ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M |
---|---|
管理番号 | 1320119 |
審判番号 | 不服2015-20289 |
総通号数 | 203 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-11-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-11-12 |
確定日 | 2016-10-03 |
事件の表示 | 特願2011- 24330「インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月30日出願公開、特開2012-162002〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成23年2月7日に出願した特願2011-24330号であり,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。 平成27年 1月30日:拒絶理由通知(同年2月3日発送) 平成27年 4月 2日:意見書 平成27年 4月 2日:手続補正書 平成27年 8月11日:拒絶査定(同年同月13日送達) 平成27年11月12日:審判請求 平成27年11月12日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 補正の却下の決定 [結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この請求項1の記載に係る発明を,「本願発明」という。)。 「【請求項1】 特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と,被印刷媒体を搬送する搬送工程と,を交互に行うことにより印刷を行うインクジェット記録方法であって, 前記画像を形成する工程は, 前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら,前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い,前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクに加熱手段により熱を与えて前記被印刷媒体に定着させるものであり, 前記被印刷媒体が,インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体であり, 前記特定インクは,沸点が120℃以上240℃以下の,グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する,インクジェット記録方法。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を,「本件補正後発明」という。)。なお,下線は当合議体が付したものである(以下同じ。)。 「【請求項1】 特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と,被印刷媒体を搬送する搬送工程と,を交互に行うことにより印刷を行うインクジェット記録方法であって, 前記画像を形成する工程は,前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら,前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い,前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクに加熱手段により熱を与えて前記被印刷媒体に定着させるものであり, 前記走査は,前記プリントヘッドを前記印刷領域に静止させた前記被印刷媒体に対して前記特定インクを吐出しながら相対的に所定の方向に沿って移動させる走査であり, 前記プリントヘッドは,前記所定の方向と交差する方向に,所定のノズル密度を有する複数のノズルが並ぶノズル列を備え,かつ,1回の前記画像を形成する工程は,前記プリントヘッドの前記ノズル密度よりも高い前記所定の方向と交差する方向の印刷解像度で印刷するものであり, 前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクに加熱手段により熱を与えて前記被印刷媒体に定着させる際の,前記被印刷媒体を保持するプラテンの温度が40?80℃であり, 前記被印刷媒体が,インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体であり, 前記特定インクは,沸点が120℃以上240℃以下の,グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する,インクジェット記録方法。」 2 補正の適否 本件補正について,請求人は審判請求書において「上記請求項1の補正は,補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の減縮に相当し,補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一となるものです。」と主張する。 本件補正は,「画像を形成する工程」における「走査」について,「前記プリントヘッドを前記印刷領域に静止させた前記被印刷媒体に対して前記特定インクを吐出しながら相対的に所定の方向に沿って移動させる走査であり」,その結果として「画像を形成する工程」について,「前記プリントヘッドは,前記所定の方向と交差する方向に,所定のノズル密度を有する複数のノズルが並ぶノズル列を備え,かつ,1回の前記画像を形成する工程は,前記プリントヘッドの前記ノズル密度よりも高い前記所定の方向と交差する方向の印刷解像度で印刷するもの」との限定を付加するものである。本件補正は,更に,「画像を形成する工程」における「被印刷媒体に吐出された前記特定インクに加熱手段により熱を与えて前記被印刷媒体に定着させる」ことについて,「前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクに加熱手段により熱を与えて前記被印刷媒体に定着させる際の,前記被印刷媒体を保持するプラテンの温度が40?80℃であり」との限定を付加するものである。 したがって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一となるものであるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また,特許法17条の2第3項,第4項に違反するところはない。 そこで,本件補正後発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下,検討する。 (1)本件補正後発明 本件補正後発明は,上記1(2)に記載したとおりのものである。 (2) 引用例の記載及び引用発明 ア 引用例1の記載 本願の出願の日(以下「出願日」という。)前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由に引用された,特開2009-114301号公報(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。 (ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,新規の非水系インクジェットインク及びインクジェット記録方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 近年,インクジェット記録方式は,簡便でかつ安価に画像を作成できるため,写真,各種印刷,マーキング,カラーフィルター等の特殊印刷など,様々な印刷分野に応用されてきている。 【0003】 この様なインクジェット記録方式で用いられるインクジェットインクとしては,水を主溶媒とする水性インク,室温では揮発しない不揮発性の溶媒を主とし,実質的に水を含まない油性インク,室温で揮発する溶媒を主とし,実質的に水を含まない非水系インク,室温では固体のインクを加熱溶融して印字するホットメルトインク,印字後,光等の活性光線により硬化する活性光線硬化性インク等,複数のインクジェットインクがあり,用途に応じて使い分けられている。 【0004】 一方,長期の耐候性が求められる屋外掲示物や曲面を有する物体への密着性が求められる印字物等には,記録媒体としてポリ塩化ビニルやポリエチレンなどのプラスチック製の記録媒体が用いられ,特に広い用途で軟質ポリ塩化ビニル製の記録媒体が使用されている。軟質ポリ塩化ビニルに印刷する方法は多数あるが,版作製の必要がなく,仕上がりまでの時間が短く,少量多品種の生産に適する方法として,インクジェット記録方法がある。 【0005】 軟質ポリ塩化ビニルに対してインクジェット記録を行う際,用いるインクジェットインクとしては,従来,シクロヘキサノン等を多く含有する非水系インクが用いられており,例えば,シクロヘキサノンを含有したインクジェットインクが開示されている(特許文献1参照)。このシクロヘキサノンは,軟質ポリ塩化ビニルに対する溶解能が高く,インクジェットインク中の顔料が軟質ポリ塩化ビニル中に入り込むため,良好な耐擦過性,光沢性が得られる。しかし,シクロヘキサノンは第1種有機溶媒の指定を受けており,安全性に問題があるだけでなく,シクロヘキサノンを含有するインクジェットインクを取り扱う際には,局所排気装置が必要となる欠点があった。 【0006】 これに対し,シクロヘキサノンを含まないことを特徴とする非水系インクが開発,販売されている。例えば,ポリ塩化ビニルを溶解する溶媒として,上記のような課題を抱えているシクロヘキサノンに代えて,N-メチルピロリドン,アミド等の溶媒を含有する非水系インクが開示されている(特許文献2,3参照)。また,耐擦過性等の画像堅牢性を向上させる目的で,塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体やアクリルなどの定着樹脂を添加した非水系インクが開示されている(特許文献4,5参照)。これらの構成により,臭気をある程度抑制でき,ポリ塩化ビニルに対する耐擦過性をある程度備えた画像を形成できるインクジェットインクを得ることができてきている。しかしながら,昨今のインクジェットプリンタに対してより高速化,高処理能力化の要求があり,印字の速度が速くなってきていることから,印刷物の乾燥が遅いとロール状に印刷物を巻き取る際に,印刷物同士がくっ付いてしまう不具合が起こりやすくなってきている。このような時代の要求に対し,安全性,臭気の問題を解決し,且つ,速乾性を十分に兼ね備えたインクジェットインクが望まれている。」 (イ) 「【0007】 本発明は,上記課題に鑑みなされたものであり,その目的は,ポリ塩化ビニルなどのプラスチック製の記録媒体に対する印字適性(耐擦性,アルコール拭き取り耐性)を有し,安全性に優れ,臭気の問題が無く使用でき,特に速乾性に優れる非水系インクジェットインクとそれを用いたインクジェット記録方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の上記目的は,以下の構成により達成される。 【0009】 1.少なくとも顔料,塩基性基を有する顔料誘導体,定着樹脂と,下記一般式(1)及び(2)で表される化合物群から選ばれる1種類以上の化合物からなる化合物(A)とを含有することを特徴とする非水系インクジェットインク。」 (ウ) 「【0010】 【化1】 【0011】 〔式中,R^(1),R^(2)はそれぞれ炭素数が1?6の置換基を表し,R^(1)とR^(2)が結合して環を形成していてもよい。