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審決分類 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 1項2号公然実施  A23L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1322563
審判番号 無効2014-800209  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-12-17 
確定日 2016-09-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5116884号発明「容器詰トマト含有飲料及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5116884号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕、10、11、12について訂正することを認める。 特許第5116884号の請求項12に係る発明についての特許を無効とする。 特許第5116884号の請求項1ないし11についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5116884号に係る出願は,平成24年2月28日に特許出願され,平成24年10月26日にその発明について特許の設定登録(請求項の数12)がなされたものである。
また、本件無効審判請求に係る経緯は、以下のとおりである。

平成26年12月17日 無効審判請求
平成27年 3月16日 審判事件答弁書提出
平成27年 3月16日 訂正請求
平成27年 4月24日 審判事件弁駁書提出
平成27年 6月18日 補正拒否の決定(許可する)
平成27年 7月23日 審判事件答弁書提出
平成27年10月 9日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成27年10月30日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成27年11月12日 口頭審理陳述要領書(2)提出(請求人)
平成27年11月13日 口頭審理
平成28年 1月25日 審決の予告
平成28年 4月 4日 訂正請求
平成28年 4月27日 弁駁書提出
平成28年 5月 9日 訂正拒絶理由通知(被請求人宛)
平成28年 5月 9日 職権審理結果通知(請求人宛)
平成28年 6月10日 審判事件答弁書提出
平成28年 6月10日 意見書提出(被請求人)
平成28年 6月10日 手続補正書提出(訂正請求書の補正)

上記平成27年3月16日付けの訂正請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2.訂正請求
2-1.補正について
(1)補正の内容
被請求人(訂正請求の請求人)により提出された平成28年6月10日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、平成28年4月4日付け訂正請求書の訂正事項4に関し、
訂正請求書第7頁2?3行に「特許請求の範囲の請求項12に「Brixが6?12であり」とあるのを、「Brixが9.46?9.56であり」に訂正し」とあるのを「特許請求の範囲の請求項12に「Brixを6?12に調整し」とあるのを、「Brixが9.46?9.56であり」に訂正し」と補正(補正事項1)し、
訂正請求書第7頁10行、第8頁5、24行、第10頁14行及び第11、12頁の表並びに訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項12において、pHの下限値が「4.4」とあるのを「4.44」と補正(補正事項2)するものである。

(2)手続補正の適否
補正事項1は、単なる誤記を補正するものであり、訂正請求書の要旨を変更するものではない。

補正事項2について検討すると、平成28年4月4日付け訂正請求書第8頁16?24行の記載によると、補正前のpHの下限値が「4.4」であることは、本件特許明細書の段落【0065】(表3)の本発明品1?4の成分量及び物性値の範囲から導き出せる構成としているが、上記(表3)におけるpHの最小値は「4.44」であることと対応していない。
また、pHの下限値については、本件特許明細書の段落【0050】に最も好ましい範囲として「4.4?4.6」が記載されているが、訂正後の請求項12において、pHの上限値並びに他の全ての数値範囲の下限値及び上限値を上記(表3)の本発明品1?4の成分量及び物性値の最小値及び最大値としているところ、pHの下限値のみを本件特許明細書の他の記載を根拠にすること、及びpHの上限値の「4.48」と有効数字桁数が相違することから、pHの下限値を「4.4」とすることは、合理性のある数値設定とはいえない。
そして、「4.44」は、有効数字を考慮すると補正前の「4.4」に含まれる。
さらに、下限値としての「4.4」は、有効数字を考慮すると「4.35」以上のものが含まれると解されることから、補正によりpHの範囲を減縮することとなり、当該補正により第三者に不利益を与えるものでもない。

以上を総合すると、本件補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法134条の2第9項で準用する特許法第131条の2第1項の規定に適合するので、当該補正を認める。

2-2.訂正の内容
被請求人は、「特許第5116884号の明細書及び特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正する」ことを求め、平成28年4月4日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、特許第5116884号に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。

(1)訂正事項1(請求項1?9に係る訂正)
請求項1?9を削除する。

(2)訂正事項2(請求項10に係る訂正)
請求項10を削除する。

(3)訂正事項3(請求項11に係る訂正)
請求項11を削除する。

(4)訂正事項4(請求項12に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項12に「Brixを6?12に調整し」とあるのを、「Brixが9.46?9.56であり」に訂正し(訂正事項4-1)、「アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、クルクミン、アルギニン、アラニンからなるアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率を0.1?0.65に調整」とあるのを「アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン、アラニンからなるアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率が0.43?0.47であり、クエン酸量が800?900mg/100mLであり、粘度が436?494cPであり、pHが4.44?4.48であるように調整」と訂正する(アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率に係る訂正を訂正事項4-2とし、クエン酸量に係る訂正を訂正事項4-3とし、粘度に係る訂正を訂正事項4-4とし、pHに係る訂正を訂正事項4-5とする)。

2-3.訂正の適否
(1)訂正事項1?3について
訂正事項1?3は、いずれも訂正前の請求項を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、同条第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項4について
訂正事項4-1は、訂正前の請求項12において「Brixを6?12に調整し」とあるのを、「Brixが9.46?9.56であり」へと数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4-2は、訂正前の請求項12において「アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率を0.1?0.65」とあるのを、「アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率が0.43?0.47であり、」へと数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4-3は、訂正前の請求項12に係る容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化抑制方法における調整の対象にクエン酸を追加し、その調整範囲を「クエン酸量が800?900mg/100mLであり、」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4-4は、訂正前の請求項12に係る容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化抑制方法における調整の対象に粘度を追加し、その調整範囲を「粘度が436?494cPであり、」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4-5は、訂正前の請求項12に係る容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化抑制方法における調整の対象にpHを追加し、その調整範囲を「pHが4.44?4.48であるように調整」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

以上の理由から、訂正事項4-1乃至4-5は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、同条第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

また、各訂正事項は、願書に添付した明細書に記載された実施例に基づいて導き出せる事項であるので、いずれの訂正事項も願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、特許法第134条の2第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するのであるので、当該訂正を認める。

なお、請求人は、平成28年4月27日付け審判事件弁駁書(第4?8頁)において、訂正事項4-1?4-5は、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲の範囲内でする訂正ではなく、いわゆる新規事項の追加に該当する旨を主張している。
その理由は、明細書の段落【0065】の(表3)において、本発明品1は「PET容器に充填した」トマト含有飲料であり、本発明品2は「缶容器に充填した」トマト含有飲料であり、本発明品3及び4は「紙容器に充填した」トマト含有飲料であることから、それらの上位概念である「容器詰」のトマト含有飲料まで一般化できないというものである。
しかし、訂正前の請求項12においても何ら容器の種類を限定しない「容器詰トマト含有飲料」とされていたことから、上記各訂正事項による訂正により「容器詰」の解釈を変更するものではないことは明らかであるので、当該訂正により新たな技術的事項を導入するものでない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。
ただし、上記請求人の主張内容については、後述する「7-2.無効理由2(サポート要件違反)」において検討する。

3.本件特許発明
本件特許第5116884号の請求項12に係る発明(以下「本件特許発明12」ともいう。)は、上記訂正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項12に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】
Brixが9.46?9.56であり、且つアスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン、アラニンからなるアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率が0.43?0.47であり、クエン酸量が800?900mg/100mLであり、粘度が436?494cPであり、pHが4.44?4.48であるように調整することを特徴とする容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化抑制方法。」

なお、以下、各アミノ酸を下記のように略記する場合がある。
アスパラギン酸:「Asp」
グルタミン酸:「Glu」
アスパラギン:「Asn」または「AspNH2」
セリン:「Ser」
グルタミン:「Gln」または「GluNH2」
アルギニン:「Arg」
アラニン:「Ala」

4.請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第5116884号の特許請求の範囲の請求項1乃至12の発明に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、請求項12に係る発明に対する無効理由の概要は、以下のとおりであると主張している。

(1)無効理由1(実施可能要件違反)
本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効の理由2(サポート要件違反)
本件特許は、その請求項12に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効の理由3(公然実施による新規性喪失、進歩性欠如)
本件特許の請求項12に係る発明は、その特許出願前に日本国内において公然実施(公然実施品1?5)をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正後の請求項12に係る発明は、当該公然実施をされた発明に基づき容易に想到できた発明であるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効の理由4(刊行物公知による新規性喪失)
本件特許の請求項12に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲第31号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(5)無効の理由5(進歩性欠如、予備的な主張)
本件特許の請求項12に係る発明は、その特許出願前に当業者が特許法第29条第1項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(6)無効の理由6(公然実施による新規性喪失)
請求項12に係る発明は、その特許出願前に日本国内において公然実施(公然実施品6)をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(7)無効の理由7(進歩性欠如)
請求項12に係る発明は、その特許出願前に日本国内において公然実施(公然実施品6)をされた発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

