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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06F
管理番号 1321815
審判番号 不服2013-23860  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-04 
確定日 2016-12-08 
事件の表示 特願2012-527933号「マイクロ波照射による衣類のしわ除去」拒絶査定不服審判事件〔2012年 8月 2日国際公開、WO2012/101773〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年1月26日を国際出願日とする出願であって、平成25年8月20日に手続補正がなされ、平成25年9月11日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年12月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審より平成26年7月7日付で拒絶の理由が通知され、これに対し、平成26年9月2日に意見書の提出がなされたものである。

第2 特許請求の範囲
平成25年8月20日の手続補正によって特許請求の範囲は、以下のように補正された。

「【請求項1】
水で湿り気を帯び、しわがついた衣類に、電子レンジで、水の沸点に到達しない時間、マイクロ波を照射し、湿り気を帯びたまま、当該衣類の温度が上昇することに伴って、しわを除去することを特徴とする、衣類のしわ除去方法。
【請求項2】
湿り気を帯び、しわがついた衣類に、吊るす、引っ張る、プレスする等、しわを伸ばすための力が加えられていない状態で、実施することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
湿り気を帯び、しわがついた衣類をマイクロ波が透過する密閉容器又は半密閉容器に入れた状態、又はマイクロ波を透過しかつ蒸気を透過しない袋で覆った状態で、実施することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための衣類であって、マイクロ波を透過しかつ通気性のない袋で覆う方が、前記袋で覆わない場合よりも、しわ除去の効果が高くなる、繊維間の水素結合によってしわが形成される衣類。」

第3 拒絶の理由
当審が平成26年7月7日付けで通知した拒絶の理由は、以下のとおりである。

「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
〔理由1について〕
(1)請求項1の「水の沸点に到達しない時間」は明確でない。
明細書には、「本発明の衣類のしわ除去方法は、しわの除去にマイクロ波を利用する。洗濯、脱水後の湿り気を帯び、かつ洗濯しわがついた衣類等を広げ、吊るすか、折り目が付かないよう強く押さえないようにたたみ、マイクロ波照射装置の加熱庫内に入れ、前記装置の自動で停止するタイマーをセットし、当該衣類全体にマイクロ波を照射する。この際、当該衣類をポリエチレン製等の袋、またはラップフィルムで全体を覆っておくと、加熱時間の短縮、加熱中の乾燥防止、しわ除去をより促進する効果がある。例えば、乾燥時の質量250g、洗濯脱水後の質量320gである綿100%のワイシャツを袋に入れて行う場合、高周波出力550Wのマイクロ波を約90秒照射する。照射直後の袋内部の温度は約90℃で、質量は加熱前より、約3g減少している程度で湿ったままである。」(【課題を解決するための手段】)と記載されている。
このように、水で湿り気を帯びた衣類に、電子レンジでマイクロ波を照射すると、水が加熱されて蒸発していくものの、湿った衣類の水が沸点に到達することはない(この点について、特開2010-175155号公報【0002】、【0008】、本願明細書の上記【課題を解決するための手段】の温度が約90℃である点、実施例1(【0032】)において、電子レンジで90秒加熱した場合、袋が蒸気で膨らんで、袋内部は約85℃で湿ったままである点も参照されたい。)。そうすると、そもそも水の沸点に到達する時間とは、どのような状態になった時を特定するのか明確でなく、その結果、「水の沸点に到達しない時間」ということも明確ではない。
さらにいえば、「水の沸点に到達しない時間」という記載は、明細書に記載されていない。
以上のことは、請求項1を引用する請求項2?4も同様である。

(上記の点は、マイクロ波照射時間を通じて衣類が湿り気を帯びている(衣類が湿り気を帯びた状態で電子レンジから取出す)ことを特定しようとする趣旨か。そうであれば、例えば、請求項1を「水で湿り気を帯び、しわがついた衣類に、電子レンジで、マイクロ波を照射し、当該衣類の温度が上昇することに伴って、しわを除去し、湿り気を帯びたままの衣類を電子レンジから取出すことを特徴とする、衣類のしわ除去方法。」と補正することにより上記の拒絶理由は解消する。)

