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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G09F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G09F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G09F |
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管理番号 | 1321264 |
異議申立番号 | 異議2016-700803 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-01 |
確定日 | 2016-11-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5880830号発明「画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5880830号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第5880830号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成23年12月20日に特許出願され、平成28年2月12日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人岡田佐和(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 第2 特許異議の申立てについて 1 本件特許発明 本件特許第5880830号の請求項1?3の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 画像表示部と透明部材とが透明樹脂層を介して接着された画像表示装置において、 下記の条件(i)?(iv)を充たすことを特徴とする画像表示装置: (i)前記透明樹脂層の弾性率が50MPa以下であること; (ii)画像表示装置の接着面25mm×25mmあたり1kgのせん断方向の荷重を加えた場合において、前記画像表示部と前記透明部材との1時間後のずれが3mm以下であること; (iii)前記透明部材と前記画像表示部とを剥離した場合において、剥離モードが前記画像表示部又は前記透明部材と前記透明樹脂層との界面における界面剥離であること; (iv)前記条件(iii)で剥離した前記画像表示部と前記透明部材とを前記透明樹脂層を介して再接着した場合において前記条件(i)?(iii)を充たすこと。 【請求項2】 画像表示部、透明樹脂層及び透明部材をこの順番で備え、 下記の条件(i)?(iv)を充たすことを特徴とする画像表示装置: (i)前記透明樹脂層の弾性率が50MPa以下であること; (ii)前記画像表示部の被接着面を構成する第一の材と前記透明部材の被接着面を構成する第二の材とを前記透明樹脂層を構成する透明樹脂を介して接着して行われるJIS Z0237に規定される保持力試験において、画像表示装置の接着面25mm×25mmあたり1kgのせん断方向の荷重に対する両材間の1時間後のずれが3mm以下であること; (iii)前記第一の材と前記第二の材とを前記透明樹脂層を介して接着した後剥離した際の剥離モードが、前記第一の材又は前記第二の材と前記透明樹脂層との界面における界面剥離であること; (iv)前記条件(iii)で剥離した前記第一の材と前記第二の材とを前記透明樹脂層を介して再接着した場合において前記条件(i)?(iii)を充たすこと。 【請求項3】 前記第一の材及び前記第二の材の少なくとも一方が可撓性を有する材である場合において、JIS Z0237 10.5.1に準拠して前記可撓性を有する材を前記透明樹脂層から90°方向に剥離した際の最大剥離応力が5N/25mm以下である、請求項2に記載の画像表示装置。」 2 申立理由の概要 (1)新規性・進歩性 申立人は、証拠として、特開2011-26418号公報(甲第1号証)を提出して、以下のとおり主張している。 本件特許発明1、2は、甲第1号証に記載された発明と同一である、または、甲第1号証に記載された発明から容易に想到できるから、本件特許発明1、2は、特許法第29条第1項第3号、または、同第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 よって、本件特許発明1、2は、取り消すべきものである。 (2)サポート要件 申立人は、以下のとおり主張している。 