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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2015800108 審決 特許
無効2015800011 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  A23L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 特126 条1 項  A23L
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23L
審判 全部無効 1項2号公然実施  A23L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1321606
審判番号 無効2015-800010  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-01-15 
確定日 2016-11-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第5285176号発明「トマト含有飲料及びその製造方法、並びにトマト含有飲料のフレッシュ感向上方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5285176号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る特許第5285176号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成24年10月19日 本件特許出願
平成25年 6月 7日 設定登録
平成27年 1月15日 審判請求書
同年 3月30日 訂正請求書
審判事件答弁書
同年 5月 8日 審判事件弁駁書
営業秘密に関する申出書(請求人)
同年 6月18日 補正許否の決定(許可する)
同年 7月23日 審判事件答弁書
同年11月17日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年12月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年12月21日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
同年12月22日 口頭審理
平成28年 1月22日 上申書(被請求人)
同年 3月14日 審決の予告
同年 5月23日 訂正請求書
上申書(被請求人)
同年 7月 6日 訂正拒絶理由通知書
同年 8月 3日 弁駁書(請求人)
同年 8月10日 意見書(被請求人)
なお、平成28年5月23日付けで訂正請求がされたため、特許法第134条の2第6項の規定により、平成27年3月30日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなされる。
以下、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まず、「……」は記載の省略を意味する。証拠は、例えば甲第1号証を甲1のように略記する。

第2 請求人の主張
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲1?甲28を提出し、次の無効理由を主張する。

(1)無効理由1(実施可能要件違反)
本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2(サポート要件違反)
本件特許は、その請求項1ないし3に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3(明確性要件違反)
本件特許は、その請求項1ないし3の記載において、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由4(公然実施による新規性の喪失等)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正後の請求項1ないし3に係る発明は、上記公然実施をされた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(5)無効理由5(刊行物公知による新規性の喪失)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(6)無効理由6(進歩性の欠如)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第13号証、甲第2号証)に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正後の請求項1ないし3に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

<証拠方法>
甲1 特許登録原簿
甲2 “Quantitative and Sensory Studies on Tomato Paste Volatiles”、Journal of Agricultural and Food Chemistry、1990、Vol.38、No.1、p.336-340
甲3 吉儀英記、「香料入門」、フレグランスジャーナル社、平成14年2月28日
甲4 正田芳郎、外1名、「高分解能ガスクロマトグラフィー」、(株)化学同人、昭和58年11月15日
甲5 ホームページ出力物(「Hexanal」と題するページ)
甲6 湖上国雄、「香料の物質工学」、(株)地人書館、平成7年6月20日
甲7 カゴメトマトジュース160g缶(缶表示2014.7.30)の外観写真
甲8 ホームページ出力物(2012年8月6日付けの「カゴメトマトジュース」についてのニュースリリースのページ)
甲9 事実実験公正証書(平成26年12月16日作成)
甲10 報告書(2014年12月18日、岩坪 哲)
甲11 カゴメトマトジュース160g缶(缶表示2016.7.26)の外観写真
甲12 報告書(2014年12月20日、石井僚一)
甲13 「トマト加工品の日本農林規格」(最終改正平成21年5月19日農林水産省告示第669号)
甲14 「5973Nケミステーション基本操作マニュアル」、2000年3月
甲15 陳述書(2015年5月7日、石井僚一)
甲16 製品受領通知書の写し
甲17 「「旬」がまるごと」、2007年9月20日、p.94-95
甲18 ホームページ出力物(特許庁の標準技術集「香料」の「2-2-7-1 膜濃縮」のページ)
甲19 ホームページ出力物(Amazonの「キャンベルトマトジュース」販売ページ)
甲20 “CODEX STANDARD FOR PROCESSED TOMATO CONCENTRATES”と題する書面
甲21 特許第5285176号公報(本件特許公報)
甲22の1 照会書(平成27年10月5日、田村茂夫)の写し
甲22の2 見解書(平成27年11月4日、松井利郎)
甲23 “Quantitative Studies on Origins of Fresh Tomato Aroma Volatiles”、Journal of Agricultural and Food Chemistry、1988、Vol.36、No.6、p.1247-1250
甲24 “Fresh Tomato Aroma Volatiles: A Quantitative Study”、Journal of Agricultural and Food Chemistry、1987、Vol.35、No.4、p.540-544
甲25 特許第5285177号公報
甲26 無効2015-800011号事件の乙第11号証
甲27 無効2015-800011号事件の乙第13号証
甲28 陳述書(2015年12月21日、石井僚一)

甲1?甲28の成立につき当事者間に争いはない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として乙1?乙15を提出し、無効理由がいずれも成り立たないと主張する。

<証拠方法>
乙1 実験報告書(平成27年3月24日、水流和信)の写し
乙2 平成20年(行ケ)第10096号判決
乙3の1 ホームページ出力物(フルフラールに関する資料のページ)
乙3の2 「清酒の熟成に関与する香気成分」、生物工学、2011年、第89巻、第12号
乙4 川崎通昭、外1名、「嗅覚とにおい物質」、(社)臭気対策研究協会、2000年4月1日
乙5 岩崎好陽、「臭気の嗅覚測定法」、(社)臭気対策研究協会、1999年4月1日
乙6 ホームページ出力物(ゴールドパック株式会社のページ)
乙7 「農産缶詰食品の品質指標に関する研究」、日本食品工業学会誌、1975年6月、第22巻、第6号
乙8 “The Chemical Interactions Underlying Tomato Flavor Preferences”、Current Biology、2012、Vol.22、No.11
乙9 実験報告書(1)(平成27年12月4日、岡野谷和則)
乙10 陳述書(平成27年12月7日、岡野谷和則)
乙11 実験報告書(2)(平成27年12月4日、岡野谷和則)
乙12 「香りや味の相互作用を調べる新規評価技術」、AROMA RESEARCH、2011年8月28日、第12巻、第3号、p.18-21
乙13 新村出、「広辞苑 第五版」、(株)岩波書店、1998年11月11日
乙14 松村明、「大辞林 第二版 新装版」、(株)三省堂、1999年10月1日
乙15 知財高裁平成18年(ネ)第10007号判決

第4 訂正請求について
1 訂正の内容
平成28年5月23日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、特許第5285176号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり請求項ごとに訂正するものであり、その訂正の内容は次のとおりである。