また、請求人は、証拠方法として、以下の甲第1号証ないし甲第58号証を提出している。

[証拠方法]
甲第1号証:本件特許登録原簿
甲第2号証:東尾久雄、外3名、「トマトジュースの嗜好性と加工法との関係」、日本食品化学工学会誌、第46巻、第6号、1999年6月
甲第3号証:社団法人日本果汁協会監修、「最新果汁・果実飲料事典」、朝倉書店、1997年10月1日
甲第4号証:小俣靖、「”美味しさ”と味覚の科学」、日本工業新聞社、1986年10月1日
甲第5号証:山本由喜子、外1名、「デンプン溶液の味覚強度(塩味・甘味)におよぼす粘度の影響」、日本調理科学会誌、Vol.32、 No.4(1999)
甲第6号証:西村敏英、「新規こく付与物質の特性と食品への応用」、日本食品科学工学会第61回大会講演集、2014年8月28日
甲第7号証:“Free Amino Acid Stability in Reducing Sugar Systems”、 JOURNAL OF FOOD SCIENCE、Volume 60、 No.2、 1995
甲第8号証:藤巻正生、「食糧保蔵学」、朝倉書店、1980年3月25日
甲第9号証:カゴメ「SWEET RUBY 11.2.10」の外観写真、2013年5月24日撮影
甲第10号証:カゴメ「SWEET RUBYトマトジュース 500g」の調合チェック表の写し、JA全農やまぐち萩加工場
甲第11号証:「2010 伊勢丹の贈り物」(「SWEET RUBY」2010年ギフト用カタログ)
甲第12号証:カゴメ「SWEET RUBY 12.2.9」の外観写真、2013年5月24日撮影
甲第13号証:カゴメ「SWEET RUBYトマトジュース 500g」の調合チェック表の写し、日本果実工業株式会社 萩工場
甲第14号証: 「2011 伊勢丹の贈り物」(「SWEET RUBY」2011年ギフト用カタログ)
甲第15号証:カゴメ「夏しぼり2010」の外観写真、2013年5月24日撮影
甲第16号証:カゴメ「夏しぼり旬のトマトジュース」の包装荷姿規格第4版の写し
甲第17号証:カゴメ「夏しぼり2010」の全面広告(産経新聞夕刊)、2010年8月26日
甲第18号証:カゴメ「夏しぼり2011」の外観写真、2013年5月24日撮影
甲第19号証:カゴメ「夏しぼり旬のトマトジュース」の包装荷姿規格第5版の写し
甲第20号証:カゴメ「夏しぼり2011」の広告(毎日新聞夕刊)、2011年9月12日
甲第21号証:カゴメ「野菜一日これ一本」の外観写真、2013年5月24日撮影
甲第22号証:「トマトのチカラで後味すっきり!「野菜一日これ一本」シリーズ リニューアル」のニュースリリース、2008年9月11日
甲第23号証:「分析試験成績書 カゴメ(株)SWEET RUBY11.2.10 17:02」、一般財団法人 日本食品分析センター、第13049736001-01号、2013年8月12日
甲第24号証:「分析試験成績書 カゴメ(株)SWEET RUBY12.2.9 15:07」、一般財団法人 日本食品分析センター、第13049736002-01号、2013年8月12日
甲第25号証:「分析試験成績書 カゴメ(株)夏しぼり2010 2012.8. 21 B00821 V00」、一般財団法人 日本食品分析センター、第13049736003-01号、2013年8月12日
甲第26号証:「分析試験成績書 カゴメ(株)夏しぼり2011 2013. 8.25 B10825 001」、一般財団法人 日本食品分析センター、第13049736004-01号、2013年8月12日
甲第27号証:「分析試験成績書 カゴメ(株)野菜一日これ一本 2012.12.24 B01224 N23」、一般財団法人 日本食品分析センター、第13049736005-01号、2013年8月12日
甲第28号証:弁護士・弁理士 岩坪哲が作成した「報告書」、2014年11月28日
甲第29号証:カゴメ株式会社の従業員が作成した「Sweet Ruby経時変化試験報告書」、2014年12月1日
甲第30号証:カゴメ株式会社の従業員が作成した「市場品評価第1報?2010年度トマトジュースの品質評価結果?」(カゴメ株式会社研究報告書)の写し
甲第31号証:特開2006-187233号公報
甲第32号証:望月龍也、外2名、「トマト果実の有機酸組成とその品種間差位」、東北農業研究、第40号(1987)
甲第33号証:「誠和ラボ ロックウールトマトだより-第26便-」(株式会社誠和ホームページ)、2010年3月30日
甲第34号証:山野善正、外1名、「缶入り天然ジュースの物性測定」、香川大学農学部学術報告、第26巻、第2号(1975)、1974年11月30日
甲第35号証:特開平11-113542号公報
甲第36号証:特開2009-11287号公報
甲第37号証:特開2009-159818号公報
甲第38号証:「食品加工および資材の新知識」、New Food Industry、1月号Vol.23、NO.1、食品資材研究会、1981年1月1日
甲第39号証:「主なSI単位への換算率表」
甲第40号証:味の素譁ライフサイエンス研究所主任研究員 河合美佐子、「シリーズ“アミノ酸”No.18 アミノ酸の味 その2」、Ajico News、No.209、2003年6月
甲第41号証:カゴメ株式会社の従業員が作成した「Sweet Ruby 追加試作報告書」、2015年4月20日
甲第42号証:カゴメ株式会社の従業員が作成した「Sweet Ruby 追加分析試験報告書」、2015年4月20日
甲第43号証:Amazonホームページ「Celeb De TOMATOあいこ(小)」
甲第44号証:Amazonホームページ「Celeb De TOMATOあいこ(大)」
甲第45号証:カゴメ株式会社の従業員が作成した「市場品評価第1報?2010年度トマトジュースの品質評価結果?」(カゴメ株式会社研究報告書)の写し
甲第46号証の1:「分析試験成績書 検体名Ai150805」、一般財団法人 日本食品分析センター、第14125641002-01号、2014年12月23日
甲第46号証の2:「分析試験成績書 検体名Ai150805」、一般財団法人 日本食品分析センター、第14125641002-02号、2014年12月23日
甲第46号証の3:「分析試験成績書 検体名Ai150805」、一般財団法人 日本食品分析センター、第14125641002-03号、2014年12月23日
甲第46号証の4:「分析試験成績書 検体名Ai150805」、一般財団法人 日本食品分析センター、第14125641002-04号、2014年12月23日
甲第47号証:特許第5116884号公報(本件特許公報)
甲第48号証の1:拒絶理由通知書(起案日平成24年6月27日)
甲第48号証の2:拒絶査定(起案日平成24年8月14日)
甲第48号証の3:審判請求書(平成24年8月27日付)
甲第49号証の1:明細書
甲第49号証の2:拒絶理由通知書(起案日平成24年4月12日)
甲第49号証の3:意見書(平成24年6月4日付)
甲第49号証の4:手続補正書(平成24年6月4日付)
甲第50号証:「テトラパック アセプティック容器のご案内」、日本テトラパック株式会社、2012年10月
甲第51号証:芹沢全理、「清涼飲料水の製造技術(5)茶系飲料およびコーヒー飲料の製造」、食品と容器、Vo1.49、No.10、第602-609頁、缶詰技術研究会/大和製罐株式会社、2008年10月1日
甲第52号証:社団法人全国清涼飲料工業会、外1名監修、「最新・ソフトドリンクス」、株式会社光琳、平成15年年9月30日、第358頁、580-584頁
甲第53号証:カゴメ株式会社の従業員が作成した陳述書「『Celeb de TOMATO あいこ』等の購入及び分析について」、2015年10月5日
甲第54号証:証憑台紙(事業所出納)及び納品書
甲第55号証:証憑台紙(事業所出納)及び納品書
甲第56号証:カゴメ株式会社の従業員が作成したラボノート
甲第57号証:カゴメ株式会社の従業員が作成した陳述書「Celeb de TOMATO”あいこ”の糖度測定結果について」、2015年6月12日
甲第58号証:カゴメ株式会社の従業員が作成した「報告書」、2015年7月14日

なお、甲第10号証、甲第13号証、甲第16号証、甲第19号証、甲第30号証及び甲第45号証は写しを原本として書証申出されたものである。
また、当事者間に甲第1ないし58号証の成立に争いはない。

以下、甲第9?11号証に係る製品(SWEET RUBY)を「製品1」、
甲第12?14号証に係る製品(SWEET RUBY)を「製品2」、
甲第15?17号証に係る製品(夏しぼり2010)を「製品3」、
甲第18?20号証に係る製品(夏しぼり2011)を「製品4」、
甲第21?22号証に係る製品(野菜一日これ一本)を「製品5」及び
甲第44号証に係る製品(Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)トマトジュースあいこ(大))を「製品6」という(それぞれ審判請求書等の「公然実施品1?6」に対応)。

5.被請求人の主張
被請求人は、「本審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張に対し、請求人の主張には何れも理由がないものである旨の主張をしている。

また、被請求人は、証拠方法として、以下の乙第1号証ないし乙第18号証を提出している。

[証拠方法]
乙第1号証:特開2012-223141号公報
乙第2号証:特開2000-60454号公報
乙第3号証:特開2007-195415号公報
乙第4号証:特開平9-225号公報
乙第5号証:特願2012-173265号に対する起案日平成25年2月12日の拒絶理由通知書
乙第6号証:”Comparison of different methods for deacidification of clarified passion fruit juice”、Journal of Food Engineering、vol.59、2003、p361-367及び抄訳
乙第7号証:足立由郎、外2名、「トマト製品の褐変機構に関する研究」、日本食品工業学会誌、第17巻第8号、1970年8月,p.337-342
乙第8号証:三木登、「製造工程中の加熱によるトマトジュースの色および化学成分の変化」、日本食品工業学会誌、第21巻、第2号、1974年2月、p.76-80
乙第9号証:特開2009-232718号公報
乙第10号証:株式会社伊藤園、「経時試験報告書」の写し
乙第11号証:田島眞、「トマトの市場価格と品質成分値との関連」、フードシステム研究、第1巻、第1号、1994年12月27日、p.74-81
乙第12号証:特開平7-96994号公報
乙第13号証:特開2009-112229号公報
乙第14号証:異議2000-70449号の異議の決定公報
乙第15号証:JIS標準ふるい表抜粋
乙第16号証:株式会社伊藤園の従業員が作成した「実験成績証明書」の写し
乙第17号証:「八百屋へ行こう!東京都青果物商業協同組合」(http://www.shoukumi.or.jp/htdocs/yj/2009/090823/yj_090823_01.htm)と題するウェブページのプリントアウト
乙第18号証:東京地裁平成24年(ワ)第36311号判決

なお、乙第10号証及び乙第16号証は写しを原本として書証申出されたものである。

6.甲各号証の記載事項
甲第2?42、49?46の4、50?56号証には、以下の各事項が記載されている。

[甲第2号証]
「トマトジュースの嗜好性と加工法との関係」と題し、
(2a)第412頁に「表2 市販トマトジュースの特性比較-2(アミノ酸組成,mg/100ml)」として、各市販トマトジュースのアミノ酸組成の値が記載されている。

(2b)第414頁に「表3 既知成分を添加調整した市販(A社製品)トマトジュースによる嗜好調査結果」及び「表5 試験室レベルで試作調製したトマトジュースの品質特性と嗜好調査結果」として、各供試サンプルのグルタミン酸(%)が記載されている。

[甲第3号証]
(3a)第22、23頁の「2.2 果汁の風味 2.2.1甘 酸 味」の項に、「なかでも甘味と酸味は甘酸味として一体となった刺激を与え,これが果汁の重要な品質要素である。」、「果汁の快適な甘酸味を与える糖と酸の濃度範囲は,・・・その糖度と酸含量の関係式は,6X+8>Y>6X+6」と記載されている。

(3b)第33、34頁の「アミノ酸組成」の項に、「アミノ酸含量が少ないが,これらは味覚の上からいわゆるこく味を形成している重要な成分である。アミノ酸の種類やその含有量は果実の種類や熟度によりかなりの差異があり,JASでは果実飲料の品質基準として,果実の種類ごとにアミノ態窒素含有量を規定している。」及び「温度が高いほど褐変化は進み,それに伴いアミノ酸も減少し」と記載されている。

(3c)第273頁の「3.1.1 製造上の要点」の項に、「果汁の味については甘味(糖)と酸味(酸)の濃度とバランスが重要である。」と記載されている。

(3d)第403頁の「7.1.3 フィラーおよびキャッパー」の項に、「どのような液(粘度,発泡性,腐食性,パルプの有無)を充てんするのか条件を踏まえて充てん方式を決定すべきである。」と記載されている。

(3e)「7. 充てん装置」として、第406頁 に「7.2 缶詰装置」の項、第411頁 に「7.3 PETボトル(ライン)」の項、第415頁 に「7.4 紙容器」の項がある。

[甲第4号証]
(4a)第34頁の「4 「食物」の”美味しさ”と味覚 「食物」の美味しさと五感」と題し、「「食物」の味とか”美味しさ”を決める要素を表6にすべてあげてあるが、たくさんのいろいろな要素が絡み合っていることに驚かれると思う。」と記載されている。

(4b)第134?136頁に「甘味物質について・・・甘味の強さはα型を一としたとき、β型は〇.六六六程度・・・一方、D-フラクトース(D-果糖)は果実類に多く、快い甘味をもつものであるが、このものはD-グルコースとは反対にβ型の方が強い甘味をもつ。β型を一とするとα型フラクトースの甘味は〇.三三である。」と記載されている。

(4c)第191頁の「味覚と温度」の項に、「味覚が摂取されたものの温度に強く影響されることは前述の通りで、・・・」と記載されている。

[甲第5号証]
(5a)「デンプン溶液の味覚強度(塩味・甘味)におよぼす粘度の影響」と題し、第336頁に「そして塩味(Fig.4a)も甘味(Fig.4b)も,味覚強度が顕著に低下するのは,このような粘度が急上昇するような温度範囲であった。・・・粘度の上昇により甘味や風味の強度が低下する・・・トマトジュース・・・」と記載されている。

[甲第6号証]
(6a)「新規こく付与物質の特性と食品への応用」と題し、第43頁に「しかし、「こく」に対するきちんとした定義がないのが現状である。」と記載されている。

