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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1321572
審判番号 不服2014-19426  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-29 
確定日 2016-11-09 
事件の表示 特願2011-109646「全自動迅速顕微鏡用スライドスキャナ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月17日出願公開,特開2011-232762〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,2001年3月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年5月3日,米国)を国際出願日とする特願2001-581174号の一部を平成23年5月16日に新たな特許出願としたものであって,平成23年6月15日に外国語書面の翻訳文及び手続補正書が提出され,平成25年3月5日付けで拒絶理由が通知され,同年8月12日に意見書及び手続補正書が提出され,同年11月22日付けで拒絶理由が通知され,平成26年2月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年5月19日付けで拒絶査定がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成26年9月29日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成27年5月22日付けで拒絶の理由が通知され,同年9月15日に意見書及び手続補正書が提出され,同年9月30日付けで拒絶の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,平成28年4月6日に意見書及び手続補正書が提出された。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成28年4月6日提出の手続補正書による補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容
平成28年4月6日提出の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,平成27年9月15日提出の手続補正書による補正後の特許請求の範囲について補正をするものであるところ,そのうち請求項1についてする補正(以下,「請求項1に係る本件補正」という。)は,次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)

(1)本件補正前の請求項1
「顕微鏡試料の一つの部分の一つの切れ目のないデジタル画像を作成するためのシステムであって,
顕微鏡試料を載置するように構成され,前記顕微鏡試料のスキャン中,前記顕微鏡試料をスキャン方向に実質的に一定速度で移動するように構成された電動ステージと,
前記顕微鏡試料の一つの部分を照明するように構成された照明システムと,
前記顕微鏡試料の照明された前記一つの部分を観察するための少なくとも一つの顕微鏡対物レンズと,
前記顕微鏡試料のスキャン中の,前記顕微鏡対物レンズからの光学信号を合焦するように構成された少なくとも一つの一次元スキャンカメラ合焦光学系と,
前記顕微鏡対物レンズと光学的に結合し,単一のライン画像の収集を行なうために一次元配列された複数の光応答性要素を備えた一次元スキャンカメラであって,前記一次元スキャンカメラは,連続した複数の画像ストリップを得るために,第一の画像ストリップを取得し,続いて,第二の画像ストリップを取得し,最後の画像ストリップが取得されるまで,前記顕微鏡試料の前記一つの部分をスキャンするように構成された,少なくとも一つの一次元スキャンカメラと,
前記各画像ストリップの画像データをデジタル化,処理,および格納するように構成されたデータ処理装置と,
前記各画像ストリップのデジタル画像を格納するように構成されたデータ記憶装置と,
を含み,
前記顕微鏡対物レンズは,スキャンのための前記電動ステージの移動と並行して,スキャン中の単一のライン画像の収集毎に焦点調整するように制御される,システム。」

(2)本件補正後の請求項1
「顕微鏡試料の一つの部分の一つの切れ目のないデジタル画像を作成するためのシステムであって,
顕微鏡試料を載置するように構成され,前記顕微鏡試料のスキャン中,前記顕微鏡試料をスキャン方向に実質的に一定速度で移動するように構成された電動ステージと,
前記顕微鏡試料の一つの部分を照明するように構成された照明システムと,
前記顕微鏡試料の照明された前記一つの部分を観察するための少なくとも一つの顕微鏡対物レンズと,
前記顕微鏡試料のスキャン中の,前記顕微鏡対物レンズからの光学信号を合焦するように構成された,少なくとも一つの一次元スキャンカメラ合焦光学系と,
前記顕微鏡対物レンズと光学的に結合し,単一のライン画像の収集を行なうために一次元配列された複数の光応答性要素を備えた一次元スキャンカメラであって,前記一次元スキャンカメラは,連続した複数の画像ストリップを得るために,第一の画像ストリップを取得し,続いて,第二の画像ストリップを取得し,最後の画像ストリップが取得されるまで,前記顕微鏡試料の前記一つの部分をスキャンするように構成された,少なくとも一つの一次元スキャンカメラと,
前記各画像ストリップの画像データをデジタル化,処理,および格納するように構成されたデータ処理装置と,
前記各画像ストリップのデジタル画像を格納するように構成されたデータ記憶装置と,
を含み,
前記顕微鏡対物レンズは,ピエゾポジショナーを備え,且つ,スキャンのための前記電動ステージの移動と並行して,スキャン中の単一のライン画像の収集毎に焦点調整するために,前記ピエゾポジショナーによって前記電動ステージの垂直方向に移動するように制御される,システム。」

2 新規事項の追加の有無について
本願は,特許法36条の2第2項が規定する外国語書面出願であるところ,請求項1に係る本件補正により付加される,顕微鏡対物レンズがピエゾポジショナーを備えており,ライン画像の収集毎の焦点調整が,当該ピエゾポジショナーによって顕微鏡対物レンズを電動ステージの垂直方向に移動させることによって行われる点は,外国語書面の翻訳文の【0017】や【0056】に記載されているから,請求項1に係る本件補正は,外国語書面の翻訳文に記載された事項の範囲内においてなされた補正である。
よって,請求項1に係る本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に適合する。

3 補正の目的について
本件補正は,特許法17条の2第1項3号に掲げる場合(最後の拒絶理由通知の指定期間内にする場合)において特許請求の範囲について補正をするものであるところ,請求項1に係る本件補正は,補正前の請求項1に係る発明の「スキャン中の単一のライン画像の収集毎に焦点調整する」という発明特定事項について,これを実現するための動作が,顕微鏡対物レンズに備えられたピエゾポジショナーによって顕微鏡対物レンズを電動ステージの垂直方向に移動させるというものであることを限定するものであって,本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は本件補正前と同一であると認められるから,請求項1に係る本件補正は,同法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって,請求項1に係る本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に適合する。

4 独立特許要件について
請求項1に係る本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含んでいるから,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するのか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否か)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのもの(前記1(2)にて示したとおりのもの)と認められる。

(2)引用例
ア 特開平11-211988号公報
(ア)特開平11-211988号公報の記載
当審拒絶理由において「引用文献1」として引用された特開平11-211988号公報(以下,「引用例1」という。)は,本願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用例1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 顕微鏡の自動移動式ステージに置かれた標本の所定領域の全体参照画像を取得して送信する送信装置と,前記送信された全体参照画像を遠隔地で受信し,その受信画像中の注視位置の情報を送信装置側に送信し,前記注視位置の情報に基づいた次の送信画面を要求する受信装置と,画像信号を伝送する信号伝送路とを有する顕微鏡画像遠隔制御システムであって,前記顕微鏡の自動移動式ステージを制御しながら所定倍率で前記標本の分割撮影を繰り返す手段と,この分割撮影により得られた画像群をメモリに取込む手段と,前記メモリ上で分割撮影された画像群の平面的な位置関係に矛盾が生じないようにつなぎ合わせて前記全体参照画像を作成する手段と,この作成された全体参照画像の位置座標とステージ制御座標との対応を取る手段と,前記注視位置情報は前記全体参照画像の座標値で指定され,次の送信画像は前記注視位置を中心にその周辺部分を拡大して取得する手段とを具備することを特徴とする顕微鏡画像遠隔制御システム。
・・・(中略)・・・
【請求項4】 前記顕微鏡のステージに置かれた標本の所定領域をラインセンサカメラで全体参照画像を作成する手段を有することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の顕微鏡遠隔制御システム。」