(1)請求項1に係る訂正
訂正前の請求項1に
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満であることを特徴とするトマト含有飲料。」
とあるのを、
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分であって、以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される、フルフラールの含有量Bと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールの含有量A及びcis-3-ヘキセノールの含有量Dの含有合計A+Dと、の比B/(A+D)が0.427?8.565であり、A/Bが0.025?0.192であり、前記含有量Bが0.04684?0.28123であり、前記ヘキサナールの含有量が0.00230?0.01200であり、前記trans-2-ヘキセナールの含有量が0.00300?0.00671であり、前記含有量Aが0.00714?0.01500であり、前記Dが0.02570?0.12900であることを特徴とする容器詰トマト含有飲料。
〔測定条件〕
=GC-MS条件=
・ガスクロマトグラフ質量分析装置:Agilent Technologies 5973N
・カラム:DB-WAX(30m×0.25mm×0.25μm)
・オーブン温度:50℃(1min)-10℃/min-240℃(4min)
・注入口:20℃-12℃/sec-250℃、ソルベントベントモード(ライナー:TeanaxTA充填)
・キャリアガス:1.6mL/min(ヘリウム)
=ダイナミックヘッドスペース条件=
・前処理装置:ゲステル社ダイナミックヘッドスペース装置
・試料量:50μL
・吸着:80℃に加温し窒素ガス100mL/minで30min
・充填材:TenaxTA(40℃)
・脱着:30℃-720℃/min-240℃(4min)
=各成分の面積値を計算するための質量=
シクロヘキサノール m/z82
ヘキサナール m/z82
trans-2-ヘキセナール m/z83
cis-3-ヘキセノール m/z82
フルフラール m/z96」
と訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。)。

(2)請求項2に係る訂正
訂正前の請求項2に
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満となるように調製されることを特徴とするトマト含有飲料の製造方法」
とあるのを、
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分であって、以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される、フルフラールの含有量Bと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールの含有量A及びcis-3-ヘキセノールの含有量Dの含有合計A+Dと、の比B/(A+D)が0.427?8.565となり、A/Bが0.025?0.192となり、前記含有量Bが0.04684?0.28123となり、前記ヘキサナールの含有量が0.00230?0.01200となり、前記trans-2-ヘキセナールの含有量が0.00300?0.00671となり、前記含有量Aが0.00714?0.01500となり、前記Dが0.02570?0.12900となるように調製されることを特徴とする容器詰トマト含有飲料の製造方法。
〔測定条件〕
=GC-MS条件=
・ガスクロマトグラフ質量分析装置:Agilent Technologies 5973N
・カラム:DB-WAX(30m×0.25mm×0.25μm)
・オーブン温度:50℃(1min)-10℃/min-240℃(4min)
・注入口:20℃-12℃/sec-250℃、ソルベントベントモード(ライナー:TeanaxTA充填)
・キャリアガス:1.6mL/min(ヘリウム)
=ダイナミックヘッドスペース条件=
・前処理装置:ゲステル社ダイナミックヘッドスペース装置
・試料量:50μL
・吸着:80℃に加温し窒素ガス100mL/minで30min
・充填材:TenaxTA(40℃)
・脱着:30℃-720℃/min-240℃(4min)
=各成分の面積値を計算するための質量=
シクロヘキサノール m/z82
ヘキサナール m/z82
trans-2-ヘキセナール m/z83
cis-3-ヘキセノール m/z82
フルフラール m/z96」
と訂正する。

(3)請求項3に係る訂正
訂正前の請求項3に
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満となるように調製されることを特徴とするトマト含有飲料のフレッシュ感向上方法。」
とあるのを、
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分であって、以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される、フルフラールの含有量Bと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールの含有量A及びcis-3-ヘキセノールの含有量Dの含有合計A+Dと、の比B/(A+D)が0.427?8.565となり、A/Bが0.025?0.192となり、前記含有量Bが0.04684?0.28123となり、前記ヘキサナールの含有量が0.00230?0.01200となり、前記trans-2-ヘキセナールの含有量が0.00300?0.00671となり、前記含有量Aが0.00714?0.01500となり、前記Dが0.02570?0.12900となるように調製されることを特徴とする容器詰トマト含有飲料のフレッシュ感向上方法。
〔測定条件〕
=GC-MS条件=
・ガスクロマトグラフ質量分析装置:Agilent Technologies 5973N
・カラム:DB-WAX(30m×0.25mm×0.25μm)
・オーブン温度:50℃(1min)-10℃/min-240℃(4min)
・注入口:20℃-12℃/sec-250℃、ソルベントベントモード(ライナー:TeanaxTA充填)
・キャリアガス:1.6mL/min(ヘリウム)
=ダイナミックヘッドスペース条件=
・前処理装置:ゲステル社ダイナミックヘッドスペース装置
・試料量:50μL
・吸着:80℃に加温し窒素ガス100mL/minで30min
・充填材:TenaxTA(40℃)
・脱着:30℃-720℃/min-240℃(4min)
=各成分の面積値を計算するための質量=
シクロヘキサノール m/z82
ヘキサナール m/z82
trans-2-ヘキセナール m/z83
cis-3-ヘキセノール m/z82
フルフラール m/z96」
と訂正する。

2 訂正の適否
(1)本件訂正は、請求項1?3に記載された「含有量」を「以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される」ものとする訂正事項(以下「訂正事項1」という。)、及び、請求項1?3に記載された「フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B」、「ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量A」、「cis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量D」を、それぞれ「フルフラールの含有量B」、「ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールの含有量A」、「cis-3-ヘキセノールの含有量D」にする訂正事項(以下「訂正事項2」という。)を含んでいる。

(2)上記訂正事項1及び2は、請求項1?3に記載されたB、A、Dの各値の意味について、訂正前は、芳香族アルデヒド類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類の各含有量を意味していたところ、訂正後は、それぞれに属する特定の物質である、フルフラール、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナール、cis-3-ヘキセノールの各含有量を意味するものへと変更するとともに、「含有量」の意味自体を実質上「相対面積」を意味するものへと変更するものであって、その結果、請求項1?3に記載された「B/(A+D)」というパラメータの意味をも変更するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれにも該当しない。
また、フルフラールの相対面積B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールの相対面積A、cis-3-ヘキセノールの相対面積Dから定まるB/(A+D)を所定の範囲内とすることは願書に添付した明細書に記載されていないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合せず、さらに、上記のとおりB、A、Dの各値の意味を変更し、B/(A+D)というパラメータの意味をも変更することにより、特許請求の範囲を実質的に変更するものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合しない。

