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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 発明同一  C08J
管理番号 1321220
異議申立番号 異議2016-700028  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-15 
確定日 2016-08-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5749543号発明「熱硬化性樹脂組成物タブレットおよびそれを用いた半導体のパッケージ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5749543号の特許請求の範囲を訂正明細書に添付した特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1?11]について訂正することを認める。 特許第5749543号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5749543号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成23年4月1日に出願され、平成27年5月22日に特許の設定登録がされ、その後、その本件特許の請求項1ないし11に係る特許に対し、特許異議申立人 山崎浩一郎(以下、「異議申立人1」という。)及び特許異議申立人 東レ・ダウコーニング株式会社(以下、「異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年3月3日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年5月6日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正」という。)があり、さらに平成28年6月22日付けで異議申立人1及び異議申立人2から特許法第120条の5第5項に基づく意見書の提出があったものである。


第2 訂正請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(4)のとおりである。
(1)訂正事項ア
特許請求の範囲の請求項1に「(D)成分と(E)成分の合計の含有量が70?95重量%であり、」とあるのを、「(D)成分と(E)成分の合計の含有量が89?95重量%であり、」に訂正する。

(2)訂正事項イ
特許請求の範囲の請求項9に「成形してなり、表面の波長の470nmの光線反射率が90%以上である成形体。」とあるのを、「成形することを特徴とする表面の波長の470nmの光線反射率が90%以上である成形体の製造方法。」に訂正する。

(3)訂正事項ウ
特許請求の範囲の請求項10に「成形したことを特徴とする発光ダイオード用のパッケージ。」とあるのを、「成形することを特徴とする発光ダイオード用のパッケージの製造方法。」に訂正する。

(4)訂正事項エ
特許請求の範囲の請求項11に「請求項10に記載の」とあるのを、請求項10で引用する請求項8に従属するように訂正すると共に請求項10で規定する内容を追記し、また、「発光ダイオード用のパッケージを用いて製造された発光ダイオード。」とあるのを、「該パッケージを用いて発光ダイオードを製造することを特徴とする発光ダイオードの製造方法。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項ア
訂正事項アは、訂正前の請求項1の「(D)成分と(E)成分の合計の含有量」の下限を「70(重量%)」から「89(重量%)」に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項アは、実施例の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。そして、一群の請求項ごとにされたものである。
さらに、訂正事項アは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項イ
訂正前の請求項9には「成形体」という「物」の発明が、「熱硬化性樹脂組成物タブレットを成形してなり」と製造方法を含むものとして記載されていたところ、訂正事項イは、製造方法を含む「物」の発明を「成形体の製造方法」と「方法」の発明に訂正するものであって、発明の対象を明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項イは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、一群の請求項ごとにされたものである。

(3)訂正事項ウ
訂正前の請求項10には「発光ダイオード用のパッケージ」という「物」の発明が、「熱硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形してなり」と製造方法を含むものとして記載されていたところ、訂正事項ウは、製造方法を含む「物」の発明を「発光ダイオード用のパッケージの製造方法」と「方法」の発明に訂正するものであって、発明の対象を明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項ウは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、一群の請求項ごとにされたものである。

(4)訂正事項エ
訂正前の請求項11には「発光ダイオード」という「物」の発明が、「熱硬化性樹脂組成物タブレットを成形してなり」と製造方法を含むものとして記載されていたところ、訂正事項エは、製造方法を含む「物」の発明を「成形体の製造方法」と「方法」の発明に訂正するものであって、発明の対象を明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項エは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、一群の請求項ごとにされたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし11について訂正を認める。


第3 本件発明
上記第2 3.のとおり、本件訂正請求による訂正は認容されるので、特許第5749543号の請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」という。)は、平成28年5月6日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)白色顔料、(E)無機充填材、を必須成分として含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物タブレットであって、(A)および(B)の少なくとも一方が23℃における粘度が50Pa秒以下の液体であり、(D)成分と(E)成分の合計の含有量が89?95重量%であり、(D)成分と(E)成分の合計に占める12ミクロン以下の粒子の割合が40体積%以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項2】
(D)成分が平均粒子径0.30μm以下の酸化チタンであることを特徴とする、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項3】
(D)成分の含有量が、10重量%以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項4】
(E)成分が球状シリカであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項5】
(D)成分が有機シロキサンにより表面処理された酸化チタンであることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項6】
(A)成分が有機骨格を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項7】
さらに(F)成分として、SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも1個含有するシリコーン化合物を含むことを特徴とする、請求項6に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットからなる発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットを成形することを特徴とする表面の波長470nmの光線反射率が90%以上である成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形することを特徴とする発光ダイオード用のパッケージの製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形して、発光ダイオード用のパッケージを製造し、該パッケージを用いて発光ダイオードを製造することを特徴とする発光ダイオードの製造方法。」


