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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1322293
異議申立番号 異議2016-700653  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-29 
確定日 2016-11-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第5850708号発明「ポルトランドセメント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5850708号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5850708号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成23年11月4日に特許出願され、平成27年12月11日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人千葉奈々枝(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。なお、平成28年7月29日付けの特許異議申立書は、平成28年9月16日付け手続補正書で一部補正されている。

第2 本件発明
特許第5850708号の請求項1?3の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものである。そのうち、本件特許発明1は以下のとおりのものであり、本件特許発明2及び3は、その本件特許発明1に従属するものである。
「【請求項1】
ポルトランドセメントクリンカ粉砕物および石膏を含むポルトランドセメントであって、SO_(3)(ただし、石膏由来のSO_(3)を除く。)の含有率が0.25?1.5質量%、K_(2)Oの含有率が0.3?0.55質量%、および、全Cr量が該セメント1kgあたり100?150mgであり、かつ、前記K_(2)Oの含有率および前記SO_(3)の含有率が下記(1)式を満たす、ポルトランドセメント。
K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19
(式中、K_(2)OおよびSO_(3)は、それぞれK_(2)OおよびSO_(3)の前記含有率(質量%)を表す。)」

第3 申立理由の概要
1 申立理由1
申立人は、証拠として、次の甲第1号証?甲第6号証(以下「甲1」?「甲6」という。)を提出し、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
甲1:特開2008-179502号公報
甲2:World Cement Research and Development、1995年、Vol.26、No.9、pp.93-94
甲3:セメント技術年報、1988年、No.42、pp.52-55
甲4:Cement Science and Concrete Technology、2009年、No.63、pp.55-61
甲5:下坂健一「クリンカーの添加成分とセメントの諸物性に関する研究」博士論文、埼玉大学、2005年、p.61
甲6:セメントの材料化学(改訂2版)、2006年、pp.12-13
具体的には、本件特許発明1について、甲1に記載されている発明(以下「甲1発明」という。)と、甲2及び甲3に記載されている事項、並びに甲4及び甲5に記載されている事項とにより当業者が容易に発明することができたものであり、本件特許発明2については、さらに甲4及び6に記載されている事項、本件特許発明3については、さらに甲5に記載されている事項を追加することにより、当業者が容易に発明することができたものであるということを主張している。

2 申立理由2
申立人は、本件特許発明1について、
「本件特許発明1は以下の式〔1〕を示している。
K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19・・・〔1〕
しかし、本件明細書には、式〔1〕『K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19』が唐突に記載されているだけであり、上記式〔1〕の根拠、および上記式〔1〕のSO_(3)係数『0.31』および定数『0.19』の根拠は全く示されておらず、上記式〔1〕の裏付けが全く示されていない。」、「段落[0028]において、『K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19の関係を満たすポルトランドセメント1?3は水溶性Cr(IV)量が6?1 0 mg/kgとより少なくなっている。』と記載されているが、式〔1〕『K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19』の根拠は本件明細書には全く記載されておらず、さらに式〔1〕の係数『0.31』および定数『0.19』がどのようにして定まるのかその根拠が全く示されていない。」と指摘し、本件特許発明1について本件特許明細書の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許発明1の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないことから、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

第4 甲号証の記載事項
1 甲1について
(1)甲1の記載事項について
甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
(甲1ア)「【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、セメント中の水溶性Cr(VI)の生成には、数多くのアルカリ金属酸化物の中で、K_(2)Oのみが選択的にCrと結合することによって水溶性Cr(VI)を生成すること、及びK_(2)O量を減少することにより水溶性Cr(VI)を低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(甲1イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のセメント組成物は、セメントクリンカーと石膏からなる。セメントクリンカーは、普通ポルトランドセメント用クリンカー、早強セメント用クリンカー、中庸熱セメント用クリンカー、低熱セメント用クリンカー等が用いられる。
・・・セメントクリンカーに石膏を添加しボールミルなどで粉砕して得られたセメント組成物の化学組成は、C_(3)Sが20?80質量%、好ましくは30?75質量%、更に好ましくは50?70質量%である。C_(2)Sは、5?70質量%、好ましくは7?50質量%、更に好ましくは7?20質量%である。C_(3)Aは、0?20質量%、好ましくは0?15質量%、更に好ましくは0?12質量%である。C_(4)AFは、0?20質量%、好ましくは5?15質量%、更に好ましくは7?12質量%である。」

(甲1ウ)「【0040】
(3)評価試験
次に、各種セメント組成物の水溶性Cr(VI)含有量とK_(2)O含有量を定量した。測定結果の一例を表3に示すが、本発明に関するデータはこれらに限らない。本発明は、図1?5に示す全ての実験データに基づく知見である。なお、表3中のセメント組成物の番号(No.)は表2のセメントクリンカーの番号(No.)と対応している。具体的には、表2のNo.1の条件で製造したセメントクリンカーを用いて製造したセメント組成物の評価試験結果は表3のNo.1に相当する。
【0041】
【表3】

