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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2015800108 審決 特許
無効2015800010 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23L
審判 全部無効 特126 条1 項  A23L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部無効 1項2号公然実施  A23L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  A23L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1321607
審判番号 無効2015-800011  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-01-15 
確定日 2016-11-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第5285177号発明「トマト含有飲料及びその製造方法、並びにトマト含有飲料の青臭み抑制方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5285177号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る特許第5285177号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成24年10月19日 本件特許出願
平成25年 6月 7日 設定登録
平成27年 1月15日 審判請求書
同年 3月30日 訂正請求書
審判事件答弁書
同年 5月 8日 審判事件弁駁書
同年 6月18日 補正許否の決定(許可する)
同年 7月23日 審判事件答弁書
同年11月17日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年12月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年12月21日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
同年12月22日 口頭審理
平成28年 1月22日 上申書(被請求人)
同年 3月14日 審決の予告
同年 5月23日 訂正請求書
上申書(被請求人)
同年 7月 6日 訂正拒絶理由通知書
同年 8月 3日 弁駁書(請求人)
同年 8月10日 意見書(被請求人)
なお、平成28年5月23日付けで訂正請求がされたため、特許法第134条の2第6項の規定により、平成27年3月30日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなされる。
以下、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まず、「……」は記載の省略を意味する。証拠は、例えば甲第1号証を甲1のように略記する。

第2 請求人の主張
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲1?甲27を提出し、次の無効理由を主張する。

(1)無効理由1(実施可能要件違反)
本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2(サポート要件違反)
本件特許は、その請求項1ないし6に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3(明確性要件違反)
本件特許は、その請求項1ないし6の記載において、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由4(公然実施による新規性の喪失等)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、その特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正後の請求項1ないし6に係る発明は、上記公然実施をされた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(5)無効理由5(進歩性の欠如)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲14、甲2、甲15)に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正後の請求項1ないし6に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲2)に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

<証拠方法>
甲1 特許登録原簿
甲2 “Quantitative and Sensory Studies on Tomato Paste Volatiles”、Journal of Agricultural and Food Chemistry、1990、Vol.38、No.1、p.336-340
甲3 吉儀英記、「香料入門」、フレグランスジャーナル社、平成14年2月28日
甲4 湖上国雄、「香料の物質工学」、(株)地人書館、平成7年6月20日
甲5 正田芳郎、外1名、「高分解能ガスクロマトグラフィー」、(株)化学同人、昭和58年11月15日
甲6 ホームページ出力物(「Phenylethyl Alcohol」と題するページ)
甲7 オリオントマトジュース低塩160g缶(缶表示2014.7.23)の外観写真
甲8 「オリオントマトジュース」包装荷姿基準の写し
甲9 ホームページ出力物(Amazonの「オリオントマトジュース低塩160g」販売ページ)
甲10 事実実験公正証書(平成26年12月16日作成)
甲11 報告書(2014年12月18日、岩坪 哲)
甲12 オリオントマトジュース低塩160g缶(缶表示2016.6.9)の外観写真
甲13 報告書(2014年12月20日、石井僚一)
甲14 特開2000-300224号公報
甲15 印藤元一、「(増補改訂版)合成香料 化学と商品知識」、化学工業日報社、平成17年3月22日
甲16 「5973Nケミステーション基本操作マニュアル」、2000年3月
甲17 陳述書(2015年5月7日、石井僚一)
甲18 特開2006-187233号公報
甲19 「「旬」がまるごと」、2007年9月20日、p.94-95
甲20 ホームページ出力物(特許庁の標準技術集「香料」の「2-2-7-1 膜濃縮」のページ)
甲21 ホームページ出力物(Amazonの「キャンベルトマトジュース」販売ページ)
甲22 「トマト加工品の日本農林規格」(最終改正平成21年5月19日農林水産省告示第669号)
甲23 “CODEX STANDARD FOR PROCESSED TOMATO CONCENTRATES”と題する書面
甲24 特許第5285177号公報(本件特許公報)
甲25の1 照会書(平成27年10月5日、田村茂夫)の写し
甲25の2 見解書(平成27年11月4日、松井利郎)
甲26 特許第5285176号公報
甲27 陳述書(2015年12月21日、石井僚一)

甲1?甲27の成立につき当事者間に争いはない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として乙1?乙17を提出し、無効理由がいずれも成り立たないと主張する。

<証拠方法>
乙1 実験報告書(平成27年3月20日、水流和信)の写し
乙2 平成20年(行ケ)第10096号判決
乙3 川崎通昭、外1名、「嗅覚とにおい物質」、(社)臭気対策研究協会、2000年4月1日
乙4 岩崎好陽、「臭気の嗅覚測定法」、(社)臭気対策研究協会、1999年4月1日
乙5 ホームページ出力物(ゴールドパック株式会社のページ)
乙6 ホームページ出力物(「厚生労働科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)平成21?23年度」のページ)
乙7 ホームページ出力物(2-フェニルエタノールに関する資料のページ)
乙8 「JIS Z 8144 官能評価分析-用語」、(財)日本規格協会、平成16年3月20日
乙9 「農産缶詰食品の品質指標に関する研究」、日本食品工業学会誌、1975年6月、第22巻、第6号
乙10 “The Chemical Interactions Underlying Tomato Flavor Preferences”、Current Biology、2012、Vol.22、No.11
乙11 実験報告書(1)(平成27年12月4日、岡野谷和則)
乙12 陳述書(平成27年12月7日、岡野谷和則)
乙13 実験報告書(2)(平成27年12月4日、岡野谷和則)
乙14 「香りや味の相互作用を調べる新規評価技術」、AROMA RESEARCH、2011年8月28日、第12巻、第3号、p.18-21
乙15 新村出、「広辞苑 第五版」、(株)岩波書店、1998年11月11日
乙16 松村明、「大辞林 第二版 新装版」、(株)三省堂、1999年10月1日
乙17 知財高裁平成18年(ネ)第10007号判決

第4 訂正請求について
1 訂正の内容
平成28年5月23日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、特許第5285177号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正するものであり、その訂正の内容は次のとおりである。

