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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1321863
審判番号 不服2015-8475  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-07 
確定日 2016-12-06 
事件の表示 特願2012-534704「位相情報を用いたサブミリ波レーダー」拒絶査定不服審判事件〔平成23年4月28日国際公開、WO2011/048192、平成25年3月7日国内公表、特表2013-508709、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)10月21日(パリ条約による優先権主張2009年(平成21年)10月22日(以下、「優先日」という。)、欧州特許庁)を国際出願日とする国際出願であって、平成26年2月12日付けの拒絶理由の通知に対し同年6月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月26日付けで拒絶査定(平成27年1月6日謄本送達)(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年5月7日に拒絶査定不服審判が請求され、同年6月18日に手続補正(方式)がなされ、その後、当審において平成28年4月13日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、同年10月19日に意見書及び手続補正書(同手続補正書でした補正を、以下、「本件補正」という。)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれを「本願発明1」等という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されたとおりの、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
視野を有するサブミリ波アクティブレーダーシステムのための信号処理装置において、
前記信号処理装置は、前記視野から受信し且つ前記レーダーシステムによってダウンコンバートされた信号を処理するように構成され、
所定のピクセルに対応する前記ダウンコンバート信号は、時間的に変動する振幅成分と時間的に変動する位相成分とを有し、前記振幅成分と位相成分は共に前記視野内の前記所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有し、前記ダウンコンバート信号は異なる複数のサブミリ波周波数で受信した別個の信号を含み、さらに、前記信号処理装置は、前記異なるサブミリ波周波数に対応する前記ダウンコンバート信号を別個に分析するように構成されており、さらに、
前記信号処理装置は、前記周期的成分からコンテンツに関する情報を識別するように構成されており、
前記周期的成分から識別された情報は、コンテンツフラター、コンテンツに特有の時間的かつ空間的スペックルパターン、および無線周波数依存周期性を生じるコンテンツ中の薄層における複数の反射からの干渉効果、から選択された少なくとも1個からの効果を含む、信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置において、前記ダウンコンバート信号はIF信号であり、さらに、前記信号処理装置は前記IFスペクトルの2個またはそれ以上の領域を別個に分析するように構成されている、信号処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の信号処理装置において、識別された情報を用いて前記コンテンツ内のオブジェクトを検出し且つ分類するように構成されている、信号処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の信号処理装置において、前記受信信号の一部分を視野内の対応位置に関係付けるための部分を有する、信号処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の信号処理装置において、前記ダウンコンバート信号の成分の空間的または時間的特徴を抽出するために、前記ダウンコンバート信号の成分に1個またはそれ以上の演算子を適用して前記情報を識別するための部分を有する、信号処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の信号処理装置において、前記演算子は、サブミリ波バンド、または、
放射方向、または受信器の焦点位置、または、偏光に依存性を有する特徴のうちの1個またはそれ以上を抽出するための1個の演算子を備える、信号処理装置。
【請求項7】
視野を放射するための送信器と、前記視野からの信号を受信する受信器と、さらに、復調器とを有するサブミリ波レーダーシステムにおいて、前記復調器は前記送信器に位相ロックされており、さらに前記システムは、請求項1乃至5の何れか1項に記載の信号処理装置を有する、サブミリ波レーダーシステム。
【請求項8】
請求項6に記載のレーダーシステムと識別された情報を使用するための出力システムとを有する車両。
【請求項9】
サブミリ波アクティブレーダーシステムを使用する方法において、前記方法は、
送信器を用いて視野を放射し、
前記視野から信号を受信し、
前記視野の所定のピクセルに対応するダウンコンバート信号が、時間的に変動する振幅成分と、時間的に変動する位相成分とを有し、前記振幅成分と位相成分は共に前記視野内の前記所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有し、且つ、前記ダウンコンバート信号が異なる複数のサブミリ波周波数で受信した別個の信号を含むように、前記送信器に位相ロックされた復調器を用いて、前記信号をコヒーレントにダウンコンバートし、
前記異なるサブミリ波周波数に対応する前記ダウンコンバート信号を別個に分析し、さらに
前記周期的成分から前記コンテンツに関する情報を識別するために、前記ダウンコンバート信号を処理する、各ステップを有し、
前記周期的成分から識別された情報は、コンテンツフラター、コンテンツに特有の時間的かつ空間的スペックルパターン、およびコンテンツ中の薄層における複数の反射からの干渉効果であって無線周波数依存の周期性を生じる干渉効果、から選択される少なくとも1個からの効果を含む、方法。
【請求項10】
サブミリ波レーダーシステムの受信器からの信号を処理するための方法において、
前記信号は、前記レーダーシステムの視野内のコンテンツに依存し、さらに
前記方法は、
前記視野内の所定のピクセルに対応するダウンコンバート信号が、時間的に変動する振幅成分と、時間的に変動する位相成分とを有し、前記振幅成分と位相成分は共に周期的成分を有し、且つ、前記ダウンコンバート信号が異なる複数のサブミリ波周波数で受信した別個の信号を含むように、前記レーダーシステムの送信器に位相ロックされた復調器を用いて、前記信号をダウンコンバートし、
前記異なるサブミリ波周波数に対応する前記ダウンコンバート信号を別個に分析し、さらに、
前記周期的成分から前記コンテンツに関する情報を識別する、各ステップを有し、
前記周期的成分から識別された情報は、コンテンツフラター、コンテンツに特有の時間的かつ空間的スペックルパターン、およびコンテンツ中の薄層における複数の反射からの干渉効果であって無線周波数依存の周期性を生じる干渉効果、から選択される少なくとも1個からの効果を含む、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、さらに、受信信号のスペクトルの空間的または時間的特徴を抽出するために、前記受信信号に1個またはそれ以上の演算子を適用することによって、前記情報を識別するステップを有する、方法。
【請求項12】
コンピュータによって実行された場合、コンピュータに請求項10又は11に記載のステップを実行させる、記憶されたプログラムを有する、コンピュータ可読媒体。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本願の請求項1ないし13に係る発明は、いずれも、優先日前に頒布された刊行物である、特表2006-508333号公報(以下、「引用文献1」という。)、特開2008-39422号公報(以下、「引用文献2」という。)、特開2006-81771号公報(以下、「引用文献3」という。)、特開平7-72248号公報(以下、「引用文献4」という。)、特開2008-48243号公報(以下、「引用文献5」という。)、特開2006-107457号公報(以下、「引用文献6」という。)、特開2002-257932号公報(以下、「引用文献7」という。)、特表2009-526988号公報(以下、「引用文献8」という。)及び特開平8-320254号公報(以下、「引用文献9」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであり、より具体的には、平成26年2月12日付け拒絶理由通知書に次の記載がなされている。
(1)「引用文献1(特に、第17?25ページに記載の補正後の段落【0015】?【0047】及び第14ページに記載の図1A?7を参照)には、視野を有するサブミリ波アクティブレーダーシステムのための信号処理装置(段落【0015】)において、前記信号処理装置は、前記視野から受信し且つ前記レーダーシステムによってダウンコンバートされた信号を処理するように構成され(段落【0029】)、前記ダウンコンバート信号は、時変の振幅と、視野内の所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有する位相成分とを有する、視野内の所定のピクセルに対応し(段落【0024】)、さらに、前記信号処理装置は、前記周期的成分からコンテンツに関する情報を識別するように構成されている(段落【0037】)、信号処理装置の発明が、記載されている。」(「請求項1、11」についての「備考」)

