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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1320210
異議申立番号 異議2016-700482  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-25 
確定日 2016-09-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第5823032号発明「導電部材およびセルスタックならびにモジュール、モジュール収容装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5823032号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5823032号の請求項1-7に係る特許についての出願は、平成25年5月17日(国内優先権主張 平成24年5月17日)に特許出願され、平成27年10月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人井上敬也(以下、「申立人」という)により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明
特許第5823032号の請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、・・・、「本件発明7」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
Crを含有する合金からなる導電基体と、該導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層とを含み、前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝を有し、該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されていることを特徴とする導電部材。
【請求項2】
Crを含有する合金からなる導電基体と、該導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層とを含み、前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し、該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されており、
前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接しており、
前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在していることを特徴とする導電部材。
【請求項3】
前記凹部内に埋まっている前記酸化クロムは表面が凹んでおり、該凹んだ部分に前記被覆層の前記酸化クロム側の面の一部が食い込んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の導電部材。
【請求項4】
前記導電基体の表面から20μm以上内部の前記凹溝内には、前記被覆層を構成する材料が存在しないことを特徴とする請求項1乃至3のうち何れかに記載の導電部材。
【請求項5】
複数のセル、請求項1乃至4のうち何れかに記載の導電部材により電気的に接続してなることを特徴とするセルスタック。
【請求項6】
請求項5に記載のセルスタックを、収納容器内に収納してなることを特徴とするモジュール。
【請求項7】
請求項6に記載のモジュールと、該モジュールを作動させるための補機とを、外装ケース内に収納してなることを特徴とするモジュール収容装置。」

第3.申立理由の概要
申立人は、証拠として、甲第1-5号証を提出し、以下の申立理由1-6によって請求項1-7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由1
本件発明1-7は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものであるため、本件発明1-7は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、また、本件発明1-7は、特許請求の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないものであるため、本件発明1-7は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

申立理由2
請求項4では、「前記導電基体(41)の表面から20μm以上内部の前記凹溝(15)内・・」と規定されているが、この規定は、従属先である請求項1の発明特定事項と矛盾し、また、従属先である請求項2では凹溝のサイズすら規定されていないといった技術的な不備がある結果、本件発明4は明確でないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

申立理由3
本件発明1-6は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

申立理由4
本件発明1-4は、甲第2号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

申立理由5
本件発明1-7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3-5号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由6
本件発明1-7は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3-5号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2007-194025号公報
甲第2号証:特開2011-99159号公報
甲第3号証:特開2006-172742号公報
甲第4号証:特開2012-14864号公報
甲第5号証:「最新切断技術総覧」、重版、株式会社産業技術サービスセン ター、昭和60年6月14日、p.136

第4.甲号証の記載
1.甲第1号証
本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された甲第1号証には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加した)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、Crを含有する合金の表面を表面層により被覆してなる耐熱性導電部材、燃料電池用合金部材及び燃料電池用集電部並びにセルスタック、燃料電池に関する。」

「【0009】
本発明の耐熱性導電部材は、Crを含有する合金の表面を、Zn及びMnを含む酸化物からなる表面層により被覆してなることを特徴とする。
【0010】
本発明の耐熱性導電部材は、Zn及びMnを含む酸化物からなる表面層の存在により、合金から表面層へのCrの拡散が抑制され、いわゆるCr被毒を抑制できる。その理由は明確ではないが、熱力学的な安定性により表面層にCrが固溶しにくいためと考えられる。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明の燃料電池用集電部材20を示す斜視図であり、図2及び図3は図1に示す集電部材20の表面層の被覆状態を示す説明図であって、図2は図1に示すA-A線断面図、図3は図1に示すB-B線断面図である。
【0019】
本発明の燃料電池用集電部材20は、図1に示すように、例えば耐熱性合金の板を櫛刃状に加工し、隣り合う刃を交互に反対側に折り曲げて構成されている。この集電部材20は、Crを含有する合金からなる集電本体201の表面に、Znを含む材料からなる表面層202が設けられて構成されており、表面層202は外部に露出しており、集電部材20の最外層とされている。集電本体201の全表面はZn及びMnを含む酸化物からなる表面層により被覆されている。尚、本発明の燃料電池用集電部材は、図1に示すような形状のものに限定されるものではなく、例えば、円筒状、メッシュ状のものであっても良い。
【0020】
集電本体201としては、導電性及び耐熱性の高いCrを10?30質量%含有する合金、例えばFe-Cr系合金、Ni-Cr系合金等が採用されている。また、表面層202は、ZnとMnを含む金属酸化物、例えば、(Zn,Mn)Mn_(2)O_(4)であるが、ZnとMnを含む金属酸化物はCrを固溶しにくいために、Crの拡散を抑制する効果を有している。
【0021】
集電本体201のCrはガス化し、空隙から拡散してしまうので、表面層202は、集電本体201の少なくとも表面全面を覆うように、緻密に設けられる必要がある。このとき、表面層202は、ディッピング(表面層用ペースト中に集電本体201を浸漬する浸漬塗布法)またはメッキや蒸着などの方法で被覆されるが、コスト的にはディッピングが望ましい。」

「【0024】
ZnO、MnO粉末を用いて、予め主に(Zn,Mn)Mn_(2)O_(4)を含む粉末を作製し、この粉末をディッピング用の表面層用ペーストに用いることができる。また、主に(Zn,Mn)Mn_(2)O_(4)からなる粉末を形成するように、所定の比率に混合したZnO、MnO粉末を、ディッピング用の表面層用ペーストに用いることができる。
【0025】
以上のように構成された燃料電池用集電部材では、下記のような作用効果を発揮できる。即ち、固体電解質形燃料電池では発電させるために600?1000℃程度の高温とする必要があり、集電部材20も600?1000℃の高温下で使用されることとなるが、このとき集電本体201からはCrがCrガスとなって拡散しようとする。しかしながら、集電本体201の表面にZnとMnを含む材料からなる表面層202が設けられた本発明の場合には、この表面層202によりCrの外部への拡散が抑制できる。これにより、Crガスが空気極と固体電解質との界面にまで達する、いわゆるCr被毒を防止できる。」

