• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1321596
審判番号 不服2015-17441  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-25 
確定日 2016-11-09 
事件の表示 特願2014-519584号「断熱材」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月14日国際公開、WO2013/034455、平成26年 7月28日国内公表、特表2014-518367号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)8月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年9月6日(RU)ロシア、2012年4月23日(GB)英国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月8日に特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書が提出され、平成26年11月25日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月27日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月20日付けで拒絶査定がされ、同年9月25日に拒絶査定不服審判が請求され、同年10月26日に審判請求書を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 当審の判断
1 本願発明
本願の請求項1?24に係る発明は、平成27年2月27日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「喫煙材を加熱して、喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるように構成されたヒーターと、
断熱材とを含み、該断熱材は、
第1の境界セクション、第2の境界セクションおよびこれらのセクションを互いに接続する第3の境界セクションを含む境界と、
この境界の内側に位置し、第1の境界セクションを第2の境界セクションから断熱するように構成された内部断熱領域とを含み、
第3の境界セクションは、第1の境界セクションと第2の境界セクションの間の間接経路に続き、この間接経路が非直線状の経路である装置。」

2 刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明並びに技術的事項
(1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に「引用文献3」として示され、本願の優先日前に頒布された特開2010-178730号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。)

「【0034】
本願発明による治具は、図1に1つの実施例の外観を示す。治具100は、フィルター付き紙巻き煙草90を挿入する煙草挿入口9と、突起部10と、動作状態を示す表示器5と、外部からの電力を受取るコネクター6(図2に図示)と、外部空気取り入れ口8と図2中に示す内部構成品からなる。」


「【0035】
図2は、図1のA-A’切断線による内部構造説明図である。ヒータースリーブ7を持った細いヒーター1と、ヒーター1の熱が外部ケース3に伝導することを防ぐ熱的絶縁管2と、外部空気取り入れ口8を持った外側ケース3と、フィルター付き紙巻き煙草の挿入停止位置を決めるストッパー4と、この治具の動作状態を表示する表示器5と、外部からの電力を受取るコネクター6と、により本願発明治具は、基本的に構成される。・・・」


「【0037】
本願発明による治具100の使い方は、以下に示すような手順で使用される。
1. 喫煙者は、自分の好みのフィルター付き紙巻き煙草90を、治具100の煙草挿入口9に、ストッパー4で止まる所まで挿入する。これにより、細いヒーター1が、フィルター付き紙巻き煙草90の煙草部92中に挿入される。この挿入された状態の本願治具と挿入されたフィルター付き紙巻き煙草90との位置関係を、図4に示す。
2. 喫煙者は、本願治具のコネクター6より電力を供給し、ヒーター1の温度上昇により煙草部92の葉が、直接加熱され、ニコチンが蒸発するまで待つ。ここで、表示器5は、吸引可能になったことを知らせる時もあるが、単に加熱状態のみを表示する時もある。
3. 喫煙者は、煙草の葉が加熱され、煙草の葉からニコチンが蒸発し始めると、本願治具に、フィルター付き煙草90を挿入したまま、あるいは、本願治具から、フィルター付き煙草90を抜き出して、フィルター91から、煙草の葉から蒸発しているニコチンを吸引する。
4. 以後、該フィルター付き煙草90の煙草の葉からのニコチンの蒸発が無くなるまで2,3を繰り返す。」

(2)刊行物1に記載された発明
上記(1)から、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「フィルター付き紙巻き煙草90を加熱して、フィルター付き紙巻き煙草90のニコチンを蒸発させるように構成されたヒーター1と、
ヒーター1の熱が外部ケース3に伝導することを防ぐ熱的絶縁管2とを含む治具100。」

(3)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に「引用文献1」として示され、本願の優先日前に頒布された特開平11-125390号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

「【請求項1】 同軸上で一定の間隔を保った内管と外管とからなる断熱真空二重管において、
前記内管と前記外管とを接続する遮蔽壁としてステンレスべローを配設し、前記内管と前記外管との間の空間を密封し真空状態としてなること、
を特徴とする断熱真空二重管。」


「【0009】
前記構成によれば、内管と外管の遮蔽壁部分において、べロー構造としたことにより、熱伝導性が低くなり外管からの熱の発散を防止することができ、・・・」


「【0014】
内管1と外管2との間の空間部9を密封するための遮蔽壁部分において、図2に示すように、内管1の外周面上に固定部材7が固着され、外管2の端部2aの内周面に固定部材8が固着されている。固定部材7と固定部材8の間に円筒状のステンレスべロー5が固定され、内管1と外管2との間の空間部9を密封状態としている。ステンレスべロー5は、べロー構造のため伸縮性に優れ、熱伝導性が低く、その上、熱伝導率の低いステンレスを材料としているので、高い断熱性を有している。」

