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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61M
管理番号 1321473
審判番号 無効2015-800132  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-06-04 
確定日 2016-09-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4354523号発明「医療用ガイドワイヤ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 1 特許第4354523号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。2 本件審判の請求は、成り立たない。3 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

平成21年 3月19日 本件出願
平成21年 8月 7日 設定登録(特許第4354523号)
平成24年 6月27日 別件無効審判請求(無効2012-800110号)
平成25年 3月11日付け 別件無効審判審決(特許有効)
平成27年 6月 3日付け 本件無効審判請求(無効2015-800132号)
平成27年 8月21日付け 被請求人による審判事件答弁書(以下単に「答弁書」という。)提出
平成27年 9月16日付け 審理事項通知
平成27年10月15日付け 請求人による弁駁書提出
平成27年10月30日付け 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成27年11月10日付け 請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成27年11月16日 第1回口頭審理
平成27年11月30日付け 被請求人による上申書(以下単に「上申書1」という。)提出
平成27年12月10日付け 被請求人による上申書(以下単に「上申書2」という。)提出
平成27年12月14日付け 請求人による上申書提出
平成28年 2月29日付け 審決の予告
平成28年 4月27日付け 訂正請求書提出

なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、特許法の条文を指摘する際に「特許法」という表記を省略することがある。


第2 訂正の可否について
平成28年4月27日付け訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は以下の訂正事項1ないし2のとおりである。

1 訂正事項
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「Au-Sn系はんだにより」とあるのを「Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだにより」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6の「Au-Sn系はんだにより」とあるのを「Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだにより」に訂正する。

2 本件訂正についての当審の判断
これら訂正事項1ないし2の適法性について順に検討する。
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「Au-Sn系はんだにより」を、「Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだにより」とすることでAu-Sn系はんだにおけるAuとSnの構成比を限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮(特許法第134条の2第1項ただし書第1号)を目的とするものに該当する。
そして、願書に添付した明細書の段落【0049】に「本発明の医療用ガイドワイヤは、コイルスプリングの先端部をコアワイヤに固着させるためのはんだとして、Au-Sn系はんだを使用している点に特徴を有する。本発明で使用するAu-Sn系はんだは、例えば、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなる。」と記載され、また、段落【0050】には当該Au-Sn系はんだを用いる作用効果が明示されていることから、訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下単に「本件特許明細書等」ということがある。)に記載された事項の範囲内で行われたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項6の「Au-Sn系はんだにより」を、「Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだにより」とすることでAu-Sn系はんだにおけるAuとSnの構成比を限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮(特許法第134条の2第1項ただし書第1号)を目的とするものに該当する。
そして、願書に添付した明細書の段落【0049】に「本発明で使用するAu-Sn系はんだは、例えば、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなる。」と記載され、段落【0051】に「図1および図3(B)に示すように、コイルスプリング20の先端側密巻部21と後端側疎巻部22との境界領域を含む中間部は、Au-Sn系はんだ32により、コアワイヤ10に固着されている。」と記載され、また、同段落【0051】には当該Au-Sn系はんだを用いる作用効果が明示されていることから、訂正事項2は本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。よって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、特許法第134条の2第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。


第3 本件訂正発明
上記のとおり本件訂正が認められるところ、本件訂正後の本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下「本件訂正発明1」等ということがある。また、これらをまとめて単に「本件訂正発明」ということがある。)は、本件訂正特許請求の範囲及び明細書並びに願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
遠位端側小径部と前記遠位端側小径部より外径の大きい近位端側大径部とを有するコアワイヤと、
前記コアワイヤの遠位端側小径部の外周に軸方向に沿って装着され、少なくとも先端部および後端部において、前記コアワイヤに固着されているコイルスプリングとを有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルスプリングのコイル外径が、何れも0.012インチ以下であり、
前記コイルスプリングの先端部は、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだにより、前記コアワイヤに固着され、
Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルスプリングのコイル外径が、何れも0.010インチ以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
前記コイルスプリングの先端部におけるコイルピッチが、コイル線径の1.0?1.8倍であり、
Au-Sn系はんだが、前記コイルスプリングの1?3ピッチに相当する範囲においてコイル内部に浸透していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
前記コイルスプリングの内部に樹脂が充填されているとともに、前記コイルスプリングの外周に前記樹脂による樹脂層が形成され、前記樹脂層の表面に親水性樹脂層が積層形成され、
前記コアワイヤの表面には撥水性樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
前記コイルスプリングは、コイルピッチがコイル線径の1.0?1.8倍である先端側密巻部と、コイルピッチがコイル線径の1.8倍を超える後端側疎巻部とからなることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
前記コイルスプリングの先端側密巻部と後端側疎巻部とを含む中間部が、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだにより、前記コアワイヤに固着されていることを特徴とする請求項5に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項7】
前記コアワイヤがステンレスからなることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。」


