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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1321239
異議申立番号 異議2016-700804  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-31 
確定日 2016-10-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第5872595号発明「ポリエステル系熱収縮性フィルムロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5872595号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5872595号(以下「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成19年11月27日に特許出願された特願2007-306436号の一部を、平成26年1月9日に新たな特許出願として出願されたものであって、平成28年1月22日に特許権の設定登録がなされ、平成28年3月1日に特許公報が発行され、平成28年8月31日に、その特許に対し、特許異議申立人である池田豊輝により特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
有効長1000m以上のポリエステル系熱収縮性フィルムをコアに巻き取ってなるフィルムロールであって、前記フィルムロールの巻き出し部表面を、落球式硬さ試験機を用いて前記熱収縮性フィルムの幅方向に20mm間隔で測定した際の平均硬さが300?650の範囲であり、該平均硬さのばらつきが±200以内であり、前記巻き出し部から前記フィルムを500m単位で巻き出した後の前記平均硬さの増加率が0.25?5.0%の範囲であり、かつ前記熱収縮性フィルムを80℃温水中に10秒間浸漬した後の主収縮方向の収縮率が少なくとも20%であり、前記主収縮方向がフィルムロールの幅方向であることを特徴とするポリエステル系熱収縮性フィルムロール。
【請求項2】
前記コアが紙管である請求項1に記載のポリエステル系熱収縮性フィルムロール。
【請求項3】
前記紙管の万能材料試験機で計測した扁平耐圧強度が1800?3000N/100mm幅である請求項2に記載のポリエステル系熱収縮性フィルムロール。」

3.特許異議申立の概要及び提出した証拠
(1)申立ての理由1
本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

(2)申立ての理由2
本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件請求項1?3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、本件特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきである。

(3)申立ての理由3
本件請求項1?3は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきである。

(4)証拠方法
甲第1号証:特開2003-103631号公報
甲第2号証:特開平8-187778号公報
甲第3号証:特開昭63-252853号公報
甲第4号証:特公平1-47374号公報
甲第5号証:雑誌「コンバーテック」2005年11月号第44?49頁
甲第6号証:雑誌「コンバーテック」1994年10月号第19?25頁
甲第7号証:特開平8-12196号公報

4.本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

摘示a:段落0001及び0018?0019
「【0001】本発明はポリエステル系熱収縮性フィルムロールに関し、詳しくは、長期保管後も印刷および製袋時に印刷ズレや溶剤シールはずれ等の不具合が生じず、収縮ラベルや食品包装などに好適に使用されるポリエステル系熱収縮性フィルムロールに関する。…
【0018】本発明は、長期保管後も、高精度印刷適性がロール全般に亘って良好であり、高速印刷性、シール性にも追従できる熱収縮性フィルムロールを提供することを目的とするものである。なお、「高精度印刷」とは6色以上の印刷版を用いたグラビア印刷であり、且つグラデーション濃度が30%以下の部分を含む印刷をいう。…
【0019】本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、フィルム物性に多少の経時変化があったとしても、巻き状態が所定の範囲内であれば、高精度印刷においても印刷ズレを起こさないフィルムロールを製造しうることを見出し、本発明を完成するに至った。」

摘示b:段落0021?0026
「【0021】ここに、フィルムの「有効長」とは、巻き出し部の長さ方向端部から5mを除去し、除去したフィルムの巻き出し部側端部から、500m単位に巻き芯側に移動して、その500m毎の最後の部位が巻き芯側に少なくとも100mの長さを残している点までの長さをいうものとする。従って、有効長における硬さの測定点は、フィルムの巻き出し部の長さ方向端部から5mを除去し、この5mを除去したフィルムの巻き出し側端部を最初の測定点とする。その後フィルムの長さに応じて、最初の測定点から500mごとの位置を測定点とし、最後の(最も巻き芯側の)測定点は、巻き芯側に少なくとも100mの長さを残しておくものとする。すなわち、「有効長」は、フィルム全長から、上記巻き出し側端部5m、および巻き芯側の「少なくとも100m」を除外した長さである。
【0022】図1に、フィルム全長、並びに巻き出し部(5m)、有効長(500m×Y(Yは1以上の整数))、および巻き芯側無効長(少なくとも100m(具体的には、100m以上600m未満))の関係を種々の長さについて示した。本発明のポリエステル系熱収縮性フィルムロールは、有効長1000m以上の熱収縮性フィルムをコアに巻き取ってなるものであるので、(2)?(7)の形態が当てはまる。
【0023】また、図2には、フィルムロールの巻き出し部表面における硬さの測定点を示した。「落球式硬さ試験機」によるフィルムの硬さ測定は、スイス、プロセオ社の硬さ試験機パロテスター2を使用して測定するものとする。
【0024】「平均硬さのバラツキ」とは、平均硬さと、該平均硬さから最も離れた硬さとの数値差により表現した値である。具体的には、「最大硬さ-平均硬さ」、「最小硬さ-平均硬さ」、のいずれかのうち、絶対値が大きい方を「平均硬さのバラツキ」とする。
【0025】「平均硬さの増加率」の測定方法は、以下の通りである。スリッターで巻き取った本発明のフィルムロールを別のスリッターにて巻き解く。この際、巻き解く前の巻き出し側端部においてまずフィルムロール硬さを測定し、最大硬さ/最小硬さ/平均硬さを求め、その後、500m毎にスリッターを停止させ、フィルムロール硬さを測定し、最大硬さ/最小硬さ/平均硬さを求めた。具体的には、フィルムロール巻き出し部の長さ方向端部から5m除去した部分を最外部の巻外として計測し、500mずつ巻き解きながら計測し、フィルムロール巻き芯側に少なくとも100mの長さを残している点までの長さまで計測した(有効長において巻外から500mおきの計測となる。)。
【0026】また、「500m単位で巻き出した後の平均硬さの増加率が0.25?5.0%の範囲」とは、測定点毎に平均硬さが上昇することを意味し、A→B→Cの測定点においては、平均硬さは、A(平均硬さH^(1))→B(平均硬さH^(2)(=H^(1)×1.0025?1.05))→C(平均硬さH^(3)(=H^(2)×1.0025?1.05)と上昇する。より具体的には、有効長1,000mで、平均硬さの増加率が1.0%のとき、巻き出し部の平均硬さを500とすると、巻き出し部から500m内側の部分の平均硬さは、500×1.01=505となり、巻き出し部から1,000m内側の部分つまり巻き芯部の平均硬さは505×1.01=510となる。」

