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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1322296
異議申立番号 異議2016-700846  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-09 
確定日 2016-11-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第5885299号発明「スキマー型インターフェース構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5885299号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5885299号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成24年7月26日に特許出願され、平成28年2月19日にその特許権の設定登録がされ、その後、その本件特許の請求項1?9に係る特許に対し、特許異議申立人ネッチ ゲレーテバウ ゲーエムベーハーにより特許異議の申立てがなされたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?9の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるところ、本件特許の請求項7に係る発明(以下「本件特許発明7」という。)は、以下のとおりである。
「 【請求項7】
二重管による二重オリフィスを有したスキマー部が試料室内の試料ホルダ部に置かれた測定試料を臨むように配置された状態で、前記測定試料に対する加熱により当該測定試料から発生する気体成分を、前記試料ホルダ部の側から前記スキマー部の側へ向けて形成されるキャリアガス流を用いつつ、前記二重オリフィスを介して前記二重管の内側管に連通する真空室へ導入するように構成されたスキマー型インターフェース構造において、
前記測定試料から発生する気体成分を前記二重オリフィスへ向けて案内する機能を有した筒状体が、前記試料室のケーシングとは別に、前記スキマー部に装着可能に設けられ、または前記スキマー部の一部として設けられている
ことを特徴とするスキマー型インターフェース構造。」


第3 申立理由の概要
特許異議申立人(以下「申立人」という。)は、証拠として次の甲1号証?甲第4号証(以下、甲第1号証を「甲1」のように甲と番号を組み合わせていうこととする。)を提出し、請求項1?9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲1:"HIGH-TEMPERATURE TG/DSC/QMS APPLICATIONS IN ENVIRONMENTAL PROTECTION", Journal of Thermal Analysis, Vol.47, (1996), pp.633-642
甲2:"SIMULTANEOUS THERMAL ANALYSIS - MASS SPECTROMETER SKIMMER COUPLING SYSTEM", Journal of Thermal Analysis, Vol.49, (1997), pp.1007-1012
甲3:"TA-MS for high temperature materials", Thermochimica Acta 295, (1997), pp.133-145
甲4:特開2005-127931号公報

具体的には、請求項1?9に係る発明は、甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるか、又は、甲2に記載された発明(以下、「甲2発明」という。)及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるか、甲3に記載された発明(以下、「甲3発明」という。)及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであることを主張している。


第4 申立理由についての検討
1 甲各号証の記載事項及び甲1発明の認定
(1) 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。なお、以下の摘記において、引用発明の認定に関連する箇所に下線を付した。
ア「Methods
Classic solutions for TG-MS couplings are generally based on a heated transfer capillary and an orifice or frit gas inlet on the mass spectrometer. For permanent gases, this solution involving two-step pressure reduction is an optimal system for separation-free detection of the evolved gas. However, such a system cannot completely prevent the condensation of non-permanent gases and is totally incapable of detecting heavy metals.
For these reasons, an improved coupling system, which, to a great extent, eliminates condensation, has been developed using experience gained from high-tech applications (Fig.1). It is based on the principle of a two-step orifice system in which the first pressure reduction step is achieved via a normal orifice and the second via a so-called skimmer orifice. The form and dimensions of the cross-section, the spacing of the pressure reduction steps and the design of the vacuum system lead to the emission of a largely parallel molecular beam through the skimmer directly to the ion source of the MS analyzer. In addition to high sensitivity, the result is that the gases which reach the analyzer are representative of those emitted by the sample. Because this orifice system is integrated directly into the furnace and thus has practically the same temperature as the sample, condensation, especially of larger fragments, is minimized. Depending on the furnace being used the material of the orifice combination, this TA-MS coupling system can be run with inert gas up to 2000℃, or with oxidizing atmosphere to 1450℃.」
(当審訳)
「 方法
TG-MSカップリングのための古典的な解決策は、一般に、加熱された転送キャピラリ及び質量分析計のオリフィス又はフリットガス注入口に基づいている。永久ガスについて、二段階の減圧を含むこの解決策は、発生ガスを分離せずに検出するために最適なシステムである。しかしながら、このようなシステムは、非永久ガスの凝縮を完全に防止することはできず、重金属の検出も全くできない。
これらの理由により、大幅に凝縮を解消する改良されたカップリングシステムが、ハイテクアプリケーション(図1)から得られた経験を用いて開発されてきた。これは、第1の減圧工程が通常のオリフィスを介して達成され、第2の減圧工程がいわゆるスキマーオリフィスでなされる、二段階オリフィスシステムの原理に基づいている。断面の形態及び寸法、減圧段階の間隔、及び真空システムの設計により、略平行な分子線をMS分析器のイオン源にスキマーを介して直接照射することが可能になる。高い感度に加えて、結果として、分析器に到達するガスが、サンプルから放出されるガスに相当することになる。このオリフィスシステムは炉内に直接組み込まれており、従って、サンプルと実質的に同じ温度を有しているので、特に大きなフラグメントの凝縮が最小限度に抑制される。使用する加熱炉とオリフィスの組み合わせの材料に依存して、このTA-MSカップリングシステムは、2000℃にも及ぶ不活性ガスを用いても、又は1450℃にも及ぶ酸化雰囲気でも動作することができる。」

