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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1322734
審判番号 不服2016-1073  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-25 
確定日 2017-01-10 
事件の表示 特願2014-521427「コイル状部材及びコイル装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月19日国際公開、WO2013/187501、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯と本願発明
本願は、2013年(平成25年)6月14日(優先権主張2012年6月15日、(JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年6月16日付けで拒絶理由が通知され、平成27年8月21日付けで手続補正がされ、平成27年10月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年1月25日付けで審判請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、平成27年8月21日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
コアの周りに配設されるコイル状部材であって、
コアの周りを巻くように配設される導線を有し、
前記導線の長さ方向に対して垂直な断面形状は矩形状であり、
前記導線は、コアの周方向に沿うように形成された前記導線の1周以下の長さの複数の導線部材を連続して導線部材の長さ方向において隣接させ、対向する端部同士を圧接して接合することにより構成され、
前記導線は、1周毎に、コアの軸方向に位置がずれており、
1周におけるコアの軸方向から見た内周形状は矩形状であり、
コアの軸方向の一方から他方に向かい、コアの周方向の少なくとも一部において、前記導線の幅が広くなるように、前記各導線部材の幅を変化させて接合するか、又は、コアの軸方向の一方から他方に向かい、前記導線の高さが低くなるように、前記各導線部材の高さを変化させて接合した
ことを特徴とするコイル状部材。
【請求項2】
前記導線の少なくとも一部を絶縁体により被覆し、又は、コアの軸方向において隣接する前記導線の間に絶縁体を配設したことを特徴とする請求項1記載のコイル状部材。
【請求項3】
コアの周りにコイル状部材が配設されたコイル部を有するコイル装置であって、
前記コイル状部材は、前記コアの周りを巻くように配設された導線を有し、
前記導線の長さ方向に対して垂直な断面形状は矩形状であり、
前記導線は、前記コアの周方向に沿うように形成された前記導線の1周以下の長さの複数の導線部材を連続して導線部材の長さ方向において隣接させ、対向する端部同士を圧接して接合することにより構成され、
前記導線は、1周毎に、前記コアの軸方向に位置がずれており、
前記コイル状部材の1周における前記コアの軸方向から見た内周形状は矩形状であり、
前記コアは、環状部材に対して径方向に突出するように、複数配置されており、
前記コイル状部材は、前記環状部材の径方向の外側に向かい、前記環状部材の周方向における前記導線の幅が広くなるように、前記各導線部材の幅を変化させて接合するか、又は、前記環状部材の径方向の外側に向かい、前記導線の高さが低くなるように、前記各導線部材の高さを変化させて接合した
ことを特徴とするコイル装置。
【請求項4】
前記導線の少なくとも一部を絶縁体により被覆し、又は、前記コアの軸方向において隣接する前記導線の間に絶縁体を配設したことを特徴とする請求項3記載のコイル装置。」

第3 原査定の理由の概要
1.平成27年6月16日付拒絶理由の概要は次のとおりである。
「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献
7.特開昭52-103633号公報
8.特開2001-178052号公報
9.特開2004-363514号公報
10.特開2005-228984号公報
11.特開2008-085077号公報

●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
・請求項 1-4,8
・引用文献等 7
・備考
引用文献7には、平板状の導体をコアに合うように切り抜いたもの、すなわち、平板状にしてほぼ口字形の導体の一辺に切目を設けて辺a,bを形成した第1導電素子を複数枚重ね合わせ、上層の導電素子の辺bは、次層の導電素子の辺aに接合されることにより、コイルを形成する構成が記載されている(特に第1図、第2図等参照)。平板状、かつコアの形状に合わせた口字形の導体に切れ目を設けて切り開いた導体が、コアの周囲長に対し一周以下であることは明らかである。

・請求項 1-4,8
・引用文献等 8
・備考
引用文献8には、L字状、コ字状、または一部に分断部を設けたロ字状となした板片を打ち抜き、順次溶接接続してコイルを形成するものが記載されている。特にL字状、コ字状の場合に、コアの周囲長に対し一周以下であることは明らかである。

●理由2(進歩性)について
・請求項 5-6,9-10
・引用文献等 7-9
・備考
引用文献9には、環状で一部が切欠部によって始端と終端とに分断された複数の環状導体を積層して、隣接する環状導体と順次接合して螺旋状に連続する電気機器用コイルを構成するものにおいて、各導体の断面積が等しいまま、導体の幅方向の寸法及び厚さ方向の寸法を変化させることで、螺旋状に接続形成された電気機器用コイルの外形寸法をテーパ状に形成し、ステータのコア間のスロットでの占有率を向上し得る構成が記載されている(段落[0035]-[0041],第4図,第5図等参照)。引用文献9に記載のものは、隣接する環状導体同士を厚さ方向で接合するものであるが、かかる接合部の構造として引用文献7または8に記載された導線部材の長さ方向において隣接接合させる構成を適用して、請求項5-6,9-10に係る発明をすることは当業者が容易に想到し得る。

