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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1321937
審判番号 不服2014-26730  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-26 
確定日 2016-11-24 
事件の表示 特願2012-249777「二次電池の放電制御方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月29日出願公開、特開2014- 99972〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成24年11月13日の出願であって、平成26年10月24日付けで拒絶の査定がされたところ、平成26年12月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、これに対し当審において平成27年12月11日付けで拒絶理由通知がなされ、平成28年2月12日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月3日付けで拒絶理由通知がなされ、平成28年4月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年5月27日付けで最後の拒絶理由通知がなされ、平成28年7月25日付けで意見書が提出されたものである。

2.特許請求の範囲
平成28年4月22日付け手続補正で、特許請求の範囲は以下のように補正された。
「【請求項1】
充電と放電を繰り返すことで劣化して満充電による満容量が低下する二次電池の放電を制御する二次電池の放電制御方法において、
少なくとも劣化した前記二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら前記二次電池の放電を行い、
前記休止時間は少なくとも1秒以上であり、前記放電時間は前記休止時間より短く、
前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電することを特徴とする二次電池の放電制御方法。
【請求項2】
前記休止時間は前記放電時間の2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池の放電制御方法。
【請求項3】
前記放電時間は30秒未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池の放電制御方法。
【請求項4】
前記二次電池は少なくとも初期容量比で80%以下に劣化していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の二次電池の放電制御方法。
【請求項5】
充電と放電を繰り返すことで劣化して満充電による満容量が低下する二次電池に対して、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら、前記二次電池の放電を行う放電制御部を備え、
前記休止時間は少なくとも1秒以上であり、前記放電時間は前記休止時間よりも短く、
前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電することを特徴とする二次電池の放電制御装置。
【請求項6】
前記休止時間は前記放電時間の2倍以上であることを特徴とする請求項5に記載の二次電池の放電制御装置。
【請求項7】
前記放電時間は30秒未満であることを特徴とする請求項5または6に記載の二次電池の放電制御装置。
【請求項8】
前記二次電池は少なくとも初期容量比で80%以下に劣化していることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の二次電池の放電制御装置。」

3.新規事項(特許法第17条の2第3項)について
(1)拒絶の理由
平成28年5月27日付けで当審より通知した拒絶の理由の理由A.の概要は以下のとおりである。

「理由A.平成28年4月22日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。



『放電制御方法』である請求項1、及び、『放電制御装置』である請求項5には、補正により『前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する』との事項が付加された。
そこで、当該補正が、願書に最初に添附した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、『当初明細書等』という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものか検討する。

ア.段落【0023】?【0026】の記載 ・・・・省略・・・・
イ.段落【0037】の記載 ・・・・省略・・・・
ウ.段落【0039】の記載 ・・・・省略・・・・
エ.【図2】(c)、【図3】(a)、(b)に示された事項
・・・・省略・・・・

上記ア.には、『仕様最大電流の少なくとも80%以上、好ましくは90%以上を意味する』、『仕様最大電流値の近傍の電流値で放電する』ことが記載されているが、放電時の電流値がどのように決定されるものであるかをみると、スイッチ部11がオンの状態となる間、二次電池10と負荷20が電気的に接続されて、二次電池10が放電されることが記載されているのみであるから、放電時の電流値は接続される負荷がどのように電力を消費するかによって定まるといえる。
そうすると、『仕様最大電流値』が何の仕様に基づく最大電流値であったとしても、『仕様最大電流値』の少なくとも80%以上、好ましくは90%以上の電流値で放電するか否かは、負荷によって決定されるといえ、『仕様最大電流値』が『二次電池の仕様最大電流値』であると特定されるものではない。

上記イ.には、劣化前と劣化後の二次電池を『仕様最大電流値』で連続放電したときの放電曲線を比較し、劣化による容量の低下について記載されている。
容量の低下を比較する際に、何らかの仕様に基づき決定された、『仕様最大電流値』で放電された時の特性を用いて比較を行うとしても、この記載から、『仕様最大電流値』が『二次電池の仕様最大電流値』であることを導くことはできない。

上記ウ.及びエ.も上記イ.と同様、劣化前と劣化後の二次電池を『仕様最大電流値』で放電したときの特性を示すものである。
したがって、上記イ.と同様、上記ウ.及びエ.に示される事項から、『仕様最大電流値』が『二次電池の仕様最大電流値』であることを導くことはできない。

また、当初明細書等のすべての記載を総合しても、『前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する』ことが導かれるものではない。
そうすると、当該補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。」

