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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1320870
審判番号 不服2015-5517  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-24 
確定日 2016-10-26 
事件の表示 特願2011-508706「高圧急速熱処理のための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月12日国際公開,WO2009/137773,平成23年 7月28日国内公表,特表2011-522399〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年5月8日(パリ条約による優先権主張2008年5月9日,アメリカ合衆国,2009年5月7日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成25年10月23日付けで拒絶の理由が通知され,平成26年4月28日に意見書と手続補正書が提出され,同年11月20日付けで拒絶査定がなされ,平成27年3月24日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成27年3月24日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成27年3月24日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1-15を補正して,補正後の請求項1-10とするものであって,補正前後の請求項は各々次のとおりである。

<補正前>
「【請求項1】
急速熱処理チャンバーで基板を処理する方法であって,
前記急速熱処理チャンバーの外側からアクセスポートを通して前記処理チャンバーの内部領域に位置する環状支持部上に基板をパスするステップと,
前記急速熱処理チャンバーが密封されるように前記アクセスポートを閉じるステップと,
前記急速熱処理チャンバーを約1.5絶対気圧から約5.0絶対気圧の範囲の圧力に加圧するステップと,
前記基板を少なくとも毎秒約50℃の速度で制御可能にかつ均一に加熱するために放射エネルギーを前記基板の方へ向けるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記急速熱処理チャンバーを約2気圧から約5気圧の範囲の絶対圧力に加圧する,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記急速熱処理チャンバーを,約3.0気圧以下,約3.5気圧以下,約4.0気圧以下,および約4.5気圧以下から選択される絶対圧力に加圧する,請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基板が半導体ウェハーを含み,前記処理が前記半導体ウェハーの急速熱アニールを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記チャンバーが,さらに,放射熱源,および前記チャンバーと放射熱源の間のディスク状表面を含み,前記ディスク状表面が少なくとも約2気圧の絶対圧力に耐えるように構築される,請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ディスク状表面が約2絶対気圧から約5絶対気圧の範囲の圧力に耐えるように構築される,請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記チャンバーが,さらに,前記放射熱源の反対側に位置する反射体プレートを含み,前記反射体プレートは少なくとも2気圧の絶対圧力に耐えるように構築される,請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記反射体プレートが最大約5絶対気圧の圧力に耐えるように構築される,請求項7に記載の方法。
【請求項9】
基板が半導体ウェハーであり,前記処理が前記半導体ウェハーの急速熱アニールを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項10】
急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を少なくとも毎秒約50℃の速度で加熱するために構成される第1の熱源と,
前記チャンバー内の圧力を約1.5絶対気圧から約5.0絶対気圧の範囲に制御するための圧力制御弁と
を含むチャンバー。
【請求項11】
前記圧力制御弁が,前記チャンバー内の圧力を約2絶対気圧から約5絶対気圧の範囲に制御するように働く,請求項10に記載のチャンバー。
【請求項12】
前記圧力制御弁が,前記チャンバー内の圧力を,約3.5絶対気圧以下,約4.0絶対気圧以下,および約4.5絶対気圧以下から選択される圧力に制御するように働く,請求項10に記載のチャンバー。
【請求項13】
コールドウォール反応炉型である,請求項10に記載のチャンバー。
【請求項14】
前記基板支持部が固定子に磁気的に結合される,請求項10に記載のチャンバー。
【請求項15】
前記圧力制御弁が背圧調整器および圧力コントローラを含む,請求項10に記載のチャンバー。」