(2)請求項4の「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための衣類であって、マイクロ波を透過しかつ通気性のない袋で覆う方が、前記袋で覆わない場合よりも、しわ除去の効果が高くなる、繊維間の水素結合によってしわが形成される衣類。」は明確でない。
明細書には、使用する衣類として、「綿100%のワイシャツ」、「素材に綿又は羊毛が50%以上使用された衣類」、「綿60%、ポリエステル40%のチノパンツ」、「ウール50%、ポリエステル50%のスラックス」、「綿100%のTシャツ、ポロシャツ、ハンカチ」、「綿50%、ポリエステル50%の半そでのワイシャツ」、「綿80%、ポリエステル20%の場合」等が記載されているが、これらの衣類は本出願日前周知の普通の衣類である。また、「マイクロ波を透過しかつ通気性のない袋で覆う方が、前記袋で覆わない場合よりも、しわ除去の効果が高くなる、繊維間の水素結合によってしわが形成される」との特定は、上記普通の衣類にマイクロ波を照射した場合に、袋で覆った衣類と、袋で覆わない衣類のしわの除去効果を比較して述べているのであって、衣類として特徴を特定するものではない。
そうすると、ことさら「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための」と特定することにより、どのような衣類を特定しようとしているのか理解できない。
(上記の点は、請求項4を削除することにより解消する。)

〔理由2について〕
・請求項 1、2、4
・引用文献等 1
・備考
(1)引用文献1には、「高周波を衣服等の乾燥に用いた場合誘電加熱の原理は加熱しようとする物質に誘電損失を発生させる」(明細書第2ページ第10?12行)、「繊維の場合多孔質と同様蒸気が外部へ発散しやすく安全に乾燥できる。又水分の蒸発に伴う熱及び加湿の作用も本案の利点であり、外部から蒸気で加湿を行う事なく繊維に生じたしわを伸ばす効果がある。」(明細書第3ページ第3?7行)及び図-1、図-2には、二枚の平行板からなる電極間に、衣服が吊された状態にあることが記載されている。
以上より、乾燥過程ではあるが、引用文献1には、水で湿り気を帯び、しわがついた衣類に、二枚の平行板からなる電極により高周波を照射し、誘電加熱により、湿り気を帯びたまま、当該衣類の温度が上昇することに伴って、しわを除去すること(以下「引用文献1記載の発明」という。)が記載されている。
そこで、本願請求項1に係る発明と引用文献1記載の発明とを対比するに両者は次の点で相違する。

相違点
誘電加熱するにあたり、本願請求項1に係る発明は、電子レンジで、水の沸点に到達しない時間、マイクロ波を照射しているのに対して、引用文献1記載の発明は、二枚の平行板から電極により高周波を照射しており、また、その加熱時間についての特定はなされていない点。

そこで、上記相違点について判断する。
誘電加熱の一形態として、電子レンジによるマイクロ波加熱は本出願日前周知のものである。そして、マイクロ波加熱が衣類に含まれる水分を加熱することが出来ることも明らかである。
そうすると、引用文献1記載の発明における衣類に含まれる水分を誘電加熱により加熱する手段として、電子レンジのマイクロ波による誘電加熱とすることは当業者が容易になし得たことである。
また、加熱時間について、本願請求項1記載の「水の沸点に到達しない時間」は、上記理由1(1)に指摘したとおり、不明りょうであるが、水で湿り気を帯びた衣類を電子レンジで加熱する場合に、発火等の危険を考慮して、水の沸点に到達しない程度の加熱時間とすることは当業者が適宜なし得た事項である。

したがって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

加えて、引用文献1記載の発明において、加熱手段として電子レンジを適用したものは、衣類を電子レンジ内に載置するから、しわを伸ばすための力が加えられていない。
また、引用文献1記載の発明に用いられる衣類は、その素材について特定されていないが、衣類の素材として、綿100%、綿とポリエステルの混紡、ウールとポリエステルとの混紡等は本出願日前周知のものであって、当業者が適宜採用できるものである。
したがって、本願請求項2、4に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(〔理由1について〕の(1)において例示したとおりに補正すれば、上記請求項1及び2についての拒絶理由は解消する。)

