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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C30B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C30B
管理番号 1322282
異議申立番号 異議2016-700186  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-03 
確定日 2016-10-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5777962号発明「ダイヤモンド膜の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5777962号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5777962号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5777962号の請求項1に係る特許についての出願は、平成23年7月14日に特許出願され、平成27年7月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人植村賢介により特許異議の申立てがなされ、平成28年5月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年7月13日に意見書の提出及び訂正の請求があり、同年8月18日に特許異議申立人から意見書の提出があったものである。

第2 訂正の適否
1. 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア及びイのとおりである。(下線は、訂正箇所であり、当審が付した。)
ア 請求項1に記載された「(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理する工程」を「(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を酸化雰囲気下、400℃?450℃で熱処理を行い、基材に付着したナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める工程」に訂正する。

イ 発明の詳細な説明に記載された「【0009】
本発明の請求項1にかかる発明は、「(1)一次粒子径が1?20nmのナノダイヤモンド粒子を準備する工程、(2)前記ナノダイヤモンド粒子を基材に付着させる工程、(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理する工程、及び(4)前記処理したナノダイヤモンド粒子付着基材のナノダイヤモンド粒子をCVD法により成長させ、ダイヤモンド膜を形成する工程、とを含む、ダイヤモンド膜の製造方法。」である。」を「【0009】
本発明の請求項1にかかる発明は、「(1)一次粒子径が1?20nmのナノダイヤモンド粒子を準備する工程、(2)前記ナノダイヤモンド粒子を基材に付着させる工程、(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を酸化雰囲気下、400℃?450℃で熱処理を行い、基材に付着したナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める工程、及び(4)前記処理したナノダイヤモンド粒子付着基材のナノダイヤモンド粒子をCVD法により成長させ、ダイヤモンド膜を形成する工程、とを含む、ダイヤモンド膜の製造方法。」である。」に訂正する。

2. 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)前記1.ア及びイの訂正事項に関連する記載として、本件特許明細書には次の記載がある。(下線は、当審で付した。表記「・・・」は記載の省略を意味する。)
ア (本件-1):
「【0038】
この熱処理はダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除くことができる限り、特に限定するものではないが、酸素、オゾン、二酸化窒素などの酸化性ガス存在下の酸化雰囲気下(特には、空気存在下)で実施するのが好ましい。特に、酸化雰囲気下、400℃?450℃で熱処理するのが好ましい。400℃未満であると、十分にsp^(2)炭素を取り除くことができず、ダイヤモンドの純度を十分に高めることができない傾向があるためである。一方で、450℃を超えると、ナノダイヤモンド自体のエッチングが進み、種となるナノダイヤモンドが減少してしまい、ダイヤモンド膜を形成できない傾向があるためである。なお、熱処理時間は十分にsp^(2)炭素を取り除くことができる時間であり、熱処理温度によって異なるため特に限定するものではないが、熱処理温度が低い程長くして、sp^(2)炭素を取り除くのが好ましい。例えば、熱処理温度が400℃の場合、5時間以上熱処理するのが好ましく、10時間以上熱処理するのがより好ましい。また、熱処理温度が425℃の場合、1時間以上熱処理するのが好ましく、10時間以上熱処理するのがより好ましい。更に、熱処理温度が450℃の場合、1時間以上熱処理するのが好ましく、5時間以上熱処理するのがより好ましい。」

イ (本件-2):
「【実施例】
・・・
【0046】
(実施例1)
・・・
(3) このダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から450℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度450℃で1時間保持する熱処理を実施した。
・・・
【0051】
(実施例2)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から425℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度425℃で1時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0052】
(実施例3)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から425℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度425℃で5時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0053】
(実施例4)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から400℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度400℃で5時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。」

ウ (本件-3):
「【0063】


【0064】
表1中、Aは熱処理条件で、順に温度(単位:℃)、時間(単位:Hr)を表し、Bはダイヤモンド膜の厚さ(単位:nm)を表し、Cは熱伝導率(単位:W/mK)を表し、Dは熱抵抗(単位:m^(2)・K/W)を表し、Eはダイヤモンドピーク面積百分率(単位:%)を表す。また、表1中、#1は水素プラズマ処理の条件[順に、温度(単位:℃)-時間(単位:Hr)]、#2は熱処理をしていないこと、#3はダイヤモンド膜が得られなかったため測定不能であったことを、それぞれ意味する。」

エ (本件-4):
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この方法によれば、確かにダイヤモンド膜を作製することができたが、この方法により作製したダイヤモンド膜は熱伝導率、絶縁破壊強度、硬度、弾性率など、ダイヤモンドが本来有する物性の低いものであった。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになしたものであり、ダイヤモンドが本来有する物性の高いダイヤモンド膜、及びその製造方法を提供することを目的とする。」

