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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1322249
異議申立番号 異議2015-700337  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-22 
確定日 2016-09-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5740642号発明「飲食用組成物、飲食用組成物の呈味を改善する方法及び色を改善する方法、乳酸菌増殖用組成物、大麦の茎葉の栽培方法、阿蘇産又は黒ボク土を用いて栽培した大麦の茎葉」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5740642号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、〔4、5〕について訂正することを認める。 特許第5740642号の請求項1ないし3、4及び5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5740642号の請求項1ないし5に係る特許(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成26年5月29日(先の出願に基づく優先権主張:(1)平成25年5月29日、特願2013-113208号、(2)平成25年10月31日、特願2013-227183号、(3)平成25年10月31日、特願2013-227621号、(4)平成25年11月27日、特願2013-245324号)に出願された特願2014-111199号の一部を特許法44条1項の規定により平成26年12月12日に新たな特許出願としたものであって、平成27年5月15日に特許権の設定登録がなされたところ、平成27年12月22日に異議申立人川辺百合子により、特許異議の申立てがなされ、当審において平成28年2月15日付けで取消理由を通知した。
これに対し、本件特許権者から、平成28年5月16日付けで訂正請求書(以下、これに係る訂正を「本件訂正」という。)及び意見書が提出された。なお、当審において異議申立人に対し、平成28年5月23日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法120条の5第5項)をしたが、異議申立人から意見書は提出されなかった。

第2 本件訂正の適否の判断
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正を求めるものであり、以下の訂正事項を含むものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物であって、
該大麦が、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦であり、
前記の大麦の茎及び/又は葉が乾燥粉末であって、該乾燥粉末は、水分含量が5質量%以下である、青汁用の飲食用組成物。」
とあるのを、
「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物であって、
該大麦が、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦であり、
前記の大麦の茎及び/又は葉が乾燥粉末であって、該乾燥粉末は、水分含量が5質量%以下であり、更に、
該大麦がシュンライ又はファイバースノウである場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有し、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の色又は甘味が改善されている、青汁用の飲食用組成物。」
に訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記の乾燥粉末が、大麦の茎及び/又は葉を切断する処理と、大麦の茎及び/又は葉をブランチングする処理と、大麦の茎及び/又は葉を乾燥する処理と、大麦の茎及び/又は葉を粉砕する処理とを有する製造方法により得られたものである、請求項1又は2に記載の青汁用の飲食用組成物。」
とあるのを、
「前記の乾燥粉末を、大麦の茎及び/又は葉を切断する処理と、大麦の茎及び/又は葉をブランチングする処理と、大麦の茎及び/又は葉を乾燥する処理と、大麦の茎及び/又は葉を粉砕する処理とを有する製造方法により得る、請求項1又は2に記載の青汁用の飲食用組成物の製造方法。」
に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法であって、
該大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦を用い、
大麦の茎及び/又は葉として、水分含量が5質量%以下である乾燥粉末を用いる、青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法。」
とあるのを、
「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法であって、
該大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦を用い、
大麦の茎及び/又は葉として、水分含量が5質量%以下である乾燥粉末を用い、更に、
該大麦としてシュンライ又はファイバースノウを用いる場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有させ、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の甘味を改善する、青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等
(1) 訂正の目的の適否
ア 前記訂正事項1は、請求項1において、大麦の品種が「シュンライ又はファイバースノウ」である場合において、「シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有(する)」こと、「該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の色又は甘味が改善されている」ことを特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 前記訂正事項2は、請求項3について、取消理由3(後記第3・2(3))に対応するために、方法の発明であることを明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