ここで、「アルカリ金属量(%)」は質量%を表すものである。

(2)甲1発明について
上記【表3】において、セメント組成物中におけるK_(2)Oの含有率及びセメント1kgにおける全Cr量が、本件特許発明1における「K_(2)Oの含有率が0.3?0.55質量%、および、全Cr量が該セメント1kgあたり100?150mg」を満たすものは、No.2、No.4、No.5、No.6、No.9であり、これらにおいて、K_(2)Oの含有率、セメント1kgにおける全Cr量、水溶性Cr(VI)の量を順に記載すると、
No.2:0.42質量%、122mg、16mg
No.4:0.48質量%、138mg、18mg
No.5:0.54質量%、116mg、22mg
No.6:0.44質量%、102mg、18mg
No.9:0.51質量%、120mg、21mg
であり、これらより、セメント組成物中におけるK_(2)Oの含有率及びセメント1kgにおける全Cr量は、0.42?0.54質量%、102?138mgのものが記載されているといえる。

してみれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「セメントクリンカーと石膏からなるセメント組成物であって、K_(2)Oの含有率0.42?0.54質量%、および、全Cr量がセメント1kgあたり102?138mgであるセメント組成物。」(以下「甲1発明」という。)

2 甲2の記載事項について
甲2は「The occurence and prevention of cement eczema」(訳:セメント発疹の発症と予防)について記載されており、その94頁左欄15?16行には「The chromium is present as potassium chromate in cement …」(訳:クロムはセメント中でクロム酸カリウムとして存在する)、同欄22?24行には「When cement is mixed with water the highly soluble chromates such as the potassium chromate will dissolve immediately, …」(訳:セメントが水と混合されると、クロム酸カリウムのような高い溶解性のクロム酸はすぐに溶解する)と記載されている。

3 甲3の記載事項について
甲3は「セメントの流動性に及ぼす硫酸アルカリの影響」について記載されており、その52頁左欄19?21行には「クリンカ中のアルカリは焼成過程で硫黄と優先的に結合して硫酸アルカリを形成し、クリンカ鉱物と安定して共存する。」と記載されている。

4 甲4の記載事項について
甲4は「間隙質液相量の低減によるセメントの高機能化に関する研究」について記載されており、その56頁左欄の「Table1 Chemical and mineral composition of clinker for cement test production」(訳:表1 セメント実験物におけるクリンカーの化学的、鉱物的な組成)にはLow-heat portlandとしてSO_(3)(0.53%)及びK_(2)O(0.36%)のもの、Normal portlandとしてSO_(3)(1.26%)及びK_(2)O(0.38%)のものが記載されている。

5 甲5の記載事項について
甲5は「クリンカーへの添加成分とセメントの諸物性に関する研究」について記載されており、その61頁の「Table3.2 SO_(3),Na_(2)Oand K_(2)O amounts in the prepared clinkers(%)」(訳:表3.2 調合されたクリンカーにおけるSO_(3),Na_(2)OとK_(2)O の量)には、SO_(3)(1.01%)及びK_(2)O(0.39%)のもの、SO_(3)(1.45%)及びK_(2)O(0.41%)のものが記載されている。

6 甲6の記載事項について
甲6は「セメントの材料化学」について記載されており、その13頁には「クーラーからでてきたセメントクリンカーは、仕上げミル(大部分が2室に区分されたチューブミル)でセッコウを3?5%加えて微粉砕され」ることが記載されている。

第5 申立理由についての判断
1 申立理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「セメントクリンカーと石膏からなるセメント組成物」について、「セメントクリンカー」は、具体的には上記(甲1イ)によればポルトランドセメント用クリンカーである。
また、本件特許発明1の「ポルトランドセメントクリンカ粉砕物および石膏を含むポルトランドセメント」における「ポルトランドセメントクリンカ粉砕物」について、本件特許明細書の【実施例】に「次に、得られた調合原料の焼成は、小型のロータリーキルンを用い、焼成温度が1450℃で、クリンカ中のフリーライム(f-CaO)量が0.2±0.2%になるように焼成時間を調整して行いクリンカを得た。・・・前記クリンカに対し、石膏の含有率がSO_(3)換算で3%になるように、二水石膏(関東化学社製 試薬1級)と半水石膏(関東化学社製 試薬1級)をSO_(3)換算で同量添加した後、小型ミルで粉砕してブレーン比表面積が3200±200cm^(2)/gのポルトランドセメント1?6を製造した。」(【0025】【0026】)と記載されており、甲1発明の「セメントクリンカーと石膏からなるセメント組成物」も、上記(甲1イ)によれば「セメントクリンカーに石膏を添加しボールミルなどで粉砕して得られたセメント組成物」であるから、「ポルトランドセメントクリンカ粉砕物」という点において両者は差異はないものである。
してみれば、甲1発明の「セメントクリンカーと石膏からなるセメント組成物」は、本件特許発明1の「ポルトランドセメントクリンカ粉砕物および石膏を含むポルトランドセメント」に相当する。