イ Fig.1 には、以下の図面が示されている。



(2) 甲1発明の認定
ア 甲1の記載事項の整理
上記(1)イの図面より、「サンプル(Sample)」は、「サンプルキャリア(Sample carrier)に置かれ」ていること、及び、「炉」の内側に管状部材が設けられ、前記管状部材の内側に「通常のオリフィス」が設けられていることが視認される。また、同図面より、「サンプル」は、管状部材に囲われた「通常のオリフィス」の下方の空間に配置されており、この管状部材の内側であって「通常のオリフィス」の下方に「試料室」が形成されたものと認められる。

イ 上記(1)ア?イの記載事項、及び、上記アで整理した事項を含む甲1の記載を総合すると、甲1には、次の甲1発明が記載されていると認められる。

「TA-MSカップリングシステムであって、第1の減圧工程が通常のオリフィスを介して達成され、第2の減圧工程がいわゆるスキマーオリフィスでなされる、二段階オリフィスシステムを備え、略平行な分子線をMS分析器のイオン源にスキマーを介して直接照射するものであり、サンプルはサンプルキャリアに置かれ、分析器に到達するガスが、サンプルから放出されるガスに相当し、前記オリフィスシステムは炉内に直接組み込まれており、炉の内側に管状部材が設けられ、前記管状部材の内側に通常のオリフィスが設けられ、前記管状部材の内側であって通常のオリフィスの下方に試料室が形成された、TA-MSカップリングシステム。」

(3) 甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。
ア「Introduction
The quantitative transfer of condensable gases or vapors from a thermobalance to a quadrupole mass spectrometer requires highly-developed, extremely sophisticated technical solutions. When such evolved products are involved, especially at higher temperatures, the conventional commercial capillary coupling quickly reaches the limit of its detection capability.
A two-stage orifice gas inlet system was developed for a simultaneous TG-DSC/DTA instrument, with consideration given the important laws of gas dynamics [1]. The initial technical realization has been described in reference [2]. A portion of the gases evolved from the sample, which are under atmospheric pressure, are drawn through the first orifice by a vacuum. A pressure reduction occurs at approx. 0.2 mbar. The second orifice (skimmer) is arranged such that a representative sample of the gas is transferred to the QMS in the form of a molecular beam.
Through technical advances and optimization, an STA with QMS skimmer coupling is now available for application up to 2000℃. Since, in addition to consideration of the laws of gas dynamics, the entire skimmer coupling system is located in the hot part of the furnace and is thus practically at sample temperature, the condensation of products evolved from the sample is prevented to the greatest extent possible. A schematic of the Skimmer coupling system is shown in Fig.1.」
(当審訳)
「 序論
熱天秤から四重極質量分析計への凝縮性ガスまたは蒸気の定量的な転送は、高度に発達し、非常に洗練された技術ソリューションを必要とする。そのような進化した製品が、特に高温下で関与する場合には、従来の市販のキャピラリーカップリングは、直ぐにその検出能力の限界に達する。
二段階オリフィスガス導入システムは、気体力学[1]の重要な法則を熟慮して、同時TG-DSC/DTA装置について開発された。初期の技術的な実現は、文献[2]に記載されている。大気圧下にあるサンプルから発生したガスの一部は、真空により、第1のオリフィスを通って吸い込まれる。減圧は、約0.2ミリバールで起こる。第2のオリフィス(スキマー)は、ガスの代表的サンプルが分子線の形でQMSに転送されるように、配置されている。
技術的な進歩と最適化を通じ、STAとQMSのスキマーカップリングは、2000℃にも及ぶ用途においても利用可能となった。気体力学の法則を考慮しただけでなく、スキマーカップリングシステム全体が、炉の高温部分に位置しており、実質的にサンプルと同温度であるので、サンプルから発生する生成物の凝縮が可能な限り防止される。スキマーカップリングシステムの概略図を図1に示す。」

