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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) C22C
管理番号 1320235
判定請求番号 判定2016-600001  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 判定 
判定請求日 2016-01-12 
確定日 2016-10-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第4728114号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書に示す「型式番号YM3007アルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット」は、特許第4728114号の請求項1、3、5に記載される構成要件を有する請求項6に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨

本件判定請求の趣旨は、「イ号説明書に示す「型式番号YM3007アルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット」は、特許第4728114号の請求項1、3、5に記載される構成要件を有する請求項6に係る発明の技術的範囲に属するとの判定を求める。」というものと認める。
なお、判定請求書には、請求の趣旨に関して、以下のとおりの記載がある。
「イ号説明書に示すアルミニウム合金は特許4728114号の技術的範囲に属するとの判定を求める」
判定請求書における請求の趣旨においては、上記のとおり、判定請求の対象となる特許発明が特定されていないが、下記第3に示すとおり、本件判定請求の対象となる特許発明は請求項1、3、5に記載される構成要件を有する請求項6に係る発明であると認める。また、判定請求書における請求の趣旨においては、上記のとおり、イ号物件は「アルミニウム合金」とされているが、下記第4に示すとおり、イ号物件は「型式番号YM3007アルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット」であると認める。
また、判定請求書には、「イ号説明書」との名称の書類は添付されていないが、証拠方法として添付されている甲第1号証?甲第7号証のうち、イ号物件に関する甲第2号証?甲第6号証が、「イ号説明書」に相当するものであると認める。

第2 手続の経緯

特許第4728114号(以下、「本件特許」ということがある。)は、その特許出願(特願2005-357239号)が平成17年12月12日にされ、その設定の登録が平成23年 4月22日にされたものである。
そして、平成28年 1月12日に請求人 東洋アルミ株式会社より判定請求書が差し出され、これに対して、平成28年 3月29日付けで被請求人 三崎産業株式会社より判定請求答弁書が提出された。

第3 本件特許発明

本件判定請求の対象となる特許発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許第4728114号公報(甲第7号証、以下、「本件特許公報」という。)の特許請求の範囲の請求項1、3、5に記載される構成要件を有する請求項6に記載されたとおりのものと認め、その構成要件に符号を付し分説して記載すると次のとおりである(以下、それぞれ「構成要件(A-1)」?「構成要件(E)」ということがある。)。

「(A-1)Mnが0.97?1.50質量%、
(A-2)Mgが0.50?2.50質量%、
(A-3)Cuが0.20?1.40質量%、
(A-4)Feが0.20?1.00質量%、
(A-5)Tiが0.01?0.50質量%、
(A-6)Beが0.0001?0.01質量%、
(A-7)残部がAl及び不可避的不純物であり、
(B)Si1.00質量%以下、Cr0.50質量%以下、Zr0.50質量%以下の少なくとも一種を含み、
(C)直径が4インチ(10.16cm)以下であり、
(D)平均結晶粒径が1mm以下であり、
(E)アルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット。」