〕」 (エ) 「【0012】 【化2】 【0013】 〔式中,R^(3),R^(4)はそれぞれ炭素数が1?6の置換基を表し,R^(3)とR^(4)が結合して環を形成していてもよい。〕 2.前記化合物(A)の含有量が,1.5質量%以上,30質量%以下であることを特徴とする前記1に記載の非水系インクジェットインク。 【0014】 3.下記一般式(3)及び(4)で表される化合物群から選ばれる1種類以上の化合物からなる溶媒(B)を含有することを特徴とする前記1または2に記載の非水系インクジェットインク。」 (オ) 「【0015】 【化3】 【0016】 〔式中,R^(5),R^(6)はそれぞれメチル基またはエチル基を表し,OX^(1)はオキシエチレン基またはオキシプロピレン基を表す。〕」 (カ) 「【0017】 【化4】 【0018】 〔式中,R^(7),R^(8)はそれぞれメチル基またはエチル基を表し,OX^(2)はオキシエチレン基またはオキシプロピレン基を表す。〕 4.前記溶媒(B)の含有量が,50質量%以上,90質量%以下であることを特徴とする前記3に記載の非水系インクジェットインク。 【0019】 5.前記溶媒(B)が,ジエチレングリコールジエチルエーテル,ジプロピレングリコールジメチルエーテル,ジプロピレングリコールジエチルエーテル,エチレングリコールジアセテート及びプロピレングリコールジアセテートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記3または4に記載の非水系インクジェットインク。」 (キ) 「【0022】 8.前記1?7のいずれか1項に記載の非水系インクジェットインクを用いて,記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって,該記録媒体が,ポリ塩化ビニル,可塑剤を含有しない樹脂基材及び非吸収性の無機基材を構成要素とする記録媒体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするインクジェット記録方法。 【発明の効果】 【0023】 本発明により,ポリ塩化ビニルなどのプラスチック製の記録媒体に対する印字適性(耐擦性,アルコール拭き取り耐性)を有し,安全性に優れ,臭気の問題が無く使用でき,特に速乾性に優れる非水系インクジェットインクとそれを用いたインクジェット記録方法を提供することができた。 【発明を実施するための最良の形態】 【0024】 以下,本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。 【0025】 本発明者は,上記課題に鑑み非水系インクジェットインクについて様々な溶媒とその組み合わせについて検討を行った結果,少なくとも顔料,塩基性基を有する顔料誘導体,定着樹脂と,前記一般式(1)及び(2)で表される化合物群から選ばれる1種類以上の化合物からなる化合物(A)とを含有することを特徴とする非水系インクジェットインクにより,ポリ塩化ビニルなどのプラスチック製の記録媒体に対する印字適性(耐擦性,アルコール拭き取り耐性)を有し,安全性に優れ,臭気の問題が無く使用でき,特に速乾性に優れる非水系インクジェットインクを実現できることを見出した。 【0026】 詳細な機構は不明でありあくまで推定であるが,塩基性基を有する顔料誘導体と一般式(1),(2)で表される化合物の共存により,印字後,溶剤が僅かに残留した状態における画像面を指などで擦った際のべとつきが抑えられ,顔料がはがれにくくなり,結果として,本発明の目的とする速乾性が向上するものと推察される。」 (ク) 「【0050】 〔一般式(1)及び(2)で表される化合物〕 次いで,本発明に係る前記一般式(1)及び(2)で表される化合物の詳細について説明する。 【0051】 前記一般式(1)において,R^(1),R^(2)はそれぞれ炭素数1?6の置換基を表し,例えば,メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基のような直鎖または分岐のアルキル基や,ヒドロキシエチル基,アセチル基,アセトニル基のようなヘテロ原子が置換したアルキル基,シクロヘキシル基,フェニル基などの環状,または芳香族の置換基等が挙げられ,更にR^(1)とR^(2)は同じであっても異なっていても良く,またR^(1)とR^(2)が互いに結合して環を形成していても良い。 【0052】 前記一般式(2)において,R^(3),R^(4)はそれぞれ炭素数1?6の置換基を表し,例えば,メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基のような直鎖または分岐のアルキル基や,ヒドロキシエチル基,アセチル基,アセトニル基のようなヘテロ原子が置換したアルキル基,シクロヘキシル基,フェニル基などの環状,または芳香族の置換基等が挙げられ,更にR^(3)とR^(4)は同じであっても異なっていても良く,またR^(3)とR^(4)が互いに結合して環を形成していても良い。 【0053】 このような一般式(1),(2)で表される化合物としては,例えば,ジメチルスルホキシド,ジエチルスルホキシド,メチルエチルスルホキシド,ジフェニルスルホキシド,テトラエチレンスルホキシド,ジメチルスルホン,メチルエチルスルホン,メチル-イソプロピルスルホン,メチル-ヒドロキシエチルスルホン,スルホランなどが挙げられる。 【0054】 インクジェットインク中の化合物(A)の含有量は,1.5質量%以上,30質量%以下含有することが好ましく,より好ましくは3質量%以上,20質量%以下であり,特に好ましくは5質量%以上,15質量%以下である。化合物(A)の含有量が1.5%以上であれば,インクのポリ塩化ビニルに対する溶解能が十分となり,ポリ塩化ビニルに対する耐擦過性やアルコール拭き取り耐性を得ることができる。また,3質量%以上であれば,ポリ塩化ビニルに対する耐擦過性やアルコール拭き取り耐性が良好であり,30質量%以下であれば,長期の使用によりインクジェットヘッドの異常を引き起こすことなく,安定した出射を行うことができる。 【0055】 〔一般式(3)及び(4)で表される化合物〕 本発明のインクジェットインクには,非水系溶媒を含有することができるが,前記一般式(3)及び(4)で表される化合物群から選ばれる1種類以上の化合物からなる溶媒(B)を含有することが好ましい。 【0056】 前記一般式(3)において,R^(5),R^(6)はそれぞれメチル基またはエチル基を表し,OX^(1)はオキシエチレン基またはオキシプロピレン基を表す。 【0057】 また,前記一般式(4)において,R^(7),R^(8)はそれぞれメチル基またはエチル基を表し,OX^(2)はオキシエチレン基またはオキシプロピレン基を表す。 【0058】 本発明に係る一般式(3),(4)で表される具体的な化合物としては,例えば,ジエチレングリコールジメチルエーテル,ジエチレングリコールジエチルエーテル,ジプロピレングリコールジメチルエーテル,ジプロピレングリコールジエチルエーテル,エチレングリコールジアセテート,プロピレングリコールジアセテート等が挙げられる。 【0059】 これらの中でも,溶媒(B)の成分として,ジエチレングリコールジエチルエーテル,ジプロピレングリコールジメチルエーテル,ジプロピレングリコールジエチルエーテル,エチレングリコールジアセテート及びプロピレングリコールジアセテートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく,ポリ塩化ビニルに印字した時のインクの速乾性をより向上させることができる。その中でも,特に好ましい溶媒(B)としては,ジエチレングリコールジエチルエーテルとエチレングリコールジアセテートを少なくとも1:1?10:1の比で含有するものである。 【0060】 インクジェットインク中の溶媒(B)の含有量は,50質量%以上,90質量%以下であることが好ましく,このような溶媒構成にすることにより,ポリ塩化ビニル印字時の速乾性,出射安定性が良好となるのに加え,インクの臭気をより少ないものとすることができる。 【0061】 〔その他の溶媒〕 本発明のインクジェットインクにおいては,本発明に係る化合物(A),溶媒(B)の他に,本発明の目的効果を損なわない範囲で,従来公知の溶媒を含有しても良く,そのような溶媒としては,例えば,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,トリエチレングリコールモノメチルエーテル,ジプロピレングリコールモノメチルエーテル,トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類,エチレングリコールジブチルエーテル,テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類,エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類が挙げられる。」 (ケ) 「【0092】 〔インクジェット記録方法〕 本発明のインクジェットインクを吐出して画像形成を行う際に使用するインクジェットヘッドは,オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。又吐出方式としては,電気-機械変換方式(例えば,シングルキャビティー型,ダブルキャビティー型,ベンダー型,ピストン型,シェアーモード型,シェアードウォール型等),電気-熱変換方式(例えば,サーマルインクジェット型,バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式を用いても構わない。 【0093】 本発明のインクジェットインクを用いたインクジェット記録方法においては,例えば,インクジェットインクを装填したプリンタ等により,デジタル信号に基づきインクジェットヘッドよりインクを吐出し記録媒体に付着させることで,インクジェット記録画像が得られる。記録媒体に付着させたインクを素早く確実に乾燥させるため,記録媒体の表面温度を高めて画像形成する方法が好ましい。 【0094】 表面温度は,記録媒体の耐久性や,用いるインクの乾燥性に応じて調節するが,好ましくは40?100℃である。特に,記録媒体としてポリ塩化ビニルを用いる場合,表面温度を高めることにより,記録媒体表面に対するインクの濡れ性が向上するため,表面温度を高めて記録することはより好ましい。 【0095】 ポリ塩化ビニル製の記録媒体の銘柄によっても濡れ性やインク乾燥性に違いが生じることがあるので,各媒体の特性に応じて表面温度を調節しても良い。 【0096】 記録媒体の表面温度を高めて記録を行う場合,インクジェット記録装置にヒーターを搭載させることが好ましく,記録媒体の搬送前,もしくは搬送時に加熱を行うことにより,インクジェット記録装置単体で記録媒体の表面温度を調節することが可能である。 【0097】 〔記録媒体〕 本発明のインクジェット記録方法においては,本発明の非水系インクジェットインクを用いて,記録媒体に画像を記録する際,記録媒体として,ポリ塩化ビニル,可塑剤を含有しない樹脂基材及び非吸収性の無機基材を構成要素とする記録媒体から選ばれる少なくとも1種の記録媒体を用いることを特徴とする。 