(4)刊行物2に記載の技術的事項
上記(3)より、刊行物2には次の技術的事項(以下、「刊行物2に記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認める。
「内管1と外管2と、前記内管1の外周面上に固着された固定部材7と、前記外管2の端部2aの内周面に固着された固定部材8と、前記固定部材7と前記固定部材8の間に固定されたステンレスベロー5とにより前記内管1と前記外管2との間の空間部9を密封し真空状態としてなる断熱真空二重管。」

3 対比
(1)本願発明の「第3の境界セクションは、第1の境界セクションと第2の境界セクションの間の間接経路に続き、この間接経路が非直線状の経路である」という事項の解釈について
上記事項の解釈について検討する。
まず、前提として、請求項1の「第1の境界セクション、第2の境界セクションおよびこれらのセクションを互いに接続する第3の境界セクションを含む境界と、」という記載より、「第3の境界セクション」は、「第1の境界セクション」と「第2の境界セクション」を「互いに接続する」ものといえる。
また、本願明細書の段落【0082】に、【図18】の説明として、「熱橋23による熱損失を小さくするために熱橋23を延ばしてその抵抗を増加させ、内方に向いたセクション21から外方に向いたセクション22への流れを加熱するようにしてもよい。これを略式に図18に示す。例えば熱橋23は、壁19の内方に向いたセクション21および壁19の外方に向いたセクション22の間の間接的な経路に続いてもよい。・・・」と記載され、【図18】には、「熱橋23」が図面における右方で蛇腹状に構成される形状の態様が記載されている。
そして、特許請求の範囲の記載(請求項1、7、8)と同様内容を記載したにすぎない段落【0010】?【0012】を除けば、本願明細書や図面には上記【図18】に係る例の「熱橋23」以外の「非直線状の経路」に対応するような具体的な記載はない。
これらのことから、本願発明における「第3の境界セクション」とは、発明の詳細な説明における「熱橋」が対応するものであり、「間接経路」とは、第1の境界セクションと第2の境界セクションを互いに接続する「第3の境界セクション」とは別部材として構成され「第3の境界セクション」に付加して設けられるものではなく、「第3の境界セクション」の一部として構成されているものと解釈するのが相当である。
したがって、以降この解釈を前提として、対比・判断を行うこととする。

(2)本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「フィルター付き紙巻き煙草90」は本願発明の「喫煙材」に相当し、以下同様に、「ヒーター1」は「ヒーター」に、「熱的絶縁管2」は「断熱材」に、「治具100」は「装置」に相当する。


引用発明の「ニコチンを蒸発させる」という事項は、本願発明の「少なくとも1つの成分を揮発させる」という事項とは「少なくとも1つの成分を揮発させる」という限度で一致するといえる。


そうすると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「喫煙材を加熱して、喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるように構成されたヒーターと、
断熱材とを含む装置。」

[相違点]
本願発明の「断熱材」が、
「第1の境界セクション、第2の境界セクションおよびこれらのセクションを互いに接続する第3の境界セクションを含む境界と、
この境界の内側に位置し、第1の境界セクションを第2の境界セクションから断熱するように構成された内部断熱領域とを含み、
第3の境界セクションは、第1の境界セクションと第2の境界セクションの間の間接経路に続き、この間接経路が非直線状の経路である」
というものであるものであるのに対し、引用発明の「熱的絶縁管2」(「断熱材」に相当)は当該事項を有していない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)
刊行物2に記載の技術的事項における「内管1」、「外管2」、「前記内管1の外周面上に固着された固定部材7と、前記外管2の端部2aの内周面に固着された固定部材8と、前記固定部材7と前記固定部材8の間に固定されたステンレスベロー5」及びそれら3つの事項は、内側に「空間部9」を構成するものであるから、それぞれ、本願発明の「第1の境界セクション」、「第2の境界セクション」、「第3の境界セクション」及び「境界」に相当するといえる。
また、前者の「空間部9」は、「真空状態」とすることにより「内管1」を「外管2」から断熱するものであるから、後者の「内部断熱領域」に相当するといえる。
そして、前者の「ステンレスベロー5」は「非直線状」の構成をなすものであるから、前者の「前記内管1の外周面上に固着された固定部材7と、前記外管2の端部2aの内周面に固着された固定部材8と、前記固定部材7と前記固定部材8の間に固定されたステンレスベロー5」は、後者の「第3の境界セクションは、第1の境界セクションと第2の境界セクションの間の間接経路に続き、この間接経路が非直線状の経路である」に相当するといえる。