なお、判定請求書には、本件特許発明に関して、以下のとおりの記載がある。
「本件特許発明の『ヒートロール製造用アルミニウム合金ビレット』は特許明細書及び図面の記載からみて特許請求の範囲の請求項7に記載された次の通りのものである。
『(1) Mnが0.97?1.50質量%であり、Mgが0.50?2.50質量%であり、
Cuが0.20?1.40質量%であり、Feが0.20?1.00質量%であり、
Tiが0.01?0.50質量%であり、Beが0.0001?0.01質量%であり、
残部がAL及び不可避的不純物であり、
(2) Siが1.00質量%以下、Crが0.50質量%以下、Zrが0.50質量%
以下の少なくともいずれか一種を含み、
(3) 平均結晶粒径が1mm以下であり、
(4) 表面が非黒色で清浄化工程を設けずに引き抜き加工を行う事が
出来る
(5) 直径が4インチ以下のビレット及び上記ビレットから製造された
ヒートロール』」(第2頁第11行?第24行。下線は当審が付した。)
判定請求書における本件特許発明は、上記のとおり、「ヒートロール製造用アルミニウム合金ビレット」であり、「請求項7に記載された」とおりの「・・・ビレット及び上記ビレットから製造されたヒートロール」とされており、本件特許公報の特許請求の範囲の記載によれば、請求項7に係る発明は「ヒートロール」の発明であるから、本件特許発明が「ヒートロール」の発明であるとも、「ビレット」の発明であるとも解釈できるが、下記第4の冒頭に記載のとおり、イ号物件は「ビレット」であると認められるから、イ号物件がその技術的範囲に属するかについて判定を求められている本件特許発明は、「ビレット」の発明であると解するのが合理的である。そして、判定請求書における本件特許発明が、構成要件として(2)、(3)、(5)の事項を有していることも踏まえると、イ号物件がその技術的範囲に属するかについて判定を求められている本件特許発明は、請求項7に係る「ヒートロール」の発明ではなく、「特許請求の範囲の請求項1、3、5に記載される構成要件を有する請求項6」に係る「ビレット」の発明であると解するのが合理的である。
さらに、判定請求書における本件特許発明は、構成要件として、「(4)表面が非黒色で清浄化工程を設けずに引き抜き加工を行うことが出来る」との事項を有しているが、この事項は、本件特許の請求項1?6のいずれにも記載されていないから、この事項は、本件特許発明の構成要件としては含まれないものである。
してみると、判定請求書の記載を総合的に検討すると、本件特許発明は、上記のとおり認定するのが相当である。
そして、本件特許発明の認定に関して、上記のとおり認定することについて、請求人及び被請求人に確認したところ、請求人側との平成28年 7月20日の電話応対についての応対記録、及び、被請求人側との平成28年 7月20日及び同年同月21日の電話応対についての応対記録に記載のとおり、両者の了承が得られている。

第4 イ号物件

イ号物件は、以下に示す理由により、「型式番号YM3007アルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット」であるとして、以下の検討を行う。
判定請求書には、イ号物件に関して、以下のとおりの記載がある。
「イ号説明及びイ号写真で示す型式番号YM3007ヒートロール用アルミニウム合金(イ号物件)」(第1頁下から第2行?下から第1行 5.<1>判定請求の必要性の欄(当審注:「<>」は、○数字を示す。以下同様。))
「以下の説明に示す通りイ号は本件特許発明に即して記載すると次の通りのものである。
『・・・
e. ヒートロール用アルミニウム合金』
・・・
eの説明
・・・
甲第2号証(・・・)においてビレットという文言こそ記載されていないが甲第5号証(イ号の写真)の形状を見る限りビレットである。」(第2頁下から第2行?第27行 5.<4>イ号物件の説明の欄)
この記載からみて、判定請求書でいうイ号物件は、型式番号YM3007のヒートロール用アルミニウム合金であるようにも解されるが、構成eの説明として、その形状がビレットであることが記載されており、また、本件特許の請求項1?6に係る発明は「ビレット」の発明、請求項7に係る発明は「ヒートロール」の発明であって、いずれも、「アルミニウム合金」の発明ではないから、イ号物件は、「型式番号YM3007アルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット」であると解するのが合理的である。

そして、「イ号説明書」に相当するものと認める、判定請求書において請求人が証拠方法として提出した甲第2号証?甲第6号証は、それぞれ次のものである。

甲第2号証:イ号に関する被請求人発行の資料(2010年10月19日発行)
甲第3号証:請求人の依頼にてイ号の成分分析を石川県工業試験場に依頼した結果(2015年9月14日発行)
甲第4号証:請求人の依頼にてイ号表面の平均結晶粒径を石川県工業試験場にて観察した結果(2015年11月10日撮影)
甲第5号証:イ号の写真(2015年10月30日撮影)
甲第6号証:被請求人外注先発行の材質証明(2015年5月14日発行)

以下、イ号物件である「型式番号YM3007アルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット」について、甲第2号証?甲第6号証の記載事項を見ていく。
なお、被請求人は、甲第2号証?甲第6号証が、被請求人の製品である「YM3007」に係るものであることについて争っていない。(後記6参照。)

1 甲第2号証の記載事項

「イ号に関する被請求人発行の資料(2010年10月19日発行)」(判定請求書 6. 証拠方法)とされる甲第2号証には、次の(ア)?(ウ)の事項が記載されている。
なお、各甲号証は、頁番号が付与されていないため、以下、各々の最初の頁を第1頁として、頁数を数えた。

