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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  D06M
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  D06M
管理番号 1321453
審判番号 無効2015-800086  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-30 
確定日 2016-08-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5586138号発明「衣類用冷感付与剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5586138号の明細書及び特許請求の範囲を平成28年2月5日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5586138号の請求項5、7ないし9に係る発明についての特許を無効とする。 特許第5586138号の請求項1ないし4、6に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その9分の5を請求人の負担とし、9分の4を被請求人の負担とする。 
理由 第1.請求及び答弁の趣旨
請求人は、特許第5586138号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。
被請求人は、特許第5586138号の明細書及び特許請求の範囲を、平成28年2月5日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。

第2.手続の経緯
本件に係る主な手続の経緯を以下に示す。
平成20年 9月30日 本件特許出願
平成26年 8月 1日 設定登録(特許第5586138号)
平成27年 3月30日付け 審判請求
平成27年 6月15日付け 答弁及び訂正請求
平成27年 7月24日付け 答弁(2)及び手続補正(訂正請求)
平成27年 8月24日付け 審理事項通知(1)
平成27年 9月28日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成27年 9月28日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成27年10月 6日付け 審理事項通知(2)
平成27年10月21日付け 口頭審理陳述要領書2(請求人)
平成27年10月21日付け 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
平成27年10月29日付け 口頭審理陳述要領書3(請求人)
平成27年10月29日 口頭審理
平成27年11月12日付け 上申書(被請求人)
平成27年12月 1日付け 審決の予告
平成28年 2月 5日付け 訂正請求
平成28年 2月19日付け 上申書(被請求人)
平成28年 3月28日付け 弁駁書(請求人)

以下、平成28年 2月 5日付けの訂正請求書による訂正請求を、「本件訂正請求」という。また、当該訂正後の本件特許の請求項1ないし9に係る発明を、「本件発明1」ないし「本件発明9」といい、これらを総称する場合には「本件発明」ということがある。また、前記訂正請求書による訂正前の本件特許の請求項1ないし5に係る発明を、「訂正前の本件発明1」ないし「訂正前の本件発明5」といい、これらを総称する場合には「訂正前の本件発明」ということがある。また、「甲第1号証」、「乙第1号証」等を、「甲1」、「乙1」等と略記し、「甲1に記載の発明」等を、「甲1発明」等といい、「請求人が主張する無効理由I」等を「無効理由1」等ということがある。請求人又は被請求人が提出した「口頭審理陳述要領書」等を、「請求人要領書1」等又は「被請求人要領書1」等ということがある。また、本審決では「丸囲み数字の1」等を「○1」等と表記する。

第3.訂正請求について
1.訂正事項について
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「噴霧適用される衣料用冷感付与剤」とあるのを、「衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「水を0?30重量%含有する、請求項1又は2に記載の衣類用冷感付与剤。」とあるのを、「水を0?30重量%含有する、請求項2に記載の衣類用冷感付与剤。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「ミストスプレータイプである請求項1?3のいずれかに記載の衣類用冷感付与剤。」とあるのを、「ミストスプレータイプである請求項2又は3のいずれかに記載の衣類用冷感付与剤。」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落0007の項1?4の記載を以下のとおり訂正する。
「 本発明は、以下の衣類用冷感付与剤を提供する。
項1.0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
項2.エタノールを69?99.25重量%含有する、項1に記載の衣類用冷感付与剤。
項3.水を0?30重量%含有する、項2に記載の衣類用冷感付与剤。
項4.ミストスプレータイプである項2又は3に記載の衣類用冷感付与剤。」
(5)訂正事項5
明細書の段落0020に記載された「ロールオンタイプ、」を削除する。
(6)訂正事項6
明細書段落0032、表3に記載された「実施例1」を「参考例」に訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4のいずれかに記載の衣類用冷感付与剤を、衣類に噴霧適用することによって冷感を得る方法。」と記載する発明のうち、請求項4を引用する発明について、「ミストスプレータイプであり、0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用することによって冷感を得る方法。」と訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落0007の項5の記載を以下のとおり訂正する。
「項5.ミストスプレータイプであり、0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用することによって冷感を得る方法。」
(9)訂正事項9
明細書の段落0020に記載された「ロールオンタイプ、」を削除する。
(10)訂正事項10
明細書段落0032、表3に記載された「実施例1」を「参考例」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかに記載の衣類用冷感付与剤を、衣類に噴霧適用することによって冷感を得る方法。」と記載する発明のうち、請求項1を引用する発明について、「0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の肌に接する面に噴霧適用することによって冷感を得る方法。」に訂正して、新たに請求項6とする。
(12)訂正事項12
明細書の段落0007において、項5の後ろに新たな項6を追加する。
「項6.0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の肌に接する面に噴霧適用することによって冷感を得る方法。」
(13)訂正事項13
明細書の段落0020に記載された「ロールオンタイプ、」を削除する。
(14)訂正事項14
明細書段落0032、表3に記載された「実施例1」を「参考例」に訂正する。
(15)訂正事項15
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「ミストスプレータイプである請求項1?3のいずれかに記載の衣類用冷感付与剤。」とあるのを、「ミストスプレータイプであり、0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。」に訂正して、新たに請求項7とする。
(16)訂正事項16
明細書の段落0007において、項6の後ろに新たな項7を追加する。
「項7.ミストスプレータイプであり、0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。」
(17)訂正事項17
明細書の段落0020に記載された「ロールオンタイプ、」を削除する。
(18)訂正事項18
明細書段落0032、表3に記載された「実施例1」を「参考例」に訂正する。
(19)訂正事項19
訂正前の特許請求の範囲の請求項3の「水を0?30重量%含有する、請求項1又は2に記載の衣類用冷感付与剤。」と記載する発明のうち、請求項1を引用する発明について、「0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。」に訂正して、新たに請求項8とする。
(20)訂正事項20
明細書の段落0007において、項7の後ろに新たな項8を追加する。
「項8.0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。」
(21)訂正事項21
明細書の段落0020に記載された「ロールオンタイプ、」を削除する。
(22)訂正事項22
明細書段落0032、表3に記載された「実施例1」を「参考例」に訂正する。
(23)訂正事項23
訂正前の特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4のいずれかに記載の衣類用冷感付与剤を、衣類に噴霧適用することによって冷感を得る方法。」と記載する発明のうち、請求項3を引用する発明について、「0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用することによって冷感を得る方法。」に訂正して、新たに請求項9とする。
(24)訂正事項24
明細書の段落0007において、項8の後ろに新たな項9を追加する。
「項9.0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用することによって冷感を得る方法。」
(25)訂正事項25
明細書の段落0020に記載された「ロールオンタイプ、」を削除する。
(26)訂正事項26
明細書段落0032、表3に記載された「実施例1」を「参考例」に訂正する。

2.訂正の適否
(1)請求項1?4について
ア.一群の請求項について
請求項1?4は、請求項1の記載を、請求項2、3及び4がそれぞれ引用しているものであるから、当該請求項1?4は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

イ.訂正の要件について
(ア)訂正事項1
a.訂正の目的の適否
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「噴霧適用される」なる発明特定事項について、「衣類の肌に接する面に」噴霧適用されるという限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする。
b.新規事項の有無
明細書段落0021には、「本発明の組成物を使用する場合、例えばYシャツ、Tシャツ、肌着等の衣類の肌に接する面に適当量噴霧すればよい。」との記載がなされているから、当該訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
c.拡張・変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
d.請求人の主張
請求人は、(1)訂正後の請求項1及びこれを引用する請求項2?4の「衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」なる事項を、平成28年2月19日付け上申書(被請求人)の「上申の内容」の第1頁の「イ 訂正発明1に無効理由がないこと」での主張にしたがい、「衣類の肌に接する面に『のみ』噴霧適用される衣類用冷感付与剤」を特定する事項と解釈するならば、当該特定事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、当該訂正は特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に違反するものであり、認められるべき訂正ではない旨、及び、(2)仮に、前記「衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」なる事項が「衣類の肌に接する面に『のみ』噴霧適用される衣類用冷感付与剤」を意味するものではないと解すると、結局のところ「衣類の肌に接する面」のみに限られるものではないのだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に違反するものである旨を主張する。
しかしながら、前記主張(1)に関し、訂正後の請求項1の記載は、衣類用冷感付与剤が衣類の肌に接する面以外の面に噴霧適用されるか否かについて何ら特定するものではないし、本件明細書段落0021に「肌に接する面に適当量噴霧」することの記載がある以上、同明細書段落0028、0029等に、衣類用冷感付与剤が衣類の肌に接しない面に噴霧適用されることの記載があるとしても、前記「衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」とは、「衣類の肌に接する面に『のみ』噴霧適用される衣類用冷感付与剤」であるとまで限定解釈すべき理由はない。
そして、前記「衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」が本件明細書等に記載されていないとはいえない。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、前記主張(2)に関し、訂正事項1に係る訂正は、衣類用冷感付与剤が衣類の肌に接する面以外の面に噴霧適用されるか否かについて何ら特定するものではないが、訂正前の請求項1の「噴霧適用される」なる発明特定事項について、「噴霧適用される」場所が「衣類の肌に接する面」を少なくとも含むことを限定しようとするものであることは明らかであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
以上により、請求人の前記主張は採用できない。

