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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013800095 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A23L
審判 一部無効 特許請求の範囲の実質的変更  A23L
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23L
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 一部無効 2項進歩性  A23L
管理番号 1320462
審判番号 無効2015-800039  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-02-25 
確定日 2016-08-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4913410号発明「グリシンを含有する食品およびその用途」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4913410号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、6-8〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4913410号は、平成16年12月24日に出願(優先日:平成16年1月14日、平成16年5月28日)され、平成24年1月27日に設定登録がなされたものである。

また、本件無効審判請求以後の手続の経緯は、以下のとおりである。
1 平成27年 2月25日 無効審判請求
2 平成27年 5月11日 答弁書提出
3 平成27年 9月 4日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
4 平成27年 9月16日 上申書(請求人)
5 平成27年 9月24日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
6 平成27年10月 6日 第1回口頭審理
7 平成28年 1月13日 審決の予告
8 平成28年 3月18日 訂正請求書提出
9 平成28年 4月28日 審判事件弁駁書提出

第2 訂正請求
1 訂正の内容
被請求人(訂正請求の請求人)の平成28年3月18日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、「特許第4913410号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2、6?8について訂正する」ことを求めるものである。具体的な訂正事項は以下のとおりである。

(訂正事項1)
請求項2、6?8からなる一群の請求項に係る訂正であって、無効2013-800095号の確定した審決にて認められた特許請求の範囲の請求項2、6?8において、「熟眠障害改善剤」とあるのを、「徐波睡眠への移行誘発剤」と訂正する。

2 訂正の適否
(1) 訂正の目的について
本件特許明細書段落【0026】には、「ここで、『熟眠障害』とは、起床時に熟眠に対する満足感が無い、または、睡眠不足感を感じる状態、あるいは、適切な睡眠によって期待される様々な状態についての満足感が感じられない状態をいう。例えば、睡眠が浅い場合や、入眠後に深い眠りとされる徐波睡眠に移行しにくい場合や、睡眠が中断されたり、期待する時間に起床できない場合や、睡眠時間が不足する場合があげられ、また睡眠の環境が不適切な場合、精神的あるいは身体的ストレスがある場合、就寝前にカフェインなど覚醒作用を持つ成分を摂取した場合、過度に飲酒した場合、さらに不規則な睡眠周期や生体リズムの乱れがある場合、その他、時差のある環境においても起こりやすいとされる。・・・なお、いわゆる『睡眠障害』や『不眠症』とよばれる概念も、上述の『熟眠障害』という概念に含まれる。」との記載がある(下線は当審が付与したものである。以下同様である。)。

当該明細書の記載に基づいて、「徐波睡眠への移行」誘発が、「熟眠障害改善」に包含される下位概念の一つであることが理解される。

したがって、訂正事項1は、「熟眠障害改善剤」を、その下位概念である「徐波睡眠への移行誘発剤」とすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2) 新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
本件特許明細書段落【0028】には、「現代の生活は、精神的なストレスなどにより交感神経優位になりやすいと言われているが、グリシンはこれと対照的に作用する副交感神経を優位に作用させることにより、徐波睡眠(深い眠り)への移行を誘発したり、睡眠中の眠りの質を向上させたり、睡眠中の内臓の活動を適切に調節したり、自然な眠りを助長するものと考えられる。このような睡眠に関する用途でグリシンを摂取する場合、就寝前に摂取することが最も適当である。」と記載されている上、段落【0059】?【0067】には、実験例10、及び実験例11として、グリシンの摂取により、徐波睡眠に入るまでの時間が短縮され、入眠初期の徐波睡眠が延長されることが開示されていることから、グリシンの「徐波睡眠への移行誘発」する用途が明細書に裏付けられている。また、「熟眠障害改善」の下位概念としての「徐波睡眠への移行誘発」が明細書の記載から明確に把握されることは、上記「(1)」のとおりである。

したがって、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3) 請求人の主張について
請求人は、平成28年4月28日の弁駁書において、訂正事項1が、以下のアのとおり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項又は第6項に規定する要件を満たさず、不適法である旨主張しているので、念のため検討する。

ア 請求人の主張
(ア) (実験例10)および(実験例11)では、訂正後の請求項2の「グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する」点に係るグリシン以外のアミノ酸に関する記載が全くないので、「徐波睡眠への移行誘発」を用途とする発明において、訂正した請求項2に係る発明は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内ではなく、訂正事項1の請求項2に係る訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に規定する要件を満たさず、不適法である。

(イ) さらに、被請求人は、「徐波睡眠への移行誘発」作用を裏付ける(実験例10)及び(実験例11)において、グリシン以外のアミノ酸を含むか否かを言及しないで、「徐波睡眠への移行誘発」作用に関して、「グリシン以外のアミノ酸を含むことに技術的な意義がある」(第1回口頭審理調書2頁被請求人6項)と主張することは矛盾しており、仮に、グリシン以外のアミノ酸を含むか否かに関わらず、グリシンのみの投与で徐波睡眠への移行誘発作用を発揮するとするなら、特許請求の範囲を変更するものであって、訂正事項1の請求項2に係る訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に規定する要件を満たさず、不適法である。

イ 上記アに対する当審の判断
(ア) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載が認められる。

(T1)「本発明者らは、上記食品中にグリシン以外のアミノ酸が多く含まれていると、後述する効果を享受し難くなる傾向があることも見出した。よって、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の含有量は、グリシン以外のアミノ酸換算で1食当たり5g以下が好ましい。上記食品中に、機能の発現に必要最低レベルのグリシンしか含まれない場合に含まれるグリシン以外のアミノ酸および加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の量が5gを超える場合には本発明のグリシンの機能は抑制される。」(段落【0010】)

(T2)「グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の含有量の下限は特に定められるものではないが、例えば、グリシン以外のアミノ酸換算で1食当たり50mgが挙げられ、実質的に含まれないことが好ましい。」(段落【0011】)

(イ) 「グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質」について、「食品中に、機能の発現に必要最低レベルのグリシンしか含まれない場合に含まれるグリシン以外のアミノ酸および加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の量が5gを超える場合には本発明のグリシンの機能は抑制される。」(段落【0010】)、及び「グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の含有量の下限は特に定められるものではないが、例えば、グリシン以外のアミノ酸換算で1食当たり50mgが挙げられ、実質的に含まれないことが好ましい。」(段落【0011】)との記載された事項は、特定の機能に限定されるものではなく、本件特許明細書に開示された機能全般にいえることは明らかである。
そして、「徐波睡眠への移行誘発剤」においてもグリシンが有効成分であって、「グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する」点は、グリシンの機能が抑制されない条件を特定したものであると理解できる。
また、訂正事項1には、「グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質」を含有することによる技術的な意義を変更するような訂正はなく、そして、上記したように「熟眠障害改善剤」を、その下位概念である「徐波睡眠への移行誘発剤」に減縮するもので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内ではないということはできないし、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、請求人の上記「ア 請求人の主張」は採用できない。

(4) まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされたもので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項により準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件特許第4913410号の請求項1ないし8に係る発明は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
以下、本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件特許発明1」などといい、これらを総称して「本件特許発明」という。また、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。

「【請求項1】
1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを有効成分として、1食摂取量として0.5g以上含有する、徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項2】
1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを有効成分として、1食摂取量として0.5g以上含有し、さらに、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する、徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項3】
さらに、賦形剤、矯味剤および香料から選ばれる少なくとも1種の添加物を含む、請求項1に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項4】
前記矯味剤がクエン酸である、請求項3に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項5】
液状である、請求項1、3、4のいずれか1項に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項6】
さらに、賦形剤、矯味剤および香料から選ばれる少なくとも1種の添加物を含む、請求項2に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項7】
前記矯味剤がクエン酸である、請求項6に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項8】
液状である、請求項2、6、7のいずれか1項に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第4913410号発明の特許請求の範囲の請求項2、6、7及び8に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、無効理由の概要は以下のとおりであると主張している。

1 無効理由1(進歩性欠如)
本件特許の請求項2、6、7及び8に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 無効理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項2、6、7及び8に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第4号証、甲第2号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3 無効理由3(進歩性欠如)
本件特許の請求項2、6、7及び8に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第6号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

4 無効理由4(サポート要件違反)
本件特許は、その請求項2、6、7及び8に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

5 無効理由5(実施可能要件違反)
本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項2、6、7及び8に係る発明についての特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

なお、平成28年4月28日の弁駁書「6-2 訂正請求が認められた場合における無効理由」の「(1)追加する第1の無効理由(特許法36条4項2号36条6項1号)(請求項2、請求項6?8)」(4ページ26?27行)及び「・・・特許法第36条第4項第2号違反の無効理由を有する。・・・」(5ページ7?8行)とあるのは、それぞれ「(1)追加する第1の無効理由(特許法36条4項1号36条6項1号)(請求項2、請求項6?8)」及び、「・・・特許法第36条第4項第1号違反の無効理由を有する。・・・」の明らかな誤記であると認めた。
そして、「(1)追加する第1の無効理由」は、上記無効理由4及び5について主張するものであり、「(2)追加する第2の無効理由」は、上記無効理由1?3について主張するものであり、請求の理由の要旨を変更するものではない。

また、請求人は、証拠方法として、以下の甲第1ないし17号証を提出している。

[証拠方法]
甲第1号証:特許第4913410号公報(本件特許公報)
甲第2号証:Qian Jin Lun Tan Forum、 Paradoxical Sleep and Prolonging Life, 9,(2002年12月31日発行)、25ページ
甲第3号証:Pierre Maquet et al., Nature, 383,163ページ?166ページ(1996年発行)
甲第4号証:Eric R.Braverman, The Healing Nutrients Within 3rd edition(2003年改訂出版)、16ページ?17ページ、216?217ページ、318?323ページ、396?399、432?434ページ
甲第4号証の2:Eric R.Braverman, The Healing Nutrients Within 3rd edition(2003年改訂出版)、1ページ?19ページ、209?223ページ
甲第4号証の3:甲第4号証訳文
甲第5号証:特開2003-274896号公報
甲第6号証:米国特許第4980168号明細書
甲第6号証の2:甲第6号証翻訳文
甲第7号証:試験結果報告書
甲第8号証:特開2004-143164号公報(1ページ、79ページ)
甲第9号証:特開2004-137208号公報(1ページ、175?176ページ)
甲第10号証:特開2004-137224号公報
甲第11号証:特開2004-149426号公報
甲第12号証:特開2001-299273号公報
甲第13号証:特開平11-243913号公報
甲第14号証:特開2000-7555公報
甲第15号証:「『用途発明の特許権の効力範囲を踏まえた機能性食品の保護の在り方に関する調査研究』アンケート調査ご協力のお願い」(1ページ、7ページ)
甲第16号証:香川芳子監修、「新しい『日本食品標準成分表2010』による食品成分表」、女子栄養大学出版部、2011年2月25日、106?109ページ
甲第17号証:無効2013-800095号の審決公報

