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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01C
管理番号 1321236
異議申立番号 異議2016-700615  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-14 
確定日 2016-10-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第5845604号発明「情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5845604号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5845604号の請求項1ないし5に係る特許(以下、「請求項1ないし5に係る特許」という。また、請求項毎に「請求項1に係る特許」などという。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成23年3月25日に特許出願され、平成27年12月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年7月14日に特許異議申立人 星野 裕司(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
請求項1ないし5に係る特許に係る発明(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、それぞれ、本件出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
時系列の位置データでなる直近の移動履歴を取得する位置センサ部と、
検索用データを記憶する過去履歴DBと、
前記検索用データのなかから、前記直近の移動履歴と類似する過去の経路を検索する類似検索部と、
前記類似検索部で検索された前記過去の経路と、前記直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定する適合判定部と、
前記適合判定部の判定結果に応じて、前記位置センサ部で取得された前記直近の移動履歴を修正するデータ修正部と
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記過去履歴DBは、過去の移動履歴を前記検索用データとして記憶し、
前記類似検索部は、前記適合度として、前記過去の移動履歴と前記直近の移動履歴との距離を用いて、前記直近の移動履歴と類似する前記過去の移動履歴の一部を前記過去の経路として検索する
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記過去履歴DBは、前記過去の経路を検索するために収集された過去の移動履歴を確率遷移モデルで学習したときの前記確率遷移モデルのパラメータを前記検索用データとして記憶し、
前記類似検索部は、前記過去履歴DBに記憶されている前記パラメータを用いた前記確率遷移モデルを用いて、前記適合度として、前記直近の移動履歴に対して算出される前記確率遷移モデルの尤度を計算し、前記直近の移動履歴と類似する前記過去の経路として、前記直近の移動履歴に対応する前記確率遷移モデルの状態ノードを検索する
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
検索用データを記憶する過去履歴DBを備える情報処理装置が、
時系列の位置データでなる直近の移動履歴を位置センサ部から取得し、
前記検索用データのなかから、前記直近の移動履歴と類似する過去の経路を検索し、
検索された前記過去の経路と、前記直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定し、
判定結果に応じて、取得された前記直近の移動履歴を修正する
ステップを含む情報処理方法。
【請求項5】
コンピュータを、
過去履歴DBに記憶されている検索用データのなかから、位置センサ部で取得された、時系列の位置データでなる直近の移動履歴と類似する過去の経路を検索する類似検索部と、
前記類似検索部で検索された前記過去の経路と、前記直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定する適合判定部と、
前記適合判定部の判定結果に応じて、前記位置センサ部で取得された前記直近の移動履歴を修正するデータ修正部
として機能させるためのプログラム。」


第3 特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、証拠方法として、次に示す甲第1号証を提出し、概ね以下の理由を主張している。

1 証拠方法
甲第1号証:特開2006-250659号公報

2 理由の概要
2-1 特許法第29条第2項の規定に基づく理由について
(1)理由1
本件発明1は、甲第1号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである(以下、「理由1」という。)。

(2)理由2
本件発明2は、甲第1号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、請求項2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである(以下、「理由2」という。)。

(3)理由3
本件発明4は、甲第1号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、請求項4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである(以下、「理由3」という。)。

(4)理由4
本件発明5は、甲第1号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、請求項5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである(以下、「理由4」という。)。

2-2 特許法第36条第6項第2号の規定に基づく理由について
(5)理由5
本件出願の特許請求の範囲の請求項3の記載から本件発明3を明確に把握することができないので、請求項3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない本件出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである(以下、「理由5」という。)。


第4 当審の判断
1 甲第1号証について
(1)甲第1号証の記載事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、「ナビゲーション装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、方位センサを用いたナビゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのナビゲーション装置では、GPS航法と自律航法とが併用されており、互いの航法の欠点を補うことで精度の高い位置検出を行うことができるようになっている。しかし、地下駐車場や立体駐車場等の屋内施設では、GPS衛星からの電波受信が困難になるため、自律航法のみを用いた自車位置検出が行われる。このような屋内施設において右左折走行を繰り返すと自律航法に用いられるジャイロセンサの角度誤差が累積する。このような累積誤差を低減する従来技術としては、屋内施設内で直線移動したことを検出したときに、現在の進行方位を近傍の地図データの道路方位に応じて補正する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002-318122公報(第3-5頁、図1-5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述した特許文献1に開示された誤差の補正方法では、駐車場内での方位誤差の累積を防止することはできるが、駐車場内の道路の向きが地図データの道路の向きと平行でない場合には補正誤差自体をなくすことができないという問題があった。例えば、地図上の道路の向きと駐車場内の道路の向きが所定の角度を有している場合に、駐車場内の道路を走行しているときの方位誤差がほとんどなかった場合であっても強制的に地図上の道路に平行に走行しているように方位が補正されるため、かえって測位誤差が大きくなってしまう。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、自律航法で位置検出する場合の測位誤差を低減することができるナビゲーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明のナビゲーション装置は、車両の方位変化量および移動距離を検出する自律航法センサと、自律航法センサによって検出された方位変化量および移動距離を累積して車両位置を計算する車両位置計算手段と、車両が特定施設へ進入したことを検出する進入検出手段と、進入検出手段によって特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録する走行軌跡記録手段と、走行軌跡記録手段によって記録された走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一軌跡走行判定手段と、同一軌跡走行判定手段によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して車両位置計算手段によって計算される車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する位置補正手段とを備えている。特定施設内を周回する場合のように自律航法センサの測位誤差、特にジャイロ等による方位誤差が累積しやすい走行を行った場合であっても、周回する1周目の走行軌跡に一致するように2周目以降の走行位置が補正されるため、累積誤差の発生を防止することができ、自律航法で位置検出する場合の測位誤差を低減することが可能となる。」(段落【0001】ないし【0005】)