(2)「引用文献2(特に、段落【0038】?【0068】及び図4?14を参照)の段落【0054】?【0058】及び図10?11には、サブミリ波を用いて物体の識別を行うにあたり、時間領域信号を周波数領域信号に変換して、複数の周波数帯域(の中心周波数)におけるスペクトルの振幅(と所定の材質で形成された物体から得られる既知のスペクトルの振幅との比較)に基づいて、物体(コンテンツのオブジェクト)の種類を同定する技術が、開示されている。」(「請求項2?4」についての「備考」)

(3)「複数の物体の識別において、センサで検出された画像の連続性(つまり、時間的相関)に基づいて所定の物体の揺らぎを検出することにより、上記複数の物体における上記所定の物体と他の物体とを識別する技術は、本願出願前に当業者にとって周知・慣用の技術(例えば、引用文献4(特に、段落【0006】?【0036】及び図1?5)や引用文献5(特に、段落【0031】?【0035】及び図4)や引用文献6(特に、段落【0019】?【0024】及び図1?2)を参照)である。
ここで、識別にあたり、揺らぎに替えてスペックル又は干渉を用いることは、当業者が適宜変更し得る設計的事項に過ぎないことである。」(「請求項7」についての「備考」)

2 原査定の理由についての判断
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付与した。以下同じ。)。なお、以下は、引用文献1の第15ないし27ページに掲載された、平成17年1月31日提出の手続補正書の明細書から摘記した。
a 「【0003】
本発明は、一般的に画像処理装置と方法に関し、特に、検査すべき物体への入射エネルギーとして、テラヘルツ(THz)の範囲で電磁放射を利用する画像処理システム及び方法に関する。」

b 「【0015】
空港のターミナル、基地、船、あるいは郵便局へ入ってくる人間、パッケージあるいはパレットを日常的に、そして非侵略的に検査するために、図1Aに示すように、人間(あるいはパッケージ8)を、一つの、あるいは複数のTHz源10とTHz画像処理アレイ12との間に配置する、あるいは移動させる。したがって、図1Aの構成は、透過モードに基づいている。図1Bでは、間隔を置いた人間と物体13に、THz源14から投射され、その反射から画像処理アレイ12が検出する。両ケースA及びBにおいて、THz源は、調査すべき人間、パレット、車両、あるいは他の物体を照明する。」