b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,顕微鏡画像の静止画像取得システムに関し,特に,全体参照画像作成後,遠隔地にて前記全体参照画像上で注視位置を指定することによって当該注視位置を中心とする高倍率静止画像を遠隔地からでも取得することに適用して有効な技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来,この種の全体参照画像上を指定することによって表示したい位置の高倍率静止画像を取得する手段として,特願平4-162715号の技術を挙げることができる。この技術では標本の全体像を把握するために,プレパラートを顕微鏡のステージにセットする前に専用のマクロ撮影のスタンドにセットして固定のサイズの全体参照画像として撮影し,さらに,高倍率の画像の撮影に関しては,該全体参照画像をブロックに分割し,この分割したブロックを高倍率で撮影している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記の従来技術では,全体参照画像を取得するために,専用のマクロ撮影のスタンドと専用のカメラが必要であった。その結果,全体参照画像を取得するという目的のために,経済的負担を強いられるという問題があった。
・・・(中略)・・・
【0008】本発明の目的は,遠隔地からでも顕微鏡の自動移動式ステージに置かれた標本の所定領域の全体参照画像上の必要な部分の高精細画像の取得を効率的に行うことが可能な技術を提供することにある。
・・・(中略)・・・
【0014】
【課題を解決するための手段】本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば,以下のとおりである。
【0015】(1)顕微鏡の自動移動式ステージに置かれた標本の所定領域の全体参照画像を取得して送信する送信装置と,前記送信された全体参照画像を遠隔地で受信し,その受信画像中の注視位置の情報を送信装置側に送信し,前記注視位置の情報に基づいた次の送信画面を要求する受信装置と,画像信号を伝送する信号伝送路とを有する顕微鏡画像遠隔制御システムであって,前記顕微鏡の自動移動式ステージを制御しながら所定倍率で前記標本の分割撮影を繰り返す手段と,この分割撮影により得られた画像群をメモリに取込む手段と,前記メモリ上で分割撮影された画像群の平面的な位置関係に矛盾が生じないようにつなぎ合わせて前記全体参照画像を合成する手段と,この合成された全体参照画像の位置座標とステージ制御座標との対応を取る手段と,前記注視位置情報は前記全体参照画像の座標値で指定され,次の送信画像は前記注視位置を中心にその周辺部分を拡大して取得する手段とを具備することを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【0018】(4)前記(1)乃至(3)のうちいずれか1つの顕微鏡画像遠隔制御システムにおいて,顕微鏡のステージに置かれた標本の所定領域をラインセンサで全体参照画像を作成する手段を有することを特徴とする。」