第4 取消理由の概要

当審において平成28年3月3日付けで通知した取消理由の概要は、
・本件特許の請求項10?11に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された特開2005-146191号公報(異議申立人2が提出した異議申立書の証拠方法である甲第1号証。以下、「甲1」ともいう。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない(以下、「取消理由1」という。)、
・本件特許の請求項9?11に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない(以下、「取消理由2」という。)、
・本件特許の請求項1?4、8?11に係る発明は、本件特許の優先日前の出願であって、その優先日後に出願公開された特願2010-1539号(以下、「甲5」という。特開2011-140550号公報参照。異議申立人2による異議申立書の証拠方法である甲第5号証、及び異議申立人1による異議申立書の証拠方法である甲第7号証。)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が当該特許出願に係る当該発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願時において、その出願人が当該特許出願の出願人と同一でもないので、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない(以下、「取消理由3」という。)、
・本件特許に係る出願は、その発明の詳細な説明が、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものでなく、また、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない(以下、「取消理由4」という。)
というものである。


第5 当合議体の判断

1.甲1
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。

「【請求項1】
(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒を必須成分として含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物からなる半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
上記半導体が発光ダイオードであることを特徴とする請求項1に記載のパッケージ用硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに(D)無機フィラーを含有することを特徴とする、請求項1あるいは2のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(D)成分の無機フィラーが酸化チタンあるいは/およびシリカであることを特徴とする請求項3に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物をBステージ化したことを特徴とする半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を成形したことを特徴とする半導体のパッケージ。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物であって、150℃以下の温度で流動性を有し、かつ150℃におけるゲル化時間が60秒以内である硬化性樹脂組成物を、トランスファー成形により成形したことを特徴とする半導体のパッケージ。
【請求項8】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を成形したことを特徴とする半導体のパッケージであって、前記半導体が発光ダイオードであり、かつ前記パッケージに発光ダイオードから発した光が照射されるように設計された半導体のパッケージ。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物を用いて製造された半導体。」(特許請求の範囲請求項1?9)


「(実施例1)
本発明の(A)成分としてトリアリルイソシアヌレート20.00g、本発明の(B)成分として合成例1で得た生成物29.78g、本発明の(C)成分として白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0251g、1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.147gを混合して硬化性組成物とした。このものに本発明の(D)成分として酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークR820)24.98g、および溶融シリカ(株式会社龍森製、ヒューズレックスRD-8)249.8gを添加し、セラミック製の3本ロールを用いて3回混練し、本発明の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物とした。このものは室温では固いペースト状であるが、少量を150℃に加熱した熱板上に置くと一旦低粘度化して流動状態となり40秒後にゲル化した。
この半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を株式会社丸七鉄工所製MF-0型トランスファー成形機を用いてトランスファー成形を行った。10x10x3mmの試験片6個取りの金型を用いて、原料ポット温度:室温、金型温度:150℃、成形圧力:70kgf/cm^(2)、成形時間:60秒の条件で成形を行ったところ、バリ、クラック、ボイド等のない良好な成形体を得た。また、44x10x5mmの試験片4個取りの金型を用いて、原料ポット温度:室温、金型温度:140℃、成形圧力:70kgf/cm^(2)、成形時間:120秒の条件で成形を行ったところ、バリ、クラック、ボイド等のない良好な成形体を得た。得られた成形体を空気下150℃の熱風循環オーブン中で1時間加熱して後硬化させ、白色の硬化物を得た。」(【0251】?【0252】)

(2)甲1に記載された発明
上記の摘示ア及び摘示イから、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

「(A)成分としてトリアリルイソシアヌレート20.00g、(B)成分として5Lの四つ口フラスコに、攪拌装置、滴下漏斗、冷却管をセットし、このフラスコにトルエン1800g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン1440gを入れ、120℃のオイルバス中で加熱、攪拌し、トリアリルイソシアヌレート200g、トルエン200g及び白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)1.44mlの混合液を50分かけて滴下して得られた溶液をそのまま6時間加温、攪拌した後、未反応の1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン及びトルエンを減圧留去して得た生成物29.78g、(C)成分として白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0251g、1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.147gを混合した硬化性組成物に、(D)成分として酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークR820)24.98g、および溶融シリカ(株式会社龍森製、ヒューズレックスRD-8)249.8gを添加し、セラミック製の3本ロールを用いて3回混練して得られた半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を株式会社丸七鉄工所製MF-0型トランスファー成形機を用いて、44x10x5mmの試験片4個取りの金型を用いて、原料ポット温度:室温、金型温度:140℃、成形圧力:70kgf/cm^(2)、成形時間:120秒の条件でトランスファー成形して得た成形体を空気下150℃の熱風循環オーブン中で1時間加熱して後硬化させる白色の硬化物。」 (以下「甲1発明」という。)

