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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E02D
管理番号 1322570
審判番号 無効2015-800142  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-06-23 
確定日 2016-10-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4528266号発明「軽量片盛土構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4528266号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、4〕、〔2-3〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成18年 2月 3日 出願
平成22年 6月11日 設定登録(特許第4528266号、以下「本件特許」という。)
平成27年 6月22日 審判請求
平成27年 8月10日 手続補正書(方式)(審判請求書を補正)
平成27年 8月10日 証拠説明書(請求人)
平成27年10月16日 審判事件答弁書
平成27年12月21日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成28年 1月12日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成28年 1月25日 上申書(請求人)(同年1月26日差出)
平成28年 1月26日 口頭審理
平成28年 2月 9日 上申書(請求人)
平成28年 2月23日 上申書(被請求人)
平成28年 3月14日 審決の予告
平成28年 5月16日 訂正請求書
平成28年 5月16日 上申書(第2)(被請求人)
平成28年 6月22日 審判事件弁駁書

第2 訂正請求
1 訂正請求の内容
被請求人が平成28年5月16日に提出した訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲について、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲(以下「本件訂正明細書」及び「本件訂正特許請求の範囲」という。)のとおりに訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、以下、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件特許明細書」という。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きいことを特徴とする軽量片盛土構造。」とあるのを、「その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具が、その上方部の発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具より少ないことを特徴とする軽量片盛土構造。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層において、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いない請求項1に記載の軽量片盛土構造。」とあるのを、独立形式に改め、「発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層において、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いないことを特徴とする軽量片盛土構造。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の軽量片盛土構造。」とあるのを、「請求項2に記載の軽量片盛土構造。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4として「表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックが、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックよりも高密度の発泡プラスチックからなる請求項1に記載の軽量片盛土構造。」を追加する。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の段落【0007】に「その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きいことを特徴とする。」とあるのを、「その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具が、その上方部の発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具より少ないことを特徴とする。」に訂正する

(6)訂正事項6
本件特許明細書の段落【0008】に「本発明においては、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層において、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いないこと、及び/または、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックが、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックよりも高密度の発泡プラスチックからなること、を好ましい態様として含む。」とあるのを、「また、本発明は、発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層において、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いないことを特徴とする。
本発明は、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックが、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックよりも高密度の発泡プラスチックからなること、を好ましい態様として含む。」に訂正する

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
本訂正事項は、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具について、その上方部の発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具より少ないことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本訂正事項は、本件特許明細書の段落【0003】、【0009】、【0021】及び【0023】の記載からみて、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
本訂正事項は、請求項2が請求項1を引用していたところ、請求項1を引用しない独立形式の請求項に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものと認められる。
そして、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
本訂正事項は、請求項3が請求項1又は2を引用していたところ、そのうち請求項1の引用を解消するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものと認められる。
そして、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもないことは明らかである。

(4)訂正事項4について
本訂正事項は、請求項3が請求項1又は2を引用していたところ、そのうち請求項1を引用する請求項3に相当するものを、請求項4として新たに追加するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものと認められる。
そして、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもないことは明らかである。

(5)訂正事項5について
本訂正事項は、発明の詳細な説明の記載について、訂正事項1との整合を図り、記載を明瞭にするために行うものと認められるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、訂正事項1と同様に、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6について
本訂正事項は、発明の詳細な説明の記載について、訂正事項2との整合を図り、記載を明瞭にするために行うものと認められるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、訂正事項2と同様に、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第134条の2第9項の規定によって準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具が、その上方部の発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具より少ないことを特徴とする軽量片盛土構造。
【請求項2】
発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層において、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いないことを特徴とする軽量片盛土構造。
【請求項3】
表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックが、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックよりも高密度の発泡プラスチックからなる請求項2に記載の軽量片盛土構造。
【請求項4】
表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックが、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックよりも高密度の発泡プラスチックからなる請求項1に記載の軽量片盛土構造。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
審判請求書によれば、請求人は、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成27年12月21日付け口頭審理陳述要領書、平成28年1月25日付け上申書、第1回口頭審理調書、平成28年2月9日付け上申書、平成28年6月22日付け審判事件弁駁書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証を提出している。

(1)無効理由1
本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証ないし甲第5号証に記載された周知技術(作用応力に応じた圧縮強さのEPSを使い分けること)、甲第2号証及び甲第5号証に記載された周知技術(押出発泡法による発泡プラスチックブロック。DX-29がD-25よりも高密度であること)、及び甲第2号証に記載された技術(XPSはEPSよりも表面摩擦係数が高いこと)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件特許発明1ないし3は、甲第7号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第123条第1項第2号の規定により、その特許は無効とすべきである。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:「(社)プラスチック処理促進協会支援事業 発泡スチロール減容品の用途開発事業報告書(EPS土木工法拡幅盛土の裏込材モデル実験)」,発泡スチロール再資源化協会,平成10年8月,目次、1ないし55頁
甲第2号証:発泡スチロール土木工法開発機構,「EPS工法-発泡スチロール(EPS)を用いた超軽量盛土工法-」,3版,理工図書株式会社,平成10年8月25日,目次、9ないし51頁、77ないし87頁、135ないし143頁
甲第3号証:巽治外5名,「EPS盛土の荷重分散特性を考慮した合理的設計法の提案」,第31回地盤工学研究発表会発表講演集,平成8年7月,2523ないし2524頁
甲第4号証:大江祐一外2名,「荷重分散特性を考慮したEPS盛土の設計法」,開発土木研究所月報,No.523,平成8年12月,2ないし10頁)
甲第5号証:「EPS工法 設計・施工基準書(案)」,発泡スチロール土木工法開発機構,平成14年5月,目次、11ないし12頁、75頁
甲第6号証:特願2006-26549号の平成21年12月15日付け意見書
甲第7号証:「第17期合同部会 合同部会講演資料集」,発泡スチロール土木工法開発機構,平成14年9月5日,目次、61ないし66頁
甲第8号証:請求人太陽工業株式会社代理人の森本英伸から発泡スチロール土木工法開発機構事務局に宛てた平成28年1月22日付けの照会書(2)
甲第9号証:発泡スチロール土木工法開発機構会長の三木五三郎から請求人太陽工業株式会社代理人の森本英伸に宛てた平成28年1月25日付けの回答書
甲第10号証:平成28年2月2日に行われた、請求人太陽工業株式会社代理人の森本英伸と発泡スチロール土木工法開発機構事務局員の塚本英樹との面談内容に関する平成28年2月8日付けの照会書兼確認書

3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1について
ア 本件特許発明1について
(ア)甲第1号証には、以下の通り、前面壁と背面傾斜地との空所に発泡プラスチックブロックを盛土材として用いる傾斜地の拡幅盛土構造が開示されている(甲第1号証の42頁横断図。以下「本件横断図」という。)。
甲第1号証の26頁12行目の「実験の目的」の項目には、「斜面を掘削してEPS盛土を構築する場合」と記載されていること、11頁の下から6行目?25頁末行にかけてEPS工法が詳細に紹介されていること(特に甲第1号証の15頁のEPS工法概略図)からすれば、本件横断図で用いられている「D-20」、「D-25」は、発泡プラスチックブロックであり、全体として軽量片盛土構造が開示されていることは明らかである。
以上から、甲第1号証には、「発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造」が開示されている。
本件横断図には、発泡プラスチックブロックが17段積み重ねられた図が記載されているが、そのうち、最底部及びその上段5段の合計6段には「D-25」と記載されており、その更に上段11段には「D-20」と記載されていることからすれば、2種類の異なる発泡プラスチックブロックが使用されていることが分かる。
そして、本件特許の明細書には、「D-20」、「D-25」の密度が、それぞれ20+1.5(-1.0)kg/m^(3)、25±1.5kg/m^(3)であることが記載されており、最底部を含む下層の「D-25」が高密度、その上層での「D-20」が低密度であることが分かる。
(請求書9頁下から3行ないし11頁21行)

(イ)甲1発明の構成は、本件特許発明の用語を用いて表記すると次の構成となる。
a 発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、
b 最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックが、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックより高密度であり、
c 水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いない
d 軽量片盛土構造。
(請求書12頁下から3行ないし13頁7行)

(ウ)甲1発明と本件特許発明1との相違点は、前者が、表面摩擦係数がほとんど変わらない2種類の発泡プラスチックブロックを使用しているのに対して、後者が、「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きいことを特徴とする」点である。
(請求書13頁11ないし16行)

(ウ)甲1発明では、2種類の発泡プラスチックブロック(上層に「D-20」、下層に「D-25」)が使用されているが、これらの表面摩擦係数はほとんど変わらないものと考えられる。一方、本件特許発明1では、「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きいことを特徴とする」となっている。しかしながら、甲1発明の下層の発泡プラスチックブロック「D-25」を、押出発泡法による発泡プラスチックブロック(例えば、「DX-29」など)に置換することは単なる設計事項に過ぎない。そして、この場合、押出発泡法による発泡プラスチックブロックは、何ら表面処理を施さなくても、上層の発泡プラスチックブロック「D-20」よりも表面摩擦係数が高いことから、本件特許発明1は、甲1発明から容易に想到できる発明であるといえる。
(請求書14頁9ないし22行)