(イ)訂正事項2?3
a.訂正の目的の適否
訂正前の請求項3の記載は請求項1又は2の記載を引用する。訂正事項2は、その訂正前の請求項3の中で請求項1を引用するものについて、その請求項間の引用関係を解消する訂正である。
また、訂正前の請求項4の記載は請求項1?3の記載のいずれかを引用する。訂正事項3は、その訂正前の請求項4の中で請求項1を引用するものについて、その請求項間の引用関係を解消する訂正である。
かかる訂正事項2?3に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする。
b.新規事項の有無
訂正事項2?3は、請求項間の引用関係を解消し、特許請求の範囲を限縮する訂正であって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項2?3は、請求項間の引用関係を解消し、特許請求の範囲を限縮する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項19
a.訂正の目的の適否
第一に、訂正前の請求項3の記載は請求項1又は2の記載を引用するものであり、当該訂正事項19に係る訂正は、その訂正前の請求項3の中で請求項2を引用するものについて、その請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用するものを独立形式請求項である新たな請求項8へ改めるための訂正である。かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする。
第二に、当該訂正事項19に係る訂正は、訂正前の請求項3の「噴霧適用される」なる発明特定事項について、「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に」噴霧適用されるという限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。したがって、かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする。
b.新規事項の有無
明細書段落0021には、「本発明の組成物を使用する場合、例えばYシャツ、Tシャツ、肌着等の衣類の肌に接する面に適当量噴霧すればよい。」との記載がなされているから、当該訂正事項19に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項19に係る訂正は、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項に改めるための訂正であり、また、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
d.請求人の主張
請求人は、(1)訂正後の請求項8の「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」なる事項を、前記上申書の「上申の内容」の第10頁の「イ 訂正発明8に無効理由がないこと」での主張にしたがい、「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に『のみ』噴霧適用される衣類用冷感付与剤」を特定する事項と解釈するならば、当該特定事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、当該訂正は特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に違反するものであり、認められるべき訂正ではない旨、及び、(2)仮に、前記「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」なる事項が「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に『のみ』噴霧適用される衣類用冷感付与剤」を意味するものではないと解すると、結局のところ「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類」のみに限られるものではないのだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に違反するものである旨を主張する。
しかしながら、前記主張(1)に関し、訂正後の請求項8の記載は、衣類用冷感付与剤がYシャツ及びTシャツ以外から選ばれる衣類に噴霧適用されるか否かについて何ら特定するものではないし、本件明細書段落0021に「例えばYシャツ、Tシャツ、肌着等の衣類の肌に接する面に適当量噴霧」することの記載がある以上、同段落にYシャツ及びTシャツ以外から選ばれる衣類に噴霧適用されることの記載があるとしても、前記「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」とは、「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に『のみ』噴霧適用される衣類用冷感付与剤」であるとまで限定解釈すべき理由はない。
そして、前記「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」が本件明細書等に記載されていないとはいえない。
したがって、訂正事項19に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、前記主張(2)に関し、訂正事項19に係る訂正は、衣類用冷感付与剤がYシャツ及びTシャツ以外から選ばれる衣類に噴霧適用されるか否かについて何ら特定するものではないが、訂正前の請求項1の「噴霧適用される」なる発明特定事項について、、「噴霧適用される」衣類が「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類」を少なくとも含むことを限定しようとするものであることは明らかであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
以上により、請求人の前記主張は採用できない。

(エ)訂正事項15
a.訂正の目的の適否
第一に、訂正前の請求項4の記載は請求項1?3の記載を引用するものであり、当該訂正事項15に係る訂正は、その訂正前の請求項4の中で請求項2?3を引用するものについて、その請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用するものを独立形式請求項である新たな請求項7へ改めるための訂正である。かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする。
第二に、当該訂正事項15に係る訂正は、訂正前の請求項4の「噴霧適用される」なる発明特定事項について、「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に」噴霧適用されるという限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。したがって、かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする。
b.新規事項の有無
明細書段落0021には、「また、噴霧は衣類を着用する前であっても後であってもよいが、汗をかきやすい脇、首筋、背中等に噴霧すると、汗をかいたときに冷たく感じ、本発明の効果がより一層有効に発揮され得る。」との記載がなされているから、当該訂正事項15に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項15に係る訂正は、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項に改めるための訂正であり、また、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
d.請求人の主張
請求人は、(1)訂正後の請求項7の「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」なる事項を、前記上申書の「上申の内容」の第7、8頁の「イ 訂正発明7に無効理由がないこと」での主張にしたがい、「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に『のみ』噴霧適用される衣類用冷感付与剤」を特定する事項と解釈するならば、当該特定事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、当該訂正は特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に違反するものであり、認められるべき訂正ではない旨、及び、(2)仮に、前記「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」なる事項が「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に『のみ』噴霧適用される衣類用冷感付与剤」を意味するものではないと解すると、結局のところ「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位」のみに限られるものではないのだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に違反するものである旨を主張する。
しかしながら、前記主張(1)に関し、訂正後の請求項7の記載は、衣類用冷感付与剤が衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部以外から選ばれる部位に噴霧適用されるか否かについて何ら特定するものではないし、本件明細書段落0021に「汗をかきやすい脇、首筋、背中等に噴霧」することの記載がある以上、段落0029に衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部以外から選ばれる部位に噴霧適用されることの記載があるとしても、前記「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」とは、「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に『のみ』噴霧適用される衣類用冷感付与剤」であるとまで限定解釈すべき理由はない。
そして、前記「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」が本件明細書等に記載されていないとはいえない
。したがって、訂正事項15に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、前記主張(2)に関し、訂正事項15に係る訂正は、衣類用冷感付与剤が衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部以外から選ばれる部位に噴霧適用されるか否かについて何ら特定するものではないが、訂正前の請求項1の「噴霧適用される」なる発明特定事項について、「噴霧適用される」部位が「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位」を少なくとも含むことを限定しようとするものであることは明らかであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
以上により、請求人の前記主張は採用できない。

(オ)訂正事項4、16、20
a.訂正の目的の適否
訂正事項4、16、20に係る訂正は、訂正後の請求項1?4、7及び8の記載と、明細書の発明の詳細な説明の記載とが整合するように、段落0007を訂正するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。
b.新規事項の有無
訂正事項4、16、20に係る訂正は、訂正後の段落0007において、訂正後の請求項1に対応する項1の記載は段落0012、0014、0017及び0021に、訂正後の請求項2に対応する項2の記載は段落0014に、訂正後の請求項3に対応する項3の記載は段落0017に、訂正後の請求項4に対応する項4の記載は段落0020に、訂正後の請求項7に対応する項7の記載は段落0012、0014、0017、0020及び0021に、訂正後の請求項8に対応する項8の記載は段落0021に、それぞれ基づくものである。
したがって、当該訂正事項4、16、20に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項4、16、20に係る訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(カ)訂正事項5、17、21
a.訂正の目的の適否
訂正事項5、17、21に係る訂正は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との関係で不合理を生じているため不明瞭になっている記載を訂正するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。
b.新規事項の有無
訂正事項5、17、21に係る訂正は、明細書の記載に新規な事項を追加するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項5、17、21に係る訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(キ)訂正事項6、18、22
a.訂正の目的の適否
訂正事項6、18、22に係る訂正は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との関係で不合理を生じているため不明瞭になっている記載を訂正するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。
b.新規事項の有無
訂正事項6、18、22に係る訂正は、明細書の記載に新規な事項を追加するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項6、18、22に係る訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)請求項5について
(ア)訂正事項7
a.訂正の目的の適否
第一に、訂正前の請求項5の記載は請求項1?4のいずれかの記載を引用するものであり、当該訂正事項7に係る訂正は、その訂正前の請求項5の中で請求項1?3を引用するものについて、その請求項間の引用関係を解消し、請求項4を引用するものを独立形式請求項へ改めるための訂正である。かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする
第二に、当該訂正事項7に係る訂正は、訂正前の請求項5の「噴霧適用される」なる発明特定事項について、「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に」噴霧適用されるという限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。したがって、かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする。
b.新規事項の有無
前記イ.(ウ)b.と同様の理由で、当該訂正事項7に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項7に係る訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(イ)訂正事項11
a.訂正の目的の適否
第一に、訂正前の請求項5の記載は請求項1?4のいずれかの記載を引用するものであり、当該訂正事項11に係る訂正は、その訂正前の請求項5の中で請求項2?4を引用するものについて、その請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用するものを独立形式請求項へ改めるための訂正である。かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする。
第二に、当該訂正事項11に係る訂正は、訂正前の請求項5の「噴霧適用される」なる発明特定事項について、「衣類の肌に接する面に」噴霧適用されるという限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。したがって、かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする。
b.新規事項の有無
前記イ.(ア)b.と同様の理由で、当該訂正事項11に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
c.拡張・変更の存否
訂正事項11に係る訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(ウ)訂正事項23
a.訂正の目的の適否
第一に、訂正前の請求項5の記載は請求項1?4のいずれかの記載を引用するものであり、当該訂正事項23に係る訂正は、その訂正前の請求項5の中で請求項1、2及び4を引用するものについて、その請求項間の引用関係を解消し、請求項3を引用するものを独立形式請求項へ改めるための訂正である。かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする。
第二に、当該訂正事項23に係る訂正は、訂正前の請求項5の「噴霧適用される」なる発明特定事項について、「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に」噴霧適用されるという限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。したがって、かかる訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする。
b.新規事項の有無
前記イ.(イ)b.と同様の理由で、当該訂正事項23に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項23に係る訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(エ)訂正事項8、12、24
a.訂正の目的の適否
訂正事項8、12、24に係る訂正は、訂正後の請求項5、6及び9の記載と、明細書の発明の詳細な説明の記載とが整合するように、段落0007を訂正するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。
b.新規事項の有無
訂正事項8、12、24に係る訂正は、訂正後の段落0007において、訂正後の請求項5に対応する項5の記載は段落0012、0014、0017及び0021に、訂正後の請求項6に対応する項6の記載は同じく段落0012、0014、0017及び0021に、訂正後の請求項9に対応する項9の記載は段落0021に、それぞれ基づくものである。
したがって、当該訂正事項8、12、24に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項8、12、24に係る訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(オ)訂正事項9、13、25
a.訂正の目的の適否
訂正事項9、13、25に係る訂正は、訂正事項5、17、21に係る訂正と同様のものであり、イ.(カ)a.と同様の理由により、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。
b.新規事項の有無
訂正事項9、13、25に係る訂正は、イ.(カ)b.と同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項9、13、25に係る訂正は、イ.(カ)c.と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(カ)訂正事項10、14、26
a.訂正の目的の適否
訂正事項10、14、26に係る訂正は、訂正事項6、18、22に係る訂正と同様のものであり、イ.(キ)a.と同様の理由により、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。
b.新規事項の有無
訂正事項9、13、25に係る訂正は、イ.(キ)b.と同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
c.拡張・変更の存否
訂正事項9、13、25に係る訂正は、イ.(キ)c.と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3.小括
以上のとおり、訂正事項1ないし26は、いずれも適法である。よって、訂正前の請求項1ないし4及び5に係る本件訂正を認める。

第4.当事者の主張の要旨及び証拠方法
1.請求人の主張の要旨及び証拠方法
(1)無効理由
請求人は以下を要旨とする無効理由を主張している。
ア.無効理由1
訂正前の請求項1?4からなる一群の請求項に係る訂正は認められるべきものではないから(第3.2.(1)イ.の(ア)d、(ウ)d及び(エ)d参照)、訂正前の本件発明1?3、5は、依然として本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明である。また、仮に、前記訂正が認められたとしても、本件発明1?3、8は、甲1に記載された発明である。
したがって、訂正前の本件発明1?3、5、及び、本件発明1?3、8は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

イ.無効理由2
仮に、前記訂正が認められたとしても、本件発明1?3、6、8、9は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1及び周知技術に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

ウ.無効理由3
仮に、前記訂正が認められたとしても、本件発明1?9は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲7、甲1及び周知技術に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

