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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1322638
審判番号 不服2015-9035  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-15 
確定日 2017-01-04 
事件の表示 特願2010-111804「積層フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 1日出願公開,特開2011-243606,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年5月14日の出願であって,平成26年5月23日付けで拒絶理由が通知され,同年7月22日に意見書と手続補正書が提出され,同年10月29日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年12月22日に意見書が提出され,平成27年2月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ,これに対し,同年5月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,手続補正書が提出され,その後,当審において平成28年9月7日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年10月26日に意見書と手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は,平成28年10月26日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1ないし6に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
L-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリL-乳酸を主たる成分とする層A,およびD-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリD-乳酸を主たる成分とする層Bを有し,
(i)層Aの主配向方向と層Bの主配向方向とが実質的に同じであり,
(ii)層Aと層Bとは接着剤を介さず接合している,
圧電材料用積層フィルム。
【請求項2】
主配向方向の屈折率が1.45以上である請求項1に記載の圧電材料用積層フィルム。
【請求項3】
密度が1.24?1.27g/cm3である請求項1または2に記載の圧電材料用積層フィルム。
【請求項4】
層Aを形成するためのL-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリL-乳酸を主たる成分とする樹脂組成物Aと,層Bを形成するためのD-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリD-乳酸を主たる成分とする樹脂組成物Bとを,それぞれ別の押出機にて溶融し,次いで樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとを溶融状態にて積層し,ダイより押し出す圧電材料用積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
溶融状態にて積層する際に,樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとが接触している請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
ダイより押し出した後,少なくとも一軸方向に1.1?10倍に延伸し,ポリL-乳酸およびポリD-乳酸の融点未満の温度で熱処理する請求項4または5に記載の製造方法。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1,6
・引用文献等 1,2
・備考

文献1には,ポリL-乳酸を主たる成分とする層およびポリD-乳酸を主たる成分とする層から,共押出法により積層フィルムを得る発明が記載されている(主に,段落【0013】,【0031】を参照)。
そして,ポリL-乳酸およびポリD-乳酸を主たる成分とする物質が圧電材料となることは,本願出願前によく知られている(例えば,文献2:主に段落【0003】,【0006】)。
したがって,本願請求項1,6に係る発明は,文献1,2に記載された発明から,当業者が容易に想到し得たものである。

・請求項 2-4
・引用文献等 1,2
・備考

一般に,何らかの技術的問題点に対して対処しようとする場合,その技術的問題点を解決するためのパラメータを,最も都合良く解決できるような値に設定することは,当業者が考慮し得た事項と認められる。
したがって,文献1,2に記載された発明において,本願請求項2-4に特定されている圧電材料用積層フィルムの乳酸単位の含有量,屈折率,密度とすることに格別な困難性は認められず,設計事項の範囲のものと認められる。

・請求項 5,7
・引用文献等 1,2
・備考

文献1に記載された発明において,ポリL-乳酸を主たる成分とする層およびポリD-乳酸を主たる成分とする層は,接触していると認められる(主に,段落【0031】を参照)。
したがって,本願請求項5,7に係る発明は,文献1,2に記載された発明から,当業者が容易に想到し得たものである。

・請求項 8
・引用文献等 1,2
・備考

文献1には,55-90度において積層フィルムを延伸することが記載されている(段落【0034】を参照)。
したがって,本願請求項8に係る発明は,文献1,2に記載された発明から,当業者が容易に想到し得たものである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2001-219522号公報
2.特開2000-144545号公報

2 原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項
ア 原査定の理由で引用した文献1(以下「引例1」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同じ。)。
(1a)「【請求項1】 ポリ乳酸系重合体を主成分とする少なくとも2層からなる積層フィルムであって,
上記積層フィルム中の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Da(%)と,上記積層フィルムの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Db(%)の関係が,
Da≦7 かつ Db-Da>3
であり,
上記他の1つの層は,上記積層フィルムの少なくとも一方の最外層を構成するポリ乳酸系積層2軸延伸フィルム。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は,ヒートシール性の良好な生分解性のポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムに関する。」

