• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 全部無効 2項進歩性  B22F
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B22F
管理番号 1322571
審判番号 無効2014-800051  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-03-31 
確定日 2016-10-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5320442号発明「デンドライト状銅粉」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5320442号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-3について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5320442号(以下「本件特許」という。)は、平成23年7月13日に出願(特願2011-154577号)されたものであって、その請求項1乃至3に係る発明について、平成25年7月19日に特許権の設定登録がなされたものである。

これに対し、株式会社ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーションから平成26年3月31日に、請求項1?3に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたものであるところ、審判請求以降の手続は、おおむね次のとおりである。

平成26年 6月17日付け 答弁書、訂正請求書
同年 7月24日付け 手続補正書(被請求人)
同年 8月25日付け 審尋
同年 9月23日差出 上申書(請求人)
同年10月16日付け 審判事件弁駁書
同年10月20日付け 参加申請書(請求人側)
同年11月 4日差出 手続補正書(請求人)
同年12月17日付け 参加許否の決定
同年12月18日付け 審尋
平成27年 1月23日付け 審判事件審尋回答書(請求人)
同年 2月26日付け 通知書
同年 3月10日付け 同意回答書(被請求人)
同年 3月27日付け 審理事項通知書(1回目)
同年 5月15日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 5月16日付け 口頭審理陳述要領書(請求人、参加人)
同年 5月22日付け 審理事項通知書(2回目)
同年 5月29日差出 口頭審理陳述要領書(2)(請求人、参加人)
同年 5月29日差出 口頭審理陳述要領書(3)(請求人、参加人)
同年 5月29日付け 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
同年 5月29日 口頭審理
同年 6月 2日付け 上申書(請求人、参加人)
同年 6月16日付け 上申書(被請求人)
同年 7月 1日付け 上申書(2)(請求人、参加人)
同年 7月28日付け 無効理由通知書
同年 8月25日差出 意見書 (請求人、参加人)
同年 8月27日付け 審判事件意見書、訂正請求書
同年10月 1日付け 手続補正書(被請求人)
同年11月20日付け 審判事件弁駁書
平成28年 1月21日付け 訂正拒絶理由通知書
同年 2月15日付け 審判事件意見書、手続補正書 (被請求人)
同年 8月 3日付け 補正許否の決定

第2 訂正請求についての当審の判断
1 請求の趣旨・本件訂正の内容
被請求人が平成27年8月27日に提出し、平成27年10月1日付けの手続補正書及び平成28年2月15日付けの手続補正書によって、請求の理由及び訂正明細書が補正された、訂正請求書による訂正(以下、当該補正された訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第5320442号の明細書、特許請求の範囲及び図面を、本件請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求める。」というものであって、本件訂正の内容は、上記平成28年2月15日付けの手続補正書に記載されているとおり、以下の訂正事項1?13からなるものである。
なお、本件訂正については、平成28年2月15日付けで手続補正(以下、「訂正補正」という。)がなされているところ、当該訂正補正は、訂正事項(K)を訂正の目的と整合するように補正するものであり、また、訂正事項(N)、(O)、(P)を削除するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
以下、本件訂正前の明細書及び特許請求の範囲をそれぞれ「訂正前明細書」及び「訂正前特許請求の範囲」といい、本件訂正後の明細書及び特許請求の範囲をそれぞれ「訂正明細書」及び「訂正特許請求の範囲」という。また、上記訂正補正によって、図面の訂正はなくなったので、本件訂正前後にかかわらず単に「図面」という。訂正事項の下線は当審が付加したものであり、本件訂正によって記載が変更された箇所を表す。

(1) 訂正事項1
訂正前特許請求の範囲の請求項1において、「電解法によって得られる銅粉であって、」の後に、「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が5μm以上25μm以下であって、」を追加する。
また、請求項1を引用する請求項2?3も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
訂正前特許請求の範囲の請求項1において、「80%以上」とあるのを「80個数%以上」と訂正する。
また、請求項1を引用する請求項2?3も同様に訂正する。

(3) 訂正事項3
訂正前明細書の段落【0022】において、「80%以上」とあるのを「80個数%以上」と訂正し、「90%以上」とあるのを「90個数%以上」と訂正する。

(4) 訂正事項4
訂正前明細書の段落【0024】において、
「(D50)
本銅粉の中心粒径(D50)、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50は、5μm?50μmであるのが好ましく、中でも8μm以上或いは45μm以下、その中でも10μm以上或いは40μm以下、その中でも特に25μm以下であるのがより一層好ましい。D50が5μm以上であれば粘度調整が容易であり、他方、50μm以下であれば様々な導電性ペーストに適用可能となり、好ましい。」とあるのを、
「(D50)
本銅粉の中心粒径(D50)、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50は、5μm以上25μm以下であるのが好ましい。D50が5μm以上であれば粘度調整が容易であり、他方、25μm以下であれば様々な導電性ペーストに適用可能となり、好ましい。」
と訂正する。

(5) 訂正事項5
訂正前明細書の段落【0037】において、
「<粒子形状の観察>
走査型電子顕微鏡(2,000倍)にて、任意の100視野において、それぞれ500個の粒子の形状を観察し、主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定し、その平均値を表1に示した。」とあるのを、
「<粒子形状の観察>
走査型電子顕微鏡(2,000倍)にて、任意の100視野において500個の粒子の形状を観察し、それぞれ主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定し、その平均値を表1に示した。」
と訂正する。

(6) 訂正事項6
訂正前明細書の段落【0042】において、「90%以上」とあるのを「90個数%以上」に訂正する。

(7) 訂正事項7
訂正前明細書の段落【0043】において、「90%以上」とあるのを「90個数%以上」に訂正する。

(8) 訂正事項8
訂正前明細書の段落【0044】において、「90%以上」とあるのを「90個数%以上」に訂正する。

(9) 訂正事項9
訂正前明細書の段落【0046】において、「90%以上」とあるのを「90個数%以上」に訂正する。

(10) 訂正事項10
訂正前明細書の段落【0047】において、「90%以上」とあるのを「90個数%以上」に訂正する。

(11) 訂正事項11
訂正前特許請求の範囲の請求項1において、「走査型電子顕微鏡(SEM)」とあるのを「走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)」と訂正する。
また、請求項1を引用する請求項2?3も同様に訂正する。

(12) 訂正事項12
訂正前特許請求の範囲の請求項1において、「銅粉粒子を観察した際、」の前に「、任意の100視野において500個の」を追加する。
また、請求項1を引用する請求項2?3も同様に訂正する。

(13) 訂正事項13
訂正前特許請求の範囲の請求項1において、「全銅粉粒子のうちの」とあるのを、「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの」と訂正する。
また、請求項1を引用する請求項2?3も同様に訂正する。

2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前特許請求の範囲の請求項1に、新たに「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が5μm以上25μm以下であって、」なる発明特定事項を追加するものであるところ、訂正事項1は、訂正前特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特定事項である「デンドライト状銅粉」について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が5μm以上25μm以下であることを、新たに規定することによって、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項1は、請求項1について、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項1を引用する請求項2、3においても、請求項1と同様に、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
訂正前明細書の段落【0024】の記載「本銅粉の中心粒径(D50)、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50は、5μm?50μmであるのが好ましく、中でも8μm以上或いは45μm以下、その中でも10μm以上或いは40μm以下、その中でも特に25μm以下であるのがより一層好ましい。」に基づいて、体積累積粒径D50の好ましいとされる範囲について検討する。
まず、段落【0024】の上記記載に基づけば、好ましいとされる範囲は「5μm?50μm」であり、当該「5μm?50μm」の範囲において、中でも好ましいとされる「8μm以上或いは45μm以下」とは、具体的に「8μm?50μm」又は「5μm?45μm」の範囲である。
さらに、当該「8μm?50μm」又は「5μm?45μm」の範囲において、その中でも好ましいとされる「10μm以上或いは40μm以下」とは、具体的に「10μm?50μm」、「10μm?45μm」、「8μm?40μm」又は「5μm?40μm」の範囲である。
さらに、当該「10μm?50μm」、「10μm?45μm」、「8μm?40μm」又は「5μm?40μm」の範囲において、その中でも特に好ましいとされる「25μm以下」とは、具体的に「10μm?25μm」、「8μm?25μm」又は「5μm?25μm」の範囲である。
したがって、訂正前明細書の段落【0024】には、体積累積粒径D50の特に好ましい範囲が「5μm?25μm」すなわち「5μm以上25μm以下」であることが記載されており、訂正事項1は訂正前明細書の上記記載に基づいてなされたものであって、新たな技術事項を導入するものではないから、訂正事項1は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アで検討したように、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、この訂正事項によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前特許請求の範囲の請求項1において、「80%以上」との記載を「80個数%以上」と訂正するものである。
上記「80%以上」なる記載について、「%」が、個数に基づく%であるのか、体積に基づく%であるのか、質量に基づく%であるのか明瞭ではなかったため、「個数%」とすることによって、明瞭でない記載を解消しようとするものである。
したがって、訂正事項2は、請求項1について、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、請求項1を引用する請求項2、3においても、請求項1と同様に、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
本件訂正前の請求項1の記載によれば、「80%以上」とは、「走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察した際」に、「全銅粉粒子」のうちの「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子」(以下「特定形状サイズの銅粉粒子」という。)の割合を表しており、また、上記「%」の値について、訂正前明細書の段落【0021】?【0022】の記載も参照すれば、上記「%」の算出にあたり、走査型電子顕微鏡によって銅粉粒子を一つ一つ観察して、銅粉粒子毎に、上記特定形状サイズの銅粉粒子であるか否かを判断し、観察した全銅粉粒子の個数に対する上記特定形状サイズの銅粉粒子の個数の割合を算出しているものと認められるから、上記「%」とは、体積や質量を基準とした%ではなく、個数を基準とした%、すなわち、「個数%」を意味するものと解するのが相当である。
よって、「80%以上」を「80個数%以上」と訂正する、訂正事項2は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アで検討したように、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、この訂正事項によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3) 訂正事項3、6?10について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3、6?10は、訂正前明細書の段落【0022】、【0042】、【0043】、【0044】、【0046】、【0047】のそれぞれにおいて、「80%以上」、「90%以上」との記載を、それぞれ、「80個数%以上」、「90個数%以上」と訂正するものである。
ここで、上記「80%以上」及び「90%以上」なる記載は、上記「%」が、個数に基づく%であるのか、体積に基づく%であるのか、質量に基づく%であるのか明瞭ではなかったため、「個数%」とすることによって、明瞭でない記載を解消しようとするものである。
したがって、訂正事項3、6?10は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
上記(2)イで検討したように、訂正前明細書の段落【0021】?【0022】の記載を参照すれば、段落【0022】、【0042】、【0043】、【0044】、【0046】、【0047】に記載された「%」とは、体積や質量を基準とした%ではなく、個数を基準とした%、すなわち、「個数%」を意味していたものと解するのが相当である。
よって、「80%以上」を「80個数%以上」と訂正し、「90%以上」を「90個数%以上」と訂正する、訂正事項3、6?10は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項3、6?10は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アで検討したように、訂正事項3、6?10は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、この訂正事項によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項3、6?10は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4) 訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は、訂正前明細書の段落【0024】に記載された「体積累積粒径D50」の範囲と上限値について、訂正事項1に係る訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消することにより、記載の整合を図るものである。
よって、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記(1)イで検討したように、訂正前明細書の段落【0024】には、「体積累積粒径D50」の特に好ましい範囲が「5μm以上25μm以下」であることが記載されているといえ、また、「50μm以下」において「様々な導電性ペーストに適用可能となり、好ましい。」のであれば、「50μm以下」の範囲に含まれる「25μm以下」においても、同様に、「様々な導電性ペーストに適用可能となり、好ましい。」ことは明らかである。
よって、訂正事項4は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正請求4は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、この訂正事項によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項4は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(5) 訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5は、訂正前明細書の段落【0037】の「任意の100視野において、それぞれ500個の粒子の形状を観察し、主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定」との記載が、任意の100視野のそれぞれにおいて500個の粒子の形状を観察し、主軸の太さa等を測定することを意味するのか(以下「前者」という。)、任意の100視野において形状を観察した500個の粒子のそれぞれについて主軸の太さa等を測定することを意味するのか(以下「後者」という。)明瞭ではなかったため、「任意の100視野において500個の粒子の形状を観察し、500個の粒子それぞれ主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定」と訂正することにより、後者の意味であることを明確にしたものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
(ア)訂正前明細書の段落【0037】の上記記載について、仮に前者の意味で記載されているとすれば、走査型電子顕微鏡で形状を観察する際、1視野あたり観察する粒子の個数は500個であり、100視野全てで観察する粒子の個数は500×100=50000個となるが、後者の意味で記載されているとすれば、100視野で500個の粒子を観察するから、1視野あたり観察する粒子の個数は、500÷100=5個であり、100視野全てで観察する粒子の個数は500個となる。
そこで、段落【0037】の記載が、前者と後者のいずれを意味するかについて、以下検討する。

(イ)図2は、「実施例1で得られた電解銅粉から任意に選択した一部の粉末を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて12、000倍の倍率で観察した際のSEM写真」(段落【0017】参照。)であり、1枚のSEM写真によって観察される領域は、上記「1視野」に相当するものと考えられる。
図2から、その中心に明瞭に写っている1個の粒子の他に、背景に1?2個の粒子が写っていることが見て取れる。つまり、実施例1の銅粉を観察すると、12、000倍の倍率で観察したSEM写真には2?3個の粒子が写っており、2、000倍の倍率で観察したSEM写真には、12、000倍のSEM写真の6×6=36倍の領域が写ることを勘案すると、(2?3)×36=72?108個の粒子が写るものと推定される。
すると、2、000倍の1枚のSEM写真には、高々100個程度の粒子が写るものと推定されるから、当該1枚のSEM写真、すなわち、1視野から5個の粒子を測定することはできるけれども、500個の粒子を測定することはできないので、1枚のSEM写真において観察する粒子の数は5個が正しいと考えられる。
したがって、訂正前明細書の段落【0037】の上記記載は、図2の視認事項に基づいて検討すれば、後者、すなわち、任意の100視野において形状を観察した500個の粒子のそれぞれについて主軸の太さa等を測定することを意味するものと解される。

(ウ)訂正前明細書の段落【0037】の上記記載が、仮に前者、すなわち、任意の100視野のそれぞれにおいて500個の粒子の形状を観察し、主軸の太さa等を測定することを意味しているとすると、観察する粒子の数は100×500=50000個となる。観察する銅粉粒子の個数が多いほど、全銅粉粒子における「特定形状サイズの銅粉粒子」の個数についての正確な割合を求めることができることは、統計学における大数の法則から明らかではあるものの、50000個という個数は、実際に観察することが不可能とまではいえないにしても、観察や測定にかかるコストや時間を勘案すれば不合理といえるほど大きい個数であり、標本を抽出する当業者であれば、通常採用しないような大きな個数であるといえる。
したがって、この点からも、訂正前明細書の段落【0037】の上記記載は、前者を意味せず、後者を意味するものといえる。

(エ)以上から、訂正事項5は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項5は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アで検討したように、訂正事項5は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、この訂正事項によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(6) 訂正事項11について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項11は、訂正前特許請求の範囲の請求項1に、走査型電子顕微鏡を用いて銅粉粒子を観察する際の条件として、「観察倍率2,000倍」を新たに規定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項11は、請求項1について、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項1を引用する請求項2、3においても、請求項1と同様に、訂正事項11は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
訂正前明細書の段落【0037】には、「<粒子形状の観察>
走査型電子顕微鏡(2,000倍)にて、任意の100視野において、それぞれ500個の粒子の形状を観察し、主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定し、その平均値を表1に示した。」と記載されているので、走査型電子顕微鏡を用いて銅粉粒子を観察する際の観察倍率として2000倍とすることが記載されているといえる。
よって、訂正事項11は、訂正前明細書の上記記載に基づいてなされたものであって、新たな技術事項を導入するものではないから、訂正事項11は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
したがって、訂正事項11は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アで検討したように、訂正事項11は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、この訂正事項によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項11は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(7) 訂正事項12について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項12は、訂正前特許請求の範囲の請求項1において、走査型電子顕微鏡を用いて観察する対象となる銅粉粒子が、「任意の100視野において500個の」銅粉粒子であることを新たに規定することによって、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項12は、請求項1について、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項1を引用する請求項2、3においても、請求項1と同様に、訂正事項12は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無
訂正前明細書の段落【0037】の記載「走査型電子顕微鏡(2,000倍)にて、任意の100視野において、それぞれ500個の粒子の形状を観察し、主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定し」は、上記(5)イの(イ)と(ウ)で検討したとおり、任意の100視野において形状を観察した500個の粒子のそれぞれについて主軸の太さa等を測定することを意味していると解されるから、走査型電子顕微鏡を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察することは、訂正前明細書に記載されているといえる。
したがって、訂正事項12は、請求項1について、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるから、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アで検討したように、訂正事項12は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、この訂正事項によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項12は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(8) 請求項1?3に係る訂正事項13について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項13は、本件訂正前の請求項1において、「全銅粉粒子のうちの」と記載されているところを、「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉のうちの」と訂正するものである。
ここで、訂正事項13は、本件訂正前の請求項1に記載された「全銅粉粒子」が、「デンドライト状銅粉」に含まれる「銅粉粒子」の全てを意味するのか、それとも、「走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて」「観察」する対象となる500個の「銅粉粒子」の全てを意味するのかが明瞭ではなかったため、後者、すなわち、「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉のうちの」と訂正することによって、後者を意味することを明確にしたものである。
よって、当該訂正事項13は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件訂正前の請求項1の記載によれば、「走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察」することにより、「特定の銅粉粒子」が「全銅粉粒子のうちの80%以上含有する」ものであることが特定されているところ、「特定の銅粉粒子」を80%以上含有されると判断された「全銅粉粒子」とは、走査型電子顕微鏡を用いて観察されたところの銅粉粒子の全てであることは明らかである。そして、上記(5)イの(イ)と(ウ)で検討したとおり、走査型電子顕微鏡を用いて観察される銅粉粒子の個数が500個であることは、訂正前明細書の段落【0037】に記載されているといえる。
よって、訂正事項13は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項13は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、この訂正事項によって、実質上特許請求の範囲が拡張されたり、変更されたりするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項13は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(9) 一群の請求項について
ア 訂正事項1、2、11?13に係る本件訂正後の請求項1を、請求項2、3が引用しているから、訂正後の請求項1?3は、一群の請求項を構成するものであり、一群の請求項ごとに訂正を求める本件訂正請求は、特許法第134条の2第3項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項3?10は、いずれも、本件訂正後の請求項1及び請求項1を引用する請求項2、3と関係しており、請求項1?3の全てについて行う本件訂正請求は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、特許法第134条の2第3項、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?3」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
電解法によって得られる銅粉であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が5μm以上25μm以下であって、
走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察した際、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子が全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有するデンドライト状銅粉。
【請求項2】
酸素濃度が0.20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のデンドライト状銅粉。
【請求項3】
請求項1のデンドライト状を呈する銅粉粒子において、主軸の長径Lに対する枝の分岐本数(枝本数/長径L)0.5本/μm?4.0本/μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のデンドライト状銅粉。」

第4 請求人及び参加人の主張と証拠方法、並びに当審からの無効理由
1 請求人及び参加人の主張の概要
(1) 請求人は、「特許第5320442号の特許請求の範囲の請求項1-3に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、審判請求書とともに甲第1号証?甲第9号証を提出し、審判事件弁駁書(平成26年10月16日付け)とともに甲第10?19号証を提出し、手続補正書とともに甲第7号証の差し替えを提出し、審判事件審尋回答書を提出した。そして、請求人及び参加人は、口頭審理陳述要領書とともに甲第20?30号証を提出し、口頭審理陳述要領書(2)とともに甲第31?34号証を提出し、口頭審理陳述要領書(3)を提出し、口頭審理の場で甲第1号証の第40頁の写しを提出し、上申書を提出し、上申書(2)とともに甲第35?38号証を提出し、さらに、意見書、審判事件弁駁書(平成27年11月20日付け)を提出している。そして、上記提出書類及び口頭審理における主張を整理すると、請求人及び参加人の主張する無効理由は以下のとおりである。

ア 無効理由1-1
本件発明1?3は、甲第4?7号証を参酌すれば、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

イ 無効理由1-2
本件発明1?3は、甲第4?7号証を参酌すれば、甲第1号証に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

ウ 無効理由1-3
本件発明1?3は、甲第8号証を参酌すれば、甲第9号証と甲第1号証に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

エ 無効理由1-4
本件発明1は、甲第28号証の記載事項を甲第1号証に適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

オ 無効理由2-1
本願の図2に撮影されたデンドライト状銅粉は、その全景が撮影されておらず、または、末端まで撮影されておらず、本件発明1の特定のデンドライト形状を備えるか確認できないので、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。したがって、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

カ 無効理由2-2
「80%以上」が仮に個数基準であったとしても、この個数を区別する手段がなく、80%個数以上と、80%個数以下を比較するすべがないから、発明の詳細な説明には当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。したがって、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

キ 無効理由2-3
「特定の銅粉形状」及び「含有率80(個数)%以上」の本件発明1-3を意図して作成、分離・選択することができないから、発明の詳細な説明には当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。したがって、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

ク 無効理由2-4
1枚のSEM画像では、主軸から四方に枝分かれする枝本数(特に主軸の裏側の本数)を確認することは不可能であるから、発明の詳細な説明には当業者が本件発明3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。したがって、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

ケ 無効理由2-5
デンドライト状電解銅粉は、同一製法で作成したとしても同一形状になるとは限らず、即ち主軸の太さ、枝の長さ、枝の本数を制御することは到底できず、それを制御する特別な製法を明細書に認めることはできないから、発明の詳細な説明には当業者が本件発明1-3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。したがって、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

コ 無効理由2-6
銅粉のSEM画像からは、幹の裏側にある最も長い枝の長さを測定することはできず、また、枝の長さが測定できる場合であっても、奥行きを無視した見掛けの長さが測定されるに過ぎないので、「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」を測定することはできないから、そのような「長さb」を特定した請求項1に係る発明は、当業者であっても実施できないものである。したがって、発明の詳細な説明には当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

サ 無効理由2-7
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察した際、撮影する方向によって銅粉は異なる形状として観察されるので、同一の銅粉であっても、請求項1で特定される電解銅粉が「80個数%以上を満たす」ことも、「80個数%以上を満たさない」ことも起こり得るから、特許を受けようとする発明が明確であるとは言えず、また、当業者であっても、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。したがって、その特許は、特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(2)上記(1)に記載されたア?サの無効理由は、被請求人が行った訂正請求にともなって、審判請求書に記載された無効理由1及び2の一部が、平成26年10月16日付け弁駁書によって撤回され、また、口頭審理陳述要領書において、2つの無効理由(「理由1-4」、「理由2-6」)が追加され、さらに、口頭審理陳述要領書(2)において、1つの無効理由(「理由2-7」)が追加されたものである。なお、無効理由が上記(1)のとおりであることは、口頭審理の場で請求人に確認し、第1回口頭審理調書に添付した別紙2にまとめられている。
なお、請求人及び参加人は、平成27年7月1日付けの上申書(2)において、1)訂正後の請求項1?3に係る本件発明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に違反しているとの無効理由(以下「無効理由3-1」という。)、及び、2)体積累積粒度径D50についての限定事項は設計的事項であり、当業者が容易に発明をすることができるものであるから、特許法第29条第2項に違反している、との無効理由(以下「無効理由3-2」という。)を職権で審理することを要請し、平成27年8月25日差出の意見書において、3)請求項1に係る発明は物の発明であるが、請求項1の「電解法によって得られる銅粉」という記載は、製造に関して技術的な特徴が付された記載であるため、当該請求項1にはその物の製造方法が記載されているといえるので、発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に違反しているとの無効理由(以下「無効理由3-3」という。)を職権で審理することを要請しているが、平成28年8月3日付けの補正許否の決定に記載したように、特許法第131条の2第2項の規定に基づき、上記無効理由3-1,3-2,2-2の追加を許可しない、との決定を行った。