「【実施例】
【0038】
まず、平均粒径0.6μmのZnMn_(2)O_(4)粉末、平均粒径0.4μmのFe_(2)O_(3)粉末、平均粒径0.5μmのCo_(3)O_(4)粉末、平均粒径0.5μmのNiO粉末と、アクリル系バインダーと、希釈材としてのミネラルスピリッツとを重量比で100:5:72になるように調合し、表面層のディッピング液を作製した。
【0039】
この後、厚さ0.4mmで幅20mm、長さ120mmのFe-Cr系耐熱性合金板(Fe75質量%含有、残部Cr、Mn、Ni含有)からなる集電本体を、ディッピング液との濡れ性を高めるべく、大気中1050℃で熱処理し、この後、ディッピング液中に浸漬し、集電本体全面に塗布し、乾燥させた。この後、130℃で1時間、500℃で2時間脱バインダー処理した後、1050℃で2時間、炉内で焼付を行い、厚みが15μmの表面層を形成した。」

以上の記載(特に、下線部)から、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という)が記載されているものと認められる。

[甲1発明]
「耐熱性合金の板を櫛刃状に加工し、隣り合う刃を交互に反対側に折り曲げて構成されており、Crを含有する合金からなる集電本体201の表面に、Znを含む材料からなる表面層202が設けられて構成されており、表面層202は外部に露出しており、集電部材20の最外層とされ、集電本体201の全表面はZn及びMnを含む酸化物からなる表面層により被覆されている燃料電池用集電部材20であって、まず、平均粒径0.6μmのZnMn_(2)O_(4)粉末、平均粒径0.4μmのFe_(2)O_(3)粉末、平均粒径0.5μmのCo_(3)O_(4)粉末、平均粒径0.5μmのNiO粉末と、アクリル系バインダーと、希釈材としてのミネラルスピリッツとを重量比で100:5:72になるように調合し、表面層のディッピング液を作製し、この後、厚さ0.4mmで幅20mm、長さ120mmのFe-Cr系耐熱性合金板(Fe75質量%含有、残部Cr、Mn、Ni含有)からなる集電本体を、ディッピング液との濡れ性を高めるべく、大気中1050℃で熱処理し、この後、ディッピング液中に浸漬し、集電本体全面に塗布し、乾燥させ、この後、130℃で1時間、500℃で2時間脱バインダー処理した後、1050℃で2時間、炉内で焼付を行い、厚みが15μmの表面層を形成した燃料電池用集電部材20。」

2.甲第2号証
本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、導電部材の表面がコーティング膜で覆われたコーティング体に関するものである。」

「【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)のセル(単電池)は、固体電解質と、固体電解質と一体的に配置された燃料極と、固体電解質と一体的に配置された空気極とを備えている。・・(省略)・・」

「【0003】
SOFCでは、通常、燃料極と空気極のそれぞれに集電用の導電性接続部材(以下、インターコネクタと呼ぶ。)が接合剤により接合・固定され、それぞれのインターコネクタを介して前記電位差に基づく電力が外部に取り出される。以下、特に、空気極とインターコネクタとの接合に着目する。」

「【0006】
ところで、空気極側のインターコネクタの材料として、通常、Fe及びCrを含むフェライト系ステンレス鋼(フェライト系SUS材料)等が使用される。この場合、SOFCの作動中(即ち、高温雰囲気(例えば、800℃))において、SUS材料の表面からCrが放出され、放出されたCrがSUS材料の周りに拡散していく現象が発生する。以下、この現象を「Cr拡散」と呼ぶ。」

「【0009】
係るスピネル系材料がコーティング膜の材料として用いられる場合、SUS材料の表面にコーティング膜の前駆体であるペーストの膜が形成された状態でペーストが焼成される。これにより、スピネル系材料からなる焼結体である導電性コーティング膜によって空気極側のインターコネクタの表面(即ち、SUS材料の表面)が覆われたコーティング体が得られる。」

「【図面の簡単な説明】
【0022】
・・(省略)・・
【図8】本発明の実施形態に係るコーティング体におけるインターコネクタとコーティング膜との境界部近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で2000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。
【図9】図8に示す画像における境界部を含む一部の画像である。
・・(省略)・・
【図14】図9に示す画像に対応する箇所についてクロムのマッピングを行った結果を示す画像である。
・・(省略)・・」

「【0030】
インターコネクタ200(前記「導電部材」に対応)は、フェライト系SUS材料(Fe,Crを含むフェライト系ステンレス鋼)からなる導電部材である。上述した「Cr拡散」による「空気極のCr被毒」を抑制するため、図2に示すように、インターコネクタ200の表面の全面は、コーティング膜210で覆われている。これにより、インターコネクタ200がコーティング膜210で覆われたコーティング体が形成されている。なお、インターコネクタ200の表面の一部(特に、空気極140の最外層142に面する(最外層142の方を向いている)一部)のみがコーティング膜210で覆われていてもよい。」

「【0040】
インターコネクタ200は、Fe,Crを含むフェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工することにより作製された。同形のインターコネクタ200が複数準備された。
【0041】
各インターコネクタ200の表面の全面に対するコーティング膜210の形成は、以下のように達成された。スピネル系材料がMnCo_(2)O_(4)である場合を例にとって説明する。先ず、出発原料としてのマンガンMnの金属粉末とコバルトCoの金属粉末とが1:2のモル比率で秤量され混合された。金属粉末の粒径は0.5?5μmであり、平均粒径は2μmであった。Pt,Ag等の貴金属の粉末が加えられてもよい。この混合物に、必要に応じてバインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールが加えられ、この混合物が乳鉢で混合されてコーティング用のペーストが作製された。このコーティング用ペーストが、ディッピング等の手法を用いて各インターコネクタ200の表面の全面に塗布された。その後、このコーティング用ペーストが100℃で1時間乾燥された後、空気中にて比較的低い850℃で1時間焼成された。これにより、各インターコネクタ200の表面の全面に、焼結体であるコーティング膜210が形成された。」