(ア)表題を「ECO アルミ合金:YM3007」とするシートには、「OA機器 MPF/Printer定着装置の加熱ローラ(H/R)の課題を改善すべき開発されたアルミ合金を紹介致します。・・・。そこでアルミ合金の成分配合に工夫凝らし問題を・品質・コスト改善するAL合金:YM3007を紹介する。」との記載がある。(第2頁)

(イ)表題を「エコ アルミ合金:YM3007と5052」とするシートには、機械物性と化学成分表とが記載され、その化学成分表には、「YM3007」の化学成分として、Si:0.2-0.26、Fe:0.35-0.5、Cu:0.5-0.7、Mn:0.79-1.0、Mg:0.6-1.0、Cr:-、Zn:-、Ti:0.03以下、備考:-、個々:記載無し、合計:記載無し、Al:残部と記載され、また、「5052」の化学成分として、Si:0.25以下、Fe:0.40以下、Cu:0.10以下、Mn:0.10以下、Mg:2.2-2.8、Cr:0.15-0.35、Zn:0.10以下、Ti:-、備考:-、個々:0.05以下、合計:0.15以下、Al:残部と記載されている。(第5頁)

(ウ)表題を「従来アルミ合金:5052の問題点」とするシートには、「Warm-Upの短縮→H/Rの薄肉化→熱/圧力でのロール変形→ロール変形で紙しわ/画質トラブル等々が発生→H/Rの肉厚を最適化→Warm-Upの短縮できず」との記載がある。(第3頁)

しかしながら、甲第2号証には、Mgが酸化されることによって、合金中に酸化物の介在物が多くなって特性が低下するだけでなく、ビレット表面が黒色を呈し、平滑性が劣ることについては記載されていない。

2 甲第3号証の記載事項

「請求人の依頼にてイ号の成分分析を石川県工業試験場に依頼した結果(2015年9月14日発行)」(判定請求書 6. 証拠方法)とされる甲第3号証には、次の(カ)?(ケ)の事項が記載されている。

(カ)「提出資料名 アルミビレット YM3007」
(キ)「試験方法:Mn, Mg, Cu, Fe, Ti, Cr, Zr : JIS H1307、Be : JIS H1367、Si : JIS H1352を参照」
(ク)「試験機器:ICP発行分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)iCAP6500Duo)」
(ケ)「化学分析値%(m/m)」が「Mnが0.95、Mgが0.89、Cuが0.64、Feが0.43、Tiが0.01未満、Beが0.0001未満、Siが0.32、Crが0.01未満、Zrが0.01未満」であること

3 甲第4号証の記載事項

「請求人の依頼にてイ号表面の平均結晶粒径を石川県工業試験場にて観察した結果(2015年11月10日撮影)」(判定請求書 6. 証拠方法)とされる甲第4号証からは、次の(サ)?(ス)の事項が記載され、(セ)の事項が記載され又は視認される。

(サ)平均結晶粒径の計算式が、次式であること。

(シ)「ビレット外側」の3視野における平均結晶粒径[μm]が、それぞれ88,94,80であり、その3視野の平均値[μm]が87であること。
(ス)「ビレット内側」の3視野における平均結晶粒径[μm]が、それぞれ108,108,91であり、その3視野の平均値[μm]が102であること。
(セ)甲第4号証の第2頁?第7頁には、いずれにも平均結晶粒径を求めるための円が記載された組織写真が示され、その組織写真には、「内側_視野1」?「外側_視野3」のいずれかの記載と、「観察倍率×100」との記載が付されている。

4 甲第5号証の視認事項

「イ号の写真(2015年10月30日撮影)」(判定請求書 6. 証拠方法)とされる甲第5号証からは、次の(タ)?(テ)の事項が視認される。

(タ)イ号物件とされる物の撮影面の形状が略円形であり、その直径が、ノギスの目盛りからみて、約10.14cm(約4インチ)であること。
(チ)イ号物件を載せている紙状の物には、「YM3007 4インチビレット 2015.10.30」と記載されていること。
(ツ)イ号物件とされる物に「・・・3007・・・」と刻印されていること。
(テ)この写真が、イ号物件とされる物の上面から撮影したものであり、その略円形の撮影面には、ほぼ同様の曲率で若干湾曲した縦方向の複数の筋があること。