(1c)「【0002】
【従来の技術】従来,セロファンは包装用フィルムとして広く用いられ,繊維包装,菓子等の包装,薬袋等に使用され,またポリ塩化ビニリデンを表面にコートして防湿性,ヒートシール性を兼ね備えたフィルムとして使用されていた。このセロファンは,木材からとれるパルプ質を主原料としているので分解性があることが特徴であるが,パルプ質を化学処理して一旦溶解した後,製膜される流延法といわれる製造方法をとることから,生産性が低く,また廃水処理の点から設備を整える投資を必要とする。このため,今日では製造コストの低い石油由来原料からなるポリエチレン,ポリオレフィンや芳香族ポリエステルからなるフィルムにほとんどがとって代わられている。この石油由来のポリエチレン,ポリオレフィンや芳香族ポリエステルは様々な加工法により耐熱性,収縮性,ヒートシール性,印刷性,防湿性や防曇性等を付与したフィルムが製造されており,用途も包装材に限らず,工業材としても広く用いられている。
【0003】しかし,上記のセロファンは,香水やお茶,コーヒーなどの香りを収着しない特性があり,包装材として見直され,上記の問題点を有しながらも,多くの使用量を有する。また,石油由来原料からなるフィルムは燃焼時の発熱量が多く,燃焼処理中に燃焼炉を傷める恐れがある。さらに,埋め立て処理されることも多いが,その科学的,生物的安定性のためほとんど分解せず残留し,埋立地の寿命を短くする等の問題を起こしている。このため,セロファンのように土壌中,水中で分解するものが望まれ,多くの研究がなされている。
【0004】今日開発が進められている,土壌中,水中で分解する材料,すなわち,生分解性材料の例としてはポリ乳酸があげられる。このポリ乳酸は,燃焼熱量はポリエチレンの半分以下であり,また土中・水中で自然に加水分解が進行し,次いで微生物により無害な分解物となる。現在,ポリ乳酸を用いて成形物,具体的にはフィルム,シートやボトルなどの容器等を得る研究がなされている。
【0005】ところで,ポリ乳酸の無延伸フィルムは,伸びが数%しかなく,脆い材料である。このため,無延伸の薄いフィルムは包装用として実用性はない。一方,ポリ乳酸を一軸延伸若しくは二軸延伸することにより,フィルムが配向して伸びが増大し,さらに熱処理することで熱収縮性を抑制した実用性の高いフィルムが得られることは既に公知である。さらにポリ乳酸系重合体からなるフィルムの特徴としてはセロファンと同じように香りの成分を収着しない特徴がある。このため,従来から使用されているポリオレフィン系のヒートシーラント材に代わってポリ乳酸系フィルムを使用することが期待される。これは,ポリオレフィン系のシーラント材は包装する対象物によってはこれら香りの成分を収着し,中身が変化する恐れがあるのに対し,安心して使用することができる点で優位であるからである。
【0006】ヒートシーラント材として用いる場合に,好ましい特性としては,(1)シール温度領域が適度であること,(2)他のプラスチックフィルムや紙,金属箔とラミネートしやすいこと,(3)シール時に収縮性が低いことなどがあげられる。
【0007】上記(1)は,今日広く使用されているポリエチレンからなるシーラント材と照らし合わせたときの温度域で使用できることが,従来から使用される二次加工装置,具体的にはヒートシール装置を備えた製袋機にそのまま流すことができ,新たに設備を導入する必要がなく,経済的となるからである。ポリエチレンのシール温度域は厚みにもよるが高くて130℃以上,低くても80℃以上であり,ヒートシーラント材としての目安となる。上記(2)は,ドライラミネート法,ウエットラミネート法で通常使用される公知の装置でラミネート可能であることが必要であることを示す。ラミネート装置は,一方のフィルムを所定の張力を与えながら巻出し,必要に応じて熱を加えた後接着剤を塗布し,他方のフィルムを同様に所定の張力を与えながら巻出し,これら2種類のフィルムを接着剤を介して重ね合わせて圧着する装置である。したがって,張力によってあるいはこれら張力の微妙な変化によって,巻出し途中のフィルムが破断しないこと,さらに加える熱によってフィルム寸法等が変化しないことが重要である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ポリ乳酸系フィルムの場合,上記のように無延伸フィルムではもろいため,ラミネート適性から,延伸配向させたポリ乳酸系フィルムを使用することが好適である。しかし,例えば袋にするような十分なシール強度を得るためには通常フィルムが溶融する温度領域程度に加熱する必要があるが,このような条件でシールすると延伸フィルムは収縮してしまい,上記(3)の要件を満たさず,できあがった製品には収縮によるしわ,波打ち,カールなどが見られ,ひどいと全く製品にならない場合がある。
【0009】そこで,この発明は,ヒートシール特性を有すると共に,十分な耐熱収縮性を有するポリ乳酸系の延伸フィルムを提供することを目的とする。」