・請求項 7
・引用文献等 7-11
・備考
引用文献7または8に記載のものは、絶縁層を設けることについては記載されていないが、トランスや、回転子コイルとして用いる導体に絶縁層を被覆したり、または、導体間に絶縁体を配設することは、当業者が通常行うことである。例えば、リング状の平角導体を積層、接続してコイルを形成するものにおいて、導体に絶縁被覆層を形成することは、引用文献10または11に記載されているように周知の技術事項にすぎない。」

2.原査定のコメントの概要は以下のとおりである。
「この出願については、平成27年 6月16日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

●理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-4
・引用文献等 7-15
出願人は意見書において、導線同士の接合に関し、引用文献7には具体的な記載がなく、引用文献8では溶接により接合し、引用文献9では溶接またはろう付けにより接合しているのに対し、本願発明のものは圧接して接合するものである点で相違する旨主張している。
しかしながら、モータにおいて、略コ字状の、断面矩形の板状導体を複数連結して固定子鉄心に巻装された励磁コイルを形成するものにおいて、各板状導体を圧接のみで連結することは、例えば新たに提示する引用文献12の段落[0014],第5図-第11図等に記載されているように周知の技術事項にすぎない。また、モータのコイルに関する技術分野において、導体同士、または、導体と他の部材とを接続固定する方法として、溶接、接着、圧接、はんだ付け、ろう付け等の接続方法はいずれも周知の技術といわざるを得ず(例えば、引用文献13(請求項9)、引用文献14(段落[0020])、引用文献15(段落[0002])など。)、これらのいずれの手法を採用するかは当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
してみれば、先の引用文献7-9に記載されたものにおいて、モータの技術分野において導体を接続する際の、周知の接続手法の一つであるところの、圧接による接合を採用して、本願請求項に係る発明をすることは当業者が容易に想到し得たものである。

引用文献
7.?11.は、平成27年6月16日付の拒絶理由通知書の引用文献7.?11.と同じ
12.特開2006-050853号公報
13.特開2007-181303号公報
14.特開2007-135339号公報
15.特開2006-204029号公報」

第4 当審の判断
1.引用文献の記載事項及び引用発明
(1)原査定の拒絶理由に引用された特開2001-178052号公報(原査定の引用文献8、以下、「刊行物1」という。)には、「回転電機の回転子コイルの製造方法」として、図面とともに以下の事項が記載されている(下線部は当審付加)。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、回転電機の回転子コイルの製造方法に係わり、特に突極同期機の単層界磁巻線の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図5は、突極同期機の単層界磁巻線の断面を示したもので、磁極1に界磁巻線2が装着される。この界磁巻線2の製造方法としては、図6で示すように平角銅を2A?2Dと短冊状に切断し、その短冊を溶接して界磁コイルとするのが一般的である。」

イ.「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の第1は、銅板を切断した複数枚の板片を溶接して回転電機の回転子コイルを製造するものにおいて、前記銅板よりL字状に板片を打ち抜き、打ち抜いた2枚の板片の同寸法方向が平行するよう少なくとも1カ所を溶接して1ターン分のコイルとしたことにある。

ウ.「【0008】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の実施形態を示す第1の実施例である。10は素材の銅板で、この銅板からL字状の板片11が11a,11b…のように順次打ち抜きや切り出しによって製作される。この実施例のように、銅板10から板片11を打ち抜くとき、L字状を傾斜するようにすれば、材料歩留まりよく切断することが出来る。切断された板片11は、図2で示すように2枚同寸法が平行方向となるよう配置してその一箇所Y部を溶接して1ターン分のコイルを製作する。YN部は、次のターンのコイルとの溶接箇所で、順次これを繰り返すことによって螺旋状の積層された界磁コイルが出来上がる。したがって、この実施例によれば1ターン分のコイルは1溶接で製作でき、従来と比較して大幅に溶接回数が減少できる。」

上記ア.には、図5が【従来の技術】に続いて記載されているが、当該ア.の記載によれば、本発明は、特に「突極同期機の単層界磁巻線」の製造方法に関するものであり、図5はこの「突極同期機の単層界磁巻線」の例を示すものであって、従来の技術としてのみ示されるものではない。
そして、図5において「2界磁巻線」の引き出し線が付された部分に図示されるように、界磁巻線の断面は矩形状の断面形状を有する。

