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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B21G
管理番号 1320968
審判番号 不服2014-4686  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-11 
確定日 2016-11-04 
事件の表示 特願2010-539592「曲げ剛性を改良するために金属合金外科用縫合針を処理する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月25日国際公開、WO2009/079204、平成23年 3月 3日国内公表、特表2011-506104〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯
本願は、2008年(平成20年)12月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年12月17日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月15日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年5月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年3月11日に本件拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2. 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、平成25年5月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1には、以下のとおり記載されている。

「【請求項1】
金属合金外科用縫合針を処理する方法において、
金属合金ワイヤ針又はブランクを提供することと、
前記針又はブランクを、第1半径を有する初期屈曲形態に形成することと、
前記初期屈曲形態を、前記第1半径よりも大きい第2半径を有する最終屈曲形態に実質的に逆屈曲させることによって、前記針又はブランクを、最終的な所望の屈曲形態に形成することと、
それにより、完成した屈曲している前記針又はブランクの曲げ剛性性質を改良することと、
を含み、
前記ニードルブランクが、耐火金属合金を含む、方法。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

3. 引用刊行物とその記載事項
原審の拒絶の理由に引用され、本願出願日前に頒布された刊行物である特開昭63-123543号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開平7-204207号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、以下の発明及び事項が記載されている。

(1) 刊行物1

ア. 刊行物1に記載された事項

(ア)
「<産業上の利用分野>
本発明は手術用縫合針の曲げ加工方法に関するものである。」(1ページ左欄下から5ないし3行)

(イ)
「第4図に示す曲げる力が小さい段階(イ)と、中間段階(ロ)と、曲げる力が大きい(ハ)の内で、本発明で問題となるのは曲げる力が小さい段階(イ)に関するものである。
縫合針の実際の使用に際しては、第5図に示す如く、持針器1で保持された湾曲針3に前述の曲げる力Bの力が少しだけ掛かるのが常である。従って通常は湾曲針3が図に示す如く肉体の組織4を通過する為の抵抗が持針器に掛かり、その力の一部が湾曲針3を外へ広げる方向(曲げる力B)に掛かる。」(2ページ左上欄最下行ないし右上欄10行)

(ウ)
「<問題点を解決するための手段>
本発明は、縫合針用のステンレス鋼製の針材を所望の曲率半径よりも小さい曲率半径に一旦曲げ加工した後で、少なくとも容易に曲率半径が大きくなる分だけ曲率半径を大きくして再加工する・・・ことによって所望の曲率半径の湾曲針を製造することを特徴とした縫合針の曲げ加工方法である。」(2ページ右上欄下から2行ないし左上欄9行)

(エ)
「<実施例>
既に湾曲針の特性については<発明が解決しようとする問題点>の項で詳述したが、一旦円弧状に曲げられた湾曲針3は元へ戻ろうとする内部応力を持っているので、第1図(B)及び第3図に示す如く、元へ戻す方向の力がこの湾曲針3に少し掛かっても容易に元の方向に変形する。但し、全く元の形状に戻るのではなく、少しだけ元の方向に変形し、この現象によって湾曲針3の湾曲度が変化する性質がある。
本発明に係る方法は前述の湾曲針3の特性に着目して発明されたものである。
(実施例1)
先ず本発明に於いては第1図(A)に示す如く、ステンレス鋼製の直状針材5を同図(B)に示す如く、目的とする湾曲針の曲率半径より小さくなるように必要以上に強く曲げた湾曲針5aを作成し、次に同図(C)に示す如く湾曲針5aが少なくとも容易に元へ戻る分の角度を再加工によって戻す方向に変形させてやり、最終目的とする湾曲針5bを製造する。」(2ページ左下欄下から3行ないし右下欄下から3行)

(オ)
「上記実施例1の方法を実施したところ、前記第4図に例示した曲げる力Cを有する湾曲針5bを得ることが出来た。」(3ページ左欄下から5ないし3行)

