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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G09G
管理番号 1321909
審判番号 不服2015-12506  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-02 
確定日 2016-12-16 
事件の表示 特願2010-286768「電気光学ディスプレイを駆動するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月26日出願公開、特開2011-102994、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願: 平成22年12月22日
(特願2006-517795号(パリ条約による優先権主張(外国庁受理2003年6月30日、米国、2003年7月2日、米国、2003年9月22日、米国、2004年3月31日、米国)を伴う国際出願)の分割出願)
拒絶査定: 平成27年2月27日付け(送達日:同年3月3日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成27年7月2日
手続補正: 平成27年7月2日
拒絶理由通知: 平成28年6月14日
(以下、「当審拒絶理由」という。発送日:同年同月15日)
手続補正: 平成28年11月1日(以下、「本件補正」という。)
意見書: 平成28年11月1日


第2 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「複数のピクセルを有する電気光学ディスプレイを駆動する方法であって、前記ピクセルは、各ピクセルに複数の異なるインパルスを印加することができるパルス幅変調波形によって駆動され、前記電気光学ディスプレイの前記ピクセルは、前記電気光学ディスプレイにより表示される画像のピクセルと一対一に対応し、インパルスは、電圧または電流の時間積分であり、前記方法は、
(a)前記複数の異なるインパルスを記述するデータを格納することであって、前記データは、前記複数の異なるインパルスのうちの所与のインパルスを前記電気光学ディスプレイのピクセルに印加することにより所望のグレイ・レベルより高いグレイ・レベルが生成されるのか、前記所望のグレイ・レベルより低いグレイ・レベルが生成されるのかを示す、ことと、
(b)前記電気光学ディスプレイの隣接する2つのピクセルの両方が前記所望のグレイ・レベルに設定されることが前記電気光学ディスプレイのコントローラにより所望されることを検出することと、
(c)前記電気光学ディスプレイの一方のピクセルは前記所望のグレイ・レベルより低く、前記電気光学ディスプレイの他方のピクセルは前記所望のグレイ・レベルを上回るように、前記格納されたデータに基づいて、前記検出することに応答して、前記複数の異なるインパルスのうちの異なるインパルスを前記電気光学ディスプレイの前記2つのピクセルに印加することと
を特徴とする、方法。」


第3 原査定の理由について
1.原査定の理由
A この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
B この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



理由Aについて
(1) 請求項1-5に係る発明は、明確でない。
すなわち、請求項1の「複数の異なるインパルスのデータを格納することであって、前記データは・・・所望のグレイ・レベルより高いグレイ・レベルが生成されるのか、前記所望のグレイ・レベルより低いグレイ・レベルが生成されるのかを示す」という記載は、
格納されるデータが、「インパルス」自体についてのものであるのか、「・・・を示す」ためのものであるのか、明確でなく、
また仮に、「インパルス」自体についてのデータが格納されているならば、当該データと、他の発明特定事項との、利用関係が、明確でない。

(2) 請求項1-5に係る発明は、明確でない。
すなわち、請求項1の「・・・要求されることを検出する」という記載は、具体的に、何が「要求」しているのか、明確でない。

理由Bについて
・請求項1-5
・引用例1:特開2003-122312号公報
・備考
引用例1に記載された発明は、パルス幅変調波形(段落【0039】)によって駆動されているので、ピクセルには、パルス幅変調波形に応じた「異なるインパルスを印加することができる」ことは、明らかである。
引用例1に記載された発明では、
(1ブロック内の)隣接する2つのピクセルの両方が所望のグレイ・レベル(RAM104に記憶された画像データが示す、中間階調を含むグレイ・レベル)に設定されるように、
(1ブロック内の)一方のピクセルに、所望のグレイ・レベルより高いグレイ・レベル(g(i+1))のインパルスを、他方のピクセルに、所望のグレイ・レベルより低いグレイ・レベル(g(i))のインパルスを、それぞれ印加している。

上記高いあるいは低いグレイ・レベルが印加されるピクセルを特定するために、何らかのデータを格納するという、例示するまでもない周知技術を用いることは、当業者が容易に想到できたものである。

また、電気光学ディスプレイとして、エレクトロクロミックまたは回転2色部材電気光学媒体を含むもの、カプセル化された電気泳動媒体を含むもの、及び、マイクロセル電気泳動媒体を含むものは、いずれも、例示するまでもない周知技術であるので、
引用例1に記載された発明における、適用可能な「あらゆる表示装置」(段落【0039】)として前記周知技術を用いることは、当業者が容易に想到できたものである。