ウ 前記訂正事項3は、請求項4について、大麦の品種が「シュンライ又はファイバースノウ」である場合において「シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有させ(る)」こと、「該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の甘味を改善する」ことを特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2) 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1及び3について
(ア) 特許明細書には、前記訂正事項1及び3に関し、以下の記載がある。
a 「[3]ビタミン類、食物繊維、多糖類、オリゴ糖、糖類、ミネラル類、及び、植物又は植物加工品から選ばれるいずれか1種以上を含有する[1]又は[2]に記載の飲食用組成物。
[4]・・・ミネラル類が、カルシウム、マグネシウム又は鉄であり、
・・・[1]から[3]のいずれか1項に記載の飲食用組成物。」(【0026】)
b 「本発明において、飲食品は、前記6条大麦の茎葉以外に、その他の成分を含んでいてもよい。前記のその他の成分としては、例えば、・・・カルシウム、マグネシウム、鉄等のミネラル類、・・・を配合することができる。」(【0052】)
c 「またカルシウム、マグネシウム、鉄等の上記で挙げた各種のミネラル類は1種のみを用いてもよいし2種以上を混合してもよい。・・・
本発明の飲食品においてミネラル類を含有する場合、その含有量は、6条大麦の茎葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下が好ましく、0.05質量部以上0.5質量部以下がより好ましい。」(【0066】、【0067】)
d 「また例えば後述する実施例の記載から明らかな通り、カルシウム等のミネラル類を6条大麦の茎葉と共に含有する本発明の飲食品は、ミネラル類を2条大麦の茎葉と共に含有する従来の飲食品に比べて、特に甘味が強く、苦味が少なく、香りもよく、緑色が一層鮮やかになり見た目がよく、美味しく摂取できる。」(【0079】)
e 「〔実施例9-1?9-3及び比較例9-2〕
下記表10で示す品種の大麦の茎葉の粉末1gと、下記表10に示す特定成分である粉末状のカルシウム(サンゴカルシウム)0.1gを配合して粉末試料を得た。
〔比較例9-1〕
前記カルシウムをそのまま粉末試料とした。
(8)評価例3-8(カルシウムとの配合)
実施例9-1?9-3及び比較例9-1?9-2で得られた粉末試料について、(1)評価例3-1と同様にして評価値を得た。・・・
表10に示す結果から、カルシウムを6条大麦の茎葉と共に含有する各実施例(9-1?9-3)の粉末試料の評価値は、カルシウムを2条大麦の茎葉と共に含有する比較例9-2の粉末試料に対して特に、「甘味」の項で1.5点以上、「苦味」の項で1.0点以上、「臭い(香り)」および「色」の項において1.25点以上、「おいしさ」の項で1.25点以上も上回っており、比較例9-2に比べて甘味等の味や香りが向上していること等により、美味しく摂取でき、嗜好性が向上していることが判る。」(【0186】?【0190】)
(イ) 以上の記載からすると、前記訂正事項1及び3に係る本件訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2について
特許明細書には、前記訂正事項2に関し、以下の事項が記載されている。
a 「例えば、大麦の茎葉を乾燥粉末化するには従来公知の方法を用いることができる。そのような方法としては、大麦の茎葉に対して、乾燥処理及び粉砕処理を組み合わせた方法を用いることができる。乾燥処理及び粉砕処理はいずれを先に行ってもよいが、乾燥処理を先に行うことが好ましい。乾燥粉末化は、この方法に、更に必要に応じブランチング処理・・・を組み合わせてもよい。また、・・・粗粉砕処理を行った後に、より細かく粉砕する微粉砕処理を組合せることが好ましい。」(【0041】)
b 「具体的な乾燥粉末化の方法としては、例えば、大麦の茎葉を切断した後、ブランチング処理を行い、次いで水分含量が・・・5質量%以下となるように乾燥し、その後粉砕する方法が挙げられる・・・。」(【0046】)
c 「〔実施例1-1〕
原料として、背丈が約30cmで刈り取った倍取の茎葉を用いた。これを水洗いし、付着した泥などを除去し、5?10cm程度の大きさに切断する前処理を行った。前処理した茎葉を、90?100℃の熱湯で90秒間?120秒間、1回のみブランチング処理し、その後、冷水で冷却した。続いて、得られた茎葉を、水分量が5質量%以下となるまで、乾燥機中で、20分間?180分間、80℃?130℃の温風にて乾燥させた。乾燥した茎葉を約1mmの大きさに粗粉砕処理した。得られた大麦の茎葉を、200メッシュ区分を90%以上が通過するように微粉砕処理し、茎葉の乾燥粉末試料を得た。
〔実施例1-2?1-6、比較例1-1?1-9〕
実施例1-1で用いた品種の代わりに、下記の表1に示す大麦品種を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、茎葉の乾燥粉末試料を得た。」(【0133】、【0134】)
d 「〔実施例1-7?1-8、比較例1-10?1-13〕
実施例1-1で用いた品種の代わりに、下記の表2に示す大麦品種を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、茎葉の乾燥粉末試料を得た。」(【0142】)
(イ) 請求項3自体の記載に加えて、以上の記載からもわかるように、本件訂正前の請求項3に係る発明は、当該乾燥粉末を得るために特定の処理工程を採用したことに技術的な意義があり、実質的に製造方法の発明であることは明らかである。
そうすると、前記訂正事項2に係る本件訂正は、当該乾燥粉末を得るための特定の処理工程を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の青汁用の飲食用組成物の製造方法であることを明確にするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) さらに、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであって、同条9項において準用する同法126条4項ないし6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、〔4、5〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。以下、本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい、総称して「本件発明」という。
【請求項1】
大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物であって、