摘示c:段落0056及び0085
「【0056】なお、予熱/延伸/熱処理/弛緩/冷却、各テンターゾーンの熱風吹き出し速度はフィルムの温度を一定にするために10m/秒以上が良く、幅方向での熱風速度差±3m/秒以内であることが望ましい。上記の場合、非接触温度計で計ったフィルム温度幅が3℃以内となる。なお、計測のフィルム端は、クリップ端から50mm離れた位置から幅方向に測定する。50mm以内であるとクリップ輻射熱の影響を受けて、正確なフィルム温度を計測することができないためである。なお、フィルム幅方向での温度が均等で温度幅が3℃以内であれば、湾曲だけでなく巻き硬さのバラツキも抑えることができる。…
【0085】<熱収縮性>本発明のフィルムロールを構成する熱収縮性フィルムは、少なくとも80℃温水に10秒間浸漬した際の収縮率が20%、望ましくは30%、さらに望ましくは40%である必要がある。フィルムの厚みは、10?100μmの範囲であることが好ましい。熱収縮性フィルムの該収縮率が20%以上であると一般包装用途として用いることができる。」

摘示d:段落0102?0103、0106?0108及び0115
「【0102】(実施例1)原料ポリエステル樹脂PET1を54.5質量部、ポリエステル樹脂PET2を27質量部とポリエステル樹脂PET3を15質量部、ポリエステル樹脂PET4を3.5質量部配合し、270℃の同方向二軸押出機で真空ベントを引きながら溶融混練し、Tダイ口金から冷却ロール上に押出し、厚さ250μmの未延伸フィルムを得た。その後、上記フィルムを縦延伸機の低速-高速ロール間の縦延伸をかけるところは1.1倍で縦倍率をかけ、上記ロール間以外のドローは0.98倍とした。その後、テンターにて101℃で予熱し、延伸温度79℃、延伸速度3000%/分でキャスティング押出方向に対して、垂直方向の横方向に5倍延伸を行い、熱処理温度92℃で処理後、テンター弛緩率0.4%にて厚さ50μmの熱収縮性フィルムを得た。なお、テンター熱風の吹出に関して、平均速度は10m/秒、フィルム幅方向の速度差は3m/秒であり、テンター出口のフィルム幅方向における温度幅は3℃であった。また、ワインダーにてフィルムを巻き取る張力は50N/m、フィルムをガイドするゴムロールの接圧は30N/m、巻き始めの初期値に対する巻き終わりの最終値が、張力、接圧ともに75%、200%に調整した。さらにスリッターにてフィルムを巻き取る張力は60N/m、フィルムをガイドするメタルロールの接圧は150N/m、巻き始めの初期値に対する巻き終わりの最終値が、張力、接圧ともに45%、180%に調整して、0.98m幅にスリットし、1000m巻き取り、実施例1にかかるフィルムロールを得た。
【0103】(実施例2、4?6、8?11、参考例1?3、比較例1?7)表1の配合表に従い配合した樹脂を実施例1と同様の条件で溶融押出し、250μmのフィルムを得た。なお、表1中の数値の単位は、質量部である。 上記フィルムを表2の条件にて延伸、巻き取り、スリットし、フィルムロールを得た。表2以外の条件は全て実施例1と同様に延伸、巻き取り、スリットを行った。…
【0106】【表2】