(1d)「【0010】
【課題を解決するための手段】この発明は,ポリ乳酸系重合体を主成分とする少なくとも2層からなる積層フィルムであって,上記積層フィルム中の1つの層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Da(%)と,上記積層フィルムの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Db(%)の関係が,
Da≦7 かつ Db-Da>3
であり,上記他の1つの層を,上記積層フィルムの少なくとも一方の最外層から構成させることにより上記の課題を解決したのである。
【0011】所定のD-乳酸含有割合を有する結晶性ポリ乳酸系重合体からなる層を1層とするので,収縮変形が生じにくく,耐熱収縮性を発揮することができる。また,所定のD-乳酸含有割合を有するポリ乳酸系重合体からなる層を他の1層とするので十分なヒートシール特性を有し,得られる積層体は,ヒートシーラント材として用いることができる。」

(1e)「【0013】この発明にかかるポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムは,ポリ乳酸系重合体を主成分とする少なくとも2層からなる積層フィルムである。
【0014】上記ポリ乳酸系重合体は,乳酸を主成分とするモノマーを縮重合してなる重合体である。上記乳酸には,2種類の光学異性体のL-乳酸およびD-乳酸があり,これら2種の構造単位の割合で結晶性が異なる。例えば,L-乳酸とD-乳酸の割合がおおよそ80:20?20:80のランダム共重合体では結晶性が無く,ガラス転移点60℃付近で軟化する透明完非結晶性ポリマーとなる。一方,L-乳酸とD-乳酸の割合がおおよそ100:0?80:20,又は20:80?0:100のランダム共重合体は,結晶性を有する。その結晶化度は,上記のL-乳酸とD-乳酸の割合によって定まるが,この共重合体のガラス転移点は,上記と同様に60℃程度のポリマーである。このポリマーは,溶融押出した後,ただちに急冷することで透明性の優れた非晶性の材料になり,ゆっくり冷却することにより,結晶性の材料となる。例えば,L-乳酸のみ,また,D-乳酸のみからなる単独重合体は,180℃以上の融点を有する半結晶性ポリマーである。」

(1f)「【0023】すなわち,第1層は支持層となるので,この第1層を構成する結晶性ポリ乳酸系重合体中のD-乳酸の割合(Da)は,7%以下が好ましく,5%以下がより好ましい。7%を上回ると支持層としての結晶化度が低く,耐熱性が得られず加熱されると収縮変形しやすい。
【0024】また,第2層はヒートシール層となるので,この第2層を構成するポリ乳酸系重合体中のD-乳酸の割合(Db)は,Daよりも3%よりも高いことが好ましい。この差が3%以下となると,結晶化度及び融点とも上記第1層を構成するポリ乳酸系重合体と近接し,高温でシールする必要が生じるからである。すなわち,高温のシールでは支持層も加熱され熱収縮が起るので,製品に波打ち,しわなどを発生させるといった問題を生じさせるからである。したがって,支持層に比して結晶化度,融点を低めるためには,上記の範囲に設定することが好ましい。」

(1g)「【0031】積層方法としては,通常に用いられる方法を採用することができる。例えば複数の押出機からフィードブロック式あるいはマルチマニホールド式にひとつの口金に連結するいわゆる共押出をする方法,巻き出した混合フィルムの表面上に別種のフィルムをロールやプレス板を用いて加熱圧着する方法がある。」