(1)請求項1及び2からなる一群の請求項に係る訂正
訂正前の請求項1に
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)が8.00以上であることを特徴とするトマト含有飲料。」
とあるのを、
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分であって、以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールの含有量Cと、ヘキサナールの含有量A及びcis-3-ヘキセノールの含有量Dの含有量合計A+Dと、の比C/(A+D)が10.500?70.968であり、前記ベンジルアルコールの含有量が0.00800?0.04758であり、前記2-フェニルエタノールの含有量が0.01300?0.06725であり、前記含有量Cが0.02100?0.11483であり、前記含有量Aが0.00000?0.00132であり、前記含有量Dが0.00000?0.00200であることを特徴とする容器詰トマト含有飲料。
〔測定条件〕 ・・・以下略・・・」
と訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。)。

訂正前の請求項2に
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量Bの比、C/Bが0.90未満であることを特徴とする請求項1記載のトマト含有飲料。」
とあるのを、
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分であって、以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールの含有量Cと、フルフラールの含有量Bと、の比C/Bが0.083?0.328であり、前記ベンジルアルコールの含有量が0.00800?0.04758であり、前記2-フェニルエタノールの含有量が0.01300?0.06725であり、前記含有量Cが0.02100?0.11483であり、前記含有量Bが0.12400?0.34989であることを特徴とする請求項1記載の容器詰トマト含有飲料。
〔測定条件〕 ・・・以下略・・・」
と訂正する。

(2)請求項3及び4からなる一群の請求項に係る訂正
訂正前の請求項3に
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)が8.00以上に調製されることを特徴とするトマト含有飲料の製造方法。」
とあるのを、
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分であって、以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールの含有量Cと、ヘキサナールの含有量A及びcis-3-ヘキセノールの含有量Dの含有量合計A+Dと、の比C/(A+D)が10.500?70.968となり、前記ベンジルアルコールの含有量が0.00800?0.04758となり、前記2-フェニルエタノールの含有量が0.01300?0.06725となり、前記含有量Cが0.02100?0.11483となり、前記含有量Aが0.00000?0.00132となり、前記含有量Dが0.00000?0.00200となるように調製されることを特徴とする容器詰トマト含有飲料の製造方法。
〔測定条件〕 ・・・以下略・・・」
と訂正する。

訂正前の請求項4に
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料の製造方法であって、飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量Bの比、C/Bが0.90未満となるように調製されることを特徴とする請求項3記載のトマト含有飲料の製造方法。」
とあるのを、
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料の製造方法であって、飲料中の香気成分であって、以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールの含有量Cと、フルフラールの含有量Bと、の比C/Bが0.083?0.328となり、前記ベンジルアルコールの含有量が0.00800?0.04758となり、前記2-フェニルエタノールの含有量が0.01300?0.06725となり、前記含有量Cが0.02100?0.11483となり、前記含有量Bが0.12400?0.34989となるように調製されることを特徴とする請求項3記載の容器詰トマト含有飲料の製造方法。
〔測定条件〕 ・・・以下略・・・」
と訂正する。

(3)請求項5及び6からなる一群の請求項に係る訂正
訂正前の請求項5に
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)が8.00以上に調製されることを特徴とするトマト含有飲料の青臭み抑制方法。」
とあるのを、
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分であって、以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールの含有量Cと、ヘキサナールの含有量A及びcis-3-ヘキセノールの含有量Dの含有量合計A+Dと、の比C/(A+D)が10.500?70.968となり、前記ベンジルアルコールの含有量が0.00800?0.04758となり、前記2-フェニルエタノールの含有量が0.01300?0.06725となり、前記含有量Cが0.02100?0.11483となり、前記含有量Aが0.00000?0.00132となり、前記含有量Dが0.00000?0.00200となるように調製されることを特徴とする容器詰トマト含有飲料の青臭み抑制方法。
〔測定条件〕 ・・・以下略・・・」
と訂正する。

訂正前の請求項6に
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料の青臭み抑制方法であって、飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量Bの比、C/Bが0.90未満となるように調製されることを特徴とする請求項5記載のトマト含有飲料の青臭み抑制方法。」
とあるのを、
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料の青臭み抑制方法であって、飲料中の香気成分であって、以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールの含有量Cと、フルフラールの含有量Bと、の比C/Bが0.083?0.328となり、前記ベンジルアルコールの含有量が0.00800?0.04758となり、前記2-フェニルエタノールの含有量が0.01300?0.06725となり、前記含有量Cが0.02100?0.11483となり、前記含有量Bが0.12400?0.34989となるように調製されることを特徴とする請求項5記載の容器詰トマト含有飲料の青臭み抑制方法。
〔測定条件〕 ・・・以下略・・・」
と訂正する。

2 訂正の適否
(1)本件訂正は、請求項1?6に記載された「含有量」を「以下に示す測定条件による分析において、内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される」ものとする訂正事項(以下「訂正事項1」という。)、及び、請求項1?6に記載された「ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C」、「ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量A」、「cis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量D」、「フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B」を、それぞれ「ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールの含有量C」、「ヘキサナールの含有量A」、「cis-3-ヘキセノールの含有量D」、「フルフラールの含有量B」にする訂正事項(以下「訂正事項2」という。)を含んでいる。

(2)上記訂正事項1及び2は、請求項1?6に記載されたC、A、D、Bの各値の意味について、訂正前は、芳香族アルコール類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類、芳香族アルデヒド類の各含有量を意味していたところ、訂正後は、それぞれに属する特定の物質である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノール、ヘキサナール、cis-3-ヘキセノール、フルフラールの各含有量を意味するものへと変更するとともに、「含有量」の意味自体を実質上「相対面積」を意味するものへと変更するものであって、その結果、請求項1、3、5に記載された「C/(A+D)」というパラメータ及び請求項2、4、6に記載された「C/B」というパラメータの意味をも変更するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれにも該当しない。
また、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールの相対面積C、ヘキサナールの相対面積A、cis-3-ヘキセノールの相対面積D、フルフラールの相対面積Bから定まる「C/(A+D)」や「C/B」を所定の範囲内とすることは願書に添付した明細書に記載されていないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合せず、さらに、上記のとおりC、A、D、Bの各値の意味を変更し、C/(A+D)及びC/Bというパラメータの意味をも変更することにより、特許請求の範囲を実質的に変更するものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合しない。

(3)被請求人は、訂正前の請求項1、2における「含有量」は、本件特許明細書に接した当業者であれば、実施例に記載の条件において測定される「内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される」値を意味すると理解することができるのであり、上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0073】?【0075】等に記載された事項に基づく、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない旨を主張する(訂正請求書5頁下から4行?7頁12行)。