(2)請求人が提示した証拠方法
甲1:特開平6-219902号公報
甲2:日本化粧品技術者会編、『最新化粧品科学<改訂増補II>』、株式会社 薬事日報社、平成4年7月10日、122?125頁
甲3:佐藤孝俊(外1名)編著、『香粧品科学』第4刷、株式会社朝倉書店 、2001年9月20日、150?152頁
甲4:特開平2-255890号公報
甲5:印藤元一、『<増補改訂版>合成香料化学と商品知識』、株式会社化学 工業日報社、2005年3月22日、83頁
甲6:特公平6-21054号公報
甲7:特開2004-203782号公報
甲8:特開2004-344270号公報
甲9:特開2006-182719号公報
甲10:特開2004-300132号公報
甲11:特開2003-342118号公報
参考資料1:光井武夫編、『新化粧品化学第2版』5刷、株式会社南山堂、
2009年3月20日、275?277頁
参考資料2:特開平8-99873号公報
参考資料3:特開2005-289879号公報
参考資料4:特開2006-76996号公報
参考資料5:特開2005-22984号公報
参考資料6:特開平9-263501号公報
参考資料7:特開2001-139426号公報
参考資料8:特開2005-82519号公報
参考資料9:特開平10-81804号公報
参考資料10:特許第5080975号公報
参考資料11:特開2006-299501号公報
参考資料12:特開2001-120455号公報
参考資料13:特開2002-87953号公報
参考資料14:光井武夫編、『新化粧品化学第2版』1刷、株式会社南山堂
、2001年1月18日、453?455頁
参考資料15:特開2003-137739号公報
参考資料16:特開2000-34679号公報
参考資料17:特開平5-117972号公報
参考資料18:特開2002-255775号公報
参考資料19:特開2002-306583号公報
参考資料20:特開2005-350354号公報
参考資料1ないし20は技術常識ないし周知技術を説明するために提出されたものである。

甲1ないし11及び参考資料1は、審判請求時に提出され、参考資料2ないし20は、その後提出された。

2.被請求人の主張の要旨及び証拠方法
(1)主張の要旨
無効理由1?3には、いずれも理由がないと主張し、以下の(2)に示す証拠方法を提示している。

(2)被請求人が提示した証拠方法
乙1-1:国立医薬品食品衛生研究所のウェブサイト「国際化学物質安全性
カード」の「イソペンタン」を掲載したページの印刷物、URL:
http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss1153c.html、
印刷日:2015年6月8日
乙1-2:国立医薬品食品衛生研究所のウェブサイト「国際化学物質安全性
カード」の「1,1ジクロロ-1-フルオロエタン」を掲載したペ
ージの印刷物、URL:http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/
icss1712c.html、印刷日:2015年6月8日
乙2:総務省行政管理局のウェブサイト「法令データ提供システム」の「高
圧ガス保安法」のページの「第2条」を掲載した部分の印刷物、URL
: http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26HO204.html、
印刷日:2015年6月15日
乙3:日本エアゾール協会技術委員会(外1名)著、『エアゾール包装技術
<その基礎から応用まで>』、株式会社エアゾール産業新聞社、19
98年10月20日、169?171頁
乙4:久光製薬株式会社のウェブサイト「エアーサロンパス」の「エアーサ
ロンパスEX」を掲載したページの印刷物、
URL:http://www.airsalonpas.jp/pc/products/details02.html
乙5:特開平7-187963号公報
乙6:特開平8-12538号公報
乙7:特開平8-34712号公報
乙8:特開平8-283128号公報
乙9:特開平8-291033号公報
乙10:特開平8-291034号公報
乙11:特開平8-291035号公報
乙12:特開平8-301733号公報
乙13:特開平8-301734号公報
乙14:特開平8-301736号公報
乙15:特開平8-301737号公報
乙16:特開平9-143037号公報
乙17:特開2003-81736号公報

第5.本件発明
本件発明1ないし9は、訂正後の請求項1ないし9に記載された事項によって特定される発明である。その請求項1ないし9は、次のとおりである。
【請求項1】
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
【請求項2】
エタノールを69?99.25重量%含有する、請求項1に記載の衣類用冷感付与剤。
【請求項3】
水を0?30重量%含有する、請求項2に記載の衣類用冷感付与剤。
【請求項4】
ミストスプレータイプである請求項2又は3のいずれかに記載の衣類用冷感付与剤。
【請求項5】
ミストスプレータイプであり、
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用することによって冷感を得る方法。
【請求項6】
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の肌に接する面に噴霧適用することによって冷感を得る方法。
【請求項7】
ミストスプレータイプであり、0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
【請求項8】
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
【請求項9】
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用することによって冷感を得る方法。

第6.当審の判断
1.甲号証の記載事項
(1)甲1の記載事項、甲1発明
ア.甲1の記載事項
甲1は、本件特許出願前に頒布された刊行物であり、次の事項が記載されている。

(ア)【0002】
【従来の技術】本発明の噴霧剤に関連するものとして、従来ではたとえば抗菌,防臭用のフットスプレーやボディ・フェイス用のクールスプレー、スポーツ時に使用される局所麻酔用のスプレー等がある。

(イ)【0009】
【作用】すなわち、冷却剤が上記のような各成分の配合比率で配合されているため、冷却霧自体の温度は-3?-5℃でありながら、皮膚への付着時には凍傷にならない約0?4℃の温度に設定されることとなり、従って凍傷を生じさせることなく足部のムレ防止を図ることができる。
【0010】また、メントールにより冷却感が持続され、さらに抗菌防臭剤によって足部の抗菌防臭効果が図れるとともに、マイクロカプセルによってさらさらした使用感が得られることとなる。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。
【0012】実施例1
本実施例は、一例としての足部のムレ防止,抗菌防臭並びに冷却用噴霧剤である。その配合成分と配合量は次のとおりである。
成分 重量%
イソペンタン 30%
LPG(液化石油ガス) 25%
99変性エタノール 14%
フロンガス(141b) 25%
トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル 2%
メントール 2%
酸化チタン内包マイクロカプセル 2%
───────────────────────────
100%

(ウ)【0013】本実施例では、イソペンタン,LPG(液化石油ガス),99変性エタノール,フロンガスからなる冷却剤のそれぞれの配合成分が上記のような配合量からなるため、このような噴霧剤を足に噴霧した場合、足への付着時には0?4℃の温度で付着することとなり、従って足が凍傷となることもない。
【0014】また、上記酸化チタン内包マイクロカプセルによってさらさらした使用感が得られるとともにメントールによって冷却感が持続され、従って靴下やストッキングを着用したまま噴霧しても、快適な使用感が得られることとなるのである。
【0015】その他の実施例
尚、冷却剤の成分としてのエタノールも上記実施例の99変性エタノールに限定されるものではなく、その種類は問わない。

イ.エアゾール製品等の技術常識
(ア)エアゾールスプレータイプの噴霧製品を含むエアゾール製品では、噴射させる中身(放出目的物、又は原液)と、当該中身を容器から噴出させるための噴射剤とからなることが技術常識である(甲2(122?123頁の4・3・1項)、甲3(152頁の4)項、特に[処方例12.6]の<エアゾール容器用処方>項)、甲4(2頁上左欄1行?同頁上右欄4行)、甲9(段落0003)、甲10(段落0020、0026)、参考資料1(275?276頁の13-1項)、参考資料2(段落0014)、参考資料3(段落0043)、参考資料4(段落0013、0016)、参考資料5(段落0021)、参考資料6(段落0002、0003、0010)、参考資料7(請求項4、段落0018)、参考資料9(請求項1、段落0016)、参考資料11(段落0047、0049)、参考資料14(455頁の2)項、特に処方例の(充てん処方)項)、参考資料15(請求項5、段落0010)、乙3(169?171頁の○1項))。

(イ)また、エアゾール製品におけるLPG、フロンガス(141b)及びイソペンタンが噴射剤であることも技術常識である(甲2(124頁の表-1)、甲3(152頁の4)項、特に[処方例12.6]の<エアゾール容器用処方>項)、甲4(2頁下左欄5行?同頁下右欄5行)、甲9(段落0026)、甲10(段落0020)、参考資料1(276?277頁の13-2項)、参考資料2(段落0014)、参考資料3(段落0027)、参考資料4(段落0013)、参考資料5(段落0021)、参考資料6(段落0011)、参考資料7(段落0019)、参考資料8(段落0017)、参考資料9(段落0002)、参考資料14(454頁の【処方例1】及び【処方例2】の(充てん処方)項)、参考資料15(段落0020)、乙3(171頁の○2項))。

(ウ)また、エアゾールスプレータイプにおけるLPGやフロンガス等の噴射剤は、噴射の際の断熱膨張、又は断熱膨張及び気化熱の吸収により、必然的に冷却作用を生じることが技術常識であり(甲4(2頁上左欄1行?同頁上右欄4行)、参考資料6(段落0003)、乙3(169?171頁の○1項)、請求人要領書2の5頁(4-1)項、被請求人要領書2の3頁1?4行)、エタノールが人体の皮膚面に対しては冷却剤として作用することも技術常識である(甲4(4頁上左欄9?11行))。

(エ)また、清涼な香味を有する物質としてメントールといえば、普通l-メントールのことをいうのが技術常識である(甲5(第83頁第18行から第34行))。

(オ)また、繊維にメントールを担持させることで清涼感(冷感)のある衣類が得られることは周知技術である(参考資料16(段落0004、0005、0022?0027)、参考資料17(段落0005?0007、0011、0012))。

(カ)また、防臭剤又は消臭剤を衣料に噴霧適用することは周知技術であり(参考資料18(段落0001、0025、0026)、参考資料19(段落0028)、参考資料20(段落0061、段落0070))、また、その防臭剤又は消臭剤をシャツに噴霧適用することも周知技術であり(参考資料18(段落0026)、参考資料20(段落0070))、さらに、衣料に噴霧適用する防臭剤又は消臭剤を、特に、腋窩部に適用すること(参考資料18(段落0025)、参考資料20(段落0070))も、周知技術である。