c 「【0023】
本発明では、THz画像処理アレイは、適当な検出器の中から、アンアーバーMIのピコメトリクス(Picometrix)が製造するTHz検出器を用いる。ピコメトリクスTHz検出器は、光導電デバイスとして作動する。これらの検出器に対して、金マイクロ加工アンテナ構造を、高速光導電材料である低温成長GaAs上に製造する。それらは、光ファイバ的に結合した室温検出器である。典型的なピコメトリクス検出器デザイン・パラメータに対して、THz画像処理アレイの視野は、検出器の指向性によって決定する。THz放射の焦点を検出器に合わせるTHzレンズのデザインを少し変更することによって、検出器の視野を(数度、約50度に)調整することができる。
【0024】
画像処理干渉計は、個々の検出器のアレイからなる。一対のこのような検出器16、18を、図2に概略的に示す。各検出器は、入射THz放射の振幅及び位相を測定する。THz放射の波面がアレイに遭遇すると、アレイ内の検出器の各対(例えば16、18)は、検出器対の離隔距離によって決定する、入射THz放射の一つの空間フーリエ成分を測定する。各空間フーリエ成分を、フーリエ変換平面(u-v平面)内の点によって表す。空間フーリエ成分を定量し、その結果として入射THz波面20の方向を判定するためには、一対のアンテナ間の、波面到着時間における位相遅延を測定しなければならない。源への方向と、基線(検出器を効果的に構成する二つのアンテナを結ぶ想像線)との間の相対角度は、二つのアンテナの間への波面の到達における幾何学的遅延τgを定義する。基線の周りに円錐を構成するすべての方向は、同じ位相遅延τg=(b・sinα)/cを持つ。ここで、bは基線の長さであり、cは光速であり、そしてαは相対角度である。源の正確な方向を決定するためには、基線の他の方位における追加の測定を行わなくてはならない。」

d 「【0029】
光混合幾何学では、二つの赤外線レーザ源をミキシングすることを、光導電アンテナ検出エレメント内に局部発振器(LO)信号を生成することと、概念的に考えることができる。この幾何学では、局部発振器とテラヘルツ信号とのミキシング(ビーティング)によって生成する中間周波数は、100?3000MHzの範囲になる(ECDL源の線幅は約5MHzである)。100MHzの中間周波数は、この周波数の電子部品の入手は容易であるため、処理が容易である。一対の検出器に対するTHz電場の相対位相及び振幅(すなわち、フーリエ成分に対するu-v平面)は、二つの検出器における測定中間周波数(IF)信号周波数を互いに関連づけることによって決定する。THz信号を100MHzのIFバンドへダウン変換したら、信号は、電波天文学で開発済みの相関器技術をそのまま用いて処理することができる。」

e 「【0037】
人間が身につけた、あるいはパッケージ内の隠蔽C4あるいはRDX爆発物の検出は、THz放射を反射する、あるいは透過させる多くの他の物質があるため、困難である。金属、例えばコインやベルトバックル等は、ほぼ一定な反射スペクトルを持つ。本システムは、平凡なアイテムから、センチメートル・サイズのC4あるいはRDX爆発物を区別することができる。RDXは、衣類、皮膚及び金属等の他のアイテムとは見分けがつく、特定なTHz周波数における大きなピークを含む反射スペクトルを持つ。」

(イ)よって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内は関連する記載箇所を示す。)。
「検査すべき物体への入射エネルギーとして、テラヘルツ(THz)の範囲で電磁放射を利用する画像処理システムであって、(【0003】)
間隔を置いた人間と物体に、THz源から投射され、その反射から画像処理アレイが検出するものであり、(【0015】)
THz画像処理アレイの視野は、用いるTHz検出器の指向性によって決定され、各検出器は、入射THz放射の振幅及び位相を測定し、(【0023】、【0024】)
THz信号はIFバンドへダウン変換して処理され、一対の検出器に対するTHz電場の相対位相及び振幅は、二つの検出器における測定中間周波数(IF)信号周波数を互いに関連づけることによって決定され、(【0029】)
特定なTHz周波数における大きなピークを含む反射スペクトルを持つ、RDX爆発物を、衣類、皮膚及び金属等の他のアイテムから区別する、(【0037】)
システム。」

イ 引用文献2
(ア)引用文献2には、次の記載がある。
a 「【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス状の進行波を測定対象に向けて送出し、その測定対象で反射したパルス反射波に基づいて測定対象の物体を識別する物体識別方法と物体識別装置とに関する。」

b「【0054】
ステップ3213では、周波数特性減衰観測手段3108が求めた図10に示す反射波形から、第1パルスP1を含まず第2パルスP2を含む時間領域S2の反射波形を周波数解析して図11に示すように周波数特性を求める。なお、図10には測定対象Mがアルミと樹脂(PP)の反射波形のグラフGa,Gb(Gaがアルミ、Gbが樹脂)を示し、図11にアルミと樹脂の周波数特性G3?G6(G3,G4がアルミ、G5,G6が樹脂)の例を示す。
【0055】
ステップ3214では、300GHzから1THz帯において周波数特性上の狭帯域における減衰(例えば0.5THz帯にわたって10dBの減衰)があるか否かを判断する。ノーであればステップ212へ進み、イエスであればステップ3215へ進む。
【0056】
ステップ3215では、上記の周波数特性と既知の完全反射体(金属)の周波数特性とを比較し、複数の周波数帯域(例えば、中心周波数0.5、 1.0、 1.5、 2.0THz)で増幅・減衰に関する変動量が大きい場合があるか否かを判断し、大きい変動量がある場合、ベンゼン環を持つなど分子量の多い高分子物体特有の吸収である可能性があるため、減衰の中心周波数を詳細に観測し、既知の観測データに基づいて、測定環境に存在する可能性のある高分子物体を含んだ物体の種類を同定する。例えば、車両に適用した場合、車両の塗装や車両部品に使用される樹脂などの高分子物体に関連する周波数特性を予め記憶しておき、この周波数特性と比較して測定対象Mの種類を判別する(ステップ3215)。」