また、甲1発明を甲1発明に係る「物」の製造方法に着目して記載を改めると、以下の発明も記載されているといえる。

「(A)成分としてトリアリルイソシアヌレート20.00g、(B)成分として5Lの四つ口フラスコに、攪拌装置、滴下漏斗、冷却管をセットし、このフラスコにトルエン1800g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン1440gを入れ、120℃のオイルバス中で加熱、攪拌し、トリアリルイソシアヌレート200g、トルエン200g及び白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)1.44mlの混合液を50分かけて滴下して得られた溶液をそのまま6時間加温、攪拌した後、未反応の1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン及びトルエンを減圧留去して得た生成物29.78g、(C)成分として白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0251g、1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.147gを混合した硬化性組成物に、(D)成分として酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークR820)24.98g、および溶融シリカ(株式会社龍森製、ヒューズレックスRD-8)249.8gを添加し、セラミック製の3本ロールを用いて3回混練して得られた半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を株式会社丸七鉄工所製MF-0型トランスファー成形機を用いて、44x10x5mmの試験片4個取りの金型を用いて、原料ポット温度:室温、金型温度:140℃、成形圧力:70kgf/cm^(2)、成形時間:120秒の条件でトランスファー成形して得た成形体を空気下150℃の熱風循環オーブン中で1時間加熱して後硬化させる白色の硬化物の製造方法。」 (以下「甲1方法発明」という。)

2.甲5
(1)甲5の記載
甲5には、以下の記載がある。


「【請求項1】
(A)下記(a-1)及び(a-2)より成るシリコーン樹脂
(a-1)平均組成式(1)で示され、重量平均分子量(Mw)が30,000以上であるビニル基含有オルガノポリシロキサン 100質量部
【化1】

(R^(1)は互いに独立に非置換又は置換の1価炭化水素基であり、但し、R^(1)で示される基の0.05?45モル%はビニル基であり、d、e及びfはd/(d+e+f)=0.65?1、e/(d+e+f)=0?0.35、f/(d+e+f)=0?0.05を満たす数である)
(a-2)一分子中にケイ素結合水素原子を少なくとも2個有し、上記(a-1)成分中のビニル基1個あたりケイ素結合水素原子を0.5?3.0個与えるのに十分な量のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(B)白色顔料 3?200質量部
(C)前記白色顔料以外の無機充填剤 400?1000質量部
(D)白金金属系触媒 触媒量
(E)反応制御剤 触媒量
より成り、硬化後の可視光平均反射率が80%以上である付加硬化型シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a-1)成分の式(1)中に示されるd、e及びfがd/(d+e+f)=0.75?0.95、e/(d+e+f)=0.05?0.25、f/(d+e+f)=0?0.05を満たす数であることを特徴とする、請求項1に記載の付加硬化型シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
室温での可使時間が8時間以上であり、180℃±5℃における熱時硬度(ショアーD)が60以上であることを特徴とする、請求項1?2のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物の硬化物よりなる光学素子用ケース及びケース基板。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項に記載のシリコーン樹脂組成物を、成形温度120℃から190℃で30秒?500秒でトランスファー成形、又は120℃?190℃で30?600秒で圧縮成形することにより光学素子用ケース及びケース基板を成形する方法。」(特許請求の範囲請求項1?5)


「(a-1)オルガノポリシロキサンの調製
[合成例1]
フェニルトリクロルシラン1,057.7質量部、メチルトリクロルシラン854.3質量部、ジフェニルジクロルシラン180.7質量部、メチルビニルジクロルシラン402.9質量部、及びイソプロピルアルコール216質量部、トルエン1,567質量部からなる混合物を水6,535質量部中で激しく撹拌を行い、60分間で滴下した。更に60分間撹拌を行った後、中性となるまで水洗した。水洗後、シロキサン濃度を25質量%のトルエン溶液とし、水酸化カリウム0.42質量部を添加し、5時間加熱還流して重合した。次いでトリメチルクロルシラン13.8質量部を添加し、室温で60分間撹拌を行い、中和した。中和後、濾過してトルエンを留去することで、下記平均組成式(5)で示される無色透明なオルガノポリシロキサン(重量平均分子量は60,000)1110質量部を得た。得られたオルガノポリシロキサン中に含まれる、各シロキサン単位のモル比は、T単位(d)74モル%、D単位(e)25モル%、M単位(f)1モル%であり、全有機基に占めるビニル基の割合は10モル%であった。
【化7】

(式中、Phはフェニル基、Meはメチル基、Viはビニル基を意味する。)

[実施例1?6、比較例1?4]
合成例1で合成したオルガノポリシロキサン(a-1)100質量部に、下記式
【化8】

で示される(a-2)オルガノハイドロジェンポリシロキサン30質量部(SiH基/SiVi基=0.96(モル比))、(D)触媒として白金含有量が2質量%の塩化白金酸アルコール溶液0.1質量部、(E)反応制御剤として1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン2質量部を熱2本ロールにて均一に混合した。
上記混合物に下記白色顔料及び無機充填剤を表1に示す配合量で加え、熱2本ロールにて均一に溶融混合し、冷却、粉砕して得られたものを実施例1?6及び比較例1?4のシリコ-ン樹脂組成物とし、各種特性を測定した。結果を表1に示す。
(B)白色顔料
二酸化チタン:ルチル型(0.29μm)(R-45M:堺化学工業(株)製商品名)
(C)無機充填剤
溶融球状シリカ:平均粒径30μm(FB-570:電気化学工業(株)製)」(【0056】?【0059】)

