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審決分類 審判 査定不服 6項4号請求の範囲の記載形式不備 取り消して特許、登録 H05B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1320489
審判番号 不服2015-6747  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-09 
確定日 2016-11-01 
事件の表示 特願2010-270085「有機発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月25日出願公開、特開2011-165654、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,平成22年12月3日(パリ条約による優先権主張 平成22年2月9日,韓国)の特許出願であって,平成26年7月22日付けで拒絶理由が通知され,同年10月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年12月4日に拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,平成27年4月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ,その後,当審において平成28年2月18日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由1」という。)が通知され,同年7月5日に意見書及び手続補正書が提出され,当審において同年8月4日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由2」という。)が通知され,同年9月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は,平成28年9月7日になされた手続補正(以下,「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 シリコン酸化物膜とシリコンリッチシリコン窒化物膜とを有するバリヤ層と,
前記バリヤ層の両面に樹脂層が設けられることで構成される有機電界発光部の基板と,
前記樹脂層の面のうち,前記バリヤ層が設けられる面の反対側の面に設けられる有機電界発光部と,を備え,
前記シリコンリッチシリコン窒化物膜は,SiNx(ここで,xは,1.1?1.3である)を含み,前記樹脂層に接触することを特徴とする有機発光装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
原査定の理由は,概略,平成26年10月29日に提出された手続補正書に記載の請求項1?9に係る発明は,その優先権主張の日(以下,「優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用例1?5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。



引用例1:特表2005-512299号公報
引用例2:特開2009-32464号公報
引用例3:特開2009-18569号公報
引用例4:特開2004-292877号公報
引用例5:特開平4-298722号公報

2 原査定の理由についての当審の判断
(1) 引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には,次の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,ディスプレイ装置に最適な密封構造,及び該装置の密封方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ装置は,図示表示及び画像技術において周知である。そのような装置の例は,デジタル印刷での適用と同様に,有機発光装置(OLED),ポリマー発光装置(PLED),並びにTV及び図示表示において実用されている液晶ディスプレイ(LCD)である。
【0003】
それらの装置のほとんどは,酸素及び湿気などに対して感受性であり,その結果,大気に触れると劣化する。特に光の存在下での酸素及び/又は湿気に対する接触は,使用されるポリマー物質の光の酸化による劣化を導くかもしれない。さらに,陰極/ポリマーインターフェースでの酸化は,OLED又はPLEDのような装置での酸素及び/又は湿気の拡散で生じる第1の問題のうちの1つである。そのような反応は,装置の発光特性の性能を相当に削減するであろう。さらに,ディスプレイ装置で使用される他の物質はまた,空気と触れる場合に劣化し,例えば,酸化によって悪影響を受けるかもしれない。」

イ 「【0005】
低温技術で装置をカプセル化することによる密封構造を備える発光装置がある(例えば,特許文献1)。この密封構造は,アルミニウムなどの非反応性物質と,最外層などの無機の耐火性物質の薄膜とを有する。この構造は,装置の物質が酸素及び/又は湿気と反応することを防ぐ。しかしながら,この密封構造は,一般的に金属フィルムである非反応性物質に関して問題を有する。金属フィルムは,装置の電極と金属フィルムとの間で電子の短絡の危険性を高めるコンダクタである。さらに,密封構造の金属フィルムは,電極物質の構成に関する別の問題を課す。時々,密封構造で覆われるべきネガティブスロープをさらに有する,ある種類の構成を有することが必要である。しかしながら,金属はそのようなスロープに対して通常は沈着せず,したがって,部分的に閉じた表面を残す。代わって,これは,酸素及び/又は湿気が装置に入り込むことを可能にするかもしれない。
【特許文献1】国際公開第00/08899号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって,本発明の目的は,上述した従来技術の問題を克服するカプセル化を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述及び他の目的は,第一誘電物質の第一層と第二誘電物質の第二層とを有することを特徴とする密封構造によって達成される。この構造において,短絡は発生しない。さらに,不必要な金属蓋は生産費を削減する。さらに,誘電物質の少なくとも2層を使用することによって,ピンホールを有しない密封構造が得られ,さらに均一な構成はディスプレイ装置の全表面におけるネガティブスロープを有する。
・・・(中略)・・・
【0009】
本発明の好ましい実施態様と一致して,第一及び第三の誘電物質は同一であり,好ましくは窒化ケイ素である。第二誘電物質は,酸化ケイ素,オキシ窒化ケイ素,酸化フッ化ケイ素,酸化チタン,酸化タンタル,酸化ジルコニウム,酸化ハフニウム,酸化アルミニウム,あるいは前述の列記したものの混合物から選択される。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明はOLED,PLED及びLCDなどのディスプレイ装置に適する密封構造に関する。
【0018】
図1は,本発明による密封構造を有するPLEDディスプレイ装置を示す。装置1は,陽極2と,陰極3と,陽極2と陰極3との間に置かれた発光層4とを有する発光ユニットの層状構造である。