【0107】<<フィルムロールの評価方法>> 以下に、フィルムロールの評価方法を説明する。評価結果は表3にまとめて示した。
(1)80℃収縮率
各実施例、参考例または比較例にて得られたフィルムを、測定延伸方向に150mm、これに対する直交方向に25mmの大きさに切り取り、試料を作成した。試料の延伸方向に100mm間隔の標線を付し、80℃の温水浴に10秒間浸漬させ、その後30秒間23℃冷水に浸漬した後の標線間隔(A(mm))を測定し、下式(1)により収縮率を算出した。
収縮率(%)=100×(100-A)/100・・・・式(1)
【0108】
(2)半年後の印刷評価
20℃に保った保冷倉庫にフィルムロールを半年間保管し、その後6色印刷機を用いて一般的に用いられるカラーチャート版を使用し150m/分の速度で非帯電防止面に6色印刷を行った。見当ズレ監視装置の見当ズレ精度を観測し、ロール全域にわたる見当ズレの平均を見当ズレの値とした。
○: 見当ズレが0.3mm未満
△: 0.3?0.9mm
×: 見当ズレが0.9mmを超える。
見当ズレが0.3mm未満の場合には見た目にボヤケを感じられない。見当ズレが0.3?0.9mmの場合にはわずかにぼやけるものの、商品としては問題がない。見当ズレが0.9mmを超える場合にはボヤケがひどく商品価値がなくなる。…
【0115】【表3】



摘示e:図1




摘示f:図2




5.申立ての理由1(進歩性)についての当審の判断
(1)甲各号証の記載事項
ア.甲第1号証(特開2003-103631号公報)の記載事項
甲第1号証には、次の記載がある。
摘記1a:段落0001及び0014
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくはラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。…
【0014】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、熱収縮の際にフィルムに掛かる応力があまりに大きい場合は、上述したフィルムの内部残留収縮応力による収縮斑の解消作用が不十分となって、優れた収縮仕上り外観を確保できない場合もあり、上記特許2082326号に提案されている技術は、この点に未だ改善の余地を残していた。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、高速収縮作業において、従来以上に優れた収縮仕上り外観を確保できる熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを課題とする。」

摘記1b:段落0041及び0043
「【0041】また、熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいては、印刷性向上の面で厚みが均一であることが好ましく、フィルムの最大収縮方向での厚み変位測定を、長さ50cm、幅5cmの試験片について行ったとき、下式で規定する厚み分布が7%以下であることが推奨される。…
【0043】上記厚み分布が7%を超えるフィルムでは、印刷工程で、特に多色の図柄を印刷する際の印刷性が劣り、複数を色を重ね合わせる際にズレが生し易い。また、本発明のフィルムからラベルを製造するために、溶剤接着してチューブ化加工する場合に、フィルムの接着部分の重ね合わせが困難となる。さらに、上記厚み分布が7%を超えるフィルムでは、フィルム製造工程でロール状に巻き取った際に、部分的な巻き硬度の差が生じ、これに起因するフィルムの弛みやシワが発生して、フィルムとして使用できなくなる場合がある。上記の厚み分布は、6%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。」

摘記1c:段落0076
「【0076】この横延伸工程においては、フィルム表面温度の変動を小さくすることのできる設備を使用することが好ましい。すなわち、延伸工程には、延伸前の予備加熱工程、延伸工程、延伸後の熱処理工程、緩和処理、再延伸処理工程などがあるが、特に、予備加熱工程、延伸工程および延伸後の熱処理工程において、任意ポイントにおいて測定されるフィルムの表面温度の変動幅が、平均温度±1℃以内であることが好ましく、平均温度±0.5℃以内であればさらに好ましい。フィルムの表面温度の変動幅が小さいと、フィルム全長に亘って同一温度で延伸や熱処理されることになって、フィルム物性や厚みが均一化するためである。特に、最大熱収縮応力値や破断率を上記所定範囲とする観点からは、上記のようにフィルムの延伸・熱処理を均一に行うことが推奨される。」

摘記1d:段落0099及び0107
「【0099】(7)熱収縮率
フイルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、95℃±0.5℃の温度の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬し、その後試料の縦および横方向の長さを測定し、下記式に従って求める。なお、最も収縮した方向を最大収縮方向とする。
熱収縮率(%)=100×(収縮前の長さ-収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ)。…
【0107】(11)収縮仕上り性
フィルムを紙管に巻いた状態で雰囲気温度30℃±1℃、相対湿度85±2%に制御した環境下に250時間保管した後、取り出して、東洋インキ製造社製の草色、金色、白色のインキで3色印刷し、その後センターシールマシンを用いてヒートシールによりチューブとし、これを切断して熱収縮性ポリエステル系フィルムラベルとする。次いで、容量300mlのガラス瓶にラベルを装着した後、スチーム式熱収縮トンネルを用い、温度90℃として、該トンネル内を5秒で通過させて、ラベルを収縮させる。色斑および収縮斑の程度を目視で判断し、収縮仕上がり性を5段階で評価する。基準は、5:仕上がり性最良、4:仕上がり性良、3:色斑、または収縮斑が少し有り(2ヶ所以内)、2:色斑、または収縮斑有り(3?5ヶ所)、1:色斑、または収縮斑多い(6ヶ所以上)、として、4以上を合格レベル、3以下のものを不良とする。」

摘記1e:段落0114及び0119
「【0114】実験例1
夫々予備乾燥したチップA:68質量%、チップE:9質量%、チップF:23質量%を混合し、280℃で単軸押出機で溶融押出し、その後上記の「キャスト性」評価で説明したキャスティングロールで急冷して、厚さ215μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを91℃で10秒間予熱した後、テンターを使用して、横方向に75℃で3倍延伸(第1段階)後、72℃で第1段階延伸終了時のフィルム幅に対して1.6倍延伸(第2段階)した。次いで、79℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μm、長さ1000m以上の熱収縮性ポリエステル系フィルム1を得た。このときのフィルムの表面温度の変動幅は、1000mに亘り、予熱工程で平均温度±0.6℃、延伸工程で平均温度±0.5℃、熱処理工程で平均温度±0.5℃の範囲内であった。得られたフィルムの物性を表2に示す。…
【0119】【表2】



