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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1322224
審判番号 不服2016-3570  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-08 
確定日 2016-12-20 
事件の表示 特願2013-500982号「チューブタイヤ用のフラップ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年8月30日国際公開、WO2012/114964、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24)年2月15日(優先権主張 平成23年2月21日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年6月8日付けで拒絶理由が通知され、平成27年8月6日に意見書が提出され、平成27年11月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年3月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年3月8日の手続補正の適否
1.補正の内容
平成28年3月8日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、次の補正事項を含んでいる。
なお、下線は補正箇所を明示するために当審が付したものである。
(1)補正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「 【請求項1】
チューブタイヤ用のリムの外周面に取り付けられる環状のゴムよりなり、チューブのバルブを挿通可能なバルブ孔を有するフラップ基体と、
このフラップ基体のチューブと対向する側の周面におけるバルブ孔の周囲に設けられ、ゴムよりなる第1の補強部材と、
このフラップ基体のリムと対向する側の周面におけるバルブ孔の周囲に設けられ、コードが埋設されたゴムよりなる第2の補強部材と
を備え、
前記第1の補強部材及び前記第2の補強部材は、前記バルブ孔の周囲1箇所のみに配置され、かつ、
前記第1の補強部材は、シート状であり、チューブと対向する面の大きさよりも、フラップ基体に接する面の大きさが大きい
ことを特徴とするチューブタイヤ用のフラップ。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)。

(2)補正事項2
特許請求の範囲の補正前の請求項2?5について、補正前の請求項3を削除して、補正前の請求項4及び5を、補正後の請求項3及び4に繰り上げることで、
「 【請求項2】
前記第1の補強部材は、前記フラップ基体と同じゴム材料よりなる請求項1記載のチューブタイヤ用のフラップ。
【請求項3】
前記第1の補強部材は、その側面とフラップ基体に接する面とのなす角度が45°未満である請求項1記載のチューブタイヤ用のフラップ。
【請求項4】
前記第1の補強部材及び前記第2の補強部材は、フラップ基体に接する面が同じ大きさを有する請求項1記載のチューブタイヤ用のフラップ。」
とする補正(以下、「補正事項2」という。)。

(3)補正事項3
明細書の段落【0009】を、
「 【0009】
本発明のチューブタイヤ用のフラップは、チューブタイヤ用のリムの外周面に取り付けられる環状のゴムよりなり、チューブのバルブを挿通可能なバルブ孔を有するフラップ基体と、このフラップ基体のチューブと対向する側の周面におけるバルブ孔の周囲に設けられ、ゴムよりなる第1の補強部材と、このフラップ基体のリムと対向する側の周面におけるバルブ孔の周囲に設けられ、コードが埋設されたゴムよりなる第2の補強部材とを備え、前記第1の補強部材及び前記第2の補強部材は、前記バルブ孔の周囲1箇所のみに配置され、かつ、前記第1の補強部材は、シート状であり、チューブと対向する面の大きさよりも、フラップ基体に接する面の大きさが大きいことを特徴とする。」
とする補正(以下、「補正事項3」という。)。

(4)補正事項4
明細書の段落【0010】を、
「 【0010】
本発明のチューブタイヤ用のフラップにおいては、第1の補強部材は、前記フラップ基体と同じゴム材料よりなることが、好ましい。また、第1の補強部材の側面とフラップ基体に接する面とのなす角度が45°未満であることが、より好ましい。更に、第1の補強部材及び第2の補強部材は、フラップ基体に接する面が同じ大きさを有することが好ましい。
ここで、チューブと対向する側、チューブと対向する面とは、チューブとフラップ基体との間に配置されている第1の補強部材(後述する実施形態のゴム材)の側及び面をいい、リムと対向する側、リムと対向する面とは、リムとフラップ基体との間に配置されている第2の補強部材(後述する実施形態のコード補強ゴム材)の側及び面をいう。」
とする補正(以下、「補正事項4」という。)。