<補正後>
「【請求項1】
急速熱処理チャンバーで基板を処理する方法であって,
前記急速熱処理チャンバーの外側からアクセスポートを通して前記処理チャンバーの内部領域に位置する環状支持部上に基板をパスするステップと,
前記急速熱処理チャンバーが密封されるように前記アクセスポートを閉じるステップと,
前記急速熱処理チャンバーを1.5絶対気圧から5.0絶対気圧の範囲の圧力に加圧するステップと,
前記基板を少なくとも毎秒50℃の速度で制御可能にかつ均一に加熱するために放射エネルギーを前記基板の方へ向けるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記基板が半導体ウェハーを含み,前記処理が前記半導体ウェハーの急速熱アニールを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チャンバーが,さらに,放射熱源,および前記チャンバーと放射熱源の間のディスク状表面を含み,前記ディスク状表面が少なくとも2絶対気圧に耐えるように構築される,請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ディスク状表面が2絶対気圧から5絶対気圧の範囲の圧力に耐えるように構築される,請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記チャンバーが,さらに,放射熱源の反対側に位置する反射体プレートを含み,
前記反射体プレートは少なくとも2絶対気圧に耐えるように構築される,請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記反射体プレートが最大5絶対気圧に耐えるように構築される,請求項5に記載の方法。
【請求項7】
急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を少なくとも毎秒50℃の速度で加熱するために構成される放射熱源と,
前記チャンバー内の圧力を1.5絶対気圧から5.0絶対気圧の範囲に制御するための圧力制御弁と
を含むチャンバー。
【請求項8】
コールドウォール反応炉型である,請求項7に記載のチャンバー。
【請求項9】
前記基板支持部が固定子に磁気的に結合される,請求項7に記載のチャンバー。
【請求項10】
前記圧力制御弁が背圧調整器および圧力コントローラを含む,請求項7に記載のチャンバー。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「約1.5絶対気圧から約5.0絶対気圧」及び「少なくとも毎秒約50℃」を補正して,補正後の請求項1の「1.5絶対気圧から5.0絶対気圧」及び「少なくとも毎秒50℃」とすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項5の「約2気圧の絶対圧力」を補正して,補正後の請求項3の「2絶対気圧」とすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項6の「約2絶対気圧から約5絶対気圧」を補正して,補正後の請求項4の「2絶対気圧から5絶対気圧」とすること。

(4)補正事項4
補正前の請求項7の「前記放射熱源」及び「2気圧の絶対圧力」を補正して,補正後の請求項5の「放射熱源」及び「2絶対気圧」とすること。

(5)補正事項5
補正前の請求項8の「最大約5絶対気圧の圧力」を補正して,補正後の請求項6の「最大5絶対気圧」とすること。

(6)補正事項6
補正前の請求項10の「少なくとも毎秒約50℃」及び「約1.5絶対気圧から約5.0絶対気圧」を補正して,補正後の請求項7の「少なくとも毎秒50℃」及び「1.5絶対気圧から5.0絶対気圧」とすること。

(7)補正事項7
補正前の請求項10の「第1の熱源」を補正して,補正後の請求項7の「放射熱源」とすること。

(8)補正事項8
補正前の請求項2-3,9,及び,11-12を削除し,これに伴い,補正前の請求項4以降の請求項の番号を繰り上げて,また,引用する請求項の番号を調整すること。

3 新規事項追加の有無,発明の特別な技術的特徴の変更の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1-6は,いずれも特許法第17条の2第5項第4号に掲げる,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,補正事項7は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,補正事項8は,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる,請求項の削除を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項1-8は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(2)さらに,補正事項1-8による補正は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから,補正事項1-8は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって,補正事項1-8は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(3)そして,補正事項1-8は,発明の特別な技術的特徴を変更するものではないと認められるから,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものといえる。

(4)以上検討したとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項,第4項,及び,第5項に規定する要件を満たす。

4 独立特許要件についての検討
本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項7を含むから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定によって,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることを要する。
そこで,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,請求項7に係る発明について,更に検討を行う。

(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項7に係る発明(以下「本願補正発明7」という。)は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項7に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
以下,再掲する。