【0098】 本発明のインクジェット記録方法で用いる記録媒体の一つであるポリ塩化ビニルの具体例としては,SOL-371G,SOL-373M,SOL-4701(以上,ビッグテクノス株式会社製),光沢塩ビ(株式会社システムグラフィ社製),KSM-VS,KSM-VST,KSM-VT(以上,株式会社きもと製),J-CAL-HGX,J-CAL-YHG,J-CAL-WWWG(以上,株式会社共ショウ大阪製),BUS MARK V400 F vinyl,LITEcal V-600F vinyl(以上,Flexcon社製),FR2(Hanwha社製)LLBAU13713,LLSP20133(以上,桜井株式会社製),P-370B,P-400M(以上,カンボウプラス株式会社製),S02P,S12P,S13P,S14P,S22P,S24P,S34P,S27P(以上,Grafityp社製),P-223RW,P-224RW,P-249ZW,P-284ZC(以上,リンテック株式会社製),LKG-19,LPA-70,LPE-248,LPM-45,LTG-11,LTG-21(以上,株式会社新星社製),MPI3023(株式会社トーヨーコーポレーション社製),ナポレオングロス 光沢塩ビ(株式会社二樹エレクトロニクス社製),JV-610,Y-114(以上,アイケーシー株式会社製),NIJ-CAPVC,NIJ-SPVCGT(以上,ニチエ株式会社製),3101/H12/P4,3104/H12/P4,3104/H12/P4S,9800/H12/P4,3100/H12/R2,3101/H12/R2,3104/H12/R2,1445/H14/P3,1438/One Way Vision(以上,Inetrcoat社製),JT5129PM,JT5728P,JT5822P,JT5829P,JT5829R,JT5829PM,JT5829RM,JT5929PM(以上,Mactac社製),MPI1005,MPI1900,MPI2000,MPI2001,MPI2002,MPI3000,MPI3021,MPI3500,MPI3501(以上,Avery社製),AM-101G,AM-501G(以上,銀一株式会社製),FR2(ハンファ・ジャパン株式会社製),AY-15P,AY-60P,AY-80P,DBSP137GGH,DBSP137GGL(以上,株式会社インサイト社製),SJT-V200F,SJT-V400F-1(以上,平岡織染株式会社製),SPS-98,SPSM-98,SPSH-98,SVGL-137,SVGS-137,MD3-200,MD3-301M,MD5-100,MD5-101M,MD5-105(以上,Metamark社製),640M,641G,641M,3105M,3105SG,3162G,3164G,3164M,3164XG,3164XM,3165G,3165SG,3165M,3169M,3451SG,3551G,3551M,3631,3641M,3651G,3651M,3651SG,3951G,3641M(以上,Orafol社製),SVTL-HQ130(株式会社ラミーコーポレーション製),SP300 GWF,SPCLEARAD vinyl(以上,Catalina社製),RM-SJR(菱洋商事株式会社製),Hi Lucky,New Lucky PVC(以上,LG社製),SIY-110,SIY-310,SIY-320(以上,積水化学工業株式会社製),PRINT MI Frontlit,PRINT XL Light weight banner(以上,Endutex社製),RIJET 100,RIJET 145,RIJET165(以上,Ritrama社製),NM-SG,NM-SM(日栄化工株式会社製),LTO3GS(株式会社ルキオ社製),イージープリント80,パフォーマンスプリント80(以上,ジェットグラフ株式会社製),DSE 550,DSB 550,DSE 800G,DSE 802/137,V250WG,V300WG,V350WG(以上,Hexis社製),Digital White 6005PE,6010PE(以上,Multifix社製)等が挙げられる。 【0099】 また,可塑剤を含有しない樹脂基材又は非吸収性の無機基材を構成要素とする記録媒体としては,下記の各種基材を構成要素として,1種類の基材単独で,又は複数の種類の基材を組み合わせて,使用をすることができる。本発明に用いられる可塑剤を含有しない樹脂基材としては,例えば,ABS樹脂,ポリカーボネート(PC)樹脂,ポリアセタール(POM)樹脂,ポリアミド(PA)樹脂,ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂,ポリイミド(PI)樹脂,アクリル樹脂,ポリエチレン(PE)樹脂,ポリプロピレン(PP)樹脂,可塑剤を含有しない硬質ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂等が挙げられる。 【0100】 これらの樹脂は可塑剤を含有していないことが特徴であるが,その他の厚み,形状,色,軟化温度,硬さ等の諸特性について特に制限はない。 【0101】 本発明に用いられる記録媒体として好ましくは,ABS樹脂,PET樹脂,PC樹脂,POM樹脂,PA樹脂,PI樹脂,可塑剤を含有しない硬質PVC樹脂,アクリル樹脂,PE樹脂,PP樹脂である。さらに好ましくはABS樹脂,PET樹脂,PC樹脂,PA樹脂,可塑剤を含有しない硬質PVC樹脂,アクリル樹脂である。 【0102】 また,本発明に用いられる非吸収性の無機基材としては,例えば,ガラス板,鉄やアルミニウムなどの金属板,セラミック板等が挙げられる。これらの無機基材は表面にインク吸収性の層を有していないことが特徴である。これらの非吸収性の無機基材はその他の厚み,形状,色,軟化温度,硬さ等の諸特性について特に制限はない。 【実施例】 【0103】 以下,実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。なお,実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが,特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。」 (コ) 「【0108】 (中略) 《インクの調製》 〔インク1の調製〕 〈顔料分散体1の調製〉 C.I.ピグメントブルー15:3(以下,PB15:3と略記する)を9部,顔料誘導体1を1.0部,顔料分散剤であるソルスパーズ24000(ルーブリゾール社製)を5部,化合物(A)としてジメチルスルホキシド(S-2)を10部,溶媒(B)としてジエチレングリコールジエチルエーテルを60部とエチレングリコールジアセテートを15部混合し,直径0.5mmのジルコニアビーズを体積率で60%充填した横型ビーズミル(アシザワ社製 システムゼータミニ)を用いて分散し,その後ジルコニアビーズを除去して顔料分散体1を得た。 【0109】 〈樹脂溶液1の調製〉 化合物(A)としてジメチルスルホキシドを10部,溶媒(B)としてジエチレングリコールジエチルエーテルを65部とエチレングリコールジアセテートを15部,定着樹脂として,溶液重合法により合成された塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合物(商品名VYHD,数平均分子量22000,ダウケミカルズ社製)を10部,それぞれ混合,溶解して樹脂溶液1を調製した。 【0110】 〈インクの調製〉 上記樹脂溶液1の50部を攪拌しながら,顔料分散体1の50部を添加,混合し,次いで,0.8μmのフィルターによりろ過して,インク1を得た。 【0111】 〔インク2?36の調製〕 上記インク1の調製において,顔料の種類及び添加量,顔料誘導体の種類及び添加量,化合物(A)の種類及び添加量,溶媒(B)の種類及び添加量,その他溶媒の種類及び添加量を,表2,表3に記載のように変更した以外は同様にして,インク2?36を調製した。」 (サ) 「【0112】 【表2】 」 (シ) 「【0113】 【表3】 」 (ス) 「【0114】 なお,表2,表3に略称で記載されている各添加剤の詳細は以下の通りである。なお,表1,表2に記載の含有量の数値は,質量%である。 【0115】 〔顔料〕 PB15:3 C.I.ピグメントブルー15:3 PY150 C.I.ピグメントイエロー150 PR122 C.I.ピグメントレッド122 CB カーボンブラック 〔定着樹脂〕 PVC:溶液重合塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合物(商品名VYHD,ダウケミカルズ社製) 〔化合物(A)〕 S-1:ジ-n-プロピルスルホキシド S-2:ジメチルスルホキシド S-3:ジ-n-ブチルスルホキシド S-4:ジフェニルスルホキシド S-5:テトラメチレンスルホキシド S-6:ジメチルスルホン S-7:ジ-n-プロピルスルホン S-8:メチルイソプロピルスルホン S-9:メチルヒドロキシエチルスルホン S-10:スルホラン 〔溶媒(B)〕 DEGDEE:ジエチレングリコールジエチルエーテル EGDAc:エチレングリコールジアセテート DEGDME:ジエチレングリコールジメチルエーテル PGDAc:プロピレングリコールジアセテート DPGDEE:ジプロピレングリコールジエチルエーテル DPGDME:ジプロピレングリコールジメチルエーテル 〔その他溶媒〕 EGBEAc:エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート NMP:N-メチルピロリドン」 (セ) 「【0117】 (中略) 《形成画像の評価》 〔画像の形成〕 ノズル口径28μm,駆動周波数15kHz,ノズル数512,最小液適量14pl,ノズル密度180dpiであるピエゾ型ヘッドを搭載し,最大記録密度が1440×1440dpiであるヒーターを搭載したオンデマンド型インクジェットプリンタに各インクを装填した。次いで,各インクを吐出し,ポリ塩化ビニル製の記録媒体であるJT5929PM(Mactac社製)に10cm×10cmのベタ画像を記録した。なお,印字中は,記録媒体を裏面から加温して,画像記録時の記録媒体の表面温度が45℃になるようにヒーター温度を設定した。記録媒体の表面温度は,非接触温度計(IT-530N形(株)堀場製作所社製)を用いて測定した。 【0118】 〔速乾性1の評価〕 上記方法に従ってインク1?36より作成した各画像について,ポリ塩化ビニルに画像を記録した後,ベタ画像を指で擦り,下記の基準に従って速乾性1を評価した。△以上の性能を許容レベルとした。」 (ソ) 「【0122】 実施例2 《インクの調製》 〔インク37?58の調製〕 実施例1に記載のインク1の調製において,顔料の種類,顔料誘導体の種類,定着樹脂の種類及び添加量,化合物(A)の種類とその添加量,溶媒(B)の種類とその添加量,その他溶媒の種類とその添加量を,表5に記載のように変更した以外は同様にして,インク37?58を調製した。」 (タ) 「【0123】 【表5】 」 (チ) 「【0124】 なお,表5に略称で記載されている各添加剤の詳細は以下の通りである。なお,表5に記載の含有量の数値は,質量%である。」 イ 引用発明 上記で摘記した段落【0114】の【表2】の説明によれば,各含有量の数値は質量%である。また,【表2】の下部に共通添加剤として分散剤ソルスパーズ24000が2.5質量%,定着樹脂としてPVC塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合物が5質量%であることが記載されており,この定着樹脂は,段落【0109】記載の「溶液重合法により合成された塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合物」であることは明らかである。 そうすると,引用例1には,実施例において【表2】におけるインク番号1のインクを用いた画像の形成に関する次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。(なお,下記の各構成を引用した段落番号等を参照のため併記した。) 