なお、甲第1ないし17号証の成立については当事者間に争いがない。

第5 被請求人の主張の概要
一方、被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、上記請求人の主張に対し、以下のとおり、本件特許を無効とすべき理由はない旨の主張をしている。
1 訂正後の本件特許発明2、6?8は、グリシンを有効成分として、1食摂取量として0.5g以上と、グリシン以外のアミノ酸等を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する剤の用途を、熟眠障害改善剤の下位概念の一つである「徐波睡眠への移行誘発剤」としての用途に限定するものである。
甲2には、グリシンがレム睡眠を誘導かつ促進することが記載され(右欄第12行?20行)、100g中に1000mgのグリシンを含む食品が記載されている(右欄第21行?31行)。しかし、甲2には、グリシンに加えて、さらに他のアミノ酸を含有させることについて開示がない。また、他のアミノ酸について、グリシンの熟眠障害改善作用を妨げない量を示唆する記載はなく、さらには、食品において、1食摂取量当たりの他のアミノ酸の含有量を5g以下に制御することは、示唆されていない。
甲4には、GABA、グリシンおよびトリプトファンが、不眠症の予防を助けること(第16頁表1. 11)、3g ?10gのグリシンが鎮静作用を有すること(第216頁第32行?35行)が記載されている。しかし、グリシンが鎮静作用を有することにより、熟眠障害改善作用を発揮するとはいえない。甲4には、不眠症の予防を助ける効果のあるアミノ酸として、GABA、グリシンおよびトリプトファンが列記されているに過ぎず、これらのうち、2種以上を併用することについては何ら開示されていない。グリシンが、具体的に、「不眠症」のどのような状態もしくは症状の予防に役立つのかについては、何ら記載も示唆もされていない。「徐波睡眠への移行を誘発する」効果は、甲4の記載から当業者が容易に予測できない特異なものである。
甲6に記載された発明は、子供の過活動障害に用いられるサプリメントに関するものであり、睡眠に関する問題は、過活動障害の結果として生じ得る一症状として例示されているに過ぎず(第1カラム第46行?55行)、子供の過活動障害とは何ら関連性のない本件特許発明とは、本質的に用途、すなわち、解決課題が異なる。また、甲6に記載されたサプリメントにおいて、グリシンは必須の成分ではなく、任意の添加成分である(第2カラム第20行?30行)。
よって、請求項2、6、7及び8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に、甲第4号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証を適用しても当業者が容易に発明できたものではない。 また、請求項2、6、7及び8に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に、甲第2号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証を適用しても当業者が容易に発明できたものではない。
さらに、請求項2、6、7及び8に係る発明は、甲第6号証に記載された発明に、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証を適用しても当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、無効理由1?3には、理由がない。

2 本件特許明細書段落【0010】(上記記載事項(T1)参照。)には、機能の発現に必要最低レベルのグリシンしか含まれない場合に他のアミノ酸の量が5gを超える場合にはグリシンの機能が抑制されるため、グリシンの効果を妨げずに使用できる範囲として、他のアミノ酸の含有量は好ましくは5g以下であることが記載されている。また、食品中に他のアミノ酸が多く含有されない場合に、1食当たりの摂取量が0.5以上のグリシンにより奏される効果については、本件特許明細書の[実験例4]において、具体的なデータを以って記載されている。
また、一般常識に照らして、本件特許明細書の記載をみれば、当業者は、請求項2における「グリシン以外のアミノ酸」として、毒性を有するアミノ酸等を配合するのではなく、栄養学的に普通に摂取し得る、グリシン以外のアミノ酸を用いればよいことを、当然に理解できる。
よって本件特許は、その請求項2、6、7及び8に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
また、本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
したがって、無効理由4及び5には、理由がない。

第6 甲各号証の記載事項
甲第2?4、6、8?14号証には、以下の各事項が記載されている。

[甲第2号証]
(2a)「



(和訳:レム睡眠と長寿
ヒトは活動することで生存しており、この活動は、それぞれ3つの神経から成り立つ。肉体神経系(筋肉の活動)、自律神経系(消化、呼吸および循環器官)、脳神経系(感情、思考、判断等)。睡眠は、この3つの神経を程よく調整するために必要な時間である。
日本の医学大学出身の長崎宏明博士は、1972年から睡眠と老化の関係性について研究し、ヒトの睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠の二つの期間に分けることができ、前者は「死んだように」深く安らかに眠ることを表し、後者は「眠りが浅く」夢の世界がよく現れる。ヒトは眠っている間にレム睡眠とノンレム睡眠を周期的に繰り返していると示した。レム睡眠とノンレム睡眠は交互に現れ、一般的にレム睡眠は20?30分続き、ノンレム睡眠は80?120分続く。
長崎博士は同じ種類で同じ年齢の実験用マウスを使って、最初のグループのマウスには、毎日20時間そして15秒おきに1回、電気で刺激し、もうひとつのグループのマウスには何も刺激を与えないうえ、最適の環境(SPE環境)で生活をさせた結果、SPE環境で生活したマウスが最初のグループに比べ、レム睡眠の平均時間が20%増加し、寿命も2.6倍伸びていた。一般的に知られている通り、認知症患者の寿命は比較的短い。これらの患者はノンレム睡眠の時間が大幅に長く、レム睡眠の時間が大いに短い為、脳の老化を加速させていた。従って、レム睡眠の時間を増やせば、寿命を延ばすことができる可能性がある。
中国古代より、健康を意識している家庭では、昼寝をすることは健康に良いとされている。これは昼寝がレム睡眠を促進するということを意味しているのでしょうか。生理学者は、70歳を超えた場合、生きていくために身体が自発的にレム睡眠の時間を増やすと述べている。レム睡眠の時間を増やせば、老化を遅らせることができるかもしれない。
長崎博士は実験用マウスの脳幹から一種のアミノ酸を分離した。それがグリシンである。驚くべきことに、この最も簡単なアミノ酸が確実にレム睡眠を誘導かつ促している。グリシンは、ほとんどの動物性蛋白質やゼラチン、魚の骨などに含まれている。
台湾のある関連機関が1973年に数百種類の食品の中に含まれているアミノ酸を分析し、100g中にグリシン1000mg含有の食品が多くあった。例えば、ピーナッツ、ひまわりの種、大豆、アーモンド、インゲンマメ、黒豆、大麦の茎、人参の葉、酵母エキス、クロレラ等。他、一部の伝統的な漢方薬にもグリシンが含まれている。
もし意識的に上記食品を摂取すれば、確実にレム睡眠を促進することはできるが、長寿につながるかどうかは、長期にわたり観察する必要がある。)

以上の記載より、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」ともいう。)が記載されている。

「レム睡眠を誘導かつ促すグリシンが、100g中に1000mg含有の食品として、例えば、ピーナッツ、ひまわりの種、大豆、アーモンド、インゲンマメ、黒豆、大麦の茎、人参の葉、酵母エキス、クロレラ等があり、これらの食品を意識的に摂取すれば、確実にレム睡眠を促進することができる、食品。」

[甲第3号証]
(3a)「Rapid-eye-movement (REM) sleep is associated with intense neuronal activity, ocular saccades, muscular atonia and dreaming1,2. The function of REM sleep remains elusive and its neural correlates have not been characterized precisely in man. Here we use positron emission tomography and statistical parametric mapping to study the brain state associated with REM sleep in humans. We report a group study of seven subjects who maintained steady REM sleep during brain scanning and recalled dreams upon awakening. The results show that regional cerebral blood flow is positively correlated with REM sleep in pontine tegmentum, left thalamus, both amygdaloid complexes, anterior cingulate cortex and right parietal operculum. Negative correlations between regional cerebral blood flow and REM sleep are observed bilaterally, in a vast area of dorsolateral prefrontal cortex, in parietal cortex (supramarginal gyrus) as well as in posterior cingulate cortex and precuneus. Given the role of the amygdaloid complexes in the acquisition of emotionally influenced memories, the pattern of activation in the amygdala and the cortical areas provides a biological basis for the processing of some types of memory during REM sleep.」(163頁右欄Abstract1?20行)
(和訳:レム睡眠は激しい神経活動、断続的眼球運動、筋肉弛緩、夢を伴う。レム睡眠の機能は不明瞭のままであり、その神経性相互関係はヒトにおいて正確に特徴付けられていない。本研究において我々はPET(陽電子放射形コンピューター断層撮影法)を使用し、ヒトにおけるレム睡眠中の脳状態を研究するため解析を行った。脳スキャン中レム睡眠に維持し、そして起床後夢について思い出してもらった7名の被験者グループについて報告する。結果は、局所脳血液流は橋被蓋、左視床、両扁桃複合体、前帯状回、右頭頂弁蓋においてレム睡眠と明確に関連した。後帯状皮質と楔前部においてと同様、背外側前頭前野皮質、頭頂皮質(縁上回)の広いエリアで局所脳血液流とレム睡眠間は負の相関があった。感情的な影響を与えた記憶の獲得における扁桃体複合体の与えられた役割、扁桃体及び皮質エリアにおける活性化パターンは、レム睡眠中のいくつかのタイプの記憶の処理に対して生物学的な原則を供給する。)

(3b)「Periods of REM sleep have also been implicated in the consolidation of memory traces19. In man, REM sleep paticularly influences the processing of 'procedural-implicit' memory19 and also of memories acquired under emotionally charged conditions20. Thus the activation of the amygdaloid complexes suggests that REM sleep contributes to some memory processing.」(164頁左欄下から4行?165頁左欄3行)
(和訳:レム睡眠の期間はまた記憶の整理に関連している。ヒトにおいて、レム睡眠は特に「手続-潜在記憶」及び感情的状況下で得られた記憶の処理に影響している。従って、扁桃体複合体の活性化は、レム睡眠がいくつかの記憶処理に貢献しているということを示している。」

