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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  E04B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  E04B
管理番号 1322290
異議申立番号 異議2016-700058  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-22 
確定日 2016-10-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5758207号発明「コンクリート充填鋼管柱」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5758207号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5758207号の請求項3に係る特許を維持する。 特許第5758207号の請求項1、2に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5758207号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成23年6月8日に特許出願され、平成27年6月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人株式会社レクレアル(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年4月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月6日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正」という。)があり、これらに対して、申立人より同年7月29日に意見書が提出されたものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記補強手段が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、
前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅以上とされている請求項1又は請求項2に記載のコンクリート充填鋼管柱。」と記載されているのを、
「水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、
前記鋼管仕口部に設けられたダイアフラムと、
前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、
前記ダイアフラムに端部が溶接され、該ダイアフラムから上下の一方側へのみ延出して前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、前記軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強し、火災時における前記軸方向端部の局部座屈に伴う該軸方向端部内の前記充填コンクリートの圧壊を抑制する補強手段と、
を備え、
前記補強手段が、前記鋼管本体部における前記軸方向中間部内の前記充填コンクリートには埋設されず、前記軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記ダイアフラムに端部が溶接されると共に前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、
前記ダイアフラムから前記軸方向中間部側へ延びる前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅の2倍以上とされているコンクリート充填鋼管柱。」に訂正する。

エ 訂正事項4
前記アの訂正事項1(請求項1の削除)に伴い、特許請求の範囲の請求項4に「前記端部補強部材が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が前記鋼管仕口部から前記鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように該充填コンクリートに埋設されている請求項3に記載のコンクリート充填鋼管柱。」とあるうち、請求項1の記載を引用する請求項3の記載をさらに引用するものについて、独立形式に改め、
「水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、
前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、
前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、該鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強し、火災時における前記軸方向端部の局部座屈に伴う前記軸方向端部内の前記充填コンクリートの圧壊を抑制する補強手段と、
を備え、
前記補強手段が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、
前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅以上とされ、
前記端部補強部材が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が前記鋼管仕口部から前記鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように該充填コンクリートに埋設されているコンクリート充填鋼管柱。」に訂正する。

オ 訂正事項5
前記イの訂正事項2(請求項2の削除)に伴い、同様に、特許請求の範囲の請求項4に「前記端部補強部材が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が前記鋼管仕口部から前記鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように該充填コンクリートに埋設されている請求項3に記載のコンクリート充填鋼管柱。」とあるうち、請求項2の記載を引用する請求項3の記載をさらに引用するものについて、独立形式に改め、
「水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、
前記鋼管仕口部に設けられたダイアフラムと、
前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、
前記ダイアフラムに端部が接合され、該ダイアフラムから上下の一方側へのみ延出して前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、前記軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強する補強手段と、
を備え、
前記補強手段が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、
前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅以上とされ、
前記端部補強部材が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が前記鋼管仕口部から前記鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように該充填コンクリートに埋設されているコンクリート充填鋼管柱。」に訂正する。

カ 訂正事項6
明細書の段落【0007】、【0008】、【0010】にそれぞれ「請求項1」と記載されているのを、「第1態様」に訂正する。
明細書の段落【0009】,【0010】にそれぞれ「請求項2」と記載されているのを、「第2態様」に訂正する。
明細書の段落【0010】?【0012】にそれぞれ「請求項3」と記載されているのを、「第3態様」に訂正する。
明細書の段落【0012】、【0013】にそれぞれ「請求項4」と記載されているのを、「第4態様」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
ア 訂正事項1及び訂正事項2
上記訂正事項1及び訂正事項2は、訂正前の請求項1及び請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項3
(ア)まず、上記訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は請求項2の記載を引用した記載であったものを、請求項1の記載を引用しないものとした上で、請求項2の記載を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項に改めるための訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

(イ)次に、上記訂正事項3は、補強手段が、ダイアフラムに端部が溶接されること、火災時における軸方向端部の局部座屈に伴う軸方向端部内の充填コンクリートの圧壊を抑制すること、鋼管本体部における軸方向中間部には設けられず、軸方向端部内の充填コンクリートに埋設され、ダイアフラムに端部が溶接される端部補強部材であること、ダイアフラムから軸方向中間部側へ延びる端部補強部材の長さが、鋼管本体部の幅の2倍以上であること、に限定するから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ウ)上記(イ)の限定事項に関連する記載について、「補強手段」と「ダイアフラム」との関係の根拠として、段落【0021】に「各補強鉄筋20は、軸方向を柱鋼管12の軸方向(矢印Z方向)にすると共に、柱鋼管12の周方向に所定の間隔を空けて配列され、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。」、及び段落【0037】に「端部補強部材として、長さが異なる2種類の補強鉄筋22,24が用いられている。・・・これらの補強鉄筋22,24は、軸方向を柱鋼管12の軸方向(矢印Z方向)にすると共に、柱鋼管12の周方向に所定の間隔を空けて交互に配列され、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。」、さらに段落【0044】に「次に、図10(A)及び図10(B)に示される変形例では、端部補強部材として複数のL形鋼28が用いられている。各L形鋼28は、軸方向を柱鋼管12の軸方向(矢印Z方向)にすると共に、開口側を内側に向けて鋼管上端部12BUの各角部に配置されており、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。」と記載され、「補強手段」の機能の根拠として、段落【0024】に「図3に示されるように、例えば、火災時に鉄骨梁16が熱膨張によって軸方向(水平方向)へ伸張すると、鋼管仕口部12Aに水平力Fが作用し、鋼管本体部12Bに曲げモーメントMが発生する。・・・この状態で、鉄骨梁16から鋼管仕口部12Aへ水平力Fが作用すると、前述したように鋼管中間部12BMと比較して大きな曲げモーメントが発生する鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLの圧縮側(矢印C側)側面に局部座屈Kが発生し易くなる。」、及び段落【0025】に「局部座屈Kの発生後、曲げモーメントMによる変形が急激に進展し、局部座屈K側の充填コンクリート14に圧壊を生じる。」、さらに段落【0026】に「この対策として本実施形態では、補強鉄筋20によって鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなるように充填コンクリート14を補強している。これにより、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに局部座屈Kが発生しても、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14が曲げモーメントMを負担すると共に、局部座屈Kによって生じる圧縮力に抵抗することで、充填コンクリート14の圧壊が抑制される。」と記載され、「端部補強部材」の配置の根拠として、段落【0021】に「具体的には、図2(A)及び図2(B)に示されるように、鋼管本体部12Bにおける鋼管上端部(柱頭部)12BU内の充填コンクリート14には、端部補強部材としての複数(本実施形態では、4本)の補強鉄筋20が埋設されている。・・・これと同様に、図1に示されるように、鋼管下端部(柱脚部)12BL内の充填コンクリート14は、複数の補強鉄筋20によって補強されている。」、及び段落【0022】に「一方、鋼管本体部12Bにおける鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14は、補強鉄筋20によって補強されていない。」と記載され、端部補強部材の鋼管本体部の軸方向に沿った長さの根拠として、段落【0032】に「従って、局部座屈Kの発生を抑制する観点からすると、補強鉄筋20の長さLはD以上が好ましく、2D以上がより好ましい。」、及び段落【0021】に「また、鋼管本体部12Bの幅(柱せい)をDとしたときに、」と記載され、また、端部補強部材が「ダイアフラムから軸方向中間部側へ延びる」ことの根拠として、図2(A)等を参照すると、端部補強部材が「ダイアフラムから軸方向中間部側へ延びる」ことが明らかである。
よって、上記(イ)の限定事項は、特許明細書に記載されているものと認められる。