(2)甲5に記載された発明
上記の摘示ウ及び摘示エから、甲5には、以下の発明が記載されているといえる。

「フェニルトリクロルシラン1,057.7質量部、メチルトリクロルシラン854.3質量部、ジフェニルジクロルシラン180.7質量部、メチルビニルジクロルシラン402.9質量部、及びイソプロピルアルコール216質量部、トルエン1,567質量部からなる混合物を水6,535質量部中で激しく撹拌を行い、60分間で滴下し、更に60分間撹拌を行った後、中性となるまで水洗した後、シロキサン濃度を25質量%のトルエン溶液とし、水酸化カリウム0.42質量部を添加し、5時間加熱還流して重合し、次いでトリメチルクロルシラン13.8質量部を添加し、室温で60分間撹拌を行い、中和した後、濾過してトルエンを留去することで得られた、下記平均組成式(5)

で示される無色透明なオルガノポリシロキサン(重量平均分子量は60,000で、各シロキサン単位のモル比は、T単位(d)74モル%、D単位(e)25モル%、M単位(f)1モル%であり、全有機基に占めるビニル基の割合は10モル%。)(a-1)100質量部に、下記式【化8】

で示される(a-2)オルガノハイドロジェンポリシロキサン30質量部(SiH基/SiVi基=0.96(モル比))、(D)触媒として白金含有量が2質量%の塩化白金酸アルコール溶液0.1質量部、(E)反応制御剤として1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン2質量部を熱2本ロールにて均一に混合した混合物に、白色顔料として二酸化チタン(ルチル型(0.29μm)(R-45M:堺化学工業(株)製商品名))100質量部及び無機充填剤として溶融球状シリカ(平均粒径30μm(FB-570:電気化学工業(株)製))560質量部を加え、熱2本ロールにて均一に溶融混合し、冷却、粉砕して得られたシリコ-ン樹脂組成物。」 (以下、「甲5発明」という。)

また、甲5発明を甲5発明に係る「物」の製造方法に着目して記載を改めると、以下の発明も記載されているといえる。

「フェニルトリクロルシラン1,057.7質量部、メチルトリクロルシラン854.3質量部、ジフェニルジクロルシラン180.7質量部、メチルビニルジクロルシラン402.9質量部、及びイソプロピルアルコール216質量部、トルエン1,567質量部からなる混合物を水6,535質量部中で激しく撹拌を行い、60分間で滴下し、更に60分間撹拌を行った後、中性となるまで水洗した後、シロキサン濃度を25質量%のトルエン溶液とし、水酸化カリウム0.42質量部を添加し、5時間加熱還流して重合し、次いでトリメチルクロルシラン13.8質量部を添加し、室温で60分間撹拌を行い、中和した後、濾過してトルエンを留去することで得られた、下記平均組成式(5)

で示される無色透明なオルガノポリシロキサン(重量平均分子量は60,000で、各シロキサン単位のモル比は、T単位(d)74モル%、D単位(e)25モル%、M単位(f)1モル%であり、全有機基に占めるビニル基の割合は10モル%。)(a-1)100質量部に、式【化8】

で示される(a-2)オルガノハイドロジェンポリシロキサン30質量部(SiH基/SiVi基=0.96(モル比))、(D)触媒として白金含有量が2質量%の塩化白金酸アルコール溶液0.1質量部、(E)反応制御剤として1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン2質量部を熱2本ロールにて均一に混合した混合物に、白色顔料として二酸化チタン(ルチル型(0.29μm)(R-45M:堺化学工業(株)製商品名))100質量部及び無機充填剤として溶融球状シリカ(平均粒径30μm(FB-570:電気化学工業(株)製))560質量部を加え、熱2本ロールにて均一に溶融混合し、冷却、粉砕して得られたシリコ-ン樹脂組成物の製造方法。」 (以下、「甲5方法発明」という。)

3.本件特許発明1の検討
(1)本件特許発明1に対する取消理由
取消理由3、取消理由4

(2)取消理由3について
ア 本件特許発明1と甲5発明との対比
甲5発明における「(a-2)オルガノハイドロジェンポリシロキサン」及び「(D)白金含有量が2質量%の塩化白金酸アルコール溶液」は、それぞれ本件特許発明1における「(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物」及び「(C)ヒドロシリル化触媒」に相当し、甲5発明における「オルガノポリシロキサン(a-1)」は、その重量平均分子量及び全有機基に占めるビニル基の割合からみて、少なくともビニル基を2個含有する化合物であるといえるから、本件特許発明1における「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物」に相当する。なお、甲5発明の樹脂組成物は、「白色顔料」と「無機充填材」の合計の含有量が83.3重量%である。
そうすると、本件特許発明1と甲5発明とは、以下の点で一致、相違する。

(一致点)
「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)白色顔料、(E)無機充填材、を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物。」