[甲第7号証]
(7a)“Free Amino Acid Stability in Reducing Sugar Systems”と題し、第406頁に「Fig.1-Absorbance changes during storage.Data at 0-time was after sterilzation.(A)-Amino acid solution containing glucose,stored at 50℃ and pH5.5(■),pH6.5(◆) and pH7.5(▲)・・・(C)-Amino acid solution at pH7.5 stored at 50℃ and containing 9.13%(w/w) sucrose (■), 6.39%(w/w) sucrose and 2.74%(w/w) glucose(◆), 2.74%(w/w) sucrose and 6.39%(w/w) glucose(▲)or 9.13%(W/W) glucose(★).」と説明され、グラフA?Dとして、吸光度(Absorbance)の日数(Time(Days))に対する変化が記載されている。

[甲第8号証]
(8a)第165頁の「a.メイラード反応」の項に、「図54」として、「糖の褐変分解とpHの関係」がグラフとして記載されている。

[甲第9号証]
(9a)ペットボトル飲料「SWEET. RUBY」の写真である。
1頁目に、キャップに「11.2.10」と印され、「KAGOME」、「SWEET. RUBY」と印されたラベルを備えたペットボトルの写真が示されている。
同じく2頁目には、キャップに「11.2.10」と印されている。
同じく3頁目には、「KAGOMEスウィートルビー」、「●品名:トマトピューレー●原材料名:トマト●内容量:500g●賞味期限:キャップに記載●保存方法:直射日光を避け、常温で保存して下さい。●販売者:カゴメ株式会社NKH名古屋市中区錦3丁目14-15」、「※品名は『トマトピューレー』ですが、本商品は飲用を目的として製造されたジュースです。」と記載されている。

[甲第10号証]
(10a)JA全農やまぐち萩加工場の「調合チェック表」の写しである。
「調合チェック表」の下の、「ブランド」の欄に、「カゴメ」、「品名」の欄に「SWEET RUBYトマトジュース 500g」、「製造年月日」の欄に「100517」と記載されている。
「一次検定」の「Bx」の欄に「11.63」、「二次検定」の「Bx」の欄に「11.05」と記載されている。

[甲第11号証]
(11a)伊勢丹の「2010伊勢丹の贈り物」のカタログであって、1頁目には、「2010伊勢丹の贈り物ISETAN summer gift」、「ギフトセンターのご案内」として「6月16日(水)?7月19日(月・祝)」、「■新宿店・・・・・本館6階」、「■松戸店・・・・・本館10階」、24頁には、「<カゴメ>スウィートルビー」、「約7500種のトマト品種をもつ<カゴメ>が完熟のおいしさを追求。世界中の産地を巡って品種、収穫時期、畑を限定し選び抜いた、甘い甘いポルトガル産露地栽培完熟トマトを搾汁しました。」、3頁目には、「※インターネット・郵便・FAXでのお申し込みも承ります。」と記載されている。

[甲第12号証]
(12a)ペットボトル飲料「SWEET. RUBY」の写真である。
1頁目に、キャップに「12.2. 9」と印され、「KAGOME」、「SWEET. RUBY」と印されたラベルを備えたペットボトルの写真が示されている。
2頁目には、キャップに「12.2. 9」と印されている。
3頁目には、「KAGOMEスウィートルビー」、「●品名:トマトピューレー●原材料名:トマト●内容量:500g●賞味期限:キャップに記載●保存方法:直射日光を避け、常温で保存して下さい。●販売者:カゴメ株式会社NKH名古屋市中区錦3丁目14-15」、「※品名は『トマトピューレー』ですが、本商品は飲用を目的として製造されたジュースです。」と記載されている。

[甲第13号証]
(13a)JA全農やまぐち萩加工場の「調合チェック表」の写しである。
「調合チェック表」の下の、「ブランド」の欄に、「カゴメ」、「品名」の欄に「SWEET RUBYトマトジュース 500g」、「製造年月日」の欄に「110516」と記載されている。
「一次検定」の「Bx」の欄に「12.35」、「二次検定」の「Bx」の欄に「11.11」と記載されている。

[甲第14号証]
(14a)伊勢丹の「2011伊勢丹の贈り物」のカタログであって、1頁目には、「2011伊勢丹の贈り物ISETAN summer gift」、「ギフトセンターのご案内」として「6月15日(水)?7月18日(月・祝)」、「■新宿店・・・・・本館6階」、「■松戸店・・・・・本館10階」、61頁には、「<カゴメ>スウィートルビー」、「フルーツのように甘いトマトです。<カゴメ>が世界中の産地を巡って見い出した甘い甘いポルトガル産トマトを使用。独自の搾汁・濃縮技術で糖度11度に仕上げました。」、60頁の下欄には、「インターネットでも承ります。」と記載されている。

[甲第15号証]
(15a)缶入りトマトジュース「夏しぼり2010」の写真である。
1頁目には、缶の側面に「KAGOME」、「夏しぼり2010」、「トマト100%食塩・砂糖不使用」と印されている。
3頁目には、缶の底に「2012. 8.21 B00821 V00」と印されている。
4頁目には、「●品名:トマトジュース●原材料名:トマト●内容量:190g●賞味期限:缶底上段に記載●製造者:カゴメ株式会社KGMT 名古屋市中区錦3丁目14-15」と記載されている。

[甲第16号証]
(16a)「包装荷姿規格」であって、制定日「09/07/10」、「この規格は、夏しぼり旬のトマトジュースの包装荷姿規格について規定する。」と記載されている。

[甲第17号証]
(17a)平成22年(2010年)8月26日付けの産経新聞夕刊に掲載された【全面広告】であって、「産経 いいもの通販セレクション」としてカゴメ「夏しぼり」について記載され、その申込に係り「9月中旬より順次お届け。」と記載されている。

[甲第18号証]
(18a)缶入りトマトジュース「夏しぼり2011」の写真である。
1頁目には、缶の側面に「KAGOME」、「夏しぼり2011」、「トマト100%食塩・砂糖不使用」と印されている。
3頁目には、缶の底に「2013. 8.25 B10825 001」と印されている。
4頁目には、「●品名:トマトジュース●原材料名:トマト●内容量:190g●賞味期限:缶底上段に記載●製造者:カゴメ株式会社KGMT 名古屋市中区錦3丁目14-15」と記載されている。

[甲第19号証]
(19a)「包装荷姿規格」の写しであって、制定日「10/08/25」、「この規格は、夏しぼり旬のトマトジュースの包装荷姿規格について規定する。」と記載されている。

[甲第20号証]
(20a)2011年(平成23年)9月12日付けの毎日新聞夕刊に掲載された広告であって、「1年に1度だけ、通販限定の特別なトマトジュース」としてカゴメ「夏しぼり」について記載され、その申込に係り「9月中旬より順次お届け。」と記載されている。

[甲第21号証]
(21a)缶入り野菜ジュース「野菜一日これ一本」の写真である。
1頁目には、缶の側面に「KAGOME」、「野菜一日これ一本」、「25種類の野菜」、「食塩・砂糖無添加 野菜汁100%」と印されている。
3頁目には、缶の底に「2012.12.24 B01224 N23」と印されている。
4頁目には、「●品名:野菜ミックス濃縮ジュース●原材料名:野菜(トマト、にんじん、赤ピーマン、メキャベツ(プチヴェール)、ケール、ほうれん草、しょうが、ブロッコリー、レタス、セロリ、キャベツ、クレソン、パセリ、かぼちゃ、アスパラガス、たまねぎ、モロヘイヤ、ビート、だいこん、小松菜、紫いも、あしたば、 はくさい、なす、ごぼう)、レモン果汁●内容量:190g●賞味期限:缶底上段に記載●製造者:カゴメ株式会社KGMT 名古屋市中区錦3丁目14-15」と記載されている。

[甲第22号証]
(22a)カゴメ株式会社からのニュースリリースであって、「トマトのチカラで後味すっきり!「野菜一日これ一本」 シリーズ リニューアル?栄養強化剤、保存料、着色料、香料不使用?」と題し、
1頁目には、「「野菜一日これ一本」シリーズは、2004年8月に280gPETボトルを発売してから、・・・商品になりました。」と記載されている。

(22b)2頁目には、
「 商品名 容量・荷姿 ・・・ 賞味期限(開封前)
野菜一日これ一本 190g/30 ・・・ 2年 」、
「■発売日
1000ml紙パック・・・2008年9月下旬から順次
上記以外・・・・・・・・・2008年10月中旬から順次」と記載されている。

[甲第23?27号証]
(23?27a)一般財団法人 日本食品分析センターが2013年8月12日付けで作成した製品1?5に係る「分析試験成績書」であって、製品1?5について下記の成分及び物性値が示されている。


[甲第28号証]
(28a)弁護士・弁理士 岩坪哲が2014年11月28日に作成した「報告書」であって、公然実施品1?5について、それぞれの成分分析までの保管場所及び保管状態が報告されている。
保管状態については、公然実施品1?5は、それぞれ製造後は「冷蔵庫にて温度4℃の状態で保管」または「室温の状態で保管」され、賞味期間経過後は「冷蔵庫にて温度4℃の状態で保管」されていたものである旨が報告されている。

[甲第29号証]
(29a)カゴメ株式会社の従業員が2014年12月1日に作成した「Sweet Ruby経時変化試験報告書」であって、「1.目的
Sweet Rubyの保管中の測定値変化を確認することを目的として試験を実施した。
2.試験サンプルの作成
作成日:2013.5.29 作成者:当職
作成品名:Sweet Ruby 作成場所:当社研究開発本部3F飲料試作室
作成方法
Sweet Ruby製造基準書(2010/5/10第1次改訂 文書番号KGQA411)(添付資料1)に依拠して作成を行った。・・・これを製造基準書の製品規格に従ってBrixが11.0になるよう、遠心処理しないROと混合した・・・混合液を90℃まで加熱し、蒸発分の水分調整を行った後、pHを4.4未満に調整するためにクエン酸を添加して、小型ペットボトルにホットパック充填した・・・充填したサンプルは、測定日まで、37℃の定温倉庫にて測定日まで保管した。」
測定項目として、「Brix」、「アミノ酸(Glu,Asp,Asn,Ser,Gln,Arg,Ala)」、「pH」、「クエン酸」及び「B型粘度」が記載されている。
「4.測定結果 Brix、酸分、Glu/(Glu,Asp,Asn,Ser,Gln,Arg,Ala)、pH、クエン酸、B型粘度(1mPa・s=1cPのため、グラフ中ではcPとして記載)は保管期間中に大きな変化は見られなかった。」と記載されている。
また、それぞれの相当月数に対する変化がグラフとして示してある。

(29b)資料1として「製造基準書」及び「配合規格書」が添付され、それぞれ製造基準及び配合規格が記載されている。

(29c)資料2として、2014年11月○日付けカゴメ株式会社従業員による「測定値一覧」が添付され、保管日数(37℃保管)に対する、ヶ月相当、Brix、pH、酸分、粘度、クエン酸、Glu/(Glu,Asp,Asn,Ser,Gln,Arg,Ala)の各値が示されている。

[甲第30号証]
(30a)カゴメ株式会社の従業員が作成した「市場品評価第1報?2010年度トマトジュースの品質評価結果?」(カゴメ株式会社研究報告書)のスクリーンショット(写し)であると認められる(甲第45号証と同じもの)。
「カゴメ 旬のトマトジュース 夏しぼり2010」について、「RI% 6.1」、「クエン酸 0.55%」及び「遊離アミノ酸含量(mg%) Glu:199 Asp:91 Asn:33 Gln:92 Ala:14 Ser:9 Arg:6」であることが示されている。