(エ)以上のことから、上記訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項4
上記訂正事項4は、訂正前の請求項4が、請求項1又は2の記載を引用する請求項3の記載をさらに引用する記載であったところ、請求項2の記載を引用しないものとした上で、請求項1の記載を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改める訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項5
上記訂正事項5は、訂正前の請求項4が、請求項1又は2の記載を引用する請求項3の記載をさらに引用する記載であったところ、請求項1の記載を引用しないものとして、請求項2の記載を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改める訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

オ 訂正事項6
上記訂正事項6は、上記訂正事項1ないし訂正事項5に係る請求項の訂正に伴い、訂正前の請求項1ないし4に関係する記載を実施態様と改めて、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1?4は、請求項1または請求項2の記載を請求項3が引用し、その請求項3の記載を請求項4が引用しているから、一群の請求項である。
したがって、これら訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?5も、一群の請求項である。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合する。

(4)本件特許の発明の詳細な説明の訂正について
訂正事項6で訂正する訂正後の段落【0007】?【0013】は、訂正事項1ないし訂正事項5で訂正した特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5と関係する。
そして、願書に添付した明細書の訂正である訂正事項6と関係する全ての請求項が訂正の対象とされている。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に適合するものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号,第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕についての訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正により訂正された訂正請求項3に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して、平成28年4月1日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「1.本件特許の請求項1に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明であり、本件特許の請求項2に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2.本件特許の請求項1,2に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、本件特許の請求項3に係る発明は、刊行物1ないし4及び5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、その発明の特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
〈 刊 行 物 一 覧 〉
刊行物1:特開2007-154536号公報(前審における検索報告書の提示文献2)
刊行物2:特開昭64-75763号公報(甲第5号証)
刊行物5:特開2000-240155号公報(前審における拒絶理由の引用文献1)
刊行物4:特開平4-124354号公報(前審における検索報告書の提示文献4)
刊行物5:特開平5-125794号公報(甲第4号証)」

(3)刊行物の記載事項
ア 刊行物1
刊行物1には、「【0015】図1は、断面形状が円形状であるコンクリート充填鋼管柱2内の梁仕口部近傍Aの部分又は部位に、・・・プレキャストコンクリートピース4が設置された柱梁架構1の実施形態を示している。因みに、図1中の符号8は梁の応力を伝達するためのダイアフラムを示し、梁3はダイアフラム8を介してコンクリート充填鋼管柱2と溶接接合されている。・・・」、「【0018】・・・下端部にダイアフラム8を介して梁3を溶接接合した鋼管20・・・次に、鋼管20の上端部にダイアフラム8を取付け、同ダイアフラム8へ梁を溶接接合・・・鋼管20内へコンクリート21を充填してコンクリート充填鋼管柱2を完成する。」、「【0020】・・・コンクリート充填鋼管柱2の梁仕口部近傍Aの部分又は部位をプレキャストコンクリートピース4で補強して曲げ耐力を高めたので、溶接熱の影響を受けた前記梁仕口部近傍Aが地震等の水平力によって亀裂や部分破壊等の損傷を抑止することができる。」、「【0021】・・・座屈長さを小さくすることができるので、従来では中柱として設計するものが短柱として設計することも可能であり、・・・」、「【0022】図5(A)及び(B)は、コンクリート充填鋼管柱2内の梁仕口部近傍Aの部分又は部位に、補強鋼材として鉄筋9を設置して補強し、コンクリート充填鋼管柱2の梁仕口部近傍Aの曲げ耐力を高めた柱梁架構1の実施例を示している。即ち、本実施例の柱梁架構1も上記実施例1で説明した効果(段落番号[0020]と[0021]に記載)と同様、溶接熱の影響を受けた前記梁仕口部近傍Aが地震等の水平力の作用によって亀裂や部分破壊等の損傷を受けることを抑止することができる。」と、記載されている。
また、【図1】を参照すると、鋼管20の上下に梁仕口部と、梁仕口部間に延びる本体部とが見てとれる。
さらに、【図5】を参照すると、鉄筋9は、ダイアフラム8から上下の一方側へのみ延出し、本体部の梁仕口部近傍A内のコンクリート21に埋設されていることが見てとれる。

以上の記載によれば、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「上下の梁仕口部と、梁仕口部間に延びる本体部と、を有する鋼管20と、
鋼管20の上下端部に取付けたダイアフラム8と、
鋼管20内へ充填したコンクリート21と、
コンクリート充填鋼管柱2内の梁仕口部近傍Aの部分又は部位に、補強鋼材として、ダイアフラム8から上下の一方側へのみ延出して、本体部の梁仕口部近傍A内のコンクリート21に埋設され、コンクリート充填鋼管柱2の梁仕口部近傍Aの曲げ耐力を高め、梁仕口部近傍Aが地震等の水平力によって亀裂や部分破壊等の損傷を抑止することができる鉄筋9と、
を備えるコンクリート充填鋼管柱2。」

イ 刊行物2
刊行物2には、「第1図は本発明に係る充填型鋼管コンクリート部材を示したもので、図中1が鋼管、2は鋼管1内において鉄骨梁3が接合される部位の上下の梁フランジ位置に一対として取付けられた有孔内ダイアフラムである。図中4は前記上下に一対をなす内ダイアフラム2、2を貫通して鋼管1の軸線と平行な配置で設置された棒鋼であり、5は鋼管1内に密実充填されたコンクリートである。・・・角形鋼管1の四隅位置に、内ダイアフラム2を貫通して鋼管1の軸線と平行な配置とした棒鋼4…が設置されている。この棒鋼4としては、充填コンクリート5との付着効果が大きいふし付鉄筋等が使用されている。また、第1図に示したように、棒鋼4は内ダイアフラム2、2の上下両側へ相当な余長をとり、もって棒鋼4…の十分な重なり寸法が確保されている。」(2頁右下欄18行?3頁右上欄3行)、「充填コンクリート5の打設時に内ダイアフラム2の下側に空隙が生ずることは避け難いが、発生した空隙によるコンクリート断面欠損分は、同充填コンクリート5内に挿入された、コンクリートとの付着力が大きい棒鋼4…の軸力伝達作用により構造的な連続性が確保されるので、耐荷重性能の低落は生じない。また、打設後の充填コンクリート5の乾燥収縮や沈降現象は、棒鋼4に対する付着力に起因する抵抗で防止されるのである。」(3頁右上欄19行?左下欄8行)、「火災時の長期荷重は、充填コンクリート5に挿入された棒鋼4…により所請鉄筋コンクリートとして伝達、処理されるので耐力性の低落が少なく、その分鋼管1の耐火被覆を軽減し又は省略できるという利点もある。」(3頁右下欄1?5行)と、記載されている。
また、第1図には、鋼管1と鉄骨梁3が接合される部位周辺が図示されているが、柱となる鋼管1は、その上下に鉄骨梁3が接合される部位が位置し、そして本体部が当該部位間に延びていることが明らかである。
さらに、第1図を参照すると、鋼管1の本体部に延びる棒鋼4は、さらに鉄骨梁3が接合される部位を越えて延びていることが読み取れる。