(カ)
第4図は、横軸に「曲げ角度」をとり、縦軸に「曲げ力」をとったグラフであり、「手術用縫合針」に作用させる「曲げ力」と、それにより「手術用縫合針」に生じる変形の度合いである「曲げ角度」を表したものであるから、第4図は「手術用縫合針」の曲げ剛性性質を示したものであることは当業者にとって自明である。さらに、上記摘記事項(イ)の「縫合針の実際の使用に際しては、・・・持針器1で保持された湾曲針3に前述の曲げる力Bの力が少しだけ掛かるのが常である。」との記載及び同摘記事項(オ)の「上記実施例1の方法を実施したところ、前記第4図に例示した曲げる力Cを有する湾曲針5bを得ることが出来た。」との記載から、「実施例1の方法」を実施することで、「手術用縫合針」の曲げ剛性性質は、第4図のグラフ「B」で示されるものから「C」へと改良するものであるといえる。



(キ)
上記摘記事項(ウ)の「本発明は、縫合針用のステンレス鋼製の針材を所望の曲率半径よりも小さい曲率半径に一旦曲げ加工した後で、少なくとも容易に曲率半径が大きくなる分だけ曲率半径を大きくして再加工する」及び上記摘記事項(エ)の「一旦円弧状に曲げられた湾曲針3は元へ戻ろうとする内部応力を持っている・・・第1図(A)に示す如く、ステンレス鋼製の直状針材5を同図(B)に示す如く、目的とする湾曲針の曲率半径より小さくなるように必要以上に強く曲げた湾曲針5aを作成し、次に同図(C)に示す如く湾曲針5aが少なくとも容易に元へ戻る分の角度を再加工によって戻す方向に変形させてやり、最終目的とする湾曲針5bを製造する。」との記載から、刊行物1に記載された「直状針材5」は、半径を有する円弧状の「湾曲針5a」を作製し、その後「再加工」により円弧状の「湾曲針5b」を製造するものであり、当該「再加工」は「戻す方向」への変形であるから実質的に逆屈曲させるものであることが理解できる。

イ. 刊行物1記載発明
上記記載事項(ア)ないし(オ)並びに上記認定事項(カ)及び(キ)を、技術常識を考慮しながら本願発明に照らして整理すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が、記載されていると認められる。

「ステンレス鋼製手術用縫合針を曲げ加工する方法において、
ステンレス鋼製の直状針材5を提供することと、
前記直状針材5を、所望の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する湾曲針5aに形成することと、
前記湾曲針5aを、所望の曲率半径を有する湾曲針5bに実質的に逆屈曲させることによって、前記直状針材5を、最終目的とする湾曲針5bに形成することと、
それにより、完成した屈曲している針の曲げ剛性性質を改良すること、
を含む方法」

(2) 刊行物2

ア. 刊行物2に記載された事項

(ア)
「【0001】
【発明の背景】本発明は、外科用針に関するものであり、特に、堅さと曲げ強度と延性とが望ましく高い組み合わせを示す針に関する。」

(イ)
「【0012】
【発明の要約】高い堅さと高い外科的降伏強度と良好な延性を示す無菌外科用針をタングステンからか或はレニウム、ロジウムおよびイリジウムから成る群から選択される1種以上の金属を約30重量%以下の量で含んでいるタングステン合金から製造することができることをここに見い出した。」

(ウ)
「【0023】次に、典型的には、所望の曲率半径を有するマンドレルの周りに巻くことによって、この針に所望の曲率を与える。」

(エ)
「【0027】
【実施例】
実施例1
図2に示すブロック図に従って真っすぐな針を加工した。下記の2つの組成物:タングステンワイヤーおよびタングステン-3%-レニウムワイヤー(両方とも最終直径は10ミル)から製造した本発明の針・・・」

(オ)
上記摘記事項(ウ)の「所望の曲率半径を有するマンドレルの周りに巻くことによって、この針に所望の曲率を与える。」との記載から、刊行物2に記載されたものは、所望の半径を有する屈曲形態に、「針」形成するものであるといえる。