本件特許発明1?3について、本件特許明細書の実施例と比較例から、本件特許の課題を解決するために、本件特許明細書の段落【0013】に記載の態様までは拡張ないし一般化できたとしても、本件特許発明1?3の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件特許発明1?3は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を大きく超えるものである。 すると、本件の請求項1?3の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 よって、本件特許発明1?3は、取り消すべきものである。 3 当審の判断 (1)新規性・進歩性について ア 刊行物記載の発明 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付したものである。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、液晶ディスプレイ装置等のカラー表示装置に好適に用いられる粘着剤組成物に関する。更に詳しくは、架橋処理後に優れた粘着特性を発現し、殊に再剥離性に優れ、加熱処理及び高湿処理により浮きや剥がれの生じない粘着剤層を形成できる粘着剤組成物に関するものである。 【背景技術】 【0002】 (略) 【0013】 又、液晶ディスプレイ等の製造工程において、偏光板を液晶セルなどの光学部品に貼合せするに際し、貼合せ位置にずれが生じた場合など、貼合せからある時間が経過した後に偏光板を剥離し、高価な液晶セルを再利用することが必要となる場合がある。従って、偏光板に塗布されている粘着剤を介して貼合した後、ある時間経過後であっても液晶セルから比較的容易に剥離することができる粘着剤が求められていた。これは、接着耐久性を付与するための強粘着力化とは相反する性質であって、これらを両立することが課題であった。更に、貼合せからある時間経過後であっても被着体から比較的容易に剥離することができると共に、剥離することができる時間帯から更に時間が経過した後において強粘着力化する粘着剤が求められていた。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0014】 (略) 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0015】 本発明は、液晶ディスプレイ装置等のカラー表示装置に用いられる光学部材の接着に好適な粘着剤組成物の提供を目的とし、更に詳しくは、架橋処理後に優れた粘着特性を発現し、殊に再剥離性に優れ、加熱処理及び高湿処理により浮きや剥がれの生じない粘着剤層を形成できる粘着剤組成物を提供することを目的とするものである。 【課題を解決するための手段】 【0016】 本発明の第1の発明は、ウレタン樹脂(A)100重量部に対して、ポリイソシアネート硬化剤(B)を5?30重量部添加してなる粘着剤組成物であって、 ウレタン樹脂(A)が、ポリイソシアネート(a1)とポリオール(a2)とを反応させてなるウレタンプレポリマー(Ax)、水酸基を有するポリアミノ化合物(C)、及び反応停止剤(D)を反応させてなるポリウレタンウレア(Ay)に、更に環状酸無水物(E)を反応させてなる樹脂であり、 かつ、ウレタン樹脂(A)の酸価が、2?80mgKOH/gである粘着剤組成物に関する。」 (イ)「【0148】 (実施例1) 合成例26のウレタン樹脂100重量部(固形分換算)にトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(TDITMP)15重量部(固形分換算)を配合し、更に溶剤としてトルエンを加えて固形分を20%に調整して粘着剤組成物を得た。 【0149】 前記粘着剤組成物を、剥離シートとしての厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製剥離シート[リンテック社製「SP-PET382050」]の剥離層上に、乾燥後の厚さが25μmになるように、ナイフ式塗工機で塗布したのち、90℃で1分間乾燥処理して粘着剤層を形成した。次いで、この粘着剤層に、ポリビニルアルコール系偏光子の両面をトリアセチルセルロース系保護フィルム(以下、「TACフィルム」という)で挟んだ多層構造の偏光フィルムの片面を貼り合せ、「剥離フィルム/硬化した粘着剤層/TACフィルム/PVA/TACフィルム」という積層体を得た。次いで、得られた積層体を温度23℃相対湿度50%の条件で1週間熟成させて、粘着剤層が剥離フィルムで被覆された積層体を得た。 【0150】 (実施例2?13、比較例1?8) 表4の重量比率に従って粘着剤組成物を得た。更に実施例1と同様にして粘着剤層が剥離フィルムで被覆された積層体を得た。尚、表4の重量比率は、全て固形分換算の数値である。 