〔理由3について〕
・請求項 4
・引用文献等 1
・備考
引用文献1記載の発明に用いられる衣類は、その素材について特定されていないが、衣類の素材として、綿100%、綿とポリエステルの混紡、ウールとポリエステルとの混紡等は本出願日前周知のものであり、各混紡割合についても種々のものが普通に販売されている。
そして、本願の実施例をみると、用いられている衣類は綿100%のワイシャツ、綿60%、ポリエステル40%のチノパンツ、ウール50%、ポリエステル50%のスラックス、綿100%のTシャツ、ポロシャツ、ハンカチ、綿50%、ポリエステル50%の半そでのワイシャツ、綿80%、ポリエステル20%の半そでのワイシャツであり、これらのものはいずれも本出願日前周知のものと認められる。
そうすると、本願請求項4に係る衣類と、引用文献1記載の発明の衣類とは異なるものということができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.実願昭47-14472号(実開昭48-91571号)のマイクロフィルム 」

第4 当審の判断
1 まず、拒絶理由通知書に記載した理由1のうち、請求項4に関する理由1(2)について検討する。
(1)請求項4の「マイクロ波を透過しかつ通気性のない袋で覆う方が、前記袋で覆わない場合よりも、しわ除去の効果が高くなる、繊維間の水素結合によってしわが形成される衣類」との特定は、衣類にマイクロ波を照射した場合に、袋で覆った衣類と、袋で覆わない衣類のしわの除去効果を比較して述べるものであるとともに、繊維間の水素結合によってしわが形成されるという繊維からなる衣類の普通の性状を述べるものであるから、衣類として構造を特定するものではない。
したがって、上記特定から請求項4に係る発明の衣類が具体的にどのような構造を有するものであるのかは直ちに理解することができない。

(2)そこで、明細書を参酌するに、使用する衣類に関して次の記載がある。

ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
洗濯脱水乾燥まで、自動で行う洗濯乾燥機が開発されている一方で、例えばワイシャツは、下着類と同様に、家庭で洗濯できるにもかかわらず、クリーニングに出される代表的な衣類である。その主な理由のひとつに、アイロン掛けの手間がある。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】左が本発明の実施例1を実施後、自然乾燥したワイシャツで、右が脱水後マイクロ波を照射しないで自然乾燥した、同一のワイシャツの写真。」

ウ 「【0028】
衣類の布地の種類によって、しわ除去の効果が顕著な場合と、効果が弱い場合がある一方、効果が表れる衣類は、効果の再現性が高いという特徴がある。素材に綿又は羊毛が50%以上使用された衣類は、しわ除去効果が高い。」

エ 「【0029】
例えば綿100%のワイシャツは一般に、風合い、着心地、水洗いでの耐久性では高い評価がある。にもかかわらず洗濯脱水による、しわの発生と、しわ除去の手間は、繰返し洗濯する衣類としては大きな欠点であった。」

オ 「【0030】
繊維には天然繊維、化学繊維、混合繊維等種類が多く、さらに同じ繊維でも化学的処理がされ性質が変わったものもある。繊維の断面、織り方等も種類が多数あり、例えば綿100%と表示されたワイシャツであっても、汗で生地が人の肌にはり付かないよう表面が加工された場合、マイクロ波によるしわ除去効果がほとんど、認められないものもある。
ただし1度効果が確認できたものは、効果の再現性が極めて高い。」

カ 「【実施例】
【0032】
(実施例1)
乾燥状態で質量285g、洗濯脱水後の湿った状態で、同365gである、しわがついた綿100%のワイシャツをおおよそ縦30cm、横25cm、厚さ8cmの大きさに、押さえないように折りたたみ、通気性のないポリエチレン製の袋に入れ、袋の開口部を軽く閉じ、食品加熱用電子レンジの加熱室内に袋を水平にした状態で置き、タイマーをセットし、90秒加熱した。加熱時に袋が蒸気で膨らんだ。加熱終了直後、袋内部は約85℃、質量は約362gで、湿ったままであった。袋に入った衣類を観察すると、すでに衣類の大部分のしわが消え、滑らかになっていた。袋から出し衣類の襟等を持って空気中で振ると、残ったしわもほぼ完全に除去できた。その後、ハンガーに干して乾燥することでしわがほぼ完全に除去できた乾燥したワイシャツが得られた(図1参照)。」