(2)当審の判断
(2-1)補正前の記載
平成28年4月22日の手続補正前の特許請求の範囲の記載は、平成28年2月12日の手続補正書で補正された以下のとおりである。
「【請求項1】
充電と放電を繰り返すことで劣化して満充電による満容量が低下する二次電池の放電を制御する二次電池の放電制御方法において、
少なくとも劣化した前記二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら前記二次電池の放電を行い、
前記休止時間は少なくとも1秒以上であり、前記放電時間は前記休止時間より短く、
前記放電時間において、仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電することを特徴とする二次電池の放電制御方法。
【請求項2】
前記休止時間は前記放電時間の2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池の放電制御方法。
【請求項3】
前記放電時間は30秒未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池の放電制御方法。
【請求項4】
前記二次電池は少なくとも初期容量比で80%以下に劣化していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の二次電池の放電制御方法。
【請求項5】
充電と放電を繰り返すことで劣化して満充電による満容量が低下する二次電池に対して、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら、前記二次電池の放電を行う放電制御部を備え、
前記休止時間は少なくとも1秒以上であり、前記放電時間は前記休止時間よりも短く、
前記放電時間において、仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電することを特徴とする二次電池の放電制御装置。
【請求項6】
前記休止時間は前記放電時間の2倍以上であることを特徴とする請求項5に記載の二次電池の放電制御装置。
【請求項7】
前記放電時間は30秒未満であることを特徴とする請求項5または6に記載の二次電池の放電制御装置。
【請求項8】
前記二次電池は少なくとも初期容量比で80%以下に劣化していることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の二次電池の放電制御装置。」

(2-2)補正の内容
平成28年4月22日の手続補正は、特許請求の範囲の補正前後の構成を対比すると、特許請求の範囲を以下のように補正するものである。

補正事項1
補正前の請求項1の「前記放電時間において、仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する」を、
「前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する」とする。

補正事項2
補正前の請求項5の「前記放電時間において、仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する」を、
「前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する」とする。

(2-3)当初明細書等の記載事項及び検討
上記補正事項1は、請求項1の「前記放電時間」すなわち、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値の80%以上の電流値」を、「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」と特定するものである。
また、上記補正事項2は、請求項5の「前記放電時間」すなわち、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値の80%以上の電流値」を、「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」と特定するものである。
(なお、「仕様最大電流値の80%以上の電流値」は、平成28年3月3日付け拒絶理由通知において、「仕様最大電流値」の「仕様」は、負荷の仕様なのか、二次電池の仕様なのか、明細書の記載を参照しても不明と指摘したもの。)
そこで、当該補正が、願書に最初に添附した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものか検討する。

まず、当初明細書等に、「二次電池の仕様最大電流値」の語が記載されるのは、段落【0046】の次の記載のみである。
「【0046】
図3の(c)は、新品の二次電池の仕様最大電流値における分極特性と劣化後の二次電池の仕様最大電流値における分極特性とを比較する比較図である。まず、新品の抵抗分極a1と劣化後の抵抗分極a2とを比較すると、劣化の前後において、抵抗分極が増大していることが確認できる。」

この記載は、新品の二次電池の仕様最大電流値における特性と、劣化後の二次電池の仕様最大電流値における特性とを比較することを示すものであり、該「仕様最大電流値」は、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値」を示すものでもなく、また、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値」を示すものでもない。
そこで、次に、当初明細書等において、放電制御方法として用いられる電流値、あるいは、放電制御装置の放電に用いられる電流値としての「仕様最大電流値」に関連する記載も参照する。

(ア)【請求項5】の記載
「【請求項5】
前記放電制御方法は、少なくとも仕様最大電流値の近傍の電流値で放電されている際に行われることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の二次電池の放電制御方法。」

(イ)【請求項10】の記載
「【請求項10】
前記放電制御部は、少なくとも仕様最大電流値の近傍の電流値で放電されている際に、前記放電時間と前記休止時間とを周期的に繰り返しながら、前記二次電池の放電を行うことを特徴とする請求項6から9のいずれか一項に記載の二次電池の放電制御装置。」

(ウ)【0013】の記載
「【0013】
また、本発明の二次電池の放電制御方法において、前記放電制御方法は、少なくとも仕様最大電流値の近傍の電流値で放電されている際に行われることが好ましい。」

(エ)【0018】の記載
「【0018】
また、本発明の二次電池の放電制御装置において、前記放電制御部は、少なくとも仕様最大電流値の近傍の電流値で放電されている際に、前記放電時間と前記休止時間とを周期的に繰り返しながら、前記二次電池の放電を行うことが好ましい。」