オ (本件-5):
「【発明の効果】
【0010】
・・・
【0011】
本発明の請求項2にかかる発明は、ナノダイヤモンド粒子をCVD法で成長させてダイヤモンド膜を形成する前に、ナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理することによって、ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ナノダイヤモンド粒子の純度を高めた上で、ダイヤモンドを成長させているため、ダイヤモンド構造が多く、熱伝導率、絶縁破壊強度、硬度、弾性率などダイヤモンドが本来有する性能に優れているダイヤモンド膜を形成することができる。」

カ (本件-6):
「【0065】
表1から明らかなように、本発明の実施例1?5のダイヤモンド膜は熱抵抗の低いものであり、また、ダイヤモンドピーク面積百分率が高いことから、ダイヤモンド構造が多いものであった。そのため、本発明のダイヤモンド膜は絶縁破壊強度、硬度、弾性率などダイヤモンドが本来有する性能に優れるものであることが推定できるものであった。
【0066】
また、ナノダイヤモンド粒子を使用した場合、CVD法でダイヤモンドを成長させる前に、熱処理、プラズマ処理のいずれの方法であっても、ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高めると、ダイヤモンド構造を多くできることも判明した。」

(2)前記(1)ア?カによれば、前記1.ア及びイの訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内において、「(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理する工程」につき、「熱処理を行」う工程に限定するとともに、その条件として「酸化雰囲気下、400℃?450℃で」を行うこと、さらに、目的とする技術効果として「基材に付着したナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める」ことを特定するものであると認められる。
そうすると、前記1.アの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、「(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理する工程」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、前記1.イの訂正は、前記1.アの訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3. むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条4項から第6項までの規定に適合するので、訂正を認める。

第3 特許異議の申立について
1. 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(1)一次粒子径が1?20nmのナノダイヤモンド粒子を準備する工程、
(2)前記ナノダイヤモンド粒子を基材に付着させる工程、
(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を、酸化雰囲気下、400℃?450℃で熱処理を行い、基材に付着したナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める工程、及び
(4)前記処理したナノダイヤモンド粒子付着基材のナノダイヤモンド粒子をCVD法により成長させ、ダイヤモンド膜を形成する工程、とを含む、ダイヤモンド膜の製造方法。」

2. 取消理由の概要
本件訂正請求により訂正される前の請求項1に係る特許に対して、平成28年5月13日付けで特許権者に通知した取消理由は要旨次のとおりである。

(理由1)本件発明は、「(3)」の工程において、「熱処理又はプラズマ処理」と特定するところ、熱処理やプラズマ処理は、その雰囲気・温度・時間によって、作用が異なることは技術常識であるから、単に「熱処理又はプラズマ処理する工程」と特定するのみでは、ナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除くことができるとは限らないということができる。本件特許は、この点で特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(理由2)本件発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物(甲第2号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであったから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

引 用 文 献 等 一 覧

甲第2号証:J.C.Arnault et al, Diamond nanoseeding on silicon : Stability under H_(2) MPCVD exposures and early stage of growth, Diamond and Related Materials 17 (2008) 1143-1149

3. 取消理由の検討
(1)取消理由1についての判断
前記第2のとおり訂正が認められ、本件発明は、前記第3の1.のとおり、「(3)」の工程に関して、「前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を酸化雰囲気下、400℃?450℃で熱処理を行い、基材に付着したナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める工程」と訂正されたから、その雰囲気と温度が具体的に特定された熱処理のみを対象とする工程であり、その目的とする技術効果が、「基材に付着したナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める」ことにある工程であることが特定された。
よって、本件発明は、結果的に、その課題を解決することができるものと認識できることが明らかなものとなり、取消理由1を有しないものとなった。

(2)取消理由2について
(2-1)甲号証の記載
甲第2号証には、次の記載がある。(訳は、異議申立人が提出した抄訳による。)
ア (甲2-1):
「Diamond crystallites produced by the detonation process exhibit very small grain size between 5 and 10nm.」(1143頁左欄10?11行)
(訳:「爆轟法で製造されたダイヤモンド結晶は非常に細かく5-10nmの結晶径を示す。」)

イ (甲2-2):
「The main objective of this study is to investigate the chemical stability of the detonation nanodiamond powder dispersed on silicon surface under MPCVD exposure」(1143頁右欄6?9行)
(訳:「本研究の主目的は、マイクロ波プラズマCVDでシリコン表面に分散された爆轟法ナノダイヤモンドの科学的安定性を調べることである。」)

ウ (甲2-3):
「The resulting powder was re-dispersed in water using an ultrasonic horn at 400W(50% duty cycle) with a water cooled flow cell. Silicon water previously cleaned were immersed in the aqueous colloid in an ultrasonic bath for 30 min.」(1144頁左欄1?5行)
(訳:「得られた粉末は水中に再分散された。この時、水冷筺体を有する400W(負荷率50%)の超音波ホーンを使用した。予め洗浄されたシリコンウエハーを、超音波浴槽中の水性コロイドに30分間浸した。」)

エ (甲2-4):
「A silicon surface seeded with detonation diamond was exposed to H_(2) plasma corresponding to a 993K sample temperature.」(1145頁左欄下から2行?同右欄1行)
(訳:「爆轟法によるダイヤモンドで種付けされたシリコンの表面は水素プラズマに曝され、このときの等価温度は993Kである。」)