(エ)甲1発明では、下層に圧縮強度の高い高密度の発泡プラスチックブロック「D-25」が使用されている。これは、盛土内部の荷重分散特性を把握し、圧縮強度の異なる発泡プラスチックブロックを組み合わせた合理的な設計を行うという周知技術(甲第3?5号証)に基づいて、より荷重のかかる下層により高密度の発泡プラスチックブロックを使用したものである。
(請求書14頁25行ないし15頁3行)

(オ)合理的な設計を行うに当たって選択可能な高密度の発泡プラスチックブロックとしては、甲第2号証、甲第5号証のように、押出発泡法による「DX-29」などの発泡プラスチックブロックが本件特許出願時に一般的に知られていた。「単位体積重量」は密度を意味し、「DX-29」が29kgf/m^(3)と、「D-25」の25kgf/m^(3)よりも高密度であることが分かる。
(請求書17頁下から6ないし末行)

(カ)そうすると、盛土内部の荷重分散特性を把握し、圧縮強度の異なる発泡プラスチックブロックを組み合わせた合理的な設計を行う中で、発泡プラスチックブロック「D-25」を押出発泡法による発泡プラスチックブロック(例えば「DX-29」など)に置換することは単なる設計事項に過ぎない。
(請求書18頁下から8ないし下から4行)

(キ)甲第2号証には、押出発泡法により製造された発泡プラスチツクブロック(XPS)が、型内発泡法により製造された発泡プラスチックブロック(EPS)よりも表面摩擦係数が高いことが報告されている。
(請求書18頁下から1行ないし19頁3行)

イ 本件特許発明2について
(ア)甲1発明と本件特許発明2との相違点は、前者が、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックを用いた層において緊結金具を用いていないのに対して、後者が、「表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層において、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いない」点である。
(請求書13頁18ないし23行)

(イ)本件横断図及び甲第1号証の全体を見ても分かる通り、甲1発明には、緊結金具は用いられていない。本件特許発明1で説明した通り、甲1発明の下層の発泡プラスチックブロック「D-25」を、単に押出発泡法による発泡プラスチックブロック(例えば、「DX-29」など)に置換することは単なる設計事項であるが、この置換によって同時に本件特許発明2と同じ構成となる。
(請求書22頁13ないし18行)

ウ 本件特許発明3について
(ア)甲1発明と本件特許発明3との相違点1は、前者が、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いていないのに対して、後者が、「表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックが、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックよりも高密度の発泡プラスチックからなる」点である。
(請求書13頁末行ないし14頁4行)

(イ)本件特許発明1で説明した通り、甲1発明の下層の発泡プラスチックブロック「D-25」を、単に押出発泡法による発泡プラスチックブロック(例えば、「DX-29」など)に置換することは単なる設計事項であるが、この置換によって同時に本件特許発明3と同じ構成となる。すなわち、上層の発泡プラスチックブロック「D-20」の密度は、20+1.5(-1.0)kg/m^(3)であるが、押出発泡法による発泡プラスチックブロックはそれよりも一様に密度が高く、例えば「DX-29」で言えば、約29kg/m^(3)である。上記置換をした場合には、上層の発泡プラスチックブロック「D-20」は、表面摩擦係数が低く、低密度であるが、下層の押出発泡法による発泡プラスチックブロック(例えば、「DX-29」など)は、表面摩擦係数が高く、高密度(「DX-29」であれば約29kg/m^(3))ということになる。
(請求書22頁下から6行ないし23頁6行)

エ 本件訂正発明1について
各甲号証から明らかなとおり、緊結金具の形状・材質・施工方法等について、統一基準があるわけでもないから、どのような緊結金具をどのように、何個施工するかは各社の設計事項の問題であり、「表面摩擦係数の大きいEPSブロック同士を連結する緊結金具が、その上方部のEPSブロック同士を連結する緊結金具より少ない」というだけでは、技術として特定されておらず、進歩性が無い。
したがって、本件訂正発明1は、最低部付近への応力集中によるEPSブロックの塑性変形を防止するという甲第5号証記載の技術課題の対応技術を記載した甲1発明を前提として、押出発泡法・型内発泡法及びEPSブロックの発泡法毎の密度について記載した甲第2、5号証に触れた当業者が容易に想到できる発明である。
(弁駁書2頁12ないし22行)

オ 本件訂正発明4について
本件訂正発明は、本件訂正発明1に、訂正前の本件特許発明3を組み合わせたものに過ぎない。
したがって、本件訂正発明4は、最低部付近への応力集中によるEPSブロックの塑性変形を防止するという甲第5号証記載の技術課題の対応技術を記載した甲1発明を前提として、押出発泡法・型内発泡法及びEPSブロックの発泡法毎の密度について記載した甲第2、5号証に触れた当業者が容易に想到できる発明である。
(弁駁書2頁25行ないし3頁1行)

(2)無効理由2について
ア 甲第7号証では、施工後に舗装面が沈下するなどのEPS盛土での問題点が指摘された上で、その原因が、施工誤差以外に、EPS材の物性である弾性変形が影響していることにあると分析し、当該部分に高い強度の材料を、それ以外の部分に一般的な材料を使用する計画が立てられている。
また、このEPS盛土は、傾斜地に設置されていることから、立断面図は逆台形になっているといえる。
甲7発明においては、最低部に「DX-29」を、それ以外の部分(最上部を除く)に「D-20」が使用されている。
そして、既に述べた通り、甲第2号証には、押出発泡法により製造された発泡プラスチックブロック(XPS)が、型内発泡法により製造された発泡プラスチックブロック(EPS)よりも表面摩擦係数が高いことが報告されている。
甲7発明において、最低部に用いられている「DX-29」(29kgf/m^(3))は、それ以外の部分(最上部を除く)に用いられている「D-20」(20kgf/m^(3))よりも高密度である。
図-3、甲第7号証全体から明らかなとおり、実験において緊結金具は用いられていない。
(請求書24頁下から5行ないし27頁6行)

イ 甲7発明の構成は、本件特許発明の用語を用いて表記すると次の構成となる。
a 発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、
b 最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロック(「DX-29」)の表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロック(「DX-20」)の表面摩擦係数よりも大きく、
c 表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック(「DX-29」(29kgf/m^(3)))が、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロック(「DX-20」(20kgf/m^(3)))よりも高密度の発泡プラスチックであり、
d 水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いないe軽量片盛土構造。
(請求書27頁8ないし22行)

ウ 甲7発明の構成は、本件特許発明1?3の構成要件と同一である。
(請求書27頁末行ないし28頁7行)

(3)甲第1号証の頒布について
ア 被請求人の主張する通り、甲第1号証の資料が(社)プラスチック処理促進協会支援事業に対してのみ提出された報告書であったとしても、秘密文書とされたわけでもなく、不特定又は多数人が知り得る状況に置かれた以上、公知性は満たすので、被請求人の主張は失当である。
甲第1号証の資料は、(社)プラスチック処理促進協会支援事業に対してのみ提供されたものとは考えられない。
設立の目的や出資関係からすれば、発泡スチロール再資源化協会(現・発泡スチロール協会。以下「JEPSA」という。)が調査・研究し作成した資料を、(社)プラスチック処理促進協会支援事業に対してのみ提供するなどという被請求人の憶測は不合理極まりない。
JEPSAは会員からの出資金や会費を原資として、発泡スチロール業界の発展のために調査・研究等の活動を行っているのであるから、組織の目的・性質上、その成果を取りまとめた甲第1号証のように会員の利益になる資料を所属会員に配布し、還元することは当然の義務であり、そのようにしているはずである。
その調査・研究の成果は、極めて実務的な内容であるから、そのような成果を取りまとめて作成した資料を完成後速やかに会員に配布せずに、何カ月も放置しておくことはありえず、平成10年8月に完成した甲第1号証の資料は、いくら遅くとも、平成10年中にはJEPSAの会員一般に配布されていたはずである。
(口頭審理陳述要領書2頁21行ないし3頁24行)

イ 甲第10号証によると、発泡スチロール土木開発機構(以下「EDO」という。)の協力を得てJEPSAが作成した甲第1号証は、甲第1号証の表紙に記載の「平成10年8月」に完成し、その頃に、JEPSA・EDOの事務局担当者間を通じて、EDOにも複数部数が提供されたものであった。
甲第1号証は、平成10年8月、完成と共に、JEPSAにおいても、JEPSA会員であれば誰でも閲覧可能な状態で保管されていたことはいうまでもない。
以上より、いくら遅くとも、甲第1号証は、EDOがJEPSAより、複数部数の提供を受けた平成10年8月時点で、不特定多数又は多数人が認識しうる状態の下で開示されていたものであることは明らかである。
(平成28年2月9日付け上申書2頁10ないし27行)

第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件無効審判の請求は認められない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨主張し(答弁書、平成28年1月12日付け口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書、平成28年2月23日付け上申書、平成28年5月16日付け上申書(第2)を参照。)、証拠方法として乙第1号証ないし乙第4号証を提出している。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

乙第1号証:「第10期(平成7年度)合同部会資料」,EDO・発泡スチロール土木工法開発機構,平成7年11月20日,56ないし59頁
乙第2号証:発泡スチロール土木工法開発機構,「EPS工法-発泡スチロール(EPS)を用いた超軽量盛土工法-」,3版,理工図書株式会社,平成10年8月25日,目次、65ないし69頁、161ないし162頁
乙第3号証:発泡スチロール土木工法開発機構壁材標準化ワーキンググループ,「EPS開発機構 壁材標準化ワーキング -EPSを用いた拡幅盛土の壁体構造の標準化- 活動報告書」,発泡スチロール土木工法開発機構,平成9年12月,表紙、序文、目次及び裏表紙
乙第4号証:塚本英樹の名刺