該大麦が、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦であり、
前記の大麦の茎及び/又は葉が乾燥粉末であって、該乾燥粉末は、水分含量が5質量%以下であり、更に、
該大麦がシュンライ又はファイバースノウである場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有し、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の色又は甘味が改善されている、青汁用の飲食用組成物。
【請求項2】
大麦が、はがねむぎ又はカシマゴールである品種の大麦であり、
前記の乾燥粉末は、90質量%以上が200メッシュ区分を通過する、請求項1に記載の青汁用の飲食用組成物。
【請求項3】
前記の乾燥粉末を、大麦の茎及び/又は葉を切断する処理と、大麦の茎及び/又は葉をブランチングする処理と、大麦の茎及び/又は葉を乾燥する処理と、大麦の茎及び/又は葉を粉砕する処理とを有する製造方法により得る、請求項1又は2に記載の青汁用の飲食用組成物の製造方法。
【請求項4】
大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法であって、
該大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦を用い、
大麦の茎及び/又は葉として、水分含量が5質量%以下である乾燥粉末を用い、更に、
該大麦としてシュンライ又はファイバースノウを用いる場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有させ、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の甘味を改善する、青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法。
【請求項5】
前記の大麦として、はがねむぎ又はカシマゴールである品種の大麦を用い、
前記の乾燥粉末は、90質量%以上が200メッシュ区分を通過する、請求項4に記載の青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法。

2 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対し、平成28年2月15日付けで通知した取消理由1ないし3は、概ね、次のとおりである。
(1) 取消理由1
本件発明1及び3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例1又は引用例2に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2) 取消理由2
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例1ないし11に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(3) 取消理由3
本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。すなわち、本件特許の請求項3に係る発明は「青汁用の飲食用組成物」であるが、請求項3には製造に関して経時的な要素の記載があるため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえるから、請求項3に係る発明は明確でない。
(引用例)
引用例1:県民生協の情報誌 がんばらにゃ、2013年2月発行、Vol.394(異議申立人川辺百合子提出の甲2)
引用例2:とやまの特産物機能性成分データ集、平成17年3月発行、富山県食品研究所、3?4頁(同甲17)
引用例3:特開2002-212号公報(同甲9)
引用例4:「北陸の6条大麦をめぐる現状」、平成26年7月発行、北陸農政局生産部生産振興課(同甲3)
引用例5:平成22年産国内農産物の産地品種銘柄一覧、平成13年2月28日農林水産省告示第244号一部改正、平成22年9月28日公示(同甲4)
引用例6:吉田行郷、「主産地毎にみた国内産大麦・はだか麦に対する需要の変化と需要拡大に向けた新たな動き」、2015年1月20発行、農林水産政策研究所(同甲5)
引用例7:特開2004-210号公報(同甲7)
引用例8:特開2003-33151号公報(同甲8)
引用例9:特開2003-178号公報(同甲10)
引用例10:特開2000-300209号公報(同甲11)
引用例11:特開2012-239403号公報(同甲15)

3 取消理由1(29条1項3号)についての判断
(1) 引用例に記載された事項
ア 引用例1
(ア) 引用例1には、以下の事項が記載されている。
a 「2012年度は、商品開発モニターのみなさんのご協力をいただき、地元の素材を使って地元のメーカーでこだわりの5品を開発しました。」
b 「福井県産粉末大麦若葉
福井県産大麦若葉粉末を100%使用した美味しい青汁です。まるで抹茶のような味わいです。」
(イ) 上記の記載からすると、引用例1には次の発明(以下、それぞれ「引用発明1の1」、「引用発明1の2」という。)が記載されているといえる。
(引用発明1の1)
「地元の素材を使って地元のメーカーでこだわって開発した、福井県産大麦若葉粉末を100%使用した美味しい青汁。」
(引用発明1の2)
「地元の素材を使って地元のメーカーでこだわって開発した、福井県産大麦若葉粉末を100%使用する、美味しい青汁の原料を製造する方法。」
イ 引用例2
(ア) 引用例2には、以下の事項が記載されている。
a 「県内で生産される大麦はほとんどが6条皮麦の『ファイバースノウ』である。・・・平成13年に奨励品種となった。現在、6条大麦の全てが『ファイバースノウ』となっており、・・・」(3頁左欄9?14行)
b 「3.既存食品及び利用分野
・・・
(若葉)
○大麦若葉青汁、機能性食品素材、粉末、エキス等」(4頁左欄下から11?4行)
(イ) 上記の記載からすると、県内で生産される大麦のほとんどがファイバースノウであって、大麦に係る既存食品及び利用分野として、大麦若葉青汁があることがわかる。
そして、大麦大麦若葉青汁の原料は、通常、粉末状であることからすると、引用例2には次の発明(以下、それぞれ「引用発明2の1」、「引用発明2の2」という。)が記載されているといえる。
(引用発明2の1)
「ファイバースノウの若葉粉末を利用した大麦若葉青汁。」
(引用発明2の2)
「ファイバースノウの若葉粉末を利用する、大麦若葉青汁の原料を製造する方法。」
ウ 引用例3
(ア) 引用例3には、以下の事項が記載されている。
a 「麦若葉末の製造方法であって、
a)収穫した麦若葉を洗浄する工程;
b)洗浄した麦若葉を水蒸気により蒸煮する処理と蒸煮した麦若葉を冷却する処理とを繰り返す工程;
c)得られた麦若葉を乾燥する工程;および