イ 「【0010】
以下、本発明を適用した一実施形態のナビゲーション装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、車両に搭載された一実施形態のナビゲーション装置の構成を示す図である。図1に示すナビゲーション装置は、ナビゲーションコントローラ1、DVD2、ディスク読取装置3、GPS受信機4、自律航法センサ5、ディスプレイ装置6、進入検出部7、退出検出部8を含んで構成されている。
【0011】
ナビゲーションコントローラ1は、ナビゲーション装置の全体動作を制御するものである。このナビゲーションコントローラ1は、CPU、ROM、RAM等を用いて所定の動作プログラムを実行することによりその機能が実現される。ナビゲーションコントローラ1の詳細構成については後述する。
【0012】
DVD2は、地図表示、施設検索および経路探索などに必要な地図データが格納されている情報記録媒体である。このDVD2には、経度および緯度で適当な大きさに区切られた矩形形状の図葉を単位とした地図データが格納されている。各図葉の地図データは、図葉番号を指定することにより特定され、読み出すことが可能となる。
【0013】
ディスク読取装置3は、1枚あるいは複数枚のDVD2が装填可能であり、ナビゲーションコントローラ1の制御によっていずれかのDVD2から地図データの読み出しを行う。なお、装填されるディスクは必ずしもDVDでなくてもよく、CDでもよい。また、DVDとCDの双方を選択的に装填可能としてもよい。
【0014】
GPS受信機4は、複数のGPS衛星から送られてくる電波を受信して、3次元測位処理あるいは2次元測位処理を行って車両の絶対位置および方位を計算し、これらを測位時刻とともに出力する。自律航法センサ5は、車両回転角度の変化量を検出する振動ジャイロ等の角度センサと、所定走行距離毎にパルスを出力する車速センサとを備えており、車両の方位変化量と移動距離を検出する。ディスプレイ装置6は、ナビゲーションコントローラ1から出力される描画データに基づいて、自車位置周辺の地図画像や交差点案内画像などの各種画像を表示する。」(段落【0010】ないし【0014】)

ウ 「【0017】
次に、ナビゲーションコントローラ1の詳細構成について説明する。図1に示すように、ナビゲーションコントローラ1は、地図バッファ10、地図読出制御部12、地図描画部14、車両位置計算部20、車両位置補正部22、走行軌跡記録部24、同一軌跡走行判定部26、表示処理部30を含んで構成されている。
【0018】
地図バッファ10は、ディスク読取装置3によってDVD2から読み出された地図データを一時的に格納する。地図読出制御部12は、車両位置計算部20により算出される車両位置に応じて、所定範囲の地図データの読み出し要求をディスク読取装置3に出力する。地図描画部14は、地図バッファ10に格納された地図データに基づいて、地図画像を表示するために必要な描画処理を行って地図画像描画データを作成する。
【0019】
車両位置計算部20は、GPS受信機4や自律航法センサ5から出力される検出データに基づいて自車位置を計算する。屋内駐車場等においてGPS受信機4を用いたGPS航法による自車位置計算が困難な場合には、自律航法センサ5によって検出された方位変化量および移動距離を累積することにより車両位置が計算される。
【0020】
車両位置補正部22は、車両位置計算部20によって計算された車両位置に対して補正を行う。例えば、従来から行われているように、車両位置計算部20によって計算された自車位置が地図の道路上にない場合には、地図上の道路形状と実際の車両の走行軌跡とに基づいて自車位置を修正するマップマッチング処理が行われる。また、本実施形態では、車両位置補正部22は、このような通常のマップマッチングの他に特定施設内において特有のマッチング動作を行っており、このために走行軌跡記録部24と同一軌跡走行判定部26が設けられている。
【0021】
走行軌跡記録部24は、車両位置計算部20によって計算された車両位置が入力されており、進入検出部7によって車両が特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録する。例えば、一定距離毎および方位変化量が大きな位置に対応する車両位置が記録される。この走行軌跡記録部24では、退出検出部8によって車両が特定施設から退出したことが検出されるまで、少なくとも1周目の走行軌跡の記録が保持される。また、この走行軌跡記録部24では、車両に搭載されたエンジンの回転の有無やイグニッションスイッチ(図示せず)の切断の有無に関係なく1周目の走行軌跡が保持される。
【0022】
同一軌跡走行判定部26は、走行軌跡記録部24によって記録された走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する。この同一軌跡走行判定部26によって繰り返し走行しているか否かの判定対象となる走行軌跡の形状は、円形以外の周回形状であれば何でもよい。円形形状の場合には、自律航法センサ5の方位検出誤差のため周回形状の正確な始点と終点の位置(1周が終わった位置)が判別できないからである。これに対し、円形以外の周回形状であれば、正確に始点と終点の位置が判別可能であるため、方位検出誤差の補正が可能となる。
【0023】
上述した車両位置補正部22は、同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する特別なマッチング動作を行う。」(段落【0017】ないし【0023】)

