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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1321604
審判番号 不服2015-20962  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-25 
確定日 2016-11-29 
事件の表示 特願2010-188909号「タイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 8日出願公開、特開2012- 46026号、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年8月25日の出願であって、平成26年5月12日付けで拒絶理由が通知され、同年7月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月16日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月5日付けで意見書及び補正書が提出されたが、同年8月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年11月25日付けの手続補正の適否
1.補正の内容
平成27年11月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、次の補正事項を含んでいる。
(なお、下線は補正箇所を明示するために付したものである。)
(1)補正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、次のとおりとする。
「【請求項1】
少なくとも、熱可塑性樹脂材料で形成された環状のタイヤ骨格体を有するタイヤであって、
前記タイヤ骨格体は、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回された被覆補強コード部材を含む補強コード層を有し、
前記被覆補強コード部材は、コード部材と、前記タイヤ骨格体を形成する前記熱可塑性樹脂材料とは別体でありかつゴム以外の樹脂を少なくとも含む被覆用樹脂材料からなり前記コード部材を被覆する被覆層と、を有し、
前記熱可塑性樹脂材料が、少なくともポリエステル系熱可塑性エラストマーとゴムとを主成分として含み、
かつ前記熱可塑性樹脂材料が、さらに前記ゴムとの親和性がよいゴム親和熱可塑性エラストマーを含む場合には下記(a-1)及び(a-2)の条件を満たし、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを含まない場合には下記(b-1)及び(b-2)の条件を満たすタイヤ。
条件(a-1):前記熱可塑性樹脂材料において、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)と、前記ゴム(y)及び前記ゴム親和熱可塑性エラストマー(z)と、の質量比(x:y+z)が、95:5?50:50である。
条件(a-2):前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ゴムと、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーと、の合計含有量が、50質量%?100質量%である。
条件(b-1):前記熱可塑性樹脂材料において、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)と前記ゴム(y)との質量比(x:y)が、95:5?50:50である。
条件(b-2):前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーと前記ゴムとの合計含有量が、50質量%?100質量%である。」
(2)補正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、次のとおりとする。
「【請求項2】
前記熱可塑性樹脂材料が、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを含み、前記(a-1)及び(a-2)の条件を満たし、
前記ゴムと前記ゴム親和熱可塑性エラストマーとが、少なくとも部分的に、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーの分散粒子内に前記ゴムを取り込んだ状態、及び前記ゴムの分散粒子内に前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを取り込んだ状態の少なくとも一方の状態である請求項1に記載のタイヤ。」
(3)補正事項3
特許請求の範囲の請求項3?5を、次のとおりとする。
「【請求項3】
前記ゴム親和熱可塑性エラストマーは、酸基が導入された酸変性熱可塑性エラストマーである請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム親和熱可塑性エラストマーは、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、及びポリウレタン系熱可塑性エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種である請求項2又は3に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ゴムは、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ブタジエンゴム、及びエチレン-プロピレン-ジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
且つ前記ゴム親和熱可塑性エラストマーは、前記ゴムがスチレン-ブタジエン共重合ゴムを含む場合はポリスチレン系熱可塑性エラストマーを含み、前記ゴムがブタジエンゴム及びエチレン-プロピレン-ジエンゴムからなる群より選択される少なくとも1種を含む場合はポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを含む、請求項2?請求項4のいずれか1項に記載のタイヤ。」
(4)補正事項4
補正前の特許請求の範囲の請求項6?9を削除する。
(5)補正事項5