[甲第31号証]
(31a)「【請求項1】
トマトをエステラーゼで処理することを特徴とするトマト香味の増強方法。
【請求項2】
更にプロテアーゼ、配糖体分解酵素およびセルラーゼから選ばれる1種または2種以上で処理することを特徴とする請求項1に記載のトマト香味の増強方法。
【請求項3】
トマトをエステラーゼで処理することを特徴とする香味の増強されたトマト酵素処理物の製造方法。
【請求項4】
更にプロテアーゼ、配糖体分解酵素およびセルラーゼから選ばれる1種または2種以上で処理することを特徴とする請求項3に記載の香味の増強されたトマト酵素処理物の製造方法。
【請求項5】
配糖体分解酵素がβ-グルコシダーゼ、β-キシロシダーゼおよびβ-プリメベロシダーゼから選ばれる1種または2種類以上である請求項2または4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
エステラーゼ、プロテアーゼおよびセルラーゼのいずれかが動物、植物(トマトを除く)または微生物由来である請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
トマトが加熱殺菌したトマトである請求項1?6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかの方法により得られる香味の増強されたトマト酵素処理物。」

(31b)「【技術分野】
【0001】
本発明はトマトの酵素処理による香味の増強方法または香味の増強されたトマト酵素処理物の製造方法に関する。」

(31c)「【0008】
本発明の目的は、トマトの風味前駆体を効率よく分解することにより、風味前駆体を有効に利用し、味および香気が増強されたトマト酵素処理物(トマトピューレ、トマト粉砕物、トマトジュースまたはトマト濃縮物)を提供することである。」

(31d)「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来のトマト加工品、もしくはトマトに配糖体分解酵素のみを作用させた場合、または、トマトにプロテアーゼおよびセルラーゼを作用させた場合等に比較し、はるかに香味の増強されたトマト処理物を提供することができる。」

(31e)「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の方法において原料で使用しうるトマトは、トマト(Lycopersicon esculentum)の果実であれば、特に品種は問わず、いかなる品種でも使用することができる。また、トマトの使用形態は特に限定されず、トマトを生あるいは加熱殺菌後、粉砕物、搾汁物、抽出物、濃縮物(トマトペースト、トマトピューレ)、またはその希釈物(液)としたものいずれでも使用することができる。このうち、加熱殺菌したトマトを使用することが、その後の安定性の向上のため好ましい。」

(31f)「【0022】
かくして得られるトマト酵素処理物は、例えば、ケチャップ、ソース類、シーズニング類等の調味料等、ジュース、野菜飲料、アルコール飲料等のドリンク類、パン等の主食、キャンディー、クラッカー、ケーキ、クッキー、ゼリー等の菓子類などに食品で通常用いられる任意成分と共に配合することができる。」

(31g)「【実施例
【0024】
実施例1
市販の生のトマト(桃太郎 T-93 新潟産 11個)1222gを水洗浄した後、40分間蒸煮した後、40℃まで冷却、ミキサーにて粉砕し、加熱トマトホモジネート1195gを得た。得られたホモジネートはpH4.39、屈折糖度(Bx)7.96°であった。このホモジネートを90℃達温殺菌後、40℃まで冷却し、ブタ膵臓由来エステラーゼ(シグマ社製)0.01gを加え、40℃で16時間静置して反応させ、90℃達温殺菌後、35℃まで冷却し、40メッシュ金網にて固形物を除き、酵素処理トマト分離液(発明品1)1002gを得た。発明品1のpHは4.37、屈折糖度(Bx)8.21°であった。
【0025】
実施例2
酵素としてブタ膵臓由来エステラーゼ(シグマ社製)0.01gおよびプロテアーゼM(天野エンザイム社製)1.22gを添加する以外は実施例1と全く同様に処理し、酵素処理トマト分離液(発明品2)1073gを得た。発明品2のpHは4.37、屈折糖度(Bx)8.41°であった。
【0026】
実施例3
酵素としてブタ膵臓由来エステラーゼ(シグマ社製)0.01gおよびエムルシン(シグマ社製)55ユニットを添加する以外は実施例1と全く同様に処理し、酵素処理トマト分離液(発明品3)1074gを得た。発明品3のpHは4.39、屈折糖度(Bx)8.47°であった。
【0027】
実施例4
酵素としてブタ膵臓由来エステラーゼ(シグマ社製)0.01gおよびセルラーゼT1.22gを添加する以外は実施例1と全く同様に処理し、酵素処理トマト分離液(発明品4)1154gを得た。発明品4のpHは4.39、屈折糖度(Bx)8.98°であった。」

(31h)「【0031】
実施例5
(官能評価)
実施例1?4および比較例1?3のトマト分離液について、良く訓練された10名のパネラー(男子5名、女子5名)にて官能評価を行った。香りの評価項目として「甘さ」、「酸っぱさ」、「フルティーさ」、「フレッシュさ」の4項目、味の評価項目として「旨味」、「酸味」、「甘味」の3項目を設定し、それぞれの項目について評価し採点した。採点基準は酵素未処理液(比較例1)を香り、味の各項目とも全て5点とし、最も官能的に好ましいものを10点として、10名の採点を平均した。さらに香り(4項目)の平均点および味(3項目)の平均点をそれぞれ算出し、得られた香りと味の平均点を平均し総合評価とした。結果を表1に示す。」

(31i)「【0043】
実施例7
(アミノ酸分析)
また、実施例1?4および比較例1?3により得られたトマト分離液について、アミノ酸分析を行い、アミノ酸の差について比較した。結果を表3に示す。なお、アミノ酸分析は日立高速アミノ酸分析計 L-8800Aによって行った。
【0044】
【表3】

【0045】
表3より、酵素未処理トマト分離液(比較品1)に多いアミノ酸としてはグルタミン酸、グルタミン、GABA、アスパラギン酸等であることが示される。また、プロテアーゼを作用させた本発明品2および比較品3のアミノ酸総量は比較品1、2および本発明品1、3、4と比べて約1.15倍多くなっており、特にグリシン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、リジン、アルギニン等が大きく増加していた。一方酸性アミノ酸にはあまり変化はなかった。」

[甲第32号証]
(32a)「トマト果実の有機酸組成とその品種間差位」と題し、その第279頁右欄の「3 試 験 結 果 (1) 有機酸組成の検討」の項に
「トマト果汁に最も多く含まれている有機酸はクエン酸とリンゴ酸であり,前者の含有量は約0.5-0.6%」と記載されている。

[甲第33号証]
(33a)「ロックウールトマトだより-第26便-」と題し、その末行に
「トマト果実に含まれるクエン酸の量は0.5?0.6%程度との報告があります。」と記載されている。

[甲第34号証]
(34a)「缶入り天然ジュースの物性測定」と題し、その第136頁の「Table 1 Test samples」に
「Tomato Juice」の「Specific gravity g・cm^(-3)」が「1.03」であることが記載されている。

[甲第35号証]
(35a)段落【0018】に
「従来のトマトジュース(660cp)」と記載されている。

[甲第36号証]
(36a)「【0009】
本発明においては、まず、原料トマトジュースの粘度を20℃にて250mPa・s以上3000mPa・s以下の範囲に調整する。なお、本発明における原料トマトジュースとしてはトマトを原料とした液状物質であればいずれも使用可能であり、例えば、トマト搾汁液、トマト濃縮液(トマトピューレ、トマトペースト等)などが挙げられ、更に、他の成分を含有していても良い。このような原料トマトジュースを上記範囲の粘度に調整して使用する。」

[甲第37号証]
(37a)「【0014】
原料である野菜汁及び/又は果汁は、野菜及び/又は果物を常法、例えば、スクリュープレスにより搾汁した後、必要に応じて濃度調整を行うことにより得ることができ、その粘度は特に限定されないが、100?2000mPa・s(B型粘度計,20℃)であるのが好ましい。本発明によれば、このような粘度の野菜汁及び/又は果汁を、水不溶性固形分を除去することなく、より低い粘度で喉越し良好な野菜汁及び/又は果汁にすることができる。」

[甲第38号証]
(38a)「食品加工および資材の新知識」と題し、第85頁の「図2 食品粘度データ図」に、「トマトジュース」の粘度が「8×10^(1)?6×10^(2)mPa・s(cP)」であることが矢印により記載されている。

[甲第39号証]
(39a)「主なSI単位への換算率表」と題し、「粘度単位換算表」に、
「1 Pa・s」=「1×10^(3)cP」であることが記載されている。

[甲第40号証]
(40a)「アミノ酸の味 その2」と題し、
第5頁目に、「表2 アミノ酸の構造と呈味特性」が掲載され、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン、アラニンのそれぞれの呈味特性が記載されている。

[甲第41号証]
(41a)カゴメ株式会社の従業員が2015年4月20日に作成した「Sweet Ruby 追加試作報告書」であって、
「1.目的
加熱によるアミノ酸の変化を確認することを目的として,Sweet Rubyの試作を実施した。」
「・調整方法
Sweet Ruby製造基準書(添付資料1)に依拠して作成を行った。・・・製品規格に従い、Brixが11.0、酸分が0.50、pHが4.29となるよう蒸留水にて調整した・・・。」
「・加熱方法
上記調整を行ったものを、以下4条件にて加熱処理を行った。
・・・
・加熱殺菌の結果については甲第42号証を参照されたい。」

(41b)資料1として「製造基準書」及び「配合規格書」が添付され、それぞれ製造基準及び配合規格が記載されている。

[甲第42号証]
(42a)カゴメ株式会社の従業員が2015年4月20日に作成した「Sweet Ruby 追加分析試験報告書」であって、
「試験概要・結果
Sweet Rubyを試作し、ラボ機により加熱殺菌し、殺菌条件の違いによるアミノ酸の挙動を確認した。
結果、熱によるグルタミンの減少は見られるものの、Brix、pH、グルタミン酸/本件特許のアミノ酸群(7種)の値について、ほぼ変化が見られなかった。」と記載されている。

[甲第44号証]
(44a)Amazon.co.jpの「Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)トマトジュースあいこ(大)500ml」の商品についてのウェブページを2014年11月6日に出力したものであると認められる。
「Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)トマトジュースあいこ(大)500ml」の商品について、その容器外観を写した写真とともに、以下の記載がなされている。
「・原材料:北海道名寄産ミニトマト
・内容量:500ml
・賞味期限:1年(常温)
・保存方法:常温(但し、直射日光を避け、開封後は冷蔵庫で保管し、1週間以内にお召し上がり下さい。
・糖度:10度以上、無塩」

(44b)「商品の情報」の「詳細情報」には、「ブランド Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)」、「容器の種類 瓶」、「メーカー名 Celeb de TOMATO」と、同じく「登録情報」には、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日 2010/9/15」と記載され、「商品の説明」には、「北海道産の高糖度のトマト『アイコ』をふんだんに使用して作られた濃厚で甘いトマトジュースです。」と記載されている。

[甲第45号証]
(45a)カゴメ株式会社の従業員が作成した「市場品評価第1報?2010年度トマトジュースの品質評価結果?」(カゴメ株式会社研究報告書)のスクリーンショット(写し)であると認められる。

(45b)1頁目には、インターネットエクスプローラの画面において、「http://kgmupdate2/AA07/SiteMap/DefaultPage.aspx」、「マップ」と付されたタグの中に「研究開発情報」「□研究報告書DB」と記載されている。
2頁目には、インターネットエクスプローラの画面において、「http://mosst02:1336/kagome.document.web/index_.aspx」、「カゴメ文書管理」、その下に「検索結果 ”市場品評価 トマトジュース”の検索結果 19件中 1-19件目を表示」、その下に「◆おいしさ安全研究部」、その下に「2010-014650 市場品評価 第1報 ?2010年度トマトジュースの品質評価結果?」、その下に「| 確認日:2010/03/08 | 年度:2010年」と記載されている。

