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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B29C 審判 全部申し立て 2項進歩性 B29C |
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管理番号 | 1321266 |
異議申立番号 | 異議2016-700624 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-07-19 |
確定日 | 2016-10-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5844967号発明「繊維強化熱可塑性樹脂成形品とその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5844967号の請求項[1?6]に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5844967号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成22年12月13日に特許出願され、平成27年11月27日に特許権の設定登録がされ、平成28年1月20日にその特許公報が発行され、平成28年7月19日に、その請求項1?6に係る発明の特許に対し、特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第5844967号の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、それぞれ、特許登録時の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、 前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層と、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長く、 前記各接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っている、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。 【請求項2】 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、ランダムに分布している、請求項1の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。 【請求項3】 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層のうち、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い前記少なくとも1層の強化繊維は、連続繊維である、請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。 【請求項4】 前記連続繊維は、該連続繊維が一方向に引き揃えられた一方向材、または、該一方向材が織られたクロス材である、請求項3に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。 【請求項5】 複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、 前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層と、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長く、 前記各接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っている、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。 【請求項6】 前記接合を振動溶着法により行う、請求項5の繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。」 第3 申立理由の概要及び提出した証拠 1 申立理由の概要 (1)申立ての理由1 本件発明1?6は、本件特許の出願前に頒布された下記の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件発明1?6に係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 (2)申立ての理由2 本件発明1?6は、本件特許の出願前に頒布された下記の甲第1号証、甲第2号証又は甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1?6に係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 2 証拠方法 甲第1号証:Ghanem Jandali 外1名著、Vibration welding of a unidirectional continuous glass fiber reinforced polypropylene GMT、composites Part A: Applied Science and Manufacturing、Elsevier、2005年、vol.36、第1687?1693頁 甲第2号証:特開2010-235779号公報 甲第3号証:松岡信一著、スタンパブルシートの超音波接合と、その特性、合成樹脂、1990年、第36巻、第7号、第40?44頁 第4 当審の判断 1 申立ての理由1について (1)刊行物の記載 ア 甲第1号証 本件特許出願前に頒布された甲第1号証には、以下の記載がある。 (以下、甲第1号証の記載事項を訳文で示す。訳文は、特許異議申立人が作成した抄訳文に基づいて当審が作成した。) (1a)「一方向の連続ガラス繊維強化ポリプロピレンGMTの振動溶着」(第1687頁上段の論文の題名) (1b)「本論文は、Eガラス繊維強化ポリプロピレンの連続繊維GMT複合材の振動溶着の実験結果を紹介する。ここで検討した振動溶着に関するパラメーターは、振動時間、圧着圧力、および振幅である。これらのパラメーターが複合材の溶け込みおよびラップシェア強度に対して及ぼす影響を測定した。圧着圧力および振動時間は、ラップシェア強度を最適化するように適切に選択すべきであることが示された。振動溶着中に行われた温度測定によって、これら2つのパラメーターが、適切な振動溶着に必要な界面温度にとって重要であることが示された。」(第1687頁中段のアブストラクト) (1c)「1.はじめに 振動溶着は、充填剤非含有熱可塑性樹脂、充填剤含有熱可塑性樹脂、およびランダム短繊維強化熱可塑性樹脂のための良好に開発された接合プロセスである[1,2]。・・・振動溶着プロセスは、2つの接触するポリマー表面を、接触面と平行な振動を使用することで互いがこすれ合う際の摩擦によって発生した熱によって融かすことに基づいている。振動発生中、接合しようとしている部品は0.5?5.0MPaの圧力でともに保持されている。・・・」(第1687頁下段のイントロダクション) (1d)「2.実験 2.1.材料 一方向のEガラス繊維強化ポリプロピレンGMTはm、Azdel社製の、長さ1.32m、幅100mm、厚さ4mmのシートを使用した。