(相違点1)
本件特許発明1における熱硬化性樹脂組成物は「(D)成分と(E)成分の合計の含有量」が「89?95重量%」であるのに対し、甲5発明の樹脂組成物は「83.3%」である点。
(相違点2)
本件特許発明1における熱硬化性樹脂組成物は「(A)および(B)の少なくとも一方が23℃における粘度が50Pa秒以下の液体である」のに対し、甲5発明の樹脂組成物は、(A)および(B)の23℃における粘度が特定されていない点。
(相違点3)
本件特許発明1における熱硬化性樹脂組成物は「(D)成分と(E)成分の合計に占める12ミクロン以下の粒子の割合が40体積%以上である」のに対し、甲5発明の樹脂組成物は、(D)成分と(E)成分の合計に占める12ミクロン以下の粒子の割合が不明である点。
(相違点4)
本件特許発明1は「熱硬化性樹脂組成物タブレット」に係る発明であるのに対し、甲5発明の熱硬化性樹脂組成物は「樹脂組成物」に係る発明であり、「樹脂組成物タブレット」に係る発明ではない点。

イ 当審の判断
相違点1について、本件特許発明1と甲5発明とで、「(D)成分と(E)成分の合計の含有量」とに重複はない(前者は「89?95重量%」、後者は「83.3重量%」である)から、相違点1は実質的な相違点である。
そうしてみると、相違点2?相違点4を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5発明、すなわち甲5の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であるとすることができない。

(3)取消理由4についての判断
本件特許発明1は、白色顔料(D)と無機充填剤(E)の含有量の下限を89重量%とするものであって、本願明細書【0239】?【0241】の記載を踏まえるならば、この点により、「(D)成分と(E)成分の合計に占める12ミクロン以下の粒子の割合が40体積%以上」と相まって、「熱硬化性樹脂組成物」を「タブレット」とすることができるものと理解することができる。
そうしてみると、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認める。

(4)小括
本件特許発明1は、取消理由3、取消理由4によっては取り消すことができない。

4.本件特許発明2?4の検討
(1)本件特許発明2?4に対する取消理由
取消理由3、取消理由4

(2)取消理由3についての判断
本件特許発明2ないし4は、請求項1を引用するものである。そうすると、上記3.(2)イに記載したように、本件特許発明1は、甲5発明、すなわち甲5の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一でないので、本件特許発明2ないし4も甲5発明と同一であるとすることができない。

(3)取消理由4についての判断
本件特許発明2ないし4は、請求項1を引用するものである。そうすると、上記3.(3)に記載したように、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明2ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認める。

(4)小括
本件特許発明2ないし4は、取消理由3、取消理由4によっては取り消すことができない。

5.本件特許発明8の検討
(1)本件特許発明8に対する取消理由
取消理由3、取消理由4

(2)取消理由3についての判断
本件特許発明8は、請求項1ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用するものであって、請求項2ないし7は請求項1を直接的に又は間接的に引用するものである。
上記3.(2)イに記載したように、本件特許発明1は、甲5発明、すなわち甲5の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一でなく、また、上記4.(2)に記載したように、本件特許発明2ないし4は、甲5発明、すなわち甲5の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一でないので、本件特許発明8も甲5発明と同一であるとすることができない。

(3)取消理由4についての判断
本件特許発明8は、請求項1ないし7を引用するものである。上記3.(3)、上記4(3)に記載したように、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認める。

(4)小括
本件特許発明8は、取消理由3、取消理由4によっては取り消すことができない。

6.本件特許発明9の検討
(1)本件特許発明9に対する取消理由
取消理由2、取消理由3、取消理由4

(2)取消理由2について
ア 本件特許発明9と甲1方法発明との対比
本件訂正により、本件特許発明9は「製造方法」の発明となった。
そして、本件特許発明9は、請求項1ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用するものであるので、まずは本件特許発明9を「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットを成形することを特徴とする表面の波長470nmの光線反射率が90%以上である成形体の製造方法」とした上で、甲1発明ではなく甲1方法発明と対比する。
甲1方法発明における「トリアリルイソシアヌレート」、「白金ビニルシロキサン錯体」、「酸化チタン」及び「溶融シリカ」は、それぞれ本件特許発明9において引用する本件特許発明1の「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物」、「C)ヒドロシリル化触媒」、「(D)白色顔料」、及び「(E)無機充填材」に相当する。そして、甲1方法発明において(B)成分として配合される「生成物」は、本件特許の明細書の【0333】に記載された(合成例1)と同一の出発物質から同一の製造方法を用いて製造されていることから、同【0334】に記載された【化47】で表される構造を有する化合物であるといえるので、当該「生成物」は、本件特許発明9において引用する本件特許発明1の「(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物」に相当し、その23℃における粘度は、本件特許の明細書の【0336】の【表1】の記載からみて、50Pa秒以下であるといえる。さらに、甲1方法発明で製造される「白色の硬化物」は、「半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物」を140℃の金型温度でトランスファー成形して得られていることから、本件特許発明9で製造される「成形体」に相当する。なお、甲1方法発明の硬化性樹脂組成物の「酸化チタン」と「溶融シリカ」の合計の含有量は、「84.6重量%」である。