以上の記載からみて、刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。
「鉄骨梁3が接合される部位と、当該部位間に延びる本体部とを有する鋼管1と、
鋼管1内に密実充填されたコンクリート5と、
鋼管1内において鉄骨梁3が接合される部位の上下の梁フランジ位置に一対として取付けられた有孔内ダイアフラム2と
充填コンクリート5内に挿入され、軸力伝達作用により構造的な連続性が確保され、耐荷重性能の低落は生じず、火災時の長期荷重は、鉄筋コンクリートとして伝達処理されるので、耐力性の低落が少ない、鋼管1の本体部から鉄骨梁3が接合される部位を越えて延びて、上下に一対をなす内ダイアフラム2、2を貫通して鋼管1の軸線と平行な配置で設置され、内ダイアフラム2、2の上下両側へ相当な全長をとり、もって棒鋼4…の十分な重なりが確保された、コンクリートとの付着力が大きい棒鋼4と、
を備える充填型鋼管コンクリート部材。」

ウ 刊行物3
刊行物3には、「【0002】【従来技術】・・・図中符号1は柱鋼管2内にコンクリート3を充填してなる充填鋼管コンクリート造の柱、4はH形鋼からなる鉄骨造の梁であり、その梁4が仕口部において水平方向に貫通して梁貫通形の仕口部を構成している。両方向の梁4の交差部の上下には上記の柱鋼管2が配設され、かつ梁4の交差部の周囲には柱鋼管2に連続するように塞ぎ板5が取り付けられ、それら柱鋼管2内および塞ぎ板5の内部にコンクリート3が一体に打設充填されている。そして、仕口部を上下に挿通するように接合用鉄筋6が配され、それら接合用鉄筋6の両端部が柱鋼管2内のコンクリート3中に定着されることで、これら接合用鉄筋6を介して上下の柱1と各方向の梁4とが構造的に一体化するものとなっている。」、「【0009】・・・H形鋼からなる接合用鉄骨7を一方向の梁4の上下のフランジに対して溶接してこれを上下の柱鋼管2内に挿入し、その接合用鉄骨7を柱鋼管2内に打設充填されるコンクリート3中に定着せしめることで、この接合用鉄骨7により上下の柱1および梁4を一体に接合するとともに、柱1端部の応力を接合用鉄骨7により処理するようにしたものである。なお、図1(a)における符号8は上下の接合用鉄骨7に連続するように仕口部に設けられた補強リブである。また、符号9は柱鋼管2に連続するように仕口部に設けられた仕口鋼管であり、この仕口鋼管9内にも柱鋼管2内と一体にコンクリート3が打設充填されている。」、「【0010】上記構造によれば、従来の接合用鉄筋6に代えて大断面かつ高強度の接合用鉄骨7の採用が可能であるから、柱1端部の応力処理が格段に有利となって仕口部の耐力増強を十分に図ることができ、・・・」、「【0013】図5は第3実施形態を示す。これは上記各実施形態のように接合用鉄骨を用いるものではなく、従来の接合用鉄筋6に加えて、梁4のフランジに対して接合用鉄筋13を溶接したものである。この場合はそれら双方の接合用鉄筋6,10により柱端部応力の処理がなされるから上記各実施形態と同様の効果が得られる。・・・」と、記載されている。
また、【図1】等は、仕口部周辺を図示しているものであるが、柱鋼管2は、その上下に仕口部を、該仕口部間に本体部が延びていることは,明らかである。

以上の記載によれば、刊行物3には、次の発明(以下「刊行物3発明」という。)が記載されていると認められる。
「鉄骨造の梁4が水平方向に貫通し、両方向の梁4の上下に柱鋼管2を配設した仕口部と、仕口部間に延びる本体部と、を有する柱鋼管2と、
梁4の交差部の周囲には柱鋼管2に連続するように塞ぎ板5が取り付けられ、それら柱鋼管2内および塞ぎ板5の内部に一体に打設充填されるコンクリート3と、
一方向の梁4の上下のフランジに対して溶接してこれを上下の柱鋼管2内に挿入し、柱鋼管2内に打設充填されるコンクリート3中に定着せしめるもので、柱1端部の応力処理が格段に有利となって仕口部の耐力増強を十分に図ることができる、H形鋼からなる接合用鉄骨7、又は接合用鉄筋13と、
を備える充填鋼管コンクリート造の柱」

エ 刊行物4
刊行物4には、「第1図乃至第6図は本発明の第1の実施例を示し、(1)は円形、角形または多角形断面の鋼製の他、ステンレス鋼、アルミニウム合金等より構成された充填管で、第1図に示す如く同管(1)内にはフープ筋の如き剪断補強材を用いることなく、全長に亘って軸方向材(2)が配設されるとともに、コンクリート(3)が充填されて充填管コンクリート複合柱が構成されている。図中(4)は鉄骨梁である。」(2頁右上欄6?14行)、「なお前記軸方向材(2)は必らずしも充填管(2)の全長に亘って配設する必要はなく、第2図に示すように、柱頭部、柱脚部のみの配筋でよい場合が多い。」(2頁左下欄12?15行)、「同複合柱における充填管(1)と鉄骨梁(4)との接合部においては他の一般の柱部分より大きな剪断力を生起するので、」(2頁右下欄13?16行)、「第10図は本発明に係る充填管コンクリート複合柱の第3の実施例を示し、前記複合柱における柱頭部及び柱脚部における充填管(1)内のコンクリート(3)部に、軸方向材(2)の外周に接して、若しくは間隔を存して柱の座屈防止用補強材(6)を配設して内部コンクリート(3)を拘束し、前記充填管(1)が軸力や曲げを受けて座屈するのを防止するものである。」(3頁左上欄5?12行)、「また前記座屈防止用補強材(6)はフープ筋、リング鉄筋、スパイラル鉄筋、リングプレート、スパイラルプレート、4角形、6角形等の多角型プレートや、鉄筋等より構成され、又材質としては軸方向材(2)と同様種々の材が使用される。」(3頁左下欄16?末行)、「前記実施例によれば充填管コンクリート複合柱の柱頭部、柱脚部における座屈が、前記座屈防止用補強材(6)によって防止されることによって、柱の耐力が増大され、また軸方向材(2)の存在によって前記複合柱の曲げ耐力が向上されるものである。」(3頁右上欄5?9行)と、記載されている。
また、第1図まはた第2図を参照すると、充填管(1)と鉄骨梁(4)との接合部間に本体部が延びていることが見てとれる。