それぞれのシートは、一方向の(シートの長手方向に平行に配向された)連続Eガラス繊維と、ランダムに配向された連続Eガラス繊維とを含み、両方がポリプロピレンマトリックスに埋め込まれている。ランダムに配向された連続Eガラス繊維は、外側の両面に存在するようにした。・・・ここで2種類の異なるシートが検討された。一方は、普通のポリプロピレンマトリックスを含有したもの、他方は、カーボンブラックを充填したポリプロピレンマトリックスを含有したものであり、それぞれ「アズデル白」及び「アズデル黒」と呼ぶ。これらの特性を表1に示す。」(第1688頁左欄第10?26行) (1e)「表1 一方向ガラス繊維強化GMTの引張特性 ---------------------------- 特性 アズデル白 アズデル黒 ---------------------------- 縦方向係数(GPa) 12 11 縦方向強度(MPa) 160 210 横方向係数(GPa) 3.7 4.9 横方向強度(MPa) 46 60 繊維重量含有率(%)^(a) 36.8 44.6 繊維体積含有率(%)^(b) 17 22 ---------------------------- ^(a) 樹脂燃焼試験により決定 ^(b) 総繊維重量分率より算出」(第1688頁左欄下段のテーブル1) (1f)「2.2.ラップシェア試験片 長さ100mm、幅25mmの矩形片が、アズデルシートの長さ方向(0°)と垂直方向(90°)に超硬帯刃によりカットされた。図1に示すラップシェア試験用のサンプルを製造するために25mmの長さで2つの矩形片を振動溶着した。」(第1688頁左欄第34行?右欄第3行) (1g)「図7は3つの振動溶着された継手のSEM写真を示している。p_(0)=0.345MPa、t_(v)=1秒(図7a)では、界面は溶融しておらず、また同じ圧着圧力で、振動時間が8秒に延びたものも同様である(図7b)。図7aでは、2つの面を分断する線が確認できる。p_(0)=1MPa、t_(v)=1秒では、界面は互いによく溶融するとともに、連続ランダム繊維層が界面を越えて移行しているのが見てとれる。」(第1690頁左欄第1?8行) (1h)「 」(第1690頁左欄Fig.5、Fig.6、右欄Fig.7) イ 甲第2号証 本件特許出願前に頒布された甲第2号証には、以下の記載がある。 (2a)「【請求項1】 強化繊維基材に樹脂が含浸されてなるプリプレグであって、該強化繊維基材が繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%、繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%、繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成され、強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度であり、かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm、引張強度σが0.01MPa以上であるプリプレグ。 ・・・ 【請求項5】 前記強化繊維の割合が5?60重量%である、請求項1?4のいずれかに記載のプリプレグ。 ・・・ 【請求項10】 前記樹脂が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素系樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂である、請求項1?9のいずれかに記載のプリプレグ。」 (2b)「【請求項17】 少なくとも強化繊維基材に樹脂が含浸したプリプレグを積層して得られるプリフォームであって、該プリプレグに含まれる強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度、かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm、引張強度σが0.01MPa以上であるプリプレグを積層単位として含むプリフォーム。 【請求項18】 前記プリプレグが、請求項1?16のいずれかに記載のプリプレグ(プリプレグ(A))である、請求項17に記載のプリフォーム。 ・・・ 【請求項21】 前記プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)からなるプリフォームであって、該積層単位(B)が、強化繊維を含む基材である、請求項18?20のいずれかに記載のプリフォーム。 【請求項22】 前記積層単位(B)が連続した強化繊維を含み、一方向基材、織物基材、マット基材から選択される少なくとも一種の形態である、請求項21に記載のプリフォーム。 ・・・ 【請求項25】 前記積層単位(B)が熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が含浸されてなる基材である、請求項21?24のいずれかに記載のプリフォーム。」 (2c)「【請求項34】 請求項1?16に記載のプリプレグ、または請求項17?33に記載のプリフォームのいずれかを成形して得られる成形品。」 (2d)「【0001】 本発明は、繊維強化基材に樹脂が含浸したプリプレグ、およびそれを積層して得られるプリフォームに関し、さらに詳しくは、強化繊維が特定の二次元配向角を有し、特定の厚みを有するプリプレグ、およびそれを積層して得られるプリフォームに関する。」 (2e)「【0004】 このプリプレグを用いた成形品は優れた力学特性が得られる反面、強化繊維が連続体のまま使用されるために、複雑な形状を成形するには不向きであり、かつプリプレグの積層角度による特性への影響が大きいため、積層工程の経済的負担から、使用用途が制限されている。」 (2f)「【0010】 本発明は、従来技術の背景に鑑み、積層成形品には不向きであった薄型成形品にも対応でき、等方的に力学特性に優れた、複雑形状の成形品を得ることができるプリプレグ、ならびにプリフォームを提供することを目的とする。 ・・・ 【0015】 また、本発明は、繊維強化基材に樹脂が含浸したプリプレグを積層して得られるプリフォームにおいて、プリプレグに含まれる強化繊維が特定の二次元配向角を有し、プリプレグが特定の厚みとすることで、厚み方向の強化繊維の割合を抑え、層間の干渉を低減して、プレス成形における賦形性を高めることができる。これにより、従来の積層成形品には不向きであった、複雑形状の成形性と力学特性を満足する成形品を得ることができる。」 (2g)「【0058】 同様に、強化繊維の長さについても、強化繊維が長いほど、得られる成形品の弾性率、強度、寸法安定性は向上する反面、プリフォームの取扱性や成形品の外観品位は低下する傾向がある。このため、強化繊維の繊維長が長いプリプレグと、繊維長が短いプリプレグを組み合わせて積層することで、プリフォームの取扱性と成形品の力学特性や外観品位を両立する観点で好ましい。例えば、成形品の剛性を高める目的で、より外側に強化繊維の繊維長が長いプリプレグを積層し、内側に繊維長が短いプリプレグを積層する方法や、成形品の外観品位を高める目的で、さらに外側に繊維長が短いプリプレグを積層する方法などが挙げられる。」 (2h)「【0062】 さらに、本発明のプリフォームは、得られる成形品の仕様を満足する目的で、プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)を用いることが好ましい。ここで、他の積層単位(B)について好ましい態様を説明する。 【0063】 まず、前記積層単位(B)としては強化繊維を含む基材であると、得られる成形品の補強効果をさらに高める観点から好ましい。