3 被請求人の具体的な主張
(1)甲第1号証の頒布について
ア 甲第1号証に係る報告書は、発泡スチロール再資源化協会から(社)プラスチック処理促進協会支援事業へ提出されたものと考えられる。甲第1号証の表紙の上部に記載されているのが(社)プラスチック処理促進協会支援事業の1社のみであることからすると、甲第1号証が(社)プラスチック処理促進協会支援事業以外には提出されていないと考えられる。つまり、甲第1号証は、発泡スチロール再資源化協会から(社)プラスチック処理促進協会支援事業1社に対してだけ提出された私的な報告書であって、刊行物として発刊されたものであるとは社会通念上考えられない。
甲第1号証に記載されているような新たな技術の開発に関する情報は、これに携わったグループ内のみに止められるのが通常である。甲第1号証のような報告書が、調査・検討のための施工後、それほどの期間をおくことなく刊行物として発刊されるとは一般的には考えられない。
甲第1号証の表紙に記載の「平成10年8月」は、甲第1号証に係る報告書の提出年・月又は作成年・月であると解するのが相当であり、この記載をもって甲第1号証の発刊年・月であるとは認められない。また、「平成10年8月」をもって甲第1号証の発刊年・月であるとするに足る証拠もない。
以上のことからすれば、甲第1号証が、本件特許の出願前に頒布された刊行物であるとは認められず、甲1発明が本件特許の出願前に公知であったとは認められない。
(答弁書2頁22行ないし4頁1行)

イ JEPSAの目的や出資関係に基づき、発泡スチロール再資源化協会が、甲第1号証を遅くとも平成10年12月までに所属の会員一般に対して頒布しているはずであるとする請求人の主張は、合理的根拠を全く欠く主張にすぎない。
(口頭審理陳述要領書3頁9ないし12行)

ウ 甲第10号証に記載されている事項は、今からほぼ20年も前の事柄であり、一般的な人間の記憶状態を考えると、直ちには、当時の事実を正確に表しているものとは認め難い。
(上申書2頁7ないし9行)

エ 甲第1号証は、(社)プラスチック処理促進協会から委託されて発泡スチロール再資源化協会が作成して納品した文書であると考えるのが最も一般的な解釈であろうと考える。このように解釈した場合、甲第1号証を(社)プラスチック処理促進協会支援事業以外の第三者に配布するには、(社)プラスチック処理促進協会の許可が必要となると考えるのが自然である。
塚本氏の記憶からすると、(社)プラスチック処理促進協会が発泡スチロール再資源化協会から甲第1号証を受領したであろう時期とほぼ同時期に、EDOは甲第1号証の提供を受けている。
しかしながら、甲第1号証をこのような時期に第三者に配布することを(社)プラスチック処理促進協会が許可するとは一般的には考えられない。また、甲第1号証を緊急に第三者に配布しなければならない特段の事由があったとも認められない。したがって、EDOが「1998年8月」頃に甲第1号証を受領したとする塚本氏の記憶は誤っている可能性が高い。
(上申書2頁19行ないし3頁5行)

オ 甲第1号証は、発泡スチロール再資源化協会が行った独自の研究活動に関し、(社)プラスチック処理協会への補助金を請求するための報告書である可能性も否定できない。甲第1号証が補助金請求のための報告書であるとすると、この報告書の内容が発泡スチロール減容品の新しい用途の開発に関するものであり、知的財産としての保護等を考慮すれば、甲第1号証を第三者に配布するとしても、一般的には請求手続からかなりの期間経過後であると考えられる。したがって、大滝氏からの連絡は、報告書の完成からかなりの時間が経過した後と考えるのが自然である。この場合には、甲第1号証は公知文献ではない可能性が高い。
(上申書(第2)3頁20ないし22行、4頁20ないし26行)

(2)無効理由1について
ア 甲1発明が本件特許の出願前に公知であったとは認められないにも拘わらず、本件特許発明について、甲1発明との相違点を抽出して論じている請求人の進歩性についての主張は明らかに失当である。本件特許発明については、仮に、甲1発明が公知で、甲1発明との相違点が、請求人が主張する相違点だけに限られているとしても、請求人の主張は理由のないものである。
(答弁書4頁12ないし18行)

イ 甲第3、4号証が開示するEPSの荷重分散特性を考慮した設計は、EPS盛土の最低部のEPSは高強度のものでなくてもよいとするものである。したがって、仮に甲1発明が本件特許の出願前に公知であったとしても、これらからは、甲1発明の下層の発泡プラスチックブロック「D-25」を、わざわざ押出発泡プラスチックブロックに置換することは容易に着想することができない。また、前記甲第3号証、甲第4号証及び乙第1号証の記載からすると、本件特許の出願当時においては、EPSの荷重分散特性から、下部のEPSは上部のEPSに比して強度が要求されないとするのが一般的な考え方であったともいえる。すなわち、本件特許の出願当時の周知技術からも、甲1発明の下層の発泡プラスチックブロック「D-25」を、押出発泡プラスチックブロックに置換することは容易に着想することができないといえる。
(答弁書6頁8ないし18行)

ウ 甲第5号証は、発生する可能性を示しているにすぎない応力集中への対策を開示してはいるが、一般的には下部のEPSは上部のEPSに比して強度が要求されないと考えられおり、しかも下部に高い強度の材料を使用しても弾性変形による沈下を十分防止できない計算例も存在する。これらを考えると、仮に甲1発明が本件特許の出願前に公知で、当業者が、甲第1号証及び甲第5号証に接したとしても、当時の周知技術及び甲第7号証の技術情報の存在からすれば、甲1発明の下層の発泡プラスチックブロック「D-25」を、わざわざ押出発泡プラスチックブロックに置換するに足る動機付けがあるとは認められない。
以上のように、本件特許発明1は、仮に、甲1発明が公知で、甲1発明との相違点が、請求人が主張する相違点だけに限られているとしても、請求人指摘の甲号証の発明からでは、容易には想到し得ないものである。
(答弁書7頁6ないし17行)

エ 乙第2号証65頁19?20行目の「緊結具(1個/m^(2))を用いてブロックを固定している。」との記載や、同161頁7行目の「ブロック間は図5.2.12に示す緊結具で相互を固定する。」との記載に示されるように、EPS盛土においては緊結金具の使用が当然ともいえる。このことからすれば、甲第1号証でも当然使用していると認められる。甲第1号証の本件横断図に記載がないのは、緊結金具が発泡プラスチックブロックに比して極めて小さいので省略されているか、緊結金具は上下の発泡プラスチックブロック間に挟み込ませて設置されることが通常であることから、図面上表われていないと解すべきである。また、甲第1号証の写真に写っていないのは、通常、緊結金具は上下の発泡プラスチックブロック間に挟み込ませて設置され、最上段の発泡プラスチックブロックの上面には使用しないことも多いので、外観上表われないこともあるためであると解すべきである。
以上のように、本件特許発明2は、仮に、甲1発明が公知で、甲1発明との相違点が、請求人が主張する相違点だけに限られているとしても、この相違点に対する請求人の主張には理由がない。
(答弁書7頁22行ないし8頁8行)

オ 本件特許発明1についての反論中で既に説明したように、請求人指摘の甲号証の発明からでは、甲1発明の下層の発泡プラスチックブロック「D-25」を、わざわざ押出発泡プラスチックブロックに置換することを容易に着想することができたとは認められない。したがって、本件特許発明3は、仮に、甲1発明が公知で、甲1発明との相違点が、請求人が主張する相違点だけに限られているとしても、請求人指摘の甲号証の発明からでは、容易には想到し得ないものである。
(答弁書8頁18ないし24行)

カ 甲第1号証には、緊結金具の使用について明示的な記載はないが、乙第2号証の記載に照らせば、EPS工法において緊結金具の使用は必須であることから、甲1発明においても緊結金具が使用されていると認められる。
しかしながら、甲第1号証及び乙第2号証のいずれにも、連結するブロックの表面摩擦係数によって使用する緊結金具の数を調整することについては開示も示唆もされていない。
これに対し本件訂正発明1は、表面摩擦係数の大きいブロック同士を連結する緊結金具が、これより表面摩擦係数の小さいブロック同士を連結する緊結金具より少ないという構成を有することで、高価な緊結金具の使用個数を減らし、さらに該金具を用いた繁雑な連結作業を減らして構築にかかる時間を短縮することができるという作用効果を奏するものである。
すなわち、本件訂正発明1は、甲第1号証及び乙第2号証には開示のない特異な構成を有し、それに基づく顕著な作用効果を奏するもので、無効理由1には該当せず、特許性を有しているものである。
(上申書(第2)5頁14ないし27行)