【図1】

・・・(中略)・・・

【0020】
酸素及び/又は湿気に対する拡散防止として機能する密封構造6は,ディスプレイ装置上に形成され,したがって,はるかに長い耐久性が達成される。
【0021】
本発明のこの実施態様において,密封構造6は,好ましくは透明物質である誘電物質の3層7,8,9を有する。層7は好ましくは低いピンホール密度であるべきで,陰極3の全面にわたって実質的にカバーされるべきである。第一誘電物質の層7は,ディスプレイ装置1を空気と接触せずに,すなわち,不活性な大気中に装置1を維持して,陰極3の沈着後に形成される。層7上に,好ましくは層7と同じ技術を使用して,第二誘電物質の層8が形成される。最後に,第三誘電物質の外層9は,本質的に同じ技術によって層8上に形成される。
【0022】
層7は,好ましくは,装置1のほとんどのエリアを閉じ,わずか少数のピンホールを開けたままの窒化ケイ素を有する。しかしながら,ピンホールの化学的な表面が窒素の粘着を防ぐために,それらのピンホールは窒化ケイ素の層を厚くすることによって閉じないであろう。好ましくは酸化物を有する層8を沈着することによって,層7の表面は修飾され,酸化層8はピンホールをカバーするだろう。しかしながら,一般的に,酸化層は,窒化ケイ素でのように酸素及び/又は湿気のための相当な拡散防止ではない。したがって,層9は層8上に沈着し,窒化ケイ素を有する。したがってN-O-Nの密封構造が達成され,Nは窒化層を意味し,Oは酸化層を意味する。
【0023】
広範囲の酸化物は,酸化層8において使用されてよく,好ましくは,酸化ケイ素,オキシ窒化ケイ素,酸化フッ化ケイ素,酸化チタン,酸化タンタル,酸化ジルコニウム,酸化ハフニウム,酸化アルミニウム,あるいは前述の列記したものの混合物から選択される。これらの物質で,酸化ケイ素が良好な結果を示しており,したがって,酸化ケイ素が好ましい。」

エ 「【0026】
図2は本発明の別の実施態様を示す。この実施態様において,ディスプレイ装置1は柔軟なプラスチック基板5と,上記のような誘電物質の少なくとも一つの密封構造6とを有する。酸素及び/又は湿気が柔軟な基板5を通過するかもしれないので,本発明による密封構造6は,基板5と発光ユニット1との間に置かれる。本発明は柔軟なプラスチック基板に限定されず,他の基板であってよい。さらに,装置は,潜在的なユーザに面するディスプレイ装置の側上に密封構造6を適用することによってカプセル化されてよい。柔軟な基板上の前述の密封構造6を使用して,80%より多くの光が伝達されること,すなわち可視光線及び470nmの両光が伝達されることが実証された。

【図2】



オ 前記ア?エから,引用例1には,「別の実施形態」として,以下の発明が記載されているものと認められる(特に,前記エを参照されたい。以下,「引用発明」という。)。なお,段落番号は,引用発明の認定に活用した引用例1の記載箇所を示すために併記したものである。

「【0026】プラスチック基板と,発光ユニットの間に置かれた密封構造を有し,
【0021】密封構造は,誘電物質の3層7,8,9からなり,
【0022】層7は窒化ケイ素を有し,層7上に酸化物を有する層8が沈着され,層8上に窒化ケイ素を有する層9が沈着され,
【0023】前記層8は,酸化ケイ素である,
【0017】OLED。」

(2) 引用例2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2には,次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基板,1対の電極および有機エレクトロルミネッセンス層を有し;
当該基板が液晶ポリマーフィルムよりなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
基板の少なくとも片面にガスバリア層を有する請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」

イ 「【0038】
ガスバリア層は基板の片面または両面に形成することができる。ガスバリア層を片面に設ける場合,通常は後述する電極層と反対側にガスバリア層を形成する。但し,ガスバリア層を電極と同じ側に設けてもよい。例えば,基板上に形成した金属ガスバリア層をグラウンド電極として兼用してもよいし,また,当該ガスバリア層を部分的に金属酸化物とし,残留した金属部分を回路として利用してもよい。」