イ.甲第2号証(特開平8-187778号公報)の記載事項
甲第2号証には、次の記載がある。
摘記2a:段落0001、0026、0030及び0033?0034
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、経時的変化による自然収縮がなく、包装性が良好な塩化ビニル系熱収縮フィルム(以下、塩ビ収縮フィルム)を製造する方法に関するものである。…
【0026】得られた塩化ビニル系樹脂ロール状シートを一軸延伸機(平野金属(株)製)によって90℃で加熱しながらエンドレスベルトの速度18m/minで幅方向に延伸して、厚さ52μm、幅1100mm、長さ1050mの塩化ビニル系ロール状フィルム1を得た。…
【0030】再び巻き上げられたロール状フィルムの硬さは、パロテスター(エコー原理を応用したフィルム硬さ試験機)でサンプル1・2・3の幅方向について約75mm間隔で5ケ所測定された。硬さは、製造直後のものおよび製造から10日間30℃で保管したときのものである。測定値の最小値と最大値とを表1に示す。…
【0033】【表1】
┌────────┬───────┬───────┬───────┐
│ │ サンプル1 │ サンプル2 │ サンプル3 │
│加熱用…表面温度│ 50℃ │ 60℃ │常温(未処理)│
├──┬─────┼───────┼───────┼───────┤
│硬さ│製造直後 │315?330│311?325│317?335│
│ ├─────┼───────┼───────┼───────┤
│ │10日後 │336?350│333?352│440?480│
├──┼─────┼───────┼───────┼───────┤…【0034】表1に示されるように、サンプル3は表面が保温されたローラーを通ってないため、10日後のフィルムが自然収縮を起こして硬くなっている。サンプル1・2は10日後の硬さが製造直後の硬さと殆ど変わらず、巻き締まり現象が起こっていないことがわかる。」

ウ.甲第3号証(特開昭63-252853号公報)の記載事項
甲第3号証には、次の記載がある。
摘記3a:第3頁右下欄第19行?第4頁右上欄第4行
「上記の面圧、巻取張力のより具体的な制御例として、実際に行って良好な結果を得たものを例示すると、厚さ12μmのポリエステルフィルムを、コア径168mmの巻取コア上に最終巻径500mmで巻取る場合、たとえば面圧が巻芯部の20kg/mから表層部の35kg/m(175%)に増大させ、巻取張力を11kg/mから8kg/mに漸減するように行う方法である。厚さ25μm程度のポリエステルフィルムの場合には、面圧は50kg/mから60kg/m(120%)程度の比較的少ない増大量でよかった。
このような巻取張力漸減、面圧増大の巻取条件により得られるフィルムロールの各層巻硬度は、たとえば第3図に示すようになる。
すなわち、前述したように、表層部における面圧増大により表層部は従来方法よりも硬く巻け、表層部における巻硬度は欠点(表層じわ)発生領域Bから外れる。また、巻取コアの直外層を除き、巻芯部の巻層度は従来方法に比べ比較的急激に大きく低下され、全体として巻芯部においても巻層度は欠点(巻芯じわ)発生領域Aから外れる。そして、巻芯部から表層部にかけての巻硬度は、前記巻取張力制御により漸減するような特性とされているので、中層部においてその外層側からの径方向の力によりしわが発生することもない。したがって、中層部の良好な巻姿が確保されつつ、巻芯じわと表層じわの両方の発生が防止される。」

摘記3b:第5頁第3図




エ.甲第4号証(特公平1-47374号公報)の記載事項
甲第4号証には、次の記載がある。
摘記4a:第10欄第8?28行
「かくして、巻太りに応じて巻取り密度が逓減する所謂テーパ巻取りを行なうことができる。
以上述べた通り本発明によれば、巻取り運転中の巻取り密度を設定値に合致させるよう巻取り制御が可能であるため、巻取張力、タツチローラの接圧力および巻取方式の総合結果として決定される巻取密度を直接制御できることは、製品の実質面における品質を科学的に管理するものとして、画期的なものであり、従来、経験や勘に依存していたものに比べて、ユーザ側の要望に則した品質を維持する巻取りを行なう上に頗る有用な手段である。
このように数値制御による巻取り運転が行なえることは運転者の技能の高低差に影響されることなくデータにもとづいて容易にしかも反復的に運転可能であつて、生産性の向上につながる利点は大であり、また、不良製品をなくして品質の安定したしかも歩留り率の高い巻取運転が果されるものであつて、その実用的効果は顕著なものである。」

オ.甲第5号証(雑誌「コンバーテック」2005年11月号)の記載事項
甲第5号証には、次の記載がある。
摘記5a:第44頁左欄第11行?中欄第9行
「巻取製品を考える上で「巻きの硬さ」について考える必要があるが、巻きの硬さほど漠然としたものはなく、その要因と成る要素は数多くあり、一律の表現方法や数式で表すのは非常に難しい。…
このように、巻きの硬さは材料の表面硬度以外には、巻取張力の値、接圧力の値とその特性が大きく影響している。」