以上の記載によれば、刊行物4には、次の発明(以下「刊行物4発明」という。)が記載されていると認められる。
「充填管(1)と鉄骨梁(4)との接合部と、該接合部間に延びる本体部と、を有する充填管1と、
充填管(1)内に充填されたコンクリート(3)と、
柱頭部及び柱脚部における充填管(1)内のコンクリート(3)部に、軸方向材(2)の外周に接して、若しくは間隔を存して配設され、内部コンクリート(3)を拘束し、前記充填管(1)が軸力や曲げを受けて、柱頭部、柱脚部における座屈を防止して、柱の耐力が増大する、座屈防止用補強材(6)と、
を備える充填管コンクリート複合柱。」

オ 刊行物5
刊行物5には、「【0003】・・・一般の充填型鋼管コンクリート柱では材端に特別な補強を施さず、柱の曲げ降伏とほぼ同時にcで示すように局部座屈が発生し、その後の繰返し荷重によって軸方向の縮みが増大するという問題点があった。なお材端部の座屈長Lは1.0?1.5D程度(Dは柱直径)である。」、「【0007】・・・1は鋼管材を構成する鋼板で、柱端部内面に想定される座屈長さ1.0?1.5D(Dは鋼管材1の直径)に亘って、管軸方向と同管軸と直角方向との2方向に亘って岐出する十字型の補強材2を溶接wするとともに、水平ダイヤフラム3を溶接し、前記鋼板1を組立てて箱型断面の鋼管材Aを組立てる。(図3参照)
施工現場において前記鋼管材A内にコンクリートBを打設して、箱型断面の充填型鋼管コンクリート柱を構成する。(図1及び図2参照)
図中Cは鉄骨梁である。」、「【0008】図示の実施例は前記補強材2によって、充填型鋼管コンクリート柱の柱端における鋼管材Aの各面の面外剛性、強度が増大され、材端の局部座屈が防止され、柱端を補強しない従来のものに比して耐力と靱性とが向上される。・・・」と、記載されている。
また、【図1】をみると、柱端部には、鉄骨梁Cを接合した仕口部が形成され、該仕口部の内部には水平ダイヤフラム3が設けられていることが読み取れる。
さらに、鋼管材Aが、上下に仕口部を、その仕口部間に延びる本体部を有することは明らかである(刊行物2の第1図、刊行物4の第1図または刊行物5の【図1】等参照。)。
以上の記載によれば、刊行物5には、次の発明(以下「刊行物5発明」という。)が記載されていると認められる。
「鉄骨梁Cが接合される上下の柱端部の仕口部と、仕口部間に延びる本体部と、を有する鋼管材Aと、
仕口部内部に設けられた水平ダイヤフラム3と、
鋼管材A内に打設したコンクリートBと、
柱端部内面に想定される座屈長さ1.0?1.5D(Dは鋼管材1の直径)に亘って溶接wされ、充填型鋼管コンクリート柱の柱端における鋼管材Aの各面の面外剛性、強度を増大し、材端の局部座屈を防止する、管軸方向と同管軸と直角方向との2方向に亘って岐出する十字型の補強材2と、
を備える充填型鋼管コンクリート柱。」

(4)対比・判断
ア 請求項3に係る発明と甲1発明ないし甲4発明を対比すると、甲1発明ないし甲4発明は、少なくとも、請求項3に係る発明の「ダイアフラムから軸方向中間部側へ延びる端部補強部材の鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、鋼管本体部の幅の2倍以上とされている」事項を有していない。
また、当該事項は、刊行物5、並びに特許異議申立書に添付されたが取消理由に用いていない甲第1号証(特開平6-294160号公報)、甲第2号証(特開平4-52353号公報)、甲第3号証(特開2005-220698号公報)及び甲第6号証(「建築構造学大系13 トラス・ラーメン」、北村弘・大沢胖著、株式会社彰国社、昭和41年11月10日第1版第1刷、173-194頁)にも記載されていない。
そして、当該事項により、材料コストを削減しつつ、火災時に鋼管上端部及び下端部に局部座屈が発生しても、鋼管上端部及び下端部内の充填コンクリートの圧壊を抑制することができる、という顕著な効果を奏するものである。
したがって、請求項3に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明及びその他の証拠から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 申立人の意見について
(ア)申立人は、請求項3に係る発明の「ダイアフラムから軸方向中間部側へ延びる端部補強部材の鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅の2倍以上とされている」事項について、(a)平成28年7月29日付け意見書に添付した甲第7号証(特開平7-71088号公報)には、その段落0008の「従って本発明においては十字形補強鋼板3がコンクリート充填角形鋼管柱Pの上下端部の柱梁接合部R断面内に溶接接合されればよく、必らずしも柱の全長に亘って設ける必要はなく、」との記載からみて、十字型補強鋼板3の柱Pの軸線方向に沿った長さが、柱Pの幅の2倍以上とされていることも記載されている旨、(b)刊行物5の段落0003に「一般の充填型鋼管コンクリート柱では材端に特別な補強を施さず、柱の曲げ降伏とほぼ同時にcで示すように局部座屈が発生し、その後の繰返し荷重によって軸方向の縮みが増大するという問題点があった。なお材端部の座屈長Lは1.0?1.5D程度(Dは柱直径)である。」と記載され、建物の安全率を考えて当該範囲よりも広い範囲を補強するよう設計して、座屈長Lが1.0?1.5Dである領域の上限を2.0D以上とすることは、当業者が適宜行う設計的事項に過ぎない旨、主張する。
しかしながら、上記(a)については、甲第7号証の段落【0008】の上記記載中、特に「十字形補強鋼板3がコンクリート充填角形鋼管柱Pの上下端部の柱梁接合部R断面内に溶接接合されればよく、」からみて、十字形補強鋼板3の柱の軸方向長さを長くする必要性はないから、「必ずしも柱の全長に亘って設ける必要がなく、」との記載が、該長さをより長くすることを示唆するものではない。
また、上記(b)については、仮に安全率を考慮するとしても、刊行物3において、十字型の補強材2を、1.5D(Dは柱直径)を越えてどの程度まで長くするのか示唆されておらず、また該長さと要求される強度の関係についてさらなる検討を要するものである。
したがって、幅の2倍以上とすることが、当業者が容易になし得たこととはいえず、申立人の主張は採用できない。

(イ)また、申立人は、訂正後の請求項3に係る発明では、端部補強部材の鋼管本体部の軸線方向に沿った長さの上限が規定されておらず、また、「軸方向中間部」及び「軸方向端部」の境界が規定されていないため、全体として発明を把握することができず、よって、特許第36条第6項第2号の要件を満たしていない旨、主張する。
しかしながら、「軸方向中間部」や「軸方向端部」は、その用語の一般的な意味から明確であって、不明確な点は見いだせない。また、請求項3に係る発明の把握においても、両者の差異が明確でなければならない必然性はないものと考えられる。
加えて、材料コストを削減しつつ、火災時に鋼管上端部及び下端部に局部座屈が発生しても、鋼管上端部及び下端部内の充填コンクリートの圧壊を抑制する、との課題を考慮すれば、当該長さの上限が限定されず、仮に若干の隙間を空けて、鋼管本体部のほぼ全長となるような長さを採用するとは考え難いから、火災時に座屈が発生すると予想される程度の長さであることは明らかである。
よって、申立人の主張は採用できない。