c 「【0024】
【発明の実施の形態】以下,図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0025】(実施例1)図1は本発明の顕微鏡画像遠隔制御システムを実現するためのハードウェア構成を示すブロック図であり,1はCCDカメラ,2は顕微鏡,3は標本,4は自動移動式ステージ(以下,単にステージという),5は送信装置(例えばパソコンを用いる:臨床側のパソコン),5Aは送信装置5の表示装置,6は通信回線,7は受信装置(例えばパソコン等を用いる:病理医側のパソコン)である。
・・・(中略)・・・
【0027】前記CCDカメラ1は顕微鏡2で拡大した標本3を静止画像として撮影する電子撮像装置であり,撮影した静止画像はSCSI等の通信インタフェース経由で送信装置5のメモリに蓄積される。
【0028】ステージ4は,水平方向に移動させる手段と,動かない座標系であるステージ制御座標を顕微鏡2の上に持ち,送信装置5よりRS-232C等の通信インタフェース経由での指示による基準点がステージ制御座標上の指定した点にくるように水平方向に自動的に移動させる手段と,現在のステージ位置の基準点がステージ制御座標のどこの座標値にあるかをRS-232C等の通信インタフェース経由で送信装置5に取込む手段とを有している。
【0029】送信装置5は,CCDカメラ1で撮影した画像群をメモリ上に取込む手段と,前記画像群をメモリ上で平面的な位置関係に矛盾が生じないようにつなぎ合わせて全体参照画像を作成する手段と,メモリ上の静止画像を通信回線6を通して受信装置7に送信する手段と,CCDカメラ1で撮影した画像群及び全体参照画像を表示装置5Aに表示する手段と,受信装置7との通信を開始する手段と,送信装置5からの通信を終了する手段と,ステージ4の制御位置を指定する手段とを有する。
【0030】受信装置7は,送信装置5から送信された静止画像を表示装置7Aに表示する表示手段と,送信装置5との通信を開始する手段と,注視位置を指定する手段と,指定した位置情報を送信装置5に送信する手段と,送信装置5との通信を終了する手段とを有する。
・・・(中略)・・・
【0032】図2は本実施例1の顕微鏡画像遠隔制御システムの動作を説明するためのフローチャート,図3は本実施例1の顕微鏡画像遠隔制御システムにおけるステージ制御フローチャートであり,本発明中の全体参照画像として取込みたい範囲の座標値に関してステージ4を制御するフローを示す。
【0033】図1及び図2を参照して送信装置5及び受信装置7内のソフトウェアの動作を以下に説明する。
【0034】実施例1を説明するために必要である前提条件を記述する。標本3はプレパラートの上に乗せられたもの全体であり,その標本3の中でも診断するために静止画像として受信装置(病理医側)7へ伝送したい部分領域を所定領域という。参照画像は次の送信画像を取得するために使用する画像であり,所定領域の全体参照画像とは所定の全体が含まれる参照画像である。注視位置とは高精細画像を取得したい領域の中心の位置である。
・・・(中略)・・・
【0038】まず,標本3を低倍率レンズでの取込み可能領域で分割してメモリに取込む方法を説明する。この方法は,全体参照画像として取込みたい範囲のステージ制御座標値をメモリに取込む手段と,メモリに取込んだステージ制御座標値に関してステージを制御しながら画像をメモリに取込む手段とに分けられる。
【0039】以下に,全体参照画像として取込みたい範囲のステージ制御座標値をメモリに取込む手段を説明する。
【0040】顕微鏡2のステージ4に標本3がセットしてあり,対物レンズは4倍,リレーレンズは1倍になっている。まず,全体参照画像として取込みたい範囲が含まれるような長方形領域の左上の角が取込み可能領域の中央より右下になるような位置でその顕微鏡2のステージ制御座標を取込む。
【0041】次に,全体参照画像として取込みたい範囲が含まれるような長方形領域の右下の角が取込み可能領域の中心より左上になるような位置でその顕微鏡のステージ制御座標を取込む。全体参照画像の左上のステージ制御座標と右下のステージ制御座標の取込みは,右上のステージ制御座標と左下のステージ制御座標の取込みに置き換えてもよい。
【0042】図2及び図3を参照して,メモリに取込んだステージ制御座標値に関してステージを制御しながら画像をメモリに取込む手段を説明する。左上のステージ制御座標値を(x1,y1),右下のステージ制御座標値を(x2,y2)とする。ただし,x1<x2,y1<y2である。また,x1,y1,x2,y2の単位はミクロンメートルである。・・・(中略)・・・
【0056】受信装置7が指定した注視位置を次の送信画像の中心とするために,ステージ制御座標値が((x-160)*6.9+x1,(Y-120)*6.9+y1)になるようにステージを制御する(S209)。高倍率の対物レンズで,高精細静止画像としてメモリに取込む。
【0057】高精細静止画像としてメモリに取込んだら,受信装置7との通信を開始する手段で通信回線6を接続する。該高精細静止画像を受信装置7に送信する(S210)。該高精細静止画像送信終了時に受信装置7との通信を終了する手段で通信回線6を切断する。
。・・・(中略)・・・
【0060】本実施例1の顕微鏡画像遠隔制御システムの用途として遠隔病理診断について説明する。
【0061】まず,送信装置(臨床側)5は標本3を顕微鏡2のステージ4にセットし,対物レンズを4倍にする。全体参照画像として取得する範囲を決定しその範囲が含まれるような長方形領域を決める。その長方形領域の左上の角が取込み可能領域の中心より右下にくるようにステージ4を制御する。その位置の顕微鏡2のステージ制御座標を取込む。さらに,前記長方形領域の右下の角が取込み可能領域の中心より左下にくるようにステージ4を制御する。その位置の顕微鏡のステージ制御座標を取込む。
【0062】前記ステージ座標群を基に,送信装置(臨床側)5のパソコンの「ステージ4を制御しながら画像をメモリに取込む手段」及び「メモリに取込んだ静止画像群をメモリ上でつなぎ合わせて全体参照画像を作成する手段」が働き,全体参照画像が作成され,表示装置5Aに表示される。
【0063】全体参照画像を受信装置(病理医側)7に送信する。対物レンズを高倍率に換えておく。
【0064】受信装置7は受信した全体参照画像を見て,注視位置をクリックするなどして指定する。受信装置7の「指定した位置の平面座標値を取得する手段」及び「指定した位置の平面座標値を送信装置へ送信する手段」が働き,指定した注視位置の平面座標値が送信装置5へ送信される。
【0065】送信装置5はその送信を受信し,送信装置5の「受信した平面座標値をステージ制御座標に変換する手段」及び「該ステージ制御座標値が画像の中心の位置のステージ制御座標値と同一になるようにステージを制御する手段」が働き,高倍率の高精細静止画像が作成され,表示装置5Aに表示される。前記高精細静止画像を受信装置7のパソコンに送信する。
【0066】受信装置7では前記高精細静止画像を表示装置7Aに表示し,診断を下す。他の注視位置の高精細静止画像を取得したいときは,再度全体参照画像上で注視位置を指定することによって,同様に取得する。
・・・(中略)・・・
【0070】(実施例2)・・・(中略)・・・
【0086】図7を参照して,メモリに取込んだ320*240の静止画像群をメモリ上で平面的な位置関係に矛盾が生じないようにつなぎ合わせて全体参照画像を作成する方法を説明する。・・・(中略)・・・
【0089】相関係数を計算して合成位置を決定し画像をつなぎ合わせる方法を説明する。ステージ制御後の静止画像中でステージ制御前の画像と重なると計算される部分の24*240の静止画像Bを考える(S703)。24*240の静止画像の中には20*236の静止画像が25通り考えられる。これらを任意にB1?B25とする(S704)。Nを1?25の自然数とする。F(i,j)を画像Aの画素(i,j)の画素値,GN(i,j)を画像BNの画素(i,j)の画素値とする。ここで画素値とは画素の特徴量であり,同一画像の同一画素で比較した場合同一値となり,異なった画像の任意の画素同士を比較した場合異なった値を示すものである。また,画像Bの画素(1,1)から画像BNの画素(1,1)へ向かうベクトルをPN(PNx,PNy)とする(S705)。画像Aと画像BNの差をとる。計算式としては,x≧0のときf(x)が0以上でかつ単調増となるようなfにおいて,HN=ΣΣf(|F(i,j)-GN(i,j)|)(i=1,2,3,…20,j=1,2,3,…236)を採用する(S706)。例えば,f(x)=x^(2)などが考えられる。HNが最も小さくなるNの値を求める(S707)。Nが一意に決まらない場合(S708)は,その中でもPNが(2,2)に最も近いものを選択する(S709)。それでも一意に決まらなければ,例えばNの値が最も小さいものを採用するといったルールを決めておく(S710,S711)。ステージ制御後の画像のうち左上の画素が(10+PNx,10+PNy)であるような296*216の静止画像をメモリに取込む(S712)。これを(k1*k2-1)回繰り返し(k1*k2)枚の静止画像をメモリに取込むことによって,全体参照画像を作成する。
・・・(中略)・・・
【0099】(実施例3)・・・(中略)・・・
【0109】相関係数を計算して合成位置を決定し画像をつなぎ合わせる方法を説明する。ステージ制御後の静止画像中でステージ制御前の画像と重なると計算される部分の22*240の静止画像を考える。22*240の静止画像中には20*238の静止画像が9通り考えられる。これらを任意にB1?B9とする。Nを1?9の自然数とする。F(i,j),GN(i,j),PN,HNを前記実施例2と同様に定義する。前記実施例2と同様にHNが最小になるNの値を求める。Nが一意に決まらなければ,その中でもPNが(1,1)に最も近いものを選択する。ステージ制御後の画像のうち左上の画素が(10+PNx,10+PNy)であるような298*218の静止画像をメモリに取込む。(k1*k2)枚の静止画像をメモリに取込むことによって全体参照画像を作成する。
・・・(中略)・・・
【0111】(実施例4)前述の実施例1,2,3ではCCDカメラ1で取込んだ静止画像を合成することによって全体参照画像を作成した。それ故,前述の実施例1,2,3に従って全体参照画像を作成すると輝度にむらができる結果,画像をつなぎ合わせた個所が目立ってしまい,実際の標本とは異なった画像として全体参照画像が作成されてしまうという問題があった。
【0112】この問題を解決するためには,以下のことを行う。静止画像をCCDカメラ1で取込むため輝度にむらが生じる。従って,本実施例4では前述の実施例1,2,3とは異なり,全体参照画像を作成するためにラインセンサカメラを使用することによって輝度のむらを軽減する。
【0113】図9は本発明の実施例4の全体参照画像を作成する手段を説明するための図であり,1はラインセンサカメラである。
【0114】ラインセンサの仕様によるが,本実施例4でのラインセンサカメラ1Aの画素数は1024画素,1画素サイズは14*14ミクロンメートル(μm)であるとする。また,ステージ制御の最大誤差は10ミクロンメートルであり,2つの画像をつなぎ合わせるのに必要な2つの画像の重なり合った長方形部分画像領域の短いほうの一辺の画素数を20ドットとする。
【0115】図9を参照してステージを制御しながらラインセンサで全体参照画像を作成する手段を説明する。図6を参照して,あらかじめ,つなぎ合わせる二つの画像の重複領域の短いほうの一辺の大きさを求めておく。ステージ制御の最大誤差10ミクロンメートルは1ドットであるので,2つの画像の重複領域の短いほうの一辺の大きさは22ドット,22*14=308ミクロンメートル必要と計算できる。前述の実施例1,2,3と同様の方法で全体参照画像として取込みたい範囲のステージ制御座標を取込む。|y1-y2|/14028≦k2となる最小の自然数k2を計算する。ラインセンサカメラ1Aで取込むラインの一番上のステージ制御座標値が(x1-154,y1-154)になるように制御する。ステージを右方向にx座標値が(x2+154)になるまで制御し,画像をメモリに取込み左上の位置にステージ制御座標値(x1-154,y1-154)を記録する。メモリに取込まれた静止画像のx座標方向の大きさは(x2-x1+308)/14ドットである。ラインセンサで取込むラインの一番上のステージ制御座標値が(x1-154,y1+13874)になるように制御する。同様にステージ4を右方向にx座標値が(x2+154)になるまで制御し,画像をメモリに取込み左上の位置にステージ制御座標値(x1-154,y1+13874)を記録する。これを(k2-1)回繰り返し,k2枚の静止画像のメモリへの取込みと左上の位置のステージ制御座標値の記録を行う。
【0116】一枚目の静止画像をメモリに取込む。取込む画像は{(x2-x1+308)/14}*1024で取込んだ画像のうち,上下左右11ドットずつを取り除いた静止画像である。
【0117】次の画像との重複領域中の小領域を指定する方法を説明する。次の画像との重複領域は静止画像中の下端から22ドットにあたる部分である{(x2-x1+308)/14}*22の静止画像であり,ステージ制御の最大誤差は1ドットであるので,前述の実施例1,2,3と同様に計算すると,重複領域中の小領域Aは,[{(x2-x1+308)/14}-2]*20の上下左右端から1ドットずつを切り取ったものである。
【0118】相関係数を計算して合成位置を決定し画像をつなぎ合わせる方法を説明する。次の画像中で前の画像と重なると計算される静止画像中の上端から22ドットにあたる部分である{(x2-x1+308)/14}*22の静止画像を画像Bとする。画像Bの中には〔{(x2-x1+308)/14}-2〕*20の静止画像が9通り考えられる。これらを任意にB1?B9とし,以降の全体参照画像の作成の方法は前記実施例3と同様とする。
【0119】本実施例4によれば,一枚の静止画像が前述の実施例1,2,3で得られる静止画像と比較して大きいため全体参照画像を取込む枚数が少なくて済み,その結果,画像合成を行う回数を削減することができる。画像合成を行う回数が削減できることにより,合成にかかる時間が短縮できるという効果が得られるとともに,実際の標本と同一の全体参照画像が作成されやすいという効果が得られる。
【0120】また,顕微鏡のステージに置かれた標本の所定領域の全体参照画像を,顕微鏡のステージを制御しながらラインセンサでスキャンし,該画像群をメモリに取込み,該メモリ上で平面的な位置関係に矛盾が生じないようにつなぎ合わせることによって合成する手段により,専用のマクロ撮影のスタンドを用意し,該マクロ撮影のスタンドにプレパラートをセットしなくても,全体参照画像を取込むことができる。
【0121】また,平面で撮影するCCDカメラでは一枚の静止画像中で画像の中心と端とでは輝度が違うので,つなぎ合わせたときにつなぎ目が顕著になってしまうが,ラインセンサでスキャンすることにより,横にスキャンすれば縦方向の,縦にスキャンすれば横方向のつなぎ目が発生しないので,その分元の標本3と近い画像を作成することができる。これにより,前述の実施例1,2,3ほど頻繁に輝度によって合成位置が顕著になる部分のない全体参照画像が作成できるという効果が得られる。」

d 「【0133】
【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,以下の効果が得られる。
【0134】(1)従来のように専用のマクロ撮影のスタンドと専用のカメラを使用することなく全体参照画像を取得することができるという効果に加え,プレパラートを2つのステージにわたって移動させる必要がないため全体参照画像上の所定の位置の位置情報とステージ制御座標値との関連付けが容易にできる。
・・・(中略)・・・
【0138】(5)輝度差がより顕著にならないラインセンサを使用して静止画像を取得することによって,より元の標本に近い全体参照画像を取得することができる。」

e 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1の顕微鏡画像遠隔制御システムを実現するためのハードウェア構成を示すブロック構成図である。
・・・(中略)・・・
【図9】本発明の実施例4のステージを制御しながらラインセンサカメラで全体参照画像を作成する手段を説明するための図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図9】