上記ウ.の「Y部」及び「YN部」は、図2も参照すると、1ターン分のコイルとなる板片端部同士の溶接が行われる箇所、及び、次のターンのコイルの端部と対向する端部同士の溶接が行われる箇所であるから、上記ウ.には、銅板よりL字状に切断された板片の2枚同寸法が平行方向となるよう配置して、対向する端部Y同士を溶接して1ターン分のコイルとし、次のターンのコイルの端部と対向する端部YN同士を溶接することを繰り返すことで、螺旋状の積層された界磁コイルが出来上がることが示されているといえる。
また、上記ウ.の「螺旋状の積層された界磁コイルが出来上がる。」の記載における「界磁コイル」は、上記ア.の、界磁巻線2を構成するコイルであるといえる。

したがって、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「銅板を切断した複数枚の板片を溶接してコイルを製造し磁極1に装着される矩形状の断面形状を有する界磁巻線2であって、
前記銅板よりL字状に切断された板片の2枚同寸法が平行方向となるよう配置して、対向する端部Y同士を溶接して1ターン分のコイルとし、次のターンのコイルの端部と対向する端部YN同士を溶接することを繰り返すことで、螺旋状に積層された界磁巻線2を構成するコイル。」

(2)原査定の拒絶理由に引用された特開昭52-103633号公報(原査定の引用文献7、以下、「刊行物2」という。)には、「大電流高周波トランス」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「第1図において(1)は1次巻線用の第1導電素子を示すもので、平板状の銅板をほぼ口字形に打ち抜き、1辺に切目(2)を入れ、辺a、bに分離する。この導電素子(1)を直列コイルに形成するためには第2図に示すように導電素子(1)、(1)’、(1)”、・・・をサンドウィッチ状に絶縁して重ね合わせ、導電素子(1)の辺bを、導電素子(1)’の辺aと接合し、さらに導電素子(1)’の辺bを、導電素子(1)”の辺aと接合する。このように1次巻線は、重なり合う導電素子の辺aとbとを交互に接合して素子を直列に接続する。」(第2頁左上欄13行?右上欄3行)

上記記載及び図面を参照すると、刊行物2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「平板状の銅板をほぼ口字形に打ち抜き、1辺に切目を入れて辺a、bに分離した導電素子(1)、(1)’、(1)”、・・・をサンドウィッチ状に絶縁して重ね合わせ、導電素子(1)の辺bを、導電素子(1)’の辺aと接合し、さらに導電素子(1)’の辺bを、導電素子(1)”の辺aと接合することで、重なり合う導電素子の辺aとbとを交互に接合して素子を直列に接続して巻線を構成すること。」

(3)原査定の拒絶理由に引用された特開2004-363514号公報(原査定の引用文献9、以下、「刊行物3」という。)には、「電気機器用コイル及び製造方法」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【0035】
(第2実施の形態)
図4及び図5は本発明の第2実施の形態を示すもので、図4は本実施の形態のコイル20の斜視図であり、図5は図1のB矢視図である。
【0036】
電気機器用コイル20は平形の導体である環状導体21?27の有し、各環状導体21?27は、銅或いはアルミニウム等の導電性材料製で、それぞれ図示しない柱状で矩形断面のコアが貫通する略矩形の貫通孔が開口すると共にコイル軸線方向aと直交する外形形状が角形で厚さ方向の寸法に対して幅方向の寸法が大きい断面長方形で連続する環状に形成されている。
【0037】
各環状導体21?27は、第1実施の形態と同様に一部が切欠部21A?27Aによって始端21a?27aと終端21b?27bに分断されている。これら各環状導体21?27はそれぞれの断面積が等しく、積層された環状導体21から環状導体27に移行するに従って順に厚さ方向の寸法が順次増大する一方、幅方向の寸法が順次減少している。
【0038】
各環状導体21?27に形成される切欠部21A?27Aは、環状導体21?27を順に積層した状態で、その位置が環状導体21から環状導体27に移行するに従って順次ずらして配列され、かつ隣接する環状導体21の終端21bと環状導体22の始端22aが重なって当接し、同様に環状導体22の終端22bと環状導体23の始端23a、環状導体23の終端23bと環状導体24の始端24a、環状導体24の終端24bと環状導体25の始端25a、環状導体25の終端25bと環状導体26の始端26a、環状導体26の終端26bと環状導体27の始端27aがそれぞれ重なって当接するように形成されている。
【0039】
これら環状導体21?27は、環状導体成形工程において、それぞれ環状導体21?27に相応した厚さの導電性材料製平板をプレス加工することによって成形でき、これら複数形状の環状導体21?27は、生産性に優れたプレス加工によって容易にかつ安価に製造することができる。
【0040】
このように形成された環状導体21?27は、その後の接合工程において、環状導体21上に環状導体22が積層され、互いに重なって当接する環状導体21の終端21bと環状導体22の始端22aが環状導体22の切欠部22A内における溶接或いはろう付け等の接合手段28によって接合される。同様に、順次、環状導体22上に環状導体23を積層して環状導体23の切欠部23A内における接合手段28によって終端22bと始端23aを接合し、環状導体23上に環状導体24を積層して環状導体24の切欠部24A内に
おける接合手段28によって終端23bと始端24aを接合し、更に環状導体24上に環状導体25を積層して環状導体25の切欠部25A内における接合手段28によって終端24bと始端25aを接合し、環状導体25上に環状導体26を積層して環状導体26の切欠部26A内における接合手段28によって終端25bと始端26aを接合し、環状導体26上に環状導体27を積層して環状導体27の切欠部27A内における接合手段28によって終端26bと始端27aを接合して環状導体21?27の平形導体が螺旋状に順次連続形成され、環状導体21の始端21aと環状導体27の終端27bが開放端となる。なお、隣接する環状導体21と環状導体22、環状導体22と環状導体23、環状導体23と環状導体24、環状導体24と環状導体25、環状導体25と環状導体26、環状導体26と環状導体27の間はそれぞれ絶縁処理されている。
【0041】
このように構成された本実施の形態によると、第1実施の形態に加え、環状導体21から環状導体27側に移行するに従って電気機器用コイル20の外形寸法が次第に縮小するテーパ状に形成できる。換言すると環状導体27から環状導体21側に移行するに従って外形寸法が次第に増大するテーパ状に形成でき、例えばモータのステータコイルとして用いることにより、ステータのコア間のスロットを最小限の放熱通路を残して各コアへ装着でき、モータ効率が向上でき、モータの小型化、軽量化及び製造コストの低減を図ることができる。また、同様に発電機等の回転機器や他の電気機器に使用することによってその電気機器の小型化、軽量化及び製造コストの低減を図ることもできる。」