(3c)「In summary, there are indications that during REM sleep, functional interactions occur between the amygdaloid complexes, anterior cingulate cortex and various, mainly posterior, areas. These interactions might lead to the reactivation of affective components of memories, thereby bringing about the consolidation of memory traces.」(165頁右欄4?9行)
(訳文)「まとめとして、レム睡眠中、扁桃体複合体、前帯状回皮質と様々な主に、後部エリア間で機能的相互作用が起こる。それら相互作用は感情的な記憶を再生し、それによって、記憶が整理される。」

[甲第4号証]
(4a)


」(16ページ)
(和訳:表1.11一般的な薬におけるアミノ酸の治療上の役割
表中1行目 :アミノ酸 治療上の役割
表中13行目:GABA、グリシン、トリプトファン 不眠症予防を助ける。)

(4b)「Sedation
Studies have shown that 3 to 10 g of L-glycine can have sedative effects and when used with inositol helps in reducing aggression. All inhibitory amino may have this effect in large doses.」(216ページ31?34行)
(和訳:鎮静作用
3?10gのL-グリシンが鎮静効果を持ち、そしてイノシトールと共に使用された時、攻撃性を抑制させるのに役立つということが研究により示された。全ての抑制性アミノ酸は、大量服用時にこのような効果を有するだろう。)

以上の記載より、甲第4号証には、以下の発明(以下「甲4発明」ともいう。)が記載されている。

「薬におけるアミノ酸がグリシンであって、グリシンの治療上の役割が不眠症予防を助けることである、薬。」

[甲第4号証の2]
(4-2a)「THE HEALTH AND HEALING BENEFITS OF AMINO ACID
Table 1.11 on page 16 shows the impact amino acid therapies have on maintaining health and treating disease conditions. Each chapter of this book explains the unique metabolism of a particular amino acid and its therapeutic role in improving health and alleviating disease.」(14ページ下から8行?下から4行)
(和訳:アミノ酸類のもつ健康及び治癒の効用
16ページの表1.11では、アミノ酸療法が健康維持や病状治癒の点でどのような効果があるのかを示している。この本の各チャプターでは、個々のアミノ酸特有の代謝と、健康増進と病状緩和におけるアミノ酸それぞれの治療的役割が説明されている。)

[甲第6号証]
(6a)「TECHNICAL FIELD
This invention is concerned with a special blend of amino acids and vitamin B6 which has been designed to help a child's needs for a normally active lifestyle. The blend may be supplemented with other amino acids, vitamins, and/or minerals.」(1欄4行?9行)
(和訳:【技術分野】
本発明は子供の通常の生活を補助するアミノ酸およびビタミンB6混合物である。本混合物はその他アミノ酸、ビタミン、ミネラル類と用いられる。)

(6b)「These substances, which are referred to as "the right molecules", are vitamins, minerals, trace elements, hormones, amino acids, and enzymes. 」(1欄39行?42行)
(和訳:「正常な分子」と呼ばれるそれら物質は、ビタミン、ミネラル、微量元素、ホルモン、アミノ酸、酵素である。)

(6c)「If the level of any of "the right molecules" in a child's system is low, it can produce a disturbed biochemical homeostasis, which, in turn, results in brain malfunctions. This, in turn, can cause a child to be hyperactive. Behavior symptoms of hyperactivity may be aggressive or passive. Among the aggressive symptoms are angry outbursts, restlessness, stealing, inability to concentrate, compulsive aggression, lying, etc. The passive symptoms include anxiousness, reasoning difficulties, shyness, insecurity, sleep problems, etc.
Various dietary supplements have been used in the past with children who have shown symptoms of hyperactivity. One of the best of these supplements is sold by NATROL, INC., Chatsworth, CA. Six capsules of the product contain:

USRDA*
Niacinamide 200mg 1000%
Calcium 200mg 20%
Vitamin D 100I.U. 25%
Vitamin B6 100mg 5000%
Magnesium 100mg 25%
Zinc 10mg 66%
GABA 500mg
L-Tryptophan 500mg
L-Taurine 500mg
Inostol 200mg
*Percent U.S. Recommended Daily Allowance

The recommended dosage of this formulation for children between the ages of four and fifteen is four to six capsules per day.」(1欄46行?2欄11行)
(和訳:「正常な分子」が子供の身体において低水準しか存在しない場合、生化学的恒常性は乱され、脳機能の異常が発生する。これは、次に子供に活動過多を引き起こす。活動過多には攻撃的症状と消極的症状がある。攻撃的症状は怒り爆発、落ち着かない、盗癖、集中できない、攻撃的、虚言などである。消極的症状は不安、推理困難、内気、不安定、睡眠問題等である。
これまでも活動過多の子供に対して多くの栄養補助食品が使用されてきた。これらサプリメントのうちで最も良いものの一つがNATROL社から販売された。
6カプセル中の組成は:

(表中)
ナイアシンアミド200mg、カルシウム200mg、ビタミンD100I.U.、ビタミンB6 100mg、マグネシウム100mg、亜鉛10mg、GABA500mg、L-トリプトファン500mg、L-タウリン500mg、イノシトール200mg

4歳から15歳の子供に対するこの処方の推奨量は1日4から6カプセルである。)

(6d)「The new composition is preferably put into capsules, along with other "right molecules", so that six capsules which would be the recommended daily dose for a child at least four years of age or an adult, will contain the following:

GABA 720 to 880mg
L-Tryptophan 720 to 880mg
Glycine 450 to 550mg
L-Taurine 450 to 550mg
USRDA*
Vitamin C(as Ester C ○R) 55 to 65mg 90 to 110%
Calcium 90 to 110mg approx. 10%
Vitamin B6 45 to 55mg 2250 to 2750%
Magnesium 45 to 55mg 10 to 14%

*Percent U.S. Recommended Allowance for adults and children four or more years of age. 」
(2欄33?49行。当審注:「○R」は、丸付きRの文字を意味する。)
(和訳:新しい組成はカプセル剤が好ましく、その他「正しい分子」と共に、少なくとも4歳の子供もしくは大人に対し、推奨される一日当たりの摂取量は6カプセルであり、それは以下の組成である。
(表中のアミノ酸配合量)
GABA 720?880mg
L-トリプトファン 720?880mg
グリシン 450?550mg
L-タウリン 450?550mg
ビタミンC(Ester C(登録商標)として) 55?65mg
カルシウム 90?110mg
ビタミンB6 45?55mg
マグネシウム 45?55mg)

(6e)「Glycine seems to be an important factor in the treatment of psychiatric disorders. Some manic-depressive patients have shown remission when treated with glycine even though they had previously been unresponsive to drugs.」(第3欄16?20行)
(グリシンは精神障害の治療において重要な役割を果たしていると思われる。以前に薬剤が効かなかった躁鬱患者がグリシン投与により改善した例がある。)

以上の記載より、甲第6号証には、以下の発明(以下「甲6発明」ともいう。)が記載されている。

「子供の通常の生活を補助するアミノ酸およびビタミンB6混合物として、GABA 720?880mg、L-トリプトファン 720?880mg、グリシン 450?550mg、L-タウリン 450?550mg、ビタミンC 55?65mg、カルシウム 90?110mg、ビタミンB6 45?55mg及びマグネシウム 45?55mgの一日当たりの摂取量を6カプセルで含有する、栄養補助食品。」

[甲第8号証]
(8a)「【0251】
本発明の活性化血液凝固第X因子阻害剤を、上記疾患の治療薬又は予防薬として使用する場合には、それ自体あるいは適宜の薬理学的に許容される、賦形剤、希釈剤等と混合し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤若しくはシロップ剤等による経口的又は注射剤若しくは坐剤等による非経口的に投与することができる。
【0252】
これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤;及び、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤を挙げることができる。)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;及び、上記澱粉誘導体を挙げることができる。)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、及び、前記賦形剤と同様の化合物を挙げることができる。)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類を挙げることができる。)、乳化剤(例えば、ベントナイト、ビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤を挙げることができる。)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;及び、ソルビン酸を挙げることができる。)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等を挙げることができる。)、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。」

[甲第9号証]
(9a)「【0219】
本発明の一般式(I)を有する化合物、その薬理上許容される塩又はその薬理上許容されるエステルを、上記疾患の治療剤又は予防剤として使用する場合には、それ自体或は適宜の薬理学的に許容される、賦形剤、希釈剤等と混合し、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤若しくはシロップ剤等による経口的又は注射剤若しくは坐剤等による非経口的に投与することができる。」

[甲第10号証]
(10a)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品や医薬等の製造に用いられる糖衣液又は該糖衣液によって覆われた糖衣組成物に関するものである。詳しくは低カロリーもしくはノンカロリーで、非う蝕性のエリスリトール糖衣液並びに、肌理が良好で、充分な強度とバリア性を有し、嚥下性が良く、低吸湿性であることを特徴とする糖衣組成物に関するものである。」