「【請求項7】
急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を少なくとも毎秒50℃の速度で加熱するために構成される放射熱源と,
前記チャンバー内の圧力を1.5絶対気圧から5.0絶対気圧の範囲に制御するための圧力制御弁と
を含むチャンバー。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
拒絶査定の理由で引用した,本願の優先権の主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用例1には,図面とともに次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:国際公開第2006/087777号
(1a)「技術分野
[0001]本発明は,加圧した状態でランプアニール処理ができる加圧式ランプアニール装置及び加圧式ランプアニール処理方法,並びに前記加圧式ランプアニール装置又は前記加圧式ランプアニール方法を用いて作製された薄膜及びその薄膜を備えた電子部品に関する。」

(1b)「発明が解決しょうとする課題
[0005]上記従来のランプアニール装置は,減圧状態でランプアニール処理を行うものである。しかし,アニール対象物によっては加圧した状態でランプアニール処理を行うことが求められる。例えば,アニール対象物が沸点の低い材料を含む場合,減圧又は常圧でアニール処理を行うとその材料の一部が気化してしまうが,加圧状態でランプアニール処理を行えば材料の気化を抑制できる。また,アニール処理によってアニール対象物を反応させるような場合,加圧状態でランプアニール処理を行うことにより,アニール対象物を瞬時に加熱し且つ反応を促進させることが可能となる。
[0006]本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり,その目的は,加圧した状態でランプアニール処理ができる加圧式ランプアニール装置及び加圧式ランプアニール処理方法を提供することにある。また,本発明の他の目的は,前記加圧式ランプアニール装置又は前記加圧式ランプアニール方法を用いて作製された薄膜及びその薄膜を備えた電子部品を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0007]上記課題を解決するため,本発明に係る加圧式ランプアニール装置は,被処理基板を導入する処理室と,
前記処理室内を加圧する加圧機構と,
前記被処理基板にランプ光を照射するランプヒータと,
を具備することを特徴とする。
[0008]上記加圧式ランプアニール装置によれば,処理室内を加圧する加圧機構を備えているため,加圧した状態でランプアニール処理を行うことができる。尚,前記ランプ光は例えば赤外線である。」