上記記載及び図面を参照すると、刊行物3には、以下の発明が記載されていると認められる。

「平形の導体である環状導体21?27を有し、
各環状導体21?27は、柱状で矩形断面のコアが貫通する略矩形の貫通孔が開口し、
互いに重なって当接する環状導体21の終端21bと環状導体22の始端22aが環状導体22の切欠部22A内における溶接或いはろう付け等の接合手段28によって接合され、順次接合されることで、環状導体21?27の平形導体が螺旋状に順次連続形成され、
環状導体21から環状導体27側に移行するに従って電気機器用コイル20の外形寸法が次第に縮小するテーパ状に形成され、
各環状導体21?27の間はそれぞれ絶縁処理されている電気機器用コイル20。」

(4)原査定の拒絶理由に引用された特開2005-228984号公報(原査定の引用文献10、以下、「刊行物4」という。)には、「リング状絶縁板及び該絶縁板を用いたコイル」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、耐電圧性及び耐熱性に優れたリング状絶縁板及び該絶縁板を用いた耐電圧性及び耐熱性に優れたコイルを提供することを目的とする。また、耐電圧性、耐熱性及び加工耐性に優れたリング状絶縁板及び該絶縁板を用いた耐電圧性及び耐熱性に優れた小型・軽量のコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の目的を達成すべく鋭意研究した結果、ポリイミドの主鎖中にシロキサン結合を含有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを主成分とする電着液を電着して得られる絶縁被膜は耐電圧性に優れるとともに、耐熱性が極めて高く、しかも、優れた可撓性を示すことを知見し、該知見に基き本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)断面形状が平角状の導電板であって、平面形状が開放部を有するリング状の平板部を含む導電板の少なくとも前記リング状の平板部の表面に絶縁被覆層を設けたリング状絶縁板であって、
前記絶縁被覆層が、ポリイミドの主鎖中にシロキサン結合を含有し、かつ、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドの電着被膜からなることを特徴とする、リング状絶縁板。
(2)導電板が打ち抜き加工によって作製されたものである、上記(1)記載のリング状絶縁板。
(3)導電板の平面形状が開放部を有するリング状の平板部が複数のコーナー部を有するリング状である、上記(1)又は(2)記載のリング状絶縁板。
(4)導電板へのブロック共重合ポリイミドの電着後、導電板のブロック共重合ポリイミドの電着被膜による絶縁被覆層が形成された部分に折曲げ加工が施されたものである、上記(1)?(3)のいずれか一項記載のリング状絶縁板。
(5)導電板が、平面形状が開放部を有するリング状の平板部と、該平板部の一部より該平板部と同一平面内に延設された端子用の延長平板部とを有し、該端子用の延長平板部の軸線方向の先端に区画した端子部を除いて、ブロック共重合ポリイミドの電着被膜による絶縁被覆層で該導電板の表面が被覆されており、かつ、ブロック共重合ポリイミドの電着後に導電板の前記端子部の近傍に折曲げ加工が施されて、前記端子部の軸線と前記リング状の平板部の軸線とが異なる平面内に配置されている、上記(1)?(3)のいずれか一項記載のリング状絶縁板。
(6)上記(1)?(5)のいずれか一項記載のリング状絶縁板の1枚からなるか、または該リング状絶縁板を複数枚積層してなるコイル。
(7)トランス用である、上記(6)記載のコイル。」