そうすると、本件特許発明9と甲1方法発明とは以下の点で一致、相違する。

(一致点)
「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)白色顔料、(E)無機充填材、を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物であって、(A)および(B)の少なくとも一方が23℃における粘度が50Pa秒以下の液体である熱硬化性樹脂組成物を成形する成形体の製造方法。」

(相違点1)
本件特許発明9では、熱硬化性樹脂組成物を「タブレット」にして成形体の製造に用いるのに対し、甲1方法発明では、成形体の製造に用いる熱硬化性樹脂組成物の形状の特定がなされていない点。
(相違点2)
使用される「硬化性樹脂組成物」中の「(D)成分と(E)成分の合計の含有量」に関し、本件特許発明9では「89?95重量%」であるのに対して、甲1方法発明では「84.6重量%」である点。
(相違点3)
使用される「硬化性樹脂組成物」中の「(D)成分と(E)成分の合計に占める12ミクロン以下の粒子の割合」に関して、本件特許発明9では、「40体積%以上」と特定されているのに対し、甲1方法発明では、その割合が不明である点。
(相違点4)
本件特許発明9で製造される成形体の「表面の波長470nmの光線反射率が90%以上である」のに対し、甲1方法発明で製造される成形体は、表面の波長470nmの光線反射率が不明である点。

イ 当審の判断
相違点1に関して、甲1には、甲1の熱硬化性樹脂組成物をどのような形態で用いるかについての記載はなく、タブレット形状で使用することについても同様に記載も示唆もなされていない。
この点で、異議申立人1は、参考文献を示した上で、「熱硬化性樹脂組成物をタブレット形状で使用することは本願優先権主張時に周知・慣用技術」であるとし、また、異議申立人2も同様に「トランスファー成形に際してタブレットを用いることは周知の技術であり、タブレットを用いれば常温でのハンドリング性が良好で、成形時の生産性が向上することはいうまでもありません」とするので、以下検討する。
まず、上記1(1)イの甲1の摘示イによれば、甲1方法発明の熱硬化性樹脂組成物は「室温では固いペースト状」であって、それをそのまま「株式会社丸七鉄工所製MF-0型トランスファー成形機」でトランスファー成形していることが認められる。
一方、異議申立人1及び異議申立人2が提出した参考資料には、
(ア)「粉末状の封止用成形材料は、顧客の要求に応じた重量及び寸法の円柱状の封止材タブレットに打錠成形されることが多い。」(異議申立人1が提出した参考資料1、特開2007-258744号公報【0002】)、
(イ)「トランスファ成形では成形材料は熱硬化性樹脂の粉末を加圧成形したタブレットの形で取り扱い、このタブレットを高周波予熱したのち成形機に投入するのが普通である。従って、トランスファ成形の自動機に対しても成形材料はタブレットの形で供給されるが普通である。」(異議申立人2が提出した参考資料5、特開平5-41395号公報【0001】)、
(ウ)「トランスファー成型方法を適用する場合には、予め上記のシリコーン樹脂組成物を室温付近の低温で圧縮成型して円筒状など所定形状のタブレットに成形し、これをトランスファー成型することが望ましい。」(異議申立人2が提出した参考資料6、特開2008-27966号公報【0047】)、
(エ)「トランジスタ、IC、LSI等の半導体素子をエポキシ樹脂組成物によって樹脂封止する場合、一般にトランスファー成形法が用いられている。このようなトランスファー成形法では、一般にエポキシ樹脂組成物からなるタブレットが用いられ、」(異議申立人2が提出した参考資料7、特開2009-188142号公報【0002】)
の記載があり、熱硬化性樹脂組成物をタブレットにして用いることが知られていることは認められる。
しかしながら、その一方で、上記の(ア)、(イ)のみならず、
・「得られた封止用成形材料を冷却して、常温下でハンマーミルにより粉砕した後、Fig.1?Fig.2に示したロータリー式タブレット成形機30を用いて封止材タブレットを製造した。」(特開2007-258744号公報【0072】)
・「トランスファ成形では成形材料は熱硬化性樹脂の粉末を加圧成形したタブレットの形で取り扱い、このタブレットを高周波予熱したのち成形機に投入するのが普通である。」(特開平5-41395号公報【0001】)
・「このようなタブレットは、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤、離型剤、難燃剤および着色剤等を配合すると共に、全体の50?90重量%の無機充填材を配合したものをミキサーで混合し、これをロールあるいは押出機によりシート状とし、さらにハンマーミル等を用いて粉末状に粉砕したものをタブレット状に打錠成形することで製造されている」(特開2009-188142号公報【0002】)
と記載されているように、そのような熱硬化性樹脂組成物をタブレット形状とするには、粉末状のものから加工することが一般的であることも認められる。
そうしてみると、甲1方法発明で使用されている熱硬化性樹脂組成物は「室温では固いペースト状」であって、甲1方法発明ではそれをそのままトランスファー成形に用いることができているから、そのような熱硬化性樹脂組成物をわざわざ粉末状にして、その後タブレット形状としてからトランスファー成形しようという動機付けがあるとは認めることができない。
以上のことから、請求項1に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明9は、相違点2?相違点4を検討するまでもなく、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
さらに、請求項2ないし7は、請求項1を直接的に又は間接的に引用するものであるから、請求項2ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明9も、同様に、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
そうしてみると、本件特許発明9は、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとすることができない。