[証拠方法]
甲第1号証:“金属粉末”,ECKA Granultate GmbH&Co.KG,エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社,表紙,p2-4,8,22-23,40,44-45,裏表紙,(第40頁については、平成27年5月29日付けで追加で提出された。)
甲第2号証:「送信者:”Eiko Fujiwara”」,「宛先:”下保さん”」,「送信日時:2005年6月1日 13:45」,「添付:EC_Pro_GraHb_Do_DINA4.pdf」の記載がある電子メールの内容をプリントアウトしたもの。
甲第3号証:甲第2号証の電子メールに添付されたPDFファイル「EC_Pro_GraHb_Do_DINA4.pdf 」をプリントアウトしたもの、“金属粉末”と記載された表紙と裏表紙,p.2-5,8-9,22-23,44-45
甲第4号証:“Electrolytic Copper Powders and much more”,GGP Metalpowder AG,2011年12月,表紙,p.2-5,裏表紙
甲第5号証:Test report,eckagranules,sample:CuCHL7,14.12.2009
甲第6号証:Test report,GGP Metalpowder AG,sample:CuCHL8,2.2013
甲第7号証:Cu CH-L8のSEM分析結果
甲第8号証:Test report,eckagranules,sample:Cu powder sample Mitsui MFD2,11.12.2009
甲第9号証:特開昭63-286477号公報
甲第10号証:「差出人:”Yukihiko Atsumi”」,「日時:2009年9月4日 18:12」,「宛先:”SASAKI Akihiro”」,「添付:電解銅粉Page22 200908.pdf;電解銅粉 200909.pdf 」の記載がある電子メールの内容をプリントアウトしたもの
甲第11号証:甲第10号証の電子メールに添付されたPDFファイル「電解銅粉Page22 200908.pdf」及び「電解銅粉 200909.pdf 」をプリントアウトしたもの
甲第12号証:甲第4号証の抄訳及び補足
甲第13号証:“Electrolytic Copper Powders and much more”,[online],GGP Metalpowder AG社,インターネット<URL:http://www.ggp-metal.com/en/index.php>,日本語抄訳
甲第14号証:“Relation between evidence No.1 and No.4”、GGP Metalpowder AG CEO and President Mr. Thomas Gmoehling,翻訳,添付資料1号証,4号証
甲第15号証:“Evidence No.5 and No.6”、GGP Metalpowder AG CEO and President Mr. Thomas Gmoehling,翻訳,添付資料5号証,6号証,1号証
甲第16号証:“Evidence No.7”、GGP Metalpowder AG CEO and President Mr. Thomas Gmoehling,翻訳,添付資料7号証,1号証
甲第17号証:“Evidence No.8”、GGP Metalpowder AG CEO and President Mr. Thomas Gmoehling,翻訳,添付資料8号証
甲第18号証:“エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社の特別清算情報-平成23年(ヒ)第2048号”,[online],破産データバンク,
「特別清算の開始を命ずる」,インターネット<URL:http://bank-db.com/hasan/363203>,
「特別清算手続を終結する」,インターネット<URL:http://bank-db.com/hasan/452409>
甲第19号証:「From:Yukihiko Atsumi cojp」,「To:KAMEI Mitsuo;SASAKI Akihiro」,「Sent:Monday,November 08,2010 4:31 PM」,「Subject:[Tungaloy]12月納期、CH-L7,L12の出荷検査結果。納入予定」の記載がある電子メールをプリントアウトしたもの。
甲第20号証:甲第1号証のカタログ「金属粉末」の受領証明書,2015年5月8日,増原大地の押印
甲第21号証:甲第1号証のカタログ「金属粉末」の受領証明書,2015年5月8日,堀浩史の押印
甲第22号証:“基礎 粒子径分布測定の一般論、光の基礎理論 1.粒子径分布測定の一般論 1-3.粒子径分布”,[online],日機装株式会社,インターネット<URL:http://www.nikkiso.co.jp/products/particle/technical/principle/theory04.html>
甲第23号証:“HELOS-Partikelgroβenanalyse(当審訳:HELOS測定装置-粒子径分析)”,GGP Metalpowder AG,2015-05-07
甲第24号証:“粉博士のやさしい粉講座:実践コース”,“21 任意%粒子径とメディアン径”,[online],株式会社島津製作所,インターネット<URL:http://www.an.shimadzu.co.jp/powder/lecture/practice/p01/lesson21.html>
甲第25号証:“HELOS レーザー回折式粒子径分布測定装置”,[online],Sympatec GmbH,インターネット<URL:https://www.sympatec.com/JP/LaserDiffraction/HELOS.html>
甲第26号証:“レーザー回折法による粒子径測定法”,第1、18、21頁,[online],独立行政法人医薬品医療機器総合機構,インターネット<URL:https://www.pmda.go.jp/files/000203152.pdf>
甲第27号証:特表2007-522292号公報
甲第28号証:特開平5-114772号公報
甲第29号証:“粉博士のやさしい粉講座:実践コース”,“27 針状・繊維状粒子の測定”,[online],株式会社島津製作所,インターネット<URL:http://www.an.shimadzu.co.jp/powder/lecture/practice/p01/lesson27.html>
甲第30号証:“長さの異なる疑似枝(異なる色に着色した割り箸)を疑似主軸に接着し、撮影方向により、枝の長さが変動することの説明写真”
甲第31号証:CuCH-L7のレーザー法粒度測定結果
甲第32号証:“★送付案内★”,「件名:Ecka Granules カタログ送付」,「発信日:2015年5月18日」の記載あり。
甲第33号証:“METAL POWDERS”,eckagranules,5.2.04.02/03GB,表紙,Forword,p3,20-21,裏表紙
甲第34号証:特開2012-193068号公報の図1
甲第35号証:特開2013-53347号公報
甲第36号証:特願2011-192600号の拒絶理由通知書の写し
甲第37号証:特開2012-153967号公報
甲第38号証:特願2011-016613号の拒絶査定の写し

2 甲号証の記載事項
請求人及び参加人が証拠方法として提出した甲号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである(なお、下線は当審が付与したものであり、「…」は記載の省略を表す。)。
(1) 甲第1号証(「金属粉末」のカタログ)について
(1-1) 甲第1号証の記載事項
甲1ア 「




(第4頁「ECKA金属粉末製品一覧」からの抜粋)

甲1アの金属粉末製品一覧の抜粋から、ECKA社が製造する金属粉末のうち、「銅(CH)」が「電解法」によって形成されるものであることが見て取れる。

甲1イ 「電解法(グレード名:CH)
ECKA電解銅粉末(CH等級)は電気化学的析出によって製造されます。高純度の銅陽極が電解液中で分解され、陰極上に樹枝状の粒子として析出します。次いで、この粒子を陰極から分離し十分に洗浄した後、濾過、乾燥、分級し、最終製品にします。粉末の形状および粒度は電解液の組成、電流および電解液温度を調整することによって管理します。また、各種プロセスパラメータを調整することによって、粉末の見掛密度を低(CH-L)、中(CH-M)、高(CH-S)に変えることもできます。」(第8頁11行?最下行)

甲1ウ 「


」(第8頁左下図)

甲1ウの写真は、甲1イの説明とともに同じ頁に並んで掲載されており、当該写真内に「CH」と表示されていることから、甲1ウの写真に写っている物体は、甲1イに記載された「電解銅粉末(CH等級)」に含まれる銅粉粒子であるものと認められる。また、甲1ウの写真は、「電解銅粉(CH等級)」に含まれる樹枝状の銅粉粒子を走査型電子顕微鏡で撮影した写真、すなわち、SEM写真であることは明らかである。
そして、「電解銅粉末(CH等級)」が「樹枝状の粒子として析出」することが甲1イに記載されているから、「電解銅粉末(CH等級)」であれば、甲1ウのSEM写真のような樹枝状の銅粉粒子を含有しているものと認められる。


甲1エ 「

」(第22頁)

甲1エの表から、「銅(グレード名:CH)」の銅粉末には、「軽量タイプ(CH-L)」、「中間重量タイプ(CH-M)」、「重量タイプ(CH-S)」の3つの等級があり、これら3つの等級は、甲1イの記載を参照すれば、粉末の見掛密度の高低によって分類されているものである。そこで、粉末の見掛密度の一番小さい等級である「軽量タイプ(CH-L)」に属する銅粉末「CH-L7」と「CH-L8」に注目すると、銅粉末「CH-L7」の「見掛密度[g/cm^(3)]」が「0.7」、「粒度[mm]」が「<0.063」であり、銅粉末「CH-L8」の「見掛密度[g/cm^(3)]」が「0.8」、「粒度[mm]」が「<0.063」であることが見て取れる。また、甲1エの表の左上には「樹木状」と記載されており、甲1イに記載された「樹枝状」と同じ意味で使用されているものと認められる。

甲1オ「5.2.05.02/03.JP」(前表紙 右上)

甲1カ「eckagranules
Metal-Powder-Technologies」(前表紙 下部)

甲1キ「eckagranules
Metal-Powder-Technologies

ECKA Granulate GmbH & Co.KG

エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社」(後表紙)

甲1キの記載から、甲第1号証のカタログの作成者が、「ECKA Granulate GmbH & Co.KG」(以下、「ECKA社」と記載する場合がある。)の日本法人の「エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社」(以下、「エカ社」と記載する場合がある。)であるものと認められる。
なお、下記甲15エ、甲17イの記載を参照すれば、「eckagranules」は、独語表記の「ECKA Granulate」を英語表記したものである。

甲1ク 「

」(第40頁)

上記甲1クは、甲第1号証のカタログの第40頁の上側部分であり、審判請求書に添付された甲第1号証には含まれていなかったが、口頭審理が開催された平成27年5月29日に追加で提出されたものである。

(1-2) 甲第1号証の頒布の事実について
ア 甲第1号証の表紙に上記甲1オのとおり「5.2.05.02/03.JP」と記載されている点について、請求人及び参加人は、平成27年5月27日付けの口頭審理陳述要領書(2)の「5.B.(3)[ご質問3]について」において、「5.2」は、エカ社での書類の種類の分類であって、カタログを表し、「05.」はカタログの5回目の改訂を表し(第8頁16行に記載された「04」、「4回目」はそれぞれ「05」、「5回目」の誤記であることが口頭審理の場で確認されている。(調書の別紙1の4.ア参照))、「02/03.」は、2002年?2003年の作成であることを表し、「JP」は日本語版であることを表すと説明している。
また、請求人及び参加人は、上記説明を補完するために提出した甲第33号証(標題が「METAL POWDERS」であるカタログ)について、その表紙に「5.2.04.02/03.GB」と記載されている点について、「5.2」は、エカ社での書類の種類の分類であって、カタログを表し、「04.」はカタログの4回目の改訂を表し、「02/03.」はオリジナルのGBの作成年が2002年?2003年であることを表し、「GB」はイギリス版であることを表し、甲第1号証のカタログは甲第33号証のカタログの改訂版であると説明している。

イ 上記アの説明によって、イギリスで2002年?2003年に作成された甲第33号証のカタログを基にして、甲第1号証の日本版のカタログが作成されたものであるとすると、甲第1号証が2002年?2003年以降に作成されたものであるということは推定されるが、甲第1号証の日本語版カタログがいつ頒布されたものであるかについては、不明といわざるを得ない。
したがって、甲第1号証の記載「5.2.05.02/03.JP」自体から、その頒布年月日を認定することはできない。

ウ 平成27年6月16日付けの上申書において、被請求人は、甲第10?30号証及び甲第32?34号証について書証の真正を争わないことを記載している(第2頁7.A.(1))ところ、甲第20号証には、OHARA(THAILAND)Co.,Ltdの増原大地氏が、2006年頃、甲第1号証のカタログを、エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社神戸支店の支店長である入江氏から、対面による手渡しで受領したことを証明する旨記載されており、甲第21号証には、小原化工株式会社名古屋支店支店長である堀浩史氏が、2011年3月、甲第1号証のカタログを、株式会社ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーションの渥美幸彦氏から対面による手渡しで受領したことを証明する旨記載されている。
そして、被請求人は、口頭審理陳述要領書(2)の7.B.(3)で、甲第20、21号証の記載内容について、手渡された甲第1号証のカタログには「黙示の秘密義務を課して渡された可能性がある」と主張しているが、カタログが商品の販売活動のために広く頒布される性質のものであり、上記イに記載されているように、甲第1号証のカタログと同内容の古い版のカタログが外国で作成されていた事情も勘案すると、甲第1号証のカタログに秘密義務が課せられていたとの被請求人の上記主張は合理的とはいえず、採用できない。
したがって、甲第20号証及び甲第21号証による証明によって、甲第1号証のカタログが2006年頃及び2011年3月に日本国内において頒布された事実が認められるので、甲第1号証は、本件特許の出願日である平成23年(2011年)7月13日前に頒布されたものであると認められる。

(2) 甲第4号証(「Electrolytic Copper Powders and much more」のカタログ)
甲4ア 「headquarter
GGP
GGP Metalpowder AG
We are located in Furth, Germany: 」(第2頁左欄1?4行)
(当審訳:本社
GGP
GGP Metalpowder AG
我々は、ドイツのフュルトに位置している。)

甲4イ 「history

2009 Insolvency ECKA Granulate Velden GmbH
2010 Takeover by GGP Metalpowder AG」(第2頁右欄1行?最下行)
(当審訳:社史

2009年 ECKA Granulate Velden GmbHが破産。
2010年 GGP Metalpowder AGによって業務が引き継がれた。)

甲4ウ 「1|Electrolysis
Dendritic copper powder
By electrolysis we produce dendritic copper powders:
Thereby due to process parameters and preparation we can offer a wide range of different grades from light apparent density (AD) (0,7 g/cm^(3)) up tp heavy grades(3,0 g/cm^(3)).」(第4頁3?7行。右上の図内の表示。)
(当審訳:1|電気分解
樹枝状銅粉末
電気分解によって、我々は樹枝状銅粉末を生産します。:
それにより、プロセスパラメータや前処理を調整することによって、軽量タイプの見掛密度(AD)(0.7g/cm^(3))のものから重量タイプの見掛密度(3.0g/cm^(3))のものまで、幅広い異なるグレードを提供できます。)

甲4エ 「


」(第5頁上側)

甲4エの表の左欄には、「Aparent Density(当審訳:見掛密度)」の小(0,7?1,2)、中(1,3?1,9)、大(2,0?2,7)によって分類された、「light」、「medium」、「heavy」の3つのTypeの電子顕微鏡写真が掲載されており、見掛密度が大きくなるにしたがって、電解銅粉粒子の枝が、細いものから太いものに変化し、そのサイズが小さいものから大きいものに変化する様子が見て取れる。すなわち、「light」の電子顕微鏡写真を見ると、中心部分から多数の枝が分岐しており、見掛密度が大きくなって、「medium」、「heavy」となるに伴い、枝が太くなり、サイズが大きくなって、ブロッコリーのような形状に変化する様子を見て取ることができる。

甲4オ 「Version 12/2011」(裏表紙の右下)

甲第4号証のカタログは、甲4アの記載から、「GGP Metalpowder AG」(以下、「GGP社」と記載する場合がある。)によって作製されたものと認められる。
また、当該甲第4号証のカタログは、甲4オの記載から、2011年12月に作製されたものであることが推定される。

(3) 甲第5号証(Test report)について
(3-1)甲第5号証の記載事項
甲5ア 「eckagranules」(頁の右上)

甲5イ 「sample:CuCHL7」(頁の上部左側)

なお、上記甲5イの記載「CuCHL7」は、上記甲4エの表に記載されているように、GGP社が製造している銅粉末の名称であり、「CH-L7」は、上記甲1エの表に記載されているように、ECKA社が製造している銅粉末の名称であること、また、審判請求書の第10頁14?15行に「甲第5号証は、ECKA社によって「2009年12月14日」に撮影された「CH-L7」のSEM画像である。」と記載されていることから、上記甲5イの「sample」の欄に記載された「CuCHL7」は「CH-L7」を意味するものと認められる。

甲5ウ 「


(甲第5号証に掲載された2枚の写真のうち、下方にある、「800×」すなわち800倍の表示がされたSEM写真)

上記甲5ウの800倍のSEM写真から、銅粉末「CH-L7」が、多数の樹枝状の銅粉粒子を含有することを見て取れるが、いずれの銅粉粒子に注目しても、「主軸」及び「主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈」することが明確に視認できるような、「主軸」及び「枝」を備えた銅粉粒子を確認することはできない。
したがって、上記800倍のSEM写真からは、銅粉末「CH-L7」に、「主軸の太さa」及び「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」を測定することができるような「銅粉粒子」が含有されているとはいえない。

甲5エ 「Sieve analysis: >63μm _
>45μm 0,2%
>32μm 18,6%
>25μm 44,2%
<25μm 37,0%」
(当審訳:ふるい分析 63μmより大きいものが _
45μmより大きいものが 0.2%
32μmより大きいものが 18.6%
25μmより大きいものが 44.2%
25μm未満のものが 37.0%)(頁の下部)

甲5オ 「 AD: 0,77g/cm^(3)
FSSS: 2200cm^(2)/g
O_(2): 0,11%

Helos: X10: 11,6μm
X50: 31,8μm
X90: 62,9μm」(頁の下部)

甲5カ 「GR-E/AT 14.12.2009」(頁の右下)

(3-2)甲第5号証の書証の成立について
ア 甲第5号証には、「sample:CuCHL7」(当審注:「CuCHL7」は「CH-L7」の誤記である。)なる標題が付された、異なる倍率で撮影された2枚のSEM写真が掲載されるとともに、ふるい分析等の分析結果が記載されているが、この書類には、書類作成者によるサインも署名もされていないので、誰によって上記SEM写真の撮影、分析がなされ、書類が作成されたものか不明である。また、請求人は審判請求書において、甲第5号証が、「ECKA Granulate GmbH & Co.KG社によるCu CH-L7のSEM分析結果(SEM画像)」であると説明しているが、ECKA社の誰によって上記SEM写真の撮影、分析、書類の作成がされたものかについて説明しておらず、上記SEM写真に写っている銅粉粒子が、「CH-L7」であることの根拠についても、何ら説明がなされていない。

イ 上記アの点について、甲第15号証には、下記甲15エ?カ、クに記載されているように、甲第5号証に記載された「CuCHL7」(当審注:「CuCHL7」は「CH-L7」の誤記である。)と甲第1号証に記載された「CH-L7」は同一の製品で電解銅粉末であること、「GR-E/AT」がSEM写真を撮影したECKA社の部門を意味すること、「14.12.2009」は、このレポートが2009年12月14日に作成されたことを示していること、が事実であり、正しいことを証明しますと、GGP社のCEO兼社長のThomas Gmoehling氏(以下「GGP社社長」という。)が、署名付きで記載している。

ウ しかしながら、甲第15号証においても、「CH-L7」のSEM写真を撮影し、分析し、書類を作成した者が誰であるか、及び、甲第5号証のSEM写真が「CH-L7」を撮影したものであることについて、説明も証明もされていない。

エ したがって、甲第15号証を参酌しても、甲第5号証が真正な書証であるとは認められず、甲第5号証を証拠として採用することができない。

(4) 甲第6号証(Test report)について
(4-1)甲第6号証の記載事項
甲6ア 「GGP Metalpowder AG」(頁の右上)

甲6イ 「sample:CuCHL8」(頁の上部左側)

甲6ウ 「


(甲第6号証に掲載された2枚の写真のうち、下方にある、倍率の大きい方のSEM写真)

上記倍率の大きいSEM写真から、銅粉は、複数の樹枝状の銅粉粒子を含有していることを見て取れるが、いずれの銅粉粒子に注目しても、「主軸」及び「主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈」することが明確に視認できるような、「主軸」及び「枝」を備えた銅粉粒子を確認することはできない。

甲6エ 「Sieve analysis: >63μm 0.7%
<63μm 99.3%」
(当審訳:ふるい分析 63μmより大きいものが 0.7%
63μm未満のものが 99.3%)(頁の下部)

甲6オ 「 AD:
FSSS:
O_(2):
Helos: 」(頁の下部)

甲6カ 「GR-E/AT 2.2013」(頁の右下)

(4-2)甲第6号証の書証の成立について
ア 甲第6号証には、「sample:CuCHL8」なる標題が付された、異なる倍率で撮影された2枚のSEM写真が掲載されるとともに、ふるい分析の結果が記載されているが、この書類には、書類作成者によるサインも署名もされていないので、誰によって上記SEM写真の撮影、分析がなされ、書類が作成されたものか不明である。また、請求人は審判請求書において、甲第6号証が、「GGP Metalpowder AG社によるCu CH-L8のSEM分析結果のSEM分析結果(SEM画像)」であると説明しているが、GGP社の誰によって上記SEM写真の撮影、分析、書類の作成がされたものかについて説明しておらず、上記SEM画像に写っている銅粉粒子が、「Cu CH-L8」であることの根拠についても、何ら説明がなされていない。

イ 上記アの点について、甲第15号証には、下記甲15エ?カ、クに記載されているように、甲第6号証に記載された「Cu CH-L8」と甲第1号証に記載された「CH-L8」は同一の製品で樹枝状電解銅粉末であること、「GR-E/AT」がSEM写真を撮影したECKA社の部門の事を意味すること、「2.2013」は、このレポートが2013年2月に作成されたことを示していること、が事実であり、正しいことを証明しますと、GGP社のCEO兼社長のThomas Gmoehling氏が、署名付きで記載している。

ウ しかしながら、甲第15号証においても、「Cu CH-L8」のSEM写真を撮影し、分析し、書類を作成した者が誰であるか、及び、甲第6号証のSEM写真が「Cu CH-L8」を撮影したものであることについて、説明も証明もされていない。

エ さらに、甲第6号証の右下の記載「GR-E/AT 2.2013」について、上記イによれば、「GR-E/AT」は、SEM写真を撮影したECKA社の部門名を表し、後半の「2.2013」は当該レポートの作成年月を表すところ、2013年にはECKA社の業務はGGP社に引き継がれていたのであるから、SEM写真はECKA社によって撮影されたが、当該レポートはGGP社によって作成されたものと推定されるものの、当該レポートがどのような経緯で作成されるに至ったかが不明であり、この点においても、甲第6号証が真正な書証であることについて疑義を与えるものである。

オ したがって、甲第15号証を参酌しても、甲第6号証が真正な書証であるとは認められず、甲第6号証を証拠として採用することができない。

(5) 甲第7号証(Cu CH-L8のSEM分析結果)について
(5-1)甲第7号証の記載事項
甲7ア 「


なお、銅粉末「Cu CH-L8」は、上記(2)に記載されているように、GGP社が生産している銅粉末の名称であり、ECKA社が生産しているものではないから、写真の標題に記載された上記「ECKA社」は「GGP社」の誤記と認められる。