補正前の特許請求の範囲の請求項10、11を請求項6、7とするとともに、次のとおりとする。
「【請求項6】
前記補強コード層の外周面の少なくとも一部が凹凸部であり、前記凹凸部は算術平均粗さRaが0.05mm以上である請求項1?請求項5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記補強コード層を有する前記タイヤ骨格体は、外周面に算術平均粗さRaが0.05mm以上の凹凸を有しており、前記タイヤ骨格体の前記凹凸を有する外周面に接合剤を介してタイヤ構成ゴム部材が積層された請求項1?請求項6のいずれか1項に記載のタイヤ。」
(6)補正事項6
補正前の特許請求の範囲の請求項12?15を請求項8?11とするとともに、次のとおりとする。
「【請求項8】
前記被覆補強コード部材の前記タイヤ骨格体の上面に設置した際の断面形状は、前記断面形状のタイヤ径方向外側の辺がタイヤ径方向内側の辺と同等又は前記タイヤ径方向外側の辺が前記タイヤ径方向内側の辺よりも短い請求項1?請求項7のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記補強コード層として、周方向に巻回された前記被覆補強コード部材を有する層のみ有する請求項1?請求項8のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記被覆用樹脂材料が熱可塑性樹脂を少なくとも含む請求項1?請求項9のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記被覆用樹脂材料がポリエステル系熱可塑性エラストマーとゴムとを少なくとも含む請求項1?請求項10のいずれか1項に記載のタイヤ。」
(7)補正事項7
明細書の段落【0007】、【0014】、【0017】?【0020】の記載を、次のとおりとする。
「【0007】
(1)本発明のタイヤは、少なくとも、熱可塑性樹脂材料で形成された環状のタイヤ骨格体を有するタイヤであって、前記タイヤ骨格体は、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回された被覆補強コード部材を含む補強コード層を有し、前記被覆補強コード部材は、コード部材と、前記タイヤ骨格体を形成する前記熱可塑性樹脂材料とは別体でありかつゴム以外の樹脂を少なくとも含む被覆用樹脂材料からなり前記コード部材を被覆する被覆層と、を有し、前記熱可塑性樹脂材料は、少なくともポリエステル系熱可塑性エラストマーとゴムとを主成分として含み、かつ前記熱可塑性樹脂材料が、さらに前記ゴムとの親和性がよいゴム親和熱可塑性エラストマーを含む場合には下記(a-1)及び(a-2)の条件を満たし、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを含まない場合には下記(b-1)及び(b-2)の条件を満たすタイヤである。
条件(a-1):前記熱可塑性樹脂材料において、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)と、前記ゴム(y)及び前記ゴム親和熱可塑性エラストマー(z)と、の質量比(x:y+z)が、95:5?50:50である。
条件(a-2):前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ゴムと、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーと、の合計含有量が、50質量%?100質量%である。
条件(b-1):前記熱可塑性樹脂材料において、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)と前記ゴム(y)との質量比(x:y)が、95:5?50:50である。
条件(b-2):前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーと前記ゴムとの合計含有量が、50質量%?100質量%である。」
「【0014】
(2)前記熱可塑性樹脂材料は、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを含み、前記(a-1)及び(a-2)の条件を満たし、前記ゴムと前記ゴム親和熱可塑性エラストマーとが、少なくとも部分的に、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーの分散粒子内に前記ゴムを取り込んだ状態、及び前記ゴムの分散粒子内に前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを取り込んだ状態の少なくとも一方の状態であってもよい。熱可塑性樹脂材料が、ゴムとの親和性が良い熱可塑性エラストマーとして、例えば、酸変性体を含有した場合、熱可塑性樹脂材料中にゴムを微分散することができる。更にポリエステル系熱可塑性エラストマーと酸変性部位との相互作用により、引張強さを向上し、仮に破壊した場合でも延性破壊を生じ、脆性破壊や層状破壊が起こり難いと考えられる。
なお、「ゴムとの親和性が良い」とは、熱可塑性エラストマーをゴムと共に混ぜ合わせた時に、ゴムの分子骨格と熱可塑性エラストマーの分子骨格とが類似しており、熱可塑性エラストマーの分散粒子内にゴムを取り込んだ状態、または、ゴムの分散粒子内に熱可塑性エラストマーを取り込んだ状態を言う。
但し、熱可塑性樹脂材料中の熱可塑性エラストマーとゴムとのすべてが上記状態である必要はなく、熱可塑性樹脂材料中の熱可塑性エラストマーとゴムとが部分的に上記状態であってもよい。」
「【0017】
本発明のタイヤは、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを含まない場合には、熱可塑性樹脂材料において、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)とゴム(y)との質量比(x:y)が、95:5?50:50であるように構成する。このように、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)とゴム(y)との質量比(x:y)を95:5?50:50とすることで、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びゴムの組み合わせにより発現し得る性能をより向上することができる。
