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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
管理番号 1322267
異議申立番号 異議2016-700204  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-09 
確定日 2016-09-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5779676号発明「画像診断支援システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5779676号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?19〕について訂正することを認める。 特許第5779676号の請求項1ないし6、9ないし17、19に係る特許を維持する。 特許第5779676号の請求項7、8、18に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5779676号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?19に係る特許についての出願は、平成20年3月31日に出願した特願2012-282606号の一部を平成26年1月31日に新たな特許出願としたものであって、平成27年7月17日に特許の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人により特許異議の申立てがなされ、平成28年5月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月6日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、これに対し、同年8月23日に特許異議申立人により意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)請求項1及び4に係る「前記複数の領域のそれぞれの特徴量に基づく情報を出力する出力処理」を「前記複数の領域のそれぞれの特徴量を示す情報を出力する出力処理」に訂正する。
(2)請求項7、8及び18を削除する。
(3)請求項9の「請求項1?8のいずれかに記載の」を「請求項1?6のいずれかに記載の」に訂正し、請求項10の「請求項1?9のいずれかに記載の」を「請求項1?6、9のいずれかに記載の」に訂正し、請求項11の「請求項1?10のいずれかに記載の」を「請求項1?6、9、10のいずれかに記載の」に訂正し、請求項12の「請求項1?11のいずれかに記載の」を「請求項1?6、9?11のいずれかに記載の」に訂正し、請求項13の「請求項1?12のいずれかに記載の」を「請求項1?6、9?12のいずれかに記載の」に訂正し、請求項16の「請求項1?15のいずれかに記載の」を「請求項1?6、9?15のいずれかに記載の」に訂正し、請求項17の「請求項1?15のいずれかに記載の」を「請求項1?6、9?15のいずれかに記載の」に訂正し、請求項19の「請求項1?18のいずれかに記載の」を請求項「1?6、9?17のいずれかに記載の」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)の訂正事項に関連する記載として、特許明細書の発明の詳細な説明には、出力処理により出力される情報について、「【0066】表示処理部30は、特徴量算出部17により算出された特徴量…を、被検者別に表示装置3に表示させる」、「【0068】また、表示処理部30は、図6Bに示すような表示画面400により、特徴量算出部17により算出された特徴量…を表示してもよい。すなわち、図6Bの表示画面400は、領域別の特徴量をグラフ表示したものである」、及び「【0077】最後に、表示処理部30は、上記の処理により求められた特徴量…が表示装置3に表示する(S17)」との記載がなされていることから、出力処理により出力される情報として「特徴量を示す情報」を用いてなる発明は特許明細書に記載されているものと認められる。
上記(1)の訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、「特徴量に基づく情報」を「特徴量を示す情報」に具体的に特定して限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、(2)の訂正は請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、(3)の訂正は(2)の請求項を削除する訂正に伴い引用関係を整合したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、これらの訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?19〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?19に係る発明(以下、「本件発明1?19」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?19に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
被験者の体内に放射性同位元素を導入して撮影される撮影画像に基づいて診断の支援を行う診断支援システムのためのコンピュータプログラムであって、
前記診断支援システムは、前記被験者の所定部位の撮影画像である第1画像データと、特定グループに属する者の前記所定部位の撮影画像である第2画像データとを記憶する画像データ記憶手段を有する、前記診断支援システムであって、
前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて算出された各画素に対応するZ値であって撮影画像内の複数の領域に対応するZ値の中から、血流減少を示すZ値を抽出し、前記複数の領域のそれぞれに対し、抽出されたZ値の総和を特徴量として算出する特徴量算出処理と、
前記複数の領域のそれぞれの特徴量を示す情報を出力する出力処理と、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【請求項2】
前記特徴量算出処理は、前記複数の領域に対応するZ値の中から所定の閾値より強い血流減少を示すZ値を抽出する、
請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記特徴量算出処理は、前記複数の領域に対応するZ値を所定の閾値と比較することにより、前記複数の領域に対応するZ値の中から血流減少を示すZ値を抽出する、
請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
被験者の体内に放射性同位元素を導入して撮影される撮影画像に基づいて診断の支援を行う診断支援システムのためのコンピュータプログラムであって、
前記診断支援システムは、前記被験者の所定部位の撮影画像である第1画像データと、特定グループに属する者の前記所定部位の撮影画像である第2画像データとを記憶する画像データ記憶手段を有する、前記診断支援システムであって、
前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて算出された各画素に対応するZ値であって撮影画像内の複数の領域に対応するZ値の中から、前記第1画像データの画素の値が前記第2画像データの対応する画素の値より低いことを示すZ値を抽出し、前記複数の領域のそれぞれに対し、抽出されたZ値の総和を特徴量として算出する特徴量算出処理と、
前記複数の領域のそれぞれの特徴量を示す情報を出力する出力処理と、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記特徴量算出処理は、前記複数の領域に対応するZ値を所定の閾値と比較することにより、前記複数の領域に対応するZ値の中から、前記第1画像データの画素の値が前記第2画像データの対応する画素の値より低いことを示すZ値を抽出する、
請求項4に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
前記出力処理は、前記複数の領域のそれぞれの特徴量を表示装置に表示させる、
請求項1?5のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記複数の領域のそれぞれは、所定部位の撮影画像に対して設定されたROI(Region Of Interest)である請求項1?6のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記複数の領域のそれぞれは、所定部位を解剖学的または機能的な分類に基づいて定められたセグメントである請求項1?6、9のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
前記第1画像データ及び前記第2画像データは、いずれも正規化された脳のSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)断層画像である請求項1?6、9、10のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
前記特徴量算出処理は、血流の減少の程度を示すレベルによって、前記特徴量の値の大きさを判定する、
請求項1?6、9?11のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項13】
前記特定グループに属する者は、健常者である、
請求項1?6、9?12のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項14】
前記第2画像データは、複数の健常者の前記所定部位の撮影画像の平均である、
請求項13に記載のコンピュータプログラム。
【請求項15】
前記算出されたZ値は、前記複数の健常者の前記所定部位の撮影画像の標準偏差と前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて算出される、
請求項14に記載のコンピュータプログラム。
【請求項16】
前記診断支援システムは、前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて、各画素に対応するZ値を算出するZ値算出手段を有する、
請求項1?6、9?15のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項17】
前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて、各画素に対応するZ値を算出するZ値算出処理をコンピュータに実行させる、
請求項1?6、9?15のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項18】(削除)
【請求項19】
請求項1?6、9?17のいずれかに記載のコンピュータプログラムを記録する記録媒体。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?19に係る特許に対して平成28年5月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)本件特許の訂正前の請求項1?6、9、10、13?17、19に係る発明は甲1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その請求項に係る特許は特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