「【0117】インクジェットプリンタによる画像を記録する方法において, 【0117】ノズル口径28μm,駆動周波数15kHz,ノズル数512,最小液適量14pl,ノズル密度180dpiであるピエゾ型ヘッドを搭載し,最大記録密度が1440×1440dpiであるヒーターを搭載したオンデマンド型インクジェットプリンタにインクを装填し, 【0117】インクを吐出し,ポリ塩化ビニル製の記録媒体に10cm×10cmのベタ画像を記録し, 【0093】記録媒体に付着させたインクを素早く確実に乾燥させるため,【0117】印字中は,記録媒体を裏面から加温して,画像記録時の記録媒体の表面温度が45℃になるようにヒーター温度を設定し, 【0108】インクについては, 【0108】【表2】C.I.ピグメントブルー15:3を4.5質量%, 【0108】【表2】顔料誘導体を0.5質量%, 【0108】【0109】【0115】【表2】化合物(A)としてジメチルスルホキシドを10質量%, 【0108】【0109】【0115】【表2】溶媒(B)としてジエチレングリコールジエチルエーテルを62.5質量%, 【0108】【0109】【0115】【表2】エチレングリコールジアセテートを15質量%, 【0108】【表2】顔料分散剤であるソルスパーズ24000(ルーブリゾール社製)を2.5質量%, 【0109】【表2】定着樹脂として,溶液重合法により合成された塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合物を5質量%からなるインクである 【0117】インクジェットプリンタによる画像を記録する方法。」 ウ 引用例3の記載 本願の出願日前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由に引用された,特開2009-90635号公報(以下「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。 (ア) 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,液体吐出装置,及び,画像形成方法に関する。 【背景技術】 【0002】 液体吐出装置の一つとして,紙や布,フィルムなどの各種媒体に液体(インク)を吐出して印刷を行うインクジェットプリンタが知られている。このプリンタは,媒体に液体を吐出する複数のノズルが第一方向(副走査方向)に並んでいるヘッドを備えており,当該ヘッドが第一方向と交差する第二方向(主走査方向)に移動しながら液体を吐出する。 【0003】 上述したプリンタは,高画質化の観点から,例えば,いわゆるオーバーラップ印刷やインターレース印刷を行う。すなわち,プリンタは,ヘッドを第二方向と第一方向に交互に複数回移動させて複数のラスタラインを形成することにより,画像を形成する。」 (イ) 「【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ところで,プリンタの中には,印刷の高速化の観点から,前記ヘッドを第一方向に沿って複数有するヘッドユニットを備えたものがある。この場合,例えば,媒体の幅全域にわたって一度に液体が吐出されるように,ヘッドユニットの第一方向の幅を,媒体の第一方向の幅よりも大きくすることが考えられる。しかし,このような構成においては,印刷時のヘッドユニットの第一方向への総移動量が大きい場合には,第二方向の移動の際に媒体の幅全域にわたって一度に液体が吐出されるようにするために,ヘッドユニットの第一方向の幅を大きくする必要がある。 【0005】 また,ヘッドの個体差によって,液体の吐出特性が異なることが知られている。例えば,一のヘッドは液体を吐出しやすい特性を有し,他の一のヘッドは液体を吐出し難い特性を有する。このため,ヘッドユニットを構成する複数のヘッドが液体を吐出する場合においては,各ヘッドの吐出特性の違いに起因していわゆる濃度ムラ等が発生し,この結果,画質が劣化する恐れがある。 【0006】 本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり,目的とするところは,画質の劣化を抑制し,かつ,ヘッドユニットの第一方向の幅が大きくなることを抑制することにある。 【課題を解決するための手段】 【0007】 前記課題を解決するために,主たる本発明は, (a)媒体に液体を吐出する複数のノズルが第一方向に並んでいるヘッドを,前記第一方向に沿って複数有し,前記第一方向と交差する第二方向に前記媒体に対してm回相対移動して前記液体を吐出することにより一つのラスタラインを形成するヘッドユニットであって, 前記ヘッドユニットの前記第一方向の幅が前記媒体の前記第一方向の幅よりも大きいヘッドユニットと, (b)前記ヘッドユニットを前記媒体に対して前記第二方向と前記第一方向に交互に複数回相対移動させる移動機構と, (c)前記ヘッドユニットを前記複数回相対移動させて複数の前記ラスタラインを形成させることにより,解像度が前記ノズルのピッチのn倍である画像を形成する制御部であって, 前記ヘッドユニットが前記複数回相対移動したときの前記ヘッドユニットの前記第一方向の総移動量を,一つの前記ヘッドの前記第一方向の有効ノズル幅×(m×n-1)よりも大きく,かつ,前記有効ノズル幅×(m×n)よりも小さくさせ, 前記ヘッドユニットが前記複数回相対移動したときの前記ヘッドユニットの前記第一方向の各移動量を,前記有効ノズル幅よりも大きくさせて, 前記画像を形成する制御部と, (d)を備えることを特徴とする液体吐出装置である。」 (ウ) 「【0014】 ==インクジェットプリンタの構成例== 液体吐出装置の一例であるインクジェットプリンタ(以下,プリンタ1と呼ぶ)は,媒体の一例である帯状の印刷テープTに,後に切り抜いて用いられる単位画像,例えば,生鮮食品のラップフィルム上に貼付されるシール状の印刷物を,インクジェット方式により印刷するものである。ここで,印刷テープTは,剥離紙付きのロール紙(連続紙)であり,この印刷テープTが連続する方向に,印刷物となる画像が連続的に印刷される。 【0015】 <<プリンタ1の構成>> 図1は,プリンタ1の全体構成ブロック図である。図2Aは,プリンタ1の概略断面図であり,図2Bは,プリンタ1の概略上面図である。図3は,ヘッドユニット40の下面のノズル配列を示す。 【0016】 プリンタ1は印刷データを受信すると,制御部の一例であるコントローラ10により各ユニット(搬送ユニット20,駆動ユニット30,ヘッドユニット40)を制御し,印刷テープTに画像を形成する。なお,検出器群50によりプリンタ1内の状況が監視され,コントローラ10はその検出結果に基づいて各ユニットを制御する。 【0017】 搬送ユニット20は,印刷テープTが連続する方向(以下,搬送方向と呼ぶ)に,印刷テープTを,上流側から下流側に搬送するものである。この搬送ユニット20は,送りローラ21と,送り出しローラ22と,吸着テーブル23等を有する。送りローラ21は,印刷前のロール状の印刷テープTを印刷領域である吸着テーブル23に送り込む。吸着テーブル23は,印刷テープTを下からバキューム吸引して,印刷テープTを保持する。送り出しローラ22は,印刷済みの印刷テープTを印刷領域から送り出す。印刷領域から送り出された印刷テープTは,巻き取り機構によってロール状に巻き取られる。 【0018】 駆動ユニット30は,ヘッドユニット40を,搬送方向に対応する主走査方向と,印刷テープTの幅方向に対応する副走査方向とに自在に移動させる移動機構である。駆動ユニット30は,例えば,ヘッドユニット40を主走査方向に移動させるX移動テーブルと,ヘッドユニット40を保持したX移動テーブルを副走査方向に移動させるY移動テーブルと,これらを移動させるモータとで,構成されている(不図示)。 【0019】 ヘッドユニット40は,主走査方向に移動しながらインクを吐出することにより,印刷テープTにドット列(ラスタライン)を形成する。このドット列の集まりが画像を成すので,ドット列が形成されることにより画像が印刷されることとなる。ヘッドユニット40は10個のヘッド41を有し,10個のヘッド41が幅方向(副走査方向)に千鳥状に並んで配置されている。そして,ヘッドユニット40の一回の主走査方向への移動により印刷テープTの幅全域にわたってインクを吐出できるように,すなわち,ヘッドユニット40の副走査方向の幅が,印刷テープTの幅よりも大きくなるように,10個のヘッドが配置されている。 【0020】 また,各ヘッド41の下面には,イエローインクを吐出するノズル列Yと,マゼンタインクを吐出するノズル列Mと,シアンインクを吐出するノズル列Cと,ブラックインクを吐出するノズル列Kが形成されている。各ノズル列においては,360個のノズルが幅方向に一定の間隔(360dpi)で並んでいる。また,幅方向に隣り合う2つのヘッド(ここでは,ヘッド41(1)とヘッド41(2)を例に挙げて説明する)のうちの奥側のヘッド41(1)の最も手前側の2つのノズル#359・#360と,手前側のヘッド41(2)の最も奥側のノズル#1・#2は,同一ライン上に位置している(すなわち,ノズルがオーバーラップしている)。なお,本実施例においては,副走査方向が第一方向に相当し,主走査方向が第二方向に相当する。 【0021】 <<印刷時のヘッドユニット40の移動態様>> 図4A?図4Iは,印刷時のヘッドユニット40の移動態様を説明するための模式図である。プリンタ1は,ヘッドユニット40が4回主走査方向に移動することにより,各ドット列(ラスタライン)を形成する。なお,印刷時に,印刷テープTは,搬送されずに吸着テーブル23に保持された状態となっている。 【0022】 印刷前のヘッドユニット40は,ホームポジション(図4Aに示す位置)で待機している。印刷時には,まず,ヘッドユニット40は,駆動ユニット30によって主走査方向において下流側から上流側へ移動する(図4B)。そして,この移動(パス1)の際に,ヘッドユニット40の各ノズルから印刷テープTの幅全域にわたってインクが吐出され,印刷テープTにパス1のドット列が形成される。主走査方向に移動したヘッドユニット40は,駆動ユニット30によって副走査方向において奥側から手前側へ移動し(図4C),その後,再び,ヘッドユニット40が主走査方向において上流側から下流側へ移動(パス2)しながら(図4D),ノズルから印刷テープTの幅全域にわたってインクが吐出され,パス2のドット列が形成される。ここで,「パス」とは,ヘッドユニット40が主走査方向に1回移動することをいい,パスの後ろの数字は,パスが行われる順番を示す。 【0023】 このように,ヘッドユニット40は,ドット形成のためのヘッドユニット40の主走査方向の移動(図4B,図4D,図4F,図4H)と,ヘッドユニット40の副走査方向の移動(図4C,図4E,図4G)を交互に行う。これにより,印刷テープTの幅全域にわたって複数のドット列(ラスタライン群)が形成される。そして,ヘッドユニット40は,4回目の主走査方向の移動(パス4,図4H)が終了した後に,副走査方向において奥側に移動し(図4I),図4Aに示すホームポジションに位置する。これによって,印刷時のヘッドユニット40の一連の移動が完了する。」 (エ) 「【図2】 」 (オ) 「【0031】 ==印刷時のヘッドユニットの総副走査量と,ヘッドユニットの幅の関係== 本実施の形態に係るプリンタ1においては,四回の主走査方向の移動(パス1?パス4)の際に,印刷テープTの幅全域にわたってインクが吐出されるような構成となっている。これは,画像の解像度(例えば,副走査方向の解像度が720dpi)がノズルピッチ(360dpi)よりも細かいことに起因して,ヘッドユニット40を副走査方向に720dpi単位で移動させて,ノズルピッチよりも細かい間隔のドット列を形成するためである。 【0032】 一方,パス1?パス4の四回のパスの間に,ヘッドユニット40は,副走査方向に三回移動する(図4C,図4E,図4G)。そして,パス1?