2.補正の適否
(1)補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記第1の補強部材及び前記第2の補強部材」について、「前記バルブ孔の周囲1箇所のみに配置され」るとの限定を付加し、かつ、同「前記第1の補強部材」について、「シート状であり、チューブと対向する面の大きさよりも、フラップ基体に接する面の大きさが大きい」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 刊行物の記載事項
(ア)
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭60-124505号公報(以下、「刊行物1」という。)には、第1?7図とともに、次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で加筆した。以下、同様である。
(1a)
「(1)本発明の技術分野
本発明は、自動車用タイヤのチューブ保護のためにチューブとリム間に装着されるフラップの軽量化に関する。
(2)本発明の利用分野
本発明はトラックやバス等の大型車輌に多用されている自動車用のチューブ入りタイヤに利用されるものである。」(1頁左下欄11?18行)
(1b)
「(3)本発明の背景
従来、自動車用タイヤフラップ1は、第1図及び第2図に示されるように、チューブのバルブを通すためのバルブ孔2付近外面側(タイヤ内面側)にバルブパッド補強部3を有するものとなっている。このバルブパッド補強部3は、フラップ1のバルブ孔2に通されたバルブを外部に突出させるためにリムに形成されているリム孔から、チューブに充填される空気圧に押されてフラップ1が飛び出してしまうのを防止するために設けられているものである。即ち、バルブパッド補強部3は、フラップ1の周方向の耐変形力を部分的に高めるためのものである。そしてバルブパッド補強部3は、このバルブパッド補強部3を設ける目的からして、1つのフラップ1に対してそのバルブ孔2付近のみの1個所にだけ設けられているに過ぎないものである。」(1頁左下欄19行?同頁右下欄16行)
(1c)
「(5)本発明の概容
上記目的を達成するための本発明の構成上の特徴は、自動車用チューブ入りタイヤのチューブとリムの間に装着するフラップにおいて、外周面複数箇所に、フラップの軸方向の耐変形力を高める補強リブを設けた自動車タイヤ用フラップとした点にある。
上記本発明によれば、補強リブによってフラップのその軸方向の耐変形力が維持されるので、他の部分を大幅に薄肉化してもこの補強リブによってリムへの押し込み時の軸方向の大きな変形が防止されるものである。」(2頁右上欄8?19行)
(1d)
「(6)実施例
第4図ないし第6図は本発明の一実施例を示す図で、フラップ1の外周面に2個所軸方向に、表面長方形状の補強リブ9が形成されている。また、やはり外周面側のバルブ孔2の付近には、バルブパッド補強部3が形成されている。このバルブパッド補強部3も補強リブ9と同じ形状でフラップ1の軸方向に設けられており、両者ともフラップ1の軸方向の耐変形力を向上させるものとなっている。2つの補強リブ9とバルブパッド補強部3は、各々フラップ1を周方向に三等分する位置に位置している。
補強リブ9とバルブパッド補強部3は、フラップ1外周面中央部分ではほぼ均一な厚さとなっているが、徐々に拡径されているフラップ1の両側部においては、側縁に近ずくに従って徐々に厚さが減少されている。これは、フラップ1をタイヤのビード間からタイヤ内に装着する際に、フラップ1の両側部の剛性が強くなり過ぎて作業がしにくくなるのを防止するためのものである。
本実施例に係るフラップ1において、補強リブ9とバルブパッド補強部3はフラップ1の筒部と同材質で構成されている。そして、補強リブ9は、バルブパッド補強部3とも相俟って、フラップ1のほぼ全周に亘ってその軸方向の耐変形力を向上させ、リムへタイヤを装着する際にフラップがその軸方向に大きく変形してタイヤの押し込み方向とは逆方向に押し出されるのを防止するものである。
補強リブ9とバルブパッド補強部3を本実施例のようにフラップ1の筒部と同材質で構成する場合、フラップ1を加硫成形する金型にあらかじめ補強リブ9とバルブパッド補強部3に相応する凹部を設けておき、フラップ1と一体的に成形してしまえばよい。しかし、この補強リブ9又はバルブパッド補強部3は必ずしもフラップ1の筒部と同材質のものとしなければならないものではなく、フラップ1に対するその軸方向の耐変形力の付与という目的から自由に材質を選択することができる。例えば、フラップ1の筒部より硬質のゴムとしたり、補強用の布を内蔵したものとすることもできる。特に補強リブ9やバルブパッド補強部3をフラップ1の筒部とは別の材質で構成する場合、これらをフラップ1の筒部とは別に成形して後で両者を接着するようにしてもよい。
また、本実施例においては、補強リブ9のみならずバルブパッド補強部3をもフラップ1への軸方向の耐変形力付与に利用しているが、バルブパッド補強部3には、「本発明の背景」の欄で説明したようなバルブパッド補強部3としての機能が要求されているため、必ずしもバルブパッド補強部3と補強リブ9の形状並びに厚さを揃える必要はない。」(2頁右上欄19行?3頁左上欄12行)

