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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1322683
審判番号 不服2016-6891  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-11 
確定日 2016-12-27 
事件の表示 特願2011-227626「導電性材料前駆体および導電性材料」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月13日出願公開、特開2013- 89708、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年10月17日の出願であって、平成27年7月28日付けで拒絶理由が通知され、同年9月7日に意見書が提出されたが、平成28年3月25日付け(発送日:同年3月29日)で拒絶査定がされ、これに対し、同年5月11日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年5月11日の手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
(1) 請求項1について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「透明支持体上に少なくとも銀画像を有する導電性材料を得るために用いる導電性材料前駆体であって、透明支持体上に少なくとも物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に有する導電性材料前駆体において、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層の間に紅藻類に由来する天然高分子多糖類を0.01?0.1g/m^(2)の添加量で含有する層を有することを特徴とする導電性材料前駆体。」(下線は請求人が付与。以下、同様である。)
とする補正(以下「補正事項1」という。)を含んでいる。

(2) 請求項3について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項3を、
「請求項1または2に記載の導電性材料前駆体を用いて製造された、透明支持体上に少なくとも銀画像を有する導電性材料。」
とする補正(以下「補正事項2」という。)を含んでいる。

(3) 明細書の段落【0010】について
本件補正は、明細書の段落【0010】を、
「本発明の目的は以下の手段によって達成された。
(1)透明支持体上に少なくとも銀画像を有する導電性材料を得るために用いる導電性材料前駆体であって、透明支持体上に少なくとも物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に有する導電性材料前駆体において、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層の間に紅藻類に由来する天然高分子多糖類を0.01?0.1g/m^(2)の添加量で含有する層を有することを特徴とする導電性材料前駆体。
(2)前記の紅藻類に由来する天然高分子多糖類がカッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナンから選ばれる少なくとも1種である上記(1)記載の導電性材料前駆体。
(3)上記(1)または(2)に記載の導電性材料前駆体を用いて製造された、透明支持体上に少なくとも銀画像を有する導電性材料。」
とする補正(以下「補正事項3」という。)を含んでいる。

2 補正の適否
(1) 補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「導電性材料前駆体」について、「透明支持体上に少なくとも銀画像を有する導電性材料を得るために用いる導電性材料前駆体であって」との限定を付加し、「紅藻類に由来する天然高分子多糖類を含有する層」とあったものを、「紅藻類に由来する天然高分子多糖類を0.01?0.1g/m^(2)の添加量で含有する層」に限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-160911号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【0001】
本発明は、電磁波シールド材、アンテナ回路、タッチパネル、電子回路等の用途に用いることができる導電性材料を製造するために用いる導電性材料前駆体および導電性材料に関するものである。」

(イ) 「【0040】
本発明の導電性材料前駆体にはハロゲン化銀乳剤層と物理現像核層の間やハロゲン化銀乳剤層の上の層に非感光性層を設けることができる。これらの非感光性層は、親水性ポリマーを主たるバインダーとする層である。ここでいう親水性ポリマーとは、前述のハロゲン化銀乳剤層に用いる親水性バインダーと同様、現像液で容易に膨潤し、下層のハロゲン化銀乳剤層、物理現像核層まで現像液を容易に浸透させるものであれば任意のものが選択できる。
【0041】
具体的には、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、ポリビニルアルコール等を用いることができる。特に好ましい親水性ポリマーは、ゼラチン、アルブミン、カゼイン等のタンパク質である。本発明の効果を十分に得るためには、この非感光性層のバインダー量としては、ハロゲン化銀乳剤層の総バインダー量に対して20?100質量%の範囲が好ましく、特に30?80質量%が好ましい。」

(ウ) 「【0063】
本発明における導電性材料を得るために、支持体として、全光線透過率が90%以上、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。この透明支持体上に下記組成の裏塗り層を塗布、乾燥した。
・・・(中略)・・・
【0067】
次に裏塗り層を有する透明支持体の、裏塗り層とは反対側の面に下記のようにして作製した硫化パラジウムを含有する物理現像核層塗液を塗布、乾燥した。
・・・(中略)・・・
【0070】
続いて、支持体に近い方から順に下記組成の中間層、ハロゲン化銀乳剤層E-1?10、および保護層を上記物理現像核層の上に塗布し、導電性材料前駆体1?10を得た。ハロゲン化銀乳剤は、写真用ハロゲン化銀乳剤の一般的なダブルジェット混合法で製造した。このハロゲン化銀乳剤は、塩化銀95モル%と臭化銀5モル%で、平均粒径が0.15μmになるように調製した。このようにして得られたハロゲン化銀乳剤を定法に従いチオ硫酸ナトリウムと塩化金酸を用い金イオウ増感を施した。こうして得られたハロゲン化銀乳剤は銀1g当たり0.5gのゼラチンを含む。
【0071】
<中間層組成>1m^(2)当たり
ゼラチン 0.5g
界面活性剤(S-1) 5mg
・・・(中略)・・・
【0086】
このようにして得た未加温の導電性材料前駆体1?10と、50℃7日間加温保管した導電性材料前駆体1?10を、水銀灯を光源とする密着プリンターで400nm以下の光をカットする樹脂フィルターを介し、細線幅20μmで格子間隔250μmのメッシュ状パターンの透過原稿を密着させてそれぞれ露光した。
【0087】
露光した導電性材料前駆体を下記組成のアルカリ処理液(銀錯塩拡散転写用現像液)で20℃で60秒の浸漬処理をそれぞれ行ったのち40℃温水で水洗、乾燥した。このようにして銀薄膜パターンを有する導電性材料を得た。」