(2)本件特許の訂正前の請求項1?19に係る発明は甲1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その請求項に係る特許は特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

(3)本件特許の訂正前の請求項18に係る特許は、明細書及び特許請求の範囲が、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたため、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

3 甲号証の記載
甲1号証(坂井利行、葛原茂樹、「パーキンソン病患者における認知機能および罹病期間と局所脳血流 -^(123)I-IMP SPECTのstereotactic extraction estimation(SEE)法を用いた検討- 」脳神経58(1),2006,p.29-37)には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(1)「撮像方法
^(123)I-IMP SPECTは…IMPの167MBq(約4.5mCi)を静注し、約15分後から撮像を開始した。…
統計画像解析
3D-SSPは…ソフトウェアを用いた。画像再構成後に解剖学的標準化を行い…正規化し最終データとした。PD患者のデータを3D-SSP処理し、得られたデータと正常群データベースの平均値と標準偏差を用いて、脳表pixelごとに次の数式でZ-scoreを算出して血流低下部位を検出した。
Z-score=(正常群平均-患者群データ)/正常群標準偏差」(30頁右欄4行?33頁左欄11行)

(2)「Z scoreが高値になるにつれて血流低下がより高度になっていることを意味しており…SEEは…ソフトウェアを用いた。この解析法は…3D-SSPのデータに解剖学的情報を与えるものである。これによって得られた情報ごとに、異常と判定する閾値に基づいて異常集積を示す重症度(severity of Z-score)と座標の広がり(extent ratio)が判定できる。解析された結果は、解剖学的にLevel 1?5に分類され、各分類ごとにすべての領域について自動的に一覧表示される。」(33頁左欄13行?右欄8行)

