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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
管理番号 1321246
異議申立番号 異議2016-700544  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-14 
確定日 2016-11-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第5843419号発明「偏心柱梁接合部を有する外周架構」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5843419号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第5843419号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成21年9月11日に特許出願され、平成27年11月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人岡林茂により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第5843419号の請求項1?4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」などという。)。

「【請求項1】
扁平断面を有する壁柱と鉛直方向に長い扁平断面を有する梁を含む鉄筋コンクリート構造からなる外周架構であって、前記壁柱の建物外周側の側面は前記梁の建物外周側の側面より建物の外側に突出しているとともに、
少なくとも梁主筋の1本は柱の建物内側の主筋の内側に配され、かつ、少なくとも梁主筋の他の1本は前記柱の建物内側の主筋の外側に配された外周架構。

【請求項2】
前記梁の建物内側の側面は、当該梁に接合されている前記柱の建物内側の側面よりも建物内側に位置している、
または、前記梁の建物内側の側面と前記柱の建物内側の側面が同一平面状に位置することを特徴とする請求項1に記載の外周架構。

【請求項3】
前記外周架構は、建物外周に沿って前記壁柱と壁が交互に配置され、当該壁柱および当該壁は前記建物外周に沿った前記梁と交差することを特徴とする請求項1または2に記載の外周架構。

【請求項4】
前記外周架構の柱梁接合部内には、上下階の柱側面を結んだ仮想のせん断面と交差する拘束筋か、梁肋筋の少なくともいずれか一方が配されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の外周架構。」


第3 申立理由の概要
申立人が主張する取消理由の概要は以下のとおりである。

1 特許法第29条第2項(以下「取消理由1」という。)
本件発明1ないし4に係る特許は特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

2 特許法第36条第6項第2号、同項第1号(以下「取消理由2」という。)
本件発明1ないし4に係る特許は特許法第36条第6項第2号、同項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:「Towards the design of reinforced concrete eccentric beam-column jooints」、Magazine of Concrete Research,1999,51,No.6,Dec.、1999年12月、p.397-407

甲第2号証-1:「1968年十勝沖地震調査報告 1968年5月16日」、1968年十勝沖地震調査委員会、昭和44年3月25日、p692-709

甲第2号証-2:「Design of Beam-Column Joints for Seismic Resistance」、AMERICAN CONCRETE INSTITUTE、1991年、p.316-347

甲第3号証:特開平08-120781号公報

甲第4号証:特開平9-264050号公報

甲第5号証:特開2007-107367号公報

甲第6号証:「わかりやすい建築配筋ハンドブック」、理工図書株式会社、2001年9月20日、p76-77、p.84-85

甲第7号証:「壁梁が柱に偏心して取り付く場合のRC接合部の力学的挙動」、構造工学論文集Vol.46B、日本建築学会、2000年3月、p.571-582


第4 各甲号証について
(仮訳を決定で付した。異議申立書の翻訳を採用した場合はその旨を記した)。

1 甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載がある。
(1) 表題は「Towards the design of reinforced concrete eccentric beam-column joints」(鉄筋コンクリートにおける偏心梁・柱接合の設計に向けて)であり、399-400頁のFig.2には「column」(柱)と「beam」(梁)よりなる「specimens」(試験体)の図が記載されている。

(2) 「Test programme
The main aim of the test programme was to determine the strength and failure modes of eccentric beam-column joints.」
(テストプログラム
テストプラグラムの主目的は偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握することである。)(398頁右欄17-20行)


(3) 399頁のFig.2(a)「Elevation of all specimens」(全試験体の立面図)には、全試験体において梁の鉛直方向長さは300mmと示され、また400頁Fig.2(c)「plan view of specimens of type B」(タイプB試験体の平面図)には、タイプB試験体において梁の水平方向幅は200mmと記載されている。さらに前記Fig.2(c)には、タイプB試験体は、平面視で、2本の梁が直交する角部に柱が配置され、前記梁のうち1本が柱に対し偏心しており、柱の外側の側面が前記偏心している梁の外側の側面より外側に突出している構造であることが図示されている。