(1c)「発明を実施するための形態
[0019]以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図 1は,本発明の実施の形態による加圧式ランプアニール装置の構成を示す断面図である。図 2は,図 1に示すチャンバー及び筐体それぞれと石英ガラスとのシール部を拡大した断面図である。この加圧式ランプアニール装置は,加圧した状態でランプアニ一ル処理(RTA; rapid thermal anneal)を行うものである。
[0020]図 1に示すように,加圧式ランプアニール装置は Al製のチャンバー 1を有している。チャンバー 1の肉厚は従来の減圧式ランプアニール装置に比べて厚く形成されている。このチャンバー 1の内表面 laには表面処理が施されている。つまり,チャンバー 1 のない表面 laには反射膜が形成されている。具体的な表面処理としては, Auメツキ処理又はシユウ酸アルマイト処理を用いることが可能である。これにより,チャンバー 1 の内表面 laには Auメツキ膜又はシユウ酸アルマイト膜が形成され,この Auメツキ膜又はシユウ酸アルマイト膜でランプ光を反射させることができる。その結果,昇温レートを上げることができる。また,消費電力を少なくすることができる。また,チャンバー 1 は図示せぬ冷却機構によって水冷されるように構成されている。
尚,本実施の形態では,前記表面処理として Auメツキ処理又はシユウ酸アルマイト処理を用いているが本発明はこれに限定されるものではなく, Al, Au, Ag, Cu, Pt,Tiからなる群から選択された一の金属を主成分としたコーティング膜を用いることも可能である。
[0021]チャンバー 1内には被処理基板としてのウェハ 2を載置する載置台 3が設けられている。載置台 3はランプ光が透過する材料,例えば石英で形成されている。載置台 3 の上方には石英ガラス 4が配置されている。この石英ガラス 4は,略円柱部 4aとその上部の周囲に形成された鍔部 4bから構成されている。石英ガラスの略円柱部 4aは,チャンバー内が加圧されるために従来の減圧式ランプアニール装置に比べて厚く形成されている。
・・・(途中省略)・・・
[0023]石英ガラス 4の上にはランプヒータ 5が配置されており,このランプヒータ 5は金属製の筐体 6の内部に配置されている。筐体 6の上部には排気ダクト 7が接続されており,この排気ダクト 7は筐体 6内の熱を排気するものである。
・・・(途中省略)・・・
[0027]チャンバー 1内の処理室 55は加圧ライン (加圧機構) 12に接続されている。加圧ライン 12は,アルゴンガスによる加圧ライン,酸素ガスによる加圧ライン及び窒素ガスによる加圧ラインを有している。
[0028]アルゴンガスによる加圧ラインはアルゴンガス供給源 13を備え,このアルゴンガス供給源 13は第 1配管を介して逆止弁 14に接続されており,この逆止弁 14は第 2配管を介して不純物を除去するためのフィルタ 17に接続されている。このフィルタ 17は第 3配管を介してバルブ 23に接続されており,第 3配管は圧力計 20に接続されている。バルブ 23は第 4配管を介してレギユレータ 26に接続されており,このレギユレータ 26 は第 5配管を介してマスフローコントローラ 31に接続されている。レギユレータ 26は,ガスの圧力を徐々に上げることによりマスフローコントローラ 31の上流側と下流側の差圧を所定圧に設定するものである。マスフローコントローラ 31は第 6配管を介してバルブ 34に接続されており,このバルブ 34は第 7配管を介して加熱ユニット 37に接続されている。加熱ユニット 37は,プロセスを安定させるためにガス温度を一定 (例えば 40? 50°C程度)にするものである。加熱ユニット 37は第 8配管 51を介してチャンバー 1内の処理室 55に接続されている。
[0029]酸素ガスによる加圧ラインは,アルゴンガスによる加圧ラインと同様に構成されている。詳細には,酸素ガスによる加圧ラインは酸素ガス供給源 29を備え,この酸素ガス供給源 29は第 1配管を介して逆止弁 15に接続されており,この逆止弁 15は第 2配管を介して不純物を除去するためのフィルタ 18に接続されている。このフィルタ 18は第 3配管を介してバルブ 24に接続されており,第 3配管は圧力計 21に接続されている。バルブ 24は第 4配管を介してレギユレータ 27に接続されており,このレギユレータ 27は第 5配管を介してマスフローコントローラ 32に接続されている。マスフローコントローラ 32は第 6配管を介してバルブ 35に接続されており,このバルブ 35は第 7配管を介して加熱ユニット 37に接続されている。加熱ユニット 37は第 8配管 51を介してチヤンバー 1内の処理室 55に接続されている。
[0030]窒素ガスによる加圧ラインは,アルゴンガスによる加圧ラインと同様に構成されている。詳細には,窒素ガスによる加圧ラインは窒素ガス供給源 38を備え,この窒素ガス供給源 38は第 1配管を介して逆止弁 16に接続されており,この逆止弁 16は第 2配管を介して不純物を除去するためのフィルタ 19に接続されている。このフィルタ 19は第 3配管を介してバルブ 25に接続されており,第 3配管は圧力計 22に接続されている。バルブ 25は第 4配管を介してレギユレータ 28に接続されており,このレギユレータ 28は第 5配管を介してマスフローコントローラ 33に接続されている。マスフローコントローラ 33は第 6配管を介してバルブ 36に接続されており,このバルブ 36は第 7配管を介して加熱ユニット 37に接続されている。加熱ユニット 37は第 8配管 51を介してチヤンバー 1内の処理室 55に接続されている。
[0031]また,チャンバー 1内の処理室 55は圧力調整ラインに接続されている。この圧力調整ライン及び前記加圧ライン 12によってチャンバー 1内の処理室を所定の圧力(例えば 1MPa未満)に加圧できるようになつている。前記圧力調整ラインは可変バルブ 39 を備えており,この可変バルブ 39の一方側は第 9配管 52を介してチャンバー内の処理室に接続されている。第 9配管 52は圧力計 40に接続されており,この圧力計 40によって処理室 55内の圧力を測定できるようになつている。可変バルブ 39の他方側は第 10配管に接続されている。」