(3) 引用例3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例3には,次の記載がある。
ア 「【0001】
本発明は,ガスバリア性に優れたフィルムおよびこれを用いた有機デバイスに関するものであり,特に各種の有機デバイスの基板や被覆フィルムに好適な積層型のガスバリアフィルムに関する。さらには,前記ガスバリアフィルムを用いた,耐久性およびフレキシブル性に優れた有機デバイス,特に有機EL素子に関するものである。」

イ 「【0021】
本発明において,ガスバリア性と高透明性とを両立させるには前記無機層として,珪素酸化物や珪素窒化物または珪素酸化窒化物を用いるのが好ましい。前記無機層として珪素酸化物であるSiOxを用いる場合,良好なガスバリア性と高い光線透過率とを両立させるためには1.6<x<1.9であることが望ましい。前記無機層として珪素窒化物であるSiNyを用いる場合は,1.2<y<1.3であることが好ましい。y<1.2となると着色が大きくなることがあり,ディスプレイ用途に用いる場合には制約となる場合がある。」

(4) 引用例4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例4には,次の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,半導体デバイスや有機ELデバイス等の封止膜やバリアフィルムに用いられる窒化シリコン膜及びその製造方法に関するものであり,低温で高速成膜され優れたバリア性を有する新規な窒化シリコン膜及びその製造方法に関する。さらには,かかる窒化シリコン膜を水蒸気や酸素に対するバリア膜として用いたガスバリアフィルムに関する。」

イ 「【0016】
通常,シリコンリッチの窒化シリコン膜は屈折率2以上であり,光透過性と相反し,両立し得ない。例えばより低い温度で堆積し,全体的に密度を下げて疎な膜とすれば,屈折率を下げることができるが,粉状になりやすく,バリア性が低下するという欠点ある。本発明では,膜組成を適正なものとし,具体的には組成をSiNxと表したときに1.05≦x≦1.33とし,窒化シリコン膜中に積極的にNH基を導入することで屈折率を1.8?1.96に調整し,シリコンリッチの膜においても着色せず透明な膜とし,なおかつ高いバリア性をも確保している。」

(5) 引用例5の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例5には,次の記載がある。
ア 「【0001】
【技術分野】本発明は,薄膜積層デバイスに関し,詳しくは,OA機器用やTV用などのフラットパネルディスプレイなどに好適に使用しうるスイッチング素子に関する。
【0002】
【従来技術】OA機器端末機や液晶TVには大面積液晶パネルの使用の要望が強く,そのため,アクティブマトリクス方式では各画素ごとにスイッチをもうけ,電圧を保持するように工夫されている(特開昭61-260219,特開昭62-62333号)。また近年,液晶パネルの軽量化,低コスト化が盛んに行われており,スイッチイング素子の基板にプラスチックを用いることが検討されている(特開平1-47769号)。しかし,プラスチック上に,薄膜積層スイッチング素子を形成するとプラスチック基板の変形やカールを生じ,膜はがれ等の問題があった。また,薄膜積層スイッチング素子を作製する際,酸,アルカリ,水等の溶液中にプラスチックを浸漬する工程があり,プラスチック内に酸,アルカリ,水等が残存し,素子劣化の原因となった。一方,プラスチックフィルム基板を用いた液晶表示装置の作製において,配向処理の際,プラスチック特有の配向方法を行う必要があった。そこでSiO2層をプラスチックフィルムの片面に形成することによって,ガラス基板と同様の方法で配向処理ができることが知られている(特公平1-47769号)。しかし,SiO2による膜では,パッシベーション効果はあるが,プラスチック基板とそのコート膜との間に生ずるヤング率ミスマッチに起因する基板カール現象の問題解決にはならず,新たなコート膜材料が必要である。本発明者等はこの点について研究を進めた結果,その膜材料は内部応力を伸びの方向から収縮の方向まで自在に変えられるものが望ましく,また,該コート膜中で,膜の厚み方向において膜材料に組成分布を持たせてパッシベーション効果を与えるのみならず,基板カールに対するコート膜中応力の最適化をはかることが好ましいことを発見した。
【0003】
【目的】本発明は前記従来の課題を解決し,軽量,低コスト,膜はがれ,基板カール等の無い薄膜積層デバイスを提供することを目的としている。」

