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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1321248
異議申立番号 異議2016-700789  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-30 
確定日 2016-11-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5882617号発明「ポリスチレン系樹脂発泡シート、積層シート、及び、包装用容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5882617号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5882617号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成23年7月11日(優先権主張 平成22年7月20日)に特許出願され、平成28年2月12日にその特許権の設定登録がされ、平成28年3月9日にその特許公報が発行され、その後、その特許に対し、平成28年8月30日に西郷 新(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5882617号の請求項1?3の特許に係る発明(以下「本件発明1?3」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなる第一成分と、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる第二成分と、ポリスチレン系樹脂のバージン材からなる第三成分とが含有されており、これらの成分が〔第一成分:第三成分〕=〔1:99〕?〔50:50〕となり、且つ、〔第一成分:第二成分〕=〔100:3〕?〔100:30〕となる質量割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物を発泡させてなる単層の発泡シートであって、該単層の発泡シートの吸水率が10%未満で発泡倍率が3?15倍であることを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面側にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなることを特徴とする積層シート。
【請求項3】
請求項2に記載の積層シートを、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、及び、両面真空成形の内のいずれか1つの成形方法で熱成形してなることを特徴とする包装用容器。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された下記甲第1号証(主引用例)及び甲第3、4、6号証に記載された発明並びに電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記甲第5号証に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された下記甲第2号証(主引用例)及び甲第3、4、6号証に記載された発明並びに電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記甲第5号証に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された下記甲第4号証(主引用例)及び甲第1、2、6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1?3に係る特許は同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開2009-155557号公報(以下「刊行物1」という。)
甲第2号証:特開2002-179827号公報(以下「刊行物2」という。)
甲第3号証:特開2001-2134号公報(以下「刊行物3」という。)
甲第4号証:特表平4-506195号公報(以下「刊行物4」という。)
甲第5号証:「比重一覧表」http://www.plastic.co.jp./knowhow/density.htmlについての2007年10月20日時点でのインターネットアーカイブ
甲第6号証:特開2008-94919号公報(以下「刊行物6」という。)

第4 刊行物等の記載及び刊行物1、2、4に記載された発明
1 刊行物1
1a)「【請求項1】
アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分とスチレンとの共重合体を含み且つガラス転移温度が110℃以上であるポリスチレン系樹脂50?80重量%、ポリプロピレン系樹脂15?45重量%及びスチレン系エラストマー3?10重量%を含有する耐熱ポリスチレン系樹脂組成物よりなると共に、表面粗さが15μm以下の平滑面を有し且つ連続気泡率が25%以下の耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層を含有することを特徴とする耐熱発泡シート。」

1b)「【0014】・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムを積層一体化させて用いた場合に、耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層と熱可塑性樹脂フィルムとの界面において気泡の発生(気泡膨れ)に伴う界面剥離を生じることがないと共に、熱成形時の二次発泡性に優れ、熱成形によって十分な厚みを有し且つ機械的強度に優れた熱成形品を得ることができる耐熱発泡シート及びこの製造方法、並びに、上記耐熱発泡シートを熱成形して得られる食品用容器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の耐熱発泡シートは、アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分とスチレンとの共重合体を含み且つガラス転移温度が110℃以上であるポリスチレン系樹脂50?80重量%、ポリプロピレン系樹脂15?45重量%及びスチレン系エラストマー3?10重量%を含有する耐熱ポリスチレン系樹脂組成物よりなると共に、表面粗さが15μm以下の平滑面を有し且つ連続気泡率が25%以下の耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層を含有することを特徴とする。」

1c)「【0029】
又、本発明の耐熱発泡シートの耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層に用いられるスチレン系エラストマーとしては、特に限定されず、例えば、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体や、これらの水添物などが挙げられ、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体が好ましい。なお、スチレン系エラストマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0030】
そして、耐熱発泡シートの耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層を構成する耐熱ポリスチレン系樹脂組成物中におけるスチレン系エラストマーの含有量は、少ないと、ポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との相溶化が不充分となって、耐熱発泡シートの製造時における発泡性が低下して耐熱発泡シートの美麗性が低下する一方、多いと、耐熱発泡シートの剛性及び耐熱性が低下するので、3?10重量%に限定され、4?7重量%が好ましい。」

1d)「【0056】
更に、上記耐熱発泡シートの耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層上には熱可塑性樹脂フィルムが積層一体化されて用いられてもよい。この熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体などのエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)などのポリエステル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸エステル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド及びこれらを主たる成分とする共重合体などが挙げられ、耐熱性及び耐油性に優れていることから、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。」

1e)「【0079】
上述のようにして製造された耐熱発泡シートを、汎用の熱成形方法を用いて、熱可塑性樹脂フィルムが内側となるように皿状、碗状などの容器状に熱成形することによって食品用容器を得ることができる。
【0080】
この際、上述したように、耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層と熱可塑性樹脂フィルムとは強固に一体化されていることから、熱成形時の熱によって、耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層と熱可塑性樹脂フィルムとの間に気泡膨れを生じるようなことはなく、食品用容器は、その耐熱発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとが全面的に確実に積層一体化されており、外観性に優れている。
【0081】
そして、耐熱発泡シートの耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層は二次発泡に必要な十分な量の残存発泡ガスを含有しており、耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層は熱成形時の熱によって十分に二次発泡して十分な厚みを有する食品用容器を得ることができると共に、耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層は独立気泡率が高いので、食品用容器は優れた機械的強度も備えている。」