(イ)甲1発明の「K_(2)Oの含有率0.42?0.54質量%、および、全Cr量がセメント1kgあたり102?138mg」と、本件特許発明1の「K_(2)Oの含有率が0.3?0.55質量%、および、全Cr量が該セメント1kgあたり100?150mg」とは、「K_(2)Oの含有率0.42?0.54質量%、および、全Cr量がセメント1kgあたり102?138mg」の範囲で重複するものである。

してみれば、本件特許発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「ポルトランドセメントクリンカ粉砕物および石膏を含むポルトランドセメントであって、K_(2)Oの含有率が0.42?0.54質量%、および、全Cr量が該セメント1kgあたり102?138mgであるポルトランドセメント。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件特許発明1のセメントは、「SO_(3)(ただし、石膏由来のSO_(3)を除く。)の含有率が0.25?1.5質量%」であり、「K_(2)Oの含有率およびSO_(3)の含有率がK_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19(式中、K_(2)OおよびSO_(3)は、それぞれK_(2)OおよびSO_(3)の含有率(質量%)を表す。)を満たす」ものであるのに対し、
甲1発明のセメントは、SO_(3)(ただし、石膏由来のSO_(3)を除く。)の含有率について記載されておらず、さらに、上記式を満たすようなK_(2)OおよびSO_(3)の含有率なのかも不明である点。

イ 判断
(ア)相違点について
本件特許発明1は、本件特許明細書の【課題を解決するための手段】【0010】に「本発明者は、セメントに含まれる化学成分と水溶性Cr(VI)との関連について種々検討したところ、i)SO_(3)が水溶性Cr(VI)の生成を抑制する効果があること、そして、SO_(3)およびK_(2)Oの含有率と全Cr量が特定の範囲にあるポルトランドセメントは、ii)全Cr量が多い場合であっても水溶性Cr(VI)量が少ないこと、また、iii)該セメントの製造ではK_(2)O量を減らす必要がないこと、を見い出し本発明を完成させた。」と記載されているとおり、K_(2)O量を減らすことなくSO_(3)(ただし、石膏由来のSO_(3)を除く。)を含有させることにより水溶性Cr(VI)の生成を抑制したものであり、そのSO_(3)(ただし、石膏由来のSO_(3)を除く。)の含有率として「0.25?1.5質量%」、K_(2)Oの含有率およびSO_(3)の含有率について「K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19(式中、K_(2)OおよびSO_(3)は、それぞれK_(2)OおよびSO_(3)の前記含有率(質量%)を表す。)」を満たすようにしたものである。
それに対し、甲1発明は、【課題を解決するための手段】【0008】に「本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、セメント中の水溶性Cr(VI)の生成には、数多くのアルカリ金属酸化物の中で、K_(2)Oのみが選択的にCrと結合することによって水溶性Cr(VI)を生成すること、及びK_(2)O量を減少することにより水溶性Cr(VI)を低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されているとおり、K_(2)O量を減少することにより水溶性Cr(VI)を低減させるものであり、本件特許発明1のように、SO_(3)(ただし、石膏由来のSO_(3)を除く。)を含有させることにより、K_(2)O量を減らすことなく水溶性Cr(VI)の生成を抑制するものではないことから、甲1発明は、K_(2)O量を減らさないという点で、本件特許発明1と技術思想が異なるものである。
そして、上記甲2及び甲3の記載事項に鑑みても、水溶性Cr(VI)の生成を抑制するため、K_(2)O量を減らさない代わりにSO_(3)を含有させ、上記相違点である「K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19(式中、K_(2)OおよびSO_(3)は、それぞれK_(2)OおよびSO_(3)の前記含有率(質量%)を表す。)」を導けるものではない。
さらに、上記甲4及び甲5の記載事項を参照するに、本件特許発明1は「ポルトランドセメントクリンカ粉砕物および石膏を含むポルトランドセメント」における含有率であるところ、甲4及び甲5におけるK_(2)OおよびSO_(3)の量はクリンカーにおけるものであるが、クリンカーを粉砕する際に添加する石膏は少量であり、SO_(3)については「(ただし、石膏由来のSO_(3)を除く。)」ものであるから、K_(2)O及びSO_(3)の含有率は、石膏を含むセメントにおいてもクリンカーと略同一のものとして、甲4及び甲5のセメントが、本件特許発明1の「SO_(3)(ただし、石膏由来のSO_(3)を除く。)の含有率が0.25?1.5質量%、K_(2)Oの含有率が0.3?0.55質量%」及び「K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19(式中、K_(2)OおよびSO_(3)は、それぞれK_(2)OおよびSO_(3)の前記含有率(質量%)を表す。)」を満たすとしても、甲4及び甲5における全Cr量は不明であり、そもそも甲4及び甲5は、水溶性Cr(VI)の生成を抑制するための技術を示したものでもないから、甲1発明に、上記甲4及び甲5の記載事項を適用する動機付けはない。
よって、上記相違点は、甲2及び甲3の記載事項、並びに甲4及び甲5の記載事項により当業者が容易になし得たものとはいえない。