5 甲第6号証の記載事項

「被請求人外注先発行の材質証明(2015年5月14日発行)」(判定請求書 6. 証拠方法)とされる甲第6号証には、次の(ナ)?(ヌ)の事項が記載されている。

(ナ)「



(ニ)「


(ニ)の上段の表には、Sample No(サンプルNo)がYM3007であるサンプルにおける17種類の元素(Si、Fe、・・・、Al)の濃度が、NO1?3の3つについて示されていると認められる。また、(ニ)の下段の表には、「Average(n=3)」(当審注:n(試料数)が3の平均値を意味するものと認める。)、「上線を有するx」の記載、及び、各元素濃度の数値からみて、(ニ)の上段の表の各元素の3つの濃度の平均値が示されていると認められる。
(ニ)の表には、元素Beについての記載は認められない。

(ヌ)「


(ヌ)の表には、材質及び尺寸がそれぞれ3007及び4”HO(当審注:「HO」は、鋳造材の略号として使用されるので、「4インチの鋳造材」を意味するものと認める。)のサンプルにおける各元素の濃度が示されており、(ニ)の下段の表と同様に、「Average(n=4)」(当審注:n(試料数)が4の平均値を意味するものと認める。)、「上線を有するx」の記載からみて、27種類の元素(Si、Fe、・・・、Al)の4つの濃度の平均値が示されているものと認められる。
(ヌ)の表には、元素Beについて、「Be % <0.0010」と記載されている。

6 イ号物件の構成
はじめに、甲第2号証?甲第6号証がいずれもイ号物件についての証拠方法であるかについて検討する。
甲第2号証について、その第1頁には、「エコ アルミ合金:YM3007」、「三崎産業」との記載があり、また、同第2頁には、「AL合金:YM3007を紹介する」との記載があるから、甲第2号証の資料は、被請求人である「三崎産業」が、自社の製品である「エコ アルミ合金:YM3007」について紹介するために作成したものと解される。したがって、甲第2号証は、イ号物件についての証拠方法であると推認できる。
甲第3号証は、株式会社ワテックの依頼により、石川県工業試験場長が作成した成績書であるが、「提出された資料について、分析、試験した結果は、下記のとおりです。」との記載があり、「提出資料名」の欄には、「アルミビレット YM3007」との記載があり、「結果」の欄には、Mn、Mg、Cu、Fe、Ti、Be、Si、Cr、Zrの成分について、「化学分析値%(m/m)」の記載があるから、甲第3号証の成績書は、「YM3007」と称するアルミビレットに含まれる合金成分の含有量を分析したものと解される。そして、その分析結果によれば、Si含有量は「0.32」であって甲第2号証に示されるSiの含有量と重複していないものの、その他の成分であるFe、Cu、Mn、Mg、Tiの含有量は重複することから、甲第3号証における「YM3007」は、甲第2号証における「エコ アルミ合金:YM3007」であると推認される。したがって、甲第3号証は、イ号物件についての証拠方法であると推認できる。
甲第4号証は、判定請求書によれば「請求人の依頼にてイ号表面の平均結晶粒径を石川県工業試験場にて観察した結果(2015年11月10日撮影)」であり、甲第4号証は、甲第3号証と同様に、石川県工業試験場にその観察を依頼したものであるから、甲第3号証の試料と甲第4号証の試料とは同一の試料であると考えられる。してみると、甲第4号証における試料は、甲第3号証における「YM3007」と同様に、甲第2号証における「エコ アルミ合金:YM3007」であると推認されるから、甲第4号証は、イ号物件についての証拠方法であると推認できる。
甲第5号証は、判定請求書によれば、「イ号の写真(2015年10月30日撮影)」である。したがって、甲第5号証は、イ号物件についての証拠方法であると推認できる。
甲第6号証は、判定請求書によれば、「被請求人外注先発行の材質証明」であり、その第2頁には「材料製造證明書」及び「中山豪展『リョ』異形材製品有限公司(当審注:『リョ』は「金ヘンに呂」、以下同様。)」との記載があるから、甲第6号証の資料は、被請求人の外注先である「中山豪展『リョ』異形材製品有限公司」が発行した材質証明書であると解され、また、その第2頁には、「YM3007」との記載があり、その第1頁には、「Sample No:YM3007」、「材質尺寸:3007 4"HO」との記載があるから、YM3007の材質証明であると解される。したがって、甲第6号証は、イ号物件についての証拠方法であると推認できる。
また、各甲号証がそれぞれイ号物件についての証拠方法である点について、疑義の根拠となる合理的な理由は見当たらないし、さらに、被請求人が提出した平成28年3月30日付けの判定請求答弁書をみると甲第2号証?甲第6号証がいずれもイ号物件についての証拠方法であることについての争いはない。
よって、甲第2号証?甲第6号証はいずれも、イ号物件についての証拠方法であるとして、以下の検討を行う。