(イ)よって、引用文献2には、次の技術が記載されている。
「測定対象で反射したパルス反射波に基づいて測定対象の物体を識別するにあたり、時間領域の反射波形を周波数解析して周波数特性を求め、300GHzから1THz帯における複数の周波数帯域で減衰の中心周波数を詳細に観測し、既知の観測データに基づいて、物体の種類を同定する」技術。

ウ 引用文献3
引用文献3には、次の記載がある。
「【0018】
テラヘルツ波は、繊維、プラスチック、ゴムなどを透過する性質があるため、姿勢や行動を推定しようとしている人物1が、厚手の服、サングラス、靴などを身に付けていてもテラヘルツ波はそれらを透過して、人物の皮膚表面で反射される。遅延器12から求められる遅延時間をτ、電磁波の伝播する速度を光速cとすると、人物1までの直線距離dは
d=c・τ/2
と求まる。電磁波として0.4psec程度の半値幅をもつパルスを用い、そのパルスの半分までのパルスの分離が行なわれるとすれば、0.2psecの遅延時間τに相当する距離dは30μmとなり、人物1までの距離は30μmの分解能で測定できる。電磁波パルスの波形は、要求される仕様に応じて適宜決めればよい。
【0019】
上記のようにして得られた距離は、人物の或る1点の皮膚表面までの直線距離情報である。人物全体の皮膚表面までの直線距離情報を得るためには、波長程度に絞られたビーム状でテラヘルツ波を空間に伝播させ、ビーム位置を2次元スキャンさせる。これには、例えば放物面鏡などを機械的に振動させるといった方法を用いればよい。ビーム伝播方向とそのときの直線距離情報が複数組得られれば、人物の少なくとも一部の皮膚表面の空間的な画像が推定できる。2次元方向の空間分解能は波長程度なので、およそ3THz(波長約100μm)の電磁波の場合は100μmの分解能の画像が得られる。
【0020】
このようにして得られる人物全体の皮膚表面までの直線距離と方向の情報、すなわち3次元位置情報はデータ記憶部4に記憶され、人物1の姿勢および行動を推定する際に演算処理装置16から随時呼び出される。演算処理装置16は、人物の特徴部位検出手段5、人物の姿勢推定手段6、人物の行動推定手段7を含む。」

エ 引用文献4
(ア)引用文献4には、次の記載がある。
a 「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、無人車両の外部における物体の有無及び位置を超音波センサ等により検出する物体検出手段と、前記無人車両外部の状況を撮影する撮影手段と、前記無人車両外部へ向けて風を送り出す送風手段と、前記各手段を制御する制御手段とを備え、該制御手段が、前記物体検出手段による物体検出に伴い前記送風手段を作動して検出物体へ向けて送風を開始させる送風開始タイミング制御機能と,検出物体の送風開始前の撮影画像と送風開始後の撮影画像とを比較して検出物体が揺らいだか否かを判定する揺らぎ判定機能と,検出物体が揺らいだ場合は検出物体を非障害物と判定し検出物体が揺らがない場合は検出物体を障害物と判定する障害物判定機能とをする構成としている。これにより、前述した目的を達成しようとするものである。」

b 「【0011】障害物検出装置3は、統合制御装置4から検出すべき物体の方位を示す検出方位指令値が入力されてくると、三次元物体認識装置2で検出した無人車両周囲の作業領域或いは無人車両の進路上に存在する物体へ送風して当該物体が揺らぐか否か,換言すれば当該物体が無人車両の走行に障害とならない柔らかい物体か走行に障害となる丈夫な物体かを検出し、検出結果に応じて障害物データまたは非障害物データを統合制御装置4へ出力するようになっている。この場合、無人車両1を運用する場所が不整地である時は、例えば構造物や大木等は障害物であり、草木等は非障害物である。」

(イ)よって、引用文献4には、次の技術が記載されている。
「検出物体の送風開始前の撮影画像と送風開始後の撮影画像とを比較して検出物体が揺らいだか否かを判定し、検出物体が揺らいだ場合は、検出物体を草木等の非障害物と判定する一方、検出物体が揺らがない場合は、検出物体を構造物や大木等の障害物と判定する」技術。