イ Fig.1 には、以下の図面が示されている。


(4) 甲2発明の認定
ア 甲2の記載事項の整理
上記(3)イの図面より、「サンプル(Sample)」は、「サンプルキャリア(Sample carrier)に置かれ」ていること、及び、「炉」の内側に管状部材が設けられ、前記管状部材の内側に「第1のオリフィス」が設けられていることが視認される。また、同図面より、「サンプル」は、管状部材に囲われた「第1のオリフィス」の下方の空間に配置されており、この管状部材の内側であって「第1のオリフィス」の下方に「試料室」が形成されたものと認められる。


イ 上記(3)ア?イの記載事項、及び、上記アで整理した事項を含む甲2の記載を総合すると、甲2には、次の甲2発明が記載されていると認められる。

「STAとQMSのスキマーカップリングシステムであって、大気圧下にあるサンプルから発生したガスの一部は、真空により、第1のオリフィスを通って吸い込まれ、第2のオリフィス(スキマー)は、ガスの代表的サンプルが分子線の形でQMSに転送されるように、配置される、二段階オリフィスガス導入システムを備え、サンプルはサンプルキャリアに置かれ、スキマーカップリングシステム全体が、炉の高温部分に位置しており、炉の内側に管状部材が設けられ、前記管状部材の内側に第1のオリフィスが設けられ、また、前記管状部材の内側であって第1オリフィスの下方に試料室が形成された、STAとQMSのスキマーカップリングシステム。」


(5) 甲3の記載事項
甲3には、次の事項が記載されている。
ア「The "sampler", i.e. the first conical orifice, extracts the sample gas from the sample room. The gas expands into the intermediate vacuum (?0.1 mbar). The second, funnel-shaped orifice, the so-called skimmer dipping into the resulting compression zone produces a molecularbeam transferred on the shortest possible way to the ion source.」
(当審訳)
「「サンプラー」、すなわち、第1の円錐オリフィスは、試料室からのサンプルガスを抽出する。ガスは、中間真空(?0.1mbar)に膨張する。第2の漏斗状のオリフィスは、その結果生じる圧縮領域に入り込む、いわゆるスキマーであり、イオン源へ最短路で移送される分子線を生成する。」

イ「The results shown Section 4 were obtained exclusively by using apparatus with orifice and skimmer coupling systems, respectively. Measurements were taken under gas flow and at normal pressure. Commonly a ceramic orifice system (Al_(2)O_(3), T_(E)≦1500℃) and a stainless steel skimmer system (T_(E)≦850℃) were used, while a high-temperature skimmer system for temperatures of up to 2000℃ is currently being tested. The basic structure of the coupling systems used is shown in Fig.3 (after [38]). Principally quadrupol mass spectrometers were used as mass spectrometrical gas analyzers. 」
(当審訳)
「セクション4には、オリフィスとスキマーカップリングシステムとを備えた装置をそれぞれ使用して得られた結果のみを示す。測定は、ガス流の下で常圧で行った。一般にセラミックオリフィスシステム(Al_(2)O_(3)、TE<1500℃)およびステンレススキマーシステム(TE<850℃)が用いられ、2000℃までの高温スキマーシステムが現在試験されている。使用されたカップリングシステムの基本的な構造を図3に示す(参照符号[38])。四重極質量分析計は、主に、質量分光ガス分析器として使用した。」

ウ Fig.3には、以下の図面が示されている。


(6) 甲3発明の認定
ア 甲3の記載事項の整理
上記(5)ウの図面より、「サンプル(sample)」は、「サンプルキャリア(sample carrier)に置かれ」ていること、「カップリングシステム」が「炉(furnace)に配置されて」いること、及び、「炉(furnace)」の内側に管状部材が設けられ、前記管状部材の内側に「第1の円錐オリフィス」が設けられていることが視認される。また、同図面より、「サンプル」は、管状部材に囲われた「第1の円錐オリフィス」の下方の空間に配置されており、この管状部材の内側であって「第1の円錐オリフィス」の下方に「試料室」が形成されたものと認められる。

イ 上記(3)ア?ウの記載事項、及び、上記アで整理した事項を含む甲2の記載を総合すると、甲3には、次の甲3発明が記載されていると認められる。

「カップリングシステムであって、セラミックオリフィスシステムとステンレススキマーシステムが用いられ、第1の円錐オリフィスは、試料室からのサンプルガスを抽出し、第2の漏斗状のオリフィスは、いわゆるスキマーであり、イオン源へ最短路で移送される分子線を生成し、サンプルはサンプルキャリアに置かれ、炉に配置されており、炉の内側に管状部材が設けられ、前記管状部材の内側に第1の円錐オリフィスが設けられ、前記管状部材の内側であって第1の円錐オリフィスの下方に試料室が形成された、カップリングシステム。」