(イ)引用例1に記載された発明
前記(ア)aないしeの記載から,顕微鏡2で拡大した標本3を静止画像として撮影する電子撮像装置として,CCDカメラ1の代わりにラインセンサカメラ1Aを用いること,及び,当該ラインセンサカメラ1Aにより分割撮影した画像群から全体参照画像を作成する方法が,【0115】ないし【0118】に記載された方法であること以外は,実施例1と同じ構成を有する実施例4についての発明を把握することができるところ,当該引用例1中の「ステージ4を制御する」なる表現が,ステージ4を移動させることを意味していることが明らかであるから,当該ステージの制御について移動と表現すると,前記実施例4についての発明の構成は次のとおりと認められる。

「顕微鏡2と,
最大誤差10マイクロメートルで水平方向に移動させることができる自動移動式ステージ4と,
前記顕微鏡2で拡大した標本3を静止画像として撮影する,画素数が1024画素で1画素サイズが14*14マイクロメートルのラインセンサカメラ1Aと,
前記ラインセンサカメラ1Aで撮影した静止画像群をメモリ上に取込む手段と,前記静止画像群をメモリ上で平面的な位置関係に矛盾が生じないようにつなぎ合わせて全体参照画像を作成する手段と,メモリ上の全体参照画像を受信装置7に送信する手段と,前記ラインセンサカメラ1Aで撮影した静止画像群及び全体参照画像を表示装置5Aに表示する手段と,前記自動移動式ステージ4の移動位置を指定する手段とを有し,臨床側のパソコンである送信装置5と,
前記送信装置5から送信された全体参照画像を表示装置7Aに表示する表示手段と,高倍率の高精細画像を取得したい領域の中心の位置である注視位置を指定する手段と,指定した注視位置の平面座標値を指定して送信装置5に送信する手段とを有し,病理医側のパソコンである受信装置7と,
を有し,遠隔病理診断の用途に用いる顕微鏡画像遠隔制御システムであって,
前記送信装置5は,全体参照画像の作成に際して,
(a) 全体参照画像として取得する範囲が含まれるような長方形領域の左上の角の位置のステージ制御座標値(x1,y1)及び右下の角の位置のステージ制御座標値(x2,y2)に基づいて,|y1-y2|/14028≦k2となる最小の自然数k2を計算し,
(b) 標本3が前記顕微鏡2の前記自動移動式ステージ4にセットされ,前記顕微鏡2の対物レンズを低倍率レンズである4倍に,リレーレンズを1倍にした状態で,前記ラインセンサカメラ1Aで取込むラインの一番上のステージ制御座標値が(x1-154,y1-154)になるように前記自動移動式ステージ4を移動させてから,当該自動移動式ステージ4を右方向にx座標値が(x2+154)になるまで移動させながら画像をメモリに取込み,
(c) 次に,ラインセンサカメラ1Aで取込むラインの一番上のステージ制御座標値が(x1-154,y1+13874)になるように前記自動移動式ステージ4を移動させてから,同様に当該自動移動式ステージ4を右方向にx座標値が(x2+154)になるまで移動させながら画像をメモリに取込むという動作を,ステージ制御座標値を変えながら(k2-1)回繰り返して,k2枚の静止画像のメモリへの取込みを行い,
(d) 前記メモリに取込んだ静止画像群をメモリ上で平面的な位置関係に矛盾が生じないようにつなぎ合わせるために,まず,一枚目の静止画像のうち上下左右11ドットずつを取り除いた所定サイズの静止画像をメモリに取込んだ後,次の静止画像との重複領域である静止画像中の下端から22ドットにあたる部分の上下左右端から1ドットずつを切り取った小領域Aの画像と,次の静止画像中で前の静止画像との重複領域である静止画像中の上端から22ドットにあたる画像Bの中に考えられる,小領域Aと同じ大きさの9通りの静止画像B1ないしB9とについて,画素の画素値を用いた相関係数を計算して,次の静止画像の合成位置を決定し,次の静止画像における前記合成位置の前記所定サイズと同じ大きさの静止画像をメモリに取込んで画像をつなぎ合わせ,これを繰り返して,k2枚の静止画像をメモリに取込むことによって全体参照画像を作成する,
という動作を行うよう構成された顕微鏡画像遠隔制御システム。」(以下「引用発明」という。)

イ 特表平10-506206号公報
(ア)特表平10-506206号公報の記載
当審拒絶理由において「引用文献2」として引用された特表平10-506206号公報(以下,「引用例2」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用例2には次の記載がある。(下線は,後述する引用例2記載の技術の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【特許請求の範囲】
1.スライドに自動的に焦点を結ぶ方法であって,
(a)底面を持つカバー・スライドの位置を定める工程と(401-411),
(b)スライドにたいしてあらかじめ定めた複数の焦点深度から複数の画像を得,カバー・グラスの底面近傍の第1焦点深度からスタートする工程と(412),
(c)複数の画像の各々において,あらかじめ定めた一組の特徴を測定し,その複数の画像の各々にたいして少なくとも一つの画像測定値を生成する工程と(511),
(d)その複数の画像の各々について焦点測定値を計算する工程と,その際,各焦点測定値は,少なくとも一つの画像測定値(511)の関数とし,かつ,
(e)得られた画像が最高焦点測定値を持つ焦点深度にたいして,最良焦点位置を定める工程と(512),
を含む方法。」

b 「医・生物学標本の自動焦点装置
本発明は,生物標本の自動焦点法に関する。特に,対象の特徴,パターン,特異型にたいし自動的に焦点を結ぶ自動焦点顕微鏡装置に関する。」(9ページ2ないし4行)

c 「発明の背景
従来の自動焦点装置は,焦点を結ぶ対象にたいして自動的にパターン認識を実行する装置の一部を形成するものであっても,焦点調節を実行中に,特異的な対象や,特異的型の対象を特定することはできない。この欠陥のあるため,これらの装置では,塵の粒子,掻き傷やその他のアーティファクトにたいして焦点を結んでしまったり,自動パターン認識を実行中に,目的の対象が焦点に入らなかったために,それを見逃してしまうことがある。従来の装置では,高頻度の内容を持っているという理由で,また,目的の対象と同じ領域に存在するという理由で,無関係な細部に焦点を結ぶことがある。その結果,従来の装置では,細胞核のような重要な特質に焦点を結ぶ機会,また,そのような特質を特定する機会を失うことがある。
・・・(中略)・・・
光学系自動焦点装置の正確な焦点機能は,装置が稀な現象,例えば,パップ・スメア(膣分泌物塗末標本)中の前癌細胞の検出用に設計されている場合は特に重要である。パップ・スメアの場合,比較的広大な面積を,低倍で高速に走査しなければならない。パップ・スメアの自動走査装置のある実例では,例えば,1.4mm平方の視野をカバーする4倍の対物レンズを,低倍走査に用いている。その走査面積は,スメア上のカバー・グラスの覆う全面積を含んでおり,その面積は,上記の視野を700以上含むことがある。
低倍走査の目的は,スメアの少数パーセントを占める前癌細胞らしきものを特定することである。そして,そのような細胞は,高倍で再検査しなければならない。低倍では,数百の対象物が単一視野の中に現われることがある。したがって,その各々に焦点を結ばせることは事実上不可能である。しかしながら,もしも装置が,特定可能な細胞核ではなく,何か無関係な物体に焦点を結ぶようなことがあれば,千の中の一つの前癌細胞は拾い上げられることなく,高倍でも検査されず,前癌状態は検出されないままに終わってしまう。
したがって,このような装置においては,目的対象物には,安定的に,特異的に焦点を結ぶが,標本中の無関係な特徴やアーティファクトには焦点を結ばないことが必須である。パップ・スメア中に存在するアーティファクトとしては,顕微鏡スライドにマークするために用いた鉛筆に由来する黒鉛痕,標本収拾に用いた道具に由来する木片の小棘,血液,毛髪,粘液条や,さらに,通常の透過型顕微鏡検査には不向きな分厚い細胞塊がある。パップ・スメア走査器が良好な成績を挙げるためには,目標の細胞核には安定して焦点を結ぶが,無関係なアーティファクト背景には焦点を結んではならない。」(9ページ5行ないし10ページ16行)