中でも、連続した強化繊維は、成形品の衝撃強度を高める観点から好ましく、例えば、一方向基材、織物基材、マット基材などの形態が挙げられる。また、不連続状の強化繊維は、成形品の形状追随性を高める観点から好ましく、例えば、一方向基材、すなわちカットされた強化繊維が一方向に配列された基材や、マット基材、シートモールディングコンパウンド(SMC)基材、押出シート基材などの形態が挙げられる。」 (2i)「【0069】 また、前記プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)からなるプリフォームの好ましい態様として、スキン層とコア層からなるサンドイッチ構造体が例示できる。 【0070】 前記サンドイッチ構造体のうち、スキン層が前記プリプレグ(A)で構成されている場合、得られる成形品が等方的特性を発現し、かつ複雑形状への追随性も確保できるため好ましい。この場合、これらの効果を一層高める観点から、コア層としてプリプレグ(A)よりも嵩密度の低い、シート状基材、多孔質基材、ハニカム材料、強化繊維を含むマット基材などを用いることがより好ましい。 【0071】 また、前記サンドイッチ構造体のうち、コア層が前記プリプレグ(A)で構成されている場合、得られる成形品の厚みがより均質化でき、かつ機能性付与が容易に確保できるため好ましい。この場合、剛性効果を高める観点から、コア層として連続した強化繊維を含む一方向基材、織物基材などを用いることがより好ましい。また、成形品表面への機能付与の観点から、難燃性を有するフィルム、加飾フィルムなどを用いることがより好ましい。」 (2j)「【0086】 成形品は軽量性を確保する観点からは、中空体であってもよい。この場合、成形品の形状に合わせていくつかの成形品を接合して、中空成形体を形成してもよい。 ・・・ 【0088】 本発明のプリプレグまたはプリフォームを成形して得られる成形品同士を接合一体化させてもよい。目的により、他方の繊維質量含有率を上げておき、高い強度として一体化させたものなどが例示できる。 【0089】 成形品の適用用途を広げる観点からは、複雑形状の成形体を接合することが好ましい。ここで複雑形状の成形体とは、例えばエッジ、フレーム、ボス、リブ、ヒンジ、マウントなどの複雑形状の射出成形体が例示できる。成形品な優れた力学特性を活用できる用途を広げることができる。 【0090】 一体化させるための手法としては特に限定されないが、接着剤や熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着などの方法が例示できる。なかでもプロセスの容易さや、成形サイクルの短さから、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着が好ましい。」 ウ 甲第3号証 本件特許出願前に頒布された甲第3号証には、以下の記載がある。 (3a)「スタンパブルシートの超音波接合と、その特性」(第40頁標題) (3b)「1.緒言 繊維強化プラスチックは、使われるマトリックスのタイプにより繊維強化熱硬化性プラスチック(FRTS)と、繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)に大別される。・・・FRTPは前者に比べ使用量ではやや低いが、強度設計のうえでは金属材料のような扱いができ弾性変形範囲が大きいなどの利点があり、汎用性の高い材料である。特に最近のニーズの多様化にともないFRTPの接合体をつくることが不可欠となり、従来の機械的締結法や接着法と併せて有効な接合法が望まれている。 ここでは、実用部材として広く応用され、また注目されているスタンパブルシートの接合に関して、もっとも適していると考えられる超音波接合法^(1))を取り上げ、その概要と諸特性について述べる。」(第40頁左欄第1?19行) (3c)「2.超音波接合条件と方法 ・・・ 接合に用いた材料は、一般にスタンパブルシートと呼ばれるガラス繊維強化プラスチックで、繊維(φ20μm)の配向状態により一方向強化材と無配向材があり、それぞれ、繊維配合率が50wt%及び40wt%の材料(・・・)を併用した。 ・・・ 3.振動振幅と接合可能領域 超音波振動条件や材料の組合せによって、それぞれに最適な接合条件が存在し、それらがうまく一致すると接合強度や特性が大幅に向上する。その一例を図2に示す。 同図は、無配向材を用いて種々の超音波条件に対する接合可能領域を示す。」(第40頁左欄第20行?右欄第17行) (3d)「4.接合材の強度 前節から条件がうまく一致すると良好な接合材が得られるが、実用上ではこの接合強度が大きな問題となる。・・・ このように、ある程度の接合強度が得られたことは、単にマトリックスのみの溶着だけでなく、互の繊維が幾重にも折り重なって相乗効果が生じているものと推察される。」(第41頁左欄第1行?第42頁左欄第6行) (3e)「7.接合メカニズムの一考察 超音波接合における界面の接合メカニズムについては次のように推察できる。・・・ ここで問題となるガラス繊維は振動エネルギによる破壊や分断もなく、相方の繊維が互いに距離を縮め折り重なった状態を形成し、さらに、ガラス繊維表面にマトリックスの樹脂が溶着し、空孔などが残留しない良好な接合ができる。このことは同図(c)に示す引張破断面の様子からも推移できよう。 すなわち、接合界面ではマトリックス材が相互に溶融し、同時にガラス繊維の折り重なりも生じて良好な接合面が形成されると考えられる。」(第43頁左欄第6行?右欄第12行) (2)各甲号証に記載された発明 ア 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、一方向の連続ガラス繊維強化ポリプロピレンGMTを振動溶着することが記載され(摘記(1a)(1b))、具体的には、一方向の連続Eガラス繊維と、ランダムに配向された連続Eガラス繊維とを含み、両方がポリプロピレンマトリックスに埋め込まれており、ランダムに配向された連続Eガラス繊維が、外側の両面に存在し、繊維の体積含有率が17%又は22%であるシートを用いることが記載され(摘記(1d)(1e))、このシートから、長さ100mm、幅25mm、厚さ5mmの矩形片を作成して、25mmの長さで振動溶着して試験片としたことが記載されている(摘記(1f))。 そうすると、甲第1号証には、「一方向の連続Eガラス繊維と、ランダムに配向された連続Eガラス繊維とを含み、両方がポリプロピレンマトリックスに埋め込まれており、ランダムに配向された連続Eガラス繊維が、外側の両面に存在し、繊維の体積含有率が17%又は22%である、長さ100mm、幅25mm、厚さ5mmの矩形片を、25mmの長さで振動溶着した試験片」の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。 また、甲第1号証には、 「一方向の連続Eガラス繊維と、ランダムに配向された連続Eガラス繊維とを含み、両方がポリプロピレンマトリックスに埋め込まれており、ランダムに配向された連続Eガラス繊維が、外側の両面に存在し、繊維の体積含有率が17%又は22%である、長さ100mm、幅25mm、厚さ5mmの矩形片を、25mmの長さで振動溶着した試験片の製造方法」の発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。 