(7) 甲4の記載事項
甲4には、次の事項が記載されている。
ア「【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る昇温脱離分析装置を模式的に示す構成図である。
同図に示す昇温脱離分析装置は、試料を配置する試料室1と、この試料室1に配置された試料Sを周囲から加熱する赤外線加熱炉2(加熱手段)と、加熱により試料Sから脱離したガスが導入される測定室3と、この測定室3内を減圧するターボ分子ポンプ4(減圧手段)と、測定室3内にガス検出部5a(イオン源)が配置された質量分析計5と、試料室1と測定室3との間に設けられた中間減圧室6と、この中間減圧室6と試料室1とを連通する第1のオリフィス7と、中間減圧室6と測定室3とを連通する第2のオリフィス8とを備えている。
【0019】
試料室1は、石英ガラス製の保護管9で形成され、この保護管9の中空部内に試料Sが配置される。保護管9は、図1の左右方向に移動自在であり、試料S交換に際しては図の右方向へ移動して試料室1から取り出される。保護管9の両端面は開口しており、中空部内は大気圧となっている。保護管9の中空部内には、図の右端面(基端面)からキャリアガスが供給され、左端面(先端面)から同キャリアガスが排出される。加熱により試料Sから発生した脱離ガスは、このキャリアガスによって保護管9の先端面から送り出される。
キャリアガスとしては、ヘリウムガス等の不活性ガスが用いられる。」

イ 図1には、次の図面が示されている。


2 対比・判断
(1) 本件特許発明7と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「第1の減圧工程」を行う「通常のオリフィス」と「第2の減圧工程」を行う「スキマーオリフィス」は、本件特許発明7の「二重オリフィス」に相当し、甲1発明の「スキマーオリフィス」と「管状部材」からなる管状構造は、本件特許発明7の「二重管」に相当する。
したがって、甲1発明の「通常のオリフィス」、「スキマーオリフィス」及び「管状部材」からなる構造部、及び、当該構造部を有する「カップリングシステム」は、本件特許発明7の「二重管による二重オリフィスを有したスキマー部」、及び、「スキマー型インターフェース構造」に相当する。

イ 甲1発明の「サンプル」及び「サンプルキャリア」は、本件特許発明7の「試料」及び「試料ホルダ部」に相当する。

ウ 甲1発明の「TA-MSカップリングシステム」は、「炉内」で熱分析(Thermal Analysis、すなわち「TA」)を行うシステムを有し、当該TAシステムの「サンプルから放出されるガス」を、「二段階オリフィスシステム」を介して、「MS分析器」を備える質量分析システム(Mass Spectrometry、すなわち「MS」システム)に送るためのものであって、上記1(1)イより、当該「TA-MSカップリングシステム」は、「二段階オリフィスシステム」に臨むように、「試料室」内の「サンプルキャリア」に置かれた「サンプル」が配置されたものであり、また、MSシステムは、「スキマーオリフィス」の出口側において「第二の減圧工程」により真空状態(10^(-5)mbar)に維持されるものであることが明らかである。
そうすると、甲1発明の当該「TA-MSカップリングシステム」の構造と、本件特許発明7の「二重管による二重オリフィスを有したスキマー部が試料室内の試料ホルダ部に置かれた測定試料を臨むように配置された状態で、前記測定試料に対する加熱により当該測定試料から発生する気体成分を、前記試料ホルダ部の側から前記スキマー部の側へ向けて形成されるキャリアガス流を用いつつ、前記二重オリフィスを介して前記二重管の内側管に連通する真空室へ導入するように構成されたスキマー型インターフェース構造」とは、「二重管による二重オリフィスを有したスキマー部が試料室内の試料ホルダ部に置かれた測定試料を臨むように配置された状態で、前記測定試料に対する加熱により当該測定試料から発生する気体成分を、前記二重オリフィスを介して前記二重管の内側管に連通する真空室へ導入するように構成されたスキマー型インターフェース構造」という点で共通する。

オ 甲1発明の「管状部材」のうち「通常のオリフィスの下方」の「試料室」を形成する部分が、本件特許発明7の「前記測定試料から発生する気体成分を前記二重オリフィスへ向けて案内する機能を有した筒状体」に相当する。そして、甲1発明の「管状部材」は、「通常のオリフィス」の上方(スキマー部を形成する。)から下方(試料室を形成する。)に連続して形成されるものであるから、本件特許発明7の「前記測定試料から発生する気体成分を前記二重オリフィスへ向けて案内する機能を有した筒状体が、前記試料室のケーシングとは別に、前記スキマー部に装着可能に設けられ、または前記スキマー部の一部として設けられている」こととは、「前記測定試料から発生する気体成分を前記二重オリフィスへ向けて案内する機能を有した筒状体が、前記スキマー部の一部として設けられている」点で共通する。