キ 「【0034】
(実施例3)
乾燥状態で質量440g、洗濯脱水後の湿った状態で、質量575gである、しわがついた綿60%、ポリエステル40%のチノパンツについて、マイクロ波照射時間を180秒にした以外は実施例1と同様に実施すると、やはりほとんどしわは消えた。しかし折りたたんだ影響により、折り目部分で折りしわが薄く残り、自然乾燥しても消えなかった。
家庭で洗濯できる加工がされた、ウール50%、ポリエステル50%のスラックスの場合、しわはほとんど消え、かつ折りしわはできなかった。」

ク 「【0035】
(実施例4)
綿100%のTシャツ、ポロシャツ、ハンカチにもアイロンを掛けたような効果があった。マイクロ波照射時間は、各衣類の質量に応じて変更することが必要である。」

ケ 「【0036】
(実施例5)
綿50%、ポリエステル50%の半そでのワイシャツは効果が弱いものが多く、綿80%、ポリエステル20%の場合効果は確認できたものの、実施例1のワイシャツに比べるとしわ除去効果は弱かった。」

そして、上記記載事項ア?ケによると、しわ除去効果が確認できたものとして実施例で使用されている衣類は、「綿100%のワイシャツ」、「綿60%、ポリエステル40%のチノパンツ」、「ウール50%、ポリエステル50%のスラックス」、「綿100%のTシャツ、ポロシャツ、ハンカチ」、「綿50%、ポリエステル50%の半そでのワイシャツ」及び「綿80%、ポリエステル20%の半そでのワイシャツ」であり、各素材及び各構成比からなる衣類は、本願出願日前周知の普通の衣類である。

(3)そうすると、本願請求項4の「マイクロ波を透過しかつ通気性のない袋で覆う方が、前記袋で覆わない場合よりも、しわ除去の効果が高くなる、繊維間の水素結合によってしわが形成される衣類」との特定は、本願出願日前周知の普通の衣類について、当該衣類が普通に有している性状を単に付加して表現したに過ぎない。
更に、請求項4では、「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための衣類」と特定しているが、上記のとおり、本願出願日前周知の普通の衣類を実施例としていることも考慮すると、「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための衣類」として特定することで、どのような技術的事項を特定しているのか理解できず、発明が明確でない。

(4)この点について、請求人は、平成26年9月2日の意見書において、以下のように主張する。

「〈理由1(2)について〉
拒絶理由で例示された「周知の普通の衣類」は明細書に記載されているが、それらすべてに共通点、特徴があり、以下の衣類は含まれないことは、本願明細書【06】【22】及び出願時の技術常識によって明確である。例えば家庭(水)で洗濯をすることによって、a.アイロンでも復元が極めて困難なダメージを受ける衣類(ウールのセーター、スーツ等、ドライクリーニングのみに適する衣類)、b.しわがつかない、またはしわがついても除去する必要が無い衣類、しわの有無の概念がない衣類(靴下、靴紐、手袋、技術常識でアイロンの必要がない下着)、c.天然素材を含まない化学繊維であって水素結合によるしわが形成されない衣類(素材がポリエステル100%のスポーツウエア等)。ここまでで、どのような衣類を特定しようとしているか明確である。さらに、アイロンでは、しわの原因が、ガラス転移、水素結合のいずれかに関係なく有用であることは常識であることに対し、「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための」という記述によって、「水素結合によってしわが形成される衣類」(本願【36】)という限定もなされている。つまり誘電加熱による昇温と湿り気とが、水素結合が固定するしわを除去することができる衣類ということを特定している。しわ除去が必要な衣類よりもさらに、範囲を狭めることで、しわを伸ばすための手間がかからないこと、しわを伸ばすための力が加えることが困難な家庭用の電子レンジの、ほぼすべてが有効に利用できる等の技術的意義を浮き彫りにしている。(ただし本願は電子レンジの形態、種類、用途の特定はしていない。)」(意見書第2ページ下から第14行?第3ページ第5行)

