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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21D
管理番号 1322747
審判番号 不服2016-3255  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-03 
確定日 2017-01-10 
事件の表示 特願2012-201049「脱塩水を使用して原子炉冷却水サンプルの酸素濃度を調節する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月18日出願公開、特開2013- 68614、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年(2012年)9月13日(パリ条約による優先権主張 2011年9月23日 米国)を出願日とする出願であって、平成26年9月25日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成27年5月21日付け(発送 同年6月2日)で拒絶理由(最後)が通知され、同年8月28日付けで意見書が提出されたが、同年10月26日付け(送達 同年11月4日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成28年3月3日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年3月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
本件補正により、本件補正前の(平成26年12月24日付けの手続補正により補正された)特許請求の範囲である、
「【請求項1】
原子力発電所内の原子炉冷却水側流の酸素濃度を調節する方法であって、
電気化学的腐食電位(ECP)センサの上流の位置で、前記原子炉冷却水側流(202)を送る管(200)内に脱塩水(214)を注入して、酸素濃度の上昇した酸化流(224)を作り出すステップを含む、方法。
【請求項2】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)より酸素が少なくとも20倍多い、既知の酸素濃度の前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)に前記脱塩水(214)を添加することを含み、前記原子炉冷却水側流(202)は100ppb未満の酸素を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)に、少なくとも2000ppbの酸素を有する前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記脱塩水(214)の注入後に前記酸化流(224)の温度が少なくとも400°F(204.4℃)であるように、前記脱塩水(214)の流量を調節することを含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記脱塩水(214)の注入後に前記酸化流(224)中の水素対酸素のモル比が2より大きいように、前記脱塩水(214)の流量を調節することを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
脱塩水を注入する前記ステップは、原子炉の下流かつ浄化システムまたは再循環システムの上流の位置で、前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)を送る前記管(200)内に、電気化学的腐食電位(ECP)センサの上流の、前記管(200)の直径の少なくとも10倍の距離である位置で、前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)の流量の10%以下の流量で、前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。」
から、本件補正後の特許請求の範囲である、
「【請求項1】
オンラインノーブルケム法実施時における、原子力発電所内の原子炉冷却水側流の酸素濃度を調節する方法であって、
原子炉の下流かつ浄化システムまたは再循環システムの上流かつ電気化学的腐食電位(ECP)センサの上流の位置で、前記原子炉冷却水側流(202)を送る管(200)内に脱塩水(214)を注入して、酸素濃度の上昇した酸化流(224)を作り出すステップを含む、方法。
【請求項2】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)より酸素が少なくとも20倍多い、既知の酸素濃度の前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)に前記脱塩水(214)を添加することを含み、前記原子炉冷却水側流(202)は100ppb未満の酸素を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)に、少なくとも2000ppbの酸素を有する前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記脱塩水(214)の注入後に前記酸化流(224)の温度が少なくとも400°F(204.4℃)であるように、前記脱塩水(214)の流量を調節することを含む、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記脱塩水(214)の注入後に前記酸化流(224)中の水素対酸素のモル比が2より大きいように、前記脱塩水(214)の流量を調節することを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)を送る前記管(200)内に、電気化学的腐食電位(ECP)センサの上流の、前記管(200)の直径の少なくとも10倍の距離である位置で、前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)の流量の10%以下の流量で、前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。」
に補正された(下線は、請求人が付与したとおりであり、補正箇所を示す。)。

2 補正の内容
(1)補正事項1
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「オンラインノーブルケム法実施時における、原子力発電所内の原子炉冷却水側流の酸素濃度を調節する方法であって、
原子炉の下流かつ浄化システムまたは再循環システムの上流かつ電気化学的腐食電位(ECP)センサの上流の位置で、前記原子炉冷却水側流(202)を送る管(200)内に脱塩水(214)を注入して、酸素濃度の上昇した酸化流(224)を作り出すステップを含む、方法。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含んでいる。

(2)補正事項2
本件補正は、特許請求の範囲の請求項7ないし9を、
「【請求項7】脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)を送る前記管(200)内に、電気化学的腐食電位(ECP)センサの上流の、前記管(200)の直径の少なくとも10倍の距離である位置で、前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】脱塩水を注入する前記ステップは、前記原子炉冷却水側流(202)の流量の10%以下の流量で、前記脱塩水(214)を添加することを含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。」
とする補正(以下、「補正事項2」という。)を含んでいる。