【0151】 【表4】 (略) 【0152】 (比較例9) (略) 【0153】 (比較例10) (略) 【0154】 (比較例11) (略) 【0155】 (略) 【0156】 <UV照射条件> フュージョン社製無電極ランプ Hバルブ使用 照度600mW/cm^(2)、光量150mJ/cm^(2) UV照度・光量計は、アイグラフィックス社製「UVPF-36」を使用した。 【0157】 (比較例12) (略) 【0158】 実施例1?13及び比較例1?12で得られた粘着剤組成物及び積層体を以下の方法で評価した。その結果を表5に示す。 【0159】 (1)粘着力 上記積層体から、25mm幅、100mm長のサンプルを切り出し、剥離シートを剥がして(粘着剤層の厚さ25μm)、無アルカリガラス[コーニング社製「1737」]に貼付したのち、栗原製作所製オートクレーブにて、0.5MPa、50℃、20分間の条件で加圧した。その後、貼合せ直後、及び、23℃、相対湿度50%の環境下で、7日間放置したのち、同環境下で、引張試験機(オリエンテック社製「テンシロン」)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で粘着力を測定した。 【0160】 (2)粘着剤の貯蔵弾性率 (G’) 貯蔵弾性率(G’)は、厚さ30μmの粘着剤層を積層し、8mmφ×3mm厚の円柱状の試験片を作製し、ねじり剪断法により、下記の条件で測定した。 測定装置:ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製動的粘弾性測定装置「DYNAMIC ANALYZER RDA III」 周波数:1Hz 温度 :23℃、80℃ 【0161】 (3)塗膜外観 粘着剤層の外観を目視にて評価した。粘着剤層の外観に関しては、下記の3段階の評価基準に基づいて評価を行った。 ○:「塗膜は透明で実用上全く問題がない」 △:「塗膜はわずかに白化しており、実用上問題がある」 ×:「塗膜全面が白化しており、実用不可である」 【0162】 (4)耐熱性、耐湿熱性 積層体を150mm×80mmの大きさにカットし、剥離シートを剥がして厚さ1.1mmのフロートガラス板の両面に、それぞれの偏光板の吸収軸が直交するようにラミネータを用いて貼着した。続いて、この積層体が貼り付けられたガラス板を50℃5気圧の条件のオートクレーブ内に20分保持させてガラス板に密着させ、積層体とガラス板との積層物を得た。 【0163】 耐熱性の評価として、上記積層物を120℃で1000時間放置した後の浮きハガレ、及び積層物に光を透過させたときの光漏れ(白抜け)を目視で観察した。又、耐湿熱性の評価として、上記積層物を80℃、相対湿度90%で1000時間放置した後の浮きハガレ、および積層物に光を透過させたときの光漏れ(白抜け)を目視で観察した。耐熱性、耐湿熱性それぞれについて、下記の4段階の評価基準に基づいて評価を行った。 ◎:「浮きハガレ・白ぬけが全く認められず、実用上全く問題がない」 ○:「わずかに浮きハガレ・白ぬけが認められるが、実用上問題がない」 △:「若干浮きハガレ・白ぬけが若干認められ、実用上問題がある」 ×:「全面的に浮きハガレ・白ぬけがあり、実用不可である」 【0164】 (5)再剥離性(リワーク性) 粘着剤層が剥離シートで被覆された積層体を25mm×150mmの大きさにカットし、剥離シートを剥がし厚さ1.1mmのフロートガラスにラミネータを用いて貼り付け、50℃5気圧の条件のオートクレーブ内に20分保持させてガラス板に密着させた。この試験片を23℃、相対湿度50%で1週間放置した後に、180度方向に300mm/分の速度で引き剥がす180°ピール試験を実施し、剥離後のガラス表面の曇りを目視で観察し、3段階で評価した。 ○:「実用上全く問題がない」 △:「若干曇りが認められ、実用上問題がある」 ×:「全面的に粘着剤の転着が認められ、実用不可である」 【0165】 【表5】 【0166】 実施例1?13に示すように、本発明の粘着剤組成物は、高い粘着力と適切な貯蔵弾性率の両立が可能であり、塗膜外観、耐熱性、耐湿熱性、光学特性、再剥離性に優れていることが分かる。これに対して、比較例1?12では耐熱性、耐湿熱性、塗膜外観、剥離性のいずれかが不良であり、実用上問題が生じ、実用不可であることが分かる。 【0167】 本発明の粘着剤組成物は、光学積層体に要求される耐熱性、耐湿熱性、光学特性、再剥離性等に優れた特性を有している。特に、光学積層体の用途では、光学特性である光漏れが重要視され、近年のディスプレイの大型化に伴い、その要求性能はますます厳しくなってきている。そこで、本発明の粘着剤組成物は、上述のようにこれまでは困難であった粘着特性を発揮できるため、更に有用になると考えられる。」 すると、上記甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「液晶セルに偏光板を粘着剤組成物で貼り合わせた液晶ディスプレイ装置であって、 粘着材組成物の貯蔵弾性率が0.95?1.54MPaであり、 粘着力が3?7N/25mmであり、 剥離後のガラス表面の曇りが実用上全く問題がない、 液晶ディスプレイ装置。」 