パス4で印刷テープTの幅全域にわたってインクが吐出されるようにするため,この三回の移動の総移動量(以下,総副走査量とも呼ぶ)の大きさに応じて,ヘッドユニット40の副走査方向の幅が異なる。かかる点について,図6Aと図6Bを用いて説明する。 【0033】 図6Aは,総副走査量を大きくする場合の,ヘッドユニット40の幅を示している。図6Bは,総副走査量を小さくする場合の,ヘッドユニット40の幅を示している。なお,図6Aと図6Bの点線で示す左側のヘッドユニット40は,一回目の主走査方向の移動(パス1)直前の状態にあり,実線で示す右側のヘッドユニット40は,四回目の主走査方向の移動(パス4)直前の状態にある。このため,点線のヘッドユニット40と実線のヘッドユニット40の副走査方向のずれ量が,ヘッドユニット40の総副走査量になる。 【0034】 図6Aと図6Bから分かるように,総副走査量が大きいほど,印刷テープTの幅全域にわたってインクが吐出されるようにヘッドユニット40の副走査方向の幅も大きくなる。すなわち,ヘッドユニット40を構成するヘッド41の数が多くなる。そして,ヘッドユニット40の幅が大きくなると,ヘッドユニット40の設置スペースを確保するために,プリンタ1の大型化を招く恐れがある。」 (カ) 「【図4】 」 (キ) 「【0038】 図7は,本印刷処理を説明するためのフローチャートである。図7に示すフローチャートは,コントローラ10が,インターフェース11を介してコンピュータ90(図1)から印刷データを受信したときから始まる。 【0039】 本印刷処理において,まず,コントローラ10は,搬送ユニット20によって印刷テープTを印刷領域に送り込む(ステップS2)。すなわち,送りローラ21が,印刷前の印刷テープTを印刷領域である吸着テーブル23に送り込む。 次に,コントローラ10は,駆動ユニット30にヘッドユニット40を主走査方向に移動させながら(図4B),ノズルからインクを吐出させる(ステップS4)。すなわち,コントローラ10は,吸着テーブル23に保持された印刷テープTにパス1のドット列を形成する。画像(印刷物)は4パスで形成されるため,パス1のドット列が形成されると,コントローラ10は,駆動ユニット30にヘッドユニット40を副走査方向に一定の副走査量だけ移動(図4C)させる(ステップS6:No,ステップS8)。 そして,コントローラ10は,ドット形成処理が終了するまで,ヘッドユニット40の主走査方向の移動を伴うドット列の形成(図4D,図4F,図4H)と,ヘッドユニット40の副走査方向の移動(図4E,図4G)とを交互に行う(ステップS4?S8)。」 (ク) 「【図7】 」 (ケ) 「【0040】 ここで,本実施例に係るオーバーラップ印刷について,説明する。オーバーラップ印刷とは,一つのドット列(ラスタライン)を2つ以上のノズルにより形成する印刷方式をいう。具体的には,一のノズルが,主走査方向において,数ドットおきに間欠的にドット列を形成する。そして,他のノズルが既に形成している間欠的なドット列を補完するようにドット列を形成する。 【0041】 図8と図9は,本実施例にかかるオーバーラップ印刷を説明するための図である。ただし,説明の簡略のため,各ヘッド41の4つのノズル列(ノズル列Y,ノズル列M,ノズル列C,ノズル列K)のうちのノズル列Cのみを示し,各ヘッド41のノズル数も16個に減らしている。このため,図8には,10個のヘッド41のうちの副走査方向奥側のヘッド(ヘッド41(1)やヘッド41(2)等)のノズル列Cのパス1?パス4における位置と,ドットの形成の様子とが示され,図9には,副走査方向手前側のヘッド(ヘッド(10)やヘッド41(9)等)のノズル列Cのパス1?パス4における位置と,ドットの形成の様子とが示されている。また,図8と図9においては,ヘッド41(1)とヘッド41(7)のノズルが形成するドットを白丸(○)で示し,ヘッド41(2)とヘッド41(8)のノズルが形成するドットを黒丸(●)で示し,ヘッド41(3)とヘッド41(9)のノズルが形成するドットを白三角(△)で示し,ヘッド41(4)とヘッド41(10)のノズルが形成するドットを黒三角(▲)で示し,ヘッド41(5)のノズルが形成するドットを白菱形(◇)で示し,ヘッド41(6)が形成するドットを黒菱形(◆)で示す。 【0042】 パス1?パス4において,ノズル列Cの各ノズルによって,印刷領域の画素にドットが形成される。ここで,「画素」とは,ドットを形成する位置を規制するために,印刷テープT上に仮想的に定められた方眼上の升目のことをいう。さらに,画素を特定して説明するため,主走査方向に並ぶ画素を「行」で,副走査方向に並ぶ画素を「列」で表す。なお,図8と図9に示す画素は,主走査方向及び副走査方向とも,720dpi間隔で並んでいる。 【0043】 まず,パス1では,各ヘッド41のノズルからインクが吐出される。そして,図8に示す奇数行(R1・R3・R5…行)であって,奇数列(1・3・5…列)の画素にドット列が形成される。例えば,ヘッド41(3)のノズル#1からインクが吐出され,R3行目の奇数列の画素にドットが形成される。同様に,ヘッド41(3)のノズル#2からインクが吐出され,R5行目の奇数列の画素にドットが形成される。このように,各ノズルが,それぞれの位置に対応する各行に,主走査方向に1画素おきにドットを形成する。 【0044】 なお,幅方向に隣り合う2つのヘッド(ここでは,ヘッド41(3)とヘッド41(4)を例に挙げて説明する)のオーバーラップノズルのインク吐出の仕方は,オーバーラップしないノズル(例えば,ヘッド41(3)のノズル#3)のインク吐出の仕方と異なる。すなわち,パス1では,幅方向の奥側のヘッド41(3)のノズル#15とノズル#16が,R31行とR33行目の3・7・11…列の画素にドット列を形成し,手前側のヘッド41(4)のノズル#1とノズル#2が,1・5・9…列の画素にドット列を形成する。このように,隣り合う二つのヘッド41のノズルが,交互にインクを吐出して,奇数列の画素にドット列を形成する。 【0045】 パス1の終了後,ヘッドユニット40は,印刷時の一回目の副走査方向の移動として,副走査方向の奥側から手前側へ所定の副走査量F(具体的には,35/720dpi)だけ移動する。 【0046】 ヘッドユニット40の移動後のパス2では,偶数行(R2・R4・R6…行)であって,偶数列(2・4・6…列)の画素にドット列が形成される。例えば,ヘッド41(3)のノズル#1からインクが吐出され,R38行目の偶数列の画素にドットが形成される。同様に,ヘッド41(3)のノズル#2からインクが吐出され,R40行目の偶数列の画素にドットが形成される。また,2パス目では,隣り合うヘッドのうちの幅方向の奥側のヘッド41(3)のノズル#15とノズル#16は,4・8・12…列の画素にドット列を形成し,手前側のヘッド41(4)のノズル#1とノズル#2は,2・6・10…列の画素にドット列を形成する。すなわち,1パス目と同様に,隣り合う二つのヘッド41のノズルが,交互にインクを吐出して,偶数列の画素にドットを形成する(後述する3パス目と4パス目についても同様である)。 【0047】 パス2の終了後,ヘッドユニット40は,二回目の副走査方向の移動として,所定の副走査量F(35/720dpi)だけ移動する。 【0048】 同様にして,パス3では,奇数行であって,偶数列の画素にドット列が形成される。この結果,パス1とパス3によって,例えばR53行(奇数行)目のドット列が完成する。 【0049】 パス3の終了後,ヘッドユニット40は,三回目の副走査方向の移動として,一回目及び二回目の副走査量と同じ大きさの副走査量F(35/720dpi)だけ移動する。このように,ヘッドユニット40の副走査方向の三回の移動の各移動量Fは,同じ大きさである。そして,各移動量Fと,ヘッドユニット40の三回の副走査量の合計(総副走査量3F)は,以下に説明する一つのヘッド41の有効ノズル幅と所定の関係を満たすように設定されている。 【0050】 まず,有効ノズルについて,説明する。有効ノズルについては,隣り合うヘッド41間のオーバーラップノズル(前述)の有無によって,考え方が異なる。オーバーラップノズルが無い場合には,各ヘッド41の有効ノズルは,ノズル列のノズル全部となる(図11参照)。一方,オーバーラップノズルが有る場合には,各ヘッド41の有効ノズルは,オーバーラップノズルを考慮して定められる。具体的には,ヘッド41の有効ノズルは,当該ヘッド41のノズル列のオーバーラップしないノズルと,当該ヘッド41のオーバーラップノズルを他のヘッド41との関係で均等に分配したノズルと,から成る。 【0051】 ここで,オーバーラップノズルをどのように均等に分配するかについて説明する。例えば,図8において,ヘッド41(3)のノズル#15,ノズル#16は,ヘッド41(4)のノズル#1,ノズル#2とオーバーラップしている。かかる際には,前記ノズル#15とノズル#16のうちのノズル#15が,ヘッド41(3)の有効ノズルに含まれ,前記ノズル#1とノズル#2のうちのノズル#2が,ヘッド41(4)の有効ノズルに含まれるように,オーバーラップノズルを均等に分配する。このように,ヘッド41のオーバーラップノズル中の半分のノズルが,有効ノズルに含まれるように,当該ヘッド41に分配される。 【0052】 本実施例の10個のヘッド41は,それぞれオーバーラップノズルを有しており,各ヘッド41の有効ノズルは,以下の通りである。ヘッド41(1)の有効ノズルは,ノズル#1?ノズル#14と,ヘッド41(2)のノズル#1,ノズル#2とオーバーラップするノズル#15,ノズル#16のうちのノズル#15,の15個のノズルである。一方,ヘッド41(2)の有効ノズルは,ヘッド41(1)のノズル#15,ノズル#16とオーバーラップするノズル#1,ノズル#2のうちのノズル#2と,ノズル#3?ノズル#14と,ヘッド41(3)のノズル#1,ノズル#2とオーバーラップするノズル#15,ノズル#16のうちのノズル#15,の14個のノズルである。ヘッド41(3)?ヘッド41(9)の有効ノズルは,ヘッド41(2)と同様に,ノズル#2?ノズル#15である。一方,ヘッド41(10)の有効ノズルは,ヘッド41(9)のノズルとオーバーラップするノズル#1とノズル#2のうちのノズル#2と,ノズル#3?ノズル#16,の15個のノズルである。 【0053】 次に,上述した有効ノズルから定まる有効ノズル幅について,説明する。有効ノズル幅は,副走査方向における有効ノズル(当該有効ノズルは,副走査方向において,2/720dpi間隔で並んでいる)の幅である。本実施例においては,ヘッド41(1)とヘッド41(10)の有効ノズル幅は,有効ノズルが15個であるため,30/720dpiである。一方,ヘッド41(2)?ヘッド41(9)の有効ノズル幅は,有効ノズルが14個であるため,28/720dpiである。そして,プリンタ1においては,ヘッドユニット40の副走査方向の各移動量F(35/720dpi)が,2つの有効ノズル幅のうちの小さい有効ノズル幅(28/720dpi)よりも大きくなるように,設定されている。 【0054】 そして,総副走査量3Fと前記有効ノズル幅(28/720dpi)との関係は,以下のように設定されている。前述したように,一つのラスタラインは,ヘッドユニット40が主走査方向にm回(2回)移動して形成され,画像の解像度(720dpi)がノズルのピッチ(360dpi)のn倍(2倍)である。かかる際に,プリンタ1においては,ヘッドユニット40の印刷時の総副走査量3F(105/720dpi)が,前記有効ノズル幅(28/720dpi)×(m×n-1)よりも大きく,かつ,前記有効ノズル幅(28/720dpi)×(m×n)よりも小さくなるように設定されている。そして,本実施例においてはmとnがそれぞれ2であるから,総副走査量3F(105/720dpi)が,(28/720dpi)×3(=84/720dpi)よりも大きく,かつ,(28/720dpi)×4(=112/720dpi)よりも小さくなっている。 