イ 甲第2号証に記載された発明 甲第2号証には、請求項1に、「強化繊維基材に樹脂が含浸されてなるプリプレグであって、該強化繊維基材が繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%、繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%、繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成され、強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度であり、かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm、引張強度σが0.01MPa以上であるプリプレグ」が記載され(摘記(2a))、請求項17に、「少なくとも強化繊維基材に樹脂が含浸したプリプレグを積層して得られるプリフォームであって、該プリプレグに含まれる強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度、かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm、引張強度σが0.01MPa以上であるプリプレグを積層単位として含むプリフォーム」が記載され(摘記(2b))、請求項18に、「前記プリプレグが、請求項1?16のいずれかに記載のプリプレグ(プリプレグ(A))である、請求項17に記載のプリフォーム」が記載され(摘記(2b))、請求項21に、「前記プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)からなるプリフォームであって、該積層単位(B)が、強化繊維を含む基材である、請求項18?20のいずれかに記載のプリフォーム」が記載され(摘記(2b))、請求項22に、「前記積層単位(B)が連続した強化繊維を含み、一方向基材、織物基材、マット基材から選択される少なくとも一種の形態である、請求項21に記載のプリフォーム」が記載され(摘記(2b))、請求項25に、「前記積層単位(B)が熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が含浸されてなる基材である、請求項21?24のいずれかに記載のプリフォーム。」が記載されている(摘記(2b))。 ここで、請求項22に係る発明について上記請求項の引用関係をみていくと、請求項22に係る発明のプリフォームは、請求項1に記載のプリプレグと、連続した強化繊維を含み、一方向基材、織物基材、マット基材から選択される少なくとも一種の形態積層単位(B)からなる請求項17に記載のプリフォームであるといえる。また、請求項34には、「・・・請求項17?33に記載のプリフォームのいずれかを成形して得られる成形品」が記載され(摘記(2c))、段落【0088】には、成形品同士を接合一体化させてもよいことが記載されている(摘記(2j))。 そうすると、甲第2号証には、「プレプリグと他の積層単位(B)からなるプリフォームであって、該プリプレグが、強化繊維基材に樹脂が含浸されてなるプリプレグであって、該強化繊維基材が繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%、繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%、繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成され、強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度であり、かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm、引張強度σが0.01MPa以上であるプリプレグを構成単位として含み、該積層単位(B)が、熱可塑性樹脂が含浸されてなる基材であり、連続した強化繊維を含み、一方向基材、織物基材、マット基材から選択される少なくとも一種の形態である、プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)からなるプリフォームからの成形品同士を接合一体化させた成形品」の発明(以下「甲2発明A」という。)が記載されていると認める。 また、甲第2号証には、「プレプリグと他の積層単位(B)からなるプリフォームであって、該プリプレグが、強化繊維基材に樹脂が含浸されてなるプリプレグであって、該強化繊維基材が繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%、繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%、繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成され、強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度であり、かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm、引張強度σが0.01MPa以上であるプリプレグを構成単位として含み、該積層単位(B)が、熱可塑性樹脂が含浸されてなる基材であり、連続した強化繊維を含み、一方向基材、織物基材、マット基材から選択される少なくとも一種の形態である、プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)からなるプリフォームからの成形品同士を接合一体化させた成形品の製造方法」の発明(以下「甲2発明B」という。)が記載されていると認める。 (3)対比・判断 ア 本件発明1について (ア)甲1発明Aについて a 対比 本件発明1と甲1発明Aとを対比する。 甲1発明Aでは、連続Eガラス繊維がポリプロピレンマトリックスに埋め込まれている矩形片を振動溶着した試験片であり、ポリプロピレンは熱可塑性樹脂であることは明らかであるから、これは、本件発明1の複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品に相当する。 また、甲1発明Aでは、ランダムに配向された連続Eガラス繊維を含むポリプロピレンマトリックスが試験片の外側に存在しているから、内側には一方向の連続Eガラス繊維を含むポリプロピレンマトリックスが少なくとも1層存在しているといえ、試験片の外側同士を振動溶着しているから、ランダムに配向された連続Eガラス繊維を含むポリプロピレンマトリックスは、本件発明1の被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層に相当し、また、一方向の連続Eガラス繊維を含むポリプロピレンマトリックスは、本件発明1の外側繊維強化熱可塑性樹脂層が少なくとも1層以上からなることに相当する。 更に、甲第1号証の表1には、一方向ガラス繊維強化GMTの引張特性として、縦方向と横方向の強度が記載されており、強度を比較すると縦方向の強度が大きい値であることが記載され、ガラス繊維が配向している方向に引張強度が大きいことが技術常識であるから、矩形片の長さ方向である縦方向に一方向ガラス繊維が配向しているといえ、その数平均の繊維長は100mmであると推認できる。一方、長さ100mm、幅25mmの矩形片中にランダムに配向された連続Eガラス繊維は、矩形片の長さ方向及び幅方向のみならず、あらゆる方向に存在することを勘案すれば、その数平均の繊維長は長さ方向である100mmよりも短いことは明らかであるといえ、また、5mmよりも長いことは明らかであるから、5?100mmと同じであると推認できる。また、甲1発明Aにおいて、繊維の体積含有率は17%又は22%であるから、内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率も17、22%と推認できる。 