2.原査定の理由の判断
(1)理由A(特許法第36条第6項第2号)について
平成28年11月1日付け手続補正書によって、本願の請求項1は上記「第2 本願発明」に示したように、
「(a)前記複数の異なるインパルスを記述するデータを格納することであって、・・・」
「(b)・・・前記所望のグレイ・レベルに設定されることが前記電気光学ディスプレイのコントローラにより所望されることを検出することと、」
と補正された。このことにより、請求項1-5に係る発明は明確となった。
よって、原査定の理由Aは解消した。

(2)理由B(特許法第29条第2項)について
ア 引用例の記載事項
引用例1(特開2003-122312号公報)には、次の事項(a)ないし(b)が図面とともに記載されている。

(a)
「【0006】<第1実施形態>図1は、本発明の第1実施形態に係る中間階調表示方法を実行する表示装置の構成を示すブロック図である。この図に示されるように、表示装置は、CPU100、ROM102、RAM104、メモリ制御回路106、表示メモリ108、制御信号生成回路110、フレームカウンタ112、駆動回路114および表示体116を備える。このうち、CPU100、ROM102、RAM104、メモリ制御回路106および表示メモリ108は、バスBを介して互いに接続されている。
・・・
【0009】メモリ制御回路106は、書込側では、RAM104において一時的に記憶された画像のデータを、フレームカウンタ112によるカウント結果に応じて階調データに変換し、表示体116の画素と1対1に対応した記憶領域を有する表示メモリ108に書き込む一方、読出側では、表示メモリ108の記憶領域に記憶された階調データを、上記フレーム信号の1周期内(すなわち、1フレーム内)に順次走査して読み出す。
【0010】表示体116は、例えば液晶パネルであり、マトリクス状に配列された画素を備え、各画素は、1フレームにおける電圧実効値に応じた透過(反射)率となる。ここで、画素に印加され得る電圧実効値は、基本表示階調の各々に対応する。駆動回路114は、表示メモリ108から読み出された階調データをアナログの電圧に変換するとともに、制御信号生成回路110による信号にしたがって、表示体116にてマトリクス状に配列する画素のうち、対応する画素に印加する。したがって、階調データは、表示体116における各画素と一対一に対応し、かつ、それに対応する画素の基本表示階調を規定する。各フレームにおける表示体116による表示内容は、表示メモリ108における当該フレームの記憶内容を反映する。
【0011】次に、メモリ制御回路106における変換動作について説明する。図2は、RAM104に記憶される画像内容のうち、互いに隣接する4画素のデータの説明図であり、図3は、当該データをメモリ制御回路106によって変換した階調データが表示メモリ108に書き込まれた状態の説明図であり、図4は、当該階調データにしたがった画素の表示状態の説明図である。図2において、分数の付された□は表示すべき画像の1画素に対応している。この1画素は、表示体116における2×2画素に対応している。このため、表示体116の各画素は、図3において、記号g(i)またはg(i+1)が付された小さい□、および、図4において、記号○または●が付された小さい□に、それぞれ対応している。図2における4画素(4個の□)は、結局、図3または図4における16画素(16個の小さい□)に対応している。」

(b)
「【0039】上述した第1および第2実施形態では、画素に基本表示階調を表示させる方法は問われないので、液晶や、EL、ミラーデバイス等のあらゆる表示装置に適用可能である。例えば、画素に基本表示階調に応じた電圧実効値を印加する方法としては、一般的な電圧変調方法やパルス幅変調方法などのほかに、1フレームを複数のサブフレーム(フィールド)に分割し、画素をサブフレーム毎にオンオフさせることによって、1フレームでみたときの画素の階調を制御する方法や、1画素を複数の小画素に分割し、各小画素をオンオフさせることによって、1画素の階調を制御する面積階調法などにも適用可能である。また、ELやLEDでは、画素に対し基本表示階調に応じた電流実効値を供給することによって該基本表示階調が表示されるが、このような電流制御型発光素子にも適用可能である。」

上記記載(a)ないし(b)、及び図面の第1?3図の記載から、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「マトリクス状に配列された画素を備える例えば液晶パネルである表示体116の中間階調表示方法であって、画素に基本表示階調に応じた電圧実効値を印加する方法として、パルス幅変調方法などが適用され、表示すべき画像の1画素は、表示体116における2×2画素に対応し、画素に対して電圧実効値または電流実効値が供給され、
画像のデータを、階調データに変換し、表示体116の画素と1対1に対応した記憶領域を有する表示メモリ108に書き込むこと
を特徴とする、方法」(以下「引用発明」という。)