(1)甲第2号証の「イ号に関する被請求人発行の資料」の記載事項(ア)から、「YM3007」が「定着装置の加熱ローラ(H/R)用のアルミ合金」であり、同(イ)から、その組成が「Si:0.2-0.26、Fe:0.35-0.5、Cu:0.5-0.7、Mn:0.79-1.0、Mg:0.6-1.0、Cr:-、Zn:-、Ti:0.03以下、備考:-、個々:記載無し、合計:記載無し、Al:残部」であるといえる。
ここで、同(イ)の化学成分表には、従来アルミ合金である「5052」の組成についても示されており、この「5052」の組成が、組成比が質量%で記載されるJISに規定されるアルミニウム合金5052の組成と一致することから、当該化学成分表は、質量%により記載されているものであり、上記YM3007の組成も質量%により記載されているものと認められる。
また、甲第2号証には、同(ウ)のとおり、従来アルミ合金である「5052」の課題としてビレット表面が黒色であることや、平滑性に劣ることは記載されておらず、また、「YM3007」の上記組成にはBeが含まれていないことから、甲第2号証の記載事項から、「YM3007」がBeを積極的に含有するものとはいえない。なお、Beの含有については下記(4)において、さらに検討する。
してみると、甲第2号証の記載事項から、イ号物件の合金である「型式番号YM3007アルミニウム合金」は、その用途がヒートロール用であり、その組成が質量%で「Si:0.2-0.26、Fe:0.35-0.5、Cu:0.5-0.7、Mn:0.79-1.0、Mg:0.6-1.0、Cr:-、Zn:-、Ti:0.03以下、備考:-、個々:記載無し、合計:記載無し、Al:残部」であるといえ、また、Beを積極的に含有するものとはいえない。

(2)また、イ号物件の形状について、甲第3号証の(カ)、及び、甲第5号証の(タ)、(チ)の事項からみて、ビレットであり、その直径が約4インチであるといえる。

(3)さらに、イ号物件の平均結晶粒径について、甲第4号証の(サ)?(セ)の記載からみて、観察された試料の「ビレット外側」の3視野の平均結晶粒径の平均値が87μmであり、「ビレット内側」の3視野の平均結晶粒径の平均値が102μmであるから、イ号物件の平均結晶粒径は、約100μm(=約0.1mm)であるといえる。

(4)ここで、イ号物件の合金である「型式番号YM3007アルミニウム合金」がBeを含有するかどうかについて、具体的な組成について示されている甲第3号証及び甲第6号証をさらに検討する。

(4-1)「請求人の依頼にてイ号の成分分析を石川県工業試験場に依頼した結果」とされる甲第3号証には、その(カ)?(ケ)の記載からみて、「アルミビレット YM3007」を、BeについてJIS H1367に基づいて、ICP発行分光分析装置で分析した結果、その化学分析値%(m/m)が、「Be:0.0001未満」であることが示されている。
ここで、「Be:0.0001未満」とは、Beを分析対象としたものの、Beが含まれないか又は極少量(0.0001未満)であるために、検出限界未満であったことを示すものと推認され、このことは、判定請求書の「甲第3号証(・・・)においても極少量である為、検出されておらず・・・」(第4頁第6行?第8行)との記載とも整合する。
してみると、甲第3号証には、「型式番号YM3007アルミニウム合金」のBe含有量が0.0001未満であることが示されるのみであるから、甲第3号証からは「型式番号YM3007アルミニウム合金」が、Beを含有しない(Beの含有量が0である)か、仮に含有するとしても、微量(0.0001質量%未満)含有することが理解できるに留まる。したがって、甲第3号証からは、イ号物件がBeを必須の添加元素として0.0001?0.01質量%含有するものとはいえない。