(1h)「【0048】(実施例1) L-乳酸:D-乳酸=80:20の構造単位を持ち,ガラス転移点(Tg)52℃のポリ乳酸80%,L-乳酸:D-乳酸=95:5の構造単位を持ち,ガラス転移点(Tg)56℃のポリ乳酸20%を混合して,合計100重量部のポリ乳酸(Db=17%,表1の樹脂6)に乾燥した平均粒径1.4μmの粒状シリカ(商品名:サイリシア100,富士シリシア化学(株) 製)0.1重量部混合して25mmφの同方向二軸押出機にて,220℃でマルチマニホールド式の口金より表裏層として押出した。
【0049】また,L-乳酸:D-乳酸=99.5:0.5(Da=0.5%)の構造単位を持ち,ガラス転移点(Tg)58℃のポリ乳酸重合体(表1の樹脂1)を40mmφ単軸押出機にて,上記口金より中間層として押出した。
【0050】表層,中間層,裏層の厚み比は1:10:1になるよう溶融樹脂の吐出量を調整した。この共押出シートを約43℃のキャスティングロールにて急冷し,未延伸シートを得た。続いて長手方向に76℃で2.6倍のロール延伸,次いで,幅方向にテンターで72℃の温度で3.2倍に延伸した。テンターでの熱処理ゾーンの温度は130℃にし,熱処理したフィルムを作製した。フィルム厚みはおおよそ平均で30μmとなるように押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。フィルムの評価結果を表2に示す。」

イ そうすると,引例1には,以下の発明(以下「引用発明1」,「引用発明2」という。)が記載されている。

・引用発明1
「積層フィルム中の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Da(%)と,上記積層フィルムの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Db(%)の関係が,
Da≦7 かつ Db-Da>3
であり,
上記他の1つの層は,上記積層フィルムの少なくとも一方の最外層を構成するポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムであって,
前記1つの層及び前記他の1つの層を含む共押出シートを延伸して作製した,ヒートシール性の良好な生分解性のポリ乳酸系積層2軸延伸フィルム。」

・引用発明2
「積層フィルム中の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Da(%)と,上記積層フィルムの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Db(%)の関係が,
Da≦7 かつ Db-Da>3
であり,
上記他の1つの層は,上記積層フィルムの少なくとも一方の最外層を構成するポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムの製造方法であって,
前記1つの層となる溶融樹脂及び前記他の1つの層となる溶融樹脂とをマルチマニホールド式の口金より共押出にて共押出シートとして押出し,その後延伸する工程を含む,ヒートシール性の良好な生分解性のポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムの製造方法。」

ウ 原査定の理由で引用した文献2(以下「引例2」という。)には,図1ないし図5とともに,以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】 圧電性高分子からなる繊維状物,または成形物であり,これの軸方向に付加される張力によって圧電性を発生させるために,かかる張力の付加方向と異なる方向に捩りを加えて構成したことを特徴とする圧電材。
【請求項2】 張力の付加方向と異なる方向に結晶軸を構成した請求項1記載の圧電材。
【請求項3】 捩り方向が同一方向にまたは,反対方向と交互に,もしくは方向がアトランダム加えられて成る請求項1または2項記載の圧電材。
【請求項4】 軸方向に対し,10?60°の捩りを加えて構成した請求項1?3のいずれか1項記載の圧電材。
【請求項5】 圧電性高分子がポリ乳酸である請求項1?4のいずれか1項記載の圧電材。
【請求項6】 外科用補綴材あるいは補強材として使用される請求項1~5のいずれか1項記載の圧電材。
【請求項7】 繊維状物,または成形物が配向したものである請求項1?6のいずれか1項記載の圧電材。
【請求項8】 結晶軸方向が結晶あるいは軸方向と一致している繊維状物,または成形物を捩ることによって結晶軸方向が繊維あるいは成形物の長軸方向と異なるよう構成する圧電材の製造法。
【請求項9】 非結晶状態の繊維状物あるいは成形物をそのまま,若しくは延伸しながら捩ることを特徴とする圧電材の製造法。
【請求項10】 捩りを同一方向または,反対方向と交互に,もしくは方向がアトランダムなるよう加えることを特徴とする圧電材の製造法。」

(2b)「【0003】一方,電気刺激による人体組織,とくに硬組織の成長促進効果は古くから知られている(I.Yasuda,J.Jpn.Orthop.Assoc.,29,351(1955))。また,ポリ乳酸の骨成長促進に関しても筏らが報告している(Y.Ikada et al. J. Biomed. Mater. Res.,30,553(1996))。さらに,ポリ乳酸の圧電性を利用して医用材料に応用した特許としては特開平6-142182および特開平6-142184がある。これらの研究から圧電性高分子は生体組織の運動により圧電効果が生じ,生体組織の成長促進を促すことが期待される。ポリ乳酸フィルムは一軸延伸することによりd14なる圧電率テンソルを有することが知られている。つまり,延伸軸に対してずり変形が加わると軸方向に分極が生じる。従って,繊維やロッドのような成形物にこれらの軸方向の運動に応力が加わると予測される形状の場合には圧電効果は小さいと考えられる。」