(3)「PD患者24例の3D-SSPによる脳血流統計画像(Z-score画像)をより客観的に評価するために、SEE^(19))を用いて定量化した。つまり、各領域のZ-scoreを数値化した上で、Z^(*)extent ratio(Table 2)を以下の数式によって算出し、次の3項目について検討した。
Z^(*)extent ratio=
severity of Z score(mean value)×extent ratio(%)
1)認知機能と局所脳血流との関連
前頭葉、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、後部帯状回と楔前部の6領域において、MMSE得点とZ^(*)extent ratioとの関連を相関係数により検討した。」(33頁右欄12行?34頁左欄6行)

以上の記載によれば、甲1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「IMPの167MBq(約4.5mCi)を静注し、約15分後から撮像を開始した^(123)I-IMP SPECTの統計画像解析に用いられる3D-SSP及びSEEからなるソフトウェアであって、
3D-SSPは、画像再構成後に解剖学的標準化を行い正規化し最終データとしたPD患者のデータを処理し、得られたデータと正常群データベースの平均値と標準偏差を用いて、脳表pixelごとにZ-score=(正常群平均-患者群データ)/正常群標準偏差でZ-scoreを算出して血流低下部位を検出するものであり、
SEEは、前頭葉、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、後部帯状回と楔前部の6領域において、各領域のZ-scoreを数値化した上で、Z^(*)extent ratioをZ^(*)extent ratio=severity of Z score(mean value)×extent ratio(%)によって算出するものである、
ソフトウェア。」

4 判断
(1)特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項について
(対比・判断)
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「IMPの167MBq(約4.5mCi)を静注し、約15分後から撮像を開始した^(123)I-IMP SPECTの統計画像解析に用いられる3D-SSP及びSEEからなるソフトウェア」は、診断の支援を行う診断システムのためのコンピュータプログラムといえるから、本件発明1の「被験者の体内に放射性同位元素を導入して撮影される撮影画像に基づいて診断の支援を行う診断支援システムのためのコンピュータプログラム」に相当する。

(イ)甲1発明において「PD患者のデータを処理し、得られたデータと正常群データベースの平均値と標準偏差を用いて脳表pixelごとに」「Z-scoreを算出して血流低下部位を検出」するには、PD患者のデータと正常群データをコンピュータによって処理するために、これらのデータを記憶する手段を有するべきことは自明であるから、この自明な構成からなるものは、本件発明1の「前記診断支援システムは、前記被検者の所定部位の撮影画像である第1画像データと、特定グループに属する者の前記所定部位の撮影画像である第2画像データとを記憶する画像データ記憶手段、を有する、前記診断支援システム」に相当する。

(ウ)甲1発明の「画像再構成後に解剖学的標準化を行い正規化し最終データとしたPD患者のデータを処理し、得られたデータと正常群データベースの平均値と標準偏差を用いて、脳表pixelごとにZ-score=(正常群平均-患者群データ)/正常群標準偏差でZ-scoreを算出して血流低下部位を検出」し、「前頭葉、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、後部帯状回と楔前部の6領域において、各領域のZ-scoreを数値化した上で、Z^(*)extent ratioをZ^(*)extent ratio=severity of Z score(mean value)×extent ratio(%)によって算出する」ことは、「severity of Z score(mean value)」がZ値の総和/severityの面積を意味し、「extent ratio(%)」がseverityの面積/各領域の面積を意味し、それらを乗じた「Z^(*)extent ratio」が各領域の単位面積あたりのZ値の総和を意味するという技術常識に鑑みれば、本件発明1の「前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて算出された各画素に対応するZ値であって撮影画像内の複数の領域に対応するZ値の中から、血流減少を示すZ値を抽出し、前記複数の領域のそれぞれに対し、抽出されたZ値の総和を特徴量として算出する特徴量算出処理」とは、「前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて算出された各画素に対応するZ値であって撮影画像内の複数の領域に対応するZ値の中から、血流減少を示すZ値を抽出し、前記複数の領域のそれぞれに対し、抽出されたZ値の総和に関する値を特徴量として算出する特徴量算出処理」である点で共通する。