(45c)8頁目に、ワードファイルの画面において、「2010-95121-3-2(保護されたビュー) Microsoft Word」の記載、その下に、「市場品評価 第1報
2010年度トマトジュースの品質評価結果
目次」、「2.評価項目」、「2.理化学分析結果について
1)理化学分析データ
○別添添付資料:理化学分析データシート」と記載されている。
9頁目に、ワードファイルの画面において、「2010-95121-3-2(保護されたビュー) Microsoft Word」、その下に、「2010-95121-3-2 の情報」、「関連する日付
更新日時 2011/03/02 10:38
作成日時 2011/03/02 10:15
最終印刷日 2011/03/02 10:25」と記載されている。

(45d)10頁目に、ワードファイルの画面において、「2010-95121-3-2(保護されたビュー) Microsoft Word」、その下に、「2.評価項目」、「Table 6 評価項目一覧」として、「無塩」の欄に、「あいこ」「瓶」、さらに、左下欄に「●:全サンプル評価実施項目 ○:一部サンプル評価未実施項目」と記載されている。
「あいこ FTJ 瓶」について、表中、「製造管理基準項目」の、「RI」、「酸分」、「塩分」、「糖組成(果糖、葡萄糖、蔗糖)」、「有機酸組成(クエン酸、リンゴ酸、PY-C)」、「アミノ酸」、「漿液比粘度」、「杉浦式粘度(C型)」、「杉浦式粘度(E型)」、「pH」に「●」と記載されている。
11頁目に、ワードファイルの画面において、「2010-95121-3-2(保護されたビュー) Microsoft Word」、その下に、「2.理化学分析結果について
1)理化学分析データ
理化学分析データをTable 7-1?7-2に示す(詳細は添付資料を参照)。・・・
Table 7-1 理化学分析データ(平均値)」と記載されている。

(45e)12頁目に、ワードファイルの画面において、「2010-95121-3-2(保護されたビュー) Microsoft Word」、その下に、「Table 7-1 理化学分析データ(平均値)」の表中、「FTJ」の「通販」の欄に、「略称」、「商品名」及び「容器形態」として、「あいこ」、「celeb de TOMATO あいこ(食塩無添加)」及び「瓶」の記載がある。

(45f)12頁目?15頁目に、以下の数値が記載されている。


[甲第46号証の1?4]
(46の1?4a)一般財団法人 日本食品分析センターが2014年12月23日付けで作成した検体名「Ai150805」に係る「分析試験成績書」であって、下記の成分及び物性値が示されている。
滴定酸度(クエン酸換算) 0.47g/100g
糖度(レフブリックス) 10.4度
クエン酸 0.49g/100g
遊離アルギニン 5mg/100g
遊離アラニン 15mg/100g
遊離グルタミン酸 240mg/100g
遊離セリン 8mg/100g
遊離アスパラギン酸 64mg/100g
遊離アスパラギン 19mg/100g
遊離グルタミン 検出せず
粘度 520mPa・s

[甲第50号証]
(50a)第9頁には、「食品の色・風味・栄養を保ちながら常温での長期保存を可能にするアセプティック技術(無菌充填技術)」と題し、「1 超高温瞬間(UHT)殺菌」の項に以下の表が掲載されている。


(50b)第10頁には、「2 無菌の環境下で充填」の項に、充填ノズルにより製品を紙容器へ充填する図が記載されている。

[甲第51号証]
(51a)第605頁には、「・無菌常温充填製法(アセプティック製法)」として、「調合液のUHT殺菌までホットパック製法と同内容であるが、常温まで冷却されて、薬液等で殺菌された容器(PET、LL紙パック)・キャップに無菌環境下で充填・密封される。」と記載されている。

(51b)第608頁に、「9.無菌常温充填製法(アセプティック製法)」として、「調合液をUHT殺菌(135?140℃、30?60秒程度)後、常温まで冷却し、薬液等で殺菌された容器に無菌環境下で充填・密封する。」と記載されている。

[甲第52号証]
(52a)第358頁に、「2-4-9 紙」の項に、「ロングライフ紙容器入り果実飲料につき簡単に記す。他の容器と違い、例えばテトラアセプティックでは、充填直前にロール状に巻かれたシートを成形・切断し、無菌的に充填しシールする」(2?4行)、「(1)充填機 通常プレート式殺菌冷却機で高温短時間殺菌・冷却した果実飲料調合液を紙容器に充填する。」(5?7行)と記載されている。

(52b)第581頁には、ESL製品(例えば、牛乳パックのようなゲーブルトップ型容器に大った製品)における充填に関して、「アセプティック仕様の充填機(図4-19)を用い、製品の持つ風味の変化を最小限にし」と記載されている(4?5行)。

[甲第53号証]
カゴメ株式会社の従業員が2015年10月5日に作成した陳述書「『Celeb de TOMATO あいこ』等の購入及び分析について」であって、以下の記載がある。
(53a)「1 市場品評価業務について」、「同部の業務の一つとして、市場品評価業務があります。これは、当社製品の品質の維持・向上のために、年1回程度、弊社のものを含め、市場で販売されているトマトジュースを分析し、品質評価を行うものです。」

(53b)「2 甲第45号証報告書について」、「2010年度は、2010年8月から2011年1月までの間に分析・評価を行い、その結果は、『市場品評価第1報 ?2010年度トマトジュースの品質評価結果?』として報告書(以下、『本報告書』といいます。)にまとめました。本報告書は、特許第5116884号の無効審判事件(以下、『884号特許無効審判事件』といいます。)の甲第45号証としてスクリーンショットを提出しています」

(53c)「3 Celeb de TOMATO あいこ(大)の購入について」、「市場品評価の評価用サンプルは、市場から購入したものを用います。 Celeb de TOMATO あいこ(大)(以下、『あいこ』といいます。)は、2010年8月25日に4本、同年8月29日に7本の計11本を、『あいこ』を製造販売する株式会社ブランドジャパンから購入しました(添付資料2(甲第54号証)[証憑台紙(事業所出納)及び納品書]、添付資料3(甲第55号証)[前同])。これらの購入した『あいこ』を用いて市場品評価を行いました。『あいこ』も含めて、分析対象として製品は、購入してから分析に使用するまでの間、冷蔵庫で保管しており、製品変質等が生じることはありません。」

(53d)「4 本報告書の『あいこ』の記載」の欄に、「あいこ」の分析結果として、「RI(%)」、「pH」、各「アミノ酸」及び「クエン酸」が、上記甲第45号証どおりであることが記載されている。

(53e)「5 分析について 私は、本報告書記載の分析(以下、『本分析』といいます。)をするにあたって、ラボノートを作成していますので、ラボノートの該当部分を資料4(甲第56号証)として添付します。本分析は、2回に分けて実施しており、1回目の実施は、2010年9月1日から同月21日で、2回目は、同年9月17日から同年10月22日でした。『検体番号』『63』と『64』が『あいこ』です。」と記載されている。
また、「(1)RIの分析」、「(2)pHの分析」、「(3)アミノ酸量の分析」、「(4)クエン酸の分析」の各項目に、各サンプルの分析方法、分析した値の採用方法およびサンプル平均値が記載されている。

(53f)資料1として甲第45号証に対応する「市場品評価第1報 2010年度トマトジュースの品質評価結果」の報告書、資料2として甲第54号証と同じ「証憑台紙(事業所出納)及び納品書」、資料3として甲第55号証と同じ「証憑台紙(事業所出納)及び納品書」、資料4として甲第56号証と同じ「ラボノート」を添付している。

(53g)資料5として、「●アミノ酸計算シート(L-8800A) 分析日:2010/9/3?」が添付され、
サンプルNo「F64」には、「メスアップ/サンプリング量」が「25 2.5209」とされ、
「 データ(ng) 濃度(mg%)
Glu 3639.59 180
Asp 972.489 48
AspNH2 337.17 17
GluNH2 183.875 9
Ala 224.741 11
Ser 119.007 6
Arg 111.167 6」と記載されている。
また、サンプルNo「TJ63」には、「メスアップ/サンプリング量」が「25 2.5622」とされ、
「 データ(ng) 濃度(mg%)
Glu 4344.23 212
Asp 1178.27 57
AspNH2 432.085 21
GluNH2 171.583 8
Ala 306.614 15
Ser 152.272 7
Arg 159.014 8」
と記載されている。

(53h)資料6として、「●有機酸計算シート 分析年月日:2010/9/3」が添付され、サンプル名「10TJ64-1」のクエン酸濃度(%)が「0.37」と「0.36」、サンプル名「10TJ64-2」のクエン酸濃度(%)が「0.37」と「0.36」、サンプル名「TJ63-1」のクエン酸濃度(%)が「0.36」、サンプル名「TJ63-2」のクエン酸濃度(%)が「0.35」と記載されている。

[甲第54号証]
(54a)「2010/8/26 11:59:38」発行の「証憑台紙(事業所出納)」及び発送日を平成22年8月25日とする「納品書」であって、1頁目には、取引年月日が「2010/08/26」、「件名:通販トマトジュース」、「目的:トマトジュース市場品評価用サンプルとして」の記載があり、ヤマトフィナンシャル株式会社が平成22年8月26日に発行した、お届け先が「栃木県那須塩原市西富山17 カゴメ株式会社総合研究所」、発送元が「東京都八王子市下柚木2-29-16株式会社ブランドジャパンCeleb de TOMATO オンラインセンター」、品名が「トマトジュース」とある代金引換額が記載された領収証が貼付されている。

(54b)2頁目には、右上に「Celeb de TOMATO オンラインセンター 〒192-0372東京都八王子市下柚木2-29-16」、お客様住所欄に「栃木県那須塩原市西富山17 カゴメ株式会社 総合研究所」、その下に、「この度は、セレブデトマトオンラインショップをご利用頂きまして、誠にありがとうございました。下記のとおり、商品を納品させていだたきましたので、ご確認くださいませ。万が一、注文された商品と違う場合がございましたら、『Celeb de TOMATO オンラインセンター』までご連絡ください。」、商品名が「あいこ(大)」、数量が「4」、単位が「本」、単価が「2500」、金額が「10000」の記載がある。

[甲第55号証]
(55a)「2010/8/30 12:26:33」発行の「証憑台紙(事業所出納)」及び発送日を平成22年8月29日とする「納品書」であって、1頁目には、取引年月日が「2010/08/30」、「件名:トマトジュース市場品評価」、「目的:トマトジュース市場品評価用サンプルとして通販で購入」の記載があり、ヤマトフィナンシャル株式会社が発行した、お届け先が「栃木県那須塩原市西富山17 カゴメ株式会社総合研究所」、発売元が「東京都八王子市下柚木2-29-16株式会社ブランドジャパンCeleb de TOMATO オンラインセンター」、品名が「トマトジュース」とある代金引換額が記載された領収証が貼付されている。

(55b)2頁目には、右上に「Celeb de TOMATO オンラインセンター 〒192-0372東京都八王子市下柚木2-29-16」、お客様住所欄に「栃木県那須塩原市西富山17 カゴメ株式会社 総合研究所」、その下に、「この度は、セレブデトマトオンラインショップをご利用頂きまして、誠にありがとうございました。下記のとおり、商品を納品させていだたきましたので、ご確認くださいませ。万が一、注文された商品と違う場合がございましたら、『Celeb de TOMATO オンラインセンター』までご連絡ください。」、商品名が「あいこ(大)」、数量が「7」、単位が「本」、単価が「2500」、金額が「17500」の記載がある。

[甲第56号証]
(56a)甲第53号証を併せてみると、カゴメ株式会社の従業員が作成したラボノートの表紙及び該当部分であって、以下の記載がある。
1頁目に「分析ノート市場品評価 2008年度?」と記載されている。

(56b)2頁目の上部中央に「アミノ酸 2.5/25×10 n=1」、右から3?2列目に、「10.9.2」、「64-1 5.0343 64-2 5.0546」、「10.9.22」、「63-1 5.0779 63-2 5.0560」、右から1列目に「64. 2.5209」、「63 2.5622」と記載されている。