(4) 上記Fig.2(c)に図示されるタイプB試験体について、398頁右欄5-7行には、「・・・making the centerline of the beam coincident with the internal column edge (see Fig.2(c)).」(梁中心線が柱内側端と一致する(図2(c)参照))と、梁が柱に対し梁中心線が柱内側端と一致するよう柱内側(internal)端の側に偏心していることが記載されている。

(5) 上記Fig.2(c)には、タイプB試験体において、上記偏心している梁の2本の主筋について、上記(3)で摘記した398頁右欄5-7行の「internal」側を内側として、1本が上記柱の内側主筋のさらに内側に、他の1本が該柱の内側主筋の外側に配されていることが図示されている。

(6) 上記Fig.2(c)において、「column」(柱)の平面視寸法は200mm×200mmと記載されている。

(7) 上記(1)ないし(6)を踏まえると、甲第1号証には、タイプB試験体に関し、下記発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。

「2本の梁が直交する角部に柱が配置され、柱は正方形断面を有し、梁は鉛直方向に長い扁平断面を有する、偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握するための鉄筋コンクリート構造試験体であって、
前記柱の外側の側面が前記梁のうち1本の外側の側面より外側に突出するよう梁のうち1本が柱に対し偏心しているとともに、
該偏心している梁の主筋の1本は柱の内側主筋の内側に配され、かつ、該梁の主筋の他の1本は前記柱の内側主筋の外側に配された鉄筋コンクリート構造試験体。」

2 甲第2号証-1および甲第2号証-2
(1) 甲第2号証-1および甲第2号証-2の関係について
ア 甲第2号証-1の表題は「1968年十勝沖地震調査報告 1968年5月16日」であり、693頁1行-709頁9行に「函館大学」についての調査報告が記載されている。693頁6-12行には、「この丘の上には函館大学の本校舎(RC4階建)、付属校舎(RC3階建)、体育館(鉄骨造)、寄宿舎(RC3階、一部2階建)の4棟が一群をなして居り、約800m離れて国立函館工業高等専門学校(RC3階、一部2階建)の校舎と寄宿舎が建っている。地震によるこれらの建物の被害は全壊した函館大学本校舎を除き無被害乃至軽微な亀裂を生じた程度に止まっている。」と記載され、以下、主にこの「全壊した函館大学本校舎」の状況について報告されている。

イ 甲第2号証-2の320頁19行-321頁34行には「INVESTIGATION OF A DESTOROYED BUILDING BY STRONG EARTHQUAKE」(強い地震により破壊された建物の調査)が記載されている。320頁20-23行にはその建物について、「 Only one four story reinforced concrete school building at Hakodate Collage in Japan was heavily destroyed by the 1968 Tokachioki Earthquake, as shown in Fig. 6. Other reinforced connrete building in the same area suffered a little or no damage.」(図6に示すように、1968年十勝沖地震により、日本の函館大学では、唯一RC4階建校舎が著しく破壊された。同域の他のRC建物は被害軽微もしくは無被害であった。)と記載されている。

ウ 上記ア及びイの記載からみて、甲第2号証-1と甲第2号証-2は、同じ函館大学の本校舎(4階建RC)について調査したものである。以下、この建物を「函館大学本校舎」という。

エ 異議申立書では、甲第2号証-1および甲第2号証-2について、「甲第2号証-1及び甲第2号証-2に記載された函館大学本校舎にかかる発明を、以下(「甲2発明」という。甲第2号証-1及び甲第2号証-2によれば函館大学本校舎すなわち甲2発明は、以下の通りである。」(11頁23-25行)と記載している。すなわち、異議申立人は別々の刊行物である甲第2号証-1と甲第2号証-2の2つより「函館大学本校舎」なる「甲2発明」を認定している。
異議申立書には「甲2発明」の公知性あるいは公然実施性について記載がないが、甲第2号証-1および甲第2号証-2は同じ建物(函館大学本校舎)について報告するものであるから、甲第2号証-1および甲第2号証-2により該函館大学本校舎の建物の構造が公知となったことと推認できる。