カ.甲第6号証(雑誌「コンバーテック」1994年10月号)の記載事項
甲第6号証には、次の記載がある。
摘記6a:第19頁右欄第17行?第20頁左欄第8行
「巻取製品に最終的に要求されるのは、「巻姿」と「巻固さ」であり、「巻姿」は「巻固さ」によって左右されると言ってよい。…
「巻固さ」を決定する上で一番重要な要素は、やはり巻張力である。特に中心駆動(空中)巻取の場合には、殆どこの巻張力で「巻固さ」が決定される。
この様に、より良い巻製品を得るために張力は非常に大きな要素となりその制御にはよりシビアなものが要求される。」

摘記6b:第21頁右欄第7?11行
「この力(接圧)を巻取全般において張力と共に調節(制御)することにより、製品に影響を及ぼさない、理想により近い「巻固さ」(巻姿)を求めることができる。」

キ.甲第7号証(特開平8-12196号公報)の記載事項
甲第7号証には、次の記載がある。
摘記7a:段落0019
「【0019】この際、フィルムの巻取張力12.0kg/m、タッチロールの押圧力を35kg/mとした。また、巻芯としては、偏平圧縮強度M(kg/100mm幅)330kg/100mm幅、紙管厚みAが12.25mm、M/Aが26.9、100mm幅当たりの重量が520g、紙管1g当たりの偏平圧縮強度率Nが0.64、含水率6.0%、外径175mm、幅820mmの円筒状紙管を用いた。」

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の段落0034(摘記1b)の「上記厚み分布が7%を超えるフィルムでは、印刷工程で、特に多色の図柄を印刷する際の印刷性が劣り、複数を色を重ね合わせる際にズレが生し易い。…さらに、上記厚み分布が7%を超えるフィルムでは、フィルム製造工程でロール状に巻き取った際に、部分的な巻き硬度の差が生じ、これに起因するフィルムの弛みやシワが発生して、フィルムとして使用できなくなる場合がある。」との記載、
同段落0099及び0107(摘記1d)の「(7)熱収縮率…95℃±0.5℃の温度の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬し…求める。…(11)収縮仕上り性 フィルムを紙管に巻いた状態で雰囲気温度30℃±1℃、相対湿度85±2%に制御した環境下に250時間保管した後、…3色印刷し、…ヒートシールによりチューブとし、…ガラス瓶にラベルを装着した後、…ラベルを収縮させる。色斑および収縮斑の程度を目視で判断し、収縮仕上がり性を5段階で評価する。基準は、5:仕上がり性最良…とする。」との記載、及び
同段落0114及び0119(摘記1e)の「実験例1…79℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μm、長さ1000m以上の熱収縮性ポリエステル系フィルム1を得た。このときのフィルムの表面温度の変動幅は、1000mに亘り、予熱工程で平均温度±0.6℃、延伸工程で平均温度±0.5℃、熱処理工程で平均温度±0.5℃の範囲内であった。得られたフィルムの物性を表2に示す。…フィルム1…熱収縮率(%)…72.0…収縮仕上り性…5」との記載からみて、甲第1号証には、
『平均温度±0.5℃の範囲内の熱処理工程を行った長さ1000m以上の熱収縮性ポリエステル系フィルム1を紙管にロール状に巻き取ったフィルムロールであって、95℃±0.5℃の温度の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬して求める熱収縮率が72.0%であり、フィルム1を紙管に巻いた状態で雰囲気温度30℃±1℃、相対湿度85±2%に制御した環境下に250時間保管した後に3色印刷してラベルを収縮させ、色斑および収縮斑の程度を目視で判断した収縮仕上がり性が「5:仕上がり性最良」であるフィルムロール。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本1発明」という。)と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「長さ1000m以上の熱収縮性ポリエステル系フィルム1」は、本件特許明細書の段落0021の記載に照らして、必ずしも「有効長1000m(フィルム全長1105m以上)」の形態にあるものではないが、甲1発明の「以上」との記載からみて、本1発明の「有効長1000m以上のポリエステル系熱収縮性フィルム」に相当する蓋然性が高いものである。
甲1発明の「紙管にロール状に巻き取ったフィルムロール」は、その「紙管」が本1発明の「コア」に対応し、本1発明の「コアに巻き取ってなるフィルムロール」に相当する。
甲1発明の「平均温度±0.5℃の範囲内の熱処理工程を行った」は、甲第1号証の段落0076(摘記1c)の「フィルムの表面温度の変動幅が小さいと…フィルム物性…が均一化する」との記載、並びに本件特許明細書の段落0056の「熱処理…の熱風吹き出し速度…温度が均等で温度幅が3℃以内であれば…巻き硬さのバラツキも抑えることができる。」との記載、及び本件特許明細書の表2と表3において、その「フィルム温度幅」が「5℃」である「比較例3」と「比較例6」を除く全てが本1発明の「平均硬度ばらつき」の要件を満たしていることからみて、本1発明の「該平均硬さのばらつきが±200以内であり」に相当する蓋然性が高いものである。
甲1発明の「95℃±0.5℃の温度の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬して求める熱収縮率が72.0%であり」は、測定した試料の「縦および横方向」のいずれが最大収縮方向(最も収縮した方向)であるのか明確ではないものの、本件特許明細書の段落0107の「測定延伸方向」と「主収縮方向」との関係が明確ではなく、同段落0107においても「30秒間23℃冷水に浸漬した後」の収縮率を測定していることから、本1発明の「前記熱収縮性フィルムを80℃温水中に10秒間浸漬した後の主収縮方向の収縮率が少なくとも20%であり、前記主収縮方向がフィルムロールの幅方向である」に相当する蓋然性が高いものである。
してみると、本1発明と甲1発明の両者は『有効長1000m以上のポリエステル系熱収縮性フィルムをコアに巻き取ってなるフィルムロールであって、前記フィルムロールの該平均硬さのばらつきが±200以内であり、かつ前記熱収縮性フィルムを80℃温水中に10秒間浸漬した後の主収縮方向の収縮率が少なくとも20%であり、前記主収縮方向がフィルムロールの幅方向であるポリエステル系熱収縮性フィルムロール。』に関するものである点において一致し、
(α)フィルムロールの平均硬さが、本1発明においては「巻き出し部表面を、落球式硬さ試験機を用いて前記熱収縮性フィルムの幅方向に20mm間隔で測定した際の平均硬さが300?650の範囲」のものに特定されているのに対して、甲1発明においては、その「平均硬さ」が特定されていない点、及び
(β)フィルムロールの平均硬さの増加率が、本1発明においては「前記巻き出し部から前記フィルムを500m単位で巻き出した後の前記平均硬さの増加率が0.25?5.0%の範囲」のものに特定されているのに対して、甲1発明においては、その「平均硬さの増加率」が特定されていない点、
の2つの点において相違する。