1f)「【0087】
更に、本発明の耐熱発泡シートは、その耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層において、ガラス転移温度が110℃以上である特定のポリスチレン系樹脂を用い、発泡適正温度をポリプロピレン系樹脂に近づけていると共に、スチレン系エラストマーを用いてポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との相溶化を高めており、高発泡倍率にして優れた耐熱性も有しており、更に、耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層を構成しているポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイトを0.1?2g/10分とすることによって、耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層を更に高発泡倍率とすることができる。」

1g)「【0093】
(実施例1)
口径が115mmの第一押出機の先端に、口径が150mmの第二押出機を接続してなるタンデム型押出機を用意した。そして、スチレン-メタクリル酸共重合体(東洋スチレン社製 商品名「T080」、ガラス転移温度:117℃)70重量%、プロピレン-エチレンブロック共重合体(サンアロマー社製 商品名「PB270A」、メルトフローレイト:0.7g/10分)24重量%及びスチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体1(クラレ社製 商品名「セプトン2104」、スチレン成分含有量:65重量%)6重量%からなる耐熱ポリスチレン系樹脂組成物100重量部、化学発泡剤マスターバッチ(大日精化社製 商品名「ファインセルマスターPO410K」、低密度ポリエチレン:60重量%、炭酸水素ナトリウム・クエン酸:40重量%)1.0重量部及びタルクマスターバッチ(東洋スチレン社製 商品名「DMS1401」、ポリスチレン:60重量%、タルク:40重量%)0.8重量部を上記第一押出機に供給して220℃にて溶融混練した後、押出機の途中から物理発泡剤としてブタン(イソブタン:70重量%、ノルマルブタン:30重量%)3重量部を圧入した。なお、スチレン-メタクリル酸共重合体及びポリスチレンからなるポリスチレン系樹脂全体のガラス転移温度は、117℃であった。
【0094】
そして、溶融状態の耐熱ポリスチレン系樹脂組成物を第二押出機に連続的に供給して174℃まで冷却し、第二押出機の先端部に取り付けた環状のダイから押出発泡させて円筒状発泡体を製造し、ダイから押出発泡された直後の円筒状発泡体の内外周面に約30℃のエアーを1.9m^(3)/分の風量で吹き付けることによって円筒状発泡体を冷却しつつ拡径した上で直径が666mmのマンドレルに供給して更に冷却し、しかる後、円筒状発泡体をその押出方向に連続的に内外周面間に亘って切断して展開することによって、耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層のみからなる耐熱発泡シートを得た。なお、環状のダイにおける樹脂流通路の樹脂出口部は全面的に窒化チタンによって被覆されていた。又、環状のダイは、その樹脂出口部において、内径が195mmで、クリアランスが0.45mmであった。」

1h)「【0120】
【表1】



2 刊行物2
2a)「【請求項1】 スチレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)とを含む樹脂組成物を発泡してなる発泡体において,上記プロピレン系樹脂(B)は,JIS K 7121に準じて,降温速度10℃/分の条件で測定した結晶化開始温度が130℃以下のものを用いてなり,また,発泡体内の気泡膜は上記スチレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)とよりなる層状構造に形成されており,また,上記気泡膜を厚み方向の断面で見た時に,気泡膜の表面から引いた垂線がプロピレン系樹脂(B)と交差する数nが4以上であり,かつ発泡体の密度が0.5g/cm^(3)以下であり,また独立気泡率が20%以上であることを特徴とするスチレン系樹脂発泡体。
・・・
【請求項3】 請求項1又は2において,上記樹脂組成物は,上記スチレン系樹脂(A)50?90重量部と,プロピレン系樹脂(B)10?50重量部の合計100重量部に対し,相溶化剤(C)1?30重量部を添加してなることを特徴とするスチレン系樹脂発泡体。」

2b)「【0004】
【解決しようとする課題】スチレン系樹脂からなる発泡体は耐熱性及び耐薬品性が劣るという欠点を有しているため,これらの耐熱性,耐薬品性を要する用途には,例えばプロピレン系樹脂が使用されている。しかしながら,プロピレン系樹脂を使用した発泡体は,剛性,成形性に乏しく,また,結晶性樹脂であるがために発泡が容易でないという欠点を有している。
・・・
【0009】本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,上記スチレン系樹脂本来の優れた発泡性,成形性,剛性に加え,優れた耐薬品性を有し,かつ外観性,耐熱油性に優れたスチレン系樹脂発泡体及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0010】
【課題の解決手段】請求項1に記載の発明は,スチレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)とを含む樹脂組成物を発泡してなる発泡体において,上記プロピレン系樹脂(B)は,JIS K 7121に準じて,降温速度10℃/分の条件で測定した結晶化開始温度が130℃以下のものを用いてなり,また,発泡体内の気泡膜は上記スチレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)とよりなる層状構造に形成されており,また,上記気泡膜を厚み方向の断面で見た時に,気泡膜の表面から引いた垂線がプロピレン系樹脂(B)と交差する数nが4以上であり,かつ発泡体の密度が0.5g/cm^(3)以下であり,また独立気泡率が20%以上であることを特徴とするスチレン系樹脂発泡体にある。」