(オ)段落【0022】?【0026】の記載
「【0022】
図1に示される放電制御装置1は、スイッチ部11と、スイッチ部11を制御する制御部12とを備え、二次電池10が着脱可能に取り付けられる。この放電制御装置1は、負荷20に電気的に接続されており、スイッチ部11を介して二次電池10の電力を負荷20へ供給する。負荷20は、民生用途であれば例えば携帯電話に搭載される液晶画面等の各電子部品であり、動力用途であれば例えば電動車両に搭載されるモータである。
【0023】
二次電池10は、充電器に接続することで複数回充電することが可能な充電式電池であり、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、鉛電池である。この二次電池は、充電と放電を複数回繰り返すことで、一回の満充電で充電される満容量が徐々に低下していく、すなわち、徐々に劣化していく特性を有するものである。例えば、初期容量を100%としたとき、容量が少なくとも初期容量の80%以下に低下した二次電池10、すなわち初期容量比で80%以下に劣化した二次電池10に対して、後述する周期放電が行われることが好ましい。予め設定された二次電池の交換タイミングの容量まで劣化する前に、後述する周期放電が行われることが好ましい。初期容量の単位は、電気容量[Ah]と電力容量[Wh]のいずれであっても良い。
【0024】
スイッチ部11は、制御部12から送信されてきた制御信号に基づいて、二次電池10と負荷20との電気的接続のオン/オフを切り替えるものである。スイッチ部11がオンのとき、二次電池10と負荷20が電気的に接続されて、二次電池10の電力が負荷20へ供給される。すなわち、スイッチ部11がオンの状態の間、二次電池10は放電する。
【0025】
一方、スイッチ部11がオフのとき、二次電池10と負荷20との電気的接続が切断されて、二次電池10から負荷20へ電力の供給が遮断される。すなわち、スイッチ部11がオフの状態の間、二次電池10の放電は休止する。
【0026】
制御部12は、予め設定された放電制御条件に従って、二次電池10が放電と休止とを周期的に繰り返すようにスイッチ部11をオン/オフ動作させる制御信号をスイッチ部11に送信する。放電時間と休止時間の関係は、放電時間より休止時間の方が長くなるように設定され、さらに、休止時間は少なくとも1秒以上に設定される。また、放電時間は30秒未満に設定される。例えば、制御部12は、放電時間は0.5秒であり、休止時間はこの放電時間の2倍である1.0秒に設定される。制御部12は、この放電時間と休止時間とが周期的に繰り返されるようにスイッチ部11をオン/オフ動作させる制御信号をスイッチ部11に送信する。以下、放電と休止とを繰り返しながら放電することを周期放電とも称する。この周期放電の周期は、負荷20に電力を供給している間に間欠的に電力が供給されるように秒単位または分単位で設定される。また、連続的に放電することを連続放電とも称する。この周期放電は、少なくとも仕様最大電流値の近傍の電流値で放電されている際に行われることが好ましい。ここで、近傍とは、仕様最大電流の少なくとも80%以上、好ましくは90%以上を意味する。仕様最大電流値の近傍の電流値で放電することで、電流値が大きい時に生じやすい濃度分極(濃度分極の詳細については後述する)を抑制することができる。なお、本例では、制御部12とスイッチ部11とで放電制御部の一例を構成している。」

(カ)段落【0037】の記載
「【0037】
図2の(b)に示されるグラフAは劣化前の二次電池を仕様最大電流値で連続放電したときの放電曲線であり、グラフBは劣化後の二次電池を仕様最大電流値で連続放電したときの放電曲線である。グラフAとグラフBとを比較すると、劣化した二次電池を連続放電して得られる放電容量は劣化前の二次電池を連続放電して得られる放電容量より、符号Dで示された幅だけ小さくなっていることが確認できる。また、劣化の前後において所定の放電容量値C1における電圧値に、符号Pで示される幅だけ差が生じており、劣化した二次電池は電圧が低下していることが確認できる。」

(キ)段落【0039】の記載
「【0039】
図3は、劣化の前後における二次電池の分極特性の変化を検証するためのグラフである。図3において、(a)は劣化前の二次電池の分極特性を示すグラフであり、(b)は劣化後の二次電池の分極特性を示すグラフであり、(c)は仕様最大電流値における劣化前後の分極特性を比較する比較図である。」

(ク)【0044】?【0046】の記載
「【0044】
図3の(a)に示されるグラフCは、新品の二次電池の分極特性を示している。図3の(a)に示されるように、仕様最大電流値における分極特性は、抵抗分極a1と活性化分極b1と濃度分極c1とを含んでいる。図3(a)に示されるように、新品の状態では、活性化分極b1が一番支配的で、次に支配的なのが抵抗分極a1であり、濃度分極c1の割合が一番小さいことが確認できる。
【0045】
図3の(b)に示されるグラフDは、劣化後の二次電池の分極特性を示している。図3の(b)に示されるように、仕様最大電流値における分極特性は、抵抗分極a2と活性化分極b2と濃度分極c2とを含んでいる。図3(b)に示されるように、活性化分極b2と濃度分極c2とが同程度の割合で併せて全体の80%程度の支配率であり、抵抗分極a2の割合が一番小さいことが確認できる。
【0046】
図3の(c)は、新品の二次電池の仕様最大電流値における分極特性と劣化後の二次電池の仕様最大電流値における分極特性とを比較する比較図である。まず、新品の抵抗分極a1と劣化後の抵抗分極a2とを比較すると、劣化の前後において、抵抗分極が増大していることが確認できる。」

(ケ)【図2】(c)、【図3】(a)、(b)に示された事項
【図2】(c)、【図3】(a)、(b)には、「仕様最大電流値」における、「C(新品の分極特性)」の電圧と、「D(劣化品の分極特性)」の電圧とが示されている。