ウ.甲1発明
前記イ.で指摘した技術常識に照らせば、甲1の実施例1の成分のうち、「イソペンタン」、「LPG(液化石油ガス)」及び「フロンガス(141b)」は、「噴射剤」に該当するから、甲1の実施例1は、噴射剤の配合量が80重量%(30+25+25)といえる。噴射剤以外の成分である「99変性エタノール」、「トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル」、「メントール」及び「酸化チタン内包マイクロカプセル」は、「原液」に該当し、甲1の実施例1における原液の配合量は20重量%(14+2+2+2)といえる。また、原液中の各成分の配合割合は、99変性エタノール70重量%((14/20)×100)、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、メントール及び酸化チタン内包マイクロカプセルがそれぞれ10重量%((2/20)×100)といえる。また、甲1の実施例1は、水を含んでいないから、その原液中の水の配合割合は、0重量%であるといえる。(なお、エタノールは完全に無水状態にすることが困難であり、通常の状態では微量の水を含むことが技術常識である(甲6の2頁左欄49行?同頁左欄3行)。よって、ここでは、エタノールが通常含んでいる微量の水については「水を含んでいない」ものとして扱う。)
よって、甲1の前記記載事項を本件発明1に倣って整理すれば、甲1には、次の発明が記載されているといえる。(以下、「甲1発明」という。)
《甲1発明》
20重量%の原液と、80重量%の噴射剤とからなる冷却用噴霧剤であって、
該原液は、該原液中の配合割合として、10重量%のメントールと、70重量%の99変性エタノールと、0重量%の水とを含有する原液とを含有し、
靴下やストッキングを着用したまま足に噴霧する冷却用噴霧剤。

(2)甲7の記載事項、甲7発明
ア.甲7の記載事項
甲7は、本件特許出願前に頒布された刊行物であり、次の事項が記載されている。

(ア)【請求項1】
殺菌剤と、制汗作用を有する植物抽出成分とを含有することを特徴とする消臭制汗外用剤。
………
【請求項6】
冷感付与剤が0.01?2質量%含有されている請求項1?5のいずれか一項に記載の消臭制汗外用剤。

(イ)【0002】
【従来の技術】
最近、脇の下等における汗の発汗を抑えて不快な体臭を防止することを目的として、多種多様な制汗剤が出回っている。

(ウ)【0024】
上記アルコールの含有量は、特に限定するものではないが、本発明の消臭制汗外用剤を、足のむれ防止を目的として足の裏に塗る用途に用いる場合は、アルコール含有量を多くして速乾性を高めることが好ましい。すなわち、足の裏に消臭消臭制汗外用剤を塗布し、すぐにフローリングの床等を歩いても足跡がつかず、べたつかないからである。ただし、アルコールの含有量が多すぎると、皮膚への刺激やアルコール臭がきつくなり好ましくない。したがって、本発明の消臭制汗外用剤を足用として用いる場合、アルコールの含有量は、5?80%に設定することが好適である。
【0025】
また、上記冷感付与剤としては、l-メントール、dl-カンフル等、皮膚に対し清涼感を与える薬剤があげられる。上記冷感付与剤の含有量も、特に限定するものではないが、通常、0.01?2%に設定することが好適である。そして、特に足用として用いる場合は、足の裏の感覚が鈍いことから、その含有量を多くして、足に強い冷感を与えるようにすることが好ましい。したがって、その場合の冷感付与剤の含有量は、0.1?1.0%に設定することが好適である。
………
【0027】
本発明の消臭制汗外用剤は、例えば、ジェル状の場合には、上記必須成分および適宜の任意成分を、精製水に混合溶解することにより得ることができる。また、シート状やミスト状の場合も、常法にしたがって製造することができる。
【0028】
このようにして得られた消臭制汗外用剤は、皮膚に有効成分を浸透させて消臭効果を発現させることができるだけでなく、血管を強化して制汗効果を発現させることができる。そして、ジェル状の場合には、その効果が長く持続するという利点を有する。
【0029】
特に、アルコールおよび冷感付与剤を多く配合して足用の消臭制汗外用剤としたものは、足のむれを長時間有効に防止することができるだけでなく、速乾性および使用感に優れるものとなり、好適である。

(エ)(段落0041の表2に実施例1による低級脂肪酸の減少率として示された組成を摘記すると次のとおりである。)
イソ吉草酸 48.9 %
吉草酸 4.3 %
カプロン酸 10.2 %
カプリル酸 3.3 %
ペラルゴン酸 15.2 %
カプリン酸 -4.5 %

(オ)(段落0045の表3に実施例1による低級脂肪酸の減少率として示された組成を摘記すると次のとおりである。)
イソ吉草酸 34.3 %
吉草酸 18.8 %
カプロン酸 15.4 %
カプリル酸 17.4 %
ペラルゴン酸 19.8 %
カプリン酸 17.2 %

(カ)【0047】
【実施例2?7】
下記の表4、表5に示す組成の消臭制汗外用剤を調製した。ただし、実施例5?7は、前記実施例1と同様にして剤形がジェルである消臭制汗外用剤とした。また、実施例3は、下記の組成物Aを常温で混合した後、精製水を加えて全量100gとし、剤形がミストである消臭制汗外用剤とした。さらに、実施例4は、下記の組成物Aを常温で混合した後、精製水を加えて全量100gとし、不織布に含浸させて、剤形がシートである消臭制汗外用剤とした。

(キ)(段落0048の表4に実施例3として示された組成及び剤形を摘記すると次のとおりである。)
イソプロピルメチルフェノール 0.05%
グルコン酸クロルヘキシジン 0.05%
パラフェノールスルホン酸亜鉛 2.0 %
臭化セチルトリメチルアンモニウム末 1.0 %
エタノール 80.0 %
l-メントール 0.5 %
dl-カンフル 0.2 %
サリチル酸 0.2 %
メリロートエキス 1.0 %
香料 0.05%
精製水 適量
剤形 ミスト

(ク)【0050】
上記実施例2?7の消臭制汗外用剤は、いずれも、実施例1の消臭制汗外用剤と同様、優れた消臭制汗効果を奏するものであった。

イ.甲7発明
甲7でいう「質量%」は「重量%」と同じ意味であることは当業者に明らかである。前記ア.(カ)から、精製水の分量である「適量」は、14.95%であることが分かる。前記記載事項を、本件発明1に倣って整理すれば、甲7には、次の発明が記載されているといえる。(以下「甲7発明」という。)
《甲7発明》
0.5重量%のl-メントールと、80.0重量%のエタノールと、14.95重量%の水とを含有し、剤形がミストで噴霧適用される足用の消臭制汗外用剤。

2.無効理由1の検討
無効理由1は、要すれば、本件発明1?3、本件発明8のそれぞれは、甲1発明と、それぞれの用途において相違するが、その余において同一であり、その用途についての発明特定事項は、物を特定するための意味を有するものとは認められないから、本件発明1?3、8の全ては、甲1に記載された発明である、というものである。
なお、第3.に記載のとおり、本件訂正請求に係る訂正は認められたので、訂正前の本件発明についての無効理由は検討しない。

(1)本件発明1について
ア.本件発明1と甲1発明との対比、検討
(ア)本件発明1は、噴霧適用される衣類用冷感付与剤が、所定割合のl-メントール、エタノール及び水を含有することを規定する発明であるところ、本件発明1を引用する本件発明4は剤型がミストスプレータイプであることを規定しており、本件明細書に説明された各実施例でも、剤型はミストスプレータイプである(段落0029)。本件明細書の段落0020では、本件発明の剤型として、「エアゾールスプレータイプ、ミストスプレータイプ、ポンプスプレータイプ等」を挙げているものの、同段落で「布への浸透性や対象物が限定できる等の利点を考慮するとミストスプレータイプであることが好ましい」と記載されている。
そうすると、本件特許請求の範囲及び明細書の記載に接した当業者は、本件発明1が規定する成分の配合割合は、ミストスプレータイプなど、噴射剤を含有しない剤型における配合割合を意味していると理解するから、本件発明1を「エアゾールスプレータイプ」にした場合には、その原液についての配合割合を意味していると理解するといえる。
また、1.(1)イ.(エ)の技術常識に照らせば、甲1発明の「メントール」は「l-メントール」を意味している。
そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「原液中の配合割合として、10重量%のメントール」は、本件発明1の「0.75?20重量%のl-メントール」に相当する。同様に、甲1発明の「0重量%の水」は、本件発明1の「「0?40重量%の水」に相当する。

(イ)本件発明は、「肌着等の衣類の肌に接する面に適当量噴霧すればよい」ものであり、「噴霧は衣類を着用する前であっても後であってもよい」ものである(本件明細書段落0021)。そして、「靴下」及び「ストッキング」は、「肌着」に該当する(第1回口頭審理調書の被請求人の4)。
そうすると、甲1発明の「靴下やストッキングを着用したまま足に噴霧する」は、着用した状態の「肌着」に対して噴霧しているから、本件発明1の「噴霧適用される」及び「衣類用」との要件を満たす。また、甲1発明の「冷却用噴霧剤」は「メントールにより冷却感が持続」される(甲1段落0010)ものであるから、本件発明1の「冷感付与剤」に相当する。
ゆえに、甲1発明の「靴下やストッキングを着用したまま足に噴霧する冷却用噴霧剤」と本件発明の「衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤」とは、「噴霧適用される衣類用冷感付与剤」という限りにおいて一致する。
また、甲1発明の「70重量%の99変性エタノール」と本件発明の「50?99.25重量%のエタノール」は、「50?99.25重量%のエタノール系のアルコール」という限りにおいて一致する。

(ウ)以上を総合すると、本件発明1と甲1発明との一致点は、次のとおりである。
《本件発明1と甲1発明との一致点》
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノール系のアルコールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤。

(エ)そして、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。
《本件発明1と甲1発明との相違点1》
噴霧適用される衣類用冷感付与剤が、本件発明1では、「衣類の肌に接する面に噴霧適用される」のに対し、甲1発明では、「靴下やストッキングを着用したまま足に噴霧する」点。

《本件発明1と甲1発明との相違点2》
噴霧適用される衣類用冷感付与剤が含有するエタノール系のアルコールが、本件発明1では、「エタノール」であるのに対し、甲1発明では、「99変性エタノール」である点。

甲1発明は、前記相違点1、2において本件発明1と相違するから、本件発明1は、甲1に記載されたものではない。したがって、無効理由1は、本件発明1について理由がない。