(3)被請求人は、訂正前の請求項1における「含有量」は、本件特許明細書に接した当業者であれば、実施例に記載の条件において測定される「内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される」値を意味すると理解することができるのであり、上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0069】?【0071】等に記載された事項に基づく、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない旨を主張する(訂正請求書4頁19行?6頁2行)。

しかし、「含有量」という用語は、「成分として含んでいる量」ないし「ある物質がある物の中に成分・内容物として含まれている量」を意味し(乙13、乙14)、例えば質量や体積等で表すことができる量であるのに対し、「相対面積」は、測定条件や測定毎に変化する値であって(甲22の2[見解6]、甲28「1(1)」)、それ自体には普遍的な意義があるとはいえず、相対面積から直ちに質量や体積等の含有量を知ることもできない。よって、訂正前の請求項1における「含有量」が、「相対面積」を意味すると理解することはできない。
さらに、相対面積を用いる場合と、含有量を用いる場合とでは、B/(A+D)の値は大きく異なる。例えば、本件特許明細書の【表1】(【0072】)には、比較例試料1について、相対面積を用いたときのB/(A+D)が216.241と記載されているのに対し、乙10に示されたαを用いて含有量に換算してB/(A+D)を計算すると、B/(A+D)=(0.34989×0.24)/(0.00093×3.6+0.00069×0.76)=21.7となり、上記の値とは大きく異なる。よって、このことからも、訂正前の請求項1における「含有量」が、「相対面積」を意味すると解することに合理性はない。
よって、本件特許明細書に、実施例に関して「各香気成分量は内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積で示した」(【0071】)と記載されていることを考慮しても、訂正前の請求項1における「含有量」が、実施例に記載の条件において測定される「内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される」値を意味するということはできず、上記被請求人の主張は理由がない。

なお、相対面積から質量や体積等の含有量を知ることができるかに関し、被請求人は、以下の式によって、相対面積を含有量に換算することが可能であると主張する(平成27年12月8日付け口頭審理陳述要領書7頁5?13行、乙10)。
S=α×IC×(SA/IA)
(Sは香気成分の量、αは信号強度比(内部標準物質と香気成分の組み合わせにおいて固有の値)、ICは内部標準物質の量、SA/IAは相対面積)
しかし、上記換算のためにはαの値を知る必要があるところ、乙10に示されたαの値は、本件特許明細書には開示されていない。本件特許明細書には香気成分の測定条件が記載されている(【0069】?【0071】)が、甲28(1(1)及び(2))によれば、「機器分析では標準物質を用いて既知濃度の標準試料を調製し、その濃度と測定信号強度との関係を表す曲線(検量線)から、目的試料の濃度が数値化される。検量線は測定日の機器の状態や、用いた試薬の純度、濃度を敏感に反映する。そのため目的試料を調製した日(測定日)ごとに同じ条件で、新たに調製した標準試料を用いて作成した検量線を用いることが基本である。」、「維持管理等による分析装置の動作状況の変化、あるいは新たな標準溶液の調製などがあった場合には、同様の標準溶液の繰り返し分析によって基準となるRRF(信号強度比αに相当)を新たに算出しなければならない。」のであって、測定条件が同一であっても測定結果は変化し得ると認められるから、本件特許明細書に記載された測定条件に基づいて、乙10に示されたαの値を求めることができるともいえない。
そうすると、本件特許明細書の開示に基づいて相対面積を含有量に換算することはできないから、上記被請求人の主張は採用できない。

(4)また、被請求人は、上記訂正事項2は、本件特許明細書の【0039】等に記載された事項に基づく、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない旨を主張する(訂正請求書6頁3行?7頁13行)。
しかし、「フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B」は、フルフラール及びその他の芳香族アルデヒド類の含有量の意味であり、「フルフラールの含有量B」はフルフラールのみの含有量の意味であって、両者の意味が異なることは明らかであるから、前者を後者に訂正することが、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するとはいえない。このことは、含有量A、含有量Dについても同様である。
被請求人は、審査経過を参酌すれば、信義則上「フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B」を、フルフラール及びその他の芳香族アルデヒド類の含有量の意味に解することはできない旨主張するが(平成28年8月10日付け意見書14頁6?11行)、特許請求の範囲の記載に照らし上記のとおり解釈できる以上、審査経過を参酌して他の意味に解釈すべき理由はないから、上記被請求人の主張は採用できない。

3 結び
以上のとおり、訂正事項1及び2は、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれにも該当せず、また、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に違反するから、本件訂正は認められない。

第5 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められないため、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】(本件発明1)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満であることを特徴とするトマト含有飲料。
【請求項2】(本件発明2)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満となるように調製されることを特徴とするトマト含有飲料の製造方法
【請求項3】(本件発明3)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満となるように調製されることを特徴とするトマト含有飲料のフレッシュ感向上方法。

第6 無効理由に対する当審の判断
1 無効理由1(実施可能要件違反)について
(1)請求人の主張
ア 技術上の意義の理解困難性(委任省令違反)
(ア)「生トマト独特の風味が適度に保持され」という本件発明の課題と「B/(A+D)が50.00未満」との実質的な関係を理解できない。例えば、Bが閾値未満であれば、「青臭みを抑制」できないし、香気成分によって感じ方が異なるため、香気成分含有量の和をとる、または除することの意義が理解できない。「相対面積」は濃度や絶対量ではないため、技術上の意義を見出せない(審判請求書25頁6行?28頁3行)。

(イ)「B/(A+D)は、50.00未満」(【0041】)の記載は、B=0のとき、「バランス」を保持するための必須成分であるフルフラールが存在しないこととなり、「生トマト特有の青臭みが他の芳香とバランスよく適度に保持」(【0027】)と整合しない(審判請求書28頁4?23行)。

イ 実施例試料1?4の再現困難性
「各試料の香気成分が最終的に表1に示すような比率となるように各実施例試料及び比較例試料を調製」(【0068】)する点は、当業者が理解できない。ホットパックの影響が認められるにもかかわらず、加熱温度と香気成分の変化量の関係が開示されておらず、トマト加工試料1、2及び脱酸トマト汁試料A、Bの香気成分の含有量や、各原材料の配合比が開示されていないから、実施例試料1?4を再現できない(審判請求書28頁24行?30頁14行)。