上記(ア)?(ケ)には、放電に用いられる電流値として、「二次電池の仕様最大電流値」の近傍の電流値で放電を行うことが好ましいことが記載されている。
しかし、請求項1の「前記放電時間」すなわち、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値の80%以上の電流値」を、「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」と特定すること、また、請求項5の「前記放電時間」すなわち、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値の80%以上の電流値」を、「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」と特定することに関連する記載があるのは、上記(オ)のみである。
特に、上記(オ)には「この周期放電は、少なくとも仕様最大電流値の近傍の電流値で放電されている際に行われることが好ましい。ここで、近傍とは、仕様最大電流の少なくとも80%以上、好ましくは90%以上を意味する。仕様最大電流値の近傍の電流値で放電することで、電流値が大きい時に生じやすい濃度分極(濃度分極の詳細については後述する)を抑制することができる。なお、本例では、制御部12とスイッチ部11とで放電制御部の一例を構成している。」(段落【0026】)とあるように、例えば、制御部12とスイッチ部11とで放電制御部を構成し、仕様最大電流の少なくとも80%以上、好ましくは90%以上を意味する電流値であるときの放電で周期放電を行うことが好ましいことが記載されている。
そして、この周期放電に用いられる電流値は、上記(オ)に「図1に示される放電制御装置1は、スイッチ部11と、スイッチ部11を制御する制御部12とを備え、二次電池10が着脱可能に取り付けられる。この放電制御装置1は、負荷20に電気的に接続されており、スイッチ部11を介して二次電池10の電力を負荷20へ供給する。負荷20は、民生用途であれば例えば携帯電話に搭載される液晶画面等の各電子部品であり、動力用途であれば例えば電動車両に搭載されるモータである。」(段落【0022】)とされるような、スイッチ部11を介して二次電池10の電力を負荷20へ供給する電流値であり、具体的には、着脱可能な二次電池から、スイッチ部を介し、携帯電話に搭載される液晶画面や、電動車両に搭載されるモータへ供給される電流値である。
一般的に、周期放電を行う時の電流値は、接続される負荷にどの様に電流を供給するか、代表的には負荷のインピーダンスによって決定されるものであり、さらに、【0022】に、二次電池は、着脱可能に接続されると記載されるごとく、放電制御装置1は、いかなる仕様の二次電池も接続可能なものであるから、上記(オ)の「仕様最大電流」は、一般的には、負荷の仕様に基づく最大電流値と解されるものである。そうすると、請求項1の二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における電流値、また、請求項5の、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における電流値について、二次電池の仕様に基づくものである、「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」との特定が、当初明細書等に記載されていたものであるとすることはできない。
また、一般に、仕様という語は、ある製品を作る場合に、その製品に要求する特定の能力などを定めたものを意味するものである。
本願発明の請求項1、5に係る発明は、「放電制御方法」及び「放電制御装置」であり、また、明細書に本願発明の実施例として示されるものは、例えば、段落【0022】に、「図1に示される放電制御装置1は、スイッチ部11と、スイッチ部11を制御する制御部12とを備え、二次電池10が着脱可能に取り付けられる。この放電制御装置1は、負荷20に電気的に接続されており、スイッチ部11を介して二次電池10の電力を負荷20へ供給する。負荷20は、民生用途であれば例えば携帯電話に搭載される液晶画面等の各電子部品であり、動力用途であれば例えば電動車両に搭載されるモータである。」とあるような、放電制御装置1である。
そうすると、一般的な意味からみても、本願発明の「放電制御方法」や「放電制御装置」に関する仕様とは、例えば、段落【0022】に示されるような放電制御装置1を作成する場合に、当該放電制御装置1に要求される特定の能力を定めたものと解されるものであって、仕様最大電流値についても、着脱可能なものとして示されるにすぎない二次電池に関する仕様であると直ちに理解されるものではないといえる。
したがって、当初明細書等には、二次電池の仕様最大電流値の近傍の電流値で放電すること好ましいことが記載されているものの、二次電池の仕様に関する記載は、二次電池の特性を説明するための記載にとどまり、請求項1の、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における電流値、また、請求項5の、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における電流値について、「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」と特定することは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれるものではない。
そうすると、前記補正事項1及び2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。