(4)判断
上記相違点について検討する。
甲第2号証の段落0026及び0033?0034(摘記2a)には「長さ1050mの塩化ビニル系ロール状フィルム1」を再び巻き上げた「サンプル1」の10日後の硬さ「336?350」が、製造直後の硬さ「315?330」と殆ど変わらず「巻き締まり現象」が起こっていないことが記載されている。
すなわち、甲第2号証に記載された発明は「ポリエステル系」とは材質が異なる「塩化ビニル系」のロール状フィルムにおける「巻き締まり現象」の防止を課題とした発明であって、本1発明の「長期保管後も、高精度印刷適性がロール全般に亘って良好であり、高速印刷性、シール性にも追従できる熱収縮性フィルムロールを提供すること」という課題と、その課題解決の手段について、何ら示唆するところが見当たらない。
また、甲第2号証では、ロール状フィルムの「硬さ」を10日後の値と対比して巻き締まり現象が生じているか否かの検証のために測定しており、本1発明のように、平均硬さを300以上とすることで『巻きが崩れることなく安定して搬送、加工等することができ、加えて、巻きズレの発生もの少なくなり、印刷時のフィルムの走行が安定し、印刷不良が抑制される』ようにするとともに、平均硬さを650以下とすることで『フィルムロール巻き解きに必要となるテンションが安定するため、さらに印刷速度を高くすることができる』ようにしたものではなく、更に500m毎に「平均硬さ」を測定し、その増加率を「0.25?5.0%の範囲」とするものでもない。
このため、甲第2号証に、塩化ビニル系のロール状フィルムの製造直後の硬さの値が「315?330」であり、10日後の硬さの値が「336?350」であることが記載がされていたとしても、相違点(α)及び(β)を当業者が容易になし得たとはいえない。

甲第3号証の第3図(摘記3b)には、巻芯部の巻硬度が巻芯じわ発生領域Aにあり、表層部の巻硬度が表層じわ発生領域Bにある「従来方法」と、巻芯部の巻硬度を「急激に大きく低下」させ、表層部の巻硬度を緩やかに低下させる「本発明」の2種類の「フィルムロールの各層巻硬度」が記載されている。
すなわち、甲第3号証に記載された発明は「巻芯じわと表層じわの両方の発生」の防止を課題とした発明であって、本1発明の「長期保管後も、高精度印刷適性がロール全般に亘って良好であり、高速印刷性、シール性にも追従できる熱収縮性フィルムロールを提供すること」という課題と、その課題解決の手段について、何ら示唆するところがない。
そして、甲第3号証の「巻硬度」が本1発明の「フィルムロールの巻き出し部表面を、落球式硬さ試験機を用いて前記熱収縮性フィルムの幅方向に20mm間隔で測定した際の平均硬さ」と同一の尺度であると認めるに足る事情は見当たらず、当該「巻硬度」の硬さが本1発明の「平均硬さ」に換算して「300?650」の範囲に収まるものと認めるに足る事情も見当たらない。加えて、当該「巻硬度」を特定する目的が本1発明と同じであるとも認められない。
このため、甲第3号証の記載事項によっては、相違点(α)を当業者が容易になし得たとはいえない。
さらに、甲第3号証の「本発明」は、その巻芯部の付近において「平均硬さの増加率」を「急激に大きく」するという技術思想に基づくものであるから、本1発明の「平均硬さの増加率が0.25?5.0%の範囲」という増加率を一定の範囲に収めるための方法と軌を一にするものではなく、甲第3号証の第3図に記載された「本発明」又は「従来方法」の「増加率」が本1発明の「0.25?5.0%」という特定の範囲に収まるものと認めるに足る事情も見当たらない。また、甲第3号証の「従来方法」は、巻芯じわや表層じわの問題があるものであるから、当該「従来技術」を参酌すべき事情は認められない。
このため、甲第3号証の記載事項によっては、相違点(β)を当業者が容易になし得たとはいえない。