甲7イ 「(B)拡大


甲7イのSEM写真(B)から、「対象」と矢印で示された、一つのデンドライト状銅粉末について、「主軸太さa」、「枝長b」及び「長径L」と書き込みがなされていることが見て取れる。
また、「対象」と矢印で示された上記一つのデンドライト状銅粉末に注目すると、略左右方向に伸びた一本の主軸を備えており、当該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈している様子が見て取れる。また、上記1つのデンドライト状銅粉末において、上記主軸に沿った粒子の長さが「長径L」と矢印付きで表示され、上記主軸から分岐した枝のうち一番長い枝の長さが「枝長b」と矢印付きで表示され、上記主軸の太さが「主軸太さa」と矢印付きで表示されていることが見て取れる。

甲7ウ 「(C)計算結果(概要)
a= 0.8μm
b= 9.0μm
L=42.8μm」 (頁の下部)

甲7エ 「(D)推定結果
枝本数/L= 0.5?4(請求項3)
の範囲になるには、対象の場合の許容枝本数(X)は、
X=42.8×(0.5?4)
=約21?171(本)
対象の枝は、上記範囲にあるといえる。」 (頁の下部)

(5-2)甲第7号証の書証の成立について
ア 甲第7号証には、「(A)ECKA社 Cu CH-L8」及び「(B)拡大」なる標題が付された2枚のSEM写真が掲載されるとともに、「(C)計算結果(概要)」と、「(D)推定結果」が書き加えられているが、この書類の作成者によるサインも署名もされていないので、誰によって撮影、分析がなされ、書類が作成されたものか不明である。そして、請求人は審判請求書において、甲第7号証が、「GGP Metalpowder AG社によるCu CH-L8のSEM分析結果(SEM画像)」であると説明しているが、GGP社の誰によって上記SEM写真の撮影、分析、書類の作成がされたものかについて説明しておらず、上記SEM画像に写っている銅粉粒子が、「Cu CH-L8」であることについて、何ら説明も証明もなされていない。

イ 上記アの点について、甲第16号証には、下記甲16イ?甲16オに記載されているように、甲第7号証のSEM写真がGGP社によって撮影されたものであること、甲第7号証のSEM写真に書き込まれた長さや直径は、日本の弁理士により書き加えられたものであること、甲第7号証に書き加えられた樹枝状電解銅粉末の構造の分析結果に同意すること、甲第7号証に記載された「Cu CH-L8」と甲第1号証に記載された「CH-L8」は同じ製品で樹枝状電解銅粉末であること、が事実であり、正しいことを証明しますと、GGP社のCEO兼社長のThomas Gmoehling氏が、署名付きで記載している。

ウ しかしながら、甲第16号証においても、「Cu CH-L8」のSEM写真(A)を撮影した者がGGP社の誰であるか、及び、甲第7号証のSEM写真(A)が「Cu CH-L8」を撮影したものであることについて、説明も証明もされていない。
また、上記イに記載したように、甲第7号証の(C)及び(D)の記載事項は、日本の弁理士によって書き加えられたものであることが明らかにされたものであり、甲第7号証がGGP社によって作成されたものではないことが明らかになった。

エ したがって、甲第16号証を参酌しても、甲第7号証が真正な書証であるとは認められず、甲第7号証を証拠として採用することができない。

(6) 甲第8号証(Test report)について
(6-1)甲第8号証の記載事項
甲8ア 「eckagranules」(頁の右上)

甲8イ 「sample: Cu powder sample Mitsui MFD2」(頁の上部)

甲8ウ 「


(甲第8号証に掲載された2枚の写真のうち、下方にある、「800×」すなわち800倍の表示がされた写真)

上記甲8ウの800倍のSEM写真において、その中央やや上方に赤い○で囲まれた箇所の中心にあるデンドライト状の銅粉粒子に注目すると、倍率が低いため明瞭ではないが、略右上から左下方向に伸びた黒っぽい一本の主軸を備えており、当該主軸からその左側に、複数の枝が斜めに分岐して、二次元的あるいは三次元的に成長したデンドライト状を呈している様子が見て取れる。
しかしながら、上記デンドライト状の銅粉粒子について、「主軸の太さa」についても、「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」についても測定がなされておらず、それらの数値は不明である。

甲8エ 「Sieve analysis: >63μm _
>45μm 0,8%
>32μm 1,2%
>25μm 8,0%
<25μm 90,0%」(頁の下部)
(当審訳:ふるい分析 63μm超のものが _
45μm超のものが 0.8%
32μm超のものが 1.2%
25μm超のものが 8.0%
25μm未満のものが 90.0%)

甲8オ 「 AD: 0,54g/cm^(3)
FSSS: 3400cm^(2)/g
O_(2): 0,20%

Helos: X10: 6,1μm
X50: 18,9μm
X90: 43,1μm」(頁の下部)

甲8カ 「GR-E/AT 11.12.2009」(頁の右下)

(6-2)甲第8号証の書証の成立について
ア 甲第8号証には、「sample: Cu powder sample Mitsui MFD2」なる標題が付された、異なる倍率で撮影された2枚のSEM写真が掲載されるとともに、ふるい分析等の分析結果が記載されているが、この書類には、書類作成者によるサインも署名もされていないので、誰によって撮影、分析がなされ、書類が作成されたものか不明である。また、請求人は審判請求書において、甲第8号証が、「ECKA Granulate GmbH & Co.KG社によるMF-D2のSEM分析結果(SEM画像)」であると説明しているが、ECKA社の誰によって上記SEM写真の撮影、分析、書類の作成がされたものかについて説明しておらず、上記SEM写真に写っている銅粉粒子が、「MF-D2」であることについて、何ら説明も証明もなされていない。

イ 上記アの点について、甲第17号証には、下記甲17ア?甲17カに記載されているように、甲第8号証に記載された「MFD2」を市場で入手したこと、「GR-E/AT」がSEM写真を撮影したECKA社の部門を意味すること、「11.12.2009」は、このSEM写真が2009年12月11日に作成されたことを示していること、が事実であり、正しいことを証明しますと、GGP社のCEO兼社長のThomas Gmoehling氏が、署名付きで記載している。

ウ しかしながら、甲第17号証においも、「MFD2」を撮影し、分析し、書類を作成した者が誰であるか、及び、甲第8号証のSEM写真が「MFD2」を撮影したものであることについて、説明も証明もしていない。また、「MFD2」をどのような経緯で入手したかについても説明も証明もされていない。

エ したがって、甲第17号証を参酌しても、甲第8号証が真正な書証であるとは認められず、甲第8号証を証拠として採用することができない。

(7) 甲第9号証(特開昭63-286477号公報)について
甲第9号証は本件特許に係る出願の出願日前に日本国内で頒布されたものであり、以下の事項が記載されている。

甲9ア 「2.特許請求の範囲
1.ジクミルフェニルオキシアセテートチタネートからなる表面被覆剤で被覆処理された銅粉、樹脂バインダー、分散剤、および溶剤を含有する導電性塗料組成物。
2.該表面被覆剤の使用量が、銅粉に対して0.1?10重量%である特許請求の範囲第1項記載の導電性塗料組成物。
3.銅粉の粒子形状が、樹枝状、フレーク状、粒状、または球状である特許請求の範囲第1項または第2項記載の導電性塗料組成物。」(第1頁左欄4?14行)

甲9イ 「〔産業上の利用分野〕
この発明は電磁波シールド材料に関し、より詳細には、貯蔵安定性および電磁波シールド効果を向上させた電磁波シールド用導電性塗料組成物に関する。」(第1頁右欄下から2行?第2頁左上欄3行)

甲9ウ 「銅粉
この発明で用いられる銅粉の形状は、電解法、還元法、アトマイズ法より得られる樹枝状、粒状、球状であり、更にこれらを機械的に加工したフレーク状などもある。
電解法で得られた樹枝状銅粉は、0.50?2.00g/ccの見掛密度、1.00m^(2)/g以下の比表面積、100μm以下の粒度分布、5?30μmの平均粒径を有することが好ましい。これは、見掛密度が0.50g/cc未満若しくは2.00g/ccを超えると塗料の塗布作業性に著しく悪影響を及ぼし、1.00m^(2)/gを超える比表面積では耐酸化性が著しく劣り、100μmを超える粒度分布では粗大粒子のために塗料の塗布作業性が悪化して均一な塗膜が得難いからである。」(第2頁右下欄下から7行?第3頁左上欄8行)

甲9エ 「実験例1
見掛密度1.45g/cc、比表面積0.41m^(2)/g、粒度分布1?60μm、平均粒径13.4μmの銅粉(三井金属鉱業製、MF-D2)を用意し、この銅粉を酸性溶酸で酸化被膜を除去し、中和、乾燥した。」(第4頁左下欄下から8行?3行)

甲9オ 「実験例2
実験例1で用いた表面被覆処理銅粉(表面被覆剤の使用量は銅粉に対して1.00重量%、塗料中の被覆処理銅粉の含有量は75重量%である)と、樹脂バインダーとしてのメタクリル酸樹脂(三菱レイヨン製、アクリボンドBC-415B)と、溶剤としてのトルエンとから導電性塗料を調製した。」(第5頁右上欄3行?9行)

甲9カ 「実験例4
銀被覆量2.00重量%の銅粉(三井金属鉱業製、MF-D2)を用いたこと以外、実験例2と同様にシールド効果を測定した。」(第7頁左下欄1行?4行)

甲9キ 「実験例5
銀被覆量2.00重量%の銅粉および銀未被覆銅粉(三井金属鉱業製、MF-D2)を、実験例1と同様に、この発明によるジクミルフェニルオキシアセテートチタネート(チタネートA)表面被覆剤の被覆量1.00重量%で被覆した。」(第7頁左下欄14行?19行)

(8) 甲第14号証(“Relation between evidence No.1 and No.4”(当審訳:甲第1号証と甲第4号証の関係))について
甲14ア 「
Evidence No.1---ECKA Granular Japan's brochure in Japanese, page 22
Evidence No.4---GGP's brochure in English, page 2 and page 5 」
(当審訳:
甲第1号証---エカ・グラニュラー・ジャパンの日本語版カタログの第22頁
甲第4号証---GGP社の英語版カタログの第2頁と第5頁)

甲14イ 「"CH-L7" on Page 22 of evidence No.1 and "Cu CH-L7" on page 5 of evidence No.4 is the same products. Besides, "CH-L8" on Page 22 of evidence No.1 and "Cu CH-L8" is the same product, too.」
(当審訳:甲第1号証の第22頁にある“CH-L7”と甲第4号証の第5頁にある“Cu CH-L7”とは同一の製品です。加えて、甲第1号証の第22頁にある“CH-L8”と(甲第4号証の第5頁にある)“Cu CH-L8”とは同一の製品です。)

甲14ウ 「GGP Metalpowder Ag toke over dendritic Cu powder production line of ECKA Granulate Velden GmbH (ECKA Granulate GmbH Co. KG) in May 2010. GGP Metalpowder is still keeping dendritic Cu powder production by using the same production line and the same production method as ECKA produced before 2010. And GGP Metalpowder is selling dendritic Cu powder to the customers all over the world.」
(当審訳:GGP Metalpowder AG社は、樹枝状銅粉末生産工程をECKA Granulate Velden GmbH (ECKA Granulate GmbH Co.KG)から2010年5月に引き継ぎました。GGP Metalpowder社は、ECKA社が2010年までに使用していた生産工程と生産方法をそのまま使用しています。GGP Metalpowder社は、樹枝状銅粉末を全世界のお客様に販売しております。)

甲14エ 「We hereby certify that above statement is true and correct.
Date : 26.09.2014
GGP Metalpowder AG
CEO and President
Mr. Thomas Gmoehling 」
(当審訳:我々は、上記記載が真実であり正しいことを証明します。
2014年9月26日
GGP Metalpowder AG
最高経営責任者 兼 社長 トーマス グミューリング)

(9) 甲第15号証(“Evidence No.5 and No.6”(当審訳:甲第5号証と甲第6号証))について
甲15ア 「
Evidence No.5---SEM photo of CH-L7
Evidence No.6---SEM photo of CH-L8
Evidence No.1---ECKA Granular Japan's brochure in Japanese, page 22」
(当審訳:
甲第5号証---CH-L7のSEM写真
甲第6号証---CH-L8のSEM写真
甲第1号証---エカ・グラニュラー・ジャパンの日本語版カタログの第22頁。)
なお、甲第6号証に掲載されている写真は、「Cu CH-L8」のSEM写真であるから、上記「CH-L8」は「Cu CH-L8」の誤記と認められる。

甲15イ 「1. "Trautenfurt" is the name of the place where GGP's (ECKA's)dendritic Cu powder factory is located.」(当審訳:1.”Trautenfurt”とは、GGP社(ECKA社)の樹枝状銅粉末の工場がある場所の名前です。)

甲15ウ 「2. "10.12.09" is the date that the sample of CH-L7 was produced in Trautenfurt.」(当審訳:2.“10.12.09”とは、CH-L7のサンプルがTrautenfurt工場で作られた年月日を示しています。)

甲15エ 「3. "GR-E/AT" is the name of the department at ECKA, where this SEM photo was taken. GR means "Granulate" (engl.:Granules), E means "Entwicklung" (engl.:Development) and AT means "Anwendungs-Technik" (engl.:Application-Technology).」(当審訳:3.“GR-E/AT”は、SEM写真を撮影したECKA社の部門の事を意味します。具体的には、GRは“Granulate”(英語でGranules)を、Eは“Entwicklung”(英語でDevelopment)を、ATは“Anwendungs-Technik”(英語でApplication-Technology)を表しています。)

甲15オ 「4. On evidence 5 (CH-L7)there is an indication as "14.12.2009", it means that this SEM report was issued on Dec. 12 in 2009. On evidence 6 (CH-L8),there is an indication as "2,2013". It means that this SEM report was issued in Feb. 2013.」(当審訳:4.甲第5号証(CH-L7)の“14.12.2009”との記述は、このSEMレポートが2009年12月12日(当審注:12日は14日の誤記と認められる。)に作成されたことを示しています。甲第6号証(CH-L8)の“2.2013”の記述は、このSEMレポートが2013年2月に作成されたことを示しています。)

甲15カ 「5. On evidence No. 5, Cu CH L7 is the same products on evidence No.1 as CH-L7, it is dendritic Cu powder. On evidence No. 6, Cu CH L8 is the same product on evidence CH-L7, it is dendritic Cu powder. 」(当審注:第1文の「Cu CH L7」は、上記甲5イで指摘したように「CH L7」を意味するものである。また、第2文の下線は当審が付したものであるところ、当該下線を付した記載がthe same product on evidence No.1, CH-L8 の誤記であることを、口頭審理の場で確認している(第1回口頭審理調書の別紙1の2.アを参照のこと)。したがって、次の当審訳は誤記を修正したものに対応している。当審訳:5.甲第5号証のCHL7は、甲第1号証のCH-L7と同一の製品で、樹枝状電解銅粉末です。また、甲第6号証のCuCHL8は、甲第1号証のCH-L8と同一の製品で、樹枝状電解銅粉末です。)

甲15キ 「6. In Aug 2009, ECKA Granuels failed into insolvency, however in accordance with the Corporation Rehabilitation Law (in Germany ), ECKA was keeping production and R&D activities. ECKA could take SEM photo in Dec. 2009.」(当審訳:2009年8月に、ECKA社は経営破綻状態となってしまいました。しかしながら、ドイツ国の会社更生法の適用を受け、ECKA社は生産と開発業務を継続していました。ECKA社は2009年12月に該当のSEM写真を撮影できる状態でした。)

甲15ク 「We hereby certify that above statement is true and correct.
Date : 26.09.2014
GGP Metalpowder AG
CEO and President
Mr. Thomas Gmoehling 」
(当審訳:我々は、上記記載が真実であり正しいことを証明します。
2014年9月26日
GGP Metalpowder AG
最高経営責任者 兼 社長 トーマス グミューリング)

(10) 甲第16号証(“Evidence No.7”(当審訳:甲第7号証))について
甲16ア 「
Evidence No.7---SEM photo of CH-L7 with some measurements
Evidence No.1---ECKA Granular Japan's brocure in Japanese, page 22」
(当審訳:
甲第7号証---CH-L7のSEM写真および測定結果
甲第1号証---エカ・グラニュラー・ジャパンの日本語版カタログの第22頁。)
なお、甲第7号証に掲載されている写真は、「Cu CH-L8」のSEM写真であるから、上記「CH-L7」は「Cu CH-L8」の誤記と認められる。

甲16イ 「1. SEM photo in Evidence No.7 was took by GGP Metalpowder AG. On the photo, there are some description about length and diameter of dendrite construction. These description were added by contracted patent solicitor in Japan.」
(当審訳:1.甲第7号証のSEM写真は、GGP Metalpowder AGが撮影したものです。写真には、樹枝状構造を示す長さや直径の記載があります。これらの記載は、請求人代理人の日本の弁理士により書き加えられたものです。)

甲16ウ 「2. In accordance with information form the patent solicitor in Japan, analysis of dendrite construction (length/ diameter of the branch, number of the branch, measuring results, etc. )are estimated by "20 micron" bar which is on the SEM photo. GGP agreed the analysis results by the patent solicitor in Japan.」(当審訳:2.請求人代理人の日本の弁理士からの情報では、樹枝状銅粉末の構造の分析(枝の長さや直径、枝の本数、測定結果など)は、SEM写真中の”20μm”の長さを示すバーから推測したものです。GGP社は請求人代理人の分析結果に同意いたします。)

甲16エ 「3. "Cu CH-L8" on evidence 7 is the same product as "CH-L8" on evidence No.1, it is dendritic Cu powder.」(当審訳:3.甲第7号証記載の”Cu CH-L8”と甲第1号証記載の”CH-L8”は同じ製品で、樹枝状銅粉末です。)

甲16オ 「We hereby certify that above statement is true and correct.
Date : 26.09.2014
GGP Metalpowder AG
CEO and President
Mr. Thomas Gmoehling 」
(当審訳:我々は、上記記載が真実であり正しいことを証明します。
2014年9月26日
GGP Metalpowder AG
最高経営責任者 兼 社長 トーマス グミューリング)

(11) 甲第17号証(“Evidence No.8”)について
甲17ア 「
Evidence No.8---SEM photo of Mitsui MFD2
(当審訳:(添付資料)
甲第8号証---三井MFD2のSEM写真)

甲17イ 「1. "GR-E/AT" is the name of the department at ECKA, where this SEM photo was taken. GR means "Granulate" (engl.:Granules), E means "Entwicklung" (engl.:Development) and AT means "Anwendungs-Technik" (engl.:Application-Technology).」
(当審訳:1.“GR-E/AT”は、SEM写真を撮影したECKA社の部門の事を意味します。具体的には、GRは“Granulate”(英語でGranules)を、Eは“Entwicklung”(英語でDevelopment)を、ATは“Anwendungs-Technik”(英語でApplication-Technology)を表しています。)

甲17ウ 「2. There is a indication as "11.12.2009". It means that these SEM photos were taken on 1th Dec. in 2009. 」(当審訳:「11.12.2009」の記載がある。これは、これらのSEM写真が2009年12月11日(当審注:「1th」は「11th」の誤記と認められる)に撮影されたことを表している。)

甲17エ 「3. In Aug 2009, ECKA Granuels failed into insolvency, however in accordance with the Corparation Rehabilitation Low (in Germany ), ECKA was keeping production and R&D activities. ECKA could take SEM photo in Dec. 2009.」(当審訳:2009年8月に、ECKA Granuels社は経営破綻状態となってしまいました。しかしながら、ドイツの会社更生法の適用を受けて、ECKA社は生産と開発業務を継続していました。ECKA社は2009年12月にSEM写真を撮影できる状況でした。)

甲17オ 「4. On evidence 8, there is an indication as "Cu powder sample Mitsui MFD2". We are sure that we took SEM photo of Mitsui's MFD2 which we obtained on the market.」(当審訳:8号証には、「Cu powder sample Mitsui MFD2」との記載がある。われわれは、市場で入手した三井金属のMFD2のSEM写真を撮影したことは確かであると思います。)

甲17カ 「We hereby certify that above statement is true and correct.
Date : 26.09.2014
GGP Metalpowder AG
CEO and President
Mr. Thomas Gmoehling 」
(当審訳:我々は、上記記載が真実であり正しいことを証明します。
2014年9月26日
GGP Metalpowder AG
最高経営責任者 兼 社長 トーマス グミューリング)

(12) 甲第18号証(“エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社の特別清算情報-平成23年(ヒ)第2048号”)
甲第18号証は、インターネット上のホームページである「破産データバンク」の内容をプリントアウトしたものであり、以下の事項が記載されている。

甲18ア 「平成23年(ヒ)第2048号
・官報「2011-07-04」日発行
・官報掲載場所「本誌(5589号)」の「24ページ」目
・清算「エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社」

特別清算情報
1.決定年月日 平成23年6月23日
2.主文清算株式会社につき特別清算の開始を命ずる。
3.東京地方裁判所民事第8部」(第1頁)

甲18イ 「平成23年(ヒ)第2048号
・官報「2011-10-27」日発行
・官報掲載場所「本誌(5668号)」の「26ページ」目
・清算「エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社」

特別清算情報
1.決定年月日 平成23年10月17日
2.主文本件特別清算手続を終結する。
3.東京地方裁判所民事第8部」(第2頁)

(13)甲第20号証(甲第1号証のカタログ「金属粉末」の受領証明書)
甲20ア 「ECKA Granulate GmbH&Co.KG エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社発行のカタログ「金属粉末」(2.5.0502/03.JP)(無効2014-800051審判事件提出の甲第1号証)の受領証明書」

なお、甲20アに記載された「(2.5.0502/03.JP)」なる記載は、「(5.2.0502/03.JP)」の誤記であることが、口頭審理の場で確認されている(調書の別紙1の3.カを参照。)。

甲20イ 「私、増原大地は、2006年頃、エカ・グラニュラー/ジャパン株式会社の金属粉末の日本語カタログ(無効2014-800051審判事件に提出された甲第1号証)を、その当時エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社神戸支店の支店長である入江氏から、対面による手渡しで受領いたしました。

上記記載事項が、真実に相違ないこと証明いたします。」

(14)甲第21号証(甲第1号証のカタログ「金属粉末」の受領証明書)
甲21ア 「ECKA Granulate GmbH&Co.KG エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社発行のカタログ「金属粉末」(2.5.0502/03.JP)(無効2014-800051審判事件提出の甲第1号証)の受領証明書」

なお、甲21アに記載された「(2.5.0502/03.JP)」なる記載は、「(5.2.0502/03.JP)」の誤記であることが、口頭審理の場で確認されている(調書の別紙1の3.カを参照。)。

甲21イ 「私、堀浩史は、2011年3月、エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社の金属粉末の日本語カタログ(無効2014-800051審判事件に提出された甲第1号証)を、その当時、株式会社ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーションの渥見幸彦氏(現、株式会社GGPメタルパウダージャパン、代表取締役)から、対面による手渡しで受領いたしました。

上記記載事項が、真実に相違ないこと証明いたします。」

(15) 甲第22号証(“基礎 粒子径分布測定の一般論、光の基礎理論 1.粒子径分布測定の一般論 1-3.粒子径分布”)について
甲第22号証は、インターネット上のホームページである「日機装株式会社」の「基礎 粒子径分布測定の一般論、光の基礎理論 1.粒子径分布測定の一般論 1-3.粒子径分布」の内容をプリントアウトしたものであり、以下の事項が記載されている。