しかし、「含有量」という用語は、「成分として含んでいる量」ないし「ある物質がある物の中に成分・内容物として含まれている量」を意味し(乙15、乙16)、例えば質量や体積等で表すことができる量であるのに対し、「相対面積」は、測定条件や測定毎に変化する値であって(甲25の2[見解6]、甲27「1(1)」)、それ自体には普遍的な意義があるとはいえず、相対面積から直ちに質量や体積等の含有量を知ることもできない。よって、訂正前の請求項1、2における「含有量」が、「相対面積」を意味すると理解することはできない。
さらに、相対面積を用いる場合と、含有量を用いる場合とでは、C/(A+D)の値は大きく異なる。例えば、本件特許明細書の【表1】には、実施例試料1について、相対面積を用いたときのC/(A+D)が70.968と記載されているのに対し、乙12に示されたαを用いて含有量に換算してC/(A+D)を計算すると、C/(A+D)=(0.04758×0.21+0.06725×0.09)/(0.00093×3.6+0.00069×0.76)=4.1となり、上記の値とは大きく異なる。よって、このことからも、訂正前の請求項1、2における「含有量」が、「相対面積」を意味すると解することに合理性はない。
よって、本件特許明細書に、実施例に関して「各香気成分量は内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積で示した」(【0075】)と記載されていることを考慮しても、訂正前の請求項1、2における「含有量」が、実施例に記載の条件において測定される「内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積によって示される」値を意味するということはできず、上記被請求人の主張は理由がない。

なお、相対面積から質量や体積等の含有量を知ることができるかに関し、被請求人は、以下の式によって、相対面積を含有量に換算することが可能であると主張する(平成27年12月8日付け口頭審理陳述要領書6頁下から5行?7頁4行、乙12)。
S=α×IC×(SA/IA)
(Sは香気成分の量、αは信号強度比(内部標準物質と香気成分の組み合わせにおいて固有の値)、ICは内部標準物質の量、SA/IAは相対面積)
しかし、上記換算のためにはαの値を知る必要があるところ、乙12に示されたαの値は、本件特許明細書には開示されていない。本件特許明細書には香気成分の測定条件が記載されている(【0073】?【0075】)が、甲27(1(1)及び(2))によれば、「機器分析では標準物質を用いて既知濃度の標準試料を調製し、その濃度と測定信号強度との関係を表す曲線(検量線)から、目的試料の濃度が数値化される。検量線は測定日の機器の状態や、用いた試薬の純度、濃度を敏感に反映する。そのため目的試料を調製した日(測定日)ごとに同じ条件で、新たに調製した標準試料を用いて作成した検量線を用いることが基本である。」、「維持管理等による分析装置の動作状況の変化、あるいは新たな標準溶液の調製などがあった場合には、同様の標準溶液の繰り返し分析によって基準となるRRF(信号強度比αに相当)を新たに算出しなければならない。」のであって、測定条件が同一であっても測定結果は変化し得ると認められるから、本件特許明細書に記載された測定条件に基づいて、乙12に示されたαの値を求めることができるともいえない。
そうすると、本件特許明細書の開示に基づいて相対面積を含有量に換算することはできないから、上記被請求人の主張は採用できない。

(4)また、被請求人は、上記訂正事項2は、本件特許明細書の【0043】等に記載された事項に基づく、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない旨を主張する(訂正請求書7頁13行?8頁下から6行)。
しかし、「ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C」は、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノール及びその他の芳香族アルコール類の含有量の意味であり、「ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールの含有量C」はベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールのみの含有量の意味であって、両者の意味が異なることは明らかであるから、前者を後者に訂正することが、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するとはいえない。このことは、含有量A、含有量D、含有量Bについても同様である。
被請求人は、審査経過を参酌すれば、信義則上「ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C」を、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノール及びその他の芳香族アルコール類の含有量の意味に解することはできない旨主張するが(平成28年8月10日付け意見書17頁下から3行?18頁2行)、特許請求の範囲の記載に照らし上記のとおり解釈できる以上、審査経過を参酌して他の意味に解釈すべき理由はないから、上記被請求人の主張は採用できない。

3 結び
以上のとおり、訂正事項1及び2は、特許法第134条の2第1項ただし書き各号のいずれにも該当せず、また、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に違反するから、本件訂正は認められない。

第5 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められないから、本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】(本件発明1)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)が8.00以上であることを特徴とするトマト含有飲料。

【請求項2】(本件発明2)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量Bの比、C/Bが0.90未満であることを特徴とする請求項1記載のトマト含有飲料。

【請求項3】(本件発明3)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)が8.00以上に調製されることを特徴とするトマト含有飲料の製造方法。

【請求項4】(本件発明4)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料の製造方法であって、飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量Bの比、C/Bが0.90未満となるように調製されることを特徴とする請求項3記載のトマト含有飲料の製造方法。

【請求項5】(本件発明5)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)が8.00以上に調製されることを特徴とするトマト含有飲料の青臭み抑制方法。

【請求項6】(本件発明6)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料の青臭み抑制方法であって、飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C、フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量Bの比、C/Bが0.90未満となるように調製されることを特徴とする請求項5記載のトマト含有飲料の青臭み抑制方法。

第6 無効理由に対する当審の判断
1 無効理由1(実施可能要件違反)について
(1)請求人の主張
ア 技術上の意義の理解困難性(委任省令違反)
(ア)「生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持され」という本件発明の課題と「C/(A+D)が8.00以上」との実質的な関係を理解できない。例えば、Cが閾値未満であれば、「生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持され」ないし、香気成分によって感じ方が異なるため、香気成分含有量の和をとる、または除することの技術上の意味が理解できない。「相対面積」は濃度や絶対量ではないため、技術上の意義を見出せない。「C/Bが0.90未満である」ことの技術上の意義は、「生トマト独特の青臭みが抑制」なのか、「生トマト独特の風味が適度に保持」なのか、それ以外なのか、当業者が理解できない(審判請求書27頁6行?31頁5行)。

(イ)本件明細書において、「生トマトの青臭み」を有する「trans-2-ヘキセナール」(「A」)及び「cis-3-ヘキセノール」(「D」)を含有することが好ましい旨の記載(【0043】、【0044】)は、生トマト独特の青臭みは好ましくない旨の記載(【0012】)や、「C/(A+D)が8.00以上」とすべき旨の記載(【0045】)と矛盾している(審判請求書31頁6行?32頁15行)。