ただし、熱可塑性樹脂材料がポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを含む場合は、ゴムとポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーとの合計量(y’)と、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)との質量比(x:y’)が、95:5?50:50であるように構成することができる。」
「【0018】
本発明のタイヤは、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを含む場合には、熱可塑性樹脂材料において、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)と、ゴム(y)及びゴム親和熱可塑性エラストマー(z)と、の質量比(x:y+z)が、95:5?50:50であるように構成する。このように、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)と、ゴム(y)及びポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー(z)の合計量(y+z)と、の質量比(x:y+z)を95:5?50:50とすることで、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びゴムの組み合わせにより発現し得る性能をより向上することができる。」
「【0019】
本発明のタイヤは、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを含まない場合には、熱可塑性樹脂材料中のポリエステル系熱可塑性エラストマー及びゴムの合計含有量が、50?100質量%であるように構成する。上記構成とすることで、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びゴムの組み合わせにより発現し得る性能をより向上することができる。
ただし、熱可塑性樹脂材料がポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを含む場合は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、ゴムと、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーとの合計量が、50質量%?100質量%であるように構成することができる。」
「【0020】
本発明のタイヤは、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを含む場合には、前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ゴムと、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーと、の合計含有量が、50質量%?100質量%であるように構成する。上記構成とすることで、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びゴムの組み合わせにより発現し得る性能をより向上することができる。」

2.補正の適否
(1)補正事項1について
補正事項1は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「熱可塑性樹脂材料」の主成分である「ポリエステル系熱可塑性エラストマー」と「ゴム」とに関して、「さらにゴムとの親和性がよいゴム親和熱可塑性エラストマーを含む場合」と「含まない場合」とに分けて、「質量比」及び「合計含有量」についての限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 引用文献
(ア)引用文献1の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-116504号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(なお、下線は当審で付したものである。以下同様。)
a
「【0014】
【実施例】以下本発明の一実施例を図面に基づき説明する。図1において、空気入りタイヤ1は高分子材料からなるトロイド状のタイヤ本体2と、第1の補強層6a、第2の補強層6bと、トレッドゴム5とを加硫金型内での加硫によって一体化しており、又前記タイヤ本体2は、接合された一対の半環状のタイヤ片3L、3Rからなる。」
b
「【0017】そして各タイヤ片3L、3Rはその各張出し片10、10の先端部が、タイヤ赤道付近でタイヤ半径方向内外に重ね合わされ接合されることにより一体のタイヤ本体2を形成するとともに、該接合された張出し片10、10により従来タイヤのカーカスクラウンに相当する前記トレッド受部15が形成されている。
【0018】前記タイヤ片3L、3Rの高分子材料として、ポリエステル系エラストマーが用いられている。なお熱可塑性を有し、成形後に適正なる弾性と耐候性及び内圧に耐える引張り強度等を具えたものであれば、前記以外の高分子材料を採用しうる。
【0019】又タイヤ本体2の前記トレッド受部15のタイヤ円周方向外側には、本実施例では第1の補強層6aと第2の補強層6bとからなるベルト構体8が配される。第1の補強層6aは1枚以上、本例では1枚の補強プライからなり、この補強プライは補強コードをタイヤ円周方向に対して0度に近い角度で配列して形成される。
【0020】なお第1の補強層6aは、タイヤに要求される性能に応じてプライ数が設定され、又第1の補強層6aは、補強プライの補強コードをプライの一端より他端迄連続して巻装する他、タイヤ赤道より両側に向かってスパイラルに巻回して配置し、コードの傾きによるプル現象を防止することも可能である。
「【0021】又補強コードとしては金属繊維コードの他、低伸度かつ高強力の芳香族ポリアミド繊維コードを用いることができ、かかる場合、その撚り数は、35T/10cm以下とすることが好ましい。なお金属繊維コードを用いたときには、耐摩耗性をより向上でき、又芳香族ポリアミド繊維コードを用いたときには乗心地性をより高めうる。又第1の補強層6aは、本例ではゴム引きされた1本以上例えば10本の前記補強コードを同時にタイヤ円周方向に螺旋状に連続して巻回することにより形成され、低い打込み数でタイヤ本体2のクラウン部分を効果的に拘束し、例えば高速回転に伴うタイヤ本体2のリフティング等を抑制する。