(イ)
上記(ア)(1a)?(1d)に記載の「自動車用タイヤフラップ1」、「フラップ1」及び「フラップ」は、いずれも同じものを意味しているといえること(以下、これらのフラップを「フラップ1」という。)、及び、上記(ア)(1d)を参照すると、刊行物1の実施例では、フラップ1は、構成要素が一体であるか別体であるかにかかわらず、バルブパッド補強部3とフラップ1の筒部とを構成要素として備えており、これと同様のことが刊行物1の従来技術(第1?3図)のフラップ1についても妥当するといえること、及び、上記(ア)(1a)?(1d)から、刊行物1には、次の発明(以下、引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
[引用発明]
「フラップ1は、チューブのバルブを通すためのバルブ孔2付近外面側にバルブパッド補強部3を有するものであり、バルブパッド補強部3とフラップ1の筒部とから構成され、
このバルブパッド補強部3は、フラップ1のバルブ孔2に通されたバルブを外部に突出させるためにリムに形成されているリム孔から、チューブに充填される空気圧に押されてフラップ1が飛び出してしまうのを防止するために設けられているものであり、1つのフラップ1に対してそのバルブ孔2付近のみの1個所にだけ設けられている、
自動車用タイヤのチューブ保護のためにチューブとリム間に装着されるフラップ1。」

(ウ)
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された実願平3-61706号(実開平5-5505号)のCD-ROM(以下、「刊行物2」という。)には、図1?4とともに、次の事項が記載されている
(2a)
「 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は空気入りタイヤにおいてリムのバルブ孔からのフラップの飛び出しを防止するフラップ補強構造に関するものである。」
(2b)
「 【0010】
図1は本考案に係る補強フラップの1例であり、図において(1)はチューブ、(2)はタイヤ(図示せず)が装着されるリム(8)に設けられたバルブ孔を示し、該バルブ孔(2)を通じてバルブステム(5)がバルブベースゴム(4)を介し、チューブ本体(1)に取り付けられていると共にリム(8)とチューブ(1)との間にフラップ(3)がバルブナット(6)及びバルブワッシャ(7)により止められて介装されていることは図3における既知の構造と同様であるが、本考案実施例に係る図1においては更に前記フラップ(3)のリム側に図2に示す如くリム(8)とフラップ(3)の各バルブ孔に連通するバルブ孔(10)を中心部に有する補強材(9)が貼り合わされ、リム(8)との間に介装されている。ここで補強材(9)はスチールコード(11)にゴム(12)をトッピングしたゴム引布であり、通常、リム幅より狭くリム(8)のバルブ孔(2)を覆うに足りる大きさをもって形成され、図においては上下二層にわたってフラップ(3)のリム側に層着されている。
【0011】
勿論、この補強材(9)は上記ゴム引布を1層のみ用いてもよく、また図示の如く大きさの異なる2層又は複数層用いてもよい。
なお、実施例ではバルブナット(6)及びバルブワッシャ(7)によりフラップ(3)が止着されているが、本考案構造によりフラップが補強されたときはバルブナット(6)及びバルブワッシャ(7)を省略することも可能である。
【0012】
かくしてフラップ(3)に上記補強材(9)を層着することによりフラップ(3)のリムのバルブ孔からの飛び出しを容易に防止することができる。」

(エ)
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭48-3634号(実開昭49-104807号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物3」という。)には、第1?3図とともに、次の事項が記載されている
(3a)
「従来、自動車タイヤにおいては、リムに起因する老化、摩滅誘因を防止する防護壁として、また、チューブの摩滅、発熱等からチューブを保護するため、リムとチューブの間に、相当良質のフラップが使用されているが、自動車の走行に伴なうリムの温度上昇および加圧と高周波振動によるフラップゴムのリムとの摩擦及び老化並びに発熱現象の生起によって、ゴム質の化学的、機械的老化および摩耗が促進され、特に、チューブの空気バルブを通すバルブ穴付近の摩耗、亀裂が激しいものであった。
従って、従来からも、フラップのバルブ穴付近の補強のために、ゴムをコーティングした布層を、フラップゴムのバルブ穴の両側あるいは片側に張り合わせて使用されていた。」(明細書1頁16行?2頁11行)
(3b)
「すなわち、天然又は人造繊維(再生及び合成繊維)からなる短繊維(約0.3?10.0mm)を、一般のゴム用の配合剤、加硫剤、加硫促進剤類を配合した配合ゴム(原料は、天然ゴム、合成ゴム又はこれらのブレンド等のゴム原料)に、配合ゴム対短繊維の比を3:1?0.5:1の範囲において混練したシート材料からなる補強層をフラップゴムのバルブ穴付近に加硫一体化して、補強層を有するフラップを構成するものである。」(明細書3頁7?15行)