(56c)3頁目1列目に「10.9.10 pH」、「(64) 4.37 4.38 4.39 4.39 4.39」、「10.9.22 pH」、「(63) 4.45 4.45 4.44 4.44 4.44」
2列目「RI」、「10.9.10 RI(2)」、「(64) 9.28 9.30 9.25 9.3」、「10.9.22 RI(2)」、「(63) 9.38 9.38 9.35 9.4」と記載されている。

7.当審の判断
7-1.無効理由1(実施可能要件)について
(1)請求人の主張
(ア)課題の理解困難性(委任省令違反)
「トマトの酸味が抑制された」ことと、「トマト本来の呈味を保持する」こと、とりわけ、「トマトの自然な酸味」を保持することとは背反し、本件発明が解決しようとする課題を理解することはできない(審判請求書第30頁2?22行)。

(イ)本発明品1乃至4(いわゆる実施例)の再現困難性
a)具現化原材料の不明瞭
「トマトペースト」、「混濁トマト汁A」、「透明トマト汁B」、及び「酸味を低減した濃縮トマト汁C」を具現化する原材料は、定義されているのは、「Brix」の値のみにすぎず、「アミノ酸群に対するグルタミン酸の質量比」及び「クエン酸量」については、全くもって不明であり、それらを具現化する原材料を見出すために、過度の試行錯誤は避けられない(審判請求書第31頁下から8行?第32頁13行)。

b)「アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率」の減少方法の不明瞭
「各種アミノ酸類を・・・を全く添加しない」(段落【0041】)で、どのように「糖度」を高く維持しながら「アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率」を減少させるのか、当業者が理解することはできない(審判請求書第32頁14行?第35頁下から4行)。

c)本特許公報の表3における分析値の矛盾点
本発明品1乃至4並びに比較品1及び2において、同一の原材料が使用されたとすると、本特許公報の段落【0065】(表3)におけるグルタミン酸/アミノ酸群の重量比率、クエン酸濃度は、互いに矛盾する(審判請求書第35頁下から3行?第39頁7行)。

(ウ)本発明品1乃至4(実施例) 以外の実施形態の再現困難性
本件特許の請求項1乃至12に係る発明の下位概念(原材料がトマト搾汁液であるもの等)のうち、本発明品1乃至4以外の、少なくとも、下位概念1乃至4の実施においても、その再現にあたり、過度な試行錯誤が避けられない(審判請求書第39頁下から10行?第42頁12行)。

(2)判断
本件特許明細書に、「Brix値を調整する方法としては、人口甘味料を含む各種甘味料、甘味成分を含む天然由来原料、多糖類をはじめとする各種食物繊維などを添加する方法もあるが、後味への影響や製造コスト抑制の観点から添加を極力控えるのが好ましく、可能であればこれらを全く添加しないのが最も好ましい。」(段落【0039】)、「クエン酸量を調整する方法としては、クエン酸や、これを含有する天然由来原料などを別途添加する方法もあるが、後味への影響や製造コスト抑制の観点から添加を極力控えるのが好ましく、可能であればこれらを全く添加しないのが最も好ましい。」(段落【0040】)、「アミノ酸類量を調整する方法としては、各種アミノ酸類や、これを含有する天然由来原料などを別途添加する方法もあるが、後味への影響や製造コスト抑制の観点からトマト原料に含まれるもの以外による添加を極力控えるのが好ましく、可能であればこれらを全く添加しないのが最も好ましい。」(段落【0041】)とそれぞれ記載され、各種甘味料、クエン酸及び各種アミノ酸類を添加しないのが好ましいとされてはいるが、本件特許発明12は、それらを添加することを排除するものではない。
そうすると、請求人が主張するように原材料としてトマト搾汁液由来のもののみでは、本発明品1?4等の再現が困難であるとしても、適宜に各種甘味料、クエン酸及び各種アミノ酸類を添加したり、あるいは、加水することにより、アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率等の値を本件特許発明12の範囲内のものとすること自体には、困難性があるとはいえない。

一方、本件特許発明12は「容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化抑制方法」であり、「容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化(変化)を抑制する」ことが発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」ともいう。)とされていることは明らかであるが、本件特許明細書に、背景技術として「マスキング剤などの添加物を極力使用せずにトマト独特の青臭みが抑制され且つトマト本来の呈味を保持したトマト含有飲料が望まれていた。」(段落【0004】)、課題として「本発明は、トマト独特の青臭みが抑制され且つトマト本来の呈味を保持したトマト含有飲料を提供することを目的とする。」(段落【0008】)とそれぞれ記載されていることから、「トマト独特の青臭みが抑制され且つトマト本来の呈味を保持する」ことが本件特許発明12の前提となる課題として理解される。
また、本件特許に係る出願当初の明細書(甲第49号証の1)における課題は、「本発明は、トマト独特の青臭みが抑制され且つトマト本来の呈味を保持したトマト含有飲料、その製造方法及び経時的な色調変化の抑制方法を提供することを目的とする。また、本発明は、かかるトマト含有飲料における呈味性を保持しながらも、製造工程における充填容易性、経時的な色調変化を抑制することを目的とする。」(段落【0008】)とされていたことからみても、上記のように理解されることは明らかである。

そこで、上記前提となる「トマト独特の青臭みが抑制され且つトマト本来の呈味を保持する」ことについて検討すると、実施例に係る評価において、「トマト独特の青臭み」の抑制に係るものはないが、トマト含有飲料の呈味については、「トマトの自然な甘味」、「トマトの自然な酸味」、「経時的な味の変化」及び「経時的な香りの変化」が評価項目とされ(段落【0060】、【0062】)、また、「本発明品1?4は、トマトの自然な甘味、トマトの自然な酸味、経時的な味の変化、香りの変化において、比較品1?2と同程度に極めて高い評価を得た。」(段落【0066】)とされていることからみて、「トマトの自然な甘味」及び「トマトの自然な酸味」を備え、「経時的な味の変化」及び「経時的な香りの変化」がないことを、本件特許発明12の実施において確認する必要があるといえる。
ここで、「トマトの自然な甘味」及び「トマトの自然な酸味」について検討すると、「自然」とは、「おのずからそうなっているさま。天然のままで人為の加わらないさま。あるがままのさま。」(広辞苑第六版)を意味するものであるが、各種アミノ酸類を全く添加しないで「糖度」を高く維持しながら「アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率」をどのように増減させ得るかは、本件特許明細書に記載されておらず、当業者が理解することはできないこと、及び本発明品1?4並びに比較品1及び2において、「アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率」等の値は互いに矛盾する試験結果となっていて(審判請求書の別紙1参照)、本件特許明細書に記載されている実施例からでは、各種トマト搾汁液を具体的にどのように混合すればよいかは当業者が理解することはできないことより、トマト搾汁液由来のもののみで本件特許発明12を実施することは困難であるところ、上記のように各種アミノ酸類等を添加した場合には、「トマトの自然な甘味」及び「トマトの自然な酸味」をどのように達成し得るのかは当業者が理解できない。
また、本件特許明細書に、「本発明品1?4や比較品1?2は、Brixが高いトマト含有飲料であることは、市販のトマト含有飲料(比較品3?5)や市販青果のトマト搾汁液をそのまま用いて得たトマト含有飲料(比較品6?7)のBrix値の数値範囲と比して際立って逸脱していることがわかる(4.83?5.81)。」(段落【0066】)とも記載されている。
しかし、「自然」な味と考えられる市販の青果トマトを搾汁した比較品6及び7等が、「トマトの自然な甘味」及び「トマトの自然な酸味」において、酸味を低減した濃縮トマト汁等により味を調整し(段落【0053】)、Brixが上記のように逸脱している本発明品1?4より評価が低くなっている(段落【0065】表3)ことより、本件特許明細書における「自然」が意味するところは不明である。そうすると、「トマトの自然な甘味」及び「トマトの自然な酸味」を備えること、すなわち「トマト本来の呈味」を保持することを、本件特許発明12の実施において確認することができない。

よって、本件の発明の詳細な説明の記載からでは、本件特許発明12は、前提となる「トマト独特の青臭みが抑制され且つトマト本来の呈味を保持する」ことをどのように達成し得るかを理解できず、当業者がその実施をすることができない。

(3)まとめ
したがって、本件の特許の発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、本件特許発明12についての特許は、無効理由1により無効とすべきである。

7-2.無効理由2(サポート要件違反)
(1)請求人の主張
(ア)Brix及びアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率の範囲の対比について
a)形式的なサポート要件違反
「Brixが6?12」は、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない事項である。すなわち、本件特許公報の段落【0010】、【0012】及び【0039】に記載されているのは、「Brixが7.3以上」及び「7.3?12」である(審判請求書第44頁2?8行)。

b)本件特許の請求項1乃至12の記載と本発明品1乃至4(いわゆる実施例)との対比
b-1)本発明品1乃至4において、評価が良好な官能は、「トマトの自然な甘味」、「トマトの自然な酸味」、「経時的な味の変化」、「経時的な香りの変化」、及び「経時的な色調の変化」であって、「トマト独特の青臭み」の抑制は評価されていない(審判請求書第47頁下から13行?第48頁16行)。
b-2)本件特許の請求項1乃至12に記載の物性値の組合せのうち本発明品1乃至4の物性値の組合せ以外のものについて、当該物性値の組合せが奏する効果は、実験上、何ら裏付けられていない(審判請求書第48頁17?24行)。
b-3)本件発明1は、Brixとアミノ酸群に対するグルタミン酸重量比という数値範囲についてのみ特徴を有する発明である。斯かる発明において、数値範囲に臨界的な意義があることを示す具体的な測定結果がなければ、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識することは出来ない(審判請求書第48頁25行?第49頁19行)。

c)本発明品1乃至4(いわゆる実施例)以外の記載及び技術常識からの本件特許発明が奏する効果の認識困難性
c-1)本件発明の課題「トマト独特の青臭みが抑制され」(段落【0008】)について、本発明品1乃至4のうち当該課題を解決したものはない(審判請求書第49頁下から3行?第50頁4行)。
c-2)本発明品1乃至4のBrix値9.5前後(本発明品1乃至4の値)以外の値において、所望の効果「トマトの自然な甘味やコク味」が奏されるか否かは、不明である(審判請求書第50頁5行?第51頁3行)。
c-3)本発明品1乃至4の重量比率0.45前後以外の値において、所望の効果「トマトの自然な旨味やコク味」が奏されるか否かは、不明である(審判請求書第51頁4?19行)。
c-4)「コク味」の定義自体は、業界内でも定まっていなく、また、官能評価の裏付けなくして、Brix及びアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率だけの組合せによって所望の「旨味」を奏すると当業者が認識することはできない(審判請求書第51頁20?末行)。
c-5)原材料の選択等の要因を受けてパラメータが複合的に変化することは明らかであり、それによって「トマトの自然な呈味」という曖昧模糊とした課題が左右されることも自明であるにもかかわらず、原材料の選択及び配合比並びに製造工程については、本件特許請求の範囲には一片の開示もないどころか、明細書中にすら開示されていない(審判請求書第52頁1?11行)。