甲第4号証の第10欄第8?10行(摘記4a)には、甲第4号証の「ウエブの巻取り制御方法ならびにその装置」を用いることにより「巻太りに応じて巻取り密度が逓減する所謂テーパ巻取りを行なうことができる」ことが記載されている。
すなわち、甲第4号証に記載された発明は、生産性の向上や歩留まりの問題を解決するための巻取りの制御方法に関するものであって、本1発明の「長期保管後も、高精度印刷適性がロール全般に亘って良好であり、高速印刷性、シール性にも追従できる熱収縮性フィルムロールを提供すること」という課題と、その課題解決の手段について、何ら示唆するところがない。
このため、甲第4号証の記載事項によっては、相違点(α)及び(β)を当業者が容易になし得たとはいえない。

甲第5号証の第44頁(摘記5a)には「巻きの硬さは材料の表面硬度以外には、巻取張力の値、接圧力の値とその特性が大きく影響している」ことが記載され、
甲第6号証の第20頁(摘記6a)には「殆どこの巻張力で「巻固さ」が決定される」ことが記載されている。
すなわち、甲第5号証及び甲第6号証の記載事項は、巻取りの「巻取張力」や「接圧力」を制御することで所望の「巻きの硬さ」が得られるということを示唆するにすぎず、本1発明の「長期保管後も、高精度印刷適性がロール全般に亘って良好であり、高速印刷性、シール性にも追従できる熱収縮性フィルムロールを提供すること」という課題と、その課題解決の手段について、何ら示唆するところがない。
このため、甲第5号証及び甲第6号証の記載事項によっては、相違点(α)及び(β)を当業者が容易になし得たとはいえない。

加えて、甲第1号証の段落0043(摘記1b)には「厚み分布が7%を超えるフィルムでは、印刷工程で、特に多色の図柄を印刷する際の印刷性が劣り、複数を色を重ね合わせる際にズレが生し易い。」との記載があるところ、この印刷時の「ズレ」は、フィルムの厚み分布が7%を超えた場合に生じる「ズレ」であって、本件特許明細書の段落0019の記載にある「巻き状態が所定の範囲内」にない場合に生じる「印刷ズレ」とは、その要因が全く異なるズレに関するものである。
また、甲第1号証の段落0119(摘記1e)の「フィルム1」における「収縮仕上り性」の「5」という評価は、同段落0107(摘記1d)の「フィルムを紙管に撒いた状態で…250時間保管した後…印刷し…ラベルを収縮させる。色斑および収縮斑の程度を目視で判断」して「5:仕上がり性最良」としたものであって、本件特許明細書の段落0115の実施例1?11における「半年後の印刷評価」における「○」という評価(同段落0108の評価方法に従う評価)とは、全く異なる評価に関するものである。

以上総括するに、本1発明の「長期保管後も、高精度印刷適性がロール全般に亘って良好であり、高速印刷性、シール性にも追従できる熱収縮性フィルムロールを提供すること」という課題に照らして、甲1発明に甲第2号証ないし甲第6号証に記載の事項を組み合わせるべき動機付けは見当たらず、仮にその組み合わせに動機付けが認められたとしても、甲第1号証ないし甲第6号証の各刊行物には、ポリエステル系熱収縮性フィルムロールの「平均硬さ」と「平均硬さの増加率」を本1発明の数値範囲にすることについての記載がないので、上記(α)及び(β)の相違点を当業者が容易に想到できると認めることはできない。
してみると、本1発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、特許異議申立人の主張及び提出した証拠方法によっては、本1発明に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

(5)本件特許の請求項2に係る発明について
本件特許の請求項2に係る発明は「前記コアが紙管である請求項1に記載のポリエステル系熱収縮性フィルムロール。」に関する発明であって、本1発明の「ポリエステル系熱収縮性フィルムロール」の「コア」が「紙管」であることを特徴とする発明である。
してみると、上述のとおり、本1発明を当業者が容易に想到し得たとはいえないから、本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、特許異議申立人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項2に係る発明に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

(6)本件特許の請求項3に係る発明について
本件特許の請求項3に係る発明は「前記紙管の万能材料試験機で計測した扁平耐圧強度が1800?3000N/100mm幅である請求項2に記載のポリエステル系熱収縮性フィルムロール。」に関する発明であって、本2発明の「ポリエステル系熱収縮性フィルムロール」の「紙管」について、その「万能材料試験機で計測した扁平耐圧強度が1800?3000N/100mm幅である」であることを特徴とする発明である。
ここで、甲第7号証の段落0019(摘記7a)には「紙管1g当たりの偏平圧縮強度率Nが0.64」である「外径175mm、幅820mmの円筒状紙管」が記載されているが、上述のとおり、本1発明及び本2発明を当業者が容易に想到し得たとはいえないから、本件特許の請求項1又は2を間接又は直接に引用する請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、特許異議申立人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項3に係る発明に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。