(3)意見書の主張
なお、請求人は、平成28年7月25日付けの意見書において、次のように主張している。
「3.[拒絶理由Aについて]
3.1.[二次電池の仕様最大電流値について]
まず、『仕様最大電流値』を『二次電池の仕様最大電流値』とした補正は、出願当初明細書の[0046]には『二次電池の仕様最大電流値』が明記されていることから、出願当初明細書に記載の事項の範囲内でした適法なものであることが明らかです。
なお、明細書の[0046]の記載がなかったとしても、かかる補正は、以下に詳述するように、当初明細書等の記載から自明な事項であり、新たな技術的事項を導入するものではありません。補正された『二次電池の使用最大電流値』は、これに接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項です。
当業者であれば、二次電池の仕様最大電流値とは『二次電池の製造者が安全に放電できることを保証する最大の電流値』であることが疑問の余地なく理解することができます。例えば、市場に出回っている二次電池の型番を調べて、二次電池の製造者にこの二次電池の仕様最大電流値はどのくらいかと尋ねれば、間違いなく回答が得られるものです。
添付の参考文献3は、社団法人電子情報技術産業協会および社団法人電池工業会が平成19年に発行した『ノート型PCにおけるリチウムイオン二次電池の安全利用に関する手引書』です。
この参考文献3は、平成19年当時に頻発していたノートPCにおける二次電池の破裂や発火といった問題を鑑みて、カシオ計算機、セイコー・エプソン、ソーテック、ソニー、東芝、NEC、日立製作所、富士通、パナソニック、三菱電機、レノボ・ジャパンの12社で構成されるJEITA(社団法人電子情報技術産業協会)技術検討ワーキンググループが中心になり、両団体が連携してとりまとめたガイドラインです。
この参考文献3が発表された当時の記事としては、以下のURLのものがあります。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0425/jeita.htm
http://ascii.jp/elem/000/000/030/30901/
この参考文献3は、当初はノートPCの二次電池に関する手引書としてまとめられていましたが、JISやISOの策定にまで影響を及ぼすようになった文献です。二次電池を取り扱う技術者において、この手引書の影響を受けない者はいません。この参考文献3は二次電池を安全に取り扱うことについて教科書として位置づけられる文献であり、この文献を知らずして市販の製品に二次電池を組み込むような設計者はいません。
したがって、この参考文献3の内容は、二次電池の製造者および二次電池を使った電気回路を設計する設計者などの当業者であれば当然知っているべき技術常識であると言えます。
さて、この手引書の10頁目には以下のような図が掲載されています。
・・・図面省略・・・
これは、二次電池の充電電流や放電電流と温度との関係を表したものであり、『破裂や発火という観点から所定の温度以上で二次電池を動作させてはならないから、放電電流や充電電流をある範囲内となるように設計せよ』ということを表したものです。
この考えに基づき、二次電池の製造者は、製造した二次電池の特性に基づいて所定の温度内で動作できて安全に充電や放電ができる最大の電流値を定めて、使用者にその最大の電流値以上で充電や放電をさせないことを求めています。また、二次電池を使った電気回路の設計者は、その最大の電流値以上で充電や放電をしないように電気回路を設計するものです。このように、二次電池については、安全に充放電できる最大の電流値が定められており、これを二次電池の仕様最大電流値と呼んでいます。
上の図でいえば、安全領域の上限の値である最大充電電流が仕様最大充電電流値であり、最大放電電流が仕様最大放電電流値となります。
以上の二次電池の使用最大電流値に関する内容は、本願発明の属する技術分野における技術常識であり、その内容が当業者の頭の中にあるのだから、その内容が明細書に詳細に記載されていないからと言って当業者が本願発明を理解できないことはありません。つまり、『本願の発明の詳細な説明』は、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されていることにもなります(拒絶理由Bが解消していることの説明)。
また、以上のように仕様最大電流値といえば当業者にとってその意味内容の明確なものであり、『負荷の仕様最大電流値ではないか』などと疑念が生じる余地もありません。
以上の説明のように、仕様最大電流値と言えば二次電池の仕様最大電流値を指し示す言葉であることが当業者にとっては当然のことであり、『仕様最大電流値』を『二次電池の使用最大電流値』とした補正は、当初明細書等の記載から自明な事項であり、新たな技術的事項を導入するものではありません。補正された『二次電池の使用最大電流値』は、上述したように、これに接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項です。
以上の説明にて、拒絶理由Aに係るご懸念は解消したものと思料致しますが、予備的に、以下に審判官殿の見解につきまして、反論申し上げます。
3.2.[ア?エに基づく審判官殿のご見解について]
審判官殿は、拒絶理由通知において、以下を指摘されています。
『上記ア.には、『仕様最大電流の少なくとも80%以上、好ましくは90%以上を意味する』、『仕様最大電流値の近傍の電流値で放電する』ことが記載されているが、放電時の電流値がどのように決定されるものであるかをみると、スイッチ部11がオンの状態となる間、二次電池10と負荷20が電気的に接続されて、二次電池10が放電されることが記載されているのみであるから、放電時の電流値は接続される負荷がどのように電力を消費するかによって定まるといえる。
そうすると、『仕様最大電流値』が何の仕様に基づく最大電流値であったとしても、『仕様最大電流値』の少なくとも80%以上、好ましくは90%以上の電流値で放電するか否かは、負荷によって決定されるといえ、『仕様最大電流値』が『二次電池の仕様最大電流値』であると特定されるものではない。』
ここで審判官殿は、『放電時の電流値がどのように決定されるものであるか』を問題にされておられます。しかし、実際の二次電池を使った電気回路の設計者にとっては、二次電池からの電流値は、何かによって決定されるべきものではなく、その設計者が主体的にどのくらいの値とするかを決定するものです。
例えば、二次電池から給電されてアシスト力を生じさせるモータを搭載した電動アシスト自転車を設計する際には、出力させたい最も大きなトルクを設定します。次に、電動アシスト自転車に搭載できるモータの特性から、この出力させたい最も大きなトルクが得られる電流値を定めます。次に、この電流値を安全に出力できる二次電池を作製するか、あるいは、既存の二次電池から選択するなどします。
あるいは、携帯電話の液晶画面を動作させるためには、最大でどのくらいの輝度で液晶画面を光らせるかを設計し、液晶画面を構成するLEDの特性に応じてこのLEDにどのくらいの電流値を流せばよいかを定めます。次に、この電流値を安全に出力できる二次電池を作製するか、あるいは、既存の二次電池を選択するなどします。
このように、二次電池を使った電気回路を設計する設計者にとっては、まずどのくらいの電流値を負荷に流すかを定め、この電流値を安全に放電することのできる二次電池を作製・選択するなどします。
以上のように、二次電池の放電電流を定めるのは、二次電池を使った電気回路の設計者の設計によるものであり、審判官殿の言うように負荷によって定まるものではありません。したがって、審判官殿の論理展開はその前提で誤っており、当該補正は新たな技術的事項を導入しないものです。」