2c)「【0029】次に,請求項3の発明のように,上記樹脂組成物は,上記スチレン系樹脂(A)50?90重量部と,プロピレン系樹脂(B)10?50重量部の合計100重量部に対し,相溶化剤(C)1?30重量部を添加してなることが好ましい。この場合には,特に,発泡性,剛性,耐薬品性等に優れたスチレン系樹脂発泡体を得ることができる。
【0030】スチレン系樹脂(A)が50重量部未満である場合には,充分に発泡しないため,優れた発泡体を得ることができず,また得られた発泡体の剛性が不足するおそれがある。また,スチレン系樹脂(B)が90重量部より多い場合には得られた発泡体の耐熱性,耐薬品性が不足するおそれがある。
【0031】上記相溶化剤の種類については,特に制限がなく,例として,スチレン-イソプレンジブロック共重合体,スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体,スチレン-ブタジエンジブロック共重合体,スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体やこれらの水添加物などが用いられる。これら相溶化剤は一種でも,二種以上の混合物でもよい。
【0032】相溶化剤の使用量は,使用するスチレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)の種類と量により決定することができ,樹脂組成物100部に対し,1?30重量部である。相溶化剤の使用量が1重量部未満である場合には,相溶化剤の効果が発揮され難くなり,例えば後述する発泡体の製造時の押出発泡の際等に未分散樹脂が析出し,それが押出口となるダイス先端部等を閉塞させるめ,発泡体の製造が困難となるおそれがある。また,30重量部を越えた場合には,充分な耐熱性,耐薬品性が得られず,また,発泡体の剛性も低下するおそれがある。」

2d)「【0050】また,上記押出成形から押出発泡シートを作製することもできる。更に,この押出発泡シートを加熱炉に入れて,軟化,二次発泡させる。その後,加熱炉から出して,直ちに金型でプレス成形して,発泡成形品を得ることもできる。
【0051】また,本発明の発泡体には,必要に応じてフィルムをラミネートすることができる。ラミネートするフィルムは特に制限が無く,例えば,OPS(2軸延伸スチレンシート),耐熱OPS,HIPSシートなどのスチレン系樹脂フィルム,CPP(無延伸プロピレンフィルム),OPP(2軸延伸プロピレンフィルム)等のプロピレン系樹脂のフィルムあるいはポリエチレン系樹脂フィルム,ポリエステル系樹脂フィルムなどが用いられる。ラミネートするフィルムの厚さに制限はないが,通常は15μm?150μmのフィルムが用いられる。これらのフィルムには必要に応じて印刷が施される。また,これに限られるものではないが,必要に応じてホットメルト系の接着剤を用いて積層することもできる。また,押出機によってフィルムを発泡体の表面に直接押出して積層する,押出ラミネート法を採用することもできる。」

2e)「【0058】(実施例1)スチレン系樹脂(A)としてG9401,プロピレン系樹脂(B)としてEG8を使用し,スチレン系樹脂(A)67重量部,プロピレン系樹脂(B)33重量部の合計100重量部に対し,SEPS(スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体の水添加物,セプトン2104)5重量部を添加し,さらにこの樹脂混合物100重量部に対し,気泡核剤としてタルク0.5重量部,分散助剤としてステアリン酸亜鉛0.3重量部を加えてミキサーでよく攪拌混合した。その後,口径φ65mm,L/D(一軸押出機におけるスクリュー長さLとスクリュー口径Dとの比)が33の一軸押出機のホッパーに供給した。
【0059】その後,押出機スクリューの前段で235℃で溶融混練し,その溶融混練物に押出機の中段に設けられた発泡剤注入孔より全押出量の3.0重量%になるようにn-ブタン65%とi-ブタン35%の混合ブタンを注入した。
【0060】次いで,押出機スクリューの後段で160℃に冷却し,リングダイより管状に押出発泡させ,得られた管状発泡シートを,マンドレルで冷却後,カッターにより1面を切り開いて密度0.098g/cm^(3)の押出発泡シートを得た。得られた押出発泡シートを室温で1週間養生させた後,真空成形機で加熱し成形することによって,図2に示すごとき,トレイ形状の発泡成形品2を作製した。得られた発泡成形品は,発泡体密度0.060g/cm^(3)で,n=29であり,独立気泡率は88%であった。また,耐熱油性,外観性,耐薬品性については,表1及び後述のごとく優れた性質を示した。」

2f)「【0086】
【表1】



3 刊行物3
3a)「【0009】上記問題点を解決するために、例えば、発泡ポリスチレンシート(PSP)で成形した容器本体の内側接液部にポリプロピレン(PP)樹脂シートを一体に内張りした食品容器も実用化されている。
【0010】しかしながら、上記食品容器においては、発泡ポリスチレンシート(PSP)とポリプロピレン(PP)樹脂シートとの接合性に難点がある一方、PSPと一体になったPP樹脂シートとの相溶性が低いために再生が困難であり、スクラップリターン性が低いという問題点があった。すなわち、PSPと一体になったPP樹脂シートをガス抜きし再加熱によって再生しようとしても両部材が溶け合うことがなく、打ち抜き成形によって多量に生じたスクラップ材(リグラインド)の再生利用が困難となるため、材料歩留りが低くなり食品容器の製造コストが大幅に上昇してしまう問題点があった。」