甲22ア 「1-3.粒子径分布
粉体、つまり集合体としての粒子の大きさは、多数個の測定結果を大きさ(粒子径)毎の存在比率の分布として表すのが一般的です。これを粒子径分布といいます。

存在比率の基準としては、体積基準(体積分布)、個数基準(個数分布)等があります。マイクロトラック(レーザー回折・散乱法)では原理上体積分布を測定しています。

粒子径分布は頻度として表す場合と、累積分布として表す場合があります。累積分布には、細かい粒子の側をゼロとして右上がりのカーブとなるオーバーサイズと、粗い側をゼロとして右下がりするアンダーサイズがあります。

粉体の大きさを、必ず分布で表さなければならないとすると不便です。このため一つの指標をもって粒度を表すことがあります。次のような指標がよく使われます。
・モード径・・・出現比率がもっとも大きい粒子径チャンネル。または分布の極大値。
・メジアン径(メディアン径)・・・俗にd50ともいいます。粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径のことです。この他に、d10、d90などもよく使われます。」

(16) 甲第25号証(“HELOS レーザー回折式粒子径分布測定装置”)について
甲第25号証は、インターネット上のホームページである「Sympatec Gmbh」社の「HELOS レーザー回折式粒子径分布測定装置」の内容をプリントアウトしたものであり、以下の事項が記載されている。

甲25ア 「レーザー回折法のHELOS(ヘロス)システムは一つの測定原理で0.1μmから8750μmの範囲の粒子径を測定します。」

(17) 甲第26号証(“レーザー回折法による粒子径測定法”)について
甲第26号証は、インターネット上のホームページである「独立行政法人医薬品医療機器総合機構」に掲載されたPDFファイルの内容をプリントアウトしたものであり、以下の事項が記載されている。

甲26ア 「5.結果の記録
粒子径分布のデータは,通例,ふるい下積算分布及び/又は体積基準積算密度分布として記録する.粒子径を表すのに記号xを用い,粒子径は体積相当球の直径として定義する.Q3(x)は粒子径xにおけるふるい下体積分率を表す.図示する場合には,xを横軸に,従属変数であるQ3(x)を縦軸にしてプロットする.最も一般的な特性値は,粒子径分布曲線から内挿によって計算される.繁用されているものは,積算ふるい下値で10%,50%,90%における粒子径(それぞれ,x_(10),x_(50),x_(90)として表示)である.x_(50)はメジアン径として知られている.記号dも粒子径を表すのに広く用いられているので,xの代わりにdを用いてもよい.」(第21頁左欄23?34行)

(18) 甲第28号証(特開平5-114772号公報)について
甲第28号証は本件特許に係る出願の出願日前に日本国内で頒布されたものであり、以下の事項が記載されている。

甲28ア 「【0004】このように、導電性銅ペーストを用いた印刷配線基板は、安価で耐マイグレーション性に優れているという特徴はあるものの、反面、導電性、耐湿信頼性、密着信頼性などにおいて多くの問題点を残しており、これらの問題点を解消した導電性ペーストを用いて得られる印刷配線基板は未だ得られていないのが実情である。
【0005】しかして、本発明の目的は導電性、耐湿信頼性、密着信頼性が改善され、また耐マイグレーションがより優れた導電性銅ペーストを用いて作製される印刷配線基板を提供することにある。」

甲28イ 「【0028】本発明に用いる導電性粉末としては、銅粉末、銀粉末、ニッケル粉末、アルミニウム粉末等の金属粉末、及び表面に上記金属の被膜層を有する粉末が挙げられるが、特に銅粉末が好ましい。その形態は樹枝状、フレーク状、球状、不定型のいずれの形態であっても良いが、好ましくは、電解により生成した樹枝状の電解銅粉、あるいは球状粉である。平均粒子径は30μm以下であることが好ましく、高密度、多接触点充填の点から、1?10μmの樹枝状粉がより好ましい。ここでいう平均粒子径とは堀場製作所製LA-500型レーザー回析式粒度分布定装置で求めた体積基準によるメジアン径を指すものとする。平均粒子径が30μmを超えると導電性粉末の高密度充填が難しくなり、導電性が低下するとともに、印刷性が悪くなるからである。さらに表面処理が施された銅粉を用いると特に優れた導電性、耐マイグレーション性、可撓性が得られやすい。本発明の銅ペーストおよびその塗膜は表面にはんだを付着させる必要はないので、有機系の表面処理剤であっても、また無機系の表面処理剤であっても差し支えない。上記導電性粉末の使用形態としては単独又は混合系で使用できる。上記金属粉末の純度は高い方が好ましい。特に銅粉末については、回路基板の導体に用いられている銅箔又はメッキ銅層の純度と一致するものが最も好ましい。」

(19) 甲第29号証(“粉博士のやさしい粉講座:実践コース”,“27 針状・繊維状粒子の測定”)について
甲第29号証は、インターネット上のホームページである「島津製作所」の「粉博士のやさしい粉講座:実践コース」の内容をプリントアウトしたものであり、以下の事項が記載されている。

甲29ア 「○レーザ回折式粒度分布測定装置
27 針状・繊維状粒子の測定
粒度分布は、通常、粒子径スケールに対する粒子量(積算または頻度)として表現されます。また、レーザ回折式粒度分布測定装置の測定原理「レーザ回折・散乱法」では、粒子が球形であると仮定して計算された回折・散乱光の光強度分布パターンに基づいて粒度分布を求めています。したがって、粒度分布測定では、常に粒子が球形であるという前提や仮定に基づいて測定が行われています。
それでは、図1や図2に示すような針状・繊維状粒子を測定した場合に、どのような結果がえられるのでしょうか。」

甲29イ「



甲29ウ 「結論から言えば、図3のような粒度分布の測定結果が得られます。ここでは、測定対象となる粒子群が、まったく同じ形状・サイズの粒子だけから構成されるという前提をおいています。この場合、測定結果として得られる粒度分布は、針状・繊維状粒子の短径が分布下限に、長径が分布上限にほぼ相当するような比較的広い分布となります。」

甲29エ 「



甲29オ「粒子群の中に、さまざまな形状・サイズの針状・繊維状粒子が含まれている場合、測定結果の分布範囲は、その中で最も小さな短径から、最も大きな長径へと広がります。
したがって、このような針状・繊維状粒子の場合でも、測定対象の粒子群に含まれる粒子の形状・サイズのばらつきが大きくなれば分布範囲は広がりますし、ばらつきが小さくなれば分布範囲は狭くなります。また、形状・サイズが大きく(長く)なれば、粒度分布は全体として大きいほうに移動しますし、また、形状・サイズが小さく(短く)なれば、粒度分布は全体として小さいほうに移動します。
同様に、針状・繊維状粒子が凝集していれば、粒度分布は全体として大きいほうに移動しますし、また、うまく分散していれば、粒度分布は全体として小さいほうに移動します。つまり、針状・繊維状粒子の分散・凝集状態を評価できるわけです。」

(20) 甲第31号証(CuCH-L7のレーザー法粒度測定結果)について
甲第31号証は、平成27年5月27日付けの口頭審理陳述要領書(2)の説明によれば、GGPメタル社分析のCuCH-L7のレーザー法粒度測定結果であり、以下の事項が記載されている。

(20-1)甲第31号証の記載事項
甲31ア 「


甲31アのグラフ上部の記載から、当該グラフが、銅粉末「CuCH-L7」を測定対象として、レーザー法粒度測定をした結果が示されており、グラフ上部の枠内の測定結果から、X(50%)が19.80μmであることが見て取れる。

(20-2)甲第31号証の書証の成立について
ア 甲第31号証には、銅粉末「CuCH-L7」を測定対象として、レーザー法粒度測定をした分析結果が記載されているが、この書類には、書類作成者によるサインも署名もされていないので、誰によって分析がなされ、書類が作成されたものか不明である。そして、請求人は口頭審理陳述要領書(2)において、誰によって分析及び書類の作成がされたものかについて説明しておらず、上記測定対象となっている銅粉粒子が、「CuCH-L7」であることの根拠についても、何ら説明がなされていない。

イ 上記アの点について、平成27年5月29日差出の口頭審理陳述要領書(3)の第2頁には、「甲第31号証は、ドイツ GGP Metalpowder AG社(GGP社)が、製造した電解銅粉CuCH-L7(甲第1号証のCH-L7の現在の商品名)について、平成27年5月に、GGP社の品質管理者が、SYMPATEC社製レーザー回折式粒度分布装置(HELOS/BR&RODOS)で、体積基準の累積粒度分布を測定した結果です。
X(50%)(D50)が、訂正後の請求項1に記載の『5μm以上25μm以下』の範囲である『19.80μm』を示しております。」と記載されている。

ウ しかしながら、上記口頭審理陳述要領書(3)においても、甲第31号証の分析を行い、書類を作成した者が誰であるかについて説明しておらず、上記分析が「CuCH-L7」を対象に行われたことの根拠についても、何ら説明がなされていない。

エ なお、甲第31号証には、上記イに記載したように、Helosを用いて測定されたX50の値が19.80μmと記載されているが、甲第5号証には、銅粉末「Cu CH-L7」のX50を同様に測定した値が、31.8μmと記載されている。したがって、同じ銅粉末「Cu CH-L7」について、同じ測定装置で測定したにもかかわらず、甲第5号証と甲第31号証では、それぞれにおいて測定されたX50の値が大きく相違しているため、甲第31号証が、仮に真正な書証であって、証拠として採用できるものであったとしても、甲第31号証のX50についての測定結果は、直ちには採用できないものである。

オ したがって、平成27年5月29日差出しの口頭審理陳述要領書(3)の上記イの記載を参酌しても、甲第31号証が真正な書証であるとは認められず、甲第31号証を証拠として採用することができない。

3 当審から通知した無効理由通知
平成27年7月28日付けで当審から通知した無効理由1.及び2.は次のとおりである。
1.本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである。
2.本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(2)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである。

なお、下記(1)、(2)に限り、平成27年8月27日付け訂正請求書に添付した訂正明細書を「訂正明細書」と記載し、当該訂正請求書による訂正前のものを「特許明細書」と記載する。

(1)サポート要件について
ア 本件発明の課題は、訂正明細書の段落【0014】に記載されているように、「優れた導通性を得るのに適したデンドライト成長を呈する銅粉粒子を含有し、導通性がより一層優れた新たなデンドライト状銅粉を提供せんとする」ことである。

イ ところで、訂正明細書には、段落【0036】に「本発明が以下の実施例に限定されるものではない。」と記載した上で、段落【0037】に「走査型電子顕微鏡(2,000倍)にて、任意の100視野において500個の粒子の形状を観察し、それぞれ主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定し、その平均値を表1に示した。」と記載されていることから、走査型電子顕微鏡による観察は、実施例においては、任意の複数の視野において複数の粒子を観察することにより行われているが、本件発明の「観察」は、その発明特定事項からみて、実施例のものに限らないと解することができる。

ウ すなわち、請求項1には「走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察した際」と記載されているところ、上記「観察」する「銅粉粒子」について、任意の視野において観察されたものであるとは記載されておらず、また、「観察」の対象とする「銅粉粒子」の数も特定されていないため、請求項1に記載された「観察」については、一つの「特定形状の銅粉粒子」を探し出し、当該一つの「特定形状の銅粉粒子」が含まれる特定の視野において、当該一つの「特定形状の銅粉粒子」を「銅粉粒子」として観察する場合が含まれるといえる。

エ そして、請求項1には、「全銅粉粒子」についても何ら定義がされていないのであるから、探し出した上記一つの「特定形状の銅粉粒子」を「全銅粉粒子」ということも可能であり、このとき、「特定形状の銅粉粒子」が少なくとも一つ含有される「デンドライト状銅粉」は、「特定形状の銅粉粒子」が「全銅粉粒子」のうちの100個数%(すなわち、全1個中の1個。)含有するものであるということができる。

オ しかるに、「特定形状の銅粉粒子」は、「優れた導通性を得るのに適したデンドライト成長を呈する銅粉粒子」として「デンドライト状銅粉」に所定量(全体の80個数%以上)を含有させるものであるといえるから、上記ウで検討したような「特定形状の銅粉粒子」がわずか1個のみ含有されるような「デンドライト状銅粉」が、本件発明の課題を解決できるものとはいえないことは明らかである。

カ また、請求項1において、「走査型電子顕微鏡(SEM)」を用いる「銅粉粒子」の「観察」について、仮に、「任意の複数の視野において複数の粒子を観察すること」が特定されていた場合において、観察する粒子の個数がごく少量、例えば10個であり、そのうち「特定形状の銅粉粒子」が8個含有されていることが判明したとしても、サンプリング量が少なく統計的な偏りがあるため、その「デンドライト状銅粉」が、本件発明の課題を解決するために十分な個数%、すなわち、80個数%以上の「特定形状の銅粉粒子」を含有していることを、十分な確からしさで判断することはできない、すなわち、本件発明の課題を解決できるものであるとはいえない。

キ したがって、「走査型電子顕微鏡(SEM)」を用いる「銅粉粒子」の「観察」について、「任意の複数の視野において複数の粒子を観察すること」が特定されておらず、また、「観察する粒子の個数」が特定されていない、本件の請求項1には、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっている。

(2)発明の明確性について
ア 請求項1に記載された「全銅粉粒子」の「全」とは、「デンドライト状銅粉」に含まれる「銅粉粒子」の全てを意味するのか、「走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて」「観察」の対象となる複数の「銅粉粒子」の全てを意味するのか、あるいは、他の意味であるのか不明である。

イ 図1のモデル図によれば、「銅粉粒子」の「主軸」の太さは、上方が細く尖っており、下方に行くほど太くなっている。また、図2のSEM写真においても、右方ほど細く、左方ほど太くなっていることが見て取れる。このとき、「銅粉粒子」の「主軸」の太さは、測定する方法によって異なる値となる。例えば、「主軸」のちょうど中間で太さを測定する場合、「主軸」の何カ所かで測定した複数の太さの平均値をとる場合、「主軸」の一番太い箇所を測定する場合、「主軸」の太い側の端部の太さを測定する場合では、いずれも相互に異なる値として測定され得ることは明らかである。しかるに、請求項1には「主軸の太さa」の測定方法が記載されていないから、請求項1に記載された「主軸の太さa」は、「銅粉粒子」の「主軸」をどのように測定して得られた値であるか不明である。

ウ 請求項1に記載された「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」(以下「長さb」という。)が、「走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察した際」に得られる長さであるとは認められるものの、「長さb」が、どのように測定して得られたものであるかが、請求項1には記載されていない。そのため、「長さb」が、「銅粉粒子」が有する三次元に伸びた複数の枝のうち、実際に最も長い枝を選択し、当該最も長い枝について、枝の伸びる方向に沿って測定された長さ(以下「真の最長長さ」という。)を表すのか、走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影された1枚のSEM写真(以下「SEM写真」という。)で確認できる、見かけ上、最も長く見える枝の長さ(以下「見かけの最長長さ」という。)を表すのか、あるいは、それ以外の測定方法で取得された長さを表すのか不明である。

エ 請求項3に記載された「主軸の長径Lに対する枝の分岐本数(枝本数/長径L)」(以下「分岐本数」という。)が、「走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察した際」に得られる「分岐本数」であるとは認められるものの、「分岐本数」が、どのような測定によって得られたものであるかが、請求項1には記載されていない。そのため、「分岐本数」が、「銅粉粒子」が有する三次元に伸びた複数の枝全ての本数(以下「真の分岐本数」という。)を表すのか、1枚のSEM写真で確認できる見かけ上の「銅粉粒子」の枝全ての本数(以下「見かけの分岐本数」という。)を表すのか、あるいは、それ以外の測定方法で取得された本数を表すのか不明である。

第5 被請求人の主張と証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「(1)本件無効審判の請求は成り立たない。(2)審判費用については、請求人が負担すべきものとする。」との審決を求め、答弁書とともに乙第1?2号証を提出し、訂正請求書(特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。)を提出し、同意回答書を提出し、口頭審理陳述要領書及び口頭審理陳述要領書(2)を提出し、上申書を提出し、当審の無効理由通知に対して審判事件意見書及び訂正請求書を提出し、訂正拒絶理由通知書に対して審判事件意見書及び手続補正書を提出することにより、請求人の主張する理由及び証拠、並びに当審が通知した無効理由によっては本件発明を無効とすることはできないと主張している。

[証拠方法]
乙第1号証:鈴木淑夫、岩石学辞典、初版第1刷、2005年3月20日、株式会社朝倉書店、第364頁
乙第2号証:特開2008-13837号公報

2 乙号証の記載事項
被請求人が証拠方法として提出した乙号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである。

(1) 乙第1号証(鈴木淑夫、岩石学辞典、初版第1刷、2005年3月20日、株式会社朝倉書店、第364頁)

乙1ア 「じゅしじょう 樹枝状 dendritic
過冷却状態の融液から凝固した結晶成長の一形態で,特定の結晶学的な方向に急速に成長する.小さい結晶が多数連結して枝分かれした樹木のようになった結晶の集合組織にもこの語を用いる.ギリシャ語でdendrosは樹木のこと.」

(2) 乙第2号証(特開2008-13837号公報)
乙第2号証は本件特許に係る発明の出願日前に日本国内で頒布されたものであり、以下の事項が記載されている。

乙2ア「【0045】
【図1】実施例1で出発原料として用いた樹枝状電解銅粉の走査型電子顕微鏡写真である。」

乙2イ「【図1】


第6 当審の判断
1 無効理由1-1、1-2、1-4について
甲第1号証を主引用例とする、無効理由1-1、1-2、1-4について検討する。

(1) 甲第1号証に記載された発明
ア 上記甲1エの表によれば、樹枝状の銅粉である「銅(グレード名:CH)」には、見掛密度が異なる「軽量タイプ(CH-L)」、「中間重量タイプ(CH-M)」、「重量タイプ(CH-S)」の3つの等級があるが、「軽量タイプ」の「電解銅粉末(CH等級)」に属する「銅粉末(CH-L8)」及び「銅粉末(CH-L7)」を走査型電子顕微鏡で観察すると、どのような形状の銅粉粒子を含有しているかは不明である。
この点に関して、甲1ウのSEM写真は、「銅(グレード名:CH)」に属するいずれかの銅粉のSEM写真であるとは推定されるものの、「銅粉末(CH-L8)」及び「銅粉末(CH-L7)」に含まれる銅粉粒子の形状が、甲1ウのSEM写真のようになっているかは不明である。
しかしながら、甲1イによれば、「銅(グレード名:CH)」の銅粉は、電解法によって形成された銅粉末であり、樹枝状の粒子として析出するのであるから、「銅粉末(CH-L8)」及び「銅粉末(CH-L7)」を走査型電子顕微鏡で観察すると、甲1ウのSEM写真に写っている銅粉粒子に類似した、少なくとも樹枝状といえるような銅粉粒子を含有しているものと認められる。

イ 「銅粉末(CH-L8)」及び「銅粉末(CH-L7)」の「粒度」は、いずれも、甲1エに記載されているように、「<0.063mm」である。なお、上記「粒度」が「<0.063mm」であるとは、下記(3-2-1-1)アで検討するように、目開き63μmの篩を通過した銅粉末であることを意味しており、このことを、以下、「粒度63μm」と記載する。

ウ したがって、上記ア、イの検討に基づいて、「銅粉末(CH-L8)」と「銅粉末(CH-L7)」の二つの銅粉末について、訂正特許請求の範囲の請求項1の記載に則して記載すると、甲第1号証には、

「電解法によって形成された銅粉末であって、
粒度が63μmであって、
走査型電子顕微鏡を用いて銅粉粒子を観察した際、樹枝状の銅粉粒子を含有する銅粉末。」

が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。

なお、本審決において、銅粉粒子が「樹枝状」であるとは、電解法によって形成された銅粉が取り得る形状であって、甲1ウ、甲4エ、乙2イのSEM写真のように、樹枝が比較的細いものから、樹枝が太く大きくなりブロッコリー状のものまでを含む、広い概念を表すものとして使用し、「デンドライト状」であるとは、訂正明細書の段落【0020】に記載されているように、本件特許に係る図1、図2のような、主軸と、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長した特定の形状を表すものとして使用する。なお、「デンドライト状」の銅粉粒子は同時に「樹枝状」であるといえる。

(2) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「銅粉末」は、本件発明1の「銅粉」に相当している。

イ 甲1発明の「銅粉末」と本件発明1の「銅粉」は、いずれも、「電解法によって得られる」点で一致している。

ウ 甲1発明の「樹枝状の銅粉粒子」について、その詳細な形状は不明である。したがって、甲1発明の「樹枝状の銅粉粒子」と本件発明1の「デンドライト状を呈する銅粉粒子」は、いずれも、樹枝状を呈する銅粉粒子、の点で共通する。

エ 以上から、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「電解法によって得られる銅粉であって、
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、銅粉粒子を観察した際、樹枝状を呈する銅粉粒子が含有される銅粉。」

≪相違点1≫
本件発明1の「銅粉」は「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が5μm以上25μm以下」であるのに対し、甲1発明の「銅粉末」は、「粒度が63μm」であるが、「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50」の値が不明である点。

≪相違点2≫
「銅粉」に含有される「銅粉粒子」が、「走査型電子顕微鏡」を用いて観察した際、本件発明1では、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する」(以下、「特定形状サイズである」という。)ものであるのに対し、甲1発明では、樹枝状ではあるが、具体的にどのような形状やサイズであるか不明である点。

≪相違点3≫
「走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察した際」、本件発明1の「銅粉」は、特定形状サイズである「デンドライト状を呈する銅粉粒子が全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有する」のに対して、甲1発明の「銅粉末」は、特定形状サイズの銅粉粒子を含んでいるか不明であり、したがって、特定形状サイズである「デンドライト状を呈する銅粉粒子が全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有する」かも不明である点。

(3) 相違点についての判断
相違点1?3のうち、最初に、相違点2について検討する。
なお、後述の(3-1)?(5)においては、前記第4の2で検討したとおり、甲第5?7、31号証を証拠として採用できないことを前提として、甲第5?7、31号証が仮に採用できる場合も含めて検討を行い、後述の(6)においては、甲第5?7、31号証がいずれも証拠として採用できるものとして、予備的な検討を行う。

(3-1)相違点2の検討
(3-1-1)甲第4号証に記載された銅粉末「Cu CH-L8」及び「Cu CH-L7」は、それぞれ、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」及び「CH-L7」と同一の銅粉末であること

ア 上記甲1キの記載から、甲第1号証のカタログは、「ECKA Granulate GmbH & Co.KG」(ECKA社)の日本法人である「エカ・グラニュラー・ジャパン株式会社」(エカ社)によって作成されたものと認められる。
一方、上記甲4アの記載から、甲第4号証のカタログは、「GGP Metalpowder AG」(GGP社)によって作成されたものと認められる。

イ 上記甲4イの記載から、2009年にECKA社は破産し、2010年にGGP社がECKA社の業務を引き継いだものと認められる。
なお、日本法人のエカ社については、上記甲18ア、イの記載から、平成23年6月23日に特別清算が開始され、平成23年10月17日に特別清算手続が終結したものと認められる。