(10b)「【0016】
また、本発明により製造される糖衣液及び糖衣組成物には着色剤、賦形剤、滑沢剤、遮光剤なども必要に応じて添加することができる。例えば、各種色素、澱粉類、沈降炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、カオリンなどを水溶液に分散させたものを用いることができる。
また、本発明により製造される糖衣液及び糖衣組成物には、服用感の向上を目的として、着香剤・香料を適量使用することができる。例えばイソ吉草酸イソアミル、イソチオシアン酸アリル、ウイキョウ末、エタノール、エチルバニリン、エチルマルトール、オレンジ、オレンジエキス、オレンジエッセンス、オレンジ油、カプシカムフレーバー、カミツレ油、カラメル、カンゾウ末、d‐カンフル、dl‐カンフル、魚燐箔、ケイヒ末、ケイヒ油、ゲラニオール、サリチル酸メチル、シトロネラー油、シュガーフレーバー、ジンコウ末、シンナムアルデヒド、スペアミント油、チェリーフレーバー、チョウジ油、チリフレーバー、テレビン油、トウヒチンキ、トウヒ油、パインオイル、ハッカ水、ハッカ油、バニラフレーバー、バニリン、ビターエッセンス、ビタベース、ピペロナール、ヒマラヤスギ油、フルーツフレーバー、フレーバーG1、ヘスペリジン、ペパーミントエッセンス、ベルガモット油、ペルーバルサム、ベルモットフレーバー、d‐ボルネオール、dl-ボルネオール、ミックスフレーバー、ミントフレーバー、dl‐メントール、l‐メントール、ユーカリ油、ラベンダー油、リュウノウ、リュウノウ末、レモンパウダー、レモン油、ロジン、ローズ水、ローズ油、ロート油、ローマカツミレ油等が挙げられる。
【0017】
また、本発明により製造される糖衣液及び糖衣組成物には、服用感の向上を目的として、矯味剤も適量使用することができる。例えばアセスルファームカリウム、アスコルビン酸、L‐アスパラギン酸、L‐アスパラギン酸ナトリウム、L‐アスパラギン酸マグネシウム、アスパルテーム、アセンヤク末、アマチャ、アマチャエキス、アマチャ末、アミノエチルスルホン酸、DL-アラニン、5’‐イノシン酸二ナトリウム、ウイキョウ、ウイキョウチンキ、ウイキョウ油、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩酸、オイゲノール、オウバク末、オウヒエキス、オウレン、オウレン末、オノニス根乾燥エキス、カカオ末、果糖、果糖ブドウ糖液糖、カラメル、カルバコール、還元麦芽糖水飴、カンゾウ、カンゾウエキス、乾燥酵母、カンゾウ粗エキス、カンゾウ末、d‐カンフル、dl‐カンフル、希塩酸、5’‐グアニル酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、グリシン、グリセリン、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二アンモニウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グルコノ‐δ‐ラクトン、L‐グルタミン酸、L‐グルタミン酸 L‐アルギニン、L‐グルタミン酸塩酸塩、L‐グルタミン酸ナトリウム、黒砂糖、クロレラエキス、クロレラ末、ケイヒチンキ、ケイヒ末、ケイヒ油、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム六水和物、コンブ末、酢酸、サッカリン、サッカリンナトリウム、サフラン、サフランチンキ、サリチル酸メチル、サンショウチンキ、サンショウ末、β‐シクロデキストリン、シュクシャ末、酒石酸、D-酒石酸、酒石酸水素カリウム、DL-酒石酸ナトリウム、ショウキョウチンキ、ショウキョウ末、食用ニンジン末、シンナムアルデヒド、スクラロース、ステアリン酸、ステビア、精製カンゾウエキス末、精製ハチミツ、センブリ、ソヨウ末、ソーマチン、ダイズ油、タイソウ末、脱脂粉乳、タラクサシ根・草乾燥エキス、炭酸水素ナトリウム、単シロップ、タンニン酸、チモール、中鎖脂肪酸トリグリセリド、チョウジチンキ、チンピチンキ、トウガラシ、トウガラシチンキ、銅クロロフィリンナトリウム、トウヒチンキ、トウヒ末、ニガキ末、乳酸、梅肉エキス、氷酢酸、ピロリン酸四ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、粉末還元麦芽糖水飴、ペパーミントパウダー、ペルーバルサム、d‐ボルネオール、マルツエキス、ミルラ流エキス、ミレフォリウム草乾燥エキス、ユーカリ油、緑茶末、リンゲル液、リンゴ果汁、dl‐リンゴ酸、dl‐リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酢、リンゴ濃縮果汁、ローヤルゼリーなどが挙げられる。」

[甲第11号証]
(11a)「【0007】
本発明における固形製剤としては、L-システインの不快なにおい、味をマスキングできる、フィルムコーティング錠、薄層糖衣錠、糖衣錠等が挙げられ、これらは自体公知の方法により製造できる。
本発明におけるフィルムコーティング錠のフィルムコーティング基剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーL、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーS、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールジエチルアミンアセテート、プルラン等が挙げられる。
本発明における薄層糖衣錠の薄層糖衣基剤としては、ショ糖、トレハロース、乳糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、粉末還元麦芽糖水飴、プルラン等が挙げられる。
本発明における糖衣錠の糖衣基剤としては、ショ糖、トレハロース、乳糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、粉末還元麦芽糖水飴、プルラン等が挙げられる。
本発明において、フィルムコーティング、薄層糖衣、糖衣を行う場合、必要とあれば、賦形剤、コーティング剤、可塑剤、着色剤等を配合することができる。
本発明における固形製剤に、服用性向上のために、必要とあれば、香りおよび味を付与することもできる。例えば、着香剤または香料、矯味剤を配合することにより、香りおよび味を付与することができる。
本発明で使用することができる着香剤または香料としては、例えば、ハッカ油、ユーカリ油、ケイヒ油、ウイキョウ油、チョウジ油、オレンジ油、レモン油、ローズ油、フルーツフレーバー、バナナフレーバー、ストロベリーフレバー、ミントフレバー、ペパーミントフレバー、dl-メントール、l-メントール等が挙げられる。
矯味剤としては、糖、糖アルコール、高甘味度甘味剤、酸味剤を配合することができる。
矯味剤として本発明に用いられる糖、糖アルコールは、ショ糖、トレハロース、乳糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、粉末還元麦芽糖水飴等が挙げられる。
矯味剤として本発明に用いられる高甘味度甘味剤は、人工的に合成された甘味剤のうち、その甘味度が砂糖の数倍以上のもの、好ましくは約100倍以上のものをいい、具体的には、例えば、アスパルテーム、ステビア、サッカリン、グリチルリチン二カリウム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファームK等が挙げられる。
矯味剤として本発明で用いられる酸味剤は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸等が挙げられる。」

[甲第12号証]
(12a)「【請求項8】請求項1、2、3、又は4記載の健康粉末食品を飲用液体に溶かしたことを特徴とする健康飲料。」

[甲第13号証]
(13a)「【請求項1】 原材料としてサンザシ、ケイヒ、ウイキョウ、ウコン、エビスグサ、イチョウ、クコ、トウガラシ、ゴマ、ショウガ、クワ、の内の少なくとも六種類以上の組み合わせからなる粉末状、顆粒状、ペースト状、錠剤状、カプセル状、軟カプセル状、液体状の薬膳調味栄養食品」

[甲第14号証]
(14a)「【請求項7】 整腸作用を有する生菌を含む薬効成分と、賦形剤とを含有する混合物に、矯味剤、滑沢剤、香料を混合させて顆粒組成物を作製する工程と、前記顆粒組成物を1000Kg/cm^(2) 以上1500Kg/cm^(2) 以下の打錠圧で打錠する工程とを包含している請求項3に記載の錠剤の製造方法。」

(14b)「【0028】また、上述した顆粒組成物に、矯味剤や、滑沢剤、香料などの添加物を添加しても構わない。上記矯味剤としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、グリチルリチン酸二カリウム、ステビア、ソーマチンなどの甘味料、およびクエン酸、酒石酸、リンゴ酸などの酸味料などが挙げられる。また、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、およびタルクなどが挙げられる。また、香料としては、一般的に使用されている天然香料や合成香料などが挙げられる。」

第7 当審の判断
請求人は、無効理由5の特許法第36条第4項第1号違反(実施可能要件)及び無効理由4の特許法第36条第6項第1号違反(サポート要件違反)について主張しているので、最初にこれらについて検討する。

1 無効理由5(実施可能要件)について
(1) 請求人の主張
ア 「発明の詳細な説明により開示された発明は、食品中にグリシン以外のアミノ酸が多く含まれていると、グリシンの効果を享受し難くなることから、グリシンを0.5g以上含有し、グリシン以外のアミノ酸を5グラム以下含有するという食品の発明である。」(審判請求書27ページ下から3行目?28ページ1行)、「グリシン以外のアミノ酸がグリシンに対し相対的に少ない場合であっても請求項2に係る発明の範囲内となるが、同様の効果があるとは考えられない。例えば、グリシンが0.5gでグリシン以外のアミノ酸が0.1gの場合とグリシンが10gでグリシン以外のアミノ酸が0.1gの場合のいずれも請求項2に係る発明の範囲内となるが、このような場合に同様の効果があるとは考えられない。
また、グリシン以外のアミノ酸が相対的に多い場合であっても同様の問題がある。請求項2の発明及び甲第1号証の【0010】によれば、例えばグリシンが0.5gでグリシン以外のアミノ酸が4.9gではグリシンの効果が抑制されないが、グリシンが10gでグリシン以外のアミノ酸が5.1gであってもグリシンの効果が抑制されることになってしまう。しかし、グリシンの量は後者の方が圧倒的に多いのにグリシンの効果が抑制されるのは前者であるということになり、明らかに不合理でありこのようなことは考えられない。」(審判請求書28ページ16?29行)、「食品中にグリシン以外のアミノ酸が多く含まれない場合について、当業者が実施できる程度に記載されていないため、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができない。」(審判請求書29ページ4?7行)

イ また、「請求項2に係る発明は、『グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する』(構成要件C)と記載されていることから、『グリシン以外のアミノ酸』であれば、いかなるアミノ酸を含有しても、発明の詳細な説明に記載された熟眠障害改善剤を実施できるということになるはずである。
この点、発明の詳細な説明には『グリシン以外のアミノ酸』とはどのようなアミノ酸か何ら記載はなく、詳細は不明である。
しかし、アミノ酸の中には、ドウモイ酸、イボテン酸、アクロメリン酸など、毒性を有するアミノ酸も存在し、グリシン以外の全てのアミノ酸を熟眠障害改善剤に添加できるわけではない。にもかかわらず、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された熟眠障害改善剤に対し、グリシン以外の全てのアミノ酸を添加できることを前提に記載されている(甲第1号証【0012】)。
また、グリシン以外のアミノ酸としてGABAやトリプトファン等の不眠症予防を助ける効果が認められているものも存在するが(甲第4号証)、これら不眠症予防を助ける効果が認められているアミノ酸について、5gを超える量をグリシンと一緒に摂取してもグリシンの熟眠障害改善効果を抑制するとは考えられないし、仮にそのような抑制効果があるとすればその根拠やデータが示されるべきであるが発明の詳細な説明には何ら記載はされていない。
したがって、発明の詳細な説明には、グリシン以外の全てのアミノ酸について、当業者が実施できる程度に記載されていないため、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができない。」(審判請求書29ページ17行?30ページ11行)

ウ さらに、本件特許発明2に関して、「(実験例10)および(実験例11)の記載から、『徐波睡眠への移行誘発』を用途とする発明において、『グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する(構成C)』に関する記載が開示されておらず、いわゆる当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない」(審判事件弁駁書5ページ2?7行)。

(2) 判断
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記記載事項(T1)?(T2)に加えて、以下の記載が認められる。