「【0049】
(コーティング膜とインターコネクタとの境界部の特徴)
次に、上記実施形態に係るコーティング体(図2を参照)におけるコーティング膜210とインターコネクタ200との境界部の特徴について説明する。以下、コーティング膜210を構成するスピネル系材料としてMnCo_(2)O_(4)が使用され、インターコネクタ200の材料として日立金属(株)製のSOFC用フェライト系ステンレス鋼(SUS):ZMG232L(商品名)が使用された場合を例にとって説明する。
【0050】
図8は、この境界部の近傍の断面を電子放射型分析電子顕微鏡で2000倍に拡大して観察して得られた画像の一例である。この境界部に含まれる元素について分析が行われた。以下、その結果を示す。図9は、図8に示す画像における境界部を含む一部の画像である。図9に示す画像に対応する箇所について元素分析(元素マッピング)が行われた。図10?図14はそれぞれ、O(酸素)のマッピング、Mn(マンガン)のマッピング、Co(コバルト)のマッピング、Fe(鉄)のマッピング、及び、Cr(クロム)のマッピングを行った結果を示す。図10?図14において、画像の白黒色は元素濃度を表し、白黒色が薄い方(白色の方)が元素濃度が大きく、白黒色が濃い方(黒色の方)が元素濃度が小さいことを示す。なお、これらの画像、及び分析結果は、日本電子株式会社製の電界放射型分析電子顕微鏡(JXA-8500F)を用いて取得された。
【0051】
図10?図14から理解できるように、コーティング膜210とインターコネクタ200との境界部には、3つの層が介在している。3つの層のうちインターコネクタ200に最も近い層(インターコネクタ200と接する層)には、主としてCr,Oが含まれる。即ち、この層は、クロミア(Cr_(2)O_(3))を含む(又はのみからなる)層であるといえる。以下、この層を「クロミア層」と呼ぶ。3つの層のうち真ん中の層は、Mn,Co,Fe,Cr,Oを含む(又はのみからなる)層である。以下、この層を「第1層」と呼ぶ。3つの層のうちコーティング膜210に最も近い層(コーティング膜210と接する層)は、Mn,Co,Fe,Oを含む(又はのみからなる)層である。以下、この層を「第2層」と呼ぶ。
【0052】
第1、第2層は、スピネル系材料(MnCo_(2)O_(4))とステンレス鋼(FeとCrを含む)とが反応して得られる反応層であるといえる。これら第1、第2層は、インターコネクタ200の表面に上述の「コーティング用のペースト」の膜が形成された状態で同ペーストが850℃で熱処理される際に形成されたものと推測される。
【0053】
クロミア層の厚さは1?5μmであり、第1層の厚さは1?7μmであり、第2層の厚さは3?10μmであった。なお、各層の厚さは、上述した電子顕微鏡の画像、及び、上述した元素分析の結果を示す画像を分析することで算出された。」

【図8】


【図9】


【図14】


以上の記載(特に、下線部)及び【図8】、【図9】、【図14】から、次のことがいえる。

・甲第2号証には、「コーティング体」の発明が記載されている(【0001】)。

・「コーティング体」は、インターコネクタの表面がコーティング膜により覆われたものである(【0009】)から、「インターコネクタ200」と、「コーティング膜210」とを含むものである。

・「インターコネクタ200」は、Crを含むフェライト系ステンレス鋼からなる導電部材であり(【0006】、【0030】)、Fe,Crを含むフェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工することにより作製されたものである(【0040】)。

・「コーティング膜210」は、「インターコネクタ200」の表面を覆っている(【0030】)が、それらの境界部は、クロミア(Cr_(2)O_(3))を含む層である「クロミア層」、インターコネクタ200とコーティング膜210とが反応して得られる反応層である「第1層」及び「第2層」が介在している(【0051】、【0052】)。
すなわち、コーティング膜210は、「インターコネクタ200の表面にクロミア層、第1層、及び、第2層を介して被覆されたコーティング膜210」といえる。

・【図8】によれば、インターコネクタは表面から内部に向けて深さ3μmに満たない凹部を有しているといえる。また、【図9】、【図14】によれば、該凹部のうち、一部の凹部の表面は前記クロミア層で被覆されており、前記凹部内を被覆している前記クロミア層の表面が前記コーティング膜210、第1層、及び、第2層でさらに被覆されているということができる。

したがって、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という)が記載されているものと認められる。

[甲2発明]
「Crを含むフェライト系ステンレス鋼からなる導電部材であり、Fe,Crを含むフェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工することにより作製されたものであるインターコネクタ200と、該インターコネクタ200の表面にクロミア層、第1層、及び、第2層を介して被覆されたコーティング膜210とを含み、前記インターコネクタ200は表面から内部に向けて深さ3μmに満たない凹部を有し、該凹部のうち、一部の凹部の表面は前記クロミア層で被覆されており、前記凹部内を被覆している前記クロミア層の表面が前記コーティング膜210、第1層、及び、第2層でさらに被覆されているコーティング体。」

3.甲第3号証
本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合う燃料電池セルを電気的に接続するための燃料電池用集電部材及びこれを用いた燃料電池セルスタック、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代エネルギーとして、近年、燃料電池セルスタックを収納容器内に収容した燃料電池が種々提案されている。」

「【0023】
そして、本発明の集電部材は、隣り合う短冊状部14が薄板状部材1の厚み方向に互いに逆向きに押し広げられた、言い換えると、短冊状部14が薄板状部材1の厚み方向両側に膨らんで突出しているものであり、図1(b)に示すように、横断面は第一の端部12と第二の端部13を両端として短冊状部14が扁平に膨らんだような形状になっている。このような形状は、図1(a)のようにスリットが形成された部材に、短冊状部に合わせて凹凸形状が形成された金型、ちょうど上金型と下金型の凹凸が逆に形成されてなる金型を用いて上下方向からプレスすることにより、得ることができる。」

【図1】


4.甲第4号証
本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する燃料電池セル間に集電部材を配置して、燃料電池セルを電気的に接続するセルスタック装置、燃料電池モジュールおよび燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代エネルギーとして、燃料ガス(水素含有ガス)と酸素含有ガス(空気等)とを用いて600℃?1000℃の高温下で発電する燃料電池セルを集電部材を介して複数個立設して電気的に直列に接続してなるセルスタックを備えるセルスタック装置や、それを収納してなる燃料電池モジュール、さらには燃料電池モジュールを収納してなる燃料電池装置が種々提案されている(例えば、特許文献1参照。)。」

「【0073】
次に、集電部材49について図6、7を用いて説明する。
【0074】
集電部材49は、ガス案内部材と集電部材49とが一体的に形成されており、一方の燃料電池セル3と接するための集電部50aと、他方脳燃料電池セル3と接するための集電部50bと、それぞれの集電部50a、50bを接続するとともにガス案内部材としてのガス案内部52とから構成されており、集電部材49の内部が第1の反応ガス流路21となっている。
【0075】
集電部50a、50bには燃料電池セル3の幅方向に沿ったスリット51が設けられており、各スリット51間が集電片となっている。
【0076】
集電部材49においても、第1の反応ガス流路21の側方を塞ぐようにガス案内部材が設けられているため、第1の反応ガス流路を流れる酸素含有ガスを効率よく燃料電池セル3の上方へ流すことができる。また、集電部材49が、集電部50a、50bとガス案内部52とから構成されていることから、別部材としてガス案内部材を設ける必要がないため、集電部材49のハンドリング性を向上させることができる。
【0077】
なお、集電部材49は、一枚の板部材をプレス加工等により所定の形状に打ち抜き、平面視してC型になるように折り曲げて作製することができる。これにより、ガス案内部材および集電部材4を簡単に作製することができる。」