上記記載及び図面を参照すると、刊行物4には、以下の事項が記載されていると認められる。

「断面形状が平角状の導電板であって、平面形状が開放部を有するリング状の平板部を含む導電板の少なくとも前記リング状の平板部の表面に絶縁被覆層を設けたリング状絶縁板を複数枚積層してなるコイル。」

(5)原査定の拒絶理由に引用された特開2008-85077号公報(原査定の引用文献11、以下、「刊行物5」という。)には、「リング状絶縁コイル板およびその製造方法」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近時の電子機器の小型化にともない、コイル板も小型化し、電着処理を施すときの電解密度の不均一性が大きくなっている。とりわけ、コイル板の角部付近などにおいて電解密度が低くなり、特許文献1の技術を適用しても絶縁被覆層の厚さが変動しがちである。本発明の課題は、小型の製品であっても絶縁被覆層の厚さが高い次元で均一化し得る、リング状絶縁コイル板の製造方法およびリング状絶縁コイル板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の特徴を有する。
(1)断面形状が平角状でありかつ平面形状が開放部を有するリング状の導電板の表面に絶縁被覆層を形成する工程を有するリング状絶縁コイル板の製造方法であって、絶縁被覆層は非エマルジョン型のカチオン電着塗料の電着によって形成される、前記製造方法。
(2)カチオン電着塗料がエポキシ系カチオン電着塗料である(1)記載の製造方法。
(3)上記導電板の開放部の幅が0.1?5.0mmであり、該開放部に面する導電板の厚さが0.05?10mmである、(1)または(2)記載の製造方法。
(4)(1)?(3)のいずれかに記載の製造方法によって製造されるリング状絶縁コイル板。」

上記記載及び図面を参照すると、刊行物5には、以下の事項が記載されていると認められる。

「断面形状が平角状の導電板でありかつ平面形状が開放部を有するリング状の導電板の表面に絶縁被覆層を形成したリング状絶縁コイル板。」

(6)原査定時に周知技術文献として引用された特開2006-50853号公報(以下、「刊行物6」という。)には、「モータ」として、図面とともに以下の事項が記載されている(下線部は当審付加。)。

ア.「【0012】
図5及び図6は、本発明の実施の形態に係る励磁コイル1を示すもので、図5は励磁コイルの構成を示す分解斜視図、図6は励磁コイルの4種の略コ字状導体の連結状態説明図である。
図5及び図6に示すように、励磁コイル1は、負荷側の下層部を構成する板状導体1A、負荷側の上層部を構成する板状導体1B、反負荷側の下層部を構成する板状導体1C、および反負荷側の上層部を構成する板状導体1Dの4種の略コ字状導体から構成されており、これらの4種の板状導体により励磁コイル1の1ターンが構成され、詳細な形状は各ターン毎に変化するが、この4種の板状導体を繰返し所望のターン数積層することで励磁コイル1を構成する。
【0013】
4種の板状導体は、例えば、片面のみ絶縁皮膜を施された銅板をプレスで打ち抜いたり、又は成形後片面のみ吹付けにより絶縁皮膜を施され製作される。板状導体1Aと1Cは下面が絶縁面であり、板状導体1Bと1Dは上面が絶縁面である。板状導体1A、1B、1C、1Dの順序で略コ字状導体の2つの端部をスロット内に、板状導体1A、1Bは負荷側より、板状導体1C、1Dは反負荷側より装着する。板状導体1A、1Bを軸方向に見ると形状が円弧状を成しており、固定子鉄心に装着後は、図4に示すようにコイルエンド部1eの外周と内周が各々一円筒面上に形成される。板状導体1C、1Dは、反負荷側のコイルエンド部1eにおいて1層上のターンに連結するための形状を成し、スロット部2d内で1層上のターンの板状導体1A、1Bに連結する。
【0014】
図6は最下層から2番目のターンを構成する4種の略コ字状導体の連結状態を、2つの軸方向と2つの周方向から見た図として示すものである。通電が仮に下層から上層になされるとし、通電経路を図6を用いて説明すれば、板状導体1Bの右端の下面を通して板状導体1Bに入った電流は、絶縁のない下面より同じく絶縁のない板状導体1Aの上面を通して板状導体1Aにも入り、板状導体1A、1Bを左に流れる。板状導体1Aの左端の上面より、板状導体1Dの右端の下面を通して入った電流は、絶縁のない下面より同じく絶縁のない板状導体1Cの上面を通して板状導体1Cにも入り、板状導体1C、1Dを左に流れる。電流は、板状導体1Cの左端の上面より板状導体1Bの右端の下面を通して1層上のターンに流れる。これを繰返すことで電流の通電が下層から上層になされるのである。各ターン間の絶縁は、板状導体1A、1Cの下面の絶縁、板状導体1B、1Dの上面の絶縁により確保される。
以上の説明は、各板状導体を圧接のみで連結した場合であるが、導電性接着材やハンダを用いて、図中の板状導体1Aと1C、板状導体1Bと1Dの対面する端部を連結すれば、通電は常に2つの導体を経路として通電される。」