d 「発明の要約
本発明は,生物標本にたいして焦点を結ぶ,形態的画像処理機能を持つ自動焦点装置を与える。本発明により,コンピュータは,異なる焦点深度から収拾された一組の画像の中から目標対象を自動的に特定し,その目標対象にたいする最良の焦点に一致する焦点深度を自動的に選択する。・・・(中略)・・・
スライド上に自動的に焦点を結ぶ方法の一実例として,カバーグラスの位置を定め,スライド中の特定の焦点深度から画像を得,さらに,カバー・グラスの表面に直近の第一焦点深度から開始する工程がある。各々の画像の中に見られる,一組の特定の特徴を測定し,複数の画像の各々について少なくとも一つの画像測定を行う。この画像の各々について,焦点計測値を計算する。ただし,ここに,各焦点計測値は,少なくとも一つの画像計測値の関数である。最良焦点位置は,獲得画像が最高焦点計測値を与える焦点深度にたいして定められる。」(10ページ17行ないし11ページ9行)

e 「好ましい実施例に関する詳細な説明
本発明の好ましい実施例は,生物・医学標本において,細胞核を認識し,これに焦点を結ぶ方法と装置を与える。これを,複数の焦点面から得られた画像を用い,低倍で動作する自動顕微鏡装置によって行う。
ここに述べる,本発明の好ましい実施例においては,開示される装置は,子宮頸部のパップ・スメア分析装置に使用されるものである。・・・(中略)・・・
装置および標本
第1図を参照すると,本発明の装置の一例のブロック・ダイアグラムが示してある。ここに示した装置は次のものから成る。すなわち,中枢コンピュータ101,顕微鏡のモーター駆動ステージ103の動きを,画像捕捉装置104と協調させるリアル・タイム走査制御装置102,ストロボ照明装置105,顕微鏡の低倍対物レンズ107,CCD型の電子カメラ108,一つ以上の専用画像装置109,および,タッチ・センサー110である。ストロボ照明装置105は,標本106に対し,短い閃光を当てる。標本106は,ガラス・スライド201にマウントされ,かつ,透明なカバー・グラス202によって保護されている。
コンピュータ101は,以下に詳述する焦点操作の諸工程を導くためにあらかじめプログラムされていてもよく,また,そうすると好都合である。第1図において,各種成分の間に見られる矢印は,装置の部分間における情報の流れを表わす。
・・・(中略)・・・
カバー・グラスの特定
第4図を参照しながら第1図に戻ると,標本の観察は,中枢コンピュータ101が操作制御装置102に指令を発して,工程401において,ステージ103をあらかじめ定められた中央位置に動かすことから始まる。・・・(中略)・・・
工程402において,中枢コンピュータ101は,操作制御装置102に指令して,スライド201にたいして垂直な軸にステージ103を移動せしめ,それによって,標本106がタッチ・センサー110に近づくようにする。・・・(中略)・・・
工程403において,タッチ・センサー110が,標本106上のカバー・グラスとの接触を表示すると,操作制御装置102は,その接触の起こったステージ位置を,中枢コンピュータ101に報告する。・・・(中略)・・・
工程411において,ステージは,中央接触位置の,対物レンズ107の焦点面が,カバー・グラス202の接触面直下にくるような高さに戻される。工程412において標本106の焦点調節を実行する。この時,中枢コンピュータ101は,走査制御装置102に,ステージ103の移動が,画像捕捉装置104と協調するように指令する。これによって,初回焦点走査が,対物レンズ107が,中央接触位置のカバー・グラス202表面直下の画像に焦点を結ぶ位置からスタートし,CCDカメラに向かって実行される。
初回焦点走査
この時点で,第5,6A,6Bおよび7図と,同時に第1図も参照しながら,初回焦点走査について詳細に述べることにする。
焦点走査の目的は,ある標本において,異なる焦点面から画像を得て,これを処理し,それによって最良の焦点面を見つけだすことにある。本発明の,この好ましい実施例においては,焦点走査はいずれも下記の要領で実行される。・・・(中略)・・・
一旦画像捕捉装置104がこの表を受け取ると,工程503において,走査制御装置102がステージ103の移動を開始する。・・・(中略)・・・
表にリストされた各時点ごとに,画像捕捉装置104は,ストロボ照明105に信号を送り,工程505において閃光を発っせしめる。照明装置105は,工程506において標本106の指定位置に短い閃光の焦点を結ぶ。・・・(中略)・・・
工程508において,対物レンズ107は,標本106の照明視野からの画像焦点を,カメラ108の上に結ぶ。工程509において,画像捕捉装置104は,カメラ108からこのようにして得られた画像のディジタル表現を収集する。・・・(中略)・・・
画像捕捉装置104は,捕捉した各ディジタル画像を,工程510において,画像処理装置(単数,または,複数,以下同じ)109に転送する。この専用画像処理装置109は,画像捕捉装置104から転送された各画像について,形態的,計算的,および,論理的操作をあらかじめプログラムされた順序にしたがって実行し,それによって,焦点性能について1個以上の測定値を得る。この測定値は計算され,工程511においてコンピュータ101に送られる。コンピュータ101は,工程501で操作制御装置102に最初に転送したリストの各画像について,その測定値を受け取ると,その測定値のリストを処理し,工程512において最適な焦点位置を求める。
画像が捕捉され,処理されている間も,ステージ103は,工程503からずっと,操作制御装置102からの指令に基づいて標本106を動かし続け,収集すべき画像リストが尽きるまで行う。
前述のように,初回焦点操作は,対物レンズが,中央接触位置のカバー・グラス表面直下の画像面に焦点を結ぶ位置からスタートする。走査は,カバー・グラスのさらに下を過ぎ,対物レンズ107の各焦点深度ごとに画像を収集しながら,カバー・グラスの光学的最大厚に相当する深さを過ぎるまで行う。カバー・グラスの光学的最大厚は,用いる特定の装置に依存する,あらかじめ定めた厚さ許容限界であってもよい。」(12ページ11行ないし19ページ8行)

f 「焦点走査データの利用法
細胞焦点走査が完了したならば,すべての成功焦点走査の結果を集計し,成功焦点評点を用いて,標本の焦点面モデルに適合させる。・・・(中略)・・・
標本の焦点面のモデルが一旦使用できるようになれば,それを,低倍で,カバー・グラスの下の標本全面を走査する際の案内に用いることができる。また,標本に高倍で焦点を結ぶ際のスタート点としても用いることができる。」(32ページ18行ないし33ページ5行)

(イ)引用例2に記載された技術的事項
前記(ア)eの「標本の焦点面のモデル・・・を標本全面を走査する際の案内に用いる」とは,標本全面を走査する際に,標本の焦点面のモデルを用いて標本に焦点を結ぶようにすることを意味していることが,当業者に自明であるから,前記(ア)aないしeの記載から,引用例2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「顕微鏡装置を用いたパップ・スメア(膣分泌物塗末標本)中の前癌細胞の検査は,まず,4倍の対物レンズを用いて,スメア上のカバー・グラスの覆う全面積を低倍走査し,スメアの少数パーセントを占める前癌細胞らしきものを特定し,その後,高倍で再検査するという手法で行われるところ,前癌状態が検出されないままに終わってしまうということが生じないようにするためには,目的対象物には,安定的に,特異的に焦点を結ぶが,標本中の無関係な特徴やアーティファクトには焦点を結ばないことが必須であるので,
低倍で標本全面を走査する前に,カバー・スライドの位置を定め,スライドに対してあらかじめ定めた複数の焦点深度から複数の画像を得,複数の画像の各々において,あらかじめ定めた一組の特徴を測定し,その複数の画像の各々にたいして少なくとも一つの画像測定値を生成し,当該画像測定値に基づいて複数の画像の各々について焦点測定値を計算し,得られた画像が最高焦点測定値を持つ焦点深度にたいして,最良焦点位置を定めるという方法によって,標本の焦点面モデルを作成しておき,低倍で標本全面を走査する際には,当該標本の焦点面モデルを用いて標本に焦点を結ぶようにすること。」(以下,「低倍で標本全面を走査する前に,カバー・スライドの位置を定め,スライドに対してあらかじめ定めた複数の焦点深度から複数の画像を得,複数の画像の各々において,あらかじめ定めた一組の特徴を測定し,その複数の画像の各々にたいして少なくとも一つの画像測定値を生成し,当該画像測定値に基づいて複数の画像の各々について焦点測定値を計算し,得られた画像が最高焦点測定値を持つ焦点深度にたいして,最良焦点位置を定めるという方法によって,標本の焦点面モデルを作成しておき,低倍で標本全面を走査する際には,当該標本の焦点面モデルを用いて標本に焦点を結ぶようにする」技術を「引用例2記載の技術」という。)