オ 前記ア?エによれば、甲第2号証には、爆轟法で製造されたダイヤモンド結晶が5?10nmのダイヤモンド粒子であること、このダイヤモンド粒子を、予め洗浄したシリコンウエハー、すなわち基材、に付着すること、これを前記993Kで、すなわち720℃で、水素プラズマ処理すること、シリコン表面に分散された爆轟法ナノダイヤモンドは水素マイクロ波プラズマCVDにより成長すること、が示されているということができるから、甲第2号証には、次の工程(1’)?(4’)を含むダイヤモンド膜の製造方法の発明(甲2発明)が記載されていると認められる。

「(1’)一次粒子径が5?10nmのナノダイヤモンド粒子を準備する工程、
(2’)ナノダイヤモンド粒子を基材に付着させる工程、
(3’)ナノダイヤモンド粒子付着基材を720℃で水素プラズマ処理する工程、
(4’)処理したナノダイヤモンド粒子付着基材のナノダイヤモンド粒子をCVD法により成長させる工程、
の4つの工程(1’)?(4’)を含むダイヤモンド膜の製造方法。」(甲2発明)

(2-2)対比・判断
ア 本件発明と甲2発明を対比すると、一致点・相違点が次のとおりであることは明らかである。

<一致点>
「(1)一次粒子径が5?10nmのナノダイヤモンド粒子を準備する工程、
(2)ナノダイヤモンド粒子を基材に付着させる工程、
(3)ナノダイヤモンド粒子付着基材を特定雰囲気下で処理する工程、
(4)処理したナノダイヤモンド粒子付着基材のナノダイヤモンド粒子をCVD法により成長させる工程、
の4つの工程(1)?(4)を含むダイヤモンド膜の製造方法。」

<相違点>
工程(3)の「特定雰囲気下」での「処理」に関し、本件発明は、「酸化雰囲気下、400℃?450℃で熱処理を行い、基材に付着したナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める工程」であるのに対して、甲2発明は、「720℃で水素プラズマ処理する工程」である点。

イ 前記アの<相違点>に係る構成については、前記(2-1)イのとおり、甲第2号証に記載された発明は、プラズマ処理を施すことを前提とするものであるから、酸化雰囲気下での熱処理を特定する本件発明とは、実質的に相違する点であるということができる。
したがって、甲2発明が本件発明と実質的に同一であるということはできない。

ウ よって、本件発明が甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

第4 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成28年8月18日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)において、後記のとおり、(1)明確性要件について、(2)サポート要件について、(3)実施可能要件について、(4)進歩性について、それぞれ主張するので、念のため、付言する。

(1)明確性要件について
ア 特許異議申立人は、意見書において、「訂正明細書には「ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高めた状態」とはどのような状態なのか、例えばsp^(2)炭素をどの程度取り除き、純度がどの程度、高められた状態なのかの定義が記載されていない」旨主張する(13頁9行?14頁1行)。

イ しかし、訂正明細書の段落【0010】には、「本発明の請求項1にかかる発明は、熱抵抗が1.0x10^(-8)(m^(2)・K/W)以下のダイヤモンド膜という、熱抵抗の低いダイヤモンド膜である。」との記載があり、前記第2の2.ウのとおり、段落【0063】に【表1】が示され、段落【0064】に、「表1中、Aは熱処理条件で、順に温度(単位:℃)、時間(単位:Hr)を表し、・・・Dは熱抵抗(単位:m^(2)・K/W)を表し、・・・#3はダイヤモンド膜が得られなかったため測定不能であったことを、それぞれ意味する。」との記載があるから、これらを含む訂正明細書の記載全体によれば、本件発明の「ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ナノダイヤモンド粒子の純度を高め」る程度とは、「熱抵抗が1.0×10^(-8)(m^(2)・K/W)以下のダイヤモンド膜という、熱抵抗の低いダイヤモンド膜」となる程度を意味することは明らかである。

ウ したがって、本件発明において、熱処理の条件としての時間は、絶対値として特定されているものではないが、それに起因して、「ダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高めた状態」が、どのような状態なのか、定義が記載されておらず、どのような時間であるか不明である結果、本件発明が明確性要件違反である、ということはできない。

(2)サポート要件について
カ 特許異議申立人は、意見書において、「訂正明細書には「ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高めた状態」とはどのような状態なのか、例えばsp^(2)炭素をどの程度取り除き、純度がどの程度、高められた状態なのかの定義が記載されていないため、文言通りに解釈すれば、「ナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を、極わずかに取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を、極わずかでも高めた状態」であってもよいことになり、そうすると熱処理時間は極短時間(例えば数秒?数分)であってもよいし、逆に長時間であっても良いことなるため、結局のところ、熱処理時間はなんら限定されていないことに等しい。したがって、「ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める工程」と規定しても、熱処理時間を規定したことにならないため、訂正後の特許請求の範囲の請求項1は、依然としてサポート要件を満たさない。」旨主張する(13頁9行?14頁1行)。