(4)意見書に対する当審の見解
先に当初明細書等の段落【0046】の記載を検討したとおり、段落【0046】の「仕様最大電流値」は、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値」を示すものでもなく、また、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値」を示すものでもない。
さらに、請求人は、「二次電池の仕様最大電流値」自体は自明であることを縷々説明しているが、請求項1の「前記放電時間」すなわち、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値の80%以上の電流値」を、「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」と特定すること、また、請求項5の「前記放電時間」すなわち、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における、放電する電流値としての「仕様最大電流値の80%以上の電流値」を、「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」と特定されたものであることが当初明細書等に記載されていたことを何ら証明するものではない。
また、上記意見書において「仕様最大電流値」が、どのように決定されるのかについてみても、「二次電池を使った電気回路を設計する設計者にとっては、まずどのくらいの電流値を負荷に流すかを定め、この電流値を安全に放電することのできる二次電池を作製・選択するなどします。」と請求人も述べているように、まずどのくらいの電流値を負荷に流すかを定めることにより「仕様最大電流値」が決定されるのであるから、「仕様」が負荷に対応するものであることは明らかといえる。
そして、どのくらいの電流値を負荷に流すかを定めることで決定された電流値を安全に放電することのできる二次電池を作製・選択することをもって、「仕様最大電流値」が、二次電池の仕様に基づいた「二次電池の仕様最大電流値」になるものであるとの主張を展開しているが、このような技術的特徴は、決定された最大電流値を安全に放電することができるものでありつつ、さらに、当該最大電流値が電池の仕様としても最大となるように、二次電池を作製・選択するなどの新たな技術的概念を導入することで、初めて「仕様最大電流値」を「二次電池の仕様最大電流値」とすることが可能となるものであるから、二次電池の仕様に基づき放電時間と休止時間とを周期的に繰り返す時の放電時間の放電電流値を決定することが当初明細書等に記載されていた事項であるとすることはできない。
したがって、請求人の主張は、当初明細書等に記載された事項を越えた、新たな技術的概念を導入するものであって、採用することはできない。

(5)まとめ
したがって、平成28年4月22日付けでした手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

4.記載不備(特許法第36条第4項及び第6項)について
(1)拒絶の理由
平成28年5月27日付けで当審より通知した拒絶の理由の理由B.の概要は以下のとおりである。
「B.この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1、5には、『前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する』と記載されているが、『二次電池の仕様最大電流値』がどのような値なのか明確でないから、請求項1、5、また、請求項1、5を引用する請求項2?4、6?8の記載は明確でない。
特に、二次電池の仕様で定められる『最大電流値』は、例えば、平成28年3月3日付け拒絶理由通知に参考文献1,2として例示したように、連続電流とパルス電流とでは大きく異なるものである。
請求項1?8に係る発明は、劣化した二次電池を放電する場合には、連続した放電ではなく、休止時間が周期的に設定される放電を行うから、パルス電流に近い放電電流となるものであり、当然『最大電流値』に関する仕様も、連続電流とは大きく異なる仕様が採用されてしかるべきであるが、請求項1、5の記載は、『二次電池の仕様最大電流値』が、休止時間が周期的に設定される放電を対象とした値であるか否か等に関して全く不明である。
(2)発明の詳細な説明には、『前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する』ということを『放電制御方法』として、あるいは、『放電制御装置』としてどのように実施するのか、明確かつ十分に記載されていない。」

(2)当審の判断
(2-1)特許法第36条第6項第1号に関して
請求項1には、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における、放電する電流値として「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」を用いる放電制御方法が記載され、また、請求項5には、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における、放電する電流値として「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」を用いる放電制御装置が記載されている。
これらの事項に関し、前記「3.新規事項(特許法第17条の2第3項)について」、「(2-3)当初明細書等の記載事項及び検討」で検討したのと同様、発明の詳細な説明の全体の記載を参照しても、請求項1の、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における電流値を「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」とする放電制御方法や、請求項5の、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における電流値を「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」とする放電制御装置は記載されていない。

したがって、請求項1、5に係る発明、また、請求項1、5を引用する請求項2?4、6?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。