オ 引用文献5
(ア)引用文献5には、次の記載がある。
「【0031】
この変化連続性検出部126における検出処理について、図4(A)?(C)を参照して、さらに説明する。この図4(A)?(C)は、ある画素における数フレーム分の差分値を、横軸に過去フレームの時間、縦軸にそれぞれの過去フレームでの差分値を示している。
【0032】
ある画素に物体(動体)が無い場合、図4(A)に示すように、数フレーム分の差分値は小さい状態が継続したものとなる。次に、ある画素に時刻t1のフレームで物体が進入してきて、現フレームでも当該物体が存在する場合、図4(B)に示すように、時刻t1以前のフレームの差分値は大きく、それ以後のフレームの差分値は小さくなる。次に、ある画素に木の葉や波等の揺らぎ(周期的な動き)がある場合、図4(C)に示ように、差分値はランダムに変動する。
【0033】
このように、ある画素に物体が進入してきた場合には、図4(B)に示すように、一定時間の間、差分値が大きい状態におかれる。そのため、変化連続性検出部126は、差分値が大きなフレームの連続数がカウントされ、その値が所定数を越えるとき、動き領域を構成する画素であるとする。
【0034】
なお、ある画素に木の葉や波等の揺らぎがある場合には、図4(C)に示ように、差分値が大きなフレームの連続数は少なく、当該ある画素が動き領域を構成する画素とはされない。また、差分値の図示は省略するが、ある画素に物体の進入によらない輝度変化(単発的な動き)がある場合も、上述した木の葉や波等の揺らぎ(周期的な動き)がある場合と同様に、差分値が大きなフレームの連続数は少なく、当該ある画素が動き領域を構成する画素とはされない。これにより、突発的あるいは周期的な動き領域が除かれ、画像内に進入してきた物体の領域のみ検出可能となる。」

(イ)よって、引用文献5には、次の技術が記載されている。
「ある画素に木の葉や波等の揺らぎ(周期的な動き)がある場合には、当該画素の数フレーム分の差分値がランダムに変動することを利用し、木の葉や波等の揺らぎ(周期的な動き)のある画素を含む領域を動き領域から除くことにより、画像内に進入してきた物体の領域のみを動き領域として検出する」技術。

カ 引用文献6
(ア)引用文献6には、次の記載がある。
「【0020】
本発明では、非常に簡単な処理およびパラメータを用いて木の揺らぎなどの外乱を除去して、検出対象である物体のみを検出する。
【0021】
本発明に係る画像処理装置10は、例えば、図1に示すように、カメラなどの映像入力手段によって撮影された過去の複数枚の画像データを参照画像データとして保存する過去画像群保持装置11と、映像入力手段によって撮影された画像データと上記過去画像群保持装置11によって保存された複数枚の参照画像データの画素あるいは小領域での各々の差異を検出し、差異の連続性あるいは出現性を元に画像データ中の移動物体の検出を行う画像移動物体検出部14とを備える。
【0022】
この画像処理装置10では、映像撮像手段によって撮像された過去数フレームの画像を過去画像群として過去画像群保持装置11に保持しておき、移動物体検出部14において、現在の時刻に撮影された画像と、各々の過去画像群との輝度の差分を差分処理部12により計算して、差分値の時間的な連続性をカウント部13によりカウントして、そのカウント値を画像移動物体検出結果として出力する。
【0023】
すなわち、現在の時刻の画像と過去数フレームの過去画像群との差分値を計算した結果を、図2のような、画像中のある座標における差分値の変化を横軸に時間、縦軸に差分値をとったグラフとして表すと、画像中のある座標に物体が存在しない場合は、図2(A)のように、差分値は非常に小さい状態が継続している。次に、画像中のある座標に物体が進入してきた場合には、図2(B)のように差分値は変化する。現在の時刻をtとしてt-Δtのときに物体が進入してきて、現在も物体が存在する場合、t-Δt以前は差分値が大きくなり、t-Δt以後は差分値が小さくなる。次に、木の葉や波の揺らぎのようなものがあった場合は、図2(C)のように、差分値はランダムに変動する。ここで言えるのは、物体が進入してきたときは、一定時間の間、差分値が大きい状態が継続することである。そこで、差分値に対して閾値処理を行い、閾値を超えた状態が一定時間継続した場合に物体が存在すると決定する。例えば、過去1秒間において0.5秒以上閾値を越えていた場合に物体が存在すると決定する。木の葉や波の揺らぎのようなものがあった場合は、閾値を越えた状態が継続しないので、物体が存在するとは判定されない。このような処理を画像内の全画素、あるいは一部の画素に対して行うことで移動物体の存在する画素を検出し、検出された画素に対して、隣接画素との結合処理などによるラベリングを行うことで移動物体領域を抽出できる。」

(イ)よって、引用文献6には、次の技術が記載されている。
「画像データ中の移動物体の検出を行うにあたり、木の葉や波の揺らぎのようなものがあった場合は、現在の時刻の画像と過去数フレームの過去画像群との差分値がランダムに変動する一方、物体が進入してきたときは、一定時間の間、差分値が大きい状態が継続することを利用し、木の揺らぎなどの外乱を除去して検出対象である物体のみを検出する」技術。

キ 引用文献7
引用文献7には、次の記載がある。
「【0031】[実施の形態の6]なお、実施の形態の5の構成からQWP57を省いてもよい。この場合には、物体54で反射されることによって生じたミリ波の偏光変化を検出することによって、物体54のミリ波像を可視化することが可能になる。以下、本実施の形態の原理を説明する。
【0032】実施の形態の5と同様に、ミリ波発生器50で発生したミリ波は、アンテナ51およびミリ波レンズ52を経由してPBS53を透過する。PBS53を透過した直線偏光ミリ波ビームは物体54で反射されるが、その反射波は入射した直線偏光ミリ波ビームと独立な偏光成分を少なからず含む。したがって、この偏光成分は、PBS53で反射された後にミリ波レンズ55によってミリ波検出器アレイ56の受光面上に結像される。こうして、物体54で反射されることによって生じたミリ波の偏光変化を検出することにより、物体54のミリ波像を可視化することが可能になる。」