ウ 実施例試料以外の実施の形態の再現困難性
ホットブレークされたトマト加工物試料のみをホットパックしてなる、香料無添加の容器詰めトマト含有飲料について、「B/(A+D)が50.00未満」を満たすように「A+D」を上げることは困難(審判請求書30頁15行?32頁末行)。

(2)判断
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、生トマト独特の風味が適度に保持され、飲みごごちがさわやかで飲み易いトマト含有飲料及びトマト含有飲料の製造方法、並びにトマト含有飲料の食感及びフレッシュ感向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、トマト含有飲料中の香気成分のうち、芳香族アルデヒド類の含有量と、脂肪族アルデヒド類と脂肪族アルコール類の含有量の合計量の相対比率を指標とし、これを所定の範囲に調製することによって、上記課題を解決しうる好適なトマト含有飲料を提供できることを見出した。」

(イ)「【0039】
(香気成分)
本明細書において香気成分とは、揮発性成分であって香りを伴う成分をいう。
一般的に、生トマトに含まれる香気成分は数百種類とも言われており、品種等によってもその内訳は異なるが、主要な成分としてアルデヒド類とアルコール類が含有されている。
……
【0040】
上記各成分のうち、リノール酸やリノレン酸にリポキシゲナーゼやその他の酵素が働き、青葉アルコールや青葉アルデヒドを主とした炭素数6のアルデヒドやアルコール類が生成する。これらの成分はトマト特有の青臭みを有する。生トマトの青臭みはこれらの香気成分に起因するものである。
また、芳香族アルデヒド類であるフルフラールは、香ばしいアーモンド臭を有し、青臭みを効果的に抑制する作用を発揮するが、含有量が多くなると、焦げ臭の要因ともなり得ることから、生トマトのフレッシュ感を保持するために、脂肪族アルデヒド類及び脂肪族アルコール類との含有比率が所定範囲となるように調製する。
【0041】
芳香族アルデヒド類の含有量Bと、脂肪族アルデヒド類の含有量Aと脂肪族アルコール類の含有量Dの合計との割合、B/(A+D)は、50.00未満であり、0.01?30.00がより好ましく、0.05?20.00が更に好ましく、0.10?10.00であることが最も好ましい。・・・A/Bが0.005以上であることが好ましく、0.01?10.00であればなお好ましく、0.01?1.00が更に好ましく、0.01?0.30が最も好ましい。・・・B/(A+D)が10.0以上の場合は、青臭みが弱くなりすぎ、生トマトのフレッシュ感が損なわれる。
【0042】
(香気成分の調製方法)
……予め原料トマト、及びトマト加工物の香気成分を分析しておけば、これら原料に含有される香気成分量を基に、所定の成分を増減調整することが可能である。
更に、複数の品種からなるトマト果実汁若しくはトマト加工物を適宜混合する以外にも、食品への添加が可能な既存の香料を別途添加することにより、香気成分の調整を行っても良い。」

(ウ)「【0067】
(実施例及び比較例用の原料液の調製)
上記のトマト加工物試料1、2及び脱酸トマト汁試料A、Bを、後述の香気成分が夫々表1に示す割合となるように混合し、所謂ホットパック(95℃以上に昇温させ)PET容器に詰めて、キャップを巻き締めすることにより、実施例試料1?4、及び比較例試料1?4の原料液を得た。
【0068】
(香気成分の調製)
……
本実施例にあっては、各試料の香気成分が最終的に表1に示すような比率となるように各実施例試料及び比較例試料を調製した。
……
【0071】
表1中の各香気成分量は内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積で示したものであり、各成分の面積値は以下の質量を用いて計算した。……」

(エ)【表1】に、実施例試料1?4及び比較例試料1?4について、脂肪族アルデヒド(A)としてヘキサナール及びtrans-2-ヘキセナール、芳香族アルデヒド(B)としてフルフラール、芳香族アルコール(C)としてベンジルアルコール及び2-フェニルエタノール、脂肪族アルコール(D)としてcis-3-ヘキセノールの、各面積値及びB/(A+D)、A/Bの値が示されており、【表2】に、実施例試料1?4及び比較例試料1?4についての官能評価結果が示されている。
【表1】、【表2】に示された、実施例試料1?4、比較例試料1?4のB/(A+D)及び総合評価は、それぞれ以下のとおりである。
B/(A+D) 総合評価
実施例試料1 0.427 ◎
実施例試料2 8.565 ○
実施例試料3 0.611 ○
実施例試料4 1.455 ○
比較例試料1 216.241 ×
比較例試料2 126.500 ×
比較例試料3 62.000 △
比較例試料4 231.685 ×

イ 前記(1)の請求人の主張イ、ウについて検討すると、特許法第36条第4項第1号は、実施例や比較例に記載された実験を完全に同一の条件で再現し得るまでの記載を要求する趣旨の規定とは解されないから、実施例試料1?4を再現できないことをもって、実施可能要件を満たさないとはいえない。また、「ホットブレークされたトマト加工物試料のみをホットパックしてなる、香料無添加の容器詰めトマト含有飲料」であることは、本件発明の特定事項ではないから、そのようなものを再現できないことをもって、実施可能要件を満たさないとはいえない。
そして、本件特許明細書の【0042】に記載されているように、原料に含有される香気成分量を予め分析しておき、原料の混合割合を調整したり、必要に応じて香料を添加したりすることにより、B/(A+D)を50.00未満とすること自体には、困難性があるとはいえない。

ウ しかしながら、特許法第36条第4項第1号実施可能要件を満たすというためには、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、技術上の意義を有するものとしての本件発明を実施することができる必要がある。
そして、本件特許明細書の、発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段についての記載(【0014】、【0015】)に照らせば、技術上の意義を有するものとしての本件発明を実施することができるためには、「トマト含有飲料中の香気成分のうち、芳香族アルデヒド類の含有量と、脂肪族アルデヒド類と脂肪族アルコール類の含有量の合計量の相対比率を指標とし、これを所定の範囲に調製することによって、上記課題を解決しうる」こと、すなわち、芳香族アルデヒド類の含有量B、脂肪族アルデヒド類の含有量A、脂肪族アルコール類の含有量Dについて、B/(A+D)を50.00未満とすることによって、生トマト独特の風味が適度に保持され、飲みごごちがさわやかで飲み易いトマト含有飲料を提供するという本件発明の課題が解決されることが、理解できる必要があるので、以下検討する。