エ 「【0025】
本実施形態のナビゲーション装置はこのような構成を有しており、次にその動作を説明
する。図2は、ナビゲーション装置の動作手順を示す流れ図であり、特定施設の屋内駐車場に進入してから退出するまでの車両位置補正に関する動作手順が示されている。なお、屋内駐車場への進入の有無とは関係なく、GPS受信機4や自律航法センサ5の検出データに基づく車両位置計算動作や通常のマップマッチング等による車両位置補正動作が行われており、これらの動作と並行して、以下に示す屋内駐車場における特有の車両位置補正動作が開始される。
【0026】
走行軌跡記録部24は、進入検出部7によって特定施設としての屋内駐車場への進入が検出されたか否かを判定しており(ステップ100)、自車両が屋内駐車場へ進入していない場合には否定判断が行われこの判定を繰り返す。また、車両が屋内駐車場に進入した場合にはステップ100の判定において肯定判定が行われ、車両位置補正部22は、地図上の道路形状に合わせて車両位置を補正する通常のマップマッチング動作を無効にする(ステップ101)。また、走行軌跡記録部24は、車両位置計算部20によって計算された車両位置を記録する動作を開始する(ステップ102)。
【0027】
このような走行軌跡の記録動作と並行して、同一軌跡走行判定部26は、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを、走行軌跡記録部24に記録された走行軌跡に基づいて判定する(ステップ103)。同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行していない場合には否定判断が行われ、ステップ102の走行軌跡の記録動作が継続される。また、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行している場合にはステップ103の判定において肯定判断が行われ、走行軌跡記録部24において1周目の走行軌跡が保持される(ステップ104)。
【0028】
また、同一軌跡走行判定部26から車両位置補正部22に対して同一の走行経路上を繰り返し走行している旨が通知され、この通知を受け取った車両位置補正部22は、2周目以上の走行軌跡上の車両位置を1周目の走行軌跡に合わせる位置補正動作を行う(ステップ105)。
【0029】
その後、走行軌跡記録部24は、退出検出部8によって屋内駐車場からの退出が検出されたか否かを判定する(ステップ106)。車両が屋内駐車場から退出していない場合には否定判断が行われ、ステップ105における位置補正動作が繰り返される。また、車両が屋内駐車場から退出した場合にはステップ106の判定において肯定判断が行われ、次に、走行軌跡記録部24は保持しておいた1周目の走行軌跡を削除し(ステップ107)、車両位置補正部22は、地図上の道路形状に合わせて車両位置を補正する通常のマップマッチング動作を有効にする(ステップ108)。以後、ステップ100に戻って屋内駐車場への進入の有無判定以降の動作が繰り返される。
【0030】
図3は、本実施形態のナビゲーション装置において補正が行われた後の車両位置を示す図である。図3において、GIは屋内駐車場の入口部であり、この入口部GI近傍において屋内駐車場への車両の進入が検出される。GOは屋内駐車場の出口部である。また、R1?R4のそれぞれは同一の走行軌跡に沿って車両が走行した場合の1周目、2周目、3周目、4周目の走行軌跡をそれぞれ示している。図3に示すように、本実施形態のナビゲーション装置では、1周目の走行軌跡R1に合わせて2周目から4周目までの走行軌跡R2?R4に沿って車両位置の補正が行われるため、各走行軌跡R1?R4に沿って走行する際の車両位置が一致する。このため、出口部GOから車両が退出した際に、少ない方位誤差が維持される。」(段落【0025】ないし【0030】)

(2)甲第1号証の記載事項及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)アないしエ及び図1ないし4の記載(特に、段落【0001】、【0010】及び【0011】並びに図1及び2の記載)によれば、甲第1号証には、ナビゲーション装置、ナビゲーション装置の動作方法及びナビゲーション装置用のプログラムが記載されていることが分かる。