ク 引用文献8
引用文献8には、次の記載がある。
「【0086】
あるいは受動イメージャを切り換えて能動アレイにすることのできる第2の方法は、1つ以上のLO供給源125の周波数を他の供給源と同じか異なる周波数に電子的にチューニングし、ダイオード対内の不完全さによって発生する残りの偶数次の調波の信号を用いることである。LO供給源125が互いに同じ周波数だとアレイは受動だが、LO供給源の周波数が互いにわずかに異なっていると、ダイオード対内の不完全さにより、偶数次の調波を発生させるのに十分な不平衡が生じて能動アレイになる。(図1に示した)周波数制御145は公知のやり方で実施することができる。それは、例えばフェーズ・ロック・ループ(“PLL”)回路を用いてLO供給源125に対するチューニング電圧を変えることによる。完全に平衡した逆並列ダイオード対はLO周波数の偶数次の調波を発生させないが、実際にはそれを実現することは難しいため、いくらか不平衡が存在することになろう。すると偶数次の調波においていくらかパワーが発生することになろう。これは、一般に、非対称なダイオード特性によって生じるよりも1桁または2桁小さい。しかしヘテロダイン技術では極めて大きな感度が利用できるため、有効なイメージングに必要であるよりも著しく大きな信号強度になる可能性がある。」

ケ 引用文献9
引用文献9には、次の記載がある。
「【0005】
【発明の実施の形態】以下に、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。本発明による図1のTHzイメージ化システムは、繰り返しの、フェムトセカンドの持続時間の、光パルスのソース1、広いスペクトル帯域幅を有する光学的にゲートされたTHz遷移の送信機2、レンズおよび/または鏡からなるイメージ化光学系3、調査されるべき物体4、時間ゲートされた検出器あるいは検出器アレイ5、THz周波数の遷移を音響的な(Hz)レンジまで一時的にヘテロダインしてこれらを電子技術により処理できるようにするために送信機上と検出器上との間のフェムト秒でゲートするパルスの間の遅延を数Hzから数百Hzの速度で変化させることができる走査遅延部6、時間領域データを処理して所望の情報を抽出するためにデジタル信号プロセッサとA/D変換器を含むデジタル信号処理ユニット7、並びにイメージを見るためのディスプレイ8を含んでいる。」

(2)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)本願発明1と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「テラヘルツ(THz)の範囲」の「電磁放射」は、本願発明1の「サブミリ波」に相当するから、引用発明における、「テラヘルツ(THz)の範囲」の「電磁放射」が「THz源から投射され、その反射から画像処理アレイが検出する」という全体の構成は、本願発明1の「サブミリ波アクティブレーダーシステム」に相当する。
そして、引用発明の「画像処理システム」に用いる「THz画像処理アレイ」は、「視野」から「THz検出器」に入射した「THz信号」を「IFバンドへダウン変換して処理」するものであるから、引用発明において、「検査すべき物体への入射エネルギーとして、テラヘルツ(THz)の範囲で電磁放射を利用する画像処理システムであって、間隔を置いた人間と物体に、THz源から投射され、その反射から画像処理アレイが検出するものであり、THz画像処理アレイの視野は、用いるTHz検出器の指向性によって決定され、各検出器は、入射THz放射の振幅及び位相を測定し、THz信号はIFバンドへダウン変換して処理され」ることは、本願発明1の「視野を有するサブミリ波アクティブレーダーシステムのための信号処理装置において、前記信号処理装置は、前記視野から受信し且つ前記レーダーシステムによってダウンコンバートされた信号を処理するように構成され」ることに相当する。

b 引用発明において、「各検出器」により「測定」される「入射THz放射の振幅及び位相」が、「THz画像処理アレイの視野」内の所定のピクセルに対応することは、明らかであるから、「THz信号」が「ダウン変換して処理され」るところの「IFバンド」の信号についても、同様に「THz画像処理アレイの視野」内の所定のピクセルに対応することは、明らかである。
そして、引用発明において、「THz信号はIFバンドへダウン変換して処理され、一対の検出器に対するTHz電場の相対位相及び振幅は、二つの検出器における測定中間周波数(IF)信号周波数を互いに関連づけることによって決定され」ることから、「THz信号」が「ダウン変換して処理され」るところの「IFバンド」の信号が、「振幅」の成分と「位相」の成分とを有していることも、明らかである。
したがって、引用発明において、「THz画像処理アレイの視野は、用いるTHz検出器の指向性によって決定され、各検出器は、入射THz放射の振幅及び位相を測定し、THz信号はIFバンドへダウン変換して処理され、一対の検出器に対するTHz電場の相対位相及び振幅は、二つの検出器における測定中間周波数(IF)信号周波数を互いに関連づけることによって決定され」ることと、本願発明1において、「所定のピクセルに対応する前記ダウンコンバート信号は、時間的に変動する振幅成分と時間的に変動する位相成分とを有し、前記振幅成分と位相成分は共に前記視野内の前記所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有」することとは、「所定のピクセルに対応する前記ダウンコンバート信号は、振幅成分と位相成分とを有」する点で共通する。