(2) 甲第2号証-1の記載内容
ア 694頁6行に「b)本校舎建物の概要」と記載され、続く同頁13-15行には「図5-5にスパン方向及び桁行方向のラーメン図の一部を例示する。柱は全階を通じて50×80cm^(2)のスパン方向に長い断面で、この柱に20×150cm^(2)の桁行方向の壁梁が建物内側で柱面と梁面が同一面になる様に接合されている。従って柱材軸と桁行梁材軸の間には各階共30cmの偏心がある。」と記載されている。

イ 707頁下から4行に「桁梁の主筋の一部は柱主筋の外側にあり柱内への応力伝達が不十分である。」と記載されている。

ウ 696頁図5-5「函館大学本校舎構造図(抄)」および695頁図5-4「函館大学本校舎平面図、梁伏図等」からみて、上記アに摘記した柱と壁梁が建物の外周構造をなすことがわかる。
そしてそれら柱と壁梁の寸法及び位置関係をみると、柱の建物外側の側面は梁の建物外側の側面より建物の外側に突出することがわかる。
また、上記アに摘記した柱と壁梁の寸法・位置関係を踏まえ上記イの記載をみると、梁主筋の一部は柱主筋の建物内側に配されることがわかり、また該一部以外の梁主筋は柱主筋の外側に配されることとなる。さらにここでいう柱主筋は、上記アに記載された柱と壁梁の寸法・位置関係からして、柱の建物内側の主筋であることがわかる。

(3) 甲第2号証-2の記載内容について
ア 「Moreover, some of the girder reinforcement was outside the column core because oflarge eccentricity (Fig. 6(b)). 」(321頁24-26行)
(更には、大きな偏心のために、梁主筋のいくつかは、柱コアの外側に位置している(図6(b))。(異議申立書の翻訳を採用した。)

イ 341頁のFig.6bおよび340頁のFig.6aの記載を参照すると、上記アに摘記した梁・柱は、上記(2)で甲第2号証-1について摘記した梁・柱と同じ、函館大学本校舎の建物の外周構造をなすものであることがわかる。

(4) 上記(1)ないし(3)を踏まえると、甲第2号証-1および甲第2号証-2により、函館大学本校舎の建物の外周構造について、下記発明が公知となっている(以下、「甲2発明」という。)。

「スパン方向に長い扁平断面を有する柱と鉛直方向に長い扁平断面を有する壁梁を含むRC構造からなる外周構造であって、
前記柱の建物外側の側面は前記梁の建物外側の側面より建物の外側に突出し、前記柱の建物内側の側面は前記梁の建物内側の側面と一致しているとともに、
梁主筋の一部は柱の建物内側の主筋の建物内側に配され、他の梁主筋は柱の建物内側の主筋の外側に配された、外周構造。」

3 甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。
(1) 「【請求項1】
高層のRC造建物を鉄骨造に近づけるための構造形式である鉄筋コンクリート造チューブ構造であり、
前記建物の外周部には多数の壁状柱と周囲に連続した偏平梁とからなる外周チューブを、また建物の中央部にはコア壁をそれぞれ配置してなる・・・鉄筋コンクリート造チューブ構造。」

(2) 「【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明の鉄筋コンクリート造チューブ構造は、建物の外周部には多数の壁状柱と周囲に連続した偏平梁とからなる外周チューブを、また建物の中央部にはコア壁をそれぞれ配置してなると共に、・・・
【0008】
・・・即ち、建物の外周は壁状柱と周囲に連続した偏平梁とからなる外周チューブで構成し、・・・」

(3) 「【0012】
高層のRC造建物を鉄骨造に近づけるための構造形式である鉄筋コンクリート造チューブ構造1(図1?図4参照)は、建物2の外周部に多数の壁状柱3と周囲に連続した偏平梁4とからなる外周チューブ5を、また建物2の中央部にコア壁6をそれぞれ配置してなっている。」