(4-2)「被請求人外注先発行の材質証明」とされる甲第6号証において、「Be」について記載されていると認められるものは、(ヌ)の「Be % <0.0010」との記載のみである。
ここで、甲第6号証において元素濃度が示される(ニ)及び(ヌ)における他の成分についての記載を見ると、具体的に数値が記載されている成分と、「<」の記号とともに数値が記載されている成分とが存在することから、甲第6号証では、定量値として分析された成分と、定量値として分析することができなかった成分(測定限界未満であった成分)とが書き分けられているものと推認される。
してみると、上記「Be % <0.0010」との記載は、Beについて分析を行ったものの、その分析の結果0.0010(検出限界)以上の定量値として検出できなかったことを示すと考えられるから、Beを含まない(Beの含有量が0である)か、仮に含有するとしても、微量(0.0010質量%未満)含有することが理解できるに留まる。したがって、甲第6号証からは、イ号物件がBeを必須の添加元素として0.0001?0.01質量%含有するものとはいえない。

(4-3)また、判定請求書に「甲第5号証(イ号の写真)の通り、非黒色である」(第3頁第20行)、及び、「Beに関してはMn、Mgを用いたアルミニウム合金の非黒色化には必要不可欠であり、例え検出が難しい極少量の添加であったとしても同様の作用効果がある。」(第5頁第11行?第13行)と記載されており、本件特許明細書に、「BeはMgの酸化防止のために添加するものである。・・・。Mgが酸化すると、・・・、ビレット表面が黒くなる。・・・。これらのBeの作用効果はBeの添加がわずかの場合にも生ずる。」(【0010】段落)と記載されていることを踏まえると、請求人は、イ号物件の表面が非黒色であることを根拠として、Beが極少量添加されていると主張しているとも解し得るので、念のため、この主張についても検討する。
「イ号の写真」とされる甲第5号証は、上記4の(チ)、(ツ)の事項から「YM3007 4インチビレット」の写真であると解される。
甲第5号証の「YM3007 4インチビレット」は、同(テ)の事項から、その上面の略円形の撮影面に「ほぼ同様の曲率で若干湾曲した縦方向の複数の筋があり」、これらの「縦方向の複数の筋」は、その形状からみて、ビレットを切断した際に形成されたものと認められる。してみると、この撮影面はビレットを切断した切断面であり、ビレット表面ではないから、この撮影面をみても、ビレット表面が非黒色であるかどうか不明というほかない。
したがって、イ号物件の表面が非黒色であることを根拠としてBeが極少量添加されているとする請求人の主張は、採用することができない。

(4-4)よって、甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載又は示された事項をみても、イ号物件がBeを必須の添加元素として0.0001?0.01質量%含有するものとはいえない。イ号物件は、Beを含有しないか、仮に含有するとしても、不可避不純物として微量含有するにすぎず、その含有量は、0.0001%未満であるものと認められる。

(5)したがって、イ号物件は、上記(1)?(4-4)の検討に基づいて本件特許発明の構成要件の分説と対応するように符号を付して構成に分説すると次のとおりのものと認める。

「(a-1)Mnが0.79?1.0質量%であり、
(a-2)Mgが0.6?1.0質量%であり、
(a-3)Cuが0.5?0.7質量%であり、
(a-4)Feが0.35?0.5質量%であり、
(a-5)Tiが0.03質量%以下であり、
(b)Siが0.2?0.26質量%であり、
(a-7)残部がAlであり、
(a-6)Beを含有しないか、不可避的不純物として含有するとしても0.0001質量%未満であり、
(c)直径が4インチ(10.16cm)であり、
(d)平均結晶粒径が約0.1mmである、
(e)アルミニウム合金からなる加熱ローラ(H/R)用のビレット。」

