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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
管理番号 1321257
異議申立番号 異議2016-700283  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-07 
確定日 2016-11-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第5795096号発明「低温焼結性に優れる銀ペースト及び該銀ペーストの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5795096号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5795096号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年2月25日に特許出願され、平成27年8月21日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?4に係る特許に対し、特許異議申立人森嶋孝明(以下、「申立人」という。)により特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、平成28年8月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月24日に意見書の提出がなされたものである。

2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?7」という。また、これらを総称して「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
銀粒子からなる固形分と溶剤とを混練してなる金属ペーストにおいて、
前記固形分が、粒径100?200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む銀粒子で構成されており、
固形分を構成する銀粒子全体の平均粒径が、60?800nmであり、
更に、固形分を構成する銀粒子は、保護剤として炭素数の総和が4?8のアミン化合物が結合しており、
TG-DTA分析における銀粒子の焼結に起因する発熱ピークが200℃未満で発現する金属ペースト。
【請求項2】
金属ペースト中の窒素濃度(質量%)と銀粒子濃度(質量%)との比(N/Ag)が0.0003?0.003である請求項1記載の金属ペースト。
【請求項3】
保護剤であるアミン化合物は、ブチルアミン、1,4-ジアミノブタン、3-メトキシプロピルアミン、ペンチルアミン、2,2-ジメチルプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、3-エトキシプロピルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、ベンジルアミンである請求項1又は請求項2のいずれかに記載の金属ペースト。
【請求項4】
溶剤は、炭素数8?16で構造内にOH基を有する沸点280℃以下の有機溶剤である請求項1?請求項3のいずれかに記載の金属ペースト。
【請求項5】
銀粒子からなる固形分を製造し、前記固形分と溶剤とを混練する金属ペーストの製造方法において、
前記銀粒子の製造工程は、
(1)熱分解性を有する銀化合物とアミン化合物とを混合して、前駆体である銀-アミン錯体と水分とからなる反応系を形成する工程と、
(2)前記前駆体を含む反応系を前記銀-アミン錯体の分解温度以上に加熱して銀粒子を析出させる工程とからなり、
前記(2)の加熱前に反応系の水分含有量を、銀化合物100重量部に対して5?100重量部とすることを特徴とする金属ペーストの製造方法。
【請求項6】
更に、(2)の加熱前の反応系に、アミドを骨格として有する下記式で示される有機化合物を1種又は2種以上添加する工程を含む請求項5記載の金属ペーストの製造方法。
【化1】(省略)
【請求項7】
熱分解性を有する銀化合物は、シュウ酸銀、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、亜硝酸銀、安息香酸銀、シアン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀のいずれか1種である請求項5又は請求項6記載の金属ペーストの製造方法。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、特開2013-139589号公報(以下、「甲第1号証」という。)、特開2011-236453号公報(以下、「甲第2号証」という。)、実験成績報告書(以下、「甲第3号証」という。)を提出し、以下の申立理由1?申立理由3によって請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由1
本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由2
本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由3
本件特許の請求項1、3に係る発明は明確ではないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

4 取消理由
当審において、請求項1?4に係る特許に対して通知した取消理由は、上記申立理由3に基づく、次の(1)、(2)の2つである。
(1)請求項1に記載された「粒径100?200nmの銀粒子」、「銀粒子全体の平均粒径が、60?800nmであり」は不明瞭な記載である。
その理由は、特許異議申立書第16頁第15行?第17頁第1行に記載されたとおりであり、本件特許明細書には、銀粒子の粒径の測定方法が記載されていないため、請求項1に記載された「粒径」および「平均粒径」がどのようにして求められたものか不明であるということである。
よって、請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1を引用する請求項2?4についても同様である。