(イ)効果について
甲1発明は、上記(甲1ウ)に記載されているとおり、セメント1kgにおける全Cr量102?138mgの時、水溶性Cr(VI)が16?22mgに低減できるのに対し、本件特許発明1は、本件特許明細書の下記の表1に記載のとおり、セメント1kgにおける全Cr量136mgの時、水溶性Cr(VI)が10mgに、全Cr量138mgの時7mgに、水溶性Cr(VI)が7mgに、全Cr量114mgの時、水溶性Cr(VI)が6mgに低減できるという格別顕著な効果を有するものである。
【表1】

(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2?5に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を引用してさらに発明特定事項を追加した発明であるから、本件特許発明1が当業者が容易に発明することができたものとはいえない以上、本件特許発明2及び3についても、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

2 申立理由2について
(1)特許法第36条第4項第1号について
本件特許明細書の【実施例】には、「K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19(式中、K_(2)OおよびSO_(3)は、それぞれK_(2)OおよびSO_(3)の前記含有率(質量%)を表す。)」を満たすポルトランドセメントが実施例1?3として記載されており、また、それらの製造方法についても記載されている(件特許明細書の【0025】及び【0026】参照)ことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。
よって、本件特許発明1は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
本件特許明細書には、上記【表1】の記載とともに、「表1に示すように、実施例のポルトランドセメント1?3と参考例のポルトランドセメント1は、水溶性Cr(VI)量が12mg/kg以下と少なく、すべて前記ガイドライン値(20mg/kg)を満たしている。これらの中でも、K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19の関係を満たすポルトランドセメント1?3は水溶性Cr(VI)量が6?10mg/kgとより少なくなっている。特に、ポルトランドセメント1および2は、全Cr量が136?138mg/kgと非常に多いにもかかわらず、水溶性Cr(VI)量は10mg/kg以下と少なくなっている。」との記載がある。
また、本件特許明細書記載の技術的意義を考慮しても、本件特許明細書には「SO_(3)はKと結合して水溶性Cr(VI)の生成を阻害すると考えられ、SO_(3)はKに比べ十分な量が必要なため、SO_(3)の含有率はK_(2)Oの含有率に対し前記式を満たすことが好ましい。」(【0017】)と記載され、上記式はその技術思想を特定しているものといえる。
さらに、それらの係数(0.31)、定数(0.19)について、本件特許明細書の上記【表1】の実施例1?3、参考例、比較例5及び6の6つの事例からK_(2)OおよびSO_(3)の量をそれぞれ縦軸、横軸としてプロットしたときに、全く想定されない係数及び定数ともいえない。
したがって、本件特許発明1の「K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19(式中、K_(2)OおよびSO_(3)は、それぞれK_(2)OおよびSO_(3)の前記含有率(質量%)を表す。)」を満たすポルトランドセメントに対してのサポートがある。
よって、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないとはいえない。

(3)特許法第36条第6項第2号について
本件特許発明1の「K_(2)O<0.31×SO_(3)+0.19(式中、K_(2)OおよびSO_(3)は、それぞれK_(2)OおよびSO_(3)の前記含有率(質量%)を表す。)」との記載自体は何ら不明確ではない。
また、上記(2)で指摘したように、上記式は、本件特許明細書に記載されている技術思想を特定しているものといえるから、その内容も明らかである。さらに、それらの係数(0.31)、定数(0.19)についても、上記(2)で指摘したように、全く想定されない係数及び定数ともいえず、どのように定まるのかその根拠が全く不明なものともいえない。
よって、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないことから、特許法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできず、さらに、請求項1に係る特許が、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、特許法第113条第4号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-16 
出願番号 特願2011-242833(P2011-242833)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B)
P 1 651・ 537- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 永田 史泰
三崎 仁
登録日 2015-12-11 
登録番号 特許第5850708号(P5850708)
権利者 太平洋セメント株式会社
発明の名称 ポルトランドセメント  

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