溶出によって引き起こされる腐食挙動による損傷もイオンマイグレーションとは異なる事象である。さらに、水溶液への前記成分の溶出を抑制するために適しているCr含有量の範囲が、甲第21号証に開示されているかどうかも不明である。
すなわち、甲第21号証の記載からでは、甲第1号証発明において、「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「10重量%」を超えて「15?50重量%」にすると「耐マイグレーション性」が「向上」すること、あるいは、「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「10重量%」を超えて所定の範囲に設定すると、前記「ニッケル-クロム合金」の成分の溶出による「マイグレーション」を抑制できることを、当業者が予期し得たとは認められない。
したがって、甲第21号証に接した当業者が、たとえ「パターン形成時の銅の足残りが多く」なるという問題があるとしても、甲第1号証発明において、「耐マイグレーション性の向上」のため「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「10重量%」を超えて15?50重量%とすること想起したとは、認められない。

3.請求人の上申書における主張について
ア.第3.1.(3)A.カ.で指摘したとおり、請求人は、平成26年12月11日付け上申書で、甲第1号証との関係において、
a.「口頭審理において、「本件特許発明1が抑制すべきとしているマイグレーションではバリア層の溶出に加え銅層も溶出するのでしょうか?」との請求人の質問に対して」被請求人は『本件との関連性がないので、回答する必要はありません。』と「回答した」。
b.「本件特許発明1が抑制すべき「マイグレーション」は、本件特許明細書にも明記されているように、バリア層の溶出だけでなく銅の溶出によって生じる現象である。したがって、本件特許発明1の「マイグレーション」がバリア層の溶出によることを理由として甲第1号証記載のマイグレーションとは異なると判断することは、誤りである。」
と特に主張している。

イ.しかし、請求人の上記の主張は採用できない。その理由は、以下のとおりである。
甲第1号証発明において、「前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより、前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」こと(相違点A3に係る構成とすること)には、阻害要因があり当業者が容易に想到し得たものとはいえず、また、そうでないとしても、甲第1号証発明において、甲第2号証から甲第22号証、及び甲第24号証?甲第29号証に基づいて、当業者が容易に想到し得たものともいえないことは、上記2.で検討したとおりであり、本件特許発明1の「マイグレーション」がバリア層の溶出だけでなく銅の溶出にもよるか否かとの点が、相違点A3に関する上記の判断に影響を及ぼすとは認められない。
そうすると、請求人の上記の主張は、審決の結論に影響を及ぼすものとはいえないから、これを採用することはできない。

4.本件特許発明1についてのまとめ
ア.以上のとおりであるから、甲第1号証?甲第22号証、及び、甲第24号証?甲第29号証に接した当業者が、甲第1号証発明において、たとえ「パターン形成時の銅の足残りが多く」なるという問題があるとしても、「耐マイグレーション性の向上」のため「スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量」を「10重量%」を超えて15?50重量%とすること想起したとは、認められない。

イ.したがって、相違点A1及びA2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証?甲第22号証、及び、甲第24号証?甲第29号証に記載された技術を参酌すれば、当業者が甲第1号証発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない。
以上から、本件特許発明1は、甲第1号証発明に対して、甲第6号証記載事項及び甲第2号証、甲第18号証又は甲第22号証記載事項を適用することにより出願前に当業者が容易に発明できたものとも、また、甲第1号証発明に対して、甲第2号証ないし甲第22号証及び甲第24号証ないし甲第29号証に示されたような周知技術を適用することによっても出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとも、認めることはできない。

A3.本件特許発明2?6についての判断
前述のとおり、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第22号証、及び、甲第24号証?甲第29号証に記載された技術を参酌すれば、当業者が甲第1号証発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない。
したがって、本件請求項1を引用し、本件特許発明1の発明特定事項をすべて有する本件特許発明2?6についても、同様の理由により、甲第1号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

A4.無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし6は、甲第1号証に記載された発明に対して、甲第6号証記載事項及び甲第2号証、甲第18号証又は甲第22号証記載事項を適用することにより出願前に当業者が容易に発明できたものとも、また、甲第1号証に記載された発明に対して、甲第2号証ないし甲第22号証及び甲第24号証ないし甲第29号証に示されたような周知技術を適用することによっても出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとも認められないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとは認められず、本件特許発明1ないし6の特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすることはできない。

B.無効理由2について
B1.甲第2号証に記載された発明
ア.第4.2.b.で摘記した段落【0002】に「テープ自動ボンデイング(TAB)用、フレキシブルプリント配線板(FPC)用には、配線パターンと素子をハンダ付けを必要とする場合は耐熱性の要求性からポリイミド,ポリアミド等の耐熱性の高分子フィルムが,またハンダ付けを必要としない場合はポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムが知られており」との記載があること、前記FPCに実装する前記「素子」が半導体素子であることは一般であることから、甲第2号証には、前記TABないし前記FPC上の電極に半導体素子を実装・接続して半導体装置とすることが実質的に記載されているといえる。