(2)請求項1に記載された「炭素数の総和が4?8のアミン化合物」は不明瞭な記載である。
その理由は、特許異議申立書第17頁第2行?第17頁第15行に記載のとおりであり、「炭素数の総和が4?8のアミン化合物」における「総和」の対象が不明であって、一分子当たりに含まれる炭素原子の数を表すと解することができるし、保護材として複数種類のアミン化合物が含まれる場合に、当該複数種類のアミン化合物に含まれる炭素原子の数を表すと解することができるし、金属ペースト全体に含まれるアミン化合物の炭素原子の数の総数と解することもできるので、「炭素数の総和」との特定事項を一義的に解釈することができず、その意味が不明であるということである。
よって、請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1を引用する請求項2?4についても同様である。

5 取消理由についての判断
(1)取消理由(1)について
ア 最初に、当審から通知した上記4の取消理由(1)について、検討する。

イ 本件特許明細書には、次の記載がある(なお、下線は当審が付与した。以下同様。)。
1ア 「【0054】
金属ペーストの製造
そして、製造した12種の銀粒子を基に単独又は複数組み合わせて固形分とし、これに溶剤としてテキサノールを混練して金属ペーストを製造した。このときの固形分の割合は80?95質量%である。製造した金属ペーストについては、適宜にサンプリングしてSEM観察を行い粒径分布を測定した。また、CHN元素分析によりN含有量を測定して、銀含有量との比(N質量%/Ag質量%)を算出した。」

ウ 上記1アの記載から、金属ペーストをSEM観察することによって、当該金属ペースト中の銀粒子の粒径分布を測定していることが理解できる。ここで、「SEM」とは「Scaning Electron Microscope」、すなわち、「走査型電子顕微鏡」を表していることは明らかであり、SEM観察によって粒径分布を測定するとは、SEMを使用して、金属ペースト中の多数の銀粒子が写った画像(以下「SEM画像」という。)を撮影し、当該SEM画像中の複数個の銀粒子についてその粒径を測定し、粒径が測定された複数個の銀粒子について、適当な粒径範囲毎の分布状況(粒子数またはその割合)を取得しているものと認められる。つまり、銀粒子の粒径は、SEM画像に基づいて測定されているということができる。

エ しかしながら、本件特許明細書には、SEM画像に基づいた銀粒子の粒径の具体的な測定方法については、何ら記載されていない。この点について、特許権者は、平成28年10月24日付けの意見書において、乙第1号証(JISH7804:2005、電子顕微鏡による金属触媒の粒子径測定方法)を提示して、本件発明における粒径の測定は、JISH7804の第1頁の「5.測定原理」に記載されている方法、すなわち、金属粒子の形状を楕円形と考えて、その長径と短径を測定し、その平均値をとる方法(以下「二軸平均法」という。)により行われたものであると説明している。

オ JISH7804によって開示されている上記二軸平均法は、JISで定められているとおり、当業者によく知られているものであり、また、当業者によってよく採用されているものと推定されるし、本件特許明細書には、上記二軸平均法によって粒径測定したとの上記説明に整合しない記載も発見できないので、本件発明における「粒径」は、特許権者の上記主張のとおり、JISH7804によって開示されている上記二軸平均法によって測定されたものと認める。また、「平均粒径」は、上記二軸平均法によって測定された複数個の銀粒子の粒径を単純平均することによって得られたものであると認める。なお、「平均粒径」を求めるための測定個数の目安について、上記JISH7804の第3頁の表2に、「推奨測定個数」として粒子径に応じて100?300個とすることが表示されている。

カ 以上のとおり、本件特許明細書の記載及び特許権者の説明に基づけば、請求項1に記載された「粒径」および「平均粒径」は、JISH7804によって開示されている上記二軸平均法によって求められたものであると解することができるから、本件特許の請求項1に係る発明は、「粒径」および「平均粒径」がどのようにして求められたものか不明であるとはいえない。請求項1を引用する請求項2?4についても同様である。