(T3)「1食あたりのグリシンまたは加水分解によりグリシンになり得る物質の含有量は、食品への含有させ易さや含有させることによる効果の観点から、グリシン換算で0.5g以上であり、好ましくは1.0g以上であり、より好ましくは1.5g以上である。一方、既知の知見から得られる食経験(エビンス エー.イー.(Evins A.E.)ら著、『アメリカン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー(American Journal of Psychiatry)』、(米国)、2000年5月、第157巻、第5号、P.826-828)や包装・摂取の容易さの観点から、上記含有量は好ましくは100g以下であり、より好ましくは60g以下である。」(段落【0009】)

(T4)「例えば、食品がいわゆる健康食品であるような場合には、0.5g以上の顆粒状のグリシンが1食あたりの摂取量単位で包装された形態などが挙げられ、食品が健康ドリンクであるような場合には、0.5g以上のグリシンが懸濁あるいは溶解したドリンクが1食あたり飲み切りの形態でビン等に入れられている形態が挙げられる。」(段落【0016】)

(T5)「熟眠障害改善食品としての本発明の食品は、グリシンまたは加水分解によりグリシンになり得る物質を含有する食品である。この用途のための前記食品の摂取量は、グリシン換算で、好ましくは0.00625?2.5g/kg/dayであり、より好ましくは0.125?1.5g/kg/dayである(体重1kgあたりの1日当たりの摂取量)。『グリシン換算で』の意味は上述のとおりである。前記数値範囲の下限値以上であれば上述の効果を奏するのに十分であるが、摂取量を多くすると、摂取が困難になったり、コスト高となったりする傾向にある。上述した、1食当たりの摂取量単位の形態をとる食品は、グリシンの摂取量の管理を容易にする。」(段落【0027】)

(T6)「(実験例2)
被験者である日本在住の日本人(男性、44歳、体重62kg)が米国東海岸へ旅行したときの、グリシン摂取、睡眠の様子は図1に示すとおりである。図中、矢印を付した日時にグリシン(賦形剤、香料以外を含まない実質的に純粋な錠菓状のグリシン)を摂取した。このうち、「6月20日」および「6月21日」は1.0gを摂取し、「6月22日」?「6月26日」および「6月29日」は1.5gを摂取した。この被験者は前回までの同様の旅行中には睡眠中に頻繁に覚醒していたが、図1の結果から明らかなようにグリシンの服用により中途覚醒が減少または消失した。」(段落【0036】)

(T7)「(実験例3)
5日間の渡米中の3人の被験者(被験者A?C、体重64?74kg)に対し、睡眠前にグリシン(賦形剤、香料以外を含まない実質的に純粋な錠菓状のグリシン)を1.5g摂取した場合と、摂取しない場合とで、翌日の午後1時から5時に感じる眠気を3段階で評価した。結果を表2にまとめる。3人の被験者とも、グリシンを摂取した場合には摂取しなかった場合に比べ、翌日日中の眠気の程度が軽減された。」(段落【0037】)

(T8)「【表2】

」(段落【0038】)

(T9)「(実験例4)
被験者(体重45kg)は、就寝前に直接または種々の食品(表3参照)に添加して3gのグリシンを摂取した。これらの食品中の、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の含有量(アミノ酸換算量)は、概ね0?4gである。グリシンを摂取しなかった場合と比較して、就寝時の寝つきの良さと翌朝起床時の熟睡感を記録し、表3にまとめた。いずれの形態でグリシンを摂取した場合も、ほとんどの場合において熟睡感と寝つきが改善された。」(段落【0039】)

(T10)「【表3】

」(段落【0040】)

(T11)「(実験例5)
被験者ら(体重45?80kg)は3gのグリシン(顆粒及び粉末状の実質的に純粋なグリシン)をそのまま、あるいは水、ジュース、スポーツ飲料などに溶いてあるいは懸濁して、またはゼリー、プリンなどに添加し摂取して睡眠をとり、非摂取時と比較して眠りの質について自発的にコメントした。77名中58名から睡眠の質が向上したとのコメントがあり、2名から質が低下した、17名から何の効果もなかったとのコメントがあった。目覚めのさわやかさや熟睡感の向上といった起床時の効果の他、日中の眠気の軽減といった摂取翌日の効果、いびきの軽減といった摂取後睡眠中の効果があった。以上の他にも少数ではあったが、胃の痛みが軽減された、翌朝に疲れが残らなかった、受験前の精神的ストレスが軽減された、生理痛が軽くなった、寝坊しなくなった、鼻詰まりが解消した、などのコメントがあった(表4参照)。」(段落【0041】)

(T12)「【表4】

」(段落【0042】)

(T13)「(実験例8)
被験者A(体重45kg)は、就寝前に表6記載の量のグリシン(粉末状の実質的に純粋なもの)を水に溶かして摂取して、翌朝の熟眠感を記録した。普段よりも熟眠感が向上した場合は「+」、普段の熟眠感とほぼ変わらない場合は「±」、悪化した場合は「-」と評価した。結果を表6に示す。」(段落【0046】)

(T14)「【表6】

」(段落【0047】)

(T15)「(実験例9)
グリシンの睡眠への効果の確認を目的とした二重盲検法クロスオーバーテストを、女性成人15人(20代?50代、体重46?58kg)を対象として実施した。被験者は就寝1時間前にグリシン(顆粒状、クエン酸などを含む)をグリシン換算で3g服用し、プラセボとしてはグリシン以外の成分を含み(クエン酸など)味に区別がつかない程度に調整した還元麦芽糖をもちいた。試験はグリシンとプラセボを各々4日間摂取し、間に3日間の非摂取日をはさんだ2週間で実施した。」(段落【0048】)

(T16)「(1)睡眠の状態を評価する自記式の調査票を用いて調査したところ、32歳以上の被験者(15名中6人、体重46?58kg)について、起床時の身体的(体の調子が良い、だるい、頭が重いなど)・精神的(気分がすっきりしている、気分が悪いなど)状態を改善する効果が有意に示され、ピッツバーグ睡眠調査票(PSQI)で9点以上であるような睡眠についての問題の多い被験者(15人中7人、体重46?58kg)について、起床時の精神的状態を改善する効果が有意に示された。結果を表7に示す。」(【0049】)

(T17)「【表7】

」(段落【0050】)

(T18)「(2)起床時の疲労度の状態を評価する自記式の調査票を用いて調査したところ、起床時の疲労感を低減する傾向が示された。結果を表8に示す。表中のグリシンおよびプラセボの値は、SAM疲労度チェックリストにおいて、起床時の疲労度を問う10問(各々0、1、2点の3段階)における4日間の総点において、プラセボ摂取に比べ疲労度の低減(総点の減少)あるいは増加(総点の増加)した被験者数を示したものである。表中では総点において1点以上の差があったもの(効果あり)と総点で4点以上差のあったもの(顕著な効果)の被験者数を示した。」(段落【0051】)

(T19)「【表8】

」(段落【0052】)

(T20)「(3)睡眠の状態を評価する自記式の調査票を用いて調査したところ、32歳以上の被験者について、睡眠の深さを改善する効果が有意に示された。結果を表9に示す。表中のグリシンおよびプラセボの値は、睡眠調査票「睡眠の深さ」において、8段階で評価された点の被験者平均を表す値である。数値が大きいほど、被験者がより深い睡眠であったと回答したことを意味する。また、p値とは、統計学的な値で、差が無いと仮定したときの可能性を表す値である。特にこの値が0.05以下のときに有意差があるとされる。」(段落【0053】)

(T21)「【表9】

」(段落【0054】)

(T22)「(4)各々1週間の試験期間の終了時に睡眠の良好さについて質問したところ、15人中6人はグリシンを服用した週が、1人はプラセボを服用した週が良好であったと応えた。残りの8人はどちらも同じと応えた。」(段落【0055】)

(T23)「(5)睡眠の状態を評価する自記式の調査票を用いて調査したところ、32歳以上の被験者について特に、翌朝の頭をすっきりさせる効果が示された。結果を表10にまとめる。」(段落【0056】)

(T24)「【表10】

」(段落【0057】)

(T25)「以上のことから、グリシンの摂取により、深い睡眠が得られるとともに、起床時の疲労感や、身体的あるいは精神的な状態が改善させることが示された。深い睡眠が得られたことで疲れが取れ、起床時の状態が改善されたと考えられる。」(段落【0058】)


(T26)「(実験例10)
グリシンの睡眠への効果の確認を目的とした二重盲検法クロスオーバーテストを睡眠中のイビキや無呼吸状態を気にしている男性成人14人(体重64?112.5kg、平均81.2kg)を対象として実施した。被験者は就寝1時間前にグリシン(顆粒状、クエン酸などを含む)をグリシン換算で3g服用し、プラセボとしてはグリシン以外の成分(クエン酸など)を含み味に区別がつかない程度に調整した還元麦芽糖をもちいた。」(段落【0059】)

(T27)「(1)睡眠の状態を評価するため終夜ポリソムノグラフィーを用いて測定したところ、消灯から入眠までの時間に有意な差は認められず、消灯から深い睡眠とされる徐波睡眠に入るまでの時間が短縮されると共に、入眠初期の徐波睡眠の延長が確認された。
さらに、起床時に昨夜の睡眠の状態について睡眠調査票で調査したところ、「眠りの深さ」の項目で高い得点が得られた。このことから、グリシンの摂取により深い睡眠が得られやすくなったと考えられる。結果を表11にまとめる。表中の入眠初期の徐波睡眠(%)とは、入眠初期(1時間)に占める徐波睡眠の割合の、被験者平均を表す値である。
またOSA睡眠調査票においては、4段階(0、11、21、32点)で記載された得点の被験者平均を表す値を算出した。得点が高いほど眠りがより深かったと被験者が回答したことを示す。グリシン摂取での得点は16.7点で、プラセボ摂取での得点12.3に比べ高値を示した。これは、グリシン摂取により眠りが深くなったことを示している。」(段落【0060】)

(T28)「【表11】

」(段落【0061】)