上記記載及び図面を参照すると、刊行物6には、以下の事項が記載されていると認められる。

「4種の板状導体1A、1B、1C、1Dを繰返し所望のターン数積層することで構成される励磁コイル1であって、
板状導体1Aと1Cは下面が絶縁面であり、板状導体1Bと1Dは上面が絶縁面であり、
各板状導体の絶縁のない面が通電経路となり、圧接、導電性接着材やハンダを用いて、板状導体1Aと1C、板状導体1Bと1Dの対面する端部を連結することによって、常に2つの導体を経路として通電される励磁コイル1。」

(7)原査定時に周知技術文献として引用された特開2007-181303号公報(以下、「刊行物7」という。)には、「モータ」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【請求項9】
円周上に複数の爪形のティース磁極を有する第1のティースコア及び第2のティースコアと前記第1のティースコアと前記第2のティースコアに挟み込まれたリング状の導体が巻かれたコイルとを有する固定子と、前記固定子の内側に配置される回転子とを備え、前記導体の断面形状が略長方形形状であり、前記導体がエッジワイズ巻線により巻かれ、前記コイルの端末部分に別の断面形状を持つ導体が溶接,接着,圧接,はんだ付け、又はろう付けにより接合されていることを特徴とするモータ。」

上記記載及び図面を参照すると、刊行物7には、以下の事項が記載されていると認められる。

「コイルの端末部分に別の断面形状を持つ導体が溶接,接着,圧接,はんだ付け、又はろう付けにより接合されているモータ。」

(8)原査定時に周知技術文献として引用された特開2007-135339号公報(以下、「刊行物8」という。)には、「回転電機のステータ用バスバ結合ユニット」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【0020】
このように、ホルダー11が3種類の態様11a、11b、11cのものとされることにより、例えば、図3に示すように、外側のバスバ3aに溝12a、12b、12cが全て同一面に開口しているホルダー11aを、中間のバスバ3bに、2つの溝12b、12cが上面に開口し、他の溝12aはその反対面に開口するホルダー11bを、内側のバスバ3cに、1つの溝12cが上面に開口し、他の2つの溝12a、12bはその反対面に開口するホルダー11cを、それぞれ周方向の6等分位にその溝12a、12b、12cに嵌め込むことにより取付ける(図2と図3は各ホルダー11の上下が逆となっている)。これらのホルダー11付きバスバ3において、各バスバ3と接続片13の接触部は溶接等によって電気的に接続する。その接続は、バスバ3をホルダー11に嵌める前に行う。
また、最内側のバスバ3dには周方向の等分位にコイルの中性点(内側端)に接続される接続片13を溶接・圧接・ロウ付け等の周知の手段によって取付ける。」

上記記載及び図面を参照すると、刊行物8には、以下の事項が記載されていると認められる。
「コイルの中性点に接続される接続片13を溶接・圧接・ロウ付け等の周知の手段によって取付けること。」

(9)原査定時に周知技術文献として引用された特開2006-204029号公報(以下、「刊行物9」という。)には、「線材と被接続材との接続固定構造」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【0002】
コイル等の線材とバスバ等の被接続材との接続固定は、半田付け、レーザロー付け、レーザ溶接、電子ビーム溶接、超音波溶接、圧接、圧着等が一般的であり、テーパ面による締め付けを利用した電線の接続方法もある」

上記記載及び図面を参照すると、刊行物9には、以下の事項が記載されていると認められる。

「コイル等の線材とバスバ等の被接続材との接続固定は、半田付け、レーザロー付け、レーザ溶接、電子ビーム溶接、超音波溶接、圧接、圧着等が一般的であること。」

2.対比
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比する。

・トランスや電動機等、コイルによる電磁誘導を用いる電気機器において、コイルを巻き付けて磁気回路を形成する部分をコアと称することは一般的なことである。
引用発明の「磁極1」は、コイルを巻き付けて磁気回路を形成する部分に他ならず、本願発明の「コア」に相当する。