キ よって、本件発明1?4は、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

(2)取消理由(2)について
ア 次に、当審から通知した上記4の取消理由(2)について検討する。

イ 本件特許明細書には、次の記載がある。
1イ 「【0014】
本発明に係るペーストにおいて、粒径100?200nmの銀粒子の焼結性は、銀粒子と結合する保護剤の作用も関連する。保護剤とは、溶剤中で懸濁する金属粒子の一部又は全面に結合する化合物であって、金属粒子の凝集を抑制するものである。本発明において、銀粒子と結合する保護剤は、炭素数の総和が4?8のアミン化合物である。
【0015】
銀粒子の保護剤としては、一般にはアミン以外にカルボン酸類等の有機物が適用可能であるが、本発明で適用する保護剤としてアミン化合物に限定するのは、アミン以外の保護剤を適用する場合、150℃以下での銀粒子の焼結が生じないからである。この点、銀粒子の粒径が100?200nmの範囲内にあっても、アミン以外の保護剤では低温焼結が生じない。
【0016】
また、保護剤であるアミン化合物についてその炭素数の総和を4?8とするのは、銀粒子の粒径との関連でアミンの炭素数が銀粒子の安定性、焼結特性に影響を及ぼすからである。これは、炭素数4未満のアミンは粒径100nm以上の銀微粒子を安定的に存在させるのが困難であり、均一な焼結体を形成させるのが困難となる。一方、炭素数8超のアミンは、銀粒子の安定性を過度に増大させ焼結温度を高温にする傾向がある。これらから、本発明の保護剤としては炭素数の総和が4?8のアミン化合物に限定される。」

1ウ 「【0019】
【表1】

【0020】
上記したアミン化合物からなる保護剤は、金属ペースト中の全ての銀粒子に結合していることが好ましい。本発明では、粒径100?200nmの銀粒子を必須とするが、この範囲外の粒径の銀粒子が混在することも許容する。このような異なる粒径範囲の銀粒子が混在する場合であっても、粒径100?200nmの銀粒子の保護剤が上記アミン化合物であることが当然要求されるが、100?200nmの範囲外の銀粒子についても上記のアミン化合物の保護剤が結合していることが求められる。但し、全く同一の化合物である必要はなく、炭素数の総和が4?8のアミン化合物(例えば、表1記載の範囲内)であれば相違する保護剤を含んでいても良い。」

ウ 上記1イの段落【0016】の記載「保護剤であるアミン化合物についてその炭素数の総和を4?8とする」において、「その」とは「保護材であるアミン化合物」を指していることは明らかであり、「その炭素数の総和を4?8とする」とは、当該「アミン化合物」に含有される炭素の数が全部で4?8であることを意味しているものと認められる。

エ また、上記1ウの表1には、「炭素数総和」の欄には、C4、C5、・・・、C8が記載されており、例えば、「C4」の右側の「好適なアミン化合物」の欄には、ブチルアミン、1,4-ジアミノブタン等が記載されている。ここでブチルアミンと1,4-ジアミノブタンの化学式は、それぞれ、C_(4)H_(9)-NH_(2)、H_(2)N-C_(4)H_(4)-NH_(2)であり、いずれの化学式にも炭素(C)が4つ含まれている。ここから、「炭素数総和」の欄に記載された「C4」とは、アミン化合物の一分子に含まれる炭素(C)の数が4であることを表すものと理解することができる。また、C5、C6、C7、C8についても同様に、それぞれに該当するアミン化合物の一分子に含まれる炭素(C)の数が、5、6、7、8であることを表しているものと認められる。

オ また、本件特許明細書の段落【0056】の表3には、「No.l」の金属ペーストの「固形分構成」として、「銀粒子」が「No.6+No.8」であるものが記載されている。そして、同段落【0053】の表2には、上記「No.6」の「保護材」が「ヘキシルアミン」であり、上記「No.8」の「保護材」が「N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン」であることが記載されている。ヘキシルアミンの化学式はC_(6)H_(13)NH_(2)であるから一分子当たりの炭素含有数は6であり、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパンの化学式は、(H_(3)C)_(2)NC_(3)H_(6)NH_(2) であるから一分子当たりの炭素含有数は5である。したがって、保護材として複数種類のアミン化合物が含まれる場合について、「炭素数の総和」とは、各アミン化合物の一分子あたりの炭素含有数であることが理解できる。