d)乾燥した麦若葉を粉砕する工程、を包含する、方法。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
b 「麦若葉は、ビタミン類、ミネラル類、食物繊維などに富み、・・・健康食品の素材として注目を浴びている。」(【0002】)
c 「本発明の麦若葉末の原料としては、特に制限されないが、具体的には大麦・・・などの麦類の若葉(以下、麦若葉という)が用いられる。・・・より好ましくは大麦の若葉が用いられる。・・・
本発明によれば、麦若葉は、水などで付着した泥などを洗浄し、水気を切った後、必要に応じて、適当な大きさ(例えば、10cm)に切断して、ブランチング処理される。
ブランチング処理には、従来、熱水処理や連続的な水蒸気による蒸煮処理(連続的蒸煮処理)が用いられてきたが、これでは麦若葉に含まれる有効成分が失われてしまう。そこで、本発明では、常圧または加圧下において、麦若葉を水蒸気により蒸煮する処理と冷却する処理とを繰り返す(間歇的蒸煮処理)工程を採用した。・・・
従来の連続的蒸煮処理を長時間(150秒間以上)行うと蒸煮処理(ブランチング処理)中に緑色が褪色してしまうが、この間歇的蒸煮処理は、10回繰り返されても、ブランチング中に麦若葉の変色が起こらず、実質的に長時間のブランチング処理が可能となり、褪色の原因となる酵素は完全に失活される。・・・
続いて、上記ブランチング処理された麦若葉は、水分含量が10%以下、好ましくは5%以下となるように乾燥され得る。・・・
上記乾燥された麦若葉は、・・・粉砕され得る。粉砕された麦若葉は必要に応じて篩にかけられ、例えば、30?250メッシュを通過するものが麦若葉末として用いられ得る。」(【0011】?【0017】)
d 「例えば、本発明により得られる麦若葉末は、ブランチング処理として熱水処理して製造された麦若葉末と比較して、・・・カルシウムにおいては、通常2倍以上・・・多く含む。」(【0019】)
e 「(4)ブランチング処理が水蒸気による間歇的蒸煮処理である、麦若葉末の製造(実施例)
水蒸気処理を間歇的に行ったこと以外は、比較例2と同様にして麦若葉末を製造した。すなわち、水洗いした大麦若葉を送帯型蒸機を用いて、30秒間蒸煮処理した後に、麦若葉の温度が50℃以下となるように気化冷却した。この蒸煮処理と冷却処理からなる工程を2?6回繰り返し、得られた麦若葉を、水分含量が5%以下となるように、乾燥機中、60℃にて6時間温風乾燥し、200メッシュを90%が通過する程度に粉砕して得られた麦若葉末を実施例1.1?1.5とした。」(【0024】)
f 「これらの結果は、水蒸気による蒸煮処理が褪色の原因となる酵素を失活させ、実質的に蒸煮処理時間が同じ(比較例2.2と実施例1.1)であっても、間歇蒸煮処理の方が酵素の失活に有効であることを示す。褪色が認められた製品においては、その褪色の程度に比例して匂いおよび味の変化が認められ、これらは商品価値を損なうものであった。」(【0032】)
g 「(6)成分分析
上記方法により得られた、原末、ならびに比較例1、比較例2.3、および実施例1.2の麦若葉末の成分分析結果を表2に示す。なお項目の分析方法および数値の単位は以下の通りである。
・・・
カルシウム:過マンガン酸カリウム容量法、mg/100g
・・・
【表2】
原末 比較例1 比較例2.3 実施例1.2
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
カルシウム 790 336 587 657
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
表2の結果より、本発明の麦若葉末は、従来の方法により製造された麦若葉末と比較して、その成分含量が異なっており、原末と同様にビタミン、ミネラル、および葉緑素を非常に多く含むことが示された。」(【0033】?【0035】)
h 「間歇的な蒸煮処理を用いて製造された麦若葉末は、熱水処理、連続蒸煮処理中に見られる褪色がみられず、さらに従来の麦若葉末と比較して麦若葉が天然に含有する水溶性成分を保持し、かつ保存安定性および嗜好性に優れるものであった。本発明により、天然の麦若葉が有するビタミン類、ミネラル類および葉緑素などを保持し、かつ保存安定性および嗜好性に優れた麦若葉末の製造方法が提供される。」(【0036】)
(イ) 上記の記載からすると、引用例3には次の発明(以下、それぞれ「引用発明3の1」ないし「引用発明3の3」という。)が記載されているといえる。
(引用発明3の1)
「大麦若葉を用いた健康食品であって、
前記の大麦若葉が乾燥粉末であって、該乾燥粉末は、水分含有量が5質量%以下であり、通常の2倍以上のカルシウムを含有し、30?250メッシュを通過し、褪色及び嗜好性が改善されている、もの。」
(引用発明3の2)
「大麦若葉末は、大麦若葉を切断する処理と、大麦若葉をブランチングする処理と、大麦若葉を乾燥する処理と、大麦若葉を粉砕する処理と、大麦若葉を篩にかける処理とを有する製造方法により得る、大麦若葉末を用いた健康食品であって、前記の大麦若葉が乾燥粉末であって、該乾燥粉末は、水分含有量が5質量%以下であり、通常の2倍以上のカルシウムを含有し、30?250メッシュを通過し、褪色及び嗜好性が改善されている、ものの製造方法。」
(引用発明3の3)
「大麦若葉を用いた健康食品の褪色及び嗜好性を改善する方法であって、
大麦若葉として、水分含有量が5質量%以下である乾燥粉末を用い、通常の2倍以上のカルシウムを含有させ、30?250メッシュを通過するものを用いる、方法。」

(2) 対比及び判断
ア 本件発明1について
(ア)a 本件発明1と引用発明1の1とを、その有する機能に照らして対比すると、引用発明1の1において、大麦若葉粉末が乾燥粉末であることは明らかであるから、両者は、大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物であって、前記の大麦の茎及び/又は葉が乾燥粉末である点で一致するものの、本件発明1は、「該大麦が、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦であり」、乾燥粉末に関し「水分含量が5質量%以下であり」、更に、「該大麦がシュンライ又はファイバースノウである場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有し、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の色又は甘味が改善されている」のに対し、引用発明1の1においては、福井県産大麦の具体的な品種、水分含量及びカルシウムの含有量が不明で、青汁の色又は甘味が改善されているか不明である点で相違する。
b 一般的に、大麦若葉粉末はカルシウムを含有していると認められる。引用例3によれば、若葉粉末1gあたり0.00336g(100gあたり336mg)?0.00790g(同790mg)(【0034】【表2】)のカルシウムが含まれ、本件特許権者提出の乙13(山本漢方製薬株式会社ホームページの印字物、2016年5月13日検索、URL:http://www.kanpo-yamamoto.com/shop/omugi_wakaba02.php)によれば、若葉粉末1gあたり0.00290g(同290mg)のカルシウムが含まれていることがわかる。