第5 対比

1 構成要件(A-1)?(A-7)及び(B)の充足性について

(1)構成要件(A-1)について
イ号物件の構成(a-1)の「Mnが0.79?1.0質量%」は、本件特許発明の構成要件(A-1)の「Mnが0.97?1.50質量%」と、イ号物件のMnの含有量が0.97?1.0質量%の範囲である場合において重複しているので、当該構成要件(A-1)を充足する。

(2)構成要件(A-2)について
イ号物件の構成(a-2)の「Mgが0.6?1.0質量%」は、本件特許発明の構成要件(A-2)の「Mgが0.5?2.5質量%」と、イ号物件のMgの含有量の全ての範囲において重複しているので、当該構成要件(A-2)を充足する。

(3)構成要件(A-3)について
イ号物件の構成(a-3)の「Cuが0.5?0.7質量%」は、本件特許発明の構成要件(A-3)の「Cuが0.2?1.4質量%」と、イ号物件のCuの含有量の全ての範囲において重複しているので、当該構成要件(A-3)を充足する。

(4)構成要件(A-4)について
イ号物件の構成(a-4)の「Feが0.35?0.5質量%」は、本件特許発明の構成要件(A-4)の「Feが0.2?1.0質量%」と、イ号物件のFeの含有量の全ての範囲において重複しているので、当該構成要件(A-4)を充足する。

(5)構成要件(A-5)について
イ号物件の構成(a-5)の「Tiが0.03質量%以下」は、本件特許発明の構成要件(A-5)の「Tiが0.01?0.5質量%」と、イ号物件のTiの含有量が0.01?0.03質量%の範囲である場合において重複しているので、当該構成要件(A-5)を充足する。

(6)構成要件(A-6)について
本件特許発明の構成要件(A-6)が「Beが0.0001?0.01質量%」であるのに対し、イ号物件がBeを含有しないものである場合には、当該構成要件(A-6)を充足しない。
また、イ号物件が不可避不純物としてBeを含有する場合には、その含有量は0.0001質量%未満であって、イ号物件と本件特許発明とのBeの含有量は一致しないので、やはり、当該構成要件(A-6)を充足しない。

(7)構成要件(A-7)について
イ号物件の構成(a-7)の「残部Al」は、合金はその製造工程おいて不可避的に不純物を含有することが一般的であることからみて、不可避的な不純物を許容するものといえるので、本件特許発明の構成要件(A-7)の「残部がAl及び不可避的不純物である」を充足する。

(8)構成要件(B)について
イ号物件の構成(b)の「Siが0.2?0.26質量%」は、本件特許発明の構成要件(B)の「Si1.00質量%以下、Cr0.50質量%以下、Zr0.50質量%以下の少なくとも一種を含み」とイ号物件のSiの含有量の全ての範囲において重複しているので、当該構成要件(B)を充足する。

(9)以上から、イ号物件の構成(a-1)?(a-5)、(a-7)及び(b)は、本件特許発明の構成要件(A-1)?(A-5)、(A-7)及び(B)を充足するが、構成要件(A-6)を充足しない。

2 構成要件(C)の充足性について

イ号物件の構成(c)の「直径が4インチ(10.16cm)」は、本件特許発明の構成要件(C)の「直径が4インチ(10.16cm)以下」の範囲に含まれているので、イ号物件の構成(c)は、本件特許発明の構成要件(C)を充足する。

3 構成要件(D)の充足性について

イ号物件の構成(d)の「平均結晶粒径が約0.1mm」は、本件特許発明の構成要件(D)の「平均結晶粒径が1mm以下」の範囲に含まれているので、イ号物件の構成(d)は、本件特許発明の構成要件(D)を充足する。

4 構成要件(E)の充足性について

イ号物件の構成(e)の「アルミニウム合金からなる加熱ローラ(H/R)用のビレット」は、本件特許発明の構成要件(E)の「アルミニウム合金からなるヒートロール用のビレット」に相当しているので、イ号物件の構成(e)は、本件特許発明の構成要件(E)を充足する。

5 したがって、イ号物件の構成(a-1)?(e)は、本件特許発明の構成要件(A-1)から(A-5)、(A-7)、(B)?(E)を充足するが、本件特許発明の構成要件(A-6)を充足しない。