(4) 図1には、壁状柱3と扁平梁4の建物外側の側面が一致していることが図示されている。さらに、壁状柱3は扁平断面であることが図示されている。
また、図1をみても、上記(1)ないし(3)に摘記した「外周チューブ」が建物の外周構造をなすことは明らかである。

(5) 図1、2、4より、扁平梁4は水平方向に長い扁平断面を有することが図示されている。

(6) 上記(1)ないし(5)を踏まえると、甲第3号証には、下記発明が記載されているといえる(以下、「甲3発明」という。)。

「扁平断面を有する壁状柱と周囲に連続した水平方向に長い扁平断面を有する梁とからなるとからなる鉄筋コンクリート造外周チューブからなる外周構造であって、
前記壁状柱の建物外側の側面と前記梁の建物外側の側面は一致している、外周構造。」

4 甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載がある。
(1) 「【請求項1】
建物の外側構面のみを地震力を負担可能な壁梁及び壁柱によって構成し、当該建物の内部の梁として鉄骨梁と鉄筋コンクリート床とからなる合成小梁を採用して内柱をなくしたことを特徴とする建物構造。」

(2) 「【0016】
建物1は、四方の外側構面のみを壁梁11及び壁柱12(図2参照)を含むRC壁式ラーメン10によって構成し、・・・」

(3) 図1には、壁柱12と壁梁11の建物内外側面が一致していることが図示されている。さらに、図1、2には、壁柱12は鉛直方向に長い扁平断面であることが図示されている。
また、図1、2をみても、壁柱12と壁梁11を含むRC壁式ラーメン10が建物の外周構造をなすことは明らかである。

(4) 上記(1)ないし(3)を踏まえると、甲第4号証には、下記発明が記載されているといえる(以下、「甲4発明」という。)。

「扁平断面を有する壁柱と鉛直方向に長い扁平断面を有する壁梁を含むRC壁式ラーメンからなる外周構造であって、
前記壁柱の建物内外側面は前記壁梁の建物内外側面と一致している、外周構造。」

5 甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載がある。
(1) 「【0043】
図3は、本発明をRC構造のラーメン柱・梁架構に適用した場合の他の形態を配筋図として示したもので、図4はその柱梁接合部の外観と寸法関係を概略的に示した斜視図である。
【0044】
この例は、建物の外周の柱1の室外側面と扁平な梁2の室外側面を一致させる場合等を想定しており、図1および図2の例との違いは、梁2の軸が柱1に対し偏心していることであり、梁2の梁幅bが柱1の柱幅Bより大きい点、跳ね出し部4の幅および高さをそれぞれ梁2の幅bおよび梁成Dと同一としている点等は共通している。図中、2aは梁2の屋外側部の幅、2bは柱1の屋内側にはみ出た屋内側部の幅であり、これらの合計が梁2の幅bであり、跳ね出し部4の幅と一致している。」

(2) 「【0046】
図3に示すように、柱1から跳ね出し部4にかけては、図1の例と同様に、その耐力が
梁2端部の耐力に比べ十分大きくなるように補強してある。具体的には図3において、跳ね出し部4のあばら筋10のピッチを梁2一般部のあばら筋10の半分程度とし、さらに柱1断面を貫通する形で上下の主筋8に加え、主筋8と平行する跳ね出し部補強筋12を配筋し、梁軸と直交する方向には端部11aを柱断面内に所要長定着させたコ字状の跳ね出し部主筋11を配筋し、この部分のコンクリートの拘束を強めている。この例で、跳ね出し部補強筋12の両端部には定着部としてフックが形成されている。」

6 甲第6号証
甲第6号証には、以下の記載がある。
(1) 「公差部のスターラップの径・ピッチは一般部と同じとする。」(77頁「■5 基礎梁幅が柱幅より大きい場合」の「(注)」の3行)