(3)取消理由3についての判断
上記(2)と同様に、まずは、本件特許発明9を「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットを成形することを特徴とする表面の波長470nmの光線反射率が90%以上である成形体の製造方法」として、甲5方法発明と対比を行い、判断する。
上記3.(2)と同様に、両者は、「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)白色顔料、(E)無機充填材、を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物」を用いる点では同一であるが、「(D)成分と(E)成分の合計の含有量」の点で相違するものである。そうしてみると、「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明9と甲5方法発明とは同一ではない。
そして、請求項2ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明9と甲5方法発明とも同様に同一ではない。
本件特許発明9は、甲5発明、すなわち甲5の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であるとすることができない。

(4)取消理由4についての判断
本件特許発明9は、請求項1ないし7を引用するものである。上記3.(3)、上記4(3)に記載したように、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認める。

(5)小括
本件特許発明9は、取消理由2ないし取消理由4によっては取り消すことができない。

7.本件特許発明10の検討
(1)本件特許発明10に対する取消理由
取消理由1、取消理由2、取消理由3、取消理由4

(2)取消理由1についての当判断
本件訂正により、本件特許発明10は「製造方法」の発明となったので、上記6(2)と同様に、これを甲1方法発明と対比することとする。なおその際には、本件特許発明10は請求項8を引用するものであるところ、請求項8は請求項1ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用するものであるから、まずは本件特許発明10を「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットからなる発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形することを特徴とする発光ダイオード用のパッケージの製造方法。」として、対比することとする。
上記6.(2)アと同様に、甲1方法発明における「トリアリルイソシアヌレート」、「白金ビニルシロキサン錯体」、「酸化チタン」及び「溶融シリカ」は、それぞれ本件特許発明10において引用する本件特許発明1の「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物」、「C)ヒドロシリル化触媒」、「(D)白色顔料」、及び「(E)無機充填材」に相当する。そして、甲1方法発明において(B)成分として配合される「生成物」は、本件特許の明細書の【0333】に記載された(合成例1)と同一の出発物質から同一の製造方法を用いて製造されていることから、同【0334】に記載された【化47】で表される構造を有する化合物であるといえるので、当該「生成物」は、本件特許発明10において引用する本件特許発明1の「(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物」に相当し、その23℃における粘度は、本件特許の明細書の【0336】の【表1】の記載からみて、50Pa秒以下であるといえる。なお、甲1方法発明の硬化性樹脂組成物の「酸化チタン」と「溶融シリカ」の合計の含有量は、「84.6重量%」である。
そうしてみると両者は、「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)白色顔料、(E)無機充填材、を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物」を用いる点では同一であるが、「(D)成分と(E)成分の合計の含有量」との点で相違するもの(「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明10では「89?95重量%」であるのに対して、甲1方法発明では「84.6重量%」)である。そうしてみると、「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明10と甲1方法発明とは同一ではない。
そして、請求項2ないし7は、請求項1を直接的に又は間接的に引用するものであるから、請求項2ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明10と甲1方法発明とは同様に同一ではない。
本件特許発明10は、甲1方法発明、すなわち甲1に記載された発明であるとすることができない。

(3)取消理由2についての判断
上記(2)と同様に、まずは本件特許発明10を「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットからなる発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形することを特徴とする発光ダイオード用のパッケージの製造方法。」として、甲1方法発明と対比する。
上記6.(2)で検討したように、「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット」を用いる本件特許発明10は、少なくとも、
本件特許発明10では、熱硬化性樹脂組成物を「タブレット」にして製造に用いるのに対し、甲1方法発明では、製造に用いる熱硬化性樹脂組成物の形状の特定がなされていない点
で相違するが、当業者が、甲1方法発明の熱硬化性樹脂組成物を「タブレット」として用いることを容易に想到するものとすることができない。
そして、請求項2ないし7は、請求項1を直接的に又は間接的に引用するものであるから、請求項2ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明10についても同様である。
そうしてみると、本件特許発明10は、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとすることができない。

(4)取消理由3についての判断
上記(2)と同様に、まずは本件特許発明10を「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットからなる発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形することを特徴とする発光ダイオード用のパッケージの製造方法。」として、甲5方法発明と対比する。
上記3.(2)でと同様に、両者は、「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)白色顔料、(E)無機充填材、を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物」を用いる点では同一であるが、「(D)成分と(E)成分の合計の含有量」の点で相違するものである。そうしてみると、「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明10と甲5方法発明とは同一ではない。
そして、請求項2ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明10と甲5方法発明とも同様に同一ではない。
本件特許発明10は、甲5発明、すなわち甲5の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であるとすることができない。