【図6】


5.甲第5号証
本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された甲第5号証には、図11.1、図11.2とともに、以下の事項が記載されている。

「図11.1はプレス加工に用いられるごく普通の材料による打抜き製品の切口の典型的な一例を示したものである。もちろん、この形状は材料の種類によって変わり、クリアランスの大きさ、打ち抜き輪郭の曲率などによっても変わる。一般に、外形打抜きについても穴あけについても、クリアランスの増大とともに製品の切口のだれは大きくなり、せん断面は狭くなり、普通の意味で切口面の形状は悪化する傾向がみられる。
したがって、精密部品としては一般的にせん断工具のクリアランスは小さい方がよいといってさしつかえないのであるが、これが極端に小さくなると多くの場合、図11.2のごとく破断面の部分に二次せん断面が生じ、一見好ましそうに思えるが、中央に見られる小さい破断部のさきが割れとなって切口面の表層下に深くはいっている公算が高く、例えば、切口面に繰返し荷重が作用するような場合には、使用中にこの部分が脱落し、思わぬ害を及ぼすこともあるので、切口面で破断面の占める割合が減少し表面的に切口面が平らになったといって安心してはいられない。
このようなせん断切口面における破断面を追放し、また二次せん断面を生じる場合の潜在割れをなくするような加工法の開発ということが、せん断加工の改良に関する一つの重要な目標となり、これに対する方法として仕上げ抜き法、シェービング法である。」(第136頁左欄第17行目?右欄第18行目)



第5.当審の判断
1.申立理由1の検討
(1)申立人の主張
ア.主張1
申立人は、本件発明1について、凹溝の開口サイズ(深さ、厚み)によっては本件の課題が生じないことがあり、本件発明1の凹溝のサイズでは、「プレス加工により集電基板に形成された凹溝の開口が大きく、かつ深いことに起因して、集電基板に形成された被覆層に開口が存在する」という課題に直面するか否かが不明であるから、課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えたものであり、また、本件発明2について、凹溝のサイズさえ規定されていないため、上記課題に直面するか否かが不明であるから、課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えたものであり、さらに、本件発明3-7についても同様である旨、主張している(特許異議申立書第11頁下から2行目?第15頁第12行目)。
イ.主張2
申立人は、本件発明1、2(および本件発明3-7)は、本件の課題が解決された結果物のみが規定されているにすぎず、本件の課題を解決するための必須な構成要素である「プレス加工により凹溝が形成された導電基体を熱処理することによって、凹溝内に酸化クロムを充填させ、その後、被覆層を形成すること」について何ら規定されていないから、該必須な構成要素の製造方法により課題を解決することのみが記載された発明の詳細な説明の記載内容を拡張ないし一般化した本件発明1、2(および本件発明3-7)は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨、主張している(特許異議申立書第15頁第12行目?第20頁第8行目)。

(2)特許請求の範囲について
本件発明1では、「導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝を有し、該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており」と規定されている。
本件発明2では、「導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し、該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており」、「前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接しており、
前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している」と規定されている。
本件発明3-7は、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項をすべて含んでおり、上記したものと同様の規定がなされている。

(3)発明が解決しようとする課題に直面するか否かについて(主張1について)
発明が解決しようとする課題に関して、本件明細書には、次のように記載されている。

「【0005】しかしながら、従来、集電基板をプレス加工する際に、集電基板に生じる剪断力で、集電基板の側面から内部に向けて延びる凹溝(亀裂)が生じる場合がある。この凹溝の開口は大きく、かつ深いことに起因し、凹溝の内面全体に被覆層を形成することは困難であったため、集電基板の表面の被覆層に凹溝に基づく開口部が存在しており、この被覆層の開口部を起点として集電基板が酸化していき、耐熱性が低下していくおそれがあった。
【0006】本発明は、導電基体の凹溝を被覆層で被覆できる集電部材およびセルスタックならびにモジュール、モジュール収容装置を提供することを目的とする。」

この記載から、本件発明は、次の課題を解決しようとするものであると認められる。
[課題]
「集電基板をプレス加工する際に、集電基板の側面から内部に向けて延びる凹溝(亀裂)が生じる場合があり、凹溝の内面全体に被覆層を形成することは困難であった」

また、該凹溝について、本件明細書には、次のように記載されている(下線部は、当審により付与した)。

「【0039】凹溝15は、図3(b)、図4(c)に示すように、集電基板41の厚み方向(配列方向x)の内壁面が当接するほどほぼ閉じられており、開口しているとしても、厚みWが狭い面状の空間であって、内部が先細り形状に形成され、凹溝15内には、酸化クロム14がほぼ充填され凹溝15が酸化クロム14でほぼ埋設されている。
【0040】図4(c)で説明すると、凹溝15は、集電基板41の厚み方向の断面において(集電基板41を断面視したとき)、集電基板41の側面側に形成された厚みが大きい凹部15aと、該凹部15aから集電基板41の内部に向けて線状に延び、凹部15aよりも厚みが小さい亀裂15bとを具備するとともに、凹部15a内に埋まっている酸化クロム14の表面は凹んでおり、この凹んだ部分に、被覆層43の酸化クロム14側の面の一部が食い込んでいる。被覆層43は、凹部15a内の酸化クロム14表面全体を覆っている。
【0041】また、酸化クロム14は、図4(d)に示すように、対向する凹溝15の内壁面が当接するほど閉じられた面状の空間内に埋設され、集電基板41の厚み方向の断面で、複数の酸化クロム14の塊が線状に並んで点在するように見える場合がある。一つ一つの酸化クロム14の塊は、集電基板41の厚み方向の断面で見れば、球状ではなく、楕円状または棒状に見える。
【0042】図4(d)の構造は、プレスによる加圧力を図4(c)の場合よりも増加することにより達成することができる。凹溝15内の酸化クロム14は、集電基板41の厚み方向の断面において、集電基板41の側面側に形成された凹部15a内に存在するとともに、該凹部15aから集電基板41の内部に向けて線状に点在するように構成されている。凹部15a内に埋まっている酸化クロム14の表面は凹んでおり、この凹んだ部分に、被覆層43の酸化クロム14側の面の一部が食い込んでいる。被覆層43は、凹部15a内の酸化クロム14表面全体を覆っている。」

この記載から、本件発明でいう「凹溝」とは、「集電基板の側面側に形成された厚みが大きい凹部と、該凹部から集電基板の内部に向けて線状に延び、該凹部よりも厚みが小さい亀裂とを具備する」ものであると認められる。