しかしながら、このような一般的なカルシウム含有量に照らすと、引用発明1の1が、福井県産の大麦としてよく知られた「ファイバースノウ」を利用したものであるとしても、福井県産の大麦若葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有しているものとは認められない。
そうすると、引用発明1の1は、少なくとも大麦の具体的な品種及びカルシウム含有量の点で、本件発明1と相違する。
(イ)a 本件発明1と引用発明2の1とを、その有する機能に照らして対比すると、引用発明2の1の若葉粉末が乾燥粉末であることは明らかであるから、両者は、大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物であって、該大麦がファイバースノウであって、前記のファイバースノウの茎及び又は葉が乾燥粉末である点で一致するものの、本件発明1は乾燥粉末に関し「水分含量が5質量%以下であり」、更に、「該大麦が・・・ファイバースノウである場合は、・・・ファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有し、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の色又は甘味が改善されている」のに対し、引用発明2の1は、水分含量及びカルシウム含有量が不明で、青汁の色又は甘味が改善されているか不明である点で相違する。
b 引用発明2の1は、ファイバースノウの若葉粉末を利用したものであるところ、既に述べたとおり、一般的に、大麦若葉粉末はカルシウムを含有していると認められるが、一般的なカルシウム含有量に照らすと、引用発明2の1が、ファイバースノウの若葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有しているものとは認められない。
そうすると、引用発明2の1は、少なくともカルシウム含有量の点で、本件発明1と相違する。
(ウ) よって、本件発明1は、引用例1又は引用例2に記載された発明ではない。
イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を特定するための事項をすべて含むものであるところ、既に述べたとおり、本件発明1が、引用例1又は引用例2に記載された発明ではないから、本件発明3は、本件発明1と同様の点で、引用発明1の2又は引用発明2の2と相違し、更に、次の点で両者は相違する。
すなわち、本件発明3が「前記の乾燥粉末を、大麦の茎及び/又は葉を切断する処理と、大麦の茎及び/又は葉をブランチングする処理と、大麦の茎及び/又は葉を乾燥する処理と、大麦の茎及び/又は葉を粉砕する処理とを有する製造方法により得る」、「請求項1又は2に記載の青汁用の飲食用組成物の製造方法」であるのに対し、引用発明1の2又は引用発明2の2においては、若葉粉末を得るための具体的な方法が不明である。
そうすると、本件発明3は、引用例1又は引用例2に記載された発明ではない。

(3) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び3は、引用例1又は引用例2に記載された発明ではない。

4 取消理由2(29条2項)についての判断
(1) 引用例には、前記3(1)のとおりの事項が記載されている。

(2) 対比及び判断
ア 本件発明1について
(ア) 引用発明1の1に関し
a 本件発明1と引用発明1の1とを、その有する機能に照らして対比すると、両者は以下の点で一致し、相違する。
(一致点1の1)
「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物であって、
前記の大麦の茎及び/又は葉が乾燥粉末である、青汁用の飲食用組成物。」
(相違点1の1)
本件発明1は、「該大麦が、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦であり」、乾燥粉末に関し「水分含量が5質量%以下であり」、更に、「該大麦がシュンライ又はファイバースノウである場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有し、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の色又は甘味が改善されている」のに対し、引用発明1の1においては、福井県産大麦の具体的な品種、水分含量、カルシウム含有量が不明で、青汁の色又は甘味が改善されているか不明である点。
b 上記相違点1の1について検討する。
(a) 引用例1には、福井県産大麦の具体的な品種が明記されていないが、当時、福井県では、専ら「ファイバースノウ」が栽培されていたものと認められ(引用例4ないし6)、引用発明1の1が地元の素材にこだわったものであることからしても、地元で広く知られたファイバースノウを利用することは、当業者にとって容易である。
しかしながら、既に述べたとおり、一般的なカルシウム含有量に照らすと、引用発明1の1は、福井県産の大麦若葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有しているとは認められない。引用例1には、カルシウム含有量について特段記載も示唆もなく、その他の証拠をみても、ファイバースノウの茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物における、カルシウム含有量と色又は甘味の改善との関係について、特段記載がない。
よって、引用発明1の1には、当該カルシウム含有量とすることについて動機付けがない。
(b) 緑色野菜の粉砕物を利用した飲食用組成物において、6条大麦の若葉を利用できることは、従前から知られており(引用例11【0019】)、引用例4ないし6からもわかるように、請求項1に列記された6条大麦は、いずれも、国内にて作付けされる6条大麦の代表的な品種である。
しかしながら、何れの証拠をみても、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライの茎及び/又は葉を青汁用の飲食用組成物に利用することや、更に、シュンライを利用する場合におけるカルシウム含有量と色又は甘味の改善との関係について、特段記載がない。
よって、引用発明1の1には、大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライの茎及び/又は葉を利用することや、シュンライを利用する場合に当該カルシウム含有量とすることについて動機付けがない。