(2) 「底盤のコンクリート打設後柱筋を配筋してもよい。この場合には、基礎梁のスターラップは柱断面内にも設ける。」(84頁「■2 柱脚部(最下階)の配筋」の「(2)基礎梁幅が柱幅より大きい場合」の「(注)」の1-2行)

7 甲第7号証
甲第7号証には、以下の記載がある。
(1) 「1.序
1968年の十勝沖地震で柱と壁梁が偏心接合している場合に柱及び接合部がねじりモーメントの影響により破壊した例が見られた。本研究は、このような壁梁が柱に偏心して取り付く場合の壁梁・柱接合部の力学的挙動、特に柱及び接合部の終局耐力を検討するものである。
偏心接合した壁梁・柱接合部の既往の実験研究では、柱に壁梁が偏心して取り付くことにより、ねじりモーメントが発生し、柱や接合部がねじりモーメントの影響により、脆性的な破壊を起こし、偏心接合していない場合と比べ、30?40%の耐力低下を起こすことが服部等^(1))と森田^(2))及び執筆者等^(3))の研究で指摘されている。」(571頁左欄1-12行)

(2) 「又、最近、ねじりモーメントの作用下での梁柱接合部の耐力について、広沢等は文献7、及び文献8で地震被害の分析から、地震の際、柱と梁の偏心接合により発生したねじりモーメントが柱と接合部のせん断耐力を著しく低下させることを明らかにする」(571頁右欄9-13行)

(3)「 梁上側主筋位置の柱軸心に対するねじりモーメントMo=(BT+BC)・e(e:梁芯と柱芯との偏心距離)」(572頁左欄24-25行)


第5 判断
1 取消理由1について
(1) 本件発明1について
ア 申立人の主張する引用発明の組み合わせ
申立人は、本件発明1に対し、概略以下(ア)ないし(カ)の組み合わせを主張している。
(ア)甲1発明を主引例として、甲3発明を組み合わせる。
(イ)甲1発明を主引例として、甲4発明を組み合わせる。
(ウ)甲2発明を主引例として、甲3発明を組み合わせる。
(エ)甲2発明を主引例として、甲4発明を組み合わせる。
(オ)甲3発明を主引例として、甲1発明を組み合わせる。
(カ)甲4発明を主引例として、甲1発明を組み合わせる。

以下、これら(ア)ないし(カ)の各組み合わせについて検討する。

イ 対比・判断
(ア) 上記ア(ア)に記載した組み合わせについて
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は以下の点で相違している。
[相違点1] 本件発明1は扁平断面を有する壁柱を有しているのに対し、甲1発明の柱は正方形断面である点。
[相違点2] 本件発明1は建物の外周架構であるのに対し、甲1発明は偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握するための鉄筋コンクリート構造試験体である点。

相違点1、2について、併せて検討する。
申立人は、相違点1について、概略、甲1発明の正方形断面の柱に、甲3発明の扁平断面の壁状柱を適用して上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとり容易である旨主張している。

しかし、甲1発明は偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握するための鉄筋コンクリート構造試験体であり、また甲3発明はそのような試験における試験体の構造についてのものではないから、甲1発明の構造に甲3発明の「扁平断面を有する壁状柱」を適用する理由がない。
また、甲第1号証には甲1発明の建物上の適用箇所について記載されておらず、外周架構に適用することが当業者にとって容易とすることはできない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲1発明および甲3発明に基づいて容易になしえたものではない。

(イ) 上記ア(イ)に記載した組み合わせについて
本件発明1と甲1発明とを対比した相違点は、上記(ア)に同じである。

相違点1、2について、併せて検討する。
申立人は、相違点1について、概略、甲1発明の正方形断面の柱に、甲4発明の扁平断面の壁柱を適用して上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとり容易である旨主張している。

しかし、上記(ア)での検討と同様に、甲1発明は偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握するための鉄筋コンクリート構造試験体であり、また甲4発明はそのような試験における試験体の構造についてのものではないから、甲1発明の構造に甲4発明の「扁平断面を有する壁柱」を適用する理由がない。
また、甲第1号証には甲1発明の建物上の適用箇所について記載されておらず、外周架構に適用することが当業者にとって容易とすることはできない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲1発明および甲4発明に基づいて容易になしえたものではない。