ウ 本願優先日前に周知の技術的事項
(ア)特開平2-123310号公報
当審拒絶理由において周知例として例示された特開平2-123310号公報(以下,「周知例1」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該周知例1には次の記載がある。(下線は,後述す周知技術の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「2.【特許請求の範囲】
観察物の像を対物レンズで光軸に平行な光線とした後に結像レンズで像を結ぶ無限遠補正光学系を構成し,前記対物レンズのみをモーター駆動してピント合わせを自動的に行うことを特徴とする顕微鏡のオートフォーカス機構。」

b 「[産業上の利用分野]
本発明は顕微鏡のピント合わせを自動的に行うオートフォーカス機構に関する。」(1ページ左下欄10ないし12行)

c 「[実施例]
第1図は本発明の実施例を示す概略図である。観察物8の像が対物レンズ3によって光軸に平行な光線となった後に結像レンズ2によって中間像を結び,接眼レンズ1を通じて観察される。このように構成された光学系において観察物8の高さに応じてピントを合わせるための条件は,対物レンズ3と観察物8の距離が対物レンズ6の前側焦点距離に等しくするということのみであり,結像レンズ2と対物レンズ3との距離はピントや顕微鏡の総合倍率に影響を与えない。したがって観察物8にピントを合わせるためには,接眼レンズ1及び結像レンズ2が組み込まれた鏡筒4は支柱5に固定されたまま,スライダー7に組み込まれた対物レンズ5のみがモーター6で上下に駆動され,対物レンズ3の前側焦点位置に観察物8が位置するように位置決めされる。
第3図は本発明の他の実施例を示す概略図である。対物レンズ3を上下駆動するアクチーエータ-9を鏡筒4に組み込むことによって,駆動部をより小型・軽量化して,応答性の高いオートフォーカスを実現しようとするものである。ここでアクチュエーター9は,その使用目的によりボイスコイルモーター,超音波モーター,圧電セラミック等の方式を選択することができる。
[発明の効果]
本発明は,観察物の像を対物レンズで光軸に平行な光線とした後に結像レンズで像を結ぶ無限遠補正光学系の構成とすることにより,ピントを合わせるための駆動部を対物レンズのみと小型・軽量化することにより,高速・高精度なオートフォーカスを実現できるという効果がある。」(2ページ左上欄9行ないし左下欄2行)

(イ)特開平5-323197号公報
当審拒絶理由において周知例として例示された特開平5-323197号公報(以下,「周知例2」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該周知例2には次の記載がある。(下線は,後述する周知技術の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,顕微鏡装置,特に走査型の共焦点顕微鏡に関する。」

b 「【0026】第2実施例においては,面発光型光源手段としてのLDアレイ1からの発散光束がコリメータレンズ6によって平行光束に変換されて,偏光板3及び偏光ビームスプリッター4を介して無限系対物レンズ21に入射し,第1実施例と同様に物体面10上にて回折限界程度のスポット像が結像される。ここで,コリメータレンズ6は,面発光型光源としてのLDアレイ1からの光束を単に平行光束に変換するのみならず,各光源からの主光線が対物レンズの入射瞳の中心に向かうように収斂させるフィールドレンズとしての機能をも合わせ持つ。そして,物体面10からの反射光束は,対物レンズ21を通過して平行光束となり,4分の1波長板5及び偏光ビームスプリッター4を透過したのち第2対物レンズ22に入射し,2次元撮像手段30の受光素子30a上に集光される。
【0027】この構成においても,面発光型光源手段上の各点発光素子の順次点滅とこれに同期する2次元撮像手段30上の各受光素子の受光もしくは信号読み出しは,図1に示した第1実施例と同様の制御手段により統括制御され,必要に応じて画像表示がなされる。このように無限遠系を使用した場合には,部品点数は多少増えるが,ビームスプリッターとしての半透過鏡を透過することによって生ずる2重像や非点収差の影響が除去することができ,またピント合わせの際は装置全体を移動する必要はなく,対物レンズ21を収納する対物鏡筒200のみを光軸上で移動することによって合焦を行うことが可能である。尚,無限遠系対物レンズを用いる場合にも,必要に応じて図1のごとくLDアレイ1の近傍にフィールドレンズを分離して配置することも可能である。」

(ウ)特開平2-87108号公報
特開平2-87108号公報(以下,「周知例3」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該周知例3には次の記載がある。(下線は,後述する周知技術の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「〔産業上の利用分野〕
この発明は,無限遠光学系顕微鏡等に使用される自動焦点調整用対物レンズ駆動装置に関するものである。」(1ページ右下欄15ないし18行)

b 「〔実施例〕
この発明の自動焦点調整用対物レンズ駆動装置の一実施例を第1図に基づいて説明する。
この自動焦点調整用対物レンズ駆動装置は,第1図に示すように,対物レンズ1を取り付ける対物レンズホルダ2と,この対物レンズホルダ2を先端部5aに取り付けた平行ばね5と,対物レンズ1を焦点方向に移動させるように平行ばね5を変位させるピエゾ素子4と,このピエゾ素子4を設置するブロック6とを備えた構成としている。3は光学系支持プレートを示している。
この実施例の構成によれば,ピエゾ素子4に電圧を印加すると,ピエゾ素子4が平行ばね5を押して対物レンズ1を焦点方向に移動させる。このように,摺動面をなくし,部品点数の少ない簡単な構成にしたので,摩耗をなくし,精度の長期的信頼性を確保でき,またコストを削減できる。」

(エ)周知例1ないし3の記載から把握できる周知の技術的事項
前記(ア)ないし(ウ)で摘記した周知例1ないし周知例3の記載から,「顕微鏡の技術分野において,光学系として,観察物からの光を光軸に平行な光線とする対物レンズと,当該光軸に平行な光を集光して結像する結像レンズとを有する無限遠補正光学系を採用し,対物レンズをピエゾ素子等の駆動部により移動させて,焦点調節を行うことによって,ピントを合わせるための駆動部を小型・軽量化でき,高速・高精度なオートフォーカスが実現できること」が,本願優先日より前に周知であったと認められる。(以下,「光学系として,観察物からの光を光軸に平行な光線とする対物レンズと,当該光軸に平行な光を集光して結像する結像レンズとを有する無限遠補正光学系を採用し,対物レンズをピエゾ素子等の駆動部により移動させて,焦点調節を行う」技術を,「第1周知技術」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「標本3」,「標本3の所定領域」,「標本3の所定領域の全体参照画像」,「顕微鏡画像遠隔制御システム」,「自動移動式ステージ4」,「『4倍』の『対物レンズ』」,「ラインセンサカメラ1A」及び「メモリ」は,本願補正発明の「顕微鏡試料」,「顕微鏡試料の一つの部分」,「顕微鏡試料の一つの部分の一つの切れ目のないデジタル画像」,「システム」,「電動ステージ」,「顕微鏡対物レンズ」,「一次元スキャンカメラ」及び「データ記憶装置」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「顕微鏡画像遠隔制御システム」(本願補正発明の「システム」に相当する。以下,「(3)対比」の欄において,引用発明の構成に付されたカッコ内の記載は,当該構成に相当する本願補正発明の構成を示す。)は,標本3の所定領域の全体参照画像を作成するものであるから,「標本3の所定領域の全体参照画像」(顕微鏡試料の一つの部分の一つの切れ目のないデジタル画像)を作成するための「顕微鏡画像遠隔制御システム」(システム)といえる。
したがって,引用発明は,本願補正発明の「顕微鏡試料の一つの部分の一つの切れ目のないデジタル画像を作成するためのシステム」であるという発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明では,全体参照画像の作成に際して,「標本3」が「自動移動式ステージ4」にセットされた状態で,「自動移動式ステージ4」を右方向に移動させながら画像をメモリに取込むところ,当該自動移動式ステージ4を右方向に移動させながら画像をメモリに取込む動作を「スキャン」と,当該動作における移動方向である右方向を「スキャン方向」ということができるから,引用発明の「自動移動式ステージ4」(電動ステージ)は,「標本3」(顕微鏡試料)を載置するように構成され,前記「標本3」のスキャン中,前記「標本3」をスキャン方向に移動するように構成されたものである。
したがって,引用発明の「自動移動式ステージ4」と本願補正発明の「電動ステージ」は,「顕微鏡試料を載置するように構成され,前記顕微鏡試料のスキャン中,前記顕微鏡試料をスキャン方向に移動するように構成された」点で共通する。