イ.第4.2.f.で摘記した段落【0031】?【0033】及び図3には、Ni-Cr合金層におけるNiの含有率を5at%、20at%、80at%とした例、すなわちCrの含有率を95at%、80at%、20at%とした例が記載されているところ、原子数割合で表された該Crの含有率は、重量割合に変換すると、Crの原子量を52、Niの原子量を58.69として、それぞれ、約94重量%(=52×95/(52×95+58.69×5))、約78重量%(=52×80/(52×80+58.69×20))、約18重量%(=52×20/(52×20+58.69×80))である。

ウ.第4.2.g.で指摘した、Ni=0at%の模式図中に記載された、隣り合う銅層の配線間の距離の寸法である20μmは、Ni=4at%、Ni=5at%及びNi=80at%の場合でも共通することは明らかである。また、第4.2.f.で摘記した段落【0029】の「配線パターンを形成すべく,常法に従い,レジスト材を塗布して露光し,ラインスペース20μmのレジストパターンを形成」するという記載から、配線が複数あることも明らかである。

エ.以上のア?ウを総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲第2号証発明」という。)が記載されていると認める。

「厚さ50μmのポリイミドから成る支持基板1、前記支持基板1の上に形成された厚さ200Å(20nm)のNi-Cr合金層2、前記Ni-Cr合金層2の上に形成された銅層3、4を有するプリント配線基板を備え、前記Ni-Cr合金層2と前記銅層3、4をエッチング処理により所定の配線パターンに形成した複数の配線に半導体素子を接続した半導体装置であって、
前記複数の配線は、配線幅及び配線間距離がいずれも20μmの配線パターンを有し、前記Ni-Cr合金層2におけるCr含有率が18?94重量%である半導体装置。」

B2.本件特許発明1についての判断
1.対比
(1)本件特許発明1と甲第2号証発明との対比
ア.甲第2号証発明の「Ni-Cr合金層2」、「銅層3、4」、「プリント配線基板」は、それぞれ、本件特許発明1の「ニッケル-クロム合金」からなる「バリア層」、「銅を含んだ導電物」からなる「配線層」、「半導体キャリア用フィルム」に相当する。

イ.そして、甲第2号証発明の「ポリイミドからなる支持基板1」は、ポリイミドが絶縁性を有することから、本件特許発明1の「絶縁性を有するベースフィルム」に相当する。

ウ.甲第2号証発明のNi-Cr合金層2は、厚さが20nmであって、本件特許発明1のバリア層の厚みの数値範囲の7nm以上に含まれる。

エ.甲第2号証発明の「Ni-Cr合金層2と銅層3、4をエッチング処理により所定の配線パターンに形成した複数の配線」は、本件特許発明1の「前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あ」ることに相当する。

オ.甲第2号証発明の「配線」は「配線間距離」が「20μmの配線パターン」を有しているから、甲第2号証発明は、本件特許発明1における「半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有し」との要件を備える。

カ.以上から、本件特許発明1と甲第2号証発明とは、
(一致点)
「絶縁性を有するベースフィルム、該ベースフィルム上に形成されたニッケル-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層、および該バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなる配線層を有する半導体キャリア用フィルムと、前記配線層に接続された半導体素子とを備える半導体装置であって、前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり、前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有する半導体装置。」の点で一致し、
次の点で相違する。

(相違点B1)
本件特許発明1は、「配線層」の表面に「スズメッキ」が施されるのに対して、甲第2号証発明は、「銅層3、4」の表面にスズメッキが施されていない点。

(相違点B2)
本件特許発明1は、「半導体素子」が「配線層」に接続された「突起電極」を有するのに対して、甲第2号証発明は、「半導体素子」が「銅層3、4」に接続される突起電極を有するか否か不明である点。

(相違点B3)
本件特許発明1は、「隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において、配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×10^(5)?2.7×10^(6)V/m」であるのに対して、甲第2号証発明は、隣り合う二つの「配線」の間における電界強度が不明である点。

(相違点B4)
本件特許発明1は、「前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%であるとすることにより、前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」ものであるのに対して、甲第2号証発明は、「Ni-Cr合金層2におけるCr含有率が18?94重量%である」が、バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するものであるか否か特定されていない点。

(2)一致点と相違点の認定について
ア.請求人は、第3.1.(3)B.イ.で、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とは「前記バリア層におけるクロム含有率を18重量%とし、微細化配線基板の信頼性を高めること」の点で一致し、甲第2号証にはNi-Cr合金層2(バリア層)の溶出によるマイグレーションを抑制するという効果が明記されていない点で本件特許発明1と相違すると主張する。

イ.しかしながら、被請求人は、第3.2.(3)B.ウ.で示したとおり、請求人による一致点と相違点の認定には誤りがあると主張している。

ウ.そこで、第5.B.B1.ア?エ.では、甲第2号証発明を甲第2号証の記載のとおりに認定し、第5.B.B2.1.(1)ア?オ.では、本件特許発明1と甲第2号証発明との一致点と相違点とを、その文言とおりに対比して認定した。