そうすると、甲1発明1Aのランダムに配向された連続Eガラス繊維を含むポリプロピレンマトリックス中の強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、体積含有率が10?60%であり、外側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長いといえる。 そうすると、本件発明1と甲1発明Aとでは、 「複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、 前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層と、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。」である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1-1)本件発明1では、接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っていると特定されているのに対し、甲1発明Aでは、このような特定がされていない点 b 判断 そこで、この相違点1-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 甲第1号証には、図7を参照して、p_(0)=1MPa、t_(v)=1秒では、界面は互いによく溶融するとともに、連続ランダム繊維層が界面を越えて移行しているのが見てとれる、と記載がされており(摘記(1g))、このp_(0)=1MPa、t_(v)=1秒という条件で行った溶着接合は、図7(c)である。この図7(c)をみる限り、連続ランダム繊維層が界面を越えて移行して、ポリプロピレン樹脂が溶融して溶着しているといえたとしても、被接合面同士の強化繊維が絡み合っているとまではいえない。 よって、相違点1-1が実質的な相違点でないとはいえない。 c 特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、甲第1号証の図5には、アズデル白とアズデル黒の接合部分の破断面が示されており、接合部分に白と黒の層が相互に入り込んでいることから、アズデル白とアズデル黒の強化繊維が絡み合っている旨の主張をしており(特許異議申立書第17頁第21?24行、以下「主張ア」という。)、また、本件発明1では、短繊維(繊維長が5?100mm)を含む内側接合面同士を振動溶着することで被接合面同士の強化繊維が絡み合うことになり、一方、甲第1号証においても、同じ繊維長の被接合面同士を振動溶着しているので、甲第1号証においても当然に被接合面同士の強化繊維が絡み合うこととなると主張している(特許異議申立書第17頁第25行?第18頁第16行、以下「主張イ」という。) d 特許異議申立人の主張の検討 そこで、これらの特許異議申立人の主張について検討する。 (a)主張アについて 図5における振動溶着の条件は、図7(c)の条件(p_(0)=1MPa、t_(v)=1秒)と同じものはないから、図7(c)の接合面の結果として、直接図5を参照することはできない。 なお、図5及び図6(特に、図6の下段の図は図7(c)の振動溶着と同じ条件(p_(0)=1MPa、t_(v)=1秒)の図である。)をみてみるが、これらの図は、振動溶着部の界面を示した写真であり、振動溶着部の界面においてガラス繊維の存在が確認できる写真もあるが、被接合面同士の強化繊維が絡み合っていることが確認できる写真であるとはいえない。 よって、図5及び図6のいずれの図をみたとしても、主張アを採用することはできない。 (b)主張イについて 本件発明1では、その実施例1及び2で実施されたように、強化繊維として炭素繊維を用いたランダムシート及びプリプレグ層を積層して2つの特定の成形品を作成し、これらの2つの成形品を特定の条件により振動溶着を行うことで溶着した接合品が得られており、この接合品の被接合面同士は、強化繊維が絡み合っているといえるものである。 一方、甲第1号証は、振動時間、圧着圧力及び振幅等の振動溶着条件が振動溶着後の強度に影響を及ぼすことを記載した文献であるといえ(摘記(1b))、具体的には、強化繊維としてガラス繊維を用いて振動溶着した試験片が記載されているのである。また、甲第1号証には、振動溶着の条件次第では、十分な強度を得られないことが記載されており、そして、ガラス繊維は繊維径がある程度太く、剛直な物性を有しており、簡単には屈曲するといえないことが技術常識であることから、簡単に繊維同士が絡み合うことができないことからみても、この甲第1号証の記載のみから、単に強化繊維の繊維長が同じ部材を振動溶着すれば、本件発明1で特定されたように、必ず被接合面同士の強化繊維が絡み合った成形品が得られるとまでいうことはできない。また、単に強化繊維の繊維長が同じ部材を振動溶着すれば、被接合面同士の強化繊維が絡み合った成形品が得られるという技術常識があるわけでもない。 よって、主張イを採用することはできない。 e まとめ よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。 (イ)甲2発明Aについて a 対比 本件発明1と甲2発明Aとを対比する。 甲2発明Aのプレプリグは、樹脂として熱可塑性樹脂が記載されており(摘記(1a))、強化繊維基材の繊維長が、繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%、繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%、繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成されるものあり、この繊維長からみて、本件発明1で特定する数平均の繊維長が5?100mmと一致することは明らかであり、また、プリプレグ中の強化繊維が5?60重量%で含まれることが記載され(摘記(1a))、体積含有率に換算すると、本件発明1で特定する10?60%と重複することは明らかであるので、甲2発明Aのプレプリグは、内側強化繊維の数平均の繊維長が5?100mmであり、体積含有率が10?60%である内側繊維強化熱可塑性樹脂層に相当する。 また、甲2発明Aの積層単位(B)は、一方向基材、織物基材を含み熱可塑性樹脂が含浸された基材であるので、本件発明1の外側繊維強化熱可塑性樹脂層に相当し、外側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維は、内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維の数平均の繊維長より長いことは明らかである。 そして、甲2発明Aは、プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)からなるプリフォームからの成形品同士を接合一体化させた成形品であるから、本件発明1の複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品と一致する。 そうすると、本件発明1と甲2発明Aとでは、 「複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。」