【0022】又第1の補強層6はそのプライの厚さが0.5mm以上かつ1mm以下としかつ予め前記トレッド受部15外面に接着剤を介して添着される未加硫状態の軟質のゴムからなるクッシヨンゴムKによって補強コードを埋着する。」

上記記載事項及び【図1】の記載からみて、補正発明1の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物には次の発明(以下、「引用発明」)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「熱可塑性を有し、高分子材料として、ポリエステル系エラストマーが用いられている一対の半環状のタイヤ片3L、3Rを接合してなるタイヤ本体2を有する空気入りタイヤ1であって、
タイヤ本体2は、タイヤ本体2のタイヤ円周方向に螺旋状に連続して巻回するゴム引きされた1本以上の補強コードを含む補強層6aを有した、
空気入りタイヤ1。」

(イ)引用文献2に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-69745号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
c
「【0005】
本発明の目的は、重量の増加を招くことなく、タイヤ剛性を増加させ、タイヤ性能を向上することが可能な空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー組成物を分散してなる熱可塑性エラストマー組成物からなる層に、配列した補強コードを埋設してなる補強層を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上述した本発明によれば、補強コードをゴム層に埋設して構成した従来のものに代えて、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー組成物を分散してなる、ゴムよりも剛性が高い熱可塑性エラストマー組成物からなる層に、配列した補強コードを埋設して補強層を構成したので、補強層の剛性を従来のものより高めることができる一方、補強層の層数を増加させないので、重量の増加を招くことがない。
【0008】
従って、重量の増加を招くことなく、例えば、カーカス層に補強層の構成を採用した場合には、ケーシング剛性を高めて操縦安定性を向上することができる一方、ベルト層に補強層の構成を用いた場合には、コーナリングパワー(従って、高速操縦安定性)と騒音性能を改善することができ、またベルトカバー層に補強層の構成を使用した場合には、ベルト層の耐エッジセパレーション性を向上させて高速耐久性を高めることができ、タイヤ性能の向上が可能になる。」
d
「【0009】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。
【0010】
左右のビード部3間に、タイヤ径方向に延在するナイロンコードなどの有機繊維コードからなる補強コードをタイヤ周方向に配列した2層のカーカス層4が延設され、その両端部がビード部3に埋設したビードコア5の周りにビードフィラー6を挟み込むようにしてタイヤ内側から外側に折り返されている。
【0011】
トレッド部1のカーカス層4の外周側には、タイヤ周方向に対して傾斜して延在するスチールコードやアラミドコードなどの有機繊維コードからなる補強コードをタイヤ周方向に配列した2層のベルト層7が設けられている。ベルト層7の外周側には、タイヤ周方向に延在するナイロンコードなどの有機繊維コードからなる補強コードをタイヤ幅方向に配列した1層のベルトカバー層8が配置してある。
【0012】
本発明では、上述したカーカス層4、ベルト層7、ベルトカバー層8(以下、これらを総称して補強層10と言う)の内の少なくも1つ補強層10が、図2に示すように、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー組成物を分散してなる熱可塑性エラストマー組成物からなる層11に、配列した補強コード12を埋設した構成になっている。」

イ 対比
補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「一対の半環状のタイヤ片3L、3Rを接合してなるタイヤ本体2」は、補正発明1の「環状のタイヤ骨格体」に相当し、引用発明の「タイヤ片3L、3R」に「熱可塑性を有し、高分子材料として、ポリエステル系エラストマーが用いられている」ことは、補正発明1の「環状のタイヤ骨格体」が「少なくとも、熱可塑性樹脂材料で形成された」ことに相当する。
引用発明の「空気入りタイヤ1」は、補正発明1の「タイヤ」に相当する。
引用発明の「タイヤ本体2のタイヤ円周方向に螺旋状に連続して巻回するゴム引きされた1本以上の補強コード」は、補正発明1の「タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回された被覆補強コード部材」に相当し、引用発明の前記補強コード「を含む補強層6a」は、補正発明1の前記被覆補強コード部材「を含む補強コード層」に相当する。
引用発明の「ゴム引きされた1本以上の補強コード」は、補強コードがゴムで被覆されたものといえるので、引用発明の「補強コード」自体は、補正発明1の「被覆補強コード部材」を構成する「コード部材」に相当する。
引用発明の「ゴム引きされた1本以上の補強コード」の「ゴム」は、タイヤ本体2を構成するポリエステル系のエラストマーとは別の材質といえ、また、ゴム引きされた補強コードはタイヤ本体2のタイヤ円周方向に螺旋状に連続して巻回されるものでもあるので、タイヤ本体2とは別体といえ、そうすると、引用発明の「ゴム引きされた1本以上の補強コード」の「ゴム」は、補正発明1の「被覆補強コード部材」の「タイヤ骨格体を形成する熱可塑性樹脂材料とは別体でありかつゴム以外の樹脂を少なくとも含む被覆用樹脂材料からなりコード部材を被覆する被覆層」と、「タイヤ骨格体を形成する熱可塑性樹脂材料とは別体である被覆用材料からなりコード部材を被覆する被覆層」である限りにおいて一致する。
そうすると、補正発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