(5)請求項1,2について
前記「2(1)ア及びイ」のとおり、訂正により請求項1,2は削除された。
その結果、請求項1,2に係る発明についての特許異議の申立ては、その対象を欠くこととなったので、不定法な申立てであり、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

(6)むすび
以上のとおりであるから、取消理由によって、本件請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項3に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
また、請求項1,2に係る発明についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
コンクリート充填鋼管柱
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート充填鋼管柱に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管内にコンクリートが充填されたコンクリート充填鋼管(CFT(Concrete Filled Steel Tube))柱が知られている。CFT柱では、一般に、中空の鋼管柱と比較して負担可能な軸力(負担軸力)が大きく、またコンクリートが充填されている分、熱容量が増加するため、耐火性能に優れている。そのため、設計条件(例えば、柱の負担軸力が比較的小さく火災継続時間が短い場合など)によっては、CFT柱の耐火被覆を省略することが可能である。
【0003】
ここで、特許文献1に開示された技術では、鋼管の内周面に、当該鋼管の軸方向へ延びるリブ(フラットバー)が点溶接で取り付けられている。そして、火災時に、鋼管とコンクリートとの熱膨張差によってコンクリートに発生する軸方向の引張り力にリブを抵抗させ、コンクリートのひび割れを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-204993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、耐火性能(耐火時間)は向上するものの、鋼管に局部座屈が発生すると、CFT柱の耐力が急激に低下し、変形が過大となる。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、火災時における耐力の急激な低下が抑制されたコンクリート充填鋼管柱を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係るコンクリート充填鋼管柱は、水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、該鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強し、火災時における前記軸方向端部の局部座屈に伴う前記軸方向端部内の前記充填コンクリートの圧壊を抑制する補強手段と、を備えている。
【0008】
第1態様に係るコンクリート充填鋼管柱によれば、充填コンクリートに埋設された補強手段によって、鋼管本体部における軸方向中間部内の充填コンクリートの曲げ耐力に対し、鋼管本体部における軸方向端部内の充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように充填コンクリートが補強されている。これにより、火災時に鋼管本体部の軸方向端部に局部座屈が発生しても、当該軸方向端部内の充填コンクリートが曲げモーメントを負担すると共に、局部座屈によって生じる圧縮力に抵抗することで、充填コンクリートの圧壊を防ぐことができる。この結果、鋼管本体部の軸方向端部は、局部座屈後も軸力を負担することが可能となり、また、その軸力を鋼管の軸方向中央部に円滑に伝達することが可能となる。従って、火災時におけるコンクリート充填鋼管柱の局部座屈後の急激な耐力低下(崩壊)が抑制される。
【0009】
更に、鋼管本体部の全長に渡って充填コンクリートを同じ曲げ耐力で補強する構成と比較して、施工性の向上、及びコスト削減を図ることができる。
第2態様に係るコンクリート充填鋼管柱は、水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、前記鋼管仕口部に設けられたダイアフラムと、前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、前記ダイアフラムに端部が接合され、該ダイアフラムから上下の一方側へのみ延出して前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、前記軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強する補強手段と、を備えている。
【0010】
第3態様に係るコンクリート充填鋼管柱は、第1態様又は第2態様に係るコンクリート充填鋼管柱において、前記補強手段が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅以上とされている。
【0011】
第3態様に係るコンクリート充填鋼管柱によれば、端部補強部材の鋼管本体部の軸方向に沿った長さを鋼管本体部の幅以上としたことにより、材料コストを削減しつつ、鋼管本体部における軸方向端部の局部座屈の発生を抑制することができる。鋼管本体部の軸方向端部では、前述した端部補強部材の長さの領域内において局部座屈が発生し易いためである。
【0012】
第4態様に係るコンクリート充填鋼管柱は、第3態様に係るコンクリート充填鋼管柱において、前記端部補強部材が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が前記鋼管仕口部から前記鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように該充填コンクリートに埋設されている。
【0013】
第4態様に係るコンクリート充填鋼管柱によれば、端部補強部材によって、鋼管本体部における軸方向端部内の充填コンクリートの曲げ耐力が、鋼管仕口部から鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように補強されている。これにより、応力状態に応じた最適な補強を行うことで、過剰な補強を無くすことができ、施工性の向上とコスト削減を図ることができる。
【0014】
なお、ここでいう「充填コンクリートの曲げ耐力が鋼管仕口部から鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように」は、充填コンクリートの曲げ耐力を鋼管仕口部から鋼管本体部の軸方向中間部に向けて段階的に小さくする構成や、徐々に小さくする構成を含む概念である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記の構成としたので、火災時における耐力の急激な低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱を示す縦断面図である。
【図2】(A)は図1の一部拡大図であり、(B)は図2(A)の2B-2B線断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱の応力状態を示す図1に相当する縦断面図である。
【図4】一般的なコンクリート充填鋼管柱と梁で構成された架構を示す立面図であり、(A)は火災前の状態を示し、(B)は火災後の状態を示している。
【図5】一般的なコンクリート充填鋼管柱の耐火性能評価に用いられる実験評価モデルを示すモデル図であり、(A)は水平力を載荷する前の状態を示し、(B)は水平力が載荷された際のコンクリート鋼管柱の変形状態、及び応力状態を示し、(C)はコンクリート鋼管柱の構成する鋼管に局部座屈が発生した状態を示している。
【図6】(A)及び(B)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(B)に相当する拡大図である。
【図7】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図7(A)の7B-7B線断面図である。
【図8】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図8(A)の8B-8B線断面図である。
【図9】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図9(A)の9B-9B線断面図である。
【図10】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図10(A)の10B-10B線断面図である。
【図11】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図11(A)の11B-11B線断面図である。
【図12】(A)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図2(A)に相当する拡大図であり、(B)は図12(A)の12B-12B線断面図である。
【図13】(A)及び(B)は、本発明の一実施形態における端部補強部材の変形例を示す図1の一部拡大図に相当する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱について説明する。なお、各図において適宜示される矢印Zは、本実施形態における柱鋼管の軸方向(上下方向)を示している。
【0018】