第4 請求人の主張
1 要点
請求人の主張する請求の趣旨は、本件発明1ないし7についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めるものである。
そして、かかる無効理由の要点は、審判請求書(以下単に「請求書」という。)、弁駁書、口頭審理陳述要領書及び上申書の記載内容からみて、以下のとおりである。

本件発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1乃至7に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証 須藤一,田村今男,西澤泰二 共著,金属組織学,丸善株式会社,2006年10月10日,p.27-28、及び表紙、奥付
甲第2号証 Wikipedia「はんだ」項
甲第3号証 新版接合技術総覧(新版接合技術総覧編集委員会 編),株式会社産業技術サービスセンター,1994年11月28日,p.432-435、及び表紙、奥付
甲第4号証 菅沼克昭 著,はじめてのはんだ付け技術,株式会社工業調査会,2002年12月15日,p.44-46、及び表紙、奥付
甲第5号証 大澤直 著,はんだ付技術なぜなぜ100問,株式会社工業調査会,1997年9月20日,p.84-87、126-129、及び表紙、奥付
甲第6号証 東京地裁平成26年(ワ)第25577号原告第2準備書面
甲第7号証 菅沼克昭 著,改訂増補 鉛フリーはんだ付け技術,株式会社工業調査会,2006年1月25日,p.122-133、148-149、206-207、216-217、及び表紙、奥付
甲第8号証 標準マイクロソルダリング技術 初版(社団法人日本溶接協会マイクロソルダリング技術認定・検定委員会 編),日刊工業新聞社,1992年11月30日,p.299-303、及び表紙、奥付
甲第9号証 はんだ材料評価報告書1 AMD-D15069
甲第10号証 はんだ材料評価報告書2 AMD-D15070
甲第11号証 特開2010-268888号公報
甲第12号証 平成25年9月30日付警告書(被請求人代理人弁護士鮫島正洋、同高見憲、同宅間仁志)
甲第13号証 平成26年1月8日付通知書(被請求人代理人弁護士鮫島正洋、同高見憲、同宅間仁志)
甲第14号証 特許第5382953号公報
甲第15号証 東京地方裁判所平成26年(ワ)第25577号判決文
甲第16号証 知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10151号判決文
甲第17号証 報告書(実験報告書ADD-K15-001Au含有量が異なるAu-Sn系はんだ材の引張強度評価)
甲第18号証 中上明光、川上信之 著,「ナノインデンテーション法による薄膜の機械的特性評価」,神戸製鋼技報,Vol.52,No.2,2002年9月
甲第19号証 Wikipedia「バルク」項

3 主張の概要
本件訂正前における請求人の主張の概要は、以下のとおりである。なお、本件訂正後においては請求人は更なる主張を行っていない。

(1)「本件特許の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項7には、発明の課題を解決するための手段として、『Au(金(以下、『Au』と記す))-Sn(スズ(以下、『Sn』と記す))系はんだ』と包括的に記載されているところ、同記載は、その構成元素の種類、元素の成分比率も特定されず、さらに被請求人の主張によれば『Au及びSn以外の元素や、不均一な組織構造を有する金属間化合物等を含む広い概念のはんだ』という広範な概念の記載であるのに対し、本件特許明細書の記載においてその全部がサポートされておらず、発明の詳細な説明の記載を超えるものであるから、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。」(請求書第2ページ第16?26行)