(c) そして、本件発明1は、はがねむぎ、カシマゴール又はシュンライの茎及び/又は葉を用いることにより、色、甘味に関し、2条大麦との対比で所定の優位性が認められ(特許明細書【0134】?【0149】)、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉を用いるとともに、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有することにより、色、甘味に関し、ニシノホシとの対比で所定の優位性が認められるから(同【0186】?【0190】)、この点を単なる設計的事項ということはできない。
(d) そうすると、その余の事項を検討するまでもなく、引用発明1の1において、上記相違点1の1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
(イ) 引用発明2の1に関し
a 本件発明1と引用発明2の1とを、その有する機能に照らして対比すると、両者は以下の点で一致し、相違する。
(一致点2の1)
「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物であって、
該大麦がファイバースノウであり、
前記のファイバースノウの茎及び又は葉が乾燥粉末である、青汁用の飲食用組成物。」
(相違点2の1)
本件発明1は、「該大麦が、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦であり」、乾燥粉末に関し「水分含量が5質量%以下であり」、更に、「該大麦がシュンライ又はファイバースノウである場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有し、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の色又は甘味が改善されている」のに対し、引用発明2の1は、該大麦がファイバースノウであり、水分含量及びカルシウム含有量が不明で、青汁の色又は甘味が改善されているか不明である点。
b 上記相違点2の1について検討する。
(a) 既に述べたとおり、一般的なカルシウム含有量に照らすと、引用発明2の1は、ファイバースノウの若葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有しているとは認められない。引用例2には、ファイバースノウの種実のカルシウム含有量に係る記載はあるが、若葉粉末のカルシウム含有量について特段記載も示唆もない。既に述べたとおり、その他の証拠をみても、ファイバースノウの茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物における、カルシウム含有量と色又は甘味の改善との関係について、特段記載がない。
よって、引用発明2の1には、当該カルシウム含有量とすることについて動機付けがない。
(b) 既に述べたとおり、何れの証拠をみても、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライの茎及び/又は葉を青汁用の飲食用組成物に利用することや、シュンライを利用する場合に当該カルシウム含有量とすることについて、特段記載がない。
よって、引用発明2の1には、大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライの茎及び/又は葉を利用することや、シュンライを利用する場合に当該カルシウム含有量とすることについて動機付けがない。
(c) そして、既に述べたとおり、本件発明1は、はがねむぎ、カシマゴール又はシュンライの茎及び/又は葉を用いることや、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有することにより、色、甘味に関し、2条大麦、ニシノホシとの対比で所定の優位性が認められるから、この点を単なる設計的事項ということはできない。
(d) そうすると、その余の事項を検討するまでもなく、引用発明2の1において、上記相違点2の1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
(ウ) 引用発明3の1に関し
a 本件発明1と引用発明3の1とを、その有する機能に照らして対比すると、両者は以下の点で一致し、相違する。
(一致点3の1)
「大麦の茎及び/又は葉を用いた飲食用組成物であって、
前記の大麦の茎及び/又は葉が乾燥粉末であって、該乾燥粉末は、水分含量が5質量%以下であり、更に、
カルシウムを含有し、且つ該カルシウムを含有した飲食用組成物の色が改善されている、飲食用組成物。」
(相違点3の1)
本件発明1は、「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物」であって、「該大麦が、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦であり」、更に、「該大麦がシュンライ又はファイバースノウである場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有し、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の色又は甘味が改善されている」のに対し、引用発明3の1は、「大麦若葉末を用いた健康食品」であって、大麦の品種が特定されておらず、具体的なカルシウム含有量が不明であって、褪色及び嗜好性が改善されているものの、甘味が改善されているかは不明である点。
b 上記相違点3の1について検討する。
(a) 引用例3には、当該大麦若葉末を青汁に用いる点は明記されていないが、青汁はその代表的な用途であるから(引用例1、2、7ないし11)、引用発明3の1が青汁用の飲食用組成物である蓋然性は高く、そうすることも、当業者にとって容易である。
(b) 大麦若葉青汁、機能性食品素材、粉末、エキス等にファイバースノウの大麦若葉を利用することが、本願優先日前に知られ(引用例2)、引用発明3の1において、大麦として適宜の品種のものを採用できることは、技術的に明らかであるから、当該大麦若葉として、ファイバースノウを採用することは、当業者にとって容易である。
しかしながら、引用発明3の1はカルシウムを含有するものの、引用例3には、カルシウム含有量と色又は甘味の改善とに関する記載はない。実施例に関する数値をみても(【0034】)、葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有しているものとは認められず、そうすることの示唆もない。既に述べたとおり、その他の証拠をみても、ファイバースノウの茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物における、カルシウム含有量と色又は甘味の改善との関係について、特段記載がない。
よって、引用発明3の1には、当該カルシウム含有量とすることについて動機付けがない。