4 刊行物4
4a)「31.第1の熱可塑性樹脂および、第1の熱可塑性樹脂および熱可塑性バリア樹脂を含む多層シート製造工程より得られる熱可塑性再生材料、を含有する混合物を発泡させて発泡体シートを形成することを包含する熱可塑性発泡体の製造方法。」(請求項31)

4b)「本発明の方法の別の実施態様は、上記した好ましい方法の発泡押出し段階が改良されたものである。この実施態様においては、バリア樹脂を含有する再生材料を実際に発泡体樹脂と組合せ、そして次に、再生材料と発泡体樹脂の混合物を発泡させる。この方法は多層シート製造工程の間に得られる再生材料の量が再生層で使用される量を超えるような場合に使用するのが好ましい。この方法においては、添加される再生材料の量は発泡体樹脂の約1?約40重量%の範囲である。発泡体樹脂およびバリア樹脂を含有する再生材料の混合物を発泡させて許容できる発泡体を得ることができることは予想外であった。」(9頁右下欄2?12行)

4c)「実施例1?5
以下のとおり異なる樹脂混合物の3試料を調製した。
全てのパーセント(%)は重量%である。樹脂混合物は5層バリアフィルム(LLDPE/PP/EVA/EVOH/EVA)を用いて製造される多層シートから得られる再生材料を模倣した。
混合物1は結晶ポリスチレン(Amoco Chemical Company、R1)50.1%、ハイインパクトポリスチレン(Amoco Chemical Company、H2R)32.7%、PP(7853-367Eastman Kodakより入手)5.5%、LLDPE(Dow Chemica1 3010)3.0%、EVA(Plexar 3342. Chemplexより入手)2.1%、EVOH(F101等級、EVALCAより入手)1.6%およびKraton G2701(Shellより入手したスチレン-エチレン-コ-ブタジエン-スチレンブロック共重合体)5.0%の総量500ポンドを従来のZSK-30単軸スクリュ押出機で混練し、混練された混合物を約432°Fで、最初は25 lb/hrで1孔ダイより、次に45 lb/hrで2孔ダイより押出すことにより製造した。混合物1は相溶性付与剤(Kraton)が添加されるような多層シート製造工程から生じる再生材料を模倣している。
・・・
混合物3の製造においては、先ずポリスチレン樹脂Amoco R1)、樹脂100部当りブタン4.0部および樹脂100部当りタルク1.0部の混合物を、420°Fの温度で、環状ダイを通して押出して3.4 1bs/ft^(3)の密度を有する発泡体シートを製造した。次に発泡体シートをインパクトポリスチレン(Amoco H2R)の2ミル厚の層を有する一方の面に押出しコーティングした。次に、混合物1の樹脂の同時押出しにより作成されたEVA 16.5重量%、EVOH 16.5重量%、PP 42.8重量%およびLLDPE 24.2重量%の5層LLDPE/PP/EVA/EVOH/EVAバリアフィルムを、ニップ約35ミルの2本のニップローラを通過させることにより発泡体シートのもう一方の面に積層した。積層後の発泡体層の厚みは70ミルであった。バリアフィルム/発泡体シートをフレーク状とし、ベレット化して、440°Fの温度で8インチのSterling押出機で押出して、混合物3を形成した。これはバリア層/発泡体シートの完全なリサイクルから生じる再生材料を模倣している。重量%は基にした混合物3の組成は、ポリスチレン45.6%、インパクトポリスチレン30.8%、EVOH 3.9%、エチレン酢酸ビニル3.9%、ポリプロピレン10.1%および線状低密度ポリエチレン5.7%であった。」(11頁左上欄20行?左下欄17行)

4d)「実施例6?10
混合物3およびポリスチレン樹脂(Amoco Chemical Rl)の押出供給試料を表3に示すように調製した。

次に実施例6?10の供給試料の各々を供給試料100部に対してタルク1.0重量部および供給試料100部に対してブタン4.0重量部と4 1/2″?6″のNRM押出機内で混合し、環状ダイを通して440°Fで押出し、切断して発泡体シートを形成した。発泡体押出しは以下のダイ圧力(単位psi)で行った。実施例6:1980、実施例7:1953、実施例8:1943、実施例9:1958および実施例10:1858。押出し運転速度は実施例6では68 ft/min、実施例7?10では72 ft/minとした。得られた発泡体を分析し、結果を表4に示した。

実施例7?10で新しい樹脂と各混合物との混合物から製造された発泡体の各々は許容できるものであり、実施例6の対照試料発泡体に匹敵するものであった。」(12頁左下欄5行?右下欄表4の下3行)

5 甲第5号証
5a)「



6 刊行物6
6a)「【0018】
以下に本発明の構成を実施例により具体的に説明する。
実施例1?3
ポリスチレン(日本ポリスチレン(株)製、商品名「G120K」)50重量部、助剤としてスチレン-ブタジエンブロック共重合体(商品名「デンカクリアレン730L」)30重量部、疎水性ゼオライト(ユニオン昭和(株)製商品名「アブセンツ」)20重量部を押出機で溶融混練してペレット(以下「マスターペレット」という。)を得た。
ポリスチレン(日本ポリスチレン製、商品名「G797N」、MFR 1.5g/10分)、ポリフェニレンエーテル(日本GEプラスチック(株)製、商品名「ノリルPKN4752」、MFR 14g/10分、300℃)(以下「ノリル」という。)及び前記のマスターペレットを表1に記載した配合比率で混合ミキサーにて混練し、押出機に供給した。
押出機は、シリンダー温度190?270℃、樹脂温度240?245℃、圧力140?200kg/cm^(2)に調整した。
発泡剤として、イソブタン55?100重量%及びノルマルブタン0?45重量%からなる炭化水素を使用した。発泡倍率が10±1となるように炭化水素の使用量をコントロールした。
押出機の発泡剤圧入部は出口付近とし、出口付近には高混練可能なスクリューを備えた単軸押出機を使用した。」