(5)この主張の要旨は、請求項4で特定される「衣類」は、本出願日前周知の普通の衣類から、a.アイロンでも復元が極めて困難なダメージを受ける衣類(ウールのセーター、スーツ等、ドライクリーニングのみに適する衣類)、b.しわがつかない、またはしわがついても除去する必要が無い衣類、しわの有無の概念がない衣類(靴下、靴紐、手袋、技術常識でアイロンの必要がない下着)、c.天然素材を含まない化学繊維であって水素結合によるしわが形成されない衣類(素材がポリエステル100%のスポーツウエア等)を除いた普通の衣類を用いるというものである。
しかしながら、請求人のいうように、本願出願日前周知の普通の衣類から、上記a、b及びcの衣類を除いて、誘電加熱による昇温と湿り気とが、水素結合が固定するしわを除去することができる衣類ということを特定しているとしても、本願請求項4が特定しようとしている衣類は、結局「綿100%のワイシャツ」、「綿60%、ポリエステル40%のチノパンツ」、「ウール50%、ポリエステル50%のスラックス」、「綿100%のTシャツ、ポロシャツ、ハンカチ」、「綿50%、ポリエステル50%の半そでのワイシャツ」及び「綿80%、ポリエステル20%の半そでのワイシャツ」等の本願出願日前周知の普通の衣類であることに変わりはない。
そうすると、請求人の上記主張を考慮しても、上記a、b及びcを除いた本願出願日前周知の普通の衣類について、「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための衣類」として特定することで、どのような技術的事項を特定しようとしているのか理解できず、発明が明確でないといわざるを得ない。

(6)小括
以上より、請求項4に係る発明は、不明確であるので、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 次に、拒絶理由通知書に記載した請求項4に関する理由2、及び理由3について検討する。
(1)請求項4に係る発明は、上述のとおり不明りょうであるが、請求人の上記第4.1.(4)での主張を踏まえた場合においては、請求項4の記載は、a.アイロンでも復元が極めて困難なダメージを受ける衣類(ウールのセーター、スーツ等、ドライクリーニングのみに適する衣類)、b.しわがつかない、またはしわがついても除去する必要が無い衣類、しわの有無の概念がない衣類(靴下、靴紐、手袋、技術常識でアイロンの必要がない下着)、c.天然素材を含まない化学繊維であって水素結合によるしわが形成されない衣類(素材がポリエステル100%のスポーツウエア等)を除いた本願出願日前周知の普通の衣類を意味するものであると理解して、以下検討する。

(2)本願発明
本願の請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年8月20日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための衣類であって、マイクロ波を透過しかつ通気性のない袋で覆う方が、前記袋で覆わない場合よりも、しわ除去の効果が高くなる、繊維間の水素結合によってしわが形成される衣類。」

そして、本願発明は、上記請求人の主張、及び、本願明細書に記載された実施例の記載を参酌すれば、a.アイロンでも復元が極めて困難なダメージを受ける衣類(ウールのセーター、スーツ等、ドライクリーニングのみに適する衣類)、b.しわがつかない、またはしわがついても除去する必要が無い衣類、しわの有無の概念がない衣類(靴下、靴紐、手袋、技術常識でアイロンの必要がない下着)、c.天然素材を含まない化学繊維であって水素結合によるしわが形成されない衣類(素材がポリエステル100%のスポーツウエア等)を含まず、少なくとも、「綿100%のワイシャツ」、「綿60%、ポリエステル40%のチノパンツ」、「ウール50%、ポリエステル50%のスラックス」、「綿100%のTシャツ、ポロシャツ、ハンカチ」、「綿50%、ポリエステル50%の半そでのワイシャツ」及び「綿80%、ポリエステル20%の半そでのワイシャツ」を含むものと解される。

(3)引用例
これに対して、当審の拒絶の理由に引用された、実願昭47-14472号(実開昭48-91571号)のマイクロフィルム(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

コ 「従来衣服等の洗浄処理後に於ける乾燥及び仕上の為の熱源として専ら蒸気あるいは電気、ガス等による加熱すなはち空気を媒体として対流、伝導放射の原則に基づく方法が行われてきた。」(明細書第1ページ第8?11行)

サ 「本案は高周波による誘電加熱を利用し要求される熱エネルギーを効率良く極めて短時間に乾燥物体すなはち繊維に含まれている水分又は溶剤に直接発生させて内部から蒸発をうながし必要に応じて同時に加圧仕上も行おうとするもので加熱過剰による変質等の欠陥を除き能率向上を目的とするものである。高周波を衣服等の乾燥に用いた場合誘電加熱の原理は加熱しようとする物質に誘電損失を発生させる・・・」(明細書第2ページ第4?12行)