イ.本件発明1と甲1発明との対比についての請求人の主張について
(ア)請求人は、前記相違点1における本件発明1の「衣類の肌に接する面に噴霧適用される」なる用途は、その用途に特に適した構造等が甲1発明と相違することを意味するものではない旨主張し、さらに、甲1の段落0014の「メントールによって冷却感が持続され、従って靴下やストッキングを着用したまま噴霧しても、快適な使用感が得られることとなるのである。」なる記載から、メントールが衣類に付着し、冷却感が持続されることは、何ら未知の属性ではなく、さらに、衣料用の繊維へのメントールの適用が周知技術(1.イ.(オ))であること、そして、前記参考資料16の段落0057にそのような繊維が「直接肌に接触して着用する衣料用途」に用いられることが記載されていることから、メントールを衣類の肌に触れる面に設けて冷感を得ることは、未知の属性の発見でもなければ、その未知の属性を新たな用途へ使用するものでもないから、前記本件発明1の用途についての発明特定事項は、物を特定するための意味を有していないと主張する(弁駁書の12頁の13行?17頁の3行)。
しかしながら、甲1発明は、前記相違点1で、本件発明1とは明らかに相違し、この相違が単なる表現上の差異である等、実質的な相違点ではないと判断すべき事由もない。
参考資料16、17には、繊維にメントールを担持させることで清涼感(冷感)のある衣類が得られることの開示はあるものの、同資料、甲1?11、参考資料1?15、18?20には、「衣類用冷感付与剤が衣類の肌に接する面に噴霧適用されること」について記載も示唆もない。
したがって、請求人による主張は採用できない。

(イ)請求人は、本件明細書には「衣類の肌に接する面に適当量噴霧すればよい」ことの具体的な例示として、着用している衣類に対して噴霧が行われている試験例2のみが記載されていることを鑑みれば、「衣類の肌に接する面に適当量噴霧」とは、噴霧が衣類の内側に対して行われることの意味ではなく、外側からであっても単に肌に接する面に衣類用冷感付与剤が浸透するような噴霧であればよいことを意味しているにすぎないから、「衣類の肌に接する面に」との技術的意義は、甲1発明において「衣類の肌に接する面に」浸透するように噴霧適用されていることと同じであり、相違点を構成する事項ではない旨主張している(弁駁書の16頁の22行?末行)。
しかしながら、本件明細書の前記「試験例2」に関する記載は、衣類用冷感付与剤の組成物の配合割合を変更したときの冷感効果及び刺激の有無を評価するための試験を説明するものであって、本件発明の衣類用冷感付与剤の実際の使用の態様を説明したものではない。ゆえに、前記記載のみを根拠として「衣類の肌に接する面に適当量噴霧」なる記載が「衣類の肌に接する面に」浸透するように噴霧適用されていることを意味するものと解すべきではない。
そして、「衣類の肌に接する面に適当量噴霧」なる記載を字義どおり解釈すれば、適当量の噴霧を衣類の肌に接する面から、すなわち、衣類の内側に対して行うことを意味しているのは自明であるから、請求人の主張は採用できない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、無効理由1は本件発明1について理由がない。

(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、「エタノールを69?99.25重量%含有する」こと、又は、「水を0?30重量%含有する」ことをさらに限定したものであるので、本件発明1と同様に、甲1に記載されたものではない
したがって、無効理由1は本件発明2、3について理由がない。

(3)本件発明8について
ア.本件発明8と甲1発明との対比
本件発明8と甲1発明との一致点は、次のとおりである。
《本件発明8と甲1発明との一致点》
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤。

そして、本件発明8と甲1発明とは、前記相違点2と同様な点(以下、「同様な点」を省略し単に「相違点2」という。)及び以下の点で相違する。
《本件発明8と甲1発明との相違点3》
噴霧適用される衣類用冷感付与剤が、本件発明8では、「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される」のに対し、甲1発明では、「靴下やストッキング」に噴霧適用されるものである点。

甲1発明は、前記相違点2、3において本件発明8と相違するから、本件発明8は、甲1に記載されたものではない。したがって、無効理由1は、本件発明8について理由がない。

イ.本件発明8と甲1発明との対比についての請求人の主張について
請求人は、前記相違点3における本件発明8の「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される」なる用途は、その用途に特に適した構造等が甲1発明と相違することを意味するものではない旨主張し、さらに、甲1の段落0014の「メントールによって冷却感が持続され、従って靴下やストッキングを着用したまま噴霧しても、快適な使用感が得られることとなるのである。」なる記載から、メントールが衣類に付着し、冷却感が持続されることは、何ら未知の属性ではなく、さらに、衣料用の繊維へのメントールの適用が周知技術(1.イ.(オ))であること、そして、前記参考資料16の段落0057にそのような繊維が「直接肌に接触して着用する衣料用途」に用いられ、そのような繊維で「Tシャツを作成」することが記載されていることから、メントールを「YシャツやTシャツ」のような肌に触れる衣類に用いることは、未知の属性の発見でもなければ、その未知の属性を新たな用途へ使用するものでもないから、前記本件発明8の用途についての発明特定事項は、物を特定するための意味を有していないと主張する(弁駁書の17頁の14行?19頁の6行)。
しかしながら、甲1発明は、前記相違点3で、本件発明8とは明らかに相違し、その相違が単なる表現上の差異である等、実質的な相違点ではないと判断すべき事由もない。
したがって、請求人による主張は、採用することができない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、無効理由1は本件発明8について理由がない。

3.無効理由2の検討
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とは、前記相違点1、2において相違する。
相違点1について検討すると、「衣類の肌に接する面に噴霧適用される」ためには、衣類と肌(皮膚)とが離れた状態で、衣類に噴霧する必要があることが当業者に明らかである。
一方、甲1発明は、「足部のムレ防止,抗菌防臭並びに冷却」を目的とする発明(甲1請求項1)であり、直接皮膚に噴霧することを主として想定している(甲1段落0009、0013)。甲1段落0014の「靴下やストッキングを着用したまま噴霧しても、快適な使用感が得られる」という記載などからみて、甲1発明が「靴下やストッキングを着用したまま足に噴霧する」ことは、衣類である靴下やストッキングの「外側」から靴下やストッキングを透過して皮膚に作用することを目的としているというべきであり、皮膚から離れた状態で靴下やストッキングの「内側」に噴霧することは想定していないし、そのような使用形態とする動機付けもないというべきである。
したがって、本件発明1は、前記相違点2について検討するまでもなく、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?3について
本件発明2?3は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が甲1発明に基づいて、容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明6について
甲1発明は「物」の発明であるが、甲1発明は「靴下やストッキングを着用したまま足に噴霧する」ことを使用形態としているから、甲1には「甲1発明を靴下やストッキングを着用したまま足に噴霧適用する方法」の発明(以下「甲1方法発明」という。)も開示されている。
そして、本件発明6と甲1方法発明とを対比すると、前記相違点2と同様な点(以下、「同様な点」を省略し単に「相違点2」という。)及び以下の点で相違する。
《本件発明6と甲1方法発明との相違点4》
噴霧適用する衣類用冷感付与剤を、本件発明6では「衣類の肌に接する面に噴霧適用する」、すなわち衣類の「内側」に噴霧適用するものであるのに対し、甲1方法発明では「靴下やストッキングを着用したまま足に噴霧する」、すなわち衣類の「外側」に噴霧適用する点。

この相違点4は、既に3.(1)で検討した相違点1と同様であるから、同様に、本件発明6は、前記相違点2について検討するまでもなく、甲1方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、無効理由2は、本件発明6について理由がない。

(4)本件発明8について
ア.本件発明8と甲1発明との対比、検討
本件発明8と甲1発明とは、前記相違点2、3において相違する。
そこで、まず、相違点2について検討すると、甲1の段落0015には、エタノールは99変性エタノールに限定されるものではなく、その種類は問わないことについて示唆されているから、エタノール系のアルコールとして、本件発明のような一般的なエタノールを使用することは、当業者にとって格別の創意を要するものではない。
次に、この相違点3について検討すると、甲1の段落0002には、従来の技術として、ボディ・フェイス用のクールスプレーがあることが記載されており、噴霧適用される冷感付与剤が上半身にも適用されうることが示唆されている。
かかる示唆を考慮すれば、甲1発明において、衣類用冷感付与剤を、上半身にも適用することは、当業者にとって格段の困難を要しないものである。そして、甲1発明は、衣類用冷感付与剤を、靴下やストッキングを着用したまま噴霧するものであるから、これを上半身に適用する際に、TシャツやYシャツを着用したまま噴霧することは、当業者にとって格別の創意を要するものではない。
したがって、本件発明8は、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、無効理由2は、本件発明8について理由がある。

イ.本件発明8と甲1発明との対比についての被請求人の主張について
(ア)被請求人は、訂正前の本件発明1(請求項8に訂正される前の請求項3が引用する請求項1に係る発明)と甲1発明とを対比して、甲1の実施例1は、「イソペンタン,LPG(液化石油ガス),99変性エタノール,フロンガスからなる冷却剤」が、実施例1の配合量からなるため、足に噴霧した場合「足への付着時には0?4℃の温度で付着することとなり、従って足が凍傷となることもない」(甲1段落0013)機能を奏するものであるから、甲1の実施例1は一体不可分の成分であり、原液と噴射剤とに分けて考えることはできないと主張する(答弁2の12?15頁の(i)項、被請求人要領書1の3?4頁の「[主張の整理]アについて」、被請求人要領書2の5頁1?14行)。
しかしながら、エアゾールスプレータイプにおけるLPGやフロンガス等の噴射剤が必然的に冷却作用を生じることが技術常識(前記1.(1)イ.(ウ))であるところ、甲1の実施例1は、その必然的に生じる冷却作用を利用しているにすぎない。甲1の実施例1の噴射剤である「イソペンタン,LPG(液化石油ガス)及びフロンガス」は、噴霧後、ごく短時間で蒸発し、噴霧適用した足に着用した靴下やストッキングからなくなってしまうものである(乙3の170頁11?14行、請求人要領書2の5?7頁の(4-2)項)。噴射剤によって必然的に生じる冷却作用を利用しているからといって、エアゾール製品等の技術常識(前記1.(1)イ.(ア)及び(イ))に従って、甲1の実施例1の成分を「原液と噴射剤とに分けて考えることはできない」ことにはならない。
さらに指摘すれば、エタノールも速乾するものであり(本件明細書段落0014、甲4の4頁上左欄9?11行、甲7段落0024)、甲1発明では噴霧後の冷却感はメントールによって持続される(甲1段落0010)ものであるから、甲1発明が冷却感を持続する作用機序は、本件発明が冷涼感を持続させる作用機序(本件明細書段落0008、0022、第1回口頭審理調書の両当事者の1)と同じである。
「甲1の実施例1を原液と噴射剤とに分けて考えることはできない」との被請求人の主張は、独自の見解というべきであり、採用できない。