(エ)甲1発明において、「前頭葉、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、後部帯状回および楔前部の6領域」のそれぞれの「Z^(*)extent ratio」を出力する出力処理を行うことは自明であり、前記ウの検討を踏まえれば、この自明な構成と、本件発明1の「前記複数の領域のそれぞれの特徴量を示す情報を出力する出力処理」すなわち「複数の領域のそれぞれの抽出されたZ値の総和である特徴量を示す情報を出力する出力処理」とは、「前記複数の領域のそれぞれの抽出されたZ値の総和に関する値である特徴量を示す情報を出力する出力処理」の点で共通する。

(オ)甲1発明の「3D-SSPとSEEからなるソフトウェア」は、本件発明1の「コンピュータに実行させるコンピュータプログラム」に相当する。

そうすると、両者は
「被験者の体内に放射性同位元素を導入して撮影される撮影画像に基づいて診断の支援を行う診断支援システムのためのコンピュータプログラムであって、
前記診断支援システムは、前記被験者の所定部位の撮影画像である第1画像データと、特定グループに属する者の前記所定部位の撮影画像である第2画像データとを記憶する画像データ記憶手段を有する、前記診断支援システムであって、
前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて算出された各画素に対応するZ値であって撮影画像内の複数の領域に対応するZ値の中から、血流減少を示すZ値を抽出し、前記複数の領域のそれぞれに対し、抽出されたZ値の総和に関する値を特徴量として算出する特徴量算出処理と、
前記複数の領域のそれぞれの抽出されたZ値の総和に関する値である特徴量を示す情報を出力する出力処理と、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
特徴量算出処理において算出される特徴量であるZ値の総和に関する値が、本件発明1では「Z値の総和」であるのに対し、甲1発明では「Z^(*)extent ratio」すなわち単位面積あたりのZ値の総和である点。

(相違点2)
出力処理において出力されるZ値の総和に関する値である特徴量を示す情報が、本件発明1では「Z値の総和である特徴量を示す情報であるのに対し、甲1発明では「Z^(*)extent ratio」すなわち単位面積あたりのZ値の総和である点。

(相違点1及び2についての検討)
甲1発明は、上記相違点1及び2に係る本件発明1に係る構成を有しない。
そして、甲1発明は、例えば、甲1号証のTable 2に記載されるように「各領域の」単位面積あたりのZ値の総和である「Z^(*)extent ratio」を算出するがゆえに解剖学的な状況を判断できるものであるから、各領域のZ値の総和をその領域の面積で割らないという、すなわち、本件発明1の「複数の領域の」「Z値の総和」自体を「特徴量として算出」してそれを「示す情報を出力する」ことで解剖学的な状況を判断できるものを示唆するものということはできない。
また、本件発明1においては、Z値の総和を特徴量とすることにより、領域内の各画素の血流減少量が大きくなるほど値が大きくなり、領域のうち血流が減少している部位の面積が大きくなるほど値が大きくなるような、複数の領域の特徴量を示す情報を出力することによって、複数の領域の中の特定の領域の血流が減少し、疾患の進行に伴って重症度や広がりが増加するアルツハイマー等の特定の疾患を鑑別することができ、特に、変性疾患初期で、複数の領域が局所的な血流減少部位を含んでいる場合に顕著な効果を奏するものであり、また、医師が画面上の操作により血流低下部位を含む領域(ROI)を指定する場合に指定された面積のばらつきによって特徴量の値がばらつくことがないという効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明に基づき容易に発明をすることができたものともいえず、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとすることはできない。