(T29)「(2)起床時に昨夜の睡眠の状態についてOSA睡眠調査票で調査したところ、寝つくまでにウトウトしていた状態が少なかったとの傾向が得られた。就寝時の入眠への抵抗を低減したと考えられる。結果は、OSA睡眠調査票における4段階(0、11、19、30)で記載された得点の被験者平均値で示す。得点が高いほど寝つくまでにウトウトしていた状態がより少なかったと、被験者が回答したことを意味する。グリシン摂取での得点は24.9で、プラセボ摂取での得点19.6に比べ高値を示した。これは、グリシン摂取で寝つくまでにウトウトしていた時間が少なくなったことを示しており、入眠後に深い眠りが得られたためと考えられる。」(段落【0062】)

(T30)「(実験例11)
グリシン(粉末状の実質的に純粋なグリシン)を、0g/kgおよび2g/kg(0g/kgは対照)それぞれ投与したラットを用いて、皮質・海馬に留置した電極から記録される自発脳波および頸部筋電図、さらに赤外線モニターによる自発運動量を測定した。脳波、筋電図および行動記録から睡眠-覚醒周期を解析し、明期および暗期の占有率および潜時時間を算出した。表12に3時間毎の睡眠-覚醒周期占有率、表13に潜時時間、表14に投与6時間後の自発運動量を示す(すべて平均値±標準誤差で表した)。」(段落【0063】)

(T31)「昼間にグリシンを投与した場合、対照と比較して覚醒期の割合が減少していた。睡眠期のうちわけについてみると、徐波睡眠期と速波睡眠期のいずれもやや増加する傾向にあった。一方、暗期については作用が認められなかった。また、表13に示したように、各睡眠期の潜時時間、すなわち投与後初めて出現するまでの時間について、グリシン投与群では徐波睡眠期潜時が短縮しており、グリシンによって深い眠りが誘発されやすくなっている可能性が示唆された。」(段落【0067】)

イ 本件特許発明2、6?8が、「グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する」と特定した意義は、上記各記載、特に、「食品中に、機能の発現に必要最低レベルのグリシンしか含まれない場合に含まれるグリシン以外のアミノ酸および加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の量が5gを超える場合には本発明のグリシンの機能は抑制される」(段落【0010】)、「食品中の、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の含有量(アミノ酸換算量)は、概ね0?4gである。」(段落【0039】)との記載によれば、グリシンが下限値の「0.5g」である場合に、グリシンの機能を抑制しない範囲で剤に含有させることできるグリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の量の目安を定めたものであると理解でき、「5g以下含有する」としたことに、格別な臨界的意義があるというものではない。そして、「徐波睡眠への移行誘発剤」において、実験例10及び実験例11によりグリシンによる効果が確認されている(上記記載事項(T26)?(T31))。
そうすると、グリシンが有効成分として、徐波睡眠への移行が誘発されること、及び、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下であれば、グリシンの機能が抑制されないことを当業者は認識し得る。
よって、当業者であれば、本件特許発明2の「徐波睡眠への移行誘発剤」を実施するにあたり、単に「1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを有効成分として、1食摂取量として0.5g以上含有し、さらに、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有」させればよく、本件特許発明2をどのようにすれば実施できるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるとも認められず、当業者が本件特許発明2を実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されているといえる。
また、請求人が主張するように、「グリシン以外のアミノ酸がグリシンに対し相対的に少ない場合」として「例えば、グリシンが0.5 gでグリシン以外のアミノ酸が0.1gの場合とグリシンが10 gでグリシン以外のアミノ酸が0.1 gの場合」を比較したり、「グリシン以外のアミノ酸が相対的に多い場合」として「グリシンが0.5gでグリシン以外のアミノ酸が4.9g」と「グリシンが10gでグリシン以外のアミノ酸が5.1g」の場合を比較して、効果の大小があるとしても、効果が得られるのであれば、本件特許発明2を実施することができるというべきであり、効果の大小は本件特許発明2を実施する上で関係のないことである。
したがって、前記(1)ア、ウの請求人の主張は採用できない。

ウ また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には「グリシン以外のアミノ酸」とはどのようなアミノ酸か具体的な記載はないが、食品として摂取する以上、ドウモイ酸、イボテン酸、アクロメリン酸など毒性を有するアミノ酸を含有することは、技術常識に反し、そのようなアミノ酸を想定していないことは明らかである。
よって、前記(1)イの請求人の主張は採用できない。

エ 本件特許発明6、7及び8についても上記イ、ウで検討したのと同様である。
よって、本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、請求項2、6、7及び8に係る発明についての特許は同法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすることはできない。
したがって、請求人の主張する無効理由5には、理由がない。

2 無効理由4(サポート要件違反)について
(1) 請求人の主張
請求人は、「請求項2、6、7、8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていない、食品中にグリシン以外のアミノ酸が多く含まれない場合をも包含するため、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。」(審判請求書29ページ8?15行)、「請求項2、6、7、8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていないグリシン以外の全てのアミノ酸を包含するため、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。」(審判請求書30ページ12?18行)と主張している。

(2) 判断
ア この点について検討するに、本件特許発明2、6?8が、「グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質」について特定しているのは、上記「1 無効理由5(実施可能要件)について」の「(2)判断」の「イ」で述べたとおり、「グリシンの機能を抑制しない範囲で剤に含有させることできるグリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の量の目安を定めたもの」であるという趣旨である。
そして、「グリシン」及び「グリシン以外のアミノ酸および加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質」の量について、グリシンが0.6g?3gの量(段落【0036】、【0037】、【0039】?【0042】、【0046】?【0048】、【0059】)及び「グリシン以外のアミノ酸および加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質」が0?4gの量(段落【0039】?【0041】、【0046】)の場合について熟眠障害改善剤として効果があることは確認されており(段落【0037】?【0042】、【0047】、【0049】、【0050】、【0052】、【0054】?【0058】)、さらに、「熟眠障害改善剤」の下位概念である「徐波睡眠への移行誘発剤」として効果があることも確認されている(段落【0059】?【0063】、【0067】)。
さらに、「徐波睡眠への移行誘発剤」についての(実験例11)(段落【0063】)は、「食品中の、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質の含有量(アミノ酸換算量)」を0gとするものであるが、上記趣旨を勘案すれば、グリシン以外のアミノ酸をグリシンの機能が抑制されない範囲で含み得ることは明らかである。
また、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸となり得る物質の量について、上述のとおり食品中にグリシン以外のアミノ酸が多く含まれない場合も具体的に記載されている。

イ さらに、本件特許発明2のグリシン以外のアミノ酸については、食品として摂取する以上、ドウモイ酸、イボテン酸、アクロメリン酸など毒性を有するアミノ酸を含有することは、技術常識に反し、そのようなアミノ酸を除いたアミノ酸を広く想定していることは明らかであって、アミノ酸の個々の名称が記載されていないからといって、本件特許発明2が発明の詳細な説明に記載されていないというものではない。
そして、本件特許発明2を引用する本件特許発明6、7及び8についても同様である。

ウ 以上のとおりであるから、本件特許は、その請求項2、6、7及び8に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすることはできない。
したがって、請求人の主張する無効理由4には、理由がない。

3 無効理由1(進歩性欠如)について
(1)本件特許発明2と甲2発明との対比・判断
本件特許発明2と甲2発明とを対比すると、「剤」についての定義がないものの、発明が解決しようとする課題、実施例からみて、後者の「食品」は、前者の「剤」に相当する。
後者の食品に「レム睡眠を誘導かつ促すグリシンが、100g中に1000mg含有」されていることと、前者の「グリシンを有効成分として、1食摂取量として0.5g以上含有し」ていることとは、「グリシンを有効成分として、含有する」限りにおいて一致する。
そこで本件特許発明2の用語を用いて表現すると、本件特許発明2と甲2発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「グリシンを有効成分として、含有する、剤。」

(相違点1)
本件特許発明2は、「1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを有効成分として、1食摂取量として0.5g以上含有し」ているのに対して、甲2発明は、「グリシンが、100g中に1000mg含有の食品として、例えば、ピーナッツ、ひまわりの種、大豆、アーモンド、インゲンマメ、黒豆、大麦の茎、人参の葉、酵母エキス、クロレラ等があ」るとされるものの、包装形態や単位の包装中のグリシンの含有量については特定されていない点。

(相違点2)
剤のグリシン以外の含有について、本件特許発明2は、「グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する」としているのに対して、甲2発明は、そのような特定を行っていない点。

(相違点3)
剤について、本件特許発明2は、「徐波睡眠への移行誘発剤」であるのに対して、甲2発明は、「確実にレム睡眠を促進することができる、食品」である点。

そこで、上記相違点について以下に検討する。

(相違点1及び2について)
ピーナッツ、ひまわりの種、アーモンド等の食品を単位包装形態とすることは、引例を例示するまでもなく本願優先日前に周知の事項であり、また、単位包装形態における食品をどの程度の量とするかについても当業者が適宜なし得る事項といえる。
しかしながら、甲2発明において、ピーナッツ、ひまわりの種、アーモンド等の食品について、グリシンを1食摂取量として0.5g以上含有するためには、これら食品の50gを1食当たりとしての単位包装形態としなければならないが、これらの食品の50gは、通常の1食摂取量として想定される量とはいえない。そうすると、甲2発明において、1食当たりの単位包装形態とし、該単位中に、グリシンを1食摂取量として0.5g以上含有することは、当業者が容易になし得たことではない。
また、甲2発明は、食品が、例えば、ピーナッツ、ひまわりの種、大豆、アーモンド、インゲンマメ、黒豆、大麦の茎、人参の葉、酵母エキス、クロレラ等であり、これらの食品がグリシン以外のアミノ酸を含有していることは技術的に明らかである。
しかしながら、グリシン以外のアミノ酸の量を、「1食摂取量当たり5g以下含有する」ことについては甲第2号証には記載も示唆もされておらず、また、普通の食品である甲2発明において、グリシンを1食摂取量として0.5g以上としつつ、グリシン以外のアミノ酸の量に着目して、「1食摂取量当たり5g以下含有する」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
そうすると、相違点1及び2に係る事項は、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