・本願発明の「コアの周りに配設されるコイル状部材」は、「コアの周りを巻くように配設される導線を有し、前記導線の長さ方向に対して垂直な断面形状は矩形状であり、」とされるものである。
一方、引用発明の「コイル」として製造されるものは、「磁極1に装着される矩形状の断面形状を有する界磁巻線2」であって、磁極1に装着することは、磁極1の周りに配設されるものといえる。
そうすると、引用発明の「コイル」は、本願発明の「コイル状部材」に相当する。
また、引用発明の「矩形状の断面形状を有する界磁巻線2」は、コイルの巻線であるから、磁極1の周りを巻くように配設される線であるといえ、また、線の長さ方向に対して垂直な断面形状が矩形状となるものでもあるから、本願発明の「導線」、また、「前記導線の長さ方向に対して垂直な断面形状は矩形状であり」に相当する。

・引用発明の「銅板を切断した複数枚の板片」は、コイルが製造される部材となるものであるから、本願発明の「導線部材」に相当する。

・引用発明の「銅板を切断した複数枚の板片」である「L字状に切断された板片」は、板片の形状を磁極1の外周形状に沿うようにするためにL字状に形成するものであるから、引用発明の「L字状に切断された」は、本願発明の「コアの周方向に沿うように形成された」に相当する。

・本願発明の「コアの周方向に沿うように形成された前記導線の1周以下の長さの複数の導線部材を連続して導線部材の長さ方向において隣接させ、対向する端部同士を圧接して接合する」ことは、導線の1周以下の長さの複数の導線部材を隣接させ、対向する端部同士を接合することで、コアの周りを巻くように導線を形成するものといえる。
一方、引用発明の「銅板よりL字状に切断された板片の2枚同寸法が平行方向となるよう配置して、対向する端部Y同士を溶接して1ターン分のコイルと」することは、板片2枚の長さがコイルの1ターン分の長さであると共に、2枚が平行方向となるよう配置された状態で端部同士を接合することで磁極1に装着されるコイルを形成するものである。
したがって、引用発明の「銅板よりL字状に切断された板片の2枚同寸法が平行方向となるよう配置して、対向する端部Y同士を溶接して1ターン分のコイルと」することと、本願発明の「コアの周方向に沿うように形成された前記導線の1周以下の長さの複数の導線部材を連続して導線部材の長さ方向において隣接させ、対向する端部同士を圧接して接合する」こととは、「コアの周方向に沿うように形成された導線の1周以下の長さの複数の導線部材を連続して導線部材の長さ方向において隣接させ、対向する端部同士を接合する」点において共通する。

・引用発明の「YN部で次のターンのコイルの端部と対向する端部を溶接することを繰り返すことで、螺旋状に積層され」は、1ターン毎に磁極1の軸方向に位置がずれて螺旋状に積層されるものであるから、本願発明の「導線は、1周毎に、コアの軸方向に位置がずれており」に相当する。

・引用発明の「銅板よりL字状に切断された板片の2枚同寸法が平行方向となるよう配置」することは、L字状の板片2枚を平行方向とすることで、刊行物1の図2に示されるごとく、磁極1の形状に合わせた内周形状、つまり、磁極1を軸方向から見た矩形状の形状に対応させるものであるから、本願発明の「1周におけるコアの軸方向から見た内周形状は矩形状」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「コアの周りに配設されるコイル状部材であって、
コアの周りを巻くように配設される導線を有し、
前記導線の長さ方向に対して垂直な断面形状は矩形状であり、
前記導線は、コアの周方向に沿うように形成された前記導線の1周以下の長さの複数の導線部材を連続して導線部材の長さ方向において隣接させ、対向する端部同士を接合することにより構成され、
前記導線は、1周毎に、コアの軸方向に位置がずれており、
1周におけるコアの軸方向から見た内周形状は矩形状である、コイル状部材。」

<相違点1>
導線部材を連続して導線部材の長さ方向において隣接させ、対向する端部同士を接合することに関して、本願発明は、「圧接して」接合するのに対し、引用発明は、溶接による接合を行うものである点。

<相違点2>
本願発明は「コアの軸方向の一方から他方に向かい、コアの周方向の少なくとも一部において、前記導線の幅が広くなるように、前記各導線部材の幅を変化させて接合するか、又は、コアの軸方向の一方から他方に向かい、前記導線の高さが低くなるように、前記各導線部材の高さを変化させて接合した」ものであるのに対し、引用発明は、板片の幅や高さを変化させることは示されていない点。