(2)「(e)総括
(・・・中略・・・)e-1. 本件特許発明の請求項1に記載の発明特定事項のうち、『Au-Snはんだ』の文言を『Au及びSnを含むはんだであって、Au及びSn以外の元素を添加したものを含む』と理解した場合、本件特許権の発明の詳細な説明の記載には、『Au-Sn系はんだ』の組成については、『本発明で使用するAu-Sn系はんだは、例えば、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなる。』(【0049】)と記載され、また、その性質について『ステンレスと、白金(合金)とをAu-Sn系はんだを使用して固着することにより、Ag-Sn系はんだによって固着する場合と比較して2.5倍程度の固着力(引張強度)が得られる』(【0050】)と記載されているのみであり、文言の通常の意味又は当業者の技術的理解によっても、特許請求の範囲の『Au-Sn系はんだ』は、その定義、具体的組成及びその性質(固着力)等について本件明細書に記載された作用効果、すなわち、先端硬直部分の長さを0.1?0.5mmと短く(はんだによる固着領域が狭く)することができるとともに、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度を十分に高い(コアワイヤの遠位端側小径部の破断強度よりも高い)ものとすることができるようを奏することができるように明確に記載されていないと言わざるを得ない。
e-2. さらに、本件特許発明の請求項1に記載の発明特定事項のうち、『Au-Sn系はんだ』の文言を、被請求人が主張するように『Au及びSn以外の元素や、不均一な組織構造を有する金属間化合物等を含む広い概念のはんだ』であると理解した場合は、金属間化合物が一般に固くて脆い性質をもつため、かえってはんだ付部が弱くなる場合があることが公知文献に記載されているだけでなく、上記比較実験によれば、金属間化合物の一種である『AuSn4』は、『Ag-Sn系はんだ』の一種である『Sn96.5-Ag3.5』と同等またはこれより低い固着力(引張強度)しかないため、本件明細書に記載された作用効果を奏し得ないものであることが実証されているから、本件特許請求の範囲はその全部が本件明細書の記載によってサポートされていないことが明らかである。
e-3. よって、本件特許請求の範囲には、その技術的事項を超えた、広範な技術的範囲を含む記載がされているから、本件特許発明のうち請求項1に係る発明は、特許法36条6項1号の規定するサポート要件に違反するものである。」(請求書第16ページ第1?34行)

(3)「本件特許出願時において,『Au及びSnを含んでいるはんだ(その他の元素,金属間化合物,不均一な組織態様を含んでいるものも含む)であれば,本件特許発明の効果を損なわない』などといった当業者の技術常識があることも認められない。」(弁駁書第7頁第22?25行)

(4)「実施例には,先端部及び中間部の固着に使用されたはんだの種類として,『Au-Sn系』並びに『Ag-Sn系』と記載されているに止まり、それらの成分比(具体的含有量)も記載されていないから,実施例の比較結果をもって『通常の意味での『Au-Sn系はんだ』による固着力は,通常の意味である『Ag-Sn系はんだ』による固着力よりも高い』などと一般化することはできない。」(弁駁書第8ページ第15?19行)