である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点2-1)本件発明1では、各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層であり、接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っていると特定されているのに対し、甲2発明Aでは、接合面が、内側樹脂層であるか外側樹脂層であるか明らかでなく、また、被接合面同士の強化繊維が絡み合っていることが特定されていない点 b 判断 そこで、この相違点2-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 甲第2号証の段落【0069】には、プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)からなるプリフォームの好ましい態様として、スキン層とコア層からなるサンドイッチ構造体が例示できるとされ、同【0070】には、スキン層が前記プリプレグ(A)の場合、成形品が等方的特性を発現し、かつ複雑形状への追随性も確保できるため好ましいこと、コア層としてプリプレグ(A)よりも嵩密度の低い、シート状基材、多孔質基材、ハニカム材料、強化繊維を含むマット基材などを用いることがより好ましいことが記載されているが、一方、同【0071】には、コア層が前記プリプレグ(A)の場合、成形品の厚みがより均質化でき、かつ機能性付与が容易に確保できるため好ましいこと、この場合、剛性効果を高める観点から、コア層として連続した強化繊維を含む一方向基材、織物基材などを用いることがより好ましく、また、成形品表面への機能付与の観点から、難燃性を有するフィルム、加飾フィルムなどを用いることがより好ましい、と記載がされており、これらの記載をみると、甲第2号証に記載されるプリフォームのスキン層が、プリプレグ(A)から構成されるか、他の積層単位(B)から構成されるかは、必要とする特性に応じて決められることであるといえ、必ず、スキン層がプリプレグ(A)であるとまではいえない。また、甲第2号証には、成形品同士を接合一体化する場合に、接合面がプリプレグ層であるとまで記載されておらず、また、このことが技術常識ともいえない。 更に、甲第2号証には、被接合面同士の強化繊維が絡み合っていることは記載されておらず、また、このことが技術常識ともいえない。 よって、相違点2-1が実質的な相違点でないとはいえない。 c 特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、上記相違点2-1のうち、接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層であることについて、甲第2号証に記載された発明であると主張し(特許異議申立書第11頁第7行?第15頁第5行、以下「主張ウ」という。)、また、また、本件発明1では、短繊維(繊維長が5?100mm)を含む内側接合面同士を振動溶着することで被接合面同士の強化繊維が絡み合うことになり、一方、甲第2号証においても、同じ繊維長の被接合面同士を振動溶着しているので、甲第2号証においても当然に被接合面同士の強化繊維が絡み合うこととなると主張している(特許異議申立書第24頁第7?27行、以下「主張エ」という。) d 特許異議申立人の主張の検討 そこで、これらの特許異議申立人の主張について検討する。 (a)主張ウについて 甲第2号証には、接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層である発明が記載されていないことについては、上記bで述べたとおりであるので、主張ウを採用することはできない。 (b)主張エについて 同じ繊維長の被接合面同士を振動溶着すれば、被接合面同士の強化繊維が絡み合った成形品が得られることとまでいえないことは、上記(ア)d(b)で述べたとおりであるので、主張エを採用することはできない。 e まとめ よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4は、本件発明1を引用して更に減縮したものであるから、上記アで述べた内容と同じ理由により、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではない。 ウ 本件発明5について (ア)甲1発明Bについて a 対比 本件発明5は、本件発明1と同じ繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法の発明であり、更なる発明特定事項はない。 一方、甲1発明Bは、甲1発明Aと同じ試験片の製造方法の発明であるから、両者を対比すると、上記ア(ア)aで述べたとおり、以下の点で一致するといえる。 「複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、 前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層と、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。」である点 そして、次の点で相違する。 (相違点1-1)本件発明1では、接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っていると特定されているのに対し、甲1発明Bでは、このような特定がされていない点 b 判断 相違点1-1については、上記ア(ア)b?dで述べた理由と同じ理由により、本件発明5は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。 (イ)甲2発明Bについて a 対比 本件発明5は、本件発明1と同じ繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法の発明であり、更なる発明特定事項はない。 一方、甲2発明Bは、甲2発明Aと同じ成形品の製造方法の発明であるから、両者を対比すると、上記ア(イ)aで述べたとおり、以下の点で一致するといえる。 「複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。」である点 そして、次の点で相違する。 (相違点2-1)本件発明1では、各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層であり、接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っていると特定されているのに対し、甲2発明Bでは、接合面が、内側樹脂層であるか外側樹脂層であるか明らかでなく、また、被接合面同士の強化繊維が絡み合っていることが特定されていない点 b 判断 相違点2-1については、上記ア(イ)b?dで述べた理由と同じ理由により、本件発明5は甲第2号証に記載された発明であるとすることはできない。 エ 本件発明6について 本件発明6は、本件発明5を引用して更に減縮したものであるから、上記ウで述べた内容と同じ理由により、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件発明1?6は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。 よって、本件発明1?6についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、申立ての理由1によって取り消されるべきものではない。 2 申立ての理由2について (1)刊行物の記載 甲第1号証?甲第3号証の記載事項は、上記「第4 1(1)ア?ウ」に記載したとおりである。 (2)甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明 甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明は、上記「第4 1(2)ア及びイ」に記載した以下のとおりである。 ア 甲1発明A 「一方向の連続Eガラス繊維と、ランダムに配向された連続Eガラス繊維とを含み、両方がポリプロピレンマトリックスに埋め込まれており、ランダムに配向された連続Eガラス繊維が、外側の両面に存在し、繊維の体積含有率が17%又は22%である、長さ100mm、幅25mm、厚さ5mmの矩形片を、25mmの長さで振動溶着した試験片」 イ 甲1発明B 「一方向の連続Eガラス繊維と、ランダムに配向された連続Eガラス繊維とを含み、両方がポリプロピレンマトリックスに埋め込まれており、ランダムに配向された連続Eガラス繊維が、外側の両面に存在し、繊維の体積含有率が17%又は22%である、長さ100mm、幅25mm、厚さ5mmの矩形片を、25mmの長さで振動溶着した試験片の製造方法」 ウ 甲2発明A 「プレプリグと他の積層単位(B)からなるプリフォームであって、該プリプレグが、強化繊維基材に樹脂が含浸されてなるプリプレグであって、該強化繊維基材が繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%、繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%、繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成され、強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度であり、かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm、引張強度σが0.01MPa以上であるプリプレグを構成単位として含み、該積層単位(B)が、熱可塑性樹脂が含浸されてなる基材であり、連続した強化繊維を含み、一方向基材、織物基材、マット基材から選択される少なくとも一種の形態である、プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)からなるプリフォームからの成形品同士を接合一体化させた成形品」 エ 甲2発明B 「プレプリグと他の積層単位(B)からなるプリフォームであって、該プリプレグが、強化繊維基材に樹脂が含浸されてなるプリプレグであって、該強化繊維基材が繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%、繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%、繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成され、強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度であり、かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm、引張強度σが0.01MPa以上であるプリプレグを構成単位として含み、該積層単位(B)が、熱可塑性樹脂が含浸されてなる基材であり、連続した強化繊維を含み、一方向基材、織物基材、マット基材から選択される少なくとも一種の形態である、プリプレグ(A)と、他の積層単位(B)からなるプリフォームからの成形品同士を接合一体化させた成形品の製造方法」 (3)対比・判断 ア 本件発明1について (ア)甲1発明Aについて a 対比 本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点は、上記「第4 1(3)ア(ア)a」に記載した以下のとおりである。 (一致点) 「複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、 前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層と、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。」 (相違点) (相違点1-1)本件発明1では、接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っていると特定されているのに対し、甲1発明Aでは、このような特定がされていない点 b 判断 そこで、この相違点1-1について検討する。 甲1発明Aは、複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品という、本件発明1と同じ技術分野に属する発明である。しかしながら、甲第1号証は、振動時間、圧着圧力及び振幅等の振動溶着条件が振動溶着後の強度に影響を及ぼすことを記載した文献であるといえ(摘記(1b))、振動溶着により、樹脂同士を強く溶着させるという課題を解決することまではいえるが、接合部で接合した被接合面同士の強化繊維が絡み合うことを意図して振動溶着させているものではない。また、甲1発明Aの強化繊維はガラス繊維であり、ガラス繊維は繊維径がある程度太く、剛直な物性を有しており、簡単には屈曲するといえないことが技術常識であることから、簡単に繊維同士が絡み合うことができないといえ、この甲1発明Aにおいて、振動溶着することにより、被接合面同士の強化繊維が絡み合った成形品が得られることが当業者にとって容易に想到できるものともいえない。 c 効果について 本件発明1は、本件特許明細書の段落【0007】に、接合部が十分に接合した繊維強化熱可塑性樹脂成形品を提供できることが記載され、また、実施例1,2において、本件発明1の具体例である接合した成形品が、比較例である、ランダムシートを用いない、即ち、本件発明1において、内側繊維強化熱可塑性樹脂層を設けずに、外側繊維強化熱可塑性樹脂層同士を接合した成形品よりも接合強度が強く、良好な接合状態を保っていたという効果が示されている。そして、この効果は、甲第1号証の記載から当業者が予測できないものである。 d まとめ したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)甲2発明Aについて a 対比 本件発明1と甲2発明Aとの一致点及び相違点は、上記「第4 1(3)ア(イ)a」に記載した以下のとおりである。 (一致点) 「複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。」 (相違点) (相違点2-1)本件発明1では、各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層であり、接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っていると特定されているのに対し、甲2発明Aでは、接合面が、内側樹脂層であるか外側樹脂層であるか明らかでなく、また、被接合面同士の強化繊維が絡み合っていることが特定されていない点 b 判断 そこで、この相違点2-1について検討する。 (a)甲第2号証の記載に基づく進歩性の検討 甲第2号証には、等方的に力学特性に優れた、複雑形状の成形品を得ることができるプリプレグ、ならびにプリフォームを提供することを目的とし(摘記(2f))、また、成形品の衝撃強度を高めるためプリプレグ(A)と、連続した強化繊維を含む他の積層単位(B)からなるプリフォームが記載されている(摘記(2h))。 また、プリフォームから成形した成形品同士を接合一体化することにより、高い強度、優れた力学的性質を有する成形品が得られることが記載されている(摘記(2j))。 