エ.以下の検討は、この第5.B.B2.1.(1)カ.で認定した一致点と相違点に基づいて行う。

2.相違点B4についての判断
前記相違点B1?B4のうち、相違点B4について検討する。
ア.甲第2号証には、「半導体装置」にイオンマイグレーションが生じるとの記載は存在せず、したがって、「Ni-Cr合金層2におけるCr含有率」を調整してイオンマイグレーションを抑制しようとすることは、記載も示唆もされていない。
しかし、甲第2号証発明の「Ni-Cr合金層2におけるCr含有率が18?94重量%である」ことと、本件特許発明1の「前記バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%である」こととは、「層」の「クロム含有率」が18?50重量%である点で一致する。
そこで、甲第2号証発明において、「クロム含有率」が18?50重量%である「Ni-Cr合金層2」を用いると、「Ni-Cr合金層2」からの成分の溶出によるマイグレーションを抑制できることを、当業者が予期できたかを検討する。

イ.ここで、第2無効審判請求で審判請求人が証拠提出した甲第2号証?甲第14号証と、本件無効審判請求で請求人が証拠提出した甲第2号証?甲第14号証とは、それぞれ、同一の証拠である。
そして、前記第2無効審判請求に対して「特許第4550080号の請求項1ないし請求項6に係る発明についての特許を無効とする。」とした審決がなされたところ、この審決についての審決取消訴訟(平成24年(行ケ)第10373号)において、「原出願日当時,半導体キャリア用フィルムにおいてマイグレーションの問題があることは,当業者に周知であったと認められるが,マイグレーションの発生を抑制するために,バリア層としてクロムの含有量を高めた抵抗値の高いニッケル-クロム層材料を選択するという技術が周知であったと認めるに足りる証拠はない。したがって,上記のとおり,当業者が,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることにより,マイグレーションの発生を抑制する効果を奏すると予測し得たとは認められない。」として前記審決を取り消した判決(平成25年9月30日判決言渡)がなされ、この判決は確定した。
そうすると、本件無効審判請求で請求人が新たに証拠提出した甲第1号証、甲第15号証?甲第22号証及び甲第24号証?甲第29号証が、「マイグレーションの発生を抑制するために,バリア層としてクロムの含有量を高めた抵抗値の高いニッケル-クロム層材料を選択するという技術が周知であったと認めるに足りる証拠」であるかが問題となる。

ウ.しかしながら、第5.A.A2.2.(2)エ?キ.で検討したように、甲第1号証、甲第15号証?甲第22号証及び甲第24号証?甲第29号証には、Ni-Cr合金層におけるCr含有率を、10重量%を超えて所定の範囲に設定すると、前記Ni-Cr合金層の成分の溶出によるマイグレーションを抑制できることは記載されていない。
したがって、甲第1号証、甲第15号証?甲第22号証及び甲第24号証?甲第29号証に接した当業者が、甲第2号証発明の「Ni-Cr合金層2」における「Cr含有率」を、10重量%を超える15?50重量%に設定すると、前記「Ni-Cr合金層2」の成分の溶出によるマイグレーションを抑制できることを予期できたとは認められない。

エ.よって、甲第2号証発明において、相違点B4に係るバリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するために、バリア層におけるクロム含有率を15?50重量%とすることは、甲第1号証、甲第3号証?甲第22号証及び甲第24号証?甲第29号証に記載の事項を勘案しても、当業者が容易になし得たこととはいえない。

3.本件特許発明1についてのまとめ
よって、相違点B1?B3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証発明に対して、甲第1号証記載事項及び甲第6号証記載事項を適用することにより出願前に当業者が容易に発明できたものであるとも、甲第2号証発明に対して、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第22号証及び甲第24号証ないし甲第29号証に示されたような周知技術を適用することによって出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、認めることはできない。

B3.本件特許発明2?6についての判断
前述のとおり、本件特許発明1は甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
したがって、本件請求項1を引用し、本件特許発明1の発明特定事項をすべて有する本件特許発明2?6についても、同様の理由により、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

B4.無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし6は、甲第2号証に記載された発明に対して、甲第1号証記載事項及び甲第6号証記載事項を適用することにより出願前に当業者が容易に発明できたものであるとも、甲第2号証に記載された発明に対して、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第22号証及び甲第24号証ないし甲第29号証に示されたような周知技術を適用することによって出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとは認められず、本件特許発明1ないし6の特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすることはできない。


第6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明1?6に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできないので、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とされるべきものではない。

本件審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-30 
結審通知日 2015-05-07 
審決日 2015-05-25 
出願番号 特願2007-79881(P2007-79881)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池渕 立  
特許庁審判長 小野田 誠
特許庁審判官 鈴木 匡明
加藤 浩一
登録日 2010-07-16 
登録番号 特許第4550080号(P4550080)
発明の名称 半導体装置および液晶モジュール  
代理人 加藤 隆夫  
代理人 杉山 公一  
代理人 安國 忠彦  
代理人 佐々木 定雄  
代理人 川添 大資  
代理人 山本 卓典  
代理人 中川 康生  
代理人 磯田 志郎  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 村井 隼  
代理人 永島 孝明  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
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