イ 実施例試料1?4の再現困難性
「各試料の香気成分が最終的に表1に示すような比率となるように各実施例試料及び比較例試料を調製」(【0072】)する点は、当業者が理解できない。ホットパックの影響が認められるにもかかわらず、加熱温度と香気成分の変化量の関係が開示されておらず、トマト加工試料1、2及び脱酸トマト汁試料A、Bの香気成分の含有量や、各原材料の配合比が開示されていないから、実施例試料1?4を再現できない(審判請求書32頁16行?34頁6行)。

ウ 実施例試料以外の実施の形態の再現困難性
コールドブレークされたトマト加工物試料のみをホットパックしてなる、香料無添加の容器詰めトマト含有飲料について、「C/(A+D)が8.00以上」を満たすように香気成分の含有量を調整することは困難(審判請求書34頁7行?35頁14行)。

(2)判断
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持され、飲み易く美味しいトマト含有飲料及びトマト含有飲料の製造方法、並びにトマト含有飲料の青臭み抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、トマト含有飲料中の香り成分のうち、芳香族アルコール類の含有量と、脂肪族アルデヒド類の含有量と脂肪族アルコール類の含有量の合計量の相対比率を所定の範囲に調製することによって、上記課題を解決しうる好適なトマト含有飲料を提供できることを見出した。」

(イ)「【0043】
(香気成分)
本明細書において香気成分とは、揮発性成分であって香りを伴う成分をいう。
一般的に、生トマトに含まれる香気成分は数百種類とも言われており、品種等によってもその内訳は異なるが、主要な成分として、アルデヒド類とアルコール類が含有されている。
……
本実施形態においては、脂肪族アルデヒド類としては、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールが含有されていることが好ましく……
また、脂肪族アルコール類としては、cis-3-ヘキセノールが含有されていることが好ましく……
【0044】
上記各成分のうち、芳香族アルコール類であるベンジルアルコールは、一般的に果物臭といわれる芳香を有し、化粧品等の香料も用いられる、また、2?フェニルエタノールはバラの花の香りの芳香を有する。
また、脂肪族アルデヒド類であるtrans-2-へキセナール、及び脂肪族アルコール類であるcis-3-ヘキセノールは、夫々青葉アルデヒド類、及び青葉アルコールと称され、リノール酸やリノレン酸にリポキシゲナーゼやその他の酵素が働き、青葉アルコールや青葉アルデヒドを主とした炭素数6のアルデヒドやアルコール類が生成する。これらの成分は所謂青葉特有の青臭みを有する。生トマトの青臭みは主にこれらに起因するものである。
また、芳香族アルデヒド類であるフルフラールは、香ばしいアーモンド臭を有し、極端に含有量が多い場合には、焦げ臭の要因ともなり得る。
【0045】
本実施形態にあっては、芳香族アルコール類の含有量Cと、脂肪族アルデヒド類の含有量Aと脂肪族アルコール類の含有量Dの合計の割合、
C/(A+D)
は8.00以上であり、8.00?100.00であればより好ましく、8.00?90.00であれば更に好ましく、9.00?80.00が最も好ましい。
C/(A+D)が8.00未満の場合、トマトの青臭みが十分にマスクされなくなる。
更に、芳香族アルコール類の含有量Cと、芳香族アルデヒド類の含有量Bの比C/Bが0.90未満であることが好ましく、0.00?0.60であることがより好ましく、0.05?0.50であることが更に好ましく、0.15?0.32であることが最も好ましい。
【0046】
(香気成分の調製方法)
……予め原料トマト、及びトマト加工物の香気成分を分析しておけば、これら原料に含有される香気成分量を基に、所定の成分を増減調製することが可能である。
更に、複数の品種からなるトマト果実汁若しくはトマト加工物を適宜混合する以外にも、食品への添加が可能な既存の香料を別途添加することにより、香気成分の調製を行っても良い。」

(ウ)「【0071】
(実施例及び比較例用の原料液の調製)
上記のトマト加工物試料1、2及び脱酸トマト汁試料A、Bを、後述の香気成分が夫々表1に示す割合となるように混合し、所謂ホットパック(95℃以上に昇温させ)PET容器に詰めて、キャップを巻き締めすることにより、実施例試料1?4、及び比較例試料1?4の原料液を得た。
【0072】
(香気成分の調製)
……
本実施例にあっては、各試料の香気成分が最終的に表1に示すような比率となるように各実施例試料及び比較例試料を調製した。
……
【0075】
表1中の各香気成分量は内部標準物質(0.1%シクロヘキサノール 1μL)に対する相対面積で示したものであり、各成分の面積値は以下の質量を用いて計算した。……」

(エ)【表1】に、実施例試料1?4及び比較例試料1?4について、脂肪族アルデヒド(A)としてヘキサナール及びtrans-2-ヘキセナール、芳香族アルデヒド(B)としてフルフラール、芳香族アルコール(C)としてベンジルアルコール及び2-フェニルエタノール、脂肪族アルコール(D)としてcis-3-ヘキセノールの、各面積値及びC/(A+D)、C/Bの値が示されており、【表2】に、実施例試料1?4及び比較例試料1?4についての官能評価結果が示されている。
【表1】、【表2】に示された、実施例試料1?4、比較例試料1?4のC/(A+D)、C/B、及び総合評価は、それぞれ以下のとおりである。
C/(A+D) C/B 総合評価
実施例試料1 70.968 0.328 ○
実施例試料2 10.500 0.083 ○
実施例試料3 13.500 0.218 ◎
実施例試料4 70.102 0.303 ◎
比較例試料1 4.656 10.904 ×
比較例試料2 7.860 0.918 ×
比較例試料3 1.826 2.989 ×
比較例試料4 5.229 2.908 △

イ まず、請求人が上記(1)ア(イ)で主張する点について、本件特許明細書には、C/(A+D)が8.00以上であればトマトの青臭みを抑制できる旨が記載されており(【0045】)、trans-2-ヘキセナール及びcis-3-ヘキセノールを含有することは、C/(A+D)が8.00以上であることと両立しないわけではなく、【0043】の記載は、C/(A+D)が8.00以上との条件を満たす範囲で上記成分を含有することが好ましいとの趣旨とも解されるので、請求人の主張する点が特に矛盾しているとはいえない。
次に、上記(1)の請求人の主張イ、ウについて検討すると、特許法第36条第4項第1号は、実施例や比較例に記載された実験を完全に同一の条件で再現し得るまでの記載を要求する趣旨の規定とは解されないから、実施例試料1?4を再現できないことをもって、実施可能要件を満たさないとはいえない。また、「コールドブレークされたトマト加工物試料のみをホットパックしてなる、香料無添加の容器詰めトマト含有飲料」であることは、本件発明の特定事項ではないから、そのようなものを再現できないことをもって、実施可能要件を満たさないとはいえない。
そして、本件特許明細書の【0046】に記載されているように、原料に含有される香気成分量を予め分析しておき、原料の混合割合を調整したり、必要に応じて香料を添加したりすることにより、C/(A+D)を8.00以上とすること自体には、困難性があるとはいえない。