イ 「【0005】プラスチック基板へのSiNx薄膜の形成はその上に作製する薄膜積層デバイスの剥がれなどの問題を解決するために重要である。プラスチック基板だけでは,上部に堆積する薄膜の内部応力に応じたカールが発生し,ハンドリングなどに問題を生じる。これを回避する為プラスチック基板に適切な諸条件で製膜されたバッファ層を形成することが必要である。本発明の薄膜積層デバイスを作製するためには,まずポリエチレンテルフタレート(PET),ポリアリレート,ポリエーテルサルフォン(PES),ポリカーボネート,ポリエチレン,ポリメチルメタクリレート,ポリイミドなどのプラスチック基板の少なくとも片面にSiNx(xは0.5?1.2)をスパッタ法,蒸着法,プラズマCVD法等により形成する。この物質からなる薄膜,即ちSiNx(xは0.5?1.2)の薄膜は,本発明者等の研究の結果プラスチック基板との密着性に優れ,かつ透浸度の低い物質であることが分かった。この物質は酸化物系に比ベて透浸度が低く,かつ製膜条件(CVD使用時のrfパワー)を変えることによりエッチングレートが小さく緻密性に富んでいる膜が作れる。また,SiNx内部応力のrfパワー依存性を示す図4で解るように,rfパワー値を250から300W間で振ることにより応力値を伸びの方向(図5の上向の矢印)から収縮の方向(図5の下向の矢印)に任意な値で設定できるという利点がある。このような利点を充分活用するには,図9に示すように製膜条件を変えて膜組成を変化させることにより,カールを抑える方向に作用する応力分布をもたせることがのぞましい。この膜は,蒸着,スパタリング,CVD等の方法で形成される。前述のようにSiNxにおけるxが0.5?1.2の範囲の領域ではSiNx層の密度が高く,したがってち密性に富み高いパッシベーション効果が期待できる。さらに,内部応力を任意にふれることによるSiNx層の上部に設けられるデバイス層の作製条件の変更等によるデバイス層内部応力の変化に対応できる。またSiNx層の応力は伸びの方向から収縮の方向に設定できるので,基板両面にSiNx層を設ける際に,デバイス内部応力は収縮的なのでデバイス側SiNx層が伸び方向の応力を持つようにし,反対面のSiNx層には収縮方向の応力を持つように作製でき基板とデバイス全体の応力ミスマッチを押さえることができるという利点がある。」

(6) 対比
ア 引用発明の「プラスチック基板」は,本願発明の「樹脂層」に相当する。また,引用発明は「OLED」,すなわち有機発光ダイオードであるから,引用発明の「発光層ユニット」は,本願発明の「有機電界発光部」に相当する。

イ 引用発明の「層8」は「酸化ケイ素」であるから,本願発明の「シリコン酸化物膜」に相当する。さらに,引用発明の「層7」及び「層9」はいずれも「窒化ケイ素を有」するのであるから,本願発明の「シリコンリッチシリコン窒化物膜」と,「シリコン窒化物膜」である点で一致している。そして,引用発明の「層7」,「層8」及び「層9」からなる「密封構造」は,「酸素及び/又は湿気に対する拡散防止として機能」するのであるから(段落【0030】を参照されたい),本願発明の「バリヤ層」とは,「シリコン酸化物膜とシリコン窒化物膜とを有するバリヤ層」である点で一致している。

ウ 引用発明は,「プラスチック基板と,発光ユニットの間に置かれた密封構造を有」する,すなわち,「プラスチック基板」,「密封構造」及び「発光ユニット」がこの順で配置されているのであるから,引用発明の「プラスチック基板」及び「密封構造」は,合わせて本願発明の「有機電界発光部の基板」に対応するものと認められる。してみれば,引用発明と本願発明とは,「バリヤ層」の少なくとも一方の面に「樹脂層が設けられることで構成される有機電界発光部の基板」を備える点で一致している。

エ 前記ア?ウから,本願発明と引用発明とは,

「 シリコン酸化物膜とシリコン窒化物膜とを有するバリヤ層と,
前記バリヤ層の少なくとも一方の面に樹脂層が設けられることで構成される有機電界発光部の基板と,有機電界発光部と,を備える,
有機発光装置。」