シ 「繊維の場合多孔質と同様蒸気が外部へ発散しやすく安全に乾燥出来る。又水分の蒸発に伴う熱及び加湿の作用も本案の利点であり、外部から蒸気で加湿を行う事なく繊維に生じたしわを伸ばす効果がある。」(明細書第3ページ第2?6行)

上記記載事項コ?シを総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。) が記載されている。

「洗浄処理後に、高周波による誘電加熱によって繊維に含まれている水分を蒸発させ、外部から蒸気で加湿を行う事なく繊維に生じたしわを伸ばす衣服。」

(4)対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、文言の意味、機能等からみて、後者の「衣服」は、前者の「衣類」に相当する。
後者の「洗浄処理後に、高周波による誘電加熱によって繊維に含まれている水分を蒸発させ、外部から蒸気で加湿を行う事なく繊維に生じたしわを伸ばす」ことと、前者の「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための衣類であって、マイクロ波を透過しかつ通気性のない袋で覆う方が、前記袋で覆わない場合よりも、しわ除去の効果が高くなる、繊維間の水素結合によってしわが形成される」こととは、「誘電加熱によりにしわを除去する」限りにおいて一致する。

そこで、本願発明の用語を基本として用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

(一致点)
「しわを除去する衣類であって、誘電加熱によりにしわを除去する衣類。」

そして、両者は、次の点で相違する。

(相違点)
誘電加熱によりにしわを除去する衣類について、本願発明は、「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための衣類であって、マイクロ波を透過しかつ通気性のない袋で覆う方が、前記袋で覆わない場合よりも、しわ除去の効果が高くなる、繊維間の水素結合によってしわが形成される」とされているのに対して、引用発明は、「洗浄処理後に、高周波による誘電加熱によって繊維に含まれている水分を蒸発させ、外部から蒸気で加湿を行う事なく繊維に生じたしわを伸ばす」とされている点。

そこで上記相違点について検討する。

第4.1で検討したとおり、本願発明が衣類について、「請求項1から3のいずれか1に記載の方法を使用するための衣類であって、マイクロ波を透過しかつ通気性のない袋で覆う方が、前記袋で覆わない場合よりも、しわ除去の効果が高くなる、繊維間の水素結合によってしわが形成される」と特定することにより、どのような技術的事項を特定しようとしているのか明確でないが、第4.2(1)のとおり、本願発明が相違点で特定しようとすることは、a.アイロンでも復元が極めて困難なダメージを受ける衣類(ウールのセーター、スーツ等、ドライクリーニングのみに適する衣類)、b.しわがつかない、またはしわがついても除去する必要が無い衣類、しわの有無の概念がない衣類(靴下、靴紐、手袋、技術常識でアイロンの必要がない下着)、c.天然素材を含まない化学繊維であって水素結合によるしわが形成されない衣類(素材がポリエステル100%のスポーツウエア等)を除いた本願出願日前周知の普通の衣類であると一応は理解できる。
一方、引用発明は、衣服の素材等、具体的な構成を特定しておらず、また、明細書にも衣服の具体的な構成について特に特定はしていない。
そして、引用文献1には、洗浄処理して(記載事項コ)、乾燥出来て(記載事項サ、シ)、繊維に生じたしわを伸ばすことができる衣服が記載されているのであって、そのような衣服として、例えば、「綿100%のワイシャツ」、「綿60%、ポリエステル40%のチノパンツ」、「ウール50%、ポリエステル50%のスラックス」、「綿100%のTシャツ、ポロシャツ、ハンカチ」、「綿50%、ポリエステル50%の半そでのワイシャツ」及び「綿80%、ポリエステル20%の半そでのワイシャツ」等の本願出願日前周知の普通の衣類を想定し得るということができる。

そうすると、上述のように理解した本願出願日前周知の普通の衣類を意味する本願発明と、同じく本願出願日前周知の普通の衣類を特定する引用発明とを、相違しているものということができず、本願発明は、引用発明と同一である。