(ウ) 上記ア(ウ)に記載した組み合わせについて
本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は以下の点で相違している。
[相違点3] 本件発明1は扁平断面を有する壁柱を有するのに対し、甲2発明は柱がスパン方向に長い扁平であり壁柱ではない点。

申立人は、相違点3について、概略、甲2発明の柱に、甲3発明の壁状柱を適用して上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとり容易である旨主張している。

しかし、甲3発明の外周構造は、「扁平断面を有する壁状柱」と「水平方向に長い扁平断面を有する梁」よりなり、「壁状柱の建物外側の側面と前記梁の建物外側の側面は一致している」ものである。甲3発明に壁状柱が記載されているからといって、それのみを抽出して適用し、甲2発明の外周構造の「柱の建物外側の側面は梁の建物外側の側面より建物の外側に突出」している点は維持しつつ、柱の扁平方向を90度変えるということは、当業者にとり容易に導けるものではない。

したがって、本件発明1は、当業者が甲2発明および甲3発明に基づいて容易になしえたものではない。

(エ) 上記ア(エ)に記載した組み合わせについて
本件発明1と甲2発明とを対比した相違点は、上記(ウ)に同じである。

申立人は、相違点3について、概略、甲2発明の柱に、甲4発明の壁柱を適用して上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとり容易である旨主張している。

しかし、甲4発明の外周構造は、「扁平断面を有する壁柱」と「鉛直方向に長い扁平断面を有する壁梁」よりなり、「前記壁柱の建物内外側面は前記壁梁の建物内外側面と一致している」ものである。甲4発明に壁柱が記載されているからといって、それのみを抽出して適用し、甲2発明の外周構造の「柱の建物外側の側面は梁の建物外側の側面より建物の外側に突出」している点は維持しつつ、柱の扁平方向を90度変えるということは、当業者にとり容易に導けるものではない。

したがって、本件発明1は、当業者が甲2発明および甲4発明に基づいて容易になしえたものではない。

(オ) 上記ア(オ)に記載した組み合わせについて
本件発明1と甲3発明とを対比すると、両者は以下の点で相違している。
[相違点4] 甲3発明は壁状柱と扁平梁の建物外側の側面が一致し、扁平梁は水平方向に扁平している、外周チューブからなるのに対し、本件発明1は壁柱の建物外周側の側面は梁の建物外周側の側面より建物の外側に突出し、鉛直方向に長い扁平断面を有する梁を有する点。
[相違点5] 本件発明1では、「少なくとも梁主筋の1本は柱の建物内側の主筋の内側に配され、かつ、少なくとも梁主筋の他の1本は前記柱の建物内側の主筋の外側に配され」るのに対し、甲3発明では主筋配置が明らかでない点。

申立人は、相違点4について、概略、甲3発明に、甲1発明の、柱の外側の側面が前記梁のうち1本の外側の側面より外側に突出する柱、および鉛直方向に長い扁平断面を有する梁を適用して、上記相違点4に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとり容易である旨主張している。

しかし、甲1発明は「2本の梁が直交する角部に柱が配置され、柱は正方形断面を有し、梁は鉛直方向に長い扁平断面を有」し、「前記柱の外側の側面が前記梁のうち1本の外側の側面より外側に突出するよう梁のうち1本が柱に対し偏心している」というものである。これより梁より外側に突出する柱、および鉛直方向に長い扁平断面を有する梁を抽出して適用し、甲3発明の梁の扁平方向を90度変え、さらに壁状柱の建物外側の側面がその90度方向を変えた梁の建物外側の側面より建物の外側に突出するということは、当業者にとり容易に導けるものではない。

加えて、甲1発明の構造は「偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握するための鉄筋コンクリート構造試験体」の構造であり、この構造を建物においてどう使うかを記載するものではない。

したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲3発明および甲1発明に基づいて容易になしえたものではない。