カ さらに、特許権者は、平成28年10月24日付けの意見書の第9頁1?6行において、アミン化合物が分枝構造をとる場合には、主鎖部分の炭素のみでなく、分枝部分の炭素も含めて数えるという意味で、「総和」の文言を使用していると説明している。

キ 以上のとおり、本件特許明細書の記載及び特許権者の説明に基づけば、請求項1に記載された「炭素数の総和が4?8のアミン化合物」における「炭素数の総和」とは、保護剤であるアミン化合物の一分子あたりに含まれる炭素の総数を意味するものと解することができるから、本件特許の請求項1に係る発明は、「炭素数の総和」なる文言の意味が不明であるとはいえない。請求項1を引用する請求項2?4についても同様である。

ク よって、本件発明1?4は、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

6 取消理由として採用しなかった申立理由について
6-1 申立て理由1、2について
申立理由1、2はいずれも、甲第1号証を主引例とする新規性または進歩性に関する申立理由であるので、まとめて検討する。

(1)甲第1号証の銀粒子にアミン化合物が結合しているかについての検討
ア 申立人は、申立書の第9頁7行?第11頁2行において、甲第1号証の必要箇所を摘記するとともに、当該摘記した記載に基づいて、次の「甲1発明」を認定している。
「A:銀粒子と溶剤とを混練してなる導電性ペーストにおいて、
C:前記銀粒子の平均粒径が、30?120nm(実施例では66.9?98.2nm)であり、
D:銀粒子は、炭素数の総和が2?4のアミン化合物(実施例ではn-ブチルアミン)が結合している、導電性ペースト。」

イ 上記アによれば、申立人は、甲1発明が「D:銀粒子は、炭素数の総和が2?4のアミン化合物(実施例ではn-ブチルアミン)が結合している」との特定事項を有するものであること、すなわち、甲第1号証には、銀粒子に、炭素数の総和が2?4のアミン化合物(実施例ではn-ブチルアミン)が結合していることが記載されている、と主張しているが、その根拠も示されておらず、証拠も提示されていない。
そこで、甲第1号証に記載の方法によって製造された銀粒子に、アミン化合物が結合しているといえるかについて、以下検討する。

ウ 甲第1号証には、アミン化合物を用いた銀粒子の製造について、次の記載がある。
2ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸銀と、水溶性あるいは水可溶性であって炭素数2?4の脂肪族アミン1種類以上とを用いて調製した硝酸銀のアミン錯体のアルコール溶液を調製し(A液)、前記A液とは別にアスコルビン酸又はエリソルビン酸と、ハロゲン化物を溶解させた水溶液を調製し(B液)、前記A液と前記B液を静止型混合機を用いて混合したものを、水を入れた容器に添加して攪拌した後、得られた銀微粒子を洗浄・乾燥させる銀微粒子の製造法において、前記B液中に硝酸銀1モルに対して1.6×10^(-3)モル以上のハロゲン化物を添加することを特徴とする銀微粒子の製造法。」