「少なくとも、熱可塑性樹脂材料で形成された環状のタイヤ骨格体を有するタイヤであって、
前記タイヤ骨格体は、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回された被覆補強コード部材を含む補強コード層を有し、
前記被覆補強コード部材は、コード部材と、前記タイヤ骨格体を形成する前記熱可塑性樹脂材料とは別体である被覆用材料からなりコード部材を被覆する被覆層と、を有した
タイヤ。」
〔相違点1〕補正発明1は、コード部材を被覆する被覆層が「ゴム以外の樹脂を少なくとも含む被覆用樹脂材料」であるのに対し、引用発明は、補強コードはゴム引きである点。
〔相違点2〕補正発明1は、タイヤ骨格体を形成する熱可塑性樹脂材料が、
「少なくともポリエステル系熱可塑性エラストマーとゴムとを主成分として含み、
かつ前記熱可塑性樹脂材料が、さらに前記ゴムとの親和性がよいゴム親和熱可塑性エラストマーを含む場合には下記(a-1)及び(a-2)の条件を満たし、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーを含まない場合には下記(b-1)及び(b-2)の条件を満たす」として、
「条件(a-1):前記熱可塑性樹脂材料において、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)と、前記ゴム(y)及び前記ゴム親和熱可塑性エラストマー(z)と、の質量比(x:y+z)が、95:5?50:50である。
条件(a-2):前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ゴムと、前記ゴム親和熱可塑性エラストマーと、の合計含有量が、50質量%?100質量%である。
条件(b-1):前記熱可塑性樹脂材料において、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(x)と前記ゴム(y)との質量比(x:y)が、95:5?50:50である。
条件(b-2):前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーと前記ゴムとの合計含有量が、50質量%?100質量%である。」
のに対し、引用発明は、タイヤ本体2を形成する成分とその質量比及び含有量に関し、そのような特定がない点。

ウ 判断
上記各相違点について以下検討する。
〔相違点1について〕
引用文献2には、タイヤの内周側から順に、カーカス層4、ベルト層7、ベルトカバー層8を補強層10として配置し、その内の少なくも1つの補強層10が、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー組成物を分散してなる熱可塑性エラストマー組成物からなる層11に、配列した補強コード12を埋設して形成されることが記載されている(上記ア(イ)d参照)。
しかしながら、引用文献2に記載のものの補強コード12は、熱可塑性エラストマー組成物からなる層11に埋設されて、カーカス層4、ベルト層7、ベルトカバー層8の少なくとも1つを構成するものであるので、補強コード12を被覆したものをタイヤの周方向に巻回しているとは認められない。
そうすると、引用発明に引用文献2に記載の事項を適用しても、相違点1に係る補正発明1の構成とすることはできない。
また、引用文献2に記載のものは、「熱可塑性樹脂材料で形成されたタイヤ骨格体」を有していないので、そのようなタイヤ骨格体「の外周部に周方向に巻回された」ものとも認められない。
そうすると、引用発明の「熱可塑性を有し、高分子材料として、ポリエステル系エラストマーが用いられている」「タイヤ本体2」の「タイヤ円周方向に螺旋状に連続して巻回するゴム引きされた1本以上の補強コード」のゴムに代えて、引用文献2に記載の事項を適用する動機付けはないといえる。
さらに、原査定の拒絶の理由で引用した他の引用文献にも、「熱可塑性樹脂材料で形成されたタイヤ骨格体」に「ゴム以外の樹脂を少なくとも含む被覆用樹脂材料」により被覆された「被覆補強コード部材」を巻回することを示唆するものはない。
そして、本願の明細書には次のとおり記載されている。
「【0015】
(3)本発明のタイヤは、前記補強コード層が樹脂材料を含むように構成することができる。このように、補強コード層に樹脂材料が含まれていると、補強コード部材をクッションゴムで固定する場合と比してタイヤと補強コード層との硬さの差を小さくできるため、更に補強コード部材をタイヤ骨格体に密着・固定することができる。これにより、上述のエア入りを効果的に防止することができ、走行時に補強コード部材が動くのを効果的に抑制することができる。ここで、「樹脂材料」とは、少なくとも樹脂を含む材料であり、樹脂のみならず、ゴムや無機化合物を含んでいてもよい。なお、「樹脂」とは、熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)及び熱硬化性樹脂を含む概念であり、加硫ゴム等のゴムや無機化合物を含まない。・・・」
上記段落の記載によれば、相違点1に係る補正発明1の構成により「補強コード部材を」熱可塑性樹脂材料で形成された「タイヤ骨格体に密着・固定することができる。これにより、上述のエア入りを効果的に防止することができ、走行時に補強コード部材が動くのを効果的に抑制することができる。」との作用効果を奏するものであり、このような作用効果は、引用発明及び他の引用文献に記載の事項から容易に予測しうるとはいえない。
したがって、引用発明を、相違点1に係る補正発明1の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
〔相違点2について〕
相違点2の、「タイヤ骨格体を形成する熱可塑性樹脂材料が」、「ポリエステル系熱可塑性エラストマーとゴムとを主成分として含」むとの事項は、原査定の拒絶の理由で引用したいずれの引用文献にも記載も示唆もされていない。
また、たとえ、原査定の引用文献中に「ポリエステル系熱可塑性エラストマーとゴムとを主成分として含」む「熱可塑性樹脂材料」をタイヤの一部に使用する例示があったとしても、タイヤの各部位に求められる性能が異なることに鑑みれば、タイヤ骨格体にまで用いることを容易であるとすることはできない。