(2-2)特許法第36条第6項第2号に関して
特許請求の範囲、請求項1、5には、「前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する」と記載されているが、この記載の「二次電池の仕様最大電流値」で定義される電流値自体明確でないし、一般的な意味での二次電池の仕様に基づく最大電流値であると解釈したとしても明確になるものではない。
例えば、平成28年3月3日付け拒絶理由に参考文献1として提示した、「GS YUASA 制御弁式鉛蓄電池総合カタログ」 (「http://home.gyps.gs-yuasa.com/products/catalog_pdf/GYPS-B017E.pdf」平成28年3月2日閲覧)(7頁「●最大許容放電電流」)や、参考文献2として提示した参考文献2:「サンヨーリチウム電池」 (「http://www.inedenki.co.jp/dcms_media/other/sanyo_lit.pdf」平成28年3月2日閲覧)(12-14頁、二次電池の定格の表中の「最大放電電流」)には、「最大許容放電電流」や「最大放電電流」が示されている。
これらの記載を参照すると、例え同じ二次電池であっても、放電時間等の条件に応じて放電時の最大電流値として定められる値は大きく異なり、これらのカタログに記載されるような最大許容放電電流や最大放電電流を、本願の「仕様最大電流値」に対応するものであると仮定してみても、二次電池の一般的な特性として一意に定められるものでない。
特に、請求項1には、「放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら前記二次電池の放電を行い、前記休止時間は少なくとも1秒以上であり、前記放電時間は前記休止時間より短く、前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する」、請求項2には「前記休止時間は前記放電時間の2倍以上である」、請求項3には「前記放電時間は30秒未満である」、請求項5には「放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら、前記二次電池の放電を行う放電制御部を備え、前記休止時間は少なくとも1秒以上であり、前記放電時間は前記休止時間よりも短く、前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する」、請求項6には「前記休止時間は前記放電時間の2倍以上である」、請求項7には「前記放電時間は30秒未満である」と記載されるように、放電時間には大きな範囲を有するものである。
そうすると、例えば、上記カタログの記載からみて(例えば、上記「GS YUASA 制御弁式鉛蓄電池総合カタログ」の「●最大許容放電電流」の表には、放電時間が「1分以内」、「5秒以内」、「一秒以内」である場合、形式「REH16-12」の蓄電池は、それぞれ、「480A」、「720A」、「1000A」の最大許容放電電流値が示されている。)、一般的な意味での最大許容放電電流や最大放電電流は、放電時間に対応してかなり異なる値を取るものであるが、請求項1?8の記載では、「二次電池の仕様最大電流値」と放電時間とに関し、何ら関係を規定しているものでない。
したがって、本願発明の「二次電池の仕様最大電流値」で定義される電流値は、一意に定めることはできないものといえ、請求項1、5、また、請求項1、5を引用する請求項2?4、6?8の記載は明確でない。

(2-3)特許法第36条第4項に関して
特許請求の範囲、請求項1に係る発明は、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における、放電する電流値として「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」を用いる放電制御方法に係る発明であり、また、請求項5に係る発明は、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における、放電する電流値として「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」を用いる放電制御装置に係る発明である。
これに対し、先に「(2-1)」で検討したように、「二次電池の仕様最大電流値」で定義される電流値自体、一意に定めることはできないものであり、発明の詳細な説明の記載を参照しても、請求項1の、二次電池を充電した後に負荷に接続して使用する際に、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う際の「放電時間」における電流値を「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」とする放電制御方法や、請求項5の、放電時間と休止時間とを周期的に繰り返しながら二次電池の放電を行う放電制御部が放電を行う「放電時間」における電流値を「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」とする放電制御装置は記載されていないので、発明の詳細な説明はその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが請求項1?8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは言えない。