(2c)「【0006】
【発明の実施の形態】本発明に用いる圧電性高分子は延伸可能なものであり,また,延伸時あるいは延伸後に熱あるいは液体で膨潤させる等の手段により捩り変形を与え,これをそのまま固定することが可能であればその素材は問わない。例えば,そのような素材としてポリフッ化ビニリデン系高分子,ポリ乳酸系高分子が例示できる。特に,体内埋入用の医用材料として用いる場合にはポリ乳酸系高分子が好適である。かかるポリ乳酸は光学活性を有するL体であっても,D体であっても構わない。また,重合体が結晶を有するのであればモノマーである乳酸がL体およびD体の共重合体であっても構わない。分子量に関しても特に限定されるものではなく,実際上,使用条件に合致しておれば低分子量でもよい。また,ねじることが可能であれば高分子量のものでも差し支えない。繊維状物および成形物はある一定値以下の直径であれば繊維として,それを上回るサイズであれば成形物として定義することができるが,捩り変形を生じさせることが可能であればそのサイズに限定はない。実際上は織物で使用される5μmのものから数cmのものまで例示できる。また,その断面形状は円形であっても方形であっても構わない。」

(2)本願発明1-3について
ア 引用発明1と本願発明1との対比
(ア)引用発明1の「1つの層」及び「他の1つの層」は,以下の相違点1を除いて,本願発明1の「層A」及び「層B」に相当する。

(イ)引用発明1の「前記1つの層及び前記他の1つの層を含む共押出シートを延伸して作製した」「ポリ乳酸系積層2軸延伸フィルム」は,技術常識に照らして,「前記1つの層」の主配向方向と「前記他の1つの層」の主配向方向とは実質的に同じであり,「前記1つの層」と「前記他の1つの層」とは接着剤を介さず接合しているものと認められる。

(ウ)したがって,本願発明1と引用発明1とを対比すると,以下の点で,一致,及び,相違する。

[一致点]
「層A,および層Bを有し,
(i)層Aの主配向方向と層Bの主配向方向とが実質的に同じであり,
(ii)層Aと層Bとは接着剤を介さず接合している,
積層フィルム。」

[相違点]
・相違点1:本願発明1が,「L-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリL-乳酸を主たる成分とする層A,およびD-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリD-乳酸を主たる成分とする層Bを有」するのに対して,引用発明1は,「積層フィルム中の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Da(%)と,上記積層フィルムの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Db(%)の関係が,Da≦7 かつ Db-Da>3 であ」る点。
すなわち,本願発明1では,
「層Aが含有するD-乳酸単位の量」<10モル% かつ
「層Bが含有するD-乳酸単位の量」-「層Aが含有するD-乳酸単位の量」>80(?100)であるのに対して,
引用発明1では,Da≦7 かつ Db-Da>3 である点

・相違点2:本願発明1が,「圧電材料用積層フィルム」であるのに対して,引用発明1は,「ヒートシール性の良好な生分解性のポリ乳酸系積層2軸延伸フィルム」である点。

イ 判断
(ア)相違点1について
引例1の上記摘記(1f)の「第2層はヒートシール層となるので,この第2層を構成するポリ乳酸系重合体中のD-乳酸の割合(Db)は,Daよりも3%よりも高いことが好ましい。この差が3%以下となると,結晶化度及び融点とも上記第1層を構成するポリ乳酸系重合体と近接し,高温でシールする必要が生じるからである。すなわち,高温のシールでは支持層も加熱され熱収縮が起るので,製品に波打ち,しわなどを発生させるといった問題を生じさせるからである。したがって,支持層に比して結晶化度,融点を低めるためには,上記の範囲に設定することが好ましい。」との記載から,引用発明1における,「Db-Da>3」の技術的意義は,ヒートシール層となる第2層の融点を,支持層となる第1層に比して,低めるためのものと理解される。
そして,上記摘記(1h)の「実施例1」等に示されている具体的な数値は,「Db=17%」,「Da=0.5%」等であって,本願の発明の詳細な説明には,「Db-Da」が,80を超えるものは記載されていない。