(イ)被請求人は、訂正前の本件発明1が規定する成分の配合割合は、製品である剤型に対しての配合割合を意味しており、剤型がエアゾールスプレータイプである場合には、噴射剤を含めた剤の総重量に対する配合割合を規定するものである、したがって、訂正前の本件発明1と甲1発明とでは成分の配合割合が異なっていると主張する(被請求人要領書2の4頁1?21行)。そして、乙5?17を提出し、成分の配合割合は最終剤型の配合割合を指定することが当業界で一般的であると主張する(平成27年11月12日付け上申書の5頁19?22行)。
確かに、乙5?17には、ミストスプレータイプ及びエアゾールスプレータイプのそれぞれについて、成分の配合割合を最終剤型の配合割合で指定したものが記載されている(乙5の段落0019、0020、0025?0029、0031等)から、「成分の配合割合を最終剤型の配合割合で指定すること」は、一般的であるといえる。しかし、乙5?17は、「ミストスプレータイプとエアゾールスプレータイプの両方の剤型が存在している製品や発明等で、いずれの剤型においても、成分の配合割合は最終剤型の配合割合を指定しており、かつ、それら剤型における成分の配合割合が同じである(すなわち、剤の原液における成分の配合割合としては、ミストタイプと、エアゾールタイプで異なっている)こと」が、一般的であることを示すものではない。
そして、エアゾールスプレータイプでは、成分の配合割合を原液の配合割合で指定することも、一般的である(甲3(152頁の4)項、特に[処方例12.6]の<エアゾール容器用処方>項)、甲4の5頁下左欄?6頁下右欄の処方剤1?処方剤8、甲10段落0041の表4及び段落0044の表5、参考資料14(455頁の2)項、特に【処方例】の(充てん処方)項)、参考資料15(請求項1))。
そうすると、ミストスプレータイプである実施例しか説明していない本件明細書及び本件特許請求の範囲の記載に接した当業者は、訂正前の本件発明1及び本件発明8が規定する成分の配合割合は、ミストスプレータイプの剤型における配合割合を意味しており、「エアゾールスプレータイプ」にした場合には噴射剤を含めない原液中の配合割合を意味していると理解するといえる。
「訂正前の本件発明1(及び本件発明8)が規定する成分の配合割合は、エアゾールスプレータイプの製品についても、最終剤型に対しての配合割合を意味している」旨の被請求人の主張は、独自の見解というべきであり、本件明細書及び本件特許請求の範囲の記載に接した当業者がそのように理解するとはいえない。被請求人の主張は、採用できない。

(ウ)被請求人は、甲1は靴下やストッキングを着用したまま噴霧して、肌に浸透させることを目的としているのに対し、本件発明は布上に保持させることを目的としているから、両者は異なる旨主張する(第1回口頭審理調書の被請求人の4)。
しかしながら、本件発明8は衣類用冷感付与剤が「Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される」ことを特定しているのみであり、衣類用冷感付与剤を、衣類を着用したまま噴霧して肌に浸透させるものであるか、或いは、布上に保持させるものであるかについて、何ら特定がない。かつ、本件発明8と甲1発明とは、成分の配合割合が同じであり(前記2.(1)ア.(ア))、使用形態が同じであり(前記2.(1)ア.(イ))、その作用機序も同じである(前記エ.(ア))。よって、客観的事実として本件発明8と甲1発明とは、相違点2、3の余の点で異なる点はない。被請求人の主張は、採用できない。

ウ.小括
以上により、本件発明8は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、無効理由2は本件発明8について理由がある。

(5)本件発明9について
本件発明9と甲1方法発明とは、前記(1)ア.(エ)、(4)ア.で述べた相違点2、3と同様な点(以下、「同様な点」を省略し単に「相違点2」、「相違点3」という。)で相違する。
そして、前記相違点3は、前記(4)ア.で検討したのと同様な理由により、当業者にとって格別の創意を要するものではない。
したがって、本件発明9は、甲1方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、無効理由2は、本件発明9について理由がある。

4.無効理由3の検討
前記3.で述べたとおり、本件発明8、9については無効理由2が理由があるから、無効理由3について検討するまでもない。無効理由3については、本件発明1?7についてのみ検討する。

(1)本件発明1について
ア.本件発明1と甲7発明との対比
本件発明1と甲7発明とを対比すると、甲7発明の「0.5重量%のl-メントール」と、本件発明1の「0.75?20重量%のl-メントール」とは、「l-メントールを含有している」限りにおいて一致する。
甲7発明の「80.0重量%のエタノール」は、本件発明1の「50?99.25重量%のエタノール」に相当する。
甲7発明の「14.95重量%の水」は、本件発明1の「0?40重量%の水」に相当する。
甲7発明の「噴霧適用される足用の消臭制汗外用剤」と、本件発明1の「噴霧適用される衣類用冷感付与剤」とは、「噴霧適用される薬剤」である限りにおいて一致する。
すると、本件発明1と甲7発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
《本件発明1と甲7発明との一致点》
l-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される薬剤。

《相違点5》
噴霧適用される薬剤が、本件発明1では「衣類の肌に接する面に噴霧適用される」のに対し、甲7発明では「足に噴霧適用される」点。

《相違点6》
噴霧適用される薬剤の「l-メントール」の含有量が、本件発明1では「0.75?20重量%」であるのに対し、甲7発明では「0.5重量%」である点。

《相違点7》
噴霧適用される薬剤が、本件発明1では「衣類用冷感付与剤」であるのに対し、甲7発明では「足用の消臭制汗外用剤」である点。

イ.相違点の検討
(ア)相違点5の検討
3.(1)で述べたとおり、甲1発明は、「衣類の肌に接する面に噴霧適用される」こと、すなわち、皮膚から離れた状態で靴下やストッキングの「内側」に噴霧することは想定していないし、そのような使用形態とする動機付けもない。
してみると、衣類に噴霧適用されるものではない甲7発明において、甲1発明を適用したとしても、「衣類の肌に接する面に噴霧適用される」ことは、たとえ当業者といえども想到し得ない。

(イ)相違点6の検討
甲7には、l-メントールやdl-カンフル等の冷感付与剤の含有量を0.01?2%に設定することが好適であること、足用の消臭制汗外用剤とする場合は、アルコール及び冷感付与剤を多く配合すると好適であることが記載されている(前記1.(2)ア.(ウ)参照)。すると、甲7発明のl-メントールの含有量を増加させて、本件発明1が規定する範囲内の量、例えば1重量%程度にすることは、所望する冷感の程度等を考慮して、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項である。

(ウ)相違点7の検討
甲7は、l-メントール等の冷感付与剤を含有する薬剤であり、それら成分により冷感を付与するものであることが、当業者に明らかである。一方、甲1には、メントールを含有し、メントールにより冷却感を持続させる冷却用噴霧剤を「靴下やストッキングを着用したまま噴霧」して使用することが記載されている(段落0014、前記1.(1)ア.(ウ)参照)。ストッキングや夏用の薄地の靴下などでは、着用したままミストスプレーで噴霧しても「皮膚に有効成分を浸透」させられることは、当業者に明らかである。すると、「足用の消臭制汗外用剤」である甲7発明を、「靴下やストッキングを着用したまま」足に噴霧して冷感を付与するように使用することにより、相違点7に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に推考し得たことである。

ウ.小括
以上、相違点5が容易想到とはいえないことから、本件発明1は、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、無効理由3は、本件発明1について理由がない。

(2)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、「エタノールを69?99.25重量%含有する」こと、又は、「水を0?30重量%含有する」ことをさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が甲7発明に基づいて、容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明5について
ア.本件発明5と甲7方法発明との対比
甲7発明は「物」の発明であるが、甲7発明は「噴霧適用」することを使用形態としているから、甲7には「甲7発明を噴霧適用する方法」の発明(以下、「甲7方法発明」という。)も開示されている。
そして、甲7方法発明の「剤形がミスト」であることは、本件発明1の「ミストスプレータイプである」に相当する。
すると、本件発明5と甲7方法発明との一致点は次のとおりである。

《本件発明5と甲7方法発明との一致点》
ミストスプレータイプであり、l-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される薬剤を、噴霧適用する方法。

そして、本件発明5と甲7方法発明との相違点は、前記(1)ア.で述べた相違点6と同様な点(以下、「同様な点」を省略し単に「相違点6」という。)で相違し、さらに次の相違点8、9で相違する。

《本件発明5と甲7方法発明との相違点8》
噴霧適用される薬剤が、本件発明5では、「衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される」のに対し、甲7方法発明では、「足に噴霧適用される」点。

《本件発明5と甲7方法発明との相違点9》
本件発明5は、「衣類用冷感付与剤」を噴霧適用することによって「冷感を得る」方法であるのに対し、甲7方法発明は、「足用の消臭制汗外用剤」を噴霧適用する方法であって、冷感を得ることについて特定がない点。

イ.相違点の検討
(ア)相違点6の検討
相違点6は、前記(1)イ.(イ)で検討したのと同様な理由により、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項である。

(イ)相違点8の検討
甲7には、従来技術として、脇の下等における汗の発汗を抑えて不快な体臭を防止することを目的とした制汗剤に関する記載がある(前記1.(2)ア.(ア)参照)。さらに、甲7には、噴霧適用される薬剤が、足臭の原因物質(イソ吉草酸等)のみならず、脇等の汗臭の原因物質であるペラルゴン酸やカプリン酸(同物質が脇臭の原因物質であることについて、例えば、特開2007-314472号公報の段落0002の背景技術についての記載等を参照。)を減少させることについて記載がある(前記1.(2)ア.(エ)及び(オ)参照)。
そして、参考文献18の段落0001、0025、0026、参考文献19の段落0028、参考文献20の段落0061、0070には、不快な体臭を防止するための薬剤を、肌に直接噴霧適用してもよいし、肌に接する衣類に噴霧適用しても良いことについて記載されており、特に、参考文献18及び参考文献20には、脇の部位に適用することが記載されている(前記1.(1)イ.(オ)参照)。
してみると、前記(1)イ.(ウ)で検討したように、甲7方法発明に甲1方法発明を適用して、薬剤を衣類に噴霧適用する際に、参考文献18?20を参酌して、衣類の脇にあたる部位に噴霧適用することは、当業者にとって格別の創意を要するものではない。

(ウ)相違点9の検討
相違点9は、前記(1)イ.(ウ)で検討したのと同様な理由により、当業者が容易に推考し得たことである。

ウ.本件発明5と甲7方法発明との対比についての被請求人の主張について
(ア)被請求人は、本件発明の「衣類用冷感付与剤」は、その冷感効果を得るうえで汗をかくことは必要不可欠であり、冷感効果を阻害する「制汗」はむしろ避けるべきことである、つまり、制汗作用を効果とする甲7方法発明の「消臭制汗外用剤」と、効果の発現に発汗を必要とする本件発明の「衣類用冷感付与剤」とは、求める作用効果が正反対である旨主張する(答弁2の36頁2行?37頁19行、特に37頁9?15行、被請求人要領書1の12頁下から2行?13頁10行)。
しかし、本件発明もその一形態として「制汗剤」を配合することを予定しているものである(本件明細書段落0018)。被請求人の前記主張は、本件特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、むしろ本件明細書に記載された本件発明の説明に反している。被請求人の主張は採用できない。