エ 上記アによれば、本件特許明細書に、生トマトの青臭みは、青葉アルコールや青葉アルデヒドを主とした炭素数6のアルデヒドやアルコール類に起因することや、フルフラールは、香ばしいアーモンド臭を有し、青臭みを効果的に抑制する作用を発揮するが、含有量が多くなると、焦げ臭の要因ともなり得ることが、定性的に説明され、結論として、B/(A+D)は50.00未満であることが記載されているものの、当該数値範囲がどのようにして導かれたのかは説明されていない。

オ そこで、実施例の記載をみると、各香気成分量を相対面積で示したと記載されており(【0071】)、含有量そのものの値は記載されていない。そして、前述のとおり、相対面積から含有量を知ることはできないから、実施例の記載により、各香気成分の含有量と効果の関係を理解することはできない。
また、相対面積が含有量とは異なる点をおくとしても、【表1】、【表2】に示された結果からは、せいぜいB/(A+D)が0.427?8.565の範囲の実施例試料について良好な結果が得られたといえる程度であり、B/(A+D)の範囲を50.00未満に拡張できる根拠はない。しかも、上記【表1】、【表2】に示されたB/(A+D)は、フルフラール、ヘキサナール、trans-2-ヘキセナール、cis-3-ヘキセノールの相対面積から算出したものにすぎず、他の芳香族アルデヒド類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類を含めたB/(A+D)の値については評価されていないし、本件特許明細書の記載によれば、「生トマトに含まれる香気成分は数百種類」(【0039】)であるにも関わらず、他の香気成分の影響も評価されていない。
そうすると、本件特許明細書の実施例の記載を参照しても、芳香族アルデヒド類の含有量B、脂肪族アルデヒド類の含有量A、脂肪族アルコール類の含有量Dについて、B/(A+D)を50.00未満とすることによって、上記課題が解決されることが理解できない。

カ また、香気成分には固有の閾値が存在すること(甲2、甲22の2([見解2])、乙3-1、乙3-2、乙7)、及び、香気成分の濃度と香り強度の関係は、単純に比例するものではなく、香気成分によっても異なること(甲3、甲22の2[見解3])が、本件特許出願時の技術常識であったと認められる。
ところで、本件特許明細書の記載によれば、各香気成分の含有量自体には特段の制限がないから、B/(A+D)が50.00未満を満たす限り、各香気成分の含有量を閾値未満としたり、あるいは、分母・分子の各香気成分の含有量を例えば100,000倍にしたりしても、生トマト独特の風味が適度に保持されるということになる。しかし、このようなことは、上記技術常識を踏まえると理解し難い。
よって、本件特許明細書の記載に加え、技術常識を勘案しても、B/(A+D)を50.00未満とすることによって、上記課題が解決されることが理解できない。

キ 被請求人は、人は閾値未満であってもその香気を認識でき、単一香気成分の閾値に基づく考え方自体が失当であり、閾値濃度以下であっても飲料の香りに影響を及ぼし得る(乙12)から、本件発明は香気成分が閾値未満であっても課題を解決できる旨を主張する(平成27年12月8日付け陳述要領書3頁10行?4頁下から5行)。
また、被請求人は、単一の化合物の香気が存在する系についての、濃度依存性や閾値についての法則は、複数の化合物の香気が存在する系には妥当せず、人が感じる複合香気を客観的な測定値として定量する技術は確立されていないというのが技術常識であり、このような技術分野で所定の課題を達成するために経験則に基づく個別検討が必要であるところ、実施例に示されている具体例において、B/(A+D)が0.01?30.00であることを満たすことにより、本件発明が課題を解決できることが示されている旨主張する(平成27年12月8日付け陳述要領書5頁1行?6頁7行)。
上記被請求人の主張は、本件発明のB/(A+D)を50.00未満とすることが、理論に基づくものではなく、実施例によって実験的に導かれたことをいう趣旨と解される。しかし、上記オで検討したとおり、実施例の記載を参照しても、B/(A+D)を50.00未満とすることによって、上記課題が解決されることが理解できないから、上記被請求人の主張はいずれも採用できない。

ク 被請求人は、本件発明のB/(A+D)について、1ppb/1ppbや100,000ppb/100,000ppbという値は実際的でないとも主張する(平成27年12月8日付け陳述要領書7頁1?4行)。
しかし、本件特許明細書には、各香気成分の含有量の範囲を限定することや、好適な範囲を示す記載はなく、また、香料を添加して香気成分の調製を行っても良いことが記載されている(【0042】)から、各香気成分の含有量には特段の制限があるとは認められない。
よって、上記被請求人の主張は採用できない。

ケ したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、当業者の技術常識を踏まえても、B/(A+D)を50.00未満とすることによって、生トマト独特の風味が適度に保持され、飲みごごちがさわやかで飲み易いトマト含有飲料を提供するという本件発明の課題が解決されることが、理解できるように記載されておらず、当業者が本件発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないものといわざるを得ない。
そして、当業者が本件発明の技術上の意義を理解するために必要な事項の記載がない以上、当業者は、当該技術上の意義を有するものとしての本件発明を実施することができない。

(3)まとめ
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?3についての特許は、無効理由1により無効とすべきである。

2 無効理由2(サポート要件違反)について
(1)請求人の主張
ア 本件特許の請求項1?3に記載の物性値の組合せ(A+D、B)のうち実施例試料1?4の物性値の組合せ以外のものについて、当該物性値の組合せが奏する効果は、実験上、何ら裏付けられていない。
明細書の実施例以外の記載及び技術常識を踏まえても、当該裏付けのない物性値の組合せが奏する効果は、当業者が認識できない。すなわち、実施例以外の記載は何れも抽象的であり、技術常識によれば香気成分の濃度値が閾値未満では香気を感じることはできないから、「B/(A+D)が50.00未満である」ことと「生トマトのフレッシュ感を味わうことができ、且つ飲み心地がさわやかで飲み易い」効果との関係を当業者は認識できない。
さらに、「生トマトのフレッシュ感を味わうことができ、且つ飲み心地がさわやかで飲み易い」効果を奏するトマト含有飲料を得るには、過度な試行錯誤が要求されるから、特許請求の範囲の記載は、明細書及び技術常識に基づいて本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。(審判請求書33頁下から2行?41頁末行)。