c 引用発明の「画像処理システム」は、「特定なTHz周波数における大きなピークを含む反射スペクトルを持つ、RDX爆発物を、衣類、皮膚及び金属等の他のアイテムから区別する」ものであるから、コンテンツに関する情報を識別するように構成されているものといえる。
したがって、引用発明において、「画像処理システム」は、「特定なTHz周波数における大きなピークを含む反射スペクトルを持つ、RDX爆発物を、衣類、皮膚及び金属等の他のアイテムから区別する」ことと、本願発明1において、「前記信号処理装置は、前記周期的成分からコンテンツに関する情報を識別するように構成されており、前記周期的成分から識別された情報は、コンテンツフラター、コンテンツに特有の時間的かつ空間的スペックルパターン、および無線周波数依存周期性を生じるコンテンツ中の薄層における複数の反射からの干渉効果、から選択された少なくとも1個からの効果を含む」こととは、「前記信号処理装置は、コンテンツに関する情報を識別するように構成されている」点で共通する。

(イ)以上のことから、本願発明1と引用発明とは、
「視野を有するサブミリ波アクティブレーダーシステムのための信号処理装置において、
前記信号処理装置は、前記視野から受信し且つ前記レーダーシステムによってダウンコンバートされた信号を処理するように構成され、
所定のピクセルに対応する前記ダウンコンバート信号は、振幅成分と位相成分とを有し、さらに、
前記信号処理装置は、コンテンツに関する情報を識別するように構成されている、信号処理装置。」
である点で一致する一方、次の点で相違する。

(相違点1)
所定のピクセルに対応する前記ダウンコンバート信号が、本願発明1では、「時間的に変動する振幅成分と、時間的に変動する位相成分とを有し、前記振幅成分と位相成分は共に前記視野内の前記所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有」するのに対し、
引用発明では、「THz画像処理アレイの視野」内の所定のピクセルに対応する「IFバンド」の信号が、「振幅」の成分と「位相」の成分とを有していることは、明らかであるものの、「時間的に変動する振幅成分と、時間的に変動する位相成分とを有し、前記振幅成分と位相成分は共に前記視野内の前記所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有」する点については、特定がない点。

(相違点2)
本願発明1では、「前記ダウンコンバート信号は異なる複数のサブミリ波周波数で受信した別個の信号を含み、さらに、前記信号処理装置は、前記異なるサブミリ波周波数に対応する前記ダウンコンバート信号を別個に分析するように構成されて」いるのに対し、
引用発明では、そのような構成について、特定がない点。

(相違点3)
本願発明1では、「前記信号処理装置は、前記周期的成分からコンテンツに関する情報を識別するように構成されており、前記周期的成分から識別された情報は、コンテンツフラター、コンテンツに特有の時間的かつ空間的スペックルパターン、および無線周波数依存周期性を生じるコンテンツ中の薄層における複数の反射からの干渉効果、から選択された少なくとも1個からの効果を含む」のに対し、
引用発明では、「画像処理システム」がコンテンツに関する情報を識別するように構成されているものの、コンテンツに関する情報を「前記周期的成分から」識別するものではなく、また、「前記周期的成分から識別された情報は、コンテンツフラター、コンテンツに特有の時間的かつ空間的スペックルパターン、および無線周波数依存周期性を生じるコンテンツ中の薄層における複数の反射からの干渉効果、から選択された少なくとも1個からの効果を含む」点についても、特定がない点。

(ウ)相違点の判断
上記相違点1及び3については、技術的なつながりを考慮し、まとめて検討する。
一般に、過去の画像との比較により画像上の物体に揺らぎがあるかどうかを判定し、物体の識別を行うことは、例えば引用文献4、5又は6に記載されているとおり、周知技術と認められる。また、引用文献2には、測定対象で反射したパルス反射波の複数の周波数帯域における減衰の中心周波数を観測することで、物体の識別を行う点が記載されている。
しかしながら、視野から受信した電磁波の信号が「時間的に変動する振幅成分と、時間的に変動する位相成分とを有し、前記振幅成分と位相成分は共に前記視野内の前記所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有」する、という点に着目した上で、そのような「周期的成分」から「コンテンツに関する情報を識別する」ことについては、引用文献2ないし9のいずれにも記載されておらず、周知技術であるともいえないから、引用発明において、たとえ引用文献2ないし9に記載された技術的事項及び周知技術を考慮したとしても、本願発明1の上記相違点1及び3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(エ)したがって、本願発明1の上記相違点2については検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本願発明2ないし8について
本願発明2ないし8は、いずれも、本願発明1を更に限定したものであるから、本願発明1について述べたのと同様の理由により、引用文献1ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本願発明9及び10について
本願発明9及び10は、いずれも、「方法」のカテゴリーの発明ではあるが、本願発明1の上記相違点1及び3に係る構成と同様の構成を、その発明特定事項に含むものであるから、本願発明1について述べたのと同様の理由により、引用文献1ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本願発明11及び12について
本願発明11及び12は、いずれも、本願発明10を更に限定したものであるから、本願発明10について述べたのと同様の理由により、引用文献1ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、概略、本願は、特許請求の範囲の記載が次の(1)及び(2)の点で不備(以下、それぞれについて、「不備1」等という。)のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。
(1)請求項1には、「前記ダウンコンバート信号は、時変の振幅と、視野内の所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有する位相成分とを有する、視野内の所定のピクセルに対応し」と記載されているが、「視野内の所定のピクセル」が、「振幅」と「位相成分」とを有するとは、どういうことか、日本語としてその意味するところが明らかでなく、また、当該記載では、「時変」すなわち時間的に変化するものが、「振幅」のみであることを意味するのか、「振幅」と「位相」の両成分であることを意味するのか、いずれか明らかでない。
したがって、請求項1及びこれを引用する請求項2ないし9に係る発明は、明確でなく、さらに、同様の点で、請求項10に係る発明、並びに、請求項11及びこれを引用する請求項12ないし13に係る発明も、明確でない。