さらに、本件発明でいう凹溝のサイズについて、本件明細書には、次のように記載されている。

「【0046】凹溝15は、集電部4fの第2表面4h、第3表面4iから内部に向けて5?30μmの深さ(図4(a)で示すL)で設けられており、凹溝15の凹部15aは閉じられているか、開口しているとしても、1?5μmの厚み(開口幅:図4で示すW)とされている。これにより、後述するように酸化クロム14が充填されやすくなり、集電基板41の凹溝15を被覆層43により被覆することができ、集電基板41の表面全体を被覆層43で隙間無く被覆することが可能となる。これにより、集電部材4の凹溝15からの酸化を抑制し、耐熱性を向上できる。」

このような、表面から内部に向けて5?30μmの深さ、1?5μmの厚み(開口幅)の凹溝は、厚み(開口幅)に比べて深さが深く、特に、亀裂は、凹部よりも厚みが小さいものであるから、凹溝の内面全体に被覆層を形成することが困難であることは当業者に理解できると認められる。
すなわち、本件発明1は、「表面から内部に向けて5?30μmの深さ、1?5μmの厚みの凹溝」を有することで、「集電基板をプレス加工する際に、集電基板の側面から内部に向けて延びる凹溝(亀裂)が生じる場合があり、凹溝の内面全体に被覆層を形成することは困難であった」という課題に直面するものであるといえ、そのことを否定する証拠もない。
一方、申立人は、甲第2号証には、表面から内部に向けて約3μmの深さで延びる厚み3μmの凹溝を有するインターコネクタ(本件発明の「導電基体」に相当)の表面にMnCo_(2)O_(4)のコーティング層(本件発明の「被覆層」に相当)が形成されているものが記載されており、この凹溝のサイズでは、本件の課題が生じないことを根拠として、本件発明1の凹溝のサイズによっては必ずしも上記課題が生じないことを主張している(特許異議申立書第14頁第2行目?第27行目)。
しかしながら、甲第2号証に記載された「約3μmの深さで延びる厚み3μm」は、深さの点で、本件発明1で特定された凹溝のサイズである「5?30μmの深さ、1?5μmの厚み」に含まれるものとはいえず、また、甲第2号証に記載されたものは、「約3μmの深さで延びる厚み3μm」の‘凹部’にすぎず、亀裂まで具備する、本件発明でいう「凹溝」ではないから、甲第2号証に記載されたもので本件の課題が生じないとしても、そのことが、本件発明1において特定された凹溝のサイズの範囲内で上記課題に直面しない場合があるという理由にはならない。

また、本件発明2では、凹溝のサイズは規定されていないが、凹溝について、「前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接しており、
前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している」と規定されている。
このように、酸化クロムの塊が、導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している凹溝は、本件明細書の【0041】-【0046】の記載によれば、「5?30μmの深さ、1?5μmの厚み」の凹溝に対して、プレスによる加圧力を増加することにより達成されるものである。これ以外の深さ、厚みの凹溝、特に、深さが5μm未満の浅い凹溝に対して、酸化クロムの塊が、導電基体の内部に向けて線状に並んで点在するようになることは、本件明細書には記載されていないし、そのことを示す証拠も甲号証として提示されていないから、本件発明2では、凹溝の深さ、厚みが数値により直接的には特定されてはいないが、酸化クロムの塊が、導電基体の内部に向けて線状に並んで点在していると規定することにより、実質的には、凹溝の深さ、厚みは、本件発明1と同様に特定されているものと認められる。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2は、上記課題に直面しない場合があるとはいえない。
また、本件発明3-7は、本件発明1又は2を引用して記載したものであるから、本件発明1、2と同様の理由により、上記課題に直面しない場合があるとはいえない。
以上のとおり、本件発明1-7は、いずれも、本件発明が解決しようとする課題に直面しない場合があるとはいえないので、本件発明1-7が、課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えたものであるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張1は採用することができない。

(4)本件の課題を解決するための必須な構成要素について(主張2について)
申立人は、本件発明1、2において、「プレス加工により凹溝が形成された導電基体を熱処理することによって、凹溝内に酸化クロムを充填させ、その後、被覆層を形成すること」が本件の課題を解決するための必須な構成要素であることを示す理由として、比較製法(プレス加工により凹溝が形成された導電基体を熱処理する前に、被覆層を形成し、その後に、熱処理を行うことによって凹溝内に酸化クロムを埋設する方法)を挙げ、本件の課題解決手段として機能しない例として示している(特許異議申立書第16頁第下から2行目?第19頁第4行目)。
しかしながら、この比較製法は単に、本件発明1、2の物が得られない製法を示しているのみであって、本件発明1、2は、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されて」いるとの発明特定事項により、「集電基板をプレス加工する際に、集電基板の側面から内部に向けて延びる凹溝(亀裂)が生じる場合があり、凹溝の内面全体に被覆層を形成することは困難であった」との課題が解決するものであるから、本件発明1、2において、「プレス加工により凹溝が形成された導電基体を熱処理することによって、凹溝内に酸化クロムを充填させ、その後、被覆層を形成すること」が本件の課題を解決するための必須な構成要素であるとすることはできない。本件発明1又は2を引用して記載した本件発明3-7についても同様である。
したがって、申立人の上記主張2は採用することができない。

(5)小括
以上のとおりであるから、申立人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1-7が、課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えたものであるということはできないし、発明の詳細な説明の記載内容を拡張ないし一般化したものであるともいえない。
よって、本件発明1-7は、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。

2.申立理由2の検討
申立人は、本件発明4の「前記導電基体の表面から20μm以上内部の前記凹溝」は、本件発明4が引用する本件発明1、2が含む「凹溝の深さが20μm未満である場合」には存在しないから、本件発明4の発明特定事項には技術的な不備がある結果、発明が不明確である旨、主張している(特許異議申立書第20頁第9行目?第20頁第25行目)。
しかしながら、本件発明4の「前記導電基体の表面から20μm以上内部の前記凹溝」とは、単に、本件発明1、2が含む「凹溝の深さが20μm以上である場合」についての限定を付加したものであって、それ以外の場合について限定を付加したものではないことは技術常識からして明らかであるから、何ら不備はなく、発明が不明確であるとはいえない。
したがって、本件発明4は明確でないとはいえない。