(2) 以上のことから、本件特許発明7と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「二重管による二重オリフィスを有したスキマー部が試料室内の試料ホルダ部に置かれた測定試料を臨むように配置された状態で、前記測定試料に対する加熱により当該測定試料から発生する気体成分を、前記二重オリフィスを介して前記二重管の内側管に連通する真空室へ導入するように構成されたスキマー型インターフェース構造であって、
前記測定試料から発生する気体成分を前記二重オリフィスへ向けて案内する機能を有した筒状体が、前記スキマー部の一部として設けられている
スキマー型インターフェース構造。」

(相違点1)
「測定試料から発生する気体成分」を「真空室へ導入する」ことについて、本件特許発明7は、「前記試料ホルダ部の側から前記スキマー部の側へ向けて形成されるキャリアガス流を用い」ているのに対して、甲1発明は、そのような構成を有するものか不明である点。

(相違点2)
「筒状体」について、本件特許発明7は、「試料室のケーシングとは別に」設けられているのに対して、甲1発明は、そのような構成を有しない点。

(3) 上記(相違点2)を判断する。
甲1の「管状部材」は、その内部に「サンプル」を配置するものであって、「試料室」を区画する「試料室のケーシング」そのものとはいえるものの、試料室のケーシングと「別」の部材として設けられたものとはいえない。すなわち、甲1には、上記(相違点2)が記載されているとはいえない。
そして、甲4には、キャリアガス流を用いることは記載されているが(上記1(7)を参照)、上記(相違点2)に関する構成は記載されていないから、甲1発明において、甲4に記載された技術を採用しても、上記(相違点3)に関する構成とはならない。
また、甲1発明において、(相違点2)に関する構成を採用することが、単なる設計的事項であるともいえない。

(4) 申立人ネッチ ゲレーテバウ ゲーエムベーハーの主張について
上記申立人は、甲1のFig.1に基づいて、試料室の壁面には、壁面とは別の部材が配置されており、これを「protective tube」と称しているが、甲1には、「protective tube」なる記載はないし、これが「試料室のケーシング」とは「別」の部材として配置されるものであるとの記載もないから、申立人の主張には理由がない。
したがって、上記申立人の主張は採用できない。

(5) 次に、本件特許発明7と甲2発明、及び、本件特許発明7と甲3発明を、それぞれ対比・判断する。
上記1(3)?(6)で示したとおり、甲2及び甲3には、熱分析と質量分析のカップリングシステムに関して、甲1と同様の技術的事項、及び、甲1発明と同様の発明が記載されており(申立人の主張の趣旨と同様である。)、本件特許発明7と甲2発明、及び、本件特許発明7と甲3発明との一致点及び相違点も、上記(2)の(一致点)及び(相違点1)?(相違点2)と同じである。
そして、その判断については、上記(3)及び(4)で示したとおりである。

(6) よって、本件特許発明7は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲4に記載された事項、甲2発明及び甲4に記載された事項、又は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明7は、甲1発明及び甲4に記載された事項、甲2発明及び甲4に記載された事項、又は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、請求項8?9に係る発明は、本件特許発明7をさらに限定したものであるから、本件特許発明7と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、請求項1に係る発明は、本件特許発明7の「筒状体」を、「前記キャリアガス流の流れ方向に沿って延びるように配置され、当該流れ方向の上流側端に開口を有し、当該上流側端が前記測定試料の位置まで延び当該測定試料の少なくとも一部を筒内に囲うように形成されている」ものとして、さらに限定したものであるから、本件特許発明7と同様に、甲1発明及び甲4に記載された事項、甲2発明及び甲4に記載された事項、又は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、請求項2?6に係る発明は、請求項1に係る発明をさらに限定したものであるから、請求項1に係る発明と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 むすび
以上検討したとおり、本件特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?9に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-16 
出願番号 特願2012-165458(P2012-165458)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 洋平  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
田中 洋介
登録日 2016-02-19 
登録番号 特許第5885299号(P5885299)
権利者 株式会社リガク
発明の名称 スキマー型インターフェース構造  
代理人 奥山 知洋  
代理人 杉村 憲司  
代理人 福岡 昌浩  
代理人 阿部 廣美  

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