ウ 上記甲14ウの記載から、ECKA社の事業を引き継いだGGP社は、ECKA社が2010年までに使用していた生産工程と生産方法をそのまま使用しているものと認められる。

エ 平成26年10月16日付け弁駁書 の第7頁下から7?5行には、「GGP社は、ECKA社の生産工程(工場)及び生産方法をそのままで、現在も、甲第1号証の『CH-L7』及び『CH-L8』を『Cu CH-L7』及び『Cu CH-L8』として製造、販売しております。」と記載されている。

オ 上記ア?エの検討及び記載事項に基づくと、ECKA社が破産した後、ECKA社の業務、生産工程(工場)、及び生産方法がGGP社によって引き継がれたものと認められる。この結果、ECKA社が製造、販売していた銅粉「CH-L8」及び「CH-L7」は、それぞれ、引き続き、GGP社によって、銅粉「Cu CH-L8」及び「Cu CH-L7」として製造、販売が続けられることになったものと認められ、このため、ECKA社によって作成された甲第1号証のカタログに掲載されていた「CH-L8」及び「CH-L7」は、それぞれ、GGP社によって作成された甲第4号証のカタログに掲載されていた「Cu CH-L8」及び「Cu CH-L7」と同一の銅粉であると認められる。

カ 甲第4号証に記載された銅粉「Cu CH-L8」と、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」が同一の銅粉であることは、甲第1号証と甲第4号証の次の記載からも裏付けられる。
上記甲1エの表には、銅粉末「CH-L8」の「見掛密度」、「酸素量」、「比表面積」、「粒度」がそれぞれ、「0.8」、「<0.30」、「2300」、「<0.063」と記載されている。
上記甲4エの表には、銅粉末「Cu CH-L8」の「Aparent Density」、「Oxygen content」、「Specific Surface」、「Cut」がそれぞれ、「0.8」、「<0,30」、「2300」、「<0,063」と記載されている。
上記甲1エの表に記載された4つのパラメータ「見掛密度」、「酸素量」、「比表面積」、「粒度」は、それぞれ上記甲4エの表に記載された4つのパラメータ「Aparent Density」、「Oxygen content」、「Specific Surface」、「Cut」に相当することが明らかであるところ、上記両銅粉末において、上記4つのパラメータの値が完全に一致しているので、甲第4号証に記載された銅粉末「Cu CH-L8」と、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」が同一の銅粉であることが裏付けられる。

キ また、甲第4号証に記載された銅粉「Cu CH-L7」と、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L7」が同一の銅粉であることも、甲第1号証の上記甲1エの表の記載と、甲第4号証の上記甲4エの表の記載から、上記カで検討したと同様に裏付けられる。

(3-1-2)証拠として採用できない甲第5号証の記載事項
甲第5号証に掲載された甲5ウの800倍のSEM写真は、上記甲5イのなお書きで指摘したように標題に誤記を含んでおり、標題を誤記を正した上で参照すれば、銅粉末「CH-L7」のSEM写真であって、上記甲5ウの視認事項を参照すると、上記800倍のSEM写真の銅粉末は、「主軸の太さa」及び「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」が測定できるような銅粉粒子を含有しているとはいえない。

(3-1-3)証拠として採用できない甲第6号証の記載事項
甲第6号証に掲載されたSEM写真は、その標題には「CuCHL8」と記載されているが、審判請求書の第17頁の6)の記載を参照すれば、上記SEM写真は、GGP社によって撮影された「Cu CH-L8」のSEM写真であるものと認められる。そして、上記甲6ウの視認事項を参照すると、上記SEM写真からは、銅粉「Cu CH-L8」が樹枝状の銅粉粒子を含有するものとはいえるものの、銅粉「Cu CH-L8」が、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子」を含有しているということを確認することができない。

(3-1-4)証拠として採用できない甲第7号証の記載事項
甲第7号証に掲載された甲7ア、甲7イのSEM写真(A)、(B)は、その標題を参照すれば、銅粉末「Cu CH-L8」のSEM写真であって、上記甲7イの視認事項及び甲7ウの記載を参照すると、上記SEM写真(A)、(B)の銅粉末は、「一本の主軸を備えており、当該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、その主軸太さaが0.8μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さである枝長bが9.0μmである」銅粉粒子を含有しているものと認められる。
そして、主軸の太さaが0.8μmであることは、「主軸の太さaが0.3μm?5.0μm」に該当し、枝長bが9.0μmであることは、「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μm」に該当するから、甲第7号証の上記銅粉末「Cu CH-L8」は、上記特定形状サイズの銅粉粒子を含有しているといえる。

(3-1-5)相違点2が実質的な相違点であること
ア 銅粉末「Cu CH-L8」については、そのSEM写真と測定結果が、甲第6号証と甲第7号証に記載されているところ、上記(3-1-3)で検討したように、甲第6号証には、銅粉末「Cu CH-L8」が、特定形状サイズの銅粉粒子を含有していることが示されていないが、上記(3-1-4)で検討したように、甲第7号証には、銅粉末「Cu CH-L8」が、特定形状サイズの銅粉粒子を含有していることが示されている。そして、上記銅粉末「Cu CH-L8」とは甲第4号証のGGP社のカタログに掲載された銅粉末「Cu CH-L8」のことであり、また、上記(3-1-1)で検討したように、甲第4号証の銅粉末「Cu CH-L8」は甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」と同一の銅粉末であるから、甲第7号証が証拠として採用できるのであれば、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」は、甲第7号証に記載された銅粉末「Cu CH-L8」と同一の銅粉末であるといえるので、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」は、上記特定形状サイズの銅粉粒子を含有しているということができる。

イ しかしながら、上記第4の2(5)(5-2)で検討したように、甲第7号証は、真正な書証であると認められず、証拠として採用することができないから、甲第7号証から銅粉末「Cu CH-L8」が上記特定形状サイズの銅粉粒子を含有していることを認定することができないため、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」に、上記特定形状サイズの銅粉粒子が含有されているということができない。

ウ また、上記(3-1-2)で検討したように、甲第5号証に掲載された、800倍のSEM写真に撮影されている銅粉末「CH-L7」は、「主軸の太さa」及び「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」が測定できるような銅粉粒子を含有していないし、そもそも、上記第4の2(3)(3-2)で検討したように、甲第5号証は、真正な書証であるとはいえないから、甲第5号証を証拠として採用することができない。
したがって、甲第5号証を参酌することはできないが、仮に参酌できたとしても、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L7」に、特定形状サイズの銅粉粒子が含有されているとはいえない。

エ 以上のとおり、当該甲第5?7号証は証拠として採用できないものであるから、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」又は「CH-L7」に、上記特定形状サイズの銅粉粒子が含有されているとはいえず、したがって、甲1発明の銅粉末に、上記特定形状サイズの銅粉粒子が含有されているとはいえない。
よって、甲1発明は、相違点2に係る本件発明1の特定事項を有しているとはいえないため、相違点2の点で本件発明1と相違している。

(3-1-6)相違点2の容易想到性
ア 甲第1号証の上記甲1イの記載によれば、電解法によって電解銅粉末を形成するにあたり、電解液の組成、電流および電解液温度を調整することによって粉末の形状および粒度を管理することができ、各種プロセスパラメータを調整することによって、粉末の見掛密度を低(CH-L)、中(CH-M)、高(CH-S)に変えることができる。

イ また、甲第4号証の上記甲4エの視認事項からも確認できるように、電解法によって電解銅粉末を形成するにあたり、見掛密度が大きくなるにしたがって、電解銅粉粒子の枝が太くなり、電解銅粉粒子のサイズが大きくなって、ブロッコリーのような形状に変化する。

ウ 上記ア及びイの事項を勘案すれば、電解銅粉作成時のプロセスパラメータを調整することにより、銅粉粒子の枝の太さや銅粉粒子のサイズを変化させることができるものと認められる。

エ しかしながら、甲第1号証には、電解法によって形成された銅粉が、上記特定形状サイズの銅粉粒子を含有することについて記載も示唆もされていないから、甲1発明において、電解法のプロセスパラメータを調整することによって、銅粉粒子の枝の太さを変えて見掛密度を変更することができるとしても、何の契機もなしに、上記特定形状サイズの銅粉粒子を含有させることが、当業者にとって容易になし得ることであるとまではいうことができない。

オ よって、甲1発明の銅粉末において、上記特定形状サイズの銅粉粒子が含有されるようにすること、すなわち、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、甲第1号証の記載に基づいて、当業者にとって容易になし得ることであるはいえない。

(3-1-7)相違点2の検討のまとめ
甲第4?7号証を参酌しようとしても、当該甲第5?7号証は証拠として採用できないものであるから、甲1発明は、相違点2の点で本件発明1と相違している。
また、甲第1号証に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(3-2)相違点1の検討
次に、相違点1について検討する。

(3-2-1)相違点1が実質的な相違点であること
(3-2-1-1)甲1発明の粒度が63μmであることについて
ア 平成27年5月29日差出の口頭審理陳述要領書(2)の第9頁(4)の説明によれば、甲第1号証において、「CH-L8」の「粒度[mm]」の欄に「<0.063」と記載されていることは、甲第1号証の甲1クの「国際試験ふるい比較表」に記載された規格「2001 DIN ISO 3310」に基づいて、目開き63μmの篩を通過した銅粉末であることを意味しているものと認められる。

イ したがって、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」と「CH-L7」の粒度が63μmであるということは、これら銅粉末が、目開き63μmの篩を通過した銅粉末であることを意味している。そして、目開き63μmの篩を通過した銅粉末については、63μmを超えるような粒径の銅粉粒子をほとんど含まない銅粉末であるといえるが、粒径63μm以下の粒径分布、すなわち、粒径値に対する分布割合が特定されているわけではないから、体積累積粒径D50を確定することはできない。したがって、甲第1号証において、銅粉末「CH-L8」と「CH-L7」の粒度の記載によっても、これら銅粉末のD50がどのような値であるかは不明である。
なお、甲第4号証にも、上記甲4エの表に、銅粉末「Cu CH-L8」と「Cu CH-L7」の粒度が「<0.063mm」であると記載されているのみであり、D50について記載されていないので、上記と同様に、これら銅粉末のD50がどのような値であるかは不明である。

(3-2-1-2)甲第7,6号証に基づくD50の検討
銅粉末「Cu CH-L8」については、そのSEM写真と測定結果が、甲第6号証と甲第7号証に記載されているところ、甲第7号証には、D50の測定結果について記載がない。また、甲第6号証には、「Helos」と記載された欄はあるものの、D50の値は記載されていない。なお、上記「Helos」とは、平成27年5月16日付けの口頭審理陳述要領書の第10頁の「2)」によれば、甲第25号証に示されているように、ドイツのシンパテック社のレーザー回折粒子径分布測定装置のことであるから、本来、この欄に「Helos」で測定したD50が記載されるべきであるが、D50の数値は記載されていない。
したがって、仮に、甲第6、7号証が証拠として参酌できるとしても、銅粉末「Cu CH-L8」のD50の値は不明であるから、甲第1号証に記載された銅粉「CH-L8」についてもD50の値は不明である。

(3-2-1-3)甲第5,31号証に基づくD50の検討
ア 甲第5号証は、「sample:CuCHL7」についての「Test Report」であるところ、甲第5号証は、第4の2(3)(3-2)で検討したとおり、真正な書証とは認められないため、証拠として採用できないものである。甲第5号証が、仮に、真正な書証であって証拠として採用できるとしても、「Helos」と記載された欄には「X50」が「31,8μm」であると記載されている。ここで、「X50」が「D50(メディアン/中央値)」を意味することは、請求人が、平成27年5月16日付けの口頭審理陳述要領書の第10頁の「2)」において説明しており、また、上記甲26アにも記載されているように、当業者には周知の事項である。
したがって、仮に、甲第5号証が証拠として採用できたとしても、銅粉末「Cu CH-L7」のD50の値は「31.8μm」であるから、「5μm以上25μm以下」の範囲には入っていない。

イ 甲第31号証は、銅粉末「Cu CH-L7」を測定対象として、レーザー回折式粒度分布装置(HELOS)を用いて分析した結果が記載されているところ、第4の2(20)(20-2)で検討したとおり、真正な書証とは認められないため、証拠として採用できないものである。甲第31号証が、仮に、真正な書証であって証拠として採用できるとすれば、甲第31号証には、銅粉末「Cu CH-L7」のX50の値が「19.80μm」であることが記載されているから、D50は「5μm以上25μm以下」の範囲に入っている。

ウ 上記ア、イの検討によれば、甲第5号証と甲第31号証では、いずれも、同一の銅粉末「Cu CH-L7」を測定対象として、レーザー回折式粒度分布装置(HELOS)を用いて分析しているにもかかわらず、甲第5号証にはD50が「31.8μm」と記載されており、甲第31号証にはD50が「19.80μm」と記載されていて、両者で大きく相違しており、どちらの値が適正なものであるか不明であるから、仮に、甲第5号証と甲第31号証が証拠として採用できるものであったとしても、銅粉末「Cu CH-L7」のX50の値を特定することができず、したがって、D50の値は不明である。

(3-2-1-4)簡易計算式に基づく検討
参考のため、平成27年5月16日付けの口頭審理陳述要領書の5.B.(2)1)に記載された、簡易計算式を用いたD90からD50の類推方法によってD50を検討する(なお、この類推方法は、平成27年5月27日付けの口頭審理陳述要領書(2)の第10頁3?7行に記載されているように、請求人によって撤回された。)。上記簡易計算式を用いた上で、さらに、甲第1号証に記載された「粒度」が体積基準の「D90」に相当するとの請求人の主張も採用して、粒度63μmからD50を類推すると、63/90×50=35μmと計算できる。したがって、仮に、上記類推方法が採用可能であるとしても、銅粉「CH-L8」と「CH-L7」のD50はいずれも35μmと類推されるので、本件発明1の「5μm以上25μm以下」の範囲に入っていることは証明されない。

(3-2-1-5)相違点1が実質的な相違点であることのまとめ
ア 上記(3-2-1-1)で検討したとおり、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」と「CH-L7」について、これらの粒度が63μmであるということからは、体積累積粒径D50を確定することはできないため、甲第1号証の記載に基づけば、上記銅粉末のいずれについても、D50の値は不明である。

イ 上記(3-2-1-2)で検討したとおり、仮に、甲第6、7号証が証拠として採用できて、これらを参酌できるとしても、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」について、そのD50の値は不明である。

ウ 上記(3-2-1-3)で検討したとおり、仮に、甲第5、31号証が証拠として採用できて、これらを参酌できるとしても、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L7」について、そのD50の値は不明である。

エ 甲1発明は、甲第1号証に記載された銅粉末「CH-L8」と「CH-L7」に基づいて認定されたものであるから、上記ア?ウの検討を勘案すると、仮に、甲第5?7、31号証が証拠として採用できて、これらを参酌できるとしても、甲1発明においてD50は不明であるといえるので、第5?7、31号証が証拠として採用できるか否かにかかわらず、相違点1は、甲1発明と本件発明1の実質的な相違点である。

(3-2-2)相違点1の容易想到性
甲1発明において、「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50」を「5μm以上25μm以下」とすることが当業者にとって容易になし得ることであるかについて検討する。

(3-2-2-1)D50が調整可能であること
ア 甲第1号証の上記甲1イの記載によれば、電解法によって電解銅粉末を形成するにあたり、電解液の組成、電流および電解液温度を調整することによって粉末の形状および粒度を管理することができ、各種プロセスパラメータを調整することによって、粉末の見掛密度を低(CH-L)、中(CH-M)、高(CH-S)に変えることできる。

イ また、甲第4号証の上記甲4エの視認事項からも確認できるように、電解法によって電解銅粉末を形成するにあたり、見掛密度が大きくなるにしたがって、電解銅粉粒子の枝が太くなり、電解銅粉粒子のサイズが大きくなって、ブロッコリーのような形状に変化する。

ウ 上記ア及びイの事項を勘案すれば、電解銅粉作成時のプロセスパラメータを調整することにより、銅粉粒子の枝の太さや銅粉粒子のサイズを変化させることができるものと認められる。

エ そして、甲第29号証の上記甲29ア?オの記載によれば、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて、針状・繊維状粒子を測定すると、図3の粒度分布に示されるように、針状・繊維状粒子の短径が分布下限に相当し、その長径が分布上限に相当する、比較的広い分布となること、そして、粒子の形状・サイズが大きく(長く)なれば、粒度分布は全体として大きいほうに移動し、また、形状・サイズが小さく(短く)なれば、粒度分布は全体として小さい方に移動することが説明されている。

オ 甲第29号証には、樹枝状の銅粉粒子の測定について記載されていないが、樹枝状の銅粉粒子は複数の針状・繊維状粒子が複合したものと考えられるから、上記エのレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて得られる粒度分布の説明は、樹枝状の銅粉粒子の測定にも適用可能であるものと認められる。
すると、樹枝状の銅粉粒子が、上記イのように、見掛密度が大きくなるにしたがって、粒子の枝の太さやサイズが大きくなると、図3のような頻度分布で表した粒度分布は全体として大きいほうに移動することとなり、その結果、上記粒度分布を累積分布で表現した累積分布曲線が移動するから、当該累積分布曲線における累積度数50%に対応する粒子径であるD50も大きくなるといえる。また、同様の理由により、見掛密度が小さくなるにしたがって、D50は小さくなるといえる。

カ つまり、電解銅粉作成時のプロセスパラメータを調整することにより、銅粉粒子の見掛密度が大きく(または小さく)なるように変化させると、銅粉粒子の枝の太さや銅粉粒子のサイズが大きく(または小さく)なり、D50も大きく(または小さく)することができるといえるが、このことは当業者にとって技術常識であるものと認められる。

(3-2-2-2)樹枝状の電解銅粉にとって好ましいD50の値
甲第28号証の上記甲28イの記載によれば、導電性銅ペーストに用いられる導電性粉末としては、樹枝状の電解銅粉が好ましく、その平均粒子径、すなわち、体積基準によるメジアン径については、高密度充填、多接触点充填の点から、30μm以下であることが好ましく、1?10μmがより好ましいことが記載されている。
したがって、甲第28号証によれば、樹枝状の電解銅粉を導電性ペーストに使用するために、良好な導電性の点から、平均粒子径、すなわち体積基準によるメジアン径については、1?10μmがより好ましいことが記載されており、この平均粒径の値は、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項である「5μm以上25μm以下」と、5?10μm範囲で重複している。
つまり、甲第28号証には、樹枝状の電解銅粉のD50を「5μm以上25μm以下」とすることが好ましいことが記載されている。

(3-2-2-3)相違点1の容易想到性の判断
ア 上記(3-2-2-1)及び上記(3-2-2-2)の検討から、甲1発明の銅粉末を導電性ペーストに用いる場合に、良好な導電性を実現する観点から、プロセスパラメータを調整して、銅粉粒子の枝の太さやサイズを変化させることによって、体積累積粒径D50を、甲第28号証に記載されている「5μm以上25μm以下」とすること自体は、当業者にとって格別困難なことであるとはいえない。

イ しかしながら、甲1発明の銅粉末において、プロセスパラメータを調整することにより、体積累積粒径D50を変化させると、上記(3-2-2-1)イに記載したように、当該銅粉に含有される銅粉粒子の枝の太さや銅粉粒子のサイズが変化することとなる。また、請求人は、口頭審理の場で、D50を変更すると、銅粉の枝の長さが変化することを認めている(第1回口頭審理調書の請求人の「6」参照。)。
これは、言い換えれば、甲1発明の銅粉末において、「体積累積粒径D50」と、「主軸の太さa」、「長径L」及び「枝長b」とは相互に関連しているので、これらの4つの値をそれぞれ独立に設定することができないものであることを表している。

ウ そして、電解法によって得られる樹枝状の銅粉において、「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が5μm以上25μm以下」とすると同時に、「主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する」「銅粉粒子」を含有するものとすることができること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項と、相違点2に係る本件発明1の特定事項を同時に満足することについては、いずれの甲号証にも記載も示唆もされていない。

エ 以上、ア?ウの検討を勘案すると、甲1発明において、プロセスパラメータを調整することにより、「体積累積粒径D50」を「5μm以上25μm以下」とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすること自体は、当業者にとって格別困難なことではあるとはいえない。しかしながら、電解銅粉において、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることと、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが独立して実現可能であるといえない以上、D50を特定の値にするためにプロセスパラメータを調整すると、上記イで検討したとおり、甲1発明の銅粉末に含有される樹枝状の銅粉粒子の「主軸の太さa」、「長径L」及び「枝長b」が変化してしまい、これらの値を所望の値にすることができなくなるので、相違点1に係る本件発明の特定事項とすると同時に、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるとはいえない。

オ つまり、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすること自体は、当業者にとって容易になし得ることであるとしても、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすると同時に、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(3-2-3)相違点1の検討のまとめ
甲第5?7、31号証は証拠として採用できないものであるところ、これら甲号証を参酌できるか否かにかかわらず、甲1発明は、相違点1の点で本件発明1と相違している。
また、甲第28号証に記載された事項を勘案すれば、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえるものの、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすると同時に、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(3-3)相違点3の検討
最後に、相違点3について検討する。

(3-3-1)相違点3が実質的な相違点であり、当業者が容易になし得ることではないこと
ア 相違点2に係る本件発明の特定事項は、本件発明1の「銅粉」が、特定形状サイズの銅粉粒子、すなわち、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する」銅粉粒子を含有することを特定するものであるが、相違点3に係る本件発明1の特定事項は、本件発明1の「銅粉」が、当該特定形状サイズの銅粉粒子について、さらに、「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80%個数以上含有する」点を特定するものである。

イ そして、上記(3-1-5)で相違点2について検討したように、甲1発明の銅粉末は、特定形状サイズの銅粉粒子を含有しているものであるとはいえない、つまり、特定形状サイズの銅粉粒子をわずか一つでも含有しているものであるとすらいえないのであるから、甲1発明の銅粉末が、当該特定形状の銅粉粒子を「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80%個数以上含有する」といえないことは明らかである。
したがって、甲1発明は、相違点3の点で本件発明1と相違している。

ウ また、上記(3-1-6)で相違点2について検討したように、甲第1号証に記載された事項を考慮しても、甲1発明の銅粉末において、特定形状サイズの銅粉粒子が含有されるようにすることが、当業者が容易になし得ることであるといえない、つまり、特定形状サイズの銅粉粒子をわずか一つでも含有するようにすることですら、当業者が容易になし得ることであるといえないのであるから、甲1発明の銅粉末が、当該特定形状サイズの銅粉粒子を、「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80%個数以上含有する」ようにすることが、当業者が容易になし得ることであるといえないことは明らかである。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(3-3-2)相違点3の検討のまとめ
甲1発明は、相違点2の点で本件発明1と相違しているから、相違点3の点においても相違している。
また、甲1発明において、甲第1号証に記載された事項を考慮しても、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえないから、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることについても、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(4)本件発明1についての検討のまとめ
以上、上記(3-1)、(3-2)、(3-3)の検討によれば、次のことがいえる。

(4-1)無効理由1-1について
甲1発明は、甲第4?7号証を参酌しようとしても、当該甲第5?7号証は証拠として採用できないものであるから、相違点1?3の点において、本件発明1と相違している。
したがって、本件発明1は、甲第4?7号証のうち証拠として採用可能な甲第4号証を参酌しても、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
よって、無効理由1-1によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