したがって、引用発明を、相違点2に係る補正発明1の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるので、補正発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、ほかに特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする理由もない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2)補正事項2について
補正事項2は、補正前の請求項2の「ゴムとの親和性がよい熱可塑性エラストマー」との記載を「ゴム親和熱可塑性エラストマー」とするとともに、「熱可塑性樹脂材料」が当該「ゴム親和熱可塑性エラストマー」を含んだ状態を、発明の詳細な説明の段落【0014】、【0040】の記載に基づいて限定したものであって、補正前の請求項2に記載された発明と補正後の請求項2に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そして、本件補正後の請求項2に係る発明は、補正発明1を引用する発明であり、補正発明1をさらに限定した発明であるので、当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、また、ほかに特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする理由もない。
よって、本件補正の補正事項2は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(3)補正事項3について
補正事項3は、補正前の請求項3?5の「ゴムとの親和性がよい熱可塑性エラストマー」との記載を「ゴム親和熱可塑性エラストマー」とするものであり、補正事項1、2による補正と整合を図るためのものといえ、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
本件補正後の請求項3?5に係る発明は、請求項2に係る発明を引用する発明であるので、補正事項1、2の補正に伴い、限定的減縮がなされているといえる。
そして、本件補正後の請求項3?5に係る発明は、請求項2に係る発明をさらに限定した発明であるので、当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、また、ほかに特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする理由もない。
よって、本件補正の補正事項3は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(4)補正事項4について
補正事項4は、補正前の特許請求の範囲の請求項6?9を削除するものであり、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

(5)補正事項5について
補正事項5は、補正前の請求項10、11を、補正事項4による補正に伴い繰り上げて請求項6、7とし引用する請求項を改めるとともに、原査定時に指摘された製造方法による特定を改め、発明の詳細な説明の段落【0014】、【0040】の記載に基づいて構造を限定したものであって、補正前の請求項10、11に記載された発明と補正後の請求項6、7に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮、及び、同第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、本件補正後の請求項6、7に係る発明は、補正発明1を引用する発明であり、補正発明1をさらに限定した発明であるので、当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、また、ほかに特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする理由もない。
よって、本件補正の補正事項5は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(6)補正事項6について
補正事項6は、補正前の請求項12?15を、補正事項4による補正に伴い繰り上げて請求項8?11とし引用する請求項を改めたものであり、補正事項4による補正と整合を図るためのものといえ、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
加えて、本件補正後の請求項8?11に係る発明は、補正発明1を引用する発明であるので、補正事項1の補正に伴い、限定的減縮がなされているといえる。
そして、本件補正後の請求項8?11に係る発明は、補正発明1をさらに限定した発明であるので、当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、また、ほかに特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする理由もない。
よって、本件補正の補正事項3は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(7)補正事項7について
補正事項7は、補正事項1による補正に伴い発明の詳細な説明の記載を補正するものであり、特許法第17条の2第3項に違反するところはない。

3.むすび
以上のとおりであるので、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?11に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、請求項1?11に係る発明は、上記第2の2.(1)?(6)で述べたとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-14 
出願番号 特願2010-188909(P2010-188909)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤佐々木 智洋  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 出口 昌哉
平田 信勝
発明の名称 タイヤ  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  

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