ウ しかしながら、特許法第36条第4項第1号実施可能要件を満たすというためには、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、技術上の意義を有するものとしての本件発明を実施することができる必要がある。
そして、本件特許明細書の、発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段についての記載(【0012】、【0013】)に照らせば、技術上の意義を有するものとしての本件発明を実施することができるためには、「トマト含有飲料中の香り成分のうち、芳香族アルコール類の含有量と、脂肪族アルデヒド類の含有量と脂肪族アルコール類の含有量の合計量の相対比率を所定の範囲に調製することによって、上記課題を解決しうる」こと、すなわち、芳香族アルコール類の含有量C、脂肪族アルデヒド類の含有量A、脂肪族アルコール類の含有量Dについて、C/(A+D)を8.00以上とすることによって、生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持され、飲み易く美味しいトマト含有飲料を提供するという本件発明の課題が解決されることが、理解できる必要があるので、以下検討する。

エ 上記アによれば、本件特許明細書に、ベンジルアルコールは果物臭といわれる芳香を有し、2?フェニルエタノールはバラの花の香りの芳香を有すること、trans-2-へキセナール及びcis-3-ヘキセノールは、夫々青葉アルデヒド類及び青葉アルコールと称され、所謂青葉特有の青臭みを有すること、フルフラールは、香ばしいアーモンド臭を有するが、極端に含有量が多いと、焦げ臭の要因となり得ること、が定性的に説明され、結論として、芳香族アルコール類の含有量Cと、脂肪族アルデヒド類の含有量Aと脂肪族アルコール類の含有量Dの合計の割合、C/(A+D)が8.00以上が好ましいことが記載されているものの、当該数値範囲がどのようにして導かれたのかは説明されていない。

オ そこで、実施例の記載をみると、各香気成分量を相対面積で示したと記載されており(【0075】)、含有量そのものの値は記載されていない。そして、前述のとおり、相対面積から含有量を知ることはできないから、実施例の記載により、各香気成分の含有量と効果の関係を理解することはできない。
また、相対面積が含有量とは異なる点をおくとしても、【表1】、【表2】に示された結果からは、せいぜいC/(A+D)が10.500?70.968の範囲の実施例試料について良好な結果が得られたといえる程度であり、C/(A+D)の範囲を8.00以上に拡張できる根拠はない。しかも、上記【表1】、【表2】に示されたC/(A+D)は、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、ヘキサナール、trans-2-ヘキセナール、cis-3-ヘキセノールの相対面積から算出したものにすぎず、他の芳香族アルコール類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類を含めたC/(A+D)の値については評価されていないし、本件特許明細書の記載によれば、「生トマトに含まれる香気成分は数百種類」(【0043】)であるにも関わらず、他の香気成分の影響も評価されていない。
そうすると、本件特許明細書の実施例の記載を参照しても、芳香族アルコール類の含有量C、脂肪族アルデヒド類の含有量A、脂肪族アルコール類の含有量Dについて、C/(A+D)を8.00以上とすることによって、上記課題が解決されることが理解できない。

カ また、香気成分には固有の閾値が存在すること(甲2、甲25の2([見解2])、乙6、乙7)、及び、香気成分の濃度と香り強度の関係は、単純に比例するものではなく、香気成分によっても異なること(甲3、甲25の2[見解3]、乙3(26頁)、乙4(7頁))が、本件特許出願時の技術常識であったと認められる。
ところで、本件特許明細書の記載によれば、各香気成分の含有量自体には特段の制限がないから、C/(A+D)が8.00以上である限り、各香気成分の含有量を閾値未満としたり、あるいは、分母・分子の各香気成分の含有量を例えば100,000倍にしたりしても、「生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持され」るということになる。しかし、このようなことは、上記技術常識を踏まえると理解し難い。
よって、本件特許明細書の記載に加え、技術常識を勘案しても、C/(A+D)を8.00以上とすることによって、上記課題が解決されることが理解できない。

キ 被請求人は、人は閾値未満であってもその香気を認識でき、単一香気成分の閾値に基づく考え方自体が失当であり、閾値濃度以下であっても飲料の香りに影響を及ぼし得る(乙14)から、本件発明は香気成分が閾値未満であっても課題を解決できる旨を主張する(平成27年12月8日付け陳述要領書3頁10行?4頁10行)。
また、被請求人は、単一の化合物の香気の強度の濃度依存性や閾値について記載する先行文献が存在し得たとしても、それを複数の化合物の香気が存在する系に適用することはできず、人が感じる複合香気を客観的な測定値として定量する技術は確立されていないというのが技術常識であり、このような技術分野で所定の課題を達成するために経験則に基づく個別検討が必要であるところ、実施例に示されている具体例において、C/(A+D)が8.00以上であることを満たすことにより、本件発明が課題を解決できることが示されている旨主張する(平成27年12月8日付け陳述要領書4頁11行?5頁下から3行)。
上記被請求人の主張は、本件発明のC/(A+D)を8.00以上とすることが、理論に基づくものではなく、実施例によって実験的に導かれたことをいう趣旨と解される。しかし、上記オで検討したとおり、実施例の記載を参照しても、C/(A+D)を8.00以上とすることによって、上記課題が解決されることが理解できないから、上記被請求人の主張はいずれも採用できない。

ク 被請求人は、本件発明のC/(A+D)について、1ppb/1ppbや100,000ppb/100,000ppbという値は実際的でないとも主張する(平成27年12月8日付け陳述要領書6頁下から9?6行)。
しかし、本件特許明細書には、各香気成分の含有量の範囲を限定することや、好適な範囲を示す記載はなく、また、香料を添加して香気成分の調製を行っても良いことが記載されている(【0046】)から、各香気成分の含有量には特段の制限があるとは認められない。そして、C/(A+D)について、1ppb/1ppbや100,000ppb/100,000ppbは、8.00以上との条件を満たさないものの、10ppb/1ppbや100,000ppb/10,000ppbであれば、8.00以上との条件を満たすのであり、上記被請求人の主張が、このようなものも実際的ではないという趣旨を含むとすれば、該主張は採用できない。