(3)無効理由2について
ア ブロックとして、弾性係数が5,380kN/m^(2)の「D-20」と、弾性係数が16,000kN/m^(2)の「DX-29」を用いた、「図-3 EPS盛土正面図」に示されるEPS盛土の弾性変形量を算出したところ、舗装面ばかりでなく、EPS躯体構造にも影響を及ぼすような沈下につながる弾性変形量が算出されたので、弾性変形量を小さくする方法を検討することになったことが明らかにされている。
上記甲第7号証の「3.EPS盛土での問題点」の記載は、ブロックとして「D-20」と「DX-29」を用いた、「図-3 EPS盛土正面図」に示されるEPS盛土は、舗装面ばかりでなく、EPS躯体構造にも影響を及ぼすような沈下につながる弾性変形量となるため、使用できないとの結論に至ったことを意味している。つまり、甲第7号証の「3.EPS盛土での問題点」の記載は、いわば失敗例を示すものであり、特許法第29条第1項各号の発明を開示するものとはなり得ないものである。
(答弁書9頁17ないし末行)

イ 甲第7号証には緊結金具が明示されていないが、既に説明したように、甲第7号証においても使用されていると解すべきである。
(答弁書10頁20ないし21行)

ウ 甲第7号証は、少なくとも、下部の発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数をその上方の発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数より大きくすることと、緊結金具を使用しないこと、下部の発泡プラスチックブロックの密度をその上方の発泡プラスチックブロックの密度より大きくすることについて開示していない。したがって、これらの点において、本件特許発明1?3は甲7発明とはそれぞれ相違することが明らかである。
(答弁書10頁25行ないし11頁1行)

第6 当審の判断
1 甲各号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の頒布性について
被請求人は、甲第1号証が本願出願前に頒布された刊行物であるか否かについて争っているので、まず、この点について検討する。

(ア)甲第1号証には、次の事項が記載されている。
a 「(社)プラスチック処理促進協会支援事業 発泡スチロール減容品の用途開発事業報告書(EPS土木工法拡幅盛土の裏込材モデル実験) 平成10年8月 発泡スチロール再資源化協会」(表紙)
b 「発泡スチロールは今世紀最大の発明と言われている。……しかし、使用後は容積がかさむ為、処理に困ることから、ゴミの代名詞のように、白眼視された時期もあった。発泡スチロール再資源化協会はこうした問題に立ち向かい、現在では30.2%にリサイクルを果たすまでになった。……すでに、国内でもインゴットを粉砕してペレット化して、面木、目地棒等の土木・建築材料、玩具、家電OA機器の部品等で15千トン使用されているが、30千トンを消化出来る迄には到っていない。そこで大量の使用の期待出来る土木用途への用途開発に取りかかることにした。インゴットを粉砕したものは比重が0.5トン/m^(3)と軽く……強度も4号砕石並みであるところに着目した。
一方、EPS工法は、’85年に国内で取り上げられてから10数年を経て、96年には458件の254千m^(3)使用される迄になった。……急傾斜地での道路の拡幅工事への採用が増え、EPSを裏込めとする、擁壁の高さも年々高くなり8?10Mの物件が増えてきている。その分EPSの裏込めに通水材として使用している砕石の荷重が擁壁に掛かり、鋼材を変形させたり、基礎を破壊させるおそれがあり、通水材の再検討の必要性が出てきており、リサイクルの面と土木の施工の面でドッキングして用途開発にあたることにした。」(1頁2ないし28行)
c 「・開発を進めるための組織体制
事務局を発泡スチロール再資源化協会の中に置き、推進-部長の大瀧がコーディネートを行い、同協会の瀬尾技術部長及び岡三興業(株)開発事業部大阪技術課と九州技術課がフォローを行った。……」(1頁29ないし35行)
d 「EPS軽量盛土の裏込めとして砕石が使用されているのが現状である。本試験は、粒状ペレットの特性(軽量化:背面土圧の軽減)を生かし、裏込めとしての使用を検討する際の資料を得る目的で、粒状ペレットの特性を把握すると共に現在使用されている砕石との比較試験を行ったものである。
……
<使用材料>
イ)インゴットを粉砕した粒状ペレット(粒径:20?30mm)」(29頁2ないし13行)

(イ)上記(ア)aないしdの摘記事項によると、甲第1号証は、(社)プラスチック処理促進協会が支援する事業において、発泡スチロール再資源化協会が主体となって、発泡スチロールをリサイクルして製造された粒状ペレットをEPS土木工法拡幅盛土の裏込材として用いるモデル実験を行った結果をまとめた報告書であって、平成10年8月に作成されたものと認められる。
そして、甲第1号証の報告書は、その内容からみて、作成後速やかに、少なくとも発泡スチロール再資源化協会の会員企業、(社)プラスチック処理促進協会及びその会員企業に提供されるべきものであり、その内容を広く世の中に知らしめることが発泡スチロールのリサイクルの向上に繋がるものであって、秘密にする特段の理由も認められない。

(ウ)また、甲第10号証には、発泡スチロール再資源化協会及び(社)プラスチック処理促進協会とは別組織である、発泡スチロール土木工法開発機構が、平成10年8月頃に、発泡スチロール再資源化協会より甲第1号証の報告書を複数部提供され、同機構の主要メンバー社に対して配布すると共に、同機構の事務所にも会員が閲覧可能な資料として保管したことが記載されており、甲第1号証が守秘義務を課すことなく頒布されたことを裏付けている。

(エ)してみると、甲第1号証は、平成10年8月頃、すなわち本件特許の出願日前に頒布された刊行物であると推認できる。

(オ)なお、被請求人は、甲第10号証に記載されている事項は、今からほぼ20年も前の事柄であり、一般的な人間の記憶状態を考えると、当時の事実を正確に表しているものとは認め難い旨、(社)プラスチック処理促進協会が、甲第1号証を受領した時期とほぼ同時期に、甲第1号証を第三者に配布することを許可するとは考えられない旨、甲第1号証が補助金請求のための報告書であるとすると、知的財産の保護等を考慮すれば、甲第1号証を第三者に配布するとしても、一般的には請求手続からかなりの期間経過後であると考えられる旨等、縷々主張するが、上記(イ)、(ウ)のとおりであって、いずれも採用できない。

イ 甲第1号証の記載
(ア)甲第1号証には、次の事項が記載されている。

a 「EPS工法は、発泡スチロールの大型ブロックを土木、建築分野の土木工事、構造物工事……に用いる工法で、EPSの超軽量性、耐圧縮性、自立性、耐水性および施工性などの特徴を有効に活用する工法の総称である。」(12頁18ないし20行)

b 「第2章 急傾斜地でのモデル施工
1.在来工法での問題点
1986年以降、軟弱地盤状の軽量盛土、拡幅盛土、……等々さまざまなロケーションに採用されて来た。その中で、我が国のインフラ整備として道路部に採用されるケースが多く、国土事情から最近では、より急峻な山岳道路部の斜面拡幅や大規模地すべり地への適用など設計、施工条件がかなり厳しい箇所への適用が多くなっている。そのような背景をもとに、基礎幅の確保が不十分な急傾斜やゆるい崩積土上に施工された拡幅盛土などでは、盛土本体と併せて裏込め材も含めた軽量化を図らなければ全体の変形やすべりが懸念されるケースも生じている。

2.EPSドレン材を用いた新工法
(2)実験の目的
斜面を掘削してEPS盛土を構築する場合、地山とEPSとの境界部は、湧水や浸透水の排水を考慮して砕石が使用されているのが現状である。……
ここでは、従来EPS背面の裏込め材として使用している砕石と、砕石と比較して軽量という特徴を生かし、裏込め材として最低限の物性値を有しているか、比較試験を行ったものが特性確認試験である。……」(26頁1ないし19行)

c 「EPS軽量盛土の裏込め材として砕石が使用されているのが現状である。
本試験は、粒状ペレットの特性(軽量化:背面土圧の軽減)を生かし、裏込めとしての使用を検討する際の資料を得る目的で、粒状ペレットの特性を把握すると共に現在使用されている砕石との比較試験を行ったものである。」(29頁2ないし4行)

d 「また、室内試験においてEPS背面裏込め材として強度特性に問題がないため、実現場における試験施工を行うこととした。」(41頁1ないし2行)

e 「(4)考察
EPS背面砕石部に砕石とインゴット砕石の区間分けをして試験施工を行った。掘削のり面は、降雨、周辺からの流入水が溜まりやすい箇所であり、このためわずかの水位でもEPSが容易に浮き上がることとなる。そこで、掘削部ではその流入した水が滞留することなく、速やかに排水する必要がある。」(44頁16ないし20行)

f 上記aないしeの摘記事項、及び甲第2号証、甲第5号証の記載(下記(2)オ、コ及び(5)ウを参照。)に照らせば、「D-20」及び「D-25」は、型内発泡法によるEPSの種別を意味すると推認できることを踏まえて、42頁の正面展開図及び横断図をみると、以下の事項がみてとれる。
(a)EPSブロック(D-25、D-20)を盛土材として積層してなる片盛土構造であること。
(b)片盛土構造の立断面形状が、最低部が最もEPSブロックの敷設幅が小さく、上方ほどEPSブロックの敷設幅が大きい、逆台形であること。
(c)最低部を含む6層のEPSブロックとしてD-25を用い、その上方部のEPSブロックとしてD-20を用いたこと。

(イ)上記(ア)aないしfを総合し、さらに、甲第2号証、甲第5号証に記載(下記(2)オ、コ及び(5)ウを参照。)のように、「D-20」及び「D-25」の密度は、それぞれ20kg/m^(3)及び25kg/m^(3)であることを踏まえると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「EPSブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の片盛土構造において、
最低部を含む6層のEPSブロックとして、密度25kg/m^(3)のD-25を用い、その上方部のEPSブロックとして密度20kg/m^(3)のD-20を用いた片盛土構造。」