(1d)「[0040] 次に,電子部品を作製する方法の一例として,上記加圧式ランプアニール装置を用いて有機金属材料の一例である PZT (チタン酸ジルコン酸鉛)強誘電体キャパシタを作製する方法について説明する。
まず,6インチのシリコンウエハ上に・・・(途中省略)・・・PZT膜を塗布し・・・(途中省略)・・・。
[0041]この後,上記加圧式ランプアニール装置を用いて酸素雰囲気中で 600°C, 1分間の RTA処理を行う。以下,詳細に説明する。
[0042]図 3及び図 4に示すゲートバルブ 49の開口部を開き,搬送ロボット 53により前記シリコンウェハを処理室 55内に導入し,図 1に示す載置台 3上に前記シリコンウェハを載置する。次いで,ゲートバルブ 49の開口部を閉じ,加圧ライン 12の酸素ガス供給源 29から第 1配管,逆止弁 15,第 2配管,フィルタ 18,第 3配管,バルブ 24,第 4配管,レギユレータ 27,第 5配管,マスフローコントローラ 32,第 6配管,バルブ 35,第 7配管,加熱ユニット 37,第 8配管 51を通して酸素ガスを処理室 55内に導入する。これと共に,圧力調整ラインの可変バルブ 39を徐々に閉じていくことにより,処理室 55内を酸素雰囲気としながら徐々に加圧する。そして,処理室 55内は 1MPa未満の所定の圧力まで加圧され,その圧力で維持される。
[0043]次に,ランプヒータ 5から石英ガラス 4を通してランプ光をシリコンウェハに照射する。これにより, PZT膜が 600°Cまで急速に加熱され, 600°Cの温度で 1分間保持される。その結果, PZTと酸素が素早く反応され, PZT膜が結晶化される。
[0044]次いで,ランプヒータ 5を停止させることにより, PZT膜は急速に冷却される。次いで,加圧ライン 12の酸素供給源からの酸素の供給を停止し,大気開放ラインの開放バルブ 42を開き,処理室 55内を大気圧に戻す。
[0045]上記 RTA処理によれば,加圧状態でアニール処理を行うため, PZT中の沸点の低い材料が気化されるのを抑制できると共に, PZTと酸素との反応を促進させることができる。また, PZT膜を瞬時に 600°Cまで昇温するため, PZT膜中の酸素欠陥の発生を抑制でき,結晶性の良い PZT膜を作製することができる。
・・・(途中省略)・・・
[0047]次に,上記加圧式ランプアニール装置によるランプアニール処理実験及びその結果について説明する。
・・・(途中省略)・・・
[0048]図 7は, 600°Cの温度,酸素ガスによって 0. 9MPaの圧力で加圧式ランプアニール処理を施した際のウェハ上の測定位置 62? 65それぞれの温度と時間の関係を示すグラフである。
図 7によれば,ヒーターを予備加熱する為にオンした際の測定位置 63の温度が 41 . 0°Cであり, RTA (実プロセス)を行う為にヒーターをオンした際の測定位置 63の温が86. 9°Cであり,実プロセスの昇温レートが 107°C/秒であり, 600°Cになるまで 約 4. 8秒要し, 600°Cまで昇温された直後のオーバーシュート 67が 4. 5°Cであった。」

イ 引用発明
引用例1の上記摘記(1a)-(1d)の記載から,引用例1には,以下に記載する発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