イ 実施例にBrixの開示はなく、むしろ、実施例のBrixは7?11ではないと推測され、B/(A+D)を0.01?30.00としつつBrixを7?11とする方法の開示がなく、B/(A+D)が0.01?30.00でBrixが7?11のトマト含有飲料が「生トマト独特の風味が適度に保持され、飲みごこちがさわやかで飲み易い」効果を奏することの開示がない(平成27年5月8日付け審判事件弁駁書11頁12行?12頁末行)。

(2)判断
ア 本件発明1?3が解決しようとする課題は、「生トマト独特の風味が適度に保持され、飲みごごちがさわやかで飲み易いトマト含有飲料及びトマト含有飲料の製造方法、並びにトマト含有飲料の食感及びフレッシュ感向上方法を提供する」(【0014】)ことである。
そこで、本件発明1?3が、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願時の技術常識に照らし当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。

イ 前記1(2)オで検討したように、本件特許明細書の実施例には、各香気成分量を相対面積で示した結果が記載されているものの、含有量そのものの値は記載されておらず、相対面積を含有量に換算することもできない(前記第4 2(3))から、各香気成分の含有量と効果の関係を理解することはできない。

ウ また、含有量そのものが記載されていない点をおくとしても、上記実施例には、芳香族アルデヒド類としてフルフラールのみ、脂肪族アルデヒド類としてヘキサナール及びtrans-2-ヘキセナールのみ、脂肪族アルコール類としてcis-3-ヘキセノールのみを評価したわずか4つの実施例試料と4つの比較例試料の結果が示されているにすぎない。そうすると、上記実施例の結果からは、ここで評価した以外の芳香族アルデヒド類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類の各含有量B、A、Dと効果の関係は不明であるし、芳香族アルデヒド類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類以外の香気成分が効果に及ぼす影響も不明である。さらに実施例において結果が良好であると確認されたB/(A+D)の値は、0.427、8.565、0.611、1.455のわずか4点で、50.00未満という範囲のごく一部であるし、同じB/(A+D)の値に対しても、B、A、Dの各値としては、無数の組み合わせがあるのに、その影響は評価されていない。
よって、実施例の記載は、課題を解決できる条件をB/(A+D)というパラメータによって定め得るかを確認するにも不十分であり、B/(A+D)を50.00未満とすることによって、課題を解決できることを十分に裏付けるものとはいえない。

エ また、前記1(2)エで検討したように、本件特許明細書には、結論として、B/(A+D)は50.00未満であることが記載されているものの、当該数値範囲がどのようにして導かれたのかは説明されておらず、前記1(2)カで検討したように、本件特許出願時の技術常識を勘案しても、B/(A+D)を50.00未満であるとすることによって、上記課題を解決できることは理解できない。

オ よって、本件発明1?3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願時の技術常識に照らし当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、特許請求の範囲の記載は、本件発明1?3が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?3についての特許は、無効理由2により無効とすべきである。

3 無効理由3(明確性要件違反)について
(1)請求人の主張
本件特許の請求項1?3の記載において、「含有量」に含まれるのは、いわゆる濃度値の他に「相対面積」もあり、本件特許の出願時における技術常識を踏まえると、香気を感じられるのは、香気成分の濃度値が閾値以上の場合であるのに、本件特許の請求項1?3の記載において特定されているのは、各「含有量」の比率にすぎず、各「含有量」の絶対値と閾値との関係ではない。
よって、請求項1?3の記載は、発明を特定する事項の技術的意味が理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足していることが明らかである(審判請求書42頁1行?43頁末行)。

(2)判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3には、「フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B」、「ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量A」、「cis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量D」について、「B/(A+D)が50.00未満」であることが記載されている。
これに対し、本件特許明細書の実施例においては、フルフラールの相対面積B、ヘキサナールとtrans-2-ヘキセナールの各相対面積及びその合計A、cis-3-ヘキセノールの相対面積Dと、これらから計算したB/(A+D)の値が記載されている。
ところが、前記第4 2(3)に示したとおり、本件特許明細書の開示に基づいて相対面積を含有量に換算することはできないし、B、A、Dの各値として相対面積を用いる場合と、含有量を用いる場合とでは、B/(A+D)の値は大きく異なる。
そうすると、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の実施例の記載とが整合しないといわざるを得ないが、特許請求の範囲には「含有量」と記載されており、「含有量」という用語は、「成分として含んでいる量」ないし「ある物質がある物の中に成分・内容物として含まれている量」を意味し(乙13、乙14)、例えば質量や体積等で表すことができる量であって、明確に理解できるものである。
よって、特許請求の範囲の記載自体は明確であるといえる。

(3)まとめ
したがって、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえないから、本件発明1?3についての特許は、無効理由3によって無効とすることはできない。

4 無効理由4(公然実施による新規性の喪失等)について
(1)本件発明1について
公然実施発明
甲8に「カゴメ株式会社(社長:西秀訓)は、今夏採れたての国産トマトで作った「カゴメトマトジュース」(ストレートパック※)を、2012年8月9日(木)より出荷を開始いたします。」、「※「カゴメトマトジュース」はストレートパックと濃縮還元の2つの製法で作られます。ストレートパックは、国産トマトが採れる夏にだけ製造される数量限定のトマトジュースです。」と記載され、「商品概要一覧」として、商品名:カゴメトマトジュース食塩無添加、容量:160gの商品(以下「製品1」という。)の賞味期限が2年であることが記載され、「■商品特徴」として「◇砂糖、着色料、保存料不使用」と記載されている。また、甲16によれば、上記製品1が、平成24年8月10日に販売された事実が認められる。
よって、上記製品1は、本件特許出願前に公然と譲渡等又は譲渡等の申出がなされていたもの、すなわち公然実施されていたものと認められる。

甲9には、平成26年11月28日に、試料1である「カゴメトマトジュースストレート160g缶」の香気成分を分析した結果が示されている。その分析結果は次のとおりである。