3.申立理由3の検討
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明を対比する。

甲1発明の「Crを含有する合金からなる集電本体201」、「燃料電池用集電部材20」は、それぞれ、本件発明1の「Crを含有する合金からなる導電基体」、「導電部材」に相当する。
甲1発明は、「集電本体201の全表面はZn及びMnを含む酸化物からなる表面層により被覆されている」から、甲1発明の上記表面層は、本件発明1の「該導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層」とは、「該導電基体の表面に被覆された被覆層」である点では共通するものである。
甲1発明は、「まず、平均粒径0.6μmのZnMn_(2)O_(4)粉末、平均粒径0.4μmのFe_(2)O_(3)粉末、平均粒径0.5μmのCo_(3)O_(4)粉末、平均粒径0.5μmのNiO粉末と、アクリル系バインダーと、希釈材としてのミネラルスピリッツとを重量比で100:5:72になるように調合し、表面層のディッピング液を作製し、この後、厚さ0.4mmで幅20mm、長さ120mmのFe-Cr系耐熱性合金板(Fe75質量%含有、残部Cr、Mn、Ni含有)からなる集電本体を、ディッピング液との濡れ性を高めるべく、大気中1050℃で熱処理し、この後、ディッピング液中に浸漬し、集電本体全面に塗布し、乾燥させ、この後、130℃で1時間、500℃で2時間脱バインダー処理した後、1050℃で2時間、炉内で焼付を行い、厚みが15μmの表面層を形成した」ものである。このように、甲1発明は、集電本体を、大気中1050℃で熱処理した後、表面層を形成したものであるから、【0025】の記載によれば、熱処理を行ったときに集電本体からCrガスが拡散するであろうということは考えられるが、集電本体と被覆層との間に酸化クロムが介在しているかどうかまでは、甲第1号証の記載からは明らかであるとはいえない。
したがって、両者は、「Crを含有する合金からなる導電基体と、該導電基体の表面に被覆された被覆層と」を含むといえる点では共通するものであるが、本件発明1では、「導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層」を含むのに対し、甲1発明では、「導電基体の表面に被覆された被覆層」を含むとはいえるものの、該被覆層は、酸化クロムを介して被覆されたものか否かは明らかではない点で相違する。

本件発明1は、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有する。
これに対し、甲第1号証には、集電本体が凹溝を有することについての直接の記載はない。
したがって、本件発明1は、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝を有し」、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている」ものであるのに対し、甲1発明は、集電本体が凹溝を有するものであるとは特定されておらず、よって、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている」ものではない点で両者は相違する。

以上をまとめると、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりである。

《一致点》
「Crを含有する合金からなる導電基体と、該導電基体の表面に被覆された被覆層とを含むことを特徴とする導電部材。」である点。

《相違点》
相違点1
本件発明1では、「導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層」を含むのに対し、甲1発明では、「導電基体の表面に被覆された被覆層」を含むとはいえるものの、該被覆層は、酸化クロムを介して被覆されたものか否かは明らかではない点。

相違点2
本件発明1は、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝を有し」、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている」ものであるのに対し、甲1発明は、集電本体が凹溝を有するものであるとは特定されておらず、よって、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている」ものではない点。

イ.判断
相違点2について検討する。
甲1発明は、「耐熱性合金の板を櫛刃状に加工」して構成された燃料電池用集電部材であり、また、燃料電池用集電部材をプレス加工により形成することは、よく用いられる慣用技術(甲第3号証の【0001】、【0023】、甲第4号証の【0001】、【0077】を参照されたい)であるから、甲1発明の「耐熱性合金の板を櫛刃状に加工」における「加工」が、プレス加工を意味すると解するのは、当業者にとっては自然なことであるかもしれない。
しかしながら、耐熱性合金の板を櫛刃状にプレス加工したとしても、必ずしも凹溝が形成されるとは限らないことは、甲第5号証の記載からも明らかである。すなわち、甲第5号証には、せん断工具のクリアランスが極端に小さくなると、材料に対してプレス加工を行ったときに、破断面の部分に図11.2のごとく二次せん断が生じ、小さい破断部のさきが割れとなって切口面の表層下に深くはいっている公算が高いことが記載されているが、これは、プレス加工において、クリアランスが小さいときにせん断切口に割れが生じる場合があるということを示しているにすぎず、このことは逆にいえば、クリアランスが極端に小さくないときには、必ずしも割れが生じるとはいえないということであり、また、加工法によっては割れが生じないことは、甲第5号証に、このような割れをなくするような加工法として仕上げ抜き法やシェービング法が記載されていることからも明らかである。
したがって、甲1発明の集電本体201が、プレス加工により形成されたものであるとしたとしても、それが凹溝を有するものであると断定することはできない。
よって、相違点2は、実質的な一致点であるとは直ちにはいえないものであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、相違点2の点で甲1発明と相違し、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(2)本件発明2について
ア.対比
本件発明2と甲1発明の対比は、上述した本件発明1と甲1発明の対比と同様にでき、両者の一致点と相違点は次のとおりである。

《一致点》
「Crを含有する合金からなる導電基体と、該導電基体の表面に被覆された被覆層とを含むことを特徴とする導電部材。」である点。

《相違点》
相違点1
本件発明2では、「導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層」を含むのに対し、甲1発明では、「導電基体の表面に被覆された被覆層」を含むとはいえるものの、該被覆層は、酸化クロムを介して被覆されたものか否かは明らかではない点。

相違点2
本件発明2では、「前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し」、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されており、
前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接しており、
前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している」のに対し、甲1発明は、集電本体が凹溝を有するものであるとは特定されておらず、よって、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されており、
前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接しており、
前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している」ものではない点。

イ.判断
本件発明2と甲1発明は、上記のとおり相違点1、2を有し、少なくとも相違点2については、上記本件発明1と甲1発明との対比で述べたのと同様に、甲1発明の集電本体201が、プレス加工により形成されたものであるとしたとしても、それが凹溝を有するものであると断定することはできない。
よって、相違点2は、実質的な一致点であるとは直ちにはいえないものであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明2は、相違点2の点で甲1発明と相違し、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(3)本件発明3-6について
本件発明3-6は、本件発明1又は本件発明2に別の発明特定事項を付加したものであって、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記「(1)イ.判断、(2)イ.判断」の判断と同様に、本件発明3-6が甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

4.申立理由4の検討
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「Crを含むフェライト系ステンレス鋼からなる導電部材」である「インターコネクタ200」、「コーティング体」は、それぞれ、本件発明1の「Crを含有する合金からなる導電基体」、「導電部材」に相当する。
甲2発明の「インターコネクタ200の表面にクロミア層、第1層、及び、第2層を介して被覆されたコーティング膜210」において、「第1層、第2層、及び、コーティング膜210」は、インターコネクタ200の表面にクロミア層を介して被覆された被覆層ともいえるから、本件発明1の「該導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層」に相当する。