3.検討
上記相違点1について検討する。
引用発明は、導線部材の対向する端部同士を溶接により接合するものであり、溶接以外の接合方法が開示されるものでも示唆されるものでもない。
そして、刊行物2?5には、圧接による接続が開示されるものでも示唆されるものでもない。
一方、刊行物6には「4種の板状導体1A、1B、1C、1Dを繰返し所望のターン数積層することで構成される励磁コイル1であって、
板状導体1Aと1Cは下面が絶縁面であり、板状導体1Bと1Dは上面が絶縁面であり、
各板状導体の絶縁のない面が通電経路となり、圧接、導電性接着材やハンダを用いて、板状導体1Aと1C、板状導体1Bと1Dの対面する端部を連結することによって、常に2つの導体を経路として通電される励磁コイル1。」として、各板状導体の絶縁のない面が通電経路となり、圧接により、板状導体の対面する端部を連結することが開示されている。
しかし、刊行物6の技術は、板状導体の面同士を接合する技術であり、つまり、積層方向の接続が示されるのみであるから、本願発明の「導線部材の長さ方向において隣接」させた際の「対向する端部同士」の接続に圧接が用いられることを開示するものではないし、示唆するものでもない。
さらに、刊行物7には「コイルの端末部分に別の断面形状を持つ導体が溶接,接着,圧接,はんだ付け、又はろう付けにより接合されているモータ。」が、刊行物8には「コイルの中性点に接続される接続片13を溶接・圧接・ロウ付け等の周知の手段によって取付ける。」ことが、刊行物9には「コイル等の線材とバスバ等の被接続材との接続固定は、半田付け、レーザロー付け、レーザ溶接、電子ビーム溶接、超音波溶接、圧接、圧着等が一般的である。」ことがそれぞれ開示されているが、刊行物7?9には、コイルの線材と、引き出し線とを接合する際に圧接を用いることが開示されるにとどまり、コイルの線材の対向する端部同士の接合に関し、圧接を用いるものではないから、本願発明の「導線部材」の「対向する端部同士」の接続に圧接が用いられることを開示するものではないし、示唆するものでもない。
そうすると、相違点1は、引用発明、また、刊行物2?9の記載から導き出すことはできないものである。
そして、本願発明では圧接を用いることで、引用発明の溶接とは異なり、熱を用いることなく、導線部材の対向する端部同士を接合させることで、コイル状部材であって、コアの周りを巻くように配設される導線を構成することができるという効果を奏するものである。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明及び刊行物2?9に開示される技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。

なお、原査定の理由では、刊行物2に記載された発明を引用発明とすることも示されているが、刊行物2には、各導電素子(1)、(1)’、(1)”、・・・同士を接合する際に圧接を用いることは記載されていないから、少なくとも上記相違点1と同様の相違点を有することになり、たとえ、刊行物2に記載された発明を引用発明としたとしても、同様の理由により、本願発明は、刊行物2に記載された発明及び刊行物1、3?9に開示される技術事項から当業者が容易になし得たものということはできない。
また、原査定は「先の引用文献7-9に記載されたものにおいて・・・省略・・・」とコメントされるように、刊行物3に記載された発明を引用発明とするものでもあるが、刊行物3の各環状導体21?27は、終端と始端とが溶接或いはろう付け等の接合手段28によって接合されるものであって、圧接を用いることは記載されていないから、少なくとも上記相違点1と同様の相違点を有することになり、たとえ、刊行物3に記載された発明を引用発明としたとしても、同様の理由により、本願発明は、刊行物3に記載された発明及び刊行物1、2、4?9に開示される技術事項から当業者が容易になし得たものということはできない。

そして、本願の請求項1を引用し、さらに限定を付加する請求項2に係る発明も、上記と同様の理由により、引用発明及び刊行物2?9に開示される技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
また、本願の請求項3は、本願の請求項1と同じ「前記導線は、前記コアの周方向に沿うように形成された前記導線の1周以下の長さの複数の導線部材を連続して導線部材の長さ方向において隣接させ、対向する端部同士を圧接して接合することにより構成され」という発明特定事項を有するものであるから、少なくとも上記相違点1と同様の相違点を有するものである。
したがって、本願の請求項3に係る発明、及び、同請求項3を引用し、さらに限定を付加する請求項4に係る発明についても、上記と同様の理由により、引用発明及び刊行物2?9に開示される技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
さらに、刊行物2又は3に記載された発明を引用発明としたとしても、請求項2?4に対する判断は同様である。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1?4に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?9に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということも、刊行物2に記載された発明及び刊行物1、3?9に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということも、刊行物3に記載された発明及び刊行物1、2、4?9に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2014-521427(P2014-521427)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 下原 浩嗣  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 中川 真一
矢島 伸一
発明の名称 コイル状部材及びコイル装置  
代理人 吉川 まゆみ  
代理人 藤木 博  

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