仮に、本願発明と引用発明とが相違するとしても、本願発明がa.アイロンでも復元が極めて困難なダメージを受ける衣類(ウールのセーター、スーツ等、ドライクリーニングのみに適する衣類)、b.しわがつかない、またはしわがついても除去する必要が無い衣類、しわの有無の概念がない衣類(靴下、靴紐、手袋、技術常識でアイロンの必要がない下着)、c.天然素材を含まない化学繊維であって水素結合によるしわが形成されない衣類(素材がポリエステル100%のスポーツウエア等)を除いた、例えば、「綿100%のワイシャツ」、「綿60%、ポリエステル40%のチノパンツ」、「ウール50%、ポリエステル50%のスラックス」、「綿100%のTシャツ、ポロシャツ、ハンカチ」、「綿50%、ポリエステル50%の半そでのワイシャツ」及び「綿80%、ポリエステル20%の半そでのワイシャツ」等のような本願出願日前周知の普通の衣類を意味しているのであるから、引用発明からそのような本願出願日前周知の普通の衣類を想起することは当業者が容易になし得たことである。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、 請求人は、電子レンジ乾燥用衣料に使用される素材について、平成26年9月2日の意見書で次のように主張している。

「〈理由3について〉
特開2003-82506【0018】、「電子レンジ乾燥用衣料に使用される素材は、全て、誘電率が4.4以下であることが必要である。さらに好ましくは、誘電率3.7以下であり、またさらに好ましくは、実質的にポリプロピレンのような、誘電率2.2以下のものである」という記述がある。本願でいえば、マイクロ波が透過する容器、袋等に使用される素材のみで構成される衣類に限定される。引用文献1は、大量の衣類を次々と急速、完全に乾燥できることが必須で、産業用の高出力の高周波誘電加熱装置を使用する必要がある。また、同じ非加熱物であっても高周波とマイクロ波では、誘電率自体も異なる。本願は、実質的に衣類の湿り気を減少させる必要性がなく、物質の中で突出して誘電率が高い水で湿ったまま、守られた状態で行う。よって水で洗濯でき、誘電率の制約が実質的にない、つまり誘電加熱による急速完全乾燥には向かない、「普通の」衣類である。以上より本願請求項に係る衣類と、引用文献1記載の発明の衣類とは、全く異なるものである。引用文献1は誘電加熱を衣類の乾燥に利用しているが、思想であって、何十年経った、今日も実用化できない理由がある。それは、衣類は様々な素材の、生地、糸、タグ等が使用され、サイズも様々なので、最適な乾燥状態を得る前に損傷、収縮が起きる確率が高く出力、時間の設定が極めて難しい。また次の文献より、引用文献1の主要な目的効果である、衣類の急速乾燥と衣類の損傷を防ぐことを両立することは、電極間の高周波誘電加熱装置では実施不可能である。(特開09-097674【0005】、特開2003-82506【0007】)」(意見書第3ページ下から15行?第4ページ第5行)

この点について検討するに、引用文献1には、衣類の素材について何ら特定するところはなく、引用文献1に接した当業者は、そこに記載された衣服がポリプロピレンのような素材に限定されると認識することはなく、本願出願日前周知の普通の衣類を意味しているものと理解する。
そうすると、引用発明の衣類は、本願発明が意味する、例えば、「綿100%のワイシャツ」、「綿60%、ポリエステル40%のチノパンツ」、「ウール50%、ポリエステル50%のスラックス」、「綿100%のTシャツ、ポロシャツ、ハンカチ」、「綿50%、ポリエステル50%の半そでのワイシャツ」及び「綿80%、ポリエステル20%の半そでのワイシャツ」等を含んだ衣類と同一であるか、あるいは、引用発明から容易であるというほかない。

(5)小括
以上より、請求人の第4.1(4)での主張を踏まえた場合においては、本願発明は、引用発明と同一であるか、又は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第36条第6項第2号第29条第1項第3号又は第29条第2項に規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-17 
結審通知日 2014-09-30 
審決日 2014-10-14 
出願番号 特願2012-527933(P2012-527933)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (D06F)
P 1 8・ 113- WZ (D06F)
P 1 8・ 537- WZ (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木戸 優華  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 紀本 孝
山崎 勝司
発明の名称 マイクロ波照射による衣類のしわ除去  

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