(4-2)無効理由1-2について
本件発明1は、甲第4?7号証のうち証拠として採用可能な甲第4号証を参酌しても、甲1発明において、甲第1号証の記載に基づいて、相違点2及び相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
また、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易になし得ることであるとしても、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすると同時に、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
以上から、本件発明1に係る特許は、甲第4?7号証のうち証拠として採用可能な甲第4号証を参酌しても、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、無効理由1-2によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

(4-3)無効理由1-4について
本件発明1は、甲第4?7号証のうち証拠として採用可能な甲第4号証を参酌しても、甲1発明において、甲第1号証の記載に基づいて、相違点2及び相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
また、甲1発明において、甲第28号証の記載に基づいて、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易になし得ることであるとしても、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすると同時に、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
以上から、本件発明1に係る特許は、甲第4?7号証のうち証拠として採用可能な甲第4号証を参酌しても、甲第1号証の記載と甲第28号証の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、無効理由1-4によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

(5) 本件発明2、3についての検討
(5-1)無効理由1-1について
本件発明1の発明特定事項を有する本件発明2、3と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点1?3で相違している。
したがって、上記(4-1)の検討と同様に、本件発明2、3は、いずれも、甲第4?7号証のうち証拠として採用可能な甲第4号証を参酌しても、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
よって、無効理由1-1によって、本件発明2、3に係る特許を無効とすることはできない。

(5-2)無効理由1-2について
本件発明1の発明特定事項を有する本件発明2、3は、上記(4-2)の検討と同様に、甲第4?7号証のうち証拠として採用可能な甲第4号証を参酌しても、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、無効理由1-2によって、本件発明2、3に係る特許を無効とすることはできない。

(5-3)無効理由1-4について
本件発明1の発明特定事項を有する本件発明2、3は、上記(4-3)の検討と同様に、甲第4?7号証のうち証拠として採用可能な甲第4号証を参酌しても、甲第1号証の記載と甲第28号証の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、無効理由1-4によって、本件発明2、3に係る特許を無効とすることはできない。

(6)予備的な検討
上記(3)?(5)の検討では、甲第5?7、31号証を証拠として採用できないものであることを前提として検討しているが、仮に、甲第5?7、31号証がいずれも証拠として採用できるものとして、以下予備的に検討を行う。

(6-1)甲1発明と本件発明1は相違すること
(6-1-1)相違点2は実質的な相違点ではないこと
甲第7号証が証拠として採用できる場合には、上記(3-1-5)アで検討したように、甲1発明の銅粉末には、特定形状サイズの銅粉粒子、つまり、「一本の主軸を備えており、当該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、その主軸太さaが0.8μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さである枝長bが9.0μmであるデンドライト状を呈する」銅粉粒子が含有されていることとなる。
つまり、相違点2は、甲1発明と本件発明との実質的な相違点ではない。

(6-1-2)相違点1が実質的な相違点であること
上記(3-2-1-5)で検討したように、甲第5?7、31号証が証拠として採用できて、これらを参酌できる場合においても、甲1発明においてD50は不明である。
したがって、相違点1は、甲1発明と本件発明1の実質的な相違点である。

(6-1-3)相違点3が実質的な相違点であること
ア 甲第7号証の上記甲7ア、イ、ウの記載によれば、写真(A)に含まれる多数の銅粉粒子のうち、実際に、「主軸太さa」、「枝長b」及び「長径L」が測定されて、「主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μm」であることが確認されたのは、「対象」と矢印で示された、わずか1個の銅粉粒子のみである。

イ 上記甲7アのSEM写真(A)を見る限り、上記「対象」と矢印で示された1個の銅粉粒子以外に、「主軸から複数の枝が斜めに分岐」する構造が確認でき、しかも「太さ」が測定可能である程度に明瞭に「主軸」が確認できる銅粉粒子は、下記ウの参考写真に示すとおり、当審により丸印を付した、せいぜい3つ程度である。そして、これら3つの銅粉粒子について実際に、「主軸の太さa」や「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」を測定したときに、それぞれ、「0.3μm?5.0μm」及び「0.6μm?10.0μm」の範囲に入るかは不明であるが、仮に上記3つの銅粉粒子の全てが上記範囲に含まれており、したがって「特定形状サイズ」を有する銅粉粒子であるといえたとしても、SEM写真(A)の中に含まれる「特定形状サイズ」の銅粉粒子は高々4個程度であり、目視で概略数十個存在すると認められる全銅粉粒子の80%どころか、半分(50%)すら「特定形状サイズ」の銅粉粒子であるとはいえない

ウ 参考写真


エ 上記参考写真の中に含まれる銅粉粒子の数は、上述のとおり、目視で概略数十個であり、その中に含まれる「特定形状サイズ」の銅粉粒子は高々4個程度であるところ、銅粉末「Cu CH-L8」の他の部分を走査型電子顕微鏡で撮影したとしても、上記写真(A)と同様の割合で「特定形状サイズ」の銅粉粒子が発見されるものと推定される。

オ したがって、甲第7号証を参酌しても、銅粉末「Cu CH-L8」は、「走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察」した場合に、特定形状サイズの銅粉粒子が「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有」されているとはいえない。

カ 次に、上記甲6イの視認事項によれば、甲第6号証に掲載された、甲6ウの銅粉末「Cu CH-L8」のSEM写真を見ても、「主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈」するような「主軸」及び「枝」を備えた銅粉粒子は、わずか一個すら確認することができない。
したがって、甲第6号証を参酌しても、銅粉末「Cu CH-L8」が、「走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察」した場合に、特定形状サイズの銅粉粒子が「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有」しているとはいえないことは明らかである。

キ さらに、上記甲5ウの視認事項によれば、甲第5号証に掲載された、銅粉末「CH-L7」のSEM写真を見ても、「主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈」するような「主軸」及び「枝」を備えた銅粉粒子は、わずか一個すら確認することができない。
したがって、甲第5号証を参酌しても、銅粉末「Cu CH-L7」が、「走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察」した場合に、特定形状サイズの銅粉粒子が「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80%個数以上含有」しているとはいえないことは明らかである。

ク したがって、甲第7号証、甲第6号証、甲第5号証のいずれを参酌しても、相違点3は、本件発明1と甲1発明の実質的な相違点である。

(6-2)相違点1、3に関する容易性の判断
(6-2-1)相違点1に関する容易性の判断
ア 甲第5?7、31号証が証拠として採用できる場合においても、上記(3-2-2-1)、(3-2-2-2)の検討は何ら変更する点はないので、そのまま採用できる。したがって、この場合においても、甲1発明の銅粉末において、プロセスパラメータを調整して、銅粉粒子の主軸や枝の太さや長さを変化させることによって、体積累積粒径D50を、甲第28号証に記載されている「5μm以上25μm以下」のものとすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすること自体は、当業者にとって格別困難なことであるとはいえない。

イ しかしながら、甲1発明の銅粉末において、プロセスパラメータを調整することにより、体積累積粒径D50を変化させると、上記(3-2-2-3)イに記載したように、当該銅粉に含有される銅粉粒子の枝の太さや長さ、銅粉粒子のサイズが変化することとなる。

ウ したがって、甲1発明が、上記(6-1-1)で検討したように、特定形状サイズの銅粉粒子を含有していたとしても、プロセスパラメータを調整することによって、D50を「5μm以上25μm以下」のものとすると、上記イに記載したように、「主軸太さa」や「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さである枝長b」が変化することとなるので、その際には、甲1発明はもはや、「その主軸太さaが0.8μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さである枝長bが9.0μmである」銅粉粒子を含有しているとは直ちにはいえなくなってしまう。

エ つまり、甲1発明の銅粉末において、相違点2に係る本件発明1の特定事項を備えるものとしたままで、甲第1号証の記載に基づいて、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(6-2-2)相違点3に関する容易性の判断
ア 上記(6-1-3)で検討したとおり、本件発明1と甲1発明は、相違点3において相違している。

イ そして、甲第1号証、甲第5?7号証を含め、提出されたいずれの甲号証にも、電解法によって形成された銅粉末において、上記特定形状サイズの銅粉粒子の含有割合を増やして、「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80%個数以上含有する」ようにすること、及び、含有割合を増やして、「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有する」ようにするための具体的方法については、記載も示唆もされておらず、また、当業者にとって技術常識であるともいえない。

ウ したがって、甲1発明において、特定形状サイズの銅粉粒子の含有割合を増やすことにより、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

(6-3)本件発明1についての予備的な検討のまとめ
(6-3-1)無効理由1-1について
甲1発明は、甲第4?7号証を参酌しても、相違点1と相違点3において、本件発明1と相違している。
したがって、本件発明1は、甲第4?7号証を参酌しても、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
よって、無効理由1-1によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

(6-3-2)無効理由1-2について
本件発明1は、甲第4?7号証を参酌し、甲第1号証の記載事項を勘案したとしても、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項を備えるものとしたままで、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。また、甲1発明において相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるということはできない。
したがって、本件発明1に係る特許は、甲第4?7号証を参酌しても、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、無効理由1-2によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

(6-3-3)無効理由1-4について
甲1発明において、甲第28号証の記載に基づいて、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすること自体は、当業者にとって容易になし得ることであるとしても、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項を備えるものとしたままで、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。また、甲1発明において相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者が容易になし得ることであるということはできない。
したがって、本件発明1に係る特許は、甲第28号証の記載事項を甲第1号証に適用したとしても、当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、無効理由1-4によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

(6-4) 本件発明2、3についての予備的な検討
(6-4-1)無効理由1-1について
本件発明1の発明特定事項を有する本件発明2、3と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点1と相違点3において相違している。
したがって、上記(6-3-1)の検討と同様に、本件発明2、3は、いずれも、甲第4?7号証を参酌しても、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
よって、無効理由1-1によって、本件発明2、3に係る特許を無効とすることはできない。

(6-4-2)無効理由1-2について
本件発明1の発明特定事項を有する本件発明2、3は、上記(6-3-2)の検討と同様に、甲第4?7号証を参酌しても、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、無効理由1-2によって、本件発明2、3に係る特許を無効とすることはできない。

(6-4-3)無効理由1-4について
本件発明1の発明特定事項を有する本件発明2、3は、上記(6-3-3)の検討と同様に、甲第28号証の記載事項を甲第1号証に適用したとしても、当業者が容易に発明することができたものではない。
よって、無効理由1-4によって、本件発明2、3に係る特許を無効とすることはできない。

2 無効理由1-3について
(1) 甲第9号証に記載された発明
ア 甲第9号証の上記甲9エには、三井金属鉱業製の銅粉「MF-D2」について、その見掛密度が1.45g/cc、比表面積が0.41m^(2)/g、粒度分布が1?60μm、平均粒径が13.4μmであることが記載されている。

イ 甲第9号証に記載された、「銅粉MF-D2」は、本件無効審判の被請求人である三井金属鉱業株式会社によって製造されたものであり、被請求人が、平成26年6月17日付けの答弁書の第12頁の下から6行目において、「MF-D2」が「三井金属鉱業(株)の電解銅粉製品型番MF-D2」であると認めているので、甲第9号証に記載された「銅粉MF-D2」は電解銅粉、つまり、電解法によって製造された銅粉であり、上記甲9ウに記載された「電解法で得られた樹枝状銅粉」に該当するものと認められる。

ウ 甲第9号証の甲9エに記載された銅粉「MF-D2」が、甲9ウに記載された「電解法で得られた樹枝状銅粉」であることは、上記アに記載した銅粉「MF-D2」の見掛密度、比表面積、粒度分布、平均粒径のいずれのパラメータについても、上記甲9ウに記載された「電解法で得られた樹枝状銅粉」の、好ましいとされた上記パラメータの範囲内に入っていることからも裏付けられる。また、「樹枝状銅粉」とは、銅粉に含有される銅粉粒子の形状が樹枝状であることを意味しているものと認められる。

エ したがって、甲第9号証の上記甲9ウと上記甲9エの記載事項と、上記ア?ウの検討に基づくと、甲第9号証には、次の銅粉が記載されていると認められる。

「電解法によって得られる銅粉であって、
見掛密度が1.45g/cc、比表面積が0.41m^(2)/g、粒度分布が1?60μm、平均粒径が13.4μmである、
樹枝状の銅粉粒子を含有する樹枝状銅粉。」(以下、「甲9発明」という。)

(2) 本件発明1と甲9発明との対比
本件発明1と甲9発明とを対比する。
ア 甲9発明の「銅粉」と本件発明1の「銅粉」は、いずれも、「電解法によって得られる」点で一致している。

イ 本件発明1の「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒度D50」は、上記甲22アにも記載されているように、銅粉粒子の平均粒径を表す指標として使用されることは技術常識であるから、本件発明1と甲9発明のいずれにおいても、「平均粒径」が「5μm以上25μm以下」である点で共通している。

ウ 甲9発明の「樹枝状の銅粉粒子」について、その詳細な形状は不明である。したがって、甲9発明の「樹枝状の銅粉粒子」と本件発明1の「デンドライト状を呈する銅粉粒子」は、いずれも、樹枝状を呈する銅粉粒子、の点で共通する。

エ 以上の検討から、本件発明1と甲9発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「電解法によって得られる銅粉であって、
平均粒径が5μm以上25μm以下であって、
樹枝状を呈する銅粉粒子を含有する銅粉。」

≪相違点1≫
「銅粉」の「平均粒径」が「5μm以上25μm以下」である点について、本件発明1においては、「平均粒径」とは「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒度D50」のことであって、当該「D50」が「5μm以上25μm以下」であるのに対して、甲9発明では、どのような方法で測定された「平均粒径」が「5μm以上25μm以下」であるのか不明である点。

≪相違点2≫
本件発明1の「銅粉」は、「走査型電子顕微鏡(SEM、2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察した際」、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子」(以下、「特定形状サイズの銅粉粒子」という。)を「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有する」のに対して、甲9発明の「銅粉」は「樹枝状の銅粉粒子」を含有するものの、当該「樹枝状の銅粉粒子」が「特定形状サイズの銅粉粒子」であるか不明であり、また、「特定形状の銅粉粒子」がどの程度の割合で含有されているか不明である点。

(3)相違点についての判断
最初に相違点2について検討した後、相違点1について検討する。
(3-1)相違点2についての判断
(3-1-1)甲第8号証の記載事項。
甲第8号証に掲載された甲8ウのSEM写真は、甲8アの記載から「eckagranules」社(甲15エの記載を参照すれば、「eckagranules」とは「ECKA Granulate」の英語表記であり、ECKA社のことである。)によって撮影されたものであり、その標題を参照すれば、銅粉末「MFD2」のSEM写真であって、上記甲8ウの視認事項を参照すると、上記SEM写真の銅粉末「MFD2」は、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈」する銅粉粒子を含有しているものと認められる。
また、銅粉末「MFD2」の各種測定結果については、甲8オに記載されている。ここで、「AD」は見掛密度を表しているものと認められる。FSSSについては、その単位が「cm^(2)/g」であり、ECKA社の日本法人によって作成された甲第1号証のカタログの甲1エの表に「比表面積(Fisher)[cm^(2)/g]」と記載されていることを参照すると、フィッシャー法によって測定された比表面積を表しているものと推定される。「Helos」はドイツのシンパテック社のレーザー回折粒子径分布測定装置で測定したことを表し、X50、X90は、それぞれD50、D90を表しているものと認められる(上記1(3)(3-2)(3-2-1)の(3-2-1-2)と(3-2-1-3)アを参照のこと。)。
しかしながら、甲第8号証では、銅粉末「MFD2」に含有される銅粉粒子について、上述のとおり、「主軸」が存在するものとは認められるが、「主軸の太さa」について測定がなされておらず、その数値は不明であり、「主軸から伸びた枝」が存在するものとは認められるが、「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」について測定がなされておらず、その数値は不明である。

(3-1-2)甲第9号証に記載された「銅粉MF-D2」と甲第8号証の銅粉末「MFD2」の同一性について
甲第9号証に記載された「銅粉MF-D2」の見掛密度が1.45g/cc、比表面積が0.41m^(2)/gであるのに対して、甲第8号証で測定された銅粉末「MFD2」の見掛密度(AD)が0.54g/cm^(3)、比表面積(FSSS)が3400cm^(2)/g(=0.34m^(2)/g)であるので、両者は、見掛密度と比表面積のいずれにおいてもその数値が大きく相違している。
また、甲第9号証の「銅粉MF-D2」の平均粒径が13.4μmであるのに対して、甲第8号証の銅粉末「MFD2」のD50(X50)が18.9であり、平均粒径として必ずしもD50が使用されるとは限らないが、仮に平均粒径がD50として測定されているとすると、平均粒径についても両者でその数値が大きく相違している。
したがって、甲第9号証の「銅粉MF-D2」と甲第8号証の銅粉末「MFD2」は、見掛密度、比表面積および平均粒径のいずれについても数値が大きく相違することから、同一の銅粉末であると認めることはできない。

(3-1-3)相違点2が実質的な相違点であること
上記(3-1-1)で検討したように、甲第8号証には、銅粉末「MFD2」が、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈」する銅粉粒子を含有することが示されているから、甲第8号証が証拠として採用でき、甲第8号証の銅粉末「MFD2」と甲第9号証に記載された銅粉「MF-D2」が同一の銅粉末であれば、甲第9号証に記載された銅粉「MF-D2」も「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈」する銅粉粒子を含有しているということができる。
しかしながら、上記第4の2(6)(6?2)で検討したように、甲第8号証は、真正な書証であるといえないため、証拠として採用することができないし、上記(3-1-2)で検討したように、甲第9号証の「銅粉MF-D2」と甲第8号証の銅粉末「MFD2」は、同一の銅粉末であると認めることもできないから、甲第9号証に記載された「銅粉MF-D2」が、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈」する銅粉粒子を含有しているということはできない。
なお、仮に、甲第8号証が、証拠として採用することができ、甲第9号証の「銅粉MF-D2」と甲第8号証の銅粉末「MFD2」が、同一の銅粉末であると認めることができたとしても、甲第9号証に記載された「銅粉MF-D2」が、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈」する銅粉粒子を含有しているといえるにとどまり、「銅粉MF-D2」の「主軸の太さa」と「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」の数値は不明であるし、「特定形状サイズの銅粉粒子」を「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有する」ということもできない。
したがって、甲第8号証を証拠として採用できないものであるところ、仮に甲第8号証を証拠として採用でき、これを参酌できるとしても、相違点2は、本件発明1と甲9発明との実質的な相違点である。

(3-1-4)相違点2の容易想到性について
甲第1号証の上記甲1イの記載によれば、電解法によって電解銅粉末を形成するにあたり、電解液の組成、電流および電解液温度を調整することによって粉末の形状および粒度を管理することができ、各種プロセスパラメータを調整することによって、粉末の見掛密度を低(CH-L)、中(CH-M)、高(CH-S)に変えることできる。つまり、電解法によって銅粉を形成するにあたり、プロセスパラメータを調整すると見掛密度を変えることができることが示されているけれども、甲第1号証には、電解法によって形成される銅粉末に含有される銅粉粒子を、上記特定形状サイズの銅粉粒子とすること、及び、上記特定形状サイズの銅粉粒子とするための具体的な方法については何ら記載されていないため、甲第1号証の記載事項を参照したとしても、何の契機もなしに、甲9発明の銅粉に上記特定形状の銅粉粒子を含有させることが容易になし得ることであるということはできない。
また、甲9発明の銅粉末において、特定形状サイズの銅粉粒子を含有するようにすることが、当業者にとって容易になし得ることであるといえないということは、わずか1個の特定形状サイズの銅粉粒子を含有するようにすることすら、当業者が容易になし得ることであるといえないということであるから、甲1発明の銅粉末が、当該特定形状サイズの銅粉粒子を、「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80%個数以上含有する」ようにすることが、当業者が容易になし得ることであるといえないことは明らかである。
したがって、甲9発明の銅粉末において、甲第1号証の記載事項を勘案したとしても、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(3-2)相違点1についての判断
(3-2-1)相違点1が実質的な相違点でないこと
ア 甲第9号証には、銅粉「MF-D2」の平均粒径が13.4μmであることが記載されているが、上記平均粒径がどのように測定によって得られたものであるかについては記載されていない。

イ 甲第22号証に、粒子径分布には体積基準と個数基準があること、また、粒子径分布を頻度分布として表示した場合に、出現比率が最も大きい粒子径チャンネルまたは分布の極大値で表すモード径と、粒子径分布を累積分布として表示した場合に、それより大きい側と小さい側が等量であることを表すd50といわれるメジアン径(メディアン径)があることが記載されているとおり、平均粒径には複数の表現方法があるため、甲第9号証に記載された「平均粒径」がどの方法で測定されたものか不明である。

ウ そこで、上記(3-1-2)で検討したように、甲第8号証には、銅粉末「MFD2」のD50(X50)が18.9であることが示されているから、甲第8号証が証拠として採用でき、甲第8号証の銅粉末「MFD2」と甲第9号証に記載された「銅粉MF-D2」が同一の銅粉末であれば、甲第9号証に記載された「銅粉MF-D2」もD50(X50)が18.9μm、すなわち、「5μm以上25μm以下」であるということができる。
しかれども、上記第4の2(6)(6?2)で検討したように、甲第8号証は、真正な書証であるといえないため、証拠として採用することができないし、上記(3-1-2)で検討したように、甲第9号証の「銅粉MF-D2」と甲第8号証の銅粉末「MFD2」は、同一の銅粉末であると認めることもできないから、甲第9号証に記載された「銅粉MF-D2」のD50(X50)が18.9μm、すなわち、「5μm以上25μm以下」であるということはできない。

エ しかしながら、銅粉粒子の平均粒径をD50を用いて表すことは、甲28イにも記載されているように、当業者によって普通に行われていることであるから、甲第9号証に記載された平均粒径がD50を表すものと解釈しても、特に不合理な点はない。また、仮に、甲第9号証に記載された平均粒径がD50ではないとしても、D50は平均粒径を表すのであるから、D50が13.4μmと大きく異なることはないと考えられるので、D50は実質的に「5μm以上25μm以下」の範囲に含まれているものと推定される。

オ したがって、相違点1は、本件発明1と甲9発明との実質的な相違点ではない。

(4)本件発明1についての検討のまとめ
以上の検討から、甲第8号証を証拠として採用できないものであるところ、仮に甲第8号証を証拠として採用でき、これを参酌できるとしても、甲9発明は、相違点2の点で本件発明1と相違している。
また、甲9発明の銅粉末において、甲第1号証の記載事項を勘案したとしても、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(5)本件発明2、3について
本件発明1の発明特定事項を有する本件発明2、3と甲9発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点2で相違している。
そして、本件発明2、3は、上記(3)、(4)で検討した理由と同じ理由により、甲9発明と甲第1号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)無効理由1-3についてのまとめ
本件発明1?3は、甲第8号証を参酌するか否かにかかわらず、甲9発明と甲第1号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、無効理由1-3によって、本件発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

3 無効理由2-1について
(1)請求人の主張
請求人が主張する無効理由2-1は、本願の図2に撮影されたデンドライト状銅粉は、その全景が撮影されておらず、または、末端まで撮影されておらず、本件発明1の特定のデンドライト形状を備えるか確認できないので、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではなく、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである、というものである。