・引用発明
「有機金属材料の一例である PZT (チタン酸ジルコン酸鉛)強誘電体キャパシタを作製する際に使用する,加圧した状態でランプアニ一ル処理(RTA; rapid thermal anneal)を行う,加圧式ランプアニール装置であって,
冷却機構によって水冷されるように構成されているAl製のチャンバーと,
前記チャンバー内で,被処理基板としてのPZT膜が塗布されたシリコンウエハを載置する載置台と,
前記載置台の上方に配置された石英ガラスと,
前記PZT膜が塗布されたシリコンウエハを,107°C/秒の昇温レートで急速に加熱し,600°Cの温度で 1分間保持することで,前記PZT膜を結晶化する,前記石英ガラスの上に配置されたランプヒータと,
前記チャンバー内の処理室に接続されている加圧ライン(加圧機構)と,
前記チャンバー内の前記処理室に接続された,前記処理室内を 0.9MPaの圧力まで加圧し,その圧力で維持する可変バルブを備えた圧力調整ラインと
を含む加圧式ランプアニール装置。」

(3)本願補正発明7の進歩性について
ア 本願補正発明7と引用発明との対比
(ア)引用発明の「チャンバー」は,本願補正発明7の「チャンバー本体」に相当する。したがって,引用発明の「チャンバー内の処理室」は,本願補正発明7の「チャンバー容積部」に相当する。

(イ)引用発明の「『チャンバー内で』『107°C/秒の昇温レートで急速に加熱し,600°Cの温度で 1分間保持することで,前記PZT膜を結晶化する』『PZT膜が塗布されたシリコンウエハ』」は,本願補正発明7の「チャンバー内で熱的に処理される基板」に相当する。したがって,引用発明の「載置台」は,本願補正発明7の「基板支持部」に相当する。

(ウ)引用発明の「107°C/秒の昇温レートで急速に加熱」は,本願補正発明7の「少なくとも毎秒50℃の速度で加熱」の条件を満たす加熱であるといえる。また,引用発明の「ランプヒータ」は,本願補正発明7の「放射熱源」に相当する。

(エ)引用発明の「0.9MPaの圧力」は,約8.9絶対気圧に相当する圧力であるから,引用発明の「チャンバー内の前記処理室に接続された,前記処理室内を 0.9MPaの圧力まで加圧し,その圧力で維持する可変バルブ」と,本願補正発明7の「チャンバー内の圧力を1.5絶対気圧から5.0絶対気圧の範囲に制御するための圧力制御弁」とは,「チャンバー内の圧力を,所定の加圧状態に制御するための圧力制御弁」である点で一致する。

(オ)引用発明の「加圧した状態でランプアニ一ル処理(RTA; rapid thermal anneal)を行う,加圧式ランプアニール装置」と,本願補正発明7の「急速熱処理チャンバー」とは,以下の相違点に記載した事項を除き,「急速熱処理チャンバー」である点で一致する。

したがって,上記の対応関係から,本願補正発明7と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりといえる。

<一致点>
「急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を少なくとも毎秒50℃の速度で加熱するために構成される放射熱源と,
前記チャンバー内の圧力を所定の加圧状態に制御するための圧力制御弁と
を含むチャンバー。」

<相違点>
・相違点1:本願補正発明7では,圧力制御弁は,チャンバー内の圧力を「1.5絶対気圧から5.0絶対気圧の範囲」に制御するのに対して,引用発明では,「0.9MPaの圧力」,すなわち,約8.9絶対気圧に制御する点。

イ 相違点についての判断
・相違点1について
引用例1の上記摘記(1b)には,以下の記載がある。
「発明が解決しょうとする課題
[0005]上記従来のランプアニール装置は,減圧状態でランプアニール処理を行うものである。しかし,アニール対象物によっては加圧した状態でランプアニール処理を行うことが求められる。例えば,アニール対象物が沸点の低い材料を含む場合,減圧又は常圧でアニール処理を行うとその材料の一部が気化してしまうが,加圧状態でランプアニール処理を行えば材料の気化を抑制できる。また,アニール処理によってアニール対象物を反応させるような場合,加圧状態でランプアニール処理を行うことにより,アニール対象物を瞬時に加熱し且つ反応を促進させることが可能となる。
[0006]本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり,その目的は,加圧した状態でランプアニール処理ができる加圧式ランプアニール装置及び加圧式ランプアニール処理方法を提供することにある。」