イ 対比
補正発明1と引用発明とを対比する。
(ア)
引用発明において、「フラップ1は、チューブのバルブを通すためのバルブ孔2」を備え、「リムに形成されているリム孔」は「フラップ1のバルブ孔2に通されたバルブを外部に突出させるため」のものであること、引用発明において、「フラップ1」は「自動車用タイヤのチューブ保護のためにチューブとリム間に装着される」こと、及び、刊行物1の第3図から、「フラップ1の筒部」は、リム4と直接接触していることが看取されることから、引用発明の「フラップ1の筒部」は、「チューブのバルブを通すためのバルブ孔2」を備え、「チューブタイヤ用のリム4の外周面に取り付けられる」といえる。
(イ)
引用発明の「フラップ1の筒部」と補正発明1の「フラップ基体」とは、「フラップ基体」の限りで共通するところ、引用発明の「フラップ1の筒部」は、「チューブのバルブを通すためのバルブ孔2」を備え、「チューブタイヤ用のリム4の外周面に取り付けられる」から(上記(ア)を参照)、引用発明の「フラップ1の筒部」と、補正発明1の「チューブタイヤ用のリムの外周面に取り付けられる環状のゴムよりなり、チューブのバルブを挿通可能なバルブ孔を有するフラップ基体」とは、「チューブタイヤ用のリムの外周面に取り付けられる環状の部材よりなり、チューブのバルブを挿通可能なバルブ孔を有するフラップ基体」の限りで共通する。
(ウ)
引用発明は、「フラップ1は、チューブのバルブを通すためのバルブ孔2付近外面側にバルブパッド補強部3を有するものであり」、第1図及び第3図を併せ見ると、引用発明の「バルブパッド補強部3」は、「フラップ1の筒部」の「チューブのバルブを通すためのバルブ孔2付近外面」に設けられているといえるし、当該「バルブ孔2付近外面」は、「チューブと対向する側の周面」の一部であることが明らかである。
したがって、引用発明の「フラップ1の筒部」の「チューブのバルブを通すためのバルブ孔2付近外面」は、補正発明1の「フラップ基体のチューブと対向する側の周面におけるバルブ孔の周囲」に相当する。
(エ)
引用発明の「バルブパッド補強部3」と、補正発明1の「第1の補強部材」とは、「第1の補強部材」の限りで共通するところ、上記(ウ)から、引用発明の「フラップ1の筒部」の「チューブのバルブを通すためのバルブ孔2付近外面」に設けられている「バルブパッド補強部3」と、補正発明1の「フラップ基体のチューブと対向する側の周面におけるバルブ孔の周囲に設けられ、ゴムよりなる第1の補強部材」とは、「フラップ基体のチューブと対向する側の周面におけるバルブ孔の周囲に設けられる第1の補強部材」の限りで共通する。
(オ)
引用発明の「バルブパッド補強部3」は、「バルブ孔2付近外面」に設けられ、「バルブ孔の周囲に設けられる」から(上記(エ)を参照)、引用発明の「バルブパッド補強部3は、1つのフラップ1に対してそのバルブ孔2付近のみの1個所にだけ設けられている」ことと、補正発明1の「第1の補強部材及び第2の補強部材は、バルブ孔の周囲1箇所のみに配置され」ることとは、「第1の補強部材は、バルブ孔の周囲1箇所のみに配置され」ることの限りで共通する。
(カ)
引用発明の「自動車用タイヤのチューブ保護のためにチューブとリム間に装着されるフラップ1」と、補正発明1の「チューブタイヤ用のフラップ」とは、「チューブタイヤ用のフラップ」の限りで共通する。

以上より、補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「チューブタイヤ用のリムの外周面に取り付けられる環状の部材よりなり、チューブのバルブを挿通可能なバルブ孔を有するフラップ基体と、
このフラップ基体のチューブと対向する側の周面におけるバルブ孔の周囲に設けられる、第1の補強部材と
を備え、
第1の補強部材は、バルブ孔の周囲1箇所のみに配置される
チューブタイヤ用のフラップ。」
<相違点1>
「環状の部材」が 、補正発明1では、「環状のゴム部材」であるのに対して、引用発明では、そのように材質が特定されていない点。
<相違点2>
「第1の補強部材」に関して、補正発明1では、「ゴムよりなる第1の補強部材」であり、「第1の補強部材は、シート状であり、チューブと対向する面の大きさよりも、フラップ基体に接する面の大きさが大きい」のに対して、引用発明では、「第1の補強部材」がそのように特定されていない点。
<相違点3>
補正発明1では、「このフラップ基体のリムと対向する側の周面におけるバルブ孔の周囲に設けられ、コードが埋設されたゴムよりなる第2の補強部材とを備え」、「前記第2の補強部材は、前記バルブ孔の周囲1箇所のみに配置され」ているのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