(イ)被請求人は、甲7には足等の皮膚に直接噴霧する態様が記載されているにすぎず、甲7発明において靴下やストッキングを着用したまま消臭制汗外用剤を皮膚に浸透させるためにはエアゾールスプレータイプとする必要がある旨主張する(被請求人要領書1の13頁11?末行)。
しかし、ストッキングや夏用の薄地の靴下などでは、着用したままミストスプレーで噴霧しても「皮膚に有効成分を浸透」させられることは、当業者に明らかである。被請求人の主張は採用できない。

(ウ)被請求人は、甲7の段落0024に「足の裏に塗る用途に用いる場合は、アルコール含有量を多くして速乾性を高めることが好ましい。すなわち、足の裏に消臭消臭制汗外用剤を塗布し、すぐにフローリングの床等を歩いても足跡がつかず、べたつかない」と記載されている(前記1.(2)ア.(ウ)参照)ところ、このような速乾性は、皮膚に直塗りするからこそ得られるものであり、「靴下やストッキング」の上から塗布すれば繊維に含浸する分、乾燥には多少の時間がかかる、つまり、甲7発明は「靴下やストッキング」の上から塗布することを想定したものでないばかりか、むしろそうすることを対象外としたものである旨主張している(被請求人要領書1の15頁12?末行)。
しかし、ストッキングや夏用の薄地の靴下などでは、「靴下やストッキング」の上から噴霧しても繊維に含浸する分は少量であるから、皮膚に直接噴霧した場合より乾燥に多少の時間がかかるとしても、その差は有意なものではなく、「靴下やストッキング」の上から噴霧する使用形態とすることを阻害するような相違ではないといえる。被請求人の主張は採用できない。

エ.小括
以上により、本件発明5は、甲7方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、無効理由3は、本件発明5について理由がある。

(4)本件発明6について
ア.本件発明6と甲7方法発明との対比
本件発明6と甲7方法発明とを対比すると、前記(1)ア.及び(3)ア.で述べた相違点5、6、9と同様な点(以下、「同様な点」を省略し単に「相違点5」、「相違点6」、「相違点9」という。)で相違する。

イ.相違点の検討
(ア)相違点5の検討
相違点5は、前記(1)イ.(ア)で検討したのと同様な理由により、たとえ当業者といえども想到し得ない。

(イ)相違点6の検討
相違点6は、前記(1)イ.(イ)で検討したのと同様な理由により、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項である。

(ウ)相違点9の検討
相違点9は、前記(1)イ.(ウ)で検討したのと同様な理由により、当業者が容易に推考し得たことである。

ウ.小括
以上、相違点5が容易想到とはいえないことから、本件発明6は、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、無効理由3は、本件発明6について理由がない。

(1)本件発明7について
ア.本件発明7と甲7発明との対比
本件発明7と甲7発明とを対比すると、前記(1)ア.及び(3)ア.で述べた相違点6、8、9と同様な点(以下、「同様な点」を省略し単に「相違点6」、「相違点8」、「相違点9」という。)で相違する。

イ.相違点の検討
前記(1)イ.(イ)及び(ウ)並びに(3)イ.(イ)で検討したのと同様な理由により、相違点6については、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項であり、相違点8については、当業者にとって格別の創意を要するものではなく、相違点9については、当業者が容易に推考し得たことである。

ウ.小括
以上により、本件発明7は、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、無効理由3は、本件発明7について理由がある。

第7.むすび
以上のとおり、本件発明8?9に対して請求人が主張する無効理由2には理由があるから、無効理由3について検討するまでもなく本件発明8?9についての特許は無効とすべきものである。
本件発明5、7に対して請求人が主張する無効理由3には理由があるから、本件発明5、7についての特許は無効とすべきものである。
本件発明1?3に対して請求人が主張する無効理由1、本件発明1?3、6に対して請求人が主張する無効理由2、ならびに、本件発明1?4、6に対して請求人が主張する無効理由3はいずれも理由がないから、本件発明1?4、6については、請求が成り立たない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定に従って、結論記載のとおりの負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
衣類用冷感付与剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類用冷感付与剤に関する。より具体的には、衣服に適用して身体と接触することによって冷感を求めるときに涼しく感じることができる衣類用冷感付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に伴って気温が上昇する傾向にあり、特に夏場の暑さが年々厳しくなってきている。その一方で、地球温暖化を抑制するためにエアコンの設定温度を高めにすることが奨励されている。また、夏場にネクタイや上着を着用しない、いわゆるクールビズが奨励されているものの、どうしても軽装になれない場合もある。このような厳しい暑さをしのぐための製品としては、例えば冷却スプレーのように局所的に冷感を付与して一時的に暑さを和らげることができるものがすでに知られている(例えば特許文献1及び2)。また、冷却剤を収容したバッグ、マット等も知られている(例えば非特許文献1及び2)。
【0003】
しかしながら冷却スプレー等は、通常、肌に直接噴霧するため、べたついたり、人によっては含有される成分に過敏に反応して肌荒れ等を起こす等の問題があった。また、汗によって冷却成分が流れ落ちたり、揮発性の冷却成分を用いた場合には体温で常に冷却成分が揮発されるなど、冷感が持続しないという問題があった。また、冷却剤を収容したバッグ、マット等は、暑さを感じなくなっても冷感を付与し続けるため、冷感効果が強すぎて寒く感じることがあった。
【0004】
このような背景から、冷感効果が長期に亘って持続し、且つ冷感を感じたいと思った時に応じて優れた冷感効果を発揮する冷感付与剤が求められていた。
【特許文献1】特開2000-239142
【特許文献2】特開2002-80335
【非特許文献1】実新第3080868
【非特許文献2】実新第3118424
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、持続性に優れた衣類用冷感付与剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、メントールとエタノールを含有する組成物を衣類に噴霧又は塗布することによって、持続性に優れ、汗をかいたときに冷感を付与し得ることを見いだした。本発明は、このような知見に基づいてさらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0007】
本発明は、以下の衣類用冷感付与剤を提供する。
項1.0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
項2.エタノールを69?99.25重量%含有する、項1に記載の衣類用冷感付与剤。
項3.水を0?30重量%含有する、項2に記載の衣類用冷感付与剤。
項4.ミストスプレータイプである請求項2又は3に記載の衣類用冷感付与剤。
項5.ミストスプレータイプであり、0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用することによって冷感を得る方法。
項6.0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の肌に接する面に噴霧適用することによって冷感を得る方法。
項7.ミストスプレータイプであり、0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
項8.0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
項9.0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用することによって冷感を得る方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の衣類用冷感付与剤は、衣類に噴霧するだけで、汗をかくたびに冷感を感じ、暑い日中でも涼しく過ごすことができる。また、本発明の組成物は、一度吹きかけると数時間に亘って効果が持続し、冷涼感の持続性が高いものである。また、汗をかいた時にのみ冷涼感を感じるので、冷感を求めない時にまで涼しく感じることを防ぐことができる。
【0009】
さらに、本発明の冷感付与剤は、皮膚に直接塗布するのではなく、衣類に吹きかけるので皮膚刺激性が低く、極めて使用感に優れたものである。刺激性については、メントールの配合割合を調節することによって適宜調整することができる。従って、冷感を付与するが全く刺激性を有しない衣類用冷感付与剤とすることもできるが、冷感に併せて若干の刺激性を有する衣類用冷感付与剤とすることもできる。使用者によっては、このような刺激を冷涼感や爽快感として好む場合があるため、使用者の嗜好に応じて冷感と刺激性のバランスがとれた衣類用冷感付与剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の衣類用冷感付与剤は、メントールとエタノールを含有することを特徴とするものである。本明細書において、冷感とは、本発明の衣類用冷感付与剤を衣服に噴霧・塗布した部分が身体に接触した際にひんやりと冷たい感じがすることを指す。さらに、刺激性とは、本発明の衣類用冷感付与剤を衣服に噴霧・塗布した部分が身体に接触した際に、ぴりぴりとした若干の痛みを感じることを指すが、使用者によってはこのような刺激を冷涼感や爽快感として好む場合がある。以下、本発明の組成物の各成分について詳述する。
【0011】
(1)メントール
本発明の組成物に用いられるメントールとしては、単離された、l-メントール、d-メントール、dl-メントール等を用いることができ、好ましくはl-メントールである。また、本発明においては、メントールを含む精油を使用することも可能である。このような精油としては、例えばハッカ油、スペアミント油、ペパーミント油、ユーカリ油等が挙げられる。これらの精油を、本発明の冷感付与剤のメントール成分として用いることもできるが、衣類に適用した場合のべたつきや、精油に含有される夾雑物によるニオイを抑制する観点からは、単離されたメントールを使用するのが好ましい。本発明の組成物中には、メントールとして、これらの化合物や精油を1種単独で、又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
本発明の組成物中のメントールの配合割合は、例えば、冷感持続力の観点から0.1重量%程度以上であればよい。ただし、25重量%程度より多くなると肌への刺激が強すぎるという問題点が生じるため、25重量%程度以下であることが好ましい。さらに冷感持続力および刺激性の両観点からより好ましくは0.5?20重量%程度、さらに好ましくは0.75?20重量%程度、最も好ましくは2.5?7重量%程度である。また、より冷感を求める場合、メントールの配合割合は2.5?20重量%程度であることが好ましく、さらに冷感を強く求める場合、メントールの配合割合は10?20重量%程度であることが好ましい。
【0013】
より詳細には、例えばメントールの配合割合が10?20重量%程度の場合には、若干の刺激が感じられる。刺激性については、全く刺激性を求めない使用者と、若干の刺激性があるものを好む使用者がいることから、使用者の嗜好に応じて適宜調整することが望ましい。メントールの配合割合が10?20重量%程度であれば、顕著な冷感付与効果と適度な刺激性が得られ、両者のバランスが調整された衣類用冷感付与剤とすることができる。
【0014】
(2)エタノール
本発明の組成物に用いられるエタノールとしては、純度95%以上のものを用いることが好ましい。本発明の組成物中のエタノールの配合割合は、例えば、冷感持続力の観点から99.9重量%程度以下であればよい。ただし、50重量%程度より少なくなると速乾性が悪すぎるという問題点が生じるため、50重量%程度以上であることが好ましい。さらに冷感持続力および速乾性の両観点から、より好ましくは59?99.5重量%程度、さらに好ましくは69?99.25重量%程度、最も好ましくは79?97.5重量%程度である。
【0015】
また、上記(1)成分:メントールと(2)成分:エタノールの配合比率は、例えばメントール1重量部に対して、エタノール2?999重量部程度、好ましくは2.5?199重量部程度、より好ましくは2.5?132.3重量部程度、より好ましくは2.5?99重量部程度、さらに好ましくは2.5?39重量部程度である。
【0016】
メントール及びエタノールが上記配合割合及び配合比率を充足する衣類用冷感付与剤であれば、衣類に適用した場合に冷感付与効果が有効に獲得される。
【0017】
(3)その他の成分
本発明の衣類用冷感付与剤は、上記メントール及びエタノール以外に水を含有していても良い。水を含有させることによって、衣類に対して用いる場合に布への浸透性を高めることができる。ただし、水の含有量が多すぎると衣類が濡れてべたつくので、速乾性の観点からは、本発明の衣類用冷感付与剤は水の含有量が少ないものであることが好ましい。水を含有させる場合には、組成物の総量に対して0?45重量%程度、好ましくは0?40重量%程度、より好ましくは0?30重量%程度、さらに好ましくは0?20重量%程度とする。
【0018】
また、本発明の組成物には、身体に悪影響を及ぼさない成分を適宜選択して配合することができる。配合可能な成分としては、例えば、油性成分、界面活性剤、保湿剤、高級アルコール、金属イオン封鎖剤、天然および合成高分子、水溶性および油溶性高分子、紫外線吸収剤、血行促進剤、各種抽出液、無機および有機顔料、無機および有機粘土鉱物、金属石鹸処理またはシリコーン類で処理された無機および有機顔料、有機染料等の色剤、防腐剤、酸化防止剤、色素、増粘剤、pH調整剤、香料、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤、カチオン性金属イオン、消臭剤、除菌剤、その他の薬剤等が挙げられる。これらの各種成分は、本発明の衣類用冷感付与剤中に、上記メントールとエタノールの総量が冷感付与に必要な最低濃度を満たす場合、例えば50.1重量%以上、好ましくは59.5重量%以上である場合に配合することができる。
【0019】
本発明の衣類用冷感付与剤は、上記各成分を所定量混合することによって得ることができる。混合の方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
【0020】
このようにして得られる本発明の衣類用冷感付与剤の剤型は、衣類に噴霧適用できる剤型であれば特に限定されず、従来公知の方法に従って適宜調製することができる。本発明の衣類用冷感付与剤の剤型としては、例えばエアゾールスプレータイプ、ミストスプレータイプ、ポンプスプレータイプ等が挙げられ、布への浸透性や対象物が限定できる等の利点を考慮するとミストスプレータイプであることが好ましい。
【0021】
本発明の組成物を使用する場合、例えばYシャツ、Tシャツ、肌着等の衣類の肌に接する面に適当量噴霧すればよい。具体的な噴霧量としては、特に限定されるものではないが、例えば0.25?2.5ml/cm^(2)である。また、噴霧は衣類を着用する前であっても後であってもよいが、汗をかきやすい脇、首筋、背中等に噴霧すると、汗をかいたときに冷たく感じ、本発明の効果がより一層有効に発揮され得る。
【0022】
本発明の衣類用冷感付与剤は、衣類に噴霧することによって衣類を構成する布上又は布中に保持され、身体表面の汗と接触することによって冷感を付与し得るものである。また、前述のように、メントールの配合割合によっては、若干の刺激も付与され得るが、このような刺激性を好む使用者もいるため、冷感の強度とのバランスを考慮して適宜調整することが望ましい。さらに、本発明の冷感付与剤は、衣類に対して悪影響を与えることもない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例、処方例等を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0024】
試験例1.
メントールとエタノールの組み合わせ以外の組成について、冷感効果を評価した。結果を下表2に示す。なお、各成分の製品名及び販売元は下表1の通りである。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表2に示される結果より、メントールとエタノールを組み合わせた場合に最も優れた冷感作用が得られることが示された。また、メントールを含有するハッカ油についても優れた冷感作用は認められたが、香りやべたつきの点で問題があった。その他の組み合わせについては、冷感効果が不十分であり、皮膚刺激性が強いため本発明の効果を奏し得ないものであった。
【0028】
試験例2.
下記表3に示される処方の衣類用冷感付与剤について、冷感効果及び刺激の有無をパネラー30人(年齢20代及び30代;女性10名及び男性20名)により評価した。
【0029】
評価は、各衣類用冷感付与剤をミストスプレーボトルに充填し、着用している衣類の襟袖、脇、膝裏、背中、腹部の各部に5回ずつ噴霧(約1.25ml/cm^(2))して行った。評価基準は以下の通りである。結果を下記表3に示す。
<冷感効果>
1 冷感を感じない
2 冷感をあまり感じない
3 やや冷感を感じる
4 冷感を感じる
5 冷感を強く感じる
上記基準に従って、噴霧後すぐ(0h)、1時間後(1h)、2時間後(2h)及び4時間後(4h)において、気温40℃・湿度75%の部屋に5分入って汗をかいた状態で評価した。
【0030】
上記基準によって評価された、噴霧後各時間の結果について平均値を算出し、以下のように分類した。
× 1時間後以降3未満
△ 1時間後以降3以上、2時間後以降3未満
○ 2時間後以降3以上、4時間後3未満
◎ 4時間後において3以上3.5未満
☆ 4時間後において3.5以上
<刺激の有無>
1 刺激(痛み)がある
2 やや刺激(痛み)がある
3 わずかに刺激を感じるが、さほど気にならない程度
4 刺激をあまり感じない
5 刺激を感じない
刺激の有無については、冷感付与剤を衣類に噴霧後すぐに評価を行った。
【0031】
上記基準によって評価された結果の平均値を算出し、以下のように分類した。
× 1以上?2未満
△ 2以上?3未満
○ 3以上?4未満
◎ 4以上?5以下
【0032】
【表3】