(2)甲第2号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。

ア 「EPSは,軽量性・自立性・施工性などにすぐれているため,軟弱地盤上の盛土や擁壁・橋台の裏込め,直立壁,あるいは管基礎などに使用した場合にこれらの特性が有効に発揮される。」(9頁2ないし4行)

イ 「EPS工法の主な適用分野を,表1.4.1に項目として示し,表1.4.2は形態別に整理して示している。また,図1.4.1はそれぞれの用途ごとに様々な適用形態を示したものである。」(9頁9ないし11行)

ウ 「型内発泡法とは,ポリスチレンと発泡剤から得られた発泡性ポリスチレンビーズを所定の発泡倍率に予備発泡させたものを,さらにサイロで乾燥,熟成させた後,成形機に充填し,予備発泡粒が軟化するまで加熱した後,冷却して成形体を製造する方法である。」(21頁2行ないし22頁2行)

エ 「押出発泡法とは,押出機内で加熱溶融させたポリスチレンに炭化水素などの易気体性液体ガスを混合して流動性ゲルを作り,これを押出機先端のオリフィスから低圧下の成型装置へ発泡しながら押出す方法である。」(25頁2ないし4行)

オ 「EPSは厚さ50cmのブロックが得られる型内発泡法によるものと,最大厚さ10cmのボード状ブロックが得られる押出発泡法による2種類の種別があり,それぞれEPS(種別記号としてD-30?D-12),XPS(種別記号としてDX-29)と略記している。」(27頁7ないし10行)

カ 「(3)摩擦特性
EPS工法は,その主要材料であるEPSを各種に組み合せ道路盛土などを構築する工法である。これらEPS構築体全体が基礎地盤上あるいは敷砂上に設置され盛土等が完成してゆくためEPS相互あるいはEPSと敷砂等の摩擦特性を把握しておくことは重要である。」(31頁12ないし16行))

キ 「……設計に用いる圧縮応力の許容値は,圧縮比例限(圧縮弾性限界)ひずみに対応する圧縮応力としている。」(40頁14ないし15行)

ク 「EPSの長期安定性を考える場合には,静的荷重による弾性的な変形のほかに,載荷時間に依存するクリープ特性を把握しておくことは,EPSの許容圧縮応力と関連する重要な特性の1つである。
発泡スチロール土木工法開発機構で行っている特性試験の例をEPSの種別(単位体積重量,発泡法)ごとに図2.2.29?34に示す。」(48頁2ないし7行)

ケ 「EPS工法の設計で考慮する荷重は,一般には土圧,自重,載荷重のほかEPS側圧,水圧・浮力,地震慣性力などである。」(77頁末行ないし78頁1行)

コ 上記オの記載を踏まえて、41頁の「表2.2.8 EPSの圧縮特性」をみると、型内発泡法で製造されたEPSであるD-20、D-25及び押出発泡法で製造されたDX-29の単位体積重量は、それぞれ20kgf/m^(3)、25kgf/m^(3)及び29kgf/m^(3)であり(密度は、それぞれ20kg/m^(3)、25kg/m^(3)及び29kg/m^(3))、同じく許容圧縮応力は、それぞれ5.0tf/m^(2)、7.0tf/m^(2)及び14.0tf/m^(2)であることがみてとれる。

サ 32頁の図2.2.10、及び33頁の図2.2.11、図2.2.12をみると、EPS相互の摩擦係数、EPS・XPSとモルタル面の摩擦係数、砂との摩擦係数のいずれも、押出発泡法によるもの(XPS)が型内発泡法によるもの(EPS)よりも大きいことがみてとれる。

(3)甲第3号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。

ア 「発泡スチロール(以下EPS)ブロックを道路路床部に用いた軽量盛土工法において,交通荷重のEPS盛土内部での荷重分散特性を把握することによって,作用応力に応じた圧縮強さのEPS材を深度ごとに使い分ける合理的な設計が可能となる.また,EPS盛土の上層部に高強度EPS用いた場合には路盤厚が薄くでき,盛土重量の軽減を図ることができる他,擁壁などではこれによって地震時の水平慣性力を軽減することが可能となる.」(2523頁本文2ないし5行)

イ 「EPSブロックの端部が鉛直にそろって盛土されている場合(以下直盛土),端部付近に作用した荷重は分散が制限され,EPSには通常よりも大きな応力が作用することが三浦らの研究により報告されている….」(2524頁11ないし14行)

ウ 「一連の実験によりEPS盛土内の荷重分散特性を把握できた.この荷重分散を考慮することにより,強度の異なるEPSを組合わせた合理的な設計を可能とする盛土内応力の算定式を提案することができた.」(2524頁20ないし21行)

(4)甲第4号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。

ア 「道路の盛土材料に発泡スチロール……を用いる場合、現在の設計法ではEPS盛土内部の荷重分散特性が明らかでないため、上層から下層まですべて同じ圧縮強さのEPSを使用している。そこで、EPS盛土内部の荷重分散特性を把握することにより、作用応力に応じた圧縮強さのEPSを深さごとに使い分ける合理的な設計方法が考えられる。
このため、EPSの荷重分散特性の適切な評価を目的に室内実験と現場実験を実施した。この実験から、載荷荷重直下の応力が最も大きく、またEPS上面より深くなるにつれて応力が減衰されていくことがわかった。……そこで各層のEPSに作用する最大応力を求め、圧縮強さの違うEPSを使い分けることができるようになる。」(2頁要約欄の1ないし10行)

イ 「2.研究の目的
道路盛土に使用されるEPSの設計では、死荷重としての舗装体やコンクリート床版、活荷重としての交通荷重等に十分耐えるEPSの強度が必要である。最近、設計自動車荷重が改正され、従来と同じ強度のEPSを使用するためには、路盤工を厚くして、舗装体やコンクリート床版を伝播してEPSに作用する活荷重の低減をはかる必要がある。
高強度EPSを使用する計画も考えられるが、従来、EPS内部での荷重分散特性が明確になっていないことから荷重の分散を考慮した適切な設計ができず、高強度EPSを全厚もしくは経験的にかなり安全側の厚さに使用せざるを得なかった。
しかし、適切な強度のEPSを従来通り積み上げ、上層部にのみ荷重分散特性上最低限の厚さで高強度EPSを使用し、路盤工の厚さを薄く抑えて死荷重の低減をはかることができれば、EPS材料費用の節約や、鉛直方向の荷重軽減、直立壁、擁壁、橋台背面などでの側圧や地震時の水平方向の慣性力低減など利点が多く、有利な設計が可能となる。
実際に、このような高強度EPSを使用した合理的な設計法に対する現場の要望は高まってきている。
そこで本研究の目的は、道路盛土構造体におけるEPS内部の荷重分散特性を把握し、上記のような状況から現場の要望の多い、圧縮強度の異なるEPSブロックを組み合わせた合理的な設計法の提案を行うことである。」(3頁左欄15行ないし同頁右欄8行)

(5)甲第5号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。

ア 「表-3.3にEPSの種別に応じた圧縮特性を示している。なお、同表に示すように設計時においては,許容圧縮応力(弾性領域)を満足するように適切なEPS部材を選定する。」(12頁12ないし14行)

イ 「背面地盤の傾斜が45度より急な場合,EPS盛土背面の安定性(支持力など)によっては,最下段のEPSに応力集中を受ける可能性がある。この様な場合には,図-4.31に示すように下段EPS盛土部位では応力集中を考慮して,剛性の大きなEPSブロックの適用を検討することや最下段のEPS幅を適切な幅に検討する等の必要がある。
設定方法を以下に示す。
下段のEPSブロックの種別は応力集中を勘案して簡易的に以下の方法で応力度qを算定し決定する。
q=死荷重(舗装,盛土,EPS路床およびコンクリート床版等)(kN/m)÷最下段EPS幅(m)」(75頁14ないし21行)

ウ 11頁の「表-3.1 EPSの単位体積重量」及び12頁の「表-3.3 EPSの圧縮特性(JIS K 7220)」をみると、型内発泡法によるEPSの種別として、D-12ないしD-30、押出発泡法によるEPSの種別として、DX-24ないしDX-35があること、並びに、D-20、D-25、DX-29及びDX-35の単位体積重量は、それぞれ0.20kN/m^(3)、0.25kN/m^(3)、0.29kN/m^(3)及び0.35kN/m^(3)(密度は、それぞれ20kg/m^(3)、25kg/m^(3)、及び29kg/m^(3)及び35kg/m^(3))であり、許容圧縮応力は、それぞれ50kN/m^(2)、70kN/m^(2)、140kN/m^(2)及び200kN/m^(2)であることがみてとれる。

(6)甲第7号証
ア 本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「国道371号特殊改良工事
-高強度EPSブロックによる高盛土 22.5m-
……
2.EPS盛土での計画
計画区間を詳細に検討した結果、補強土盛土の荷重では約20m区間が支持力不足であると判断されたため、この区間についてEPS盛土にて計画することとした。」(61頁1ないし14行)