6.申立ての理由2(実施可能要件)及び理由3(明確性要件)についての当審の判断
(1)特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書の第17頁第1行?第18頁第12行の「ア.幅方向の平均硬さばらつきと長手方向の平均硬さ増加率の間の技術的矛盾」の項において『幅方向の平均硬さのばらつきの程度は極めて大きいのに対して、長手方向の平均硬さについては非常に狭い範囲に制御すべきであるとして、技術的に矛盾している。実施例5、6、8、11のフィルムなどは、複数箇所の測定点全てで同一の増加率になることを意味し、増加率のバラツキは一切生じていないことになるのに対して、幅方向の平均硬度バラツキは、100(実施例5)、-15(実施例6)、50(実施例8)、-70(実施例11)などと極めて大きな値が許容されており、長手方向でのバラツキが0であることからすると、技術的にあり得ない内容になっている。よって本件特許発明1は不明確でありまた実施をすることができない。』という旨の主張(以下「主張ア」という。)をするとともに、
同第18頁第13行?第19頁第7行の「イ.実施例1、2、4は「有効長1000m以上」を満足しない点で本件特許発明に該当しない点」の項において『本件特許明細書の段落0021で定義される様に、有効長とは「巻き出し部の長さ方向端部から5mを除去し、巻き芯側に少なくとも100mの長さを残している点までの長さ」を意味するのに対して、実施例1、2、4はいずれもフィルムの巻き長自体が丁度「1000m」であり、本件特許発明に該当しないから、こうした例を実施例と称しており、発明の外延が不明確になっている。』という旨の主張(以下「主張イ」という。)をしている。

(2)主張アについての判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その段落0102並びに表2及び表3に記載されるように、テンター熱風の吹出に関して、テンター出口のフィルム幅方向における温度幅を3.0℃とし、スリッターにてフィルムを巻き取る張力を50N/mとし、フィルムをガイドするメタルロールの接圧を100N/mとし、巻き始めの初期値に対する巻き終わりの最終値を、張力、接圧ともに45%、170%に調整して、1.2m幅にスリットし、4000m巻き取ることにより、平均硬度が350であり、平均硬度ばらつきが100であり、平均硬度増加率が3.8%であり、80℃収縮率が35%である実施例5にかかるフィルムロールが得られたことが記載されている。
そして、その「平均硬度ばらつき」とは、本件特許明細書の段落0023?0024及び図2の説明にあるとおりの「熱収縮性フィルムの幅方向に20mm間隔で測定した際の平均硬さ」と、該平均硬さから最も離れた硬さとの数値差により表現した値の絶対値が大きい方を意味するものであって、その図2に示されるように、フィルムロールの端部と中央部を含む幅方向における「最も離れた硬さ」という極端な値から「平均硬さ」という平均の値を差し引いたものであるから、その「平均硬度ばらつき」の値に±200以内のバラツキが生じることに何ら不自然な点はない。
また、その「平均硬度増加率」とは、本件特許明細書の段落0025?0026及び図1の説明にあるとおりの「フィルムを500m単位で巻き出した後の平均硬さの増加率」を意味するものであって、その図1に示されるように、500m単位で巻き出した前後の「平均硬さ」という平均の値どうしの値を差し引いたものであるから、その「平均硬度増加率」の値が均等でバラツキのないものとなることに何ら不自然な点はない。
いずれにせよ、本件特許の請求項1の記載は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されるとおりのものであって、その「平均硬さのばらつき」及び「平均硬さの増加率」という発明特定事項については、本件特許明細書の段落0023?0026などに説明されるように明確であるから、本件特許の請求項1及びその従属項である請求項2?3の記載について、その特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、フィルム温度幅、スリッターの張力及び接圧並びにその制御率などを調整することにより、その実施例5、6、8及び11などに示されるとおりの本件特許の請求項1に記載された要件を満たす「ポリエステル系熱収縮性フィルムロール」を製造できたことが明確かつ十分に記載されており、その記載に特段の誤記などの不備は見当たらないので、本件特許の請求項1及びその従属項である請求項2?3に記載された「ポリエステル系熱収縮性フィルムロール」という「物」の発明について、その物を当業者が実施することができる程度に記載されていないとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1?3の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないとはいえない。
また、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許の請求項1?3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないとはいえない。

(3)主張イについての判断
本件特許明細書の段落0115の表3における「巻き長〔m〕」との記載は、本件特許の請求項1の「有効長1000m以上」との記載、及び表3における「実施例1」等が本件特許発明の「実施例」に相当するものであるとして記載されていることからみて、これが「有効長〔m〕」を意味するものとして記載されていることは明らかである。
いずれにせよ、本件特許の請求項1の記載は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されるとおりのものであって、その「有効長1000m以上」という発明特定事項については、本件特許明細書の段落0021?0022などに説明されるように明確であるから、本件特許の請求項1及びその従属項である請求項2?3の記載について、その特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1?3の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないとはいえない。

7.むすび
以上総括するに、特許異議申立人が主張する特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-10-20 
出願番号 特願2014-2537(P2014-2537)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B29C)
P 1 651・ 537- Y (B29C)
P 1 651・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大塚 徹  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 木村 敏康
加藤 幹
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5872595号(P5872595)
権利者 三菱樹脂株式会社
発明の名称 ポリエステル系熱収縮性フィルムロール  
代理人 山下 昭彦  
代理人 山本 典輝  
代理人 岸本 達人  
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