(c) 既に述べたとおり、何れの証拠をみても、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライの茎及び/又は葉を青汁用の飲食用組成物に利用することや、シュンライを利用する場合に当該カルシウム含有量とすることについて、特段記載がない。
よって、引用発明3の1には、大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライの茎及び/又は葉を利用することや、シュンライを利用する場合に当該カルシウム含有量とすることについて動機付けがない。
(d) そして、既に述べたとおり、本件発明1は、はがねむぎ、カシマゴール又はシュンライの茎及び/又は葉を用いることや、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有することにより、色、甘味に関し、2条大麦、ニシノホシとの対比で所定の優位性が認められるから、この点を単なる設計的事項ということはできない。
(e) そうすると、その余の事項を検討するまでもなく、引用発明3の1において、上記相違点3の1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
(エ) 以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明1の1ないし引用発明3の1、引用例4ないし11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
イ 本件発明2及び3について
既に述べたとおり、本件発明1は、引用発明1の1ないし引用発明3の1並びに引用例4ないし11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない(前記ア)。
そして、本件発明2及び3は、本件発明1を特定するための事項をすべて含むものである。
よって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明2は、本件発明1と同様に、引用発明1の1ないし引用発明3の1並びに引用例4ないし11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、本件発明3は、本件発明1と同様の理由により、引用発明1の2ないし引用発明3の2並びに引用例4ないし11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
エ 本件発明4について
(ア) 引用発明1の2に関し
a 本件発明4と引用発明1の2とを、その有する機能に照らして対比すると、両者は以下の点で一致し、相違する。
(一致点1の4)
「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物に係る方法であって、
前記の大麦の茎及び/又は葉として乾燥粉末を用いる、方法。」
(相違点1の4)
本件発明4は、「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法」であって、「該大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦を用い」、「水分含量が5質量%以下である乾燥粉末を用い」、更に、「該大麦としてシュンライ又はファイバースノウを用いる場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有させ、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の甘味を改善する」のに対し、引用発明1の2は、「美味しい青汁の原料を製造する方法」であって、福井県産大麦の具体的な品種、水分含量、カルシウム含有量が不明で、青汁の色又は甘味を改善しているか不明である点。
b 上記相違点1の4について検討する。
本件特許明細書によれば、特定品種の大麦に係る茎及び/又は葉を青汁用の飲食用組成物の素材として採用したところ、得られた青汁の呈味や色が従前に比し改善したもので、本件発明4は、当該特定品種の大麦に係る茎及び/又は葉を利用することを特徴とする、青汁用の飲食用組成物の製造方法と本質的に同じである。その意味において、引用発明1の2は、本件発明4とその前提で異ならない。
しかしながら、上記相違点1の4は、実質的に前記相違点1の1と変わらないから、本件発明1と同様の理由により(前記ア(ア))、引用発明1の2において、上記相違点1の4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
(イ) 引用発明2の2に関し
a 本件発明4と引用発明2の2とを、その有する機能に照らして対比すると、両者は以下の点で一致し、相違する。
(一致点2の4)
大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物に係る方法であって、
該大麦としてファイバースノウを用い、
大麦の茎及び又は葉として乾燥粉末を用いる、方法。」
(相違点2の4)
本件発明4は、「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法」であって、「該大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦を用い」、「水分含量が5質量%以下である乾燥粉末を用い」、更に、「該大麦としてシュンライ又はファイバースノウを用いる場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有させ、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の甘味を改善されている」のに対し、引用発明2の2は、「大麦若葉青汁の原料を製造する方法」であって、該大麦がファイバースノウであり、水分含量及びカルシウム含有量が不明で、青汁の色又は甘味を改善しているか不明である点。
b 上記相違点2の4について検討する。
既に述べたとおり、本件発明4は、当該特定品種の大麦に係る茎及び/又は葉を利用することを特徴とする、青汁用の飲食用組成物の製造方法と本質的に同じであるから、その意味において、引用発明2の2は、本件発明4とその前提で異なるものではない。
しかしながら、上記相違点2の4は、実質的に前記相違点2の1と変わらないから、本件発明1と同様の理由により(前記ア(イ))、引用発明2の2において、上記相違点2の4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
(ウ) 引用発明3の3に関し
a 本件発明4と引用発明3の3とを、その有する機能に照らして対比すると、引用発明3の3は「褪色及び嗜好性を改善する方法」であるところ、これは呈味及び色を改善する方法といえるから、両者は以下の点で一致し、相違する。
(一致点3の4)
大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法であって、
