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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1321224
異議申立番号 異議2016-700114  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-12 
確定日 2016-08-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5762810号発明「タイヤ内面用離型剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5762810号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5762810号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5762810号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成23年4月25日に特許出願され、平成27年6月19日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人中川賢治(以下、単に「特許異議申立人」という。)により請求項1ないし5に係る特許について特許異議の申立てがされ、平成28年3月29日付けで請求項1ないし5に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年5月20日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年6月3日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知がされ、その指定期間内である同年7月8日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。



第2 訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項(1)及び(2)のとおりである。

訂正事項(1) 請求項1において、
「前記シリコーン成分がシリコーンオイルであり、」
との特定を追加する。請求項1を引用する請求項2ないし5も同様に訂正する。

訂正事項(2) 請求項1の
「前記多価アルコールが、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサプロピレングリコール、ジブチレングリコール、トリブチレングリコール、テトラブチレングリコール、ペンタブチレングリコール、ヘキサブチレングリコール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ジメチルペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオ-ル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトール及びトリペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種である」

「前記多価アルコールが、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ジメチルペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオ-ル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトール及びトリペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種である」に訂正する(下線部は、当審において付加した。)。請求項1を引用する請求項2ないし5も同様に訂正する。

2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項(1)の訂正は請求項1において、シリコーン成分について、本件特許明細書の段落【0012】の記載に基づき「前記シリコーン成分がシリコーンオイルであり」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、この訂正は一群の請求項ごとに適法に請求されたものである。

上記訂正事項(2)の訂正は請求項1において、多価アルコールについて、「前記多価アルコールが、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサプロピレングリコール、ジブチレングリコール、トリブチレングリコール、テトラブチレングリコール、ペンタブチレングリコール、ヘキサブチレングリコール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ジメチルペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオ-ル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトール及びトリペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種である」との特定から、「トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサプロピレングリコール、ジブチレングリコール、トリブチレングリコール、テトラブチレングリコール、ペンタブチレングリコール、ヘキサブチレングリコール」との選択肢を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、この訂正は一群の請求項ごとに適法に請求されたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし5について訂正を認める。



第3 本件特許発明について

本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
粉体からなる無機成分と、シリコーン成分と、界面活性剤と、多価アルコールと、水とを含み、
前記シリコーン成分がシリコーンオイルであり、
前記多価アルコールが、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ジメチルペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオ-ル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトール及びトリペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種である、タイヤ内面用離型剤。
【請求項2】
前記多価アルコールの沸点が200℃以上である、請求項1に記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項3】
前記多価アルコールおよび水の合計量の重量割合が前記タイヤ内面用離型剤の35?90重量%であり、前記多価アルコールが前記多価アルコールおよび水の合計量の10?60重量%である、請求項1または2に記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項4】
前記無機成分、シリコーン成分および界面活性剤の合計量に対して、無機成分の重量割合が15?90重量%、シリコーン成分の重量割合が5?75重量%、界面活性剤の重量割合が1?10重量%である、請求項1?3のいずれかに記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載されるタイヤ内面用離型剤を生タイヤ内面に付着させ、加硫してなる、タイヤ。」



第4 取消理由の概要

当審において平成28年3月29日付けで通知した取消理由の概要は、請求項1ないし5に係る発明は、いずれも本件特許の出願前に頒布された刊行物である、特開昭58-8628号公報(以下、「甲1文献」という。)、特開昭52-86477号公報(以下、「甲4文献」という。)、特開平4-45154号公報(以下、「甲2文献」という。)、特開2002-128639号公報(以下、「甲5文献」という。)及び特開2010-138074号公報(以下、「甲6文献」という。)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、その特許は取り消すべきものであるというものである。



第5 当審の判断

1.取消理由の検討
(1) 本件特許発明1に係る特許についての検討
ア 甲1文献に記載された発明
甲1文献の請求項1の記載から、甲1文献には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「水100重量部に対して粒子径30μ以下のマイカ-タルク混合物50?100重量部、常用シリコンエマルジョン10?15重量部、およびポリアルキレングリコール以外の常用添加剤を含有し、25℃で1500?4000cpsの粘度を有するタイヤインサイド用ペイント組成物。」

イ 甲1発明と本件特許発明1との対比
甲1発明と本件特許発明1とを対比する。
(ア) 甲1発明における「粒子径30μ以下のマイカ-タルク混合物」は本件特許発明1における「粉体からなる無機成分」に、「常用シリコンエマルジョン」は「シリコーン成分」に、各々相当する。
そして、甲1文献には、「60重量部以下では加硫後、プラダ-との離型性が悪化し、離型剤の用をなさなくなり」(2頁右上欄9?11行)、「さらに該混合物の粒子径は30μを越えると、タイヤ生カバーと、プラダ-との滑り性が悪くなり正常なタイヤを製造する事が困難であり」(2頁右上欄15?17行)及び「シリコンエマルジョンの配合量が10重量部以下になるとタイヤ生カバーとプラダ-との滑り性が悪くなり」(2頁左下欄2?4行)と記載されていることから、甲1発明にかかるタイヤインサイド用ペイント組成物は、本件特許発明1におけるタイヤ内面用離型剤に相当するといえる。

(イ) そうすると、本件特許発明1と甲1発明との相違点は下記の相違点1ないし3であるといえる。
○相違点1:本件特許発明1では、「界面活性剤」を含むと特定されているのに対し、甲1発明では特に特定されていない点。
○相違点2:本件特許発明1では、「多価アルコール」を含み「前記多価アルコールが、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ジメチルペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオ-ル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトール及びトリペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種である」と特定されているのに対し、甲1発明では特に特定されていない点。
○相違点3:シリコーン成分について、本件特許発明1では、「シリコーンオイル」と特定されているのに対し、甲1発明では「常用シリコンエマルジョン」と特定されている点。