【0055】 オーバーラップ印刷の説明を続ける。パス4では,偶数行であって,奇数列の画素にドット列が形成される。この結果,パス2とパス4によって,例えばR52行(偶数行)目のドット列が完成する。このように,本実施例のオーバーラップ印刷においては,一つのドット列が異なる2つのノズルにより形成される。 【0056】 ここで,印刷領域のドット列(ラスタライン)が何れのヘッド41のノズルによって形成されるかについて,考察する。ここで,印刷領域のドット列は,R52行目のドット列のように完成されたドット列を言い,本実施例においてはR52行?Rn行(図9)までのドット列を指す。 【0057】 印刷領域の全てのドット列は,図8及び図9に示すように,異なる二つ(又は三つ)のヘッド41のノズルによって形成されている。すなわち,奇数行(R53行等)目のドット列は,パス1とパス3において異なるヘッド41のノズルによって形成され,偶数(R52行等)目のドット列は,パス2とパス4において異なるヘッド41のノズルによって形成されている。このように,各ドット列が異なる二つ(又は三つ)のヘッド41のノズルによって形成されている理由は,ヘッドユニット40の副走査量Fが一つのヘッド41の有効ノズル幅(28/720dpi)よりも大きいためである。 【0058】 ここで,2つの異なるヘッド41のノズルによって形成されているドット列は,R60行目のように,オーバーラップしないノズル(ヘッド41(1)のノズル#5とヘッド41(3)のノズル#12)のみによって形成されたドット列である。一方,3つの異なるヘッド41のノズルによって形成されているドット列は,R59行目のように,オーバーラップノズル(ヘッド41(4)のノズル#15とヘッド41(5)のノズル#1)とオーバーラップしないノズル(ヘッド41(2)のノズル#8)によって形成されたドット列である。 【0059】 また,印刷領域の隣り合う2つのドット列を見ると,この2つのドット列を形成するノズルは,4つの異なるヘッド41(または,5つの異なるヘッド41)のノズルである。例えば,R52行目のドット列とR53行目のドット列を形成するノズルは,ヘッド41(1),ヘッド41(2),ヘッド41(3),ヘッド41(4)の異なる4つのヘッドのノズルである。すなわち,ヘッド41(1)とヘッド41(3)がR52行目のドット列を形成し,ヘッド41(2)とヘッド41(4)がR54行目のドット列を形成する。また,R59行目のドット列とR60行目のドット列を形成するノズルは,ヘッド41(1),ヘッド41(2),ヘッド41(3),ヘッド41(4),ヘッド41(5)の異なる5つのヘッドのノズルである。すなわち,ヘッド41(1)とヘッド41(3)がR60行目のドット列を形成し,ヘッド41(2)とヘッド41(4)とヘッド41(5)がR59行目のドット列を形成する。このように,一つのヘッド41が,連続するドット列を形成しない。 【0060】 以上,本実施例に係るオーバーラップ印刷について説明した。図7に示すフローチャートに戻って,本印刷処理の説明を続ける。パス4のドット列を形成することによりドット形成処理が終了すると(ステップS6:Yes),別言すると,印刷テープTに印刷物(画像)を印刷すると,コントローラ10は,駆動ユニット30にヘッドユニット40を副走査方向に移動させて(図4I),ホームポジションに位置させる(ステップS10)。 次に,コントローラ10は,搬送ユニット20によって,ドットが形成された印刷テープT(印刷済みの印刷テープT)を印刷領域から送り出す(ステップS12)。すなわち,送り出しローラ22が,印刷済みの印刷テープTを印刷領域から送り出す。 更に印刷すべき印刷データがある場合には(ステップS14:Yes),コントローラ10は,上述した動作(ステップS2?S12)を繰り返して,印刷テープTに印刷を行う。一方,印刷データが無い場合には(ステップS14:No),コントローラ10は本印刷処理を終了する。」 (コ) 「【0067】 ==第二実施形態に係る印刷処理== 上述した実施形態(第一実施形態)に係る印刷処理においては,図8と図9に示すようにオーバーラップ印刷が行われていた。第二実施形態においては,オーバーラップ印刷が行われずにインターレース印刷が行われる(なお,第一実施形態においては,インターレース印刷も行われている)。ここで,インターレース印刷とは,一回のパスで形成されるラスタラインの間に形成されないラスタラインが挟まれるような印刷方式を意味する。すなわち,一回のパスで形成されないラスタラインを,他のパスで補完することにより,連続するラスタラインを形成する。 【0068】 第二実施形態に係る画像の解像度は,主走査方向においては720dpiであり,副走査方向においては1440dpiである。この副走査方向の解像度1440dpiは,ノズルのピッチ(360dpi)の4倍(n=4)である。また,ヘッドユニット40が一回の移動で一つのラスタラインを形成するため,m=1である。さらに,ヘッドユニット40は,第二実施形態においても,図4に示すように四回の主走査方向の移動と三回の主走査方向の移動を,交互に行う。 【0069】 そして,第二実施形態に係る印刷処理においても,コントローラ10は,(1)ヘッドユニット40が副走査方向に三回移動したときのヘッドユニット40の総移動量を,一つのヘッド41の副走査方向の有効ノズル幅×(m×n-1)よりも大きく,かつ,前記有効ノズル幅×(m×n)よりも小さくさせ,(2)ヘッドユニット40が前記三回移動したときのヘッドユニット40の副走査方向の各移動量を,前記有効ノズル幅よりも大きくさせて,画像を形成する。 【0070】 図10は,第二実施形態に係るインターレース印刷を説明するための図である。図10においては,図8と同様に,ノズル列Cのみが示されており,ヘッド41(1)のノズルが形成するドットを白丸(○)で示し,ヘッド41(2)のノズルが形成するドットを黒丸(●)で示し,ヘッド41(3)のノズルが形成するドットを白三角(△)で示し,ヘッド41(4)のノズルが形成するドットを黒三角(▲)で示し,ヘッド41(5)のノズルが形成するドットを白菱形(◇)で示し,ヘッド41(6)が形成するドットを黒菱形(◆)で示す。 【0071】 印刷時のヘッドユニット40の一回の副走査量Fは71/1440dpiであり,一つのヘッド41の有効ノズル幅{28/720dpi(=56/1440dpi)}よりも大きい。ここで,このような副走査量で移動するヘッドユニット40によって形成される印刷領域のドット列について考察する。 【0072】 印刷領域のドット列は,一定の規則性に基づいて形成されている。すなわち,4つの連続するラスタライン(これらのラスタラインは,それぞれ異なるヘッド41によって形成されている)が,一塊として繰り返し形成されている。すなわち,図10に示すLa(4つの連続するラスタライン)が繰り返し形成され,このLa前後のラスタラインも4つのラスタライン毎に繰り返し形成されている。このように,副走査量Fが有効ノズル幅よりも大きくすることによって,連続するラスタラインが同一のヘッド41によって形成されないので,仮にあるヘッド41によって濃度ムラとなるラスタラインが形成されても,当該ラスタラインが連続せずに分散して形成される。これにより,濃度ムラが顕著になることを抑制でき,この結果,画質の劣化を抑制できる。 【0073】 また,ヘッドユニット40の総副走査量F3は,213/1440dpiである。この総副走査量F3は,前記有効ノズル幅×(m×n-1),すなわち,56/1440dpi×3(=168/1440dpi)よりも大きく,かつ,前記有効ノズル幅×(m×n),すなわち,56/1440dpi×4(=224/1440dpi)よりも小さい。これにより,第一実施の形態と同様に,インターレース印刷の各パスで印刷テープTの幅全域にわたってインクを吐出させる場合でも,ヘッドユニット40の幅が大きくなる(ヘッド41の数が多くなる)ことを抑制できる。 【0074】 なお,第二実施形態においては,副走査方向の解像度は,1440dpiであり,ノズルピッチ(360dpi)の4倍(n=4)であることとしたが,これに限定されるものではない。例えば,副走査方向の解像度が,720dpiであり,ノズルピッチの2倍(n=2)であることとしてもよい。すなわち,インターレース印刷が実現できれば,nは2以上の自然数であれば良い。」 エ 引用例3記載発明 したがって,引用例3の【発明の詳細な説明】には,高画質化の観点から,いわゆるオーバーラップ印刷やインターレース印刷とされるインクジェット方式による印刷方法に関する以下の発明(以下,「引用例3記載発明」という。)が記載されている。(なお,下記の各構成を引用した段落番号等を参照のため併記した。) 「【0014】媒体である帯状の印刷テープTに,印刷物をインクジェット方式により印刷する方法において, 【0017】搬送ユニット20は,送りローラ21と,送り出しローラ22と,吸着テーブル23を有し,印刷テープTを,上流側から下流側に搬送し,吸着テーブル23は,印刷テープTを下からバキューム吸引して,印刷テープTを保持し, 【0039】搬送ユニット20によって印刷テープTを印刷領域に送り込み,ノズルからインクを吐出してドット列形成を行い,【0060】ドットが形成された印刷テープTを印刷領域から送り出し,更に印刷すべき印刷データがある場合には,上述した動作を繰り返して,印刷テープTに印刷を行い, 【0019】ヘッドユニット40は10個のヘッド41を有し,【0020】各ヘッド41の下面には,イエローインクを吐出するノズル列Yと,マゼンタインクを吐出するノズル列Mと,シアンインクを吐出するノズル列Cと,ブラックインクを吐出するノズル列Kが形成され,各ノズル列においては,360個のノズルが幅方向に一定の間隔(360dpi)で並んでいて, 【0018】【0017】ヘッドユニット40を,印刷テープTが連続する方向に対応する主走査方向と,印刷テープTの幅方向に対応する副走査方向とに自在に移動させる移動機構を設け, 【0021】印刷時に,印刷テープTは,搬送されずに吸着テーブル23に保持された状態となっていて,【0023】ヘッドユニット40は,ドット形成のためのヘッドユニット40の主走査方向の移動と,ヘッドユニット40の副走査方向の移動を交互に行い, 【0031】画像の解像度(副走査方向の解像度が720dpi)がノズルピッチ(360dpi)よりも細かいことに起因して,ヘッドユニット40を副走査方向に720dpi単位で移動させて,ノズルピッチよりも細かい間隔のドット列を形成するため,四回の主走査方向の移動の際に,印刷テープTの幅全域にわたってインクが吐出される 【0014】インクジェット方式による印刷方法。」 (3) 対比 ア 特定インク 「インクジェットプリンタによる画像を記録する方法」に係る引用発明の「インク」は,その組成中の成分として「溶媒(B)としてジエチレングリコールジエチルエーテルを62.5質量%」含有している。ここで当該ジエチレングリコールジエチルエーテルは,グリコールエーテル系の物質,即ち有機物質であり,「溶媒」として用いるものであるから,「溶剤」として機能していることは明らかである。そして,東京化学同人社の「化学大辞典」(1998年発行)の930頁には,ジエチレングリコールジエチルエーテルの物性として沸点が187?187.5℃(775mmHg)であることが記載されていることから,引用発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル」は,本件補正後発明の「沸点が120℃以上240℃以下の,グリコールエーテル系溶剤」に相当する。 