キ しかし、前記(1)イのとおり、本件発明の「ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ナノダイヤモンド粒子の純度を高め」る程度は、「熱抵抗が1.0×10^(-8)(m^(2)・K/W)以下のダイヤモンド膜という、熱抵抗の低いダイヤモンド膜」となる程度であることは明らかである。したがって、本件発明の「ダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高めた状態」が、ダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を極わずかに取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を極わずかでも高めた状態であってもよい、ということにはならないことも明らかである。よって、本件発明が、時間を規定したことにならず、サポート要件を満たさない、ということはできない。

(3)実施可能要件について
サ 特許異議申立人は、意見書において、「訂正後の本件特許発明は熱処理時間が限定されていないため、その技術的範囲の少なくとも一部において、「ダイヤモンドと同程度の熱伝導率、絶縁破壊強度、硬度、弾性率などを備えるダイヤモンド膜」という物を生産することは不可能であるといえる。」旨主張する(12頁21行?13頁8行)。

シ しかし、特許明細書の【実施例】の記載、特に、段落【0048】の記載「(3)このダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から450℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度450℃で1時間保持する熱処理を実施した。」、段落【0051】の記載「(実施例2)(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から425℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度425℃で1時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。」、段落【0052】の記載「(実施例3)(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から425℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度425℃で5時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。」、段落【0053】の記載「(実施例4)(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から400℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度400℃で5時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。」によれば、少なくとも実施例1?4は、その熱処理時間が具体的に記載され、実施可能な態様であるから、これらの本件発明が実施可能でないとの指摘は当たらない。

(4)進歩性について
タ 特許異議申立人は、意見書において、「本件特許発明は、甲3発明及び甲5発明に基づいて容易に発明することができるので、進歩性がない。」(2頁1行?8頁9行)、「甲4発明および甲5発明に基づいて、・・・容易に想到するといえる」(9頁16行?10頁16行)旨主張する。

甲3:特開2009-149986号公報
甲4:特開2009-209027号公報
甲5:Sebastian Osswald et al. Control of sp^(2)/sp^(3) Carbon Ratio and Surface Chemistry of Nanodiamond Powders by Selective Oxidation in Air(J.AM.CHEM.SOC.2006,128,11635-11642)