(5)「被請求人は、本件合議体から『発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から当業者が認識できることについて主張・立証』するよう釈明を求められた事項について、
○1(当審注:「○1」のように○に数字を付したものは、○の中に数字が記載されたものを意味する。以下同じ。)『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『Au』及び『Sn』の具体的含有量は『それらが主成分として含有されている量』である。
○2『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『その他の元素』の具体名は,『AgおよびPb』(甲3)、『Cu、In、Bi、Ag』(甲4及び甲7)、『Sb、Bi、Cu、In、Al、As、Cd、Fe、NiおよびZn』(乙5)である。
○3『本件特許発明の効果を損なわない範囲』である『その他の元素』(上記○2)の具体的含有量は『Au及びSnが主成分として含有されていることを妨げない量』(その意味は明らかではないが,『Au及びSnの成分量を超えない量』をいうものと理解される。)である。
とし、これらは当業者において認識できるものであると主張している。
しかしながら,本件明細書には上記○1、○2及び○3について一切記載されていない。
また、上記○2について、『AuとSnと上記『その他の元素』を含むはんだ』が『本件特許発明の効果を損なわない範囲』であることについては、上記甲3、甲4、甲7及び乙5には一切記載されていない。また,上記○3については、上記甲3、甲4、甲7及び乙5には何ら開示も示唆もない。
なお、甲4、甲7及び乙5に記載のその他の元素『Cu、In、Bi、Ag』及び『Sb、Bi、Cu、In、Al、As、Cd、Fe、Ni及びZn』)は『Au-Sn系はんだ』についての記載ではなく、『Au-Sn系はんだ』に含まれる『その他の元素』ではない。
被請求人は,上記○1、○2及び○3の事項は、『当業者において認識することができる』と主張しているが,『当業者において認識することができる』とする根拠については何ら具体的な証拠も提出しておらず,そもそも何も立証されていない。
他方,甲第5号証及び甲第8号証には,Au基はんだ(上記『Au75?80質量%と,Sn25?20質量%との合金からなるはんだ以外のAu-Sn系はんだ』を含む。)を用いた場合、一般に硬くて脆い性質をもつ金属間化合物を形成しやすいため、かえってはんだ付け部が弱くなる場合があることが記載されている。
(・・・中略・・・)『そもそも、合金は、通常、その構成(成分及び組成範囲等)から、どのような特性を有するか予測することは困難であり、また、ある成分の含有量を増減したり、その他の成分を更に添加したりすると、その特性が大きく変わる』ということが当業者の技術常識である。
よって、『本件特許請求の効果を損なわない範囲』の具体的内容については、客観的な根拠に基づいて何ら主張・立証されていない。」(請求人口頭審理陳述要領書第7ページ第24行?第8ページ下から第2行)

(6)「Au80Sn20及びAu10Sn90という二例の『共晶はんだ』のみをもって、『よって、本件特許の発明の詳細な説明に記載された(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金はんだは、このような組成比率に限定されない、AuとSnから構成される(二元系合金)はんだにまで拡張あるいは一般化することができる。』とする被請求人の主張は余りにも論理が飛躍しているものであって、およそ合理的な主張とはいえない。」(上申書第5ページ第11?16行)

(7)「Au、Sn及びAgにより構成された三元系合金はんだについて、甲第3号証及び乙第10号証には、本件特許発明の効果を損なわない範囲である『Au』及び『Sn』の具体的含有量、本件特許発明の効果を損なわない範囲である『その他の元素』の具体名、本件特許発明の効果を損なわない範囲である『その他の元素』の具体的含有量は何ら記載も示唆もされていないのであるから、『よって、本件特許の発明の詳細な説明に記載された(Au75?80質量%とSn25?20質量%)の合金はんだは、AuとSnとその他の元素で構成される(三元系以上の)はんだにまで拡張あるいは一般化することができる。』とする被請求人の主張は余りにも論理が飛躍しているものであって、およそ合理的な主張とはいえない。」(上申書第8ページ第1?9行)


第5 被請求人の主張
1 要点及び証拠方法
これに対し、被請求人は、以下の証拠方法を提出し、本件訂正を認める、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。