(相違点3について)
本件特許発明2の「徐波睡眠への移行誘発」とは、「徐波睡眠」が深い眠りであって(本件特許明細書段落【0028】、【0060】)、深い眠りがノンレム睡眠のことである(上記記載事項(2a))ことから、甲2発明の「確実にレム睡眠を促進することができる」こととは異なる概念である。 さらに、甲第2号証の「ヒトの睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠の二つの期間に分けることができ、前者は『死んだように』深く安らかに眠ることを表し、後者は『眠りが浅く』夢の世界がよく現れる。ヒトは眠っている間にレム睡眠とノンレム睡眠を周期的に繰り返していると示した。レム睡眠とノンレム睡眠は交互に現れ、一般的にレム睡眠は20?30分続き、ノンレム睡眠は80?120分続く。」、「長崎博士は同じ種類で同じ年齢の実験用マウスを使って、最初のグループのマウスには、毎日20時間そして15秒おきに1回、電気で刺激し、もうひとつのグループのマウスには何も刺激を与えないうえ、最適の環境(SPE環境)で生活をさせた結果、SPE環境で生活したマウスが最初のグループに比べ、レム睡眠の平均時間が20%増加し、寿命も2.6倍伸びていた。」、「認知症患者の寿命は比較的短い。これらの患者はノンレム睡眠の時間が大幅に長く、レム睡眠の時間が大いに短い為、脳の老化を加速させていた。従って、レム睡眠の時間を増やせば、寿命を延ばすことができる可能性がある。」、「生理学者は、70歳を超えた場合、生きていくために身体が自発的にレム睡眠の時間を増やすと述べている。レム睡眠の時間を増やせば、老化を遅らせることができるかもしれない。」、「長崎博士は実験用マウスの脳幹から一種のアミノ酸を分離した。それがグリシンである。驚くべきことに、この最も簡単なアミノ酸が確実にレム睡眠を誘導かつ促している。グリシンは、ほとんどの動物性蛋白質やゼラチン、魚の骨などに含まれている。」、「台湾のある関連機関が1973年に数百種類の食品の中に含まれているアミノ酸を分析し、100g中にグリシン1000mg含有の食品が多くあった。例えば、ピーナッツ、ひまわりの種、大豆、アーモンド、インゲンマメ、黒豆、大麦の茎、人参の葉、酵母エキス、クロレラ等。他、一部の伝統的な漢方薬にもグリシンが含まれている。もし意識的に上記食品を摂取すれば、確実にレム睡眠を促進することはできるが、長寿につながるかどうかは、長期にわたり観察する必要がある。」との記載(上記記載事項(2a)参照。)から、レム睡眠は、眠りが浅く、夢の世界がよく現れ、レム睡眠の時間を増やせば、寿命を延ばすことができる可能性があり、老化を遅らせることができるかもしれず、100g中にグリシン1000mg含有の食品を意識的に摂取すれば、確実にレム睡眠を促進することはできるものといえる。
そうすると、甲2発明のレム睡眠を促進することは、眠りが浅くなり、寿命を延ばす可能性があるものといえるとしても、徐波睡眠への移行誘発と関係があることは、甲第2号証に記載はなく、また、両者に関連があるとの技術常識もないから、甲2発明が上述の徐波睡眠への移行誘発を考慮したものということはできない。また、甲2発明は寿命を延ばすことを意図したものであるので、他の甲各号証の記載事項を併せてみても、甲2発明を徐波睡眠への移行誘発を考慮したものとすることはできない。さらに、甲2発明が「レム睡眠を誘導かつ促すグリシン」を摂取して「レム睡眠を促進」していることは、本件特許発明2の「睡眠が浅い場合や、入眠後に深い眠りとされる徐波睡眠に移行しにくい場合」を改善する(本件特許明細書段落【0026】)ことにも反することとなる。
そうすると、相違点3に係る事項は、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

したがって、本件特許発明2は、甲2発明、甲第4号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。

(2)本件特許発明6ないし8について
本件特許発明6ないし8は、本件特許発明2を引用し、本件特許発明2にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明6ないし8についても、本件特許発明2と同様に、甲2発明、甲第4号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないので、その特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。

(3)以上のとおりであるから、本件特許発明2、6ないし8は、甲2発明、甲第4号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないので、その特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。
よって、請求人の主張する無効理由1には、理由がない。

4 無効理由2(進歩性欠如)について
(1)本件特許発明2と甲4発明との対比・判断
本件特許発明2と甲4発明とを対比すると、本件特許発明2の「剤」についての定義はないものの、発明が解決しようとする課題、実施例からみて、後者の「薬」は、前者の「剤」に相当する。
後者の「不眠症予防を助けること」は、不眠症が熟眠障害に含まれる概念であり、不眠症予防を助けることは熟眠障害改善といえ、徐波睡眠に移行しにくい場合も熟眠障害といえるので(本願特許明細書段落【0026】)、前者の「徐波睡眠への移行誘発」とは、「熟眠障害改善」との限りで一致する。
また、後者が上記治療上の役割を有するものとして「グリシン」を含むことは、前者の「グリシンを有効成分として」「含有し」ていることに相当する。
そこで、本件特許発明2の用語を用いて表現すると、本件特許発明2と甲4発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「グリシンを有効成分として、含有する、熟眠障害改善剤。」

(相違点1)
本件特許発明2は、「1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを1食摂取量として0.5g以上含有し、さらに、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有」しているのに対して、甲4発明は、そのような特定はなされていない点。

(相違点2)
熟眠障害改善について、本件特許発明2は、「徐波睡眠への移行誘発」であるのに対して、甲4発明は、「不眠症予防を助ける」としている点。

そこで、上記相違点について以下に検討する。

(相違点1について)
グリシンは、各種の食品に含まれるアミノ酸であって食品として用いられるものであり、甲4発明において、グリシンを含有した薬の摂取の容易性を考慮して、包装形態を1食当たりの単位包装形態とすることは、当業者が適宜なし得た事項である。また、グリシンの単位包装形態において、摂取者に対して熟眠障害改善を呈する程度のグリシンを含有させればよく、摂取者の体重、年齢などを勘案して、その量は適宜決め得ることであり、また、鎮静効果ではあるが、グリシンに特定の機能を持たせる含有量が3?10gであることが甲第4号証(上記記載事項(4b))に記載されており、甲4発明において、「該単位中に、1食摂取量として0.5g以上含有し」とすることも、当業者が容易になし得たことである。
また、甲4発明において、グリシン以外のアミノ酸を含有することについては、特定していないが、例えば、薬の組成において、アミノ酸を矯味剤として加えることが甲第10号証に記載された事項であり(上記記載事項(10a)(10b)参照。)、また、甲第4号証には、不眠症予防を助ける治療上の役割のある、グリシン以外のアミノ酸として、GABAやトリプトファンが記載されていることから(上記記載事項(4a))、甲4発明においてグリシン以外のアミノ酸を含有させることは当業者が適宜なし得たことである。その際に、グリシン以外のアミノ酸の量を1食当たりの単位包装形態を考慮して、5g以下とすることは当業者が適宜定め得る事項である。
そして、本件特許明細書に、実質的に純粋なグリシンを摂取して熟眠感が向上した例が示され(実験例8)、グリシン以外のアミノ酸を含む場合についての定量的な評価がなされた例が示されていないことから、本件特許発明2のグリシン以外のアミノ酸含有量を「5g以下」としている点に、臨界的な意義は見出せない。
したがって、甲4発明において、上記相違点1に係る特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
本件特許発明2の「徐波睡眠への移行誘発」とは、「徐波睡眠」が深い眠りであって(本件特許明細書段落【0028】、【0060】)、深い眠りがノンレム睡眠のことである(上記記載事項(2a))から、深い眠りであるノンレム睡眠へ移行することを誘発することといえる。
一方、甲4発明の「不眠症予防を助けること」によっては、睡眠全体のうち、いずれの態様を改善するかは明らかでないから、「睡眠」の下位概念として列挙できる中に、「徐波睡眠」があるからといって、甲4発明によって、「徐波睡眠」への移行が誘発されているということはできない。
そして、甲第4号証には「徐波睡眠」については何ら記載されておらず、技術常識を勘案しても、「不眠症予防」に有効な物質であれば、「徐波睡眠への移行」にも有効であるとの知見が存在したものとは認められないから、甲4発明のグリシンの治療上の役割を、「不眠症予防を助ける」ことから「徐波睡眠への移行誘発」へと変更する動機付けは存在しない。
また、 グリシンが、「徐波睡眠への移行誘発」に有効であることについて、他の甲各号証のいずれにも記載はなされていない。
したがって、相違点2に係る事項は、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、本件特許発明2は、甲4発明、甲第2号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものであるといえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、その特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。

(2) なお、請求人は、平成28年4月28日付け審判事件弁駁書(5ページ16行?9ページ6行)において、上記相違点2に関して、以下のア?ウの主張をしているので、それぞれ検討する。
ア 睡眠について
睡眠障害とは、睡眠に障害が起こること、すなわち睡眠という上位概念の下位概念であるレム睡眠やノンレム睡眠(徐波睡眠)などの障害を指し、これを改善することを睡眠障害改善と言うことも字句のとおりである。
一方、甲第4号証には、グリシンは不眠症改善に役立つと明記されている。そして、訂正請求項に係る発明は熟眠障害改善剤を徐波睡眠への移行誘発剤とする選択発明となる。
徐波睡眠(深い眠り)(段落【0028】)は文字通り眠りが深いので、徐波睡眠(深い眠り)に移行していることは、「熟眠」できているといえる。
訂正後の請求項2に係る発明については、刊行物において上位概念で示された発明(熟眠障害改善)が有する効果とは異質な効果・際だって優れた効果が認められず、進歩性は認められない。

イ 用途発明について
徐波睡眠への移行誘発は、熟眠障害改善の下位概念であって、未知の属性の発見に該当せず、新たな用途への使用に適するとも言えない。
熟眠障害改善剤としては既知であり、「徐波睡眠への移行誘発」用途として主張しても、熟眠障害改善としても当然に効果を奏するものであるため、「徐波睡眠への移行誘発剤」とすることによって、未知の属性を発見し、新たな用途への使用に適することを見いだしたものではない。