3 補正の適否
(1)補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「原子炉冷却水側流(202)を送る管(200)内に脱塩水(214)を注入して、酸素濃度の上昇した酸化流(224)を作り出すステップ」について、当該ステップを実施する時を「オンラインノーブルケム法実施時」と限定するとともに、脱塩水を注入する位置を「原子炉の下流かつ浄化システムまたは再循環システムの上流」(補正前の請求項7)と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

(2)補正事項2について
補正事項2は、平成27年5月21日付けの拒絶理由の「理由1(明確性)」で指摘された事項を解消するため、上記補正事項1で請求項1に請求項7の構成を付加したことに伴い請求項7を削除し、補正前の請求項8及び9をそれぞれ、請求項7及び8とする補正である。
したがって、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。

4 そこで、本件補正後の請求項1ないし8に記載された発明(以下、それぞれを「本件補正発明1」ないし「本件補正発明8」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。
(1)特許法第36条第6項第2号について
ア 上記「2」の補正事項により、「オンラインノーブルケム法実施時における、原子力発電所内の原子炉冷却水側流の酸素濃度を調節する方法」であること、及び、「原子炉の下流かつ浄化システムまたは再循環システムの上流かつ電気化学的腐食電位(ECP)センサの上流の位置で、前記原子炉冷却水側流(202)を送る管(200)内に脱塩水(214)を注入して、酸素濃度の上昇した酸化流(224)を作り出す」ことにより、本願の発明の詳細な説明に記載された、「オンラインノーブルケム法の有効性を評価するために、監視システム230が使用され」るが、「ある状況では」、「原子炉冷却水中の酸素不足により、比較的低い可能性がある」ことを「考慮して、原子炉冷却水側流202の電気化学的腐食電位測定値を軽減の直接評価として用いることができることを確実にするために、脱塩水流214により、原子炉冷却水側流202に酸素が添加され」、「それにより、プラチナ注入によりもたらされる触媒効果に関連する電気化学的腐食電位の後続の低下を可能に」し、「結果として、オンラインノーブルケム法の有効性は評価され得る」(段落【0031】?【0033】)という技術的な課題が解決され、作用効果が生じるものであることが明確となった。
したがって、本件補正発明1は、特許を受けようとする発明が明確である。

イ また、本件補正発明2の「酸素が少なくとも20倍多い」点は、発明の詳細な説明の「原子炉冷却水側流202は、約100ppb未満の酸素濃度を有していてもよい」(段落【0027】)との記載、及び、当該分野における技術的常識を踏まえれば、不明確とまではいえない。
そして、本件補正発明3ないし8に特許を受けようとする発明が明確でない点は見当たらない。

ウ したがって、本件補正発明1ないし8は、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号に該当しない。

(2)特許法第29条第2項について
ア 刊行物の記載事項
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭62-140099号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
a 「〔発明の技術分野〕
本発明は、例えば、沸騰水型の原子力発電所における原子炉の配管等に酸化皮膜を生成する原子力発電プラントの防蝕皮膜生成方法(プレフィルミング運転方法)及びその装置に関する。」(1頁右下欄10?14行)