ウ 判断
事案に鑑み、相違点2について以下に検討する。
(ア) 相違点2に係る構成(当該多価アルコールを含むこと)の本件特許発明1における技術的意義は、本件特許明細書の記載(段落【0004】、【0005】、【0017】、【0029】?【0036】など)によれば、「経時的な分散安定性が良く、生タイヤ内面に付着させ加硫した場合に十分に透明となるタイヤ内面用離型剤を提供すること」であることが認められる。
(イ) 他方、甲4文献の「この水型離型剤においては雲母粉末やタルク粉末を混合する場合の混合の方法や長期間保存などによっては粉末成分が分離したり、…する等実用上の欠点が認められ」(2頁左上欄3?8行)との記載から、タイヤ成型用粉末離型剤組成物(本件特許発明1のタイヤ内面用離型剤と同じ)の技術分野においては、長期間保存などにより、雲母粉末やタルク粉末が分離してしまうという課題があったことを認めることができる。
また、甲2文献には、離型剤などとして有用な保護膜形成型シリコーンエマルジョン組成物において多価アルコールをエマルジョンの安定性を保持させるために添加することが記載(特許請求の範囲、1頁右欄、5頁右上欄など)され、また、甲5文献にもグリコール類やグリセロール類などの水性成分を粉体分散剤として作用させる目的で用いられることが記載(【0023】など)され、甲6文献にも1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールが疎水性粉体の分散性の向上を目的で用いられることが記載(特許請求の範囲、【0031】など)されているとおり、「グリコールやグリセロールなどの多価アルコールは、シリコーンエマルジョンの安定性を保持したり、粉体の分散性を向上させる働きを有することが知られていた」といえる。
(ウ) しかしながら、これらのいずれの文献にも、当該多価アルコールを含ませることによって、加硫した場合にマイカおよびタルク粉の白さが抑えられ透明性が高いことについて何ら記載も示唆もされていないし、そのことが当業者にとり自明の事項でもない。
(エ) そうすると、甲1文献と甲4文献とが同じ技術分野のもので、甲4文献に接した当業者であれば、タイヤ成型用粉末離型剤組成物の技術分野においては、長期間保存などにより、雲母粉末やタルク粉末が分離してしまうという課題があったことまでは理解でき、しかも、グリコールやグリセロールなどの多価アルコールが、シリコーンエマルジョンの安定性を保持したり、粉体の分散性を向上させる働きを有することが知られていたことを考慮したとしても、甲1発明において、経時的な分散安定性の改良のみならず、生タイヤ内面に付着させ加硫した場合に十分に透明となることをも目的として、甲2文献、甲5文献及び甲6文献に開示された技術を組み合わせる動機がない。
(オ) してみると、甲1発明において、上記(ア)で述べた課題を解決することを目的として、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール以外の常套の添加剤として、上記のとおり甲1文献に例示された分散剤、増粘剤あるいは沈降防止剤として、甲2文献、甲5文献あるいは甲6文献で用いられている多価アルコールを使用することが、当業者にとり容易になし得ることであるとはいえない。
(カ) 本件特許発明1における相違点2に係る効果について検討すると、仮に、無機粉体の沈降がなく、経時的な分散安定性に優れる点について予測し得るものであったとしても、加硫した場合にマイカおよびタルク粉の白さが抑えられ透明性が高い点については当業者であっても予測し得ないものである。
(キ) 相違点2についてのまとめ
以上のとおり、相違点2は想到容易とはいえない。

エ 本件特許発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点1または3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1文献並びに甲2文献、甲4文献、甲5文献及び甲6文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2) 本件特許発明2ないし5係る特許についての検討
本件特許発明2ないし5は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記ウにて示した判断と同様の理由により、甲1文献並びに甲2文献、甲4文献、甲5文献及び甲6文献に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、特許権者は透明性の効果を格別のものと主張しているが、その効果が格別であるとの根拠は全く示されていないと主張している。
しかしながら、透明性の効果については、上記1.(1)ウ(カ)で述べたとおり、当業者であっても予測し得ないものであると認められるものであって、その効果が格別であるとの根拠が示されているかどうかとは無関係である。特許異議申立人の主張は採用することができない。



第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体からなる無機成分と、シリコーン成分と、界面活性剤と、多価アルコールと、水とを含み、
前記シリコーン成分がシリコーンオイルであり、
前記多価アルコールが、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ジメチルペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオ-ル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトール及びトリペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種である、タイヤ内面用離型剤。
【請求項2】
前記多価アルコールの沸点が200℃以上である、請求項1に記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項3】
前記多価アルコールおよび水の合計量の重量割合が前記タイヤ内面用離型剤の35?90重量%であり、前記多価アルコールが前記多価アルコールおよび水の合計量の10?60重量%である、請求項1または2に記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項4】
前記無機成分、シリコーン成分および界面活性剤の合計量に対して、無機成分の重量割合が15?90重量%、シリコーン成分の重量割合が5?75重量%、界面活性剤の重量割合が1?10重量%である、請求項1?3のいずれかに記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載されるタイヤ内面用離型剤を生タイヤ内面に付着させ、加硫してなる、タイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-08-18 
出願番号 特願2011-96856(P2011-96856)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 越本 秀幸  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 守安 智
小野寺 務
登録日 2015-06-19 
登録番号 特許第5762810号(P5762810)
権利者 松本油脂製薬株式会社
発明の名称 タイヤ内面用離型剤  

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