(5)取消理由4についての判断
本件特許発明10は、請求項8を引用するものである。そうすると、上記5.(3)に記載したように、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認める。

(6)小括
本件特許発明10は、取消理由1ないし取消理由4によっては取り消すことができない。

8.本件特許発明11の検討
(1)本件特許発明11に対する取消理由
取消理由1、取消理由2、取消理由3、取消理由4

(2)取消理由1についての判断
本件訂正により、請求項11は「製造方法」の発明となったので、上記6(2)と同様に、これを甲1方法発明と対比することとする。なおその際には、本件特許発明11は請求項8を引用するものであるところ、請求項8は請求項1ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用するものであるから、まずは本件特許発明11を「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットからなる発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形して、発光ダイオード用のパッケージを製造し、該パッケージを用いて発光ダイオードを製造することを特徴とする発光ダイオードの製造方法。」として、対比することとする。
上記7.(2)と同様に、両者は、「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)白色顔料、(E)無機充填材、を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物」を用いる点では同一であるが、「(D)成分と(E)成分の合計の含有量」との点で相違するものである。そうしてみると、「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明11と甲1方法発明とは同一ではない。
そして、請求項2ないし7は、請求項1を直接的に又は間接的に引用するものであるから、請求項2ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明11と甲1方法発明とは同様に同一ではない。
本件特許発明11は、甲1方法発明、すなわち甲1に記載された発明であるとすることができない。

(3)取消理由2についての判断
上記(2)と同様に、まずは本件特許発明11を「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットからなる発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形して、発光ダイオード用のパッケージを製造し、該パッケージを用いて発光ダイオードを製造することを特徴とする発光ダイオードの製造方法。」として、甲1方法発明と対比する。
上記6.(2)で検討したように、「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット」を用いる本件特許発明11は、少なくとも、
本件特許発明11では、熱硬化性樹脂組成物を「タブレット」にして製造に用いるのに対し、甲1方法発明では、製造に用いる熱硬化性樹脂組成物の形状の特定がなされていない点
で相違するが、当業者が、甲1方法発明の熱硬化性樹脂組成物を「タブレット」として用いることを容易に想到するものとすることができない。
そして、請求項2ないし7は、請求項1を直接的に又は間接的に引用するものであるから、請求項2ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明11についても同様である。
そうしてみると、本件特許発明11は、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明することができたものとすることができない。

(4)取消理由3についての判断
上記(2)と同様に、まずは本件特許発明11を「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットからなる発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形して、発光ダイオード用のパッケージを製造し、該パッケージを用いて発光ダイオードを製造することを特徴とする発光ダイオードの製造方法。」として、甲5方法発明と対比する。
上記3.(2)でと同様に、両者は、「(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)白色顔料、(E)無機充填材、を必須成分として含有する熱硬化性樹脂組成物」を用いる点では同一であるが、「(D)成分と(E)成分の合計の含有量」の点で相違するものである。そうしてみると、「請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明11と甲5方法発明とは同一ではない。
そして、請求項2ないし7に記載の「熱硬化性樹脂組成物タブレット」を引用する本件特許発明11と甲5方法発明とも同様に同一ではない。
本件特許発明11は、甲5発明、すなわち甲5の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であるとすることができない。

(5)取消理由4についての判断
本件特許発明11は、請求項8を引用するものである。そうすると、上記5.(3)に記載したように、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明11を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認める。

(6)小括
本件特許発明11は、取消理由1ないし取消理由4によっては取り消すことができない。

9.まとめ
上記のとおり、取消理由1ないし4によっては、本件特許を取り消すことができない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒、(D)白色顔料、(E)無機充填材、を必須成分として含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物タブレットであって、(A)および(B)の少なくとも一方が23℃における粘度が50Pa秒以下の液体であり、(D)成分と(E)成分の合計の含有量が89?95重量%であり、(D)成分と(E)成分の合計に占める12ミクロン以下の粒子の割合が40体積%以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項2】
(D)成分が平均粒子径0.30μm以下の酸化チタンであることを特徴とする、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項3】
(D)成分の含有量が、10重量%以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項4】
(E)成分が球状シリカであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項5】
(D)成分が有機シロキサンにより表面処理された酸化チタンであることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項6】
(A)成分が有機骨格を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項7】
さらに(F)成分として、SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも1個含有するシリコーン化合物を含むことを特徴とする、請求項6に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットからなる発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物タブレット。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットを成形することを特徴とする表面の波長470nmの光線反射率が90%以上である成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形することを特徴とする発光ダイオード用のパッケージの製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の熱硬化性樹脂組成物タブレットを用いてトランスファー成形して、発光ダイオード用のパッケージを製造し、該パッケージを用いて発光ダイオードを製造することを特徴とする発光ダイオードの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-08-01 
出願番号 特願2011-81753(P2011-81753)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深谷 陽子  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 守安 智
大島 祥吾
登録日 2015-05-22 
登録番号 特許第5749543号(P5749543)
権利者 株式会社カネカ
発明の名称 熱硬化性樹脂組成物タブレットおよびそれを用いた半導体のパッケージ  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  

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