7 刊行物1に記載された発明
摘示1aからみて、刊行物1には、
「アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分とスチレンとの共重合体を含み且つガラス転移温度が110℃以上であるポリスチレン系樹脂50?80重量%、ポリプロピレン系樹脂15?45重量%及びスチレン系エラストマー3?10重量%を含有する耐熱ポリスチレン系樹脂組成物よりなると共に、表面粗さが15μm以下の平滑面を有し且つ連続気泡率が25%以下の耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層を含有する耐熱発泡シート。 」の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

8 刊行物2に記載された発明
摘示2aからみて、刊行物2には、
「スチレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)とを含む樹脂組成物を発泡してなる発泡体において,上記プロピレン系樹脂(B)は,JIS K 7121に準じて,降温速度10℃/分の条件で測定した結晶化開始温度が130℃以下のものを用いてなり,また,発泡体内の気泡膜は上記スチレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)とよりなる層状構造に形成されており,また,上記気泡膜を厚み方向の断面で見た時に,気泡膜の表面から引いた垂線がプロピレン系樹脂(B)と交差する数nが4以上であり,かつ発泡体の密度が0.5g/cm^(3)以下であり,また独立気泡率が20%以上であり、上記スチレン系樹脂(A)50?90重量部と,プロピレン系樹脂(B)10?50重量部の合計100重量部に対し,相溶化剤(C)1?30重量部を添加してなるスチレン系樹脂発泡体。」の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されているといえる。

9 刊行物4に記載された発明
摘示4a?d、特に4c及び4dからみて、刊行物4には、その実施例6?10に係る発明として、以下の、
「混合物3およびポリスチレン樹脂(Amoco Chemical Rl)の押出供給試料を表3に示すように調製し、

次に実施例6?10の供給試料の各々を供給試料100部に対してタルク1.0重量部および供給試料100部に対してブタン4.0重量部と41/2″?6″のNRM押出機内で混合し、環状ダイを通して440°Fで押出し、切断して形成した発泡体シート。
ここで、発泡体押出しは以下のダイ圧力(単位psi)で行った。実施例6:1980、実施例7:1953、実施例8:1943、実施例9:1958および実施例10:1858。押出し運転速度は実施例6では68 ft/min、実施例7?10では72 ft/minとした。
また、混合物3は次のとおりのものである。

混合物3:先ずポリスチレン樹脂Amoco R1)、樹脂100部当りブタン4.0部および樹脂100部当りタルク1.0部の混合物を、420°Fの温度で、環状ダイを通して押出して3.4 1bs/ft^(3)の密度を有する発泡体シートを製造した。次に発泡体シートをインパクトポリスチレン(Amoco H2R)の2ミル厚の層を有する一方の面に押出しコーティングした。次に、混合物1の樹脂の同時押出しにより作成されたEVA 16.5重量%、EVOH 16.5重量%、PP 42.8重量%およびLLDPE 24.2重量%の5層LLDPE/PP/EVA/EVOH/EVAバリアフィルムを、ニップ約35ミルの2本のニップローラを通過させることにより発泡体シートのもう一方の面に積層した。積層後の発泡体層の厚みは70ミルであった。バリアフィルム/発泡体シートをフレーク状とし、ベレット化して、440°Fの温度で8インチのSterling押出機で押出して、混合物3を形成した。これはバリア層/発泡体シートの完全なリサイクルから生じる再生材料を模倣している。重量%は基にした混合物3の組成は、ポリスチレン45.6%、インパクトポリスチレン30.8%、EVOH 3.9%、エチレン酢酸ビニル3.9%、ポリプロピレン10.1%および線状低密度ポリエチレン5.7%であった。

混合物1は次のとおりのものである。

混合物1:結晶ポリスチレン(Amoco Chemical Company、R1)50.1%、ハイインパクトポリスチレン(Amoco Chemical Company、H2R)32.7%、PP(7853-367Eastman Kodakより入手)5.5%、LLDPE(Dow Chemica1 3010)3.0%、EVA(Plexar 3342. Chemplexより入手)2.1%、EVOH(F101等級、EVALCAより入手)1.6%およびKraton G2701(Shellより入手したスチレン-エチレン-コ-ブタジエン-スチレンブロック共重合体)5.0%の総量500ポンドを従来のZSK-30単軸スクリュ押出機で混練し、混練された混合物を約432°Fで、最初は25 lb/hrで1孔ダイより、次に45 lb/hrで2孔ダイより押出すことにより製造した。混合物1は相溶性付与剤(Kraton)が添加されるような多層シート製造工程から生じる再生材料を模倣している。」の発明(以下「刊行物4発明」という。)が記載されているといえる。