本件発明1は、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有するものであり、「凹溝」とは、【0039】、【0040】の記載によれば、「集電基板41の側面側に形成された厚みが大きい凹部15aと、該凹部15aから集電基板41の内部に向けて線状に延び、凹部15aよりも厚みが小さい亀裂15bとを具備する」ものであるから、本件発明1の凹溝は、凹部と亀裂とを具備するものである。
これに対し、甲2発明のインターコネクタ200は、表面から内部に向けて凹部を有するものの、この凹部は、甲第2号証の【図8】で示される範囲では、深さの点では3μmに満たないものであり、また、亀裂を具備するものではない
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「前記導電基体は表面から内部に向けて凹部」を有するといえる点では共通するものの、本件発明1は、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有するのに対し、甲2発明は、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有するものであるとは特定されていない点で両者は相違する。

甲2発明は、「凹部のうち、一部の凹部の表面は前記クロミア層で被覆されており、前記凹部内を被覆している前記クロミア層の表面が前記コーティング膜210、第1層、及び、第2層でさらに被覆されている」ものであり、これは本件発明1の「凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている」こととは、「凹部の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹部内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている」といえる点で共通する。

以上により、本件発明1と甲2発明との一致点と相違点は次のとおりである。

《一致点》
「Crを含有する合金からなる導電基体と、該導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層とを含み、前記導電基体は表面から内部に向けて凹部を有し、該凹部の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹部内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されていることを特徴とする導電部材。」である点。

《相違点》
本件発明1は、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有するのに対し、甲2発明は、「前記インターコネクタ200は表面から内部に向けて凹部」を有するものの、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有するものであるとは特定されていない点。

イ.判断
相違点について検討する。
甲2発明のインターコネクタ200は、燃料電池の集電用として用いるもの(【0003】)であって、「Fe,Crを含むフェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工することにより作製されたもの」であり、燃料電池用集電部材をプレス加工により形成することは、よく用いられる慣用技術(甲第3号証の【0001】、【0023】、甲第4号証の【0001】、【0077】を参照)であるから、甲2発明における、「Fe,Crを含むフェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工すること」の「加工」がプレス加工を意味すると解するのは、当業者にとっては自然なことであるかもしれない。
しかしながら、Fe,Crを含むフェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状にプレス加工したとしても、必ずしも凹溝が形成されるとは限らないことは、甲第5号証の記載からも明らかである。すなわち、甲第5号証には、せん断工具のクリアランスが極端に小さくなると、材料に対してプレス加工を行ったときに、破断面の部分に図11.2のごとく二次せん断が生じ、小さい破断部のさきが割れとなって切口面の表層下に深くはいっている公算が高いことが記載されているが、これは、プレス加工において、クリアランスが小さいときにせん断切口に割れが生じる場合があるということを示しているにすぎず、このことは逆にいえば、クリアランスが極端に小さくないときには、必ずしも割れが生じるとはいえないということであり、また、加工法によっては割れが生じないことは、甲第5号証に、このような割れをなくするような加工法として仕上げ抜き法やシェービング法が記載されていることからも明らかである。
したがって、甲2発明のインターコネクタ200が、プレス加工により形成されたものであるとしたとしても、必ずしも凹溝が形成されるとは限らないから、甲2発明のインターコネクタ200には、図示されていない部分を含めて「表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」が存在すると断定することはできない。
よって、相違点は実質的な一致点であるとは直ちにはいえないものであるから、本件発明1が甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

(2)本件発明2について
ア.対比
本件発明2と甲2発明の対比は、上述した本件発明1と甲2発明の対比と同様にでき、両者の一致点と相違点は次のとおりである。

《一致点》
「Crを含有する合金からなる導電基体と、該導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層とを含み、前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹部を有し、該凹部の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹部内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されていることを特徴とする導電部材。」である点。

《相違点》
相違点1
本件発明2は、「前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し」、「前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接して」いるのに対し、甲2発明は、「前記インターコネクタ200は表面から内部に向けて凹部」は有するものの、そのような凹溝を有するものであるとは特定されていない点。

相違点2
本件発明2は、「前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している」のに対し、甲2発明は、そのような特定はされていない点。

イ.判断
相違点1について検討する。
上記「(1)本件発明1」で述べたのと同様に、甲2発明のインターコネクタ200が、プレス加工により形成されたものであるとしたとしても、必ずしも凹溝が形成されるとは限らないから、甲2発明のインターコネクタ200には、図示されていない部分を含めて、相違点に係る構成である、「前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接して」いるような「凹溝」が存在すると断定することもできない。
したがって、相違点1は実質的な一致点であるとは直ちにはいえないものであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明2は、相違点1の点で甲1発明と相違し、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

(3)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1又は本件発明2に別の発明特定事項を付加したものであって、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記「(1)イ.判断、(2)イ.判断」の判断と同様に、本件発明3、4が甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

5.申立理由5の検討
(1)本件発明1について
上記「3.(1)ア.対比」で述べたように、本件発明1は、甲1発明と次の点で相違する。

《相違点》
相違点1
本件発明1では、「導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層」を含むのに対し、甲1発明では、「導電基体の表面に被覆された被覆層」を含むとはいえるものの、該被覆層は、酸化クロムを介して被覆されたものか否かは明らかではない点。

相違点2
本件発明1は、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝を有し」、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている」ものであるのに対し、甲1発明は、集電本体が凹溝を有するものであるとは特定されておらず、よって、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている」ものではない点。

相違点2について検討する。
甲1発明において、集電本体は、凹溝を有するものであるとは特定されていないが、集電本体は、プレス加工による破断面に凹溝があると使用中に思わぬ害を及ぼすこともある(甲第5号証の‘割れ’を参照されたい)ものであるから、甲1発明において、集電本体にそのような害を及ぼす凹溝をわざわざ設けるようにすることに動機付けはなく、当業者には容易に想到し得ないことである。
仮に、凹溝を設けるようにする何らかの動機付けがあるとしても、該動機付けに基づいて設けた凹溝を酸化クロムで埋めることは、該動機付けに反することとなるから、甲1発明において、集電本体に上記凹溝を設け、さらに、該凹溝の内部に酸化クロムが埋まっているようにすることは、当業者には容易に想到し得ないことである。
甲3-5号証には、甲1発明において、集電本体に上記凹溝を設けるようにする動機付けとなる記載はないから、これらに記載された技術事項を考慮しても、甲1発明において、集電本体がそのような凹溝を有するようにすること、すなわち、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝を有」するようにすることが当業者に容易に想到し得るとする理由は見当たらない。
また、甲1発明において、集電本体は、凹溝を有するものであるとは特定されていないが、甲2号証の【図8】に記載されたような凹部が存在するかも知れない。仮に、そのような凹部が存在するとしても、その凹部を、「表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」とする動機付けは全く見当たらず、当業者には容易に想到し得ないことである。
したがって、甲1発明において、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝を有し」、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されている」ようにすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
よって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3-5号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明2について
上記「3.(2)ア.対比」で述べたように、本件発明2は、甲1発明と次の点で相違する。