図1には、一実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱10が示されている。コンクリート充填鋼管柱10は、柱鋼管12と、柱鋼管12内に充填される充填コンクリート14と、補強手段としての補強鉄筋20と、を備えている。柱鋼管12は角形鋼管で構成されており、水平部材としての鉄骨梁16が接合される上下の鋼管仕口部12Aと、これらの鋼管仕口部12A間に延びる鋼管本体部12Bを有している。
【0019】
鉄骨梁16はH形鋼で構成され、上下一対のフランジ部16Aとフランジ部16Aを繋ぐウェブ部16Bを有し、その端部が鋼管仕口部12Aの外側面に突き当てられて溶接されている。一方、鋼管仕口部12Aの内壁面には、上下一対の内ダイアフラム18が設けられている。各内ダイアフラム18は、鉄骨梁16のフランジ部16Aと連続するように設けられており、この内ダイアフラム18によって鋼管仕口部12Aが補強されている。また、各内ダイアフラム18の中央部には充填孔18Aが形成されており、これらの充填孔18Aを通して柱鋼管12内に充填コンクリート14が充填されるようになっている。
【0020】
ここで、上下の鉄骨梁16の間にある鋼管本体部12B内に充填された充填コンクリート14は、複数の補強鉄筋20によって鋼管本体部12Bにおける軸方向中間部としての鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、軸方向端部としての鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなるように補強されている。
【0021】
具体的には、図2(A)及び図2(B)に示されるように、鋼管本体部12Bにおける鋼管上端部(柱頭部)12BU内の充填コンクリート14には、端部補強部材としての複数(本実施形態では、4本)の補強鉄筋20が埋設されている。各補強鉄筋20は、軸方向を柱鋼管12の軸方向(矢印Z方向)にすると共に、柱鋼管12の周方向に所定の間隔を空けて配列され、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。また、鋼管本体部12Bの幅(柱せい)をDとしたときに、各補強鉄筋20の長さL(鋼管本体部12Bの軸方向に沿った長さ)が、鋼管本体部12Bの幅Dの1.0倍以上とされている。これらの補強鉄筋20によって鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14が補強されると共に、内ダイアフラム18及び補強鉄筋20を介して鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間で曲げモーメントが伝達されるようになっている。これと同様に、図1に示されるように、鋼管下端部(柱脚部)12BL内の充填コンクリート14は、複数の補強鉄筋20によって補強されている。
【0022】
一方、鋼管本体部12Bにおける鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14は、補強鉄筋20によって補強されていない。これにより、鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなっている。
【0023】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0024】
図3に示されるように、例えば、火災時に鉄骨梁16が熱膨張によって軸方向(水平方向)へ伸張すると、鋼管仕口部12Aに水平力Fが作用し、鋼管本体部12Bに曲げモーメントMが発生する。この曲げモーメントMは、鋼管中間部12BMから鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに向って徐々に大きくなる。一方、柱鋼管12は、火災時に熱膨張によって軸方向(矢印Z方向)へ伸張するが、温度上昇に伴う剛性の低下によって軸方向への伸張は徐々に小さくなり、ある温度に達すると軸方向への伸張変形は止まり、収縮変形に転じる。この状態で、鉄骨梁16から鋼管仕口部12Aへ水平力Fが作用すると、前述したように鋼管中間部12BMと比較して大きな曲げモーメントが発生する鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLの圧縮側(矢印C側)側面に局部座屈Kが発生し易くなる。特に、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLが鋼管仕口部12Aを介して鉄骨梁16に剛接合されていて、かつ、鉄骨梁16の軸方向への伸張量が大きい場合は、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに大きな曲率を伴う変形が生じる。この変形により鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLの圧縮側(矢印C側)側面に大きな圧縮応力度が発生し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに局部座屈Kが生じる。
【0025】
鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに局部座屈が発生すると、コンクリート充填鋼管柱10の曲げ剛性は著しく低下する。コンクリート充填鋼管柱10に作用する軸力(鉛直荷重)Vが大きい場合は、局部座屈Kの発生後、曲げモーメントMによる変形が急激に進展し、局部座屈K側の充填コンクリート14に圧壊を生じる。この結果、コンクリート充填鋼管柱10は荷重支持能力を喪失し、脆性的に崩壊に至る場合がある。
【0026】
この対策として本実施形態では、補強鉄筋20によって鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなるように充填コンクリート14を補強している。これにより、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに局部座屈Kが発生しても、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14が曲げモーメントMを負担すると共に、局部座屈Kによって生じる圧縮力に抵抗することで、充填コンクリート14の圧壊が抑制される。この結果、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLが局部座屈Kの発生後も軸力Vを負担することが可能となり、また、その軸力Vを柱鋼管12の鋼管中間部12BMに円滑に伝達することが可能となる。従って、火災時におけるコンクリート充填鋼管柱10の局部座屈K発生後の急激な耐力低下(崩壊)が抑制される。なお、せん断力は、柱鋼管12及び充填コンクリート14の残存せん断耐力と補強鉄筋20のダボ効果によって伝達される。
【0027】
また、本実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱10では、鋼管本体部12Bの全長に渡って充填コンクリート14を同じ曲げ耐力で補強する構成と比較して、施工性の向上、工期短縮、及びコスト削減を図ることができる。更に、補強鉄筋20を設ける範囲を鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLに限定することにより、工場等で内ダイアフラム18に補強鉄筋20を予め接合することができるため、現場での接合作業を省略することができる。
【0028】
ここで、図4(A)には、一般的なコンクリート充填鋼管柱からなる柱100と梁102A,102Bとで構成された架構の一例が示されている。この架構内で、例えば図4(B)に示されるように火災104が発生すると、梁102Aが水平方向(矢印J方向)に伸び出すため、柱100に同図に示されるような変形が生じる。
【0029】
また、図5(A)には、一般的なコンクリート充填鋼管柱からなる柱110の耐火性能評価に用いられる実験評価モデルが示されている。この実験評価モデルでは、加熱時に、図5(B)に示されるような変形状態、応力状態を示すことから、図4(B)に示される柱100の変形状態、応力状態を適切に模擬することができると言われている。そこで、図5(A)に示される実験評価モデルを用いて載荷加熱実験を行ったところ、以下に示す新たな知見が得られた。
【0030】
即ち、加熱された柱110の柱上端部に生じる水平変位(水平力F)が大きい場合や柱110に生じる軸力Vが大きい場合は、図5(C)に示されるように、柱110を構成する柱鋼管の上端部及び下端部に局部座屈Kを生じることが確認された。また、加熱時間が比較的短く、柱110の充填コンクリートが十分耐力を残している状態であっても、柱110は前述した柱鋼管の局部座屈Kによって荷重支持能力を喪失し、崩壊することが確認された。
【0031】
本実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱10を例により具体的に説明すると、局部座屈Kに関しては以下のことが確認された。即ち、鋼管本体部12Bの幅をD(図2(B)参照)としたときに、鋼管上端部12BUにおける局部座屈Kは、その上端から2Dまでの領域内で発生し易く、特に、上端からDの領域内で発生し易い。これと同様に、鋼管下端部12BLにおける局部座屈Kは、その下端から2Dまでの領域内で発生し易く、特に、下端からDの領域内で発生し易い。
【0032】
従って、局部座屈Kの発生を抑制する観点からすると、補強鉄筋20の長さLはD以上が好ましく、2D以上がより好ましい。更に、施工性、材料コストを考慮すると、補強鉄筋20の長さLはD≦L≦2Dとすることが望ましい。これにより、補強鉄筋20の材料コストを削減しつつ、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLの局部座屈Kの発生を抑制することができる。