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)刊行物1を主引用例とする場合について
本件発明1と刊行物1発明とを対比する。
本件発明1の第二成分、刊行物1発明のスチレン系エラストマーは、共に重合体を構成する単量体としてスチレンを含有するものであって、スチレン系重合体であるといえる。また、刊行物1発明のポリスチレン系樹脂は、本件発明1のポリスチレン系樹脂のバージン材からなる第三成分に相当する。さらに、刊行物1発明の耐熱発泡シートはポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂及びスチレン系エラストマーを含むポリスチレン系樹脂組成物を発泡させたものであるといえ、摘示1gの記載からみて、単層である場合を含むことは明らかである。
したがって、両者は、「スチレン系重合体である第二成分と、ポリスチレン系樹脂のバージン材からなる第三成分とが含有されているポリスチレン系樹脂組成物を発泡させてなる単層のポリスチレン系樹脂発泡シート。」である点で一致し、

相違点1:本件発明1がポリスチレン系樹脂組成物について、「ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなる第一成分」が含有されていると特定しているのに対し、刊行物1発明ではかかる特定がされていない点、

相違点2:本件発明1が第二成分について、「スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる」第二成分と特定しているのに対し、刊行物1発明ではかかる特定が、されていない点、

相違点3:本件発明1が「これらの成分が〔第一成分:第三成分〕=〔1:99〕?〔50:50〕となり、且つ、〔第一成分:第二成分〕=〔100:3〕?〔100:30〕となる質量割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物」であることを特定しているのに対し、刊行物1発明ではかかる特定がされていない点、

相違点4:本件発明1が「単層の発泡シートの吸水率が10%未満で発泡倍率が3?15倍である」ことを特定しているのに対し、刊行物1発明ではかかる特定がされていない点
で相違する。

上記相違点1?4について検討する。
相違点1について
刊行物3には、発泡ポリスチレンシート(PSP)で成形した容器本体の内側接液部にポリプロピレン(PP)樹脂シートを一体に内張りした食品容器の打ち抜き成型によって生じたスクラップ材(リグラインド)の再生についての記載があり(摘示3a)、刊行物4には、バリア樹脂を含有する再生材料を実際に発泡体樹脂と組合せ、そして次に、再生材料と発泡体樹脂の混合物を発泡させること(摘示4b)、具体的な発泡体シートとして、ポリスチレン樹脂等から製造された発泡体シートにインパクトポリスチレンの層を押出しコーティングし、さらにもう一方の面にポリプロピレン等を含有するバリアフィルムを積層したバリアフィルム/発泡体シートをフレーク状とし、ペレット化し、特定温度で押出機で押出した混合物と、ポリスチレン樹脂等とを混合し、押出し、切断して発泡体シートを形成すること(摘示4c、4d)が記載されている。しかし、刊行物1発明は、刊行物1発明で特定される技術的事項を採用することによって、熱可塑性樹脂フィルムを積層一体化させて用いた場合に、耐熱ポリスチレン系樹脂発泡層と熱可塑性樹脂フィルムとの界面において気泡の発生(気泡膨れ)に伴う界面剥離を生じることがないと共に、熱成形時の二次発泡性に優れ、熱成形によって十分な厚みを有し且つ機械的強度に優れた熱成形品を得ることができる耐熱発泡シートを提供するという課題を解決したものであって(摘示1b)、刊行物3又は4に記載されたスクラップ材又はフレーク状とし、ペレット化し、特定温度で押出機で押出した混合物は刊行物1発明のポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等を含む耐熱ポリスチレン樹脂組成物とは異なるものであるから、刊行物1発明において、刊行物3又は4に記載されたスクラップ材又はフレーク状とし、ペレット化し、特定温度で押出機で押出した混合物を用いた場合に、かかる課題が解決できるものということはできない。また、刊行物1には、刊行物3又は刊行物4に記載される上記スクラップ材又は又はフレーク状とし、ペレット化し、特定温度で押出機で押出した混合物を用いることについての記載・示唆は存在せず(摘示1a?1h等参照)、刊行物1発明においてそのような成分を用いた場合に、刊行物1に記載された上記課題が解決できるものということもできない。さらに、甲第5号証及び刊行物6には、相違点1に係る第一成分を用いることについての記載はない。
してみると、刊行物1発明において、相違点1に係るポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなる第一成分をポリスチレン系樹脂組成物が含有するものとすることについて、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、相違点2?4を検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1、3、4、6に記載された発明及び甲第5号証に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)刊行物2を主引用例とする場合について
本件発明1と刊行物2発明とを対比する。
本件発明1の第二成分は、本件特許明細書の段落0025の記載からみて相溶化剤として機能するものであるといえる。また、刊行物2発明のスチレン系樹脂は、本件発明1のポリスチレン系樹脂のバージン材からなる第三成分に相当する。さらに、刊行物2発明の発泡体は層状構造に形成されているから、また、摘示2eの記載からみて、スチレン系樹脂、プロピレン系樹脂及び相溶化剤を含有するポリスチレン系樹脂組成物を発泡させてなるシートであるといえ、単層のシートである場合を含むことは明らかである。
したがって、両者は、「相溶化剤である第二成分と、ポリスチレン系樹脂のバージン材からなる第三成分とが含有されているポリスチレン系樹脂組成物を発泡させてなる単層のポリスチレン系樹脂発泡シート。」である点で一致し、