(2)
ここで、引用発明の「熱的絶縁管2」は、ヒーター1の熱が外部ケース3に伝導することを防ぐためのものであるから、特段事情のない限り、断熱性が高いものである方が望ましいことは自明のことである。
そして、一般に断熱を必要とする機器等において、真空断熱は技術分野を問わず周知・慣用の技術手段にすぎない。
以上のことを踏まえると、引用発明の「熱的絶縁管2」も、刊行物2に記載の技術的事項の「内管1」、「外管2」、「前記内管1の外周面上に固着された固定部材7と、前記外管2の端部2aの内周面に固着された固定部材8と、前記固定部材7と前記固定部材8の間に固定されたステンレスベロー5」及び「空間部9」からなる真空断熱の手段も、断熱手段ということではその作用機能は共通するものであって、一般に課題を解決しようとするにあたり、それと同等かあるいはより優れた置換可能な技術手段があれば、その採用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないことから、引用発明の「熱的絶縁管2」に代えて、刊行物2に記載の技術的事項の「内管1」、「外管2」、「前記内管1の外周面上に固着された固定部材7と、前記外管2の端部2aの内周面に固着された固定部材8と、前記固定部材7と前記固定部材8の間に固定されたステンレスベロー5」及び「空間部9」からなる真空断熱の手段を採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことといえ、かつ、当該採用を阻害するような要因も見当たらない。
したがって、引用発明において上記相違点に係る事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、その効果についても引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項から当業者が予測できる範囲のものといえる。

(3)
よって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 審判請求書における主張の検討
請求人は、平成27年10月26日付け手続補正により補正された審判請求書において、当審の刊行物1(原査定における引用文献3)及び刊行物2(同引用文献1)について、以下の主張をしているので検討する。
「引用文献1は外管と内管とからなる断熱二重管を開示しています。また引用文献1には内管と外管との間にステンレスベロー5が配設され、内管と外管との間の空間を密封状態とし、空気抜き弁4により真空引きしてあると記載されています。このベロ-は単に真空を生じやすくするために使用されているに過ぎません。そしてベロー5によって断熱のための技術的利点が得られることも開示されていません。引用文献1の二重管は、本発明の請求項1に記載の喫煙材を加熱するための装置とは異なり、携帯用に設計されたものではありません。従って携帯用の喫煙材加熱装置の断熱に関する問題点を解決するために引用文献1を当業者が参照することはないと思料致します。仮に当業者が引用文献1を参照したとしても、当業者はベローが真空を生じさせるということ以外の利点を教示されず、従って当業者はベローを喫煙材を加熱するための装置に適用しようとはしないはずです。」
と主張し、
「引用文献3は無煙喫煙治具を開示しています。この治具では断熱は熱的絶縁管2によって行われています。しかしながら、本発明の後知恵無しに当業者は引用文献3の治具を本願請求項1に記載のように変えることは動機付けられることはないと思料します。そして当業者は、「喫煙品」、「液体貯蔵容器」、「二重管」といった異なる技術分野の文献を組み合わせることを想起することはないと思料します。」
と主張している。

しかしながら、上記2(3)イに「べロー構造としたことにより、熱伝導性が低くなり外管からの熱の発散を防止することができ」との記載があり、上記2(3)ウに「ステンレスべロー5は、べロー構造のため伸縮性に優れ、熱伝導性が低く、その上、熱伝導率の低いステンレスを材料としているので、高い断熱性を有している。」との記載があるように、刊行物2に記載される「ステンレスベロー5」は断熱のための技術的利点を得るものであることは明らかであって、「ベローが真空を生じさせるということ以外の利点」がなく「断熱のための技術的利点」がないとする請求人の主張は失当である。
また、引用発明において「ステンレスベロー5」をベロー構造としたことにより熱伝導性を低くする作用効果は、本願明細書の段落【0082】の「熱橋23による熱損失を小さくするために熱橋23を延ばしてその抵抗を増加させる。」ということと同様のものであることは当業者にとって明らかといえる。
そして、引用発明の「熱的絶縁管2」に代えて、刊行物2に記載の技術的事項の「内管1」、「外管2」、「前記内管1の外周面上に固着された固定部材7と、前記外管2の端部2aの内周面に固着された固定部材8と、前記固定部材7と前記固定部材8の間に固定されたステンレスベロー5」及び「空間部9」からなる真空断熱の手段を採用することが当業者にとって容易に想到し得たことであるのは、上記4(2)で述べたとおりである。
したがって、上記主張はいずれも採用できない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-08 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-27 
出願番号 特願2014-519584(P2014-519584)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 森林 宏和
一ノ瀬 覚
発明の名称 断熱材  
代理人 森田 順之  
代理人 轟木 哲  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