【0033】
なお、前述した局部座屈Kによる破壊はこれまで実験で確認されなかった現象である。これまでは柱110の断面を小断面(例えば、300mm×300mm程度)で実施してきたが、前述した局部座屈Kが確認された実験では、柱110の断面を大面積(600mm×600mm)で実施している。柱鋼管の上端部及び下端部に発生する圧縮ひずみは、柱110の中立軸位置から柱鋼管までの距離に比例して大きくなる。断面が大きくなれば、柱鋼管に生じる圧縮ひずみもこれに比例して大きくなる。このため、火災によって大断面の柱(例えば、600mm×600mm以上)の柱上端部に大きな水平力が生じると、柱の上端部及び下端部には大きな圧縮ひずみが発生する。前述の実験では、柱鋼管に生じた圧縮ひずみが当該柱鋼管の局部座屈に対する許容圧縮ひずみを超過したために発生したものと考えられる。この圧縮ひずみは、長期軸力に起因する長期圧縮ひずみε1と、梁の伸長による強制変形(水平力F)に起因する圧縮ひずみε2と、同梁の伸長による付加曲げモーメントに起因する圧縮ひずみε3の和と考えることも可能である。
【0034】
なお、本実施形態のように鋼管仕口部12Aの両側に鉄骨梁12が接合される構成では、各鉄骨梁12の伸長に伴って鋼管仕口部12Aの両側に反対向きの水平力が作用するため、これらの水平力が打ち消し合う。従って、前述した圧縮ひずみε2,ε3が小さくなり易い。一方、外周柱のように、鋼管仕口部12Aの片側にのみ鉄骨梁16が接合される構成では、上記圧縮ひずみε2,ε3が大きくなり易い。特に、鋼管仕口部12Aの片側に接合される鉄骨梁16の梁スパンが長くなると(例えば、10mm以上)、火災時における鉄骨梁16の伸長量が増加し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BLの水平変位(強制変形)が大きくなるため(例えば、1/50rad以上)、上記圧縮ひずみε2,ε3が過大となる可能性がある。本実施形態は、このように鋼管仕口部12Aの片側に、若しくは鋼管仕口部12Aに3方向から鉄骨梁16が接合されるコンクリート充填鋼管柱の補強に適している。
【0035】
なお、補強鉄筋20の本数や配置(ピッチ)は、適宜変更可能である。例えば、図6(A)に示されるように、平面視にて補強鉄筋20を円形状に配置しても良いし、図6(B)に示されるように、平面視にて補強鉄筋20を角形状に配置しても良い。
【0036】
次に、端部補強部材の変形例について説明する。なお、以下に説明する変形例では、柱鋼管12内に充填される充填コンクリート14(図1参照)の図示を適宜省略している。また、以下では、各種の変形例を鋼管上端部12BUに適用した場合を例に説明するが、これらの変形例は鋼管下端部12BLにも適用可能である。
【0037】
先ず、図7(A)及び図7(B)に示される変形例では、端部補強部材として、長さが異なる2種類の補強鉄筋22,24が用いられている。具体的には、補強鉄筋22は、その長さL_(1)が補強鉄筋24の長さL_(2)の略半分とされている。これらの補強鉄筋22,24は、軸方向を柱鋼管12の軸方向(矢印Z方向)にすると共に、柱鋼管12の周方向に所定の間隔を空けて交互に配列され、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。これにより、鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14の曲げ耐力が、鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って段階的に小さくなっている。
【0038】
このように補強鉄筋22,24の長さを変え、鋼管上端部12BUに作用する曲げモーメントM(図3参照)に応じて鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14の曲げ耐力を鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って段階的に小さくすることにより、過剰な補強を無くすことができる。従って、補強鉄筋22,24の材料コストを削減することができる。
【0039】
また、全ての補強鉄筋20の長さLを略同じにした上記実施形態(図1参照)では、鋼管上端部12BUの曲げ剛性が鋼管中間部12BMの曲げ剛性に比べて大きくなるため、鋼管上端部12BUと鋼管中間部12BMの境界面付近(補強鉄筋20の先端付近)を中心とした回転変形(大きな曲率を伴う曲げ変形)が生じ、上記境界面付近の鋼管中間部12BMに応力が集中する。鉄骨梁16の軸方向(水平方向)への伸び出し量やコンクリート充填鋼管柱10の負担軸力が大きい場合は、上記境界面付近の鋼管中間部12BMに局部座屈を生じる場合がある。
【0040】
これに対して本変形例では、鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14の曲げ耐力を鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って段階的に小さくすることにより、鋼管上端部12BUと鋼管中間部12BMとの境界面付近(補強鉄筋24の先端付近)の鋼管中間部12BMの応力集中が低減される。従って、上記境界面付近の柱鋼管12の局部座屈の発生が抑制される。
【0041】
なお、本変形例では、鋼管上端部12BUに作用する曲げモーメントM(図3参照)に応じて、鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14の曲げ耐力を鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って段階的に小さくしたが、例えば、長さが異なる3種類以上の補強鉄筋を用いて、当該充填コンクリート14の曲げ耐力を鋼管仕口部12Aから鋼管中間部12BMに向って徐々に小さくしても良い。また、本変形例では、補強鉄筋22,24の長さを変えたが、補強鉄筋22,24の鉄筋径や材料強度を変えても良いし、長さ、鉄筋径、材料強度が異なる補強鉄筋を適宜組み合わせて用いても良い。
【0042】
次に、図8(A)及び図8(B)に示される変形例では、柱鋼管12の軸方向に間隔を空けて配列された複数のリング状のフープ筋26によって、補強鉄筋20が結束されている。これにより、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間でより大きな曲げモーメントが伝達可能となる。従って、鋼管上端部12BUに作用する軸力が大きい場合や、鉄骨梁16の軸方向(水平方向)への伸び出しが過大となった場合でも、鋼管中間部12BMに軸力が円滑に伝達される。よって、上記実施形態(図1参照)と比較して、より高い軸力を負担することができる。
なお、フープ筋26の径や配置(ピッチ)は適宜変更可能である。また、フープ筋26はリング状ではなく、スパイラル状に配筋してもよい。
【0043】
次に、図9(A)及び図9(B)に示される変形例では、補強鉄筋20の先端部に、定着部材としての機械式定着34が設けられている。このように補強鉄筋20の先端部に機械式定着34を設けることにより、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間で曲げモーメントがより円滑に伝達される。従って、上記実施形態(図1参照)と比較して、より高い軸力を負担することができる。
なお、定着部材としては、機械式定着34に替えて、例えば、定着板、プレートナット等を用いることができる。
【0044】
次に、図10(A)及び図10(B)に示される変形例では、端部補強部材として複数のL形鋼28が用いられている。各L形鋼28は、軸方向を柱鋼管12の軸方向(矢印Z方向)にすると共に、開口側を内側に向けて鋼管上端部12BUの各角部に配置されており、各々の上端部が内ダイアフラム18に溶接等で接合されている。また、各L形鋼28の長さLは、鋼管本体部12Bの幅Dの1.0倍以上とされている。
【0045】
このように端部補強部材をL形鋼28とすることにより、充填コンクリート14(図1参照)との接触面積を増加する。これにより、L形鋼28のダボ効果が向上するため、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間でより大きな曲げモーメント、せん断力を伝達することができる。
【0046】
なお、L形鋼28の表面にスタッドや凹凸を設けたり、L形鋼28に貫通孔を形成したりして、L形鋼28と充填コンクリート14との一体性(付着力)を高めても良い。また、図11(A)及び図11(B)に示されるように、隣接するL形鋼28に渡された水平プレート30によって、これらのL形鋼28を連結しても良い。これにより、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間で、更に大きな曲げモーメント、せん断力を伝達することができる。
【0047】
次に、図12(A)及び図12(B)に示される変形例では、端部補強部材として籠状に構成された籠状鉄筋32が用いられている。籠状鉄筋32は、複数の縦筋32Aと複数の横筋32Bとを格子状に連結して構成されている。また、籠状鉄筋32の長さLは、鋼管本体部12Bの幅Dの1.0倍以上とされている。このように縦筋32Aと横筋32Bとを格子状に連結することにより、籠状鉄筋32と充填コンクリート14(図1参照)との一体性が高まるため、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間でより大きな曲げモーメント、せん断力を伝達することができる。
【0048】