ところで、上記試料1には、缶側面に「カゴメトマトジュース 食塩無添加」、「●品名:トマトジュース●原材料名:トマト●内容量:160g●賞味期限:缶底上段に記載」、「トマト100%(ストレート)」の各表示があり、缶底の上段に「2014.7.30」の表示がある(甲7、甲9の写真6?8)から、上記甲8の記載とあわせてみれば、試料1は、平成24年(2012年)の夏に製造された製品1のうちの一つであって、トマト果実汁を含有し、甘味料を含まない、トマト含有飲料であると認められる。そして、試料1は、製造後、平成26年11月28日に成分分析に供されるまで、5℃で冷蔵保管されていたものであり(甲10)、賞味期限の平成26年7月30日から約4か月後に甲9の分析が行われているから、試料1についての成分の分析値が、製品1の成分と大きく異なることは想定し難い。よって、上記甲9の分析結果によって、製品1の成分を認定できるといえる。
そうすると、製品1に係る以下の発明が本件特許出願前に公然実施されたものと認められる。
「トマト果実汁を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、フルフラールの相対面積比が0.02217、ヘキサナールの相対面積比が0.00090、trans-2-ヘキセナールの相対面積比が0.00077、cis-3-ヘキセノールの相対面積比が0.03171であるトマト含有飲料。」(以下「公然実施発明」という。)

イ 対比
本件発明1と公然実施発明の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料。」

(相違点)
本件発明1は、「飲料中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満」であるのに対し、公然実施発明は、各香気成分の「含有量」が明らかでなく、上記関係を満たすかも明らかでない点。

ウ 判断
前記第4の「2 訂正の適否」で述べたとおり、「相対面積比(相対面積)」から直ちに「含有量」を知ることができないことから、公然実施発明における各成分の含有量は不明といわざるを得ない。そうすると、上記相違点に係る「B/(A+D)」の値は特定できない。
そして、製品1は、市場で流通していた商品であり、該商品からは、香気成分である、芳香族アルデヒド類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類の含有量に着目して、これらを所定範囲とする技術思想を把握することはできない。よって、甲各号証の技術事項を勘案しても、公然実施発明において、上記相違点に係る構成とすることを、当業者が容易に想到し得たということはできない。
よって、本件発明1は公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2は「トマト含有飲料の製造方法」、本件発明3は「トマト含有飲料のフレッシュ感向上方法」であって、本件発明1とはカテゴリーが相違する発明ではあるが、いずれも、トマト含有飲料について、「飲料中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満」であることを特定している点で、公然実施発明と相違する。そして、当該相違点についての判断は上記(1)ウと同じである。
よって、本件発明2及び3は公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(3)まとめ
本件発明1?3は公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえないから、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条第1項第2号又は同条第2項に違反してされたものではなく、無効理由4によって無効とすることはできない。

5 無効理由5(刊行物公知による新規性の喪失)について
(1)甲2の記載
甲2のTable Iには、生鮮トマトの揮発性物質分析結果が示されている。これによると、生鮮トマトにおける
hexanal:3100ppb、
furfural:0ppb、
(E)-2-hexenal:270ppb、
(Z)-3-hexenol:150ppb
である。
ここで、hexanalは「ヘキサナール」、furfuralは「フルフラール」、(E)-2-hexenalは「trans-2-ヘキセナール」、(Z)-3-hexenolは「cis-3-ヘキセノール」のことであるから、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「ヘキサナールを3100ppb、フルフラールを0ppb、trans-2-ヘキセナールを270ppb、cis-3-ヘキセノールを150ppb含有する生鮮トマト。」(以下「甲2発明1」という。)
請求人は、甲2から
「甘味料を含まない、フレッシュトマトからなる濃縮還元ではないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、フルフラールの含有量Bが0ppbであり、ヘキサナール及びtrans-2-ヘキセナールの含有量Aが3370ppbであり、cis-3-ヘキセノールの含有量Dが150ppbであり、B/(A+D)が0である、濃縮還元ではないトマト含有飲料。」
の発明が把握できる旨主張する(審判請求書48頁、平成27年11月17日付け口頭審理陳述要領書46?47頁)。
しかし、甲2が引用する文献である甲23、及び甲23が引用する文献である甲24にトマトサンプルをブレンドしたことが記載されているからといって、甲23、甲24の記載事項を甲2に記載された生鮮トマトと組み合わせた発明を甲2から把握することはできない。よって上記請求人の主張は採用できない。

(2)対比・判断
本件発明1と甲2発明1を対比すると、少なくとも、本件発明1はトマト含有飲料であるのに対し、甲2発明1は生鮮トマトである点で相違する。
よって、本件発明1は甲2発明1ではない。
また、本件発明2及び3についても、同様に、甲2発明1ではない。

(3)まとめ
本件発明1?3は甲2発明1ではないから、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条第1項第3号に違反してされたものではなく、無効理由5によって無効とすることはできない。

6 無効理由6(進歩性の欠如)について
(1)本件発明1について
ア 甲2、甲13の記載
(ア)甲2には、以下の事項が記載されている。
「トマトペーストサンプルからの揮発性物質の分離
1.一般的な手法
……トマトペースト(100g)を水(200mL)と1Lビーカーに入れ、十分に混合した。混合物をマグネティックスターラーの入った1Lの丸底フラスコに注いだ。また、5mLの内部標準(20.0ppm 3-ペンタノン、20.0ppm 2-オクタノン、5.0ppm アネトール)保存水溶液をその際添加した。……」(甲2訳文2頁9?16行)
「トマトペーストはカリフォルニアの加工工場でつくられており……生鮮トマト(およそ固形分6%)をトマトペースト(およそ固形分29%)にすることは、固形分のおよそ5倍濃縮をすることになる。」(甲2訳文4頁20?25行)
Table Iには、トマトペーストの揮発性物質分析結果について、
hexanal:8ppb、
furfural:140ppb、
(E)-2-hexenal:1.2ppb、
(Z)-3-hexenol:5ppb
であることが記載されている。
ここで、hexanalは「ヘキサナール」、furfuralは「フルフラール」、(E)-2-hexenalは「trans-2-ヘキセナール」、(Z)-3-hexenolは「cis-3-ヘキセノール」のことであるから、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「ヘキサナールを8ppb、フルフラールを140ppb、trans-2-ヘキセナールを1.2ppb、cis-3-ヘキセノールを5ppb含有し、およそ固形分29%のトマトペースト100gを、水200mLと混合したもの。」(以下「甲2発明2」という。)