【0033】
メントールの配合割合が0.5?20重量%の冷感付与剤は、良好な冷感効果を奏し、肌への刺激も少なかった。また、メントールの配合割合が0.75?20重量%の冷感付与剤は、より優れた冷感効果を奏し、肌への刺激もほとんどなかった。
【0034】
さらに、メントールの配合割合が2.5?20重量%では4時間経過後も3以上の冷感が付与され、10?20重量%では4時間経過後の冷感が3.5以上であることが示された。より詳しくは、メントールの配合割合が2.5?7重量%(実施例4?6)の場合には全くの刺激性がなく優れた冷感付与の効果が得られることが示された。また、メントールの配合割合が10?20重量%(実施例7?8)の場合にはさらに顕著な冷感付与効果が長時間に亘って得られることが示された。ただし、実施例7及び8は、同時に若干の刺激性も認められた。しかしながら、使用者によっては、このような若干の刺激を好む場合があることから、メントールの配合割合を10?20重量%とすることによって、冷感の強度と刺激性のバランスが適当に調整された衣類用冷感付与剤を提供し得ることが示された。
【0035】
これに対し、メントールの配合割合が0.01重量%の冷感付与剤(比較例1)は、肌への刺激はなかったものの、十分な冷感効果が得られなかった。一方、メントールの配合割合が30重量%の冷感付与剤は、冷感効果に優れていたが、肌への刺激が強く、痛みが感じられるほどであった。
【0036】
また、実施例4について、各時間における評価を23℃の部屋で汗をかいていない状態で冷感効果の評価を行ったところ、(0h)4.75,(1h)1.75,(2h)1.00,(4h)1.00であった。この結果より、本発明の冷感付与剤は、汗をかいたときのみ(すなわち冷感を求めるときにのみ)良好な冷感が持続的に得られることが示された。
【0037】
試験例3.
下記表4に示される処方の衣類用冷感付与剤について、冷感効果及び速乾性をパネラー人により評価した。なお、パネラーは上記試験例2と同様である。評価は、上記試験例2と同様に行った。速乾性の評価基準は以下の通りであり、冷感効果の評価基準は上記試験例2に示される通りである。結果を下記表4に示す。
<速乾性>
1 速乾性がない(べたつくきがひどく、不快)
2 速乾性はなく、ややべたつく感じがする
3 やや湿った感じがする
4 やや湿った感じがするが、すぐに気にならない程度に乾いた
5 薬液を噴霧後、すぐに乾いた
上記基準によって評価された結果の平均値を算出した。平均値によって以下のように分類した。
× 1以上?2未満
△ 2以上?3未満
○ 3以上?4未満
◎ 4以上?5以下
【0038】
【表4】

【0039】
表4に示される結果より、蒸留水の配合割合は0?40重量%、好ましくは0?30重量%であれば、良好な冷感効果と速乾性が得られることが示された。また、特に蒸留水の配合割合が0?20重量%の場合に、良好な冷感効果と優れた速乾性が両立されることが示された。一方、蒸留水を50重量%も含有する冷感付与剤(比較例3)は、速乾性がないため衣類用として適していないことが示された。
【0040】
以下に処方例を示す。下記表5に示される配合割合に従って各成分を混合し、冷感付与剤を得ることができる。
処方例
【0041】
【表5】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、衣類の肌に接する面に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
【請求項2】
エタノールを69?99.25重量%含有する、請求項1に記載の衣類用冷感付与剤。
【請求項3】
水を0?30重量%含有する、請求項2に記載の衣類用冷感付与剤。
【請求項4】
ミストスプレータイプである請求項2又は3に記載の衣類用冷感付与剤。
【請求項5】
ミストスプレータイプであり、0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用することによって冷感を得る方法。
【請求項6】
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、衣類の肌に接する面に噴霧適用することによって冷感を得る方法。
【請求項7】
ミストスプレータイプであり、0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?40重量%の水とを含有し、衣類の脇、首筋、背中、襟袖及び腹部から選ばれる部位に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
【請求項8】
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用される衣類用冷感付与剤。
【請求項9】
0.75?20重量%のl-メントールと、50?99.25重量%のエタノールと、0?30重量%の水とを含有し、噴霧適用される衣類用冷感付与剤を、Yシャツ及びTシャツから選ばれる衣類に噴霧適用することによって冷感を得る方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-06-09 
結審通知日 2016-06-13 
審決日 2016-07-06 
出願番号 特願2008-254231(P2008-254231)
審決分類 P 1 123・ 113- ZDA (D06M)
P 1 123・ 121- ZDA (D06M)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 家城 雅美  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 高橋 祐介
渡邊 豊英
登録日 2014-08-01 
登録番号 特許第5586138号(P5586138)
発明の名称 衣類用冷感付与剤  
代理人 渡辺 浩司  
代理人 宮本 陽子  
代理人 大石 敏弘  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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