乙第1号証 マグローヒル 科学技術用語大辞典 第三版,日刊工業新聞社,1996年9月30日,p.544、及び表紙、奥付
乙第2号証 東京地方裁判所平成26年(ワ)第25577号判決文
乙第3号証 菅沼克昭 編著,鉛フリーはんだ技術・材料ハンドブック,株式会社工業調査会,2007年7月10日,p.197-199、及び表紙、奥付
乙第4号証 溶接技術,産報出版株式会社,第60巻,第1号,p.86-90、及び表紙、奥付
乙第5号証 JIS Z3282(2006)
乙第6号証 INDIUM CORPORARION社の製品データシート
乙第7号証 三菱マテリアル社の金錫(AuSn)合金の物性値・平行状態図
(http://www.mmc.co.jp/adv/ele/ja/products/assembly/ausn-special03.html)
乙第8号証 特開2008-161913号公報
乙第9号証 無効2012-800110における請求人陳述要領書
乙第10号証 特許第4305511号公報
乙第11号証 Journal of MATERIANS RESEARCH,Volume20,Number8,August 2005
乙第11号証の2 乙第11号証の部分訳文
乙第12号証 特開2000-52083号公報
乙第13号証 特許第4617902号公報
乙第14号証 特許第4811661号公報
乙第15号証 特許第4872764号公報
乙第16号証 特許第5633812号公報
乙第17号証 特許第5633815号公報
乙第18号証 特許第5633816号公報
乙第19号証 米国特許第4,682,607号明細書
乙第19号証の2 乙第19号証の訳文
乙第20号証 知的財産高等裁判所平成27年(ネ)第10114号被請求人第1準備書面
乙第21号証 東京工業大学大学院総合理工学研究科の梶原正憲教授の見解書
乙第22号証 証拠説明書


第6 無効理由についての当審の判断
1 明細書のサポート要件
特許法36条6項1号は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること(以下「明細書のサポート要件」という。)を規定するものであり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、以下、本件について、訂正特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載を確認し、発明の詳細な説明の記載から、本件発明の解決しようとする課題と課題を解決するための手段について検討することとする。

2 本件訂正特許請求の範囲の記載について
本件訂正特許請求の範囲の請求項1には、「遠位端側小径部と前記遠位端側小径部より外径の大きい近位端側大径部とを有するコアワイヤと、前記コアワイヤの遠位端側小径部の外周に軸方向に沿って装着され、少なくとも先端部および後端部において、前記コアワイヤに固着されているコイルスプリングとを有」し、「前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルスプリングのコイル外径が、何れも0.012インチ以下」である医療用ガイドワイヤについて、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだにより前記コイルスプリングの先端部は前記コアワイヤに固着されること、及び、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであることが記載されている。
また、本件訂正発明2ないし7に係る訂正特許請求の範囲の請求項2ないし7は、いずれも本件訂正特許請求の範囲の請求項1を引用するものである。

3 本件明細書の発明の詳細な説明の記載について
本件明細書には以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、コアワイヤの遠位端側小径部の外周に装着されたコイルスプリングを有する医療用ガイドワイヤに関し、更に詳しくは、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度が高く、先端部分のシェイピング操作においてシェイピング長さを従来のものよりも短くすることができ、CTO病変のマイクロチャンネル内における操作性に優れた医療用ガイドワイヤに関する。」

(2)「【0004】
ここに、コイルスプリングの先端部および後端部をコアワイヤに固着するためのはんだとしては、融点が低くて取扱いが容易であることから、Ag-Sn系はんだが使用されている。」

(3)「【0015】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の第1の目的は、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度が高く、しかも、従来のものと比較してシェイピング長さを短くすることができる医療用ガイドワイヤを提供することにある。
本発明の第2の目的は、CTO病変のマイクロチャンネル内における操作性に優れた医療用ガイドワイヤを提供することにある。」

(4)「【0024】
請求項1?3に係る医療用ガイドワイヤによれば、コイルスプリングの先端部をコアワイヤに固着するためのはんだとしてAu-Sn系はんだが使用されているので、先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmと短い(はんだによる固着領域が狭い)にも関わらず、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度を十分に高い(コアワイヤの遠位端側小径部の破断強度より高い)ものとすることができ、コイルスプリングに挿入されている状態のコアワイヤに引張力を作用しても、コアワイヤが引き抜かれるようなことはない。
そして、先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmと短いので、シェイピング長さ(先端の折り曲げ長さ)を短くする(0.7mm以下とする)ことができ、この結果、マイクロチャンネル内での操作時において摩擦抵抗を十分に低減させることができる。
また、従来のガイドワイヤを使用したのでは行うことのできなかった狭い領域における治療も可能になる。
本発明の医療用ガイドワイヤは、0.012インチ以下の細い線径、Au-Sn系はんだによる高い固着強度、0.1?0.5mmという短い先端硬直部分により、CTO病変のマイクロチャンネル内における操作性に優れたものとなる。」