6 均等の主張について

(1)請求人は、判定請求書において「Mn及びBeの含有に関しても実質的な差違は無く差違があるとしても均等の範囲に含まれる。」(第4頁第10行?第11行)旨主張し、均等である点について説明(判定請求書の第5頁第3行?第26行)している。
そこで、イ号物件が本件特許発明を「充足しない」構成要件(A-6)につき、本件特許発明とイ号物件との「異なる部分」として、均等論の適用が可能であるかについて検討する。

(2)最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡)で示された均等成立の要件は、以下のとおりである。

特許請求の範囲に記載された構成中に、対象製品と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)右部分が対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。

そこで、上記(1)の要件(以下、「第1要件」という。)から順に検討する。

(2-1)第1要件について
本件特許明細書(本件特許公報、甲第7号証)には、以下の記載がある。
「【0003】
・・・。
上記の合金の組成範囲内でMgが多いものは強度は高いが、共通の問題として、合金ビレットを製造する際、Mgが酸化され易く、その結果合金中に酸化物の介在物が多くなり、特性が低下するだけでなく、酸化物によりビレット表面が黒色を呈し、平滑性に劣る。ヒートロールはビレットをまず押出し、次いで引き抜き加工されて製造されるが、ビレットの表面が清浄でないと、その後の加工面に影響するするので、表面を清浄にする切削等が必要になり、加工工程が増え、コスト高となる。
・・・
【0004】
本発明は上記のような従来技術の問題点に鑑みなされたもので、強度、高温クリープ性、耐熱性に優れ、表面が黒色でなく、特にヒートロールに適したアルミニウム合金ビレットを開発することを目的とする。
・・・
【0010】
BeはMgの酸化防止のために添加するものである。アルミニウム合金において、Mgは酸化され易く、特にその含有量が高くなると顕著である。この酸化は主としてビレットに鋳造する際の溶湯処理の際に生じる。BeはMg、AlよりO_(2)との親和力が強く、Beの酸化膜は添加後溶湯表面を覆い、Mgの酸化を防止する。その後鋳造時、鋳塊(ビレット)表面もBeの堅固な酸化膜で覆い、表面相の酸化を防止、表面結晶粒度粗大化防止に寄与、滑らかな表面鋳肌を形成する。Mgが酸化すると、その酸化物が介在物として合金中に存在し、特性劣化の原因になるばかりでなく、ビレット表面が黒くなる。そのためにその除去等の工程が必要になる。
またBeはCu-Mg合金晶出物の微細分散化を助け、マトリックスを強化、加工性、高温クリープ特性改善に寄与する。これらのBeの作用効果はBeの添加がわずかの場合にも生ずる。
したがってBeは0.0001%以上、好ましくは0.001%以上あればよい。その上限は、多くても作用効果が飽和するので、経済性等も考慮して0.01%とした。」
以上の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、Mgが多い合金ビレットを製造する際に、Mgが酸化され易く、酸化物によりビレット表面が黒色を呈し、平滑性に劣るため表面を清浄にする切削等が必要になり、加工工程が増え、コスト高となるという問題点に鑑み、表面が黒色でなく、特にヒートロールに適したアルミニウム合金ビレットを開発することであり、そのような課題を解決するために、本件特許発明においては、Beの含有量を0.0001%?0.01質量%としたものと認められる。
してみると、本件特許発明において、Beの含有量を0.0001?0.01質量%とすることは、本件特許発明が解決しようとする課題を解決する手段であるから、本件特許発明の本質的な部分に他ならない。

すなわち、本件特許発明とイ号物件との相違部分である、構成要件(A-6)は、本件特許発明の本質的部分であるから、均等論が適用できるための5つの要件のうち、第1要件を充足しない。

(3)以上のとおり、均等論が適用できるための5つの要件のうち、第1要件を充足しないから、他の要件について検討するまでもなく、イ号物件は、本件特許発明と均等なものとして、本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。

第6 むすび

以上のとおり、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2016-10-03 
出願番号 特願2005-357239(P2005-357239)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (C22C)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 板谷 一弘
富永 泰規
登録日 2011-04-22 
登録番号 特許第4728114号(P4728114)
発明の名称 ヒートロール製造用アルミニウム合金ビレット  

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