(カ) 上記ア(カ)に記載した組み合わせについて
本件発明1と甲4発明とを対比すると、両者は以下の点で相違している。
[相違点6] 甲4発明は壁柱と壁梁の建物内外側面が一致する壁式ラーメンであるのに対し、本件発明1は壁柱の建物外周側の側面は梁の建物外周側の側面より建物の外側に突出している点。
[相違点7] 本件発明1では、「少なくとも梁主筋の1本は柱の建物内側の主筋の内側に配され、かつ、少なくとも梁主筋の他の1本は前記柱の建物内側の主筋の外側に配され」るのに対し、甲4発明では主筋配置が明らかでない点。

申立人は、相違点6について、概略、甲4発明に、甲1発明の「柱の外側の側面が前記梁のうち1本の外側の側面より外側に突出する」柱を適用して上記相違点6に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとり容易である旨主張している。

しかし、甲1発明は「2本の梁が直交する角部に柱が配置され、柱は正方形断面を有し、梁は鉛直方向に長い扁平断面を有」し、「前記柱の外側の側面が前記梁のうち1本の外側の側面より外側に突出するよう梁のうち1本が柱に対し偏心している」というものである。これより梁より外側に突出する柱のみを抽出して適用し、甲4発明の「壁柱と壁梁の建物内外側面が一致する壁式ラーメン」構造を、壁柱の建物外側の側面が壁梁の建物外側の側面より建物の外側に突出するように変えるということは、当業者にとり容易に導けるものではない。
加えて、甲1発明の構造は「偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握するための鉄筋コンクリート構造試験体」の構造であり、この構造を建物においてどう使うかを記載するものではない。

したがって、相違点7について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲4発明および甲1発明に基づいて容易になしえたものではない。

(キ) 上記(ア)ないし(カ)のまとめ
以上のように、本件発明1の、「扁平断面を有する壁柱と鉛直方向に長い扁平断面を有する梁を含む鉄筋コンクリート構造からなる外周架構であって、前記壁柱の建物外周側の側面は前記梁の建物外周側の側面より建物の外側に突出している」という構成要件は甲1ないし甲4のいずれの発明も有しておらず、また上記ア(ア)ないし(カ)の組み合わせからも、容易に導けるものではない。
そして、本件発明1はこの構成要件により明細書記載の「【0006】・・・外周架構の柱を壁形状とすることで、室内側へ出っ張る柱寸法を小さくして、室内面積を有効利用できる・・・」という、甲1ないし甲4発明からは予測できない顕著な効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、上記(ア)ないし(カ)で検討したように、当業者が容易になしえたものではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、上記ア(ア)ないし(カ)に記載した組み合わせにより本件発明1の上記構成を想到できる理由として、周知の課題である室内面積の有効活用、また耐震性の向上という動機付けを主張している点について検討する。
(ア) 室内面積の有効活用について
申立人は、上記ア(ア)、(イ)の組み合わせにおいて、周知の課題である室内面積の有効活用という点から、甲1発明の正方形柱を甲3、4発明の扁平断面の柱とする動機付けが存在する旨主張する。
また、上記ア(オ)、(カ)の組み合わせにおいて、同様に、甲3、4発明の壁形状の柱を、甲1発明の、柱の建物外側の側面が梁の建物外側の側面より建物の外側に突出している構成とする動機が存在すると主張している。
しかし、甲1発明は偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握するための鉄筋コンクリート構造試験体でって、その建物上の適用箇所が不明であるから、室内面積の有効活用をそのような試験体の構造を設計変更する動機とする理由がない。
また、甲3、4発明の柱はいずれも壁柱であり格別室内側に突出するものではなく、室内面積の有効活用という点から甲1発明の柱の建物外側の側面が梁の建物外側の側面より建物の外側に突出している構成を適用する格別の理由は見出せない。加えて、甲1発明は偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握するための鉄筋コンクリート構造試験体で、かつ2本の梁が直交する角部の構造についての試験体であり、室内面積の有効活用について記載するものではない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(イ) 耐震性の向上について
申立人は、刊行物7に、柱と梁との偏心が小さくなれば捻れも小さくなり耐震性が向上する旨が記載されていると指摘し(刊行物7には「柱に壁梁が偏心して取り付くことにより、ねじりモーメントが発生し、柱や接合部がねじりモーメントの影響により、脆性的な破壊を起こし、偏心接合していない場合と比べ・・・耐力低下を起こす」(上記第4 7(1))、「地震の際、柱と梁の偏心接合により発生したねじりモーメントが柱と接合部のせん断耐力を著しく低下させる」(上記第4 7(2))と記載されている。)、周知の課題である耐震性向上という点から、上記ア(ア)、(イ)の組み合わせにおいて、甲1発明の正方形断面を扁平断面とする動機付けが存在する旨主張する。
また、上記ア(ウ)、(エ)の組み合わせにおいて、同様に、甲2発明のスパン方向に長い扁平断面を有する柱を、壁柱とする動機が存在すると主張している。
しかし、甲1発明は偏心梁・柱接合の耐力および破壊モードを把握するための鉄筋コンクリート構造試験体であり、耐震性向上のためにそのような試験体の構造を設計変更する理由がない。
また、甲2発明について、耐震性向上という動機であれば、柱と梁との偏心を小さくあるいは無くすまでであり、壁柱に設計変更する動機がみあたらない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(2) 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が甲第1号証ないし甲第7号証および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(3) 小括
以上のとおり、本件発明1ないし4は、当業者が甲第1号証ないし甲第7号証および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