イ 対比・判断 (ア)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明には、 「(ii)画像表示装置の接着面25mm×25mmあたり1kgのせん断方向の荷重を加えた場合において、前記画像表示部と前記透明部材との1時間後のずれが3mm以下であること」、 「(iii)前記透明部材と前記画像表示部とを剥離した場合において、剥離モードが前記画像表示部又は前記透明部材と前記透明樹脂層との界面における界面剥離であること」、 「(iv)前記条件(iii)で剥離した前記画像表示部と前記透明部材とを前記透明樹脂層を介して再接着した場合において前記条件(i)?(iii)を充たすこと」 が記載されていない。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明であるとは認められず、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものとも認められない。 (イ)本件特許発明2について 本件特許発明2と甲1発明を対比すると、甲1発明には、 「(ii)前記画像表示部の被接着面を構成する第一の材と前記透明部材の被接着面を構成する第二の材とを前記透明樹脂層を構成する透明樹脂を介して接着して行われるJIS Z0237に規定される保持力試験において、画像表示装置の接着面25mm×25mmあたり1kgのせん断方向の荷重に対する両材間の1時間後のずれが3mm以下であること」、 「(iii)前記第一の材と前記第二の材とを前記透明樹脂層を介して接着した後剥離した際の剥離モードが、前記第一の材又は前記第二の材と前記透明樹脂層との界面における界面剥離であること」、 「(iv)前記条件(iii)で剥離した前記第一の材と前記第二の材とを前記透明樹脂層を介して再接着した場合において前記条件(i)?(iii)を充たすこと」 が記載されていない。 したがって、本件特許発明2は、甲1発明であるとは認められず、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものとも認められない。 (ウ)申立人の主張について 申立人は、甲1発明は、「剥離後のガラス表面の曇りが実用上全く問題がない」ものであるところ、これは界面剥離であるものと思料できると主張する。しかし、「実用上全く問題がない」ことが認められるのみであって、界面剥離であるとまでは認められない。 また、「甲第1号証には、せん断方向の加重を加えた試験(本件特許発明1要件B-2)、保持力試験(本件特許発明2要件D-2)、再接着した場合についての試験(本件特許発明1、2要件B-4、D-4)についての記載はない。しかし、本件特許発明と甲1発明は課題が共通しているし、画像表示装置の構成が同一である。また、甲1発明の透明樹脂は、本件の弾性率および剥離モードの要件を充たすものであるところ、せん断方向の加重を加えた試験、保持力試験、再接着試験の要件を満たす蓋然性が高いと考えられる。」と主張する。しかし、申立人も認めるとおり、甲第1号証には、これら3つの要件についての開示も示唆もないうえ、甲1発明が、本件特許発明と課題が共通し、画像表示装置の構成が同一であり、また、本件特許発明1、2の弾性率の要件を充たす(上述のとおり、剥離モードの要件を充たすとは認められない。)としても、これによって、これら3つの要件を充たす蓋然性が高いとは認められない。 してみると、申立人の上記主張は、いずれも、理由がない。 ウ 結論 よって、本件特許発明1、2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、または、同第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものであるとすることはできない。 (2)サポート要件について ア 判断 まず、本件特許発明1?3が解決しようとする課題は、本件特許発明の段落【0006】?【0007】に記載されるように、画像表示部と透明部材とが透明樹脂層を介して接着された画像表示装置において、前記画像表示部と前記透明部材との剥離・貼付が繰り返し可能な画像表示装置、並びにこのような画像表示装置に好適な剥離後の粘着性が劣化せずに十分な保持力を有する透明樹脂を得るための硬化性組成物及び該透明樹脂を提供することである。 本件特許明細書の全記載からみて、条件(i)?(iv)を充たす画像表示装置であれば、この課題を解決することができることは、当業者には明らかである。 すると、本件特許発明1?3は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものということはできない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3は、その特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであると認められるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。 