すなわち,引用発明は,「アニール対象物が沸点の低い材料を含む場合,減圧又は常圧でアニール処理を行うとその材料の一部が気化してしまうが,加圧状態でランプアニール処理を行えば材料の気化を抑制できる。また,アニール処理によってアニール対象物を反応させるような場合,加圧状態でランプアニール処理を行うことにより,アニール対象物を瞬時に加熱し且つ反応を促進させることが可能となる。」という事情を考慮してなされた発明であるから,引用発明の「0.9MPaの圧力まで加圧」は,「減圧又は常圧」ではない状態の一例として例示されたものであると理解することが自然といえる。

さらに,引用例1の上記摘記(1d)には,以下の記載がある。
「これと共に,圧力調整ラインの可変バルブ 39を徐々に閉じていくことにより,処理室 55内を酸素雰囲気としながら徐々に加圧する。そして,処理室 55内は 1MPa未満の所定の圧力まで加圧され,その圧力で維持される。」

そうすると,引用例1には,処理室 55内を「1MPa未満の所定の圧力」まで加圧され,その圧力で維持されると記載されているのであるから,引用発明において,「0.9MPaの圧力」に制御することは,「1MPa未満の所定の圧力」の一例であると理解することが自然といえる。

してみれば,引用例1の上記各記載に照らして,引用発明の「0.9MPaの圧力」を,「常圧」を超えて「1MPa未満」である範囲において変更することは当業者が適宜なし得た設計事項であり,これを,本願補正発明7において特定する「1.5絶対気圧から5.0絶対気圧の範囲」に含まれる圧力とすることに,格別の困難を認めることはできない。

次に,効果の顕著性について検討すると,本願の発明の詳細な説明には,以下のように,「5絶対気圧を上回るまで加圧する」ことについての記載がある。
「【0044】
幾つかの実施形態の方法は,高圧RTPチャンバーを約1.5絶対気圧,または随意で2絶対気圧を上回るまで,特に約5絶対気圧を上回るまで加圧する。具体的な実施形態では,高圧RTPチャンバーは,約1.5絶対気圧,または随意で2絶対気圧から約5絶対気圧に加圧される。より具体的な実施形態では,本方法は,1.5気圧を上回る絶対圧力,2気圧を上回る絶対圧力,2.5気圧を上回る絶対圧力,3気圧を上回る絶対圧力,3.5気圧を上回る絶対圧力,4気圧を上回る絶対圧力,4.5気圧を上回る絶対圧力,および5気圧以上の絶対圧力にチャンバーを加圧するステップを包含する。他の詳細な実施形態では,高圧RTPチャンバーは,約2絶対気圧から約10絶対気圧に加圧される。本発明の1つまたは複数の実施形態によれば,処理は,半導体ウェハー,例えばシリコンウェハーの急速熱アニールを含む。」

しかも,本願の発明の詳細な説明に,チャンバー内の圧力を「1.5絶対気圧から5.0絶対気圧」の範囲に制御することによって,「5.0絶対気圧」を超えた圧力に制御することに比べて,格別の効果を奏したとする特段の記載を見いだすこともできない。

してみれば,チャンバー内の圧力を加圧するに際して,「5.0絶対気圧」を超えた圧力ではなく,特に,「1.5絶対気圧から5.0絶対気圧」の範囲に制御したことによる格別の効果を認めることはできない。