イ 上記(1)イ及びウ並びに図1の記載(段落【0010】、【0014】及び【0019】並びに図1の記載)によれば、ナビゲーション装置は、GPS受信機4や自律航法センサ5から出力される検出データに基づいて自車位置を計算する車両位置計算部20を備えることが分かる。

ウ 上記(1)ウ及びエ並びに図1及び2の記載(特に、段落【0020】、【0021】及び【0026】並びに図1及び2の記載)によれば、ナビゲーション装置は、車両位置計算部20によって計算された車両位置が入力されており、進入検出部7によって車両が特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録し、退出検出部8によって車両が特定施設から退出したことが検出されるまで少なくとも1周目の走行軌跡の記録が保持される走行軌跡記録部24を備えることが分かる。

エ 上記(1)ウ及びエ並びに図1ないし4の記載(特に、段落【0022】及び【0027】並びに図1ないし4の記載)によれば、ナビゲーション装置は、走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一軌跡走行判定部26を備えることが分かる。

オ 上記(1)ウ及びエ並びに図1ないし4の記載(特に、段落【0023】及び【0028】並びに図1ないし4の記載)によれば、ナビゲーション装置は、同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する車両位置補正部22を備えることが分かる。

カ 上記(1)ウ及びエ並びに図1及び2の記載(特に、段落【0011】及び【0017】並びに図1及び2の記載)によれば、ナビゲーション装置用のプログラムは、ナビゲーションコントローラ1を、車両位置計算部20、走行軌跡記録部24、同一軌跡走行判定部26及び車両位置補正部22として機能させることが分かる。

(3)甲1発明A
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合して、本件発明1の表現に倣って整理すると、甲第1号証には、次の事項からなる発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。
「GPS受信機4や自律航法センサ5から出力される検出データに基づいて自車位置を計算する車両位置計算部20と、
前記車両位置計算部20によって計算された車両位置が入力されており、進入検出部7によって車両が特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録し、退出検出部8によって車両が特定施設から退出したことが検出されるまで少なくとも1周目の走行軌跡の記録が保持される走行軌跡記録部24と、
前記走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一軌跡走行判定部26と、
前記同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する車両位置補正部22と
を備えるナビゲーション装置。」

(4)甲1発明B
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合して、本件発明4の表現に倣って整理すると、甲第1号証には、次の事項からなる発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。
「車両位置計算部20によって計算された車両位置が入力されており、進入検出部7によって車両が特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録し、退出検出部8によって車両が特定施設から退出したことが検出されるまで少なくとも1周目の走行軌跡の記録が保持される走行軌跡記録部24を備えるナビゲーション装置が、
GPS受信機4や自律航法センサ5から出力される検出データに基づいて計算した車両位置を車両位置計算部20から取得し、
前記走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを同一軌跡走行判定部26により判定し、
前記同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、車両位置補正部22により、2周目以降の走行軌跡に対応して、前記車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する
ステップを含むナビゲーション装置の動作方法。」

(5)甲1発明C
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合して、本件発明5の表現に倣って整理すると、甲第1号証には、次の事項からなる発明(以下「甲1発明C」という。)が記載されていると認める。
「ナビゲーションコントローラ1を、
走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一軌跡走行判定部26と、
前記同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する車両位置補正部22
として機能させるためのナビゲーション装置用のプログラム。」

2 理由1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明Aとを、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明Aにおける「車両位置計算部20」は、本件発明1における「位置センサ部」に相当し、以下同様に、「同一軌跡走行判定部26」は「適合判定部」に、「車両位置補正部22」は「データ修正部」に、「ナビゲーション装置」は「情報処理装置」に、それぞれ相当する。

・甲1発明Aにおける「GPS受信機4や自律航法センサ5から出力される検出データに基づいて自車位置を計算する車両位置計算部20」は、本件発明1における「時系列の位置データでなる直近の移動履歴を取得する位置センサ部」に、「所定の位置データを取得する位置センサ部」という限りにおいて一致する。

・甲1発明Aにおける「走行軌跡記録部24」は、本件発明1における「過去履歴DB」に、「履歴データ記録部」という限りにおいて一致する。
そして、甲1発明Aにおける「車両位置計算部20によって計算された車両位置が入力されており、進入検出部7によって車両が特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録し、退出検出部8によって車両が特定施設から退出したことが検出されるまで少なくとも1周目の走行軌跡の記録が保持される走行軌跡記録部24」は、本件発明1における「検索用データを記憶する過去履歴DB」に、「所定の位置データに基づく移動履歴を記憶する履歴データ記録部」という限りにおいて一致する。

・甲1発明Aにおける「走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一軌跡走行判定部26」は、過去の経路といえる1周目の走行軌跡と、直近の移動履歴といえる2周目以降の走行軌跡とが適合しているかを判定しているといえるから、本件発明1における「類似検索部で検索された前記過去の経路と、前記直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定する適合判定部」に、「記憶された過去の経路と、直近の移動履歴とが適合しているかを判定する適合判定部」という限りにおいて一致する。