(3)意見書の主張
なお、請求人は、平成28年7月25日付けの意見書において、次のように主張している。
「4.[拒絶理由Bについて]
(1)審判官殿は、『二次電池の仕様最大電流値がどのような値なのか明確でない』と指摘されておられます。
しかし、二次電池の仕様最大電流値とは、上述したように、『二次電池の製造者が安全に放電できることを保証する最大の電流値』のことです。これは、二次電池の製造者および二次電池を使った電気回路の設計者という本願発明が属する技術分野の当業者にとっての技術常識です。
したがって、二次電池の仕様最大電流値という用語はこれで十分に明確です。
なお、審判官殿は、『二次電池の仕様で定められる『最大電流値』は、例えば、平成28年3月3日付け拒絶理由通知に参考文献1,2として例示したように、連続電流とパルス電流とでは大きく異なるものである。』と指摘されておられます。
参考文献1,2で明示されていたように、どの二次電池においても、連続電流の場合の仕様最大電流値と、パルス電流の場合の仕様最大電流値とが、別々に定義されています。当業者は、本願の請求項1の記載から、本願発明は周期的に放電することを前提としているのだから、周期的に放電させようとしている当業者が連続電流の場合の仕様最大電流値を気にするはずがなく、本願発明における仕様最大電流値とはパルス電流の場合の仕様最大電流値であることが明らかです。
したがって、本願の請求項1の記載は明確です。同様の理由により、本願の請求項5の記載も明確です。
同様の理由により、請求項1,5を引用する請求項2?4,6?8の記載も明確です。
(2)審判官殿は、『発明の詳細な説明には、『前記放電時間において、前記二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値で放電する』ということを『放電制御方法』として、あるいは、『放電制御装置』としてどのように実施するのか、明確かつ十分に記載されていない。』と指摘されております。
しかしながら、上述したように、二次電池を使った電気回路において、その設計者が『どのくらいの電流値を二次電池から放電させよう』と設計するのであって、特定の電流値で放電させるために何か特別な工夫が必要なわけではありません。また、その特別な工夫が本願発明の本質でもありません。
本願発明は簡単に言えば、『特定の間隔で周期的に放電させ、かつ、放電させるときは仕様最大電流値の80%以上の電流値とする』ことにあり、特定の電流値で放電させることにあるわけではありません。したがって、審判官殿のご指摘に係らず、本願の発明の詳細な説明は、明確かつ十分に記載されているものと確信しております。
以上の理由により、本願は特許法第36条第4項および第6項に規定する要件を満たすものです。
なお、本願発明は、段落[0002]や[0022]に記載のように、携帯電話に搭載される液晶画面等の各電子部品や、電動車両に搭載されるモータへ給電する給電方法を想定しています。つまり、本願発明は、電動アシスト自転車におけるモータなどのように周期的に電力を供給すればよい負荷の他に、携帯電話の液晶画面などのように常に電力を供給し続けなければならない負荷にも適用することができます。
モータのように周期的に電力を供給すればよい負荷については、負荷と二次電池とを接続すれば何ら問題はありません。
液晶画面のように常に電力を供給し続けなければならない負荷に対しても、二次電池と負荷との間に適切なキャパシタを設けたり、一対の二次電池を用意して一方の二次電池をOFFにしている間に他方の二次電池をONにしたりすることなどにより、連続的に負荷に電力を供給し続けることができます。
これらの構成は、下記に挙げる引用文献1,2などにも記載されており、通常の創作能力を有する当業者であれば簡単に思いつくことができます。
もっとも、これらは、本願発明の本質部分ではありません。本願発明は、あくまでも、スイッチのON/OFFなどにより周期的に二次電池の仕様最大電流の80%以上の電流値で二次電池を放電させることにあり、負荷にどのように給電するかは本願発明を特定の用途に適用しようとする者が適宜考案すればよい事項に過ぎません。したがって、負荷にどのように給電するかに関する事項の詳細が本願の明細書に記載されていないからといっても、それが本願発明の実施可能要件の問題とはなりません。」

(4)意見書について当審の見解
(4-1)「(1)」の主張について
請求人は、本願発明における仕様最大電流値とはパルス電流の場合の仕様最大電流値であることが明らかであり、請求項1,5の記載は明確である旨主張している。
しかし、請求項に記載される「仕様最大電流値」が、二次電池に許容される最大の電流値を意味すると仮定しても、一般に電流の継続時間によって、許容される最大電流値は大きく変わるものであり、パルス電流であるからといっても一義的に最大電流値が決定されるものではないから、請求人の上記「(1)」の主張を採用することはできない。

(4-2)「(2)」の主張について
請求人は、「本願発明は、あくまでも、スイッチのON/OFFなどにより周期的に二次電池の仕様最大電流の80%以上の電流値で二次電池を放電させることにあり、負荷にどのように給電するかは本願発明を特定の用途に適用しようとする者が適宜考案すればよい事項に過ぎません。したがって、負荷にどのように給電するかに関する事項の詳細が本願の明細書に記載されていないからといっても、それが本願発明の実施可能要件の問題とはなりません。」と主張している。
しかしながら、「二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値」自体を一義的に決定することができないものであることに加え、発明の詳細な説明には、請求項1の放電制御方法、また、請求項5の放電制御装置が、どの様に二次電池の仕様に対応するのか、また、放電時間における電流値を二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値となるように、電流値に関していかなる制御を行うのか記載されていない。
そして、スイッチのON/OFFなどの技術を用いて、周期的に二次電池を放電させたとしても、そのような技術を単に用いたのみでは、負荷の大きさとの関係なしに、放電時間における電流値を二次電池の仕様最大電流値の80%以上の電流値とすることはできないことは明らかであり、さらに、請求人が「適宜考察すれば良い事項」としている手段も、その内容を示唆する記載すら発明の詳細な説明中に存在しない状況において、負荷にどのように給電するかに関する事項の詳細が本願の明細書に記載されていないことが、本願発明の実施可能要件の問題とはならないとする請求人の主張を採用することはできない。

(5)まとめ
したがって、特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は明確でない。
また、特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、発明の詳細な説明の記載も、請求項1ないし8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

5.結語
以上のとおり、平成28年4月22日付けでした手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
また、特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は明確でなく、また、特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、発明の詳細な説明の記載も、請求項1ないし8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第6項第1号及び第2号、第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-21 
結審通知日 2016-09-27 
審決日 2016-10-11 
出願番号 特願2012-249777(P2012-249777)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
P 1 8・ 536- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 明紀  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 矢島 伸一
藤井 昇
発明の名称 二次電池の放電制御方法および装置  
代理人 特許業務法人 信栄特許事務所  

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