ケ したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、当業者の技術常識を踏まえても、C/(A+D)を8.00以上とすることによって、生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持され、飲み易く美味しいトマト含有飲料を提供するという本件発明の課題が解決されることが、理解できるように記載されておらず、当業者が本件発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないものといわざるを得ない。
そして、当業者が本件発明の技術上の意義を理解するために必要な事項の記載がない以上、当業者は、当該技術上の意義を有するものとしての本件発明を実施することができない。

(3)まとめ
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?6についての特許は、無効理由1により無効とすべきである。

2 無効理由2(サポート要件違反)について
(1)請求人の主張
ア 本件特許の請求項1?6に記載の物性値の組合せ(A+D、C)のうち実施例試料1?4の物性値の組合せ以外のものについて、当該物性値の組合せが奏する効果は、実験上、何ら裏付けられていない。
明細書の実施例以外の記載及び技術常識を踏まえても、当該裏付けのない物性値の組合せが奏する効果は、当業者が認識できない。すなわち、実施例以外の記載は何れも抽象的であり、技術常識によれば香気成分の濃度値が閾値未満では香気を感じることはできないから、「C/(A+D)が8.00以上である」ことと「生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持され、飲み易く美味しい」効果との関係を当業者は認識できない。
さらに、「生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持され、飲み易く美味しい」効果を奏するトマト含有飲料を得るには、過度な試行錯誤が要求されるから、特許請求の範囲の記載は、明細書及び技術常識に基づいて本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。(審判請求書36頁末行?44頁末行)。

イ 実施例にBrixの開示はなく、むしろ、実施例のBrixは7?11ではないと推測され、C/(A+D)を8.00以上としつつBrixを7?11とする方法の開示がなく、C/(A+D)が8.00以上でBrixが7?11のトマト含有飲料が「生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持」される効果を奏することの開示がない(平成27年5月8日付け審判事件弁駁書10頁下から6行?11頁末行)。

(2)判断
ア 本件発明1?6が解決しようとする課題は、「生トマト独特の青臭みが抑制されつつも、甘くてフルーティーな好適な風味が保持され、飲み易く美味しいトマト含有飲料及びトマト含有飲料の製造方法、並びにトマト含有飲料の青臭み抑制方法を提供する」(【0012】)ことである。
そこで、本件発明1?6が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らし当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。

イ 前記1(2)オで検討したように、本件特許明細書の実施例には、各香気成分量を相対面積で示した結果が記載されているものの、含有量そのものの値は記載されておらず、相対面積を含有量に換算することもできない(前記第4 2(3))から、各香気成分の含有量と効果の関係を理解することはできない。

ウ また、含有量そのものの値が記載されていない点をおくとしても、上記実施例には、芳香族アルコール類としてベンジルアルコール及び2-フェニルエタノールのみ、脂肪族アルデヒド類としてヘキサナール及びtrans-2-ヘキセナールのみ、脂肪族アルコール類としてcis-3-ヘキセノールのみを評価したわずか4つの実施例試料と4つの比較例試料の結果が示されているにすぎない。そうすると、上記実施例の結果からは、ここで評価した以外の芳香族アルコール類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類の各含有量C、A、Dと効果の関係は不明であるし、芳香族アルコール類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類以外の香気成分が効果に及ぼす影響も不明である。さらに実施例において結果が良好であると確認されたC/(A+D)の値は、70.968、10.500、13.500、70.102のわずか4点で、8.00以上という範囲のごく一部であるし、同じC/(A+D)の値に対しても、C、A、Dの各値としては、無数の組み合わせがあるのに、その影響は評価されていない。
よって、実施例の記載は、課題を解決できる条件をC/(A+D)というパラメータによって定め得るかを確認するにも不十分であり、C/(A+D)を8.00以上とすることによって、課題を解決できることを十分に裏付けるものとはいえない。

エ また、前記1(2)エで検討したように、本件特許明細書には、結論として、C/(A+D)は8.00以上が好ましいことが記載されているものの、当該数値範囲がどのようにして導かれたのかは説明されておらず、前記1(2)カで検討したように、本件特許出願時の技術常識を勘案しても、C/(A+D)を8.00以上とすることによって、上記課題を解決できることは理解できない。

オ よって、本件発明1?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願時の技術常識に照らし当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、特許請求の範囲の記載は、本件発明1?6が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?6についての特許は、無効理由2により無効とすべきである。

3 無効理由3(明確性要件違反)について
(1)請求人の主張
本件特許の請求項1?6の記載において、「含有量」に含まれるのは、いわゆる濃度値の他に「相対面積」もあり、本件特許の出願時における技術常識を踏まえると、香気を感じられるのは、香気成分の濃度値が閾値以上の場合であるのに、本件特許の請求項1?6の記載において特定されているのは、各「含有量」の比率にすぎず、各「含有量」の絶対値と閾値との関係ではない。
よって、請求項1?6の記載は、発明を特定する事項の技術的意味が理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足していることが明らかである(審判請求書45頁1行?46頁末行)。

(2)判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6には、「ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量C」、「ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量A」、「cis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量D」について、「C/(A+D)が8.00以上」であることが特定され、さらに、請求項2、4、6には、「フルフラールを含む芳香族アルデヒド類の含有量B」について、「C/Bが0.90未満」であることが特定されている。
これに対し、本件特許明細書の実施例においては、ベンジルアルコールと2-フェニルエタノールの各相対面積及びその合計C、ヘキサナールとtrans-2-ヘキセナールの各相対面積及びその合計A、cis-3-ヘキセノールの相対面積D、フルフラールの相対面積Bと、これらから計算したC/(A+D)及びC/Bの各値が記載されている。
ところが、前記第4 2(3)に示したとおり、本件特許明細書の開示に基づいて相対面積を含有量に換算することはできないし、C、A、Dの各値として相対面積を用いる場合と、含有量を用いる場合とでは、C/(A+D)の値は大きく異なる。
そうすると、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の実施例の記載とが整合しないといわざるを得ないが、特許請求の範囲には「含有量」と記載されており、「含有量」という用語は、「成分として含んでいる量」ないし「ある物質がある物の中に成分・内容物として含まれている量」を意味し(乙15、乙16)、例えば質量や体積等で表すことができる量であって、明確に理解できるものである。
よって、特許請求の範囲の記載自体は明確であるといえる。

(3)まとめ
したがって、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえないから、本件発明1?6についての特許は、無効理由3によって無効とすることはできない。