である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:本願発明は,有機電界発光部が「樹脂層の面のうち,前記バリヤ層が設けられる面の反対側の面に設けられる」のに対し,引用発明は,発光ユニットが「密封構造」に設けられ,「樹脂層の面のうち,前記バリヤ層が設けられる面の反対側の面に設けられる」ものではない点。また,本願発明は,有機電界発光部の基板が「前記バリヤ層の両面に前記樹脂層が設けられることで構成」されるのに対し,引用発明は,バリア層のうち発光ユニットが設けられていない面にのみ樹脂層が形成されている点。

相違点2:シリコン窒化物膜は,本願発明では,「シリコンリッチ窒化膜」であって,SiNx(ここで,xは,1.1?1.3である)を含むのに対し,引用発明は,SiとNの組成比,すなわち「SiNx」の「x」が明らかとされていない点。

(7) 判断
事案に鑑み,前記相違点1について判断する。
ア 前記(2)イで示したように,引用例2には,「ガスバリア層は基板の片面または両面に形成することができる。ガスバリア層を片面に設ける場合,通常は後述する電極層と反対側にガスバリア層を形成する。」と記載されている。ここで,引用例2の「ガスバリア層」は,本願発明の「バリヤ層」,引用発明の「密封構造」に相当するものといえる。
しかし,引用例1の段落【0026】には,「ディスプレイ装置1は柔軟なプラスチック基板5と,上記のような誘電物質の少なくとも一つの密封構造6とを有する。酸素及び/又は湿気が柔軟な基板5を通過するかもしれないので,本発明による密封構造6は,基板5と発光ユニット1との間に置かれる。」と記載されている。この記載に接した当業者ならば,引用発明の「密封構造」を,引用例2に記載されるような配置とすること,すなわち,「密封構造」を,基板と発光ユニットの間から電極層と反対側(「発光ユニット」と反対側)に移動させることはないものといえる。
してみれば,相違点1に係る構成を具備する本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 前記アのとおり,相違点2について検討するまでもなく,相違点1に係る構成を具備する本願発明は,引用発明及び引用例2?5に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたとはいえない。

(8) 小括
したがって,本願発明は,当業者が引用発明及び引用例2?5に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2?9に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであるので,本願発明と同様に,当業者が引用発明及び引用例2?5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1) 特許法36条6項2号(明確性要件)
当審拒絶理由1は,概略,平成28年7月5日付けの手続補正(以下,「手続補正1」という。)前の請求項1は,「有機発光装置」という物の発明であったところ,「シリコンリッチシリコン窒化膜は・・・水素ガス以外の原料を用いて製造されること」との記載があり,当該記載は,製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえ,当該記載により,請求項1に係る発明は明確でないものとなっている,というものである。

(2) 特許法17条の2第3項(新規事項の追加)
当審拒絶理由1は,概略,平成27年4月9日付けの手続補正により,請求項1には,「前記バリヤ層及び樹脂層は,前記有機電界発光部の基板を構成し」との事項が加えられたところ,当該事項は,本件出願の出願当初明細書の発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない,というものである。

(3) 特許法36条6項1号(サポート要件)
当審拒絶理由1は,概略,手続補正1前の請求項1には,「前記バリヤ層及び樹脂層は,前記有機電界発光部の基板を構成」することが記載されているところ,このような記載は発明の詳細な説明に記載されていないことから,請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一となっており,その結果,両者の対応関係が不明瞭となっている,というものである。
さらに,当審拒絶理由2は,概略,本件補正前の請求項1には,「前記有機電界発光部の基板は,前記基板のみで構成されるか,前記バリヤ層の両面に前記樹脂層が設けられることで構成され」と記載されているが,「有機電界発光部の基板」を「バリア層のみで構成」することについては,発明の詳細な説明においてサポートされているものと認められない,というものである。

2 当審拒絶理由についての判断
(1) 本件補正により補正された請求項1には,製造方法の記載は存在しない。よって,明確性要件に係る当審拒絶理由1は解消した。

(2) 本件補正により,請求項1における有機電界発光部の基板は,本件出願の出願当初明細書の発明の詳細な説明に記載したものとなった。よって,新規事項の追加に係る当審拒絶理由1は解消した。同時に,サポート要件に係る当審拒絶理由1及び2も解消した。

(3) 小括
前記(1)及び(2)で検討したように,もはや,当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-19 
出願番号 特願2010-270085(P2010-270085)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
P 1 8・ 538- WY (H05B)
P 1 8・ 537- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井亀 諭  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 道祖土 新吾
鉄 豊郎
発明の名称 有機発光装置  
代理人 アイ・ピー・ディー国際特許業務法人  

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