(2)請求項1には、「前記周期的成分から識別された情報は、コンテンツフラター、コンテンツに特徴的なスペックルパターン、または、無線周波数依存周期性を生じるコンテンツ中の薄層からの干渉効果、から選択された少なくとも1個からの効果を含む」と記載されている。
しかしながら、「スペックルパターン」は通常、時間的な変動を伴うものではないから、「コンテンツに特徴的なスペックルパターン」が存在しても、その「スペックルパターン」の効果によって、「ダウンコンバート信号」に、時間的に変動する成分である「前記周期的成分」が生じることは無いものと考えられる。
また、「無線周波数依存周期性を生じるコンテンツ中の薄層からの干渉効果」についても、同様に、時間的な変動を伴うものではないから、「コンテンツ中の薄層からの干渉効果」によって、「ダウンコンバート信号」に、時間的に変動する成分である「前記周期的成分」が生じることは無いものと考えられる。
よって、「コンテンツフラター」、「コンテンツに特徴的なスペックルパターン」及び「無線周波数依存周期性を生じるコンテンツ中の薄層からの干渉効果」のうち、「コンテンツフラター」以外にあっては、「ダウンコンバート信号」に、時間的に変動する成分である「前記周期的成分」を生じさせることにならず、「前記周期的成分」から情報を識別することができるのは、「コンテンツフラター」の効果を伴う場合に限られると考えられる。
したがって、請求項1の当該記載は、技術的にその意味するところが明らかでないから、請求項1及びこれを引用する請求項2ないし9に係る発明は、明確でなく、さらに、同様の点で、請求項10に係る発明、並びに、請求項11及びこれを引用する請求項12ないし13に係る発明も、明確でない。

2 当審拒絶理由についての判断
本件補正により、補正前の請求項1の「前記ダウンコンバート信号は、時変の振幅と、視野内の所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有する位相成分とを有する、視野内の所定のピクセルに対応し」との記載が、「所定のピクセルに対応する前記ダウンコンバート信号は、時間的に変動する振幅成分と時間的に変動する位相成分とを有し、前記振幅成分と位相成分は共に前記視野内の前記所定のピクセルにおけるコンテンツに依存する周期的成分を有し、」と補正され(下線は補正箇所を示す。以下同じ。)、さらに、補正前の請求項10及び11にそれぞれ対応する補正後の請求項9及び10においても、請求項1についての補正と同様の補正がなされたので、不備1は解消した。
また、本件補正により、補正前の請求項1の「前記周期的成分から識別された情報は、コンテンツフラター、コンテンツに特徴的なスペックルパターン、または、無線周波数依存周期性を生じるコンテンツ中の薄層からの干渉効果、から選択された少なくとも1個からの効果を含む」との記載が、「前記周期的成分から識別された情報は、コンテンツフラター、コンテンツに特有の時間的かつ空間的スペックルパターン、および無線周波数依存周期性を生じるコンテンツ中の薄層における複数の反射からの干渉効果、から選択された少なくとも1個からの効果を含む」と補正されるとともに、補正後の請求項1に、「前記ダウンコンバート信号は異なる複数のサブミリ波周波数で受信した別個の信号を含み、さらに、前記信号処理装置は、前記異なるサブミリ波周波数に対応する前記ダウンコンバート信号を別個に分析するように構成されており」との記載が追加され、さらに、補正前の請求項10及び11にそれぞれ対応する補正後の請求項9及び10においても、請求項1についての補正と同様の補正がなされたので、不備2も解消した。
したがって、本件補正後の請求項1ないし12に係る発明は、いずれも明確であるから、当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由及び当審において通知した拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-21 
出願番号 特願2012-534704(P2012-534704)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01S)
P 1 8・ 537- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 久須中 栄治  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 中塚 直樹
大和田 有軌
発明の名称 位相情報を用いたサブミリ波レーダー  
代理人 青木 篤  
代理人 島田 哲郎  
代理人 鶴田 準一  
代理人 南山 知広  

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