・甲1発明Aにおける「同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する車両位置補正部22」は、本件発明1における「適合判定部の判定結果に応じて、位置センサ部で取得された直近の移動履歴を修正するデータ修正部」に、「適合判定部の判定結果に応じて、位置センサ部で取得された所定の位置データを修正するデータ修正部」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「所定の位置データを取得する位置センサ部と、
所定の位置データに基づく移動履歴を記憶する履歴データ記録部と、
記憶された過去の経路と、直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定する適合判定部と、
前記適合判定部の判定結果に応じて、前記位置センサ部で取得された前記所定の位置データを修正するデータ修正部と
を備える情報処理装置。」の点で一致し、以下の点で相違している。

ア 相違点1A
「所定の位置データを取得する位置センサ部」に関し、本件発明1においては、「時系列の位置データでなる直近の移動履歴を取得する位置センサ部」であるのに対して、甲1発明Aにおいては、「GPS受信機4や自律航法センサ5から出力される検出データに基づいて自車位置を計算する車両位置計算部20」である点(以下、「相違点1A」という。)。

イ 相違点2A
「所定の位置データに基づく移動履歴を記憶する履歴データ記録部」に関し、本件発明1においては、「検索用データを記憶する過去履歴DB」であるのに対して、甲1発明Aにおいては、「車両位置計算部20によって計算された車両位置が入力されており、進入検出部7によって車両が特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録し、退出検出部8によって車両が特定施設から退出したことが検出されるまで少なくとも1周目の走行軌跡の記録が保持される走行軌跡記録部24」である点(以下、「相違点2A」という。)。

ウ 相違点3A
本件発明1においては、「検索用データのなかから、前記直近の移動履歴と類似する過去の経路を検索する類似検索部」を備えるのに対して、甲1発明Aにおいては、そのような構成を有しているか否か不明である点(以下、「相違点3A」という。)。

エ 相違点4A
「記憶された過去の経路と、直近の移動履歴とが適合しているかを判定する適合判定部」に関し、本件発明1においては、「類似検索部で検索された前記過去の経路と、前記直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定する適合判定部」であるのに対して、甲1発明Aにおいては、「走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一軌跡走行判定部26」である点(以下、「相違点4A」という。)。

オ 相違点5A
「適合判定部の判定結果に応じて、位置センサ部で取得された所定の位置データを修正するデータ修正部」に関して、本件発明1においては、「適合判定部の判定結果に応じて、位置センサ部で取得された直近の移動履歴を修正するデータ修正部」であるのに対して、甲1発明Aにおいては、「同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する車両位置補正部22」である点(以下、「相違点5A」という。)。

(2)判断
ア 本件出願の願書に添付された明細書の段落【0001】ないし【0005】の記載によれば、本件発明1は、現在の移動履歴と類似する経路を過去の移動履歴のデータベースから検索し、その結果得られた経路を予測経路として出力するものを念頭において、過去の移動履歴として蓄積するデータの精度を向上させることができるようにすることを目的とするものであるところ、当該目的に特に関連する相違点5Aについて先ず検討する。

イ 本件発明1は、上記アで述べたとおり、「過去履歴DB」に過去の移動履歴として蓄積するデータの精度を向上させることを目的として、「データ修正部」において「過去履歴DB」に蓄積することを予定とした「直近の移動履歴」を修正するものである。
一方、甲1発明Aは、甲第1号証の上記1(1)アによれば、地下駐車場や立体駐車場等の屋内施設では、GPS衛星からの電波受信が困難になるため、自律航法のみを用いた自車位置検出が行われ、このような屋内施設において右左折走行を繰り返すと自律航法に用いられるジャイロセンサの角度誤差が累積するため、自律航法で位置検出する場合の測位誤差を低減することを目的とするものであり、当該目的を達成するために、「車両位置補正部22」により、車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、「車両位置計算部20によって計算された車両位置」を1周目の走行軌跡に合わせて補正するものであって、直近の走行軌跡である「2周目以降の走行軌跡」は、車両が特定施設から退出後は削除される(甲第1号証の段落【0029】を参照。)ものであり、これを修正する必要があることは甲第1号証には記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明Aにおいて、直近の走行軌跡である「2周目以降の走行軌跡」を修正することの動機付けはないものといえ、上記相違点5Aに係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたこととはいえない。

したがって、本件発明1は、上記相違点1Aないし4Aについて判断するまでもなく、甲1発明Aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
上記(2)のとおり、本件発明1は、甲1発明Aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当するものではない。