ウ 判断
事案に鑑み、上記相違点2から検討する。
<相違点2について>
(ア)
上記相違点2に係る「第1の補強部材は、シート状であり、チューブと対向する面の大きさよりも、フラップ基体に接する面の大きさが大きい」という補正発明1の構成は、以下のとおり、刊行物1?3に記載も示唆もされていない。
(イ)
刊行物1の第2図は、バルブ孔2を含む断面であり、バルブパッド補強部3(第1の補強部材)の両側の側壁部分が傾斜しているようにも見てとれ、当該断面の部分に限れば、「チューブと対向する面の大きさよりも、フラップ基体に接する面の大きさが大きい」とも考えられるが、バルブパッド補強部3の全体に着目すると、「チューブと対向する面」と「フラップ基体に接する面」との大小関係を図面からだけで判断することはできない。
そして、刊行物1の第1?2図を併せ見みても、バルブパッド補強部3の形状を正確に特定することはできず、バルブパッド補強部3に関して上記各面の大小関係を特定することはできない。
また、第4?7図のバルブパッド補強部3についても、上記の第1?2図のバルブパッド補強部3と同様のことがいえる。
したがって、刊行物1には、上記(ア)の構成が記載されているとはいえないし、当該構成が示唆されているという根拠もない。
(ウ)
刊行物2には、第1の補強部材自体が存在しておらず、刊行物3には、「フラップのバルブ穴付近の補強のために、ゴムをコーティングした布層を、フラップゴムのバルブ穴の両側・・・に張り合わせて使用されていた」と記載されているだけであり(上記ア(エ)(3a)を参照)、刊行物2又は刊行物3には、上記(ア)の構成が記載も示唆もされていない。
(エ)
上記(ア)の構成については、上記(イ)及び(ウ)のとおり、刊行物1?3には記載も示唆もなく、当該構成が容易想到であるという根拠も存在しないところ、上記相違点2に係る補正発明1の構成は、上記(ア)の構成を含んでいるから、その余の構成が容易想到かについて検討するまでもなく、引用発明において、上記相違点2に係る補正発明1の構成を、当業者が容易になし得たとはいえない。
(オ)
そして、補正発明1の作用効果は、引用発明及び刊行物1?3に記載された技術事項から予測される範囲のものとはいえず、「ゴム材12との摩擦によるチューブtの損傷を小さくする」及び「フラップ基体11との接着力を十分に確保する」(明細書の段落【0020】を参照)等の顕著な作用効果を奏する。

エ 小括
したがって、補正発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、引用発明及び刊行物1?3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2)補正事項2について
本件補正の補正事項2は、本件補正前の請求項3に記載の発明特定事項によって、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記第1の補強部材」を限定して、本件補正後の請求項1に本件補正前の請求項3に記載の発明特定事項が記載されることとなったため、本件補正後の請求項1の記載に重複しないように、本件補正前の請求項3を削除し、本件補正前の請求項4及び5を、本件補正後の請求項3及び4に繰り上げたものであり、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そして、本件補正後の前記請求項2?4に記載された発明(以下、「補正発明2?4」という。)は、いずれも、補正発明1を引用しているから、補正事項1の補正に伴い限定的減縮がなされており、かつ、引用発明及び刊行物1?3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない(上記(1)参照)。また、ほかに特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとする理由もない。
したがって、補正発明2?4は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(3)補正事項3について
本件補正の補正事項3は、明細書の段落【0009】の記載を、補正事項1に伴い補正された補正発明1との整合を図るためのものであり、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

(4)補正事項4について
本件補正の補正事項4は、明細書の段落【0010】の記載を、補正事項2に伴い補正された補正発明2?4との整合を図るためのものであり、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願の請求項1?4に係る発明(補正発明1?4)は、上記第2の2.(1)及び(2)のとおり、引用発明及び刊行物1?3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-02 
出願番号 特願2013-500982(P2013-500982)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 出口 昌哉
小原 一郎
発明の名称 チューブタイヤ用のフラップ  
代理人 本多 一郎  

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