更に、甲第2号証の段落【0070】には、スキン層としてプリプレグ(A)を用いることにより、成形品が等方性を有し、複雑形状への追従性も確保できることが記載され、同【0071】には、コア層がプリプレグ(A)を用いることにより、成形品の厚みが均質化できることが記載されている。 そうすると、甲第2号証には、高い強度、優れた力学的性質を有する接合一体化した成形品が記載されているとしても、甲第2号証においてスキン層にプリプレグ(A)を用いる目的は、等方性を有する成形品を得るため、複雑形状への追従性の確保のためといえるから、接合面の強度の向上のため、成形体の接合面、即ち、スキン層をプリプレグとすることまでの動機付けがあるとはいえず、まして、この被接合面同士の強化繊維が絡み合わせるとするまでの動機付けがあるとはいえない。また、甲第2号証には、コア層にプリプレグを用いることも記載されているから、甲第2号証において、スキン層にプリプレグを用いることが技術常識であるともいえない。 よって、甲第2号証の記載から、甲2発明Aにおいて、相違点2-1の構成を備えたものとすることが、当業者にとって容易に想到できたとはいえない。 (b)甲第3号証との組合せに基づく進歩性の検討 甲第3号証には、無配向のガラス繊維強化プラスチックを超音波接合することにより、接合条件や材料の組合せにより接合強度が向上し、マトリックス樹脂が溶着し、ガラス繊維の折り重なりも生じて良好な接合面が形成されるとの記載がされている(摘記(3b)(3e))。 しかしながら、上記(a)で述べたとおり、甲第2号証には、スキン層としてプレプリグ(A)を用いることが記載されていたとしても、これは、等方性を有する成形品を得るため、複雑形状への追従性の確保のためといえ、接合面の強度の向上のため、成形体の接合面、即ち、スキン層をプレプリグとする課題が記載されているとはいえないから、甲第3号証に記載された事項を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。また、甲第3号証に記載されたガラス繊維は繊維径がある程度太く、剛直な物性を有しており、簡単には屈曲するといえないことが技術常識であることから、簡単に繊維同士が絡み合うことができないといえ、甲第3号証の記載をみても、被接合面同士の強化繊維が絡み合った成形品が得られることが当業者にとって容易に想到できるものともいえない。 c 効果について そして、本件発明1の効果については、上記(ア)cで述べたとおりであり、この効果は、甲第2号証、甲第3号証の記載から当業者が予測できないものである。 d まとめ したがって、本件発明1は、甲第2号証、又は甲2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4は、本件発明1を引用して更に減縮したものであるから、上記アで述べた内容と同じ理由により、甲第1号証、甲第2号証、又は甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件発明5について (ア)甲1発明Bについて a 対比 本件発明5と甲1発明Bとの一致点及び相違点は、上記「第4 1(3)ウ(ア)a」に記載した以下のとおりである。 (一致点) 「複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、 前記各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層と、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。」 (相違点) (相違点1-1)本件発明1では、接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っていると特定されているのに対し、甲1発明Bでは、このような特定がされていない点 b 判断 相違点1-1については、上記ア(ア)b?dで述べた理由と同じ理由により、本件発明5は甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)甲2発明Bについて a 対比 本件発明5と甲2発明Bとの一致点及び相違点は、上記「第4 1(3)ウ(イ)a」に記載した以下のとおりである。 (一致点) 「複数の部材が接合部で接合された繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の外側に設けられた外側繊維強化熱可塑性樹脂層とからなり、 前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層に含有される強化繊維は、数平均の繊維長が5?100mmであり、かつ、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層中の体積含有率が10?60%であり、 前記外側繊維強化熱可塑性樹脂層は、少なくとも1層以上からなり、そのうちの少なくとも1層の強化繊維は、前記内側繊維強化熱可塑性樹脂層の強化繊維よりも数平均の繊維長が長い、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法。」 (相違点) (相違点2-1)本件発明5では、各接合部が、被接合面を含む内側繊維強化熱可塑性樹脂層であり、接合部で接合した前記被接合面同士の強化繊維が絡み合っていると特定されているのに対し、甲2発明Bでは、接合面が、内側樹脂層であるか外側樹脂層であるか明らかでなく、また、被接合面同士の強化繊維が絡み合っていることが特定されていない点 b 判断 相違点2-1については、上記ア(イ)b?dで述べた理由と同じ理由により、本件発明5は甲第2号証、又は甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 本件発明6について 本件発明6は、本件発明5を引用して更に減縮したものであるから、上記ウで述べた内容と同じ理由により、甲第1号証、甲第2号証、又は甲2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、本件発明1?6は、甲第1号証、甲第2号証、又は甲2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 よって、本件発明1?6についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、申立ての理由2によって取り消されるべきものではない。 第5 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-10-13 |
出願番号 | 特願2010-277205(P2010-277205) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(B29C)
P 1 651・ 121- Y (B29C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 宮本 靖史 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
加藤 幹 佐藤 健史 |
登録日 | 2015-11-27 |
登録番号 | 特許第5844967号(P5844967) |
権利者 | 東洋紡株式会社 三菱レイヨン株式会社 |
発明の名称 | 繊維強化熱可塑性樹脂成形品とその製造方法 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 西 和哉 |
代理人 | 西 和哉 |
代理人 | 鈴木 三義 |