(2)当審の判断
(2-1)図2の銅粉粒子について
図2は、訂正明細書の段落【0017】の記載によれば、実施例1で得られた電解銅粉の一部を、SEMによって12000倍の倍率で観察したときのSEM写真である。
そして、図2を見ると、略左右方向に伸びる主軸を有し、当該主軸から複数の枝が斜めに分岐している一つの銅粉粒子を見て取ることができる。
上記銅粉粒子は、図2のSEM写真の右側では先端が確認できるが、図2のSEM写真の左端で終端しているのか、さらに当該左端を超えて左方へ伸びている部分(以下「延長部」という。)を有しているか不明であり、その全体像については確認することができない。

しかしながら、訂正明細書の段落【0020】に、「(デンドライト状銅粉粒子)
本銅粉において『デンドライト状銅粉粒子』とは、図1に示されるように、電子顕微鏡(500?20、000倍)で観察した際に、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長した形状を呈する銅粉粒子を意味し、幅広の葉が集まって松ぼっくり状を呈するものや、多数の針状部が放射状に伸長してなる形状のものは含まない。」と記載されているように、本件発明の銅粉を電子顕微鏡で観察すると、図1のモデル図に示されるように、一本の主軸を備え、当該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈するものであると説明されているところ、図2に記載の銅粉粒子も、少なくとも当該図2に写っている範囲内において、図1のモデル図と同様に、一本の主軸を備え、当該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長した形状を呈する様子を確認することができるので、図1及びその記載と、図2に撮影された銅粉粒子の様子が互いに整合しており、特に矛盾はない。
したがって、図2の銅粉粒子は、当該粒子の左側の延長部が存在しているか否か不明であるけれども、図1及び段落【0020】の上記記載を参酌すると、図2の銅粉粒子の全体を見たときに、図1のモデル図と同様に、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長した形状を呈するものであると認められる。

(2-2)実施例の銅粉粒子について
訂正明細書の段落【0041】?【0047】には実施例1?5について記載されており、例えば、段落【0042】には、実施例1として得られた電解銅粉を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できたと記載されている。他の実施例2?4についても同様である。
また、訂正明細書の段落【0052】の【表1】には、実施例1?5の電解銅粉について測定した、主軸の太さa、枝長b、枝本数/長径L等の値が記載されているので、実施例1?5の電解銅粉は、実際に、主軸の太さa、枝長b、長径Lが測定可能なものであることが示唆されている。つまり、実施例1?5の電解銅粉は、太さaと長径Lが測定可能な主軸を備え、主軸から伸びた最も長い枝の長さbが測定可能な枝を備えた銅粉粒子を含有するといえる。
したがって、実施例1?5の電解銅粉は、いずれも、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈する銅粉粒子を含有するものであると認められる。

(3)まとめ
以上の検討から、図2のSEM写真上の銅粉粒子は、その全体像を確認することができないけれども、図1及び訂正明細書の段落【0020】の記載も参酌すれば、図2の銅粉粒子の全体は、図1のモデル図と同様に、一本の主軸を備え、当該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長した形状を呈するものと認められる。
また、実施例1?5の電解銅粉に含有される銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長した形状を呈するものであると認められる。
したがって、本願の図2に記載された銅粉粒子もしくは実施例1?5として記載された銅粉に含有される銅粉粒子は、本件発明1で特定される、特定のデンドライト形状を備えるものと認められるので、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に違反して特許されたものではない。
よって、無効理由2-1によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

4 無効理由2-2について
(1)請求人の主張
請求人が主張する無効理由2-2は、「80%以上」が仮に個数基準であったとしても、この個数を区別する手段がなく、80個数%以上と、80個数%以下を比較(当審注:「比較」は「区別」の意味で用いられていることが明らかであるから、4における検討においては、「比較」は「区別」を意味するものとして、もしくは、「区別」として記載する。)するすべがないから、発明の詳細な説明には当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである、というものである。

(2)当審の判断
本件発明1は、「銅粉」が、「走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察した際、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子が全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有する」ことを特定している。
そこで、実際に、観察倍率2000倍の走査型電子顕微鏡で銅粉を観察して、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察することを想定すると、観察する500個の銅粉粒子の各々について、SEM写真でその形状を観察するとともに、主軸の太さと枝の長さを測定することによって、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子」であるか否か、すなわち特定形状サイズの銅粉粒子であるか否かを判断することは可能であり、その結果、観察した500個中に含まれる特定形状サイズの銅粉粒子の個数を求めることができる。そして、特定形状サイズの銅粉粒子が400個以上であれば上記割合が「80個数%以上」となるので、上記銅粉は、本件発明1で特定される条件に該当することとなり、特定形状サイズの銅粉粒子が399個以下であれば上記割合が「80個数%未満」となるので、上記銅粉は、本件発明1で特定される条件に該当しないこととなる。
してみると、銅粉を電子顕微鏡で観察することによって、特定形状サイズの銅粉粒子が「80個数%以上」含有されているか、もしくは、「80個数%未満」しか含有されていないかについて、明確に区別がつけられることは明らかである。

(3)まとめ
以上の検討から、「80個数%以上と、80個数%以下を比較するすべ」があることは明らかであるから、発明の詳細な説明には当業者が本件特許発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、無効理由2-2によって、本件発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

5 無効理由2-3について
(1)請求人の主張
請求人が主張する無効理由2-3は、「特定の銅粉形状」及び「含有率80(個数)%以上」の本件発明1-3を意図して作成、分離・選択することができないから、発明の詳細な説明には当業者が本件発明1-3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである、というものである。

(2)当審の判断
訂正明細書には、実施例1?5の銅粉の製造方法について、次のように記載されている。
「【0041】
<実施例1>
2.5m×1.1m×1.5mの大きさ(約4m^(3))の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)9枚の陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離5cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を30L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液のCu濃度を5g/L、硫酸(H_(2)SO_(4))濃度を100g/L、電流密度を100A/m^(2)に調整して1時間電解を実施した。
電解中、電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、電極間の電解液の銅イオン濃度が常に薄く維持されていた。
【0042】
そして、陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水3Lに分散させ、工業用ゼラチン(:新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて10分間攪拌した後、ブフナー漏斗で濾過し、洗浄後、減圧状態(1×10^(-3)Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉を得た。
こうして得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0043】
<実施例2>
電解時間を40分、循環液量を20L/分とした以外は、実施例1と同様にして電解銅粉を得た。
得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0044】
<実施例3>
電解時間を40分、電解液のCu濃度を1g/L、循環液量を10L/分とした以外は、実施例1と同様にして電解銅粉を得た。
得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0045】
<実施例4>
5.0m×1.1m×1.5mの大きさ(約8m^(3))の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)19枚の陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離10cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を40L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液のCu濃度を5g/L、硫酸(H_(2)SO_(4))濃度を200g/L、電流密度を200A/m^(2)に調整して1時間電解を実施した。
電解中、電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、電極間の電解液の銅イオン濃度が常に薄く維持されていた。
【0046】
陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水6Lに分散させ、工業用ゼラチン(:新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液2Lを加えて10分間攪拌した後、ブフナー漏斗で濾過し、洗浄後、減圧状態(1×10^(-3)Pa)で80℃、6時間乾燥させて電解銅粉を得た。
得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0047】
<実施例5>
Cu濃度を1g/L、電解時間を30分、循環液量を20L/分とした以外は、実施例4と同様にして電解銅粉を得た。
得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。」

また、実施例1?5の電解銅粉の各種の測定結果については、表1に次のとおり記載されている。
「【0052】
【表1】


訂正明細書の上記記載によれば、上記実施例1?5のそれぞれについて、電解銅粉の製造方法が明確に記載されており、得られた電解銅粉を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察すると、いずれの実施例においても、少なくとも90%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できたと記載されている。
また、表1を参照すると、実施例1?5のそれぞれについて、D50、主軸の太さa、枝長b、枝本数/長径L、酸素濃度が記載されており、いずれの実施例においても、上記各パラメータが、本件特許1?3に記載された範囲に入っていることが確認できる。
つまり、上記実施例1?5の製造方法によって得られた電解銅粉は、分離・選択等の追加の処理をしなくても、そのままで、本件特許1?3の特定事項の特徴を有するものであるといえる。

(3)まとめ
以上の検討から、発明の詳細な説明には当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、無効理由2-3によって、本件発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

6 無効理由2-4について
(1)請求人の主張
請求人が主張する無効理由2-4は、1枚のSEM画像では、主軸から四方に枝分かれする枝本数(特に主軸の裏側の本数)を確認することは不可能であるから、発明の詳細な説明には当業者が本件発明3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである、というものである。

(2)当審の判断
訂正明細書には、銅粉粒子の観察について次の記載がある。
「【0015】
本発明は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察した際、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子を主として含有するデンドライト状銅粉を提案する。」
「【0037】
<粒子形状の観察>
走査型電子顕微鏡(2,000倍)にて、任意の100視野において、それぞれ500個の粒子の形状を観察し、主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定し、その平均値を表1に示した。」

訂正明細書の上記の記載から、本件発明を特徴づける、主軸の太さaや、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbや、長径Lや、枝本数は、走査型電子顕微鏡(SEM)で銅粉粒子を撮影して得られたSEM写真から求めるられるものと認められる。
そして、走査型電子顕微鏡で銅粉粒子を観察する際に、各々の銅粉粒子は様々な方向を向いているから、主軸や枝を、当該主軸が伸びる方向と垂直な方向から、もしくは、当該枝が伸びる方向と垂直な方向から観察できるとは限らないので、SEM写真から測定された主軸の太さaや、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbや、長径Lや枝本数は正確な値ではなく、あくまで、見掛けの値を表しているものであるといえるし、例えば、枝が主軸の後方に隠れている場合は、最も長い枝の長さbや何本かの枝の本数が測定されないこともあり得る。
しかしながら、訂正明細書には、主軸の太さaや、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbや、長径Lや枝本数を測定するにあたり、銅粉粒子の裏側まで含めた、正確に測定した真の値を測定するとは一切記載されておらず、単に、SEM写真から求めることが記載されているのみである。
したがって、本件発明3において特定されている、主軸の太さaや、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbや、長径Lや、枝本数は、1枚のSEM写真上の銅粉粒子を観察し測定することによって求められる、見掛けの太さや長さや本数であると考えるのが相当である。
そして、このように、SEM写真から見掛けの太さや長さや本数を測定することによって、主軸の太さaや、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbや、長径Lや、枝本数を決定することは、当業者にとって何ら困難なことではない。

なお、本件発明3において特定される主軸の太さaや、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbや、長径Lや、枝本数が、SEM写真から得られる見掛けの値であるとしても、訂正明細書の段落【0053】に、「上記実施例とこれまで行った試験結果を総合的に考えると、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、且つ主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子であれば、優れた導通性を得るのに必要十分にデンドライトが成長しており、優れた導通性を得ることができることが分かった。」と記載されているように、本件発明3の特徴を有する実施例1?5は、優れた導電性を得るという効果を有しているのであるから、被請求人が、平成27年5月16日付けの口頭審理陳述要領書の5.A.(3)で主張しているように、長さbの特定には技術的な意義がない、ということはできない。

(3)まとめ
以上の検討から、1枚のSEM画像では、主軸から四方に枝分かれする枝本数(特に主軸の裏側の本数)を確認することは不可能であるとしても、本件発明3を特定する、主軸の太さaや、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbや、長径Lや、枝本数は、SEM写真から測定できる見掛けの値を採用しているものと考えることが相当であるので、本件発明3は訂正明細書の記載に基づいて実施可能であるといえる。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、無効理由2-4によって、本件発明4に係る特許を無効とすることはできない。

7 無効理由2-5について
(1)請求人の主張
請求人が主張する無効理由2-5は、デンドライト状電解銅粉は、同一製法で作成したとしても同一形状になるとは限らず、即ち主軸の太さ、枝の長さ、枝の本数を制御することは到底できず、それを制御する特別な製法を明細書に認めることはできないから、発明の詳細な説明には当業者が本件特許発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである、というものである。

(2)当審の判断
上記5(2)で摘記した訂正明細書の段落【0041】?【0047】に記載されているとおり、実施例1?5の電解銅粉の製法を採用することによって、表1に記載のように、本件発明1?3の特定事項である、主軸の太さaや、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbや、枝本数/長径Lの特徴を有する電解銅粉を製造することができるものと認められる。このことは、実施例1?5として記載された特定の製造方法により、本件発明1?3に係る電解銅粉が製造可能であることを示している。

(3)まとめ
以上の検討から、訂正明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、無効理由2-5によって、本件発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

8 無効理由2-6について
(1)請求人の主張
請求人が主張する無効理由2-6は、銅粉のSEM画像からは、幹の裏側にある最も長い枝の長さを測定することはできず、また、枝の長さが測定できる場合であっても、奥行きを無視した見掛けの長さが測定されるに過ぎないので、「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」を測定することはできないから、そのような「長さb」を特定した請求項1に係る発明は、当業者であっても実施できないものである。したがって、発明の詳細な説明には当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである、というものである。

(2)当審の判断
上記6で無効理由2-4について検討したように、本件発明3において、主軸の太さaや、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbや、長径Lや、枝本数は、SEM写真から測定できる見掛けの値を採用していると考えることが相当である。
したがって、本件発明1において、「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」を測定するとは、奥行きを無視した見掛けの長さが一番長い枝の長さをSEM写真から測定することであるといえるから、そのような「長さb」を特定する本件発明1は、当業者であれば容易に実施可能なものであるといえる。

(3)まとめ
したがって、訂正明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、無効理由2-6によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

9 無効理由2-7について
(1)請求人の主張
請求人が主張する無効理由2-7は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察した際、撮影する方向によって銅粉は異なる形状として観察されるので、同一の銅粉であっても、請求項1で特定される電解銅粉が「80個数%以上を満たす」ことも、「80個数%以上を満たさない」ことも起こり得るから、特許を受けようとする発明が明確であるとは言えず、また、当業者であっても、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである、というものである。

(2)当審の判断
電解銅粉に含まれる一つの銅粉粒子を走査型電子顕微鏡で観察する場合、走査型電子顕微鏡における銅粉粒子の載置状態や、銅粉粒子をどの方向から撮影するか、すなわち、撮影方向によって、当該銅粉粒子の見掛けの主軸の太さa(以下「見掛け太さa」という。)や、見掛けの主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(以下「見掛け長さb」という。)や、見掛けの長径L(以下「見掛け長径L」という。)や、見掛けの枝本数(以下「見掛け本数」という。)が変化することは明らかである。

しかしながら、走査型電子顕微鏡で銅粉粒子を複数回観察し、例えば、その最も長い枝の長さbを測定する場合、走査型電子顕微鏡における銅粉粒子の載置状態や撮影方向が変化すると、一つの銅粉粒子の見掛け長さbが変化するだけではなく、その他の多数の銅粉粒子においても同時に見掛け長さbが変化する。
このような見掛け長さbの変化は、ある銅粉粒子では見掛け長さbが短くなる変化として観察され、他の銅粉粒子では見掛け長さbが長くなる変化として観察される。そうすると、ある観察視野では、本件発明1で特定された「0.6μm?10.0μm」の範囲内のものと判定されたいくつかの粒子が、別の観察視野では、上記範囲内でないものと判定されると同時に、上記ある観察視野では、上記範囲内ではないとして判定された他のいくつかの粒子が、上記別の観察視野では、上記範囲内のものと判定されるので、多数の銅粉粒子の全体としては、上記範囲内に含まれる銅粉粒子の個数の増減の変化が打ち消し合って、常にほぼ一定の割合になるものと考えられる。
また、長さb以外に、主軸の太さaや、長径Lや、枝本数を観察する場合についても同様である。

以上の検討から、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて一つの銅粉粒子を観察する場合には、撮影する方向によって上記銅粉粒子は異なる形状として観察されるけれども、多数の銅粉粒子を観察する場合には、たとえ銅粉粒子の載置状態や撮影する方向が変わったとしても、必ずしも特定形状サイズの電解銅粉が「80個数%以上を満たす」割合が変化するということはできず、上記割合はほぼ変化しないものと認められる。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許に係る訂正特許請求の範囲の請求項1について、特許を受けようとする発明は明確でないとはいえず、また、訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないともいえない。
よって、無効理由2-7によって、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

10 当審が通知した無効理由について
(1)当審から通知した無効理由1.(サポート要件)について
ア 本件発明の課題は、訂正明細書の段落【0014】に記載されているように、「優れた導通性を得るのに適したデンドライト成長を呈する銅粉粒子を含有し、導通性がより一層優れた新たなデンドライト状銅粉を提供せんとする」ことである。

イ 上記本件発明の課題を解決することができる、本件発明の実施形態について、訂正明細書には次の記載がある。
「【0019】
本実施形態に係る銅粉(「本銅粉」と称する)は、デンドライト状銅粉粒子(「本銅粉粒子」と称する)を含有する銅粉である。
【0020】
(デンドライト状銅粉粒子)
本銅粉において「デンドライト状銅粉粒子」とは、図1に示されるように、電子顕微鏡(500?20、000倍)で観察した際に、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長した形状を呈する銅粉粒子を意味し、幅広の葉が集まって松ぼっくり状を呈するものや、多数の針状部が放射状に伸長してなる形状のものは含まない。
【0021】
中でも、本銅粉粒子を電子顕微鏡(500?20,000倍)で観察した際、次のような所定の特徴を有するデンドライト状を呈するのが好ましい。
・主軸の太さaは0.3μm?5.0μmであることが重要であり、中でも0.4μm以上或いは4.5μm以下、中でも特に特に0.5μm以上或いは4.0μm以下であるのがさらに好ましい。デンドライトにおける主軸の太さaが0.3μm以下では、主軸がしっかりとしていないために枝が成長し難い一方、5.0μmよりも太くなると、粒子が凝集し易くなり、松ぼっくり状になりやすくなってしまう。
・主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」と称する)は、デンドライトの成長度合いを示しており、0.6μm?10.0μmであることが重要であり、中でも0.7μm以上或いは9.0μm以下、その中でも0.8μm以上或いは8.0μm以下であるのがさらに好ましい。枝長bが0.6μm未満では、デンドライトが十分に成長しているとは言えない。一方、枝長bが10.0μmを超えると、銅粉の流動性が低下して取り扱いが難しくなるようになる。
・主軸の長径Lに対する枝の本数(枝本数/長径L)は、デンドライトの枝の多さを示しており、0.5本/μm?4.0本/μmであるのが好ましく、中でも0.6本/μm以上或いは3.5本/μm以下、その中でも特に0.8本/μm以上或いは3.0本/μm以下であるのがさらに好ましい。枝本数/長径Lが0.5本/μm以上であれば、枝の数は十分に多く、接点を十分に確保できる一方、枝本数/長径Lが4.0本/μm以下であれば、枝の数が多過ぎて銅粉の流動性が劣るようになることを防ぐことができる。
【0022】
但し、電子顕微鏡(500?20,000倍)で観察した際、多くが上記の如きデンドライト状粒子で占められていれば、それ以外の形状の粒子が混じっていても、上記の如きデンドライト状粒子のみからなる銅粉と同様の効果を得ることができる。よって、かかる観点から、本銅粉は、電子顕微鏡(500?20,000倍)で観察した際、上記の如きデンドライト状の銅粉粒子が全銅粉粒子のうちの80個数%以上、好ましくは90個数%以上を占めていれば、上記の如きデンドライト状とは認められない非デンドライト状の銅粉粒子が含まれていてもよい。」

上記段落【0022】の下線部を参照すれば、上記アに記載した課題を解決するためには、銅粉が特定のデンドライト状粒子で占められている必要があり、具体的には全銅粉粒子のうちの80個数%以上とすることが記載されている。

ウ 一方、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1は次のように記載されていた。
「【請求項1】
電解法によって得られる銅粉であって、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察した際、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子が全銅粉粒子のうちの80%以上含有するデンドライト状銅粉。」

エ 上記ウに記載した本件訂正前の請求項1においては、走査型電子顕微鏡を用いてどのような銅粉粒子を何個観察するか特定されていなかったため、「一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子」、すなわち「特定形状サイズの銅粉粒子」を一つ探し出し、当該一つの「特定形状サイズの銅粉粒子」が含まれる特定の視野において、当該一つの「特定形状サイズの銅粉粒子」を「銅粉粒子」として観察する場合が含まれており、また、「全銅粉粒子」についても何をもって全ての銅粉粒子というかについて特定されていなかったため、「全銅粉粒子」が上記探し出した一つの特定形状サイズの銅粉粒子である場合も含まれていた。
そのため、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、銅粉中に特定形状サイズの銅粉粒子がただ一つのみ含有される場合を含んでおり、この場合、銅粉の多くが特定形状サイズの銅粉粒子で占められているものであるとはいえないから、本件訂正前の請求項1に係る発明は、必ずしも、上記アに記載した、「導通性がより一層優れた新たなデンドライト状銅粉を提供」するという課題を解決することができるものではなかった。

オ しかしながら、本件訂正によって、特許請求の範囲の請求項1は次のように訂正された。
「【請求項1】
電解法によって得られる銅粉であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が5μm以上25μm以下であって、
走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察した際、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子が全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80%個数以上含有するデンドライト状銅粉。」

カ 上記オに記載した本件訂正後の請求項1においては、走査型電子顕微鏡を用いた銅粉粒子の観察が、「観察倍率2,000倍」で、「任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察」することにより行われ、「全銅粉粒子」とは「前記500個の銅粉粒子」であるので、本件訂正後の請求項1に係る発明の銅粉は、多数の特定形状サイズの銅粉粒子で占められることが明らかになった。よって、本件訂正後の請求項1に係る発明の銅粉は、上記アに記載した、「導通性がより一層優れた新たなデンドライト状銅粉を提供」するという課題を解決することができるものである。

キ 以上のとおり、本件発明1は、上記アに記載した課題を解決できるものである。
よって、当審から通知した無効理由(1)によって、本件発明1を無効とすることはできない。

(2)当審から通知した無効理由2.(発明の明確性)について
ア 本件訂正前の請求項1に記載された「全銅粉粒子」は、「全」が何を意味するか不明であると無効理由通知において指摘された。
しかしながら、本件訂正によって、「全銅粉粒子」を「全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子」と訂正したので、本件訂正後の請求項1に記載された「全銅粉粒子」の「全」とは、「走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて」「観察」する「500個の銅粉粒子」の全てであることが明らかになったから、上記指摘の点は不明瞭とはいえない。

イ 図1のモデル図によれば、「銅粉粒子」の「主軸」は、上方が細く尖っており、下方に行くほど太くなっていることが見て取れ、また、図2のSEM写真においても、右方ほど細く、左方ほど太くなっていることが見て取れる。したがって、同一の銅粉粒子であっても、測定する箇所が違えば主軸の太さは異なる値となるから、本件訂正前の請求項1に記載された「主軸の太さ」を一義的に決めることができないため、当該請求項1はその記載が不明瞭であると無効理由通知において指摘された。
しかしながら、図1のモデル図には、主軸の最も太い箇所を指して「主軸太さa」と記載されているし、また、平成27年8月27日付けの審判事件意見書の第3頁の(イ)の主張のとおり、太い箇所と細い箇所がある主軸について、その太さを測定するにあたり、最も太い箇所を測定することは技術常識的に妥当なことと理解できることである。
したがって、本件訂正後の請求項1に記載された「主軸の太さ」とは、「銅粉粒子」の「主軸の最も太い箇所の幅」を意味することが明らかであるから、上記指摘の点は不明瞭とはいえない。