3 理由2について
請求項2は、請求項1を引用するものであって、請求項1に記載された発明特定事項にさらに「前記過去履歴DBは、過去の移動履歴を前記検索用データとして記憶し、
前記類似検索部は、前記適合度として、前記過去の移動履歴と前記直近の移動履歴との距離を用いて、前記直近の移動履歴と類似する前記過去の移動履歴の一部を前記過去の経路として検索する」という事項(以下、「請求項2記載の事項」という。)を付加するものであるので、本件発明2は、本件発明1をさらに減縮したものである。
そうすると、上記2の検討を踏まえると、本件発明2における請求項2記載の事項について判断するまでもなく、本件発明2は、甲1発明Aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当するものではない。

4 理由3について
(1)対比
本件発明4と甲1発明Bとを、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明Bにおける「ナビゲーション装置」は、本件発明4における「情報処理装置」に相当し、以下同様に、「車両位置計算部20」は「位置センサ部」に、「ナビゲーション装置の動作方法」は「情報処理方法」に、それぞれ相当する。

・甲1発明Bにおける「走行軌跡記録部24」は、本件発明4における「過去履歴DB」に、「履歴データ記録部」という限りにおいて一致する。
そして、甲1発明Bにおける「車両位置計算部20によって計算された車両位置が入力されており、進入検出部7によって車両が特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録し、退出検出部8によって車両が特定施設から退出したことが検出されるまで少なくとも1周目の走行軌跡の記録が保持される走行軌跡記録部24」は、本件発明4における「検索用データを記憶する過去履歴DB」に、「所定の位置データに基づく移動履歴を記憶する履歴データ記録部」という限りにおいて一致する。

・甲1発明Bにおける「GPS受信機4や自律航法センサ5から出力される検出データに基づいて計算した車両位置を車両位置計算部20から取得し」は、本件発明4における「時系列の位置データでなる直近の移動履歴を位置センサ部から取得し」に、「所定の位置データを位置センサ部から取得し」という限りにおいて一致する。

・甲1発明Bにおける「走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを同一軌跡走行判定部26により判定し」は、過去の経路といえる1周目の走行軌跡と、直近の移動履歴といえる2周目以降の走行軌跡とが適合しているかを判定しているといえるから、本件発明4における「検索された前記過去の経路と、直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定し」に、「記憶された過去の経路と、直近の移動履歴とが適合しているかを判定し」という限りにおいて一致する。

・甲1発明Bにおける「同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、車両位置補正部22により、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する」は、本件発明4における「判定結果に応じて、取得された直近の移動履歴を修正する」に、「判定結果に応じて、取得された所定の位置データを修正する」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「所定の位置データに基づく移動履歴を記憶する履歴データ記録部を備える情報処理装置が、
所定の位置データを位置センサ部から取得し、
記憶された過去の経路と、直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定し、
判定結果に応じて、取得された所定の位置データを修正する
ステップを含む情報処理方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。

ア 相違点1B
「所定の位置データに基づく移動履歴を記憶する履歴データ記録部」に関し、本件発明4においては、「検索用データを記憶する過去履歴DB」であるのに対して、甲1発明Bにおいては、「車両位置計算部20によって計算された車両位置が入力されており、進入検出部7によって車両が特定施設に進入したことが検出された後の車両の走行軌跡を記録し、退出検出部8によって車両が特定施設から退出したことが検出されるまで少なくとも1周目の走行軌跡の記録が保持される走行軌跡記録部24」である点(以下、「相違点1B」という。)。

イ 相違点2B
「所定の位置データを位置センサ部から取得」することに関し、本件発明4においては、「時系列の位置データでなる直近の移動履歴を位置センサ部から取得」するのに対して、甲1発明Bにおいては、「GPS受信機4や自律航法センサ5から出力される検出データに基づいて計算した車両位置を車両位置計算部20から取得」する点(以下、「相違点2B」という。)。

ウ 相違点3B
本件発明4においては、「検索用データのなかから、直近の移動履歴と類似する過去の経路を検索」するのに対して、甲1発明Bにおいては、そのような構成を有しているか否か不明である点(以下、「相違点3B」という。)。

エ 相違点4B
「記憶された過去の経路と、直近の移動履歴とが適合しているかを判定」することに関し、本件発明4においては、「検索された過去の経路と、直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定」するのに対して、甲1発明Bにおいては、「走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを同一軌跡走行判定部26により判定」する点(以下、「相違点4B」という。)。

オ 相違点5B
「判定結果に応じて、取得された所定の位置データを修正する」ことに関して、本件発明4においては、「判定結果に応じて、取得された直近の移動履歴を修正する」のに対して、甲1発明Bにおいては、「同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、車両位置補正部22により、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する」点(以下、「相違点5B」という。)。

(2)判断
ア 本件出願の願書に添付された明細書の段落【0001】ないし【0005】の記載によれば、本件発明4は、現在の移動履歴と類似する経路を過去の移動履歴のデータベースから検索し、その結果得られた経路を予測経路として出力するものを念頭において、過去の移動履歴として蓄積するデータの精度を向上させることができるようにすることを目的とするものであるところ、当該目的に特に関連する相違点5Bについて先ず検討する。