チ しかし、甲3発明は、脱気処理を伴うものと認定すべきであるから、本件発明の「酸化雰囲気下」とは雰囲気条件が異なり、また、甲4発明は、溶媒を蒸発させる「乾燥条件」として「真空中120?200℃加熱」と認定すべきであるから、本件発明と対比すれば、雰囲気も温度範囲も異なり、さらに、甲5に記載された事項は、ダイヤモンド粒子に関するものであって、基体に付着された粒子の、ダイヤモンド膜成長の前処理としてのプロセスにおける事項ではない。
したがって、甲3発明と甲5の記載事項を、あるいは、甲4発明と甲5の記載事項を、それぞれ組み合わせて本件発明に至るべき合理的な動機付けがあるということはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ダイヤモンド膜の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは物質で最高の熱伝導率を有しており、絶縁破壊強度も10MV/cmと非常に高いため、電子素子等の放熱基板として有利である。近年、熱フィラメントCVDやマイクロ波CVDなどの化学気相蒸着法(CVD)を用いて、低圧で高品質のダイヤモンド膜を合成することが可能となった。
【0003】
例えば、本願発明者らは、一次粒子径が約5nmのナノダイヤモンド粒子を種結晶として使用し、CVD法でダイヤモンドを成長させることで、ダイヤモンド膜を作製することが可能であることを提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-209027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この方法によれば、確かにダイヤモンド膜を作製することができたが、この方法により作製したダイヤモンド膜は熱伝導率、絶縁破壊強度、硬度、弾性率など、ダイヤモンドが本来有する物性の低いものであった。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになしたものであり、ダイヤモンドが本来有する物性の高いダイヤモンド膜、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ナノダイヤモンド粒子を種結晶として使用し、CVD法でダイヤモンドを成長させて形成したダイヤモンド膜の熱伝導率等の物性が悪いのは、ダイヤモンド構造が少ないことに起因すると考えた。また、そのダイヤモンド構造が少ないのは、種結晶として使用しているナノダイヤモンド粒子の純度が低いためであると考えた。つまり、ナノダイヤモンド表面にはsp^(2)炭素が存在しているためであると考えた。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0009】
本発明の請求項1にかかる発明は、「(1)一次粒子径が1?20nmのナノダイヤモンド粒子を準備する工程、(2)前記ナノダイヤモンド粒子を基材に付着させる工程、(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を、酸化雰囲気下、400℃?450℃で熱処理を行い、基材に付着したナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める工程、及び(4)前記処理したナノダイヤモンド粒子付着基材のナノダイヤモンド粒子をCVD法により成長させ、ダイヤモンド膜を形成する工程、とを含む、ダイヤモンド膜の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1にかかる発明は、熱抵抗が1.0x10^(-8)(m^(2)・K/W)以下のダイヤモンド膜という、熱抵抗の低いダイヤモンド膜である。つまり、熱抵抗が低いということは、ダイヤモンド構造が多いことを意味するため、熱伝導率は勿論のこと、絶縁破壊強度、硬度、弾性率などダイヤモンドが本来有する性能に優れている。
【0011】
本発明の請求項2にかかる発明は、ナノダイヤモンド粒子をCVD法で成長させてダイヤモンド膜を形成する前に、ナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理することによって、ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ナノダイヤモンド粒子の純度を高めた上で、ダイヤモンドを成長させているため、ダイヤモンド構造が多く、熱伝導率、絶縁破壊強度、硬度、弾性率などダイヤモンドが本来有する性能に優れているダイヤモンド膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のダイヤモンド膜は熱抵抗が1.0×10^(-8)(m^(2)・K/W)以下と熱抵抗の低い、ダイヤモンド構造が多い膜であるため、熱伝導性は勿論のこと、絶縁破壊強度、硬度、弾性率などダイヤモンドが本来有する性能に優れるものである。熱抵抗の値が小さければ小さい程、ダイヤモンド構造が多いため、前記熱抵抗は9.0×10^(-9)(m^(2)・K/W)以下であるのが好ましく、8.0×10^(-9)(m^(2)・K/W)以下であるのがより好ましく、7.0×10^(-9)(m^(2)・K/W)以下であるのが更に好ましい。
【0013】
この「熱抵抗」は次式より算出した値である。
R=d/λ
ここで、Rは熱抵抗(単位:m^(2)・K/W)、dは膜厚(単位:m)、λは熱伝導率(単位:W/m・K)をそれぞれ意味する。
【0014】
この「熱伝導率」は、ダイヤモンド膜表面に反射膜(モリブデン膜、厚さ100nm)を成膜した後、パルス光加熱サーモリフレクタンス法により、薄膜の断面方向における熱拡散時間を計測し、熱拡散率を算出する。より具体的には、次の手順により熱拡散率を算出する。
【0015】
(1)パルス光加熱サーモリフレクタンス法により得られた温度履歴曲線から、モリブデン膜と多結晶ダイヤモンド膜の2層膜の面積熱拡散時間を算出;
モリブデン膜と多結晶ダイヤモンド膜を一体として2層全体の熱拡散と石英ガラス基板への熱浸透を解析する。
【0016】
得られた温度履歴曲線を下記に示す表面加熱時の表面温度応答の理論式にてフィッティングを行い、時定数τ_(f)より2層全体(モリブデン膜と多結晶ダイヤモンド膜)の面積熱拡散時間Aを求める。
【0017】

【0018】
(2)2層膜の面積熱拡散時間から多結晶ダイヤモンド膜の熱拡散率を算出;
面積熱拡散時間法では、層間の界面熱抵抗を考慮した場合、面積熱拡散時間Aは、次式で表わされる。
【0019】