(5)「【0049】
本発明の医療用ガイドワイヤは、コイルスプリングの先端部をコアワイヤに固着させるためのはんだとして、Au-Sn系はんだを使用している点に特徴を有する。
本発明で使用するAu-Sn系はんだは、例えば、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなる。
【0050】
ステンレスと、白金(合金)とをAu-Sn系はんだを使用して固着することにより、Ag-Sn系はんだによって固着する場合と比較して2.5倍程度の固着力(引張強度)が得られる。
このため、先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmと短い場合(はんだの浸透範囲がコイルピッチの1?3倍である場合)であっても、コアワイヤ10に対するコイルスプリング20の固着強度を十分高くすることができ、具体的には、コアワイヤ10の遠位端側小径部11の引張破断強度より高くすることができる。このため、コイルスプリング20と、コアワイヤ10との間に引張力を作用しても、コアワイヤ10が引き抜かれるようなことを防止することができる。
また、Au-Sn系はんだは、Ag-Sn系はんだよりも造影性に優れている。
更に、Au-Sn系はんだは、Ag-Sn系はんだよりも血液および体液に対する耐蝕性にも優れている。」

(6)「【0052】
図1および図3(C)に示すように、コイルスプリング20の後端部は、Ag-Sn系はんだ33により、コアワイヤ10に固着されている。
すなわち、Ag-Sn系はんだ33が、コイルスプリング20の内部に浸透され、このAg-Sn系はんだ33がコアワイヤ10(遠位端側小径部11)の外周と接触することにより、コイルスプリング20の後端部がコアワイヤ10(遠位端側小径部11)に固着されている。
コアワイヤ10の遠位端側小径部11において、コイルスプリング20の後端部が固着する部分の外径は、コイルスプリング20の先端部が固着する部分(遠位端)の外径より大きい(相対的に固着面積が大きい)ため、Au-Sn系はんだと比較して固着力の小さいAg-Sn系はんだを使用することができる。」

上記記載によれば、発明の詳細な説明には、従来のコアワイヤの遠位端側小径部の外周に装着されたコイルスプリングを有する医療用ガイドワイヤでは、融点が低くて取扱いが容易であることから、コイルスプリングの先端部及び後端部をコアワイヤに固着するために、Ag-Sn系はんだが使用されていた(上記(1)、(2))ところ、ステンレスと、白金とをAu-Sn系はんだを使用して固着することにより、Ag-Sn系はんだによって固着する場合と比較して高い固着力(引張強度)が得られるため(上記(4)、(5))、先端硬直部分の長さが短いにも関わらず、コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度を十分に高いものとすることができ、先端硬直部分の長さを短くすることができる結果、マイクロチャンネル内での操作時において摩擦抵抗を低減させることができ、従来のガイドワイヤを使用したのでは行うことのできなかった狭い領域における治療も可能となり(上記(3)、(4))、0.012インチ以下の細い線径、Au-Sn系はんだによる高い固着強度、0.1?0.5mmという短い先端硬直部分により、操作性に優れたガイドワイヤが提供されること(上記(4))が記載されている。
よって、発明の詳細な説明の記載に基づけば、本件発明の解決しようとする課題は、従来の線径が0.012インチ以下のガイドワイヤでは、Ag-Sn系はんだを用いているところ、そのはんだの固着強度が低く、固着領域を小さくできなかったため、固着領域の大きさに依存するシェイピング長さ(ガイドワイヤの先端の折り曲げ長さ)を短くすることができなかったことであると把握でき、また、本件発明が、Au-Sn系はんだを用いて、コイルスプリングの先端部はコアワイヤに固着させるとともに、当該Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであるものとすることを、当該課題を解決するための手段とし、その手段を採用したことにより、コアワイヤとコイルスプリングの外径が0.012インチ以下の医療用ガイドワイヤにおいて、所望の固着強度とシェイピング長さを満たすことができるとの作用効果を奏するものと理解できる。
また、そのAu-Sn系はんだの具体例として、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金が例示されている(上記(5))。