b 「以下、本発明の作用について説明する。
今、原子炉の最初の起動以前に、プレフィルミング運転を実施して防蝕皮膜を生成する場合。
予め、原子炉1を満水状態しておく。次に、再循環ポンプ2及びC.R.Dポンプ11を駆動し、上記原子炉の圧力を高圧に維持したまゝ、再循環ポンプ2の回転数を上昇させ、この再循環ポンプ2のジュール熱を利用して上記原子炉水温度を上昇させる。原子炉水温度上昇に伴い、炉水の熱膨脹による原子炉圧力が上昇すると、圧力センサ12からの信号により、流量調整弁10が絞り込まれ、原子炉1の圧力を一定に維持しつゝ、原子炉水温度が上昇する。
原子炉水温度を通常原子炉の運転時の約280℃程度に維持するためには、原子炉1では、飽和温度が280℃以上になるように、高圧状態を維持する必要があるが、このような高温・高圧状態では、原子炉1の一次冷却系4を構成するステンレス材の配管に対する高い溶存酸素下の応力腐蝕割れの見地から、原子炉水溶存酸素を制御することが不可欠であり、しかも、緻密な防蝕性に富む酸化皮膜を形成する上で、原子炉水溶存酸素濃度を可能な限り高く維持することが望まれる。
一方、通常原子炉運転中において、原子炉水溶存酸素は、冷却水の放射線分解作用で約200?300PPbとなっており、ステンレス材による応力腐蝕割れを防止するための維持基準値は400PPb以下となっている。
そこで、上述した点を考慮し、原子炉溶存酸素を400PPbに維持するためには、原子炉1へ供給される制御棒駆動系冷却水の溶存酸素濃度を制御し、これによって原子炉水溶存酸素を制御する。
即ち、真空エゼクタ25を用いて復水器ホットウェル17aを真空状態に維持し、脱気水を生成すると共に、復水ポンプ20aを駆動して、復水を復水フィルタ21及び復水脱塩塔12で浄化し、給水再循環系20を経て連続的に再循環浄化しておく。
次に、復水脱塩塔22の吐出がわに接続した回収ライン23を用いて浄化脱気水の一部をC.R.Dポンプ11の水源とすると共に、このC.R.Dポンプ11の吸込みがわに飽和溶存酸素の脱塩水を脱塩水供給管9から供給し、上記脱気水と飽和溶存酸素の脱塩水とを混合して原子炉1へ供給すると同時に、原子炉水溶存酸素計5aでその溶存酸素濃度を監視する。又一方、原子炉水溶存酸素濃度は溶存酸素センサ5によって連続的に監視すると共に、原子炉水酸素を400PPbに維持するように、上記溶存酸素センサ5からの検出信号によって脱塩水供給弁7を制御し、これによって原子炉水溶存酸素を400PPbに制御する。
なお、こゝで、上記一次冷却系4やこれに接続された機器に緻密な防蝕性酸化皮膜を生成するために、原子炉水中の溶存酸素が消費され、原子炉溶存酸素濃度を400PPbに維持できなくなったときには、開閉弁15を開弁して酸素ガス供給源14の酸素を一次冷却系4を通して原子炉1へ供給し、原子炉水溶存酸素濃度を400PPbに制御する。
このようにして、本発明は、C.R.Dポンプ11を駆動して原子炉1を加圧すると同時に、再循環ポンプ2のジュール熱を利用して原子炉1を加熱し、高温・高圧状態を維持すると共に、制御棒駆動水冷却系9の溶存酸素濃度を制御することによって、原子炉溶存酸素を一定に維持し、原子炉1の核加熱以前に、一次冷却系4やこれらに連結された機器に防蝕性に富む緻密な酸化皮膜を生成する。」(3頁左下欄7行?4頁右上欄15行)

c 第1図は次のものである。
第1図


d 引用発明
上記aないしcによれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「プレフィルミング運転を実施して防蝕皮膜を生成する場合に、原子炉水溶存酸素を制御する方法であって、
C.R.Dポンプ11の吸込みがわに飽和溶存酸素の脱塩水を脱塩水供給管9から供給し、脱気水と飽和溶存酸素の脱塩水とを混合して原子炉1へ供給すると同時に、原子炉水溶存酸素計5aでその溶存酸素濃度を監視し、原子炉水溶存酸素を400PPBに維持するステップを含む、方法。」

(イ)同じく、本願の優先日前に頒布された刊行物である、Tsung-Kuang Yeh,「A Numerikal Model for Evaluating the Impact of Noble Metal Chemical Addition in Boiling Water Reactor」,NUCLEAR SCIENCE AND ENGINEERING,米国,AMERICAN NUCLEAR SOCIETY ,2002年10月,Vol.142, No.2,p.220-229(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載がある(訳は当審が作成した。)。
a 「・・・hydrogen water chemistry(HWC)・・・boiling water reactors(BWRs)・・・primary coolant circuit(PCC)・・・electrochemical corrosion potential(ECP)・・・」(220頁 Abstract 1?7行)
(・・・水素水化学(HWC)・・・沸騰水型原子炉(BWRs)・・・一次冷却系(PCC)・・・電気化学腐食電位(ECP)・・・)