ここで、Cは体積熱容量(比熱容量と密度の積で表される)、dは膜厚、kは熱拡散率、Rは層間の界面熱抵抗をそれぞれ意味する。なお、添え字DとMoはそれぞれ多結晶ダイヤモンド膜とモリブデン膜を表す。
【0020】
ここで、多結晶ダイヤモンド膜とモリブデン膜間の界面熱抵抗の値Rは、全膜厚の熱抵抗より相当小さいと予想されるので、R=0と仮定して、多結晶ダイヤモンド薄膜の熱拡散率k_(D)を算出する。
【0021】
そして、次式より多結晶ダイヤモンドの熱伝導率を算出する。
λ=k_(D)・C_(D)
ここで、λは熱伝導率(単位:W/mK)、k_(D)はダイヤモンドの熱拡散率(単位:m^(2)/s)、C_(D)はダイヤモンドの体積熱容量(比熱容量と密度の積)(単位:J/m^(3)K)である。
【0022】
なお、比熱容量と密度は以下の値を用いる。
多結晶ダイヤモンド膜の密度:3515(kg/m^(3))
多結晶ダイヤモンド膜の比熱容量:706[J/(kg・K)]
モリブデン膜の密度:10200(kg/m^(3))
モリブデン膜の比熱容量:249[J/(kg・K)]
【0023】
また、「膜厚」は、ダイヤモンド膜の厚さ方向断面における電子顕微鏡写真を撮影し、10点における厚さの計測値を算術平均した値である。
【0024】
本発明のダイヤモンド膜はダイヤモンド構造が多く、熱伝導性、絶縁破壊強度、硬度、弾性率などに優れているように、ラマンスペクトルによるダイヤモンドピークの面積比率が7%以上であるのが好ましく、8%以上であるのがより好ましく、9%以上であるのが更に好ましく、10%以上であるのが更に好ましく、11%以上であるのが更に好ましい。
【0025】
この「ラマンスペクトルによるダイヤモンドピークの面積比率」は、ダイヤモンド膜のラマンスペクトル(励起波長:325nm)を、ガウス関数を用いてピーク分離し、全体のピーク面積に占めるダイヤモンドピーク(波数:1333cm^(-1))の面積の割合を算出したものである。
【0026】
本発明のダイヤモンド膜の膜厚は特に限定するものではないが、10nm以上であることができる。好ましくは、50nm?10μmである。
【0027】
このような本発明のダイヤモンド膜は、例えば、(1)一次粒子径が1?20nmのナノダイヤモンド粒子を準備する工程、(2)前記ナノダイヤモンド粒子を基材に付着させる工程、(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理する工程、及び(4)前記処理したナノダイヤモンド粒子付着基材のナノダイヤモンド粒子をCVD法により成長させ、ダイヤモンド膜を形成する工程、により製造することができる。このように、ナノダイヤモンド粒子をCVD法で成長させてダイヤモンド膜を形成する前に、ナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理することによって、ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ナノダイヤモンド粒子の純度を高めた上で、ダイヤモンドを成長させているため、ダイヤモンド構造が多く、熱伝導率、絶縁破壊強度、硬度、弾性率などダイヤモンドが本来有する性能に優れているダイヤモンド膜を形成することができる。
【0028】
まず、(1)一次粒子径が1?20nmのナノダイヤモンド粒子を準備する。本発明においては、このような非常に細かいナノダイヤモンド粒子を使用しているため、基材上に付着させた場合の密度を高めることができる。その結果、ピンホールが発生しにくく、熱伝導性に優れ、しかも表面平滑性の高いダイヤモンド膜を製造することができる。
【0029】
ナノダイヤモンド粒子は上述のような作用を奏するように、一次粒子径は1?20nmであるが、より前記作用を奏するように、一次粒子径は1?10nmであるのが好ましく、2?7nmであるのがより好ましく、3?5nmであるのが更に好ましい。なお、「一次粒子径」はナノダイヤモンド粒子の大きさのことをいい、濃度が2mass%のナノダイヤモンド粒子分散溶液を調製し、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子株式会社製)を用い、動的光散乱による粒度分布測定により得られる値をいう。
【0030】
このようなナノダイヤモンド粒子は、例えば、爆発法により製造したナノダイヤモンド粗凝膠体を、セラミックビーズ又は金属ビーズを用いる高速回転湿式ミリングによって解砕する方法によって得ることができる。
【0031】
なお、「爆発法」とは酸素欠如型の軍事用爆薬組成物CompositionBを水などの不活性媒体中で爆発させて生成した煤を集め、熱濃硝酸による酸化によって無定形炭素を取り除く方法である。そのため、ナノダイヤモンドが溶液に分散している場合の溶媒は、ナノダイヤモンド粗凝膠体を製造する際に使用した水などの不活性媒体である。このようにナノダイヤモンドが溶液に分散している場合、その濃度は、分散溶液が安定に存在するように、10mass%以下であるのが好ましく、5mass%以下であるのがより好ましく、1mass%以下であるのが更に好ましい。また、ナノダイヤモンド粒子を基材に対して高密度で付着させることができるように、0.001mass%以上であるのが好ましく、0.01mass%以上であるのがより好ましく、0.05mass%以上であるのが更に好ましい。
【0032】
なお、ナノダイヤモンド粒子は溶液に分散していないドライの状態にあっても良い。このようなドライのナノダイヤモンド粒子はナノダイヤモンド分散溶液から溶媒を除去することによって得ることができる。
【0033】
次いで、(2)ナノダイヤモンド粒子を基材に付着させる工程を実施する。この工程は、ナノダイヤモンド粒子が溶液に分散している場合、例えば、基材を分散溶液に浸漬した後に乾燥する方法、引き上げ法などにより分散溶液を基材にコーティングした後に乾燥する方法、分散溶液を基材に散布した後に乾燥する方法により実施することができる。基材にナノダイヤモンド粒子を高密度に付着させるという点から、基材を分散溶液に浸漬した後に乾燥する方法により付着させるのが好ましい。なお、乾燥はナノダイヤモンド粒子が高密度で付着した状態を維持したまま行うことができる方法であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、スピン乾燥装置、熱風乾燥機、オーブン、真空オーブン、マイクロ波照射により実施することができる。
【0034】
なお、基材を分散溶液に浸漬した際には、ナノダイヤモンド分散溶液におけるナノダイヤモンド粒子の分散状態を維持できるように、超音波を作用させるのが好ましい。この超音波はナノダイヤモンド粒子の分散状態を維持できるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、超音波洗浄装置、ホーン形高出力超音波装置などを使用できる。
【0035】
他方、ナノダイヤモンド粒子がドライの状態にある場合、ナノダイヤモンド粒子を布等により基材に擦り付けて付着させることができる。
【0036】
この工程において使用できる基材としては、例えば、シリコンウエハやシリカガラスなど耐熱性の平面基板を使用することができる。このような耐熱性平面基板を使用することにより、後述のナノダイヤモンド粒子からsp^(2)炭素を取り除く際や、CVD法によりダイヤモンド膜を成長させる際に熱が加わったとしても、悪影響を及ぼすことなく、ダイヤモンド膜を製造することができる。
【0037】
続いて、(3)上述のナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理する。通常、上述のようなナノダイヤモンド粒子の表面には、sp^(2)炭素が存在しているため、このsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンドの純度を高めるために、ナノダイヤモンド粒子付着基材を熱処理又はプラズマ処理する。
【0038】
この熱処理はダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除くことができる限り、特に限定するものではないが、酸素、オゾン、二酸化窒素などの酸化性ガス存在下の酸化雰囲気下(特には、空気存在下)で実施するのが好ましい。特に、酸化雰囲気下、400℃?450℃で熱処理するのが好ましい。400℃未満であると、十分にsp^(2)炭素を取り除くことができず、ダイヤモンドの純度を十分に高めることができない傾向があるためである。一方で、450℃を超えると、ナノダイヤモンド自体のエッチングが進み、種となるナノダイヤモンドが減少してしまい、ダイヤモンド膜を形成できない傾向があるためである。なお、熱処理時間は十分にsp^(2)炭素を取り除くことができる時間であり、熱処理温度によって異なるため特に限定するものではないが、熱処理温度が低い程長くして、sp^(2)炭素を取り除くのが好ましい。例えば、熱処理温度が400℃の場合、5時間以上熱処理するのが好ましく、10時間以上熱処理するのがより好ましい。また、熱処理温度が425℃の場合、1時間以上熱処理するのが好ましく、10時間以上熱処理するのがより好ましい。更に、熱処理温度が450℃の場合、1時間以上熱処理するのが好ましく、5時間以上熱処理するのがより好ましい。