(イ)甲13は、「トマト加工品の日本農林規格」であって、「(定義)第2条 この規格において、次の表の左欄に掲げる用語の定義は、それぞれ同表の右欄に掲げるとおりとする。」との記載に続く表に、以下のとおり、各用語の定義が記載されている。
・用語「トマトジュース」の定義として、「次に掲げるものをいう。1 トマトを破砕して搾汁し、又は裏ごしし、皮、種子等を除去したもの(以下「トマトの搾汁」という。)又はこれに食塩を加えたもの 2 濃縮トマトを希釈して搾汁の状態に戻したもの又はこれに食塩を加えたもの」
・用語「トマトペースト」の定義として、「次に掲げるものをいう。1 濃縮トマトのうち、無塩可溶性固形分が24%以上のもの 2 ……」
・用語「濃縮トマト」の定義として、「トマトを破砕して搾汁し、又は裏ごしし、皮、種子等を除去した後濃縮したもの(粉末状及び固形状のものを除く。)で無塩可溶性固形分が8%以上のもの」
また、「(トマトジュースの規格)第3条 トマトジュースの規格は、次のとおりとする。」との記載に続く表に、「原材料」として、「次に掲げるもの以外のものを使用していないこと。1 トマト 2 濃縮トマト 3 食塩」と記載されている。
以上によれば、甲13には以下の発明が記載されていると認められる。
「甘味料を含まない、濃縮トマトを希釈して搾汁の状態に戻してなるトマトジュース。」(以下「甲13発明」という。)

イ 甲2発明2との対比
甲2発明2の「トマトペースト100gを、水200mLと混合したもの」と、本件発明1の「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料」とは、「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマトを含有する液」の限りで一致する。
甲2発明2のトマトペーストが「ヘキサナールを8ppb、フルフラールを140ppb、trans-2-ヘキセナールを1.2ppb、cis-3-ヘキセノールを5ppb含有」することは、B=140、A=8+1.2、D=5とすると、B/(A+D)=140/(8+1.2+5)=9.85であって、この比の値は水と混合しても同じであるから、本件発明1の「フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満であり」に相当する。
よって、本件発明1と甲2発明2との一致点、相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマトを含有する液であって、
液中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満であるトマトを含有する液。」
(相違点)
トマトを含有する液が、本件発明1は「トマト含有飲料」であるのに対し、甲2発明2は「トマトペースト100gを、水200mLと混合したもの」である点。

ウ 判断
甲2には「トマトペーストサンプルからの揮発性物質の分離」の「1.一般的な手法」として「トマトペースト(100g)を水(200mL)と1Lビーカーに入れ、十分に混合した。」ことが記載されているにすぎず、さらに、「5mLの内部標準(20.0ppm 3-ペンタノン、20.0ppm 2-オクタノン、5.0ppm アネトール)保存水溶液」を添加することも記載されているのであるから、甲2発明2の「トマトペースト100gを、水200mLと混合したもの」は、分析のための試料であって、飲料とはいえないし、飲むことを想定したものでもない。よって、これを「トマト含有飲料」として、上記相違点に係る構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことではない。

エ 甲13発明との対比
甲13発明の「濃縮トマトを希釈して搾汁の状態に戻してなるトマトジュース」は、本件発明1の「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有」する「トマト含有飲料」に相当する。
よって、本件発明1と甲13発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料。」
(相違点)
本件発明1が「飲料中の香気成分である、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aと及びcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有合計A+Dとの比、B/(A+D)が50.00未満である」と特定されたものであるのに対し、甲13発明は、そのように特定されたものではない点。

オ 判断
甲2には、本件発明1の「B/(A+D)が50.00未満」の条件を満たすトマトペーストが示されている(上記ア(ア)及びイ参照。)。
しかし、甲13発明のトマトジュースを製造するにあたり、濃縮トマトとして、数多く存在する濃縮トマトの中から、甲2のトマトペーストを選択する動機付けが認められない。仮に、甲2のトマトペーストを使用したとしても、トマトジュースに加工した後も香気成分が保持されているかは不明である。
請求人は、カリフォルニア産のトマトペーストをトマトジュースに使用することは本件特許出願時に一般的になされていたことであり(甲19)、甲2のトマトペーストもカリフォルニア産であるから、これを甲13発明の濃縮トマトとして用いることが容易である旨を主張する(平成27年5月8日付け審判事件弁駁書65頁下から7行?66頁5行)。
しかし、カリフォルニア産のトマトペーストをトマトジュースに使用すること自体は格別なことといえないとしても、カリフォルニア産のトマトペーストの中から更に甲2のトマトペーストを選択して使用することまでが容易であるとはいえない。よって、上記請求人の主張は採用できない。
したがって、上記相違点の構成は、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

カ まとめ
本件発明1は、甲2発明2又は甲13発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2は「トマト含有飲料の製造方法」、本件発明3は「トマト含有飲料のフレッシュ感向上方法」であって、本件発明1とはカテゴリーが相違するものではあるが、少なくとも、上記(1)イに示した相違点は、本件発明2及び3と甲2発明2との相違点でもあり、上記(1)エに示した相違点は、本件発明2及び3と甲13発明との相違点でもある。
そして、当該相違点についての判断は上記(1)ウ及びオと同じである。
よって、本件発明2及び3は、甲2発明2又は甲13発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)まとめ
本件発明1?3は、甲2発明2又は甲13発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものではなく、無効理由6によって無効とすることはできない。

第7 結び
したがって、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-02 
結審通知日 2016-09-06 
審決日 2016-09-20 
出願番号 特願2012-231744(P2012-231744)
審決分類 P 1 113・ 841- ZB (A23L)
P 1 113・ 537- ZB (A23L)
P 1 113・ 536- ZB (A23L)
P 1 113・ 112- ZB (A23L)
P 1 113・ 113- ZB (A23L)
P 1 113・ 121- ZB (A23L)
P 1 113・ 855- ZB (A23L)
P 1 113・ 85- ZB (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 山崎 勝司
紀本 孝
登録日 2013-06-07 
登録番号 特許第5285176号(P5285176)
発明の名称 トマト含有飲料及びその製造方法、並びにトマト含有飲料のフレッシュ感向上方法  
代理人 速見 禎祥  
代理人 竹内 工  
代理人 遠山 友寛  
代理人 内藤 和彦  
代理人 松山 智恵  
復代理人 赤堀 龍吾  
代理人 岩坪 哲  
代理人 北谷 賢次  
代理人 宮下 洋明  
代理人 中村 勝彦  
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