b 「The technique of noble metal treatment, available in the form of noble metal alloy doping, noble metal surface coating (NMC) by plasma spray or electroplating, or noble metal chemical addition (NMCA), was introduced in order to enhance the effectiveness of HWC. With noble metal treatment, it is expected that less hydrogen would be needed to achieve the same level of SCC protection and thus to reduce the radiation level in a BWR plant.」(220頁右欄18行?221頁左欄6行)
(ノーブルメタル処理の技術は、ノーブルメタル合金ドーピング、プラズマスプレーあるいは電気メッキすることによってのノーブルメタル表面コーティング(NMC)、あるいはノーブルメタル化学物質付加(NMCA)の形で利用可能で、HWCの有効性を強めるために提起された。ノーブルメタル処理で、より少ない水素がSCC保護の同水準を達成して、そしてそれでBWRプラントで放射能レベルを減らすために必要とされると思われる。)

c 「Since it is technically difficult to gain access to the entire PCC of a BWR and monitor ECP variations, the question of whether the noble metal technology is indeed effective in lowering the ECP of every location in the PCC is not easy to answer.」(221頁右欄下から4行?222頁左欄1行)
(BWRのPCC全体とモニターECPのバリエーションへのアクセスを得ることが技術的に難しいため、ノーブルメタル技術が本当にPCCのすべての場所のECPを下げることに効果があるかどうかの質問は答えることが容易ではない。)

d 「In the current DEMACE model, the entire PCC of a typical BWR was divided into 12 regions in our computer model, as shown in Fig. 2. Each region was designated a number, and these regions were as follows: 1, core channel; 2, core bypass; 3, upper plenum; 4, standpipe; 5, separator sideway; 6, mixing plenum; 7, upper downcomer; 8, lower downcomer 9, recirculation system; 10, jet pump; 11, bottom lower plenum; and 12, top lower plenum. In particular, the core bypass region (region 2) defined in our model was the outer core bypass where no boiling would occur. The flow path of the reactor coolant in the typical BWR is also shown in Fig. 2.」(222頁左欄25?40行)
(最新のDEMACEモデルで、図2に示されるように、典型的なBWRのPCC全体は我々のコンピュータモデルで12の領域に分けられた。
それぞれの領域に数字を指定した、そしてこれらの領域は次の通りであった:1、コアチャンネル;2、コアバイパス;3、上部プレナム;4、給水管;5、横向きのセパレータ;6、混合プレナム;7、上の下降管;8、下の下降管;9、再循環システム;10、ジェットポンプ;11、下部プレナムの底;12、下部プレナムの頂部。特に、領域(領域2)が我々のモデルで定義した中核となるバイパスは沸騰することは起こらないであろう外の中核となるバイパスであった。典型的なBWRでの原子炉冷却剤の流れ道は同じく図2に示される。)

e 第2図(Fig.2)は次のものである。
第2図(Fig.2)


f 引用文献2に記載の事項
上記aないしeによれば、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2に記載の事項」という。)が記載されているものと認められる。
「ノーブルメタル処理の技術は、ノーブルメタル化学物質付加(NMCA)の形で利用可能である点、及び、沸騰水型原子炉(BWR)の一次冷却系(PCC)のあらゆる場所に電気化学腐食電位(ECP)がある点。」

イ 対比
本件補正発明1と引用発明とを対比すると、両者は
「原子力発電所内の原子炉冷却水の酸素濃度を調節する方法であって、
脱塩水を注入するステップを含む、方法。」
の点で一致し、下記各点で相違する。

(ア)本件補正発明1は、「オンラインノーブルケム法実施時における、」「酸素濃度を調節する方法」であるのに対し、引用発明は、「プレフィルミング運転を実施して防蝕皮膜を生成する場合に、原子炉水溶存酸素濃度を制御する方法」である点(以下、「相違点1」という。)。

(イ)酸素濃度を調節する対象が、本件補正発明1は、「原子炉冷却水側流」であるのに対し、引用発明は、「原子炉水」である点(以下、「相違点2」という。)。

(ウ)脱塩水の注入を、本件補正発明1は、「原子炉の下流かつ浄化システムまたは再循環システムの上流かつ電気化学的腐食電位(ECP)センサの上流の位置で、前記原子炉冷却水側流(202)を送る管(200)内に」行うのに対し、引用発明は、「C.R.Dポンプ11の吸込みがわ」の「脱塩水供給管9から供給」する点(以下、「相違点3」という。)。