【0039】
なお、このような熱処理は例えば、電気炉、ヒートガン、赤外線加熱、レーザー加熱等により実施することができる。
【0040】
一方、プラズマ処理はナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除くことができれば良く、特に限定するものではないが、例えば、酸素プラズマ、水素プラズマ等により実施することができる。
【0041】
そして、(4)熱処理又はプラズマ処理したナノダイヤモンド粒子付着基材のナノダイヤモンド粒子をCVD法により成長させて、ダイヤモンド膜を形成する。本発明においては、熱処理又はプラズマ処理によってダイヤモンド粒子の純度が高くなった状態でCVD法によりダイヤモンドを成長させているため、ダイヤモンド構造が多く、熱伝導率、絶縁破壊強度、硬度、弾性率などダイヤモンドが本来有する性能に優れているダイヤモンド膜を形成することができる。また、本発明の製造方法によれば、一次粒子径が1?20nmのナノダイヤモンド粒子を核として成長するため、ピンホールが発生しにくく、熱伝導性に優れ、しかも表面平滑性の高いダイヤモンド膜を製造することができる。
【0042】
この工程におけるCVD法はダイヤモンドを成長させ、ダイヤモンド膜を製造できる限り、特に限定するものではないが、例えば、熱フィラメント法、プラズマ法(例えば、直流、交流、高周波、マイクロ波など)、電子サイクロトロン共鳴プラズマ法、パルスプラズマ法、表面波プラズマ法などであることができる。
【0043】
以上の方法によれば、基材表面にダイヤモンド膜が形成された膜被覆基材を製造することができるが、ダイヤモンド膜単体で使用する場合には、膜被覆基材からダイヤモンド膜を剥離する。この剥離方法としては、例えば、基材がシリコンからなる場合、フッ硝酸(フッ酸と硝酸の混合液)溶液中に浸漬し、基材がシリカからなる場合、フッ酸溶液中に浸漬することで、基材を除去し、ダイヤモンド膜単体とすることができる。
【0044】
以上は、ナノダイヤモンド粒子を使用する本発明のダイヤモンド膜の製造方法であるが、本発明のダイヤモンド膜はナノダイヤモンド粒子を使用する方法に限らず、例えば、ナノダイヤモンド粒子に替えて、粒径0.05?0.5μmのミクロダイヤモンド粒子を基材に付着させ、熱処理又はプラズマ処理を実施した後に、CVD法により成長させても、本発明のダイヤモンド膜を製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
(1) 4.6±0.8nmの一次粒子を98.8mass%、59.4±22.8nmの凝集体を1.2mass%含む水分散ナノダイヤモンドコロイド(株式会社 ナノ炭素研究所製 ナノアマンド5.0mass%)を100倍希釈し、0.05mass%のナノダイヤモンド水分散液を調製した。
【0047】
(2) 次いで、このナノダイヤモンド水分散液中に、石英ガラス基板(大きさ:1cm角)を浸漬し、超音波洗浄装置(本多電子製、W-113)により30分間超音波を作用させた。その後、ナノダイヤモンド水分散液から基板を取り出し、純水で洗浄し、更にスピン乾燥を行い、ナノダイヤモンド粒子を基板に付着させた。付着密度は2.0×10^(11)個/cm^(2)であった。
【0048】
(3) このダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から450℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度450℃で1時間保持する熱処理を実施した。
【0049】
(4) この熱処理した基板をマイクロ波プラズマCVD装置[(株)アリオス製]内にセットし、次の条件で3時間処理して、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0050】
(条件)
水素ガス:99sccm、メタンガス:1sccm、圧力:1.5kPa、基板温度:900℃、出力:220W
【0051】
(実施例2)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から425℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度425℃で1時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0052】
(実施例3)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から425℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度425℃で5時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0053】
(実施例4)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から400℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度400℃で5時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0054】
(実施例5)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板をCVD装置内に入れ、水素ガス:100sccm、圧力:1.5kPa、基板温度:600℃、出力:150Wで、0.1時間の水素プラズマ処理をしたこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0055】
(比較例1)
(3)の熱処理を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0056】
(比較例2)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から375℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度375℃で1時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0057】
(比較例3)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から475℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度475℃で1時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0058】
(比較例4)
(3)ダイヤモンド粒子付着基板を電気炉に入れ、空気中で室温から400℃まで、3.5℃/min.の速度で昇温し、温度400℃で1時間保持する熱処理を実施したこと以外は実施例1と同様にして、膜厚300nmのダイヤモンド膜を形成した。
【0059】
(熱伝導率の測定)
ダイヤモンド膜表面に反射膜(モリブデン膜、厚さ100nm)を成膜した後、パルス光加熱サーモリフレクタンス法[装置として、PicoTR(株式会社ピコサーム製)使用]により、薄膜の断面方向における熱拡散時間を計測し、熱拡散率を算出した。そして、次式よりダイヤモンドの熱伝導率を算出した。
λ=K・C
ここで、λは熱伝導率(単位:W/mK)、Kは熱拡散率(単位:m^(2)/s)、Cは体積熱容量(比熱容量と密度の積)(単位:J/m^(3)K)である。
【0060】
これらの結果は表1に示す通りであった。
【0061】
(ラマンスペクトルの測定)
顕微レーザーラマン分光測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いて、ダイヤモンド膜のラマン測定を行った。なお、励起波長には、325nmのHe-Cdレーザーを使用した。得られたラマンスペクトルを、ガウス関数を用いてピーク分離し、全体のピーク面積に占めるダイヤモンドピーク(波数:1333cm^(-1))の面積の割合を算出した。
【0062】
これらの結果は表1に示す通りであった。
【0063】
【表1】