2イ 「【0026】
まず、本発明に係る銀微粒子の製造方法について述べる。
【0027】
本発明に係る銀微粒子は、硝酸銀と、水溶性あるいは水可溶性であって炭素数2?4の脂肪族アミン1種類以上とを用いて調製した硝酸銀のアミン錯体のアルコール溶液を調製し(A液)、前記A液とは別にアスコルビン酸又はエリソルビン酸と、ハロゲン化物を溶解させた水溶液を調製し(B液)、前記A液と前記B液を静止型混合機を用いて混合したものを、水を入れた容器に添加して攪拌した後、得られた銀微粒子を洗浄・乾燥させて得ることができる。
【0028】
本発明における硝酸銀のアミン錯体のアルコール溶液(A液)は、アルコール溶液中で硝酸銀と水溶性あるいは水可溶性であって炭素数2?4の脂肪族アミンの1種類以上とを混合することにより得ることができる。脂肪族アミンは硝酸銀1モルに対して2.0?2.5モルが好ましく、より好ましくは2.0?2.3モルである。脂肪族アミンの量が硝酸銀1モルに対して2.0モル未満の場合には、大きな粒子が生成しやすい傾向がある。
【0029】
本発明における炭素数2?4の脂肪族アミンとしては、水溶性あるいは水可溶性のものを用いることが肝要であり、具体的には、エチルアミン、n-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、iso-ブチルアミン等を用いることができるが、銀微粒子の低温焼結性及びハンドリング性を考慮すれば、n-プロピルアミン及びn-ブチルアミンが好ましい。」

2ウ 「【0031】
本発明においては、上記A液とは別に、アスコルビン酸又はエリソルビン酸と、ハロゲン化物を溶解させた水溶液を調製する(B液)。アスコルビン酸又はエリソルビン酸は硝酸銀1モルに対して1.0?2.0モルが好ましく、より好ましくは1.0?1.8モルである。アスコルビン酸又はエリソルビン酸が硝酸銀1モルに対して2.0モルを超える場合には、生成した銀微粒子同士が凝集する傾向があるため好ましくない。」

2エ 「【0034】
硝酸銀のアミン錯体のアルコール溶液(A液)と、アスコルビン酸又はエリソルビン酸とハロゲン化物を溶解させた水溶液(B液)は、静止型混合機を用いて混合し、水を入れた容器に添加して攪拌する。硝酸銀のアミン錯体のアルコール溶液(A液)にアスコルビン酸又はエリソルビン酸とハロゲン化物を溶解させた水溶液(B液)を滴下する方法、もしくはエリソルビン酸とハロゲン化物を溶解させた水溶液(B液)に硝酸銀のアミン錯体のアルコール溶液(A液)を滴下する方法と比べて、初期の還元反応が生じるA液とB液の混合濃度が一定であるため、得られる銀微粒子の粒度分布がより均一なものが得られ易い。
【0035】
硝酸銀のアミン錯体のアルコール溶液(A液)とアスコルビン酸又はエリソルビン酸とハロゲン化物を溶解させた水溶液(B液)を、静止型混合機を用いて混合し、得られた反応溶液を水を入れた容器に添加後、30分以上攪拌を行った後、得られた銀微粒子をアルコール及び水を用いて常法により濾過・水洗を行う。このとき、濾液の電導度が60μS/cm以下になるまで洗浄を行う。」

2オ 「【0060】
<作用>
本発明において重要な点は、硝酸銀と、水溶性あるいは水可溶性であって炭素数2?4の脂肪族アミン1種類以上とを用いて調製した硝酸銀のアミン錯体のアルコール溶液を調製し(A液)、前記A液とは別にアスコルビン酸又はエリソルビン酸と、ハロゲン化物を溶解させた水溶液を調製し(B液)、前記A液と前記B液を静止型混合機を用いて混合したものを、水を入れた容器に添加して攪拌した後、得られた銀微粒子を洗浄・乾燥させて得られた本発明に係る銀微粒子は、低温焼結性に優れるという事実である。
【0061】
上記製造法によって得られた本発明に係る銀微粒子が低温焼結性に優れている理由について、本発明者らは、硝酸銀1モルに対して1.6×10^(-3)モルのハロゲン化物を還元反応の溶液中に添加することにより、得られる銀微粒子のスラリーが凝集系になり、その後の洗浄が容易になるため、銀微粒子の炭素量を0.25重量%以下とすることができたことによるものと考えている。また、上記製造法によれば、乾燥温度が30℃を超えた場合でも、得られる銀微粒子は多結晶化度が2.8以上の多結晶性を有している。」