相違点5:本件発明1がポリスチレン系樹脂組成物について、「ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなる第一成分」が含有されていると特定しているのに対し、刊行物2発明ではかかる特定がされていない点、

相違点6:本件発明1が第二成分について、「スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる」第二成分と特定しているのに対し、刊行物2発明ではかかる特定がされていない点、

相違点7:本件発明1が「これらの成分が〔第一成分:第三成分〕=〔1:99〕?〔50:50〕となり、且つ、〔第一成分:第二成分〕=〔100:3〕?〔100:30〕となる質量割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物」であることを特定しているのに対し、刊行物2発明ではかかる特定がされていない点、

相違点8:本件発明1が「単層の発泡シートの吸水率が10%未満で発泡倍率が3?15倍である」ことを特定しているのに対し、刊行物2発明ではかかる特定がされていない点
で相違する。

上記相違点5?8について検討する。
相違点5について
刊行物3には、発泡ポリスチレンシート(PSP)で成形した容器本体の内側接液部にポリプロピレン(PP)樹脂シートを一体に内張りした食品容器の打ち抜き成型によって生じたスクラップ材(リグラインド)の再生についての記載があり(摘示3a)、刊行物4には、バリア樹脂を含有する再生材料を実際に発泡体樹脂と組合せ、そして次に、再生材料と発泡体樹脂の混合物を発泡させること(摘示4b)、具体的な発泡体シートとして、ポリスチレン樹脂等から製造された発泡体シートにインパクトポリスチレンの層を押出しコーティングし、さらにもう一方の面にポリプロピレン等を含有するバリアフィルムを積層したバリアフィルム/発泡体シートをフレーク状とし、ペレット化し、特定温度で押出機で押出した混合物と、ポリスチレン樹脂等とを混合し、押出し、切断して発泡体シートを形成すること(摘示4c、4d)が記載されている。しかし、刊行物2発明は、刊行物2発明で特定される技術的事項を採用することによって、プロピレン系樹脂が使用されているスチレン系樹脂等のスチレン系樹脂の本来の優れた発泡性,成形性,剛性に加え,優れた耐薬品性を有し,かつ外観性,耐熱油性に優れたスチレン系樹脂発泡体を提供しようという課題を解決したものであって(摘示2b)、刊行物3又は4に記載されたスクラップ材又はフレーク状とし、ペレット化し、特定温度で押出機で押出した混合物は刊行物2発明のスチレン系樹脂、プロピレン系樹脂とを含む樹脂組成物とは異なるものであるから、刊行物2発明において、刊行物3又は4に記載されたスクラップ材又はフレーク状とし、ペレット化し、特定温度で押出機で押出した混合物を用いた場合に、かかる課題が解決できるものということはできない。また、刊行物2には、刊行物3又は刊行物4に記載されるような、スクラップ材又はフレーク状とし、ペレット化し、特定温度で押出機で押出した混合物を用いることについての記載・示唆は存在せず(摘示2a?2f等参照)、刊行物2発明においてそのような成分を用いた場合に、刊行物2に記載された上記課題が解決できるものということもできない。さらに、甲第5号証及び刊行物6には、相違点5に係る第一成分を用いることについての記載はない。
してみると、刊行物2発明において、相違点5に係るポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなる第一成分をポリスチレン系樹脂組成物が含有するものとすることについて、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、相違点6?8を検討するまでもなく、本件発明1は刊行物2?4、6に記載された発明及び甲第5号証に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)刊行物4を主引用例とする場合について
本件発明1と刊行物4発明とを対比する。
刊行物4発明の混合物3に用いられるポリスチレン樹脂を用いて製造される発泡体シート、5層LLDPE/PP/EVA/EVOH/EVAバリアフィルムは、それぞれ本件発明1のポリスチレン系樹脂発泡シート、ポリオレフィン系樹脂フィルムに相当する。混合物3を製造するに際し、上記発泡体シートとバリアフィルムは、積層されているところ、該積層されたものは本件発明1の積層シートに相当し、該シートをフレーク状とし、ペレット化し、440°Fの温度で8インチのSterling特定温度で押出機で押出したものは、本件発明1の積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上に相当するから、結局混合物3は本件発明1の第一成分に相当する。また、刊行物4発明の混合物3と混合されるポリスチレン樹脂は本件発明1の第三成分であるポリスチレン系樹脂のバージン材に相当する。刊行物4発明において、混合物3とポリスチレン樹脂からなる押出供給試料等から発泡体シートを形成するに際し、該押出供給試料中の混合物3とポリスチレン樹脂との重量割合は、混合物3:ポリスチレン樹脂=10:90、20:80、30:70、40:60である場合を含むところ、この割合は、本件発明1の第一成分:第三成分の質量割合である〔1:99〕?〔50:50〕と重複する。そして、刊行物4発明の発泡体シートは、混合物3とポリスチレン樹脂を含有するポリスチレン系樹脂組成物を発泡させてなる単層のポリスチレン系樹脂発泡シートであるといえる。
してみると、両者は、「ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなる積層シート、該積層シートを熱成形した成形品、並びに、熱成形した積層シートから前記成形品が取り除かれた後の端材の内の1つ以上からなる第一成分と、ポリスチレン系樹脂のバージン材からなる第三成分とが含有されており、これらの成分が〔第一成分:第三成分〕=〔1:99〕?〔50:50〕となる質量割合で含有されているポリスチレン系樹脂組成物を発泡させてなる単層の発泡シート」である点で一致し、