《相違点》
相違点1
本件発明2では、「導電基体の表面に酸化クロムを介して被覆された被覆層」を含むのに対し、甲1発明では、「導電基体の表面に被覆された被覆層」を含むとはいえるものの、該被覆層は、酸化クロムを介して被覆されたものか否かは明らかではない点。

相違点2
本件発明2では、「前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し」、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されており、
前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接しており、
前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している」のに対し、甲1発明は、集電本体が凹溝を有するものであるとは特定されておらず、よって、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されており、
前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接しており、
前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している」ものではない点。

相違点2について検討する。
甲1発明において、集電本体は、凹溝を有するものであるとは特定されていないが、集電本体は、プレス加工による破断面に凹溝があると使用中に思わぬ害を及ぼすこともある(甲第5号証の‘割れ’を参照されたい)ものであるから、甲1発明において、集電本体にそのような害を及ぼす凹溝をわざわざ設けるようにすることに動機付けはなく、当業者には容易に想到し得ないことである。
仮に、凹溝を設けるようにする何らかの動機付けがあるとしても、該動機付けに基づいて設けた凹溝を酸化クロムで埋めることは、該動機付けに反することとなるから、甲1発明において、集電本体に上記凹溝を設け、さらに、該凹溝の内部に酸化クロムが埋まっているようにすることは、当業者には容易に想到し得ないことである。
甲3-5号証には、甲1発明において、集電本体に上記凹溝を設けるようにする動機付けとなる記載はないから、これらに記載された技術事項を考慮しても、甲1発明において、集電本体がそのような凹溝を有するようにすること、すなわち、「前記導電基体は表面から内部に向けて凹溝を有」するようにし、「前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接して」いるものであるとすることが当業者に容易に想到し得るとする理由は見当たらない。
また、甲1発明において、集電本体は、凹溝を有するものであるとは特定されていないが、甲2号証の【図8】に記載されたような凹部が存在するかも知れない。仮に、そのような凹部が存在するとしても、その凹部を、「前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接して」いるものとする動機付けは全く見当たらず、当業者には容易に想到し得ないことである。
したがって、甲1発明において、「前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し」、「該凹溝の内部に前記酸化クロムが埋まっており、前記凹溝内に埋まっている前記酸化クロムの表面が前記被覆層で被覆されており、
前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接しており、
前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している」ようにすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
よって、本件発明2は、相違点1について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3-5号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)本件発明3-7について
本件発明3-7は、本件発明1又は本件発明2に別の発明特定事項を付加したものであって、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記「(1)、(2)」の判断と同様に、本件発明3-7が甲第1号証に記載された発明及び甲第3-5号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

6.申立理由6の検討
(1)本件発明1について
上記「4.(1)ア.対比」で述べたように、本件発明1は、甲2発明と次の点で相違する。

《相違点》
本件発明1は、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有するのに対し、甲2発明は、「前記インターコネクタ200は表面から内部に向けて凹部」を有するものの、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有するものであるとは特定されていない点。

この相違点について検討する。
甲2発明のインターコネクタ200は、Fe,Crを含むフェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工したものであり、この「加工」をプレス加工とすることは、当業者が容易に想定し得ることかもしれない。しかしながら、上記「4.(1)イ.判断」で述べたように、甲2発明のインターコネクタ200を、プレス加工により形成するようにしたとしても、必ずしも凹溝が形成されるとは限らないから、「表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有するものとはならない。
また、甲2発明において、インターコネクタ200が有する(図8では深さが3μmに満たない)凹部を、「表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」とする動機付けは、甲3-5号証を参照しても全く見当たらず、当業者には容易に想到し得ないことである。
したがって、甲2発明において、「前記導電基体は表面から内部に向けて5?30μmの深さで延びる厚み1?5μmの凹溝」を有するものとすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3-5号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明2について
上記「4.(2)ア.対比」で述べたように、本件発明2は、甲2発明と次の点で相違する。

《相違点》
相違点1
本件発明2は、「前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し」、「前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接して」いるのに対し、甲2発明は、「前記インターコネクタ200は表面から内部に向けて凹部」は有するものの、そのような凹溝を有するものであるとは特定されていない点。

相違点2
本件発明2は、「前記酸化クロムは、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側の凹部内に存在するとともに、前記当接部で挟まれた前記酸化クロムの塊が、前記凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に並んで点在している」のに対し、甲2発明は、そのような特定はされていない点。


相違点1について検討する。
甲2発明のインターコネクタ200は、Fe,Crを含むフェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工したものであり、この「加工」をプレス加工とすることは、当業者が容易に想定し得ることかもしれないが、上記「4.(1)イ.判断」で述べたように、甲2発明のインターコネクタ200を、プレス加工により形成するようにしたとしても、必ずしも凹溝が形成されるとは限らないから、「前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接して」いるような「凹溝」を有するものとはならない。
また、甲2発明において、インターコネクタ200が有する凹部を、「前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接して」いるような「凹溝」とする動機付けは、甲3-5号証を参照しても全く見当たらず、当業者には容易に想到し得ないことである。
したがって、甲2発明において、「前記導電基体は表面から内部に向けて延びる凹溝を有し」、「前記凹溝は、前記導電基体を断面視したときに、前記導電基体の表面側に存在する凹部と、該凹部から前記導電基体の内部に向けて線状に延びる亀裂とを具備し、該亀裂は厚み方向に対向する内壁面が一部当接して」いるようにすることを、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
よって、本件発明2は、相違点2について検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明及び甲第3-5号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)本件発明3-7について
本件発明3-7は、本件発明1又は本件発明2に別の発明特定事項を付加したものであって、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記「(1)、(2)」の判断と同様に、本件発明3-7が甲第2号証に記載された発明及び甲第3-5号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1-7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1-7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-15 
出願番号 特願2014-515688(P2014-515688)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菊地 リチャード平八郎守安 太郎  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 小川 進
千葉 輝久
登録日 2015-10-16 
登録番号 特許第5823032号(P5823032)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 導電部材およびセルスタックならびにモジュール、モジュール収容装置  

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