一方,本願の発明の詳細な説明の「本発明においては,とりわけ,上記好ましい態様を有するポリL-乳酸と,上記好ましい態様を有するポリD-乳酸とを同時に用いることにより,変位量の向上効果をより高くすることができ,好ましい。」(【0017】)との記載から,本願発明1における,「L-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリL-乳酸を主たる成分とする層A,およびD-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリD-乳酸を主たる成分とする層Bを有」するという発明特定事項,すなわち,
「『層Bが含有するD-乳酸単位の量』-『層Aが含有するD-乳酸単位の量』>80(?100)」の技術的意義は,変位量の向上効果をより高くするためのものと理解される。

そして,層A及び層Bに含まれるD-乳酸単位の量を,「『層Bが含有するD-乳酸単位の量』-『層Aが含有するD-乳酸単位の量』>80(?100)」と,特定することで,変位量の向上効果がより高くなることは,引例1に記載されていない効果であって,本願の出願時における技術水準から当業者が予測できたものとは認められない。

したがって,引用発明1において,相違点1について,本願発明1の構成を採用することは,当業者が容易になし得たこととは認められない。

(イ)相違点2について
引例1の上記摘記(1b),(1c)の記載から,引用発明1は,従来,セロファンは包装用フィルムとして広く用いられ,繊維包装,菓子等の包装,薬袋等に使用され,またポリ塩化ビニリデンを表面にコートして防湿性,ヒートシール性を兼ね備えたフィルムとして使用されていたこと,
ポリ乳酸系重合体からなるフィルムの特徴としてはセロファンと同じように香りの成分を収着しない特徴がある。このため,従来から使用されているポリオレフィン系のヒートシーラント材に代わってポリ乳酸系フィルムを使用することが期待されること,
ヒートシーラント材として用いる場合に,好ましい特性としては,(1)シール温度領域が適度であること,(2)他のプラスチックフィルムや紙,金属箔とラミネートしやすいこと,(3)シール時に収縮性が低いことなどがあげられること,
袋にするような十分なシール強度を得るためには通常フィルムが溶融する温度領域程度に加熱する必要があるが,このような条件でシールすると延伸フィルムは収縮してしまい,上記(3)の要件を満たさず,できあがった製品には収縮によるしわ,波打ち,カールなどが見られ,ひどいと全く製品にならない場合があることを前提とした発明であると理解される。

一方,引例2の上記摘記(2b),(2c)の記載から,引例2には,ポリ乳酸の圧電性を利用して医用材料に応用した発明があり,圧電性高分子は生体組織の運動により圧電効果が生じ,生体組織の成長促進を促すことが期待されるところ,一軸延伸したポリ乳酸フィルムでは,繊維やロッドのような成形物にこれらの軸方向の運動に応力が加わると予測される形状の場合には圧電効果は小さいと考えられるので,延伸時あるいは延伸後に熱あるいは液体で膨潤させる等の手段により捩り変形を与え,これをそのまま固定する発明が開示されていることが理解される。

そうすると,引用発明1は,繊維包装,菓子等の包装,薬袋等に使用されるヒートシール性を備えたフィルムに係る発明であるのに対して,引例2に記載された発明は,軸方向の運動に応力を加えた際に圧電効果を生じさせる繊維やロッドのような成形物に係る発明であるから,両者は,いずれも,「ポリ乳酸」を原料として用いることは共通するものの,発明の技術分野の関連性が高いとはいうことはできない。

さらに,引例2の記載に基づいて,引用発明1に係る「ポリ乳酸系積層2軸延伸フィルム」を,「圧電材料用積層フィルム」とする動機を見いだすこともできない。

したがって,引用発明1において,相違点2について,本願発明1の構成を採用することは,当業者が容易になし得たこととは認められない。

ウ 小括
したがって,本願発明1は,当業者が,引用発明1及び引例2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また,本願発明2,3は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定したものであるから,本願発明1が,引用発明1及び引例2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから,本願発明2,3も,引用発明1及び引例2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本願発明4-6について
ア 引用発明2と本願発明4との対比
(ア)引用発明2の「1つの層となる溶融樹脂」及び「他の1つの層となる溶融樹脂」は,以下の相違点3を除いて,本願発明4の「樹脂組成物A」及び「樹脂組成物B」に相当する。