相違点9:
本件発明1が、発泡させるポリスチレン系樹脂組成物について、「スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる第二成分を含有」し、且つ、「〔第一成分:第二成分〕=〔100:3〕?〔100:30〕となる質量割合で含有されている」と特定されているのに対し、刊行物4発明ではかかる特定がされていない点、

相違点10:
本件発明1が「単層の発泡シートの吸水率が10%未満で発泡倍率が3?15倍である」ことを特定しているのに対し、刊行物4発明ではかかる特定がされていない点
で相違する。

上記相違点について検討する。
相違点9について
相違点9に係る第二成分は、本件特許明細書の段落0025の記載からみて相溶化剤として機能するものであるといえ、刊行物4には、刊行物4発明に用いられる混合物1がスチレン-エチレン-コ-ブタジエン-スチレンブロック共重合体を含有するものであり、混合物1は相溶性付与剤が添加されるような多層シート製造工程から生じる再生材料を模倣していることが記載されているものの(摘示4c)、混合物1から製造される混合物3とポリスチレン樹脂から発泡体シートを製造する際に、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる第二成分を配合すること、組成物中における混合物3すなわち第一成分と前記第二成分との質量割合を〔第一成分:第二成分〕=〔100:3〕?〔100:30〕とすることについては刊行物4には記載も示唆もない(摘示4a?4d等参照)。そして、上記混合物1に配合されたスチレン-エチレン-コ-ブタジエン-スチレンブロック共重合体は相溶性付与剤であると解されるところ、刊行物4には、他に相溶性付与剤を配合することは記載も示唆もされていない(なお、摘示4cに示された混合物3の組成が合計で100%であることからみて、混合物3には、スチレン-エチレン-コ-ブタジエン-スチレンブロック共重合体が含まれないか、含まれているとしてもごく僅かな量である。)。刊行物1には、ポリスチレン系樹脂50?80重量%、ポリプロピレン系樹脂15?45重量%及びスチレン系エラストマー3?10重量%を含有する耐熱ポリスチレン系樹脂組成物が記載され、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体等のスチレン系エラストマーが少ないとポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との相溶化が不十分となることが(摘示1a、1c)、刊行物2には、スチレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)とを含む樹脂組成物にスチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体やこれらの水添加物を用いることが記載されているものの(摘示2a、2c)、刊行物4には、上記したスチレン-エチレン-コ-ブタジエン-スチレンブロック共重合体である相溶性付与剤以外に相溶化剤を配合することが記載も示唆もされておらず、刊行物6にも本件発明1の第二成分についての記載はないから、刊行物4発明において、さらに相溶化剤を配合する理由がなく、刊行物1、2に記載された発明と刊行物4発明とを組み合わせる動機付けもない。したがって、刊行物4発明において、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体の一方、又は、両方からなる第二成分を配合すること、前記第一成分と前記第二成分との質量割合を〔第一成分:第二成分〕=〔100:3〕?〔100:30〕とすること、すなわち、相違点9に係る技術的事項を採用することは当業者が容易になし得たものとすることはできない。
以上のとおりであるから、相違点10を検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1、2、4、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 本件発明2、3について
本件発明2は、本件発明1のポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一面側にポリオレフィン系樹脂フィルムが積層されてなることを特徴とする積層シートであり、本件発明3は、本件発明2の積層シートを、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、及び、両面真空成形の内のいずれか1つの成形方法で熱成形してなることを特徴とする包装用容器であるから、いずれも本件発明1の発明特定事項を発明特定事項として有するものといえるところ、上記1で述べたとおり、本件発明1が刊行物1、3、4、6に記載された発明及び甲第5号証に係る発明に基づいて(刊行物1が主引用例)、刊行物2?4、6に記載された発明及び甲第5号証に係る発明に基づいて(刊行物2が主引用例)、又は、刊行物1、2、4、6に記載された発明に基づいて(刊行物4が主引用例)、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないのであるから、同様に、本件発明2及び3についても本件発明1が刊行物1、3、4、6に記載された発明及び甲第5号証に係る発明に基づいて(刊行物1が主引用例)、刊行物2?4、6に記載された発明及び甲第5号証に係る発明に基づいて(刊行物2が主引用例)、又は、刊行物1、2、4、6に記載された発明に基づいて(刊行物4が主引用例)、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?3は、刊行物1、3、4、6に記載された発明及び甲第5号証に係る発明に基づいて(刊行物1が主引用例)、刊行物2?4、6に記載された発明及び甲第5号証に係る発明に基づいて(刊行物2が主引用例)、又は、刊行物1、2、4、6に記載された発明に基づいて(刊行物4が主引用例)、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということはできないから、本件発明1?3に係る特許は同法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号の規定により取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-10-28 
出願番号 特願2011-152965(P2011-152965)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新留 豊  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 佐藤 健史
冨永 保
登録日 2016-02-12 
登録番号 特許第5882617号(P5882617)
権利者 株式会社エフピコ
発明の名称 ポリスチレン系樹脂発泡シート、積層シート、及び、包装用容器  
代理人 岩田 徳哉  

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