【0064】
表1中、Aは熱処理条件で、順に温度(単位:℃)、時間(単位:Hr)を表し、Bはダイヤモンド膜の厚さ(単位:nm)を表し、Cは熱伝導率(単位:W/mK)を表し、Dは熱抵抗(単位:m^(2)・K/W)を表し、Eはダイヤモンドピーク面積百分率(単位:%)を表す。また、表1中、#1は水素プラズマ処理の条件[順に、温度(単位:℃)-時間(単位:Hr)]、#2は熱処理をしていないこと、#3はダイヤモンド膜が得られなかったため測定不能であったことを、それぞれ意味する。
【0065】
表1から明らかなように、本発明の実施例1?5のダイヤモンド膜は熱抵抗の低いものであり、また、ダイヤモンドピーク面積百分率が高いことから、ダイヤモンド構造が多いものであった。そのため、本発明のダイヤモンド膜は絶縁破壊強度、硬度、弾性率などダイヤモンドが本来有する性能に優れるものであることが推定できるものであった。
【0066】
また、ナノダイヤモンド粒子を使用した場合、CVD法でダイヤモンドを成長させる前に、熱処理、プラズマ処理のいずれの方法であっても、ナノダイヤモンド粒子表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高めると、ダイヤモンド構造を多くできることも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のダイヤモンド膜は熱伝導性、絶縁破壊強度、硬度、弾性率などに優れているため、放熱材料、電気絶縁材料、窓材、低摩擦コーティング材料、電極などとして好適に使用できる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)一次粒子径が1?20nmのナノダイヤモンド粒子を準備する工程、
(2)前記ナノダイヤモンド粒子を基材に付着させる工程、
(3)前記ナノダイヤモンド粒子付着基材を、酸化雰囲気下、400℃?450℃で熱処理を行い、基材に付着したナノダイヤモンド粒子の表面のsp^(2)炭素を取り除き、ダイヤモンド粒子の純度を高める工程、及び
(4)前記処理したナノダイヤモンド粒子付着基材のナノダイヤモンド粒子をCVD法により成長させ、ダイヤモンド膜を形成する工程、
とを含む、ダイヤモンド膜の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-09-27 
出願番号 特願2011-155956(P2011-155956)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C30B)
P 1 651・ 537- YAA (C30B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 光貴  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 板谷 一弘
永田 史泰
登録日 2015-07-17 
登録番号 特許第5777962号(P5777962)
権利者 日本バイリーン株式会社
発明の名称 ダイヤモンド膜の製造方法  
代理人 右田 俊介  
代理人 高橋 政治  
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