(イ)引用発明2の「前記1つの層となる溶融樹脂及び前記他の1つの層となる溶融樹脂とをマルチマニホールド式の口金より共押出にて共押出シートとして押出し」は,技術常識に照らして,「樹脂組成物Aと」「樹脂組成物Bとを,それぞれ別の押出機にて溶融し,次いで樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとを溶融状態にて積層し,ダイより押し出す」工程と認められる。

(ウ)したがって,本願発明4と引用発明2とを対比すると,以下の点で,一致,及び,相違する。

[一致点]
「層Aを形成するための樹脂組成物Aと,層Bを形成するための樹脂組成物Bとを,それぞれ別の押出機にて溶融し,次いで樹脂組成物Aと樹脂組成物Bとを溶融状態にて積層し,ダイより押し出す積層フィルムの製造方法。」

[相違点]
・相違点3:本願発明4が,「層Aを形成するためのL-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリL-乳酸を主たる成分とする樹脂組成物Aと,層Bを形成するためのD-乳酸単位の含有量が90?100モル%のポリD-乳酸を主たる成分とする樹脂組成物B」を発明特定事項として有するのに対して,引用発明2は,「積層フィルム中の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Da(%)と,上記積層フィルムの他の1つの層を構成するポリ乳酸系重合体のD-乳酸の含有割合Db(%)の関係が,
Da≦7 かつ Db-Da>3 であ」る点。
すなわち,本願発明4では,
「層Aを形成するための樹脂組成物Aが含有するD-乳酸単位の量」<10モル% かつ
「層Bを形成するための樹脂組成物Bが含有するD-乳酸単位の量」-「層Aを形成するための樹脂組成物Aが含有するD-乳酸単位の量」>80(?100)であるのに対して,
引用発明2では,Da≦7 かつ Db-Da>3 である点

・相違点4:本願発明4が,「圧電材料用積層フィルムの製造方法」であるのに対して,引用発明2は,「ヒートシール性の良好な生分解性のポリ乳酸系積層2軸延伸フィルムの製造方法」である点。

イ 判断
(ア)相違点3について
上記「相違点1について」と同様の理由により,引用発明2において,相違点3について,本願発明4の構成を採用することは,当業者が容易になし得たこととは認められない。

(イ)相違点4について
上記「相違点2について」と同様の理由により,引用発明2において,相違点4について,本願発明4の構成を採用することは,当業者が容易になし得たこととは認められない。

ウ 小括
したがって,本願発明4は,当業者が,引用発明2及び引例2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また,本願発明5,6は,本願発明4の発明特定事項を全て含み,さらに限定したものであるから,本願発明4が,引用発明2及び引例2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから,本願発明5,6も,引用発明2及び引例2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
したがって,原査定の理由によって本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
1 この出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)<物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合の明確性要件について>
請求項1は,「圧電材料用積層フィルム」という物の発明であるが,「共押出法により得られた」との記載は,製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで,物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号,平成24年(受)第2658号)。
しかしながら,本願の明細書等には不可能・非実際的事情が存在することについて何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって,請求項1に係る発明,及び,請求項1を引用する請求項2-4に係る発明は明確でない。

(2)<発明の明確性について>
・請求項1は,「・・・圧電材料用積層フィルム。」という物の発明であるが,当該請求項1を引用する請求項2?4は,「・・・積層フィルム。」という物の発明であり,両者は整合していない。

2 当審拒絶理由の判断
(1)<物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合の明確性要件について>
平成28年10月26日に提出された手続補正書によって,補正前の請求項1の「共押出法により得られた」との記載が削除された。
これによって,物の発明において製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載があり,請求項1に係る発明,及び,請求項1を引用する請求項2-4に係る発明は明確でないとする拒絶理由は解消した。

(2)<発明の明確性について>
平成28年10月26日に提出された手続補正書によって,補正前の請求項2?3の「・・・積層フィルム。」が,「圧電材料用積層フィルム。」に補正され,請求項4が削除された。
これによって,請求項1の発明と,当該請求項1を引用する請求項2?4の発明が整合しないとする拒絶理由は解消した。

(3)まとめ
したがって,もはや,当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-13 
出願番号 特願2010-111804(P2010-111804)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上田 智志  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
飯田 清司
発明の名称 積層フィルム  
代理人 大島 正孝  
代理人 白石 泰三  
代理人 白石 泰三  
代理人 大島 正孝  

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