したがって,引用発明の「インク」は,「沸点が120℃以上240℃以下の,グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する」「特定インク」に相当する。 イ 被印刷媒体 引用発明は,「インクを吐出し,ポリ塩化ビニル製の記録媒体に10cm×10cmのベタ画像を記録し」ている。「ポリ塩化ビニル」は一般にインクに対する吸収性に劣ることは技術常識であり,「印刷物の乾燥が遅いとロール状に印刷物を巻き取る際に,印刷物同士がくっ付いてしまう」ことを課題としていることから(段落【0006】),「ポリ塩化ビニル」はインクを即座に吸収してしまうものではないといえる。また,本願の明細書の段落【0121】には,「ポリ塩化ビニル」がインク非吸収性の被印刷媒体として例示されている。 したがって,引用発明の「ポリ塩化ビニル製の記録媒体」は,本件補正後発明の「被印刷媒体」に相当するとともに,「インク非吸収性又は低吸収性」との要件を満たす。 ウ 画像を形成する工程 引用発明は,「インクジェットプリンタにインクを装填し」,「インクを吐出し,ポリ塩化ビニル製の記録媒体に10cm×10cmのベタ画像を記録」している。引用発明は,「印刷領域に位置する被印刷媒体」に画像を形成するのは当然のことである。 したがって,上記アより,引用発明の「インクを吐出し」,「画像を記録」することは,本件補正後発明の「特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程」に相当する。 エ 加熱手段,定着 引用発明の「ヒーターを搭載したオンデマンド型インクジェットプリンタ」は,「記録媒体に付着させたインクを素早く確実に乾燥させるため」「印字中は,記録媒体を裏面から加温して,画像記録時の記録媒体の表面温度が45℃になるようにヒーター温度を設定」している。ここで,引用発明の「ヒーター」は,本件補正後発明の「加熱手段」に相当する。したがって,引用発明では,「インクに加熱手段により熱を与え」,「記録媒体に付着させたインクを素早く確実に乾燥」させているのであるから,インクが被印刷媒体に定着されることは技術的に明らかである。 したがって,引用発明の本願補正後発明「画像を形成する工程」は,本願補正後発明の「前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクに加熱手段により熱を与えて前記被印刷媒体に定着させ」ているとの要件を満たす。 オ インクジェット記録方法 上記ア?エより,引用発明の「インクジェットプリンタによる画像を記録する方法」は,本件補正後発明の「インクジェット記録方法」に相当し,上記ア?エの範囲で両者は共通する。 (4) 一致点 本件補正後発明と引用発明は,以下の構成において一致する。 「特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程を行うインクジェット記録方法であって, 前記画像を形成する工程は,前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクに加熱手段により熱を与えて前記被印刷媒体に定着させるものであり, 前記被印刷媒体が,インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体であり, 前記特定インクは,沸点が120℃以上240℃以下の,グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する,インクジェット記録方法。」 (5) 相違点 本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。 ア 相違点1 本件補正後発明の「インクジェット記録方法」は,「インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と,被印刷媒体を搬送する搬送工程と,を交互に行うことにより印刷を行」い,「前記画像を形成する工程は,前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら,前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い,」「前記走査は,前記プリントヘッドを前記印刷領域に静止させた前記被印刷媒体に対して前記特定インクを吐出しながら相対的に所定の方向に沿って移動させる走査であり,」「前記プリントヘッドは,前記所定の方向と交差する方向に,所定のノズル密度を有する複数のノズルが並ぶノズル列を備え,かつ,1回の前記画像を形成する工程は,前記プリントヘッドの前記ノズル密度よりも高い前記所定の方向と交差する方向の印刷解像度で印刷する」のに対して,引用発明は,そのような記録方法を行っているか不明な点。 イ 相違点2 本件補正後発明は,「前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクに加熱手段により熱を与えて前記被印刷媒体に定着させる際の,前記被印刷媒体を保持するプラテンの温度が40?80℃であ」るのに対し,引用発明は,記録媒体の表面温度が45℃になるようにヒーター温度の設定をしている点。 (6) 判断 ア 相違点1について (ア) 引用例3記載発明について 引用例3記載発明は「媒体である帯状の印刷テープTに,印刷物をインクジェット方式により印刷する方法において,搬送ユニット20によって印刷テープTを印刷領域に送り込み,ノズルからインクを吐出してドット列形成を行い,ドットが形成された印刷テープTを印刷領域から送り出し,更に印刷すべき印刷データがある場合には,上述した動作を繰り返して,印刷テープTに印刷を行」っている。ここで,引用例3記載発明の「インク」,「印刷物」,「印刷テープ」及び「印刷領域」は,それぞれ,本願補正後発明の「インク」,「画像」,「被印刷媒体」及び「印刷領域」に相当する。引用例3記載発明は,「媒体である帯状の印刷テープTに,印刷物をインクジェット方式により印刷」するため,「インクを吐出」するノズルによりドット形成を行っている。したがって,引用例3記載発明の「ドット形成」による「印刷」は,本願補正後発明の「画像を形成する工程」に相当するとともに,引用例3記載発明のインクジェット方式による「印刷」は,本願補正後発明の「インクを吐出して被印刷媒体に画像を形成」しているといえる。そして,引用例3記載発明は,印刷テープTの印刷領域への送り込み,ドット形成,印刷領域からの送り出しを繰り返しており,ドット形成と印刷領域への送り込みを繰り返している。引用例3記載発明の「印刷テープT」の「印刷領域への送り込み」や「印刷領域からの送り出し」は,本願補正後発明の「被印刷媒体を搬送する搬送工程」に相当する。したがって,引用例3記載発明は,本件補正後発明の「インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と,被印刷媒体を搬送する搬送工程と,を交互に行うことにより印刷を行」っているといえる。 また,引用例3記載発明は,「印刷時に,印刷テープTは,搬送されずに吸着テーブル23に保持された状態となっていて,ヘッドユニット40は,ドット形成のためのヘッドユニット40の主走査方向の移動と,ヘッドユニット40の副走査方向の移動を交互に行い,」「四回の主走査方向の移動の際に,印刷テープTの幅全域にわたってインクが吐出され」ている。引用例3記載発明の「ヘッドユニット40」は,本願補正後発明の「プリントヘッド」に相当する。引用例3記載発明の印刷時の「印刷テープT」は「搬送されずに吸着テーブル23に保持された状態」であるから,「印刷領域に静止」しているといえる。引用例3記載発明の「ヘッドユニット40の主走査方向の移動」は「ドット形成のため」であり,引用例3記載発明の「ヘッドユニット40の主走査方向の移動」は,その際にインクを吐出するものであるから,本願補正後発明の「プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査」に相当する。そして,引用例3記載発明の「ヘッドユニット40の主走査方向の移動」は副走査方向の移動と交互に行われるものであり,その際には,「主走査方向の移動」は「複数回行」うこととなる。引用例3記載発明の「ヘッドユニット40」は,印刷時に「印刷領域に静止」している被印刷媒体に対して,「相対的に移動」させているといえる。したがって,引用例3記載発明は,本願補正後発明の「前記画像を形成する工程は,前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら,前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行」うとの要件を満たす。そして,引用例3記載発明の「吸着テーブル23」は,静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら画像を形成する際の被印刷媒体を保持する台であるという点で,本願補正後発明の「プラテン」と一致する。 そして,引用例3記載発明の「ヘッドユニット40の主走査方向の移動」は「ドット形成のため」である。したがって,引用例3記載発明の「主走査方向」は,本願補正後発明の「所定の方向」に相当し,引用例3記載発明の「ヘッドユニット40の主走査方向の移動」は,本願補正後発明の「前記走査は,前記プリントヘッドを前記印刷領域に静止させた前記被印刷媒体に対して前記インクを吐出しながら相対的に所定の方向に沿って移動させる走査であ」るとの要件を満たす。 さらに,引用例3記載発明の「ヘッドユニット40」は,「10個のヘッド41を有し」,「各ヘッド41」は,「360個のノズルが幅方向に一定の間隔(360dpi)で並」ぶ「ノズル列」を有している。引用例3記載発明の「ノズル列」は,本願補正後発明の「ノズル列」に相当するとともに,「所定のノズル密度を有する複数のノズルが並ぶ」との要件を満たす。引用例3記載発明の「幅方向」は印刷テープTの幅方向であり,副走査方向に対応し,印刷テープTが連続する方向とは,当然直交するものである。上記のとおり,引用例3記載発明の「主走査方向」は,本願補正後発明の「所定の方向」に相当するものであるから,引用例3記載発明の「幅方向」(及び「副走査方向」)は,本願補正後発明の「所定の方向と交差する方向」に相当する。したがって,引用例3記載発明の「ヘッドユニット40」は,本願補正後発明の「前記所定の方向と交差する方向に,所定のノズル密度を有する複数のノズルが並ぶノズル列を備え」るとの要件を満たす。引用例3記載発明は,「印刷」によって「ヘッドユニット40を副走査方向に720dpi単位で移動させて,ノズルピッチよりも細かい間隔のドット列を形成するため,四回の主走査方向の移動」により「画像の解像度(例えば,副走査方向の解像度が720dpi)がノズルピッチ(360dpi)よりも細か」くしている。引用例3記載発明の「印刷」,「ノズルピッチ」及び「副走査方向の解像度」は,それぞれ,本願補正後発明の「1回の前記画像を形成する工程」,「ノズル密度」及び「所定の方向と交差する方向の印刷解像度」に相当する。したがって,引用例3記載発明の「印刷」は,本願補正後発明の「前記プリントヘッドの前記ノズル密度よりも高い前記所定の方向と交差する方向の印刷解像度で印刷する」との要件を満たす。 したがって,引用例3記載発明の「インクジェット記録方法」は,本件補正後発明の「インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と,被印刷媒体を搬送する搬送工程と,を交互に行うことにより印刷を行」い,「前記画像を形成する工程は,前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら,前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い,」「前記走査は,前記プリントヘッドを前記印刷領域に静止させた前記被印刷媒体に対して前記インクを吐出しながら相対的に所定の方向に沿って移動させる走査であり,」「前記プリントヘッドは,前記所定の方向と交差する方向に,所定のノズル密度を有する複数のノズルが並ぶノズル列を備え,かつ,1回の前記画像を形成する工程は,前記プリントヘッドの前記ノズル密度よりも高い前記所定の方向と交差する方向の印刷解像度で印刷する」「インクジェット記録方法」に相当する。 