なお、上記実施形態及び各種の変形例では、内ダイアフラム18に補強鉄筋20等を溶接で接合したが、例えば、補強鉄筋20の一端部にネジ部を設け、当該ネジ部を内ダイアフラム18に形成された取付孔にネジ留めしても良いし、ナットで固定しても良い。また、内ダイアフラム18に替えて通しダイアフラムに補強鉄筋20等を接合しても良い。
【0049】
更には、内ダイアフラム18を省略することも可能である。例えば、図13(A)に示される変形例では、鋼管仕口部12Aと鉄骨梁16とが外ダイアフラム36を介して接合されている。具体的には、鋼管仕口部12Aの外周面には、上下一対の外ダイアフラム36が設けられると共に、一対の外ダイアフラム36の間にガゼットプレート38が設けられている。各外ダイアフラム36には、鉄骨梁16のフランジ部16Aがそれぞれ溶接されている。また、ガゼットプレート38には、鉄骨梁16のウェブ部16Bが高力ボルト40で接合されている。
【0050】
このように内ダイアフラム18(図1参照)が存在しない構成では、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリートとにまたがって補強鉄筋20を埋設すれば良い。これにより、鋼管仕口部12Aに局部座屈が発生しても、当該鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間で曲げモーメントが伝達される。また、局部座屈によって生じる圧縮力に鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14が抵抗可能になるため、当該充填コンクリート14の圧壊が抑制される。
【0051】
なお、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14に対する補強鉄筋20の定着長さは、鋼管上端部12BUに作用する曲げモーメントに応じて適宜調整すれば良い。また、図13(B)に示されるように、鋼管下端部12BL、鋼管仕口部12A、及び鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14にまたがって補強鉄筋42を埋設しても良い。これにより、施工性が向上すると共に、鋼管仕口部12A内の充填コンクリート14と鋼管上端部12BU内の充填コンクリート14との間でより大きな曲げモーメントを伝達することができる。なお、施工時には、図示しない保持金具等で補強鉄筋42を柱鋼管12に取り付けた状態で、柱鋼管12内に充填コンクリート14を充填すれば良い。
【0052】
更に、上記実施形態では、補強鉄筋20等の端部補強部材によって鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14のみを補強したが、これに限らない。柱鋼管12内の充填コンクリート14は、鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなるように補強されていれば良く、例えば、補強手段としての補強鉄筋20に加えて、柱鋼管12の全長に渡る補強手段としての鉄筋を充填コンクリート14に埋設しても良い。この場合、端部補強部材としての補強鉄筋20の分だけ、鋼管中間部12BM内の充填コンクリート14の曲げ耐力に対し、鋼管上端部12BU及び鋼管下端部12BL内の充填コンクリート14の曲げ耐力が大きくなる。
【0053】
更にまた、柱鋼管12は、断面略正方形の角形鋼管に限らず、断面長方形の角形鋼管や丸形鋼管を用いても良い。なお、断面長方形の角形鋼管では、短辺の長さが鋼管本体部の幅Dに相当し、丸形鋼管では、その直径が鋼管本体部の幅Dに相当する。また、柱鋼管12には、耐火被覆を施しても良い。更に、上記実施形態では、水平部材として鉄骨梁16を例に説明したが、鉄骨梁16に替えてスラブ(例えば、RC床スラブやフラットスラブ)等を用いても良い。
【0054】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
10 コンクリート充填鋼管柱
12 柱鋼管
12A 鋼管仕口部
12B 鋼管本体部
12BU 鋼管上端部(軸方向端部)
12BM 鋼管中間部
12BL 鋼管下端部(軸方向端部)
14 充填コンクリート
16 鉄骨梁(水平部材)
20 補強鉄筋(補強手段、端部補強部材)
24 補強鉄筋(補強手段、端部補強部材)
28 L形鋼(補強手段、端部補強部材)
32 籠状鉄筋(補強手段、端部補強部材)
42 補強鉄筋(補強手段、端部補強部材)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、
前記鋼管仕口部に設けられたダイアフラムと、
前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、
前記ダイアフラムに端部が溶接され、該ダイアフラムから上下の一方側へのみ延出して前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、前記軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強し、火災時における前記軸方向端部の局部座屈に伴う該軸方向端部内の前記充填コンクリートの圧壊を抑制する補強手段と、
を備え、
前記補強手段が、前記鋼管本体部における前記軸方向中間部内の前記充填コンクリートには埋設されず、前記軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記ダイアフラムに端部が溶接されると共に前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、
前記ダイアフラムから前記軸方向中間部側へ延びる前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅の2倍以上とされているコンクリート充填鋼管柱。
【請求項4】
水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、
前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、
前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、該鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強し、火災時における前記軸方向端部の局部座屈に伴う前記軸方向端部内の前記充填コンクリートの圧壊を抑制する補強手段と、
を備え、
前記補強手段が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、
前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅以上とされ、
前記端部補強部材が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が前記鋼管仕口部から前記鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように該充填コンクリートに埋設されているコンクリート充填鋼管柱。
【請求項5】
水平部材が接合される上下の鋼管仕口部と、前記鋼管仕口部間に延びる鋼管本体部と、を有する柱鋼管と、
前記鋼管仕口部に設けられたダイアフラムと、
前記柱鋼管内に充填された充填コンクリートと、
前記ダイアフラムに端部が接合され、該ダイアフラムから上下の一方側へのみ延出して前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管本体部における軸方向中間部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力に対し、前記軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が大きくなるように該充填コンクリートを補強する補強手段と、
を備え、
前記補強手段が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートに埋設され、前記鋼管仕口部内の前記充填コンクリートとの間で曲げモーメントを伝達する端部補強部材を有し、
前記端部補強部材の前記鋼管本体部の軸方向に沿った長さが、該鋼管本体部の幅以上とされ、
前記端部補強部材が、前記鋼管本体部における軸方向端部内の前記充填コンクリートの曲げ耐力が前記鋼管仕口部から前記鋼管本体部の軸方向中間部に向うに従って小さくなるように該充填コンクリートに埋設されているコンクリート充填鋼管柱。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-09-30 
出願番号 特願2011-128513(P2011-128513)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (E04B)
P 1 652・ 113- YAA (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 星野 聡志  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
小野 忠悦
登録日 2015-06-12 
登録番号 特許第5758207号(P5758207)
権利者 株式会社竹中工務店
発明の名称 コンクリート充填鋼管柱  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 松浦 孝  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  

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