4 無効理由4(公然実施による新規性の喪失等)について
(1)公然実施発明
甲9は、Amazonの「オリオントマトジュース低塩160g」(以下「製品1」という。)の販売ページであって、「登録情報」として「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日 2012/6/22」と記載されていることから、上記製品1は、遅くとも平成24年6月22日には販売の申し出がなされ、それ以降、継続的に販売されていたと認められる。
よって、上記製品1は、本件特許出願前に公然と譲渡等又は譲渡等の申出がなされていたもの、すなわち公然実施されていたものと認められる。

甲10には、平成26年11月28日に、試料3である「オリオントマトジュース低塩160g缶」の香気成分を分析した結果が示されている。その分析結果は次のとおりである。


ところで、上記試料3には、缶側面に「Orionトマトジュース」、「低塩」、「品名 トマトジュース(濃縮トマト還元)」、「原材料名 トマト、食塩」、「内容量 160g」、「賞味期限 缶底上段に記載」の各表示があり、缶底の上段に「2014.7.23」の表示があり(甲7、甲10の写真12?14)、甲8によれば、上記試料3に係るトマトジュースの賞味期限は2年であると認められるので、上記甲9の記載とあわせてみれば、試料3は、平成24年(2012年)7月に製造された製品1のうちの一つであって、トマト加工物(濃縮トマト)を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であると認められる。そして、試料3は、製造後、平成26年10月22日まで室温下で、その後、平成26年11月28日に成分分析に供されるまで、5℃で冷蔵保管されていたものであり(甲11)、賞味期限の平成26年7月23日から約4か月後に甲10の分析が行われているから、試料3についての成分の分析値が、製品1の成分と大きく異なることは想定し難い。よって、上記甲10の分析結果によって、製品1の成分を認定できるといえる。ここで、相対面積比が「0.00000」となっているのは、検出下限「0.00001」未満であったことを意味すると解される。
そうすると、製品1に係る以下の発明が本件特許出願前に公然実施されたものと認められる。
「トマト加工物(濃縮トマト)を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料であって、
飲料中の香気成分である、ベンジルアルコールの相対面積比が0.00154、2-フェニルエタノールの相対面積比が0.01025、フルフラールの相対面積比が0.16169、ヘキサナールの相対面積比が0.00001未満、trans-2-ヘキセナールの相対面積比が0.00001未満、cis-3-ヘキセノールの相対面積比が0.00001未満であるトマト含有飲料。」(以下「公然実施発明」という。)

(2)本件発明1について
本件発明1と公然実施発明を対比する。
公然実施発明の「トマト加工物(濃縮トマト)を含有し」は、本件発明1の「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し」に相当するので、本件発明1と公然実施発明の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料。」

(相違点)
本件発明1は、「飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)が8.00以上」であるのに対し、公然実施発明は、各香気成分の「含有量」が明らかでなく、上記関係を満たすかも明らかでない点。

上記相違点について検討すると、前記第4の「2 訂正の適否」で述べたとおり、「相対面積比(相対面積)」から直ちに「含有量」を知ることができないことから、公然実施発明における各成分の含有量は不明といわざるを得ない。そうすると、上記相違点に係る「C/(A+D)」の値は特定できない。
そして、製品1は、市場で流通していた商品であり、該商品からは、香気成分である、芳香族アルコール類、脂肪族アルデヒド類、脂肪族アルコール類の含有量に着目して、これらを所定範囲とする技術思想を把握することはできない。よって、甲各号証の技術事項を勘案しても、公然実施発明において、上記相違点に係る構成とすることを、当業者が容易に想到し得たということはできない。
よって、本件発明1は公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する。そうすると、上記(2)のとおり、本件発明1が公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえないから、本件発明2も、同様に、公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(4)本件発明3?6について
本件発明3は「トマト含有飲料の製造方法」、本件発明5は「トマト含有飲料の青臭み抑制方法」であって、本件発明1とはカテゴリーが相違する発明ではあるが、いずれも、トマト含有飲料について、「飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)が8.00以上」であることを特定している点で、公然実施発明と相違する。そして、当該相違点についての判断は上記(2)と同じである。
よって、本件発明3及び5は公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

また、本件発明4は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当し、本件発明6は、本件発明5の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する。そうすると、上記のとおり、本件発明3及び5が公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえないから、本件発明4及び6も、同様に、公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(5)まとめ
本件発明1?6は公然実施発明ではなく、公然実施発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえないから、本件発明1?6についての特許は、特許法第29条第1項第2号又は同条第2項に違反してされたものではなく、無効理由4によって無効とすることはできない。

5 無効理由5(進歩性の欠如)について
(1)本件発明1について
ア 甲14、甲2の記載
(ア)甲14には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】野菜汁に茶の熱水抽出液を添加し、タンニン濃度を150?1500ppmとしたことを特徴とする野菜ジュース。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、野菜特有の青臭い匂い及びエグ味が少なく、あと味の爽やかな野菜ジュースに関する。」
「【0008】本発明において用いられる野菜汁としては、トマト、ニンジン……などが挙げられる。これらは、1または2種以上を用いても良い。……
【0009】野菜汁は、通常のジュースの製造法に従い得られたものを、そのまま、又は濃縮或いは水希釈したものを用いることもできる。また、市販されている野菜のピューレーを用いてもよい。」
「【0018】実施例1
紅茶葉10gを容量1000mlのメスフラスコにとり、これに90℃の熱水250mlを加え、同温度の恒温水槽中で5分間抽出する。抽出後、メッシュにより濾過を行い茶葉と濾液とに分離し、濾液はさらに遠心分離して混濁成分(不溶性固形分)を取り除き、水で1000mlに定容し、撹拌して肉眼でほぼ透明な紅茶の熱水抽出液を調製した。一方、トマトペースト200gを容量1000mlのメスフラスコにとり、水で1000mlに定容し、均一に撹拌して、トマト液を調製した。ついで、このトマト液1000mlに紅茶の熱水抽出液1000mlを添加し、均一に撹拌し、以下常法により、加熱殺菌した後、包装用缶に充填密封し、冷却して、本発明の、タンニンを約300ppm含有する缶入りトマトジュースを得た。」
「【0020】対照例1
比較のため、上記本発明の缶入りトマトジュースの製造法において、「紅茶の熱水抽出液1000ml」に代えて、「熱水1000ml」を用いる以外は、全く同様にして、対照例の缶入りトマトジュースを得た。」
以上によれば、甲14には、対照例1に関する、次の発明が記載されていると認められる。
「トマトペースト200gを容量1000mlのメスフラスコにとり、水で1000mlに定容し、均一に撹拌して、トマト液を調製し、ついで、このトマト液1000mlに熱水1000mlを添加し、均一に撹拌し、加熱殺菌した後、包装用缶に充填密封し、冷却して得られる缶入りトマトジュース。」(以下「甲14発明」という。)