なお,審判請求人は,平成27年9月14日に提出した上申書において,引用文献1は,「急速加熱プロセスではなく,ゆっくりとしたアニールプロセスに関連しています。」と主張する。
しかしながら,上記で検討したように,引用発明は,「107°C/秒の昇温レートで急速に加熱」するプロセスを含むから,引用文献1には,急速加熱プロセスが開示されているものと認められる。
したがって,審判請求人の前記主張は,引用文献1の記載に基づかない主張であって採用することはできない。
さらに,審判請求人は,「本願発明によれば,急速熱処理チャンバーを1.5絶対気圧から,5.0絶対気圧の範囲の圧力に加圧することにより,汚染物質を減少させることができます。このような効果は引用文献1には何ら記載されていない,本願発明に特有の異質の効果であります。」とも主張する。
しかしながら,引用文献1の,上記摘記(1b)における「例えば,アニール対象物が沸点の低い材料を含む場合,減圧又は常圧でアニール処理を行うとその材料の一部が気化してしまうが,加圧状態でランプアニール処理を行えば材料の気化を抑制できる。」との記載は,急速熱処理チャンバーを加圧することにより,汚染物質を減少させることができることを示唆(蒸気圧の高い物質を含むウェハーを熱処理する場合に,当該蒸気圧の高い物質の気化によって生じる蒸気が汚染の原因となることは,下記の周知例1-2にも記載されているように,当業者において周知な事項である。)するものと認められる。
また,上記加圧することにより,汚染物質を減少させることができる効果が,当該加圧が,「1.5絶対気圧から,5.0絶対気圧の範囲」の場合に限られるものとも認められない。
したがって,前記「急速熱処理チャンバーを1.5絶対気圧から,5.0絶対気圧の範囲の圧力に加圧することにより,汚染物質を減少させることができ」るという効果は,本願発明に特有の異質の効果であるとは認められない。
以上検討したとおり,審判請求人の主張は採用することはできない。

・周知例1:実願昭60-104367号(実開昭62-12947号)のマイクロフィルム
(周1a)「蒸気圧の高い物質を含むウェハー(2’)を熱処理する場合,その蒸気が装置内壁に蒸着し,・・・汚染の原因となる・・・」(第3ページ第7-9行)

・周知例2:特開平3-291940号公報
(周2a)「又,GaAs等の化合物半導体や蒸気圧の高い物質を表面上に設けたウェハー(2’)を熱処理する場合,熱処理室(1’)内の気体の圧力が低い程,その蒸気が装置内壁に蒸着し,次に熱処理するウェハー(2’)の汚染の原因になると言う欠点は元より,高蒸気圧物質の蒸発により目的のウェハー(2’)の物性が損なわれるという欠点もあった。」(第2ページ右上欄第8-14行)

進歩性の検討のむすび
本願補正発明7は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明7は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
相違点1については,以上のとおりであるから,本願補正発明7は,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本願補正発明7は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであり,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年3月24日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-15に係る発明は,平成26年4月28日に提出された手続補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-15に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項10に係る発明に係る発明(以下「本願発明10」という。)は,次のとおりである。

「【請求項10】
急速熱処理チャンバーであって,
チャンバー容積部を規定するチャンバー本体と,
前記チャンバー内で熱的に処理される基板を支持するための基板支持部と,
前記基板を少なくとも毎秒約50℃の速度で加熱するために構成される第1の熱源と,
前記チャンバー内の圧力を約1.5絶対気圧から約5.0絶対気圧の範囲に制御するための圧力制御弁と
を含むチャンバー。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1に記載されている事項は,上記「第2 4 (2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明10を限定し,かつ,明りょうでない記載を釈明したものである本願補正発明7が,前記「第2 4 (3)本願補正発明7の進歩性について」で判断したとおり,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと判断されることから,本願発明10も同様に,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項10に係る発明は,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-30 
結審通知日 2016-05-31 
審決日 2016-06-13 
出願番号 特願2011-508706(P2011-508706)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴山 将隆  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
飯田 清司
発明の名称 高圧急速熱処理のための装置および方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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