イ 申立人の主張について (ア)申立人は、下記のように主張する。 本件特許発明1?3では、透明樹脂層の組成についての特定がなされていないところ、本件特許明細書の段落【0013】に記載された硬化性組成物を使用することが必要であることがうかがえるから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。 すると、本件特許明細書の実施例と比較例から、本願の課題を解決するために、本件特許明細書の段落【0013】に記載された硬化性組成物までは拡張ないし一般化できるが、本件特許発明1?3の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。 まず、本件特許発明1?3は、「透明樹脂層」の弾性率、接着面のせん断方向の荷重に対する耐性及び剥離モードという「画像表示装置」の特性並びに再接着した場合も該3つの特性を充たすという特性(以下、単に「本件特許発明の特性」という。)により発明を特定したものである。 そして、本件特許明細書に記載された実施例の各「硬化性組成物」は、本件特許発明の特性を有する「画像表示装置」を実施するための例として挙げられたものであって、これらの例以外の組成物では、本件特許発明の特性を充たさないことを示したものではないから、申立人の、本件特許発明1?3では本件特許明細書の段落【0013】に記載された硬化性組成物を使用することが必要であることがうかがえるという主張には理由がない。 次に、発明の特定において、物の特性による特定と、物を形成する組成物の組成による特定は、相互に異なる視点からの特定であって、一方が他方を拡張ないし一般化したものであるという関係にはないのであるから、物の特性により発明を特定した本件特許発明1?3が、これとは観点の異なる「透明樹脂層」の組成の特定がないことをもって、本件特許明細書の実施例を拡張ないし一般化するものということはできない。 よって、申立人の、本件特許明細書の実施例から本件特許発明1?3の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないという主張自体が採用できないものである。 (イ)また、申立人は、甲第2?5号証を提出して、他の2件の特許出願の審査経過を挙げている。 しかし、本件特許とは異なる特許出願の審査経過が、本件特許発明を取り消すべきか否かを左右するものではないことは明らかである。 なお、申立人の、「特開2011-099073号公報(甲第2号証)の発明」についての「審査過程において「この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」という旨の拒絶理由が通知されている(甲第3号証)。」という記載について、これは特許法第36条第4号第1項の規定についての拒絶理由であって、本件特許異議の申立ての理由の特許法第36条第6項第1号とは全く関係がない。 また、申立人の、「特開2011-037082号公報(甲第4号証)の発明」についての「「明細書において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。」とする拒絶理由が通知されている(甲第5号証)。」について、この記載に関しては、上記「ア」で検討したとおりである。 ウ 結論 よって、本件特許発明1?3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであるとすることはできない。 第3 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に、本件特許発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-11-04 |
出願番号 | 特願2011-278362(P2011-278362) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G09F)
P 1 651・ 113- Y (G09F) P 1 651・ 537- Y (G09F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田辺 正樹 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
森 竜介 伊藤 昌哉 |
登録日 | 2016-02-12 |
登録番号 | 特許第5880830号(P5880830) |
権利者 | JSR株式会社 |
発明の名称 | 画像表示装置 |
代理人 | 大渕 美千栄 |
代理人 | 布施 行夫 |
代理人 | 松本 充史 |