(イ)甲2には、以下の事項が記載されている。
「トマトペーストサンプルからの揮発性物質の分離
1.一般的な手法
……トマトペースト(100g)を水(200mL)と1Lビーカーに入れ、十分に混合した。混合物をマグネティックスターラーの入った1Lの丸底フラスコに注いだ。また、5mLの内部標準(20.0ppm 3-ペンタノン、20.0ppm 2-オクタノン、5.0ppm アネトール)保存水溶液をその際添加した。……」(甲2訳文2頁9?16行)
「トマトペーストはカリフォルニアの加工工場でつくられており……生鮮トマト(およそ固形分6%)をトマトペースト(およそ固形分29%)にすることは、固形分のおよそ5倍濃縮をすることになる。」(甲2訳文4頁20?25行)
Table Iには、トマトペーストの揮発性物質分析結果について、
hexanal:8ppb、
(E)-2-hexenal:1.2ppb、
(Z)-3-hexenol:5ppb
2-phenylethanol:1000ppb
であることが記載されている。
ここで、hexanalは「ヘキサナール」、(E)-2-hexenalは「trans-2-ヘキセナール」、(Z)-3-hexenolは「cis-3-ヘキセノール」、「2-phenylethanol」は「2-フェニルエタノール」のことであるから、甲2に示されるトマトペーストは、「ヘキサナールを8ppb、trans-2-ヘキセナールを1.2ppb、cis-3-ヘキセノールを5ppb、2-フェニルエタノールを1000ppb」含有するものである。

イ 対比
甲14発明の「トマトペースト」、「トマトジュース」は、それぞれ、本件発明1の「トマト果実汁及び/又はその加工物」、「トマト含有飲料」に相当する。また、甲14発明が甘味料を含まないことは明らかである。
そうすると、本件発明1と甲14発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
トマト果実汁及び/又はその加工物を含有し、甘味料を含まないトマト含有飲料。
(相違点)
本件発明1が「飲料中の香気成分である、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)が8.00以上である」と特定しているのに対し、甲14発明は、香気成分について特定するものではない点。

ウ 判断
甲2に示されるトマトペーストは、ヘキサナールを8ppb、trans-2-ヘキセナールを1.2ppb、cis-3-ヘキセノールを5ppb、2-フェニルエタノールを1000ppb含有するから、ベンジルアルコール及び/又は2-フェニルエタノールを含む芳香族アルコール類の含有量Cと、ヘキサナール及び/又はtrans-2-ヘキセナールを含む脂肪族アルデヒド類の含有量Aとcis-3-ヘキセノールを含む脂肪族アルコール類の含有量Dの含有量合計A+Dとの比、C/(A+D)=1000/(8+1.2+5)=70.4であって、本件発明1の「C/(A+D)が8.00以上」の条件を満たす。
しかし、甲14発明のトマトジュースを製造するにあたり、トマトペーストとして、数多く存在するトマトペーストの中から、甲2のトマトペーストを選択する動機付けが認められない。仮に、甲14発明において、甲2のトマトペーストを使用したとしても、熱水を添加し、均一に撹拌し、加熱殺菌した後、包装用缶に充填密封するという工程を経た後に、元のトマトペーストの香気成分が保持されているかは不明であるから、上記相違点に係る構成が得られるとはいえない。
また、甲15は、上記相違点に係る技術事項を開示するものではない。
請求人は、甲14の「青臭い臭いを除去する」という本件発明1と同じ目的で、甲2のトマトペーストを用いることができること、甲2のトマトペーストはカリフォルニア産であり、カリフォルニア産のトマトペーストをトマトジュースに使用することは本件特許出願時に一般的になされていたこと(甲21)から、甲2のトマトペーストを甲14発明のトマトペーストとして用いることが容易である旨を主張する(平成27年5月8日付け審判事件弁駁書62頁3行?下から4行)。
しかし、甲14には、青臭い臭いを除去するためにトマトペーストを選択するとの技術思想は示されていない。また、カリフォルニア産のトマトペーストをトマトジュースに使用すること自体は格別なことといえないとしても、カリフォルニア産のトマトペーストの中から更に甲2のトマトペーストを選択して使用することまでが容易であるとはいえない。よって、上記請求人の主張は採用できない。
したがって、上記相違点に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

エ まとめ
本件発明1は、甲14発明及び甲2、甲15の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する。そうすると、上記(1)エのとおり、本件発明1が甲14発明及び甲2、甲15の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明2も、同様に、甲14発明及び甲2、甲15の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明3?6について
本件発明3、4は「トマト含有飲料の製造方法」、本件発明5、6は「トマト含有飲料の青臭み抑制方法」であって、本件発明1、2とはカテゴリーが相違するものではあるが、少なくとも、上記(1)イに示した相違点は、本件発明3?6と甲14発明との相違点でもある。
そして、当該相違点についての判断は上記(1)ウと同じである。
よって、本件発明3?6は、甲14発明及び甲2、甲15の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
本件発明1?6は、甲14発明及び甲2、甲15の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明1?6についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものではなく、無効理由5によって無効とすることはできない。

第7 結び
したがって、本件発明1?6についての特許は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-02 
結審通知日 2016-09-06 
審決日 2016-09-20 
出願番号 特願2012-231745(P2012-231745)
審決分類 P 1 113・ 536- ZB (A23L)
P 1 113・ 112- ZB (A23L)
P 1 113・ 121- ZB (A23L)
P 1 113・ 113- ZB (A23L)
P 1 113・ 85- ZB (A23L)
P 1 113・ 855- ZB (A23L)
P 1 113・ 537- ZB (A23L)
P 1 113・ 841- ZB (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 山崎 勝司
紀本 孝
登録日 2013-06-07 
登録番号 特許第5285177号(P5285177)
発明の名称 トマト含有飲料及びその製造方法、並びにトマト含有飲料の青臭み抑制方法  
代理人 中村 勝彦  
代理人 松山 智恵  
代理人 内藤 和彦  
代理人 北谷 賢次  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 速見 禎祥  
代理人 宮下 洋明  
代理人 遠山 友寛  
復代理人 竹内 工  
代理人 岩坪 哲  
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