イ 本件発明4は、上記アで述べたとおり、「過去履歴DB」に過去の移動履歴として蓄積するデータの精度を向上させることを目的として、「過去履歴DB」に蓄積することを予定とした「直近の移動履歴」を修正するものである。
一方、甲1発明Bは、甲第1号証の上記1(1)アによれば、地下駐車場や立体駐車場等の屋内施設では、GPS衛星からの電波受信が困難になるため、自律航法のみを用いた自車位置検出が行われ、このような屋内施設において右左折走行を繰り返すと自律航法に用いられるジャイロセンサの角度誤差が累積するため、自律航法で位置検出する場合の測位誤差を低減することを目的とするものであり、当該目的を達成するために、「車両位置補正部22」により、車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、「車両位置計算部20によって計算された車両位置」を1周目の走行軌跡に合わせて補正するものであって、直近の走行軌跡である「2周目以降の走行軌跡」は、車両が特定施設から退出後は削除される(甲第1号証の段落【0029】を参照。)ものであり、これを修正する必要があることは甲第1号証には記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明Bにおいて、直近の走行軌跡である「2周目以降の走行軌跡」を修正することの動機付けはないものといえ、上記相違点5Bに係る本件発明4の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたこととはいえない。

したがって、本件発明4は、上記相違点1Bないし4Bについて判断するまでもなく、甲1発明Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
上記(2)のとおり、本件発明4は、甲1発明Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当するものではない。

5 理由4について
(1)対比
本件発明5と甲1発明Cとを、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明Cにおける「ナビゲーションコントローラ1」は、本件発明5における「コンピュータ」に相当し、以下同様に、「同一軌跡走行判定部26」は「適合判定部」に、「車両位置計算部20」は「位置センサ部」に、「車両位置補正部22」は「データ修正部」に、「ナビゲーション装置用のプログラム」は「プログラム」に、それぞれ相当する。

・甲1発明Cにおける「走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一軌跡走行判定部26」は、過去の経路といえる1周目の走行軌跡と、直近の移動履歴といえる2周目以降の走行軌跡とが適合しているかを判定しているといえるから、本件発明5における「類似検索部で検索された過去の経路と、直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定する適合判定部」に、「記憶された過去の経路と、直近の移動履歴とが適合しているかを判定する適合判定部」という限りにおいて一致する。

・甲1発明Cにおける「同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する車両位置補正部22」は、本件発明5における「適合判定部の判定結果に応じて、前記位置センサ部で取得された直近の移動履歴を修正するデータ修正部」に、「適合判定部の判定結果に応じて、位置センサ部で取得された所定の位置データを修正するデータ修正部」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「コンピュータを、
記憶された過去の経路と、直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定する適合判定部と、
前記適合判定部の判定結果に応じて、位置センサ部で取得された所定の位置データを修正するデータ修正部
として機能させるためのプログラム。」の点で一致し、以下の点で相違している。

ア 相違点1C
本件発明5においては、「過去履歴DBに記憶されている検索用データのなかから、位置センサ部で取得された、時系列の位置データでなる直近の移動履歴と類似する過去の経路を検索する類似検索部」として機能させるのに対して、甲1発明Cにおいては、そのように機能させるか否か不明である点(以下、「相違点1C」という。)。

イ 相違点2C
「記憶された過去の経路と、直近の移動履歴とが適合しているかを判定する適合判定部」に関し、本件発明5においては、「類似検索部で検索された過去の経路と、直近の移動履歴との適合度が所定の閾値以上であるかを判定する適合判定部」であるのに対して、甲1発明Cにおいては、「走行軌跡記録部24によって記録された特定施設内の車両の走行軌跡に基づいて、同一の走行軌跡上を車両が繰り返し走行しているか否かを判定する同一軌跡走行判定部26」である点(以下、「相違点2C」という。)。

ウ 相違点3C
「適合判定部の判定結果に応じて、位置センサ部で取得された所定の位置データを修正するデータ修正部」に関して、本件発明5においては、「適合判定部の判定結果に応じて、位置センサ部で取得された直近の移動履歴を修正するデータ修正部」であるのに対して、甲1発明Cにおいては、「同一軌跡走行判定部26によって車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、車両位置計算部20によって計算された車両位置を1周目の走行軌跡に合わせて補正する車両位置補正部22」である点(以下、「相違点3C」という。)。

(2)判断
ア 本件出願の願書に添付された明細書の段落【0001】ないし【0005】の記載によれば、本件発明5は、現在の移動履歴と類似する経路を過去の移動履歴のデータベースから検索し、その結果得られた経路を予測経路として出力するものを念頭において、過去の移動履歴として蓄積するデータの精度を向上させることができるようにすることを目的とするものであるところ、当該目的に特に関連する相違点3Cについて先ず検討する。