エ 上記2ア?2エの記載によれば、甲第1号証における銀微粒子の製造方法とは、「硝酸銀と、水溶性あるいは水可溶性であって炭素数2?4の脂肪族アミン1種類以上とを用いて調製した硝酸銀のアミン錯体のアルコール溶液」(以下「A液」という。)を調製し、前記A液とは別に「アスコルビン酸又はエリソルビン酸と、ハロゲン化物を溶解させた水溶液」(以下「B液」という。)を調製し、前記A液と前記B液を静止型混合機を用いて混合したものを、水を入れた容器に添加して攪拌した後、得られた銀微粒子を洗浄・乾燥させることである。そして、上記A液における「炭素数2?4の脂肪族アミン」の例としては、「n-ブチルアミン」と「iso-ブチルアミン」が挙げられる。この製造方法において、上記2エの記載を参照すると、A液中の「硝酸銀のアミン錯体」は、B液中の「アスコルビン酸又はエリソルビン酸」で還元されることによって銀微粒子が生成するものと認められる。

オ 以上、上記2ア?2エの記載を参照しても、また、甲第1号証の他の記載を参照しても、上記エに記載した製造方法によって製造された銀微粒子にアミン化合物が結合されていることを明示的に示す記載は何ら見出せない。

カ そこで、甲第1号証の上記銀微粒子の製造方法を本件発明の銀微粒子の製造方法と対比することによって、甲第1号証の製造方法によって製造された銀微粒子にアミン化合物が結合されているといえるかについて検討する。
本件特許の請求項5、7には、銀粒子の製造方法が記載されており、再掲すると次のとおりである。

「【請求項5】
銀粒子からなる固形分を製造し、前記固形分と溶剤とを混練する金属ペーストの製造方法において、
前記銀粒子の製造工程は、
(1)熱分解性を有する銀化合物とアミン化合物とを混合して、前駆体である銀-アミン錯体と水分とからなる反応系を形成する工程と、
(2)前記前駆体を含む反応系を前記銀-アミン錯体の分解温度以上に加熱して銀粒子を析出させる工程とからなり、
前記(2)の加熱前に反応系の水分含有量を、銀化合物100重量部に対して5?100重量部とすることを特徴とする金属ペーストの製造方法。」

「【請求項7】
熱分解性を有する銀化合物は、シュウ酸銀、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、亜硝酸銀、安息香酸銀、シアン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀のいずれか1種である請求項5又は請求項6記載の金属ペーストの製造方法。」

なお、銀化合物と混合されるアミン化合物については、本件特許明細書の段落【0019】に、好適なアミン化合物として、ブチルアミンが例示されている。

キ 本件特許の請求項5、7の記載から、本件発明の銀粒子の製造工程は、熱分解性を有する硝酸銀等の銀化合物と、ブチルアミン等のアミン化合物とを混合して、前駆体である銀-アミン錯体と水分とからなる反応系を形成する工程と、前記前駆体を含む反応系を前記銀-アミン錯体の分解温度以上に加熱して銀粒子を析出させる工程からなるものであり、銀-アミン錯体を分解温度以上に加熱して熱分解することにより銀粒子を析出するものである。

ク したがって、上記エに記載した、甲第1号証における銀微粒子の製造方法(以下「甲1方法」という。)と、上記キに記載した、本件発明における銀粒子の製造方法(以下「本件方法」という。)とを対比すると、硝酸銀等の銀化合物とブチルアミン等のアミン化合物を混合して銀-アミン錯体を生成し、これから、銀粒子を生成している点で共通しているが、甲1方法においては、銀-アミン錯体を「アスコルビン酸又はエリソルビン酸」で還元することによって銀粒子を生成しているのに対し、本件方法においては、銀-アミン錯体を熱分解して銀粒子を生成している点で、甲1方法と本件方法では製造方法が異なっている。したがって、本件方法によって得られた銀粒子に「保護剤として炭素数の総和が4?8のアミン化合物が結合」しているとしても、甲1発明によって得られた銀微粒子に「保護剤として炭素数の総和が4?8のアミン化合物が結合して」いると、直ちにいうことはできない。