大麦の茎及び/又は葉として、水分含量が5質量%以下である乾燥粉末を用い、更に、
カルシウムを含有させ、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の味を改善する、青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法である点。
(相違点3の4)
本件発明4は、「大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物」の呈味及び色を改善する方法であって、「該大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦を用い」、更に、「該大麦としてシュンライ又はファイバースノウを用いる場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有させ、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の甘味を改善する」ものであるのに対し、引用発明3の3は、「大麦若葉末を用いた健康食品」の褪色及び嗜好性を改善する方法であって、大麦の品種が特定されておらず、具体的なカルシウム含有量が不明であって、褪色及び嗜好性を改善しているものの、甘味を改善しているかは不明である点。
b 上記相違点3の4について検討するに、実質的に前記相違点3の1と変わらないから、本件発明1と同様の理由により(前記ア(ウ))、引用発明3の3において、上記相違点3の4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
(エ) 以上のとおりであるから、本件発明4は、引用発明1の2、引用発明2の2及び引用発明3の3並びに引用例4ないし11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
オ 本件発明5について
既に述べたとおり、本件発明4は、引用発明1の2、引用発明2の2及び引用発明3の3並びに引用例4ないし11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないから(前記エ)、本件発明4を特定するための事項をすべて含む本件発明5は、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明4と同様に、引用発明1の2、引用発明2の2及び引用発明3の3並びに引用例4ないし11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(3) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、引用例1ないし11に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

5 取消理由3(36条6項2号)についての判断
前記訂正事項2に係る本件訂正により、本件発明3が方法の発明であることが明確になった。
そして、請求項3には、他に不明瞭なところはない。
よって、取消理由3は解消された。

6 むすび
以上のとおりであるから、前記取消理由1ないし3によっては、本件特許(請求項1ないし5に係る特許)を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物であって、
該大麦が、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦であり、
前記の大麦の茎及び/又は葉が乾燥粉末であって、該乾燥粉末は、水分含量が5質量%以下であり、更に、
該大麦がシュンライ又はファイバースノウである場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有し、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の色又は甘味が改善されている、青汁用の飲食用組成物。
【請求項2】
大麦が、はがねむぎ又はカシマゴールである品種の大麦であり、
前記の乾燥粉末は、90質量%以上が200メッシュ区分を通過する、請求項1に記載の青汁用の飲食用組成物。
【請求項3】
前記の乾燥粉末を、大麦の茎及び/又は葉を切断する処理と、大麦の茎及び/又は葉をブランチングする処理と、大麦の茎及び/又は葉を乾燥する処理と、大麦の茎及び/又は葉を粉砕する処理とを有する製造方法により得る、請求項1又は2に記載の青汁用の飲食用組成物の製造方法。
【請求項4】
大麦の茎及び/又は葉を用いた青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法であって、
該大麦として、はがねむぎ、カシマゴール、シュンライ又はファイバースノウである品種の大麦を用い、
大麦の茎及び/又は葉として、水分含量が5質量%以下である乾燥粉末を用い、更に、
該大麦としてシュンライ又はファイバースノウを用いる場合は、シュンライ又はファイバースノウの茎及び/又は葉1質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のカルシウムを含有させ、且つ該カルシウムを含有した青汁用の飲食用組成物の甘味を改善する、青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法。
【請求項5】
前記の大麦として、はがねむぎ又はカシマゴールである品種の大麦を用い、
前記の乾燥粉末は、90質量%以上が200メッシュ区分を通過する、請求項4に記載の青汁用の飲食用組成物の呈味及び色を改善する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-09-01 
出願番号 特願2014-252412(P2014-252412)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 鳥居 稔
窪田 治彦
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5740642号(P5740642)
権利者 株式会社東洋新薬
発明の名称 飲食用組成物、飲食用組成物の呈味を改善する方法及び色を改善する方法、乳酸菌増殖用組成物、大麦の茎葉の栽培方法、阿蘇産又は黒ボク土を用いて栽培した大麦の茎葉  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 原田 知子  
代理人 松嶋 善之  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 羽鳥 修  
代理人 松嶋 善之  
代理人 原田 知子  
代理人 羽鳥 修  

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