そして,引用例3は,「プリントヘッドの前記ノズル密度よりも高い」「所定の方向と交差する方向の印刷解像度で印刷する」為に,上記引用例3記載発明の「インクジェット方式による印刷方法」を用いているものであり,インクジェット記録の技術分野において,同一の目的のもと引用例3記載発明と同じ印刷方法を採用することは,本願の出願日前において一般的に行われている事項である。(以下「周知慣用技術」という。) (イ) 相違点1についての判断 引用例1には,「印刷物の乾燥が遅いとロール状に印刷物を巻き取る際に,印刷物同士がくっ付いてしまう不具合が起こりやすくなってきている。」(段落【0007】)と記載されており,引用例1における「記録媒体」はロール状に巻き取るものも対象としている。引用例3においても,「ロール状に巻き取られ」た(段落【0017】,図2)テープを対象としており,「フィルムなどの各種媒体」(段落【0002】)を印刷対象としている。したがって,引用発明と引用例3記載発明は,印刷対象を同様のものとするインクジェット記録技術である。引用例3記載発明のような,いわゆるオーバーラップ印刷やインターレース印刷は,より高解像度の画像を形成して高画質化を図るものであり(引用例3の段落【0003】),より高い画質とすることはインクジェット記録の技術分野において一般的な課題である。さらに,ロール紙等の連続紙としての印刷対象を静止してインクジェットヘッドを走査して印刷を行う引用例3記載発明のような印刷方法によれば,位置精度良く印刷ができることはよく知られている技術事項(例えば,原査定で引用例2として引用されている特開2002-225254号公報の段落【0007】,【0016】?【0018】)にすぎない。 したがって,引用発明において,位置精度良く,高画質の画像を形成することを目的として,上記の「周知慣用技術」を適用することは,当業者が容易にできたことである。 イ 相違点2について 引用発明においては,「印字中は,記録媒体を裏面から加温して,画像記録時の記録媒体の表面温度が45℃になるようにヒーター温度を設定」している。 インクジェットの技術分野において,印刷部の記録媒体の裏面にプラテンを設けることも,一般的に行われていることである。例えば,特開2010-125830号公報には,プラテンを介してフィルム材に熱を伝達することが記載されている(段落【0030】,図2)。そうすると,引用発明の「インクジェットプリンタ」がプラテンを備えることは自明である。 そして,上記相違点1の判断のように引用発明に「周知慣用技術」を適用して,ロール紙等の連続紙を被印刷媒体として,被印刷媒体を静止してプリントヘッドを走査して印刷を行う際には,被印刷媒体を静止させた状態でテーブル等に保持することになり,当該テーブル等は本願補正後発明の「プラテン」に相当するものであることは先述したとおりであるから,少なくとも,引用発明に適用した本願補正後発明の「プラテン」に相当する当該テーブルが,ヒーターによって加温されていることは明らかである。 そして,引用発明において「画像記録時の記録媒体の表面温度が45℃になるように」しているのであるから,少なくとも裏面から加温するプラテンは45℃より高い温度になっている。プラテンと記録媒体の表面温度の関係は記録媒体の厚さなどにもよるが,プラテンに直接接触する記録媒体は,概ねプラテンの温度と同程度の温度となり,プラテンの温度を80℃までは高めないものと考えられる。したがって,引用発明において,「記録媒体を裏面から加温」して「記録媒体の表面温度」を「45℃」とするため,「前記被印刷媒体を保持するプラテンの温度」をヒーターにより「40?80℃」に高めることは,引用発明に「周知慣用技術」を適用した際の実施に際しての設計事項にすぎない。 あるいは,引用例1には「記録媒体の表面温度を高めて画像形成する方法が好ましい。表面温度は,記録媒体の耐久性や,用いるインクの乾燥性に応じて調節するが,好ましくは40?100℃である。」(段落【0093】,【0094】)と記載されている。プラテンに直接接触する記録媒体は,概ねプラテンの温度と同程度の温度となると考えて,「プラテンの温度」を「40?80℃」とすることを採用することは,当業者が容易にできたことである。 (7) 効果について 発明の効果に関して,本願の発明の詳細な説明には,「画質の問題は主にインクの乾燥性に起因しており,この乾燥性は定着性やタック性の要因となる。」「本発明は高沸点溶剤を使用したインクを用いて,インク非吸収性及び低吸収性の被印刷媒体にインクジェット記録方式で画像を形成する記録方法であって,被印刷媒体のインク吸収性によらず画質と定着性に優れ,高速印刷性(タック性及び乾燥性)と吐出安定性にも優れるインクジェット記録方式の記録方法を提供することを目的とする。」(段落【0007】,【0008】),「本実施形態によれば,定着性,タック性,及び着弾精度に優れた記録方法を提供することができる。」(段落【0075】)などと記載されている。 しかしながら,引用例1には,「目的は,ポリ塩化ビニルなどのプラスチック製の記録媒体に対する印字適性(耐擦性,アルコール拭き取り耐性)を有し,安全性に優れ,臭気の問題が無く使用でき,特に速乾性に優れる非水系インクジェットインクとそれを用いたインクジェット記録方法を提供することにある。」と記載されている。引用発明においては,本願補正後発明のインクに該当するインクを用いて,同様の加熱をしながら印刷を行っている。そして,走査の速度や記録の工程の違いにより,加熱される時間が長くなればインクの乾燥も進むことは,当業者が当然考慮する事項である。したがって,本願補正後発明におけるインクの乾燥性に起因した定着性やタック性についての効果は,格別のものともいえない。そして,上記(6)アの通り,印刷対象を静止してインクジェットヘッドを走査して印刷を行うことにより位置精度良く印刷ができることは知られている。 そうしてみると,上記の相違点を総合的に勘案しても,本件補正後発明が奏する上記の効果は,引用発明が奏する効果であるか,あるいは,引用発明において周知慣用技術を採用した当業者が期待する効果の範囲内のものである。 (8) 請求人の主張について 請求人は,審判請求書において「引用文献1?3には,特定の有機溶剤を特定量含むインク,又は,被印刷媒体に吐出された特定インクに加熱手段により熱を与えて被印刷媒体に定着させること,及び被印刷媒体に吐出された特定インクに加熱手段により熱を与えて被印刷媒体に定着させる際の,被印刷媒体を保持するプラテンの温度が40?80℃であることと,上記特定の画像を形成する工程との組合せの記載や示唆がなく,引用発明1に対して,引用文献2及び3に記載された事項を適用する動機づけがなく,これらを特定することを容易に想到し得ません。」と主張している。 しかしながら,請求人の主張の動機づけに関する点については,上記(6)アに記載のとおりである。そして,請求人の主張のプラテンの温度に関する点については,上記(6)イに記載のとおりである。 また,請求人は,審判請求書において,「このように,特定の有機溶剤を特定量含むインクを用い,インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体に対して,上記特定の画像を形成する工程を採用したときに,ブリード,定着性,タック性,及び着弾精度の全てを良好にするという効果は,引用文献1?3には記載も示唆もされておりませんから,引用文献1?3からは予測できない顕著な作用効果であると認められます。」と主張している。 しかしながら,請求人の主張の効果に関する点について,上記(7)に記載のとおりである。 (9) 小括 本件補正後発明は,引用発明及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 3 補正却下のまとめ 本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,上記補正の却下の決定の結論の通り決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,上記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,本願の出願日前に日本国又は外国において頒布された引用例1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 3 引用例に記載の事項及び引用発明について 引用例1の記載及び引用発明については,上記「第2」2(2)に記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は,上記「第2」2で検討した本件補正後発明から, 「前記走査は,前記プリントヘッドを前記印刷領域に静止させた前記被印刷媒体に対して前記特定インクを吐出しながら相対的に所定の方向に沿って移動させる走査であり, 前記プリントヘッドは,前記所定の方向と交差する方向に,所定のノズル密度を有する複数のノズルが並ぶノズル列を備え,かつ,1回の前記画像を形成する工程は,前記プリントヘッドの前記ノズル密度よりも高い前記所定の方向と交差する方向の印刷解像度で印刷するものであり, 前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクに加熱手段により熱を与えて前記被印刷媒体に定着させる際の,前記被印刷媒体を保持するプラテンの温度が40?80℃であり,」に係る限定事項を除いたものである。 そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正後発明が,上記「第2」2に記載したとおり,引用発明及び周知慣用技術に基づいて,本願の出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 したがって,本願発明も,同様の理由により,本願の出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 第4 まとめ 以上のとおり,本願発明は,本願の出願日前に日本国又は外国において頒布された引用例1に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて本願の出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって,他の請求項に係る発明について審究するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-08-08 |
結審通知日 | 2016-08-09 |
審決日 | 2016-08-23 |
出願番号 | 特願2011-24330(P2011-24330) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41M)
P 1 8・ 575- Z (B41M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮澤 浩 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
鉄 豊郎 多田 達也 |
発明の名称 | インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 田中 克郎 |