(エ)脱塩水の注入によって、本件補正発明1は、「酸素濃度の上昇した酸化流(224)を作り出す」のに対し、引用発明は、「原子炉水溶存酸素を400PPBに維持する」点(以下、「相違点4」という。)。

ウ 判断
事案に鑑み、相違点1と相違点4を併せて検討する。
(ア)本願発明におけるオンラインノーブルケム法とは、システム配管の内面上にプラチナ沈殿物を形成するようにプラチナを解放し、結果として、プラチナは、水(H^(2)0)を形成する水素イオン(H^(+))と酸素イオン(O^(2-))との再結合のための触媒として作用し、それにより、システム内の酸素イオン(0^(2-))量を減少させ、それにより、応力腐食割れの発生を軽減し、防止する方法のことである(本願明細書 段落【0030】参照。)。

(イ)そうすると、オンラインノーブルケム法を実施すると、酸素イオン(O^(2-))量を減少させ、電気化学的腐食電位を低下させることになるが、電気化学的腐食電位の測定値が、酸素の水素との触媒再結合とは対照的に、原子炉冷却水中の酸素不足により、比較的低い可能性がある(段落【0032】)。つまり、電気化学的腐食電位が低いことが、オンラインノーブルケム法の影響によるものか、原子炉冷却水中の酸素不足によるものか区別することができない場合がある。

(ウ)本件補正発明1は、これを考慮して、原子炉冷却水側流202の電気化学的腐食電位測定値を直接評価として用いることができることを確実にするために、脱塩水流214により、原子炉冷却水側流202に酸素を添加し、電気化学的腐食電位を上昇させ、プラチナ注入によりもたらされる触媒効果に関連する電気化学的腐食電位の後続の低下を可能にし、結果として、オンラインノーブルケム法の有効性の評価を可能にする(本願明細書 段落【0033】参照。)ものである。

(エ)よって、本件補正発明1が、脱塩水を注入して、酸素濃度の上昇した酸化流を作り出すのは、オンラインノーブルケム法の影響によって電気化学的腐食電位の測定値の低下が生じるかを確認するため、つまり、オンラインノーブルケム法の有効性の評価をするためである。

(オ)一方、引用発明の「プレフィルミング」とは、予め原子炉の配管等に酸化皮膜を生成することである。よって、引用発明が、脱塩水を注入し、「原子炉水溶存酸素を400PPBに維持する」のは、配管等に酸化皮膜を生成するためである。

(カ)引用文献2に「ノーブルメタル処理の技術は、ノーブルメタル化学物質付加(NMCA)の形で利用可能である点、及び、沸騰水型原子炉(BWR)の一次冷却系(PCC)のあらゆる場所に電気化学腐食電位(ECP)がある」(上記「ア」「(イ)」「f」 「引用文献2に記載の事項」)との記載があるが、引用文献1、2のいずれにも、「オンラインノーブルケム法実施時における、」「酸素濃度」の「調節」の際、「脱塩水(214)を注入して、酸素濃度の上昇した酸化流(224)を作り出す」ことについては記載されておらず、また、酸素濃度を400PPBに維持する引用発明の「プレフィルミング運転」と、酸素濃度を低下させることを意図する引用文献2に記載された「ノーブルメタル処理」を組合わせて実施することは当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(キ)したがって、引用発明及び引用文献2に記載の事項から、上記相違点1及び4に係る本件補正発明1の構成が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件補正発明1は、引用発明及び引用文献2に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本件補正発明2ないし7に係る発明は、本件補正発明1をさらに限定したものであるので、同様に、当業者が引用発明及び引用文献2に記載の事項から容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
上記(1)での検討によれば、本件補正発明1ないし8は、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号に該当しない。
また、上記(2)での検討によれば、本件補正発明1ないし8は、引用発明及び引用文献2に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
以上(1)及び(2)で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、上記「第2」「1」に示したとおりのものである(以下、それぞれを「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)。

そして、本件発明1は、上記「第2」「4」「(2)」のとおり、当業者が引用発明及び引用文献2に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8は、本件発明1に係る発明をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明及び引用文献2に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2012-201049(P2012-201049)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G21D)
P 1 8・ 537- WY (G21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関根 裕  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 伊藤 昌哉
松川 直樹
発明の名称 脱塩水を使用して原子炉冷却水サンプルの酸素濃度を調節する方法  
代理人 荒川 聡志  
代理人 田中 拓人  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  

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