(イ)「3.EPS盛土での問題点
計画区間でのEPS盛土高は約22mとなり、EPS躯体高も21.5mとなる。近年では、EPS盛土の躯体高が15mを超えるような計画も、数多く見受けられるようになったが、反面、施工後に舗装面が沈下する等の弊害も発生しているようである。これらの沈下の要因として、ブロックの積層中に発生するEPSブロック上下間の空隙が、舗装荷重が載荷されたことにより密着することで発生している考えられている。しかし、このような施工誤差以外に、弾性体であるEPS材の物性である弾性変形が影響していることも考慮すべき要因である。
……
EPS盛土は、上部と下部に応力が集中すると考えられているため、高い強度の材料を使用する計画とし、それ以外については一般的な材料で計画を行った。
これらのブロックでの弾性変形量を算出すると以下のようになる。
……
EPS躯体高21.5mに対して0.3%程度ではあるが、工事完了時から70mmの沈下が発生することとなる。この沈下は舗装面ばかりでなく、EPS躯体構造にも影響を及ぼすことが考えられるため、弾性変形量を少なくする方法を検討することとした。」(63頁1行ないし64頁13行)

(ウ)「4.高強度ブロックによる盛土計画
盛土での弾性変形量を小さくするには、死荷重となる舗装部重量や中間床版の荷重を小さくすることで理論上可能となるが、実際の計画でこれらの荷重を小さくすることは不可能である。このため、EPS材の弾性係数が大きいブロックを使用することにより、変形量を小さくする方法を検討することとした。応力集中となる部分はDX-29を使用することとし、それ以外の材料は、EPS躯体構造から最大変位量を5.0cm以下、道路部分両端での変位差が1.0cm程度となる強度とした。
……
試算の結果、条件を満足させるためには、盛土全体をDX-29にて計画することとなるが、経済性に劣る構造となる。このため、規格品であるDX-24の材質を変更した特注品により対応させることとした。目標変位量を満足させるためには、この特注品DX-24の弾性係数を10,100kN/m^(2)とすることが必要となり、想定変位量の試算結果を表-2に示す。」(64頁14ないし23行)

(エ)「5.評価
……
計画は施工工期を無視した試算を行ったが、実際の施工は段階的に行われている。これらも考慮しすれば、供用開始後の弾性変形は微少であり、安全な盛土構造が構築されていると考えられる。」(65頁1ないし5行)

(オ)上記(ア)ないし(エ)の摘記事項、及び甲第2号証、甲第5号証の記載(上記(2)オ、コ及び(5)ウを参照。)に照らせば、「D-20」及び「DX-29」は、EPSの種別を意味すると推認できることを踏まえて、62頁の図-2、63頁の図-3及び65頁の図-5をみると、以下の事項がみてとれる。
a EPSブロック(DX-29、D-20)を盛土材として積層してなる片盛土構造であること。
b 片盛土構造の立断面形状が、最低部が最もEPSブロックの敷設幅が小さく、上方ほどEPSブロックの敷設幅が大きい、逆台形であること。
c 最低部を含む5層のEPSブロックとしてDX-29を用い、その上方部のEPSブロックとしてD-20を用いたこと。

イ 上記ア(ア)ないし(オ)を総合し、さらに、甲第2号証、甲第5号証に記載(上記(2)オ、コ及び(5)ウを参照。)のように、型内発泡法による「D-20」の密度は20kg/m^(3)であり、押出発泡法による「DX-29」の密度は29kg/m^(3)であること、及び甲第2号証に記載(上記(2)サを参照。)のように、押出発泡法によるEPSブロックの摩擦係数は、型内発泡法によるEPSブロックのものより大きいことを踏まえると、甲第7号証には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。

「EPSブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の片盛土構造であって、最低部を含む5層に用いるEPSブロックであるDX-29の密度は29kg/m^(3)であり、その上方部に用いるEPSブロックであるD-20の密度20kg/m^(3)であり、最低部を含む5層に用いるEPSブロックであるDX-29の摩擦係数は、その上方部に用いるEPSブロックであるD-20の摩擦係数より大きい片盛土構造。」

2 無効理由について
本件訂正発明1及び2は、本件特許発明1及び2にそれぞれ対応し、本件訂正発明3及び4は、本件特許発明3に対応する。

(1)無効理由1について
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。

a 甲1発明の「EPSブロック」は、本件訂正発明1の「発泡プラスチックブロック」に相当し、甲1発明の「片盛土構造」は、「EPSブロックを盛土材として積層してなる」から、「軽量片盛土構造」といえる。

b 甲1発明の「最低部を含む6層のEPSブロック」である「D-25」、及び「その上方部のEPSブロック」である「D-20」は、本件訂正発明1の「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロック」及び「その上方部に用いる発泡プラスチックブロック」に、それぞれ相当し、
甲1発明の「最低部を含む6層のEPSブロックとして」、「D-25を用い」、「その上方部のEPSブロックとして」「D-20を用い」ることと、本件訂正発明1の「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きい」ことは、「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックと、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックが異なる」点で共通する。

c 以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックと、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックが異なる軽量片盛土構造。」

d 他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数と、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数の関係について、本件訂正発明1では、前者の表面摩擦係数が、後者の表面摩擦係数よりも大きいのに対し、甲1発明では、前者と後者の表面摩擦係数の大小関係が不明な点。

<相違点2>
緊結金具の使用に関し、本件訂正発明1では、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具が、その上方部の発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具より少ないのに対し、甲1発明では、EPSブロック同士を連結する緊結金具の使用について何ら特定されていない点。

(イ)判断
a 相違点1について
甲第2号証、甲第5号証に記載(上記1(2)オ、コ及び1(5)ウを参照。)のように、軽量盛土に用いる発泡プラスチックブロックとして、押出発泡法からなるもの(DX-24ないしDX-35)も、型内発泡法からなるもの(D-12ないしD-30)も、いずれも本件特許の出願時点において周知である。
また、同じく甲第2号証(上記1(2)サを参照。)の記載によれば、押出発泡法からなる発泡プラスチックブロック(XPS)の摩擦力は、型内発泡法からなる発泡プラスチックブロック(EPS)の摩擦力よりも大きいことも、本件特許の出願時点において周知である。。
そして、甲第5号証(上記1(5)イを参照。)の記載に照らせば、甲1発明において、最低部を含む6層のEPSブロックとしてD-25を用いたことの技術的意義は、最下段のEPSブロックへの応力集中に対応することにあると認められ、下段のEPSブロックの種別は応力集中を勘案して応力度を算定して決定するものと認められるところ、押出発泡ポリスチレンからなるDX-29やDX-35の許容圧縮応力が、D-25の許容圧縮応力よりも大きいことを踏まえると(上記1(5)ウを参照。)、甲1発明において、下段のEPSブロックへの応力集中を勘案してD-25に代えてDX-29やDX-35を用いることにより、結果として上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

b 相違点2について
乙第2号証には、「EPS工法で積上げた上下のブロック間の摩擦係数は通常,土の摩擦係数と同等の0.5以上となるが,EPS相互のずれ変位を防止するため,さらに,緊結金具(1個/m^(2))を用いてブロックを固定している。」(65頁18ないし20行)と記載されており、当該記載に照らせば、EPS工法において、隣接するEPSブロック同士を連結する緊結金具を用いることは、必須の事項であると認められるが、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士の連結の際に、緊結金具を少なくすることまでもが技術常識であるとは認められない。
そして、甲第3号証ないし甲第5号証は、盛土内の荷重分散特性を把握し、圧縮強度の異なる発泡プラスチックブロックを組み合わせた設計を行うことが周知技術であることの根拠として提示されたものであり、また、甲第2号証には、押出発泡法からなる発泡プラスチックブロックの摩擦力は、型内発泡法からなる発泡プラスチックブロックの摩擦力よりも大きいことが開示されているが、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士の連結の際に緊結金具を少なくすることについては記載も示唆もされていないから、甲第2号証ないし甲第5号証は、いずれも甲1発明において、上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることを教示するものではない。
してみると、甲1発明において、上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

c 請求人の主張について
請求人は、緊結金具の形状・材質・施工方法等について、統一基準があるわけでもないから、どのような緊結金具をどのように、何個施工するかは各社の設計事項の問題であり、「表面摩擦係数の大きいEPSブロック同士を連結する緊結金具が、その上方部のEPSブロック同士を連結する緊結金具より少ない」というだけでは、技術として特定されておらず、進歩性がない旨主張する(上記第4、3(1)エを参照。)。
しかし、本件訂正発明1は、上記相違点2に係る構成を備えることにより、「隣接する発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具を多数用いなくても盛土躯体のせん断破壊を十分に防止することができる。」、「高価な緊結金具の使用個数を減らし、さらに該金具を用いた繁雑な連結作業を減らして構築にかかる時間を短縮することができ、その結果、地震等の振動に強い片盛土構造をより安価に提供することができる。」(段落【0009】)との顕著な効果を奏するものであるから、請求人の主張は採用できない。

(ウ)小括
以上のとおりであって、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、請求人が主張する無効理由により、その特許を無効にすることはできない。