(イ)アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率及びクエン酸量の範囲の対比について
a)特許請求の範囲の記載と本発明品1乃至4との対比
a-1)本特許明細書において、「充填容易性」が何ら定義されておらず、何をもって「充填容易性を高め」(【0066】)と評価できるのかは、不明である。また、本特許の出願時における技術常識として、容器の種別によって容器への充填方式は異なる。しかも、「色調」への影響についても、容器の性質(例えば、透明か否か、通気するか否か等)は、無関係ではない。
本発明品1、2の物性値「クエン酸量」及び「アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率」の組合せが「充填容易性」に奏功することは、実験上、何ら裏付けられていない(審判請求書第53頁7行?第57頁6行)。
a-2)本件特許の出願時の技術常識は、pHが高くなるほど褐変が進むこと、還元糖(グルコースやフルクトース等)が多いほど褐変反応が進むこと、及び当該現象が低pH領域でも同様であることである。ところが、本発明品2並びに比較品6及び7を比較すると、本発明品2において、その糖度及びpHが相対的に高いにもかかわらず、その「色調」が相対的に優れている。
本件特許の請求項2に記載の物性値の組合せのうち本発明品3及び4の物性値の組合せ以外のものについて、当該物性値の組合せが奏する効果「充填容易性を高め且つ色調変化を抑制する」は、実験上、何ら裏付けられていない(審判請求書第57頁7行?第58頁末行)。

b)本発明品3及び4以外の記載及び技術常識からの本件特許発明が奏する効果の認識困難性
本件明細書段落【0066】には、「充填容易性を高め且つ色調変化を抑制するためには、」「グルタミン酸量の比率(グルタミン酸/アミノ酸)とクエン酸量の数値範囲の両方に着目して製品設計することが重要であること」が記載され、「充填容易性を高め且つ色調変化を抑制する」にあたり、「Brix」の値は、重要ではない。
「クエン酸量」及び「アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率」が共に本件特許の請求項2に記載の範囲内であっても(比較例3乃至7)、「充填容易性を高め且つ色調変化を抑制する」との効果は奏されないのである。つまり、「クエン酸量」及び「アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率」が本件特許の請求項2の記載の範囲内であっても、所望の効果「充填容易性を高め且つ色調変化を抑制する」を奏するとは限らない(審判請求書第59頁1?20行)。

(2)判断
まず、訂正により「Brixが9.46?9.56」とされ、Brixの下限値が本件特許明細書に記載されている「Brixが7.3以上」となったことにより、請求人の主張する形式的なサポート要件違反は解消された。

次に、上記無効理由1の「(2)判断」で述べたとおり、「トマト独特の青臭みが抑制され且つトマト本来の呈味を保持する」ことが本件特許発明12の前提となる課題として理解されることから、本件特許発明12が、発明の詳細な説明において「トマト独特の青臭みが抑制され且つトマト本来の呈味を保持する」ことに係る課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かについて検討する。
そこで、「トマト独特の青臭みが抑制され」ることについて検討すると、本件の実施例の本発明品1?4及び比較品1?7において「トマト独特の青臭みが抑制され」ることについては、発明の詳細な説明において評価されていない。
よって、本件の発明の詳細な説明の記載では、本件特許発明12が「トマト独特の青臭みが抑制され」ることを当業者が認識できない。
また、上記無効理由1の「(2)判断」で述べたとおり、「トマト本来の呈味を保持」するには、「トマトの自然な甘味」及び「トマトの自然な酸味」を備える必要があるが、本件特許明細書における「自然」が意味するところは不明であることから、当業者は「トマト本来の呈味」を保持することを評価し得るものではない。
よって、本件の発明の詳細な説明の記載では、本件特許発明12が「トマト独特の青臭みが抑制され且つトマト本来の呈味を保持する」ことに係る課題を解決できることを当業者が認識できない。

さらに、本件特許発明12が、発明の詳細な説明において「容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化を抑制する」ことに係る課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かについて検討する。
本件特許明細書の段落【0006】に「PET容器等の透明容器にトマト含有飲料を充填した場合、紙容器とは異なり内容物の色調が消費者に直接わかるため、内容物であるトマト搾汁液の色調を保持するのが難しいという問題もあった。」と記載されていることからすると、上記課題は、主にPET容器等の透明容器を用いた場合の課題と認められるところ、本件の発明の詳細な説明においては、PET容器に係るものは、本発明品1及び比較品4及び5であるが、比較品4及び5については「経時的な色調の変化」についての評価はなされていない。
そうすると、本件の発明の詳細な説明において、PET容器を用いた本発明品1と、他のPET容器を用いたトマト含有飲料とを比較したデータは示されていない。
また、容器詰トマト含有飲料の「経時的な色調の変化」は、容器の性質(例えば、透明か否か、通気するか否か等)に無関係とはいえない。
一方、pHが高くなるほど褐変が進むこと、及び還元糖(グルコースやフルクトース等)が多いほど褐変反応が進むことが技術常識である(記載事項(7a)及び(8a)参照)ところ、本発明品2と比較品6及び7とを比較すると、本発明品2は比較品6及び7より糖度及びpHが相対的に高いにもかかわらず、本発明品2は、「経時的な色調の変化」が相対的に優れている(段落【0065】表3)など、当業者にとって予測のつかない試験結果となっていることなどより、本件特許発明12に係る発明特定事項と「容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化を抑制する」こととの因果関係又は作用機序は当業者にとって不明であることから、上記課題が解決できることを認識するには、容器の種類、原料の調整内容の違いによって、その都度「経時的な色調の変化」について評価し、効果を確認する必要があるといえる。
そうすると、「経時的な色調の変化」の評価において、PET容器を用いた本発明品1が、比較品との対比において効果が確認されている缶容器を用いた本発明品2並びに紙容器を用いた本発明品3及び4と同じ「4」(段落【0065】表3)であるとしても、その評価は、本発明品1の成分及び物性値が本件特許発明12において規定されている範囲内に調整されていることにより、「経時的な色調の変化」が抑制されたことを示したものであることを当業者が直ちに認識することはできない。
また、本件の発明の詳細な説明において、「経時的な色調の変化」の評価は、本発明品1?4においてされているが、いずれもトマトのみを原料に用い、特定の製造条件で得られたトマト含有飲料であり、それ以外のトマト含有飲料、例えば、トマト以外の野菜または果汁を含有するものでも、「経時的な色調の変化」が抑制されたことは示されていない。さらに、本件の発明の詳細な説明においては、「経時的な色調の変化」について市販されている従来のトマト含有飲料と比較したデータも示されていない。
よって、本件の発明の詳細な説明における4つの実施例から、容器の種類及び原料の特定のない本件特許発明12まで、拡張ないし一般化することはできなく、本件特許発明12は、発明の詳細な説明において課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものである。

(3)まとめ
したがって、本件特許は、その本件特許発明12が発明の詳細な説明に記載したものではないことから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、本件特許発明12についての特許は、無効理由2により無効とすべきである。

7-3.無効理由3、6及び7(公然実施による新規性喪失、進歩性欠如)
7-3-1. 公然実施について
(1)製品1及び2(「SWEET RUBY」) 製品1は、甲第9号証によると、「11. 2.10」の印がなされ、これは賞味期限が平成23年2月10日であることを示し、甲第10号証の調合チェック表によると、2010年5月17日に製造されたものである。
そして、2010年(平成22年)5月17日に製造されたSWEET RUBY(カゴメ株式会社製造)は、その製造日からみて、甲第11号証の「2010年伊勢丹の贈り物ISETAN summer gift」のカタログで掲載された「<カゴメ>スウィートルビー」であって、甲第11号証によるとインターネット・郵便・FAXでの申し込みの受け付けがなされ、伊勢丹新宿店本館6階等のギフトセンターで、平成22年6月16日?平成22年7月19日に販売の申し出がなされていることから、遅くとも平成22年6月16日に販売の申し出がなされていた。さらに、これら製品1は、賞味期限までは飲用に供することができるから、平成22年6月16日から販売の申し出がなされた後、賞味期限の2011年(平成23年)2月10日までは公然と讓渡等又は讓渡等の申出がなされていたものと認められる。
よって、製品1は、本件特許出願前に公然と讓渡等又は讓渡等の申出がなされていたもの、すなわち公然実施されていたものと認められる。

また、製品2は、甲第12号証によると、「12. 2. 9」の印がなされ、これは賞味期限が平成24年2月9日であることを示し、甲第13号証の調合チェック表によると、2011年5月16日に製造されたものである。
そして、2011(平成23年)5月16日に製造されたSWEET RUBY(カゴメ株式会社製造)は、その製造日からみて、甲第14号証の「2011年伊勢丹の贈り物ISETAN summer gift」のカタログで掲載された「<カゴメ>スウィートルビー」であって、甲第14号証によるとインターネットでの申し込みの受け付けがなされ、伊勢丹新宿店本館6階等のギフトセンターで、平成23年6月15日?平成23年7月18日に販売の申し出がなされていることから、遅くとも平成23年6月15日に販売の申し出がなされていた。さらに、これら製品2は、賞味期限までは飲用に供することができるから、平成23年6月15日から販売の申し出がなされた後、賞味期限の2012年(平成24年)2月9日までは公然と讓渡等又は讓渡等の申出がなされていたものと認められる。
よって、製品2は、本件特許出願前に公然と讓渡等又は讓渡等の申出がなされていたもの、すなわち公然実施されていたものと認められる。

(2)製品3及び4(「夏しぼり2010、2011」)
製品3は、甲第15号証によると、その缶底に「2012. 8.21 B00821 V00」と表示され、これは賞味期限が平成24年8月21日であることを示し、また、甲第16号証によると、製品3の賞味期間は2年間であるので、製品3の製造日は、平成22年8月21日である。
そして、甲第17号証によると、製品3に係る「夏しぼり2010」の販売が申し出されたのは、遅くとも、平成22年8月26日である。当該申し出によれば、「夏しぼり2010」の発送開始は、同年9月中旬である。以上から、これら製品3が流通していたのは、平成22年9月中旬から平成24年8月21日までの間である。
よって、製品3は、本件特許出願前に公然と讓渡等又は讓渡等の申出がなされていたもの、すなわち公然実施されていたものと認められる。

また、製品4は、甲第18号証によると、その缶底に「2013. 8.25 B10825 001」と表示され、これは賞味期限が平成25年8月25日であることを示し、また、甲第19号証によると、製品4の賞味期間は2年間であるので、製品4の製造日は、平成23年8月25日である。
そして、甲第20号証によると、製品4に係る「夏しぼり2011」の販売が申し出されたのは、遅くとも、平成23年9月12日である。当該申し出によれば、「夏しぼり2011」の発送開始は、同年9月中旬である。以上から、これら製品4が流通していたのは、平成23年9月中旬から平成25年8月25日までの間である。
よって、製品4は、本件特許出願前に公然と讓渡等又は讓渡等の申出がなされていたもの、すなわち公然実施されていたものと認められる。

(3)製品5(「野菜一日これ一本」)
製品5は、甲第21号証によると、その缶底に「2012.12.24 B01224 N23」と表示され、これは賞味期限が平成24年12月24日であることを示し、また、甲第22号証によると、製品5の賞味期間は2年間であるので、製品5が製造されたのは、平成22年12月24日である。
そして、甲第22号証によると、製品5を含む「野菜一日これ一本」シリーズが最初に出荷されたのは、平成20年(2008年)10月中旬であり、それ以降、継続的に販売されているものと認められる。以上から、これら製品5が流通していたのは、平成22年12月頃から平成24年12月24日までの間である。
よって、製品5は、本件特許出願前に公然と讓渡等又は讓渡等の申出がなされていたもの、すなわち公然実施されていたものと認められる。

(4)製品6(「Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)トマトジュースあいこ(大)」)
製品6は、甲第44号証によると遅くとも平成22年9月15日には販売の申し出がなされていたと認められる。
また、甲第45号証には、「celeb de TOMATO(食品無添加)」について理化学分析データが記載され、甲第53?55号証によると、甲第45号証で理化学分析に供された「celeb de TOMATO(食品無添加)」は、カゴメ株式会社の従業員により、株式会社ブランドジャパンのセレブデトマトオンラインショップを利用して購入された、平成22年8月25日に4本、同年8月29日に7本の計11本の「Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)トマトジュースあいこ(大)」のいずれかであって、製品6に該当するものと認められる。
よって、製品6は、本件特許出願前に公然と譲渡されていたもの、すなわち公然実施されていたものと認められる。