イ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1と比較すると、「Z値」について、本件発明1の「血流減少を示す」ものを、「前記第1画像データの画素の値が前記第2画像データの対応する画素の値より低いことを示す」ものに変更するものであるが、被検者画像データである第1画像データの画素の値が健常者画像データである第2画像データの対応する画素の値より低ければ、被検者の血流減少を示すことは技術常識であり、このことは、発明の詳細な説明の「【0037】…本実施形態で用いているSPECT断層画像の場合、Z値がプラス(つまり、健常者データの方が被験者データよりボクセル値が高い)のときは、被験者の血流量が健常者の血流量よりも少ないことを示し…」との記載からも裏付けられる。したがって、Z値が「前記第1画像データの画素の値が前記第2画像データの対応する画素の値より低いことを示す」ときは「血流の減少を示す」ことになるから、本件発明4と本件発明1とは、同一の事象を表現を変えて規定したにすぎず、実質的に異なるものではない。よって、本件発明4は、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明に基づき容易に発明をすることができたものともいえず、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとすることはできない。

ウ 本件発明2、3、5、6、9?17、19について
本件発明2、3、5、6、9?17、19は、本件発明1又は4を更に限定したものであるから、上記本件発明1又は4についての判断と同様の理由により、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明に基づき容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとすることはできない。