イ 本件訂正発明2について
(ア)対比
本件訂正発明2と甲1発明とを対比する。

a 甲1発明の「EPSブロック」は、本件訂正発明2の「発泡プラスチックブロック」に相当し、甲1発明の「片盛土構造」は、「EPSブロックを盛土材として積層してなる」から、「軽量片盛土構造」といえる。

b 甲1発明の「最底部を含む6層のEPSブロック」である「D-25」、及び「その上方部のEPSブロック」である「D-20」は、本件訂正発明2の「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロック」及び「その上方部に用いる発泡プラスチックブロック」に、それぞれ相当し、
甲1発明の「最底部を含む6層のEPSブロックとして」、「D-25を用い」、「その上方部のEPSブロックとして」「D-20を用い」ることと、本件訂正発明2の「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きい」ことは、「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックと、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックが異なる」点で共通する。

c 以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックと、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックが異なる軽量片盛土構造。」

d 他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点3>
最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数と、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数の関係について、本件訂正発明2では、前者の表面摩擦係数が、後者の表面摩擦係数よりも大きいのに対し、甲1発明では、前者と後者の表面摩擦係数の大小関係が不明な点。

<相違点4>
緊結金具の使用に関し、本件訂正発明2では、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層において、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いないのに対し、甲1発明では、EPSブロック同士を連結する緊結金具の使用について何ら特定されていない点。

(イ)判断
a 相違点3について
上記相違点3は、上記相違点1と同じであるから、上記ア(イ)aと同様の理由により、甲1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明2の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

b 相違点4について
上記ア(イ)bのとおり、乙第2号証の記載に照らせば、EPS工法において隣接するEPSブロック同士を連結する緊結金具を用いることは、必須の事項であると認められる。なお、この点については、請求人も認めている(第1回口頭審理調書を参照。)。
してみると、甲第1号証には、緊結金具の使用について明示的な記載はないが、甲1発明においても隣接するEPSブロック同士を連結する緊結金具を用いているものと認められる。
そして、甲第3号証ないし甲第5号証は、盛土内の荷重分散特性を把握し、圧縮強度の異なる発泡プラスチックブロックを組み合わせた設計を行うことが周知技術であることの根拠として提示されたものであり、また、甲第2号証には、押出発泡法からなる発泡プラスチックブロックの摩擦力は、型内発泡法からなる発泡プラスチックブロックの摩擦力よりも大きいことが開示されているが、押出発泡法からなる発泡プラスチックブロックの層において、緊結金具の使用を省略できることについては記載も示唆もないから、甲第2号証ないし甲第5号証は、いずれも甲1発明において、上記相違点4に係る本件訂正発明2の構成とすることを教示するものではない。
してみると、甲1発明において、上記相違点4に係る本件訂正発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであって、本件訂正発明2は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、請求人が主張する無効理由により、その特許を無効にすることはできない。

ウ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明2を引用してさらに限定したものであるから、上記イの本件訂正発明2についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件訂正発明3の特許は、請求人が主張する無効理由により無効にすることはできない。

エ 本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記アの本件訂正発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件訂正発明4の特許は、請求人が主張する無効理由により無効にすることはできない。

(2)無効理由2について
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲7発明とを対比する。

a 甲7発明の「EPSブロック」は、本件訂正発明1の「発泡プラスチックブロック」に相当し、甲1発明の「片盛土構造」は、「EPSブロックを盛土材として積層してなる」から、「軽量片盛土構造」といえる。

b 甲7発明の「最低部を含む5層に用いるEPSブロックであるDX-29の摩擦係数は、その上方部に用いるEPSブロックであるD-20の摩擦係数より大きい」ことは、本件訂正発明1の「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きい」ことに相当する。

c 以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きい軽量片盛土構造。」

d 他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点5>
緊結金具の使用に関し、本件訂正発明1では、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具が、その上方部の発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具より少ないのに対し、甲7発明では、EPSブロック同士を連結する緊結金具の使用について何ら特定されていない点。

(イ)判断
上記(1)ア(イ)bのとおり、乙第2号証の記載に照らせば、EPS工法において隣接するEPSブロック同士を連結する緊結金具を用いることは、必須の事項であると認められるが、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士の連結の際に、緊結金具を少なくすることまでもが技術常識であるとは認められない。
よって、本件訂正発明1は、甲第7号証に記載された発明ではない。

(ウ)小括
以上のとおりであって、本件訂正発明1は、甲第7号証に記載された発明ではないから、請求人が主張する無効理由により、その特許を無効にすることはできない。

イ 本件訂正発明2について
(ア)対比
本件訂正発明2と甲7発明とを対比する。

a 甲7発明の「EPSブロック」は、本件訂正発明2の「発泡プラスチックブロック」に相当し、甲1発明の「片盛土構造」は、「EPSブロックを盛土材として積層してなる」から、「軽量片盛土構造」といえる。

b 甲7発明の「最低部を含む5層に用いるEPSブロックであるDX-29の摩擦係数は、その上方部に用いるEPSブロックであるD-20の摩擦係数より大きい」ことは、本件訂正発明2の「最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きい」ことに相当する。

c 以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きい軽量片盛土構造。」

d 他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点>
表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層における緊結金具の使用に関し、本件訂正発明2では、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いないのに対し、甲7発明では、隣接するEPSブロック同士を連結する緊結金具を用いているか否か不明である点。

(イ)判断
上記(1)ア(イ)bのとおり、乙第2号証の記載に照らせば、EPS工法において、隣接するEPSブロック同士を連結する緊結金具を用いることは、必須の事項であると認められる。
してみると、甲第7号証には、緊結金具の使用について明示的な記載はないが、甲7発明においても隣接するEPSブロック同士を連結する緊結金具を用いているものと認められる。
よって、本件訂正発明2は、甲第7号証に記載された発明ではない。

(ウ)小括
以上のとおりであって、本件訂正発明2は、甲第7号証に記載された発明ではないから、請求人が主張する無効理由により、その特許を無効にすることはできない。

ウ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明2を引用してさらに限定したものであるから、上記イの本件訂正発明2についての判断と同様の理由により、甲第7号証に記載された発明とはいえない。
よって、本件訂正発明3の特許は、請求人が主張する無効理由により無効にすることはできない。