エ 引用発明では,自動移動式ステージ4に置かれた標本3の所定領域の全体参照画像の作成時には,標本3が自動移動式ステージ4にセットされ,顕微鏡2の対物レンズを4倍に,リレーレンズを1倍にした状態で,自動移動式ステージ4を右方向に移動させながら画像をメモリに取込むところ,前記「4倍の対物レンズ」(顕微鏡対物レンズ)は,「標本3の所定領域」(顕微鏡試料の一つの部分)を観察するためのものといえる。
したがって,引用発明の「対物レンズ」と本願補正発明の「顕微鏡対物レンズ」は,「顕微鏡試料の一つの部分を観察するための少なくとも一つの顕微鏡対物レンズ」である点で共通する。

オ 引用発明の「ラインセンサカメラ1A」(一次元スキャンカメラ)は,対物レンズを4倍に,リレーレンズを1倍にした状態の顕微鏡2で拡大した標本3を静止画像として撮影するものであるから,「4倍の対物レンズ」(顕微鏡対物レンズ)と光学的に結合しているといえる。
また,引用発明の「ラインセンサカメラ1A」は,画素数が1024画素で1画素サイズが14*14マイクロメートルのラインセンサカメラであるところ,前記画素が,単一のライン画像の収集を行なうために一次元配列されていることは自明であり,当該画素が,本願補正発明の「光応答性要素」に相当する。
さらに,引用発明の「ラインセンサカメラ1A」は,全体参照画像の作成に際して,ラインセンサカメラ1Aで取込むラインの一番上のステージ制御座標値が(x1-154,y1-154)になるように自動移動式ステージ4を移動させてから,当該自動移動式ステージ4を右方向に移動させながら画像をメモリに取込むという(b)の動作と,ラインセンサカメラ1Aで取込むラインの一番上のステージ制御座標値が(x1-154,y1+13874)になるように前記自動移動式ステージ4を移動させてから,同様に当該自動移動式ステージ4を右方向に移動させながら画像をメモリに取込むという動作を,ステージ制御座標値を変えながら(k2-1)回繰り返すという(c)の動作を行って,k2枚の静止画像を取得しているところ,当該(b)の動作により取得される静止画像が,本願補正発明の「第一の画像ストリップ」に相当し,前記(c)の動作により取得される静止画像のうちの最初に得られる静止画像及び最後に得られる静止画像が,本願補正発明の「第二の画像ストリップ」及び「最後の画像ストリップ」にそれぞれ相当するから,引用発明の「ラインセンサカメラ1A」は,連続した複数の画像ストリップを得るために,第一の画像ストリップを取得し,続いて,第二の画像ストリップを取得し,最後の画像ストリップが取得されるまで,「標本3の所定領域」(顕微鏡試料の一つの部分)を「自動移動式ステージ4を右方向に移動させながら画像をメモリに取込む動作」(スキャン)を行うように構成されたものである。
したがって,引用発明は,本願補正発明の「顕微鏡対物レンズと光学的に結合し,単一のライン画像の収集を行なうために一次元配列された複数の光応答性要素を備えた一次元スキャンカメラであって,前記一次元スキャンカメラは,連続した複数の画像ストリップを得るために,第一の画像ストリップを取得し,続いて,第二の画像ストリップを取得し,最後の画像ストリップが取得されるまで,前記顕微鏡試料の前記一つの部分をスキャンするように構成された,少なくとも一つの一次元スキャンカメラ」を有するという発明特定事項に相当する構成を具備している。

カ 引用発明において,ラインセンサカメラ1Aの各画素が出力する電気信号がアナログデータであり,メモリに取込まれる「静止画像群」がデジタルデータであることは,技術常識から自明であるから,ラインセンサカメラ1Aと受信装置5のどちらに設けられているのかは不明であるものの,引用発明が,ラインセンサカメラ1Aの各画素が出力するアナログデータである電気信号を,メモリに取込むためのデジタルデータである「静止画像群」にデジタル変換するAD変換装置を有していることが,当業者に自明である。
しかるに,当該AD変換装置がラインセンサカメラ1Aに設けられている場合には,当該AD変換装置と受信装置5とからなる構成が,本願補正発明の「データ処理装置」に相当し,前記AD変換装置が受信装置5に設けられている場合には,AD変換装置が設けられた受信装置5が,本願補正発明の「データ処理装置」に相当する。
そして,引用発明の受信装置5は,メモリに取込んだ「静止画像群」をメモリ上で平面的な位置関係に矛盾が生じないようにつなぎ合わせて,メモリ上に全体参照画像を作成するという動作を行うところ,当該動作を「静止画像群」の処理及び格納ということができる。
したがって,引用発明の「『AD変換装置と受信装置5とからなる構成』又は『AD変換装置が設けられた受信装置5』」(データ処理装置)は,「静止画像群」(各画像ストリップ)の画像データをデジタル化,処理,および格納するように構成されたものである。
よって,引用発明は,本願補正発明の「各画像ストリップの画像データをデジタル化,処理,および格納するように構成されたデータ処理装置」を有するという発明特定事項に相当する構成を具備している。

キ 引用発明において,「メモリ」(データ記憶装置)に取込んだ「静止画像群」(各画像ストリップ)がデジタル画像であることは自明である。
したがって,引用発明は,本願補正発明の「各画像ストリップのデジタル画像を格納するように構成されたデータ記憶装置」を有するという発明特定事項に相当する構成を具備している。

ク 前記アないしキから,本願補正発明と引用発明とは,
「顕微鏡試料の一つの部分の一つの切れ目のないデジタル画像を作成するためのシステムであって,
顕微鏡試料を載置するように構成され,前記顕微鏡試料のスキャン中,前記顕微鏡試料をスキャン方向に移動するように構成された電動ステージと,
前記顕微鏡試料の前記一つの部分を観察するための少なくとも一つの顕微鏡対物レンズと,
前記顕微鏡対物レンズと光学的に結合し,単一のライン画像の収集を行なうために一次元配列された複数の光応答性要素を備えた一次元スキャンカメラであって,前記一次元スキャンカメラは,連続した複数の画像ストリップを得るために,第一の画像ストリップを取得し,続いて,第二の画像ストリップを取得し,最後の画像ストリップが取得されるまで,前記顕微鏡試料の前記一つの部分をスキャンするように構成された,少なくとも一つの一次元スキャンカメラと,
前記各画像ストリップの画像データをデジタル化,処理,および格納するように構成されたデータ処理装置と,
前記各画像ストリップのデジタル画像を格納するように構成されたデータ記憶装置と,
を含む,システム。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点1:
本願補正発明では,顕微鏡試料のスキャン中における電動ステージのスキャン方向への移動が実質的に一定速度であるのに対して,
引用発明では,自動移動式ステージ4を右方向に移動させながら画像をメモリに取込むという動作中における自動移動式ステージ4の移動速度が,実質的に一定か否かは定かでない点。

相違点2:
本願補正発明は,顕微鏡試料の一つの部分を照明するように構成された照明システムを有しており,顕微鏡対物レンズによる顕微鏡試料の一つの部分の観察が,照明された状態で行われるのに対して,
引用発明では,顕微鏡2の具体的な構成は特定されておらず,本願補正発明のような照明システムを有しているのか否かは不明な点。