(2)特許法第36条第4項1号、第6項1号及び第6項2号について
取消理由の対象であった請求項18は、訂正請求により削除された。

(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、Z値の総和も、Z値の総和を一定の面積で除したZ^(*)extent ratioも、その数値の意味に違いがなく、仮に、Z値の総和とZ値の総和を一定の面積で除したZ^(*)extent ratioが異なるものであるとしても、Z値の総和を一定の面積で除したZ^(*)extent ratioを求める過程でZ値の総和が求まっているのであり、すでに求まっているZ値の総和を出力することに進歩性はない旨主張するが、上記(1)アの相違点1及び2についての検討に記載したように、本件特許はZ値の総和自体を出力することにより特有の効果を奏するものであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。
また、特許異議申立人は、本件特許は、一人の被験者の異なる領域の血流量変化を比較することを目的としておらず、図6Bの表示から、前頭葉、頭頂側頭葉、後頭葉、後部帯状回、ROI1のそれぞれの特徴量を比較するということは一切読み取れず、一般的に考えてみても、診断を行う医師は、脳の「特定部位」ごとに健常者と比較するので、「同一の患者」において、異なる領域間での比較を行うこと自体、診断上は意味がなく、仮に、前頭葉、頭頂側頭葉、後頭葉、後部帯状回、ROI1の特徴を比較するとしても、それら各領域は大きさが異なるから、領域の大きさの違いが血流量変化の比較結果に影響しないように正規化するのがむしろ自然であると主張するが、複数の領域のそれぞれの特徴であるZ値の総和を出力することは、特許請求の範囲の記載および図6Bの記載から明らかであり、それにより、上記(1)アの相違点1及び2についての検討に記載したようにな特有の効果を奏することを否定することはできないというべきであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。
さらに、特許異議申立人は、特許権者の「ある血流減少部位を含む領域の指定において、領域の面積が一定にならない場合があります。」とする前提は、明細書の記載に反するものと主張するが、明細書には、「ROI1」が明示されており、当業者であれば、ある血流部位を含む領域を指定する領域を意味することは容易に想起できるものであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。
そのうえ、特許異議申立人は、特許権者が、解剖学的に異なる領域や、面積の異なる領域どうしの脳血流を比較することを前提とする主張をしているが、特許請求の範囲にそのような限定はなく、特許請求の範囲に記載された発明は、本明細書における説明や技術常識に鑑みれば、解剖学的標準化を行った健常者と被検者の(同じ面積を有する)同じ特定部位どうしを比較していると理解され、特許権者の主張は、特許請求の範囲に基づくものではなく、失当であると主張するが、特許請求の範囲の「前記複数の領域のそれぞれに対し、抽出されたZ値の総和を特徴量として算出する」及び「前記複数の領域のそれぞれの特徴量を示す情報を出力する」との規定は、解剖学的標準化を行った健常者と被検者の(同じ面積を有する)同じ特定部位どうしを比較することに限定されるものではなく、また、図6Bに接した当業者であれば解剖学的に異なる領域や、面積の異なる領域どうしの脳血流を比較することができることを容易に想起し得るというべきであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1?6、9?17、19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6、9?17、19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項7、8、18に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項7、8、18に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の体内に放射性同位元素を導入して撮影される撮影画像に基づいて診断の支援を行う診断支援システムのためのコンピュータプログラムであって、
前記診断支援システムは、前記被験者の所定部位の撮影画像である第1画像データと、特定グループに属する者の前記所定部位の撮影画像である第2画像データとを記憶する画像データ記憶手段を有する、前記診断支援システムであって、
前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて算出された各画素に対応するZ値であって撮影画像内の複数の領域に対応するZ値の中から、血流減少を示すZ値を抽出し、前記複数の領域のそれぞれに対し、抽出されたZ値の総和を特徴量として算出する特徴量算出処理と、
前記複数の領域のそれぞれの特徴量を示す情報を出力する出力処理と、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【請求項2】
前記特徴量算出処理は、前記複数の領域に対応するZ値の中から所定の閾値より強い血流減少を示すZ値を抽出する、
請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記特徴量算出処理は、前記複数の領域に対応するZ値を所定の閾値と比較することにより、前記複数の領域に対応するZ値の中から血流減少を示すZ値を抽出する、
請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
被験者の体内に放射性同位元素を導入して撮影される撮影画像に基づいて診断の支援を行う診断支援システムのためのコンピュータプログラムであって、
前記診断支援システムは、前記被験者の所定部位の撮影画像である第1画像データと、特定グループに属する者の前記所定部位の撮影画像である第2画像データとを記憶する画像データ記憶手段を有する、前記診断支援システムであって、
前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて算出された各画素に対応するZ値であって撮影画像内の複数の領域に対応するZ値の中から、前記第1画像データの画素の値が前記第2画像データの対応する画素の値より低いことを示すZ値を抽出し、前記複数の領域のそれぞれに対し、抽出されたZ値の総和を特徴量として算出する特徴量算出処理と、
前記複数の領域のそれぞれの特徴量を示す情報を出力する出力処理と、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記特徴量算出処理は、前記複数の領域に対応するZ値を所定の閾値と比較することにより、前記複数の領域に対応するZ値の中から、前記第1画像データの画素の値が前記第2画像データの対応する画素の値より低いことを示すZ値を抽出する、
請求項4に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
前記出力処理は、前記複数の領域のそれぞれの特徴量を表示装置に表示させる、
請求項1?5のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記複数の領域のそれぞれは、所定部位の撮影画像に対して設定されたROI(Region Of Interest)である請求項1?6のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記複数の領域のそれぞれは、所定部位を解剖学的または機能的な分類に基づいて定められたセグメントである請求項1?6、9のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
前記第1画像データ及び前記第2画像データは、いずれも正規化された脳のSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)断層画像である請求項1?6、9、10のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
前記特徴量算出処理は、血流の減少の程度を示すレベルによって、前記特徴量の値の大きさを判定する、
請求項1?6、9?11のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項13】
前記特定グループに属する者は、健常者である、
請求項1?6、9?12のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項14】
前記第2画像データは、複数の健常者の前記所定部位の撮影画像の平均である、
請求項13に記載のコンピュータプログラム。
【請求項15】
前記算出されたZ値は、前記複数の健常者の前記所定部位の撮影画像の標準偏差と前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて算出される、
請求項14に記載のコンピュータプログラム。
【請求項16】
前記診断支援システムは、前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて、各画素に対応するZ値を算出するZ値算出手段を有する、
請求項1?6、9?15のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項17】
前記第1画像データと前記第2画像データとに基づいて、各画素に対応するZ値を算出するZ値算出処理をコンピュータに実行させる、
請求項1?6、9?15のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項18】(削除)
【請求項19】
請求項1?6、9?17のいずれかに記載のコンピュータプログラムを記録する記録媒体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-09-06 
出願番号 特願2014-16919(P2014-16919)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A61B)
P 1 651・ 537- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
P 1 651・ 113- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増渕 俊仁  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 藤田 年彦
▲高▼見 重雄
登録日 2015-07-17 
登録番号 特許第5779676号(P5779676)
権利者 富士フイルムRIファーマ株式会社
発明の名称 画像診断支援システム  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  

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