以上のことから、引用文献1には、補正発明1の記載ぶりに則って整理すると、導電性材料前駆体および導電性材料に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「透明支持体上に少なくとも銀薄膜パターンを有する導電性材料を得るために用いる導電性材料前駆体であって、透明支持体上に少なくとも物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に有する導電性材料前駆体において、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層の間にゼラチン等からなる非感光性層を有する導電性材料前駆体。」

イ 対比
補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「銀薄膜パターン」は、補正発明1の「銀画像」に相当する。
引用発明の「ゼラチン等からなる非感光性層」と、補正発明1の「紅藻類に由来する天然高分子多糖類を0.01?0.1g/m^(2)の添加量で含有する層」とは、いずれも物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層との中間にある層であるから、「中間層」という概念で共通する。

以上のことから、補正発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「透明支持体上に少なくとも銀画像を有する導電性材料を得るために用いる導電性材料前駆体であって、透明支持体上に少なくとも物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に有する導電性材料前駆体において、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層の間に中間層を有する導電性材料前駆体。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
中間層に関して、補正発明1では、「紅藻類に由来する天然高分子多糖類を0.01?0.1g/m^(2)の添加量で含有する層」であるのに対して、引用発明では、「ゼラチン等からなる非感光性層」である点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-62807号公報(以下「引用文献2」という。)には、画像濃度ムラの少ない熱現像カラー感光材料に関して、塗布後のセット性の向上と、濃度ムラの改良のために、感光性ハロゲン化銀を含有する層、拡散性色素供与性化合物を含有する層(ハロゲン化銀と同一層のこともある)、保護層、感色性の異なる感光性層の間に設けられる中間層、下塗り層、バック層などに、紅藻類に由来する天然高分子多糖類を、0.0005?2g/m^(2)、特に0.002?1g/m^(2)程度使用することが記載されている(特に、段落【0001】、【0084】?【0087】を参照。以下「引用文献2記載の事項」という。)。

しかし、引用発明は、属する技術分野は電磁波シールド材、アンテナ回路、タッチパネル、電子回路等の用途に用いることができる導電性材料を製造するために用いる導電性材料前駆体(前記「ア(ア)」を参照。)であり、中間層の場所が物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層の間であるのに対して、引用文献2記載の事項は、属する技術分野は熱現像カラー感光材料であり、中間層の場所が感色性の異なる感光性層の間である点で、両者は、属する技術分野及び中間層の場所が互いに異なり、更に、引用文献2記載の事項の「塗布後のセット性の向上と、濃度ムラの改良」という課題と同様の課題が、引用文献1において存在するものでもないから、引用文献2記載の事項を引用発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

一方、補正発明1は、紅藻類に由来する天然高分子多糖類の添加量を、引用文献2記載の事項の同添加量(0.0005?2g/m^(2)程度)よりも、より狭い「0.01?0.1g/m^(2)」の範囲に特定しており、その理由は、少なすぎると十分な導電性が得られない場合があり、多すぎると銀塩拡散転写を阻害し、導電性の低下を招く場合があるから(本願の願書に添付した明細書(以下「明細書」という。)の段落【0014】を参照。)であり、補正発明1は、当該数値限定を含む上記相違点に係る補正発明1の構成により、「高い開口率と導電性が両立された導電性材料が得られる導電性材料前駆体、およびこれらに優れた導電性材料を提供することができる」(明細書段落【0011】)との効果を奏するものである。

そうすると、上記相違点に係る補正発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、補正発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2記載の事項に基いて、容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2) 補正事項2について
本件補正の補正事項2は、請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である「導電性材料」について、「透明支持体上に少なくとも銀画像を有する」との限定を付加するものであって、補正前の請求項3に記載された発明と補正後の請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項3に記載された発明(以下「補正発明3」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

補正発明3は、補正発明1をさらに限定したものであるので、補正発明1と同様に、当業者が引用発明及び引用文献2記載の事項に基いて、容易に発明をすることができたとはいえない。

(3) 補正事項3について
本件補正の補正事項3は、補正事項1及び補正事項2に伴って特許請求の範囲の記載との整合を図るため、明細書の段落【0010】を補正するものである。
したがって、補正事項3は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

3 むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?3に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下「本願発明1」?「本願発明3」という。)
「【請求項1】
透明支持体上に少なくとも銀画像を有する導電性材料を得るために用いる導電性材料前駆体であって、透明支持体上に少なくとも物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に有する導電性材料前駆体において、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層の間に紅藻類に由来する天然高分子多糖類を0.01?0.1g/m^(2)の添加量で含有する層を有することを特徴とする導電性材料前駆体。
【請求項2】
前記紅藻類に由来する天然高分子多糖類がカッパカラギーナン、イオタカラギーナン、ラムダカラギーナンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の導電性材料前駆体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の導電性材料前駆体を用いて製造された、透明支持体上に少なくとも銀画像を有する導電性材料。」

そして、本願発明1(補正発明1)及び本願発明3(補正発明3)は、上記「第2 2」のとおり、当業者が引用発明及び引用文献2記載の事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明2は、本願発明1をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明及び引用文献2記載の事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-13 
出願番号 特願2011-227626(P2011-227626)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 阿部 利英
特許庁審判官 中川 隆司
小関 峰夫
発明の名称 導電性材料前駆体および導電性材料  

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