イ 対比
本願発明と引用発明とを、主たる構成要件毎に、順次対比する。
まず、引用発明における「マトリクス状に配列された画素を備える例えば液晶パネルである表示体116の中間階調表示方法」は、本願発明における「複数のピクセルを有する電気光学ディスプレイを駆動する方法」に相当する。
また、引用発明の「階調データ」を表す「電圧実効値」もしくは「電流実効値」が本願発明の「インパルス」に相当するといえるので、引用発明において「画素に基本表示階調に応じた電圧実効値を印加する方法として、パルス幅変調方法などが適用され」ることは、本願発明において「前記ピクセルは、各ピクセルに複数の異なるインパルスを印加することができるパルス幅変調波形によって駆動され」ることに相当し、また引用発明において「画素に対して電圧実効値または電流実効値が供給され」ることは、本願発明において「インパルスは、電圧または電流の時間積分であ」ることに相当するといえる。
さらに、引用発明において「画像のデータを、階調データに変換し、表示体116の画素と1対1に対応した記憶領域を有する表示メモリ108に書き込むこと」と、本願発明において「(a)前記複数の異なるインパルスを記述するデータを格納することであって、前記データは、前記複数の異なるインパルスのうちの所与のインパルスを前記電気光学ディスプレイのピクセルに印加することにより所望のグレイ・レベルより高いグレイ・レベルが生成されるのか、前記所望のグレイ・レベルより低いグレイ・レベルが生成されるのかを示す、こと」とは、「(a)前記複数の異なるインパルスを記述するデータを格納すること」で共通するといえる。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「複数のピクセルを有する電気光学ディスプレイを駆動する方法であって、前記ピクセルは、各ピクセルに複数の異なるインパルスを印加することができるパルス幅変調波形によって駆動され、インパルスは、電圧または電流の時間積分であり、前記方法は、
(a)前記複数の異なるインパルスを記述するデータを格納すること
を特徴とする、方法。」

(相違点)
相違点1
本願発明においては、「前記電気光学ディスプレイの前記ピクセルは、前記電気光学ディスプレイにより表示される画像のピクセルと一対一に対応」するとされているが、引用発明においては、「表示すべき画像の1画素は、表示体116における2×2画素に対応」する点。

相違点2
本願発明においては、「前記複数の異なるインパルスを記述するデータを格納すること」について、「前記データは、前記複数の異なるインパルスのうちの所与のインパルスを前記電気光学ディスプレイのピクセルに印加することにより所望のグレイ・レベルより高いグレイ・レベルが生成されるのか、前記所望のグレイ・レベルより低いグレイ・レベルが生成されるのかを示す」のに対し、引用発明においては、そのような特定はなされていない点。

相違点3
本願発明においては、「前記電気光学ディスプレイの隣接する2つのピクセルの両方が前記所望のグレイ・レベルに設定されることが前記電気光学ディスプレイのコントローラにより所望されることを検出する」のに対し、引用発明においては、そのような特定はなされていない点。

相違点4
本願発明においては、「前記電気光学ディスプレイの一方のピクセルは前記所望のグレイ・レベルより低く、前記電気光学ディスプレイの他方のピクセルは前記所望のグレイ・レベルを上回るように、前記格納されたデータに基づいて、前記検出することに応答して、前記複数の異なるインパルスのうちの異なるインパルスを前記電気光学ディスプレイの前記2つのピクセルに印加する」のに対し、引用発明においては、そのような特定はなされていない点。

ウ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。
「前記電気光学ディスプレイの隣接する2つのピクセルの両方が前記所望のグレイ・レベルに設定されることが前記電気光学ディスプレイのコントローラにより所望されることを検出する」点は、引用例に記載も示唆もされておらず、また本願の優先日において、そのような方法が周知であったともいえない。
そうすると、本願発明は、他の相違点について検討するまでもなく、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。また、本願の請求項2-5に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



a.請求項1及び2において、「インパルス」とあるが、これがどのようなものを指すのかが不明瞭である。
b.請求項1において、「・・・一体一に対応し、」なる記載が不明瞭である。

2.当審拒絶理由の判断
平成28年11月1日付け手続補正書によって、本願の請求項1は上記「第2 本願発明」に示したように
「・・・前記電気光学ディスプレイの前記ピクセルは、前記電気光学ディスプレイにより表示される画像のピクセルと一対一に対応し、インパルスは、電圧または電流の時間積分であり、前記方法は、・・・」
と補正された。このことにより、請求項1及び2に係る発明は明確となった。
よって、当審拒絶理由は解消した。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-06 
出願番号 特願2010-286768(P2010-286768)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G09G)
P 1 8・ 537- WY (G09G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 武田 悟  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 関根 洋之
中塚 直樹
発明の名称 電気光学ディスプレイを駆動するための方法  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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