4 本件明細書のサポート要件について
本件訂正発明、即ち、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだを用いた特許請求の範囲に記載のガイドワイヤが、発明の詳細な説明に記載されている発明であるか否か、また、上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、特許出願時の技術常識に照らし上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを以下検討する。
(1)本件訂正発明と発明の詳細な説明との対比について
本件訂正特許請求の範囲の請求項1には、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだによりコイルスプリングの先端部はコアワイヤに固着されること、及び、Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであることが特定事項として記載されている。
一方、発明の詳細な説明には、段落【0049】に「Au-Sn系はんだは、例えば、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなる」と記載され、段落【0050】に、「先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmと短い場合(はんだの浸透範囲がコイルピッチの1?3倍である場合)であっても、コアワイヤ10に対するコイルスプリング20の固着強度を十分高くすることができ」と記載されているから、本件訂正発明は発明の詳細な説明に記載された発明であることが明らかである。

(2)課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて
発明の詳細な説明をみると、本件発明の解決しようとする上記課題を解決するための手段として、上記3で検討したとおり、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%を用いたガイドワイヤについて実施例と、その作用効果が記載されており、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだを用いれば上記課題が解決できることについて、発明の詳細な説明に記載されていると認められる。

(3)請求人の主張について
請求人の主張は全て本件訂正前に行われたものであるから、本件訂正前の特許請求の範囲を前提とした主張であり、本件訂正が行われたことにより対応しない主張となったが、上記第4 3(2)(e)等の主張を踏まえると、本件訂正によって、請求人の主張する無効理由は治癒されたものと認められる。

(4)本件明細書のサポート要件の判断
上記のように、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載されている発明であり、また、上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件違反ということはできない。
したがって、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。

第7 むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、特許法第134条の2第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
そして、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明1ないし7に係る特許を無効にすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位端側小径部と前記遠位端側小径部より外径の大きい近位端側大径部とを有するコアワイヤと、
前記コアワイヤの遠位端側小径部の外周に軸方向に沿って装着され、少なくとも先端部および後端部において、前記コアワイヤに固着されているコイルスプリングとを有する医療用ガイドワイヤであって、
前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルスプリングのコイル外径が、何れも0.012インチ以下であり、
前記コイルスプリングの先端部は、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだにより、前記コアワイヤに固着され、
Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1?0.5mmであることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルスプリングのコイル外径が、何れも0.010インチ以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
前記コイルスプリングの先端部におけるコイルピッチが、コイル線径の1.0?1.8倍であり、 Au-Sn系はんだが、前記コイルスプリングの1?3ピッチに相当する範囲においてコイル内部に浸透していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
前記コイルスプリングの内部に樹脂が充填されているとともに、前記コイルスプリングの外周に前記樹脂による樹脂層が形成され、前記樹脂層の表面に親水性樹脂層が積層形成され、
前記コアワイヤの表面には撥水性樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
前記コイルスプリングは、コイルピッチがコイル線径の1.0?1.8倍である先端側密巻部と、コイルピッチがコイル線径の1.8倍を超える後端側疎巻部とからなることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
前記コイルスプリングの先端側密巻部と後端側疎巻部とを含む中間部が、Au75?80質量%と、Sn25?20質量%との合金からなるAu-Sn系はんだにより、前記コアワイヤに固着されていることを特徴とする請求項5に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項7】
前記コアワイヤがステンレスからなることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の医療用ガイドワイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-07-15 
結審通知日 2016-07-20 
審決日 2016-08-16 
出願番号 特願2009-67638(P2009-67638)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 真徳  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
宮下 浩次
登録日 2009-08-07 
登録番号 特許第4354523号(P4354523)
発明の名称 医療用ガイドワイヤ  
代理人 三木 浩太郎  
代理人 愛智 宏  
代理人 愛智 宏  
代理人 吉本 聡  
代理人 早川 尚志  
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