相違点3:
本願補正発明は,顕微鏡試料のスキャン中の,顕微鏡対物レンズからの光学信号を合焦するように構成された,少なくとも一つの一次元スキャンカメラ合焦光学系を有し,ピエゾポジショナーが顕微鏡対物レンズに設けられ,スキャンのための電動ステージの移動と並行して,スキャン中の単一のライン画像の収集毎に焦点調整するために,ピエゾポジショナーによって対物レンズが垂直方向に移動するように制御されるのに対して,
引用発明では,顕微鏡2の具体的な構成は特定されていないため,本願補正発明のような一次元スキャンカメラ合焦光学系を有するものとはいえず,かつ,本願補正発明のようなピエゾポジショナーを有し,本願補正発明のような制御を行うものとはいえない点。

(4)判断
ア 相違点1について
対象物をスキャンして画像データを取得する際に,一定速度でスキャンすることは,例えば,当審拒絶理由通知で例示した特開平11-238113号公報(【0026】等を参照。)や,特開平9-37005号公報(【0028】等を参照。)等に示されるように,本願優先日より前に周知であるところ,引用発明において,自動移動式ステージ4を右方向に移動させながら画像をメモリに取込むというスキャン動作の途中で,自動移動式ステージ4の移動速度を実質的に変化させなければならないような事情は見当たらないから,引用発明において,自動移動式ステージ4を実質的に一定速度で右方向に移動させながら画像をメモリに取込むように構成することは,引用発明を具体化するに際して,当業者が適宜なし得た設計上の事項にすぎない。
したがって,引用発明を,相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

イ 相違点2について
顕微鏡に照明システムを設け,標本の観察位置を照明するよう構成することは,例えば,引用例2(前記(2)イ(ア)eのストロボ照明装置105に関する記載を参照。)等に示されるように,本願優先日前に周知であって,照明システムを有さない顕微鏡は,技術常識からはおよそ考え難いところ,例え,引用例1に明記がなくとも,引用発明の顕微鏡2は,照明システムを有しており,標本3の観察位置を照明するよう構成されていると解するのが相当である。
したがって,引用発明が,相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備していることは,引用例1に記載されたも同然の事項であって,相違点2は実質的な相違点ではない。
なお,仮に,相違点2を実質的な相違点として検討したとしても,引用発明において,引用例2記載のストロボ照明装置105を設けることは,当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
(ア) 引用発明は,遠隔病理診断のために,病理医側のパソコンである受信装置7において全体参照画像を表示し,高倍率の高精細画像を取得したい領域の中心の位置である注視位置を指定するよう構成されているところ,前記全体参照画像が,異常細胞等の注視位置として指定すべき位置にピントの合っていない画像であったり,病気とは無関係なアーティファクト等にピントが合ってしまった画像である場合,異常細胞等を見落としてしまうという,前記(2)イ(イ)で認定した引用文献2記載の技術が解決しようとする課題が生じてしまうおそれがあることは,当業者に自明である。
そうすると,当該課題を解決し,異常細胞等の注視位置として指定すべき位置にはピントが合い,病気とは無関係なアーティファクト等にピントが合っていない全体参照画像を作成するために,引用発明において,引用文献2記載の技術を適用し,全体参照画像を作成する前に,標本3に対してあらかじめ定めた複数の焦点深度から複数の画像を得,複数の画像の各々において,あらかじめ定めた一組の特徴を測定し,その複数の画像の各々にたいして少なくとも一つの画像測定値を生成し,当該画像測定値に基づいて複数の画像の各々について焦点測定値を計算し,得られた画像が最高焦点測定値を持つ焦点深度にたいして,最良焦点位置を定めるという方法によって,標本3の焦点面モデルを作成しておき,全体参照画像を作成するために,自動移動式ステージ4を右方向に移動させながら画像をメモリに取込む際には,当該焦点面モデルを用いて標本3に焦点を結ぶようにするような構成とすることは,引用例2の記載に接した当業者が容易に想到し得たことというほかない。

(イ) ここで,引用発明において,全体参照画像を作成するために取得する静止画像は,自動移動式ステージ4を右方向に移動させながらラインセンサカメラ1Aによって取込んだ画像なのであって,当該ラインセンサカメラ1Aによる画像の取込みが,自動移動式ステージ4の右方向への一定距離の移動毎に行われることは,技術常識から明らかである。
しかるに,所定の位置にピントが合った画像を得るためには,画像の取り込み前にピント合わせ動作を完了させておく必要があることは技術常識であるから,前記(ア)で述べた構成の変更を行った引用発明において,異常細胞等の注視位置として指定すべき位置にはピントが合い,病気とは無関係なアーティファクト等にピントが合っていない全体参照画像を作成するためには,作成しておいた焦点面モデルに基づくピント合わせ動作を,ラインセンサカメラ1Aによる前記一定距離の移動毎の画像の取込み毎に,当該取込み動作の開始前には完了させておく必要があることは,当業者に自明である。
したがって,引用発明において,自動移動式ステージ4の右方向への移動と並行して,ラインセンサカメラ1Aによる前記一定距離の移動毎の画像の取込み毎(相違点3に係る本願補正発明の「スキャン中の単一のライン画像の収集毎」に相当する。)に,ピント合わせ動作(相違点3に係る本願補正発明の「焦点調整」に相当する。)を行うことは,前記(ア)で述べた構成の変更に伴って,当業者が当然に行う設計上の事項である。

(ウ) さらに,前記(2)ウ(エ)において認定したように,「光学系として,観察物からの光を光軸に平行な光線とする対物レンズと,当該光軸に平行な光を集光して結像する結像レンズとを有する無限遠補正光学系を採用し,対物レンズをピエゾ素子等の駆動部により移動させて,焦点調節を行う」技術(周知技術)を採用することで,ピントを合わせるための駆動部を小型・軽量化でき,高速・高精度なオートフォーカスが実現できることが,本願優先日より前に周知であったところ,引用発明において,前記(ア)で述べた構成の変更を行うに際して,顕微鏡2の光学系を無限遠補正光学系として構成し(無限遠補正光学系における「結像レンズ」が相違点3に係る本願補正発明の「一次元スキャンカメラ合焦光学系」に相当する。),ピント合わせ動作を行う駆動部として対物レンズを移動させるピエゾ素子(相違点3に係る本願補正発明の「対物レンズ」を「垂直方向に移動」させる「ピエゾポジショナー」に相当する。)を採用することは,引用例2記載の技術の適用に際して,当業者が適宜なし得た設計上の事項である。

(エ) 以上のとおりであるから,引用発明を,「顕微鏡試料のスキャン中の,顕微鏡対物レンズからの光学信号を合焦するように構成された,少なくとも一つの一次元スキャンカメラ合焦光学系を有し,ピエゾポジショナーが顕微鏡対物レンズに設けられ,スキャンのための電動ステージの移動と並行して,スキャン中の単一のライン画像の収集毎に焦点調整するために,ピエゾポジショナーによって対物レンズが垂直方向に移動するように制御される」という相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献2記載の技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に相当し得たことである。

オ 効果について
本願補正発明が有するとされた効果は,引用例1及び引用例2の記載,並びに周知技術に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおりであって,本願補正発明は,引用発明,引用例2記載の技術,及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願の請求項1に係る発明について
1 本願の請求項1に係る発明
本件補正は前記のとおり却下されたので,本件の請求項1ないし19に係る発明は本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載されたとおりのものであるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,前記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として示したとおりのものである。

2 当審拒絶理由の概要
本願発明に対して通知した当審拒絶理由の一つは,概略,本願発明は,引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて,本願優先日より前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 判断
(1)引用例
当審拒絶理由に引用された引用文献1及び引用文献2は,それぞれ,前記第2〔理由〕4(2)で述べた引用例1及び引用例2であるところ,当該引用文献1の記載及び引用文献1に記載された発明(引用発明),並びに,引用文献2の記載及び引用文献2に記載された技術的事項(引用例2記載の技術)については,前記第2〔理由〕4(2)ア及びイのとおりであり,本願優先日より前に周知の技術的事項(周知技術)については,前記第2〔理由〕4(2)ウのとおりである。

(2)対比・判断
本願補正発明は,上記第2〔理由〕3のとおり,本願発明の発明特定事項を限定したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が,上記第2〔理由〕4(4)及び(5)に記載したとおり,引用発明,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-10 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-27 
出願番号 特願2011-109646(P2011-109646)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 居島 一仁鉄 豊郎  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 清水 康司
道祖土 新吾
発明の名称 全自動迅速顕微鏡用スライドスキャナ  
代理人 藤田 和子  
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