2 取消理由2について
(1) 申立人の主張
申立人は、
「まず、「外周」の辞書的意味として、建築大辞典第1版第11刷には「外周壁」の説明として「建物の外周を取巻く壁体。外壁は外周壁の外面を指す場合が多いので内容を明確にするために作られた語」とあり、広辞苑第六版には「外周 (1)ものの外側に沿ったまわり。また、その長さ・距離。 (2)ものの外側をとり巻いている部分・区域。」とある。かかる辞書的意味に従えば、特許請求の範囲における「外周架構」とは建物の「外周」を取巻く架構であり、「外周」とは建物の外側に沿ったまわり、すなわち四辺を意味するものと解される。」(異議申立書34頁下から4行-35頁4行)
とした上で、
「したがって、特許請求の範囲において「外周」が、建物外側の四辺を意味するのか、一部でも良いのか分からないので、不明瞭な記載に該当し特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないし、明細書の開示に基づいて拡張ないし一般化もできないので特許法第36条第6項第1号の規定にも適合しない。」(同35頁下から3行-36頁2行)と主張している。

(2) 判断
ア 特許法第36条第6項第2号について
本件発明1?4は建物の外周部の構造である「外周架構」の発明であって、建物自体の発明ではないから、請求項1?4の記載について、「外周架構」が建物の周囲全体に設けられるのか、一部にのみ設けられ得るのかが特定されていないからといって、発明が不明瞭となるものではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

イ 特許法第36条第6項第1号について
上記アで検討したように、特許請求の範囲の記載に申立人の主張する不明瞭さはない。よって、申立人の「特許請求の範囲において「外周」が、建物外側の四辺を意味するのか、一部でも良いのか分からないので、・・・明細書の開示に基づいて拡張ないし一般化もできないので特許法第36条第6項第1号の規定にも適合しない。」という上記主張は採用できない。
また、他に本件発明1?4が発明の詳細な説明に記載されていないとする理由も見当たらない。

(3) 小括
以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は、明確でないとはいえず、また、発明の詳細な説明に記載したものではないともいえない。


第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-10-21 
出願番号 特願2009-211025(P2009-211025)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04B)
P 1 651・ 537- Y (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 俊久  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 赤木 啓二
前川 慎喜
登録日 2015-11-27 
登録番号 特許第5843419号(P5843419)
権利者 大成建設株式会社
発明の名称 偏心柱梁接合部を有する外周架構  
代理人 長谷部 善太郎  
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