ウ 本件訂正前の請求項1に記載された「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」とは、「銅粉粒子」の主軸から分岐する複数の枝のうち、実際に最も長い枝を選択し、当該最も長い枝について、枝の伸びる方向に沿って測定された長さを表すのか、走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影された1枚のSEM写真で確認できる、見かけ上、最も長く見える枝の長さを表すのか不明であると無効理由通知において指摘された。
しかしながら、本件訂正後の請求項1には「走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察した際」と記載されていることから、「主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb」とは、走査型電子顕微鏡で撮影されたSEM写真で確認できる長さであると考えるのが合理的であるので、平成27年8月27日付けの審判事件意見書の第3頁の(ウ)の主張のとおり、SEM写真で確認できる、見かけ上、最も長く見える枝の長さであることが明らかであるから、上記指摘の点は不明瞭とはいえない。

エ 本件訂正前の請求項3に記載された「軸の長径Lに対する枝の分岐本数(枝本数/長径L)」における「分岐本数」とは、「銅粉粒子」が有する三次元に伸びた複数の枝全ての本数を表すのか、1枚のSEM写真で確認できる見かけ上の「銅粉粒子」の枝全ての本数を表すのか不明であると無効理由通知において指摘された。
しかしながら、本件訂正後の請求項1には「走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察した際」と記載されていることから、「分岐本数」とは、走査型電子顕微鏡で撮影されたSEM写真で確認できる枝の本数であると考えるのが合理的であるので、平成27年8月27日付けの審判事件意見書の第4頁の(エ)の主張のとおり、SEM写真で確認できる見掛け上の枝の本数であることが明らかであるから、上記指摘の点は不明瞭とはいえない。

オ 以上のとおり、上記ア?エのいずれの点においても、特許請求の範囲の請求項1、3の記載が不明瞭であるとはいえない。
よって、当審から通知した無効理由2.によって、本件発明1、3を無効とすることはできない。

第7 まとめ
以上のとおり、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法、並びに当審が通知した無効理由によっては、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
デンドライト状銅粉
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストなどの材料として好適に用いることができる銅粉、特にデンドライト状を呈する銅粉粒子を含有する銅粉(「デンドライト状銅粉」と称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストは、樹脂系バインダと溶媒からなるビヒクル中に導電フィラーを分散させた流動性組成物であり、電気回路の形成や、セラミックコンデンサの外部電極の形成などに広く用いられている。
【0003】
この種の導電性ペーストには、樹脂の硬化によって導電性フィラーが圧着されて導通が確保される樹脂硬化型と、焼成によって有機成分が揮発して導電性フィラーが焼結して導通が確保される焼成型とがある。
【0004】
前者の樹脂硬化型導電性ペーストは、一般的に、金属粉末からなる導電フィラーと、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂からなる有機バインダとを含んだペースト状組成物であって、熱を加えることによって熱硬化型樹脂が導電フィラーとともに硬化収縮して、樹脂を介して導電フィラー同士が圧着され接触状態となり、導通性が確保されるものである。この樹脂硬化型導電性ペーストは100℃から精々200℃までの比較的低温域で処理可能であり、熱ダメージが少ないため、プリント配線基板や熱に弱い樹脂基板などに主に使用されている。
【0005】
他方、後者の焼成型導電性ペーストは、一般に導電フィラー(金属粉末)とガラスフリットとを有機ビヒクル中に分散させてなるペースト状組成物であり、500?900℃にて焼成することにより、有機ビヒクルが揮発し、さらに導電フィラーが焼結することによって導通性が確保されるものである。この際、ガラスフリットは、この導電膜を基板に接着させる作用を有し、有機ビヒクルは、金属粉末およびガラスフリットを印刷可能にするための有機液体媒体として作用する。
焼成型導電性ペーストは、焼成温度が高いため、プリント配線基板や樹脂材料には使用できないが、焼結して金属が一体化することから低抵抗化を実現することができ、例えば積層セラミックコンデンサの外部電極などに使用されている。
【0006】
樹脂硬化型導電性ペースト及び高温焼成型導電性ペーストのいずれにおいても、導電フィラーとして、従来は、銀粉が多用されてきたが、銅粉を用いた方が安価である上、マイグレーションが生じ難く、耐ハンダ性にも優れているため、銅粉を用いた導電性ペーストが汎用化されつつある。
【0007】
ところで、電解法によって得られる電解銅粉粒子は、デンドライト状を呈することが知られている。銅粉粒子がデンドライト状を呈していれば、球状粒子などに比べて、粒子同士の接点の数が多くなるため、導電性ペーストの導電材として用いると、導電材の量を少なくしても導電特性を高めることができる。よって、例えば半導体デバイスの製造において配線接続孔内などを導電性ペーストで埋め込む場合などでは、電気信号を伝達することができる導通がとれれば足りるため、より少ない量の導電材料でも導通がとれるデンドライト状銅粉粒子は特に有効であることが期待される。
【0008】
このようなデンドライト状銅粉に関しては、例えば特許文献1において、半田付け可能な導電性塗料用銅粉として、粒子形状の樹枝状銅粉を解砕してえられた棒状であって、吸油量(JIS K5101)が20ml/100g以下、最大粒径が44μm以下でかつその平均粒径が10μm以下、水素還元減量が0.5%以下であることを特徴とする銅粉が開示されている。
【0009】
特許文献2には、平均粒径20?35μm、嵩密度0.5?0.8g/cm^(3)の樹枝状電解銅粉に油脂を添加、混合し、該電解銅粉表面に油脂を被覆した後、衝突板方式ジェットミルによって粉砕、微粉化することを特徴とする微小銅粉の製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献3及び特許文献4には、ヒートパイプ構成原料として、デンドライト状を呈する電解銅粉粒子が開示されている。
【0011】
特許文献5には、電解銅粉の樹枝を必要以上に発達させることなく、従来の電解銅粉よりも成形性が向上した高い強度に成形できる電解銅粉を得るために、電解液に電流を流すことによって電解銅粉を析出させる電解銅粉の製造方法において、前記電解液が硫酸銅水溶液中にタングステン酸塩、モリブデン酸塩及び硫黄含有有機化合物から選択される一種又は二種以上を添加する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平06-158103号公報
【特許文献2】特開2000-80408号公報
【特許文献3】特開2008-122030号公報
【特許文献4】特開2009-047383号公報
【特許文献5】特開2011-58027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献5では、電解銅粉の樹枝を発達させてデンドライトをさらに成長させると、電解銅粉同士が必要以上に絡み合い、凝集が生じ易くなるほか、流動性が低下して扱い難くなるという問題点が指摘されている。しかし、電解銅粉の樹枝を発達させてデンドライトをさらに成長させると、粒子同士の接点の数がさらに多くなり、導電特性をさらに高められることが期待できる。
【0014】
そこで本発明は、優れた導通性を得るのに適したデンドライト成長を呈する銅粉粒子を含有し、導通性がより一層優れた新たなデンドライト状銅粉を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて銅粉粒子を観察した際、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子を主として含有するデンドライト状銅粉を提案する。
【発明の効果】
【0016】
本発明が提案するデンドライト状銅粉は、従来知られていたデンドライト状銅粉とは異なる特徴を有するデンドライト状を呈しており、そのデンドライト状は優れた導電性を得るのに適しているため、従来品に比べてより一層優れた導通性を得ることができる。よって、本発明が提案するデンドライト状銅粉は、導電性ペーストなどの材料、特に半導体デバイスを製造する際に配線接続孔内などに埋め込む導電性ペーストなどの材料として特に有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のデンドライト状銅粉を構成する銅粉粒子の粒子形状のモデル図である。
【図2】実施例1で得られた電解銅粉から任意に選択した一部の粉末を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて12、000倍の倍率で観察した際のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳述するが、本発明の範囲が以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態に係る銅粉(「本銅粉」と称する)は、デンドライト状銅粉粒子(「本銅粉粒子」と称する)を含有する銅粉である。
【0020】
(デンドライト状銅粉粒子)
本銅粉において「デンドライト状銅粉粒子」とは、図1に示されるように、電子顕微鏡(500?20、000倍)で観察した際に、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長した形状を呈する銅粉粒子を意味し、幅広の葉が集まって松ぼっくり状を呈するものや、多数の針状部が放射状に伸長してなる形状のものは含まない。
【0021】
中でも、本銅粉粒子を電子顕微鏡(500?20,000倍)で観察した際、次のような所定の特徴を有するデンドライト状を呈するのが好ましい。
・主軸の太さaは0.3μm?5.0μmであることが重要であり、中でも0.4μm以上或いは4.5μm以下、中でも特に特に0.5μm以上或いは4.0μm以下であるのがさらに好ましい。デンドライトにおける主軸の太さaが0.3μm以下では、主軸がしっかりとしていないために枝が成長し難い一方、5.0μmよりも太くなると、粒子が凝集し易くなり、松ぼっくり状になりやすくなってしまう。
・主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」と称する)は、デンドライトの成長度合いを示しており、0.6μm?10.0μmであることが重要であり、中でも0.7μm以上或いは9.0μm以下、その中でも0.8μm以上或いは8.0μm以下であるのがさらに好ましい。枝長bが0.6μm未満では、デンドライトが十分に成長しているとは言えない。一方、枝長bが10.0μmを超えると、銅粉の流動性が低下して取り扱いが難しくなるようになる。
・主軸の長径Lに対する枝の本数(枝本数/長径L)は、デンドライトの枝の多さを示しており、0.5本/μm?4.0本/μmであるのが好ましく、中でも0.6本/μm以上或いは3.5本/μm以下、その中でも特に0.8本/μm以上或いは3.0本/μm以下であるのがさらに好ましい。枝本数/長径Lが0.5本/μm以上であれば、枝の数は十分に多く、接点を十分に確保できる一方、枝本数/長径Lが4.0本/μm以下であれば、枝の数が多過ぎて銅粉の流動性が劣るようになることを防ぐことができる。
【0022】
但し、電子顕微鏡(500?20,000倍)で観察した際、多くが上記の如きデンドライト状粒子で占められていれば、それ以外の形状の粒子が混じっていても、上記の如きデンドライト状粒子のみからなる銅粉と同様の効果を得ることができる。よって、かかる観点から、本銅粉は、電子顕微鏡(500?20,000倍)で観察した際、上記の如きデンドライト状の銅粉粒子が全銅粉粒子のうちの80個数%以上、好ましくは90個数%以上を占めていれば、上記の如きデンドライト状とは認められない非デンドライト状の銅粉粒子が含まれていてもよい。
【0023】
(酸素濃度)
本銅粉粒子の酸素濃度が0.20質量%以下であれば、導電性を良好に維持することができる。よって、本銅粉粒子の酸素濃度は、0.20質量%以下であるのが好ましく、中でも0.18質量%以下、その中でも0.15質量%以下であるのがさらに好ましい。
本銅粉粒子の酸素濃度を0.20質量%以下とするためには、乾燥雰囲気の酸素濃度、乾燥温度を制御すればよい。
【0024】
(D50)
本銅粉の中心粒径(D50)、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50は、5μm以上25μm以下であるのが好ましい。D50が5μm以上であれば粘度調整が容易であり、他方、25μm以下であれば様々な導電性ペーストに適用可能となり、好ましい。
【0025】
(比表面積)
本銅粉のBET一点法で測定される比表面積は、0.30?1.50m^(2)/gであるのが好ましい。0.30m^(2)/gより著しく小さいと、枝が発達しておらず、松ぼっくり?球状に近づくため、本発明のデンドライト状を呈することができなくなる。他方、1.50m^(2)/gよりも著しく大きくなると、デンドライトの枝が細くなりすぎて、ペースト加工工程で枝が折れるなどの不具合が発生して、導電性を阻害する可能性がある。
よって、本銅粉のBET一点法で測定される比表面積は0.30?1.50m^(2)/gであるのが好しく、中でも0.40m^(2)/g以上或いは1.40m^(2)/g以下、その中でも特に1.00m^(2)/g以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
(製造方法)
本銅粉は、所定の電解法によって製造することができる。
電解法としては、例えば、銅イオンを含む硫酸酸性の電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状に銅を析出させ、機械的又は電気的方法により掻き落として回収し、洗浄し、乾燥し、必要に応じて篩別工程などを経て電解銅粉を製造する方法を例示できる。
【0027】
電解法で銅粉を製造する場合、銅の析出に伴って電解液中の銅イオンが消費されるため、電極板付近の電解液の銅イオン濃度は薄くなり、そのままでは電解効率が低下してしまう。そのため、通常は電解効率を高めるために、電解槽内の電解液の循環を行って電極間の電解液の銅イオン濃度が薄くならないようにする。
しかし、各銅粉粒子のデンドライトを発達させるためには、言い換えれば主軸から伸びる枝の成長を促すためには、電極付近の電解液の銅イオン濃度が低い方が好ましいことが分かってきた。そこで、本銅粉の製造においては、電解槽の大きさ、電極枚数、電極間距離及び電解液の循環量を調整し、電極付近の電解液の銅イオン濃度を低く調整する、少なくとも電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、電極間の電解液の銅イオン濃度が常に薄くなるように調整するのが好ましい。
【0028】
ここで、一つのモデルケースを紹介すると、電解槽の大きさが2m^(3)?10m^(3)で、電極枚数が10?40枚で、電極間距離が5cm?50cmである場合に、銅イオン濃度1g/L?50g/Lの電解液の循環量を10?100L/分に調整することにより、デンドライトを発達させることができ、本銅粉を得ることができる。
【0029】
デンドライト状銅粉粒子の粒子径を調整するには、上記条件の範囲内で技術常識に基づいて適宜条件を設定すればよい。例えば、大きな粒径のデンドライト状銅粉粒子を得ようとするならば、銅濃度は上記好ましい範囲内で比較的高い濃度に設定するのが好ましく、電流密度は、上記好ましい範囲内で比較的低い密度に設定するのが好ましく、電解時間は、上記好ましい範囲内で比較的長い時間に設定するのが好ましい。小さな粒径のデンドライト状銅粉粒子を得ようとするならば、前記の逆の考え方で各条件を設定するのが好ましい。一例としては銅濃度を1g/L?10g/Lとし、電流密度を100A/m^(2)?1000A/m^(2)とし、電解時間を5分?3時間とすればよい。
【0030】
電解銅粉粒子の表面は、必要に応じて、有機物を用いて耐酸化処理を施し、銅粉粒子表面に有機物層を形成するようにしてもよい。必ずしも有機物層を形成する必要はないが、銅粉粒子表面の酸化による経時変化を考慮すると形成した方がより好ましい。
この耐酸化処理に用いる有機物は、特にその種類を限定するものではなく、例えば膠、ゼラチン、有機脂肪酸、カップリング剤等を挙げることができる。
耐酸化処理の方法、すなわち有機物層の形成方法は、乾式法でも湿式法でもよい。乾式法であれば有機物と芯材をV型混合器等で混合する方法、湿式法であれば水-芯材スラリーに有機物を添加し表面に吸着させる方法等を挙げることができる。但し、これらに限ったものではない。例えば、電解銅粉析出後のスラリーを洗浄した後、銅粉ケーキ及び所望の有機物を含んだ水溶液と、有機溶媒とを混合して、銅粉表面に有機物を付着させる方法は好ましい一例である。
【0031】
(用途)
本銅粉は導電特性に優れているため、本銅粉を用いて導電性ペーストや導電性接着剤などの導電性樹脂組成物、さらには導電性塗料など、各種導電性材料の主要構成材料として好適に用いることができる。
【0032】
例えば導電性ペーストを作製するには、本銅粉をバインダ及び溶剤、さらに必要に応じて硬化剤やカップリング剤、腐食抑制剤などと混合して導電性ペーストを作製することができる。
この際、バインダとしては、液状のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。
溶剤としては、テルピネオール、エチルカルビトール、カルビトールアセテート、ブチルセロソルブ等が挙げることができる。
硬化剤としては、2エチル4メチルイミダゾールなどを挙げることができる。
腐食抑制剤としては、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール等を挙げることができる。
【0033】
導電性ペーストは、これを用いて基板上に回路パターンを形成して各種電気回路を形成することができる。例えば焼成済み基板或いは未焼成基板に塗布又は印刷し、加熱し、必要に応じて加圧して焼き付けることでプリント配線板や各種電子部品の電気回路や外部電極などを形成することができる。
特に本銅粉の銅粉粒子はデンドライトが特に発達しており、粒子同士の接点の数が多くなり、導電性粉末の含有量を少なくしても優れた導電特性を得ることができるため、例えば半導体デバイスを製造する際に配線接続孔内などを埋め込む用途に用いる導電性ペースト材料として好適である。
【0034】
半導体デバイスを製造する際、素子間を接続する配線溝(トレンチ)や、多層配線間を電気的に接続する配線接続孔(ビアホール或いはコンタクトホール)が多数設けられる。これら配線溝や配線接続孔内に埋め込む導電性材料として、従来、アルミニウムが使用されてきたが、半導体デバイスの高集積化、微細化に伴い、これまでのアルミニウムに代わり、電気抵抗率が低く、エレクトロマイグレーション耐性にも優れた銅が注目され実用化が進められており、電材として銅粉を含む導電性ペーストが配線接続孔内などに埋め込むために用いられている。この種の用途では、大量の電流を通電する必要はなく、電気信号を通電することができれは十分であるため、特に本銅粉には好適である。
【0035】
(語句の説明)
本明細書において「X?Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<粒子形状の観察>
走査型電子顕微鏡(2,000倍)にて、任意の100視野において500個の粒子の形状を観察し、それぞれ主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径に対する枝の本数(「枝本数/長径L」)を測定し、その平均値を表1に示した。
【0038】
<粒度測定>
測定サンプル(銅粉)を少量ビーカーに取り、3%トリトンX溶液(関東化学製)を2、3滴添加し、粉末になじませてから、0.1%SNディスパーサント41溶液(サンノプコ製)50mLを添加し、その後、超音波分散器TIPφ20(日本精機製作所製)を用いて2分間分散処理して測定用サンプルを調製した。
この測定用サンプルを、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置MT3300(日機装製)を用いて、体積累積基準D50を測定し、表1に示した。
【0039】
<比表面積の測定>
比表面積は、ユアサアイオニクス社製モノソーブにて、BET一点法で測定し、BETとして表1に示した。
【0040】
<酸素濃度の測定>
実施例・比較例で得た銅粉(試料)を、堀場製作所社製「EMGA-820ST」を用いてHe雰囲気中で加熱溶融し、酸素濃度(wt%)を測定し、表1に示した。
【0041】
<実施例1>
2.5m×1.1m×1.5mの大きさ(約4m^(3))の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)9枚の陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離5cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を30L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液のCu濃度を5g/L、硫酸(H_(2)SO_(4))濃度を100g/L、電流密度を100A/m^(2)に調整して1時間電解を実施した。
電解中、電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、電極間の電解液の銅イオン濃度が常に薄く維持されていた。
【0042】
そして、陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水3Lに分散させ、工業用ゼラチン(:新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて10分間攪拌した後、ブフナー漏斗で濾過し、洗浄後、減圧状態(1×10^(-3)Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉を得た。
こうして得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0043】
<実施例2>
電解時間を40分、循環液量を20L/分とした以外は、実施例1と同様にして電解銅粉を得た。
得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0044】
<実施例3>
電解時間を40分、電解液のCu濃度を1g/L、循環液量を10L/分とした以外は、実施例1と同様にして電解銅粉を得た。
得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0045】
<実施例4>
5.0m×1.1m×1.5mの大きさ(約8m^(3))の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)19枚の陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離10cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を40L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液のCu濃度を5g/L、硫酸(H_(2)SO_(4))濃度を200g/L、電流密度を200A/m^(2)に調整して1時間電解を実施した。
電解中、電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、電極間の電解液の銅イオン濃度が常に薄く維持されていた。
【0046】
陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水6Lに分散させ、工業用ゼラチン(:新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液2Lを加えて10分間攪拌した後、ブフナー漏斗で濾過し、洗浄後、減圧状態(1×10^(-3)Pa)で80℃、6時間乾燥させて電解銅粉を得た。
得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0047】
<実施例5>
Cu濃度を1g/L、電解時間を30分、循環液量を20L/分とした以外は、実施例4と同様にして電解銅粉を得た。
得られた電解銅粉を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、少なくとも90個数%以上の銅粉粒子は、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して三次元的に成長したデンドライト状を呈していることを確認できた。
【0048】
<比較例1>
2.5m×1.1m×1.5mの大きさ(約4m^(3))の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)9枚の陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離5cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を2L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液のCu濃度を100g/L、硫酸(H_(2)SO_(4))濃度を100g/L、電流密度を80A/m^(2)に調整して5時間電解を実施した。
電解中、電極間の電解液の銅イオン濃度は電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度よりも、常に濃い状況であった。
【0049】
陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水3Lに分散させ、工業用ゼラチン(:新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて10分間攪拌した後、ブフナー漏斗で濾過し、洗浄後大気雰囲気にて100℃、6時間乾燥させて電解銅粉を得た。得られた電解銅粉の粒子形状は松ぼっくり状であり、主軸太さ、枝長、枝本数/長径Lの測定は出来なかった。
【0050】
<比較例2>
5.0m×1.1m×1.5mの大きさ(約8m^(3))の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)19枚の陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離10cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を150L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液のCu濃度を70g/L、硫酸(H_(2)SO_(4))濃度を200g/L、電流密度を90A/m^(2)に調整して6時間電解を実施した。
電解中、電極間の電解液の銅イオン濃度は電解槽の底部の電解液の銅イオン濃度と同等であった。
【0051】
陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水6Lに分散させ、工業用ゼラチン(:新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液2Lを加えて10分間攪拌した後、ブフナー漏斗で濾過し、洗浄後大気雰囲気にて120℃、5時間乾燥させて電解銅粉を得た。得られた電解銅粉の粒子形状は松ぼっくり状であり、主軸太さ、枝長、枝本数/長径Lの測定は出来なかった。
【0052】
【表1】

【0053】
(考察)
上記実施例とこれまで行った試験結果を総合的に考えると、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、且つ主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子であれば、優れた導通性を得るのに必要十分にデンドライトが成長しており、優れた導通性を得ることができることが分かった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解法によって得られる銅粉であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が5μm以上25μm以下であって、
走査型電子顕微鏡(SEM、観察倍率2,000倍)を用いて、任意の100視野において500個の銅粉粒子を観察した際、一本の主軸を備えており、該主軸から複数の枝が斜めに分岐して、二次元的或いは三次元的に成長したデンドライト状を呈し、かつ、主軸の太さaが0.3μm?5.0μmであり、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さbが0.6μm?10.0μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子が全銅粉粒子すなわち前記500個の銅粉粒子のうちの80個数%以上含有するデンドライト状銅粉。
【請求項2】
酸素濃度が0.20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のデンドライト状銅粉。
【請求項3】
請求項1のデンドライト状を呈する銅粉粒子において、主軸の長径Lに対する枝の分岐本数(枝本数/長径L)0.5本/μm?4.0本/μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のデンドライト状銅粉。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-08-03 
結審通知日 2016-08-10 
審決日 2016-09-07 
出願番号 特願2011-154577(P2011-154577)
審決分類 P 1 113・ 113- YAA (B22F)
P 1 113・ 536- YAA (B22F)
P 1 113・ 121- YAA (B22F)
P 1 113・ 537- YAA (B22F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 板谷 一弘
池渕 立
登録日 2013-07-19 
登録番号 特許第5320442号(P5320442)
発明の名称 デンドライト状銅粉  
代理人 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所  
代理人 中川 邦雄  
代理人 中川 邦雄  
代理人 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