エ 本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記アの本件訂正発明1についての判断と同様の理由により、甲第7号証に記載された発明とはいえない。
よって、本件訂正発明4の特許は、請求人が主張する無効理由により無効にすることはできない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人が主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件訂正発明1ないし4に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
軽量片盛土構造
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡プラスチックブロックを盛土材として用いた軽量盛土構造に関し、特に、傾斜地の拡幅盛土などに用いられる軽量片盛土構造に関する。
【背景技術】
【0002】
傾斜地の拡幅盛土の工法として、盛土構造の軽量化や土圧軽減等を図るために、盛土材として超軽量の発泡プラスチックブロックを用いた工法が知られている。例えば特許文献1には、背面傾斜地と前面壁との間に発泡プラスチックブロックを充填し、これにより前面壁の背面に作用する土圧、即ち主働土圧の低減を図った構造が開示されている。このような盛土躯体の最上部に重量物たる舗装体等が形成される場合、交通荷重及び舗装体等を含む盛土躯体自重による大きな滑動力(背面傾斜方向下向きの力)によって一部の発泡プラスチックブロックに塑性歪みが生じる場合がある。特許文献1の盛土躯体においては、最低部を含む少なくとも一層により圧縮強度の高い高密度の発泡プラスチックブロックを用いることにより、かかる下層の発泡プラスチックブロックに大きな塑性歪みが発生するのを防止している。
【0003】
また、特許文献1に開示されたような盛土構造においては地震等の振動に盛土躯体にせん断破壊が生じるのを防止するために、水平方向及び垂直方向において互いに隣接するブロック同士が緊結金具により固定されている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】 特開2000-282470号公報
【特許文献2】 特開昭62-41822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
傾斜地に道路等を構築するために用いられる立断面が逆台形の片盛土構造においては、下層になるほど水平方向の断面積が小さくなるため、地震等の振動が生じた場合には、下層の発泡プラスチックブロックほど1個当たりに受ける水平方向のせん断力が大きく、盛土躯体のせん断破壊を防止するためには、面積当たりの緊結金具の個数を上層よりも増やして強固に連結する必要がある。しかしながら、緊結金具が高価であること、及び、当該金具を用いた発泡プラスチックブロック相互の連結作業が繁雑であることから当該金具を減らす手段が望まれていた。
【0006】
本発明の課題は、発泡プラスチックブロックを立断面が逆台形になるように積層してなる片盛土構造において、高価な緊結金具を多数用いずとも地震等の振動による躯体のせん断破壊が生じにくい構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具が、その上方部の発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具より少ないことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層において、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いないことを特徴とする。
本発明は、表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックが、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックよりも高密度の発泡プラスチックからなること、を好ましい態様として含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下層において表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いるため、地震等によって振動が生じた場合でも当該下層において個々のブロックが滑りにくく、隣接する発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具を多数用いなくても盛土躯体のせん断破壊を十分に防止することができる。よって、高価な緊結金具の使用個数を減らし、さらに該金具を用いた繁雑な連結作業を減らして構築にかかる時間を短縮することができ、その結果、地震等の振動に強い片盛土構造をより安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の片盛土構造は、図1に示したように、立断面が逆台形になるように発泡プラスチックブロックを積層してなる。具体的には、図1に示した傾斜地に道路等を構築するために拡幅構造を構築する場合、傾斜地の前面に擁壁を形成して該擁壁と斜面との間に盛土を構築する場合などに好ましく適用される。尚、本発明において立断面が逆台形であるとは、立断面において上辺が下辺よりも大である形態を意味し、例えば図4に示すように、上辺と下辺のそれぞれの端部をつなぐ線が直線でない場合も含まれる。
【0011】
以下、図1の傾斜地に道路を構築するための拡幅構造を例に挙げて本発明の片盛土構造を説明する。
【0012】
図1は、本発明の片盛土構造の一例を模式的に示した立断面図である。図中、1aは発泡プラスチックブロック、1bは表面摩擦係数が1aよりも大きい発泡プラスチックブロック、2は背面傾斜地、3は前面壁、4は発泡プラスチック充填層の中間部に配置されたコンクリート床版、11は基礎コンクリートである。また、10はコンクリート床版5、路床6、下層路盤7、上層路盤8、表層9等からなる道路舗装体である。尚、図1においては、発泡プラスチックブロック1a,1bは上部になるほど水平方向の長さが長くなる形状が示されているが、実際には、所定の長さのブロックを水平方向に縦横に敷設した層を上部になるほどブロックの個数を増やして面積を広げ、積層するものである。
【0013】
発泡プラスチックブロック1a,1bとしては、強度的に優れたものが好ましく、例えばポリスチレン発泡体、ポリエチレン発泡体、ポリウレタン発泡体等を用いることができ、特に強度的にも耐水性にも優れるポリスチレン発泡体が好適である。
【0014】
発泡プラスチックブロックとしては、予備発泡させたビーズを金型内に入れ、加熱及び冷却することにより所定密度に成形する型内発泡法によるもの、高圧下で溶融プラスチックに発泡剤を注入混合して流動性のゲルを作り、これを大気中に押出して急速に膨張させる押出発泡法によるものとがあるが、押出発泡法によるものは型内発泡法によるものよりも同一密度であっても厚み方向の圧縮強度を高くできる。これは、押出発泡法の場合には、製造時にブロック三方向の圧縮強度のコントロールが可能なためである。
【0015】
本発明においては、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロック1bが、その上方部の発泡プラスチックブロック1aよりも表面摩擦係数が大きい。このような発泡プラスチックブロック1bとしては、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロック1aの表面に凹凸(エンボス)加工、溝加工、ホットメルト散乱加工、被膜材スプレー塗布、摩擦係数の高いフィルム貼り等を施すことにより容易に得ることができる。また、特に押出発泡法による発泡プラスチック板製造時に表面のスキン層を取り除いて正寸化する際に、塗粒鉋等で仕上げることにより、ナイフ刃鋸を用いた場合に比べてより表面摩擦係数の大きな発泡プラスチックブロックを形成することができる。さらに、表面摩擦係数を高めるためには発泡プラスチックの気泡径が大きい方が好ましく、具体的には0.5mm以上が好ましい。但し、気泡径が大きすぎると発泡体自体に粘りがなくなり、衝撃強度に劣るため、最大でも1mm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、表面摩擦係数の大きい下層の発泡プラスチックブロック1bに、上方部の発泡プラスチックブロック1aよりも高密度の硬い発泡プラスチックを用いることが好ましい。このような高密度の発泡プラスチックブロックとして具体的には、密度が22kg/m^(3)より大きいものが好ましく、より好ましくは24kg/m^(3)以上、特に好ましくは28kg/m^(3)以上のものが望ましい。一方、上方部の発泡プラスチックブロック1aとしては、密度が15kg/m^(3)以上22kg/m^(3)以下のものが好ましい。
【0017】
高密度の発泡プラスチックブロックとしては、押出発泡ポリスチレンを特に好ましく用いることができ、これよりも低密度の発泡プラスチックブロックとしては、型内発泡ポリスチレンを好ましく用いることができる。
【0018】
また、高密度の発泡プラスチックブロックとして好適な押出発泡ポリスチレンとしては、具体的には、ダウ化工株式会社製商品名ライトフィルブロックDX-29(密度:29±2.0kg/m^(3)、許容圧縮応力:140kN/m^(2))、同DX-35(密度:35±3.0kg/m^(3)、許容圧縮応力:200kN/m^(2))が挙げられる。
【0019】
また、低密度の発泡プラスチックブロックとして好適な型内発泡ポリスチレンとしては、具体的には、ダウ化工株式会社製商品名ライトフィルブロックD-16(密度:16±1.0kg/m^(3)、許容圧縮応力:35kN/m^(2))、同D-20(密度:20+1.5(-1.0)kg/m^(3)、許容圧縮応力:50kN/m^(2))、同D-25(密度:25±1.5kg/m^(3)、許容圧縮応力:70kN/m^(2))が挙げられる。
【0020】
尚、低密度及び高密度の発泡プラスチックブロックの組み合わせは設計条件に応じて適宜に行うことができ、特に限定されるものではない。例えば低密度の発泡プラスチックブロックとして上記ライトフィルブロックD-16もしくはD-20を用いる場合には、上記ライトフィルブロックD-25を高密度の発泡プラスチックブロックとして用いることもできる。
【0021】
本発明においては、上方部の発泡プラスチックブロック1aについては、従来と同様の緊結金具を用いて隣接するブロック同士を連結する。図2に本発明に用いられる緊結金具の一例を、図3に該金具を用いて水平方向に複数個の発泡プラスチックブロックを連結した様子を示す。
【0022】
図3に示すように、平面相隣接して敷設された発泡プラスチックブロック1間にまたがって、上下に突出した歯22a,22bを有する取付プレート21を、その下向きの歯22bを発泡プラスチックブロック1に突き刺して取り付ける。そして、図3に示した発泡プラスチックブロック1の層の上にさらに、同様の発泡プラスチックブロック1からなる層を敷設することによって、本発明の片盛土構造の上方部が形成される。尚、最上層の発泡プラスチックブロックについては、図2に示した緊結金具の歯が全て一方に突出したものを用い、該歯をブロック側に向けて用いれば良い。
【0023】
本発明の片盛土構造においては、上方部の発泡プラスチックブロック1aは上記緊結金具を用いて連結するが、下方の発泡プラスチックブロック1bは発泡プラスチックブロック1aよりも表面摩擦係数が大きいため、必要とされる緊結金具が少なくてすみ、好ましくは、表面摩擦係数の十分に大きい発泡プラスチックブロック1bを用いることにより、緊結金具を用いずに構築する。特に、発泡プラスチックブロック1bとして高密度の発泡プラスチックを用いた場合は、緊結金具を当該ブロック1bに取り付けた際に該金具がブロック1bになじまず、不陸を生じやすい。
【0024】
尚、本発明においては、隣接する発泡プラスチックブロック同士の連結に適宜接着剤等を用いてもかまわない。
【0025】
本発明に係る発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数の測定方法としては、図5に示すように、同じ素材の発泡プラスチックブロック51,52を2段に積み上げ、下段のブロック51は基礎53に固定し、上段のブロック52には荷重Wを表面に均等に圧力が生じるように加えて、これを水平方向に引っ張り、滑り出し時の張力Fを測定し、F/Wを表面摩擦係数とする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】 本発明の片盛土構造の好ましい実施形態の立断面を示す模式図である。
【図2】 発泡プラスチックブロックを盛土材として用いる盛土構造において用いられる緊結金具の一例を示す斜視図である。
【図3】 図2の緊結金具を用いて発泡プラスチックブロックを水平方向において複数個連結した状態を示す斜視図である。
【図4】 本発明に含まれる立断面が逆台形の形態を示す模式図である。
【図5】 本発明に係る発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数の測定方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0027】
1,1a,1b 発泡プラスチックブロック
2 背面傾斜地
3 前面壁
4,5 コンクリート床版
6 路床
7 下層路盤
8 上層路盤
9 表層
10 道路舗装体
11 基礎コンクリート
21 取付プレート
22a,22b 歯
51,52 発泡プラスチックブロック
53 基礎
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具が、その上方部の発泡プラスチックブロック同士を連結する緊結金具より少ないことを特徴とする軽量片盛土構造。
【請求項2】
発泡プラスチックブロックを盛土材として積層してなる立断面が逆台形の軽量片盛土構造であって、最低部を含む少なくとも一層に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数が、その上方部に用いる発泡プラスチックブロックの表面摩擦係数よりも大きく、しかも表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックを用いた層において、水平方向及び/または垂直方向に隣接するブロック同士を連結する緊結金具を用いないことを特徴とする軽量片盛土構造。
【請求項3】
表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックが、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックよりも高密度の発泡プラスチックからなる請求項2に記載の軽量片盛土構造。
【請求項4】
表面摩擦係数の大きい発泡プラスチックブロックが、表面摩擦係数の小さい発泡プラスチックブロックよりも高密度の発泡プラスチックからなる請求項1に記載の軽量片盛土構造。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-08-18 
結審通知日 2016-08-22 
審決日 2016-09-08 
出願番号 特願2006-26549(P2006-26549)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (E02D)
P 1 113・ 113- YAA (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石村 恵美子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 赤木 啓二
中田 誠
登録日 2010-06-11 
登録番号 特許第4528266号(P4528266)
発明の名称 軽量片盛土構造  
代理人 軸丸 欣哉  
代理人 森本 英伸  
代理人 渡辺 敬介  
代理人 山口 芳広  
代理人 渡辺 敬介  
代理人 野中 啓孝  
代理人 山口 芳広  
代理人 渡辺 敬介  
代理人 山口 芳広  
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