イ. 刊行物2記載事項
上記摘記事項(ア)ないし(エ)並びに認定事項(オ)から、技術常識を考慮しつつ整理すると、刊行物2には、以下の事項(以下、「刊2事項」という。)が記載されていると認められる。

「高い堅さと高い外科的降伏強度と良好な延性を示す無菌外科用針を製造するために、タングステンレニウム合金ワイヤーから外科用針を製造し、その際に所望の半径を有する屈曲形態に形成する。」

4. 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
「ステンレス鋼」は金属合金の一種であることは明らかであるから、引用発明の「ステンレス鋼製手術用縫合針」は本願発明の「金属合金外科用縫合針」の下位概念である。
引用発明の「曲げ加工」は本願発明の「処理」の一種である。
引用発明の「ステンレス鋼製の直状針材5」は本願発明の「金属合金ブランク」に相当する。
引用発明の「湾曲針5b」は「湾曲針5a」を逆屈曲させて形成するものであるから、引用発明の「湾曲針5a」、「湾曲針5b」及び「最終目的とする湾曲針5b」は本願発明の「初期屈曲形態」、「最終屈曲形態」及び「最終的な所望の屈曲形態」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「湾曲針5a」の曲率半径は、引用発明の「湾曲針5b」の所望の曲率半径よりも小さいものであるから、この曲率半径の大きさの関係を鑑みれば、引用発明の「湾曲針5a」の曲率半径を「第1の半径」、引用発明の「湾曲針5b」の曲率半径を「第1半径よりも大きい第2半径」、と各々言い換えられるものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致し、かつ、相違する。

<一致点>
「金属合金外科用縫合針を処理する方法において、
金属合金ブランクを提供することと、
前記ブランクを、第1半径を有する初期屈曲形態に形成することと、
前記初期屈曲形態を、前記第1半径よりも大きい第2半径を有する最終屈曲形態に実質的に逆屈曲させることによって、前記ブランクを、最終的な所望の屈曲形態に形成することと、
それにより、完成した屈曲している前記ブランクの曲げ剛性性質を改良することと、
を含む、方法。」

<相違点>
本願発明の「ニードルブランク」は「耐火金属合金」を含むものであるのに対し、引用発明の「直状針材5」がそのようなものであるか明らかではない点。

5. 相違点に対する判断
本願明細書段落【0015】の「耐火金属合金は一般的に、耐火金属合金製造の技術分野で周知の従来の熱間引抜工程を使用してワイヤに引き抜かれる。・・・次に、目的の合金構成を達成するために、適切な比率でのタングステン及びレニウム粉末の圧密及び徹底した混合が行われる。」との記載から、タングステンレニウム合金は、「耐火合金材料」であるといえる。そうすると、上記3.(2)イ.の刊2事項の「タングステンレニウム合金ワイヤー」は、耐火合金材料である。そして、刊2事項の「高い堅さと高い外科的降伏強度と良好な延性を示す無菌外科用針」は、外科用針一般に求められる性質であるから、当然引用発明においても求められるものである。また、刊2事項の「外科用針」を製造する方法は、「所望の半径を有する屈曲形態に形成する」点で、引用発明と共通する加工方法であるから、引用発明の「直状針材5」の材料として、耐火合金を含むものを採用することは、刊2事項に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。

また、本願発明により得られる作用効果も、引用発明及び刊2事項から予測し得る範囲内のものであって、格別なものとはいえない。

6. まとめ
以上のとおり、本願発明は引用発明及び刊2事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-24 
結審通知日 2015-04-28 
審決日 2015-05-11 
出願番号 特願2010-539592(P2010-539592)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B21G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 見目 省二  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 三澤 哲也
久保 克彦
発明の名称 曲げ剛性を改良するために金属合金外科用縫合針を処理する方法  
代理人 大島 孝文  
代理人 加藤 公延  

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