ケ また、甲1方法において、A液と混合するB液に、「ハロゲン化物」を含有させている点においても、本件方法と相違している。
「ハロゲン化合物」をB液に含有させる技術的意義については、上記2オの段落【0061】に記載されており、得られる銀微粒子のスラリーが凝集系となってその後の洗浄を容易にすることである。つまり、甲1方法によって生成された銀粒子は凝集系となっているといえる。

コ 一方、本件特許明細書の段落【0014】に「本発明に係るペーストにおいて、粒径100?200nmの銀粒子の焼結性は、銀粒子と結合する保護剤の作用も関連する。保護剤とは、溶剤中で懸濁する金属粒子の一部又は全面に結合する化合物であって、金属粒子の凝集を抑制するものである。本発明において、銀粒子と結合する保護剤は、炭素数の総和が4?8のアミン化合物である。」と記載されているように、本件発明においては、保護材であるアミン化合物を銀粒子に結合することにより、金属微粒子の凝集を抑制して、低温焼結特性が損なわれることを抑制している。つまり、本件発明では、銀粒子は、凝集が抑制されたものとなっている。

サ したがって、凝集系となっている、甲1方法によって生成された銀粒子と、凝集が抑制されたものとなっている、本件方法によって生成された銀粒子とは、それらの表面状態が同じであるとはいえない。つまり、甲1方法によって生成された銀粒子に、「保護剤として炭素数の総和が4?8のアミン化合物が結合して」いるとはいえない。

コ 以上の検討から、甲1方法によって生成された銀粒子に、「保護剤として炭素数の総和が4?8のアミン化合物が結合して」いるということはできない。

(2)甲第1号証の銀粒子が、粒径100?200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含むかについての検討
ア 申立人は、甲第3号証の実験成績報告書を提出することによって、甲第1号証に記載された銀粒子は、「粒径100?200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む」ものであると主張している。

イ しかしながら、甲第3号証で確認試験の対象となっている銀粒子は、甲第1号証に記載された実施例1-3である。ところが、甲第1号証の実施例1-3においてA液に含まれている脂肪族アミンは、n-プロピルアミンであるから、その「炭素数の総和」は3であって、本件特許の請求項1に記載された「炭素数の総和が4?8のアミン化合物」には該当しないものである。なお、甲第1号証の実施例1-1、1-2では、n-ブチルアミンを用いており、「炭素数の総和が4?8のアミン化合物」に該当するものであるが、甲第3号証の確認試験の対象とはなっていない。

ウ したがって、仮に、甲第3号証によって、甲第1号証の実施例1-3の銀粒子が、「粒径100?200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む」ものであることが証明されているとしても、それは、A液に含まれる脂肪族アミンとして、「炭素数の総和が3のアミン化合物」であるn-プロピルアミンを採用した場合についてのみいえることであって、「炭素数の総和が4のアミン化合物」であるブチルアミン等を採用した場合に、「粒径100?200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む」か不明である。

エ 以上の検討から、甲1方法において、A液に含まれる脂肪族アミンとして、「炭素数の総和が4?8のアミン化合物」を採用した場合に生成される銀粒子は、「粒径100?200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む」ものであると、直ちにいうことはできない。

(3)まとめ
ア 以上の検討から、甲第1号証に記載された銀粒子が、「保護剤として炭素数の総和が4?8のアミン化合物が結合して」いるものであるとも、「粒径100?200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む」ものであるとも、直ちにはいうことができない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