なお、被請求人は、平成27年7月23日付け答弁書において、「製品6が何ら特定されていない以上、甲第45号証が、製品6に関する書証であるかも不明であると言わざるを得ない。」(第5頁下から3?1行)と主張しているが、甲第44号証、甲第45号証、甲第53?56号証を総合的にみれば、製品6は、「Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)トマトジュースあいこ(大)」として、本件特許出願前に流通していたもののうち、カゴメ株式会社の従業員により、株式会社ブランドジャパンのセレブデトマトオンラインショップを利用して購入された、平成22年8月25日に4本、同年8月29日に7本の計11本の「Celeb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)トマトジュースあいこ(大)」のうちのいずれかであることは明らかである。

7-3-2.公用発明
(1)製品1?5
製品1について、甲第23号証における各成分及び物性の測定は、製造時または販売時に行ったものではないが、製品の保管状況は、冷温下であったことから(甲第28号証)、保管条件による経時変化は軽微であること、分析報告書作成時点における糖度は、製造時の値と大きく異ならないこと(甲第10号証)、また、甲第29号証の試験結果からみて、アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率、粘度、クエン酸量及びpHは、それぞれ経時的に殆ど変化しないものと認められ、そして、製品2?5についても同様なものと認められることから、甲第23?27号証における製品1?5についての測定値を用いて各本件特許発明と対比・判断することは、妥当なものである。
製品1及び2は、それぞれペットボトル詰トマトピューレーであり、原材料名がトマトとされている(記載事項(9a)及び(12a)参照)。
製品3及び4は、それぞれ缶詰トマトジュースであり、原材料名がトマトとされている(記載事項(15a)及び(18a)参照)。
製品5は、缶詰野菜ミックス濃縮ジュースであり、原材料名が野菜(トマト、にんじん、赤ピーマン、メキャベツ(プチヴェール)、ケール、ほうれん草、しょうが、ブロッコリー、レタス、セロリ、キャベツ、クレソン、パセリ、かぼちゃ、アスパラガス、たまねぎ、モロヘイヤ、ビート、だいこん、小松菜、紫いも、あしたば、 はくさい、なす、ごぼう)、レモン果汁とされている(記載事項(21a)参照)。
甲第23?27号証のクエン酸量については、単位がg/100gであるので、トマトジュース等の比重を1.03(甲第34号証を参照)としてmg/100mLに換算する。
粘度については、被請求人の主張どおり(口頭審理陳述要領書第8頁3?5行)、一般的な流動食品の粘度を測定する場合と同じ20℃とする(甲第38号証第84頁右欄第18行)。

(2)製品6
甲第45号証に係る製品6の理化学分析は、甲第53?56号証によると、製品6を購入した遅くとも平成22年8月29日から、2月以内の時点で行われたものであり、製品6とは異なる製品についてではあるが、各成分についての経時変化を示すものである甲第29号証の試験結果からみて、アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率、粘度、クエン酸量及びpHは、それぞれ経時的に殆ど変化しないものと認められることから、甲第45号証における製品6についての測定値を用いて各本件特許発明と対比・判断することは妥当なものである。
製品6は、瓶詰トマトジュースであり、原材料が北海道名寄産ミニトマトとされている(記載事項(44a)参照)。
甲第45号証における「RI」は、「糖度」を示すものと認められる。

(3)製品1?6の成分及び物性値
甲第23?27号証及び甲第45号証の記載からみて、製品1?6は、それぞれ以下の「表A」の成分及び物性値を有するものと認められる。

表A

注)アミノ酸群:アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン、アラニン
「-」:未測定

(4)公用発明
以上を総合すれば、「製品1」?「製品6」は、以下の事項を備えているものと認められる。これらの事項により特定される発明を、以下それぞれ「公用発明1」?「公用発明6」という。

製品1;「表Aの製品1の成分及び物性値を有するペットボトル詰トマトピューレー」
製品2;「表Aの製品2の成分及び物性値を有するペットボトル詰トマトピューレー」
製品3;「表Aの製品3の成分及び物性値を有する缶詰トマトジュース」
製品4;「表Aの製品4の成分及び物性値を有する缶詰トマトジュース」
製品5;「表Aの製品5の成分及び物性値を有する缶詰野菜ミックス濃縮ジュース」
製品6;「表Aの製品6の成分及び物性値を有する瓶詰トマトジュース」

7-3-3.本件特許発明12との対比・判断について
(1)対比
公用発明1?6は、その原材料及び製品の形態からみて、「容器詰トマト含有飲料」であることは明らかである。
公用発明6のアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率が「0.427」であることは、本件特許発明12の有効数字の桁数と合わせると「0.43」となり、本件特許発明12の「0.43?0.47」であることに相当する。
よって、本件特許発明12と公用発明1?6とを対比すると、
本件特許発明12は「容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化抑制方法」であるのに対し、公用発明1?6は「容器詰トマト含有飲料」である点で相違する。
また、それらの成分及び物性値における一致点及び相違点は以下のとおりである。「○」は一致点、「×」は相違点を示す。

ここで、上記アミノ酸群は、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン、アラニンからなる。

(2)判断
本件特許発明12は「容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化抑制方法」であるのに対し、公用発明1?6は「容器詰トマト含有飲料」であることが、実質的な相違点でないとしても、公用発明1?6は、公用発明5のアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率以外の成分及び物性値において、本件特許発明12と相違する。
よって、本件特許発明12は、公用発明1?6であるとはいえない。

そして、市販されている製品1?6に接した当業者は、研究等のためにその成分及び物性を測定することにより公用発明1?6を認識し得たとしても、上記相違する各成分及び物性値に着目し、本件特許発明12の数値範囲内のものに変更する動機付けはないことから、本件特許発明12は、公用発明1?6に基づいて容易に想到できた発明ともいえない。

7-3-4.まとめ
本件特許発明12は、公用発明1?6のいずれであるともいえず、また、それらに基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから、その特許は無効理由3、6及び7により無効とすることはできない。

7-4.無効理由4(刊行物公知による新規性喪失)
(1)甲第31号証に記載された発明について
上記記載事項(31f)?(31i)において、特に実施例4(本発明品4)に着目し、記載事項(31i)の表3を参酌すると、甲第31号証には、次の発明(以下「甲31発明」という。)が記載されていると認められる。
「市販の生のトマト(桃太郎 T-93 新潟産)を用い、エステラーゼ及びセルラーゼで処理した、pHが、4.39、屈折糖度(Bx)が8.98°であり、アミノ酸(mg/100g)として、
アスパラギン酸:49.2
グルタミン酸:289.6
アスパラギン:25.6
セリン:12.3
グルタミン:115.2
アルギニン:4.2
アラニン:11.9
が含まれる酵素処理トマト分離液。」

なお、請求人は、甲第31号証から、実施例及び比較例における本発明品1?4及び比較品1?3が有する、糖度、pH及びアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率の各数値範囲を備えた引用発明を認定をしているが(審判請求書第69頁)、甲第31号証からは、上記本発明品1?4及び比較品1?3のそれぞれについて、糖度、pH及び各アミノ酸量の数値を有する「トマト分離液」の発明を認識し得るとしても、甲第31号証には、糖度、pH及びアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率をある一定の数値範囲内に調整することの技術的思想は開示されていないことから、上記のような引用発明の認定をし得るものではない。

(2)本件特許発明12と甲31発明との対比・判断
本件特許発明12と甲31発明とを対比すると、
甲31発明の「酵素処理トマト分離液」は、製造後、何らかの容器に詰められることは明らかであり、また、記載事項(31h)のパネラーによる官能評価においてトマト分離液そのものの味を評価していることからみても、飲料であることも明らかであることから、本件特許発明12の「容器詰トマト含有飲料」に相当する。
甲31発明において、その各アミノ酸量から算出されるアスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン、アラニンからなるアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率(289.6/(49.2+289.6+25.6+12.3+115.2+4.2+11.9))は「0.57」であり、また、クエン酸量及び粘度については特定はされていない。

そうすると、本件特許発明12は「容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化抑制方法」であるのに対し、甲31発明は「酵素処理トマト分離液」であることが、実質的な相違点でないとしても、甲31発明は、本件特許発明12において特定されている少なくともBrix、アミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率及びpHにおいて、本件特許発明12と相違する。
よって、本件特許発明12は、甲31発明であるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本件特許発明12は、甲31発明であるとはいえないことから、無効理由4により無効とすることはできない。

7-5.無効理由5(進歩性欠如)
前記「7-3.」のとおり、本件特許発明12は、公用発明1?5のいずれに基づいても、容易に想到できた発明とはいえない。
また、甲31発明において、相違する各成分及び物性値に着目し、本件特許発明12の数値範囲内のものに変更または設定する動機付けはないことから、本件特許発明12は、甲31発明に基づいて容易に想到できた発明ともいえない。
したがって、本件特許発明12は、無効理由5により無効とすることはできない。

なお、請求人は、平成28年4月27日付け弁駁書において、本件訂正後の請求項12の各パラメータは、本件出願当時流通しているトマト含有飲料が有する、一般的な数値範囲に含まれているにすぎず、係る数値範囲を選択することは数値範囲の好適化に属する設計事項にすぎない旨主張するが(第15、16頁)、本件特許発明12の各成分及び物性値の数値範囲を全て満たすトマト含有飲料が一般的である証拠は示されておらず、上記したように公用発明1?6または甲31発明において、相違する各成分及び物性値に着目し、本件特許発明12の数値範囲内のものに変更または設定する動機付けはないことから、上記請求人の主張は採用できない。

7-6.請求項1?11についての本件審判の請求について
前記「2.」のとおり、本件訂正が認められることより、請求項1?11についての本件審判の請求は、その対象が存在しないものとなる。
したがって、請求項1?11についての本件審判の請求は、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第135条の規定により、却下すべきものである。

8.むすび
以上のとおり、本件特許発明12についての特許は、無効理由1及び2により無効とすべきものである。
請求項1?11についての本件審判の請求を却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条及び第62条の規定により、被請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】
Brixが9.46?9.56であり、且つアスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン、アラニンからなるアミノ酸群に対するグルタミン酸の重量比率が0.43?0.47であり、クエン酸量が800?900mg/100mLであり、粘度が436?494cPであり、pHが4.44?4.48であるように調整することを特徴とする容器詰トマト含有飲料の経時的な色調劣化抑制方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-07-28 
結審通知日 2016-08-02 
審決日 2016-08-19 
出願番号 特願2012-41594(P2012-41594)
審決分類 P 1 113・ 121- ZAA (A23L)
P 1 113・ 537- ZAA (A23L)
P 1 113・ 841- ZAA (A23L)
P 1 113・ 113- ZAA (A23L)
P 1 113・ 536- ZAA (A23L)
P 1 113・ 112- ZAA (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 名和 大輔  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 山崎 勝司
鳥居 稔
登録日 2012-10-26 
登録番号 特許第5116884号(P5116884)
発明の名称 容器詰トマト含有飲料及びその製造方法  
代理人 宮下 洋明  
代理人 岩坪 哲  
代理人 内藤 和彦  
代理人 北谷 賢次  
代理人 松山 智恵  
代理人 遠山 友寛  
代理人 中村 勝彦  
代理人 速見 禎祥  
代理人 北谷 賢次  
代理人 遠山 友寛  
代理人 中村 勝彦  
代理人 松山 智恵  
代理人 内藤 和彦  

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