イ 本件発明5は、上記アで述べたとおり、「過去履歴DB」に過去の移動履歴として蓄積するデータの精度を向上させることを目的として、「過去履歴DB」に蓄積することを予定とした「直近の移動履歴」を修正するものである。
一方、甲1発明Cは、甲第1号証の上記1(1)アによれば、地下駐車場や立体駐車場等の屋内施設では、GPS衛星からの電波受信が困難になるため、自律航法のみを用いた自車位置検出が行われ、このような屋内施設において右左折走行を繰り返すと自律航法に用いられるジャイロセンサの角度誤差が累積するため、自律航法で位置検出する場合の測位誤差を低減することを目的とするものであり、当該目的を達成するために、「車両位置補正部22」により、車両が同一の走行軌跡を繰り返し走行していると判定されたときに、2周目以降の走行軌跡に対応して、「車両位置計算部20によって計算された車両位置」を1周目の走行軌跡に合わせて補正するものであって、直近の走行軌跡である「2周目以降の走行軌跡」は、車両が特定施設から退出後は削除される(甲第1号証の段落【0029】を参照。)ものであり、これを修正する必要があることは甲第1号証には記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明Cにおいて、直近の走行軌跡である「2周目以降の走行軌跡」を修正することの動機付けはないものといえ、上記相違点3Cに係る本件発明5の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたこととはいえない。

したがって、本件発明5は、上記相違点1C及び2Cについて判断するまでもなく、甲1発明Cに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
上記(2)のとおり、本件発明5は、甲1発明Cに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当するものではない。

6 理由5について
本件発明3における「状態ノード」に関して、本件出願の明細書には次の記載がされている。
「【0154】
図17に示される確率遷移モデルは、状態数が3(N=3)の隠れマルコフモデル(以下、HMMという。)を示している。HMMは、複数の離散化された状態ノードs_(i)で構成される。さらに詳しく言えば、HMMは、複数の離散化された状態ノードs_(i)についての、正規分布を持つ確率変数などで表される状態を決めるパラメータと、状態遷移を決めるパラメータで表現される。以下では、状態を決めるパラメータと状態遷移を決めるパラメータの両者を合わせて、HMMのパラメータともいい、状態ノードは、単に状態ともいう。
【0155】
状態を決めるパラメータは、状態ノードs_(i)の観測モデルであり、状態ノードs_(i)の中心値(平均値)μ_(i)と分散値σ_(i)^(2)で構成される。状態遷移を決めるパラメータは、状態ノードs_(i)の内部モデルであり、状態ノードs_(i)から状態ノードs_(j)への状態遷移確率a_(ij)で構成される。
【0156】
図18は、学習モデルとしてのHMMに過去の移動履歴を学習させた場合の、HMMの各状態ノードの観測モデルと内部モデルの例を示している。
【0157】
内部モデルとしての状態遷移確率a_(ij)には、自分の状態ノードs_(i)へ遷移する自己遷移確率も存在する。観測モデルとしての状態ノードs_(i)の中心値μ_(i)と分散値σ_(i)^(2)は、時刻、経度、及び緯度のそれぞれについて求められる。なお、学習初期の各状態ノードs_(i)には、初期状態を表す初期値が適宜設定される。
【0158】
図19は、図9に示した過去の移動履歴と目的地を確率遷移モデルとしてのHMMに学習させたときの学習結果を地図上に示した図である。図19において、経路上をつなぐように示される略楕円が、学習された各状態ノードを示している。」(段落【0154】ないし【0158】)と記載されている。

上記記載によれば、状態ノードは、状態ノードの観測モデルであり、状態ノードの中心値(平均値)と分散値で構成されるパラメータによって決められ、確率遷移モデルを構成する複数の離散化されたものであって、過去の移動履歴と目的地を確率遷移モデルに学習させたときの学習結果を地図上に示すと、経路上をつなぐように示される略楕円として表されるものであることが説明されており、目的地を探索するためのものであることは明らかである(本件出願の明細書の段落【0164】を参照。)。
そうすると、「状態ノード」の技術的意味は理解できるから、本件出願の請求項3の記載は、本件発明3が明確に把握できるようにされているものと認められる。
したがって、請求項3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない本件出願に対してされたものではなく、特許法第第113条第4号に該当するものではない。

7 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、特許法第113条第2号に該当するものではない。
また、請求項3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない本件出願に対してされたものではなく、特許法第第113条第4号に該当するものではない。


第5 結語
上記第4のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-10-13 
出願番号 特願2011-67136(P2011-67136)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G01C)
P 1 651・ 121- Y (G01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高田 基史  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
登録日 2015-12-04 
登録番号 特許第5845604号(P5845604)
権利者 ソニー株式会社
発明の名称 情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム  
代理人 稲本 義雄  
代理人 西川 孝  

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