イ また、いずれも甲号証にも、甲第1号証に記載された銀粒子について、「保護剤として炭素数の総和が4?8のアミン化合物が結合して」いるものとすることについても、「粒径100?200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む」ものとすることについても、記載も示唆もされていない。また、これらのことが、周知技術であるともいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ よって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではないし、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものでもない。
また、請求項1を引用する請求項2?4に係る発明は、本件発明1と同じ特定事項を備えているから、上記(1)、(2)の検討と同じ理由により、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではないし、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものでもない。

6-2 申立て理由3について
ア 本件特許の請求項3に係る発明を再掲すると、次のとおりである。
「保護剤であるアミン化合物は、ブチルアミン、1,4-ジアミノブタン、3-メトキシプロピルアミン、ペンチルアミン、2,2-ジメチルプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、3-エトキシプロピルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、ベンジルアミンである請求項1又は請求項2のいずれかに記載の金属ペースト。」

イ 申立人は、本件特許の請求項3の「保護剤であるアミン化合物は、ブチルアミン、…、ベンジルアミンである」との記載について、本件発明3は、アミン化合物として、「ブチルアミン、…、ベンジルアミン」の12種全てを含むように理解されるが、これらの化合物の全てを含むか否かの説明が、本件特許明細書中に記載がないので、本件発明3は、特許を受けようとする発明が明確ではない、と主張している。
そこで、この主張について検討する。

ウ 本件特許明細書の表2及び表3を参照すれば、本件発明の実施例として、ペーストNo.d?f、hのように、保護剤として1種類のアミン化合物を含む場合と、ペーストNo.lのように、保護剤として2種類のアミン化合物を含む場合があることが示されている。
また、本件特許明細書の段落【0020】には、「上記したアミン化合物からなる保護剤は、金属ペースト中の全ての銀粒子に結合していることが好ましい。本発明では、粒径100?200nmの銀粒子を必須とするが、この範囲外の粒径の銀粒子が混在することも許容する。このような異なる粒径範囲の銀粒子が混在する場合であっても、粒径100?200nmの銀粒子の保護剤が上記アミン化合物であることが当然要求されるが、100?200nmの範囲外の銀粒子についても上記のアミン化合物の保護剤が結合していることが求められる。但し、全く同一の化合物である必要はなく、炭素数の総和が4?8のアミン化合物(例えば、表1記載の範囲内)であれば相違する保護剤を含んでいても良い。」と記載されており、銀粒子に結合するアミン化合物は、炭素数の総和が4?8であれば、相違する保護材を含んでいてもよい、すなわち、複数のアミン化合物を含んでいてもよいことが記載されている。

エ 上記ウで指摘した本件特許明細書の記載によれば、銀粒子に結合する、炭素数の総和が4?8アミン化合物は、一つであっても、二つであっても、複数であってもよいことが示されていることを踏まえれば、本件特許の請求項3に記載された、「保護剤であるアミン化合物は、ブチルアミン、…、ベンジルアミンである」なる特定事項は、銀粒子に結合する、炭素数の総和が4?8であるアミン化合物保護材は、「ブチルアミン、…、ベンジルアミン」の全12種のアミン化合物うち、いずれか一種類でもよいし、それらのうちいくつかの種類の組み合わせでもよいし、それら全ての種類であってもよいものと解される。

オ したがって、本件発明3は、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

7 むすび
したがって、上記取消理由(1)及び(2)と、取消理由として採用しなかった上記申立理由1?3によっては、請求項1?4に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-01 
出願番号 特願2014-34554(P2014-34554)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (H01B)
P 1 652・ 537- Y (H01B)
P 1 652・ 121- Y (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 河野 一夫
池渕 立
登録日 2015-08-21 
登録番号 特許第5795096号(P5795096)
権利者 田中貴金属工業株式会社
発明の名称 低温焼結性に優れる銀ペースト及び該銀ペーストの製造方法  
代理人 永田 良昭  
代理人 西村 弘  
代理人 永田 元昭  
代理人 大田 英司  
代理人 特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ  
代理人 北村 吉章  

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