ウ 作用機序について
訂正後の請求項に係る発明は薬理機能に基づいた用途発明(つまり医薬品の発明)の場合、発明の作用機序は次の通り理解できる。
(イ)徐波睡眠への移行を誘発する。
(ロ)前記徐波睡眠への移行を誘発することで、熟眠障害(睡眠障害、不眠症等の睡眠に関する症状)を治療できる。
本発明は(イ)の段階で把握した用途発明であり、グリシンの属性(作用機序)に単に「剤」の用語を付加したものであり、実質的に属性と用途は同じとなる。そして、(イ)の段階の用途は、(ロ)の段階の上流側の作用機序に基づくものと理解できる。
そして、甲第4号証には、グリシンの不眠症を改善するための医薬用途が示されており、上記(ロ)の段階で把握された公知情報である。甲第4号証は、用途として(イ)の段階の用途は明示的に記載されていないが、上流側の作用機序で把握された用途発明と、その下流側の医薬用途は、同一発明である。
一方、訂正後の請求項2に係る発明が医薬用途発明でないとすると食品の用途発明となり、進歩性が欠如する。
甲4号証により、グリシンが不眠症改善の効果があることは出願前公知であり、不眠症とは、睡眠(レム睡眠とノンレム睡眠(徐波睡眠)のいずれか)できないというものであるから、この改善のためには睡眠に移行させると良いということは当たり前のことである。不眠症の改善と徐波睡眠への移行誘発については用途の区別ができるものではなく、新たな用途の提供とはいえない。
用途発明として認められるのは、化粧品において、公知であった「美白化粧料組成物」の有効成分を「シワ形成抑制剤」として発明出願した場合のように、その用途概念の範躊が異なるものであって、睡眠障害という同一概念範躊に包含される発明に付与されるべきではない(知財高裁 平成18年(行ケ)第10227号事件)。

(3) 上記ア?ウに対する当審の判断
ア 睡眠障害、あるいは、熟眠障害は、例えば、睡眠が浅い場合、入眠後に深い眠りとされる徐波睡眠に移行しにくい場合、睡眠が中断されたり、期待する時間に起床できない場合、睡眠時間が不足する場合(本件特許明細書段落【0026】)等の、睡眠に関する種々の障害を包含する中、徐波睡眠への移行障害がグリシンによって改善されることは、甲第4号証を含め各甲号証に記載されていない。
したがって、グリシンによって「熟眠」できるという効果は甲4発明が有する効果であるといえるが、本件特許発明2は、「熟眠」の下位概念にあたる、徐波睡眠への移行誘発という、各甲号証に記載されていない新たな作用効果を奏するものであり、これは甲第4号証からは予測されていなかった効果であるといえる。
よって、請求人の上記アの主張は採用することができない。

イ 熟眠障害改善(上位概念)と徐波睡眠への移行誘発(下位概念)とは、上位概念と下位概念の関係であることは、主張アで請求人も認めるところである。
したがって、熟眠障害改善として列挙できる中に、徐波睡眠への移行誘発があるからといって、未知の属性の発見に該当せず、新たな用途への使用に適するとも言えないとすることはできない。
よって、請求人の上記イの主張は採用することができない。

ウ 本件特許発明2の「徐波睡眠への移行促進剤」は、本件特許発明2が「・・・1食摂取量当たり・・・」と特定されていること及び【発明の詳細な説明】のグリシン含有食品についての記載に基づくと、食品に関連する用途発明であることは明らかであるが、食品であることのみによって、新たな用途を否定する理由はない。
また、請求人は、「甲4号証により、グリシンが不眠症改善の効果があることは出願前公知であり、不眠症とは、睡眠(レム睡眠とノンレム睡眠(徐波睡眠)のいずれか)できないというものであるから、この改善のためには睡眠に移行させると良いということは当たり前のことである。不眠症の改善と徐波睡眠への移行誘発については用途の区別ができるものではなく、新たな用途の提供とはいえない。」と主張するが、「徐波睡眠への移行誘発」が「不眠症予防」の概念に包含される用途であったとしても、「徐波睡眠への移行誘発」は、単なる「不眠症予防」とは、徐波睡眠に特化した用途として明確に区別できるものであり、新たな用途といえる。
よって、請求人の上記ウの主張は採用することができない。

(4)本件特許発明6ないし8について
本件特許発明6ないし8は、本件特許発明2を引用し、本件特許発明2にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明6ないし8についても、本件特許発明2と同様に、甲4発明、甲第2号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないので、その特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。

(5)以上のとおりであるから、本件特許発明2、6ないし8は、甲4発明、甲第2号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないので、その特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。
よって、請求人の主張する無効理由2には、理由がない。

5 無効理由3(進歩性欠如)について
(1)本件特許発明2と甲6発明との対比・判断
本件特許発明2と甲6発明とを対比すると、本件特許発明2の「剤」についての定義はないものの、発明が解決しようとする課題、実施例からみて、後者の「栄養補助食品」は、前者の「剤」に相当する。
また、後者の「子供の通常の生活を補助するアミノ酸およびビタミンB6混合物として、GABA 720?880mg、L-トリプトファン 720?880mg、グリシン 450?550mg、L-タウリン 450?550mg、ビタミンC 55?65mg、カルシウム 90?110mg、ビタミンB6 45?55mg及びマグネシウム 45?55mgの一日当たりの摂取量を6カプセルで含有する」こととは、「グリシンを有効成分として、0.5g以上含有」する限りにおいて一致する。

そこで本件特許発明2の用語を用いて表現すると、本件特許発明2と甲6発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「グリシンを有効成分として、0.5g以上含有する、剤。」

(相違点1)
本件特許発明2は、「1食当たりの単位包装形態からなり」とされ、「該単位中に、グリシンを有効成分として、1食摂取量として0.5g以上含有し、さらに、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する」とされているのに対して、甲6発明は、「一日当たりの摂取量を6カプセルで含有する」とされている点。

(相違点2)
剤について、本件特許発明2は、「徐波睡眠への移行誘発剤」であるのに対して、甲6発明は、そのような特定はなされていない点。

そこで、上記相違点について以下に検討する。

(相違点1について)
甲6発明は、1日当たりの摂取量として6カプセルが示されているが、当該6カプセルが1食当たりであるかについて、また、6カプセルの包装形態については、甲第6号証には記載されていない。
しかしながら、単位の量として包装することは、引例を提示するまでもなく本願優先日前に周知慣用の事項であって、甲6発明において、1日当たりの摂取量である6カプセルを単位の量として包装することは、当業者が適宜なし得たことである。そして、1日摂取量の6カプセルを、1度に摂取するか、分割して摂取するかも、摂取する者の適宜の選択によるものと認められるから、1度に摂取する者にとっては、6カプセルの単位の量として包装されたものは、1食当たりの単位包装形態のものといえる。
また、甲6発明のグリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質については、甲6発明は、GABA 720?880mg、L-トリプトファン 720?880mgを含有するから、6カプセルにおいて、5mg以下である。
したがって、甲6発明において、相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
甲第6号証には、「本発明は子供の通常の生活を補助するアミノ酸およびビタミンB6混合物である」(上記記載事項(6a))、「次に子供に活動過多を引き起こす。活動過多には攻撃的症状と消極的症状がある。攻撃的症状は怒り爆発、落ち着かない、盗癖、集中できない、攻撃的、虚言などである。消極的症状は不安、推理困難、内気、不安定、睡眠問題等である。
これまでも活動過多の子供に対して多くの栄養補助食品が使用されてきた。」(上記記載事項(6c))、「グリシンは精神障害の治療において重要な役割を果たしていると思われる。以前に薬剤が効かなかった躁鬱患者がグリシン投与により改善した例がある。」(上記記載事項(6e))と記載されている。
これらのことから、甲6発明は、子供の活動過多に対して、通常の生活を補助するために摂取されるものと認めることができる。
そして、子供の活動過多の症状の消極的症状の一つとして、睡眠問題が挙げられている。
しかしながら、甲第6号証には、甲6発明が、子供の活動過多の消極的症状の一つである睡眠問題を解消したということを示すデータの記載はなく、子供の活動過多の症状として多数の症状が挙げられている中で、グリシンが直ちに活動過多の睡眠問題を解決したと結びつけることができる事項についても記載されていない。
さらに、甲第4号証には、グリシンが熟眠障害改善としての機能を有することが記載されているとしても、甲6発明は、子供の活動過多に対処する栄養補助食品として用いられるものであって、栄養補助食品に含有されるグリシンが子供の熟眠障害改善を、ましてや徐波睡眠への移行誘発を意図して加えられているかは不明であるから、子供が摂取対象とされる甲6発明を徐波睡眠への移行誘発剤とすることはできない。
そうすると、甲6発明において、相違点2に係る事項を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

したがって、本件特許発明2は、甲6発明、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。

(2)本件特許発明6ないし8について
本件特許発明6ないし8は、本件特許発明2を引用し、本件特許発明2にさらに限定を付加するものであるので、本件特許発明6ないし8についても、本件特許発明2と同様に、甲6発明、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないので、その特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。

(3)以上のとおりであるから、本件特許発明2、6ないし8は、甲6発明、甲第2号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第12号証及び甲第14号証に基づき当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものといえないので、その特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。
よって、請求人の主張する無効理由3には、理由がない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明2、6ないし8についての特許は、無効理由1?5によって無効にすべきものであるとはいえない。
審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを有効成分として、1食摂取量として0.5g以上含有する、徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項2】
1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、グリシンを有効成分として、1食摂取量として0.5g以上含有し、さらに、グリシン以外のアミノ酸または加水分解によりグリシン以外のアミノ酸になり得る物質を、グリシン以外のアミノ酸換算で1食摂取量当たり5g以下含有する、徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項3】
さらに、賦形剤、矯味剤および香料から選ばれる少なくとも1種の添加物を含む、請求項1に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項4】
前記矯味剤がクエン酸である、請求項3に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項5】
液状である、請求項1、3、4のいずれか1項に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項6】
さらに、賦形剤、矯味剤および香料から選ばれる少なくとも1種の添加物を含む、請求項2に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項7】
前記矯味剤がクエン酸である、請求項6に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
【請求項8】
液状である、請求項2、6、7のいずれか1項に記載の徐波睡眠への移行誘発剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-06-13 
結審通知日 2016-06-16 
審決日 2016-06-29 
出願番号 特願2005-516994(P2005-516994)
審決分類 P 1 123・ 536- YAA (A23L)
P 1 123・ 537- YAA (A23L)
P 1 123・ 841- YAA (A23L)
P 1 123・ 855- YAA (A23L)
P 1 123・ 121- YAA (A23L)
P 1 123・ 832- YAA (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 紀本 孝
山崎 勝司
登録日 2012-01-27 
登録番号 特許第4913410号(P4913410)
発明の名称 グリシンを含有する食品およびその用途  
代理人 永田 貴久  
代理人 竹井 増美  
代理人 當麻 博文  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 高島 一  
代理人 高島 一  
代理人 當麻 博文  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 竹井 増美  
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